本部

【いつか】勇気と共鳴を持って

絢月滴

形態
ショートEX
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
11人 / 4~15人
英雄
11人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2019/03/30 21:11

掲示板

オープニング

 ―これは、“いつか”の物語。
 数多の希望が、数多の勇気が、護り抜いて掴み取った明日のお話。

 いつか、どこかの、遠い未来の記録―。



●あれから……
 ”王”との戦いから、十五年。
 あれから、世界は緩やかに、しかし確実に変わっていた。
 異世界の影響を受け、異能を用いることが出来る――いわゆる次世代戦力たる、アメイジングスの出現。異世界技術の進歩。
 一方、未だ危機も存在していた。
 異世界からの侵入者たるイントルージョナー。残っている愚神。
 H.O.P.E.の活躍はまだ終わっていない――。



●エカテリンブルク・フェス
 西原 純(az0122)は幼馴染の城之内ケイに招待され、エカテリンブルク・フェスに来ていた。いつの間にか毎年恒例となったこのライヴ。今日は多くのバンドと観客が訪れている。漂う幸せな空気に、純は頬を緩ませた。最近はH.O.P.E.の仕事もあまりない。こんなのんびりしていてもいいのかというくらいに。
「待ってよ、パパ―!」
 背後からの声に、純は立ち止まる。息子と娘が駆け寄ってきた。
「歩くの速いよ!」
「ああ、悪い」
「もー。本当にパパは仕方ないよね、ママ! ……あれ、ママ?」
 娘がきょろきょろと辺りを見渡す。純は少し離れた場所で倒れている”妻”を見つけた。まさか――と駆け寄る。
「ノルン」
「ママ! ママ、大丈夫?」
「お腹痛いの、ねぇ?」
 泣きそうな子供達をなだめつつ、純はもう一度ノルンの名前を呼んだ。すると彼女は顔を上げて――。
「純くん! 大変だよ! 色々、色々来るよ! なんか、ほら、おおきいのとか、群れとか、がうがうと……」
「マ、ママ?」
 ノルンの言葉に子供達は面食らっている。純はやっぱりな、と思った。久しぶりのノルンの予知だ。場所と時間を聞きだして、H.O.P.E.へ連絡を――。
「あ!」
「どうした」
「来るよ!」
「それは分かった。何処に何時」
「今!」
「は?」
「ここ!」



 フェス会場北エリア。
 現れた愚神とイントルージョナーの群れに、ハガルは立ち向かっていた。氷の粒を降らせる。それでも全滅には至らない。イントルージョナーの瞳から赤い光が放たれた。その光を浴びた人々が混乱し始める。彼らをどうにか出来るほど、ハガルには余裕がない。
「っ……もう少し、人手があれば……」



 フェス会場東エリア。
 巨人型の愚神をミーナは全身で受け止めた。ヤーナは観客達の避難誘導を行っている。愚神の視線が観客たちに向いた。ミーナは巨人の足を斬る。巨人が呻いた。
「あんたの相手はあたしだよ!」



 フェス会場南エリア。
 黒崎由乃は宝石を周りにばらまいた。
「おいで、ドーラちゃんたち! ――泥人形をやっつけろ!」
 作り出されたドラゴンメイド達がイントルージョナーの群れに向かっていく。
(なんでだろう。倒しても倒しても出てくるなんて)
 由乃は周りの人々に向かって叫んだ。
「ここは由乃ちゃんに任せて! 早く逃げて!」



 フェス会場西エリア。
「リヴィア様、このアルビヌス、必ずお守りいたしますっ」
「……それよりも逃げてきた人たちの安全を確保しなさい」
「リヴィア様……!」
「泣いている暇はありません」



解説

※注意
このシナリオは、リンクブレイブ世界の未来を扱うシナリオです。
シナリオにおける展開は実際にこの世界の未来に存在する出来事として扱われます。
参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。

※子孫の登場
このシナリオでは、PCの子孫(実子または養子、孫など)を一人だけ追加で登場させることができます。
追加で登場するキャラクターは、PCとして登録されていないキャラクターに限定されます。
子孫の設定は、必ずプレイング内で完結する形で記載してください。



愚神とイントルージョナーの殲滅が今回の目的です。
以下に注意して目的を達成して下さい。


◆ライヴ会場について。
 以下の四つのエリアに分かれています。

 北エリア→狼の姿をした複数の愚神と一つ目を持つ球体の姿をしたイントルージョナーの群れが出没し、ハガルが一人で対応しています。人々の避難誘導まで手が回っていません。

 東エリア→巨人の姿をした愚神が出没し、ヤーナとミーナが対応しています。ヤーナが人々の誘導、ミーナが巨人と戦闘中です。巨人の体力は高く、また隙を見て逃げる人々を攻撃しようとしています。

 南エリア→泥人形の姿をしたイントルージョナーの群れが出没し、黒崎由乃が対応しています。倒してもなかなか数が減らないことから、近くに異世界との接触点があると考えられていますが、由乃はそちらまで手が回っていません。

 西エリア→愚神及びイントルージョナーは現れていません。人々が逃げ込む先になっています。アルビヌスとリヴィアが見張っています。


◆戦闘終了後
 ライヴが開かれます。
 東西南北それぞれのエリアでライヴが開かれますが、最後は北エリアでイノセンスブルーがライヴを行います。
 全てのエリアでお酒や食べ物が無料で提供され、終盤、花火が打ち上げられることが決まっています。


