本部

音降る荒野の夜想曲

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~12人
英雄
6人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/11/21 08:48

掲示板

オープニング

● ガデンツァの因子
「え? 私が希望の音を?」
 そう首をひねるエリザはちょうど何かの楽譜を読んでいる最中だった。
 以前楽器に触れる依頼を経てエリザも音楽に興味が出てきたようだった。
 それを後押しする形で遙華がこう問いかけた。
「ええ、以前からあなたとガデンツァの共通点は指摘されているし、音は武器として使えればかなりの力を持つわ。実際」
 実際春香の装備ピアノ線は音を武器としたカオティックブレイド専用の装備である。
 あれが量産できるとなると、これからの戦い大いに役立つのではないかと。
「ただ、音を武器とするにあたって演算が厄介でね」
「だから私が管理すればいいって?」
「一応アルスマギカのシステムを流用する予定ではいるんだけど、あなたが演算した場合どこまで完璧にできるか興味があるしね」
 告げると遙華は四つの装備の設計図を手渡した。
「これをどうするの?」
「これを使ってリンカーが戦うからあなたは謳えばいいのよ」
「私が謳うの?」
「正確には音を調整すればいいのよ、人間に聞こえる範囲の音で干渉しているわけじゃないってわかったから」
 告げると遙華はエリザの手を引いて開発ルームに直行した。
「私、あんまり武器の開発やりたくない~」
 そして、一週間缶詰で出来上がった装備をぜひ見てほしい。

● 音撃装備
 今回皆さんには音を使った武装についてデータをとっていただきます。
 それが音撃装備です。
 これは試作装備なので今後この形でゲームに登場はしませんが、技術は引き継がれます。
 この装備はまだ開発中のAGWなのですが音をテーマにした武器群で少し変わった特性を持ちます。
 その特性を生かすことで今回の敵ノクターンを倒しましょう。
 またこの音撃装備には共鳴効果が存在します。
 音を重ねることによって音撃装備のステータスが強化されより強くなりますし、音を介して仲間の意志がなんとなく感じ取れるようになります。
 また音を共鳴させバンドのように振る舞えばお互いに音によってダメージを受けるデメリットを無効化できるのです。

・ブレストマリア
 マウスピースのようなAGW、特殊武器に分類される。
 そのマウスピースから思い思いの管楽器本体を接続。
 吹くことによって音を出力、様々な音と共に攻撃できるようになります。。
 音は魔法攻撃となり対象に降り注ぎます、この攻撃は愚神に対してダメージ効率が高く設定してあり。
 リンカーに対してはダメージが低い傾向にあります。
 このブレストマリアからの攻撃を受けると、数%程度ずつステータスが減少していく追加効果があります。
 また攻撃範囲は自身の前方20SQであり、スキルなどの影響がなければ敵味方を判別することはできません。

・メトロポリス
 自身の周囲に霊力の鍵盤を表示させる装備です。
 これのみ武器系AGWではなく足装備に分類されるので注意が必要です。
 空中に作り出せる鍵盤は実体を持つため。これを踏み台にすれば空を歩くことができますが、あまり高く上ると降りるときに困るので注意です。
 鍵盤による攻撃は複数で一回の攻撃とカウントされ、鍵盤を踏んで発生する音はリンカーの意志によって変わります。
 この装備の応用方法はたくさんあると思いますが。
 本来は足元に召喚した鍵盤を踏むことによって音をだし自身を中心とした周囲に攻撃することが目的とされています。
 攻撃範囲は自身を中心とした半径5SQで。味方識別機能は無いので味方の誤射に気を付けてください。
 練習すれば走っているだけでも曲を作り出すことができるのが特徴ですね。
 装備するとイニシアチブ+5、命中+50、回避+150をえます。
 

