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【いつか】敗れた者達のとある未来
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最終発言2019/03/04 17:23:52 -
【いつか】前を向いて
最終発言2019/03/06 21:49:17
オープニング
●継承
真継優輝(az0045)はトリブヌス級愚神ニア・エートゥス(az0075)が撃破された後、ニアが支配していた秘密結社シーカ合法部門や所有していた多数の企業群を継いだ。
これはニアが撃破される前に行った手続きによるものだ。
当初優輝は辞退したものの、H.O.P.E.上層部は「ニアの遺産を放棄するのは危険すぎる」と判断し、優輝に全ての継承を命じた。
もちろん企業運営の経験がない優輝に全てを押し付けるわけではない。
相談の末、優輝がニアが保有していた資産を受け取りはするが、実務の大半はその企業やH.O.P.E.上層部の意志を受けた専門家に任せるという形式に落ち着いた。
とはいえ、今までシーカやニア達によって被害を受けた人々への補償といった実務は、資産を継いだ優輝がやることになり、優輝は世界中を駆けずり回る事になる。
ある時は先輩であるエージェント達に支えられ、またある時はニアの信奉者だった人間達を味方につけて各企業の業績を回復させるなど、優輝の活動は地道ながら着実に実を結んでいく。
優輝達の努力によって、シーカやニアの所有だった各企業の株価がいずれも上昇の傾向を示す。
これにより企業側も優輝の価値を認め始めた。
●たかる者達
それでもH.O.P.E.上層部の危惧していた事態が発生する。
かつて優輝を化け物扱いし、いじめていた各地の元同学生――正確にはその家族達が優輝の行く先々に現れるようになった。
「いい身分だな。自分の功績でその資産を手に入れたわけでもないだろう?」
「それは重々承知していますが……」
ヴィラン組織だったシーカを潰し、ニアを倒したのは先輩エージェント達の尽力によるものだ。
一番それを承知している優輝はそう応えるも、優輝をいじめていた人間の1人は悪びれず言い放つ。
「分かっているなら、俺達の家に融通しろ」
「……何を融通しろと言うんですか?」
何を言われたのかわからなかった優輝が尋ね返すと、別の1人が当然と言った口調で要求する。
「決まっているだろう。お前の所有する企業から上がってくる利益だ」
「え?」
「お前の資産は、俺達がお前を『しつけて』H.O.P.E.エージェントにしたおかげで手に入れたものだからな。それくらい当然だろう」
優輝の今は、恩人にあたる先輩エージェント達の奔走の結果であり、今周囲にいる人間達が『しつけ』と称する数々の暴力行為は全く寄与していない。
それでも悪びれることなく彼らは次々と分け前を要求する。
「お金持ちなら当然よね? こっちは色々苦労しているんだから」
「いるんだよな。身の丈に合わない資産を幸運で得て粋がる雑魚が。お前の資産や地位は、王の器である俺が持つにふさわしい」
「お金がいっぱいあって使い切れないわよね? 私達が有効に使ってあげるから。さあ、この書類にサインして」
かつて優輝を暴行していた時と変わらぬ笑みを浮かべ、彼らは優輝から金や地位をもぎとろうとする。
このときは異変を察知したH.O.P.E.情報部の同僚たちが駆けつけ、群がる人間達から優輝を救出した。
ようやく愚神から解放された組織や企業が再出発を図ろうというこの時期に、彼らのような人間達を関わらせる余裕はない。
ただでさえ遺産を引き継いでからの優輝は多忙であり、優輝の心身を着実にすり減らしている。
そして人々への補償にある程度目途がついたところで、優輝は人目につかない場所で血を吐いて倒れ、病院に緊急搬送される。
