本部

【いつか】Amazings,ready?

若草幸路

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2019/03/15 07:24

掲示板

オープニング

●うららかな世をやぶるのは誰ぞ!
 街の穏やかな喧騒は、誰かの悲鳴で破られる。
「イントルージョナーだ!」
 人とも鬼ともつかぬ異形を見て他の誰かが叫んだ。愚神なき世界、平和な世界、けれどそこにはいまだ大きなほころびがあり、そこから招かれざる客がやってくる。かつての恐怖よりは抗しやすく、けれど恐怖には変わりない。
 逃げ惑う人々、異界と触れあった世界の洞(うろ)から現れ続けるイントルージョナー。悲鳴と呼び交わされる叫びが、H.O.P.E.の到着を知り、早く早くと助けを求めている。

●ゆけ、新たなる力よ!
「彼らに接触点を守る意志などはないようです。ゾーンブレイカーが先行していますので、今回の任務は出てきたイントルージョナーをすべて撃破することになります」
 初老のオペレーターが落ち着いた声でそう告げた。その視界に映るのは、まだ年若いエージェントたち。《共鳴に似た能力を扱う「個人」》である彼らは、この戦いにそれぞれの思いを馳せていた。その少し浮き足立っても見える様子に、オペレーターは語る。
「技術の巧拙、訓練の多寡――ひいてはいままでの自分の評価。それらを任務中はいったん横に置いてください。何よりも大切なのは、みなさん全員が無事に任務を完遂することです」
 その言に、オペレーターのインカム越しにうんうんと頷く気配があった。その親心を持つ者達は、ゾーンブレイカーと同じく先行して一般人の避難誘導と保護にあたっている。なにぶん開けていて人通りも多いため、切った張ったには『まだ』手が回らないのだが。
「あなたがたを大切に思う人たちのことと、人々の助けを求める声。その二つを決して忘れないように。それでは――」

 オペレーターが言葉を切る。ぴん、と空気が張った。

「この初陣を華々しく飾って下さい、アメイジングス。どうかご武運を!」

解説

====================
※注意
このシナリオは、リンクブレイブ世界の未来を扱うシナリオです。
シナリオにおける展開は実際にこの世界の未来に存在する出来事として扱われます。
参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。

※子孫の登場
このシナリオでは、PCの子孫(実子または養子、孫など)を一人だけ追加で登場させることができます。
追加で登場するキャラクターは、PCとして登録されていないキャラクターに限定されます。
子孫の設定は、必ずプレイング内で完結する形で記載してください。
====================

●このシナリオについて
 今から20年後の未来、PCの子孫の初陣を描くシナリオです。親御さんであるPCも陰ながらのサポート役として出ますが、描写はご子息・ご息女メインとなります。
 また、子孫がメインであるということから、あまり厳密に戦闘描写は行いません。どちらかといえば日常シナリオに近いものであることをあらかじめご了承ください。

===アメイジングス(子)===
◆今回の任務:イントルージョナー×30体の全撃破
 街に現れたオーク型のイントルージョナーをすみやかに撃破せよ、という指令です。
 リンカーやアメイジングスからすれば弱い相手ではありますが、一般人をはるかに上回る腕力や脚力を持ち、硬度のある棍棒を持つ存在が人通りの少なくない中に散らばっていくため、迅速に片付ける必要があります。

===リンカーorリライヴァー(親)===
◆今回の任務:アメイジングスをひそかに見守り、危ない時にはこっそり援護せよ
 一般人の避難誘導役で出動はしているのでおおっぴらにやっても大丈夫ですが、子の性格によってはスネたりしばらく口をきいてもらえなくなったりするリスクは発生します。(初陣にいきなりそういうの恥ずかしいもんね)

リプレイ

●いざ、いざ、いざ参らん!
 到着とともに、アメイジングスたちは散開する。俗にオークと呼び習わされる姿をしたイントルージョナーは方々へ散りつつあり、取り逃しを防ぐためには連絡を取り合いながら各自判断での撃破が最適であるという結論があったためだ。それぞれの場所で、戦端が開かれる。

