本部

【終極】連動シナリオ

【終極/機抗】覚悟の前における在り方

雪虫

形態
ショートEX
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/12/24 17:47

掲示板

オープニング


「次は無理かもしれないな」
 一人のブラックボックスがそんな事を呟いた。感覚として分かる。邪英化が近付いている。傍らにいたドレッドノートが無表情のまま声を掛ける。
「降りるか?」
「いや、行くさ。大佐だって己の身を懸けているのに、下っ端の俺達が降りる訳にはいかないだろう。先に逝った連中にも申し訳が立たないし」
「それに今更RGWを外しても、俺達ヒラは五体満足で動けなくなるのは確定だしな」
 もう一人のブラックボックスは笑いながらそう言った。彼もまた次の戦場が死に場所になると覚悟していた。ブレイブナイト二人も頷く。ドレッドノートが頭の後ろで両手を組む。
「俺はもう一回は行けるかな」
「行けるのであれば行ってくれ。あのエージェント達が言っていたように、敵を倒す機会を稼げるならその方がいい」
 その言葉に他のGLAIVE兵も……次を死に場所と定めている兵士達も頷いた。ドレッドノートはにやりと笑い、もう一人の男の肩を叩く。
「そんじゃあ俺らは生き延びようぜ。その次が死に場所だ。マニーの奴もまだ行けるよな」
「あの金の亡者も入れるのかよ」
「でもこの前、飴持ってきたぞ、タダで」
「そりゃ、次の戦場では槍が降るな」
 兵士達は大声で笑った。彼らに悲壮感はない。装備を見直し、これが最後になるだろう寝床へと別れを告げる。
「それじゃあ俺達が逝く時は、黙って見送ってくれよ」
「代わりに俺達が逝った時は、笑顔で歓迎してくれよ」


 “インターディクト”。GLAIVE制圧の為に開発されたグレネード型AGW。ライヴスの活性を乱し、強引に共鳴を解除する事が出来る。通常のリンカーであれば再共鳴して終わりだが、GLAIVEはRGWと改造手術により心身を酷使している。これを使えば到底共鳴を維持出来ないレベルの大ダメージ……すなわち重体となって倒れ伏す事になる。
 もちろん重体になるという事は、そのまま攻撃を受ければ死亡、あるいは邪英化するという事である。そして彼らは邪英化した際は自爆する設計を施しているらしい。つまりインターディクトを使ったら、重体となった彼らを即刻保護せねばならない。――死に向かおうとする彼らを止めたいと思うのであれば。
「僕は衛生兵だ」
 プリセンサーが愚神出現を予知し、エージェント達はバスに乗ってカナダのケベック州へと赴いていた。その最中、戸丸音弥はそんな事を言い出した。
「命を守る為に動く、それが僕の在り方だ。もし僕の在り方がGLAIVE達の在り方を、覚悟を否定するものであろうとも、僕は僕の在り方を貫き通したいと思う。彼らの在り方を否定する権利が誰にもないと言うのなら、僕の在り方を否定する権利も誰にもないはずだ。
 だが、もしそれで君達に危険が及ぶと言うのなら、僕は君達を、仲間を優先させる。それもまたH.O.P.E.の衛生兵である僕の在り方だから。だから君達も、君達の在り方を貫いて欲しい。僕はH.O.P.E.の衛生兵として、その上で判断して動く」
 以降音弥は押し黙った。GLAIVEと遭遇するかどうかは分からない。だが遭遇する可能性は極めて高い。故に音弥は決意した。迷っていては、仲間達を危険に晒す事に繋がるから。
 現場は崖の上だった。崖下には村がある。プリセンサーによれば愚神はここに出現し、崖を滑り降りて村に侵入するらしい。出現場所が崖上だったのは不幸中の幸いだ。ここで撃破出来れば村に被害を出さずに済む。
「またお会いしたであります」
 木々の間からマニーが、そしてGLAIVE達が姿を見せた。エリ―湖で遭遇したのと全く同じ面子だった。音弥が彼らに短く問う。
「君達の中に、今回邪英化しそうな者はいるか」
「四人程。場合によっては全員だな」
「ここは僕達に任せて下がれ」
「断る。お前らにもお前らの立場があるだろうが、俺らにだって俺らの理由がある。お前達こそ」
 ドレッドノートの言葉は轟音に遮られた。急に空から、巨大な機械のようなものが降ってきた。地震のように足下が揺れ、驚いた鳥達が羽ばたいてく。
 落ちて来たのは例えるならロボットのようなものだった。多数の戦車を滅茶苦茶に切って無理矢理継ぎ合わせたような、不格好な機械人形。継ぎ接ぎの装甲の奥に見える二つの赤い光を瞬かせ、機械は告げる。
「テギ、排除、シマズ」
 そしてハッチが一斉に開き、球体……否、爆弾に足を付けただけの機械型従魔が飛び出した。突破されれば村に爆弾が降り注ぐ事になるだろう。
 またエージェント達に選択が迫られる。

●インターディクト
 射程1~10sq。メインアクションで使用。着地点を中心に範囲3の無差別爆発を起こし、同時に共鳴を強制解除/GLAIVEは重体となる(爆発によるダメージはない/従魔や愚神への効果はない)
 なお邪英化が開始した場合、共鳴よりも遥かに強力な融合が始まってしまうため、インターディクトで解除は不可能

●GLAIVE
 全員改造手術とRGWによりスキルが強化されているが、通常攻撃で1d6、スキル使用で3d6邪英化へと近付いていく。数値が60に達した所で邪英化が開始し意識が徐々に蝕まれ、3R経過で完全に邪英化/自爆する(範囲2に無差別特大ダメージ)。この場合の邪英化解除手段は邪英化開始~自爆までの間に重体にし共鳴を強制解除する事のみ(邪英化開始後は自発的な共鳴解除は不可/上記の通りインターディクトも効果はない)
 なお重体時に攻撃を受け死亡判定に突入すると即邪英化・即自爆する
 基本的にエージェントを攻撃しないが攻撃・口撃された場合反撃・回避はする。戦闘不能時は捕縛/H.O.P.E.に連行可能。捕虜となった者に関しては他GLAIVE兵は奪還しないが、その後のPCとの会話には応じない。愚神討伐後は即撤退する
 
