本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】the star

絢月滴

形態
ショートEX
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
11人 / 4~15人
英雄
11人 / 0~15人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2019/01/21 20:58

掲示板

オープニング

●エネルギー確保
 アルビヌス・オングストレーム(az0125)はロシア・ウラル山脈に来ていた。雪舞う中を懸命に進む。ふと立ち止まって振り向いた。同行者の歩くスピードが遅い。――遅すぎる。
「何をしている。早くリヴィア様のご命令を果たさなければ!」
 アルビヌスの言葉に彼の同行者――元マガツヒのハガルは答える。
「……俺はそいつに何も義理はない」
「リヴィア様をそいつ、などと乱暴な言葉で呼ぶな! あの方はとても偉大なのだ!」
 アルビヌスは顔をしかめた。ハガルは何も答えず、彼を追い抜く。待て! という言葉には応じない。
 何故自分はこんなことをしているのだろう――。
 所属していたマガツヒは比良坂清十郎が居なくなったことで解体した。自分の居場所は無くなったと思った。そんな時、ふと以前かけられた言葉を思い出した。”H.O.P.E.は意外とあぶれ者の集まりみたいなものだ”と――。
 だから、とりあえずはH.O.P.E.に世話になろうと思った。がそれだけでは居心地が悪い。何かしていなければ。と思っていた矢先に舞い込んだ仕事がこれだった。それだけだ。
 アルビヌスは鞄の中からタブレット端末を取り出した。
「リヴィア様の計算によれば、もう少し先にライヴストーンが大量に採れるポイントがある。急ぐぞ」
「よく今まで見つからなかったな」
 ぐ、と二人、雪を踏み込む。ふふん、とアルビヌスは笑った。
「リヴィア様のお力を持って、ようやく発見できるほど難易度が高いポイントだったということだ! 流石はリヴィア様!」
 ハガルはアルビヌスの表現がよく分からなかった。この男はとにかくセラエノ――今は”元”がつくのだろうか――のリーダーたるリヴィアを褒め称えたいようだ。
(すごい、とは思うが)
 H.O.P.E.ロンドン支部長、キュリス・F・アルトリルゼインがスワナリアの神官たちから聞いた”世界を滅ぼしかねない不安定なオーパーツを安定化する”方法。リヴィアはその方法をより分かりやすく、どんなオーパーツにでも応用できるように発展させたという。その技術に必要なのが大量のライヴストーン。つまりアルビヌスとハガルが行っているのは現地確認だ。リヴィアが計算したポイントに本当にライヴストーンがあるかどうかの。
 ハガルは息を吐きだした。出発する前にリヴィアが言っていたことをふと、思い出す。


『――もし、そこに黒く水晶のようなライヴストーンがあったら、1キロほど持って帰って来て下さい』
『何かあるのか』
『それがあれば……蘇らせることが出来ると思うのです。あの”黒い人形”を……』


「着いたぞ!」
 アルビヌスの声に、ハガルは我に返った。いつの間にか、リヴィアが計算したポイントに到達していた。そこは洞穴だった。人が四人ほど並んで入れる広い入口。中は真っ暗。アルビヌスがライトをつける。二人、慎重に中を進んだ。そうして暫く歩いていくと、不意に広い場所に出る。そこには大量の石が転がっていた。ハガルがモスケールを起動させる。石からライヴスの反応。壁の中や地面の中からも反応がある。
「ライヴストーンだ。確かに大量にある」
「流石はリヴィア様……! このことを早くお伝えせねば……!」
 通信機を弄り始めたアルビヌスを他所に、ハガルはリヴィアが言っていたライヴストーンがあるかどうかを確認した。黒い、水晶のようなライヴストーンを――。
(あった……!)
 最奥で光るそれに、ハガルは近づく。
 ――刹那、地面が揺れた。同時に、ハガルは寒気を感じた。北極点の中心で感じたようなこれは――。
「ドロップゾーンか?」
「な、なんだとっ?」
 二人は慌てて外に出た。雪が止んでいる。空が灰色に染まって――。
「な、なんだあれはっ?」
 アルビヌスが山の向こうを指さす。
 そこに居たのは巨大な愚神だった――。



●愚神を止めろ
 H.O.P.E.サンクトペテルブルク支部。
 西原 純(az0122)は切羽詰まった表情で緊急招集したエージェント達に告げる。
「ウラル山脈でドロップゾーンが発生した。確認されている愚神は二体。そのうち一体は東にまっすぐ移動している」
 純が壁にかけられた地図のある一点を指さし……東へと指を滑らせる。
「このまま行くとライヴストーンの大量採掘地点を通り、エカテリンブルクへと到達する。……甚大な被害が出る前に、愚神を討伐してくれ。……説明は以上。後は任せた」


解説

メイン目的:ウラル山脈に現れた愚神の討伐
サブ目的 :ライヴストーンの大量採掘地点の防衛



・愚神
 愚神A:全長45メートル、高さ8メートル。姿は草食恐竜に似ています。
     木々をなぎ倒し、山を崩しながら、南へと真っすぐ向かっています。
     ハガルからの報告によると、ブレスを吐くなどの行為は見られないそうです。
 愚神B:一般的な成人男性とおなじくらいの大きさで、どろどろとしたスライムのような形です。移動はしていません。
     おそらくゾーンルーラーであり、ハガル曰く物理攻撃は効果がなさそうとのことです。