・斬糸刀
 大剣……では有るのですが。その外枠のみ金属でつくられており腹の部分には糸が通されるだけとなっている大剣です。
 その糸に風が当たるだけで大剣が振動し、その振動力で対象を切り刻むことができるのです。
 また相手に突き刺した状態で腹部分にある糸に触れると弦楽器の音が出まして、その音を相手に直接叩き込むことができれば大ダメージを狙えます。
 攻撃のインパクトに合わせて音を奏でる。
 突き刺したままに弦をひいて音を奏でることで継続ダメージを与えることができるのです。
 この大剣を装備すると物理攻撃+100、魔法攻撃+100をえます。

・響打剣
 霊力を纏い刃を生成する剣です。
 剣本体は様々にペイントされた棒ですが、その表面に霊力の刃を生成し、それで斬撃を繰り出す仕組みとなっています。
 それが二本あるので、両手剣という扱いになります。
 ただ、一番の特徴は『叩く』ことで体内に霊力を『浸透させる』ことです。
 攻撃したい対象の表面に霊力の膜を張ることによってコーティング、その膜をリズミカルに叩くことで対象に防御力を低下させる攻撃を仕掛けることができます。
 また本人の霊力の質で打撃音が大きく変わるため。
 ドラムのような軽快な音。シンバルのような金属質な音。和太鼓のような深くしみいる音まで創ることができるのが楽しいところです。
 装備すると物理攻撃+150、イニシアチブ+1 生命力+20を得ます。

● 今日のエリザ
「うーん、また断れなかったな」
 そうエリザは自分の部屋に帰りながら今日の自分の対応を反省していた。
 遙華にかどわかされるままAGW開発に協力してしまったが。
 最近徐々に、AGW開発にかかわるのはどうなんだろうという気持ちが増していた。 
 それどころか気持ちは確実にやりたくないの方向で固定されている。
「けど、遙華の言い分も分かるんだよな」
 エリザは深いため息をついた。
 王を倒すまでは、AGWは強化しつづけなければならない。
「でも、私はもう」
 兵器なんて呼ばれたくない。
 そう葛藤を抱えながら今日もエリザは遙華に協力をするのだった。


解説

目標 愚神ノクターンの撃破。


● ノクターンについて

 皆外套を羽織った、足のない幽霊のような見た目ですがそのマントの底から覗く目に色がついていて、色によって若干能力が異なるようです。
 身長は二メートル程度で50センチほど地面から浮かんでいるので接近戦はしにくいかもしれません。

 今回ノクターンですが、三対出現するので撃破をお願いします。
 色が白、黒、赤と三色います。
 共通する能力としては空気を圧縮して放つ見えづらい弾丸と。真空の斬撃を作り出してそれを叩きつける近接技です。
 白の目をしている者は特に攻撃力が高く。
 黒の目をしている者は移動力と回避能力が桁違いに優れ、一瞬で背後に回ったり、後方に数SQ下がったりすることができます。
 赤の目をしたノクターンはアビリティを持ち。一人のリンカーから攻撃を受けると防御壁をはり、次の攻撃のダメージを80%カットします。
 ただその攻撃は別のリンカーの攻撃に対しては無効、それどころか防御壁も破壊されてしまうので、他のリンカーと連携して交互に叩きましょう。

● 戦闘フィールド

 ノクターンはかくて愚神と大きな戦いのあった荒野に出没します。
 意志を持たない、従魔に近い愚神であることからこの地に降り積もった霊力が王の到来に合わせて活性化。愚神として顕現している物と考えられます。
 墓石のように背の低い石が乱雑に転がっている以外、風の強いだけのフィールドです。
 障害物もないので戦い安い反面、分断はしにくいかもしれません。

