本部

酔っぱらいのためのRPG

落花生

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~10人
英雄
5人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/29 22:04

掲示板

オープニング

●酔っぱらいは大抵バカをする
 がやがやと騒がしい、夜の街。赤い提灯が風に揺れるノスタルジックな町に、リンカーたちが集っていた。戦うためではなく、飲むためにである。
「かんぱーい!」
 彼らは日々の戦いの慰労も込めて、この居酒屋に集まったのである。すでに何回も乾杯を繰り返した。彼らの酔いは、すっかりまわっていた。
「おーい、ビールを追加するぞ。甘いのを飲みたい奴は、個別で注文してくれ」
 楽しい夜会は、佳境に入っていた。
 だが、そのとき闇をつんざく悲鳴が聞こえた。
「助けて! ビールサーバーが泡を吹いたわ!」
 店の奥から、店員が飛び出してくる。
 それと同時に出てくるのは、巨大化したビールサーバーと巨大化したビアジョッキ、巨大化した枝豆の皮。
 ビールサーバーは、ビールを滝のように噴出し
 巨大なビアジョッキは跳ねまわりながらあたりにいた客や店員を踏みつぶし
 枝豆の皮はぱっくりと割れて、人々を挟んだ。
「だれかっ。だれか、たすけてくれ――!」
 酔っぱらいの楽しい楽園は、従魔によって混乱していた。

●子供は酔っぱらいを嫌う
「くっ、くっ……今日こそ、酔っぱらいという最下層の人間に天罰を与えてやる」
 店の外の影で、幼い少年の姿が笑う。
 少年は愚神であったが、現れた場所や姿が悪かった。小さな子供の姿では、夜の街では邪険にされるばかりである。そのため、少年の愚神は自分を愚弄した酔っぱらいたちを懲らしめようと考えたのである。
「ビールサーバーに、ビアジョッキ、それに枝豆! おまえたちの力で、この世から酔っぱらいを滅ぼしてしまえ!!」
 少年は、まだ知らない。
 店内にリンカーたちがいることを……。

解説

酔っぱらいになって(飲めない人は、場の空気に酔って)従魔たちを倒すシナリオです。コメディですので、敵は全て弱めの設定となっています。ビール片手に、にぎやかに従魔を倒してください。なお、このシナリオでは指定がない限り大人はビールで飲んで酔っ払う。未成年は、オレンジジュースを飲んで酔っ払うことになります。日本酒やワインなどを飲みたい方は、ブレイングシートのほうに記述をお願いします。
※リンカーは基本的に酔っぱらいません。今回のシナリオはあくまで『楽しい飲み会』で、テンションが酔っぱらっている状態になります。

飲み会の現場……古き良き日本の居酒屋。夫婦と学生二人のアルバイトで経営している、小さな店。客はPLを含めなければ、5名のみ。

ビールサーバー……巨大化して、ビールを勢いよく敵に向かって吹きかける。ビールの量は無尽蔵。酔っぱらいを、さらに酷い酔っぱらいにしてくる。なお、動けない。

ビアジョッキ……人を踏みつぶせるほどに巨大化。跳ねるように動く。よく冷やされており、潰されると冷たくて重い。2体出現。

枝豆の皮……挟まれると不快。皮の内部には悪臭がしており、挟まれると酔っぱらいは吐きたくなる。3体出現。

少年の愚神……酔っぱらいを心の底から憎む愚神。店の外におり、店内をうかがっている。従魔を全部倒すと、酔っぱらい撲滅のために自主製作したウコン茶(ホット)をかけてくる。