◆その他
 何か分からないことがあれば、純が答えます。

リプレイ

●変わったもの、変わらないもの
「ここしばらく平和だったのにね……」
 九十九 サヤ(aa0057)――今は百瀬 サヤ――はそう言って一つ息を零した。自分が居る西エリアに今、敵の影はない。このエリア以外には愚神やイントルージョナーが出現している。そっちは”仲間”がどうにかしてくれることだろう。けれど油断は出来ない。――ここを守るのが自分の役目だ。
 サヤの息子、哲也はそわそわと落ち着かなかった。もちろん恐怖もある。愚神やイントルージョナーのことは母を含め、色々な人から聞いていた。やはりただただ聞くのと、実際に体験するのとは別だ。
 聞こえてくる悲鳴。
 逃げてくる人々。
 ――でもそんな中で、自分の母親は落ち着いてことに当たっている。……すごい。誰か手を貸してくれ……と重傷を負った女性を抱えてきた男性を見て、サヤは一花 美鶴(aa0057hero001)と共鳴し、手当を行った。
「大丈夫、これなら痕は残りません」
「あ、ありがとうございます……っ」
 少しばかり落ち着いたのか、ほっと安堵の表情を浮かべた女性に、サヤは笑いかける。そんな母親を見て、哲也は無意識に呟く。
「サヤ、ほんとに共鳴できるんだ……いつもはのんびりしてるのに……」
 そして思う。
(俺には何もできないのか?)
『哲也』
 それを聞いていたのか、サヤと共鳴を解いた美鶴が哲也にデコピンをする。
「いたっ!」
『サーヤに向かってなんて事言うの』
「っ、だって!」
「哲也」
 息子の気持ちを察したのが、サーヤが彼に手を伸ばす。その手と母親の顔を哲也は交互に見る。
「お母さんの手を握ってくれる?」
「え?」
「お母さん、いつもひとつたりないけれど、あとひとつがあれば、強くなれるから」
 サヤは美鶴を見た。美鶴は笑い返す。
「美鶴ちゃんは私の最初のひとつ、お父さんは一緒にがんばれるひとつ、そして哲也はずっとお母さんのたいせつなひとつ」
「……それだけでいいのか?」
「もちろん」
 哲也はサヤの手をしっかりと握った。
 そんな彼らに近づく人影が三つ。
 木陰 黎夜(aa0061)、アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)、二人の息子の白野翔。
「あの、息子をお願いします」
 黎夜は翔の背中を押した。はい、とサヤは強く頷いた。
『俺たちは南エリアへ行ってきます』
「分かりました。怪我人が出たらこちらへ」
『助かります』
「……翔、行ってくるね」
 屈みこみ、息子と視線をしっかりと合わせて、黎夜は彼の頭を撫でた。翔はにっこりと笑う。
「パパ、ママ、がんばって」
 その声をしっかり胸に刻んで、アーテルと黎夜は走り出した。
「久しぶりの敵だね、アーテル」
『ああ。早く終わらせるとするか』



「いやーお酒飲む前で良かった! ……それにしても、やっぱりこの街呪われてるよ――そう思わないオリヴィエ?」
 木霊・C・リュカ(aa0068)はオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)に視線を向けた。リュカには何も答えず、彼は自分の娘であるリラ・A・Aに銃を渡していた。
『引き金を引くのを躊躇うな』
「う、うん」
『……大丈夫、お前の所までは行かせない』
 オリヴィエの言葉にリラは銃をぎゅっと握って、怖さを呑み込んで、答える。
「……わ、私、ちゃんと戦えるから!」
 リラがそういった直後、リュカが持っているライヴス通信機が受信を告げる。東エリアに居るガルー・A・A(aa0076hero001)だ。
【リラ、大丈夫。信じてただ撃てばいい】
「パパ! ……うん!」



 ガルーの傍らで紫 征四郎(aa0076)――今は木霊 征四郎――は緊張しながら戦いの準備をしていた。巨人が暴れている音が聞こえる。ガラガラという音は照明や音響の機材が倒された音だろうか。空気が震える。久方ぶりの感覚だ。
 そう――これは、復帰戦だ。
「どきどきしますね。まあ、鍛錬を怠っていた訳ではありませんが。――早く終わらせましょう。そして、家族の時間を」
 征四郎は不意に腰の辺りに衝撃を感じた。反射的に振り返る。そこには先程安全な場所に避難させたはずの息子の姿――。
「……っ? 向日葵! きてしまったのですか?」
【え、ちょっとそっちに向日葵居るの? 大丈夫ーーーー?】
 征四郎の声が聞こえたのか、通信機の向こうからリュカの声。その声にリュカと征四郎の息子である向日葵が叫び返す。
「パパのばか! おれにもなにかできないかって、思っただけだもん!」
【ダメでしょ! 今からでもサヤちゃんが要る西エリアに!】
「その方が危険です」
 冷静に、と自分に言い聞かせながら征四郎は答えた。
「……大丈夫です。必ず守ります!」
【……分かったよ、せーちゃん。頼んだよ】
「はい!」



「折角のライヴだったのにね。残念だなー」
 まいだ(aa0122)は溜息をついた。それを聞いた獅子道 薄(aa0122hero002)は指をぽきぱきと鳴らして。
『分かりましたわ私にお任せください、まいだ様の楽しみを妨害したあんの腐れ泥どもを私がクソよりもひどいミンチに!!』
 今にも敵に襲いかかりそうな薄をまいだは止める。
「いいのー。大丈夫だよ、私強くなったんだもの。だから見てて? ね?」
『……まいだ様がそうおっしゃるなら。何時でも交代致しますからね!』
「ありがとう。……よし、行こう!」