「始めましょう。恨みっこはなしですよ」
 白銀に輝く結い髪をたなびかせて天海胡蝶は跳んだ。杖で放たれる光弾は次々にオークにまつわりつき、不浄を焼き尽くさんとばかりに弾けて白い炎をあげる。その様子は優雅だが、同時にどんな難題もものともしないだろう強靭さも感じさせる。続いてやってきた新手を見ても、胡蝶はそのたおやかな表情を動かさない。
「数が多いので、もうちょっと多く飛ばしますね。運が良ければ当たりませんよ」
 一般人を巻き込む危険性など、バックアップに父がいるという事実の前では微塵も思い浮かばない。数多くの光弾が浮かび、再び敵を追って焔を上げた。だが、その骸を盾にして光弾を縫って近づいてきたオークが1体胡蝶に肉薄してくる。
 しかし次の瞬間、小気味よい音で胴体を薙がれ倒れ伏した。胡蝶は少し湖面の瞳を動かして、その奥から現れた者を見る。
「大丈夫か?」
 オークを斬り伏せたのは、どこか気だるい雰囲気を漂わせる黒髪の少年。
「ええ、おかげさまで」
 凪いだ表情の中にほんのりと笑みをたたえて、胡蝶は一礼する。周囲に群がり始めた敵の気配を感じ取った二人は、背中合わせに立ち、構えた。少年――御神勇吾は笑みを浮かべる。
「仲間のピンチも助けられたし、何とかなるもんだな」
『調子に乗らないように』
 こぼれた余裕の言葉に、伊邪那美(aa0127hero001)が、身の内からたしなめてくる。父から契約を受け継いだこの英雄は、勇吾にとっては姉のような存在だ。
『今回は慣れた人が誘導してくれてるから敵に集中できるだけ。普通はこうはいかないよ』
「父さんもベテランだしな。那美姉は昔から変わんねえけど」
『そりゃあ、神世七代の一柱だからね。不変的な存在なんだよ』
「発育不良じゃないかって父さん言ってっけどな」
 軽口を叩きながら勇吾は敵との間合いを測り、惜しみなく技を振るう。
「よし、一発頼む」
「はい、目眩ましに顔面に撃ち込みますね」
 そして、胡蝶との連携も交えて危なげなく次へ次へと進んでいく。その合間に伊邪那美は勇吾の魂の裡(うち)でアドバイスを与えながらよよよ、と泣き真似をしてみせる。
『ボクは悲しいよ……昔は那美姉、那美姉って甘えて可愛かったのに、今やそんなことを……』
「……俺が悪かった」
 仲間も居るとこで黒歴史を掘り返すのは止めてくれよ、と伊邪那美に頼みつつ、勇吾は見えていた最後の1体を斬り伏せ、周囲を見渡した。そして視界の端に新たな敵影をとらえ、次のエリアへと駆け出していく。
 胡蝶も眼前に映る敵をすべて片付け、移動のためにふいと視線を動かすと、落ち着き払って人々を導く父、天海 雨月(aa1738)の姿があった。艶朱(aa1738hero002)も一緒だ。
「よ、天下一!」
 艶朱が手を打ち鳴らして景気よく応援を、そして父がやったね、と口の動きのねぎらいをくれたので、胡蝶はそちらにむかってびしっとピースサインなどキメてみる。そして、先程連携をしていた勇吾にどことなく似ている男性がいるのに気づいた。そちらにも手を振ってみると、やや面食らったように手を上げて会釈をし、別のエリアに向かうのが見える。
 会釈を終えた男――勇吾の父である御神 恭也(aa0127)は、任務に戻りながらふうむ、と息をもらす。
「単独、連携……動きは及第点だな」
 人々に安全地帯への道筋を示しながら、恭也は勇吾に対する評をぽつりとこぼした。
「あいつは録画するようにと言っていたが、まあ、勇吾のためにも止めておこう」

 そんなふうに親心を持つ者たちは子と同じくそこここに散って行動し、避難誘導と戦況把握を続けている。モスケールで遠くに逃れていくものがいないか探る皆月 若葉(aa0778)は、共鳴しているラドシアス(aa0778hero001)に問いかけた。
「やっぱ2人のこと心配?」
『いいや。……と言えば嘘になるか』
 身の内のラドシアスが難しい顔をしているのは想像に難くなかった。ラシェルとルシエラ、両親によく似た面差しの、宝石のような子たち。ふうん、と若葉はうなずいて、にやりと笑う。
「今日さぁ、作文の添削で徹夜したから眠いんだよね。トシかなぁ」
『は?』
「いやぁ先生はつらいね~。後は任せるよ、お父さん♪」
 明白に後付けであろう理由をまくしたてて、若葉はラドシアスに共鳴の主体を移行させる。
「あのな……」
 余計な世話だと溜息をついて、しかし気にかけていた方角に目をやる。視界に、ラシェルとルシエラがツーマンセルを崩さずに戦っている姿があった。

