本部

【終極】連動シナリオ

【終極/機抗】墓標の前における在り方

雪虫

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/11/28 23:00

掲示板

オープニング


 目を抉られ檻に入れられた。
 「商品」と殴られ続ける内に自分の名前を忘れてしまった。
 お金はとても大切なものだ。それが欲しくて親達は自分達を売ったのだから。
 だから。その大切なお金で、自分達を「買ってくれた」この人のことだけは
 
「エニ―、また寝ぼけているであります」
 首元の銃身を掴みながらマニーはそう呟いた。エニ―と呼ばれた英雄は無表情でマニーを見ると、特に謝る事もなく幻想蝶の中へと消える。
 マニーもまた英雄を顧みる事はせず、無造作に首についた銃口の跡を手で擦った。特に痛みはなく、むしろ今しがた見ていた夢の方がよっぽど頭を蝕んでいる。
「寝ぼけていたのはマニーも同じでありますね」
 いけないであります、と頭を振る。最近少しずつ増えている。自分の命に然程執着はないのだが、死んで任務を果たせなくなるのはとても困る。
 マニーは掌底の形を作ると、それで自分の頭を殴った。骨を痺れさせる痛みが夢の残滓を遠ざける。


 エリー湖。北アメリカにある五大湖の内のひとつであり、25,821平方キロメートルもの面積を有している。平均の水深は18メートルと浅いものの、水量は458立方キロメートルに及ぶ。
 『王』の侵略の影響だろうか、このエリー湖が、たった一夜の内にドロップゾーンと化してしまった。そこから出現した大量の愚神、従魔の群れは既にデトロイトに進軍しており、崩れればアメリカ・カナダ双方の被害は免れない。故にH.O.P.E.はまずデトロイトの防衛と住民の保護を急務とした。人命を失ってしまっては取り返しようがないからだ。
「なのでエリー湖に向かう君達の任務はゾーンルーラーの発見だ。討伐はデトロイトの防衛が叶ってから改めて行うものとする。もちろんゾーンルーラーが討伐可能であればここで撃破して欲しくはあるが、無理はするな。身の危険を感じた時は即座に撤退する事」
 そのように命を受け、エージェント数名はエリー湖を訪れていた。ゾーン化した影響なのか全体が霞掛かっており、遠くの方は白の中に埋もれている。通信にはノイズが混じり、この場で支部と連絡を取るのは難しそうだ。
「とにかくゾーンルーラーを探そう。可能であれば数戦交え、攻撃方法や特性を見極めて帰還する……」
 と、同行していたギアナ支部の衛生兵、戸丸音弥が言った所で、白い霞の中から影が数体現れた。エージェント達が身構え、それぞれ武器を構えた所で、数人のリンカーが……今はGLAIVEと名を改めた、リオ・ベルデの特殊部隊兵達がエージェントの姿を認める。
「君達は!」
「またお会いしたであります」
 GLAIVEの一人、マニー・マミーは音弥を見てそう言った。GLAIVE。従魔憑きのAGW――RGWを武器、あるいは義肢として装着し、人体実験によって通常ではあり得ないスキルを使う事が出来る。しかしその代償として、戦えば戦う程邪英に近付く危険がある。またアイアンパンクの領域を超える程の無茶な改造は、既に彼らの身も命も蝕んでいる――
「ここで何をしてるんだ!」
「ゾーンルーラーの討伐に」
「はあっ!?」
「ここにゾーンルーラーがいるであります。倒さないと従魔や愚神が増えるので、その討伐に」
「君達は戦う程に邪英化し、命を縮める危険性があるんだぞ!」
「大丈夫であります。邪英化した際は自爆する設計になっているのであります。もちろん敵も巻き込んで自爆するでありますので、邪英化したら敵勢力が増える等といった心配は不要であります」
「そういう事を言ってるんじゃない!」
「邪魔するつもりなら構わないでくれ。こっちは急いでいるんだ」
 マニーと音弥のやり取りを遮るように別のGLAIVE兵が言った。その声はあまりに平坦で……道を塞がれた事に対して咎めている、ただそれだけの調子だった。音弥はそれでも言葉を続けようとしたが、瞬間、湖の中から盛大な水音と共に何かが姿を現した。それは巨大な人魚だった。まるでおとぎ話の中から出てきたような、しかし全長30メートルはあろうかという巨大な人魚が、腰から上だけを水面に出し、ガラス玉のような瞳でじっと人間達を見下ろす。
「ど、どうして当然出てきたんだ!」
「うちのブレイブナイトのスキルだ。ライヴスを周囲に撒き散らして誘き出す。これでしばらくこいつは水の中には潜れない」
 人魚は大きく息を吸うと歌を一帯に響かせた。とは言え『歌』と表せるような美しいものではなく、耳がおかしくなりそうな酷い音痴だ。しかし従魔にはそれで善いようで、何か丸い形の従魔が、泡のようにぼこ、ぼこと水底から浮き出てくる。
 GLAIVE達はそれぞれ武器を取り出した。問うまでもない、止まる気はない。止めた所で聞かないだろうし、止めようと思えば力づくに訴えるしかないだろう。しかし下手に止めようとすれば愚神・GLAIVEとの三つ巴になる。いっそ共闘して早々に愚神を倒してしまうか? そうすれば少なくとも、彼らをこの場で死なせる危険は軽減出来る。
 それとも見なかった事にして帰ってしまうか? 自分達の預かり知らぬ所で勝手に戦い、勝手に死んだ事にするか? 力づくで止める。共闘する。共闘するフリをして隙を見て制圧し捕らえる。見なかった事にして放置する。説得を試みる。支部と連絡が取れない以上、判断は完全にエージェント達に委ねられる。
 さあ、どのような在り方を選ぶ。