『研究漬けは良くない。たまには息抜きに家族旅行……じゃなかった?』
 近くに居る荒木 拓海(aa1049)にメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は声をかけた。
 英雄が誓約なしでの消えないように。
 そんな研究をずっと続けていた。
「運動不足解消……にもなるだろ?」
 拓海はメリッサにそう答え――そして自分の愛する人――三ッ也 槻右(aa1163)を見て。
「なっ槻右!」
 そんな拓海の言葉に槻右は微笑み返した。これから戦いに赴くと考えると似合わない表情。でもその目元に宿るのは、確かな意志。
「ふふ、そうかもね。予定外ではあるけどね」
『企画の参考と言うよりはお客様対応の実践じゃの』
 酉島 野乃(aa1163hero001)はゆらゆらと尻尾を揺らし、苦笑する。
「それじゃあ――行こうか!」
 幻想蝶に手と手を重ね。
 拓海はメリッサと――槻右は野乃と共鳴する。それを見ていた拓海と槻右の”子”である芽生も己の英雄と共鳴して――。
「パパ達の戦いを間近で見られるね!」
「芽生の仕事ぶりも見せて貰うね」
 槻右の言葉に芽生はうん、と気合を入れた。



 時鳥 蛍(aa1371)は東エリアで巨人を見据えていた。すぐそばには征四郎が居る。久しぶりに現場復帰した征四郎と一緒の戦場に気合が入った。次世代エージェントの指導員をしているから、戦いから離れていた訳ではない。けれど、やはり違う。また手に力が入った。
《せっかくのフェスですのに》
 シルフィード=キサナドゥ(aa1371hero002)は盛大に溜息をついた。そんな彼女の隣に蛍は立つ。
「早く片付けましょう」
《同感ですわ。今日は楽しむために来たのですわ!》
「シルフィ、共鳴を」
《ええ!》



「この状況どう思います?」
 西エリア。GーYA(aa2289)はリヴィアに話しかけた。それを見たアルビヌスが間髪を入れず、GーYAとリヴィアの間に割り込む。眉を吊り上げて、GーYAにくってかかった。
「リヴィア様に気軽に話しかけるな! そもそもお前はそんなにリヴィア様と親しくは」
「あれ、前にも言ったと思いますが――俺はリヴィアさんとお茶したことが」
「ええい、だとしても! だとしても許せん! 離れろ!」
「――アルビヌス」
 リヴィアの声にアルビヌスはぴたりと動きを止めた。GーYAを穴が開くほどに見つめ――いやどちらから言うと睨んで――後ずさる。リヴィアが再び口を開いた。
「おそらく異世界への接点が近くに出現したのでしょう」
「なるほど。じゃあそれを塞がなきゃいけない訳ですね」
 GーYAの言葉に、彼の傍らに居たまほらま(aa2289hero001)が頷く。GーYAはアルビヌスに向き直った。側に居る息子の肩を押す。
「アルビヌスさん、唯我をお願いします」
「何故私に頼む!」
 ふん、とアルビヌスはそっぽを向く。彼の代わり――なのかどうかは分からないが、リヴィアが分かりました、と言った。
「っ、こんな子供にリヴィア様のお手を煩わせる訳には!」
 がしっ、とアルビヌスは唯我――GーYAとまほらまの息子――を羽交い絞めにする。
「父さん、俺も戦う! 離せアルビヌス!」
「年上を呼び捨てにするな!」



《どうやら避難誘導が後手後手に回っている感じだな》
 不知火あけび(aa4519hero001)と共鳴した日暮仙寿(aa4519)は東エリアの状況をそう分析した。暴れる巨人。動きはミーナというエージェントが抑えているものの、全てを封じ込めている訳ではない。巨人は時折逃げ惑う人々へ視線を送り、その拳を振り下ろそうとしている。その光景を見た人々から上がるのは当然のごとく、悲鳴だ。
「父上」
 仙寿とあけびの娘である日暮さくらが口を開く。父譲りの金の瞳に強い光が宿っていた。
「これ以上の被害が出ないうちに片付けましょう」
《ああ、そうだな》



 比佐理(aa5698hero001)と共鳴した獅堂 一刀斎(aa5698)は南エリアへと向かっていた。そこでは今、由乃が一人で戦っているはず。
「何事も起こってなければいいが」
 ――由乃なら大丈夫です。
「だが」
 ――心配すると現実になります。
「……そうだな」
 一刀斎は走るスピードを速めた。



●次世代と共に!
 氷の雨を降らせ、ハガルは一つ目のイントルージョナーをまとめて片付けた。ふ、と一息つく。しかし耳に届いた悲鳴に、すぐさま振り向いた。狼の姿をした愚神が若い男女に襲いかかっている。ここから攻撃して間に合うか――。
 ハガルがそう思った、刹那。
「待たせたな!」
 拓海の声が響く。直後、狼の愚神は屠られていた。男女がありがとうございます! とお礼を言ってその場を離れていく。ハガルは拓海に近づいた。
「……荒木」
「ずっとH.O.P.E.に居てくれたんだな!」
 嬉しい、と拓海は感情をあらわにする。その感情をどう受け取っていいのか分からないのか、ハガルが視線を逸らした。やりとりを見ていた芽生がハガルに近づく。
「パパ達のお友達?」
「っ……そんな関係じゃ」
 ハガルが言いよどむ。すかさず拓海は声を上げた。
「そう友達だ!」
「おい、荒木」
「やっぱり。先輩、ヨロシクね」
『芽生! 人々の避難誘導を行うぞ!』
「はい!」
 芽生が野乃の方へと行く。ハガルは苦々しげに拓海を見た。その視線を受け止めつつ、拓海は武器を構える。
「片付いたら飲まないか?」
「……考えておく」
 拓海とハガルはイントルージョナーの群れへと飛び込んだ。一つ目の敵はその前から赤い光を放ってきた。その光を避け、拓海は斧を振るう。複数体、まとめて片付けた。向かってきた狼型愚神の群れをハガルは氷の雨で迎え撃つ。
 一方、野乃はH.O.P.E.のコートを羽織り、拡声器を使って混乱する人々へ語り掛けた。
『我らH.O.P.E.が安全を宣言する! ……ここから先は何人も通さんのだの!』
 がりがり、と野乃は地面に線を引く。そうして言葉を続けた。
『もう大丈夫。あそこで働いておるハガルはH.O.P.E.15年のベテランじゃ。桃髪の芽生は一人で50体を押さえ込める猛者じゃ。――そして某と槻右が案内を努めよう!』
 野乃は通信機を手にした。西エリアに居るサヤと連絡を取る。受けた情報は正確に人々に伝えた。
(不安や情報の少なさは混乱の元じゃ)
「落ち着いて西エリアへ移動してください」
 迫る愚神、そしてイントルージョナー達を見えざる手で押さえ込み、芽生は人々の避難誘導を開始する。