 ブレイブナイト×2(剣装備)
・モーロンラベ×2
 守るべき誓い強化
・ガーディアン×3
 ハイカバーリング強化。さらに遠く、さらに強固にカバーリング可

 ドレッドノート×2(大剣装備)
・アサルト×3
 ファースト。使用R、全力移動後に攻撃可
・アヴァランチ×1
 怒涛乱舞変化。物攻を+100し、攻撃によって敵を倒した場合、続けて再度移動と近接攻撃可

 ブラックボックス×2(本装備)
・フーディーニ×3
 時空を歪め、指定対象(敵味方問わず)との位置を入れ替える
・アウグストゥス×2
 リアクション。岩壁を精製しダメージを完全に防いだ上に、攻撃者の身体もしくは武器を取り込み1R【拘束】付与

 マニー・マミー
 左手の機関銃で遠距離攻撃、両義足の仕込み刀で近距離攻撃を行う。「姿をリンカーの目からも消すスキル」「回避を下げるスキル」を有している

解説

●目標
 村の防衛(村に愚神・従魔が入ってしまえば失敗)

●戦闘区域
 配置は以下。昼。視界良好

木  愚  木 ☆:PC初期位置(タンクまでの距離30sq)
木     木 ★:GLAIVE(同上)
木 ★ ☆ 木 愚:タンク(崖までの距離50sq)(戦闘開始時、周囲に爆弾兵×6がいる)
木     木 ・:崖(ここから落下すると上って復帰するのに3Rかかる)
・・・・・・・
村村村村村村村

●敵情報
 タンク
 ケントゥリオ級愚神。全長5m。防御と生命が高く、回避行動不可。砲台とハッチが各6個ついている/ある程度攻撃すれば破壊可能だが、砲台やハッチへのダメージはタンクの生命力には影響しない
・一斉射撃
 6つの砲台から砲弾を放つ。射程1~20sq(この砲台はタンク本体の周囲を移動可能)
・爆弾兵
 毎Rハッチから爆弾兵を1d6投下(残存ハッチ数以上の爆弾兵は出せない)。爆弾兵は1R10sq村方向へ直進し、何かに衝突すると爆発/範囲1に5の固定ダメージ付与
・重き歩み
 1Rに5sq進む。非常に重いので歩みを止める/後退させる事は難しい

●NPC
 音弥&セプス
 適宜PC、必要があればGLAIVEの回復を行う。PCの方針に従うが、意見が割れた場合は村とPCの安全を最優先する
 スキル:ケアレイ×3/ケアレイン×2/リジェネーション×2
 武器:アサルトライフル/禁軍装甲

●補足事項
・最初のGLAIVE達の会話はPL情報
・戦闘開始時GLAIVEは固まっているが、戦闘に入ると散開する
・ブレイブナイトとブラックボックスの「邪英化に近付いた数値」は30を超えている
・「ブレイブナイトとブラックボックスが邪英化しそう」は、「【終極/機抗】墓標の前における在り方」から推測出来る(PC情報)として扱ってよい
・今回GLAIVE全員が邪英化する/死亡する可能性は十分ある
・エージェント達が乗ってきたバスは戦闘区域から50sq先にある

