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霧の決戦
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最終発言2018/12/01 22:13:48 -
【相談卓】霧の決戦
最終発言2018/12/02 19:26:08
オープニング
●霧と悪友
タケルから呼び出しがあったのは二時間ほど前だった。遅れていくとタケルは怒るから、僕はすぐに出かけようとしたけれど、ママに見つかって宿題をやってから出かけるように注意された。仕方なく、僕は宿題に取りかかった。もちろん、メールでタケルに伝えるのも忘れない。
最後の一問に苦戦して顔を上げると、時計が目に入り、あれから一時間以上経っていることに気がついた。マナーモードにしていたスマホを見ると、タケルからの着信が何度も残されていた。
僕の頭の中にはすぐにタケルの怒った顔が浮かび、僕は慌てて家を飛び出した。
そして、待ち合わせの古びた倉庫跡地で、僕は奇妙な光景を見た。いつもなら夕日に赤く染まったトタン屋根や壁を見ることができるのに、その場は霧が充満し、倉庫をすっぽりと包み込んでいた。
それが異常な光景で、決してそこには立ち入ってはいけないことは僕にもすぐにわかった。だから、僕は今来た道を全速力で戻った。タケルがその中にいるかもしれないという不安よりも、自分がその霧に飲み込まれてしまうという恐怖を優先して。
●霧と罰
ここ数ヶ月、似たような事件が頻発している。
「沼田さん、通報がありました!」
事件の資料に目を通していると、部下が部屋に飛び込んできた。
「また例の事件です」
俺はその言葉に顔を上げる。
「霧の従魔のか?」
「はい。また、キリヤが子供たちのライヴスを奪いました」
「その子たちはやはり……」
「全員、いじめをしていました」
霧の従魔にいじめっ子たち……彼らはまるで罰でも受けたようにその場に倒れている。
解説
●目標
・いじめっ子たちの救出
・霧谷の討伐
●登場
・愚神:霧谷(キリヤ) ケントゥリオ級
・霧谷自身は、サラリーマンのような出で立ち。書類が入る程度のカバンの中に、カバンのサイズに見合わない長い刀を入れています。
・霧谷は霧の従魔(ミーレス級)を自由自在に扱うことができます。
・現在は吉野明に憑依中。
●場所と時間
・古い倉庫跡地
・十八時頃
●状況
・いじめっ子が霧の従魔にライヴスを奪われる事件が頻発。
・事件現場で明の姿が目撃されている。
※オープニングの前半及び以下はPL情報となります。
・当初、明は自分の意思で霧谷の力を使っていましたが、いまはほとんど意識がありません。
・明はすでにライヴスが少なく、霧谷が憑依を解いたとしても回復することは不可能です。
リプレイ
なんの音も聞こえない。
なんの光も見えない。
ただ、悲しみと後悔が心の奥底に沈んでいる。
どうして、僕はこの道を選んだんだろう?
他に、道はなかったのだろうか?
この時期、十八時にもなると日はすっかり沈み、空は星を散りばめた群青色が覆う。
住宅街からすこし離れた倉庫跡地の周りには街灯もない。
しかし、月明かりが、そこに白い奇妙な塊があることを映し出していた。
「標的がいじめっ子とはな。愚神風情がいくら正義の味方を気取ろうと底が知れるぞ」
アウグストゥス(aa0790hero001)は黛 香月(aa0790)の言葉に「そうですね」と深く頷く。
「どんな人間であっても、霧谷と明が生き死にを決めていいとは思わねェ」
重力を忘れた 奏楽(aa5714hero001)の言葉に熊田 進吾(aa5714)も「うん」と賛同した。
「見過ごせないね」
紫 征四郎(aa0076)は真っ白な霧の塊を見上げる。
「決着をつけなければ、でしょうか」
「ここで逃してやる手もねえやな。いつも通り、全力で行こう」
ガルー・A・A(aa0076hero001)も征四郎と同じく、霧の塊を見上げる。
霧のなかから先発隊で探りに行っていたヴィクターが出てきた。
「何かわかった?」
メリッサ インガルズ(aa1049hero001)の質問に「ああ」とヴィクターは答える。
「今回はこれまでの霧よりもさらに濃い。自分の足元さえも見えづらい状況だ」
「救助者はひとりだけ?」
カール シェーンハイド(aa0632hero001)の質問に沙羅がタブレットで沼田からのメールを確認する。
