本部

死を克服する物語

鳴海

形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 1~25人
英雄
5人 / 0~25人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/11/22 16:25

掲示板

オープニング

●これは死を体感するシミュレーションである
 
 あるドクターがいた、彼は研究所に勤めていたがある日あっけなく命を落とすことになる。
 命とは常に軽いもので、風が吹けば飛ぶ紙のようなものなのかもしれない。
 紙のように軽いのに、人は命を重く見がちで、失われたなら涙する。
 今回もそんなありふれた惨劇の物語だ。
 その惨劇が幕を開けたのはつい昨日の事で、彼の命が絶えたのは今日のこと。
 王の魔の手が迫ったからだろうか、愚神が突如活性化しドクターの研究所を襲った。
 その研究施設に詰めていた職員64名と護衛にあたっていた24名のリンカー。その六割は即死、弐割は延命のかいなく死亡。壱割も今は昏睡状態である。
 その愚神の正体について語ったのがドクターで。
 彼は唯一喋れる状態で発見された。ただし臓器への傷、片足の損傷、出血の量どれをとっても生き残れる未来が見えなかった。
「若いリンカーがこの、老いぼれの命を残すために戦ってくれたのだよ」
 真っ青な顔に、無精ひげ、壱週間は外に出ていないのだろう。そんな荒れ果てた見た目の老人は震える声で駆け付けたリンカーに話した。
「奴は、死そのものだった。今回の襲撃で多量の霊力を得た。次は君たちをねらってくるやもしれん」
 備えるのだ。
 そうかすれた声でつぶやいたドクターはとある機械、その電極に自分を繋ぐように言った。
 もうすでに尽きる命、であればこの死を間近にする感覚を遺産として残したい。
 そう告げてドクターはその機械に繋がれた。
 その後ドクターは死んだ。
「その愚神は痛みと恐怖を操る、その力に対抗できるのは痛みを克服したものではない、いや、正確にいうと痛みを克服するには他者の痛みを知るべきだ、そのための一助となれるだろう」
 そう言葉を残して。

 ●結局、ドクターは何を残したのか。
 
 ドクターは研究所で何を研究していたのか。
 それは人の触覚を外部から刺激するという研究だった。そしてその集大成がドクターが最後に繋がれたカプセル状の機械である。
 その使用方法についてドクターはムービーを残してくれた。ホログラフだ。
 それを起動すると生前と変わりない姿のドクターが皆の目の前に現れる。
「いやぁ、諸君。人の痛みがわかる世界に用こそ。私はずっと脳幹という脳の一部を研究していた。共感という人間の持つ可能性、人の痛みを、自分の痛みだと認識できることの可能性。私はそれにかけている」
 まぁ、そんなことはいい。そう言いつつドクターは自分の足元を一瞥した。
 生前からのしきり直す時の癖らしい。
「今回開発したのは死を体感できるシステムだ。
 人の痛覚を脳からではない刺激、主に電気電磁だが。それを使って神経を刺激、疑似的に痛みを作り出す。
 生物は痛みを恐れる、しかしそれは当然のことだ。痛みとは警鐘でありうけつづければ死に至る。
 ただ、痛みで体を硬直させることもまた死に繋がることだ。私はそれをうまくコントロールできないかと考えた。それがこの、他人の痛みを感じることができる装置だ」
 対象者はポットの電極に自身を繋いで、強烈ない痛みを受けた時の記憶をポットの中にいる人間に疑似体験させることができる。
 人の痛みを感じることができる機械。
 だがこんな物がなぜ必要なのか。
 それに対して、博士はこのように語る。
「ただ人間は、自分が受けた傷やダメージ以外にも痛覚反応を示すことがある、そして他人の受けた傷を知ることを、自分で傷を受けるよりも嫌うのだ」

「脳幹は共感を司る器官だ。その期間は他者の痛みに反応し自分の体にも不快になる信号を送る、この信号は実際に自分の体についた、心についた傷よりも、その者を不快にさせるのだ」