病名は胃潰瘍。それまでの過労と無茶の積み重ねによるものだった。
被害者達の心証を良くする為、共鳴していなかったツケがここで回ってきた。
●救う者、助ける者
優輝が倒れた事を受け、H.O.P.E.も対策に乗り出し、エージェント達を募集する。
「頼みたい件は優輝が復帰するまでに、優輝にたかる連中を潰すことだ」
ジョセフ イトウ(az0028)はそう言って、旧秘密結社シーカ合法部門やニアの所有だった企業の決算書類や帳簿を『あなたたち』に見せる。
世界を『調停』と称して混乱させたシーカや、強いられたとはいえニアという愚神に協力していた企業への風当たりは厳しく、ジョセフの見せた資料は、各企業の困窮を示すものばかり。
優輝が各企業を継いだ当初はいずれもひどい赤字だった。
「誤解されているけど、優輝は無報酬で全部引き受けているんだよ」
だから企業群が利益を出したとしても、優輝には一切得はない。
もちろん今回は依頼なので、『あなたたち』には相応の報酬が支払われることが約束されている。
「連中は入院中の優輝のところに押しかけてくるから、通さずに撃退してほしい」
その撃退方法の一例をジョセフは提示する。
「これらの資料を見せれば、よほど頭が悪くない限り甘い汁など吸えるはずもないとわかるはずだ」
他にも効果的な手段があれば、遠慮なくやっていいとジョセフは告げる。
ただし相手は一般人ばかりなので物理的でなく精神的に。
なお、元同学生たちが優輝の居場所を知っているのは、優輝が情報部に頼んであえて情報を流したからだ。
継ぐと決めた以上、他に被害が及ぶのを防ぎたい意図もあったようだが……。
「だいぶ改善されてはいるけど、まだ自分を顧みない癖が残っているみたいだ」
本来ニアの資産を受け取る資格があるのは、実際に命を賭けたエージェント達だと、優輝は考えている。
だから代役として苦労を抱え込み、企業が健全になったところで継いだ全てを譲るつもりでいるらしい。
ただH.O.P.E.も優輝に労苦だけ押し付けるつもりはない。今回支援を申し出た人もいる。
救い手の名は、冷泉(れいぜい)愛結(あゆ)。
元『シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。以下SEと略)』所属の人間で、いままでに様々な経済活動にも従事していたので、企業運営もそれなりにこなせる。
少し周囲を見渡せば、優輝を手助けする人はちゃんといて、地味ながらも着実に実績を積み重ねていることも評価されているとわかるはずだが、今の優輝はそれに気づいていない。
「これは任務ではないけど、余裕があったら優輝や愛結と話をしてくれないかな」
話題は近況報告でも、この先どんな未来を目指すのかなど、なんでもいい。
優輝に改善点を指摘してやったり、不安を解消させるのもいいだろう。
●後悔
悔しかった。
先輩たちが自身と世界の存続を賭けて前に進み、僕は後ろに下がることが。
悔しかった。
僕は未だ足手まといだ。だから前には出られない。
それが最良と思い込むしかなかった。
それしかできない自分の無力さが。
どうしようもなく悔しくて。
どうしようもなく……辛かった。
どんな不恰好でも、みっともなくても。
受けた恩に報いたい。
あの人達が勝ち取った「今」を。救った命を守りぬきたい。
僕が『いらない』と言われる日まで。
解説
●目標
真継優輝が復帰するまでの間、元同学生達を撃退する
失敗条件:死者が出る
登場
真継優輝
適正はバトルメディック。恩人である先輩エージェント達の努力の甲斐もあり、性格もかなり改善しているが、苦労を抱え込む自己犠牲の癖がまだ残っている模様。
ニアの遺産を継ぐ。遺産に含まれていた企業の人々を救うため奔走していたが、過労が蓄積して倒れる。
現在下記病室内で入院中。
冷泉愛結
