本部

アリスの城の悪夢

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/09/28 19:46

掲示板

オープニング

●新品の遊園地の悲劇
「お客様のなかに、リンカーはいらっしゃりませんか!」
 プレオープンしたばかりの遊園地に、女性職員の焦ったアナウンスが響き渡った。抽選により限定百五十組だけが招かれる特別な日には、不似合いな放送であった。土産を選んだり、アトラクションに並びながらお喋りをしていりしていた客たちは皆が同じような不安げな表情で園内に響き渡るアナウンスを聞く。
「ただ今、園内のアトラクション……アリスの城に従魔が紛れ込んだ可能性があるとHOPEより連絡が入りました。お客様は職員の誘導に従い避難してください。そして、もしお客様のなかにリンカーがいらっしゃるならば、私たちを助けてください」

●アリスの城
 従業員たちが真新しい緊急避難マニュアルを片手に、遊園地に遊びにきていた客を避難させ始める。波のように激しく規則正しく人々が移動を開始するなかでも、アナウンスは続いた。だが、さっきまでのアナウンスとは違って、一定の区域内にしか流れないように設定されたアナウンスであった。
 従魔が紛れ込んだアリスの城というアトラクションの付近にしか流れないように設定されたアナウンスは、遊園地に協力するリンカーがいると想定して必死に喋りつづける。
 走って呼吸を乱しながらも、そのアナウンスを聞いていた。従魔を倒す上で、なにか重大なこと言うかもしれない。
「当園の近くでHOPEが従魔の討伐をしていましたが、その討伐対象であった従魔が当園に紛れ込みました。先ほどは可能性があると言いましたが……園内の一部が破壊されたことから確実に紛れ混んでいます。現在、HOPEに応援を要請しています。ですが、何時到着するのかは・・・・」
 広々とした園内を、出来るだけ早く駆け抜ける。
 アリスの城は、人気のジェットコースターなどのアトラクションから離れた遊園地の端に位置している。ぽつりと一軒だけ建つ、実に寂しい雰囲気のお化け屋敷だ。
 視界の端に映り込むのは、可愛らしいのか気味が悪いのか判断に困るオブジェたち。遊園地の地図によると魔界に通じる道という名前らしいが、今の状況には似合いすぎている。「お客様の避難は終了していますが、アリスの城にいる五人の従業員の安否確認ができていません……。HOPEによれば当園に紛れ込んだ従魔はミーレス級もの数体らしいですが、いつデクリオ級に変化するかは分からないそうです。破壊されたのはアリスの城の隣にある、アリスの小部屋です」
 一瞬だけ足を止めて地図を広げる。
 アリスの小部屋は、唯一アリスの城の近くに建てられたレストランであった。大人気の血みどろオムライスがあるらしいが、残念ながら味わっている暇はなさそうある。
「アリスの城は基本的に一本道であり、複雑な作りをしていません。しかし、幽霊役の職員が出入りをするための道がいくつかあり、非常口なども多く設けられています。また、非常事態のためにアリスの城の非常灯を全てONにするように遠隔操作を試みていますが、残念ながら失敗しています。アリスの城は構造上、外の明りが入らない作りのため、内部は非常に暗くなっていると考えられます」
 遊園地に、お化け屋敷、それに血みどろオムライス。こんな日でなければ、実に魅力的な夏休みの一ページとなってくれたことだろう。
「アリスの城には、いくつか緊急用として懐中電灯が隠されています。屋敷内では宝石箱に偽装されていますが、それが懐中電灯が入れられている箱です。どうか、役立ててください」
 祈るような声で、アナウンスが一度途切れた。
「ただ今、HOPEより連絡がありました。逃げ込んだと思われる数体の従魔は、一メートル級の爬虫類型の従魔とのことです。ヤモリのように壁や天井に張り付き、素早く動くのが特徴です。鋭い爪などはありませんが、人の肉を噛み切れるほどに鋭い牙があるそうです」
 複数の声でアナウンスが響く。
「建物がどうなってもかまわないから、助けてくれ! 皆、一緒に働き始めたばっかりの仲間なんだ!」
 足を止める。
 必要なまでに破壊されたアリスの小部屋という名前のレストランが見えた。そして、隣にあるのは未だに不気味に無傷なアリスの城だった。

