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【初夢】IFシナリオ

【初夢】ファンタジーにお邪魔します

影絵 企我

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2019/01/17 18:24

掲示板

オープニング

 この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。

●我らは冒険者
 お色気なんぞ知るかとばかりに鎧を着込んだ女剣士、セーラ。彼女はランプを掲げ、深い洞窟の中を進む。彼女も含めてパーティーは7人。勇者、魔術師に聖職者、弓兵に義賊、ついでに踊り子である。この洞窟の奥に潜むという魔族を討つために、彼らはダンジョンを進んでいた。
「気を付けろよ。この洞窟にはヤバい奴らがいっぱいいるって噂だからな……」
 セーラがそんな事を言っている間に、洞窟の天井がぐらりと揺れる。セーラは咄嗟にランプを掲げた。
「誰だ! 何処にいる!」
 彼女が叫んで剣を抜く。次の瞬間には、鷹の頭を持つ悪魔が天井を突き破り突っ込んできた。
「ふん。ならばこのホークアイの恐ろしさ、知らぬわけではあるまいな」
「貴様は……! 幾つもの城を狙い、本丸を強襲しては城主を殺して大混乱に陥らせてきた悪魔か!」
 やたら説明くさいセリフを吐きながら、セーラは剣を構える。ホークアイはその翼を広げ、風の魔法を次々に放った。風は鋭い刃となり、次々とパーティーを切り裂く。セーラの肩当てを留める革紐が外れ、細い肩が露わになった。
「くっ……今も国では魔族が暴れているというのに!」
 勇者たちへ振り返り、彼女は叫ぶ。
「ここは私に任せて先へ進め! 一刻も早く敵を討つんだ!」
 パーティーの面々は頷くと、セーラが鷹へ斬りかかった一瞬の隙を突き、洞窟の底へと進む。セーラはランプを放り出すと、盾を構えて鷹と睨み合う。
「一人でこの私に勝てると?」
「勝てなくたっていい。……仲間が使命を果たしてくれる」
 セーラは不敵に笑うと、鷹へ素早く突っ込んだ。しかし鷹は突風で彼女を弄び、壁へと叩きつけた。そのまま剣を抜き放つと、セーラへ向かって飛び込む――

●積みゲーもほどほどに
「うわあああっ!」
 青藍は眼を剥いて飛び起きた。冷や汗でびっしょり、Tシャツを胸元に張りつけたまま周囲を見渡す。そこは何の変哲もないアパート。どうやら夢だったらしい。襖を開き、眠い目を擦ったウォルターが姿を現す。
『何だい? また嫌な夢でも見た?』
「う、うん……皆でダンジョンを冒険していて、めっちゃ強い敵が出てきて、このままじゃいつまでも先に行けないからって私が残って……ってどういう夢だよ!」
 夢を冷静に説明していた青藍は、その下らなさに気付いて逆上する。枕を拾ってウォルターに投げつける。
「これが私の初夢か! 鷹出てきたけど! 敵だったよ!」
『そんな事を私に言われても……』
「あー、くそ。前買ったゲーム積みっぱなしだから恨まれてんのかな……」

 青藍は溜め息をつく。しかし彼女はまだ気づいていなかった。彼女と同じ夢を見ていた者達が居た事を……

解説

目標 ゲームの世界で受け持ったロールを全うせよ[()内の要素をプレイングに盛り込む]

ROLL
・勇者
 魔族を倒すために選ばれた勇者。(魔族長に止めを刺す)
・魔術師
 勇者に助言を与える賢者。(勇者を庇って死ぬ)
・聖職者
 魔を祓う為に派遣された僧侶。(魔族を浄化しようとするが、効かなくて驚く)
・弓兵
 勇者の友達。(魔族を一人倒す)
・義賊
 お姫様と禁断の恋をしていた義賊。(お姫様をこっそり救出する)
・踊り子
 森に暮らしていた、癒しの力を持つ踊り子。(誰かの傷を癒す)
・お姫様
 牢屋に囚われていたお姫様。(牢屋に囚われている)
・魔族長
 勇者の住む国を攻撃していた魔族長。洞窟を本拠に攻撃を仕掛けていた。(勇者を圧倒する) 
・魔族×2
 モブ敵(派手にやられる)
・市民×2
 モブ市民(帰還した勇者を称える)