●エニ―湖
 広大な湖。湖の向こうは霞掛かって見えないが、戦闘域の視界は問題ない。配置は以下

◆◆◆◆◆◆◆ ◆:バブル
◆◆◆愚◆◆◆ 愚:マーメイド(岸からの距離は10sq)
◆◆◆◆◆◆◆ □:岸
□□□□□□□ ☆:PC、NPC初期位置
   ☆

●敵
 マーメイド×1
 ケントゥリオ級愚神。生命が異常に高い
・人魚の歌声
 毎Rバブルを大量召喚。酷い音痴。超至近距離で聞くと稀に【衝撃】付与
・人魚の涙
 自分に使えば回復/その他(バブル含む)に当たるとダメージ付与
・人魚の怒り
 巨大な腕を振り回して無差別攻撃。腕はクリンナップフェーズで引く(引くまではその場に残存。腕や身体に誰かが乗った場合は振り落とそうとする)

 バブル
 直径2mの球型ミーレス級従魔。湖にぷかぷか浮く以外は何もしない。足場になるが不安定。人が乗っている状態で撃破されると乗っていた者は湖に落ち、岸に上がるまで1~3Rかかる(岸から遠い程かかる)。湖に落ちた状態でバブルに捕まり復帰するのは難しい
 
●NPC
 音弥&セプス
 適宜PCの回復を行う。GLAIVEを死なせたくないと思っているが、PCの指示には従う
 スキル:ケアレイ×3/クリアレイ×3/ケアレイン×2
 武器:アサルトライフル/禁軍装甲

解説

●目標
 愚神の討伐

●GLAIVE
 全員改造手術とRGWによりスキルが強化されているが、通常攻撃で1d6、スキル使用で3d6邪英化へと近付いていく。数値が60に達した所で邪英化が開始し意識が徐々に蝕まれ、3R経過で完全に邪英化/自爆する(範囲2に無差別特大ダメージ)。この場合の邪英化を解く手段は邪英化開始~自爆までの間に重体にし共鳴を強制解除する事のみ(邪英化開始後は自発的な共鳴解除は不可)
 なお重体時に攻撃を受け死亡判定に突入すると即邪英化・即自爆する(邪英化を解く為に重体にした→攻撃を受けた場合も同様)
 基本的にエージェントを攻撃しないが攻撃・口撃された場合反撃はする。戦闘不能時は捕縛/H.O.P.E.に連行可能。捕虜となった者に関しては他GLAIVE兵は奪還しない。愚神討伐後は即撤退する

 ブレイブナイト×2(剣装備)
・モーロンラベ×2
 守るべき誓い強化。守るべき誓いの効果に加え範囲内にいる敵の潜伏を封じる
・ディフレクト×3
 カバーリング時に発動。防御成功時、受けるダメージはゼロになる

 ドレッドノート×2(大剣装備)
・アサルト×3
 ファーストスキル。使用R、全力移動後に攻撃を行う事が出来る
・レンド×3
 烈風波強化。稀に【減退3】付与

 ブラックボックス×2(本装備)
・フーディーニ×3
 時空を歪め、指定対象(敵味方問わず)との位置を入れ替える
・アウグストゥス×2
 リアクション。岩壁を精製しダメージを完全に防いだ上に、攻撃者の身体もしくは武器を取り込み1R【拘束】付与(地上でのみ使用可)

