本部

D-END

鳴海

形態
ショートEX
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/11/14 07:11

掲示板

オープニング

● Dの処刑

 ガデンツァがこの世から去ったことによって、この世界に大きな変化があった。
 たとえばガデンツァが取引していたヴィラン企業が多く摘発されることになったり。
 ガデンツァへの対策のためにと生かされていた重罪人たちの死刑が執行されるようになったりという形で、世界は激動の時代を迎える。
 王との戦いに備えて後顧の憂いを断っておきたいという意味もあるかもしれない。
 そんな中ADとBDというヴィランは仮釈放されることになった。
 彼らの活動は目覚ましく、ガデンツァ討伐や他のヴィラン達の摘発に大いに役に立った。
 その結果模範囚と認められ、一時的に外に出されることになったのだが。
 だが、この司法の結論。おかしいと思わないだろうか。
 特にこのDという組織に関与したリンカーたちは特に。
  ADやBDが更生した、反省した云々ではなく、彼らが一番得意とするのは根回し、そして裏工作である。
 そこで皆さんにはこの仮釈放中にADとBDに関して行動の調査を行ってもらうと共に、もし違法行為があった場合その場で即刻逮捕していただきたい。
 そんな依頼が君たちの元に舞い込んだ。
 結論から言うと、彼らは何かをたくらんでいた。その現場に直面するところから君たちはこの物語は始まる。

● 炎の愚神

 Dという組織。
 愚神の力を技術として開発。売りさばいては資金をえてその果てに、この世界の人間全てを愚神にしようともくろんできた者達の集まりである。
 ただ、彼らに取りついていた愚神が離れてからというもの、人が変わったように大人しくなっていたのだが、脱獄のための布石だったようだ。
 君たちは港の倉庫でBDの姿を発見する。
 おって倉庫に入れば倉庫のすみっこから光が漏れている、その先には梯子、地下室まで一直線。
 その梯子を降りるだろうか。
 その梯子を降りた者は目にすることになるだろう。
 蠢く肉の壁で作られた一室、その中央に安置されているのは禍々しい鎧。
 それに袖を通すBD。
 BDは君たちを見るとこういうだろう。
「一足遅かったなH.O.P.E.ガデンツァがいない今。私を縛るものはもうない」
 そうBDをH.O.P.E.にしばりつけることができていたのはガデンツァの脅威があったから。
「この鎧は我々の最終兵器だったのだが、私が早々に捕まってしまってね、ADは愚神を大量に宿していたから、この愚神装甲を使う暇がなかった」
 ガデンツァがいなければ、BDは強い、彼を殺せる人間などそうはいないだろう。
 H.O.P.E.のリンカーにはまぁ、見つからなければいい話だ。
「ここは無理やり突破させてもらう」
 次の瞬間肉の壁が静まり返り、壁に備わっていた霊力がBDのみに纏う鎧に流れ込む、するとその壁が消失し大きなフロアに変わった。
 フロアの奥は暗闇で見えない、しかし水の音がする。さらにはごつい車両が。
 脱出の準備も万端だという事だろう。
「ここでわれわれの因縁も終わりにしよう、私は生きるために君たちを殺してここを出る。金を稼いで好きに生きるよ、君たちはせいぜい世界が滅ばないように頑張ってくれ!」
 次の瞬間アーマーが音を立ててBDの体にまとわりついた。
 肩に備わった二股の刃や籠手に装着された小型の刃。
 その鎧自体が武器のようだ、しかも意志があるかのように蠢いている。
 この時、君たちの状況を察してかH.O.P.E.本部から連絡が入った。
『BDがもし抵抗する場合、殺しても構わないと』
 ただ、その指令はおかしい当初の作戦目的、捕縛と大きく異なる。
 ただ、この情報を精査している時間は今は無かった。まず目の前の戦いに集中しなければ。
 もしくはこの違和感を突き詰める時間があれば……。
 一つの因縁が今日、終りを迎えようとしていた。

解説


目標 BDの撃破・捕縛


 今回BDという人物を倒すか捕まえていただきます。
 彼は狡猾な男でここに連れてこられた時点で敵の思惑にはまっている可能性もあるのですが、逃げるわけにもいかないので何とか対処してください。
 
●BDについて

 まず、最初に、今回彼との戦闘はもともと想定されうる事態であり、その戦闘の際に捉えることができず殺してしまってもリンカーには酌量の余地が認められています。
 
 BDは今黒々としたアーマーに身を包んでいます。
 このアーマーは各パーツにギミックが仕込んでおり、鎧だけで十分な攻撃力を持っています。
 肩の角のようなパーツは射出式のロケットアンカーで、斬ったり何かに突き刺して引き寄せたり、器用につかめます。
 腕の上部分には大きな刃がついています、着脱式でナイフになり投げたりそのまま切り付けたりできます。
 足は電気を利用した浮遊移動装置で、地面を滑らかに移動できるので、鎧だと思って機動力を甘く見ないでください。
 さらに胸部に光り輝く宝石が。ここからシールドを展開して接近した敵を吹き飛ばしたり、自動でガードしたりします。
 またBDの火焔攻撃は健在です。
 BDは両手から炎を発することができ、この炎を投げたり叩きつけたりして攻撃します。 
 今回BDは防御も、攻撃もすきがない強敵ですので、リンカーはチームワークを生かして戦うのがよいでしょう。
 またBDは鎧を分離して、鎧とBD本人の二人のユニットとして戦うこともできるようです。
 奇襲戦法に利用できそうな仕掛けです、気を付けてください。