TIPS
・フィールドの指定は特にない。暗くて広いくらい。
・スキルは実際にあるものでもないものでも使える。
・戦闘はあるが特に判定は行わない。与えられたRPの消化を重視すること。
・いくら脱線してもいいが最後には勇者の勝利で終わる事。
・設定はただの前提なので改変してもいいです(魔族との禁断の恋もあり)
・青藍は一足先に夢の世界から離脱したので夢には出てきません。
・人数が足りない場合は魔族と市民役が無くなります。

リプレイ

●仲間の屍を越えていけ
 エデン[プリンセス☆エデン(aa4913)]は、長剣を担いで洞窟の階段を駆け下りる。長く戦い続けた戦友を置き去りにして、彼は厳つい顔をさらに歪めた。しかし、彼女の決意も無下には出来ない。
「セーラ……俺は振り向かない! お前が託してくれた希望を……俺は叶える!」
「いい人だったねぇ、セーラさんは」
 アイリス(aa0124hero001)は背後を振り返って微笑む。イリス・レイバルド(aa0124)は、その小さな身で魔導書を抱えながら頷いた。
「……彼女のことを思うなら、進むしかないですね」
 進むほどに深まる闇の中から、呻き声が聞こえてくる。イリスは勇者の隣に踏み出すと、魔導書を開いて中の古代文字を指でなぞった。
「近くにライカンの気配を感じます。闇の中でも、鋭敏な聴覚でこちらを捉える厄介なケモノ……ですが」
 イリスは掌を天へ掲げる。輝きが球状に展開し、黒い岩肌を眩く照らした。人狼は悲鳴を上げ、壁際で縮こまる。その隙にイリスは身に纏った光を放ち、岩壁と光の壁の間で挟んで狼を押し殺す。容赦のない一撃だが、アイリスは呑気だった。
「いやあ、この明かりは便利だよねえ」
「明かりじゃないです。バリアです。確かに光の魔法なので、明かりにもなりますが」
 勇者のパーティーでは何度も繰り返されてきたやり取り。しかし、一か月前に仲間になったばかりのヴィオ[ヴァイオレット メタボリック(aa0584)]は首を傾げる。
「光の魔法を使う魔術師とはやはり珍しいのう。普通は神官になると思ったのぢゃが」
「ボクが育ったのは王国の端っこの田舎も田舎な土地なので。祖母の代からずっと医術師をやっていたから、そのままボクも魔術としての魔法を学んだんです」
「なるほどのう……わらわ達はそもそも魔法の性質で役目に区別をしたりしないもんじゃが、人間はちがうんぢゃな」
「ボクも王都に生まれていたら神官として……でも、そうなっていたらあの爆発に巻き込まれて死んでいたでしょうし、良かったと思っています」
 そんなやり取りを気が気でない調子で聞いていたのがノエル[ノエル メタボリック(aa0584hero001)]であった。
(全く、嘘つくのも潮時か……前線に出る年でもないだしな……)
 二か月前の戦いで捕らえられた神官エズラ[Ezra(aa4913hero001)]の後釜として王都から派遣されてきた老尼。しかし、現役の頃から異端審問に血道をあげてきたために、本当に大事な浄化の為の修行を怠っていた。典型的な生臭坊主である。それでも魔族長退治の名誉を願って戦いに志願した尼は、部下に作らせた護符や聖水を使って必死に誤魔化していたのである。
 しかし、時ここに至ってそれをとうとう切らしてしまった。一か月前仲間に加えた老魔術師に得体の知れない邪気を感じていたが、結局それを明らかに出来ぬままここまで来てしまった。
(ここに囚われている神官を助ければ、何とか……)
 戦いに加わったという箔だけを受ける事が出来る。光魔術師から向けられる疑いの目をどうかわすか。彼女はもうそれで頭がいっぱいだった。
 そんなこんなで昏い道を進んでいた一行だったが、『猫目』のヴァル[ヴァルトラウテ(aa0090hero001)]が、弓を構えながらいきなり先頭へと飛び出す。
「待つのですわ」
 眼を見開いた彼女は、世界樹から授けられた枝の複合弓を引く。素早く左右へ眼を光らせ、次々に矢を放った。道の彼方で呻き声が響き渡り、角を生やした魔獣が坂道を転げて落ちていく。鮮やかに伏兵を除いたヴァルは、六人を振り返る。
「この先の道が二股に分かれているようですが……どうします?」
「二手に分かれてみればいいんじゃない? この洞窟にはレイ姫様だっているのだし」
 シオン[紫苑(aa4199hero001)]は腕組みして周囲を見渡す。黒い旅装の上からビキニアーマーを着込んで、その身体の線を強調している。エデンは渋い顔をした。
「しかし、あまり人手を割くのは危険だ。七人いれば何とかなるところも、人手を分けたばかりに全滅という事にもなりかねないぞ」
「大丈夫よぉ。片方は私一人だけで行くわ。正直、私は独りで行動する方が色々とやりやすいし?」
 シオンは鎧の懐からナイフを取り出す。魔族と人類の戦いの隙間を縫って、火事場泥棒を続けてきた盗賊。忍び足の技術なら、当代一だ。
「しかし」
「こんなところで私が死ぬと思ってるわけ? 大丈夫よ。さっさとそっちに行って来て」
 エデンの口を制すると、シオンはとっとと階段を下ってしまった。呼び止める暇もなく、暗闇の中へと彼女は消えてしまう。アイリスはからから笑うと、ふわりと飛び上がってエデンの肩を叩いた。
「大丈夫だろう。恋する女は強いものだよ」
「……仕方ない。彼女を信じよう」
 エデンは頷くと、もう片方の道を先頭切って駆け下りていった。