・位置関係
 ドロップゾーン(愚神B)――約10メートル――愚神A――約100メートル――ライヴストーン大量採掘地点――約40キロ――エカテリンブルク


・ドロップゾーン
 半径25メートルほどの円です。ウラル山中の開けた場所に発生しました。
 今のところ、他の愚神の発生は確認されていません。

・エカテリンブルク
 万が一に備えて、住民は避難を開始しています。

・アルビヌスとハガル
 アルビヌスは戦力になりませんが、ハガルは氷を操る能力者です。頼めば、力を貸してくれます。

・移動手段
 H.O.P.E.が軍事ヘリを飛ばしてくれます。

・その他
 何かあれば、答えられる範囲で純が答えます。



※以下PL情報
 愚神Aがライヴストーンの大量採掘地点に到達すると、ライヴストーンからライヴスを吸収して、愚神Aの戦力が大幅にアップ(ブレスによる魔法攻撃追加。体力の自動回復発動)します。そうなった場合、ライヴストーンは全て消失します。愚神A到達前に全てのライヴストーンを搬出、もしくは破壊すれば愚神Aの戦力アップは回避できます。
 ライヴストーンを破壊した、もしくは愚神Aによってライヴストーンが消失してしまった場合、サブ目的は失敗となります。

リプレイ

●戦いへ 
「いやー、あの街も中々災難続きだよねぇ。」 
 木霊・C・リュカ(aa0068)に対して、凛道(aa0068hero002)は強く同意した。ここ最近、あの街――エカテリンブルクで事件が起こりすぎている気がする。あの街に何か愚神/ヴィランが好む要素でもあるのだろうか。考察するのも中々面白いかもしれない。しかしそれは後回しだ。 
「でも……ここで止めちゃえば、災難にもならないか!」 
『はい、マスター。自分で言うのもなんですが、命中は手数で補うのが僕のクラスですから』 
 竜胆と青空のブルーサファイアの腕輪に二人、触れ合い、共鳴した。 
 
 
 
 弥刀 一二三(aa1048)とキリル ブラックモア(aa1048hero001)は今回の任務について言葉を交わしていた。 
「ドロップゾーン離れて石に近づくっちゅうと……やっぱ、欲しいんどすやろな?」 
『おそらくあれは、究極の甘味料なのだ!』 
 キリルが拳を握る。 
『あれを生成すると和三盆以上の旨味が凝縮された究極の甘味の真髄が……!』 
 キリルの言葉に一二三は頷く。 
「へえ……ほな、渡す訳にはいきまへんな」 
 一二三はキリルと共鳴した。 
 身長が少し伸び、一二三とキリルを混ぜたような顔立ち。銀の右目。金の左目。髪もまた変化する。一二三の赤い短髪襟足にシャギーが入った銀髪が付随し、腰までの長さを有するようになった。
「いきましょか」
 
 
 
「……恐竜は好きなんだが……」 
 ヘリの中から、相手の姿を見た荒木 拓海(aa1049)はそう呟いた。 
『少し違うわね』 
 小さく笑って、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)が答える。直後、表情を引き締めた。 
『どんな攻撃を持つか不明。気を付けていきましょう』 
「ああ」 
 確かな意志を持ち、二人は共鳴した。 
 
 
 
「……また恐竜だよ……流行ってんのかね……」 
 けだるさを隠そうとせず、ツラナミ(aa1426)は呟いた。それを聞いた彼の英雄たる38(aa1426hero001)はこう答えた。 
『ん……じゅらしっく……パー、ク観た。けど……良い、と思う……』 
「うっそだろ、おい」 
 どういう感性してんだ、とツラナミは思う。まあ、それは後だ。
 38は藍色のぐい呑みの形をしたペンダントトップをツラナミに示す。それに二人は触れあって、共鳴した。ツラナミの片目が、紅に染まった。
 
 
 
 迫間 央(aa1445)は通信機の状態を確認した。ドロップゾーンが近いことから、もしかしたら使えないのではないかと心配したけれど、杞憂だったようだ。
 彼の傍らでマイヤ サーア(aa1445hero001)は遅く、鈍く――しかし確実に東へと向かっている巨大愚神を見ていた。
「……東へ向かう愚神にその場に留まりドロップゾーンを維持する愚神……」
『同時に現れたのだから、何かしら繋がっていると考えるべきでしょうね』 
 地鳴りが聞こえる。色々なものが壊れる音がする。この辺りには詳しくないが、あの辺りを国が管理しているとしたら――。
『敵があのサイズだと、歩くだけで被害が出るんでしょうね……』
「地元の同業者には同情を禁じ得ない……」
 ここまで崩れてしまうと、新たな自然災害の原因ともなりかねない。土木課はきっと大変だろう――。いや、土木課だけではない、財務課もだ。
「これ以上の被害が出る前に、あいつを止める」
『そうね』
 幻想蝶に触れあって、二人は共鳴した。
 
 
 
『……売っタラいくらになるんダロ……欲しい服トカアクセトカ、イッパイあるんダ♪』
 華留 希(aa3646hero001)は目を輝かせてた。そんな己の英雄に対し、麻端 和頼(aa3646)は言う。
「……お前が奪ってどうする……もう追われる身は御免だ……」
 心底嫌そうな声を出す和頼に、希は笑ながら言葉を返す。
『ラブラブ過ぎる恋人がいるシネ~♪ ホントはズット一緒にいたいヨネ~♪』
「うるせえ! 仕事しやがれ!」
 怒る和頼を見て、希はニヤリと笑った。分かる。手に取るようにわかる。本当の事を言われて誤魔化しているのが。希はヘリの中から愚神を見る。
『……近付いてくんノは、同じ目的カナ?』
「……よく分からねえが、近付くって事は欲しいんだろ……誰がやるか!」
 幻想蝶に触れあって、二人は共鳴する。、小麦色の肌に鋭い瞳。その瞳孔は赤く光っている。下半身は獣に似た形となって、狼に似た形状に狼の黒い毛で覆われた。
 
 
 