「田所タケル、中沢マスミ、江口テツロウの三名よ。全員、いじめっ子だって」
「倉庫の広さとか、わかりますか?」と、ガルーが沙羅のタブレットを覗き込む。
「それなら、倉庫の持ち主から提供してもらった図面があるわ」
「物はどれくらい置いてあるのかな? 救助の邪魔になるようなものとか、ある?」
荒木 拓海(aa1049)の質問にはヴィクターが答えた。
「大きめのダンボール、プラスチックの箱などがまだそのままある、と、倉庫の持ち主から回答をもらっている」
霧谷と戦った経験のあるレイ(aa0632)、拓海、征四郎が情報を共有する。
「皆さんにライトアイとフットガードをかけますね」
征四郎がライトアイとフットガードを全員に付与し、エージェントたちは動き出した。
沙羅が見せてくれた図面により入り口が二箇所と、他にも侵入できそうな窓がいくつかあることがわかった。
それぞれ相棒と共鳴すると、征四郎と拓海は正面の入り口から、香月と奏楽は裏口から、レイと畳 木枯丸(aa5545)は建物の真ん中あたりの窓から侵入した。
「やはり……見えぬか? ……すまない、坊」
共鳴により体は大きくなり、視力を奪われている木枯丸に虎落綱吉震刀(aa5545hero002)が謝った。
木枯丸は白夜丸を杖代わりにして倉庫内を進みながら、虎落綱吉震刀に心配させぬように言った。
「これでいい、これで邪魔なものはすべてなくなった」
頼るべきは己の感覚のみ。わずかな音や気配に神経を研ぎ澄ませる。空気の振動さえも、逃さぬよう、木枯丸は集中する。
木枯丸の前を歩きながら、レイは倉庫内を見渡す。
倉庫内の暗がりはライトアイによって解消されているが、霧によってあたりは真っ白な状態だった。
「……とにかく、前へ進もう」
(前進あるのみ!)と、カールが頭のなかで明るく言う。
レイは月欠ノ扇を振るい、霧を消しながら前へ進んだ。
香月と奏楽は、香月が大剣の神斬を振るうことで霧を晴らしながら進んでいた。
奏楽はいじめっ子とは言えどまだ子供の彼らの身を案じていた。
一方、香月はいじめっ子たちがどんな目にあっていようともそれは自業自得との考えだった。彼らの救助に参加しているのは、これが仕事だから。それ以上でも以下でもない。
足元にはネジやナット、時々鉄パイプなどもあったが、フットガードのおかげでつまずくなどの心配はない。ダンボールやプラスチックの箱は非常に多く、まるで迷路の中を歩いているような錯覚に襲われる。
「迷路みたいだな」
香月の言葉に奏楽は頷く。
「敵が決めた順路を歩いてるようなモンだからなー。見通し良い場所からの索敵をしてェわな」
そうは言ったものの、見上げた先も霧だ。
「……上に上がっても、索敵は無理か」
奏楽がやれやれという様子で首を横に振ったその時、通信機から声が聞こえた。
『こちら、征四郎。救助者を見つけたのです』
『みんな、正面入り口に向かってくれ。援護を頼む』
拓海が伝える。
『わかった』とレイが答えた。
香月と奏楽も顔を見合わせて、走り出した。
「それじゃ、表で待機しているヴィクターのところに連れて行くよ」
学ランを着た男子生徒をひとり、拓海が抱きかかえる。霧が子供たちのライヴスを蝕んでいるから、一刻も早くこの場からいじめっ子たちを救助したかったが、救助中の霧谷の奇襲を考えると、複数名を同時に移動させることはできない。
正面入り口へ向かって歩き出した拓海の背中を見送りながら、いつ霧谷が現れてもおかしくない状況に征四郎は緊張していた。
「……ガルー、征四郎は、この人たちを守りきれるでしょうか?」
霧谷の実力を征四郎はよく知っていた。
(そう気負いなさんなって)
頭の中でガルーの声が響いた。
(お前には俺様がついてんだから)
「そうですね……征四郎はひとりじゃありません」
ガルーのおかげで征四郎の緊張がすこし和らいだ時、頭上から声が聞こえた。
「相変わらず、甘いですね」
征四郎は反射的に剣を構えて見上げた。
気づけば、いじめっ子たちの周りと、天井までの空間の霧が消えていた。霧谷が従魔を操ったのだ。
「キリヤ!」
天井の梁に立っている人物の姿は吉野明のものだったが、その冷たい目と、人を嘲るように弧を描いている唇から彼が霧谷であることがわかる。
「おや、私の名前を覚えていてくださったんですか? 光栄ですね」
「でも」と、霧谷はニィッと口の端を持ち上げた。
「残念ながら、すぐにお別れすることになるでしょう」
梁を蹴って、霧谷は急降下した。霧谷の刀が征四郎の終一閃とぶつかり、征四郎の腕が痺れる。