リプレイ

プロローグ

 水音が聞える。
 ポツリポツリとしずくが落ちる音。
 それは雨ではない、雨ではありえない。
 拭うこともわすれて嗚咽をかみ殺しながら鼻を伝って落ちる涙。
『無明 威月(aa3532)』はいつも人知れず泣いていた。
 それは暁加入前からそうだったし暁加入直後は人形に揶揄されてもその実、裏で涙を流す。
 乾いた仮面は誰のため? 涙を見せないのは何のため?
 それを威月はよくわかっている。自分自身で理解している。
 ただ、そんな威月が初めて人前で涙を流した時『青槻 火伏静(aa3532hero001)』は安心したのを覚えている。
 人前でも不意に泣く様になったのはある意味、仲間に全幅の信頼を置くからだと火伏静は感じた。実際それから暁メンバーとの交流が増えた。感情をみせることも増えた。
 ただそれは、威月を悲しませる要因が増えたという事とも同義である。
 …………D。ガデンツァ。奴等に関わる事では威月は殊更泣いた。
 仲間が傷付く度、泣く度、隊長が怨念に飲まれる度に。
 本来はそれだけ感情豊かな娘だ。
 そんな威月が今涙を流している。その涙は膨大な熱量に当てられてすぐに乾いてしまうが、その涙を今静かに流すのは誰の為か。
「どう足掻こうが、貴方はここで捕縛します」
――逃がしはしないよ。その為にボクらがいるんだから。
 『柳生 楓(aa3403)』はそう告げて一番の先頭に立つ。纏う意志は守護の埃『氷室 詩乃(aa3403hero001)』が認めるカメリアナイトがそこにいる。
 同時にその左右を固めるように『イリス・レイバルド(aa0124)』そして『餅 望月(aa0843)』が立った。逃げられることの無いようなやんわりと包囲する形である。
 その警戒具合を見てBDは歯噛みする、両手に炎を纏わせながらリンカーたちを威嚇する、そのさなかである。
 揺らめく陰炎の向こうから。女性がヒールの音を鳴らして優雅にこの場に降りてくる。
 Dにとっては見知った顔である。
「あらあら…………」
 その姿を見てBDは顔をしかめた。
「今まで最大限の温情を掛けていたっていうのに、酷い裏切りようねぇ」
「温情? 最大限に利用したじゃないか。私という木の実から散々汁を搾り取った」
『榊原・沙耶(aa1188)』である。挑発だろうか、余裕だろうか『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』は隣に立っていた。
「そうかしら? それだけの価値がある取引だったと私は思うけど」
 交渉を持ちかける側はいつだってそう言うものさ。
「大人しくしていれば、数十年後には出れていたかもしれないのにねぇ」
「私はすぐに出られる明日が欲しかった」
 燃えたつ炎。それに構えて突進しそうになるイリスだったが。
――イリスここは。
 そう『アイリス(aa0124hero001)』が静止、その言葉に頷くイリス。
 直後全員の携帯端末が震える。
 闇に姿を溶かすように後退した『鬼灯 佐千子(aa2526)』はちらりと沙耶が見せたディスプレイの文字を、数メートル先から読み取る。
 首をかしげる佐千子である。
「殺害許可、ねえ……?」
 エージェントである以上、兇悪犯と対峙する時、止むを得ず相手を殺害することはいくらでもある。
 シチュエーションによっては今回のように事前に指示を受けることもあるし、危急の際には現場の判断で行うこともある。
 だが。このタイミングでこの指示は…………。
 そう考え込んでいると『リタ(aa2526hero001)』が佐千子に言葉をかける。
――我々の誓約だからな、”遠慮せず”提言するが、相手の戦力が未知数であり、逃走を許した際の損害は計り知れない。
 一度H.O.P.E.はBDと対峙したことがある。BDは強かった。
 おそらくDという組織で一番強い。
 あの頃より成長した自分で制圧できるかも疑問だ。そう佐千子は思う。
 彼の戦闘力、佐千子を含めた戦闘力。それを全て知ったうえで総合的に判断し、リタは言っているのだ。
――ヤツの排除を優先すべきだ。
 それは殺害を促す言葉。それを佐千子は分析して、吟味して、受け止めて、そして言葉を返す。
「アンタならそう言うと思ったわ。でもね」
 殺しはしない。そう決意した矢先のこと。
 BDが両腕の炎を噴出させ全員を包みこんだ。それは単なる目くらましでやけどを負わせる程度の温度にもなれなかったが、BDは素早く脱出口を目指して移動したように思えた。
「逃がさないよ」
 だが頭をアイリスに抑えられる、炎の中を共鳴チェンジしながら走りDの目の着地地点めがけて走る。
 そのDの眼前を光る何かが通過した。それは。
「フラバン行くお! 目えぇええ瞑るおぉお!」  
 響く『阪須賀 槇(aa4862)』の声。驚きで体勢を崩すD。しかしそれは爆発しない。
――バカ乙、積んでないっつの。
『阪須賀 誄(aa4862hero001)』がにやりと笑った。
 その光景を前に沙耶は共鳴。すると頭の中で沙羅ががなり立てる。
――どうするのよ沙耶! どっちにせよ、このまま放置しておく訳にもいかないでしょう。
 沙耶はその言葉に頷いて歩みを進める。
「そうねぇ、私またBDに興味が湧いてきたのよねぇ。とりあえず聞いてみましょう」
 熱せられたコンクリートに靴の底が溶けて張り付く。
「仮釈放なんて様々な所に賄賂なりの黒い繋がりがないと到底出来そうにないし。ここで倒してしまったら、一気に腐敗の粛正が出来ないものねぇ」
 炎をバックステップして回避してきたアイリスの背を受け止めてリジェネをかける沙耶。
「さぁ、きかせてもらおうかしら、あなたのペテンを」
 告げるとBDは諦めたように拳を握る。地下室の温度がさらに上昇していく。


