本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】古きを制する戦い

落花生

形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
19人 / 1~25人
英雄
15人 / 0~25人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/11/12 19:56

みんなの思い出もっと見る

掲示板

オープニング

 ガリアナ帝国――その存在は、元小国を動かした。
 現在のアフリカは連邦制が引かれており、国であった地域は州と呼ばれるようになっている。しかし、それを快く思う人々ばかりではない。
 自分たちが培ってきた文化や歴史、そのようなものが失われるという危機感を抱く人々は当然ながらいた。そんな考えの人々が、耳に入れてしまったのだ。
 現代科学においても解明できない謎を内包する、ガリアナ帝国の話を。
 そして、夢想してしまった。
 そのガリアナ帝国を手に入れれば、自分たちの州――否、国は世界最高の軍事力を得ることができるのではないかと。

「先輩! 大変です!!」
 職員が、H.O.P.E.の支部に駆け込む。この支部では、現在エージェントたちのサポートを全力でおこなっていた。浮上してきたガリアナ帝国を狙うかのように、マガツヒがやってきたからである。エージェントたちは、そのマガツヒたちの交戦している。
「今はそれどころじゃない!」
 先輩と呼ばれた職員は、若い女性職員に対して怒鳴ってしまった。しかし、女性職員はめげることなく報告をおこなう。
「アフリカの支部より連絡です。州の一つがセラノエに協力し、武器の提供をおこなったとのことです」
 後輩の報告に、先輩は言葉を失う。
「なんだと……アフリカの州と言えば、元は一国だぞ。そんな規模で、武器の提供? 目的は」
 なんなんだ、と先輩は続けようとした。
 その前に、後輩は答える。
「情報によると旧式ですが、軍艦も提供された武器のなかに入っているようです。狙いは恐らくは、ガリアナ帝国でしょう」
 ガリアナ帝国が浮上する予定地点では、現在マガツヒとエージェントたちによる戦闘がおこなわれている。これにセラノエに加われば、三つ巴の乱戦になるだろう。そうなったとき、どれだけの被害がでるのかは予想できない。
「セラノエの予想到着時間は?」
 先輩の言葉に、後輩は答えた。
「旧式の軍艦ですので、かなり時間がかかるものだと思われます」
 その報告を聞いた先輩は「よし」と気合を入れる。
「別のエージェントたちを集めろ! セラノエがガリアナの浮上予定地に侵入する前に、叩くんだ!! 手の空いているものは、セラノエが提供されたと思われる武器について出来る限りリサーチしろ!!」


 調べた結果、セラノエが提供された武器は最新鋭とは言いがたがった。それどころか古い型のものばかりである。
「セラノエに提供された武器は、戦艦。未確認ではありますが、戦闘機も提供されたと報告がありました。全て旧式ですが、問題は操縦士のほうでしょう」
 後輩は説明を続ける。
「武器は全て旧式でありますが、現在の利便化されたものと違って普通に操縦するだけでも技術がいる代物ばかりです。ですので、今回の操縦士はかなりの玄人と見て間違いないと思います」
 何年も、何年も、古い軍艦や戦闘機を操ってきた猛者たち。その猛者と今回は渡り合うことになる。
「エージェントに提供できる武器類はあったか?」
 先輩の言葉に、後輩は難しい顔をした。
「マガツヒの戦闘ですら、無理をしてかき集めましたから……。残っているのは、これと恐竜たちぐらいです。あとは、偵察用のドローンが三機だけ」
 後輩が差し出したのは、ヨイより預かった笛である。恐竜を操ることが出来る笛。そして、この支部にはまだ密猟者から保護した恐竜たちが幾分か残っていた。古代の恐竜たちがどれほどの力を有しているのかは分からない。
「セラノエは、全力でくるだろうな」
 先輩は呟いた。
「セラノエは小国の協力をとりつけたが、失敗したら二度とセラノエに協力するような団体は現れないだろう。そうなればセラノエは資金的に困窮して破滅する。小国に関しても同じだ。失敗すれば、国際的な責めを負う」
 相手は、負けられない気持ちで向ってくるであろう。
「マガツヒたちとの戦闘も行なわれている。……物資面でも苦しい戦いになるだろうが、俺たちにできるのはサポートだ」
 ここでも全力を出そう、と先輩は言った。