解説

 プレオープン中の遊園地に、従魔が紛れ込みました。アリスの城という名前だけがファンシーな遊園地に従魔がいることは確かなようでありますが、従魔の数などは未確認です。すでに従業員たちがHOPEに救助を要請していますが、他の所でも被害が出ているのか遊園地に到着する時間は今のところ分かりません。
 また、アリスの城は非常に暗く、運よく懐中電灯をゲットしても視界が悪いことが予想されます。従魔の奇襲に注意しながら、五人の従業員を救出してください。このような緊急事態が起こった場合は、従業員たちも非常口を使って避難するマニュアルとなっています。オープンしたばかりだから従業員もマニュアル通りに動けていないだけなのか……それとも別の理由があるのか。
 あなたがここにいること、仲間がここにいることは、本当の偶然になります。よく話し合いをしてから、アリスの城に入ることをお勧めします。

リプレイ

●アリスの城前
 アリスの城の前に、リンカーたちが集まった。それぞれの理由で遊園地に遊びに来た彼らに、共通の思いが宿る。それは、アリスの城に取り残されたという従業員を助け出すという使命感であった。
 一足先にアリスの城にたどり着いていたメイナード(aa0655)とAlice:IDEA(aa0655hero001)は、すでに従魔によって破壊されたアリスの小部屋を調査していた。
「アリスの小部屋にアリスの城に繋がっている電気系統らしいものがあったが、従魔によって徹底的に破壊されていた。電気の復旧は……残念ながら無理だろう。懐中電灯や手持ちの通信機器の明りを頼るしかないな。職員用のマニュアルの類も、見当たらなかった」
 悠騎・S・ブレイスフォード(aa0159)は手に持っていたアトラクションのパンフレットを広げる。これは、一般客用に配られているものである。
「非常口みたいな裏道は書かれてないけど、ある程度の構造が把握できれば恩の字よ。これを見ながら、進みましょう。ここ、中心部に大きな部屋があるみたいなのよね」
 悠騎が広げたマップを見ながら、真壁 久朗(aa0032)は呟く。
「お化け屋敷は、基本は一本道だ。入口と出口から、侵入する組に分かれて行動しよう。何匹の従魔がいるか分からないから出口組が残滅班、入口組が救助班として動いてくれ」
「でも、どちらも残滅班でもあり救助班でもあるだからね」
 悠騎が、念を押した。