第一章 その猛火は。

 ADという男がいた。彼は愚神と契約し人間を愚神化させる研究をしていた。
 その過程でADは体に愚神を複数宿すことに成功し。急速に人間をやめていった。
 変化する細胞、霊力に浸されていく体。その力はこの世界の法則を超越し、その超越した力を分け与えられるようになっていった。
 そんなADとBDが出会ったのはその、愚神化技術が現実に可能と計画に目途がたったころ、彼がすでに五体目の愚神と契約を結んだ時。
 その時彼を見てBDは思ったのだ。
 これは金になりそうだと。
 その時BDは世界を股にかける武器商人で、人の悲鳴など気にしない頃だった。
「まさかこれを使うことになるとは」
 BDは炎のカベを作ってアイリスの追撃を止める。 
 側面から回り込んだのは楓。
――気を付けて楓、何かおかしい。
 その手に握るのは断罪之焔の炎。
 その刃から発される霊力の炎とBDの炎がお互いを食らいあう。
「ははははっは!」
 振りかぶった刃を見るや否やBDは足を高速で滑らせ半身ひねって回避。
 地面に打ち付けられた刃はわずかに跳ね上がる。BDはその回転力を生かして拳を突きだした。装甲に覆われた拳は鉄球のように楓の肩口にめり込んだ。
――楓!
 詩乃が叫ぶと吹き飛ばされた楓は刃を地面に突き刺してノックバックの威力を殺す。
 そのまま顔をあげると青色の瞳に赤色の光を重ねて敵を睨んだ。
 次いで炎の壁が掻き消え、アイリスと望月が突っ込んできた。
 アイリスは大盾で視界を遮るように突貫。望月の刺突は装甲の上を滑り傷をつける。
「うーん、やっぱり硬いな」
 BDの体から熱波が発せられ、それを嫌って二人は退避。
 次いでBDは音を聞いた。軽快に地面を蹴る音。
『彩咲 姫乃(aa0941)』がBDの上空をとっていた。
「なあ、ノイマンって知ってるか?」
 そのまま姫乃はBDの懐に着地、攻撃を警戒したBDだが姫乃はそのままスルーして闇の中に走って行こうとする。
「そうはさせない」
「それはこちらのセリフです」
 姫乃の背中に放たれようとした炎の塊は楓が救済之輝で炎のすべてを受け止める。
 持ち手越しに盾の温度が急上昇しているのがわかった。肌が焼けて髪が焦げる。
「ノイマンか、人物名という事なら私も知ってはいるのだけどね。どうやらそう言うわけでも無いのだろう?」
 姫乃は物陰に隠れて声だけを発する。
「アンタらが仮釈放されたのなんてほとんどバグだろ。絶対何かするに決まってる」
「ああ、そうだな、現に私はこうして逃亡を図っているのだからな!」
――ご主人、なんだか何もしらなそーじゃにゃーか?
『朱璃(aa0941hero002)』がそう姫乃に問いかける。
 姫乃としては、今外部で活発なのはノイマンという組織。
「あのエリザ狙いの黒尽くめのディストピア願望クソ野郎どもが関わってんじゃねえとしたら、誰がBDを逃がせるんだ?」
 姫乃はその答えを求めて再び走り出す。
 Dという組織、人物は根回しと裏工作が十八番。であれば伏兵くらいいてもおかしくない。
 そう姫乃は判断した。であれば潜んでいるとしたらこの暗闇である。
 困ったことにBDが発する炎のせいで暗闇に目が慣れることはないが、気配である程度わかるものだ。
――ご主人。これがBDの…………。
 朱璃が告げると姫乃は左に視線を振る、そこには戦車顔負けの装甲をつけられた車が鎮座している。
「これ…………、壊すのか?」
――ちょっと気合がいりそうですにゃ。
 ため息をつく姫乃、同時に他の資料など無いか探し始めた。その背後ではリンカーとDの戦闘が継続されている。
 現状三人のリンカーとBDの戦力は拮抗している。
 それを冷静に眺めながら『藤咲 仁菜(aa3237)』は背後で作業中の槇に声をかけた。
「お兄ちゃんたちどう思う?」
――本気ではないだろうね。
「…………だと、したら」
 威月が声をあげる。
――だとしたらよ、戦いを長引かせようとしてるってことか?
 火伏静が威月の言葉を代わりに口にした。
 その言葉に『リオン クロフォード(aa3237hero001)』は首をかしげる。
「こちらが増援を呼んでいる可能性があるのに? それはどうでしょうね」
 燃衣はふむと考え込む仕草をする。
――威月はよ、本気でBDが時間稼ぎしてるように見えるってよ。
 火伏静が告げると威月はこくこくと首を振る。
「ただ、時間が欲しいのはこっちも同じだお」
 告げる槇に頷く『煤原 燃衣(aa2271)』
「でも、倒してしまっても構わないのでしょう?」
 燃衣がニヤッと告げると槇は吹きだした。
「ブフォッ。それ死亡フラグだお隊長」
――隊長。策があるんだ。あいつ頼めるかな?
 その言葉に頷いて燃衣は一歩前へ、その手に炎を宿してBDへ歩み寄る。
「とりあえず当初の目的通りにいきましょう、分析は槇さんにまかせて」
 あのBDの異常な戦闘力は愚神、もしくは薬によってもたらされている可能性がある。どちらにせよパニッシュメントで対処が可能だ。
 あの装甲もパニッシュメント対策であると予測できる。
 であれば、装甲を引きはがしてパニッシュメントの機会をもたらすことが燃衣の役目だ。
「ここで、全部終わらせるお」
 槇は思う。Dという組織のせいでもたらされてしまった悲劇。 
 子供たちの死。彼ら彼女らは誰を怨んでいいか分からないままに死んでいってしまった。