 マニー・マミー
 左手の機関銃で遠距離攻撃、両義足の仕込み刀で近距離攻撃を行う。「姿をリンカーの目からも消すスキル」「回避を下げるスキル」を有している

リプレイ


「ハハ、地獄の底にでも繋がってそうな歌声だ。嫌いじゃないよ」
 耳を刺すような歌声を十影夕(aa0890)はそう評した。共鳴する事により銀に変じた髪一房をしゃらりと揺らし、金と赤の二種の瞳でGLAIVEの姿を眺める。
 敵がいるなら戦うしかないね。どうぞご勝手に、とはいかないよ。
 護るべきもののため、いや、それすら持たずにただ死に向かう。
 それはそれで美しいものだけど。
 ただ、夕はこうも思う。俺はマニーが非リンカーのレジスタンスを蹴散らした事も、それをイザベラが命じた事も許さないから、勝手に死なれちゃ困る。それに、彼らの覚悟がどうであれ、俺にとってはH.O.P.E.が救い損ねた人たちだ。
 死に方くらい選ばせてやれ、と言われるかもしれないけど。
 死なせたくないと叫ぶ人の前でみすみす見殺しにするほど無感情なわけでもないしね。
「いちおう聞いておくよ。俺たちに任せて退く気はない? ほら、戸丸さんも心配してるし。H.O.P.Eは愚神の王を消す算段を付けたんだ。もう動き始めてもいる」
 そんな事を言った所で、いまさら彼らが希望を持つ事はないかもしれないけど、死に方を選び直す参考にくらいはなるかもしれないし。と夕は試してみる。
「大佐からお賃金を頂いておりますので、任務は遂行するのであります」
 返ってきたマニーの言葉は実につれないものだった。他の兵士も「賃金が」理由ではないだろうが、退くつもりはないようだ。
 夕はただ目を細め、今度こそGLAIVEではなく巨大な人魚に瞳を向けた。青年、と呼ぶにはまだ頼りない細さの腕で、LSR-M110を……全長121cmの狙撃銃を何の苦もなく持ち上げる。
「ともかく、人魚には泡と消えてもらって無事に帰らなきゃね」
 そして人魚の心臓に向けてストライクを撃ち放った。精神を集中させての鋭い一射は、過たずに命中し肉の一部を抉り取る。

 無月(aa1531)は思う。人知れず闇に消えるのは私だけでいい。真の己を知らずに消えようとする彼らを見過ごす事は私には出来ない。
『私達、だろ? 結構長い付き合いなのに、つれない事を言わないでくれ』
 内側からジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)がそんな事を言ってきた。少しだけ拗ねたような、そして半分以上からかうような声で言った後、今度はクールに、しかし熱い意志を内包した音で告げる。
『それに皆もそれぞれの方法で救おうとしているのだから、ボク達も出来る事をしよう』
 無月は「つれない事」に対する詫びの代わりに頷いて、マニー達へと向き合った。戦いの前に、まずはGLAIVEの皆と話がしたい。
「君達の話は解った。だが、一つ忘れてはいないか。それは生きる事も任務の内だ、と言う事だ。まだ敵は他にも無数にいる。ここで力尽きたらこの先にある任務は誰が遂行するのだ。戦う事が君達の使命ならば止めはしない。だが、使命を最後まで遂行する為には生きなければならないのだ。もし、君達が己の使命を完遂するつもりであるならば、私の話を聞いて欲しい。それは、この任務を成功させる為にも必要だからだ」
 マニーは一秒間を置いた後「聞くであります」と返事をした。他の兵士も無言のまま、話に耳を傾ける。
「スキルを二回に通常攻撃を三回、もしくはスキルを一回に通常攻撃を六回行った後は後衛に回り、前衛の崩壊に備え待機して欲しい。前衛は私達エージェントが請け負おう」
『(あくまでも戦闘参加の体を保ちながら攻撃をさせないと言う事だね)』
と、ジェネッサが無月の脳にのみ届くように言ってきた。これで納得してくれればいいのだが、しかしマニー達の反応は芳しいものではなかった。
「戦闘方法は敵の出方によって決めるもの。敵の出方を見もしない内に、攻撃回数だけで行動を決めるのは不合理かと思うであります」
「それに待機して戦闘を長引かせるより、共に戦って早期撃破を目指した方が良いのでは? 長期戦になった上に貴殿らが崩れてから追加投入したのでは、かえって戦力を浪費する事にもなりかねん」
 無月の言はジェネッサの言う通り「戦闘参加の体を保ちながら攻撃をさせない」ための策であり、「戦略」という面で反論の余地を与えてしまった。兵士は提案を断ろうと半ば口を開きかけたが、
「あっ、また会ったねマニーさん! 運命?!」
 そこにプリンセス☆エデン(aa4913)が、色々な意味で場違いな程明るい声を割り込ませた。
『(お嬢様)』
 とEzra(aa4913hero001)が慌てたようにエデンを止めたが、
「(大丈夫、まかせてよ)」
 とエデンが言い返し、そしてGLAIVEに語り掛ける。
「自分の命を投げ売ってでも戦うって覚悟はすごいと思うし、その覚悟を決めた理由が何かあるんだろうし、人それぞれの決意や想いは尊重したいし、その覚悟を止めたり、否定したりはしないけど……。
 ただ、死んでしまったら悲しいなと、あたしは思うよ。これはあたしの想い! エージェントも強いからさ、いい感じに使っちゃってよ! 無月さんも言ってたけどまだまだ今後も戦っていかないとなんないし、こんなところで終わっちゃったら勿体無いでしょ。スキルも無理して使わないで、今後の戦いのために温存しとくのも、ひとつの賢い選択かもよ☆ それこそ戦略ってやつ?」
 言ってGLAIVEの様子を伺う。GLAIVE達は短く言葉を交わし、結論を出したようだ。今後に備えられるのであればそれに越した事はない。
「我々にスキルを使わせたくない、というのは分かったであります。通常攻撃をメインにしてスキルは温存、それでよろしいでありますか?」
 代表してマニーが言った。攻撃をさせない、という所までは残念ながら行けなかったが、スキル温存に持ち込めただけでも邪英化の危険は各段に減る。無月は「ああ」と頷いた後、大典太光世を出現させて湖の愚神に向き直る。
『いずれにせよ、邪英化させない為にも速攻でいかないとね』
 人魚へと走る事で無月はジェネッサの言に応えた。ロケットアンカー砲を使って愚神の上に乗り込めればいいのだが、ロケットアンカー砲はクローを刺した場所を足掛かりによじ登る事は可能であっても、ワイヤーを巻き取って即座に移動、というような事は出来ない。また目標は木や壁といった無機物ではなく人型の濡れた、動く腕。あれにクローを突き刺し、よじ登って上に到達するのは至難と言っていいだろう。
 故にバブルの上を駆け、巨大人魚に肉薄する。湖面を揺れる不安定な足場を蹴って一気に距離を詰め、無月は影で模した薔薇の花弁――繚乱を人魚へ叩きつけた。人魚を囲むように舞い、惑わそうとする花弁は確かに美しい光景だったが、ダレン・クローバー(aa4365hero001)の心が動かされる事はない。
『あれが、敵か』
「(ダレン。ダレン。精一杯応援しているからね。楽しそうな君が見られるといいなぁ)」
 ぼそりと呟いたダレンに続け、エリカ・トリフォリウム(aa4365)は熱に浮かされたような声をダレンの脳内に響かせた。焦がれるような、同時に歪んだ恋情は確かにダレンに届いているが、振り払うようにダレンはしわがれた女声で切り捨てる。
『少し黙っていろ、バカ』
 同時にショットガン「イフティヤージュEX1」を出現させ、小柄な身体で巨大な愚神へ弾丸を撃ち放った。元々の的が大きい上に、繚乱に翻弄されている。放射状に分かれた多数の小さな弾丸が、破裂音を上げながら一挙に愚神の胴を叩く。
『お前達との共闘に関しては、止めない。爆死は、お断りしたいものだが。
 それから1つ。湖に沈んだら、雨を降らす』
「心得た」
 GLAIVEの誰かがそう言った。ダレンは特に確認しない。岸に立ち、屠るべき獲物へ赤色の銃を向け続ける。