●出口班
 アリスの城に入った木霊・C・リュカ(aa0068)は、つけていた目隠しを外した。暗い道でも、夜目が聞くようにするためであった。すでに一行は何カ所か避難口を見つけていたが、その付近には従業員の影はなかった。
「……アトラクションの入口に、人数分のパンフレットがあってよかったな」
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が言った。
「そうだね。それにしても、ここは鏡の国のアリスとは随分と違った雰囲気だね!名前だけ、借りたのかな? パンフによれば中心部の部屋は、アリスの城の最大の恐怖が待ちかまえているらしいよ」
 リュカは実に楽しそうに自分の英雄と話していたが、その前方には脅える人影があった。従業員ではなく、リンカーの一人の倉内 瑠璃(aa0110)であった。
「なんて言うか……如何にもお化け屋敷って感じだな」
『おや、まさか恐いのですかラピスラズリ様』
「う、うるさいっ。別にこわくなんてないからなっ」
 ノクスフィリス(aa0110hero001)と話しながら歩いていた瑠璃の足が止まる。何かが足にあたったのだ。宝箱かと思い拾い上げ、パソコンを持っていた月鏡 由利菜(aa0873)に照らしてもらう。それは、血に汚れたふうに加工されたフランス人形であった。
「うわぁぁ!」
 瑠璃は、人形を放り出してしまった。
 その様子を見ていたリュカは、弾んだ声で言う。
「瑠璃ちゃん、怖かったんだね」
「ラピ……俺は、別に恐がってない!」
 そんな二人を会話の尻眼に、リーヴスラシル(aa0873hero001)が見つけたものを知らせる。
「遊戯施設は慣れていないので断言できないが……。あれは懐中電灯が入っている宝箱ではないか?」
 人形が飛んでいった先には、宝箱があったのだ。由利菜が急いで開けると、そこには懐中電灯があった。明りをつけてみるとさっきよりはマシになったものの、やはり心もとない明るさであった。
「由利菜ちゃん、壁のところだよ!」
 暗闇に目を馴らしていたリュカが、いち早く従魔の接近に気がついた。だが、暗がりでは正確な数までは分からなかった。従魔が、由利菜に接近している。
 由利菜は壁を伝って自分に近づいてきた従魔を懐中電灯の光で視認し、すかさず剣で従魔を刺し殺した。滴る従魔の血液を眺めながら、ラシルが忌々しそうに「……従魔は一匹も逃がさない」と呟いた。
「悠騎、我らのほうにも寄ってくる。これぐらい蹴散らせぬようでは話にならぬぞ」
「……はいはい、今さら期待なんてしてないわよ」
 ブリジット・ボールドウィン(aa0159hero001)のダルそうな指摘を受けながら、悠騎はマビノギオンによって魔法の剣を作り出し、自分たちによってくる従魔に攻撃を仕掛ける。
『ラピスラズリ様、こちらにも来ます』
「ああ、懐中電灯の明かりで見えてる!」
 瑠璃は銀の弾丸で、従魔に攻撃をしかける。だが、二匹の従魔が瑠璃の攻撃を避けた。それは瑠璃の攻撃を避けたと言うよりは、別のものから逃げたように思われた。
「リュカ、二匹とりこぼしたようだな。俺たちの方に真っ直ぐ向かってくる」
「君とリンクしているおかげで見えているから、問題ないよ」
 オリヴィエの言う通り、リュカたちの方には二匹の従魔が向かっていた。リュカはストライクを使用し、従魔二匹に確実に止めを刺した。
「このままじゃ、光源が足りなくて従魔が何匹いるのか確認できません。私が天井に穴をあけるので、落ちてくる瓦礫に気をつけてください!」
 覚悟を決めた由利菜が、天井に向かって弓を放った。その弓は天井を破壊し、アリスの城に光を導いた。開けた視界に、動いている従魔の姿はいない。さっきまでは、動く生物の気配が確かにしたというのに。
「さっきの戦闘といい、従魔は光を避けているみたいだな。苦手かどうかはともかく、びっくりはしているみたいだった」
 従魔の様子を冷静に見ていた瑠璃が、口を開く。
「それは……大切な情報ですね。入口組のほうに、パソコンで伝えていいでしょうか?」
 由利菜は、パソコンのキーボードを叩こうとしていた。