「こっちだ!」
 ルシエラが敵の横を走り抜けて敵を釣り出す。近づくのは恐ろしいが、2人の学んだ戦い方では距離を詰めるしかない。そうしなければ、人々を守れないのだと強張る筋肉に内心で喝を入れてさらに走る。
「1体ずつなら問題ないか?」
 走り着いた先で、ラシェルが問う。
「……大丈夫!」
 ルシエラが答えると、ラシェルはオークに鋭い魔力弾を打ち込んで1体を確実に撃破する。つられて出てきた次のオークを挑発し孤立させるようにおびき出すラシェル、そしてそのあとに付いて確実な連携を取るルシエラ。流体的ななめらかさを持つ二人のコンビネーションは、確実に敵の数を減らしていった。
 だが、その動きにはほんの少し、そうほんの少しの怯えがある。それは実践経験の浅さからくるものでもあり、自分たちの膂力が敵より劣っているという事実への対処から来るものでもあった。しかし、その怯えは確実に2人を追い込み、眼前の敵にしか注意を割けないという現状がある。その危なっかしさに、様子をちらちらと伺っていた魂置 薙(aa1688)は不安を隠せずにいた。
『ああもう見てられない!』
「落ち着け、多少の劣勢も経験の内よ」
 そう言う兄妹の母、エル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)の顔色にも、心配の色が濃い。というよりも、周辺の誘導を終えたばかりの今はエル主体で共鳴しており、いつでも助太刀に入れるよう様子を見ている状態だ。

 そんなふうに見守られていることも、いつのまにか視界も回避も利かぬ路地に入り込んでいることにも気づかないほどに手一杯だったラシェルの視界の端に、ルシエラへ向けて棍棒を振り上げるオークが映ったのは、幸運なことであった。
「ルシ!」
 すべての判断力がそこを焦点と定め、弾かれたように飛び出す。先ほどまで肉薄していたオークがその背に拳を撃ち込もうとするも、何処かから放たれた矢で撃ち抜かれた。それに気づかぬラシェルは、ルシエラのもとに駆け込み杖で棍棒を受け止める。
「ぐ、っっ!」
 妹が無事だったことに安堵するも、腕力の差に全身が軋み、体勢が崩れていく。ラシェルが地に倒されようとしたその時、不意に押しつける力がゆるみ、そして絶叫がこだました。
 見上げれば、大剣で袈裟懸けに断ち割られた怪物。それがどさりと地に落ちたのを見ている、青と黒の装甲兵。兄妹はよく似た表情で呆然とするばかりだった。その偉容はきっと両親のような歴戦の戦士だとはわかるものの、顔までをぴったりと隙間なく覆う装甲で誰なのかはまったくわからない。その様子を見て装甲兵の中身であるエルは咳払いをして、低くしわがれた声色を使う。
「何をしている、まだ終わってないぞ」
「――はいっ!」
「ありがとうございました!」
 2人は一礼し、さらに路地の奥からやってくるオークたちへ向かっていく。それを見届けて去っていく装甲兵の気配を背中に感じながら、ラシェルはあの一瞬を思い起こした。
「(椿の花の御守……それに、さっきまで俺が相手していたはずのオークに刺さった矢……)」
 守られたのだ、と察してはいたが、それを口にはしなかった。代わりに、棍棒を振りかぶってくる敵の懐に飛び込むように駆け、顔面めがけて杖を振り抜く。先ほどの緊張した面持ちとは打って変わって、その精悍な顔に笑みさえ浮かべて。
「力ばかりが戦いじゃ、ない!」
 単純な膂力で勝てないならば、その力を利用するまで。惑いのないその動きは、誘いの一撃に乗せられて全力で振り下ろされたオークの棍棒をするりと受け流し、その喉笛に魔力を込めたごく小さな、しかし必殺の一撃を食らわせた。
「ラシェル!」
 先ほどとは違う、ひるみのないルシエラの声が響く。的確に腱を狙った攻撃で敵の動きを阻害し隙を作る動きに、恐れはすでにない。それに応え、ラシェルは呻くオークの死角に回り込み、再び至近距離から魔力を岩の如き体表に炸裂させ、内側から致命的な打撃を与える。そのままオークが倒れ伏すのを確かめ、兄妹はハイタッチで互いの戦いをねぎらった。
「……あとは大丈夫そうだな」
「ああ、本当に肝が冷えたわ」
 合流したラドシアスとエルが、それを遠くから見つめながら安堵のため息をつく。現場にやってきたときの緊張ぶりを見てどうなることかと気を揉み続けていたが、ようやく一安心できる。どちらともつかぬ大きなため息が、またその場にこぼれた。