元SE所属。元H.O.P.E.過激思想派にグライヴァ―・チルドレン(愚神の子供達)の烙印を押され望まぬ生き方を強制されてきた。エージェント達に命を救われたので、エージェント達には好意的。
現在優輝のいる病室と下記企業の間を往復中。
社員たち
元シーカ合法部門の他、ニアが所有していた企業に勤める人達。既に罪は精算済みだが、愚神に協力していたと見なされ世間の視線は依然として厳しい。
優輝や情報部の奔走で業績や評判も改善しつつある。
元同学生達
かつて優輝が通っていた学校で、優輝をいじめていた人達とその家族。優輝がニアの遺産を継いだことを知り、遺産を奪おうと群がる。
PL情報:今回は優輝が応じなければ病室から拉致し、遺言書を書かせて資産を奪うことも視野に入れている。
状況
時系列は『王』が倒されてから数年後。
とある地方の病院。別棟が入院患者用の病室になっており、優輝は最上階にある病室の中央にいる。
病室は廊下に面する扉と窓以外に出入りできるところはない。廊下は病室と反対方向に窓があり、突きあたりに屋上に通じる非常階段がある。
左右の病室は空いているのでそちらも出入り自由。
以下簡単な見取り図。
□□□
■===
□:病室
■:エレベーター
=:廊下
リプレイ
●準備
百目木 亮(aa1195)とシロガネ(aa1195hero002)は、現在までの状況を確認しため息をつく。
「金は大事だ。だが、金だけに群がって蹴落とそうとする奴はどうしようもねえってな」
亮からすれば、元同学生達は真継優輝(az0045)が継いだ遺産の正体をわかっていない。
エージェント達は、その遺産の内容を全て把握している。
『遺産の響きだけでたかって、意味を理解してないんやったらとっとと退いてほしいですなぁ』
恐らくシロガネの言う通り、元同学生達は遺産という響きだけしか頭にない。
優輝が愚神ニア・エートゥス(az0075)から譲られたのは、秘密結社シーカ合法部門という形で生き延びたヴィラン組織の残滓と、ニアの支配下だった企業群。
信用はマイナス。赤字が続くまさに負の遺産だ。
「人の欲望には限りが無いとは言うが、臆面も無くたかりに来れるものだな」
御神 恭也(aa0127)は冷淡な口調で、録画・録音用機器の敷設を進めている。
『……あの人たちは何を言ってるの? 言ってて恥ずかしいと思わないのかな?』
優輝が所有する各企業のもとに押しかけ、意味不明な理屈を並べてたかる元同学生達の映像を見て、伊邪那美(aa0127hero001)の顔が引きつる。
「そこで恥と思えるなら、被害者にたかる真似はしない」
伊邪那美の疑問に恭也はそう答え、現在までに判明している『敵』達の顔写真をプリントアウトしていく。
――他人の弱さを利用して搾取しようとするから、理解不能な言いがかりを平気でつけられる。
恭也は元同学生たちの本質をこの時点で見抜いていた。
優輝が学生時代に受けていたいじめは既に時効を迎えていたが、恭也は誰がどのような行為を行ったのか優輝より聞き取りを行い、顔写真へと情報を添付していく。
迫間 央(aa1445)とマイヤ 迫間 サーア(aa1445hero001)もまた、過去優輝達を救うことに繋がった関連依頼の報告書の内容や、自分が知る限りの情報を仲間達に提供する。
「たかりに来た連中は真継の人生になんら貢献はしていないですね。むしろ有害です」
『自己中心的で物事の善悪の区別がつかない。そんなところかしらね』
央やマイヤは「敵」の特徴をそう説明した。
藤咲 仁菜(aa3237)と九重 依(aa3237hero002)は、優輝に発信機と録音機器の装着を頼み、常に優輝の位置や優輝に向けられた発言が把握・記録できるよう準備を進めていた。
「それでも、元同学生達がこのまま引き下がるとは思えません」
仁菜は同学生達の諦めの悪さから、再度同じことをするだろうと予測していた。