リプレイ


 バルタサール・デル・レイ(aa4199)はSSVD-13Us「ドラグノフ・アゾフ」を出現させ、GLAIVEには目もくれず愚神へと狙いを定めた。
 インターディクトは使用せず、GLAIVEとは共闘する……エージェント達の方針はその方向で一致した。GLAIVEとの擦り合わせは、バルタサール以外の誰かが買って出てくれるだろう。
『君がやってもいいんじゃない? 出来なくはないだろう?』
 共鳴している紫苑(aa4199hero001)が茶化すように言ってきた。バルタサールはメキシコにあった麻薬カルテルの元幹部で、目的の為なら優しい笑みを浮かべ、優しい言葉で相手と接する事も出来る。紫苑の言う通り、GLAIVEとの交渉だってやろうと思えば出来るだろう。
 しかし。
「面倒だ」
 その一言で切り捨てて、バルタサールはハッチ三つを視界に収めた。有用な範囲攻撃スキルは持っていないが、まあ、なんとかなるだろう。
 ガンガンガン、と連続で狙撃銃が音を立て、三つの弾丸は全く同時にハッチの蓋へと叩き込まれた。元々の高火力に加え、ハードアタックでさらにダメージを上げている。一撃で破壊とはいかないようだが、今の攻撃だけでもかなりのダメージを負わせる事には成功した。
 共鳴したダレン・クローバー(aa4365hero001)は、ハッチから煙を上げる愚神を見据え目を細めた。手にはショットガン「イフティヤージュEX1」。自身と敵との距離を測りつつ、ダレンはぽつりと音を零す。
『機械、か』
「(ダレン? 気乗りしないのかい? ボクが変わろうか)」
『いらない』
 エリカ・トリフォリウム(aa4365)の申し出をダレンはそっけなく断った。この赤い散弾銃ではわずかばかり距離が足りない。駆け出す直前、ダレンは仲間のエージェント達とGLAIVEへと端的に告げる。
『今回の雨は、不定期。声を上げた時、警戒を』
 しわがれた声でそれだけ残し、そしてダレンは駆け出した。十一歳程の小柄な少女。だが愚神を見据える瞳は鋭く、その色は鮮血の如く赤い。
『まずは、ハッチを、壊そう』
 瞬間、多数の小さな弾丸が放射状に放たれた。弾丸は先程バルタサールが攻撃した内の一つを撃ち叩き、半ば以上潰れたそれを完膚なきまでに破壊する。
 プリンセス☆エデン(aa4913)はこう思う。GLAIVEは自分の命を賭けてでも愚神を倒す覚悟ができているのだし、それを間違っているとか言うことはできないし、止めることもできないと思う。
 村の防衛よりも、GLAIVEの命を優先するのは、GLAIVEの決意を意味のないものにしてしまうことになる。
「(だから、インターディクトは使わないで、今回も共闘を選ぶよ)」
『(お嬢様)』
 内側でEzra(aa4913hero001)が気遣わしげな声を上げた。エデンはごーいんぐ・まい・うぇいな、ゴキゲンなお気楽娘だが、優しい心を持っている事をEzraはよく知っている。GLAIVEの思いを尊重しようとするエデンの気持ちは分かる。だが、それでもしGLAIVEが死んだりしたら、きっとエデンは悲しむだろう。
「(大丈夫だよEzra)」
 エデンは逆にEzraを気遣うように明るく言った。彼らの思いは尊重する。けれど死ぬのを黙って見送ろうという訳でもない。
「スキルはあたしたちがガンガン使うから! 緊急時以外はあんまりスキルは使わないでほしいな……。特にブレイブナイトとブラックボックスは!」
 スキルを使えばより早く邪英化する。だからスキルはなるべく使わないようにお願いする。もちろん、ただお願いするだけじゃなく、このような案も提示する。
「あと、爆弾兵の処理をお願い出来ないかな。タンクより爆弾兵の方が移動が速そうだから。爆弾兵が村に入る前に、爆発範囲内に人がいないタイミングで、銃撃したり、木を転がしてみたり、石とか投げてみたりすれば爆発させられると思うんだ。
 それで爆発させられるならスキル使わなくてよさそうだし、GLAIVEには優先的に爆弾兵の対処をやってもらえないかなー……なんて」
「木や石を探している時間が惜しいであります」
 マニーからの即答にエデンは一瞬眉を下げた。だが、次に続いた言葉がエデンの憂いを少し晴らした。
「ただし爆弾兵の処理は請け負うであります」
「マニーと俺達ブラックボックスが、だがな。近接組四人がやったら爆発に巻き込まれるだろうし」
「うん……うん! それでいい! ありがとう!
 ありがとうついでに、みんなで生き延びたらさ、打ち上げで食事に行かない? みんなのこと、色々と聞いてみたいな……」
「生き延びたらな」
 ぶっきらぼうだが、GLAIVEの一人がそう返した。その答えだけでも今は十分だ。
 エデンは「絶対だよ!」と言い残し、全力で愚神に駆け出した。今の位置では攻撃が愚神の下まで届かない。
 
「神様っているのかな……」
 秋原 仁希(aa2835)は出し抜けにそんな事を言い出した。既に共鳴している為、グラディス(aa2835hero001)は内で肩を竦める。
『さぁね。いたとしても、神はヒトを救うんじゃなくて導くものだよ』
「そっか……」
『そうだよ! だから僕らは後ろを想いつつ前を見て進まなきゃいけないのさ!』
 グラディスの快活過ぎる声を耳にしつつ、戸丸君、と仁希は音弥を呼んだ。顔を向けた音弥に、仁希は端的に指示を出す。
「エージェントの回復を頼む。俺はGLAIVEの方を請け負う」
「分かった」
 そして仁希は遠距離組ラインに立ち、戦場の全体を観察する事にした。
 インターディクトを使用しない、つまりGLAIVEの行動を止めない以上、今回は邪英化が出ると考えていいだろう。また愚神も当然警戒する必要がある。正確には、最も間近な脅威は爆弾兵になるだろうが。
 なので仁希は遠距離組ラインに立ち、万が一の事態に備える事にした。具体的には爆弾兵が遠距離組ラインを超えた場合は、体当たりをしてでも爆弾兵を止められるように。同時に傷付いたリンカー達をいち早く治療出来るように。