――科学ってのは、何千億って死が積み上げた幸せを目指した足跡だ。
 誄は言う。その言葉の痛みを感じとって仁菜は拳を握って燃衣に続いた。威月もそれに習う。
――それを悪い事『だけ』に使った奴は許さない、そして。
「…………ぼっちヤローのお前なんかに…………負けねーお!」
 暁参戦。
 突貫する燃衣に浴びせられる炎。三人纏めて焼き払ったそうBDは思っていたが、その炎を食い破って燃衣が飛びかかってきた。
「びぃでぃ」
――あーそびーましょー。
『ネイ=カースド(aa2271hero001)』の声が嫌に反響する。BDは身の危険を感じてスライドして回避。
「私の炎は受けるだけでもままならないはずなんだが」
 威月が地面に膝をつく形で盾を構えているのが見えた。それが炎を防ぎ威力を和らげたところで燃衣が真っ向から炎を食い破ったのだろう。
 燃衣はこの手の敵を相手にするのはなれている。
 燃衣は普段から仲間に言い聞かせていた。
 戦う相手が武人でない場合、何なのかを見極める必要があると。
(彼は商人だ。武人ではない)
 つまりBDは博打をうたない。淡々と機械的に兵器性能を最も活かせる間合いに入る様に誘導をするだろう
 踏み込める瞬間は罠だ、逃げ易い位置も罠だ。
「おっと、御客さん、邪悪さが増してるね。おっと違うか、あんたは俺をムショにぶち込んだ仇敵だ。にしてもうちに来るゲスどもと顔つきが全く同じだな? 何かあったかい?」
 燃衣の回し蹴りはBDの顔面をかすめる、姿勢を低くした燃衣は回転力を生かして正面にBDをとらえそのまま獣のように飛びかかる。
 脇を潜り抜ける際にその指先で装甲の切れ目をねらうが指が届かない。
「どうだ? 私から力を買わないか? 在庫はまだないがそのうち仕入れる。ペインキャンセラーも各地に残っているデータから再現可能だろう。あれはすでにポピュラーな技術となった」
 その言葉に燃衣は眉を動かす。リンカー達がBDを中心に同時に迫る。
「お断りです」
 その甘言に燃衣は間髪入れず首を振る。
「化学は幸せを目指した結果だからな?」
 BDは挑発するように問いかける。
「違います。あなたが気に食わないからぶちのめしたいんです!」
 六方からの包囲攻撃。回避もガードも絶対不可能。しかもメイン戦力は防御力が特出されるメンバー。このまま四肢を抑え込んで装甲を開き本体をむき出しにする。そう算段をつけていた矢先だ。
「本気をみせよう」
 告げたBDは一瞬で視界から消えた。対象を失ったことによってリンカーたちの互いの武器がお互いに突き立てられそうになる。
 望月の槍を首をひねって回避して楓は上を見あげた。
「そんな…………速い」
 BDは肩口のアンカーを射出して天井に逃げていた。
 その手から火球を放ち地上を焼き尽くす。
 しかしそのアンカーが打ちこまれている天上の一部を佐千子が狙撃。地面に落ちようとするBDは再び両腕に焔を纏って。その熱で自分が焼かれるのも構わずに地面に叩き付けた。
 リンカーたちはその熱で吹き飛ばされる。
 宙を舞う仁菜は壁に体をこすりつけられながら勢いを殺し、地面に叩きつけられるとバウンドして起き上がる。
 素早く走りだし全員をケアレイン。
――なんて火力だ。
 大きく距離をとらされてしまった。だが吹き飛ばなかったメンバーもいる。
 燃衣は威月が庇ったのだろう。
 引き絞ったストレートが空を叩く。拳をそらされて燃衣の体が傾いた。
(直撃さえ防げば次に隙がみえる……はず)
 そうはいってもてきのスペックが高すぎるとも感じた。
 側面から躍り出た仁菜がBDの背後をとろうとする。逆サイドから望月がBDに迫る。
 BDはアーマーの能力で左足を反発させると足が跳ね上がり、即座に蹴りを叩き込んで反転。立ち上がった望月に燃衣の体を投げると楓の剣を腕で受け止める。
 腕の刃と楓の刃が火花を散らすが、BDは腕の刃を射出する反動で楓の刃を跳ねあげて一瞬の隙を作った。
 射出されたナイフは威月を助け起こそうとしていた仁菜に突き刺さり、その威力で仁菜は地面を転がる。
 そのまま下がろうとしたBDだが、背後に人の気配を感じた。
 アイリスは背後に回るも反射的に地面に盾を突き刺す。
 直後BDの回し蹴り。強固な盾で衝撃を反射されたBDは体勢を崩し、その横っ面を楓が剣の柄頭で殴り飛ばした。
「ぐあっ」
 打ち上げられるBDのからだ、重たい体を浮かせるすさまじい衝撃の後に楓は刃を腰のあたりで構え直しBDの体に剣の刃を押し当てる。
「はあああああ!」
 そのまま駆け抜けるように一閃。しかし装甲に傷がついただけである。
 直後楓の足元にアンカーが射出され、楓は無理な体勢で飛びずさった。 
 歯噛みしてBDはアイリスに照準を変更。ありったけの熱量をまとめ上げそれをアイリスに叩き付けるとそのままアイリスは吹き飛んで火球は大爆発を引き起こす。
 ただ、BDの炎はこの空間で燃え続けることはない。すぐに火は消えフロアは闇に包まれる。 
 振り返るBDは楓と望月を見える。ふらつく楓の体を支える望月。
 次の瞬間望月は殺気を感じて身をかがめる、望月はその細い体に手をあてて逆の手を足にひっかけるようにして楓の体を抱き留めるとそのまま走り抜けBDの攻撃を回避した。今まで二人がいた場所を炎が舐める。
 次いで響く銃声と放たれる弾丸。
 その弾丸がBDの肩に当って弾丸が跳ねる。
「隠れてないで出てきたらどうかなぁ。姿を見せないのはちょっと卑怯じゃないか?」