リプレイ

「かんぱーい!!」
 小さな居酒屋で、今日何度目になるか分からない声が響いた。夫婦で経営する小さな飲み屋に集まったのは、普段は多忙なリンカーたちである。彼らは思い思いの飲み物を注文し、店自慢のおつまみに下鼓をうっていた。
「ワハハ! 飲んどるかー諸君!! うん、ここのカツオのタタキは絶品だな」
 メイナード(aa0655)は焼酎が入ったジョッキを持ちあげる。あまり酔った様子は見えないが、その豪快な声に店の常連が何故か拍手した。酔っぱらいとは、そういうものなのである。気にしてはいけない。
『フッ、僕はこれでもお酒には自信がありまして……メイナードさん、ここの支払いをかけて勝負しましょうか』
 シウ ベルアート(aa0722hero001)が、ビール片手にメイナードに勝負を挑む。少し離れてオレンジジュースを飲んでいた桜木 黒絵(aa0722)は、はらはらしながらその勝負の行方を見守っていた。なにせ、自分のお小遣の出所はシウの財布なのである。軽くなられては、とても困る。
「おー、いいぞ。やれ、やれ。ついでに、負けた方がここの飲み代を全部払え」
 日本酒を飲みながら、鴉守 暁(aa0306)は二人に声援を送った。彼女もほどよく酔いがまわっているらしく、ご機嫌であった。さりげなく割高なメニューをチョイスして、日本酒のアテにしている。
「シウさんたちの奢りなら、もうちょっと食べ物を注文しましょうか?」
 暁に続いて、天野 正人(aa0012)もメニュー表を開きだす。健全にオレンジジュースを飲んでいた彼だが、男子学生としては胃袋が満たされていなかったらしい。「カニナベ……鯛の煮つけ……」と学生がなかなか食べられない豪華なメニューの注文を思案中だ。
「一応聞くけど、あなたは何か飲むの?」
 水瀬 雨月(aa0801)は、自身の英雄であるアムブロシア(aa0801hero001)に訪ねる。彼は壁にかかったメニューをざっと見るとアムブロシアは『……カレー』と答えた。ちなみに、メニューには『おかみさんの懐かしいちくわカレー』と書かれている。
「あなたは、私にどういう反応を期待しているのかしら」
 雨月は思わず隣に座るアムブロシアの顔を見るが、彼は質問の意図に気がついた様子はない。
『……何のことだ?』
「聞かなかったことにして頂戴」
 雨月は、自分のオレンジジュースを一口飲んだ。
「レオン……レオン。私、おでんが食べたいです。おでん」
 卸 蘿蔔(aa0405)は、『季節限定 おでん はじめました』と書かれた看板を指さす。レオンハルト(aa0405hero001)は、そんな蘿蔔に首をかしげた。
『おでん? なんで? 昨日も皆で喰ったじゃん』
「ふぇえ、なんですかそれ! 私、知りません」
 レオンは「しまった」と思った。どうやら、いつものように蘿蔔は、呼ばれていたなかったらしい。気落ちする蘿蔔の隣に、すっかり酔いがまわった男がどかりと乱暴に座った。
「見て! この写真! 俺の息子なんだけど、マジ超可愛いの!!」
 すっかりできあがった虎噛 千颯(aa0123)は写真を片手に、蘿蔔たちに自らの天使を見せ始めた。話しかけられていた蘿蔔は「か……かわいいですね」と、少しばかりびくびくしながら返事を返していた。酔っぱらいのテンションに、ついていけなかったのだろう。
「ほら! もう、マジ食べたいちゃいたいくらい……」
『しつこい! 蘿蔔殿の迷惑になるでござろう』
 そんな虎噛を、白虎丸(aa0123hero001)が引き離す。虎噛はそんなことは全く気にしておらず、今度は見ず知らずの客に自分の息子の自慢を始めた。
「ツラナミ(aa1426)さんにも、超絶かわいい娘さんがいるんだぜ!」