『(大丈夫なの?)』
 脳に響くウェルラス(aa1538hero001)の声に、水落 葵(aa1538)は「大丈夫だって!」と軽快に言葉を返した。手には幻想蝶から取り出した賢者の欠片が一つある。
「いざとなったらこれを使うし、それに祈りの御守りだって」
『(ないけど)』
「は?」
『(祈りの御守りなんて、ないけど)』
「……忘れてきたな」
 共鳴状態でウェルラスがこれ以上なく騒ぎ始めた。葵が「分かった。悪かったって。だからおっさんと呼ぶなって」と耳を塞ぐ真似をする。
「大丈夫大丈夫。なんとかなるって」
『(その謎の自信はどこから湧いてくるの!? ……あ、言わないでいい)』
 ウェルラスが諦めたように呟き、葵は口内に欠片を含みつつ守るべき誓いを展開した。そして距離を埋めるべく愚神の下へと走り出す。
 朱殷(aa0384hero001)と共鳴したHAL-200(aa0384)はマニーの方を一瞥した。マニーの機械化された左目と、人工的に光輝くHALの両目が交差する。
「おじさんはあたしと同じだね。なんにもないところが」
「そうでありますか」
「うん」
 にこっと、人形めいた笑みを浮かべ、そしてHALもまた地を蹴った。何か自分に似ているな、とHALはマニーに対してそのような感想を抱いている。
 だがまあとりあえずそれだけで、それ以上の何かがあるのか否か、それを細工染みた風貌から伺う事は叶わない。GLAIVEの理念については、HALは深くは理解できていない。「共闘できるのは戦力アップでラッキーだな」くらいに思っている。
「どっちにしても、やることやる、だよね」
 全力移動するHALに続き、GLAIVEの近接組も同じく全力で愚神に迫る。マニーとブラックボックス、そして音弥の攻撃により、四体の爆弾兵が一斉に破裂した。エージェントとGLAIVEがそれぞれ距離を埋める中、愚神は……タンクは、六つの砲台をガチリと回し、自分に向かって駆けてくるリンカー達に狙いを定める。
「テギ、排除、シマズ」
 耳障りな音と共に、砲台から一斉に六つの砲弾が放たれた。砲弾は宙を切りながら目標へとひた奔り、ブレイブナイトとドレッドノート、そしてHALとエデンに当たる。
「きゃあ!」
 防御の高いHALは微動だにもしなかったが、自身を「かよわい」と称するエデンは自称通りに吹き飛んだ。攻撃された六人は全力で愚神に迫っていた。当然、真っ先に愚神の射程に入る事になる。
 愚神の行動はそれで終わらず、残っているハッチから爆弾兵を四体落とした。最初にいた爆弾兵が六体、音弥とGLAIVE三人が破壊したのは四体、つまり現在の爆弾兵は計六体に戻っている。
「やはりアレを先に処理した方が良さそうだな」
 バルタサールはさして慌てもせずに呟いて、大して面白くもなさそうに銃口を再びハッチへ合わせた。弾が直線に飛んで衝突し、二つ目のハッチを使用不可能に追い込む。
 ダレンも引き続きショットガンを、先にバルタサールが攻撃した残り一つのハッチに向け、撃った。衝撃に耐えきれず蓋が紙のようにぐしゃりと潰れる。これで三つが破壊された。タンクは砲台をギチリと動かし、先と全く同じ六人へ砲弾を差し向ける。
「防御弱い人はあたしの後ろにいてね」
「それじゃあお言葉に甘えて!」
 HALの有り難い申し出にエデンは有り難く滑り込んだ。エデンがHALの後ろに入った、と同時に砲弾が二発HALを正面から叩き撃つ。だが、爆風が晴れた先のHALはけろりとしており、白磁のような肌の上には傷の一つも見当たらない。
 GLAIVEの方はまたもや二人ばかり当たったようだが、動くのに支障はないようだ。いち早くタンクに接敵し、四方向から囲みながらそれぞれ剣を突き立てる。そして後衛組は迫りくる爆弾兵を屠っていく。
 HALもまた駆け出してタンクとの距離を零にした。可能であれば爆弾兵も巻き込みたかった所だが、爆弾兵は既に後方へと走っている。
「まあ、タイミング合わないんじゃ仕方ないよね」
 あっさりとそう言って、絡繰り細工の笑みを浮かべ、ライヴスの衝撃波をタンクへと打ち付けた。ライヴスショットの爆発は砲台やハッチをも巻き込む。間を置かず今度は葵が、駆けながらLAR-DF72「ピースメイカー」の銃口を合わせる。
「ずいぶんとコイツにも馴染んできたな」
『ピースメーカーなんて、名前がものすごーーーーーーーく持ち主にそぐわないけどね』
「ははっ。ちげぇねぇ」
 ウェルラスの言葉に笑いながら同調し、葵はタンクの脚部目掛けてライフルの弾を叩き出した。弾丸は過たず目的の場所に命中したが、機械人形の巨体をグラつかせるには遠そうだ。
「うーん、ちょっと近付き過ぎたかな」
『しかし攻撃を当てるには、致し方なかったかと』
 Ezraの言葉に「そうだよね」とエデンは即座に頷いた。せっかくの可愛い衣装が煤けてしまったのは残念だが、まあ共鳴体だし、傷も後でちゃんと治るし、今は気持ちを切り替えて攻撃する事にしよう。
「GLAIVEとも約束したからね。スキルはあたしたちがガンガン使うよ!」
 言ってエデンはリーサルダークを愚神の巨体と衝突させた。戦車を継ぎ合わせた塊が気絶するかは不明だが、これで爆弾兵を阻止出来るなら試してみる価値はある。
 ライヴスの闇の中で、装甲の奥に見えていた赤い光が消失した。こんなナリだが気絶はするらしい。だがもう一つの目的の方は……爆弾兵の方はどうやら自動生成らしく、三つ残ったハッチの中からさらに三体追加される。
 ダレンは表情を変えもせず、四つ目のハッチを狙撃した。葵はタンクに肉薄し、至近距離から愚神の脚部にライヴスリッパーを叩き込む。
「どんだけ重かろうが頑丈だろうが、脚が無けりゃ動けねぇ……だろ?」
 とは言えビクともしないのだが、ギイ、と軋んだ音がした。少なくともダメージが全くないという訳ではなさそうだ。
「出来るだけ脚を狙ってくれ! 本体へのダメージはあるようだし、これで脚止め出来たらめっけもんだ!」
 エデンは愚神の脚……ではなく、上部の方に狙いを定めた。確かに葵の言う通り脚を攻撃する意義はある。だが敵は5mもの巨体、脚狙いでは上部にあるハッチや砲台から的がズレる。まずはハッチを優先させて。
「ブルームフレア、行くよ!」
 豪快な炎の花が愚神の周りに咲き乱れた。先にダレンが攻撃した四つ目のハッチが爆発し、砲台やタンク本体にも熱で炙られた痕が残る。
 後衛が爆弾兵を穿ち、GLAIVEの近接組が再度愚神に斬り掛かる。HALはヴァルキュリアにライヴスを纏わせると、身の丈程もある大剣を愚神の脚へ突撃させた。だがわずかに軋んだだけで、倒れる所か愚神の脚にヒビが入る様子もない。
 と、タンクがガチリと、六つある砲台を一点に集中させた。砲台の向く先は守るべき誓いを使用した、そしてタンクのすぐ足下に立っている葵である。
 六つの砲弾が吐き出され衝突と共に爆発した。ハッチは四つ破壊されたが、砲台は六つ全てがしっかりと残っている。つまり守るべき誓いを使用した葵に総攻撃が向くのは必然。一撃一撃は軽傷でも重なればすぐ重体にもなる。結果葵は一つは避けたが、五発はもろに喰らってしまい、一気に生命力を六分の五も削られる事になる。
 さらに残っていたハッチが開き、爆弾兵一体を葵の頭上から投下した。バルタサールはその瞬間に引き金を引いた。爆弾兵投下のタイミングで攻撃したらハッチ付近で爆発し、爆発兵を減らせる上にハッチにダメージを与えられないだろうか?
 弾丸は一直線に飛び、爆弾兵を撃ち抜いてハッチに爆風を押し付けた。結論としてバルタサールの考えは当たっており、確かに爆弾兵は減らせるしハッチにもダメージを与えられる。が、バルタサールが直に撃った方がダメージは大きそうだ。もっとも爆弾兵を使った方が効率が良かった場合、ハッチを壊した事がマイナスになっていた所なのでこれで良かったかもしれないが。
「地道にやれっていう事か」
『何事も地道が肝心ってね』
 と、地道という言葉が一番似合わなそうな男が言う。バルタサールは息を吐き、紫苑にはそれ以上何も返さずただ敵の姿を見据える。