「この巨人――あの時のヘイマエイ島のドロップゾーンで見た――」
「ええ、私も同じことを考えていました。蛍」
 巨人を見据えながら、蛍と征四郎は同じ感想を抱いていた。巨人の左胸に埋め込まれている丸く黒い二つのもの――あの時と同じなら、それは大剣だ。
 征四郎は息子の向日葵に目を向けた。
「向日葵、良いですか。避難誘導を、手伝ってあげてください。……大丈夫、あなたならできます」
「……うん、分かった、ママ!」
 二人のやりとりを見ていたヤーナがそれなら、と向日葵に声をかける。すぅ、と征四郎は息を吸って、吐いた。表情を変える。戦いに向かう――何度も死線を潜り抜けた”親友”と共に!
「蛍、援護を!」
「はい!」
 征四郎の声に合わせ、蛍が動く。久しぶりの同じ戦場。しかし重ねてきた幾多の経験は褪せることなどない。二人、絶妙に攻撃を合わせていく。不意に、戦場に羽が舞った。それは仙寿の”繚乱”だと、征四郎も蛍もすぐに分かった。巨人は羽に翻弄される。その隙をついて、さくらが拳銃で巨人の目を撃った。――命中!
「お、やるねぇ!」
 ミーナがさくらの攻撃に続く。巨人が醜い声を上げた。ちょうど逃げ始めた家族連れに向けて腕を振り下ろす。その腕を蛍はピースメイカーで撃ち抜いた。
「手は出させませんよ」




 黎夜は黒の猟兵をひも解き、今まさに一般人を襲おうとしている泥人形を葬り去った。ありがとう、と礼を言う彼に、西エリアへ、と黎夜は言った。オリヴィエもまた、泥人形を撃ち抜く。二人から少し離れた場所でまいだは蛇腹剣を振るっていた。攻防一体の攻撃。その敵の外見から、泥が飛び散って洋服が汚れるかもしれない、なんて思っていたけれど、そうでもなかった。良かった。
「うまく、戦えてるみたい」
 ――ええ、素晴らしいですわまいだ様!
 ライヴスの中、力強く言う薄にまいだは嬉しくなる。このままガンガン倒していこう。
「おいでヒュドラちゃん! 全てを焼き尽くせ!」
 一刀斎から渡された宝石を用いて、由乃はヒュドラを召喚する。九つの頭を持った蛇が炎で泥人形を薙ぎ払った。
 一刀斎は由乃から付かず離れずの位置で戦っていた。複数の泥人形を”女郎蜘蛛”で捕縛した。
 戦いの様子をライヴスの中から伺っていたアーテルが囁く。
 ――どの方向からきているのか。
「もう少し観察してみないと」
『分かったら教えてくれ』
「うん、オリヴィエ」
 オリヴィエは銃を構え直した。
 ――オリヴィエ?
『リラの居るとこまでいかせたくない、前に出る』
 ――え? ガンカタ? まじ?
『マジだ』
 オリヴィエは敵が密集しているところに突撃した。ヘイトを稼ぎつつ、泥人形に攻撃する。一体、二体。胸を撃ち抜けば動きが止まることが分かった。皆に伝え、そしてまた敵の数を確実に減らす。
『こう見えても家族水入らずを邪魔されて怒ってるんだ。悪いな』




「荒木さん、お疲れ様です。状況は」
 GーYAは通信機を使い、各エリアの情報を集めていた。一番混乱していた北エリアは避難を開始、東エリア、南エリアも同様だ。GーYAから状況を聞いたサヤが人々に言う。
「大丈夫です。いま他のエリアでも動いている人達が居ます。順調に敵の数は減っています」
 サヤの声に人々の間に安堵が広がっていく。
『ジーヤ!』
まほらまの叫びと同時にGーYAも異変に気付いた。泥人形が数体、こちらに向かっている。GーYAは南エリアにすぐに確認を取った。撃ち漏らしたりはしていないらしい。ということは異世界への接点は南エリアと西エリアの間にあるのだろうか。サヤが美鶴と再び共鳴する。ライヴスフィールドを発動させた。泥人形が低く呻く。
『共鳴よ、ジーヤ』
「ああ」
 青く透明な、薔薇の形をした幻想蝶に二人は触れる。青い花びらが舞い輝く。それを見ていた二人の息子、唯我は感嘆の声を上げた。しかし直後、じたばたと暴れ、アルビヌスの拘束を解いた。
「あ、この!」
「俺も戦う!」
 唯我は剣を抜いた。うおおおおと雄たけびを上げて、泥人形に立ち向かっていく。そして剣を思いっきり振り下ろした。命中。しかし、泥人形にはほんの少ししか傷がつかなくて。
「っ、何で」
「下がってろ、唯我!」
 GーYAの剣が泥人形を屠る。
 がっくりと肩を落とす唯我を見て、リヴィアは幻想蝶の中から、一冊の書物を取り出した。口の中で何かを呟く。と、青いライヴスが唯我の剣を包みこんだ。
「それでもう一度、攻撃を」
「わ――分かりました!」
 リヴィアに言われるまま、唯我は再び泥人形を攻撃する。今度は深いダメージを与えることが出来た。
「何これ!」
「ふふん、凄いだろう! 偉大なるリヴィア様の”魔法”だ!」
「どうしてアルビヌスがそんな偉そうなんだよ」
「呼び捨てにするな!」
 アルビヌスを無視して、唯我がGーYAと肩を並べる。
「……無理するなよ」
「分かってる!」