リプレイ

プロローグ

 武器の説明は受けた。状況についても理解した。戦う愚神についてはこれから知る。
 しかし…………。
 そんな重たい空気に車内はさらされていた。『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』の座席の隣で膝立ちになり窓の外を眺めているエリザ。
 彼女の表情は穏やかだったが心中はどうなのだろうか。
 彼女はまだ何も言わなかった。そのことを『麻生 遊夜(aa0452)』がユフォアリーヤには伝わってきた。
「双剣というより太鼓の撥に近いかな?」
 護送車内での過ごし方は各々自由だ。
 たとえば『雨宮 葵(aa4783)』は『彩(aa4783hero002)』の目の前で新型AGWの実験を行っている。
 まるで太鼓をたたくバチのようにして空中を素振りする。霊力の刃を形成するという代物だがふり心地は気にいたらしい。
「持った感覚は剣というより棒?」
 軽いし細いので葵がそう思っても不思議はない。力の入れ加減ですっぽ抜けたらいけないので装甲車の側面をどこどこ叩いて練習する葵。
「あら太鼓の撥なら得意なんじゃないかしら? 葵ちゃんフルコンボだどんってやってるわ!」
 そう意気揚々と彩が告げた。
「あれは燐に負けないようにちょっと練習をね! ……というかゲームと実戦は違うから!」
 そんな、盛り上がる二人を微妙な表情で見つめているエリザ。それを見て遊夜も額を抑えた。
「やれやれ、そろそろ話しをせにゃならんな」
「……ん、このままだと……良い方向には、行かない……エリザにとっても、ハルカにとっても」
 その言葉を聞き逃したエリザは麻生夫妻に向けて首をかしげる。
 ただ表情が暗いのはエリザだけではない。
 ため息をつく遙華の肩を叩く『橘 由香里(aa1855)』
「私も微力ながら手伝うわ」
 車が停車、後部の扉が開くと新鮮な空気を求めて由香里が躍り出る。その手はエリザの手に繋がれていて。
「え? ちょっとちょっと」
 あわてるエリザにあっけにとられる遙華。
「どうしたの? 浮かない顔してるわね。……そうだ、ちょっと付き合わない?」
 そうエリザを連れ去ってしまった由香里にぽつりと残された『飯綱比売命(aa1855hero001)』があわてて声をかける。
「おーう、わらわをおいてくでない」
(AIとはいえ心がある以上あまり気軽に心の内側に踏み込むのはどうなのかと、距離を取ってきたけれど)
 由香里はエリザの手を引きながらエリザを振り返って告げる。
「あなたがどうしたいか聴かせて頂戴」
「え? 私の?」
「自由っていいものよ?」
 夜想曲が聞えてきそうな荒野に二人の少女の足跡が刻まれる。
「ちょっと、これから戦闘なのに!」
 あわてて遙華は全員に追いかけるように指示を出す。