 そのBDの声に佐千子は言葉を返す。
「そちらが見つけられない不手際を、卑怯って言葉で揶揄するなんてプライドってものが無いのかしら」
 佐千子が暗がりで声をあげた。
――サチコ、なぜ。
 声で場所が特定される、そうリタが声をあらげるが佐千子は首を振って出らせる。
「掃除屋風情が大きな口を叩くじゃないか。殺人者はお互いに同じだろう? 何がプライドだ、財布の足しにもなりはしない」
 その言葉に佐千子は立ち上がり暗闇から姿を見せた。
「だったら、考え方がなにからなにまで逆ね。プライドなく仕事をするくらいなら死んだ方がましよ」
 佐千子は片手で器用にメモリーチップを電子端末に装填。何やらデータをH.O.P.E.に転送する。
「私はヴィランの殺害を目的として任務に臨むことは無い」
 構える銃口は真っ直ぐBDの頭を捕える。
「悪いけれど、私は殺し屋でも掃除屋でもないのよ」
 放たれる弾丸。それを腕をかざして受けるとそのわずかな時間の間に佐千子は視界の外に。
 射手の姿は見えない。サーチしようと感覚を研ぎ澄ませるBDだが、そうはさせないと威月と仁菜が左右からBDを盾で押しつぶした。
「…………これで」
「動けないでしょ!?」
 次の瞬間二人はBDの装甲の駆動音を聞く。
「甘い!」
 BDを中心にシールドが張られた。それは威月と仁菜を押し返すとBDは素早く両肩のアンカーを射出、二人に突き刺すと同時に大きく吹き飛ばした。
 だが。アンカーが戻らない。
 次の瞬間暗闇の奥で金色に何かが煌いた。アイリスがアンカーのロープを盾に巻きつけて綱引きしているのだ。アイリスはあえて共鳴を解いて光も消して隠密に動いたのだ。あのアーマーに暗視機能はない、佐千子を見つけられなかったことで確信した。
「なに! このアーマーの出力を上回るだと?」
 次いで翼が広がって歌が響く。その隣で青い焔が立ち上がった。
「最初は私がこのアンカーで近づこうかと思ったのだけどね。彼女が言いたいことがあるそうだ。付き合ってあげたまえ」
「なにを?」
「男の子だろう?」
 もう片方のアンカーを射出、アンカーはかなり器用な動きが可能でこれでアイリスを吹き飛ばしてしまおうと思ったが。そのアンカーを空中で威月が絡め捕った。
 その威月はぼろぼろになりながら仁王立ちをしている。血をぬぐって瞳に焔を宿した。
「……私…………貴方が嫌いです」
 珍しい。例え敵にも優しさを向ける威月が…………、そう燃衣は目を見開く。
「私は。貴方よりもっと悪い人を……知っています」
 自身にリジェネを重ね、アイリスにクリアレイを。
 そしてロープに手をかけると其れを勢いよく引いた。
 じりっとBDが招きよせられる。
「ですが…………あの人はあれで…………信念がありました」
 その胸には諦めない意志。それを火伏静に約束した。
「……救い様の無い……悲しい、信念が。あの人は語りませんが、分かるんです……」
 ただそれは自分の意志ではない。では自分の意志はどこにある。威月は自分自身に自分の在りかを問う。
「貴方には何もない! 貴方は自分だけが全てなのに! 『自分』と言える何かを何も持っていない!」
「自分だけが全てだと?」
「ただ人の命をお金に変えるだけの機械です!」
「それで何が悪い。金があり、時間があり。遊びがある。それが人類の目指してきた場所だろう? それを享受して何が悪い」
「誰かに迷惑をかけていることかな」
 アイリスが告げた。
「他人など…………、自分ではない誰かなど、いなくなっても消えても自分が生きていけるなら、そんなもの必要あるかね」
 その言葉に驚愕した仁菜が立ち上がりながら叫ぶ。
「BD、貴方はあんなに人を苦しめておいて……自分だけは自由になりたいって言うんですか!」
――ずいぶんと調子のいいことを言うんだな。
 リオンの声まで冷めていた。
 二人の耳には蘇る声がある。
 ディアナとメルロー、銃になんてなりたくなかったと言った少女。彼女たちは今BDの束縛を逃れて笑顔を見せてくれるほどに回復した。
 Dによって従魔に変えられてしまった……苦しんで死んでいった子供達、その中でも生き残った子たちは明日を掴むために努力している。
「ふざけないでください。貴方には償ってもらいます」
 仁菜は燃衣を助け起こしBDへと歩み寄る。
「償いなら散々したじゃないか! ガデンツァを倒した。我々にお礼を言ってもいいくらいじゃないかな」
「だまれ」
 燃衣がどすの利いた声で牽制する。
「ここで殺すなんてしません。死なんて逃げはあげません」
 仁菜の言葉を聞きながら威月は目蓋を下ろす。すると浮かんでくる風景がある。
(私は、この人の全てが吹き飛んだ笑顔が見たい)
 そこに皆が居る景色を見たい。胸が締め付けられるでも闘志が湧く。その未来が来るまで決して倒れない、倒させない。
 次の瞬間威月は相棒と意識が深く、深く解け合うのを感じた。
「勝負は…………まだ、これからだぜです…………ッッ!」
――……いいぜ威月よう! 行くぜぇ小悪党!
 爆発する霊力、引き寄せられるBD。
「その減らず口が叩けないくらい、ボコボコにしてから引きずって帰ります!」
――ガデンツァが怖くて隠れてたお前が、ガデンツァと戦ってきた俺達に勝てると思うなよ!
 燃衣が突貫する、その拳をシールドで防ぐと仁菜はアイギスでBDのシールドを叩き壊す。煌くエネルギーの残留。
 背後で威月が刃を抜く音がした。