「っ!」
両手でしっかりと剣を握って両足を踏ん張っているのに、押され気味になる。
(くっそ……倉庫の外に誘導するのは無理か……)
戦闘の主導権を握ることができず、頭の中にガルーの悔しそうな声が聞こえる。
霧谷が刀を横に振るうと、征四郎の体が弾き飛ばされ、鉄製の棚に背中を強く打ち付けた。
「あなたたちにはまだまだ私の可愛い霧たちの餌になってもらわなくては」
意識を失ったままのいじめっ子たちに霧谷がゆっくりと近く。
そして、青白い手を伸ばした瞬間、霧谷と子供たちの間に高さ二メートル程の土壁ができた。
壁の出現に眉間に深いシワを寄せた霧谷だったが、今度は自分に向かってくる鋭い気配を感じてその身を交わす。
金の掌を使い、壁を作ったのは奏楽だった。奏楽は縛られる者を使い、高く積まれた荷物の上から、霧谷の動きを観察していた。すると、木枯丸が弾丸のように霧谷に向かってくるのが見えた。
共鳴により目が見えなくなっている木枯丸だったが、刀の気配をしっかりと感じていた。そして、霧谷の刀が秘める強力な力に、木枯丸は血が逆流するのを感じた。その瞬間、木枯丸の世界は、刀と己自身だけになる。
「まだ子供たちがいるな……慎重に行くぞ」
そんなレイの言葉は木枯丸の耳には入らない。
「我等剣客に、刀さえあれば」
トランス状態に入った木枯丸の言葉に、虎落綱吉震刀が答える。
「言葉は不要」
そして、この状態になった木枯丸自身、虎落綱吉震刀の言葉しか聞こえない。
「いざ、尋常に勝負!」
木枯丸は白夜丸を構え、霧谷に向かって駆け出した。
「木枯丸! 待つんだ!!」
そう止めたレイの制止も聞かずに、木枯丸は疾風怒濤で霧谷に切りかかった。キンッと鋭い音を立てて、木枯丸と霧谷の刀がぶつかった。疾風怒涛を使っての三度斬りの居合を霧谷は刀ですべて塞いだ。
刃と刃を合わせたまま、霧谷は笑う。
「なかなかいい刀ですね」
木枯丸は攻撃の手を緩めず、刃と刃がぶつかり合う鋭い音がその場に響く。
レイと、体勢を立て直した征四郎が加勢しようとしたが、刀以外はなにも目に入っていない木枯丸に逆に攻撃されそうになる。
(助太刀無用ってことかな〜)
レイの頭のなかで、カールはこの状況を楽しんでいた。
木枯丸の一撃、一撃を余裕で受け止めている様子から、木枯丸にも霧谷の……というか、その刀の実力はわかっていたが、木枯丸自身、己を止めることができない。
たとえ死しても、悔いのない戦いをしたいのだ。
木枯丸は後方へ飛び、霧谷との間合いを測ると、一気呵成を仕掛けた。
一気呵成は見事に霧谷の体を切り裂いた……そう、状況を見守っていたエージェント達には見えた。木枯丸自身、確かに、気配があるところへ刀を振るい、その気配を見事半分に切ったつもりでいた。
しかし、切り裂いた霧谷の姿の後方に、無傷の霧谷が立っていた。霧谷は霧を集めて薄い水の幕を作り、木枯丸の距離の感覚を鈍らせたのだ。
「っ!」
木枯丸が刀を構え直すよりも一瞬早く、霧谷の刀が木枯丸の脇腹を切り裂く。
「木枯丸!!」
木枯丸の倒れる巨体を支えたレイと征四郎に容赦のない霧谷の刀が襲いかかる。しかし、間一髪のところで香月が霧谷の刀を剣で受け止めた。
「次は私が相手だ!」
香月は疾風怒濤を使い、霧谷を後退させる。香月の早く、重みのある剣さばきを刀で受けながら、霧谷は「誰が相手でも同じことですけどね」と軽口を叩いた。
奏楽とレイも香月に加勢し、その間に征四郎は木枯丸にケアレインをかける。それにより、木枯丸の脇腹から流れる血は止まった。
「おんしには感謝する」
木枯丸は刀を杖にして立ち上がるが、足元はふらつき、とても歩ける状態ではない。
「木枯丸! 無茶をせずに休んでいてください!」
「俺が戦わねば……剣客として、あの刀を打ち砕かねば……」
そう言いながらも木枯丸の意識は遠のき、体が傾き、征四郎の上に倒れてくる。征四郎は慌てて両手を出して支えようとしたが、征四郎の手に落ちてくる前に巨体は動きを止めた。
「大丈夫か?」
拓海が気を失った木枯丸の体を支え、床に座らせた。
拓海は霧谷と戦っている三人を確認し、残りの救助者であるいじめっ子たちへ視線を向けた。
「早く避難させたほうが良さそうだ。征四郎、その女生徒を頼めるかな?」
丈が異常に短いスカートの女の子を抱きかかえることに若干の抵抗を感じて、拓海は征四郎に頼んだ。
(変なとこ真面目っていうか、紳士っていうか……非常事態ぐらい、女の子のパンツ見ても許されるわよ?)
