本部

子供会餅つきへようこそ

和倉眞吹

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2019/01/29 20:24

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掲示板

オープニング

「餅つき大会の護衛……ですか?」
「はい。支部の近所の子供会から要請があったんです。餅つき要員と、餅がつき上がるまでの子供達の遊び相手も兼ねて来てくれないかと」
 集まったエージェントたちに、女性オペレーターが説明すべく言葉を継ぐ。
「二度目の世界蝕の影響で忙しいとは思いますが、やはり子供たちの楽しみも奪うべきではないと……子供会としても随分迷ったらしいのですが、H.O.P.E.のガード付きでならやってもいいのでは、と会では結論づけたようです」
 確かに、年齢にもよるだろうが、幼い子には難しい事は分かるまい。
 世界蝕――セカイショク? 何それ、楽しいの? というまさにそんな世界かも知れない。
「そうは言っても、H.O.P.E.としても、何かあってはいけないので、念の為プリセンサーに調査を依頼して、その近辺の日に何もなければゴーサインを出します、という事で会にご返事しました」
「……で、大丈夫だった訳ですね?」
「はい、幸い大丈夫のようですので、護衛はあくまで名目と、念には念を、という程度の事です。皆さんにも休める時に休んで貰って、尚且つ楽しんで頂ければ、と思いましたので。多分、休暇を楽しんで頂くつもりでいて大丈夫でしょう」
 では宜しくお願いします、と締めて、オペレーターは頭を下げた。

解説

▼目的
子供会の餅つき大会の護衛という名目で餅つき大会を楽しむ。+餅つき&子供の相手要員。

▼会場
とある支部近所の公民館駐車場。
簡単なテントの下に長机が設置され、各種味別の餅配布所、及び食事場所となっている。

▼主催
支部近所にある自治会。

▼内容
開催日:一月某日(日曜日)
開会:午前九時から、餅を蒸し始める。餅を蒸したり、味付け・雑煮・おしるこなどにする時の調理は公民館の調理室で行う。
餅つきは十時からで、昔ながらの臼と杵でつく。つき上がった餅が様々に味付けされ、振る舞われる。
子供の餅つきや、調理室で丸めてきな粉や餡をまぶしたりする体験もさせる予定。
終了予定は午後二時頃だが、餅がなくなり次第終了。

▼参加者
子供の参加人数は、三十人前後。年齢層は、幼稚園年長~中学一年くらいまで。
保護者は、参加している子としていない子がいて、一概には言えない。
大人は大抵、運営(餅の準備、餅つき、調理など)側で参加。

▼その他
・事件らしい事件は起きない予定です。餅つき大会を存分に楽しんで下さい。
・子供の餅つき体験ゾーンもあるので、見守りなどもして貰えるとよいと思います(一緒につく、怪我をしないよう見守る、など)。
・お餅料理は、上記例に挙げてある以外のものでもOKです。余程奇抜過ぎる、などがなければ採用致します。ご自由にお書き下さい。