 空にドローンが放たれる。
 その映像が流れてきているのは、H.O.P.E.の支部ではない。海に程近い、貸し倉庫の中である。H.O.P.E.の支部はマガツヒ撃退のための本部としており、通信機器を設置するような場所を確保できなかったのだ。そのため、職員たちは倉庫のなかをセラノエ撃退の本部としたのである。
 さらに、それにはもう一つの理由があった。
「頼みますね」
 後輩は檻のなかを覗き込む。
 感情のない爬虫類のような目が、ぎろりと自分を睨んだような気がした。
 貸し倉庫のなかには、恐竜が入った檻が入れられていた。すべてスワナリアに住んでいたが、心無い密猟者に捕獲された個体である。
「通信で、ヨイさんから笛についてのレクチャーは受けたと思います。では、これをどうぞ」
 後輩は、ヨイのレクチャーを受けたエージェントに笛を手渡す。時間がなく、一部のエージェントにしかレクチャーはできなかったが、それでもそれが手助けになると後輩は信じていた。
「私たちはドローンでの映像から、戦場を分析してできるだけ皆さんのサポートをします」
「俺もコイツも戦いの素人だから、あんまり便りにはならないけどな」
 H.O.P.E.の職員が、そういったときであった。
「動くなよ」
 聞いたことのない声が、響いた。
 そして、気がついたときには後輩の後ろに屈強な軍人らしき人物がいた。
「セラノエ……どうして、ここが分かった!」
 先輩は、叫ぶ。
 それに答えたのは、軍人であった。
「お前たちは戦闘の素人だな。こんなに分かりやすいところに本部を作るなんて、攻撃してくださいといっているようなもんだぜ」
 後輩は軍人にナイフを突きつけられながらも、怯えてはいなかった。
 それどころか、強く目で訴える。
 ――笛を吹いて!!
 周囲に、人気のない貸し倉庫。
 その貸し倉庫のなかには、太古に滅びたはずの恐竜がいた。

解説

・セラノエの殲滅
倉庫――広く、薄暗い。三機のドローンの映像を受信するための機材やテレビカメラが並んでいる。

軍人……五人登場。鍛えられた屈強な肉体を持つ、熟練の兵士。武器は小型のナイフと銃だが、室内戦で邪魔にならないものを選んでいる。後輩職員を人質にとっている。

海(17:00 晴天)
軍艦――三機登場。巨大な軍艦であるが、旧式。ガリアナ帝国浮上予定地よりかなり離れた場所を進んでいる。積んでいる大砲も威力はそこまでではない。操縦士などがベテランであり、アクシデントには冷静に対応する。船を止める、方向を変えるといった作業についても特殊な技能が必要であり、操縦士以外が船を扱うのは難しい。一隻につき、二十人の操縦士が乗っている。銃を持って武装しているが、生身での戦闘は得意ではない。

ドローン……小型のものが三機偵察にでている。小型なので見つかりにくいが、壊れやすい。

戦闘機――四機出現。軍艦が襲われていると現れる。ベテランのパイロット操縦しており適確な攻撃をしてくる。燃料の関係で一時間しか、戦場にはいられない。

恐竜(オーパーツを飲み込み、肉体を強化されている)
コンプソグナトゥス(コンピー)……1メートル前後の恐竜。常に群れて行動するが、歯は鋭く手足の力も強いため人間の皮膚程度は簡単に食いちぎる。30匹登場。
ケツァルコアトルス……11メートルを超える巨大な翼竜。強化されているので、人を乗せて飛ぶことができる。風に乗って飛ぶために機動力はいまいち。打たれ弱い。5匹登場。
ディモルフォドン……嘴ではなく歯を持っている翼竜。1メートル弱だが、機動力に優れている。打たれ弱いが、戦闘機の攻撃が当たることは滅多にない。10匹登場。
フタバスズキリュウ……7メートルの首が長い海竜。ヒレを使って、海を自由に動くことができる。彼らのみ、養殖場のように仕切られた海の檻のなかにいる。4匹登場。