 波月 ラルフ(aa4220)と七文 アキラ(aa4220hero002)はドロップゾーンの位置をヘリの中から確認していた。
「目の前のことに振り回されてやるべきを見失う逆位置になんかなんねぇように、明るい可能性の為に動くか」
『自分の可能性は気づかない振りしてるのにね』
「Ma chouneの希望優先だ」
『それどういう意味』
「それより仕事だ。アキラ、いくぞ」
 ラルフはペンダントトップをアキラに示した。そこには彼らの幻想蝶――レッドベリルに似て非なる不思議な石。何も加工をしていないのに、不思議と一対の翼を思わせる石――が嵌っている。頷き合い、触れあって、二人は共鳴する。姿はラルフの外見のままだが、瞳が緑から青に変わる綺麗なグラデーションカラーとなった。
 
 
 
「あの傘の子とは色々あったっすけど……」
 今回の任務にかつて戦った相手――正確に言えばオーパーツ――が関わっていると知り、君島 耿太郎(aa4682)はいつもの戦いとは違う感情を抱いた。利用されるだけ利用され、最後には捨てられた、あの子――。
「やっぱりハッピーエンドが一番っすよね」
 耿太郎の言葉に、アークトゥルス(aa4682hero001)は深く、そして強く頷いた。
『これも何かの縁だろう。それに人々の生活を守るためにもここは引けないな』
「王さん」
 耿太郎は幻想蝶を掌に載せ、アークトゥルスに示した。それにアークトゥルスは指先で触れる。
 共鳴。
 
 
 
 ヘリから見える巨大な愚神の姿にソーニャ・デグチャレフ(aa4829)は眉根を寄せた。平常の戦いでは、彼女の英雄たるラストシルバーバタリオン(aa4829hero002)は”巨大”と形容してもいいのだが、今回の敵の前ではまるで小人のようだ。
 大きい。大きすぎる。
 あれをどうにかしなければならないのか。
「愚神の巨体を考えれば今はまだ離れているとはいえ採掘場の安全も疑わしい。……取り返しがつかなくなる前に霊石を退避させるのが賢明であろう」 
 とは言いつつ――あの愚神相手に、砲撃するのも面白そうではあるが。
「それは、霊石の退避が終わってから、だ」
 
 
 
 氷鏡 六花(aa4969)は傍らのアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)に告げた。
「……行こう、アルヴィナ。……護るの。エカテリンブルクの人たちも……ライヴスストーンも」
『ええ、私の氷雪の力……全て六花に委ねるわ。特に、あの黒い霊結晶は……彼にとっては“希望”だものね』
 先程見た彼の姿を思い出し、アルヴィナは言う。大きな後悔を抱えて居る彼。それが解決するのであれば、きっと今日だ。
「……ん。獅堂さんたちの、採掘と回収が、終わるまで……絶対に、愚神を、近づけさせ……ない」
 六花はアルヴィナと共鳴した。蒼色の薄衣を、纏う。
 
 
 
「この一刀斎、生涯を捧げてでもと思っていたが……まさか斯様な好機が訪れようとは」
 獅堂 一刀斎(aa5698)は事前に提供されたレポートを見ながら言った。そこには黒い水晶のようなライヴストーンのことが書かれている。黒い人形を――黒崎由乃をよみがえらせることが出来る可能性を持つ、霊石のことが。
『一刀斎様』
 比佐理(aa5698hero001)が一刀斎を見上げる。その瞳には、いつにもまして強い光が宿っていた。
『必ず、持ち帰りましょう。霊石があれば……由乃は蘇ることが出来る』
「ああ」
 決意を胸に――二人は共鳴した。
 
 
 