●危機をはらむは若さの証!
 ツーマンセルの連携でもって敵を確実に倒しているのは、もう一組いた。 
「唯我、合わせてください」
「オーケー、さくら姉ちゃん!」
 日暮さくらが、身にまとう純白の詰襟ワンピースにふさわしい楚々とした動作でスキルを使い、桜の花弁を吹き散らす。オークがライヴスでできたそれらに惑わされている中へ、唯我がジャングルホッパーを使って敵陣に真っ直ぐ飛び込んでいく。斬撃を飛び道具のように用いながら場を支配する唯我のすぐ後ろにさくらが続き、連携攻撃が繰り出される。手元を重点的に狙われ、敵は見る間に防戦に傾いていった。
「刀も銃も私の刃。誰かを救うものとして!」
 両親から受け継いだ信念を気魄の声として発し、さくらは動きに弾みを付ける。敵が唯我の死角に狙いを定めれば、さくらのもう一つの、否、二つで一つである武器の銃が火を噴く。連撃は早く重く、そしてしなやかだ。
「次!」
「おう!」
 呼び合う声を合図に薙ぐように振るわれた棍棒を屈んでかわし、さくらが足を払う。
「そーら、喰らえっ!」
 唯我はバランスを崩したオークに、魔力を通して強化した刀で一撃をくれてやる。岩のような額を割られ、片手で顔を覆ったオークの脇腹にぴたり、と鉄塊が触れ、爆発のごとき衝撃が迸る。さくらのゼロ距離射撃だ。
「……よし!」
 倒れ伏したその体に銃弾が貫通したことを確かめ、さくらは視線を上げる。しかし、唯我の意識には違和感があった。迷うことなく、叫ぶ。
「っ、まだださくらッ!!」
「!?」
 斃れる前に一矢報いようとするがごとく、急所を撃ち抜いたはずのオークが起き上がって棍棒を振りぬいてきたのだ。唯我の呼びかけで気付きこそしたものの、完全に次のターゲットへ意識を切り替えていたさくらは虚を突かれて棒立ちのまま棍棒を受け――なかった。
「最後まで気を抜くな」
 眼前に広がるのは白い翼。それが父と母の共鳴した姿であることを、さくらはよく知っていた。
『さくら、大丈夫!?』
 日暮仙寿(aa4519)の身の内で共鳴している不知火あけび(aa4519hero001)が、慌てたように娘を呼ぶ。《ターゲットドロウ》で庇われたのだと気付き、さくらは思わず頭を下げる。
「母上、父上! すみません、」
「謝罪の前に成すべき事を成せ!」
 仙寿の一喝に、さくらが虚を突かれる。続いて、気遣うような大声が響いた。
「さくらー! 無事かー!?」
 呼ぶ声の先を見れば、最後のあがきとばかりに暴れ回るオークを相手取り、唯我が手を焼いていた。今はそれをなんとかするのが先だ。
「……ありがとうございます!」
 その一言だけを返し、さくらは刀を取って踏み込み、一閃する。今度は確実な必殺の一撃に、オークの首が飛んだ。