リプレイ

●倉庫での戦い
 薄暗い倉庫のなかで、軍人が後輩の職員を人質にとる。その光景に、緊張が走った。
 荒木 拓海(aa1049)は周囲をさっと確認した。何かしらのトラップがあるかもしれない、と考えたからであった。だが、探してもトラップらしくものの影はなかった。だが、相手もプロである。分かりやすい位置にトラップを置くとは考えづらい。
 レミア・フォン・W(aa1049hero002)は、そんな拓海の様子を不思議そうに眺めていた。
『何を探しているの……?』
「トラップだよ。ココの場所が発見されていたのならば、なにかしら隠されているかもしれない。相手もプロだからね」
 軍人たちが避けて歩いているような場所はない? と拓海は尋ねる。
 レミアはじっと目を凝らすが、軍人の足取りの規則性はないように思われた。
『後輩は……怯えてる。……可愛そう』
 敵にナイフを向けられているのだから、当たり前である。
 早く助けないと、と拓海は思った。
「後輩さんと笛を取戻さないと恐竜が悪用されるんだよね?」
 そんなの可愛そうだよ、と五十嵐 七海(aa3694)は呟く。
『恐竜も笛も使いようによっては強力な武器になるからな。浪漫はまったくないが』
 ジェフ 立川(aa3694hero001)は、呆れたように呟いた。
「……軍人たちはガスマスクとかはつけてないみたい。つけてたら、銃ではじくつもりだったけど、それは必要ないみたいだね」
『うっかり頭を打ち抜くようなことにならなくて、よかったな』
 ジェフの言葉に、七海はうっと言葉に詰まった。
「意地悪いわないでよ。殺したいわけでもないのにでも……後輩さんを傷つけるなら容赦しないよ」
 七海の目に決意が宿る。
 無理はするなよ、とジェフは囁いた。
「素早く人質をとって、敵の本部を征圧か。なるほど、プロの仕事は勉強になるな……」
 麻生 遊夜(aa0452)は、感心しながら呟く。
 倉庫を制圧した軍人はプロであり、その手早い動きはなかなか見られるものではなかった。「だが……」と遊夜は小さく呟く。
『……ん、でも……反撃できないとは、言ってないよね?』
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は、頷く。
「マガツヒもセラエノも国際的犯罪組織だろ? 何で恐竜や帝国に拘るんだ?」
 鐘田 将太郎(aa5148)は、わからんと首を傾げる。
 海峰(aa5148hero002)も、同じように首を傾げていた。
『わからん。だが、そのような連中が動くとあらば、よほどのものがあるのだろう』
 二人はガリアナ帝国を巡る一連の事件に関っていなかったために、なぜ犯罪組織が海底に沈んでいた帝国を狙うのかがよく分かっていなかったのだ。もっとも、マガツヒやセラノエが「なぜガリアナ帝国を狙うのか」とはっきり説明できるものはほとんどいないであろう。
 今のところ二つの組織は、突如現れた人智を超えるようなものを手中に収めるために動いているとしか説明がしようがない。長年海底に沈み、そんな攻撃手段も寄せ付けないバリアーを保有するガリアナ帝国も人智を超えたものの一つであった。
 将太郎は檻に入れられている恐竜を目にして、何度も目をしばたかせる。図鑑でしか見たことないような生物が、目の前で生きていることの驚いてしまったのだ。
「倉庫の檻の中にいる恐竜もお目当てなのかね? 実際にいるたぁ驚きだ」
 彼らもマガツヒやセラノエが狙う、人智を超えた技術で生きながらえてきた古代の生き残りである。その姿を見た将太郎は、一瞬自分がSF映画のなかに入り込んだかのかと考えてしまった。
『これが太古の昔に存在していた生物……』
 海峰も恐竜たちを興味深そうに見つめる。
 大昔の地球は彼らのものだとは、さっき聞かせてもらったが現代の生物とはどれも似ていない姿はそれこそ異世界からやってきたかのように海峰には思えた。
「恐竜観察はあとだ。海峰、共鳴時の主導権はおまえだ。思い通りに行動していいが、目的を忘れるなよ」
 将太郎は、そう釘を刺した。
『了解』と海峰は頷く。
「ヴィジ―、今度の相手はマガツヒじゃなくてセラエノなんだよ!」
 ルカ マーシュ(aa5713)の言葉に、ヴィリジアン 橙(aa5713hero001)は若干の不安を見た。
『ちゃんとセラエノについて予習してきたのか……?』
 ルカは、そっぽを向いた。
 ちゃんと予習してないらしい。
「軍人たちの注目が後輩に集まってて、さすがに動けないかも……」
 拓海は、そう呟いた。