リプレイ

『綾瀬ちゃん、着いたわよ?』
 キンギョソウ(aa5756hero002)は、綾瀬(aa5756)に告げて共鳴を解除する。
「……ふぅ」
 移動だけで疲れたのか、彼女は一つ息を吐いた。
 しかし、今日は綾瀬を簡単な仕事に連れ出したと、キンギョソウは内心得意顔だ。
『綾瀬ちゃんの社会復帰第一弾にふさわしい仕事を選んで貰ったんだから』
 ふんぞり返るキンギョソウの横で、『モチつき! ……楽しそう!!』とピピ・ストレッロ(aa0778hero002)が跳び跳ねる。
『……おもちをつくるの……初めて……』
 荒木 拓海(aa1049)と共にやって来たレミア・フォン・W(aa1049hero002)も、目を輝かせた。
「うちにお任せだよっ! 最早餅つきのプロだし!」
 腕まくりして張り切る春月(aa4200)は、既に割烹着と三角巾、マスクを装着済みで気合い充分だ。
「プロ?」
 首を傾げるレイオン(aa4200hero001)に、「だって施設にいた頃、毎年やってたんだもん、餅つき大会!」と胸を張る。
「私もですよ。生まれ故郷で何度かやったことがありますから、餅米を蒸す所からお手伝いします」
 柔らかく微笑して、希月(aa5670)も口を開く。
「オレの田舎もだ。この時期が楽しみでさ、親戚総出の大イベントだったけど」
 拓海は、表情を微かに曇らせた。
「餅つきすら企画し難い状況って……戦況が山場だと厳しい気持ちにもなるよ」
 彼は、モスケールを装着している。いつ何時でも戦闘に移れるようにだ。
「従魔騒ぎが起きないよう、未然に防がないと」
「でも、一応仕事みたいですけど、息抜きによさそうですよね」
 皆月 若葉(aa0778)も、気持ちの上ではいつでも戦える心積もりだけはしているが。
『いっぱい遊んでいっぱい食べるー♪』
 レミアや、子供会の子供達の手を取って、まだ飛び跳ねている相棒に、戦闘時に於ける微妙な不安が、頭をよぎらないでもない。
「ふふ、参加されている皆さんにいい思い出を作ってあげたいですね」
 他方、思わずといった様子で微笑を零した希月に、ザラディア・エルドガッシュ(aa5670hero001)も『そうですねぇ』と頷く。
『まあ肩肘張らずに、俺達も楽しみましょうや』
「だね」
 適当に緊張しつつも餅つきを楽しむのもいい。そう思いながら首肯した若葉に、麻生 遊夜(aa0452)が「うむ」と相槌を打つ。
「子供の笑顔は宝であるからな」
『……ん、忙しいからこそ……守るべき未来の、光は大事』
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)も、こくりと神妙な顔で顎を引いた。

「うちの子達も連れてきたい所ではあったが……」
 遊夜は言って、辺りを走り回る子供達を見やる。
「うちだけで半分近くになるからなぁ……ま、また今度家でやるって事で」
『……ん、ご機嫌取りだね』
 彼を見上げたユフォアリーヤが、小さく笑った。
「名目とは言え護衛は大事だな。体験ゾーンは、と」
 目を投げた先には、臼を小脇に、杵を肩に担いだザラディアが歩いている。
「ザラディア様。それはどうしたのですか?」
『いや、折角だから餅をつこうと思いましてね』
 彼女は、豪快にドンと臼と杵を下ろす。
「臼は壊さないで下さいね」
『解ってますよ。あまり力任せにつかない方がいいとは聞いてますから、加減はしますって』
 そこへ、蒸し上がった餅米を持った若葉がやって来た。
「その臼、空いてます? 餅米入れちゃっていいですか?」
『ああ、頼むわ』
「じゃ、入れまーす」
 若葉が餅米を入れると、徐々に子供達が周囲に集まってくる。
「このお米がお餅になるのですよ。まずは、餅米を杵で潰しますね」
 興味津々の子供達に、春月が声を掛けた。
「はーい、皆! お餅つきはね~、まず手を洗おうねっ」
 すると、子供達は彼女に付いて、一旦離れて行く。
「では、今の内に餅米を潰してこねましょうか。手早くやらないとお餅が冷めてしまいますから、ここだけは私が……」
 言いながら、希月は餅米を潰していく。
 自身に付いて洗面台へ移動した子供達に、春月は手洗いを実演して見せた。
「石鹸はしっかり泡を作ってね、掌もだけど、指もくるくるーって洗ってね!」
 レミアやピピもその中に混ざっていた。
『……くるくる……』
 レミアの様子を見ながら、拓海は笑みを浮かべる。最近、彼女は会話が少し早くなり、イントネーション(主に漢字など)も判り易くなった。今迄は、例えば雨と飴の区別が聞き取り難い、といった感じだったのだ。
(何だかんだで、楽しそうだな。連れて来て良かった……)
 そう思いながら、蒸した餅米運びに戻ろうとした瞬間、それは起きた。レミアは、持っていた夜波を、流しへ運んだのだ。
『……ヤナミも……くるくる……ね』
 ちびっ子の手伝いをしつつ、偶然それを目撃した春月は、止めもせず「可愛い……!」と悶えている。
「夜波は洗わないーっっ」
 慌てて止めに入り、夜波を取り上げる。
『……ヤナミは……洗わない、の?』
 本気でキョトンと首を傾げているレミアに、拓海は猛然と首を縦に振った。
「夜波は椅子に座らせるから。ここで見ててくれるってさ」
『……そう……わかった』
 コクリと頷くレミアに、再度悶える春月の上着が、「ねーねー、お姉ちゃあん」という幼い声と共に引っ張られる。
 洗ったばかりの手だった為に、上着はそこだけびしょ濡れだ。
「ひゃああ! 手拭く時もねっ、綺麗なタオルで拭こうねっ」