「今度は、ゴーストウィンド!」
 エデンは愚神の上部に向けて不浄の風を解き放った。ライヴスの風に毒されて、ハッチ二つが最後の悲鳴を上げて崩壊する。これでもう新たな爆弾兵が生まれる事はないだろう。
 バルタサールは攻撃に最も適した位置に移動し、死角から愚神の脚へ弾丸を叩き撃った。脚を狙えと言った葵の意見に賛成だ。かなり重いようなので、体重を支える関節部を破壊できれば歩みを止められるかもしれない。
 だが体重を支えているという事は、それを可能にする程の強度を有しているという事だ。死角を突いた攻撃は、より効果的にバルタサールの火力を伝播したようだが、それでも愚神の脚を鈍らせるにもまだ及ばない。
 葵は口に入れていた賢者の欠片を噛み砕き、仁希は葵へリジェネレーションの光を飛ばした。GLAIVEを担当するとは言ったが、どう見ても今すぐに治癒するべきは葵である。
「……喜びの野とやらに行くには、まだ早い」
『(わー! 仁希が喜びの野を覚えてくれた!)』
「(……よし、声に出さなかったのは偉いぞ……うん……)」
 仁希の台詞にグラディスは嬉しそうな声を上げたが、これだけでは回復量が足りないのは明白だった。先の砲弾を二発も受ければ、葵は即座に倒れ伏す事になるだろう。
 しかし葵に引こうという考えはない。体中のあちこちに爆発痕を作りながらも、ピースメーカーを握り締め、「平和を作る者」にはそぐわない険呑な笑みを口元に浮かべる。
「火力と防御力がねぇ分は気合で行くしかねぇな。まだまだイケるぜぇ!!」
『(かなり力押しだけどね! ここは無茶だろうと押し通さないと……)』
 ライヴスを弾丸に纏わせ、ひたすら脚部に叩き入れる。ダレンはハッチと爆弾兵の全破壊を再度確認し、ショットガンの銃口を同じく脚部へと定めた。無差別攻撃は周囲を、特に葵を巻き込みかねない。ここは堅実に通常攻撃で脚を潰す事にする。
 ガガン、と金属を撃ち叩く音が響いたが、愚神は脚を止めない。巨体も未だ揺らがない。砲身がまたもや葵を狙い、砲弾が一挙に吐き出された。一発、二発と爆発し、そして三発目が葵に迫る。
 その時、禁軍装甲を着けた音弥が、葵の前に滑り込んで残りの砲撃を受け止めた。自身を見る葵へ、音弥は振り向かないままに告げる。
「言っただろう。僕はH.O.P.E.の衛生兵として、その上で判断して動くと。これ以上の無茶は見過ごさない!」
 爆弾兵がいなくなったので、GLAIVEの全員がタンクに総攻撃を仕掛けた。刃の、魔法弾の、弾丸の衝突音が響く中、HALはヴァルキュリアをまるで野球のバットのように構える。先程のエデンのリーサルダークで、愚神の歩みが一瞬止まったのを確認した。ライヴスリッパーでも同様の効果が見込めるはずだ。
 透き通るような銀色の刃にライヴスを纏わせて、華麗な外見に似合わない痛烈な一打を叩き込む。ライヴスを乱され、愚神の動きが止まった隙に仁希は葵にケアレイを飛ばし、バルタサールはまたポジションを変え、撃った。脚からガゴンと異音がした。破壊にはまだ至らぬようで、気絶も解除されてしまったが、先程よりもさらに歩みが鈍っている、ような気がする。
「テギ、排除、シマズ」
 金属を擦り合わせたような耳障りな音を立て、タンクはまたもや葵へと全ての砲台の先を合わせた。守るべき誓いは五十秒間、範囲内にいる敵の攻撃を自らに誘導する。つまり範囲内にタンクがいる間は、スキルの効果が途切れるまでずっと葵を狙い続ける。
 しかし、攻撃は葵には当たらなかった。音弥が葵を庇って全ての攻撃を受けたからだ。葵が口を開くより先に音弥が怒鳴り声を上げる。
「下がれ。無茶は見過ごさないと言った筈だ!」
「ブルームフレア!」
 エデンが大輪の炎を差し向け、HALがライヴスショットを爆発させる。どちらも砲台を巻き込む事を狙っての攻撃だったのだが、砲台はハッチよりも頑丈に作られているらしい。砲台まで破壊するにはもっと攻撃が必要そうだ。
 葵は下がらざるを得なかった。葵が下がらなければ、多分音弥は倒れるまで葵を庇い続けるだろう。葵が下がったと同時にGLAIVEが一斉攻撃を仕掛け、ダレンは周囲に多数の刀剣を召喚しながら敵に突撃。
『行くぞ』
 短い注意喚起の直後、展開されたストームエッジが愚神の脚部を呑み込んだ。細かい傷痕が脚部へと無数に刻み込まれるが、やはり硬い。葵は愚神の状態にちらりと視線を向けた後、眉を下げながら、未だ自分から離れない音弥に一応声を掛けてみる。
「あの、戸丸サン、俺なら大丈夫だから」
「衛生兵ストップだ、次集中攻撃を受ければ最悪死ぬぞ、攻撃を引き付けたいのなら耐えられるまで回復してからにしろ!」
 衛生兵を振り切るのはどう足掻いても無理なようだ。「分かった、分かったよ」と言いながら、葵は音弥の後ろから愚神へライヴスブローを放つ。音弥は怒っているようだが、葵にもケアレインの恩恵を降らせてくれた。
 バルタサールがストライクを撃つ。直撃後、先程よりも大きな異音が愚神の脚から響いてきた。歩みも先程よりも明らかにぎこちなくなっている。
「一応、効果はあるようだな」
 バルタサールの呟きを微かに聞きながら、ダレンは再び『行くぞ』と言い、刃の嵐を炸裂させた。外見的には細かい傷痕が先程よりも増えただけだが、ギイ、ギイというと音が、わずかでも着実にダメージが蓄積している事を教えてくれる。
 エデンはGLAIVEの様子を伺う。戦闘を開始してからそろそろ一分が経とうとしていた。GLAIVEの現状の詳細は不明だが、今後起こり得る懸念には備えた方がいいだろう。
 極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を開き、魔法弾を愚神の脚に激突させる。葵は二つ目の賢者の欠片を噛み砕く。タンクが砲台をバラバラに動かし、近接のGLAIVE4人とHAL、そしてダレンに狙いを定めた。今はこの六人が愚神の最も近くにいる。
 砲弾が六方向に撃ち出されて爆発する。HALは顔面から喰らってもやはりけろりとしているが、ダレンはわずかに吹き飛ばされた。頬に刻まれた火傷の痕に、エリカが気遣わしげな声を上げる。
「(ダレン、ダレン、大丈夫?)」
『うるさい。問題、ない』
 仁希は全体の怪我の状況を確認する。GLAIVEの前衛組も軽傷程度は負っているが、一番急を要しているのは音弥だろう。音弥にリジェネーションを飛ばす。GLAIVEの攻撃の後に、HALがライヴスリッパーを愚神の脚に撃ち入れる。バルタサールがストライクを、エデンが魔法弾を、ダレンがストームエッジを、HALがライヴスブローを、葵が弾丸を。撃って、斬って、撃って、撃って、ただひたすらに叩き込む。
 ガキィッ、とまた脚から異音を立てながら、タンクは砲台を回した。砲台はまた近くにいるGLAIVEに、HALに、そしてダレンに向けられる。