「目立つなら任せろ! 日々練習してきた某SF映画の殺陣をここで活かす時!」
 そんなことを叫んだのは、沖 一真(aa3591)はであった。彼はツインライヴスセイバーを起動し、映画の主人公のようにそれを振り回す。その行動に敵は唖然としていた。銃によって一真を狙うが、それをひょいっと一真は避ける。
『……悪目立ちはするなよ』
 灰燼鬼(aa3591hero002)は、呆れたように呟いた。
 相手もプロである。自分たちの行動が陽動であると気がつかれている可能性も高かった。その証拠に軍人たちは一切の言葉を使わず、問答無用で一真を攻撃してきている。
『あまり目立ちすぎると、かえって味方の首を絞めることもある。意極めるべきだ』
 一真たちの実力であれば、人質を取り返すのは容易いかもしれない。
 だが、その技術だけがあってもダメなのだ。非戦闘員である職員を無傷で取り返さなくては守ったことにならない。
『……真の武人とは優れた技術にあらず。何を護るために戦うかである』
 誰にも聞かれないように、灰燼鬼はぼそりと呟いた。
 この戦いは、職員を守るための戦いである。彼女を傷つけるようなことをしてはならないのだ、と彼は思った。
 敵に注視するふりをして、皆月 若葉(aa0778)はそっと恐竜の檻に近づいた。それに気がついたラドシアス(aa0778hero001)は「どうするつもりだ?」と密やかに尋ねた。
「ちょっと気をそらすよ。びっくりしないでね」
 若葉は、そっとコンピーの檻を開ける。
 檻にはいっていた小さな恐竜たちは、飛び跳ねながら広い倉庫内を走り回る。それに軍人たちは驚いた。
「なんだ、こいつらは!」
 軍人たちの関心が、一瞬コンピーに向いた。その隙に、ラドシアスと若葉は共鳴した。そして、威嚇射撃で軍人たちを攻撃する。
「余所見厳禁、だぜ」
 いつのまにか軍人たちに近づいていた一真は、にやりと笑った。
『……悪、即、成敗』
 女性を人質にとるような輩に、なさけをかける必要はなし。
 そう言いたげに、灰燼鬼は軍人を睨んでいた。
「ごようじゃ。いたいけな女性を人質に取るような輩は、わらわたちが許さん!」
 刀を抜いた天城 初春(aa5268)が、軍人に切りかかる。
『笛を持ったものを人質にとり、あわよくば恐竜たちも操ろうとしているんじゃろうか? そんなことは、わしが許さん』
 初春は、軍人から人質になっていた女性を奪い返す。
 そして、その女性を「任せるのじゃ!」と言って、若葉に投げ渡した。その光景に、稲荷姫は「乱暴じゃのう」とため息をつく。
 初春は「わらわたちと一緒にいるほうが危ないじゃろう」と言いながら、刀を振り回す。
「大丈夫!? 今のうちにこっちへ!」
 軍人の拘束から逃れた後輩に、若葉は声をかける。
 一真は女性から手を離し、彼女の耳元で囁いた。
「笛を雅春に……」
 職員の女性は頷き、小宮 雅春(aa4756)のもとに走った。
 笛を受け取った雅春は、それをしっかりと掴んだ。
「ありがとう……絶対に守るよ」
 職員が守り、仲間が奪還した笛である。再び奪われることがあってはいけない、と雅春は思った。
「お前たち!」と軍人は叫んだ。
 その軍人の手を遊夜は狙った。
「お前たちは対リンカー戦の素人だな、こんなに分かりやすく隙を作ってくれるとは……」
 遊夜は微笑む。
 その横顔をみたせいなのか、ユフォアリーヤもまた微笑んでいた。
『……ん、人質取った程度じゃ……攻撃してくださいと、言っているようなものよ?」
 殺すつもりはない。
 しかし、手加減をするつもりもない。
 黒い夫婦は互いの意思を確認しあって、似てきた笑みを浮かべていた。
「まずはコンピーを大人しくさせてね。思ったよりも、凶暴で……」
 色々なところに噛み付いてくる、と若葉は悲鳴を上げた。
『もっと臆病な生物だと思ったが……』
 ラドシアスも思いのほか凶暴なコンピーの困惑していた。雅春は頷いて、笛を吹き始める。
 ――もう、君たちの役割は終わった。少しの間だけ休んで。
 そんな思いを笛に込めるように、雅春は笛を奏でる。
 コンピーたちはぴたりと大人しくなった。その光景を見ていた軍人の一人が、雅春を狙おうとしていた。だが、それを見咎めた若葉は軍人の手を撃ちぬいた。
「……邪魔はさせない」
 人質の保護、笛の回収。
 その二つが成功したことを海峰は見届けた。
「人質救出のためだ。悪く思うな」
 将太郎は、そう呟いた。
 海峰は、セーフティーガスを使用する。倉庫のなかに敵たちは、それによって眠りの世界に誘われた。