『強硬手段に出る可能性も考えておくべきだな』
「どんな……?」
『誘拐。殺し。精神を壊して言うことを聞かせるとか、な』
依は元同学生達が、たかり以上の犯罪を行う可能性についても言及する。
『腐った悪党(ヴィラン)はどこにでも現れるものだ』
「その時こそ、私達の出番よね」
依は敵がヴィランも連れてくる可能性を指摘し、仁菜も賛意を示した。
なお仁菜は今回の依頼を受けるにあたり、報酬の辞退を申し出ている。
「真継さんが無報酬で頑張ってるのに、私だけお金を貰うわけにはいきません」
これについては企業側から『どうか受け取ってほしい』と慰留された。
「でしたら、真継さんの待遇を早急に改善して下さい」
仁菜はそう要求し、『真継優輝も正式な報酬を受け取れるようにする』と確約させることで申し出を取り下げた。
仁菜も優輝の無報酬状態は異常だと認識しており、待遇改善を約束させた方がいいと判断したためだ。
東海林聖(aa0203)とLe..(aa0203hero001)は、優輝が入院する病院周囲を巡回している。
「『相手を殺さない』戦いってのは、ただぶっ飛ばすだけの攻撃より気を遣うしな」
『……その辺はヒジリー任せでいいや……』
Le..も手加減は可能だが色々あるらしく、今回は聖に任せるつもりだ。
「っし、やるぜルゥ……」
『ん、とりあえず先に見つける』
聖とLe..はそう言い交して、病院内外を動き回る。
アトルラーゼ・ウェンジェンス(aa5611)とエリズバーク・ウェンジェンス(aa5611hero001)は、恭也によって収集できた元同学生及びその家族達の顔写真を覚えていく。
『優輝様の命の危険がありますので、必ず連絡をお願いいたしますね』
それとは別に、エリズバークは病院に勤務する看護師達に、優輝の居場所を尋ねる者がいた場合、必ずエージェント達にも情報を伝えるよう釘を刺すことも忘れない。
なお事前の話し合いで、今回救いの手を差し伸べた冷泉(れいぜい)愛結(あゆ)という人間や、優輝が所有する企業の人々は元同学生達と接触しないよう取り決めを交わしてある。
「母様。この人達も警護に加わりたいと言っているのですが?」
アトルラーゼからの情報で、エリズバークがその人物達と対面する。
護衛を申し出たのは、元秘密結社シーカの合法部門として勤務する人間達だった。
『貴方達が手を出せば、それが正当防衛であれ優輝様の努力が無駄になり信用は地に落ちます。それをお忘れなきよう』
「出来る限り奴らと真継を接触しないようにする。が。もしお前さん達に接触するなりして悪く言う奴が出てきたんなら、声の潰れた鳥が鳴いてるもんだと無視してほしい。――自分のことだけに夢中になる奴らには後で報いが来るからよ」
亮もまたエリスバークに協力して元シーカの人々に、そう説得する。
エリズバークと亮は元シーカの人々を説き伏せ、病院より退避させた。
エージェント達の迎撃が始まる。
●予防
恭也の予想通り、病院の監視カメラの映像を解析したところ、元同学生達が何度か訪れていたことがわかる。
その情報に基づき、聖とLe..が巡回を強化する。
監視カメラの映像は、情報部から借用した特殊な機器や恭也の助力を得て、聖にもリアルタイムで伝えられている。
「前にやり方と機材は知ったからな……」
(……へぇ)
慣れた手つきで機器を操る聖に、Le..は少し感心した。
病院外の人々も聖達が常に目を光らせていることに気付いたのだろう。
それまで病院の職員達と患者、関係者達との間で時々発生していたトラブルが一気に沈静化し、聖達は病院から感謝される。
アトルラーゼは情報部の協力も得た上で、入院患者に変装して総合受付やナースステーションなど、外部からの人間が立ち寄りそうな場所を巡り、情報を収集する。