第一章 機械の自由

「ちょっと、これまずいわ、エリザを追いかけてみんな!」
 あわてる遙華が指差す方向へ、エリザと由香里が走っていくのが見える。
「エリザがこの世界のガデンツァになりうるかもしれない、か」
 そんな遙華に思うところがあるのか、遙華の言うことをきいて真面目に追いかける人物はあまりいない。
「うん。エリザさんは正確な指向性を持って表現できるスペックを持ってる」
「ちょっと!?」
『斉加 理夢琉(aa0783)』と『アリュー(aa0783hero001)』など、幻想的な景色に見入って自分たちの世界に浸っている。
「心を持つAIという新たな種族の誕生、その先駆けがエリザって事になるか」
 アリューが告げると理夢琉が頷く。
「うん。エリザさん経験値上昇で感情の揺らぎを表現できる迄に成長してるって」
「今を間違えれば人間達がエリザを悪しきガデンツァに変えてしま……」
 その言葉を理夢琉が遮ると首を振って改めてこう告げた。
「赤原さん公認歌姫……の卵エリザさん。卵の先輩として負けていられない!」
 理夢琉はエリザがガデンツァのようになるなんて思っていないのだ。
 その言葉を聞いて遙華の肩からすこし力が抜けた。
「みんな、なにを…………」
 なにを考えているの? そう告げるまえに『水瀬 雨月(aa0801)』が後ろから抱きついた。
「私たちにまかせて」
 告げると雨月や他のリンカーも走りだす。
 その追いかけだすリンカーを見て怯えるエリザ。
「遙華がわたしが反乱したと思って刺客を!」
「そんなわけないじゃない」
 由香里がやれやれと首を振る。
「依頼の主目的は性能テスト。敵はそれほど強くないし一般人に被害が出る訳でもない、ならエリザ連れ出してサボっても、自分と遥華の始末書が増えるだけでしょう?」
 そう振り返って笑うとエリザは口をひよこみたいにして告げる。
「いえ、私がいないと試作型AGW動かない……よ?」
 立ち止まる由香里。
「あ~、そうだったわ。どうしましょう」
 立ち尽くす由香里。そんな由香里へ丘の影から声をかけてくる人物がいた。
「あ~、言いたいこと言ったら戻してやればいいんじゃねぇか?」
 身を低くしてばれないようにしているのは『彩咲 姫乃(aa0941)』すでに『朱璃(aa0941hero002)』と共鳴済み。故に隠密行動でここに隠れられた。
「いつの間に……」
「むしろ追いついて、戻って、追いつく暇もあったぜ」
 そう親指を立てる姫乃。
「ややややや、やっぱり捕まえに」
「大丈夫だから、落ちついて、エリザ」
 そうエリザを揺すると由香里はエリザの瞳をまっすぐ見た。
「エリザ。よく聞いて、あなたの他人の願いに応じたいと思う事自体は悪い事ではないわ。でもね。自分が何をやりたいか、やりたくないかの上に他人の願いを置いてしまうと、それは希望ではなく呪いになるのよ」
 それは由香里の実体験。様々な願望を背負わされたあの日々の教訓。
「自分が他人の希望に応える為の道具になってしまう、それはとても辛いことよ。辛いことにも気が付けないほど、ごくごく自然に私たちの肩に乗りかかってくる」
 やがて、期待に応え続ける事でどんどん自分の選択肢が狭められていく。相手も求める事が普通になっていく。そうなった先に待っているのは破綻だ。
「自分が苦しくないのならそれもいいでしょう。でも自分が嫌だと思ったら、ちゃんと嫌だと意思表示すべきね。どうにもならない状況になるまで黙っていて、自分の力で抜け出せなくなる馬鹿もいるのよ」
「でも私が嫌だって言ったら困る人が」
 その考え方がいけない。そう首を振ろうとした瞬間姫乃が荒野に寝転んで何気なく告げた。
「正直に言うと前線に出張るタイプの人間だからな。
 武器を使うことについて個人的にはそんなに忌避感はない。