 職員が解放されたことにより、恐竜を操る笛も同時に手に入った。
「倉庫のほうは片付いた。安心してくれ。そちらは任せた」
 ガスマスクを持っていなかったからセーフティーガスで一発だった、と将太郎は楽しげに笑った。
「爆薬とかももっていないみたいだな」
 一真は拘束した軍人たちの身体検査をしていた。
 一方で、灰燼鬼は倉庫にあった機器を見つめていた。
「だいぶ暴れてしまったが、まだ使えるじゃろうか?」
 初春も心配そうに、機械を覗き込む。
『これはドローンを操る機械だというが、もし故障していれば面倒じゃのう』
 と稲荷姫も不安げであった。
 灰燼鬼は問題ないと返事を返す。
『これであれば、実戦で十分に使えるな。私たちはここで軍人たちの見張りをしつつ、戦いの連絡役を務めよう』
 灰燼鬼の言葉に、一真はうなずく。
 そんななかでも海峰の視線は、まだ恐竜に注がれている。
『大きいな』
 言葉少ないが、恐竜がどうやら気に入ったらしい。
 雅春は翼竜にパワードーピングを使用していた。これで、防御力を少しでも上げられるはずである。
「いい子だ、頼りにしてるよ」
 雅春は笛を握り締めた。
 これからの作戦で、恐竜たちの命運を握るのは笛を操る雅春である。できれば無傷で帰って欲しいという願いをこめながら、彼は固い嘴をひとなでする。
「翼竜と空に……」
 若葉は目を輝かせていた。
 もっとも大きな翼竜ケツァルコアトルスは、その視線に気がついたのか「くえー」と鳥のように鳴く。
『……喜んでる場合じゃないがな』
 ラドシアスは少しばかり、不安げであった。
 巨大さにも関らず、翼竜の体は華奢である。強化されているとはいえ、敵の攻撃を受けたらひとたまりもないことは目に見えていた。だが、若葉はそんな不安など吹き飛ばすように明るい声で「よろしくな」と自分が乗る翼竜に声をかける。
「セラエノもか。地下帝国をそっとしておこうって発想は、どこにもないね。マガツヒやセラエノよりは、H.O.P.E.がマシか」
 餅 望月(aa0843)は、はぁとため息をついた。帝国を巡る攻防戦になんども巻き込まれている彼女にとっては、今回の事件は頭が痛くなる案件であった。
「恐竜は巻き込みたくないけど、他に軍艦への移動手段もないからね。誰か、恐竜を使わない代案とかもってないかな?」
 望月は仲間にそう尋ねたが、よい案はでなかった。
 やはり、恐竜を頼るしか方法はないらしい。
「戦闘機や機銃に近づかないように、とにかく逃げてくださいね。作戦名は、命大事にですよ。ガンガン行こうぜをしたら、ダメですからね」
 望月は、翼竜に真剣な顔でそう説明していた。
「私たちは、翼竜を使わなくていいんだな?」
 海神 藍(aa2518)は、禮(aa2518hero001)にそう尋ねた。
 禮は、真剣な顔で頷く。
『はい。わたしがなぜ英雄と謳われたのか。その所以を、お見せしましょう』
 少女がそんな覚悟を決める隣で、大和 那智(aa3503hero002)が少年のような目をしていた。恐竜たちを巻き込んだ事件に何度も参加してきたこともあり、すっかり翼竜に情がうつってしまったらしい。翼竜の檻の側に近寄って『俺がやる』といってきかない。
「マガツヒの次はセラエノか。激しい戦いになるだろうな……」
 ぼそり、と東江 刀護(aa3503)は呟いた。
 こちら側の武器などは、整っているといいがたい。それでも、セラノアに挑まなければならない。
『恐竜達の力を借りるのは心苦しいねぇ。傷つけるようなことはしたかねぇぜ』
 こいつらは自由に空を飛んでいるほうが似合う、と那智は言った。
「それでも、俺達は戦わなければならん。恐竜たちもだ」
 刀護の言葉に、那智は頷く。
 それでも湧き上がる罪悪感に、刀護は翼竜にそっと声をかけた。
「わりぃが、俺を軍艦まで運んでくれ。危なくなったら逃げろよ。いいな?」
 笛の音が響く。
 これで、恐竜たちは人間を乗せて飛ぶことが可能になった。
 力強く空に飛び立とうとする翼竜にそれぞれが捕まり、彼らはあっというまに空高く舞い上がった。
 いつの間にか自分がさっきまでいたところが小さくなっていて、ルカは言葉を失った。すでに共鳴しているためヴィリジアンに意識はない。つまり、この体験はルカ一人のものだった。
「きょ、恐竜に乗ってる……!!」
 言葉では言い表せない感動を味わいながら、「ざまあみろ」と思ってしまうルカなのであった。
「思ったより、安定するもんだな。もっと揺れるかと思ったが」
 遊夜はケツァルコアトルスの捕まりながら、そう呟く。一方でユフォアリーヤは「……ん、スリルが足りない」とちょっと不満げだった。
 敵の戦闘機が、翼竜たちに気がついて近寄ってくる。
 その様子を見た遊夜は呟く。
「遥々来てくれた所で悪いんだが……」
『……今忙しいから、元の場所にお帰り……戦闘機は、置いて行って貰うけど……ね』
 ロングショットを使用して、遊夜は戦闘機を打ち落とす。
「この方法で、大丈夫そうだな。おっと」
 自身の近くを飛んでいたディモルフォドンに、遊夜は少しばかり驚いた。近くで見ると、結構恐い顔だったのである。
『……ん。敵もこの恐い顔で威嚇できればいいのに』
 ユフォアリーヤの言葉に、それはさすがに無理だろうと遊夜は苦笑いした。
「ガリアナ帝国浮上予定地には行かせねぇよ!」
 刀護は叫びながら、カオティックソウルを発動させる。
 狙いは軍艦であった。
 数秒後、彼は悪いことを思いついたような顔をしていた。
「銃弾の雨が降ります、頭上にご注意くださいっと。ちょっと言ってみたかったんだよな」
 そんなふうに、刀護は呟いた。
 那智は、そんな様子の刀護を見て呟く。
『恐竜の効果でちょっとテンションが上がってるな』
 ちょっと恥ずかしくなってしまった刀護であった。
『戦闘機とやり合うなんて、最高に昂るんだぜ!」
 重力を忘れた 奏楽(aa5714hero001)は、目を輝かせていた。その様子に、熊田 進吾(aa5714)はため息をつく。翼竜に選びのときまで彼は「俺と気の合いそうなケツァルコアトルスのコいる? 背中に乗せて!」と言っていたのだ。まるで、ナンパである。だが、よく考えてみればケツァルコアトルスの彼女もいいかもしれない。
 だって一緒に登山もしてくれそうだし、夕飯には魚をとってきてくれたりするかもしれない。そこまで考えて進吾は「人間よりも上手くいきそうだな」と呟いた。だが、いくらなんでも恐竜に走ってしまったら、人間として色々と終わってしまう。
 四十代独身であっても、まだ付き合う相手は人間であってほしい進吾であった。
「回避されてもいい、無駄に動かせて燃料の消費を早めるのが目的だからな」
『わかった。最優先は攻撃が当たらないようにだよな』
 奏楽の言葉に、進吾は頷いた。
 イメージプロジェクタを使用し、簡易迷彩を作る。とにかく、被弾しないことが大事である。
「敵機の動き、旋回のクセ、ある程度読めたら次だ」
『他にディモたん達もいるし、エース機を特定できたら、引きつけてそいつを止めてェよな」
 無理は禁物だ、と進吾は言う。
「俺達だけなら何とかなるかもしれないが、翼竜は被弾したらひとたまりもない」
『そうだよな。女の子だもんな』
 奏楽の言葉に、進吾は若干驚いた。
 選んだケツァルコアトルスは、どうやら雌だったらしい。これが二人の運命の出会いになりませんようにと思いつつ、奏楽はケツァルコアトルスから手を離す。
 空中で戦闘機の尾翼を狙い、碧の髪を発動させる。
『俺のケツァたん。拾いに来て!!』
 奏楽の声に、進吾ははっとする。
 奏楽もケツァルコアトルスを好いている。これって、禁断の三角関係なのだろうか。ケツァルコアトルスの気持ちが、全く分からないけれども。
 何を考えているんだ、と進吾は首を振る。
 おかしな方向に考えが飛躍するのは研究員をやっているせいなのかもしれない。いわゆる職業病である、と進吾は結論つけた。
「あとは回避して敵機に後を追わせ、符をコクピットへ放って邪魔しよう」
『よし。俺のケツァたん、がんばろうな!」
 なんとなく、奏楽とケツァルコアトルスが相思相愛なような気が進吾はしてきた。