「難しいかね? では簡単に言い直そう。人は自分の痛みより他者の痛みを嫌う生物なんだ。そしてそれに私は人類の可能性を見出した」
 可能性という言葉を愛おしそうに口にすると博士はこう、言葉を締めくくる。
「どうか、痛みを忘れないでほしい。そして痛みを克服してあの愚神を倒してほしい。其れこそがあなたと誰かの絆となるのだから」
 研究所を襲った愚神に対抗するために今、痛みと死を越える訓練が必要なのだ。

● 疑似愚神ペインの討伐。

 今回は博士の用意した疑似痛覚体験マシーンに接続された状態でバーチャル戦闘、つまり模擬戦を行っていただく趣旨だ。
 
 今回敵としてデザインされたのは『ペイン』という愚神。
 デザインされたというからには本物の愚神ではない、これは仮想空間での模擬的な戦闘なのだ。
 ただ、模擬的な戦闘とはいえケントゥリオ級愚神に設定してある。戦略を練る必要があるだろう。
 しかも今回のリンカーたちはハンデを背負った状態からの戦闘開始になる。
 順を追って説明しよう。

・戦闘状況
 戦場は100メートル四方の墓場。150センチ程度の墓石が乱立しており見晴らしが悪い。
 リンカーたちは傷を負っている、ドクターの痛みのデータによって。
 右腕、胸、額のどこかに傷を負った状態からスタートする。
 生命も75%の状態からスタート。さらにリンカー全員がラウンド終了時に最大生命力の5%を失う、出血状態で模擬戦闘がスタートする。
 この出血状態はケアレイなど状態異常回復で回復できる。

・ペインについて。
 ペインは上空弐メートルほどを浮遊する愚神である。
 体の大きさは3メートルほどの巨体。ただ足はなく、背骨から上の人の骸骨、それに黒いヴェールがかかっている姿である。
 武装は鎌だが、これは体にはダメージを与えない。体をすり抜け魂にダメージを与える。
 出血状態であれば即座に最大生命力の3%のダメージをあたえる。

・抱擁
 肋骨を開いてリンカー一人を拘束する。
 拘束されたリンカーは全ての行動が行えず、一定のダメージを肋骨に与え肋骨を開かせない限り常時出血状態になる。すでに出血状態の場合は出血状態の効果がラウンド終了時に10%のダメージに変わる。

・叫び
 どくろを震わせて死の叫びを放つ。
 自身を中心に15SQの範囲に生命力固定で5のダメージを与える。

・断罪
 地面から無数の鎌を召喚し『地面』に足をつけているリンカー全員を切り刻む。
 唯一の物理ダメージで、空中に逃れるか、防具で防がない限り大ダメージを追う。

・召喚
 墓場の下から骸骨の群を召喚します。
 この骸骨は移動力3の雑魚中の雑魚ですが十体生まれ、耐久度がそれなりにあります。また皆さんに抱き着いての移動妨害を行うので注意です。
 

解説



目標 疑似愚神ペインの討伐。
 今回は仮想世界での戦闘のため生命力にダメージを受けることはありません。
 また、倒せなくとも何かペナルティがあるわけではありません。
 今回は痛みと恐怖を操る愚神『death』に対抗するための戦闘訓練になります。今回の訓練を通して。
・負傷したからだとの付き合い方。
・痛みの殺し方。
・他者の痛みへの理解。
 を重点的に学んでいただきたいと考えています。

リプレイ

プロローグ

 目の前に並べられているヘッドギア、それは博士が残した研究媒体に接続されている。VBSとはまた違う訓練方法、精神を電脳世界にとばし現実では不可能な訓練を行う。
 今後激化する戦いに向けて必要な経験を積むために。
「また厄介な敵が出たもんだな」
『麻生 遊夜(aa0452)』がつぶやくと『ユフォアリーヤ(aa0452hero001 )』が肩に持たれかかる。
「……ん、でも……この訓練は、有用……いつでも、なる可能性があるから」
 そうコクリと頷くとユフォアリーヤは遊夜の中へと溶けていった、訓練が始まる。遊夜は電脳の世界にためらいなく渡って行った。