 仕事終わりの一杯を楽しんでいたツラナミだったが、突然に虎噛に肩をがっしりと組まれた。ちなみに首を固定されて、否応なしに虎噛の息子を見る歯目になる。見るのは別にかまわないのだが、重体の身なのだからもうちょっと労わってほしい。
「あんちゃん……そんなに包帯を巻いているのに良い飲みっぷりだな。よっぽど、酒が好きだな。おっちゃん、涙出てくるよ。ほら、これをやるから大事にしな」
「……これは、何なんだ?」
 酔っぱらいがツラナミに手渡してきたのは、ピコピコハンマーであった。なんでも酔っぱらいが一次会のビンゴで当てたらしい。
「こんなもん、どうすりゃいいんだろうな?」
『……モグラたたきにでも、使ったらどうかな?』
 38(aa1426hero001)は、ちびちびとオレンジジュースを飲んでいた。その様子は、不貞腐れた子供のようにも見える。
「サヤちゃんも見てー。俺の天使!!」
 ツラナミに絡むのに飽きたらしい虎噛が、今度はサヤに息子の写真を自慢し始める。
 たぶん、彼のハイテンションは家に帰るのまで続くのであろう。
 気にしてはならない。
 酔っぱらいとは、そういうものなのである。
 そして、酔いどれたちの日常なのである。
 そんな日常を、女性の悲鳴がつんざいた。
「キャー! ビールサーバーが泡を吹いたわ!!」
 店の奥から、ビールサーバー、ビアジョッキ、枝豆がびったんびったんと跳ねながら飛び出してくる。その常軌を逸した光景に、雨月は目を疑った。
「なんだか……動いちゃいけないものが動いていような気がするわ。私、お酒を飲んだ覚えはないのだけれど」
 雨月は、疑いながらも自分のオレンジジュースを一口含む。酒の苦さは感じないので、ノンアルコールなことに間違いはない。ついでに自分の目の前に指を突き出して、数えてみた。
「一つ、二つ、三つ……大丈夫ね。でも、フワっとした感覚がするのは何故かしら?」
 雨月は、知らなかった。
 自分も、場に酔っているということを。
「店の奥に従魔たちは、もういないみたいだな。お客さんたちと店主は、こっちに避難して。店主、店が壊れたらウチの本部に修理費がでるかどうか聞いておいてちょうだいなー。あと、何か美味しいおつまみも考えといてちょうだいー」
 暁は「ははははー」と気分よく笑いながら、酔っぱらった他の客や店主たちを店の奥に避難させる。酔っぱらいたちは「ねーちゃん、がんばれやー」と機嫌良く野次を飛ばすが、店が壊されるか否かの瀬戸際に立たされた店主たちはそれどころではない。そんな店主夫婦に蘿蔔は、自分のスマホを握らせた。
「大丈夫です。これ……私のスマホです。奥に隠れていてください……後で電話しますっ」
 蘿蔔は、自分の英雄であるレオンとリンクする。
 だが、リンクした途端に蘿蔔は自分の体に異変を感じた。ふわふわして、とても気持ちが良い。こんな感覚は初めてで、体の奥底から無限のパワーが沸いてくるような気がした。
「よし……おまたせですっ。私が居なけりゃ始まらない、ですよねっ」
『……てか、戦闘だかな。飲み会じゃねーから、飲み会は終わりだから!』
 レオンの必死のツッコみもむなしく、蘿蔔は満面の笑みを浮かべながらトリオを発動する。「明らかに酔っぱらっている状況で、銃器なんでぶっぱなさないで!」とバイトが悲鳴をあげるが、さすがの腕前で枝豆とビアジョッキを倒した。
 そして、残りの一発はカウンターを飛び越えて、厨房の鍋にあたった。鍋に入っていた『開店当初から煮込み続けているモツ煮』は、店内にまき散らされた。
 さようなら……モツ煮。
「シウお兄さん、リンクしたら危ないみたい。今回は、私がシウお兄さんのことを守るよ!」
 黒絵とシウも蘿蔔たちのようにリンクしたのだが、彼らと同じようにふわふわとしてどうにも落ちつかなかった。