●入口組
 一行はすでに何カ所か非常口を見つけていたが、その付近には従業員の姿はなかった。
「け……けっこう、恐そうですね。いえ……そういう施設なんですけども」
 スマホの明りを頼りに進みながら、イデアは呟いた。自分の名前を城は、いかにもお化け屋敷と言った雰囲気である。いつでも相手に抱きつけそうで、最強のデートスポットと言われるだけはある。
 懐中電灯の代わりにしていた佐倉 樹(aa0340)のスマホが、メールが来たことを知らせる。樹はそれを読み上げ、自分たちの先頭にいるメイナードに伝える。
「出口組から、連絡です。従魔は、光に驚く可能性があるらしいとのことです。メイナードさん、気をつけて」
「やれやれ……本当に命をかけるぶん、スリルも増し増しと言ったところかな」
 報告を受けたメイナードは、慎重に足を進める。従魔が出た時は自分が真っ先に壁になるともりであったが、未だに従魔とは遭遇していない。
「樹さん……あっちを照らしてください」
 何かを見つけたのか御門 鈴音(aa0175)は、樹に声をかけた。樹が言われた方向にスマホを向けると、そこにはフランス人形と空っぽの宝箱があった。
「シリィ、あの人形なんてお土産にどうだろう?」
「ソウダネ。話しのネタになりソウ」
 樹の言葉にシルミルテ(aa0340hero001)は、瞳を輝かせた。二人は捜索の効率化を計るために、未だにリンクをしていない。
「あの……人形じゃなくて、宝箱」
 鈴音が指さす宝箱は、口がひらいていた。本来はそこに入っているはずだった懐中電灯は、なぜか外に飛び出ている。
「従業員の方が、落としてしまったのではないでしょうか……? 従魔なら、壊すでしょうし。もしかしたら、このあたりにいるのかも。探してみましょう」
「……わらわは、人とは相容れぬ鬼ぞ。なぜ人を助けるために力を貸さにゃならんのじゃ」
 輝夜(aa0175hero001)は、そっぽを向いた。
 鈴音が口を開きかけたが、それを遮ったのは真壁であった。
「従業員が近くにいるなら、声が聞こえるかもしれない。音にも気をつけて進むべきだな」
「クロさん……。残された人々が心配なのはわかるけど、今のは少し待ってあげた方がよかったよ」
 セラフィナ(aa0032hero001)の言葉に、真壁は首をひねった。どうやら、朴念仁の彼には分かっていないらしい。そのとき、奥の方から人間の声らしいものが聞こえてきた。それと同時に、先頭を歩くメイナードとイデアの目に従魔の姿が映った。
「おじさん、天井と壁を伝って向かってきます!」
「ここは私が引きとめる。……先に行きなさい」
 メイナードが、後方にいた仲間に声かけた。
 その姿に、鈴音が思わず声をあげた。
「メイナードさん……! お願い、輝夜。貴女の力を貸して。私一人じゃ何もできないけれど、助けたいの」
「……フン! よかろう! 力を貸すのじゃからしくじるなよ!」
 機嫌を良くした輝夜の力を借りて、鈴音は壁を伝って向かってくる従魔に大剣でヘヴィアタックを仕掛ける。従魔の体が、真っ二つに割れた。
 メイナードはそれを見て、咄嗟に武器を持ちかえた。天井にいた従魔に、狙いをつける。弾をかすめた従魔は天井から落ちて、鈴音はそれも大剣で突き刺した。
「まだ、天井に残っているんだよな。シリィ、リンクだ」
 リンクした樹が懐中電灯の光で従魔を確認し、天井を伝う従魔に向けて銀の魔弾を撃つ。息の根の止まった従魔の体が、床に落ちた。
「……還れ」
 樹は、誰にも聞こえぬように小さく呟いた。
 視認していた従魔は全て撃墜したが、真壁は慎重を期するためにもさらに耳をすませる。
「まだ、物音が聞こえるな。従魔が残っているかもしれない」
「クロさん、僕たちの上にもいるよ!」
 天井を這っていた従魔が、真壁の目の前に落ちた。従魔は鋭い牙で真壁に襲いかかろうとするも、真壁は剣でそれを防いだ。真壁に引きつけられていた従魔の頭を、周囲を警戒していた樹が撃ち抜いた。
 しばらく周囲を警戒したが、従魔はそれ以上現れなかった。少なくとも、自分たちの周囲の従魔は撃退できたようである。
「皆、怪我はないな」
 メイナードが、後ろを振り返って尋ねる。
 それぞれが、無事であると返事を返した。
「……パンフレットによれば、もうアリスの城の中心部です。ここに……最大の恐怖が」
 震える鈴音に代わり、メイナードがアリスの城の中心部の部屋のドアに手をかけた。だが、ドアは開かない。鍵がかかるような構造には見えないので、何者かが内部から押さえているようだ。従業員がたてこもっているかもしれないと考えた真壁は、ドアを叩きながら声をかけた。
「もう大丈夫ですよ。俺たちは、リンカーです」
 しばらく待つと、ドアが開いた。ドアを開いた従業員は軽傷であったが、奥にいる4人は手足に怪我を負っていた。彼らは逃げ切れないと判断して、ここにたてこもる判断をしたのであろう。
「あなた方は……リンカーですか?」
 一番軽症の従業員の言葉に、その場にいた全員が頷く。従業員は、力が抜けたように崩れ落ちた。メイナードは、それを支えた。