「あれ、本当に浮いているだけなのか」
『分からない。から、一度確かめた方がいいかもね』
 ウェルラス(aa1538hero001)とそのように短く言葉を交わした後、水落 葵(aa1538)はバブルのひとつをLAR-DF72「ピースメイカー」で狙い撃った。仲間やGLAIVEの動線に被らないものを攻撃し、撃たれたバブルは正に泡のごとく弾け飛ぶ。
「禮、人魚が相手だが……」
『……あの歌声を聞きましたか、兄さん。きれいな歌声は人魚の誇り、でも……ひどく歪んでしまってます』
 海神 藍(aa2518)の問い掛けに、禮(aa2518hero001)は悲しそうな色を滲ませつつ答えた。そして愚神は、死して泡沫に消える人魚は、泡の従魔をただ生み出し続けている。
「それは……」
『ええ、おそらく彼女は死を求めています。歌うべきは鎮魂歌。手向けるべきは花一輪』
 海軍の礼装がごとき衣装を揺らし、藍は、そして禮は岸辺から愚神を見上げる。そして慈しむように、柔らかく彼女に語り掛ける。
『さいごの歌を、歌いましょう?』
 龍宮宝典「海帝」、銘“須美乃江”を右手に開き、藍はライヴスを光の蝶へと作り変える。一匹一匹と増やしながら背後のGLAIVE達へと告げる。
「すまないが少し下がってくれ……いや、君たちの邪魔をするつもりはない」
『幻影蝶を使います。RGWには悪影響があるかもしれませんから』
 GLAIVE達は藍から十二分に距離を取り、藍は歌う人魚へと幻影蝶の群れを放った。蝶は人魚の肩に、髪に、そこかしこにとまっていき、幻想的に彩りながら敵のライヴスを奪っていく。蝶は完全に人魚を捕らえた。これでしばらくは動けぬだろう。
「利害は一致していると愚考する……私も共闘を希望する」
『ただし、邪英化と自爆は出来るだけ避けてくださいね。ご存知でしょうけどH.O.P.E.はそういうの見過ごせないんです』
「善処しよう」
 藍と禮に短く返し、ブレイブナイトとドレッドノートは愚神へと駆け出した。彼らは近接武器しか持っていない。スキルを温存するのであれば、バブルに乗って直接愚神に斬り掛かるより他はない。
「(しかしgraveとは……縁起の悪い名だな)」
『(違いますよ兄さん、glaiveです、武器の方です)』
 武器は武器でもそれは薙刀だ、と藍は思った。が、フランス革命にて、庶民たちが肉切り包丁を棒に付けた物もそう呼ばれる。
「(ああ……。なるほど、どちらにしても本質を表しているな)」
 彼らの在り方を否定できない。その覚悟まで、誰が否定できようか。