 未成年の黒絵は「これが、酔っぱらいなの!?」と初めての感覚に内心驚愕しつつも、急いでリンクをやめた。あのまま戦っていれば、店を破壊しかねない。
『黒絵くん……』
 こんなに立派になって、と涙ぐむシウの手には瓶ビール。メイナードと飲み比べをしたときの残りだが、彼も立派な酔っぱらいである。
『君ばかりを戦わせるわけにはいかないよね。ブルームフレア!』
 技名を叫びながら、シウは手近にあった消火器を従魔に向ける。白い煙に、従魔とカウンターの堂々と鎮座していた『築地直送 新鮮真鯛』が包まれる。
 さようなら……真鯛。
『……フッ、人は誰しもミスを犯すもの。この僕とて例外じゃなかった。そう思わないか、黒絵くん?』
 シウは、黒絵に同意を求める。
 だが、黒絵にはシウの姿は理性を失くした酔っぱらいにしか見えなかった。
「あーもう。シウお兄さんは、黙って寝てなさーい!!」
 このまま放っておいたら店の食材がダメになると判断した黒絵はシウが持っていた消火器をひったくって、それでもってシウの頭を殴打した。
 気絶したシウとリンクした黒絵は、さっそく本物のブルームフレアを使用し、枝豆を焼いた。意外と香ばしい、よい匂いがした。
「うおっ。お前、気持ち悪い!」
 落ちていたピコピコハンマー拾った天野は、思わずそれで枝豆を叩いた。ピコピコと良い音は鳴ったが、それだけであった。だが、自分の武器で防ぐなり攻撃するのは阻まれる。なぜならば……。
「うわっ。少し皮が開くだけで、物凄い悪臭がっ!!」
 枝豆の内部からは、鼻をつまみたくなるほどの悪臭がしたのである。だが、放っておけば店も人も守れない。あとでシルフィードを磨く覚悟をして、天野は武器を持ちかえた。
「あぶない!!」
 突然に、メイナードが横から現れた。その巨体に押された天野は、カウンターに突っこむ。『おかみさん特製のたくあん』が保存されていた壺が、床に落ちて割れた。
 さようなら……たくあん。
「メイナードさん、なにをするんだ!」
「このビールサーバーが、天野君を攻撃しようとしていたんだ! だが、ビールサーバーは私に任せろ!!」
 ビールサーバーのビールを放出する攻撃を、メイナードが両手を広げて受ける。ビールが目にしみるが、気にしない。
 それどころか、かなり嬉しそうだ。
 酒の飲みならば、誰もが一度は憧れるビールがけを体験しているのだからしょうがない。だが、下戸からしてみればなにが嬉しいのかよくわからない光景である。
「ははははは、実に、うまいじゃないか!」
 戦っているはずなのに、メイナードはご機嫌であった。だからこそ、彼は普段なら気がつく敵の接近に気がつかなかった。
「メイナードさん、危ない!」
 天野が叫んだときには遅く、メイナードは枝豆にぱっくりと包まれた。身も毛もよだつような悪臭を間近で嗅いでしまったメイナードは、「やめろぉぉ。はなぇぇぇ」という言葉を最後に床にうずくまった。
 メイナードは知らなかった、彼がゲロったコンクリートの床には『開店当初の若かったころの夫婦の手形』が押されていたことを。
 さようなら……夫婦の思い出。
 枝豆は、メイナードを再度はさもうとする。だが、そんなメイナードの窮地を救った者がいた。雨月である。
 彼女は枝豆に銀の魔弾を撃ち込んで、枝豆の従魔を倒した。「君子……危うきに、ってね」と呟く雨月は知らなかった。枝豆の従魔が倒れて行った先に、この店で一番高価な地酒が置かれていたことに。
 さような……五万の地酒。
「……おい、なんだこの状況は。なんで息抜きに来ただけで、こんな目に合わなきゃならない」
 ツラナミは、ジョッキを抱えたまま乾いた笑いを漏らした。束の間の休息のはずだった飲み会は従魔が登場してから、もう取り返しがつかないほどに可笑しな方向に突き進んでいる。