●動
 ――――ズン。――――ズン。――――ズン。
 ヘリからロープをたらし、降り立った一同は巨大愚神の凄さを目の当たりにした。
 ――この距離だと流石にど迫力っすねっ?
 ライヴスの中で驚く耿太郎にアークトゥルスは同意した。まだ離れているとはいえ、時折聞こえてくるのは木々をなぎ倒すことで生まれる轟音。ガラガラと岩が崩れる音も聞こえる。
『まるで山……だが、足で移動するのであればそこを狙うまでだ』
「うちも同意見どす。さっさと転んでもらいましょ」
 うんうん、と一二三が頷く。
「……どれだけ遅くできるか、だ」
「もしくは、進路を逸らすことが出来るか」
「それにしても……あいつ、何処から来たんだ? ……前にあった、恐竜エリアみてえな所から来たのか……?」
 ――真相は、戦イがオワッテカラ!
「だな!」
 愚神を足止めする分担のエージェント達が愚神へと向かっていく。
 何人かが去った後、ハガルとアルビヌスがやってきた。エージェント達の姿を見るなり、アルビヌスは目を吊り上げて、叫ぶ。
「遅い! リヴィア様の為にもっと早く動くべきだろう!」
「――やっと来たか」
 苦々しく言うハガルに六花は近づく。ハガルとはあの時の一戦以来だ。だが、あの時と違うのは背負っているものと、お互いの立場。
「……ん。エージェントに、なった……んだ」
「……文句あるか」
 アイスグリーンの瞳を細め、ハガルが六花に言う。六花は小さく、首を振った。
「……ん。なら……力を、貸して。一緒に……あいつを、凍らせる……の」
 顔を上げ、六花は巨大愚神を見つめる。獅堂 一刀斎もまた、ハガルに懇願する。
 ――彼女の為に。
 ――比佐理の”妹”の為に。
「……ハガル。頼む。愚神を足止めしてくれ。――霊石の搬出が終わるまで」
 一刀斎にハガルは冷笑を向ける。
「黒崎由乃を”殺した”俺が憎くないのか?」
「……憎くない、と言えば嘘になる」
 あの時のことは今でも鮮明に思い出せてしまう。氷が由乃の胸を貫いた、その瞬間を――彼女が人ではなく”オーパーツ”だと分かったあの瞬間を。
「だがそれよりも、俺は俺自身が赦せない。黒崎を守れなかった俺が」
 ぐ、と一刀斎は拳を握る。
「……お前がマガツヒでないなら、憎む理由も刃を向ける理由も、ない」
「甘いな」
「どうとでも言ってくれて構わない。……俺は、黒崎をよみがえらせる」
 六花の願い、一刀斎の決意。
 そこから何かを感じ取ったのだろう。ハガルは冷たく笑うのを止めて――仕方ない――と返答した。拓海もハガルに声をかける。
「また会えたな、H.O.P.E.に入ったんだね」
 拓海の言葉にハガルは何も答えない。それだけで拓海は充分だった。
 H.O.P.E.が彼を選んだのであれば、本人が言うほど悪人ではなかったのだろう。
 マガツヒに所属していた時のような破壊的な生き方ではなく、H.O.P.E.の――”希望”の生き方を彼を選択してくれた事が嬉しい。
 ――拓海、ちょっとだけ共鳴を解くわよ。
 メリッサが姿を現す。少々面食らっているハガルに、メリッサは言った。
『お互いの利害が一致したのね』
「リサ~身も蓋もない言い方は禁止」
 ハガルが気分を悪くしたらどうするのかと、拓海は一瞬焦る。しかしそれは杞憂だった。ハガルの表情は何も変わっていなかった。
『あら、褒めてるのよ? 経緯を見ずに案がしても得たい人材だったって事でしょ?』
「まあ……確かに」
 メリッサはもう一歩、ハガルに近づいた。その手を取る。びく、とハガルが身を震わせた。けれど、振り払う仕草は見せない。
『割り切って動ける人って嫌いじゃないわ。また宜しくね』
 メリッサは手に力を込める。ハガルの指先がほんのちょっとだけ動いて――けれど、彼女の手を握り返すことはしなかった。恥ずかしいのね、とメリッサは思ったけれど、今は言うのをやめておこう。もう一度、拓海と共鳴する。
「アルビヌス!」
 拓海はアルビヌスの名前を呼んだ。突然のことに驚いたのか、彼は上擦った声で返事をする。
「な、なんだ」
「ライヴストーンを守り切れば、リヴィア様が褒めてくれるぞ!」
「お、おお、そうか」
「頼んだ!」
 拓海と六花、ハガルが戦場へと向かう。
 その背中を見送った後で、一刀斎がアルビヌスに向き直る。
「アルビヌス」
「お、お前まで、何だ」
「どうか……手伝って欲しい」
 深く深く、一刀斎は頭を下げる。
「お前がリヴィア殿から受けた任務はあくまで現地調査のようだが……今は状況が変わった。愚神が此処に到達する前に、此処に在る霊石を全て搬出したい。霊石の確保は恐らくリヴィア殿の意向にも副うことと思うが……如何だろうか」
 その言葉の後にソーニャもまた、言葉を紡ぐ。
「あの巨体。普通に移動するだけで地を割り、山を砕く。――採掘場が余波で崩落でもしたら、結果として任務を果たすことも出来ないと思われる。……さあ、どうする?」
「ふ、ふん!」
 アルビヌスは腕を組み、胸を逸らす。
「そんなことお前達に言われなくても分かっている! ――全てはリヴィア様の為に!」
「……感謝する」
「それでは、さっさと搬出計画を立てるとしよう」
 ざ! とソーニャはファルシャを地面に突き立てた。
 
 
 
●静
 ドロップゾーンの外側、適当な岩影に隠れてラルフはもう一体の愚神を観察した。ドロップゾーンのちょうど中心、どろどろとした不定形の姿。
 周りには従魔、愚神の姿はない。
 ――不気味なほど、静かだ。
「あいつ、物理攻撃が通じる様には思えねぇって話だが」
 ――確かに、あんなにドロドロだとそう思うかも。
 液体と固体の境界線をさ迷い続けるかのような形状の相手に、ラルフは唸った。
「……それだけ流動性が高く、物理的衝撃を緩和できるような作りをしてんのかもな」
 ――聞いてた通り、移動してないね。でもそれは何もしないことと、同じ意味じゃないよね。 
「当然」
 ラルフは通信機が使用可能かどうかを試した。今はまだ通じるようだ。だが安心はしない。ここはドロップゾーンのすぐ近く。何があたっておかしくない。スマホとカメラでまずは撮影。そして双眼鏡。
「音にも注意だな」 