「あっちにもドアがありますね」
 反対側のドアを指さしたのは、樹であった。
 ドアはベットや人形といったあらゆるもので、バリケードが組まれている。どうやら、この中心部の部屋はアリスという少女が生活していたという設定のもとに作られているらしい。そう言えば従業員の一人は女性で、一人だけ白いワンピースを着ていた。
 彼女が、アリス役ということのようだ。アリスの私室という設定だけに部屋に置いてあるのは、普通の家具だ。もっとも、今はバリケードと化しているが。
「さ……最大の恐怖なんて、恐くないぞっ!」
 瑠璃の叫び声と共に、もう一つあった出入り口が破られた。
 現れたのは、出口から侵入した一行であった。二手に分かれた彼らは、見事に真ん中で再会してしまったらしい。亡霊のようにげっそりとしたアリス役の従業員を見た瑠璃は、悲鳴をあげてしまっていたが。
 従業員を無事に探しだすことができた彼らには、ほっとした気持ちが溢れていた。暗闇の中で何匹いるか分からない敵と戦うことに、思ったより疲労がたまっていたせいもあった。
 そのとき、部屋の双方の入口から「がさり」と音がした。
 リンカーたちは、全ての明りをそれぞれの入口の方に向ける。入口から現れたのは、従魔であった。数は数匹ほどであったが、彼は暗闇のなかでそれぞれの方向に素早く散った。
 リンカーたちは従業員たちを壁側に引き寄せて、取り囲む。
 従魔の攻撃から、守るためだった。
 脅える従業員の側に寄り添ったのは、由利菜であった。
「私とラシルが守ります!」
 由利菜は盾を持って、従業員たちの前に立つ。
「リュカ、近づいてくる。壁、床、天井……全方向からだ」
「オリヴィエ。これは、もう壁を破壊して外に出た方がきっと早いよね!」
 だが、敵に背中を向けてはいられず、リュカは一番近づいていた床の従魔に向かって弾丸を放った。だが、その一撃は外れる。
「……リュカさん、私が従魔を倒します。リュカさんは、壁の破壊に集中してください」
「ゆーえんちなる柔な壁と違って、わらわと鈴音の壁は簡単には壊れぬぞ」
 剣を握った鈴音が、リュカの前に立つ。
「私たちも壁になろう。君たちのところに、従魔は近づけさせない」
 メイナードは壁を伝って向かってくる従魔に向かって、拳を振るう。従魔を若い仲間たちの元には近づけさせない、という気概でメイナードは拳を振るっていた。
「天井の敵は、私とシリィで撃ち落とします」
「ワタシと樹は、外さないヨー」
 樹がオートマチックで、天井にいる従魔を撃ち落とす。だが、一匹は止めを刺すにはいたらなかった。従魔は床を這いながら、悠騎の方に近寄ってくる。悠騎の遠距離の攻撃では、悠騎自信が危険にさらされそうな距離であった。
「悠騎! 主導権を我に寄越せ!」
「は? 今になって……わかったわよ。渡せばいいんでしょ、渡せば」
 悠騎の気配が、変わった。
 ブリジットと意識が入れ替わったのである。
「さて、覚悟はよいか有象無象ども……」
 ブリジットのネイリングソードが、近づいてきた従魔に突き刺さった。従魔が悲鳴をあげるが、その声も意にかえさずブリジットは止めを刺す。
「我が、直々に相手をするのだ。せめて、散り際で我を興じさせよ」
 ブリジットが散らせた従魔の血肉の向こう側に、瑠璃は従魔の姿を見た。その従魔は真壁の方に、向かう。
 真壁は、従魔の攻撃を自分の剣で防いでいた。真壁が従魔を剣で振り払うと、一瞬であるが従魔の体が宙に浮いた。不規則に動きまわっていた従魔の体が空中にある時を見逃さず、瑠璃はマギノビオンを使った。遠くに離れた空中の従魔に、魔法の攻撃があたる。
『暗闇にも慣れてきましたね、ラピスラズリ様』
「長い時間、暗闇にいたからだな」
『長い時間はいていたから、スカートにもなれたのですね』 
「うっ、うるさい!」
 瑠璃に怒鳴った瞬間、部屋のなかに明りが差し込んだ。従魔たちは、差し込んだ光に驚いたように姿を消していた。
 リュカが、壁を破壊したのである。
 鈴音とメイナードが、肩を貸して怪我人を外へと連れ出した。外の日光の明るさに、思わず目がくらんだ。
 真壁は怪我人にケアレイを使用し、傷をふさいでいく。従業員の怪我は、今すぐに命にかかわるようなものではなかった。
 由利菜はアリスの小部屋から無事だったコーヒーカップを探しだし、コーヒーを用意した。普段と同じ匂いに、従業員の強張った顔が少し安らぐ。暖かなコーヒーに緊張がほぐれた従業員のなかには泣きだす者もおり、彼らがぎりぎりの心理状態を耐えたことがうかがえた。それを見ていた由利菜は、ぎゅっと拳を握った。
「……私は念のために、ラシルと一緒にドロップゾーンがないかどうか確認してきます。ラシル……また力を貸して」
「ユリナ、もちろんだ。人々の平穏のためには、災いの種を残してはならない」
 ラシルにも勇気づけられた由利菜は、アリスの城に戻ること決める。彼女は従魔が現れたと聞いた瞬間から、もしもドロップゾーンがあったらと考えていたのだ。今回はドロップゾーンが発生している可能性は極めて低いが、それでも由利菜は不安だったのだ。