『……ツイてなかった。ツラナミは下がってて、その怪我では使いものにならない』
「わかってる。ったく、今日は厄日か」
 ツラナミのぼやきを背に、サヤは飛び出した。もはや残るはビアジョッキとビールサーバーだけだが、油断はならない。どんなふざけた外見をしていても、相手は従魔である。ましてや、今のサヤはツラナミとリンクしていない。彼女の攻撃では、従魔にダメージを与えることができないのだ。
 サヤは自分に向かってくるビアジョッキを、ひょいひょいと身軽に避ける。だが、狭い店内では意外と逃げる場所がなかった。考えながら動き続ける彼女は、段々と自分に『酔い』がまわっていることに気がつかなかった。
『……』
 やがて、サヤは無言のままでツラナミの元へと戻って行く。
 そして、座っていたツラナミの胸倉を力強く掴んだ。
「おい、サヤ?」
『ねぇ……どうして共鳴できないのに、ホープの仕事を受けているの? なんで、強い敵とやりあったの?』
 彼女から漏れてくるのは、普段サヤが隠している本音であった。
『あの子のためにお金が必要なのも知っているけど、死んだら意味ないんだよ。わかってるの? わかってないよね。ツラだもんね……知ってるけどね。でもね……』
「おーい、サヤ。サヤさーん、俺が悪かった。悪かったから、戻ってこい!」
 後ろでビアジョッキが暴れている、そう言いきる前にツラナミはサヤをかばった。ツラナミの背の上で、冷たいビアジョッキを暴れる。サヤはわずかに触れたビアジョッキの冷たさで正気に戻り、ツラナミの上からビアジョッキを押しのけた。
「よくも……。よくも、ツラナミを! ゆるさないよ!!」
 サヤは効かないと分かっていながら、飛び膝蹴りをビアジョッキに食らわせる。サヤの着地地点には、この騒動によって壁から落ちた写真があった。
 店を建てかえる前の先代の主人――おかみさんの父親の写真だった。
 婿養子である現店主に店を譲り、ぽっくり逝ってしまった先代の店主の写真は、気合の入ったサヤの靴の下敷きになる。
 さようなら……先代の店主。
「大丈夫か?」
 片手にピコピコハンマー、片手にシルフィードを持った天野がサヤたちを助けに入る。ビアジョッキを攻撃した天野は、未だに残るビールサーバーの方に視線を向けた。
「……なんて、恐ろしい戦いなんだ」
 ビールサーバーの近く。
 そこには、もう取り返しがつかないほどに酔いがまわった者たちがいた。
「ビールくれるなんて、こんなにいい従魔を倒さなきゃいけないなんて。俺ちゃん、かなすぃ。うぃっく!」
 虎噛は大鎌を振るいながら、にたにたと笑っていた。こころなしか、足元がおぼつかない。
『あ……あぶない、千颯!酔っているなら、武器は使うな』
 リンカーは酔わないのだが、虎噛はすっかり『自分は酔っぱらっている』と思い込んでいた。陽気な姿も、千鳥足も、本物の酔っぱらいと寸分の狂いもなかった。
「でもぉ、共鳴しないとスキル使えないんだぜ」
 例えスキルを使わなくとも、鎌は立派な凶器である。すでに、店内に飾ってあったこけしが犠牲になっている。
 さようなら……こけし。
「はーい、虎噛さんとメイナードさんのちょっと良いとこ見てみたい! そーれ、いっき、いっき!!」
 楽しげな蘿蔔の声が、虎噛とメイナードをはやし立てる。
『イッキは、ダメだろ。急性アル中で倒れるだろう!』
 蘿蔔の英雄であるレオンは、相棒の暴挙がどうすれば止まるか頭を捻った。
『明日、好きなもんを作ってやるから! だから、酔っぱらいをあおるのは止めるんだ』
 だが、レオンの声は残念ながら蘿蔔には届かなかった。彼女は、きゃっきゃっと楽しそうにはしゃいでいる。
 蘿蔔のエールを受け、枝豆の吐き気攻撃から復活したメイナードが立ち上る。その悠々とした動きは、挑戦者を叩き伏せるチャンピオンのそれであった。