●夢の中で踊ってみたい
 シオンが大好きなのはお金だった。貧しいばかりに親もきょうだいも失った彼女は、あらゆる手練手管を尽くして男を誑かして大金を毟り取ってきた。魔族の襲撃も彼女の稼ぎ場、城から城へと渡り歩いて火事場泥棒を繰り返していた。
 しかしある日、魔族に人質として連れ去られようとしていた姫を見かけた彼女は、うっかりときめいてしまう。その姫の美貌は、どれほどの大枚にも代えがたく思えたのだ。
「そうか、男で満たされなかったワケ……ようやく分かった」
 そんな事を呟きながら、彼女は各地を転戦して戦功をあげる傭兵団に潜り込む。全ては姫をこの手へ盗み出すために。
 というのは、建前で。
「わあ、すごーいこの胸!」
 紫苑はすっかりこの世界が夢と気付いていた。気付いた上ですっかりこの世界に順応し楽しんでいた。鎧がきつくなるくらいの胸を突っついては楽しんでいる。
「さあて。ここは夢の世界なんだから、この坂道の先にはお姫様が囚われている牢屋があるよねえ……」
 テンション高まる紫苑は、そのまま一気に階段を駆け下りていった。

 その頃、神官エズラは牢屋の中にいた。牢屋と言っても、一切陽の光が届かない以外は随分と小洒落た装いの空間だ。扉こそ鉄格子で塞がれているが、四隅のランプが煌々と部屋を照らしているし、隅には軽く湯を沸かすための竈まである。用を足す場所も分けられていた。むしろ丁重に扱われている。
「お茶が入りましたよ、姫」
 エズラも、何となくこの空間が夢であるような気がしていた。さりとて脱け出す手段も分からない。となると、いつも通り、“お姫様”に執事役として世話をするばかりだ。
「たまたま茶葉を持ち合わせていたので、紅茶を淹れてみました。いかがでしょうか」
 中央の丸テーブルに向かって座っている姫――レイ[バルタサール・デル・レイ(aa4199)]の傍に歩み寄り、エズラは紅茶の入ったカップを差し出す。濡れ羽色の黒髪をさらりと揺らし、レイ姫はそっとカップを手に取った。
「ありがとう」
 少し力を入れれば、折れてしまいそうなほど華奢な容姿。瞳はいつも潤んでいて、ひょっとすると幻なのではないかと疑ってしまうほどに儚げな見た目をしている。まあ夢ならば幻なのだが。
「やれやれ。これからどうしたものか……」
 エズラは手持無沙汰に部屋を見渡す。住み心地の良い空間だが、鉄格子は余りにも固く、周囲も堅牢な岩肌だ。脱け出す手段は見当たらない。
「食事や寝床が良くても、日の当たらない生活では身体に差し障る……」
 そんな事を思った矢先、いきなり鉄格子がカチャカチャ鳴り、突然扉が開け放たれてしまった。
「はーい! 待ったーお姫様?」
 飛び込んできたシオンは、決めポーズを取りながら姫へと手を振った。
「シオン! 助けに来て――」
 突然の闖入者に、安堵の笑みを浮かべて歩み寄ろうとしたエズラ。しかし乱暴に弾き飛ばされてしまう。
「いやーん。やっぱり可愛い! 名前は?」
「……レイ、と申しますが」
 シオンのずけずけとした質問に、思わずびくりとしながら姫は答える。その名前を聞いた瞬間、紫苑は目を見開いた。
「え、レイってことは、もしかして……」
 あの冷徹なるオッサンだ。何がどうなったかわからないがこうなっている。その事に気付いた紫苑は、いよいよ喝采してレイ姫に飛びついた。
「可愛い~何これ。たのしー!」
 シオンにもみくちゃにされながら、レイは一瞬我に返りそうになる。バルタサールになりかける。しかし、自分がなよなよした姫になった上に、明らかに紫苑らしき女に慕情を向けられているという状況が全く理解できない。
 結局彼はそのまま成り行きに身を任せる事にしてしまった。そんなわけで黙り込む姫を引っ張り立たせ、ついでにエズラにも手を伸ばす。
「さあ、とっととずらかっちゃおうね!」