●海底の戦い
『来ましたか。予定通りですね』
 海のなかを泳ぎながら、禮はそう呟いた。
「……敵影みゆ。状況開始だ。頼んだよ、禮」
 今回は、彼女の力が十二分に発揮される現場である。藍はそう信じていた。
 敵は熟練の海軍である。ならば、水中聴音ももちろん行っているはずだ。禮は、そう考えた。だからこその作戦であった。
『Laa……』
 禮は歌を呟く。
 その歌声は儚く、美しい。けれども同時に聞いたものを死へと引きずり込むような、魔性も孕んでいた。その歌声を聞いたものに少しでも教養があれば、まるでサイレーンのようだと言い表していたに違いない。そんな幻想を孕んだ、美しい歌声。
『目覚めの時間です』
 禮は、デスソニックを投擲する。
 これで、ソナーは潰せたはずである。
「わたくしもお手伝いしますわ」
 ファリン(aa3137)は、軍艦のスクリューにザイルを巻き込ませる。これで三機の軍艦の行動が、完全に停止するはずである。
「単純な手で申し訳ありませんが、単純であればあるほどに問題を解決するのは厄介なはずですわ」
 船に乗り込むファリンを禮は見送った。
 自分も頑張らなければ、と武器を握り締める。
『こんな状況で戦闘なんてしていられませんよね。でも……』
 禮は、霊力浸透をかけたサンダーランスで船底を穿つ。船底には、彼女の思惑通りに大きな穴があいた。船には致命的な穴が。
『この世界に人魚は居ませんでした。対処方なんて知らないでしょう?』
 気がつけば禮は、再び歌っていた。
 美しい歌声を聴きながら、藍は呟く。
「残念だが、ここは人の領域ではない。ここはもっと恐ろしいものが住まう、海の底だ」
 一度落ちたら、這い上がることもできない。
 相棒の囁きも知らずに、人魚は歌いながら泳いでいた。
『これで勝ってもセラエノに牛耳られるのでしょうに……どうして』
 歌の合間に、禮は呟く。
「それでも、もう一度。朽ち果てる前に戦いたかったのだろう。哀しいものだな。」
 藍は、歌に耳を傾ける。
 禮の歌が、今だけはレクイエムのように聞こえたような気がした。