メリッサが頭のなかで拓海をからかう。
「メリッサは、非常事態くらい、オレをからかうのをやめてくれる気はないの?」
征四郎が女生徒をお姫様抱っこで抱えたのを見て、メリッサが黄色い声をあげる。
(カッコいい〜! わたしもやってほしい〜!)
「メリッサ、今の状況わかってる?」
香月が霧谷の正面から神斬で接近戦を繰り広げるなか、レイはダンシングパレットを使い、SVL-16を使った跳ね回る銃弾により霧谷の集中力の妨害を行っていた。
奏楽も碧ノ髪で突風を起こして香月を補助する。
「あなた達も随分と成長しましたね。見事な連携プレイです」
「余裕なのも今のうちだぞ!」
奏楽は雷霆呪符でエネルギー体の槍を生み出して飛ばす。霧谷は香月の神斬から逃れて後方に飛び、飛んできた槍を刀で切った。
「逃げるな!」と、香月は霧谷を追ったが、霧谷は高く跳躍し、積み上げられたプラスチック製の箱の上へと上がった。そして、次に霧谷が降り立ったのは、拓海と征四郎の前。
「勝手なことをされては困ります。それは我々のものです」
「……我々? 明をお前と一緒にするな」
拓海は霧谷を睨む。
「彼らは明を苦しめた者たちと同族です。そんな彼らに罰を与えるのは当然のことでしょう?」
拓海に抱えられたいじめっ子たちに霧谷は冷たい眼差しを向ける。
「いっそのこと、一気にライヴスを奪ってしまった方がいいのかもしれません」
霧谷はニコリとわざとらしい笑顔を浮かべ、刀を振り上げた。その鋭く光る刀が拓海の腕のなかのいじめっ子たちに振り下ろされ、拓海は子供たちをかばうように覆いかぶさった。
次の瞬間、再び土の壁が出現し、拓海と子供たちを隠した。しかし、霧谷は土壁に思いっきり刀を打ち付け、壁を破壊した。そして、霧谷の刀が拓海の頭上に振り上げられる。
だが、霧谷の刀が振り下ろされる前に香月のトップギアとストレートブロウによる攻撃が霧谷の体を吹き飛ばした。さらに、奏楽の碧の髪により突風が起こり、霧谷の体は倉庫の壁に押し付けられた。
その好機を逃さずにテレポートショットで放たれたレイの銃弾が霧谷の刀の茎に命中した。続け様にレイはロケットアンカー砲を放ち、クローが刀を持った霧谷の腕を拘束する。
レイは動きを封じた霧谷の背中に……明の背中に、語りかける。明が霧谷の奥に眠っていることを信じて。
「明、聞いてくれ。この状況では被害者が加害者になっただけだ……なりたかった姿は、そうじゃないだろう?」
霧谷が振り返り、レイを睨む。
「お前がなりたかったのは、力ある者……その力は眠っているだけだ」
霧谷は刀を右手から左手に持ち替え、レイに向かって刀を投げようとした。しかし、その左手を拓海がグレイプニールで巻き取る。
「今こそ、お前のなかに眠る力を使うんだ! 明、霧谷を追い出せ!」
霧谷の表情が歪む。
「うるさい、ですね……」
「明、お前は力ある者だと……信じるんだ」
征四郎も語りかける。
「大丈夫です。元どおりの明日を掴みましょう。後悔して、謝って、やり直す。あなたにもその権利があるはずです!」
霧谷は口元を歪め、呆れたように笑い声を漏らす。
「明の意識など、もうこの入れ物のなかにはありませんよ。あったとしても、あなたたちの呼びかけには応えないでしょう。いまのこの惨状が、明が望んだことなのですから」
「明! これで本当にいいのですか? これが本当に、あなたの望んだことなのですか?」
征四郎は諦めずに声をかけ続ける。