 だから武器を生み出す怖さってのもピンとはこない……あまりな」
 その言葉にエリザは反論する。
「とっても、とっても怖いことだよ。私が武器に鳴ってしまったら。みんなきっと私を武器だとしか思わなくなる。きっと私は使い捨てられちゃう。愛してもらえない」
 エリザの言葉を聞いて由香里は微笑んだ。
 望みはとてもストレートだ、幼稚に思えるくらいに。けれどそれはとても根源的な願いで、エリザが純粋な存在であることが信じられた。
「だからこそさ、分かり合えないってことはないと思うんだ」
 姫乃が言葉を続ける。
「いまいち理解しにくい感情だったとしても言葉にしてくれれば歩み寄れたりもするし」
「遥華も自分に覚えがない訳ではないでしょうから、言えば判るわ」
 由香里もそう頷いた。
「ただ、決戦に敗れれば自分の意志を貫き通せなくなる世界になるだろうし、大切な人も死んでしまう」
 その由香里の言葉にエリザは顔をしかめた。
「エリザが嫌がることは俺たちもしたくないよ、けどさ」
 姫乃は荒野に指ででっかい何かをかいた。王のつもりらしい。
「今後王との戦争があるから新しく便利な武器はあるだけいい」
「やっぱり」
 肩を落とすエリザ。
「そーはいってもだ! 仕方ないって理屈でずうっと心を押しつぶしてたら憂鬱通り越して壊れちまうと思うしな」
「もう! どっちにしてほしいのよ」
 そうエリザが足を踏み鳴らすと追いついてきた雨月が言葉を返した。
「私達の顔色を窺ってる時点でだめなのよ、自分はこれだけはやらないって信念を持ちなさい、出ないと綻ぶわよ」
 そして最近、些細でも綻びを作ると付け入ってきそうな連中が現れたばかりだ。
「別にどちらが悪いという話でもないしね。遙華とお互いヒートアップしない程度に思いを伝え合えればいいとは思うわ」
「そうかな」
「まあ、遙華はハグすれば止まりそうな気がしなくもないけど」
 そうなの? 
「私も結局、以前は押し付けられていた事を、自分の意志で続けている」
 由香里が再びエリザの手を取った。
「でもそれは自分で選んだ事だから苦しくはないわ。貴方も、自分の人生後悔しないようにしなさいよ」
「まあとにかくだ・西大寺に言い辛い、いや押し切られるってんなら間に入るぜ」
 そう姫乃がエリザの肩を叩く。
「あれもテンションあがると押しが強い部分あるしな」
 それに何度巻き込まれたことかと姫乃は遠い目をした。
「まあちょっと興奮して視界狭くなってるだけで悪気はないだろう」
「そうかな?」
「そうよ、たぶん」
 由香里が頷く。ちょうどその時である。一行が追い付いた。
「や、やっと追いついた」
 そう肩で息をする遙華に飯綱比売命が焼き芋の半分を手渡した。
「いも? どこから」
「……あまり遅れると流石に迷惑かと思うのじゃが。まあこういうのも偶にはよかろう。わらわが怒られる訳でもないしの」
 その隣では理夢琉も焼き芋を食べていた。当然飯綱比売命の焼き芋である。
 そんな理夢琉の頭をなでながらアリューは遙華に言った。
「武器を作り始めた頃に葛藤があったはず、エリザも同じなんじゃないか。それを克服した君の思いを伝えてみたらどうだ?」
 かわりに理夢琉はエリザへと言葉をかける。
「不安な気持ちは話した方がいいと思う、遙華さんならちゃんと受け止めてくれるよ、そして」
 理夢琉が戦闘態勢に入る。敵の反応を感じた。それも下から。
「それより伏せてください」
 遙華は背後に敵の気配を感じる、しかし遙華は今共鳴できない。
「下がってください!!」
 だがそこはさすがリンカーである。『希月(aa5670)』が滑り込むように間に入り敵を牽制。
 立ち上がって全員を見た。
「ここは戦場の真ん中です、気を引き締めていきましょう。」
 掲げる希月の刃が月に煌く。