●戦艦A
「しかし、どこもかしこも急展開になってきたな。それだけに手が足りてきてない感があるな」
 そんなことを呟きながら、リィェン・ユー(aa0208)は船に乗っていた。すでにエンジンはストップし、船底に穴が開いたと船内は大騒ぎである。
「海底の味方が、うまくやったようだな」
 船内の慌てようをみれば、船がどれだけのダメージを負ったのかも分かる。だが、それは同時にうかうかしているとリィェン・ユーまで海の藻屑になりかねないということでもあった。
「マガツヒを仕留める機会を邪魔されたくないしな。情報によれば敵は歴戦の猛者らしいか……。これは無力化するのに苦労しそうだ」
 いくら船にトラブルがあろうとも、落ち着いて対処に当たるであろう。
 リィェン・ユーは忙しい船内のそっと忍び込んで、船乗りたちの後ろに回りこむ。手足をおって動けなくさせるつもりだったが、その前に気がつかれて銃を発射された。撃ちなれていないのは目に見えて分かる動きであったが、動きが限定される船のなかでの射撃はそれだけでちょっとした脅威である。
「殺したくはないしな。どうやるべきか」
 少しばかり、リィェン・ユーは考えた。
 そんなとき、空から男が降ってきた。
 迫間 央(aa1445)である。突如現れた彼と戦えるほどに戦闘に慣れた乗組員はおらず、周囲にいた人々はあっという間に気絶させられてしまう。
『スニーキングミッションとしては拍子抜けね』
 マイヤ サーア(aa1445hero001)は、若干不満げに呟いた。
「ツラさんとファリンさんなら問題なくこなすだろう。問題はこの後だな」
 央は「とりあえず、操舵士を探そう」と呟いた。
『船を乗っ取るの?」
 マイヤの言葉に、央は「それが一番早い」と答える。
「操縦・制圧を任せて良いんだよね?」
 七海は、央の後ろからひょっこりと顔をだす。
「じゃあ、私は悪い子の担当だね。残らず地に伏せてもらうよ!」
 雨宮 葵(aa4783)もひょっこり顔をだす。
『ん。この艦は、ここで墜落』
 燐(aa4783hero001)は、そう呟きながら何度も頷いていた。
「私たちは派手に動くから、その間に持ち場に移動だよ」
『私たちは機動力があるから、狭い場所でもそれなりに動けると思う……」
 燐の言葉に、葵は頷いた。
「といっても、殺す気はないけどね。船に乗っているのベテランっていうか、おじいちゃんぐらいの世代の人たちだし」
 倒れている人々の顔を見て、葵は呟いた。
『……加減が大事ね。やりすぎはだめ……』
 燐の言葉に、葵は「わかってるよ」と答えた。
「ここで墜落とは言ったけど、死なれちゃ困るから敵が降服するのであれば着地させてあげるつもりだかね」
 鬼だと思わないでよね、と葵は頬を膨らませる。
『着地の場所は……』
 燐の言葉に、葵は胸をはって答える。
「騙されないように武器から手は離さず。着地はこちらの指定場所に、着地した場所が敵の巣窟とかごめんだからね!」
 正解、と燐は言う。
 葵は「えっへん!」とさらに胸をはった。
『随分と古そうな船だな。乗っ取ったあとに、俺達だけで動かすのはちょっと無理があるな』
 ジェフは、そう呟いた。
「無理に私たちだけで操縦することはないんだよ。だってエンジンは止まっているし、動いたとしても操縦士を脅せこともできるだろうし」
 あんまりやりたくはないけど、と七海は呟く。
「恐竜も人間にも、無傷で陸に帰って欲しいんだよ」
 七海の言葉に、ジェフはそうだなと呟いた。
『狂信的な奴も多そうだ……。自爆・自沈に気をつけろ」
「倒す相手は王なのに、人同士が争ってどうするんだよ……悲しいよ」
 色々と哀しくて難しいのが社会ってやつだ、とはジェフは言わなかった。
 ジェフの思いが央には、何となく分かった。
 やるせない事柄など、少女はまだ見なくてよいという親心を察したのだ。移動の最中で、央は「人間砲弾!!」と叫んでいる葵の声を聞いた。どうやらストレートブロウで敵を吹き飛ばして、別の敵に当てるということをやっているらしい。老人に対しては優しくないワザだが、派手ではある。間違いなく船内の注目は葵に集まっているであろう。
 操舵士を見つけた央は、彼の背後に近寄り後ろから低い声で脅す。
「艦を停めて貰おう。今のうちに投稿するなら身柄引き渡しの際には口を利いてやる。応じられないなら此処を沈黙させて物理的に止めるまでだが……このまま洋上で干上がりたくはあるまい」
 なんだか、悪役になった気分だった。
 操舵士は「屈するものか……屈するものか」と呟いていた。
 遠くで、葵の発する破壊音が聞こえる。
 操舵士にも聞こえるはずだ。
 それでも、彼はあきらめ切れない。
「そういうと思っていた」
 央は、操舵士を気絶させた。