 拓海、ハガル、そして芽生の活躍もあり愚神とイントルージョナーの数はだいぶ減った。人々の避難ももうそろそろ完了だ。
 ――野乃、代わって。
(ふむ、任せたぞ。槻右!)
 野乃は槻右に体の主導権を譲る。
「――ここからは僕だね」
 避難する人々の殿を守るように、槻右は立つ。念のためとモスケールを起動させた。目に見えている以外に敵は居ない。それならやるべきは援護だ。拓海の背後から襲い掛かろうとしたイントルージョナーを槻右は撃ち抜く。助かった! という拓海の声に手を振って応えた。芽生が狼の愚神を倒す。
「50体目!」
「流石芽生! ……ハガル、うちの娘凄いだろ?」
 斧を振り回しながら、拓海は胸を張る。ハガルはどう答えるべきか分からないようだった。けれど、芽生の戦いぶりには感心したのか、そうだな、と小さな声で返す。そのハガルの答えに拓海――聞こえていたのか芽生も――は笑った。親バカと言われてもいい。誇らしい!
【拓海、聞こえるか】
「その声はオリヴィエ君」
 ライヴス通信機から聞こえてきた声に、拓海は応答する。
【悪い。こっちに来れないか? 異世界との接点があるらしい方角は黎夜が見当をつけてくれた。……が、未だに数を減らせない】
「分かった。……芽生、ハガル。後は任せるか?」
「……ああ」
「任せて、パパ」
 二人の頷きを見届け、拓海は槻右と共に南へと向かう。そうだ、とH.O.P.E.へゾーンブレイカーの出動要請をした。
「……拓海」
「ん?」
「久しぶりに存分に暴れよう」
 槻右は拓海に握り拳を示した。ああ、と拓海は返事をしてその拳に己の拳をぶつける。
 それは互いが互いの背を預ける合図。
「――ああ!」




 蛍は巨人の腕を切り落とした。低く鈍いうめき声。これで倒せたとは思っていない。まだ片腕が生きている。征四郎は避難する人々と息子の向日葵へ視線を向け、そしてもう一度巨人を見た。大丈夫、敵の視線はこちらに向いている。
《さくら、奴の動きを止めよう》
「はい」
 さくらは武器を刀へと替えた。仙寿は巨人の向こう側へと回り込む。呼吸を一つ、二つ、三つ。仙寿は地面を蹴った。さくらと巨人を挟み込むようにして攻撃する。足の健を切り、巨人はその場に倒れた。避難誘導を終わらせたヤーナが戦線に戻ってくる。動かなくなった巨人へミーナが重い一撃を喰らわせた。残されたもう片方の腕で、巨人は胸に埋め込まれた”武器”を引き抜こうとする。
「――させません!」
 蛍は大きく踏み込み、巨人に倒された機材やステージを足場にして跳躍した。。それを見ていた征四郎が彼女の動きに合わせる。二人の剣は巨人の腕に深々と刺さった。切り落とすまではいかなかったものの、ぶらりと垂れ下がったそれはもはや用をなさないだろう。とどめとばかりにその場に居た全員が一斉に巨人を攻撃する。
 空しい断末魔を上げて、巨人はこと切れた。



「あの方向からきてる、ようです」
 西エリアが見える位置で黎夜は呟いた。ジャンプをしながら敵を倒していたまいだも同じことを考えていた。
「じゃあ、さっさと閉じましょう……ってどうやるんだろう。何か壊せばいいのでしょうか」
「おそらく。……露払い、しますね」
 黎夜はブルームフレアを発動させた。迫りくる泥人形を次々と焼き払っていく。そこに幾つかの弾丸が降ってきた。弾丸はとある泥人形の胸を撃ち抜き、とある泥人形の足を砕いていく。
『……やるな』
 ――さすがリラちゃんだねえ。
 オリヴィエは小さく笑い、再び泥人形へと銃口を向ける。由乃が召喚したヒュドラがその尾で泥人形たちをなぎ倒す、一刀斎はその場で、向かってくる泥人形たちを倒していた。戦闘中、一刀斎は幾度も由乃を見た。彼女の戦い方に対して不安がある訳でもない。だが、今だにあの時の光景が――十五年前、由乃の胸が貫かれたあの時――脳裏にこびりついている。あのようなことは二度と起こさせない。
(元凶は皆に任せよう)
 ――はい、一刀斎様。
 一刀斎はディバイドゼロを振るった。
 そこへ、拓海と槻右が現れる。
「一刀斎さん!」
「荒木殿! ……三ッ也殿も!」
 斧を振るい、拓海は泥人形を三体ほどまとめて倒した。槻右もまた、正確な射撃で泥人形の胸を貫いた。
「さっき、H.O.P.E.にゾーンブレイカーの出動要請をしました。接点の位置が分かり次第、そこを閉じてくれるはずです」
「分かった。それまでは、共に」
「はい、暴れましょう!」
 三人のやりとりを聞いていた由乃もまた、傘を握る手に力を込める。そしてまだ宝石が残っていることに気づいて。
「おいで、タコちゃん! 泥人形を全部、やっつけろ!」