第二章 忘れられたノクターン

 ノクターンはまるで荒野の地面から吹きだすように現れると姫乃、雨月。そして遙華に切りかかった。
 そのうち遙華は突き飛ばして希月が攻撃を受け事なきを得る。
「すっかり敵の領域だったわけね」
「エリザいけるか?」
 遊夜が問いかけると、エリザは真っ直ぐ告げる。
「今回だけね」
「な、なにかしら?」
 よくわからないと言った反応を返す遙華。
「今回! だけ! だから」 
 次の瞬間、戦場に音が鳴り響いた。それらはすべて試作品のAGWから鳴り響く無軌道な音。リンカーが魂を注ぎ込むことによってそれは音楽になる。
 直後雨月が魔術でノクターンに攻撃。
「試作品の試験運用か…………できれば音は楽しく奏でたいものだけど。世知辛い物ね」
 開戦の狼煙となる。
「まぁ何にせよまずはお仕事だ!」
 エリザの纏う釈然としない空気を感じつつも遊夜はブレストマリアを装備。
「楽器系はやはり慣れんなぁ……」
――……ん、使えない訳じゃ……ないけど、な。
 そうため息をつくユフォアリーヤ。
「本職は狙撃手だからね、仕方ないね!」
 エリザがそうフォローした。
「でもまぁ、応用できない訳ではない」 
 そうエリザの頭をわしわしなでて、遊夜はエリザを守れる位置にじんどる。
「……ん、狙って当てるのは……得意分野」
「私たちは赤をもらうね」
 そう柔らかな髪を揺らして葵がノクターンに飛び込んだ。
「援護します」
 空中に召喚された鍵盤。その上をとびまわりながら音波でノクターンの周囲を囲うように攻撃。
 ジャングルランナーも組み合わせて、直上方向に飛びつつ、敵の攻撃を回避した。
 上空に霊力弾を放つノクターン。
 その隙に葵は懐に飛び込んで、そして。
「霊力の質で音が変わるなら彩のスキルと合わせたらどうなるかな?」
 雷撃纏った響打剣でひっぱたくとシャーんっという音が荒野に響き渡った。
「わぁ、マーチみたいだね」
 理夢琉は勇ましい音色を奏でる。
 てれれっててて、てれれってて、てれれっててーてれシャーんしゃーん
 囮のように動く理夢琉にノクターンがきをとられたなら背後から攻撃する葵。
 葵へ斬撃を繰り出したすきに理夢琉は高く高く鍵盤の階段を駆け上がった。
 鍵盤が煌き理夢琉を祝福する。それに姫乃も加勢した。
 姫乃は持ち前の高速移動で旋律を奏でる、理夢琉が主旋律。
 空中でこうさしながらノクターンを攪乱した。
――空を駆け、ぴんぼぉるのように弾む、――超! えきさいてぃん!! ってやつみたいデスニャ。
 朱璃が気持ちよく叫ぶと姫乃はやれやれと首を振る。
「そのネタもだいぶ懐かしいな」
 葵はその手のバチを通常打撃のドラム音に変更。理夢琉はマイクを持って歌いだす。
「ダンスも練習したよ、ほら」
 その足が鍵盤を踏むたびにメロディーが流れる。テーマは星と踊る歌。
 遠くに去ってしまった流れ星を追いかける、ガーリーでちょっと切ない歌。
 だがその隙にエリザへと別のノクターンがせまる。白のノクターンである。
 エリザに迫るノクターンを見た葵はすぐに壁となって立ちふさがる。
「飛べるんだっけ。だったらこれでどうだ」
 葵は地面に響打剣を叩き付ける。小刻みに手首のスナップをきかせてダカダカと盛り上げて。
 それと同時に高い土の壁が立ち上がりノクターンの行く手を遮った。
 それに迫る姫乃、姫乃のうごきを見て朱璃が言う。
――ご主人りずむ感を鍛えましょう。そして一曲披露してほしいデスニャ。
「いや、確かに走るだけで曲になるって触れ込みではあるんだが……俺が挑む意味はあるのか?」
――てすとなんデスし、誰かが実践できることを証明する必要があると思いませんかニャ。
 その先回りをしてノクターンにフルートを向ける遊夜。
 理夢琉の歌の合間のソロパートのように軽快に奏でる。
 逃げる白のノクターンに、別側面から迫る黒のノクターン。
「アイツは厄介そうだな、任せて貰おう」
――……ん、動きが早い……最初に狙うべき。