「あなたが間違っているとは言わない。けれど、これではダメなのです。このやり方は、未来を決め切ってしまう!」
苛立ちから霧谷の表情が険しくなる。
「悩んで、考えて、戦って、そうして自分の足で前に進むこと。それが、すごく、すごく大事なのだと私は思うから!」
征四郎は心から願う。
「どうか、自分を取り戻して!」
霧谷が舌打ちをする。
「あなたたちエージェントというのは、どこまでも甘く、惨めな生き物ですね」
「明は、霧谷が今度はいじめる側に憑依して、好き勝手やらかしても良いって思うか?」
奏楽も声をかける。
「愚神は命を喰いつくすだけの存在なんです。あなたに共感しているわけじゃない……いじめと同じです」
進吾も言う。
「だから、止めよう。まずは霧谷を倒すことで、俺たちといじめを止めようぜ」
「無駄だと、そう言っているでしょう!」
霧谷が力任せにクローから腕を外し、霧谷の手首から血が流れる。
霧谷は再び刀を右手に持ち直し、左腕に巻きついている鞭を切ろうとしたが、拓海の言葉に動きを止めた。
「助けれず、すまない」
霧谷の目が、真っ直ぐに自分を見つめてくる拓海の目と合う。
「明をずっと探していた。ずっと、謝りたかった」
「……なぜ、あなたが謝るのですか?」
霧谷の口から漏れたその言葉は、確かに霧谷の声だった。しかし、そこに傲慢さはない。
そこに、明がいると信じて、拓海は言葉を続ける。
「君をいじめる側にしたのはオレたちの責任だ……満足できたか?」
拓海は手を差し出した。
「霧谷と離れよう」
その瞬間、霧谷は強い力で明の体から押し出された。
「まさか、まだそんな力が……」
明の力に驚きを隠せない霧谷の隙をついて、香月が大剣で切り掛かった。
霧谷はとっさに刀を構えたが、レイが放った銃弾が再び刃にあたり、今度は刃にひびが入った。そんな刀で香月の大剣を支えきれるわけもなく、霧谷の刀が折れた。
「まさか……人間風情にこの刀が壊されるなんて……」
舌打ちをした霧谷は逃げるために跳躍しようとしたが、拓海がイグニスで業火を放つほうが一瞬早かった。
火を避けてバランスを崩した霧谷に接近し、レイは心臓を貫くようにメルトリッパーを突き刺した。
「……私が、人間に負けるなど……そんなことあるわけが……」
レイが霧谷を蹴り倒してメルトリッパーを抜くと、霧谷はその場に倒れ、そして、真っ白な霧ではなく、黒い灰となって消えた。
レイは拓海の腕のなかで浅い呼吸をしている明に視線を向けた。
「やはり、お前には力があったな……」
レイはそう微笑んだが、明は朦朧とした眼で霧谷が消えた地面を見つめ、ひと筋の涙を流した。
そして、ゆっくりとその目を閉じた。
「……明?」
征四郎も明の顔を覗いたが、もうその目が開くことはなかった。
数日後、レイは明の墓地を訪れていた。
「明、やはり強かったな、本当のお前は」
レイは白薔薇の花束を墓石に置いた。
「オレ達が証人、な?」
カールは鮮やかな色の百日草を一輪だけ置いた。
「二人とも、来てたのね」
その声に振り返ると、メリッサと拓海が紫のバーベナの鉢植えを持って立っていた。
「……真実を守る……だったか?」
レイの言葉に拓海は驚く。
「さすがレイさん、博識だな」
「博識ってほどじゃない……」
「オレたちも明に相応しい花を贈りたくて、色々調べたから」
拓海は明の墓石を真っ直ぐに見つめ、約束した。
「大したことはできないかもしれないけれど……」
雲ひとつない空の下、拓海はやるせなさを覚悟に変える。
「明の真実をこれからもずっと、守り続ける」
end