●巨大愚神に立ち向かう
 凛道はジャングルライナーを取り出した。巨大愚神の側の、適当な木に向けて発射する。木の上に立って、敵の背中へと騎乗できないか試みた。思い切って跳躍する。
 ――成功! 
 ドロップゾーンの中ということで、何かこちらに不利なルールがあるのかと思ったがそうではないらしい。 
 ――凄い凄い! いや、生きてる内に恐竜に乗れるとは。浪漫だよねぇ!
 ライヴスの中で、リュカがはしゃぐ。そうですねマスターと凛道は返事をして、まずは首を狙うことにする。サウザンドウェポンズを発動した。なるべくダメージを与えられるよう、範囲を計算して攻撃する。足、胴体、首の根元――あらゆるところに攻撃が通った――が、それほどダメージは入らなかったようだ。凛道は眼鏡のブリッジを押し上げた。
 一二三はダガーを構えて、愚神の右前足を攻撃する。確実にダメージは入っているはず。こっちに反撃してくれればいいのだが――。
「敵さん、こっち向いてくれへんな」
 ――目に入っていないのか?
「まさか。そんなことあらへんやろ」
 一二三はダガーを構え直した。
 拓海は大剣を盾に愚神へと接近する。敵の前を横切った。
 興味を示してくれと期待したが、それは無駄だった。
 先程の凛道の攻撃。
 そして一二三の攻撃。
 もし自分であれば――絶対にその攻撃してきた相手に敵意を向けて反撃するのに。
「石が欲しくてたまらないみたいだ」
 ――それなら、足を攻撃するしかないようね。
「そうだな!」
 先程一二三が攻撃した足を拓海は狙う。大剣を振り下ろした。血が飛び散る。が、相手の前進はまだ止まらない。
 彼らの動きを見ながら、ツラナミは敵の移動力を予測していた。採掘場到達まで――最速で十五分。ツラナミはライヴス通信機を手にし、採掘場で作業中のソーニャに連絡をする。
「……最悪、あと十五分でそっち行くぞ」
 相手の返答を待たずにツラナミは通信を切った。とにもかくにも相手の歩みを少しでも遅くしなかれば。
「――女郎蜘蛛」
 射程に入ると同時に、ツラナミは愚神の右前足に向けて女郎蜘蛛を放った。命中。ほんの少しだけ、相手の移動力が落ちる。移動力だけではない。これで減退も付与されたはずだ。央も右前足への攻撃を開始した。ざっくりと、深く深く切り込む。駄目だ。まだ敵の歩みは遅くならない。――それなら。
「剣を摂れ……銀色の腕!!」
 銀椀の献上に固定したビームで、央は相手の鼻先を狙った。
 ――避けられた。
 央は武器を握り直し、狙いを足に定める。ジェミニも発動させて、分身で敵の攪乱を狙った。それでも敵は何処か涼しい顔をしている。何故、こちらを敵認定しない?
 和頼は愚神の背後に回り込む。右前足に照準を合わせて、攻撃した。それでもまだ、敵はまったくひるまない。
 ――コッチを攻撃してコナいのハ、不幸中のサイワイダネ。
「ああ、ひたすら進んでやがる。……がそれなら、こういったものに反応するかもしれない」
 和頼は秘薬を懐から出した。一度、愚神の前面に回り込み、目立つように上に掲げる。
 ――それによって相手の動きが止まることも、相手が和頼を見ることもなかった。
「欲しいから歩いてるんじゃねえのかよ」
 ――まさか、タマタマ? タマタマ進む方向ニ、ライブストーンがアッタ?
 希の意見に、和頼もそうかもしれない、と思う。――ということは、戦術が一つ減った、ということだ。
 力づくで、止めるしかない。
 アークトゥルスもまた、同じように感じていた。
 無視できないようなダメージを与えるべくライヴスブローを使用した状態で攻撃しているというのに、敵は全くこちらを気にしない。
 先程に比べれば少しは歩くスピードは遅くなっているものの、これでは――。
 アークトゥルスは首を振った。諦めることなど、しない。自分を奮い立たせるためにも声を張り上げる。
『――武勲を一つ、増やさせてもらうぞ!』
 六花とハガルは少し離れたところで肩を並べていた。六花は手を開き、魔法陣を形成していた。ハガルもまた巨大な氷の塊を作り出す。
「……ん。氷槍……貫け」
「――砕け散れっ」
 二人が放つ氷が、愚神の右前足に命中する。
 愚神が、ひるんだ。がくりと、その場に崩れ落ちる。
 ――チャーンス!
『イエス、マスター!』
 凛道は愚神の右肩辺りをポルードニツァ・シックルで攻撃する。動かなくなった愚神に対して、皆が総攻撃を仕掛けた。流石にうっとおしいと思い始めたのか、愚神はエージェント達を攻撃してきた。巨大な足による踏みつけ。
 その攻撃範囲に居たのは、一二三、拓海、ツラナミ、央、アークトゥルス。
 攻撃を受けてしまったのは――。
『ちっ』
 ――王さんっ!
「大丈夫か?」
 アークトゥルスが怪我をしたのを見て、和頼がケアレイを発動させる。助かった、とアークトゥルスは礼を言った。
 ツラナミがもう一度、計算を行う。少しは採掘場への到達を遅らせることができたようだ。……が、当然油断は出来ない。
 愚神が起き上がる。
 そのタイミングを見計らって、央は敵の後ろ脚に縫止を放った。相手の動きが遅くなる。それを見て、拓海も疾風怒濤を放った。なるほど、これが効果的に攻撃を行うタイミングか。
「央、勉強になる。ありがとう!」
「礼を言うのは後にしてくれ、拓海」
「ああ!」
 戦い続けるうちに、皆はドロップゾーンの外側へと出る。
 敵が咆哮する。空気の振動がライヴスを帯びて、エージェント達に襲い掛かる。誰も避けることは出来ず、なんとか防御をしてダメージを軽くした。
 ある意味ここからが本番――戦闘続行だ。
 
 
 