第二章 黒幕

 BDと暁メンバーの戦闘を眺めながら望月は自分の体を治療していた。
 攻撃の直撃はないにしても全身が行き過ぎたやけどを負っている。肌に空気がこすれるだけで痛く、気が散って戦えない。
 なので少しの隙があるうちに傷を癒してしまいたかった。
 こちらはBDに一撃も加えられていない状況。想定していたよりも強いと望月は感じる。
 そんな人物をなぜ仮釈放してしまったのか。望月は理解に苦しんだ。
「わざと悪ささせて退治させるためだったら、またH.O.P.E.不審になっちゃうなぁ」
 そう槍を抱えながら呼吸を整える望月。
 その時だ、隣に誰かが座りこんできてやっと望月はその正体に気が付く。
「それがノイマンかもしれないんだ」
 姫乃がいつの間にか隣に座りこんでいた。 
「ノイマンって?」
 それがBDを手引きしたのだろうか。望月はノイマンについて詳しく知らない。
「説明してもいいけど、こっちも御願いがあるんだ。手伝ってくれないか」
 望月を連れて姫乃が闇の奥に戻ると沙耶が資料を読んでいた。ライトアイで彼女は暗闇でも資料が読める。
「まぁ、証拠なんて残していないだろうけど仮釈放の経緯は、書類に目を通しておかないとねぇ」
「…………BD。投降しなさい」
 沙耶たちの背後で銃声が轟く。
「こちらの指示に従わない場合、こちらも武力を行使させてもらうわ」
「すでに行使しているではないか」
 BDがあざけるように笑って楓に拳を叩き付ける。
 威月はその隙を狙って腹部を斬撃。威月へナイフを投擲しようとしてアイリスは威月の腕を引っ張って投げた。
 くるくると身を翻して天井に足をつけた威月は仁菜のタックルで意表を突かれたBDに上から斬撃をみまう。
 前のめりに体勢が崩れるBD、初めてさらした完全なる隙。
 好機と佐千子、アイリス、楓は本命の一撃を叩きこもうとする。だが。
「まだだ!」
 胸の石が光り輝き、シールドを発してすべてを弾いてしまった。
「厄介です」
 苦々しい表情まま楓は後退。その言葉に佐千子は頷いた。
 仁菜と威月にスイッチしてBDを中心に左側へと回り込む。
「あの装甲、愚神の力が複数取り込まれているみたいね」
 そう佐千子は思案する。データがそろってきた。
 一つの能力とってもデクリオ級愚神として成立しそうな力であるが、それは厄介極まりない能力である。
 ただ、それぞれの能力の依存度が低い。BDはあのアーマーを使いこなせているわけではないのだ。
「であればあのシールドの運用にも不慣れが生じるはず」
 戦闘中に焦りを募らせてやればきっとシールドのはり間違い、はり忘れが発生するはずだと佐千子は読んだ。
 その為に遠隔からの射撃でBDの死角を探る。現状シールドは厄介だがアンカーは取り外させた。
 ダガーも回収しながらの運用になる、不意を突く能力が高いがリンカーたちにはさほど脅威ではないだろう。
「針の穴を通すのは、この場では私しかできない」
 銃を乱射。シールドを発生させて癖を探る。
「関節部分は当然の構造として装甲は脆いけど、そこをねらおうとすれば優先的にシールドが発生させられる」
 そのシールドに弾かれて楓は体をのけぞらせた。その腹部にBDの拳が突き刺さり血を吐きながら楓は壁にその体を叩きつけられる。
「くっ」
 自分の体を治療しながら楓は誓った。あれは自分が壊すと。
 そんな中槇は面白いものを発見した。
「弟者、見るお」
――ん? ああそう言う事か。
 槇たちは戦闘開始早々イメージプロジェクターで黒を纏い背景と同化すると奥の部屋ではなくダクトを通じて別の部屋が無いか探すことにした。
 埃まみれのダクトを通じて移動するとビンゴである。狭い空間に出たそこはまだ電気も生きていて、コンセントを繋げただけでサーバーや別の電子機器は息を吹き返したのだ。
 そこで戦場の様子を仲間の報告とスマートフォンの映像から確認。
 戦況の把握にも努めた。
――切り傷、歪んでるね。
「それだけじゃねぇお。装甲表面には熱のダメージはほとんど見られないんだお、これはシールドの効果とかじゃねぇお」
 槇が見たのは一番最初に楓がつけた切り傷。今その切り傷は熱で融解して少し形を変えていた。
「それよりこっちの作業ももうちょっとで終わるぞっと」
 槇が手元のコードを接続して電気を通した矢先、戦闘が行われているフロアに明かりがともった。
 と言っても部屋全体を照らせる灯りではなく電子端末の明りだ。
 おかしいとは思ったのだ。ここは一応ラボのような作りになっている。そこの電気がつかないだなんてありえない。 
 なので、制御を司っている部分を迂回して電気を流してみたのだ。そうすると簡易的な電子機器は起動する。PCなど通電状態になれば得られる情報もあるはずだ。
 それだけの戦果を持ち返って槇はダクトから顔を出す、天井から髪をばらっと広げて仲間たちを見た。
「暁集合だお!」
「いえ、そうそう集まれませんよ」
 やってきたのは燃衣のみ、まぁいいか。そう槇は説明を始めた。
 あの装甲を食い破る突破口についてだ。
――あいつの切り札、結局借り物の力でしょ? 隊長。
 誄は告げる。
――自分本来のモノでは無いので一つ動けば一つに隙が出来ると思う。
「だとすれば?」
「むしろ、あの力を過信してい間に叩くお」
 そんな槇と燃衣をいぶかしむBD、すぐさま炎の槍を放とうとすると楓がその眼前に立った。楓によって射線が遮られる。
「もろとも消し炭にしてやろう」
「できると思いますか」
 楓が盾を構えてじりっと歩み寄った。
「他の人を倒すのなら、まずは私を倒してからです。貴方に出来たらの話ですが」
「逆に受け止めることができる未来は、私には見えないがね!」
 放たれる炎。だがそれを切り裂いて楓は剣を振りかぶっていた。楓の断罪之焔、いやその霊力は次第にBDの炎を抑えられるようになっていた。
「なに?」
 賢者の石を拳の中で砕きながら、驚き固まるBDに告げる。
「その程度ですか? 私はまだ戦えますよ」
「小娘が!」 
 練り上げた火焔球、それは楓に直撃すると爆炎をあげる。
 その爆炎を切り裂いて楓はさらに進む。
「ダメージが無いわけではない。治癒か?」
 自前の回復だけではない。
「柳生さん、あまり無茶は」
 仁菜のリジェネレーション、そして暗闇からの支援を飛ばす望月。
「回復はこっちで受け持つから。好きなようにやっちゃって!」
 その言葉に頷くと楓は刃を力強く握りしめた。
「貴方は見逃せれない。ここが貴方の終着点です」
 その言葉で脳裏に浮かぶのは子供たちを手にかけた夜。
 あの日、あの場所で、殺したかった人間もいなかったし、殺されたかった人間もいなかった、それなのに。
 それなのになぜあんな悲劇が……。
――君の物語の終幕だよ。諦めたほうが吉じゃないかな。
 もう悲劇は繰り返さない。そう意志をこめた楓の剣がフルパワーで振り下ろされる。
「小娘が!」
 BDは両手を広げる、楓の挑発に乗ったのだ、防御することではなく楓を迎撃することを選んだ。
 両手から吹きだした炎が楓を十字に焼く。だが。
「なぜ倒れない!」
 楓の髪が炎に煽られふわりとまった、その毛先から火がついてじわりじわりと燃え広がる。それでも楓は防御しない。
 このまま防衛に回ればきっとBDはいったん仕切り直すだろう。だが今仕切り直そうと後退すれば楓の渾身の一撃をもらうことになる。
 防御はシールドにまかせてここは楓を殺し切るしか道はない。
――その炎は恐れの象徴だね。
 詩乃が唐突に告げる。だがBDは詩乃の言葉に声を返している場合ではない。
「なぜ倒れない」
――怖いから敵を倒そうとする。目の前の人間を殺そうとする。でもそれだけじゃどうにもならない敵もいるって教えてあげるよ。
 放たれる弾丸、片方は空中で無数の破片に分裂しそれが空間内を跳躍。槇のダンシングバレットが楓を避けながらBDの耐久を削っていく。
(少女だと侮ったばかりに)
 さらに鎧の能力を過信しすぎた結果でもある。
 楓がさらに半歩刃を押し込むとそこで初めてシールドに亀裂が入った。
「今よ」
 佐千子は両目を閉じる、すでに弾丸は放った時にはあたっているからだ。
 楓があけたわずかな隙間、それを縫うように飛ぶだけではない。僅かに亀裂に弾丸をひっかけることで弾丸を回転させ、弾道をそらす。その弾丸はBDの後頭部真後ろのシールドに当って跳ね返り、強い衝撃がBDの脳を揺らした。
「なに!」
 脳震盪である、一瞬意識を失ったBDは炎とめた。
「ああああああああ!」
 それは肌が焼け付く痛みか、気合か。
 楓は刃を持つ手を変え担ぎ上げるように上にシールドを切り裂いた。
 ばりんっと音を立てて割れるシールド。楓はそのまま柄頭に手を当てて突き刺すように刃を胸の石へ突き刺す。
 直後。
「ぐああああああ!」
 石から光が奪われた。シールドが沈黙。BDはまた一つ切り札を奪われた。