 拓海は、腕捲りで餅つきに参加していた。臼の外周に沿うように、杵に体重を掛けて蒸した餅米を潰していると、田舎の正月を思い出す。
 いい頃合いで、手を洗った子供達を連れた春月や希月らが外へ出て来た。
「春月。返し手役、頼めるか?」
「了解ー。よっしゃ、まずはお兄さんとお姉さんでやってみるよ!」
 子供達に声を掛けた春月は、拓海のいる杵の傍に手水を持って腰を屈める。
「じゃ、行くぞー。よっ!」
「ほっ」
「とうっ!」
「そりゃ!」
「良いタイミングで返してくれる、搗き易いな」
「お父さんも流石……お餅の搗き方も完璧だね!」
 熱いが手水を付けすぎないように注意しつつ、春月は返しを続ける。
 あぶれた子供達は、銘々ばらけて、空いている場所へそれぞれ輪を作っていた。
「ほら、お米が潰れてお餅になりましたね。餅米を潰し終わったらいよいよ餅つきです」
 にこやかに子供達に説明しているのは、希月だ。
「では、私が合図をしますから、皆さんが仲良く杵でついて、美味しいお餅を作りましょう。合いの手は私がやりますので」
 当然のように杵を渡すと、受け取ったザラディアも『じゃあ、行くぞー』と子供達を笑顔で見回す。
 返し手には若葉が入った。
「……せーの!」
「はい!」
『せっ!』
「はい! ……ザラディア様、繊細にお餅をつくのですね」
 ああは言ったが、彼女が繊細な事ができるのを、希月は知っている。しかし、見かけとのギャップには、驚く者が多そうだ。
『ま、こういう事にゃなれてますんで。ほいっ!』
「それ!」
「よいしょ!」
 周りで見ている子供達からも、徐々にかけ声が上がり始める。
「そろそろ、皆もやってみようか」
 若葉は、手近な子に視線を向けた。
 春月と拓海の組も、ある程度つき上がった所で、子供達に体験させる方向へと移行する。
 中には保護者が来ていない子もいるようなので、とそちらにも気を付けつつ、怪我をしないようにと見ていた遊夜とユフォアリーヤ夫妻も、さり気なく寄ってくる。
 大丈夫だとは思うが、杵と臼を使うのだ。手を挟んだりするかも知れないし、気を付けておいて損はないだろう。
「楽しみにして来た場で痛い思い出を作る意味もなかろう」
 ザラディアから渡された杵を持っている少年を見ながら言う遊夜に、ユフォアリーヤも『うんうん』と頷く。
『……ん、良い思い出は……良いままにする、それが一番』
 子供達を、遊夜は基本的には見守る。彼らの自主性を重んじる為だ。
 ただ、危なっかしい動きをしている場合は一緒につくのもいいかも知れない。そう思いつつ、若葉とザラディアが付いている場所から少し視線を離し、春月と拓海の方へも目を投げる。
「付け根を持ってね、重さを使って餅にペタンってやるといい感じだよ」
 春月は、杵を持った小学校の低学年くらいの少女に声を掛けた。
「どうする? 一人でできそう?」
 少女は気恥ずかしいのか、ただ黙って首を振る。
「じゃあ、お姉さんが一緒に持つからね。……そーっれ、ぺったんぺったん」
「えいさーほいさー」
 張り切る春月を見て、裏方への専念を決め込んだレイオンは、たまたまそこを通りかかって、うっかり釣られて掛け声を呟く。
 しかし、彼女は気付かなかったようで、返し手に交代した拓海と共に、子供に合わせて掛け声を続けていた。
「春月……気が抜けちゃうから」
 覚えず微笑して、レイオンは手にしていた餅米を運ぶ作業を再開した。