●採掘場
「想定外だったのである」
 ソーニャはむぅ、と眉根を寄せた。採掘場の地形を観察し、手早く霊石の埋蔵場所を調査、採掘の順序、搬出工程の計画を立て、霊石の一時保管場所をこしらえた――までは良かった。掘っても掘っても、更に多くの霊石が出てくるのである。
「調査が足りなかった、としか言えないのである。……まさかまだまだ霊石が埋まっているとは」
 軍事ヘリで三往復ほどすればすべてを運び出せると思っていたのに。これでは四……いやひょっとしたら六往復くらいしなければ全てを運び出せないかもしれない。
「ソーニャ殿」
 一刀斎殿が彼女に声をかけた。
「荒木殿からの連絡だ。愚神が進むスピードは少しずつ遅くなっていると」
「だが、まだ予断は許されないのだろう?」
「ああ」
「ならば――採掘を進めるのみ」
 ソーニャは再びファルシャを構えて――アルビヌスがぜぃはぁと荒い呼吸をしながら小休止しているのを見た。
「アルビヌス殿!」
「ひっ?」
「手を止めている暇はないのだ!」
「っ、だ、誰に何を言っている? 全ては――偉大なる、リヴィア様のためっ!」
 がつがつと掘り進めるアルビヌスの背中を見て、一刀斎は妙な感覚を覚えた。
 アルビヌスも、ハガルも――敵だった。
 それが今は一つの目的に向かい、協力しあっている。
 ――一刀斎様。
「どうした」
 ――笑っています。
「不思議な縁もあるものだ、と思ってな」
 それだけ言って、一刀斎もまた採掘に戻る。なるべく霊石を傷つけないように――だが手際よく――掘り進めた。
 集中しているせいか、霊石に全く傷をつけることはなかった。黒い水晶のような霊石を、一刀斎はそっと持ち上げる。細心に細心の注意を払って、持ってきた学生鞄の中に入れた。そして満杯になった鞄を抱え、全力でヘリへと移動する。これで二回目。愚神が此処にたどり着く前に、全てを運び出せ。




●乱
 キーン……という耳障りな音に、ラルフは周囲を警戒した。直後、地面が揺れる。
 と言ってもそんなに激しくはない。ラルフはドロップゾーンに居る愚神を注視した。ドロドロとしていたその姿が、まるで一本の角のような形になっていた。地面が割れる。その中から、巨大な髑髏が現れる。そして次に肩、胸、手。骸骨の上半身が現れた。
 ――何あれっ。
 ラルフは急いで通信機を取り出した。
「央、聞こえるか」
【どうした、ラルフ】
「状況を教えてくれ」
【変わらず愚神と戦闘中だ。進行スピードは徐々に遅くなっている。採掘場までは、あと六十メートルと言ったところだ。採掘にこちらの戦闘の影響は出ていない。……そっちに何かあったのか】
「おおありだ。地面の下に、でかい骸骨が隠れてやがった。……ああ、一つ確認させてくれ。そっちの愚神に知性はありそうか?」
【知性か……それほど高くない、と推測している。最初の頃、こちらの攻撃にはひるまなかったが、体力がなくなってきて、ようやく俺達を敵だと認識したんだろう。背に乗っているリンドウ、近くで戦う拓海やアークトゥルス。彼らを積極的に踏みつけようとしている】
「そうか。……ひとまず、相手の能力を検証する。また連絡する」
 ラルフは通信を切った。今ドロップゾーンに入ったら何が起こるか分からない。少し遠回りをしてラルフは骸骨の前に回り込む。そして拒絶の風を発動した。
「骸骨か。……火が効きそうだが……見た目の判断はよくねぇ」
 ――ラルフお兄ちゃんは日々実感している。
「うっせぇ」
 骸骨が真っすぐラルフへと向かってくる。ラルフは右に左にと動いた。
 骸骨が反応する。額の角から紫色の、まるで炎のようなライヴスの光が放たれた。ラルフは避けられなかった。肩の辺りに鋭い痛みが走る。
「っ……でも、まだ動かねぇんだな。足がない、とかか?」
 ラルフが思った、次の瞬間。再び、骸骨の体が動く。腰骨が、見えた。
「どういうことだ、これは」



 一二三はライヴスリッパーを放った。愚神の動きが止まる。うまいこと気絶してくれた、と口の端を上げた。
 と、自分の近くに居る央が通信機を手に、険しい表情を浮かべていることに気づく。
「央? どないしはったん?」
「ラルフからだ。どうやらあっちとこっちは繋がっていたらしい。こっちの愚神の体力が減ったことをきっかけに、あっちの敵の本体が姿を現している」
「ほぉ、それは面倒どすなぁ」
 愚神の肩がぴくりと動いた。こっちもまだ終わっていない。
「あっちをラルフ一人に任せる訳にはいかない……ツラナミ! 和頼!」
 愚神に更なる深手を負わせようと攻撃を続行しているツラナミに央は声をかける。
「なんだ」
「ラルフを助けに行く。一緒に来てくれ」
「……分かった」
 央は通信機で六花を呼びだした。事情を手早く説明する。
【……ん。分かった。でもその前に……重圧空間、を……かける】
 通信機から六花の声が聞こえたのか、近くに居る拓海がそうだね、と同意する。
「動けないところを一斉攻撃すれば――いける。あ、六花ちゃん」
【……ん。何ですか】
「首だけ残して後ろへ掛けられるかな?」
【……ん。やって、みます……】
「……じゃあ俺は先に行く」
「あっちは任せておけ!」
 ツラナミと和頼、央が戦線を離脱する。それを見て、ハガルが口を開いた。
「俺も行こう。……氷鏡は重圧空間が終わるまで、動けないんだろ」
 それだけ言って、ハガルはツラナミの後を追う。
 六花はほんの少しだけ声を張り上げて、皆に注意を促す。凛道は愚神の背から飛び降りた。一二三、アークトゥルス、拓海は愚神の前、少し離れた場所へと移動する。愚神が気絶から復帰したのか、また声を張り上げた。ぶんぶん、と尻尾を振る。位置取りが悪く、六花はそれに当たってしまった。氷の展開が間に合わなかった。
 ――六花、大丈夫?
「……ん。平気」
 はぁ、ろ六花はしっかりと呼吸をした。
「……ん。重圧、空間……いき、ます……っ」
 指先で魔法陣を描き、重圧空間を発動させた。愚神が多少抵抗する様を見せる。が、地面へとめり込んだ。うまく、首だけが範囲外に出たようだ。
「おおきに、氷鏡はん!」
 一二三は武器にライヴスをまとわせる。
「これで終わりにしよか!」
「ああ!」
『罪には罰を――暴食の欲に節制の咎を』
『この一撃で――決める!』
 その場に残った全員、首へ集中攻撃を開始した。