 ただあの手の敵は得意分野である。その音色はノクターンを苦しめ動きを鈍らせるが、遊夜が逃がしてくれるはずもない。
 距離が遠くなれば音量を大きくして追撃する。理夢琉も空を歩いて合流した。
「ふむ、この一体感……悪くないな」
――……ん、五月蠅いのは嫌い……でも、これは好き。
 一度遊夜がお辞儀するとエリザがぱちぱちと拍手を送る。
「これだけじゃないぞ」
 遊夜は息の入れ方をわけて音を複雑に重ねて見せる、一直線に並んだノクターンがまるで苦しむように空中でのた打ち回った。
「そこだ!」
 葵が空中を強くたたくと硬質な木を叩くような音がしてそこから大量の水があふれ出す。
 それは水流となってノクターンたちをからめ捕った。
 そこになだれ込む近接攻撃部隊の希月と由香里。
「斬糸刀も試さなければ」
 希月が刃をぬくとリィンという音が響き渡る。
――俺がドレッドノートですからねぇ、無難な選択でしょうな。
『ザラディア・エルドガッシュ(aa5670hero001)』が告げると希月は散り散りになるノクターンたちから白を選んだ。
 希月は一気に距離を詰める。まるで喜びに満たされたように刃が震えた。
 その斬糸刀を見て希月はおもう。
「弦楽器は、昔、よく里で弾いていました。あの時の経験がこんな所で生かされるとは……」
 先ずトップギア。地力をあげてのストレートブロウでその個体だけを戦場から引きはがす。 
 そのまま地面を跳躍して側面から斬糸刀を振るう。
 それはリィンリィンと唸りをあげ鋭い切れ味でノクターンを胴体から真っ二つにした。
 月夜に吹きすさぶ風の音は、かつて希月が謳った希望の歌の音に似ている。
 圧縮された風が周囲に暴風となって散ると、その衝撃でノクターンの一体が消滅。
「あと二体!」
 希月は振り返る。
 振り返れば由香里が参戦していた。由香里の斬糸刀と希月の斬糸刀が共鳴して同じ音をリンリン奏でた。
「意外とえげつないわね」
 そうノクターンに背中から刃を突き刺した由香里は告げる。
「相手に突き刺したまま音波で内部破壊とか……これ遥華の趣味?」
 その言葉には遙華がインカム越しに答える。
「効率よく攻撃しようとおもったら、そうなったのよ!」
 夜に音が溢れている光景とは案外快いものである。
 そう思った希月は思わず微笑んだ。理夢琉が謳う歌も、自分の奏でる音も希望がモチーフだ。
 希月は希望が好きだった。
「私の忍名である希月は希望の光を照らす月となりたいとの願いを込めて付けた名です」
 風になびく髪を押さえて希月は瞳を開く。
――嫌がる人を無理やりこき使って作った希望なんざ所詮は砂上の楼閣、ですわな。
 ザラディアの言葉に遙華がウッと身をすくめる。
 そのまま希月は由香里が捕獲した赤のノクターンに迫りその剣を突き立てた。
「エリザ様、貴女の意志は貴女の物です。だから、言いたい事があれば言いましょう。私達もお手伝いします」
 そしてその弦を指先で撫でる。
――まあ、あまり気は進まないだろうが、まずはお前さんの作った武器を使わせてもらえねぇかい? 俺達の身を守ってくれる物を作ったと思ってくれりゃ、少しは気も晴れるだろ?
 次の瞬間赤のノクターンは爆発四散。
 そのまま白ノクターンに雨月がメトロポリスで接近。
 メトロポリスで作った鍵盤から飛び降りると黒のノクターン向けて斬糸刀を構えた。
 それに気が付き逃れようとするノクターンに遊夜が渾身の一撃をみまう。
「逃すかよ!」
 アハトアハトにて暴風のような音の波を。それに重ねるように上空から一刀みまう雨月。
 メトロポリスに装備を戻すと姫乃、理夢琉と波状攻撃を仕掛ける。
「こんな演出いかが?」
 雨月が鍵盤を踏みつけるとその鍵盤は七色の蝶に変化。ノクターンを取り巻くとノクターンの肩を遊夜が射抜いた。
 そのまま雨月がメトロポリスで接近。鍵盤に手をかけて大きく飛ぶとそのまま斬糸刀に持ち替えて刃を突き立てた。
 かき鳴らすめちゃくちゃな音楽。それはノクターンを内部より揺らして爆発四散させた。
「これにて、データとり完了ね」
 告げると雨月は刃を荒野に突き立てた。