●相剋
 魔族長ロート[赤城 龍哉(aa0090)]は、暗闇の中で目の前に剣を突き立て、静かに目を閉ざしていた。耳を澄ませば、激しい足音が聞こえてくる。
「滅ぶのは、我らの住まう地ではなく、我々自身であったという事だろうか」
 ロートは呟く。民を守るため、彼はあらゆる手を尽くした。政情の機微に疎い所のある前任の魔族長を廃し、人間の世界を切り取る強硬策を貫徹しようとした。しかし、その間にも次々と魔族の者達は力を喪い倒れていく。その間に広げた戦線は切り離され、世界の端まで追い詰められていく。
「エデン。それでも我らは負けるわけにはいかない」
 外界の存在と手と手を取り合う間もない程の早さで訪れた滅亡の時。それでも、それを座して待つわけにはいかなかった。
「お前にはここで死んでもらう」
 正面から戦っても、五分で勝機はあると踏んでいた。しかし、それを十全とするために、彼はエデンの率いる傭兵団に間者を仕込んだ。それが、前魔族長でもあるヴィオであった。老女の動向は魔力を通して伝わってくる。戦いの中で生まれた僅かな隙を突き、神剣に赦された英雄を弑する。それがヴィオに与えた役目であった。
 ロートは溜め息をつくと、おもむろに立ち上がる。深紅の輝線が脈打つ黒曜色の鎧が、歪に光った。
「悪く思うな。人間の英雄」
 彼が言い放った瞬間、エデン一行が広間に駆け下りてきた。筋骨隆々の英雄は、神剣ナルヤを抜き放つ。
「これで最後だ。スライン」
「ならばここまで辿り着いてみせろ」
 ロートの親衛隊が刃を抜き放って飛び出す。ヴァルは真っ先に動いた。鋭く弓を引き、兵士の一人に狙いを定める。
「ノエル様! いつものように、魔血に束縛の行使を!」
 ヴァルは叫ぶ。神官の操る光の魔力は、魔族の血を引く者を縛り付けるのだ。しかし、ノエルはあたふたしながら杖を掲げる。
「ひ、光よ、闇の眷属を、鎮めたまえ……」
 どうにも力強さに欠ける口上。当然祈りが通じるはずもない。剣を構えてそのまま突っ込んできた魔族。エデンは咄嗟に飛び出し、輝く刃で敵の斧を受け止めた。
「ノエル様! 大丈夫か!」
 エデンは振り返る。単なる不調だと露も疑っていない。その真っ直ぐな視線に当てられ、ノエルは全く縮こまってしまった。
「効かねえ……やはり駄目だす! ごめんだ!」
 ノエルは杖を放り出すと、そのまま背を向けて広間を飛び出してしまった。
「ノエル様ぁ!?」
「ははっ。ついに馬脚を現したというところかな?」
 アイリスは手を広げて宙へ浮かび上がり、その背中の翅から光の粒を舞わせる。突然の事態にエデンがヴァルの盾代わりになってしまっているが、アイリスの光が彼の生傷を癒していた。
 森を訪れたエデン達に、アイリスは手を貸した。戦いの中で死んだら、そのまま森に埋まって礎となってもらうという約束で。だからと言って、手を抜くつもりはない。
「はい、踊り子には手を触れない」
 翼を広げて飛んできた野獣に、
「まあ、触れさせるつもりもないのだがね」
「妖精さんも戦ってくれればいいのに」