 そうして戦いが進みゆくなか、親心もつのりゆく。
「リュカ……手を、握って貰えますか」
 誘導の切れ間、紫 征四郎(aa0076)改め、木霊 征四郎は俯いた。木霊・C・リュカ(aa0068)が見やれば、幼い頃は共鳴の時に垣間見えた、今は征四郎自身のものである凜とした顔が、不安で青白く染まっている。己の中にいる凛道(aa0068hero002)も、心配で仕方がないという感情の波を隠さない。
「うん、大丈夫大丈夫。せーちゃんと俺の子だもん、無事で帰ってくるよ」
 そっと征四郎の手を握り、リュカは今も変わらぬやわらかな声でそう語った。ですけど、とぐずるように言いつのる、ひとりの母親の背を、凛道がそっとさする。
『無理もないのであるな。あの子は今回の任務で一番の年少さん故』
 征四郎の身の内で《鷹の目》で得られる視覚を用い、つとめて冷静に状況を見ようとしているユエリャン・李(aa0076hero002)。その鳥瞰にも近い視線の先に、彼らの愛し子がいた。

 皆が見守る視線の先。木霊 向日葵(こだま ひまわり)という幼年にも近い少年は、恐怖を感じていた。足がすくみ、手は震え、それでも崩れのない太刀筋で敵を裂いていく。敵の動きを必死で見るさなかに、記憶がよぎる。

 ――鍛錬を終えたいつもの朝。
「よく頑張りましたね。今の貴方の力量なら、イントルージョナーとも戦えるでしょう」
 では! と恐れを隠して声を張る自分に、母は困ったように微笑んで首を横に振った。
「”戦える”と言っただけです。やるかどうかは、向日葵が決めなさい」
「御母堂が君くらいの頃には、もうばっさばっさと切った張ったをやっておったがなー」
「ユエリャン!」
 赤髪の優雅なひとをたしなめるその声は厳しく、けれどやわらかい。
「みな、それぞれに自分を活かせる場所があります。……貴方のそれも、戦うこととは別にあるかもしれない」
 だからよく考えて決めるのですよ、そう母から告げられたあの日。
 こうして別な世界の怪物をいざ目の前にしてみると、怖い、怖い、けれど、それでも――。

「……俺には力がある」
 向日葵はぐっと剣を握り直す。
「見て見ぬ振りは、できないです!」
 やああっ、と気合いの声をあげて、目の前にいるオークたちを次々と斬り伏せる。無我夢中のうちに目の前にいるすべての敵が斃れ、そして動かなくなったのを確かめると、ふううっと大きな息が向日葵の小さな体から漏れた。《鷹の目》で見守っている家族もみなふううっ、と息をつき、そしてはた、と征四郎が気づく。
「……?! 後ろにまだいるのです! 向日葵!」
 向日葵のいる場所からの死角、《鷹の目》で見ていなければ気づかぬ間合いに、オークたちが群れている。全力を出し続けていたあの小さな体で不意を突かれたら、と気づいて、見守っていられる母親がいるだろうか。否。
「――っ!」
 征四郎が全力で駆け出そうとしたそのとき、ごぅっ、と遠くから轟音が起こり、征四郎はあ、と声をこぼして立ち止まる。かなり大雑把な範囲攻撃だったが、今ので、向日葵の不意を遠間から突こうとした敵がまとめて消し炭になったのは確実だ。くるりと振り向いた征四郎をやんわりと制し、リュカはにんまりと笑ってみせる。
「新しい物語の、まだプロローグでしょ? これぐらいは、ね」

 その音からややあって、通信機から『イントルージョナーのすべてを撃破確認』と報告が流れてくる。向日葵もそれを聞いていたらしく、きょろきょろとあたりを見回し――いてもたってもいられず探しに来た征四郎を見つけて、にっと笑った。

●そして明るく翔ける日々よあれ、われら異界と相対する者なれば。
「よく頑張りました! よく頑張りましたよ、向日葵!」
 共鳴を解いた征四郎は堰を切ったように駆け出し、向日葵へ飛びつくように抱きしめた。その表情には余裕などなく、向日葵は初めて見る母の顔に驚く。だが驚き続ける間もなく、リュカも抱擁に加わり、向日葵はぎゅうぎゅうと2人の温もりに包まれた。むぎゅむぎゅと窮屈そうに声を出す少年は、しかしとても嬉しそうだ。それを遠巻きに眺めながら、ユエリャンは今回の戦いを振り返って、ふむ、と思案する。
「悪くはない、であるな」
「はらはらしましたけどね」
「竜胆」
 いつのまにか傍らにいた凜道に、ユエリャンは瞠目する。心配の残る表情にはしかし、将来へのかすかな楽しみをたたえている。
「向日葵さんは、どんな正義を共に見せてくれるのでしょうか」
「そうだなあ」
 その問いに、ユエリャンは答えるのを少し逡巡する。
 きっと、向日葵は前線で戦うことを選ぶだろう。その時になれば、己は彼と契約し力を振るおう。そう決めたのは親友も同じだと自分の勘が告げている。けれど、今は。
「まあ、もう少しだけ見守るのも一興であろうよ」
 今はただ、名の通りきらきらと輝く、彼の一歩を寿ごう。