その結果、それらしい連中が過去に親戚の見舞いと称し、優輝のいる病棟に出入りした形跡があることが判明し、アトルラーゼはエリズバークに伝達。
エリズバークが元同学生らが動いていたらしき場所を調査したところ、盗聴器が複数見つかった。
「予想通りの行動をしていたみたいですね、母様」
『強請をする頭の悪い方ですから、普通に聞いてくる可能性もあると思っていましたが……』
アトルラーゼは透明な笑みで、エリズバークは不穏な何かを含んだ笑みでそう言いかわしながら、元同学生らが立ち寄った複数の箇所から盗聴器を回収していく。
エリスバークは盗聴器の1つに向け、その先にいるであろう元同学生達に宣告する。
『こんな小狡い手を使う屑の方々。やるなら正々堂々と向かってきなさいな。まぁこちらも容赦は致しませんけど』
――優輝様の命が脅かされるなら、正当防衛で殺しても言い訳が立ちますから。
相手が録音機器を所持している可能性を考慮し、エリズバークは一部の発言を心の内にとどめる。
エリスバークは『敵』に余計な言質を与えるつもりはない。
その間にも恭也は伊邪那美と手分けして、元同学生達が付けこもうとする要素を潰していく。
機械が苦手な伊邪那美は、主に紙に印刷された情報をチェックし、何かあれば恭也へと伝える。
「後は、緊急要請も無く動こうとする救急車が無いかを監視しておけば、余程の事が無い限りは病院から連れ出せはしないと思うが」
既に恭也の指示を受けた情報部による調査で、病院関係者や清掃などで出入りする業者は特定し、依頼の間はその業務を情報部員が代行するなどの手配も済ませていた。
『……このままで良いの? ボク等の護衛が外れたら同じ事を繰り返すよ』
「彼に掛かる火の粉を振り払うのが今回の仕事だ。……まあ、火元が無くなっても火の粉を振り払うのと同じだろうがな」
伊邪那美は依頼終了後も元同学生達が優輝につきまとい続ける可能性を挙げるが、恭也は今回で禍根を根元から断つつもりだ。
こうした聖やエリスバーク、恭也の『予防』により、元同学生達のとれる手段が限られていく。
●迎撃
依は元同学生達がヴィランを雇い入れ、優輝を拉致する可能性を指摘していた。
『来るとすれば面会時間以外。恐らく複数に分かれて来るだろうな』
依の予測通り、事態が動いたのはその日の面会時間が終わってからだった。
依と共鳴し、鷹の目で警戒していた仁菜は、出入り口以外から病院敷地内へと忍び寄ろうとする不審な人影を発見する。
ただちにその情報は聖やエリズバークにも伝えられ、不審者達のもとへ急行する。
『私達がクズになんの対応もしていないと思っているのかしら?』
アトルラーゼと共鳴したエリズバークが不敵な笑みを浮かべ、眼前に現れた不審者達へ尊大に言い放つ。
「クズは壊していいですか母様!」
『今回は殺さずじわじわ追い詰めるだけにしましょうね?』
アトルラーゼの物騒な物言いをやんわりとかわしながら、エリズバークも容赦がなかった。
既に不審者達の乗っていた車は、エリズバークのエクストラバラージで増産された魔導銃50AE+4の攻撃で破壊されている。
「お前ら、出番だ」
元同学生の言葉と共に、ヴィランらしき人影が複数躍り出た。
巨漢が拳を振りかざし、Le..と共鳴した聖に飛びかかる。
「っし、抑えるぜ……!」
『……ふぁいとー……』
気の抜ける回答を寄越すLe..に内心愕然とするも、聖が警戒したのは別の方向。
巨漢のうなる拳を最低限の体捌きで躱し、背後へ視線を流すと、そこには短剣を投擲しようとする細身の男がいた。
「悪いがコレ以上好きにはさせないぜ……ッ!」
聖はそう言うと《闇夜の血華》の銘を冠する魔剣「カラミティエンド」+5を掲げ、細身の男が放った短剣を弾き飛ばし、メーレーブロウを発動。
聖の《闇夜の血華》が大きく振り回され、拳を振るう巨漢の腕を抉る。
「東海林さん、ルゥさん、上!」
仁菜の警告で聖はもう1つの殺意に気づき、仁菜は飛盾「陰陽玉」+2を聖の頭上に滑り込ませ――。