第一章 これが我が痛み

 夜に浸った墓場は広く暗かった。
 湿った土の香りと香だろうか、不思議な香りがする。
 墓石はびっしり敷き詰められ見晴らしは悪い。ただ遠くで風を切るような音がしているのを聴くと奴がせまっているのが感じられた。
 疑似愚神ペイン。
 今回は奴と戦うことが目標だ。
「擬似の痛みかぁ」
『餅 望月(aa0843)』はそうため息をついて思わずその場に座り込んだ。
「わかっていても、やりづらいな」
 その顔色……血色はよくなく、体に力が入らない。
 いつもの戦っている間での負傷であればアドレナリンがどうにかしてくれるが、スタート時から負傷しているとこんなにも戦いたくないと思えるものなのかと望月はおもう。
 武器を手繰り寄せ、望月は身を小さくした。
「でも、隠れてるわけには…………」
 いかない。そう白い息を吐きながら立ち上がる望月。
 墓の上に頭を出して周囲を確認しながら歩きはじめる。
 他のリンカーはどこにいるのだろう。
 先ず愚神と戦うより前に先に仲間を探す方が先決だと望月は意識を切り替えた。見つけるのもたやすいだろう、墓場はうめき声で溢れている、これがすでに死んだ死者の怨念で無ければ仲間たちが発した痛みに耐える声なのだろう。
「だとすると愚神も、この声を頼りにするかな?」
 望月は進む速度を速めた。
 其れとは別にいったん戦場の真ん中から逃れようとするメンバーもいる。
『藤咲 仁菜(aa3237)』は身を低くしながら進み、地面から除いた石でつんのめった。
――おい、仁菜。
『九重 依(aa3237hero002 )』が心配して声をかけた、仁菜は腹部を抑えている。
「痛い……!」
 腹部を抑える手からは血が覗く、見れば腹部がえぐれていた。仁菜は呼吸を邪魔している血を一気に吐き出した。
――内蔵やられるなんて馬鹿なのか。
 依が声をかけた。
「ケガする場所はランダムだから私のせいじゃないし……!」
 告げると仁菜は歩きだす。痛みで立ち止まってなんていられないのだ。
 その仁菜の前に敵が躍り出る。死神の姿をした敵が仁菜の眼前をふさぐ。
 それに対して仁菜は歯を食い縛り敵を見据える。
「行くよ依!」
――おい、正気か!
 依が珍しく声を荒げた、それに対して仁菜は笑って言葉を返す。
「私が動けなくなったら誰が仲間を守るのよ!」
 開かれる肋骨、痛みに仁菜が抱かれようとしたその時。
「その意気やよし!!」
 墓場の影から何者かが躍り出て一太刀浴びせた。その刃は肋骨の一部を削るように滑り、衝撃でつんのめった愚神は後ろに弾かれる。
『GーYA(aa2289)』の思った通り、浮かんでいるのなら弾き飛ばすのは容易だ。
 だが問題は痛みである。
「つッ! なかなかにっ……リアルじゃん、この痛み」
 G-YAは着地と同時に胸を押さえる。
――重体になって退院したばかりだしその経験も再現されてるのかしらね。
『まほらま(aa2289hero001 )』は涼しげにそう告げた。
 その時愚神の咆哮が響き渡る。まるで百の怨嗟を束ねて再生したような感覚。
 その口をふさぐように肩口によじ登った人形が愚神の横っ面をはたいた。
「大丈夫かな?」 
『小宮 雅春(aa4756)』が仁菜の隣に膝立ちで座る。
「はい、なんとか」
 そんな仁菜の出血を治療しながら雅春はG-YAの立ち回りを見る。
 大剣で敵を切り上げては位置を変えるように走る。なるべく前のめりに、痛みを感じないように。呼吸法と歯を食いしばり耐えた。
――体は動きを止めようとするので隙が生まれるわ。
 まほらまがG-YAの耳元でささやく。
――目を瞑ってはダメ。
 周りの状況を把握しておかなければならない。
「彼も治療したいところだけど」
「それは私が」
 仁菜は立ち上がると雅春の胸の傷を見た。すでに衣服を包帯として使いある程度止血はしてあるが、血は滲んでいた。
「痛そうです! 治療しないと」 
「いや僕はまだ大丈夫」
 雅春は仁菜の瞳を見返して力強く頷きを返した。
 僕よりずっと小さな子が傷つきながら頑張ってるんだ、その一心で歯を食いしばる。
「……大丈夫、行ける! 其れよりも」