 その時、土中から岩壁がせり上がり、砲弾を全て受け止めた上にタンクの巨体を固定した。GLAIVEのブラックボックスが使うスキル、アウグストゥス。エデンが「使わないで欲しい」と言ったにも関わらず、特に念押しをしていた一人がそれを使用した。
 その理由はすぐに分かった。エデンがブラックボックスに視線を向けると、黒い煙のようなものが兵士の身体を取り巻いていた。そして黒い煙は、タンクのすぐ近くにいるブレイブナイトからも上っている。
「すまん、限界だ」
「俺もだ」
 凄まじい咆哮が、邪英化が開始した二人の喉から響き渡った。ブレイブナイトは身体にヒビを走らせながら、邪英化により上がった腕力で剣をタンクに衝突させる。自爆までの間、ただがむしゃらに特攻して押し込む腹積もりなのだろう。
 エデンは顔を歪めつつ、二人と愚神を巻き込むようにゴーストウィンドを撃ち放った。GLAIVEの誰かが邪英化した時の為に残しておいた範囲攻撃。一撃でGLAIVEを重体に、とはいかないようだが、ミシミシ、バキ、と愚神からの異音が一際大きくなる。
 バルタサールはやはり表情を変えず、愚神への攻撃を、村の防衛を優先させた。GLAIVEの覚悟を汲んで、という訳ではないのだが、彼らも村の防衛の足枷になるのは本望ではないだろう。
 狙い澄まして撃ち放つ。弾丸が衝突した瞬間、ドギャッと一際大きな金属音が鳴り響いた。ここまで損傷らしい損傷を見せなかったタンクだが、ついにその脚部に大きなヒビが刻み込まれた。本体は損傷に対して特に反応は示さなかったが、砲身は反撃とばかりにエデンとバルタサールを向いた。愚神はリンカー達の攻撃により歩みを妨害されてはいたが、少しずつ、少しずつ、村の方へと前進してきた。当然、それなりに近付いていたエデンも、後衛ラインを保っていたバルタサールも射程内に入っている。
「戸丸サン!」
 名を呼ばれ、音弥は葵を振り返った。仁希と音弥のスキルを受け、賢者の欠片を使っても、葵の回復具合は半分程度という所。守るべき誓いを使って全弾喰らったら、今度こそ本当に死にかねない。
 だが、火力の高いエデンとバルタサールに万一があってはマズい。それに攻撃を引き付けサポートしようという葵の意志を無下には出来ない。音弥は短く息を吐き、禁軍装甲を構え直す。
「分かった。だが弾の半分は僕が受ける。それが条件だ」
「恩に着る」
「テギ、排除、シマズ」
 砲弾が放たれる、直前、葵は守るべき誓いを展開し、砲台を自分に集中させた。砲撃が一挙に放射され、三発は葵が、もう三発は音弥が請け負う。吹き飛ばされた二人を尻目にダレンは再び距離を埋める。
 体勢をさらに低くしながら愚神の足下へ滑り込み、ダレンは手のひらを空へと掲げた。頭上に召喚されたのは大量のイフティヤージュ。赤い散弾銃は規則正しく円陣を組み、その銃口を一斉に地上に立つ愚神へ向ける。
『雨が、降るぞ』
 ダレンの短い宣告後、弾丸が豪雨となって愚神の身に降り注いだ。間を置かずGLAIVEの剣戟が、魔法が、弾丸が後を追い、ピピピ、ガガガ、というノイズが終わりの近い事を告げる。
 HALが跳躍し、細工物の笑みを浮かべながらヴァルキュリアを振り上げた。抗議するように機械人形の赤い光が明滅する。
「テギ、排除、テギ、排除」
「不格好なお人形さん、おやすみの時間だよ」
 銀色の刃が、継ぎ接ぎの機械の頭の隙間へと突き刺さった。HALはそのまま剣を押し込み上から下まで線を引く。それが限界だったとでも言うように、タンクの全身にヒビが入り、装甲が剥がれ落ちて一瞬で倒壊した。ただの鉄屑と化した敵を視界に収め、邪英化した二人は微笑みながら膝をつく。
 グラディスは仁希から即座に主導を譲り受けた。目標は達成したが、このまま放置すればあの二人は邪英化し、自爆して果てる事になる。攻撃を放つ前に、無事なGLAIVEに問い掛ける。
『自爆する前に死んだりしたら、自爆はキャンセルになるのかな?』
「逆だ。我々は死んでも自爆する。正確には死に瀕した瞬間100%邪英化する。そして邪英化した瞬間、装置がそれを感知して」
『自爆する。それじゃ僕がトドメを刺した所で、自爆は止められないんだね』
 トドメを刺した所で以降は聞こえぬように呟いて、それなら絶対に止めないとね、とグラディスは駆け出した。自爆させるぐらいなら自分がトドメを、とさえ考えていたが、それがむしろ自爆の引き金ならば断じて引く訳にはいかない。
 ブラッドオペレートを形成してブラックボックスに差し向ける。エデンはアルスマギカの頁を捲りライブスを集中させた。愚神は倒した。彼らが自爆する必要なんて何処にもない。あたしたちの願いと、GLAIVEの願い、両方が叶うように……。
「生きて、お願い!」
 放たれた魔法弾を見送りながらバルタサールも銃口を向ける。GLAIVEについては、当初はどんな陰謀を持った組織なのかと少し興味を抱いていたが、自己犠牲精神の集団とわかった時点でバルタサールの興味は薄れた。
 お互いの行動を邪魔し合わない限りでは共闘するのは効率的であるし、何のために命を賭して殉じようが個人の価値観の問題だ。好きにすればいいという認識、その程度しか持ってはいない。
 寧ろ目的を見失いつつある自身よりも望みに殉じるならば幸せなのでは。
 だがまあ必要のない自爆の方は、望み通りとは言えないだろう。
『随分と優しいじゃない』
 紫苑が内側から語り掛ける。今日は随分饒舌だ。まさかバルタサールを慮って?
「ついでだ」
 バルタサールは思考を止め、常の任務のごとき調子で弾丸を送り込む。HALもヴァルキュリアを握り締め、今度はGLAIVEに叩き入れた。グラディスのコールブランドが、葵のピースメイカーが、同時に邪英化二人を打つ。
『村、防衛の為、邪英化解除を行う』
 ダレンはショベルハルバードに持ち替え、武器としての魂と本能を呼び覚ます。
 在り方。ダレンの在り方。敵を倒すこと。エリカを殺すこと。だが、それが全てではない。
『在り方ではないが、誓約は、覚えている』
 再度空に手をかざす。呼び出される赤い銃。銃弾を降らせる前に、少女はしわがれた声で、叫ぶ。
『おまえたちは……っ! なんのためにここまで生きた……っ!?』
 無口で、話したとしても短い言葉のみのダレンにしては珍しく長い言葉だった。ウェポンズレインが降り注ぐ。殺すためではなく、生かすために注ぐ雨。生かすために弾雨を注ぐなんて、妙な話だ。それでも。
 銃弾の雨が晴れた先で、邪英化した二人は白目を剥いていた。そしてどさりと崩れ落ちた。満身創痍の重体だが、身体を取り巻いていた煙は晴れ、走っていたヒビも消え失せている。
 音弥がすぐさま駆け寄り、「大丈夫だ、生きてるぞ!」と声を上げた。その報告を耳にしてエデンがぺたりと座り込む。共鳴を解いたEzraが、傍で静かに頭を下げた。
『お疲れ様でした、お嬢様』