 ジャングルライナーを使い、GーYAは迫ってくる泥人形の胸部を砕いた。リヴィアの”魔法”で強化された剣を唯我は振るう。が、戦闘経験の少なさが響いた。腕に傷を負う。痛みに唯我は思わず声を上げた。
「大丈夫?」
 サヤがすかさずケアレイを発動させる。
「百瀬さん、ありがとうございます! よし、今度は負けない!」
 もう一度、唯我は泥人形へと立ち向かう。
 ――頼りになるわぁ。流石あたしとジーヤの子。
 うふふ、とライヴスの中でまほらまが楽しそうに笑う。彼女の意見にGーYAはもちろん同意した。
「さ、もうひと頑張りだ……!」



「あった、接点!」
 泥人形を薙ぎ払い、その後ろにあった穴を見つけまいだは声を上げた。穴の中からは青白い光が漏れている。不意に、穴が”闇のようなもの”を吐きだす。それはあっという間に泥人形となった。こちらに腕を振り上げてきたそれを、まいだは一撃で倒す。
「ゾーンブレイカーさんが来るまで……頑張ろう!」



 数時間後。
 東西南北、それぞれのエリアに現れていた愚神及びイントルージョナーは殲滅。ゾーンブレイカーによって、異世界との接点も閉じられ。
 エカテリンブルク・フェスは再開した。



●フェス、酔いしれて
 黎夜とアーテルは西エリアへ翔を迎えに行った。二人の姿を見つけた翔は笑顔で駆け寄ってくる。
『見ていてくれて、助かった』
「いいえ、とてもいい子でしたよ」
「そうだよ、パパ!」
 翔がアーテルにしがみつく。
「ぼく、いいこにしてた!」
「うん、偉いね。翔」
 えへへーと翔が笑う。黎夜は息子と手を繋いだ。色々な音楽が聞こえてくる。翔の耳にあまり激しいのは、と黎夜とアーテルが選んだのは南エリアのステージだった。アコースティックギターだけで奏でられる音楽は心地いい。屋台で食べ物と飲み物を調達して、ステージから少し離れた席に座った。
「翔、静かに聞いててね」
「うん!」
 アーテルの膝の上に座り、翔は興味津々でステージを見る。その様にアーテルは頬を緩めた。と、黎夜と視線が絡む。どちらからともなく、微笑んだ。アーテル、と黎夜が呼ぶ。しかしその直後、小さな……小さな声で、アーテルの”本名”を口にして。
「――これからも私と一緒に」
『当然だ。……俺は永遠に黎夜の――月音の隣に居る』
「うん」
 翔が音楽に集中していることを確認してから、二人は身を寄せ合い、口づけを交わした。



「もーーー危ないじゃん! お母さんの言うことちゃんと聞かなきゃ駄目でしょ!」
 向日葵を抱え上げ、リュカは彼の顔にじょりじょり、と自分の髭をこすりつけた。向日葵はリュカの顔を叩く。向日葵の抵抗を受け流しつつ、リュカは征四郎に声をかけた。
「せーちゃんも大丈夫? 怪我してない?」
「ええ、大丈夫ですよ。そちらはどうでしたか?」
『問題ない』
「数は多かったけど、なんとかなったよ。ゾーンブレイカーって凄いんだね。あっという間に接点閉じちゃった」
 まいだの言葉に征四郎は目を細めた。泥人形が相手、と聞いて実は彼女達の衣服が汚れないかと心配していたのだが。
(大丈夫みたいですね)
「パパ、怖かったけどちゃんとできたよっ」
 両手を広げてアピールするリラをオリヴィエは抱きしめる。
『ああ、ちゃんと撃って、的に当たるだけ上出来だ』
 そしてちらりと、ガルーを見て。
『腕、鈍ってなかったか?』
『当たり前だろ、リーヴィ。大丈夫に決まってる』
 そういってガルーもまたリラをぎゅっと抱きしめた。向日葵はまだリュカに抵抗している。おれだってがんばったです! と強気に言って、そして思い出したようにリラを見た。
「リラさんは、だいじょうぶ?」
「だっ……大丈夫! 私、向日葵より強いもん!」
 そんな家族のやりとりを、蛍は離れた場所でぼんやりと見つめていた。
《あら、蛍? どうしましたの?》
「……いいなって、思って」
 シルフィは蛍と彼女の視線の先にある光景を交互に見て、ふふふ、と笑った。
《ええ、家族というものはいいですわよ。自分の子供を持って、初めて分かりましたわ。だから蛍も》
「それ以上は言わないで、いいです」
《分かりましたわ。……さて、イノセンスブルーのライヴ、楽しみですわね!》