 雅春と仁菜は地面に異変を感じ、お互いを守るように盾を展開。その盾の表面をなでて地面から鎌が生えた。
「彼を守らないと」
 地面から突き上げられた鎌はまるでG-YAのうごきを止めるように生えている。
 肋骨がひらき、愚神はG-YAをとらえようとした、その矢先『春月(aa4200)』が間に入って鎌を破壊。仁菜と雅春が左右の肋骨を真っ向から抑え、G-YAを脱出させる。 
 次いで全員の傷を癒す光の雨。
 ケアレイン、それは春月の祈りである。
「戦うの嫌だからずっと避けてきたけど、そんなの駄目だよね」
 その言葉に『レイオン(aa4200hero001 )』は小さく頷いた。
――春月が望むなら。
 春月は返しの刃でエヴァンジュリンにて反撃、槍のリーチであれば飛行もそれほど気にならない。
 対して愚神は咆哮。それに驚いて春月はいったん下がった。
――回復している暇がないと思うならリジェネを。
 レイオンに促され自身にリジェネをかける春月。
「これをみんなにかければ!」
 そう妙案を思いついたように声を上げる春月だが。
――使用回数にも気を付けて。
 そうレイオンに釘を刺されてしまう。
「だって皆が……」
 もどかしい思いをする春月、だって目の前のみんなが苦痛の表情で戦っているのだ。なのに何もできないなんて。
 春月は奥歯を噛みしめる。
「まあ、焦りなさんな」
 その春月の声が聞えていたのか遊夜が背後から声をかけた。
「苦しいくらいに全力じゃないか」
――…………ん、それに私たち、チーム。
 告げると遊夜は左腕をスッと持ち上げる、放たれる弾丸が愚神の頭部を打ち抜いた。そこに脳があるわけではないがのた打ち回る愚神である。
 それは好機と『ルカ マーシュ(aa5713)』とG-YAが切りかかった。
「確かに、他人が傷つくよりはって奴は多い気がするな」
 遊夜は頷きながら狙撃ポイントを変える。
――……ん、自己犠牲に繋がる……でも、だからこそ……人が繋がる?
 ユフォアリーヤが首をかしげる。
 遊夜はいったん墓の後ろに身を隠した。右手からしたたる血を払い力が入るかまげて伸ばしてみる。
「そういや利き腕潰された経験はなかったな」
「……ん、どこまでやれるか……試さないと、ね」
 幸い、左手でも支障はない、そこまでぶれないし、トリガを絞るだけならできる。
 遊夜は敵の咆哮をやり過ごすと墓石の上を走った。
 敵の背後にまわりながら銃弾を何発も、何発も叩き込む。
「……ッチ、結構キツいな」
――……ん、当てれるけど……思うように、いかない。
 地面から突き出す鎌。それを見越して仁菜が庇いに飛んでくる。
「怪我してるじゃないですか」
「いや、それは皆だろ」
 仁菜の盾の上に腕を置いて安定させさらに遊夜は愚神に弾丸を叩き込んだ。その弾丸は愚神が装飾として身に纏う髑髏を射抜く。
「やれやれ、敵が大きいのが救いかね」
――……ん、でも……慣れてきた、これなら……大丈夫。
 告げるユフォアリーヤに頼もしさを覚え、遊夜は微笑みを浮かべた。
「皆さんよく動けますね」
 告げると望月が槍を振り墓石を粉砕しながら現れた。負傷していてもしばらくは大丈夫そうだ。だから前衛組を先に治療した。
 先ずは出血を押さえて、そして体力の回復を。
「でも、また攻撃が来ると出血するからなぁ」
 望月はため息交じりにそう告げると地面を踏みしめて跳躍。痛みなど感じさせない動きだが要は呼吸と気合である。
 伸び上がるように望月は刃を伸ばしてひっかくように攻撃。
 それを見送ってルカは額の血をぬぐう。
「待って、前がよく見えないんだけど」
 何度も出血攻撃を受けると傷の治りが遅くなるのだろうか。そんなことを考えた。
 痛みは、恐怖はぶつぶつつぶやくことで紛らわせる。
 「なんで僕こんなことやってんだろ……Mじゃないのに……」
 断罪で体を切り裂かれながらもルカは走る。
 「こわっ!!」
 断罪の二連撃目はさすがに避けられる。ジャングルランナーを愚神に使用し飛びあがり、そのまま攻撃切りかかった。
 すれ違いざまに望月が捕えられる。
 次いで再び開いたペインの肋骨。その中心に向けて武装を複製、投射した。
「放せ!!」
 呻くペイン。ゆるりと身を躍らせはしたが眼光は鋭い。