「そうそう、上手、上手♪」
 杵に手を添え、一緒に餅をついていた幼い男児は、若葉に褒められて満面の笑みを浮かべた。
「もう一回やってみようか!」
 男児は、嬉しそうに頷くと、若葉と一緒に杵を上下させる。
 一緒にいた筈のザラディアは、『後は子供達と遊んでるわ~』と言いつつ、希月と共に、いつの間にか餅つき体験が終わった子供達の相手に勤しんでいた。
 返し手は、遊夜とユフォアリーヤ夫妻が交代で手伝っている。
 やっと満足したような男児が、母親らしき女性に連れられてその場を離れると、若葉は周囲に目を泳がせた。
 まだそこに残っている子供達も、興味はありそうだが、どこか尻込みしているようでもある。
「おいで。一緒にやろう」
 終始笑顔を絶やさない明るいお兄さんが笑って手招きすると、子供達は互いに目配せし、わっと若葉の周囲に群がった。

 保護者陣と一緒に、レイオンは駆け回っていた。
 大量の熱湯を沸かし、容器の洗浄をし、時折臼ごと調理室へ運んで餅米を移し替え、ついでに杵も熱湯消毒に回す。
 手返し用の水が入った容器も同様だ。
 餅は、子供がつく前にある程度つきあげておく必要があるが、それは餅つきの場にいる者達に任せた。
 しかし、子供の相手と餅つきに集中しているらしい春月は、レイオンが行ったり来たりしているのには気付かない。
「よいしょ! よいしょ!」
 今はまた、春月が返し手役で、拓海が複数の幼子と杵を握っている。
 それを見て、『うわぁ、タクミすごい! かっこいい!!』と目を輝かせたのはピピだ。
 傍らには、ピピに引きずられてやむなく遊夜達夫婦に餅つきと子供達の相手を任せてきた若葉がいる。
『ボクもやるー!』
 幸い、他に並んでいる子供もいなかったのと、その子らは長い事杵を握っていたのとで、駆け寄ったピピに杵を快く譲ってくれた。
「一人で持てる?」
『うん!』
 元気よく拓海に返事をしたピピだが、実際に持って拓海の手が離れてしまうと、餅にめり込んだ杵の先はビクともしない。
『おーもーいー……っ!!』
 瞬時、拓海と目を見交わした若葉は、苦笑しつつ肩を竦め、ピピの後ろへ回って手を添えた。
「いくよ」
『うん! ……せーの!』
 ぺったんぺったん、と杵と餅がぶつかる音の合間に、春月が餅をこねる。
 やがて、滑らかになってきた所を見極めたのか、春月が「そこだ!」とストップを掛けた。
『ええー、まだやりたいー』
 駄々をこねるピピの愛らしさに、春月は又も悶えそうになった。が、美味しい餅を食べたければ、ここは譲ってはいけない。
「あんまやりすぎると、大切なコシを失っちゃうからね」
『コシって?』
「うーん、ちょうどいい固さの事かなぁ。ね、お父さん」
「そうだな。コシがある方が美味しいよ?」
「そうそう。ピピちゃんも美味しいお餅が食べたいでしょ?」
 これが決定打になり、ピピは素直にストップを受け入れてくれた。