メーレーブロウを回避すべく跳躍した男が、聖へと振りおろした刀を防ぐ。
そのまま飛盾「陰陽玉」を掲げる仁菜と、刀を押し合いながら着地した刀の男は一瞬離れた後、再び激突した。
仁菜の掲げる飛盾「陰陽玉」の向こうで、【SW(盾)】リフレックスの効果が発動。男がダメージを受ける。
それでも男は刀を押し込むが、仁菜は微動だにしない。
『弱すぎる。手加減しないと死んでしまうな』
「そうみたいね。だったらこうさせてもらうよ」
依の指摘に短く応じると、仁菜が押し返していた体の力を不意に抜き、一瞬男の体が前のめりになる。
後ろのめりになった体勢を生かし、仁菜は半回転して踵を男の頭部に叩きつけた。
仁菜がさらに身体を半回転して地面に足をつける中、よろめいた男が仁菜に横薙ぎの斬撃を放つ。
男の刀が仁菜に迫るが、それを躱した仁菜の放つハイキックが男の顎をとらえた。
その一撃で意識を削られた男は、放物線を描いて地面に叩きつけられ沈黙する。
その横で聖は一歩で巨漢との間合いを詰めていた。
『手加減だけはしておいてね、ヒジリー』
Le..はこの程度の敵は脅威にならないと判断したのか、ほぼ聖に戦いを丸投げしている。
至近の間合から、聖は《闇夜の血華》の切っ先と柄頭を逆にして、疾風怒濤を発動。
「ちっとマジだぜ! 怪我しても恨むなよッ。千照流――蛟双……改!」
聖の叫びと共に、《闇夜の血華》の漆黒の柄部分が次々と巨漢の腹、胸と叩き込まれ、最後に下からの突き上げが巨漢の顎を捉え、巨漢の体を宙に飛ばす。
頭から地面に激突した巨漢はそのまま昏倒した。
「やりすぎてねェ予定だが……」
(……打撲は確定かな……)
病院より借用したガムテープで巨漢の手足を拘束しながら、聖とLe..は巨漢が辛うじて息があることを確認する。
残る細身の男も、エリズバークが宣告通り、あえて急所を外した魔導銃50AEの銃撃でじわじわ削られていた。
『さぁここで死なない程度にくし刺しになるか。おとなしく投降するか選んでいただきましょうか』
エリズバークは綽々とした口調で、男に選択を迫る。
その間に男が一斉に投じた短剣の群れを、エリズバークは軽く身を捻り、体を流し……。
たったそれだけの体捌きで、男の放った短剣の群れはことごとく彼女の身に触れる事なく通過する。
『くし刺し決定、ですよね?』
唇の端を吊り上げ、エリズバークはそう宣告しウェポンズレインを発動。
魔導銃50AE型の無数の銃器が男の頭上より銃口を男に向け、一斉に咆哮する。
無数の弾丸状ライヴスが文字通り雨となって男に降り注ぎ、全身を射抜かれた男が血煙をまいて倒れ伏す。
ヴィラン達が全員無力化されたのを見て、元同学生達は一斉に逃げ出した。
「あいつらも追い詰めた方がいいのではないですか、母様?」
『他の方が対応して「再発防止」策とやらを行うようですから、そちらに任せましょう』
アトルラーゼの進言にエリズバークはそう応え、ライヴス通信機を介し、別の場所にいるエージェント達に元同学生達の情報を伝えた。
●逮捕
逃走する元同学生達の前に、エリズバークから連絡を受けた亮や央、恭也達が立ちはだかる。
シロガネと共鳴した亮がライオットシールド+2を掲げて守るべき誓いを発動し、自分のもとに引き寄せた。
元同学生達からの攻撃が亮に集中するが、ライヴスを介さない攻撃など亮には通じない。
その間に央やマイヤ、恭也や伊邪那美達の手で元同学生達は捕縛された。
『資産いう言葉だけに目が眩みはったんなら、勘違いや』
共鳴を解いたシロガネが見せたのは、優輝が所有するとされる各企業の決算書だった。
決算書に書かれている数字は、いずれも赤字を示すものばかり。
『その資産継いだら、あんたはんの人生暗黒面にまるっと変わると予想しますー。そも、愚神が持っとったもんを積極的に貰おう思うなんて、変わったお人でいらっしゃいますわぁ』