第二章

 ルカの放つストームエッジを跳ねのけてペインは身を滑らせた。
 よろよろとよろめく獲物を見つけ、ペインは歓喜の雄たけびを上げる。
 元気な獲物よりまず死にかけの獲物だ、そう言わんばかりにペインは雅春に接近し、そして。
 その見事な人形劇に巻き込まれることになる。 
 ペインの眼窩に突き刺されるナイフ。
 素早く雅春は身を転がし、暴れるペインから逃れた。
 その隙に遊夜が援護射撃。
「癒し手なればこそ他者の痛みを知れ……か」
 まさかあの愚神にも痛みがあるとは思わなかったのが本音だ。
 ただここで逃げることはしない。いったん引かせたい少女がいたために雅春は敵が身を起こしてもそこにいる。
 パキパキとろっ骨が開く音がした。ルカはインタラプトシールドの準備をする。
「音、あとはろっ骨が開くとき、必ず右上から下に向かって順に、かな」
 そう冷静にパターンを割り出すと雅春は自分の戦いに臨む。
 その雅春を背に春月は肩を押さえながら走っている。地面に点々と血の跡。それを見ただけでも結構な出血だとわかる。
 墓石の影に隠れて自分の体を治療する。
――目は閉じないで、しっかり息を吐いて、吸って。
 レイオンの言葉に小さく頷く。その肋骨の開く音が聞えた。ペインが獲物を探しているのだ。  
 かくなる上は自分が、そう春月が思った矢先。
――下をみろ!
 レイオンが叫び春月は息をのんだ。自分の足が何者かに掴まれている。
 そのかび臭いぼろぼろの手に思わず春月は悲鳴をあげた。
 その悲鳴を仁菜は聞いて急ブレーキをかける。
――何をしてる、捕まるぞ。 
 相棒の叱咤の声に我に返った仁菜はとびずさってペインの追撃をよけた。
 咢のように開かれるそのろっ骨。
 仁菜は常にペインの注意を引くようにつかず離れずの距離を保って牽制していた。
「来るなら来なさい」
 そのろっ骨が締め切った土ごと仁菜をとらえると完全に閉じないように飛盾を噛ませて妨害する。
――G-YA。今よ!
「はぁ!」
 G-YAのうごきに望月が合わせる。
 わずかな隙間から大剣と槍を突っ込んで突き刺す。
 うめきを上げるペイン。
 同時に二人の体も痛みに軋む。
「痛みや苦しさは体験しないとわからない。仲間の死、自分の死。世界からその人が消える、自分が世界から消される!」
――死を体感できどう感じるのか知る機会が持てるならこのシステムは有用なのかも。
 G-YAは叫んで痛みを殺すと思い切りろっ骨をこじ開けた。
 仁菜はするりと脱出すると返しの刃で女郎蜘蛛。その動きを縛る。
「ろっ骨の中に!」
 強力な束縛は肋骨の開閉も止める。むき出しになった心臓部そこに遊夜が弾丸を叩き込むとペインは悲鳴を上げた。望月もG-YAも続く。
 だが、こうなることを予測してペインも先手を打っている。
 仁菜が背後から抱き締められた、腐ったような匂いを醸す両腕に。
 薄く肉のついた骸骨が仁菜の動きを拘束した。
「なに?」
 亡者たちは仁菜を引きずり込もうとする。
 その背後に回ったG-YA、大剣でひと薙ぎ、骸骨たちをバラバラにする。
「息を吸えなくなるんだ、吐き出すだけ……その怖さ……っ」
 返す刃でG-YAは骸骨の頭を吹き飛ばしその盾の腹を向けてタックル。墓石に当って骨が砕け散る。
「痛みがあるなら死んじゃいない、生きろ!」
 地面から次々に生えてくる骸骨。遊夜は墓石からおり、その軍団を狙い澄まして遊夜は膨大な霊力を放つ。
 それは骸骨どもを蒸発させる。