 イリスは光のバリアを刃代わりにして振るいながら、お決まりの文句を言う。アイリスは翅をふわりとはためかせた。
「妖精に殺生を望むものじゃないよ」
 清らな存在だから? 否、そういう訳ではない。自然は生死の循環で出来ている。血と死を穢れと見るのは人間の穿った感覚に過ぎない。では何故なのか。
「何せ非力なイメージで通しているんだからね」
 アイリスは得意満面の顔で言い放った。夢の外では剛力剛腕で剣盾揃えてぶん回している妖精さんだが、ここでは猫を被りきるつもりらしい。
「すみません! 遅くなりました!」
 そうこうしている間に、杖を構えたエズラが広間へ飛び込んでくる。杖を構えると、嵌め込まれた宝玉から激しい光を放った。それを目にした魔族達は、叫びながらその場で足を止める。
「感謝いたしますわ。これなら……!」
 ヴァルは改めて弓に何本もの矢を一斉に番える。目の前の魔族達に狙いを定め、次々にその眼や首を撃ち抜いていく。反撃の魔法弾が飛んでくるが、ヴァルは軽快に横っ跳びで躱し、反撃の一矢で撃ち抜いてみせた。ふと微笑み、ヴァルはエズラを迎え入れる。
「やはりエズラの『鎮圧』は強力ですわね。無事そうで何よりですわ」
「ええ何とか。シオンに助けていただきました」
「彼女は?」
「姫を安全な所へ連れていくとか何とか……」
「確かに、その方が彼女にとっても安全かもしれませんわね」
 ヴァルは頷くと、弓を構えて正面へ向き直る。彼女とエズラのコンビネーションで、既にその姿が見えるはロートのみだ。
「終わりだ、ロート!」
 エデンは剣を抜き放つと、ロートへと狙いを定めて一気に間合いを詰めていく。空高くに跳び上がり、そのまま剣を叩きつける。ロートは左手の平で刃を受け止めると、右手に構えた剣でエデンの脇腹を斬りつけた。金属製の胸当てが、あっという間に凹む。
「ぐっ……!」
「今の俺は、全ての命を賭してここに立っている。やすやすと断てると思うな」
 全身に闇の魔力がみなぎり、エデンを呑み込もうとする。エデンは咄嗟に剣を払い、間合いを取り直した。エズラは杖を構えると、ロートへ光を放つ。しかし、彼は魔剣の一振りで光を斬り払ってしまった。
「温い。その程度で俺の闇を払う事など出来るものか」
 ロートは唸る。エズラは唇を噛んだ。下級魔族は易々と押さえつける彼も、魔族長を縛るほどの力はまだ身に着けていなかったのだ。
「……申し訳ありません。私では力不足のようです」
「大丈夫だ! ここまで戦ってきたんだ。このまま一緒に最後まで戦い抜くぞ!」
「お優しい英雄様だ。しかし、俺は情けを掛けんぞ」
 ロートは魔剣を天へと振り翳す。次々に放たれた闇が形を取り、旅の一行を取り囲むように襲い掛かった。
 背後から飛び掛かってきたケモノを、エデンは素早く打ち倒す。しかし、ロートの突き出した刃がエデンの胸元へと迫っていた。
「させない!」
 全身にバリアを纏わせ、イリスが飛び出す。その全身を盾として受け止めんとした少女であったが、闇の刃は易々と光を突き通し、イリスの腹を貫いた。