第三章 Dの一つの終わり。

「くそ、鎧など何の役にも立たん!」
 直後BDは鎧をパージ、生身の眼球で楓を見る。その楓の胸の前に手を置くと最大火力で楓に焔を放とうとする。
「よくもベラベラと喋ってくれたのう……貴様が出てくるのを待っておったぞ」
 その時である。声が聞えた。
 聞き覚えのある声。ガデンツァの声だ。
「お前は倒されたはず!」
 しかしあたりを見渡してもガデンツァは影も形も見えない。
「我は終末をもたらす者。HOPEの狗共にやられるとでも思ったか? 貴様はすぐには殺さぬ、じわじわとなぶり殺してくれる! ってちょっと!鬼灯さん銃向けないで! 当たる当たる!」
 BDは床に落ちたナイフを拾う、直後暗闇に投げ捨てると沙耶が使っていたノートPCに突き刺さった。
――やっぱり子供だましだったわね。
 グロリア社で開発されているガデンツァの音声ソフトであるが。一瞬気をそらせただけでも十分な戦果だろう。
 だが、直後沙耶に向けられて炎が放られる。
 それに直撃する前に佐千子が飛び込んで沙耶の体を突き飛ばして回避。
「ちょっと、私たちにも内緒で何を……」
 怒り心頭の佐千子である。
――いえ、敵を欺くにはまず味方からっていうでしょう?
「おい、俺も嫌なもん思い出したぞ」
 姫乃がそこら辺の工具でBDの装甲車をバラバラにしながら言った。
 とりあえずねじやパーツを取り外しているだけだが。精密機械だ……。山のように積み上がったねじを見てまともに動くものがいるとは思わないだろう。
 望月もさっきまでこれを手伝わされてた。
(ガデンツァは退場したけどさ、ナイアが戦死したのはこいつらの作戦も原因だよな)
 そうBDを振り返る姫乃。
 戦いは佳境である。見ればBDはその鎧を自立稼働させて戦闘要員として使うようである。
 まだ戦うことを諦めないBDに姫乃はイラついた表情を見せた。
「しっかし、だいぶ心が折れてたって聞いてたんだが」
――心のたふねすがすごいのか何なのか、――全部演技だったってーならすさまじい手のひら返しデスニャ。
 朱璃が告げる。
「手前を好き勝手にさせると泣くやつが、――泣くことすら忘れちまうようなやつだって出てくるかもしれないんだ」
――ですから速やかに檻の中に叩き込んでやります。
 その時である、全ての算段も条件も整った。鎧が自分で歩き始めた時にはどうしようかと思ったが、あれも仲間たちが対処してくれる。
 なら、今が攻め時だ。
――オッサン。そろそろ決める……ぞっとッ!
 誄の言葉で槇が光玉を投げた。
「にゃっぽい!」
 その姫乃の耳元で準備完了の合図『にゃっぽい』が響いた。