 央とツラナミと和頼、それにハガルがドロップゾーン近辺へと到着すると、ラルフは既に骸骨との戦闘を開始していた。骸骨は既にその姿を完全に地上へと現していた。ラルフが傷を負っているのを見て、和頼はケアレイを発動させた。助かる、とラルフが礼を言う。
「魔法攻撃は通る。物理は試してねぇ。後、頭の角に注意しろ。あそこから光線が来る」
「……まあ、一気に決着つけた方が、いいだろ」
 ツラナミは一つ息を吸って、玻璃”ニーエ・シュトゥルナ” を展開させた。和頼もパニッシュメントを放つ用意をする。ハガルは手近な木の上へと昇った。無数の魔法陣を空中に描いて、氷の塊を出現させる。央は武器を英雄経巻に持ち替えた。ドロップゾーンの中へと足を踏み入れる。戦闘開始時と何も変わっていない。何も感じない。それならいい――!
「……繚乱!」
 愚神に一気に近づき、央は繚乱を発動させる。薔薇の花弁のような影が相手に襲い掛かった。相手がほんの少しだけ、狼狽える。もう少し翻弄されて欲しかった、と央は思った。そこへツラナミの玻璃が襲い掛かる。ばきばき、と砕ける音がした。玻璃を受け止めた骸骨の右手が崩れた。ハガルが生み出した氷塊が降り注ぐ。骸骨はそれを角から光を放って防いだ。間髪入れず、和頼のパニッシュメントが敵を捕らえた。それらの攻撃を受けつつも、骸骨は再び角にライヴスを集め出した。皆、防御態勢を取る。和頼はすぐ回復できるように準備をして。
 文字で表せないような叫び声をあげて、骸骨は光線を発射した。






 最後の霊石を乗せた軍事ヘリが小さくなっていく。
「搬出完了。予定外のこともあったが、上々であるな」
 ソーニャは胸を逸らした。新兵の頃、こうして軍需物資の輸送にはよく携わった。側ではアルビヌスが大の字で寝転がっている。一刀斎もまた、疲弊していた。
 ソーニャは通信機を手にして、央を呼び出す。
【何でしょうか、ソーニャさん】
 聞こえてきたのは、敬語。
「迫間P。こちらの予定は全て完了した」
【そうですか。こちらも全ての敵を撃破、もちろんドロップゾーンも破壊済みです】
「作戦完了であるな」
 ソーニャは誰にするでもなく、直立不動の体勢で敬礼する。
「――帰投!!」



「一緒に来ないのか」
 迎えに来たヘリに乗ろうとしないハガルに拓海は声をかけた。ハガルは視線を逸らして、口を開く。
「……もう次の依頼が入っている」
「そうなのか」
「それに」
 ハガルは空の向こうを見て、それから地面を見た。肩を落として、ちょっとばかり居心地が悪そうに眉間に皺を寄せる。
「……いや、何でもない」
「そうか。……また、何かの依頼で一緒になった時は、よろしく!」
「……ああ」
 アイスグリーンの瞳を細め――ハガルはそう、返事をした。



●果
『幾つか、欲しかった』
「そやなぁ」
『究極の甘味料が』
「今度、一緒に和三盆買おな」
 迎えのヘリの中、一二三とキリルはそんな会話を交わしていた。窓から地上を見下ろし、一二三は思う。
 リヴィアが考え出した不安定なオーパーツを安定させる方法とは?
 そもそもライヴストーンが見つかりにくい理由は?
「あかんな。依頼に参加しとらんと、浦島状態や」
『これからでも遅くない』
「そやな。――負けられへん戦いが、今! 始まる!」
 ぐっ、と拳を握る一二三に対し、キリルは若干呆れたような様子で言った。
『……もう、とっくに始まっているぞ』
 
 
 
「石目当てじゃ……なかった?」
 和頼の発言に、拓海は目を丸くした。
「ああ、同じようなライヴスの塊に、見向きもしなかったからな」
『でも、他のライヴストーンも先に見つけテ回収しないト同じコト起こるネ』
『そうね。……あれは色々なことに利用出来てしまうし』
 希にメリッサが同意する。と、希がまだぐったりしているアルビヌスへと近づいた。気配を感じたのか、アルビヌスが起き上がる。
「な……なんだ」
 アルビヌスに希はにっこりと笑いかける。そして、両手を差し出した。
『ライヴストーン、分けてヨ!』
「な、何をっ?」
 アルビヌスは目を見開いた。そんな彼に希は更に迫る。
『お手伝いしたシ~、チョットだけデモ分けてヨ~♪ アクセに3個分くらいイイヨネ? 』
「だ、駄目に決まっている!」
 アルビヌスは希から逃げた。
「あの石は――あの石は全てリヴィア様のためのものだ! 全てリヴィア様に捧げ――そして、私の名を覚えてもらうっ」
『エー? じゃあ、西原に頼むヨ!』
「それも駄目だと思うよ……」



 ラルフはノートパソコンでH.O.P.E.への報告書を書いていた。スマホの画像を添付し、送信。本部に帰ったらインスタントカメラも提出しよう。
「……ああいう仕掛けがある相手は、もう二度と相手したくない」
『ラルフお兄ちゃん』
 ちょいちょい、とアキラがラルフの袖を引っ張る。
「何だ」
『結局さ、Ma chouneってどういう意味?』
 アキラは首を傾げる。そんな彼にラルフは意味を教えるかどうか、しばし考えて――。
「――自分で調べろ」
 そう告げて、ノートパソコンを閉じた。