「あっ……」
 イリスの口から吐息が漏れる。戦場で死を迎えた者が洩らす、断末魔の息だ。その場に崩れて膝をついた彼女に、エデンは思わず駆け寄る。
「イリス!」
「これは……もう」
 ロートは剣を地面に突き立てると、イリスを抱えるエデンを見下した。彼は宙を舞うアイリスを見上げて叫ぶ。
「アイリス!」
「残念だが、そこまで深手では癒すより先に死んでしまうね」
「そんな……」
 取り乱すエデン。ロートは黙り込んだまま、背後に立つ老魔導士に目を光らせた。
(やれ)
 哀しみに囚われたとしても、彼は英雄。敵が動いたとなればすぐに立ち向かうだろう。しかし、仲間に対してはどうか。今が最大の機会だった。
(分かっておる。あやつを殺さなければならんくらい……ぢゃが)
 暗器を抜いたヴィオは、闇の魔力を解き放って一気に飛び出す。エデンではなく、ロート目掛けて。
「魔族長、お主も何処かでわかっておろうが……!」
 決死の突撃。しかしロートは渾身の一撃をヴィオに叩きつけ、あっさりと切り捨ててしまった。ロートは魔剣を握りしめ、忌々しげに呟く。
「だからと言って民を見捨てる訳にいくものか」
「ヴィオ!」
 地面に投げ出された老婆を見て吼える。イリスは震える手を傷に当てると、バリアで無理矢理傷口を塞いでしまった。歯を食いしばって、彼女は静かに起き上がる。
「……エデンさん。終わらせましょう。……ボクも、この命が尽きるまで、殺し尽くす」
 イリスは魔導書を放り投げた。全ての頁が光を放ち、地底を眩く照らし出す。金色の鎧を纏い、金色の刃を手にした彼女は、闇から這い出すロートの眷属を睨みつけ、素早く襲い掛かった。エデンはその背中を見つめると、唇を結んで神剣を再び手に取る。
「わかった。……覚悟するんだ、ロート。お前達は、俺が終わらせる」
 ロートは黙って剣を構える。輝線が一際強い光を放った。エデンは鋭く踏み込む。神の剣と魔の剣が交錯し、互いを呑み込もうとする。アイリスの癒し、ヴァルの援護射撃を受けながら、勇者は強大な敵へと必死に食らいつく。
「燃えよ、剣!」
 エデンは自らの魔力を込め、ロートに渾身の力で叩きつけた。ロートはいとも簡単に払い除けてみせたが、追撃を見舞う前にその足が崩れた。
「ぐっ……」
 ロートの呻きを聞き、エデンは顔を顰める。勇者も分かっていた。この魔族長も、命を削り、自らの民を守るために戦っているのだと。これは正義の戦いではない。ただの戦争。生存競争なのだと。
「悪いが、討たせてもらうぞ、ロート!」
「……させるか! 俺は、予言を打ち砕く。この魔剣ヴァニシングザンバーを以て!」
 ロートは獣のように唸り、剣を大上段に振りかぶった。地面が裂け、次々に闇の刃が飛び出してくる。エデンは剣を振るいながら突き進む。闇の刃を砕きながら、ロートの胸元へと迫った。
「これで、終わりだ!」
 エデンはロートが振り下ろすよりも早く、剣を薙ぎ払う。黒曜の鎧が砕け散り、ロートの胸は引き裂かれた。
 魔剣を取り落としたロートは、その場にがっくりと崩れ落ちる。