「この背に【暁】を刻む、――そう、誰よりも先に!『速く!』てめえの鼻っ柱を蹴り砕いてやる!」
  
 告げると姫乃は拾った資料を沙耶に押し付けて駆けだす。
「うちの小隊は隊長はじめ無茶するやつばかりで困るな」
――ご主人にそれ言う権利はねーと思いますニャ。
 床を跳ねるように背後を取り、そしてその刃を生身のBDへ差し向ける。
 振り返るBDその炎が姫乃を焼くのが先か、それともBDが死ぬのが先か。
 だがそれより早く光玉がBDの眼前に届いた。 
「また子供だましを」
 違う、その放たれたフラッシュバンは本物である。
 目を覆うこともわすれたBDはその場で目を押さえてもんどりうつくことになる。
 ふらふらになりながらBDは音のみを頼りとして炎をばらまくしかなかった。
「……仁菜さん! 守護陣形・壱式!」
「はい!」
 仁菜は威月の声に合わせて前に出る。楓は無事だ。戦闘は続行できる。
 だが心なしかBDの炎は勢いを増しているように思えた。先ほどよりも熱い。
「焼き尽くせ! プルガトリーオ!」
 BD渾身の大火力、それが仁菜に突き刺さろうとするもそれを仁菜は全て受け止める。
「貴方の攻撃お返しします!」
 直後バックファイア。リベリオンによる悪意の反射がBDの腕を焼いた。
「…………これしき……のこと…………行きます! 弐式!」
 そう仁菜と威月は燃衣が背後に隠れるように立ち回る。
 その盾で炎を遮り、逆に炎で目くらましを。
 アイリスと燃衣がその背後から躍り出て攻撃を仕掛ける。
「くそが!」
 輪郭程度しかつかめない両目。その両目のままに焔を放つとその炎の中に燃衣が消えた。気がした。
 実際は槇だ。
「お兄ちゃん!」
 仁菜の声に、ニヒルな笑みを返す槇。
「なんちって、だお」
――バカ乙っと。
 背後から燃衣の奇襲。掌底が背骨と肺を揺らすと酸素が全て叩きだされる。
「バカはお兄ちゃんだよ!」
 燃衣の身代わりとなった槇をいったん戦場から話すべく仁菜は後退。
「まかせた!」
「……任されました」
 追撃しようと放たれたBDの炎を威月が盾になって庇う。
 このあたりの連携は死ぬほどやっている。
 仲間が戻るタイミングも体に染みついている。訓練通りに事が運んでいるということは想定内の状況ということ。
 こちらが有利だ。燃衣が吠える。
「鎧はこっちでなんとかします! そちらでBDを」
 高速で動く鎧兵と望月は刃を合わせた。
 斬撃、振り下ろし、薙ぎ払う。懐に潜られば柄頭を振り上げて迎撃し。
 背後に回られれば円を描くように薙いだ。
 次いで放たれた鎧兵の蹴り。しかしその足は望月に命中することなく天井にまで飛んで落ちた。
 同時にBDのひじからも血が噴き出す。
 佐千子の射撃である。
「ぐうううおあああああ」
 叫びをあげて振り返り、炎をはなつBD。その炎はアイリスが遮った。
 焔を完全に遮断。それどころか金色の祝福を受けた炎は逆にBDへと返り腕を焼く。服が燃え落ち肩口まで筋肉が露わになった。
「その最終兵器とやら、随分前から用意していたようだが今の私たちの強さにチューニングは合っていたのかな?」
 不敵に微笑むアイリス。
 盾に纏う霊力。
「これでやっと届くね」
 盾のエッジを突き立てるアイリス。
 放たれたライヴスリッパーはBDの骨を軋ませ、内臓にダメージを。
 BDは口からわずかに血を吐き、地面を転がった。
「シンプルに強い? 今までそれを何人倒してきたと思っている?」
「そんなことはいってない」
 震えながら立ち上がるBD。その正面からアイリスが。背後から燃衣が、膨大な霊力を抱え込みながら走り寄る。
「貫通ぅぅ…………」
「レディケイオス、CODE:000」
 アイリスが構えるのは光輝の盾そこに込められた膨大な霊力が光の十字架となり。
「連拳!」
「グランドクロス!」
 炎の連拳と光の十字架はBDの体の両面で出会う。
 へたをすれば腹部貫通しているほどの一撃。だがまだだ、まだ終わらない。
 貫通連拳のバックファイアでBDは背中から火を噴きながら空中に浮かび上がる。そのBDへアイリスが追撃を仕掛けた。
「エンシェントグレイブ!」
 光の墓標がエネルギーの筋となってズタズタにBDの体を引き裂く。
 BDは血まみれになりながら床を転がった。
 だが、まだだ、まだBDは諦めない。
 全身から血を吹きだして。両腕の骨が砕けていようとも、最後の希望を求めて車輌まで這って進む。
「私は、生きたいだけなんだ。自由に」
 ただ敵の追撃はやむことはない。
 やむ終えずBDは全身を炎で包みながら立ち上がる。
 燃えたつBDの肌はみるみる焦げていくがそれでもBDは留まることはない。
「なんて奴だ」
 唖然とするアイリスだったが、その炎を纏う魔人に一人の魔人が歩み寄る。 
――テメェと燃衣との違いは。
 燃衣がふらふらと歩み寄る、代わりにネイが言葉を紡ぐ。
――誰の為に考えるかだ。お前は結局、自分の事しか考えた試しが無い。
 オーバークロック……ではないが燃衣も限界を超えている。鼻や目から流した血が炎で乾いていく。
――対して、燃衣は何時も他人の事ばかり考え続けた。
「他人の事を考えなければ生きていけない弱さだよ、それは」
――違うな、弱くない生き物はいない。お前は金の力で武装したつもりかもしれんが。お前は弱さをさらけ出したまま大人になってしまっただけだ。
 燃衣がBDの胸ぐらをつかみあげる、すると燃衣もそのわずかに残った衣服も同時に燃えたった。
――復讐の鬼であった時でさえも。
 燃衣は叫び声をあげる、言葉にならない叫び声。
――……俺は綺麗ごとを言ってるんじゃない。つまりそれは。《心を読む力》の違いという事だ。
 拳が翻る、それはBDの顔面に問答無用で叩きつけられた。
――他人の事ばかり考える燃衣は今、お前の思考を完全に読んだぞ。
 自分から焼身自殺するようなまねはするまい、そう思って自分を炎で包んだ。しかし燃衣はそんなこと気にするやつではない。
「よくも…………子供を。親を! 皆をッ!」
 押し倒し、地面を転がる。燃衣もBDも香ばしい香りを漂わせて焦げていく。
「泣かせやがったなァァアアアアアアアアッッ!!」
 拳を止めることのない燃衣。このままではBDが死んでしまう。
 そう思った姫乃は燃衣の首筋に手刀を叩き込んだ。
「いや、これで潮時だろ」
 服の袖の火を払いながら燃衣を引きずりだす、女郎蜘蛛にて燃衣の霊力を乱した。しばらくは大人しくするはずだ。
 次いでBDの炎が消える。ほぼ黒焦げのBD。
 ただ皮膚が炭化して腕を曲げることも指を曲げることもままならない様子だ。
「これ、生きてんのか?」
 そうつぶやく姫乃の肩を威月が叩いた。
「……治療します」
 嫌いな相手の命を救わなければならないこと。どう思っているのだろう。
 そう姫乃は疑問を抱きながら半歩下がった。

エピローグ

 治療作業は望月がメインで行った。ほとんどのものはスキルを使い果たしていたが、望月はこのことを想定していたのである。
「俺はな、自由になったら人助けを仕事にするんだ」
 そううわごとのようにつぶやくBDに沙耶は辛辣な言葉をかける。
「あら、どういう風の吹き回しかしらぁ」
「これから、王が倒されれば霊力の無い世界が来てもおかしくはない。その場合に備えて、霊力難民を救済するための事業を始めるのさ。金のために」
 告げるBDは揺れる指先で暗い部屋の奥を示す。BDが告げた複雑な手順で壁をおすと水路が変形しその先の部屋が露わになった。水路の先には干からびたミイラが置かれている。
 ひと目でわかる。これは死後一年や二年と言った生易しい年月が経過したものじゃない。
「ADがいないのは、たもとを分かったからだよ。あいつは愚神だ。王がいなけりゃ存在できない」
「ではADの目的は?」
「王を狩らせないための、仕掛けをうつことだ」
 この事件はまだ終わっていない。ADの足取りを掴むためには今日持ち帰った情報の精査が必要となるだろう。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237

重体一覧

参加者

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命



  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
    人間|18才|女性|防御
  • 暗黒に挑む"暁"
    青槻 火伏静aa3532hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
前に戻る
ページトップへ戻る