「あたしはか弱い後衛だから、岸に位置して戦うよ!」
 と周囲にアピールしつつ、エデンはゴーストウィンドを放って人魚の巨体を覆い隠した。不浄なライヴスを含んだ風が防御力を低下させる。そこにGLAIVEのブレイブナイトとドレッドノートが一斉に斬り掛かり、ブラックボックスが魔法弾の、マニーと音弥が銃弾の一斉砲火を喰らわせる。マーメイドは幻影蝶に惑わされて動けない。また封印を解くためにも今しばらく掛かるだろう。
 無月は密着戦を選び、大典太光世にライヴスをまとわせ人魚の鱗を斬り裂いた。幻影蝶が既に人魚に減退を与えているため、毒刃による追加効果は発生しないが、それでも異質なライヴスはダメージを上乗せしてくれる。
 痛みに身をよじる愚神に、夕が先の傷目掛けて二度目のストライクを叩き撃つ。同じ箇所に繰り返し攻撃を当てて深く抉っていくのが目的。対象が巨大過ぎるため目視での確認は難しいが、命中と同時に愚神は苦し気な悲鳴を響かせる。
 ダレンもそのまま岸に立って赤い銃の引き金を引き、葵は二体目のバブルへと弾丸を命中させた。やはりパチンと弾けるだけでそれ以外の異常は見られない。
「本当に浮くだけが能力か……乗っても割っても大丈夫そうだ!」
 葵の報告を受けつつ、エデンは極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』にライヴスを集中させる。きらきら輝くエフェクトを周囲に惜しみなく披露しながら、可愛らしく明るい声ではっきりと宣言する。
「強烈アタックをお見舞いするよ!」
 宣告後、魔法弾は直線に飛んでいき、人魚の胸部と衝突してその巨体を大きく揺らした。魔法弾の威力が上がったという訳ではない。エデンの霊力浸透が敵の魔法防御を下げたのだ。藍が「海帝」で水流を操り鞭のごとく叩き付け、音弥が、GLAIVEがさらに攻撃を重ねる。いまだ動かぬ愚神へとリンカー達は猛攻を続ける。
 葵はALB「セイレーン」を使って湖面に直接飛び乗ると、壁のような人魚の下半身へ「ピースメイカー」の銃口を合わせた。本当は喉まで行ければいいのだが、それが無理でも下半身に乗り上げられればいいのだが、ほぼ垂直の濡れた肌を駆け上がるのは難しそうだ。
「まあ、それならそれで仕方ねえよな」
 唇をぺろりと軽く舐め、ライヴスブローを乗せた銃弾を炸裂させる。無月が再度毒刃をまとわせ大典太光世で斬り掛かり、夕が三度目のストライクで胸の穴を拡げていく。滑らかだった人魚の肌に徐々に血の赤が滲み出る。そこに再び、エデンが霊力浸透を加えた魔法弾を。
「もう一回、強烈なのいくよ!」
 ブチ当たった衝撃に、人魚の身体は波を立てながら大きく傾いだ。波は近くのバブルをも揺らし、乗っていた無月やGLAIVE兵達はたまらずその場にしゃがみ込む。
「う……う……」
 誰かのすすり泣く声が聞こえた。上空から聞こえるそれにリンカー達が顔を上げると、人魚が顔を覆い、悲しそうな顔をしてさめざめと泣いていた。長く艶やかな髪を揺らし、涙を零す様だけは美しいと言えるかもしれない。
 だがそれも、涙が汚泥のように黒くなければの話である。落ちる涙は人魚の顔に黒く醜い筋を作り、彼女が『王』の手の内に堕ちた者だと知らしめる。
 そして汚泥のような涙は、人魚の肌の上に落ちては傷を回復させていく。人魚は顔から手を外すと、金属を擦り合わせたような歪んだ音を響かせた。
「あ……あぁア゛、あああァアアア゛ッ!」
 歌声と言うより音の暴力と言う方が相応しかった。岸にいても耳を押さえざるを得ない。ましてや人魚の周りで武器を取っていた者達は。
 人魚の攻撃はそれだけでは終わらなかった。顔を黒い涙で汚し、歌声を張り上げながら、たおやかだが巨大な二本の腕を湖上のリンカー達へ振り落とした。足下のバブルが弾け、無月も、GLAIVEのブレイブナイトとドレッドノートも水中へと落下する。セイレーンを装備した葵だけはなんとか体勢を立て直し、無月の腕を掴んでバブルへの上に引き上げた。他の四人に関しては葵だけでは手が回らない。
「あたし物理は非力な乙女だから、代わりに助けてあげて! お願い!」
 エデンは岸にいたブラックボックスに凄竹のつりざおを渡そうとした。だが兵士はつりざおを見、「無理だ」と即座に首を振る。
「そのつりざおではあいつらには届かないし、何の対策もないまま進めばあいつらの二の舞いになる」
 凄竹のつりざおの射程は最長6m、一方落ちた兵士達は愚神のすぐ近くにいたため20m程先にいる。バブルの上に乗ってつりざおを使ったとしても、愚神に攻撃されないとは限らない。下手をすれば水没者を増やす事にも繋がりかねない。
 夕が、藍が、ダレンが、マニーが、岸に立ったままそれぞれに愚神へ攻撃を放ち続ける。最中、バブルに引き上げられた無月の膝が崩れかかった。マーメイドから受けたダメージも勿論あるが、それ以上に、限界以上の装備が無月の生命力を蝕んでいた。能力者はライヴス制御によって武器や防具の力を引き出している。故にその限界を少しでも超過すれば、時間が経過するだけでも生命力を削られる。
 それに気付いた音弥が無月へとケアレイを飛ばし、その間にもリンカー達はひたすら攻撃を重ねていく。夕が塞がり掛けた穴に弾丸を撃ち続け、エデンが二度目のゴーストウィンドで愚神を再び取り囲む。
 だが、愚神は止まらない。もはや叫び声に近いような歌声を披露しながら、水に落ちたままのGLAIVE達へ巨大な腕を叩きつけた。GLAIVEの中にはモーロンラベを……守るべき誓いを強化したスキルを使用した者がおり、攻撃は当然そのブレイブナイトと周辺へと集中する。そして巨大な腕の攻撃を、水に落ち、バブルに取り囲まれた状態で避けきる事は難しい。
 ただこれは、GLAIVEの選択ミス、戦略ミスとも言い切れない。何故ならモーロンラベを使った兵士が岸にいれば、無差別かつ広範囲に及ぶ愚神の攻撃は岸にいる者達を……後衛組を巻き込んでいた可能性があるからだ。そしてそれを防ぐためにはスキルで凌ぐか湖に出るか、どちらかしか選択肢がない。言える事はGLAIVEはスキル温存を優先して戦っているという事であり、愚神の両腕は水の中に沈んでいるという事だ。
 腕が引ききる前に。無月は濡れた身体のままバブルから腕へと跳躍し、肩まで駆け上がったと同時に日本刀を突き刺した。葵は湖面に残ったまま守るべき誓いを発動する。ライヴスリッパーで気絶させる事も考えたが、失敗する可能性もある。GLAIVEへの追撃を止めるためならこちらの方が確実だ。音弥は水中の兵士達にケアレインを降り注がせる。
 と、人魚が腕を引き、湖に身体を沈ませ始めた。モーロンラベの効果が切れたのだ。無月が人魚の肩に乗りながら、後衛組が岸辺からそれぞれ攻撃を加えるが、愚神が止まる様子はない。このままでは完全に水に潜ってしまうだろう。
「させない!」
 藍は浦島の釣り竿に武器を換え、バブルの上へと足を踏み出し愚神の腕へ糸を放った。糸は愚神の腕に絡んだが、相手は全長30mのケントゥリオ級。いくら浦島の名を冠していても、一人で釣り上げるにはあまりにも重すぎる。逆に藍の方が湖へと引きずり込まれてしまいそうだ。
 葵は愚神の腕に乗り、そのまま喉元まで走った。エデンは愚神に狙いを定め、ライヴスを闇へと変えていく。
「上手くいくかは分からねえが」
「とにかく試してみないとね!」
 そして葵のライヴスリッパーが、エデンのリーサルダークがほぼ同時に放たれた。ライヴスを乱され闇に囲まれ、人魚は中途半端に沈んだ位置で動きを止めた。もっともこのままでは攻撃すれば、それで人魚が起きてしまえばまた元の木阿弥だが、岸に到達したブレイブナイトがモーロンラベをかけ直した。これでしばらくの間は水に隠れる事はない。
「私は湖の端に待機しよう。迂闊に進めば先の二の舞いになりかねない。後衛はもっと下がって……」
「その必要はねえよ。俺が守るべき誓いを使う。それならどうだ」
 葵は人魚の上に立ったまま声を掛けた。ブレイブナイトはしばし考え、「分かった」と頷いた。葵が再度守るべき誓いを展開し、そしてまたリンカー達の攻撃が再開される。
「ぅあァ、あア゛、Ah――!!!」
 叩きつけられる刃に、弾丸に、目を覚ましたマーメイドは、また狂声を響かせながら平手を繰り出そうとした。自分の喉元に位置し、活性化したライヴスを振り撒いている葵へと。
 巨大な腕で繰り出される大ぶりの攻撃は、肩に乗っていた無月をも巻き込もうと迫ったが、当たる直前無月は影の中に溶け、少し離れた位置に移動し刃を深く突き刺した。夕が心臓に向かって弾丸を、エデンが胴に向かって魔法弾を叩き込み、藍がライヴスを声に乗せ、放つ。
「【止まれ!】」
 支配者の言葉を叩きつけられ人魚の動きがぴたりと止まった。これでしばらく、彼女の上の味方が降り落とされる事はない。ダレンにとっては同時に、愚神に乗り込むチャンスでもある。
 ダレンはジャングルランナーで一気に愚神の腕へと飛んだ。ジャングルランナーは「マーカーが接着できるもの」であれば、無機物・生物・従魔・愚神でも対象となる。よって移乗可能。
 ダレンはそのまま無表情で銃口を愚神の顔面に合わせ、引き金を一挙に絞った。放たれた多数の弾丸は均等に散らばって、人魚の顔に、目に、肌に多数の穴を開ける。
「A、A、AAA――!!!」
 マーメイドは痛みに顔を歪め、がむしゃらに腕を振り回した。めちゃくちゃな、しかしそれ故に予測不可能、広範囲に及ぶ攻撃は、愚神の上に乗っていたリンカー達を叩きのめし振り落とす。
 ダレンは落下しながら武器を多数召喚した。湖に沈んだら、雨を降らす。先程宣告した通りに。
 鮮血の如き赤き瞳の少女を中心に据え置いて、無差別に降る武器の豪雨はしたたかに愚神の身を打った。葵もまた落ちた先で、「セイレーン」を用いて体勢を立て直すと、「ピースメイカー」の銃口を眼前の巨大な壁へと定めた。同時に無月が、こちらは愚神の背後のバブルへと足場を移しながら大典太光世を構え直す。
 銃弾と刃とが前後から愚神を挟み撃った。GLAIVE達がそれに続き、夕もダンシングバレットを人魚の心臓へ送り込む。弾丸は真っ直ぐに穴の中へと吸い込まれ、愚神が大きく悲鳴を上げる。さらにエデンが、『アルスマギカ・リ・チューン』の魔法弾を。
「あ、あ、ああああ、あ……」
 痛ましく喘ぐ声に、満身創痍の愚神に向けて藍は静かに手をかざす。禮が唇を動かす。鎮魂歌を歌う前に告げる。
『あなたの物語はもう、終わったんですよ……』
 瞬間、ブルームフレアが、大輪の炎の花となって人魚の身を飾り立てた。白い肌が焼け、その端から泡になって消えていく。人魚が完全に泡になり、その姿を失ってからも、禮はしばらく美しい声で彼女への歌を歌い続けた。