「……精々、富み栄えるがいい。人間」

 ロートは地面に倒れ伏すと、そのまま自らから溢れる闇に呑み込まれて消滅した。

●凱旋せよ
「イリス!」
 戦いを終えたエデンは、真っ先にイリスの下へと駆け寄った。旅を始めた頃からの大切な仲間。その命が、今まさに失われようとしていた。
「そんな……俺がもっと強ければ」
「大丈夫。もう全部終わったんです……アイリスさんの森で、花となって生きるだけ……」
 魔力を使い果たしたイリスの身体からは、脈々と血が溢れてくる。その身体も徐々に冷たくなりつつあった。
「……それは、未だ早い」
 しかし、ヴィオはのろりと立ち上がる。杖を突きながらイリスの下へと歩み寄ると、彼女の胸元へと手を翳した。
「世の中は変わっていくものぢゃが……少しは聞いてくれんか」
 ヴィオの身体が砂へと変わっていく。彼女は語った。人間であった頃の時分を。闇の魔力を受けて変性し、そのままゴブリン族稀代の女王として生きた半生を。
「こんなわしも、若い頃があった。もっと力は強く、ゴブリンの長として、魔族の諸氏を治めた事もあったのぢゃ。だから、本当は魔族として、エデン。お主を討つつもりでもあった」
 流れ込む闇の魔力は、イリスの身体を見る間に癒していく。虚ろだった少女の眼に、光が戻っていく。
「ヴィオさん……?」
「ぢゃが、旅をするうちにその気も失せてしまってのう。特にイリス。お主はまだまだ見込みがある。ぢゃから全てを託そう」
 イリスは起き上がる。しかし同時に、ヴィオは砂となって崩れ落ちた。

――光と闇を併せ持つその命、扱い方に気を付けるのぢゃぞ。

 何処からともなくヴィオの声が響き、闇の中へと消えていった。



 数刻の後。イリスはアイリスと共に、高台から一台の馬車を見下していた。勇者エデンと、レン姫、その他ご一行が城へ凱旋しようとしていたのである。
「行かなくて良かったのかい?」
 アイリスは尋ねる。イリスは頷いた。
「ボクはそういうの、苦手だから。……それより、結局セーラさん、見つからなかったね」
「生きていれば、そのうち会えるだろう。死んでいたなら……森の栄養になって、若葉として転生してこんにちは、だね。この戦いで死んでいった者達、皆がそうだ」

「祈りを捧げてやろう」

 妖精と幼き賢者は、黙って目を閉じるのだった。

●夢なんだから覚めて
「うーん、うーん、なんであたしがこんなに毛深いの……?」
 エデンはしかめっ面のまま、その手を天に掲げて呻く。随分はっきりした寝言である。隣のベッドで寝ていたエズラは思わず目を覚ましてしまった。
「可愛くない……キュートなあたしが、消えて……」
 傍を見ると、エデンは初夢にもがき苦しんでいる。エズラは肩を竦めると、そっとベッドを降りた。
『どうやら夢も現実も、あまり変わりなさそうですね……』

 いつものように起き抜けの紅茶を淹れるべく、エズラは台所へと向かった。

 END

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
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