 包帯を巻いた音弥の前では、完全回復した葵が正座をして頭を垂れていた。
 あの後音弥と仁希が残っていた回復スキルを使ったのだが、どう足掻いても全員を完治させるのは無理だった。それでまずGLAIVEが「俺達はいい」と辞退して、次に音弥が「僕は衛生兵だから」と、今後も前線に赴くだろう仲間達を優先させた。結果葵が完全回復し、音弥は未だ怪我が残る状態で仁王立ちになっている。
「仲間をサポートしようという君の気持ちは分かる。だがケントゥリオ級という時点で脅威度は相当のもの、しかも今回は計六回攻撃してくる敵だった。それを一挙に引き受けたらどうなるかは分かるよな?
 また君は祈りの御守りで軽減するつもりだったようだが、あれでダメージを軽減出来るのは一度だけ、今回のように複数回攻撃してくる場合は役に立たないケースもある。一回のダメージが15未満ならそもそも効果が発動しないし、15以上ならその後同じ強度の攻撃を数回受ける事になる。気合があるのは結構だが、今後ケントゥリオ級以上の強敵と見える事も考えてそれなりの対策を」
「はい、はい、すいませんでした……」
 正座をして一回り以上年下に説教を喰らう図、地味にキツイ。しかも逆らえば説教が長引くオーラが漂っていた。音弥はふうと息を吐き、「立ってよし」と短く告げる。
「それ、あげたいんだろう? 僕は気にするな、渡して来い」
 それ、というのは葵が持っているチョコレートだ。戦闘が終わった今なら回復効果があるため、一応音弥にあげようかとも思ったのだが、「いらない」と断られた。「僕に渡すために持ってきたんじゃないだろう」と。
「悪い」
「悪いと思うなら無茶をするな。今度はこの程度の説教じゃ済まないからな」
 葵を見送った音弥へ、グラディスがそそそと近付いた。朝焼け色の瞳を細め、にっこりと笑みを浮かべる。
『君の在り方はそのまま貫きとおしてね★ ……たぶん、この後はどれだけ自分が自分を保つかが特に大切になると思うから』
 音弥はグラディスに視線を合わせ「分かった」と頷いた。