「ケガをした者は僕の下に集まってくれ!」
 という音弥の声に、負傷したGLAIVE、及びエージェントは固まって、一緒に音弥のケアレインを受けた。無論全快とはいかないが、残った傷はいつも通り帰ってじっくり治すだけだ。
「あの、話聞いてくれてありがとうね」
 エデンはGLAIVEに、特に湖に落ちた兵士達へと話し掛けた。良く言えばゴキゲンなお気楽娘、悪く言えばおおざっぱな性格のエデンだが、彼らが湖に落ちたのはスキル温存を優先したから……無月やエデンの言葉を聞いてくれたからというのは分かっていた。無骨な顔の兵士達は、にこりともしないままなんでもないようにエデンに告げる。
「気にするな。別にお前らに気を遣ってああしたって訳でもない。こっちだって次の戦いに備えられるという理があったしな」
「俺達は帰るが、お前達も早く帰れ。特にアンタ、アンタも水に落ちただろう。早く帰って風呂に入らないと風邪をひくぞ」
 兵士の一人が無月へとそんな事を言ってきた。表情は変わらないが、その言葉には間違いなく無月への気遣いがあった。無月は彼らに一歩踏み出し、そして尋ねてみる。
「君達は、心から笑った事があるか」
「心から、という定義が何かが分からん。だから答えようがない」
「そうか……ならば、その時まで生きる事も任務だと言う事を忘れないで欲しい」
「そんな事は命じられていない」
「ならば心に留めて欲しい。心から笑える瞬間を、見つけるまで生きていて欲しい」
 彼らはその言葉には了承してくれなかった。去ろうとする背中を見ながら、無月は思う。
 笑った時、即ち自分を取り戻した時に改めて己の道を考えて欲しい。
「(願わくば、それが戦いの道ではない事を祈るばかりだ)」