 キンギョソウが子供の相手をしている間に何をするのか、と訊ねると、綾瀬は具沢山の“オゾウニ”を作るのだと答えた。確かに、パワーのある子供の相手は、今の綾瀬には難しい。
 だが、“オゾウニ”というのがキンギョソウにはどんな料理なのか解らない。聞いたこともない料理だ。
『綾瀬ちゃん、一人で大丈夫? わたしもお手伝いするわ』
 と申し出るも、
「……キンギョちゃんのお仕事は、あっち」
 と素っ気なく返された。
 勿論仕事はする。けれども時々、子供の手を引いたまま、キンギョソウはそっと調理室を覗いた。
 視線の先で、綾瀬は調理台の前に立ち、ゆっくりと野菜を刻んでいた。
 作るのは少々遅いようだが、彼女が集中できるように、自分も頑張らねば。
 心の中で、グッと握り拳を握り、やはり時折調理室を覗いて綾瀬の様子を見守り続ける。
 幼い子は、目を離すとすぐにあちこち行ってしまうので、公民館に入り込んだ子の安全を見守ろうと決めたキンギョソウは、館内を動き回る子供達にくっついて行き来していた。
 これなら、通り掛かりに綾瀬の様子を見る事もできる。
 何度目かで調理室を覗いたら、不意に出入り口に目を向けた彼女と視線が合った。
「……キンギョちゃん、お仕事しなきゃ」
 ――怒られてしまった。
 しゅん、としょげたキンギョソウは、子供に手を引かれて、調理室を後にしようとした。
 そこへ、春月がピピやレミア他、子供達を引き連れて調理室へやって来た。
「あ、キンギョちゃんも入って~。今から味付けとかするから」
 キンギョソウが戸惑ったように頷くと、春月は子供達に視線を向けて、改めて手を洗うよう促す。
「さー、手を洗ったら皆、座ってね! お餅を食べやすい大きさにちぎって! 欲張って大きいままだと大変だぞー」
 手を洗い終えた子供達が、順次席に着く。作業台中央に置かれた餅の塊に、キラキラした目を向けた。
「皆のセンスが光るよ~、美味しいのを作ろう!」
 それが合図代わりだったように、子供達は思い思いに餅をちぎり、丸め始める。その光景は、複数ある作業台で同様だ。
 幼い子達のいる作業台は、大変な騒ぎになった。中には、大声で騒いだり、気に入らない事があるのか、泣き出す子もいる。
(綾瀬ちゃん……この大声が辛いのよね)
 決して子供達に悪気はないし、綾瀬も好き好んで顔を顰めている訳ではない。だが、野菜を刻みながらも眉根を寄せる彼女に、キンギョソウは宥めるように言った。
『綾瀬ちゃん、あれはね、エネルギーを爆発させてる最中なのよ』
 眉を顰めて相棒を見る綾瀬に、キンギョソウは力強く頷いて見せる。
『あの子達の元気のエネルギーは今、この場所に発散されて満ち溢れているの。綾瀬ちゃんもあのエネルギーを吸収したら、元気になるかも知れないわよ?』
 言いながら、あたかもエネルギーを全身に浴びるように両手を広げる。すると、綾瀬は低い声でボソリと「……キンギョちゃん」と呟いた。
『何? 元気出た? 綾瀬ちゃん』
 綾瀬は無言のまま、何とも言えない表情で眉を顰め続けていた。