 ソーニャは得られた報酬を計算していた。ふむ、上々だ。これでまた、戦争が続けられる。けれど、この程度すぐに使い潰してしまうだろう。また戦貨を集めなければ――祖国を奪還するまで。
 ――だが、それが終わったら?
「小官は祖国と結婚しているのである。だからそのまま、遅い新婚生活を送るのだ!」
 わざとらしく、ソーニャは笑った。



『きょうりゅう……』
 38がぽつりと呟いた。あ? とツラナミは彼女を見た。
『また、見たい、な……ツラナミ、今度、スワナリア、だっけ……連れてって』
「勘弁してくれ」



 マイヤは壁にもたれて眠る央をじ……と見つめていた。今回の戦いも大変だった。いや、大変でない戦いなどないのだ。戦いと戦いの間――わずかな平穏――その時に、自分はどれだけのことを彼に出来るのだろう。央は、居てくれるだけでいいです、なんて言いそうだけど――。
 とりあえず今は、とマイヤは央を起こさないように寄り添った。




「ねー良いでしょリヴィアちゃん、お願ーいっ」
『マスターがここまで言っているのです。お願いできないでしょうか』
 H.O.P.E.ロンドン支部。地下五階。研究所前。
 リュカと凛道はリヴィアに拝み倒していた。黒い結晶のようなライヴストーンは加工され、球状となっていた。そんなリュカに対し、アルビヌスが吠える。
「ええい、リヴィア様の邪魔をするな!」
「そんな邪険にしないでよぉ、だって気になるじゃん! ねー六花ちゃんも、アルヴィナちゃんも、君島くんも、アークトゥルスくんもそうでしょ?」
 周りに居る彼らにリュカは同意を求める。
「……ん。六花からも……お願い、します」
「ハッピーエンドを見届けたいっす」
 全員をリヴィアは見渡し――口を開いた。
「いいでしょう」
「リヴィア様!」
 アルビヌスが反対する。それをリヴィアは視線だけで止めた。研究所の扉を開ける。中には一刀斎と比佐理が居る。そしてテーブルの上に寝かされているのは黒い人形――黒崎由乃だ。
「……それで黒崎は蘇るのか」
 一刀斎はリヴィアに問いかけた。おそらく、と彼女は答える。由乃の胸の傷を示した。
「本来、ここにはライヴストーンを用いたコアが埋め込まれていました。それを破壊されたから、機能不全を起こし――止まった。なので理論上は、コアを再装着すれば再起動するはず」
 リヴィアはコアを由乃の傷に埋め込もうとして――それを一刀斎に渡した。一刀斎は一つ頷いて――ゆっくりと、コアを嵌めた。
 低い駆動音が聞こえる。
 由乃の全身が微弱なライヴスの光に包まれた。
 少し間が空いて――やがて由乃の目が、開く。
「っ、黒崎!」
 一刀斎は彼女の名前を呼んだ。その黒の瞳が、一刀斎を捉える。由乃は起き上がった。
「……黒ネコ? あれ、由乃ちゃんは、壊れた、はず、じゃ?」
「――黒崎っ!」
 がば、と一刀斎は由乃を抱きしめる。
「わ、わ、黒ネコ、ちょっと苦しいってば!」
「……良かった……本当に、良かったっ……」
 一刀斎の手が小刻みに震える。比佐理も目じりを拭っていた。
 その場に居る全員の心に静かな感動が広がる。今、この空気を壊してしまうのは無粋。誰もがそう思っていたのだけれど――
「リヴィア様に感謝しろ!」
 アルビヌスが胸を張る。アークトゥルスは小さく、今それを主張する場ではないだろう……と言った。
「リヴィア様がその頭脳を持って、お前をよみがえらせたのだ!」
「アルビヌスくん、少し黙りなよ。……すごいね、本当に復活した」
『そうですね』
「獅堂くんと比佐理ちゃんの、愛の力かな。……さて、奇跡の場に居合わせることが出来たし、お兄さんは退散しようっと」
 ふふー、と笑いながらリュカと凛道は研究所を出ていく。
「良かったっすね。これぞハッピーエンドっす」
『ああ。こういった光景は実にいい』
「……ん。……おめでとう」
『良かったわね』
『……皆さん、ありがとうございます』
 小さく、比佐理が礼をする。
「リヴィア殿」
 無言で出ていこうとするリヴィアに一刀斎は声をかけた。彼女は振り返らない。
「感謝する」
「……ついでです」
「足りない! 足りないぞ獅堂一刀斎! もっとリヴィア様に感謝を!」
「アルビヌス。行きましょう」
「お……おお、リヴィア様! ついに、ついに私の名を……!」
 一刀斎、比佐理、由乃を残して皆が研究所を後にする。
「……本当に由乃ちゃんは治ったんだ」
 由乃はテーブルから降りた。改めて一刀斎と比佐理を見る。
「ありがとう。黒ネコ。……これからずっと一緒に居てくれるんでしょ?」
「もちろんだ」
「あ……あと」
 由乃は比佐理を見て、笑って。あの時と同じように、その手を取って。



「これからよろしくね! ……おねえちゃん!」




結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    ツラナミaa1426
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
    人間|26才|男性|生命
  • エージェント
    七文 アキラaa4220hero002
    英雄|13才|男性|ソフィ
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
    人間|17才|男性|防御
  • 革命の意志
    アークトゥルスaa4682hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃
  • 我らが守るべき誓い
    ラストシルバーバタリオンaa4829hero002
    英雄|27才|?|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 黒ネコ
    獅堂 一刀斎aa5698
    獣人|38才|男性|攻撃
  • おねえちゃん
    比佐理aa5698hero001
    英雄|12才|女性|シャド
前に戻る
ページトップへ戻る