「息災なようで何よりだ、リヴィア」
 仙寿はリヴィアに声をかけた。リヴィアを呼び捨てたことにアルビヌスが例外なく怒るが、そこを唯我が引き留めていた。少しは空気読むってことをしなよーという唯我に例外などない! とアルビヌスが噛みついて。
「……そちらも、代わりなさそうですね」
『リヴィア! この子は娘のさくら! 可愛いでしょ?』
 爛々と目を輝かせ、あけびがリヴィアの前にさくらを押し出す。可愛いでしょ? 可愛いって言って? うちの娘最高でしょ? ねえねえ? というオーラを感じ取り、リヴィアは苦笑した。さくらはもう一歩、リヴィアに近づく。
「初めまして、日暮さくらです」
「――リヴィア・ナイです」
「ええと……お連れの方に大事にされてますね」
「リヴィア様を大事にするのは当たり前だろう!」
『うふふ、そんなにカッカすると、リヴィアに嫌われるわよぉ?』
「な……そ、それは困る!」
 まほらまに言われ、アルビヌスは黙り込んだ。
「あの。……真理には近づきましたか?」
 さくらの問いに、リヴィアは一瞬間を置いて――そして、唇の端を上げた。
「ええ、それなりに」
 そう答えたリヴィアにGーYAは質問を重ねたくなった。それはキュリスさんと――。
(いいや、やめておこう)
「よし、ライヴを見に行こう! アルビヌス、肩車! 早く!」
 ひょい、と唯我がアルビヌスに飛びつく。アルビヌスはバランスを崩しかけ、なんとか体勢を保ち、文句を言いながらも、唯我を肩車した。
『悪いわねぇ』
「後できっとリヴィアから感謝されるよ」
 GーYAの言葉にアルビヌスが奮い立つ。リヴィア、アルビヌス、GーYA、まほらまが歩き始めた。その後に仙寿、あけび、さくらが続く。
「父上たちは共鳴すると少しだけ若くなりますね」
「俺の二十代の頃の姿だからな。あけびの師匠の姿でもあるが……」
「では、しっかりと覚えておきます」
 さくらの金の瞳が煌めく。
「異世界旅行が可能になったら、会いにいきたいと思っていますので」
『手合わせする気満々だね』
 ふふふ、とあけびは楽しそうに笑った。娘の成長が素直に嬉しい。
「よし、さくらちゃんが異世界に行く前に俺が行く! その為にも――リヴィアさん、さっきの”魔法”教えて下さい!」
「ええい、リヴィア様に教えをこうならば、もっときちんと」
「アルビヌス。私は気にしません」
「リヴィア様……!」
 リヴィアは唯我を見た。純粋な光を宿す茶色の瞳に、少しだけ笑う。
「……私は厳しいですよ?」
「厳しいのは師匠で慣れてます!」



 どん! と野乃はテーブルの上に買い込んだ食べ物や飲み物を置いた。ボトルごと貰ってきたワインを開ける。グラスに注いで、飲んだ。
『リサ殿、動いた後のワインはイケるのじゃ!』
『あら、じゃあ貰うわね。貴方も飲むでしょう? ――それとも飲めない?』
 グラスを二つ手元に引き寄せながら、メリッサは”一緒に飲むことに決めた”らしいハガルに訊いた。ああ、と彼はそっけなく答える。
『それにしても、流石手慣れたものね。……食べる為以外にここに居る理由は見つけられた?』
「まあな。……ここは何かをやればやっただけ返ってくる。そういったものがずっと欲しかった。……そういうあんたはどうなんだ」
『私? 私は自分の意志で生きる自由を得るために……生きてるわ』
 苦笑し、メリッサはワインを口にする。甘い、と感じた次の瞬間に苦さがやってきた。
(能力者と英雄の間にある誓約――それを消滅とは無関係に、”貴方の相棒である為”にしたいのよ)
 メリッサの答えにハガルはそうか、と答えた。
「芽生、カッコよかったよ。強くなったね」
 槻右は芽生の頭を撫でた。えへへ、と芽生が笑う。どこか幼い笑顔。だからこその純粋な表情。
『これは何処の店の商品かの?』
 ボトル詰めのオリーブを見て、野乃は店名をチェックする。千が来れなくて残念じゃのう、と呟いた。後々どこかで土産を調達できれば良いが、とも。
 芽生がハガルに近づいた。
「先輩、お話聞かせて下さい。これまでどんな任務に当たってきたんですか?」
「これまで? そうだな……」
 何から言うか、とハガルは考え始める。そこに拓海が割り込んだ。
「まずは、俺とお前が初めて一緒に戦ったあの任務からだろ!」
 にか、と笑う拓海にハガルは眉間に皺を寄せた。が、すぐに表情を柔らかくする。芽生はキラキラとした目でハガルを見た。
「ああ。……あれは十五年前、この街の西、山の中で――」



「肉だけでなく、魚料理もあって助かった」
 料理をテーブルの上に並べ、一刀斎は一息ついた。年齢のせいか、肉は胸焼けするようになってしまった。
「比佐理、黒崎。何が食べたい? 持ってこよう」
『私は、パスタや甘いもの、それにせっかくロシアに居るのですから、ロシア料理を』
「由乃ちゃんもおねえちゃんと同じもの!」
「分かった」
 彼女たちが望むものを一刀斎はテーブルへと運ぶ。軽く乾杯をして、食べ始めた。比佐理はふと、一刀斎の頭に目を止めた。また白いものが増えている。比佐理の視線に気づいた一刀斎がどうした、と彼女に声をかけた。
『白髪が気になっただけです』
「まあ、俺も気づけば五十四だ……白髪も生えよう」
「十五年前に比べたら黒ネコ、貫禄ってやつが出てきたしね」
 ぱく、と由乃がペリメニを頬張る。
 比佐理と由乃は十五年前から全く姿が変わっていなかった。しかしそれは”心が成長していない”こととイコールではない。特に比佐理はだいぶ自我がはっきりしてきている。
 一刀斎は充実した気持ちで、ウォッカを口にした。



●ラストライヴ・イノセンスブルー
 フェス会場。北エリア。
 ステージに上がったイノセンスブルーのボーカル、城之内ケイは観客席を見渡した。今回このフェスの為に戦ってくれた”貴方たち”の姿を見つけて笑う。ドラマーのトドロキがカウントを始めた。さあ、ライヴの始まりだ!
【あれは真夏の夜。僕は公園に居た。何をするでもなく、ああごめん間違えた。ただ。そう、ただ蝉を眺めてた。やっと地上に出られて、喜び鳴く蝉をただ見ていた。捕まえようとしたんだ蝉を。でも逃げられて、そこを君に見られていた。何してるの? 少しけだるげに声をかけられた】
 デビュー曲。”ゆめ夢、君に溺れる”。