「もしお前以外のGLAIVEの誰かが邪英化したら、お前はどうする。どうしたい。そのまま苦しませるか? 楽にさせてやるか? それとも……解放させてやるか?」
「それを決めるのは任務には含まれていないであります」
 葵からの質問にマニーはそのように答えた。ある意味予想通りの答えだったが、だがその後に続く言葉は違った。
「それに、マニーが決める権限もないであります。GLAIVEの皆様はそれを承知で戦場に来ている。当人がそれを決めたのであれば、マニーにも、他の兵士にも、それを覆す権限はないかと」
「……そうか」
 葵はそれだけ言ってその話題を終わらせた。そして携帯音楽プレイヤーを突き出し、首を傾げるマニーに笑顔を浮かべて解説する。
「俺らは発見が任務だったからな、早期対応できて助かった。こん中には俺の気に入りの曲が入ってる。
 オマエさんが気に入るかどうかはわからんが、俺のお気に入りのモンだ。受け取ってくれ。こないだの熨斗袋みたいにそのまま返すっていうなら、オマエさんの気に入ってる曲の一つでも入れてくれるとありがたい」
 つまり気に入りの曲を入れるまでは返すなという事だ。マニーは難しい顔をしてプレイヤーを凝視する。
「曲の入れ方が分からないであります」
「だったら調べて入れてくれ」
「これの使い方が分からないであります」
「まずイヤフォンを入れて、ここが再生ボタン……と」
 曲が流れ始めると、マニーは驚いた顔をした。そしてイヤフォン押さえて音楽に耳を傾ける。
 葵はそれを見て微笑むと、今度はキャンディポットを取り出した。マニーの肩を叩いてイヤフォンを外させる。
「こいつもついでに。ソッチの、GLAIVEの食えるやつらでわけてくれ」
「頂く理由がないであります」
「なんだっていいんだよ。他はアンタらを褒めないかもしれんが、俺は褒めてぇんだ」
「マニー達は、貴方様に褒められるために戦っている訳ではないでありますが……」
 言葉は可愛げのないものだったが、居心地が悪そうに目線をうろうろさせている。褒められ慣れておらず照れている子供のようだ。
 それでも葵の言葉から、そのまま返すのは間違っている、という事には気付いたらしい。7色のキャンディが詰められたガラスの小瓶と、携帯音楽プレイヤーを所在なさげに抱えながら、マニーはぎこちなく頭を下げる。
「どうもありがとうございました……これで合ってたでありますか?」
 前回と全く同じように自分を見上げるマニーの顔に、葵もまた前回と同じく笑いながら頷いた。