「……お前さんはまだいけそうか?」
 背後からの葵の声に、マニーは首だけで振り返った。そして顔見知りだと分かり、今度は身体全体を向ける。
「問題ないであります」
「そうか……まぁ、後でそれでも食っとくといいさ。ちったぁ回復すんだろ」
「マニーは今回、特に怪我はしていないであります。貴方様の方が怪我をしたと思うでありますが」
「俺は回復させて貰ったから大丈夫だよ。あれだ、とりあえず貰っとけ。なんか居心地悪いかも知らんがな……まぁ、俺がしてぇからさせてもらってるだけさ」
 マニーはチョコレートを受け取り「ありがとうございます」と頭を下げた。それを遠くから眺めるHALに『いいのか』と朱殷が口を開く。
『自分に似ていると思ったんだろう』
「それだけだよ。言いたい事はもう言ったし。早く帰りたいなあ」
 HALは自分の両手にふうと息を吹き掛けた。常から青白い肌に、息を吹き掛けた所で何の変化も起きはしないが。
「ここは寒いね」
『……冬だからな』
 
「本当にいいのか。俺達を捕まえなくて」
 重体になった仲間二人を背中に負ったGLAIVE兵に、「いいから行って!」とエデンは言葉と手で同時に示した。バルタサールは腕を組み、興味なさそうに呟く。
「任務外だからな」
「あたしも捕まえたりはしないよ。説得で止められないからって、捕縛で強引に止めるっていうのも人としてどうかなって」
 その言葉に、GLAIVE兵達は一様に表情を緩めてみせた。一人が代表で進み出て、エージェント達へ頭を下げる。
「我らの覚悟を通させてくれてありがとう。今は気を失っている仲間達の分も礼を言おう。
 そして仲間の命を救ってくれてありがとう。おかげで、無駄死にさせずに済んだ」
「俺達の覚悟を否定せず、その上で命を助けられたか。そんな度量を見せられたら、こりゃあ降参するしかないな」
 降参、の意味はエデンにも、そしてバルタサールにも分からなかった。先程エデンの誘いに「生き延びたらな」と返した兵が、エデンを覗き込みながらニッと笑みを浮かべてみせる。
「戦いはまだ続く。全ての戦いが終わり、お互い生き延びていたら、その時はまた逢おう」
「逢うだけじゃない、打ち上げだよ! 約束だからね!」
 GLAIVE兵達はマニーを呼び、一足先に去って行った。エリカは少し離れた所で顔を上げ、その背中を見送った。エリカの足下には壊れた機械人形達の残骸が集まっている。
『弔えなくて残念か』
「前も言ったけど、ボクは墓守でもあるけど、守るべき墓がないに越したことはないんだよ。彼らは信念や在り方を、貫けたのかな」
『さあな』
 ダレンはスマートフォンにそう記入してエリカに見せた。エリカは帽子を脱ぎ、機械達に黙祷を捧げる。「埋葬」はH.O.P.E.に戻ってからする事になるだろう。
「そうそう、僕の在り方はね、死ぬまでダレンの傍にあることだよ」
 エリカはいつもの、花の香るような調子でダレンにそう言ってきた。ダレンはスマホに入力し、エリカに見せる。
『そんな事、聞いてない』


 H.O.P.E.帰還後、求められたので葵はハンディカメラのコピーデータを提出した。そして数日後、H.O.P.E.のとあるブリーフィングルームにGLAIVEが、その筆頭であるイザベラが姿を見せた。
 GLAIVEの目的は、この世界に迫る脅威を撃ち払う剣戟となる事だった。H.O.P.E.という組織はあるが、それだけでは剣は足りない。『王』の喉笛に届く前に潰えてしまう可能性もある。
 故にGLAIVEは「露払い」としての剣戟になる事を選んだ。自分達が『王』の配下を押し留め、H.O.P.E.には『王』を屠ってもらう。それが一番合理的だと、イザベラはそう判断した。
 だがエージェント達はその判断を覆す程の実力を見せた。イザベラ達にはインターディクトを使用し完全に停止させ、その上で愚神を撃破し、人々を護り切るという実力を。そして崖の上の戦いではGLAIVEの覚悟を受け入れつつ、本来死ぬべきだった兵士の命をも守るという実力を。

「全員生き残っちまったなあ」
 ようやく起き上がれるようになったブラックボックスが頭を掻いた。傍らでは仲間の兵士が似たような苦笑を浮かべている。
「なんか、恥ずかしいな」
「仕方ないだろう。大佐が決めちまったんだから」
「まあでも、後方支援でも命懸けには変わりはない。俺達の覚悟が無下になるって訳でもないだろう」
 GLAIVEが抱えていた理由。それをエージェント達は見事に打ち壊してくれた。覚悟を肯定してくれた事が『希望』に託す理由になった。彼らが全てを護る強さを有していると言うのなら、それを支える事に異論などあるはずもない。
 兵士達は立ち上がる。RGW代わりのバッテリーをぶら下げて。急ごしらえのそれは戦うには重過ぎるが、後方で動くには然程支障はないだろう。
「そういやマニーのヤツは」
「さあな。さっきチョコレートを砕いて置いていったぜ。食えって。タダで」
「そりゃ、次こそ槍が降るな」
「じゃあ行こうか。打ち上げに顔を出すんなら、今まで以上に頑張らないとな」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    HAL-200aa0384
    機械|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    朱殷aa0384hero001
    英雄|38才|男性|ブレ
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 日々を生き足掻く
    秋原 仁希aa2835
    人間|21才|男性|防御
  • 切り裂きレディ
    グラディスaa2835hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • クラッシュバーグ
    エリカ・トリフォリウムaa4365
    機械|18才|男性|生命
  • クラッシュバーグ
    ダレン・クローバーaa4365hero001
    英雄|11才|女性|カオ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
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