「メイナードさん。どうやら、俺たちの一騎打ちみたいだぜ?」
「虎噛君。君の挑戦を受けよう。ワハハハ、最後を飾るのにふさわしい勝負だな!」
 二人の酔っぱらいは、真剣な表情でビールサーバーに挑もうとしていた。
 もちろん、飲み比べの勝負のために。
 ダン、と店内に銃声が響く。
 気がつけば、ビールサーバーは撃ち抜かれていた。
「枝豆とジョッキがいなくなれば、サーバーはただの的だろう?」
 暁が、二人の後ろからビールサーバーを狙い打ったのである。暁の言っていることは、とても正しかった。
 だが、酔っぱらいの二人は血の涙を流していた。
 できれば酔った勢いで持って帰りたいぐらいに、ビールサーバーの従魔が気にいっていたようだ。
「よくも、俺が作りだした従魔を倒してくれたな! この世で最も醜い、酔っぱらいたちめ!!」
 店の外から、少年の愚神がさっそうと現れた。手にはビールサーバーのようなものを背負っており、少年はそれから噴出される茶色い液体を天野に向かって吹きかけた。天野はそれを無事だったグラスで受け止め、少し飲んでみた。独特な味がしないでもないが、十分に美味しいお茶であった。
「おー、うまい! さんきゅーな、ちょうど飲みたかったんだよ」
 天野が飲み出したせいなのか、未成年組が次々に茶のお代わりを愚神に催促しだした。宴会のノリで、喉が渇いていたのだろう。その状況に耐えきれなくなった愚神が、「俺は愚神だ! ここの従魔も出したのは、俺だー!!」と叫んだ。
 その言葉に、雨月の目が光る。
「あら? あなたが、この惨状の元凶なの?」
 静かに微笑む雨月に、愚神は息を飲んだ。
 本能的に感じた恐怖に、彼は踵を返して逃げだそうとする。
「……どこへ行こうというのかしら?」
「お、おまえこそ、俺になにをする気だー!」
「何って、お、し、お、きに決まっているでしょう? アムブロシア、この子を押さえて。悪い子はパンツを脱がして、お尻を叩かないとね」
 鼻歌を歌いだしそうな雨月を前にして、愚神が自分の尻を抑える。
「うあ……。うわーん、やっぱり酔っ払いもリンカーも大っきらいだー」
 少年の甲高い声が、夜の街にこだました。
 逃げて行く愚神を追おうとする面子を、とある二人が制した。
 虎噛とメイナードであった。
「深追いは危険だ。ここは、私たちに任せてくれ」
「そうだぜ。こいうのは、男の仕事だぜ」
 メイナードと虎噛は、ぐっと親指を突き出す。しかし、虎噛の隣にいる白虎丸は二人の魂胆に気が付いていた。
『……あの愚神を追いつめて、ビールサーバーの従魔を作らせるつもりでござろう?』
 二人の男の背中が一瞬だけ硬直したが、二人は持ち前の笑顔を振りまきながら愚神の小さな背中を追い掛けて行った。

 こうして酔っぱらいたちの非日常は、空が白けて行くまで続くのである。
 頑張れ、酔っぱらい。
 突き進め、酔っぱらい。
 明日は、二日酔いなのだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 映画出演者
    天野 正人aa0012
    人間|17才|男性|防御



  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中



  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 危険人物
    メイナードaa0655
    機械|46才|男性|防御



  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
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