 岸に立ち、エリカは死んだ愚神や従魔へ黙祷を捧げていた。愚神の身は完全に泡と消えてしまったから、埋葬すべき亡骸はない。葵は遺骸が残ったのなら一部持ち帰るつもりだったが、当然それも出来ない。提出出来るものは葵がハンディカメラで撮影した映像だけになるだろう(もっともそれに関しては、求められた場合のみ提出するつもりだが)。
「ねぇダレン。ボクは彼らとの共闘をむやみな延命だと思っているよ。ダレンに出会えた奇跡のような幸福な希望があれば延命も悪くないけどね。何も……信念も希望も幸福もなければそれはむやみだろうって。彼らが生を選ぶのならせめて苦しくないようにと願ってる。なんて言ったら、どう思う?」
 エリカは共鳴を解き、今は離れて立ち尽くしているダレンのみに問い掛けた。先程二人は、共鳴したままGLAIVE達へと問い掛けた。
『能力者から、1つ問う。「戦いが終わった後の身を想像できるのか」と』
 GLAIVE達は「想像しない」と言った。「そんな事は生き残った後に考えるべき事だ」と。実際、彼らの中には生きて戦いの終焉を迎えられない者もいるだろう。「むやみな延命」と言ったエリカの言葉は、残念ながら当たっている。今回彼らがスキルの温存に応じたのは『生きるため』ではなく『次も戦えるようにするため』だし、また今回のやり方では次の邪英化は止められない。一人だけ邪英化するならまだ止めようもあるだろうが、次は同時に複数人が邪英化する恐れもある。そうなった時、重体にして強制解除という手段を試みたとしても、一人は助け一人は見捨てる、なんて事態も起こりかねない。次は乗り越えられたとしても、また次の戦いに赴けば。
 ダレンはGLAIVEの言葉に対しこう言った。
『わたしは、おまえたちの生き死には、どうでもいい。貫け』
 そしてエリカの言葉には、スマートフォンにこう記入した。
『傲慢。あるいは怠惰』
 厳しい言葉だ。だがその言葉に、エリカは嬉しそうに笑い、言った。
「そうかい」


 帰還後求められたので、葵はコピーデータをニューヨーク支部へと提出した。藍はデトロイトを襲った従魔や愚神と、エリー湖の従魔や愚神が違う事から「デトロイトに攻め寄せる従魔の主、ゾーンルーラーは別にいるのでは」と懸念したが、ゾーンルーラーはドロップゾーンを形成・維持しているモノ……例えるなら門番のような存在であり、ゾーンから出現した従魔・愚神全てを使役している訳ではない。この事は従魔も愚神も単独で現れ、単独で行動する例が多々ある事、そしてゾーンからゾーンルーラーより上位の存在……トリブヌス級の形成したドロップゾーンから、レガトゥス級が出現する事例がある事からも述べられる。
 もっとも、それだけでは懸念は払拭しきれないが、ゾーンブレイカーでもあるM・Aが赴き、ゾーンを破壊したそうだ。エリー湖とデトロイトから一先ずの脅威は去ったと見ていいだろう。とりあえず……「次」が襲来するまでは。
「十影君、さっきはありがとう」
 音弥は夕に近付くと丁寧に頭を下げた。「戸丸さんも心配してるし」と、GLAIVEを引き留める言葉を言ってくれたのが嬉しかったようだ。音弥はそのまま無月やエデンにも、他のエージェントにも頭を下げる。
「お礼なんていいよ。結局引き留められなかったし」
 それを聞いた音弥は悲しそうな微笑を見せた。彼らを止めるための具体的な解決策は見つかっていないし、例え見つかったとしても、彼らを止めるという事は彼らの覚悟を否定する事にも繋がりかねない。けれど止めなければ、次は彼らの中の誰かが死者になるだろう。
「『君たちは剣戟だ。墓標などではない』」
 藍は柱に寄り掛かりながらそんな言葉を呟いた。GLAIVE達の姿にふと思い浮かんだ言葉。
 けれど彼らはその時が来たら、墓標となる事を決して厭いはしないだろう。ここが命の懸け時だと判断したら、躊躇いなく命を懸け、そして墓標となるだろう。もしそれを止めようと思うなら。
「(彼らの在り方を否定できない。その覚悟まで、誰が否定できようか)」
 先程思った事を胸の内だけで呟いて、藍は小さく息を吐いた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中



  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • クラッシュバーグ
    エリカ・トリフォリウムaa4365
    機械|18才|男性|生命
  • クラッシュバーグ
    ダレン・クローバーaa4365hero001
    英雄|11才|女性|カオ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
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