 餅つき作業が終わったので、拓海はレイオンや保護者達と協力し、臼を洗ったり、片付けなどの力仕事メインに回った。細かい作業よりは全体を見渡せる位置での裏方だ。
 レミアは、年の近い子に混ざり、餅の丸め方を春月に教わっている。
「……で、こんな感じ! どう?」
『……うん……うん……できる』
 嬉しそうに頷くレミアに頷き返し、春月は顔を上げた。
「美味しい味付けができたら、うちにも教えてね!」
 誰にともなく言いながら、子供達の手元を見て回る。全種類制覇する気満々、ちびっ子の味付けも楽しむ気合いだ。
 レミアの横で、ピピはご機嫌で歌っている。
『こねこね、つめつめ、まるまる、おもち~♪』
 自然、その作業台にいる皆が、ピピの口ずさむ歌に合わせて餅を丸め始めた。
『……できた!』
 餡子を詰めて綺麗に丸めた大福が、得意げなピピの手に掲げられる。
「ふふ、とっても上手ですよ」
 すぐ向かいに座って、子供達の手伝いをしていた希月が、微笑して頷く。そんな彼女に、ピピも満足げに笑い返した。
 それを見つつ、希月はそっとその台を離れる。
『希月様。もうやらないんですか?』
 ザラディアに問われて、「あくまでも主役は子供達ですから」と返す。
「私は困った時にお手伝いする程度です。大変でしょうけど、その分、出来上がったお餅は美味しい筈です」
 そうですね、と首肯するザラディアと見つめる先には、レミアが少しお姉さん顔で過ごしていた。
 子供同士で遊ぶ事が滅多にないので、嬉しくて仕方ないのだ。
『きれいに……丸め……られるでしょう?』
 年下の子に、自身が一生懸命丸めた餅を示しながら、レミアはピピに視線を転じた。
『ピピのも……きれい、ね』
『レミアも上手だね♪』
「なあ、ピピ。この三つだけ避けてあるけど、何で?」
 若葉に訊ねられ、ピピは相変わらず笑顔で答えた。
『んとね、一つはボクの、もう一つはワカバに、で、最後の一つはおうちにおみやげ!』
 留守番しているもう一人の相方にだろう。若葉は微笑して、ピピの頭を撫でてやり、よその台の様子を見に行った。
 入れ違いに、レイオンと共に調理室へ戻ってきた拓海は、ピピとレミアと夜波を探して視線を室内へ泳がせる。
「……あ……真っ白……」
 彼らの楽しむ様子と状態に、思わず軽く吹き出す。
 捜し当てた目的の二人とぬいぐるみは、夢中になって餅を丸め、こねた果ての、当然の結果のような手と顔をしていた。