「やるだけやった。あとは死に抗うとしようか」
 そう遊夜は額から滴る血を拭う。
 その脇から春月が駈けだした。
 半分パニック状態の彼女は、痛みよりも回復スキルが少なくなった影響で短期決戦に臨むことにしたらしい。
――春月、周りをよく見て。スキルがなくてもできることはあるだろう?
「解ってる、わかってるよ!」
 無謀な突撃をしようとしたので春月の意識を眠らせ、レイオンが主導権を握る。
 聖槍を握りレイオンはそれでペインをついた。
「ひとりで抱えなくていいんだよ。何のために僕がいると思っているの」
 か細く春月が頷き、その声を最後に春月は眠るように意識を落した。
 相当な恐怖だったのだろう。無理はない。
 彼女は戦うことに慣れていないのだ。あの少女と違って。
 仁菜は無数の鎌を一人で受ける。
 仲間にダメージを負わすまいと必死に。
 仁菜は。誰かの痛みを引き受けることが嫌なんて思わない。
(私が痛いより仲間が痛い方が嫌)
 そう思うようになったのはいつからだろう。
「痛みの殺し方なんてあるもんか。痛いに決まってるよ!」
 それを知っているから誰も痛ませたくない。そう思える。
「痛みも死も越えられるなんて傲慢なことは思ってない。越えられないから歯を食いしばって頑張るの!」
 地面を削って走る。自分からろっ骨の中へ。そして胸の奥に毒を縫った刃を突き立てる。
「考えるなら痛みとのつきあい方より、痛くなる前に倒す方法でしょ!」
――あなたにはあの覚悟がある?
 雅春に『Jennifer(aa4756hero001 )』が軽やかに問いかけた。
「あるさ」
 人形を中心に黒いナイフが無数にならぶ。それを束ねて渾身の勢いで放つとペインの顔面に突き刺さりその骨を砕いた。
 うめきを上げるペイン。その巨体が天に伸びるように硬直したかと思うとさらさらと砂になっていく。
 リンカーたちは個の試練を突破したのだ。


エピローグ
「多少人数で体力は調整しているけどお見事」
 そうオペレータは告げると全員から取り外したギアを回収した。
 寝台から起き上がると望月はおおきく伸びた。
「やっぱり元気が一番」
 その隣で起き上がり、自分の両手を見つめているルカ。
 痛みに震えて十全の力を出せなかったとなげいている。
「あー、やっぱり痛いのも痛そうなのも嫌だな」
 そう現実に戻った春月は呻いて寝返りを打った。
 そんな一同を眺めて雅春は思う。
「こうしてる間に皆はどんどん前に進んでる。僕も追いつかなきゃ」
――追い込みすぎては駄目よ、貴方が壊れてしまうわ。
「ありがと。でも、強がりじゃないよ」
 こうして戦闘訓練は幕を下ろすことになる。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命



  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 私はあなたの翼
    九重 依aa3237hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • お人形ごっこ
    Jenniferaa4756hero001
    英雄|26才|女性|バト
  • 魔法マニア
    ルカ マーシュaa5713
    人間|19才|男性|防御



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