「これはあの時も聞いた。やっぱいい曲だ!」
「そうだね、パパ」
『芽生、せっかくだから踊りましょう!』
『楽しそうだの。某も……ほら槻右も共に舞おうぞ!』
「うん!」

「わあ、綺麗な曲。せっかくだから薄も幻想蝶の中じゃなくて、出てきて聞けばいいのに」

『飲み過ぎんなよ、リュカちゃん』
「いいじゃーん、やっぱりロシアと言えばウォトカでしょー』
「パパ、おれにも」
「それは大人になってからです。向日葵はこっちです!」
「私はこの炭酸ジュースにしようっと。パパは?」
『せっかくだ、少し飲もう』

《やっぱり生は違いますわね。代役をやった時のことを思い出しますわ。あの時は楽しかったですわね、蛍》
「ええ」
《機会があるなら、もう一度やってもいいくらいですわ! ああ、それならグラナータも一緒に!》

「うわあ、これが生演奏ってやつなんだ! 俺もやってみたい!」
「母上、体が――体が震えます!」
「そうだね。この曲、昔聞いたことあるんだけど――時よりも、表現が深くなっている気がする」
『うん、あの時も楽しかったけど――今はもっと楽しい!』
『……音楽って不思議よねぇ、ジーヤ。触れないし、匂いもないし、見えるものでもない……でも、こんなにも心を動かすなんてねぇ』
「同感」



 何曲か歌い切り、会場のボルテージが一気に上がったところでケイは最後の曲を告げる。
「――箱庭の花嫁!」
 ケイの言葉と共に花火が挙がる。濃紺の空に様々な色の花が咲いて、散っていく。赤、青、黄色、緑。



「綺麗」
「そうだね哲也、綺麗だね」
『場所が違うと、花火の見え方も違うみたいです』
「……サヤ」
「何、哲也?」
「俺……力になれた?」
「ええ、もちろん」

「パパ、ママ、あれ、はなび?」
『ああ、そうだ』
「このまえ、おにわでやったのと、ぜんぜんちがうね! ね、ママ、あれとおなじの、おにわでできる?」
「ちょっと無理かも。その分、またこんな花火が見れるところに一緒に行こうね、翔」
「わーい!」

「見て黒ネコ! おねえちゃん!」
『綺麗』
「ああ、一瞬で消える儚い光――だからこそ、美しい。……比佐理。黒崎。俺は……お前達と一緒に居れて……幸せだ。……ありがとうな、一緒にいてくれて」
『ふふ。一刀斎様は……酔うといつもそう仰いますね。私も……幸せです。私を造ってくださって……ありがとう、ございます』
「由乃ちゃんも幸せだよ。ありがとう、黒ネコ」



 割れんばかりの拍手。
 それぞれの胸に想い出を色濃く刻んで――フェスの幕は、降りた。



●帰り道
「さくら」
 先を歩く娘に、仙寿は声をかけた。何ですか父上、とさくらが返す。
「お前がもっと強くなったら……この守護刀”小烏丸”を託そう」
「本当ですか? あとどれ位でしょうか?」
『もっと大人になってからかなぁ』
 さくらの頭をあけびは撫でる。
『仙寿も私も現役だからね』
「母上――私、もっと努力します!」
 声高に、さくらは宣言した。



「楽しかったなー」
 最寄り駅までの道をまいだは軽い足取りで歩いていた。
「もうちょっとで大学卒業だし……そうしたらきっと、こういうことも出来なくなるから」
 まいだは息を吸った。ほんの少しだけ火薬の匂いがする。耳の奥には、まだライヴで聞いた音が残っている。
「うん、来れて良かったな! 知ってる人の顔も見れたし!」



 芽生とメリッサ、野乃から距離をとってから、拓海は槻右を呼び止めた。
「王が消え十五年、新たな里親要請も減ったな……オレたちだけの生活もしたかっただろうに……何年もオレの我儘に突き合わせてすまない」
 頭を下げる拓海に、槻右は首を振った。
「我儘じゃなくて、僕達の夢だったんだよ。お疲れ様でした」
「……ありがとう。ここからは二人で生きよう」
 ぎゅ、と拓海は槻右の肩を抱く。
「二人の時間……それもいいね。少しの間、独占させて貰うね」
 少しだけ伸びをして、槻右は拓海の頬に口づける。ふ、と拓海は目を細める。
「……そうだな、要請があれば里子を受け入れるだろうね」
 そう言って拓海はお返しとばかりに、拓海の唇に己のそれを重ねた。



 История все еще продолжается.
(物語はまだまだ続く)

 С вашей смелостью и резонансом.
(貴方達の勇気と共鳴と共に)

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • いつも笑って
    九十九 サヤaa0057
    人間|17才|女性|防御
  • 『悪夢』の先へ共に
    一花 美鶴aa0057hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 止水の申し子
    まいだaa0122
    機械|6才|女性|防御
  • 憤怒の体現者
    獅子道 薄aa0122hero002
    英雄|18才|?|カオ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 暗夜の蛍火
    時鳥 蛍aa1371
    人間|13才|女性|生命
  • 優しき盾
    シルフィード=キサナドゥaa1371hero002
    英雄|13才|女性|カオ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 黒ネコ
    獅堂 一刀斎aa5698
    獣人|38才|男性|攻撃
  • おねえちゃん
    比佐理aa5698hero001
    英雄|12才|女性|シャド
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