 出来上がった餅料理は、とてもいい匂いだ。
「……キンギョちゃん、どう?」
 怖ず怖ずと訊ねる綾瀬に、キンギョソウは満足げに頷く。
『心配しなくても綾瀬ちゃんのお料理は最高よ!』
「餅の食べ方としては、きな粉、砂糖醤油、それに善哉やお汁粉も推したい所だな」
 遊夜が呟くのへ、『綾瀬ちゃん! この“サトウジョウユ”も美味しいわ!』と絶賛する。何だか、会話が噛み合ってない感があるが。
「そういや、お汁粉と善哉の違いって話があったな」
 そう言葉を継いだ遊夜に、ユフォアリーヤがこくりと首肯した。
『……ん、西と東……汁気の有無、餡の違い……だね』
 地方・地域による差は、中々に面白い。
 関東ではお汁粉は汁気の多いもの全般、善哉は餅や白玉団子に汁気のない餡を添えたものを指す。
 対して関西では、こし餡を使った汁にお餅などを入れたものをお汁粉、粒餡を使った汁にお餅などを入れたものを善哉と言う。
 また、お餅入りをお汁粉、白玉団子入りを善哉と呼ぶ地域や、呼称が逆の地方もあるらしい。
 そんな蘊蓄を披露していると、いつしか周囲に人だかりができている。中には大人もいたが、大抵は子供である。
「へー、面白ーい」
 と皆、目を輝かせて聞いていた。
 それに微笑を返しながら、「俺は関西の認識だったな」と締めた。
『……ん、中々興味深い』
 尻尾を揺らしながら相槌を打つユフォアリーヤの傍で、レミアは耳だけを傾けながら、餅の配布を手伝っていた。
 先程までピピもいたのだが、早々に飽きてしまったらしい。
『おしるこ食べたーい!』
 と食事スペースへ駆けて行って、子供達と一緒に座っている。
 キンギョソウと綾瀬も同様だ。
「……キンギョちゃん、あ~ん」
 と綾瀬が餡子餅を食べさせている。
『ん~♪』
 おいし~と顔全体で言いながら、キンギョソウは口へ入ってきた餅を頬張った。
「……喉に詰まらせないように、ゆっくり食べてね?」
「どうぞ、H.O.P.E.の皆さんも召し上がって下さい」
 子供会の会長に促されたので、余ったら貰おうと思っていた若葉も甘える事にした。
「辛味餅、美味しいですよね。きな粉餅や磯辺焼きも好きだけど、つきたてと言えばやっぱり辛味餅かな」
「うんうん、旨いね……口当たり良いなぁ」
 大根下ろしと醤油付けをモクモクと頂きながら、拓海も頷く。甘い味付けは苦手だ。
「お茶が入ったぞ」
 遊夜は水筒から、準備されていた紙コップに茶を注ぎ入れ、皆に配る。
「有り難うございます」
 子供達の傍に座った希月は、茶を受け取って礼を述べた。そうしてそれを、一人で食べていた子を招き寄せ、その子に与える。
「どう致しまして。こういう時のお茶は格別だからな」
『……ん、甘みと渋みで……食が進むの』
 ユフォアリーヤが、微笑して自分も頂きながら、餡子餅と一緒に口へ運ぶ。
「はいよ。喉に詰めないように、ゆっくりな」
「はーい! ありがと」
 子供の一人が遊夜からコップを受け取って、元気よく礼を言った。
 希月が、隣に座った子に「美味しい?」と話し掛け、その傍では、『ふふー、おいしいね♪』とピピが満面の笑顔を隣の人に向けている。
『……ヤナミもたべる? ……アーン……』
 レミアは、夜波の口元へ運んだ餅を自分の口に入れて笑み崩れた。
 その様を見ながら、何度目かで悶えた春月は、「あれ? 所でレイオンどこ行ったんだろ」とようやく自身の相棒の事を思い出した素振りで、周囲を見回す。
 その頃、はぐれた子供の手を引いて会場へ戻ったレイオンは、「これは……中々疲れる」と疲労困憊していた。

「今日は有り難うございました」
 やがて全ての片付けを終えて、若葉は軽く頭を下げた。
『とっても楽しかったんだよ♪』
 ピピも若葉のズボンの裾を掴みながら、子供会の役員に手を振る。
『また今度参加したいなぁ』
「そうだね」
「企画、お疲れ様でした」
 搗き立て餅で作ったフカフカの大福を貰い、拓海も辞儀をした。
「それとお誘い、有り難うございました。楽しく過ごせました」
 役員達が礼を返すのへ、促すように傍らに立ったレミアを撫でると、彼女も拓海に倣って『……ござい……ました』とペコリと頭を下げる。
 春月とレイオンにすっかり懐いたレミアは、二人にも駆け寄ってハグをする。
『また……あそんでね』
 それに感激した春月は「勿論だよっ」とレミアを潰さんばかりに抱き返す。レイオンの方は、戸惑ったようにただ頷いた。
 二人から離れたレミアが、“私、一人前だもん”という顔で満足そうに拓海を見上げる。
「いいものですね。皆さんが楽しい一時を過ごすのを見守るというのは……」
 少し離れた所で呟く希月の視線の先で、拓海が「よくやったよ」と微笑し、レミアを撫でている。
 このかけがえのない時は、己が命を賭けて守るに値するものだ。
 希月は、そう確信していた。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 願い叶えて
    レミア・フォン・Waa1049hero002
    英雄|13才|女性|ブラ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • 光明の月
    希月aa5670
    人間|19才|女性|生命
  • エージェント
    ザラディア・エルドガッシュaa5670hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • エージェント
    綾瀬aa5756
    人間|25才|女性|生命
  • エージェント
    キンギョソウaa5756hero002
    英雄|21才|女性|バト
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