エピローグ

 戦闘が終わると物陰から遙華が姿を現す、それを見て遊夜は手をあげた。
「よーしお前たちー、話をするぞー」
「……ん、はいエリザ……こっちおいでー」
 ユフォアリーヤの言葉に応じて腕の中に突っ込むエリザ。
「皆もそうだろうが、お互いの言い分は理解してると思う」
 そう頷きながら話しだす遊夜。
「最終決戦も近く、負けない為の手段は増やすべき。
 だがそれはそれとして嫌々やらせるべきでもない
 完全に納得せず、なぁなぁのまま行けばその隙間を利用され致命的な何かが起こるだろう」
 その言葉にユフォアリーヤも頷いた。
「だから、今ここでキッチリ話し合うんだ」
「……ん、大丈夫……エリザが決めたなら、それで良いの」
 そうギュッとエリザを抱きしめる腕の中で、エリザはとろけそうになっている。全てがどうでもよさそうだ。
「私は、エリザに働いてもらわないと、困るというか。その……」
 戦いに参加してほしい、あと少しでも。そう言いたいのだろう。だが言えないのはそれが間違っていると自分でも思うからだ。
 だがAI搭載型武器の威力は現在証明された、証明された上で諦めろと言うのは酷な話だ。
 だから希月が背中を押すことにした。
「エリザ様の希望を奪ってまで作る希望の音に、どれだけの未来があるのでしょう」
「うぐぅ」
 言葉を飲み込む遙華。
「確かに、この度の武器は素晴らしい希望の音色を紡ぎ出せました。ですが、このままでは希望の音色はエリザ様の悲しみの音色に変わってしまうと思います」
 希月がそうエリザを見ると、エリザは首をぶんぶん振っていた。
「そうなる前にエリザ様の希望、想いを聞いてあげて、それからエリザ様に出来る事を探せばいいと思います」
 その言葉にエリザは声を上げる。
「私はもっと平和的なことがしたいです」
「だそうですよ。遙華様はとても優秀な方ですから、エリザ様を無理やり使わなくてもきっと素晴らしい希望の音色を作り出せる筈ですよ!」
「う、そういうわれると、その」
――最後はヨイショですか……まあ希月様らしいやな。
 ザラディアがうんうんと頷いた。その言葉にエリザは乗っかる。
「わたし、もっと別の仕事もあると思う。戦うことも大事だけど、私は。今、武器だと思われるのが怖いの。だから」
 エリザは微笑んで告げる。
「別の私の仕事を探して?」
「あー、わかった、わかったわよ、もう」
 そう納得する遙華、その遙華を抜き去って葵がエリザの手を取った。
「でも、エリザさんのすごいところは引け目に思わないでね」
 葵が笑顔で告げる。
「もちろん。武器の開発はしたくないなら無理にして欲しいとは言わないよ。 
 でも今回エリザさんが協力してくれたから。
 ガデンツァの力を引き継いだ武器が出来た。
 彼女の本当の思いを継いで。
 彼女の力を分けてもらって戦うわけでしょ」
 葵はガデンツァに悪いイメージは持っていないようだ。それには理夢琉もほっと安堵した。
「でも、それはやっていいことだったの?」
「ガデンツァは悪とか善とかそう言う存在じゃなかった。だからその技術を良い方向に使われてたらきっとガデンツァも幸せだったと思うんだよ、だからガデンツァもその力が人類の役に立てば喜ぶんじゃないかな」
「私、役に立ってる?」
「もちろんだよ」
 最後に葵はエリザを抱きしめて告げた。
「エリザさんのおかげだよ。ありがとう!」
 そんな光景を、理夢琉は水晶の卵を抱えて見守っている。
「みんな、言葉で解りあって前に進んでる、これっていいことだよね」
 そう卵をなでながら理夢琉は語りかけた。卵は喜ぶように脈動を返した気がして理夢琉は思わず笑みを浮かべる。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
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