 他方、無事の帰還を喜ぶ家族がもう一組。
「二人共、よく頑張ったの」
 エルが先んじて2人を出迎え、その戦いぶりを労う。聞いて聞いて、とルシエラがはしゃいだ。
「ラシェル、凄かったの!」
「俺だけじゃなくて、ルシもすごく頑張ったんだよ。俺たちの戦い、どうだった?」
 嬉しそうにはしゃぐ子供たちを見て、ラドシアスの頬も緩んだ。やわらかな微笑みで、大きく首を縦に振る。
「あぁ、悪くはないな」
「やったあ! あ、でも、助けてもらったんだっけ」
 ルシエラが少ししゅんとしながら、その一部始終を思い返す。ふ、と記憶に何かひっかかりを感じ、顔を上げた。
「そういえば……あの戦士さん以外にも、助けられた気がするの」
 そう、矢とか、そういうので……と、ルシエラはラドシアスをじっと見つめる。娘のその視線を素知らぬ顔でかわし、ラドシアスは「何のことだ?」ととぼけた答えを返す。
「ううん、誰か他の人だったのかな」
 寂しそうな表情を見せる妹に、ラシェルは会えたらお礼を言わないとね、と父に調子を合わせる。垣間見た両親の力量。その背中は遠く感じるけれど、いつか追いついてみせるのだ、とラシェルは内心で決意を固めた。そして、何の気なしにといったふうを装って尋ねる。
「父さん、母さん。……今度、稽古つけてもらえない?」
「私も!」
 両親の返事より先に、ルシエラが挙手をする。その顔には、自分が守られたように誰かを守るために強くなるのだという決意に満ちている。その決意に同意するかのように、エルとラドシアスは揃って、厳しくなるぞと微笑みと共に告げ、それを見守る薙と若葉をちょっとだけ心配にさせたのだった。

 そしてまた、親が集えば世間話に花が咲くのは世の理。
「舞うような回避が見事だったわねぇ」
 まほらま(aa2289hero001)が微笑みをたたえて言う。
「上手く唯我につなげてもいたな。さすがは日暮の娘」
 GーYA(aa2289)がうんうん、と得心したように呟く。
「それを言うなら、唯我は本当にジーヤに似ているな。この頃は太刀筋も随分良くなってきた」
 感心したように仙寿が語り、それにあけびが大きくうなずく。
「そうそう、カッコよかったよー!」
 そんなふうに互いの子を褒めそやしながら、3人は戻ってくる2人を眺める。日頃からそうしていたように、さくらが唯我の青い髪をわさわさと撫でる。が、「ガキ扱いすんな!」とぷいっとそっぽを向かれてしまい、さくらはどうしよう、という表情で視線を彷徨わせ、あけびを見た。あけびは、こっちにおいでと手で彼女を差し招き、そっとひそひそ話をする。
「弟扱いが複雑なんじゃないかな。唯我もお年頃ってことだよ」
「お年頃、ですか……難しいですね」
 ううん、と密かに考え込むさくら。隣では、唯我がまほらまに今回の戦いの講評を受けていた。
「上々の初陣だったわぁ。敵が行動する直前に気づけたのもよかったし」
「へへっ」
「でも、課題はあるわ。ああいうときにどれだけ早くフォローできるかに戦いは左右されるの。視野を広く保って、仲間の行動も同時に読むことが重要よ」
「むっ……わかってるよッ!」
 憮然とした表情を隠さずにぶっきらぼうに答えた唯我は、ぷいっと皆から背を向けてどこへ行くでもなく歩き始めてしまう。それを慌てて追いかけたさくらを、親たちは暖かく見つめる。
「また口聞いてくれなくなっちゃうかしらぁ、男の子って難しいわ」
 口ではそう言いながら笑みを崩さないまほらまに、G-YAもうんうんと微笑みながらうなずく。
「まあ、お年頃だもんね。でもさ」
 さくらちゃんが唯我といい仲になったらさ、と仮定の話をしようとしたG-YAの背に、突然重圧がかかった。物理的なものでもライヴス的なものでもない。仙寿の怒気だ。
「……嫁にはやらない」
 穏やかだった先ほどとは打って変わって、地の底から滲み出るような声を出す仙寿に、思わずあけびも振り返る。
「それを押し通すのなら、俺を倒してからにしてもらおう」
 どん、と背後に太文字が出ていそうな仙寿の仁王立ち。それに対してまほらまはくすくすと笑い、G-YAはひきつった笑みを浮かべた。
「唯我も前途多難ねぇ」
「……頑張れ!」
 そんなやりとりを見ながら、うーん、新時代! とあけびは感慨にふける。そして、晴れやかな顔で宣言した。
「今日は初陣お疲れさまってことで、皆でどこかに食べに行こうか!」