シロガネの見立てでは、眼前の連中なら1日で逃げ出す。
央もまた、話し始める。
――数年前、リンカーの少年と彼に寄り添う英雄が、無理解な同学生達から迫害され続けた。
望まぬ転校を繰り返し、追い詰められお互いの為に己の命をなげうつ覚悟を決める少年と英雄。
それを実行する為の、H.O.P.E.への依頼。
エージェント達の奔走で、お互いが最も大切だと気付いた2人は救われ。
その後2人はH.O.P.E.のエージェントになった。
「その際派遣されたエージェントの1人が俺だ」
『思い出話をしているつもりはないわ。ただ事実の確認をしているだけよ』
自分を指さす央の横で、マイヤは央が持参した報告書の写しを元同学生達に見せる。
「お前達は真継がH.O.P.E.のエージェントになった際の恩人であるらしいが……」
そこで央は首をかしげる仕草を見せる。
「妙だな? 俺達はお前達の事など1人も知らん。先の話に組み込むなら少年達を無責任に追い詰めた心無い同学生達と考えるのが自然だが?」
そしてマイヤは、元同学生達の主張の欠陥を突きつける。
『それでもなお恩人だと主張するなら、証明できるわよね?』
央やマイヤの追及に、元同学生達は押し黙る。
「まあ、既に色々やらかしたんだ。残りは警察で絞られてくるんだな」
亮がそう言って待機させていた警察官達に連絡を入れ、元同学生達を警察に引き渡した。
●1人ではない
「ご結婚おめでとうございます」
病室で優輝や愛結は、央とマイヤの慶事を異口同音に祝福する。
「ありがとう。そちらの話も聞かせてくれないか?」
そう言って央が愛結に尋ねたのは、愛結の周囲にいた愚神達の動向だ。
愛結の周囲にはマニブス、ループスという愚神が常にいたのだが……。
『そうなの。やはり彼らも愚神の範疇から外れなかったという訳ね』
愚神マニブスとループスは、『王』の撃破とほぼ同時に消滅したと聞き、マイヤはそう呟く。
マニブス達の消滅は、『王』が討たれれば愚神も共に消えるというマイヤ、H.O.P.E.の推測を裏付けるものだった。
「『橘先生』は、まだ残っているのか」
央の言う『橘先生』とは愚神ヒーリショナー(az0076)のことだ。
愛結の話では、ヒーリショナーは残ったものの衰弱し活動を鈍らせているらしい。
亮もまた優輝に自分達の近況を伝える。
この場にいないもう1人の英雄の活動が鈍くなり、最近は幻想蝶の中で眠る時間が多いこと。
「今はパートタイムと掛け持ちだが、シロガネと組んでのエージェント活動が多いんだ」
亮の近況が伝わったところで、シロガネが優輝に尋ねる。
『真継はんはニアの遺産を継いで、企業の皆さんを助ける為に奔走したこと、後悔してます?』
答えを聞jく前にシロガネは首を横に振って、言う。
『足手まとい言うんやったら、それは違いますよ。だって真継はんは誰かの為に戦うとるやないですか。誰かを助ける為に動くんが戦うことやなくてどないしますか』
口調は軽いものの、シロガネは優輝の生き方を尊重し、助言する。
『抱えきれんくなったら相談したり、ノートにぶちまけてはどないですか? 1人にダメージ集中したら硬くてもいつかは落とされますから』
央もまた、大切な事を優輝に伝える。
「お前とシャレークの誓約は”決して自分を犠牲にせず、大切な存在を共に力を合わせて守り抜く”事だろう?」
お前自身が誰からもいらなくなるなんて日は、誓約を守る限りあり得ない。
「困った時には自分の大事な人と相談しろ。それで解決できなければ俺達を頼れ。どんな人間だろうと、一人の力などたかが知れている。こういう事には手が回しやすい職業なんでな。力にはなれるさ」
だからこれからも遠慮なく頼れと、央は優輝に請け負った。
「真継さん、自分をいらない存在だって思っていませんか?」
まるでかつての自分のようだと仁菜は思った。