 由利菜の言葉に、リュカが答えた。
「お兄さんも付き合おうか。女の子を一人では行かせられないし、なかで鏡の国のアリスの話しの続きでもしようよ。ねぇ、オリヴィエ?」
「……俺は、別に構わない。……同じアリスなら、鏡の国のほうが良かった。幽霊もヤモリも出てこない」
「あっははは! 違いない!」
 ノクスフェリスは、ため息をついた。それは楽しいはずの休日が、つぶれてしまったことからのため息であった。
『残念でしたね。せっかく当たったチケットでしたのに』
「確かに残念だったけど……人の命が守られれば、また直せる。それより、従魔は天井を壊したときにいっせいにいなくなったんだ。これを利用して、一網打尽にできないだろうか」
 瑠璃は、天井が壊れたときの話を詳しく周りに伝えた。
 天井が壊れた瞬間に従魔は姿を隠し、懐中電灯の光が当たればびっくりするような行動を見せていた。野外からやってきた従魔が日光の下で活動できないと考えにくいので、おそらく従魔たちは暗がりを好む習性を持っているのだろう。
 だが、闇になれた従魔の目は、突然の光に驚くのだ。
「……私と輝夜も、それに賛成です。また、出口組と入口組に別れて光で追いつめれば、たしかに一気に残滅できると思います」
 鈴音が控えめながら、賛成の意を示した。彼女もまた、自分たちが取りこぼした従魔によって被害がでることを恐れたのである。輝夜は嫌そうな顔をしているが、彼女も本心は鈴音と同じ気持ちであろう……少なくとも鈴音はそう信じていた。
「シリィと私は、ここで連絡番をしていた方がよさそうだ」
 連絡係を買って出たのは樹である。彼女も従魔の事が気にかからないわけではなかったが、連絡係がいた方が良いと冷静に判断したのだ。
「オミヤゲ! 拾ったヨ」
 カワイイ、と言いながらシルミルテは拾ったフランス人形を抱えていた。
「なら、俺とセラフィナも残ろう。HOPEへの報告もしなければならないからな」
「せっかくの遊園地なんですから、クロさんも楽しんだら?」
 おっとりとセラフィナは言うが、従魔に襲われたばかりの遊園地では遊ぶことはできないだろう。そのことに遅れて気がついたセラフィナは、少し残念そうであった。前日に、あれだけ鞄を荷物と期待をいっぱいに詰め込んだというのに。
「私たちも行くわよ、ブリジット」
 悠騎の言葉に、ブリジットは相変わらずやる気なさそうに答える。
「……リンクはしてやるから、貴様一人でどうにかしろ」
「ちょ……あんたねぇ……言うこと聞かないのも大概に……」
 どうやらブリジットは、アリスの城の従魔に興味がもてなかったしい。悠騎はそんなブリジットの態度にもなれたように、従魔を残滅するために仲間の輪に入った。
「おじさんも、行くんですよね?」
「もちろんだ。彼らだけに無茶をさせるわけにはいかないし、何よりここはイデアの城だからな」
 メイナードの言葉に、イデアは虚をつかれる。だが、ほんのわずかに口角をあげて
「ですね……。Aliceの城ですもんね」
 と答えた


 数十分後、アリスの城の従魔は全滅した
 HOPEから派遣されたリンカーたちは真壁から城で事態を聞き、重大な被害なでなかったことに胸をなでおろしたのであった。
 引き継ぎをしていた真壁とセラフィナを待っていたのは、樹とシルミルテであった。彼女たちは、何故かアリスの城で拾っていたフランス人形を真壁たちに差し出した。
「オミヤゲー! 一番カワイカッタ人形ダヨ」
 シルミルテから真壁は人形を受け取りつつも、彼は首をかしげるのであった。
 女性のやることはわからない、と言っているような真壁の顔に、その場にいた全員が笑いをかみ殺していた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • クラインの魔女
    倉内 瑠璃aa0110
    人間|18才|?|攻撃
  • エージェント
    ノクスフィリスaa0110hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • エージェント
    悠騎・S・ブレイスフォードaa0159
    人間|21才|女性|攻撃
  • エージェント
    ブリジット・ボールドウィンaa0159hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 危険人物
    メイナードaa0655
    機械|46才|男性|防御
  • 筋肉好きだヨ!
    Alice:IDEAaa0655hero001
    英雄|9才|女性|ブレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
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