 そんな風に歓談が続く中、先に家路につく人影がふたつ。伊邪那美と連れ立って歩く勇吾は疲労の色を隠せなかった。戦いの疲労ならばいくらもないしいいものだが、今感じている気疲れは、慣れない。
「父さんや那美姉の知り合い、気が抜けてるように見えてビシバシオーラ感じたっていうか、うん」
「子供さんもみんなしっかりしてたね。勇吾も見習うように」
「俺はいつもしっかりしてるっての」
 むうっとむくれる勇吾に、そういうところ、と伊邪那美がすかさず指摘し、そして少し考えて、呟く。
「……というかさ、戦ってる時頭ぶつけた?」
「何をマジな感じで心配してるんだよ」
「だってしょうがないと言いつつ、勇吾が自分から『挨拶行くから紹介頼むわ』なんて……」
「やめてくれよ。たぶんよく会うだろうし、早めに面倒は片しておきたかっただけだから」
「真面目なんだか不真面目なんだか」
 なんのかんのと喋りながら歩いていると、「もしもし」と横から呼び止められる。見れば先ほど出会った、瞳が印象的な白くたおやかな少女。
「改めて初めまして。先ほどはお世話になりました」
「あ、えーっと」
 そういえば一緒に戦ってすぐに別方向に向かったので、名前を聞いていない。言いよどんだ勇吾に伊邪那美がそれとなく肘鉄を打ち、「自分から!」と小声で言う。勇吾は慌てて背筋を伸ばした。
「御神勇吾、です。さっきはどうも」
「天海胡蝶です。あっちはパパと艶朱」
 胡蝶が優雅な所作で指し示した先には、胡蝶によく似た色合いの年齢不詳の男性、そして、対照的にとても濃い赤が印象的な偉丈夫。加えてそのやや後ろに、勇吾がよく見知った顔。
「あ、親父。なんで一緒に?」
「まあ偶然な」
 恭也は言葉少なに答える。勇吾の戦いを録画するかしまいか考えながら目で追っていたら2人の戦いを見ていて、この子も見られていたことに気づいていて、終わった後で御礼を言いたいのであの子を知りませんかと聞かれたなどと長々しくしかも面倒な拗ね方をされそうな事実は伏せた。当の胡蝶は、父の飲んでいる茶に気づいて1人だけ先に! とぱたぱたと手をばたつかせてふくれっ面をしている。
「パパ! お茶、胡蝶にもください!」
「親父、俺も喉渇いた」
「ボクも!」
「はいはい、順番だよ」
「ああ、すみません。そしてどさくさにまぎれるな伊邪那美」
「宴か? 宴だな?」
「そうだね、でもお酒は今は出ないよ艶朱」
 そんなふうにとたんに賑々しくなった帰路に、ううんと勇吾が唸る。新しい出会いもやはり気疲れはするが、これは少し戦いに似て新鮮だな、などと思いを巡らしながら。


 そうしてひとつの事件が終わり、ひとときの日常が立ち返ってくる。異界と繋がって広がり新しくなり続けるこの世界はいつだって騒がしいが、それだけに、日々は晴れやかで刺激的でもある。
 ”人々がこの世界での生を安心して謳歌できますように”それが、新たな力と先達の持つ同じ願い。そのために、彼らはその力をふるうのだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 綿菓子系男子
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