だからその悔しさも理解できる。
「【絶零】でのレガトゥス級との戦い覚えてますか?」
圧倒的な敵を前にして。敵の攻撃から逃げるしかなくて。
「私はあのとき何も出来なかったんですよ」
攻撃を受けた仲間をほんの少し回復するだけしか出来なくて。
守らなきゃいけなかったのに。
「私が弱いから、奪われた」
後悔した。強くなろうとした。
――身も心もボロボロになった。
「でもそんな私を支えてくれた人がいたんです。弱くて前に立てなかった私に」
守ってくれるから安心して攻撃出来る、と言ってくれる人がいた。
後ろで回復してくれるから安心して立てる、と微笑んでくれた人がいた。
「だからね、真継さんも”それしか出来ない”じゃないんですよ。真継さんが後ろにいてくれるから、私達は安心してニアを倒しにいけたんです」
あの時の自分が、今こうしていられるように。
「だからね、真継さんは凄い! でもちょっと無茶しすぎです! 次からはちゃんときつくなったら手伝ってって言ってください!」
優輝の価値を認め、手を差し伸べる人達がここにいると、仁菜も訴える。
うなだれる優輝の肩が震え、顔を覆う掌の隙間から雫が落ちていた。
声を殺して嗚咽する優輝だったが、それでも辛うじて『これからはそうします』と頷きを返した。
この間にも恭也の策が進められる。
まず元シーカ合法部門やニア支配下だった各企業のホームページを開設し、その財務内容や決算情報を公開させた。
これにより誰の目からも各企業の業績や、優輝が無報酬であることがわかるようになる。
次に各企業は元同学生達を訴える裁判を起こした。
訴えの内容は、『真継優輝の行く先々で付き纏い当人及び当社の業務を妨害し、当社に無視できない損害を与えたことへの損害賠償』だ。
味方を多くして毅然とした対応を取る方が良いと、恭也や亮、央達が優輝や各企業に指導した結果だ。
同じころ、ネット上に元同学生達が優輝にたかるなどの行為をおさめた動画や書き込みが、複数掲載された。
顔をぼかす処理はされているが、それらの行為を自慢する内容のため、投稿者の頭の悪さが話題となり、その動画や書き込みはあっという間に拡散し、炎上。
投稿者達の身元が次々と割り出され、一時保釈が認められた元同学生達だと判明する。
彼らは優輝達が悪だという印象をネット上で主張し、世論を味方に付けようとしたらしい。
だが元同学生達は逆にネット上で袋叩きにされ、身元も特定され住所の周囲や勤務先にも情報が拡散し、裁判所で多くの証拠を突きつけられたところで、初めて自分達の失策に気付くが、既に手遅れだった。
『えげつない気が……』
「彼らが自身の行いに後ろめたさが無いなら問題ない。だが、彼らの周囲にいるであろう良識を持つ人々はどう取るかは知らん」
――少なくとも俺なら公私関係なく、あの連中との付き合いは断つ。
恭也も伊邪那美も、情報部と相談の上で裁判所に証拠を提出し、合法的に『工作』しただけだ。
その結果、伊邪那美の予想以上にネットも社会も容赦なく元同学生達を断罪した。
『……もしかして、恭也も怒ってる?』
「仕事に私情は挟まないつもりだがな」
元同学生達も、権利を主張するなら自分の行為の責任はとってもらおう。
それが人の世界で生きるということだと、恭也はしめくくった。
●再開
復帰した優輝は精力的に業務をこなす。
ただ今までとは異なり、多くの人達と助け合いながら。
こうした努力が実を結び、優輝所有の企業群の業績は回復し、優輝の待遇も改善される。
かつてシーカや愚神配下だった企業群は、『王』が討たれて数年後、ようやく人間社会に受け入れられた。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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