●戦艦B
「こういうときも玉屋でよいのじゃろうか?」
 初春はそう呟きながら、ロケットランチャーを打ち込んだ。
 その光景を見ていた稲荷姫は『爆発するし、よいのではないじゃろうか?』と呟く。いきなりロケットランチャーを食らった戦艦は混乱に陥っていた。訓練された乗組員が被害確認や消火活動に当たっている様子を見て、ルカは苦笑いをする。
「あれぐらい、派手にやらないとダメなんだよね」
 もしも相棒のヴィリジアンの意識があったら「もうちょっと、押さえたほうがいいんじゃないかのか」ぐらいは言ってくれただろう。だが、幸か不幸か現在はリンク中のために彼の意識はない。
「大砲を壊せばいいのかな?」
 よし、派手の恐そうとルカは心に決めた。
 そんなことは心に決めなくてもよいのだが。
 誰も止めてくれないルカはアルパカで、大砲を破壊する。そして「次はエンジンを完全破壊だ!」と呟いて、ハンマーを持ち出した。
「あちらも派手にやっているようじゃのう」
 と初春は呟く。
『わしらも負けてはいられんのじゃ。はよう、刀をとれ』
 稲荷姫もやる気を見せる。
 二人の狐の破壊風景を見たルカは「沈んだときちゃんと逃げたいし……」と呟いて、救命ボートを探しにいった。いざとなったら降参している人たちを乗せて、逃げるためである。
「私は、操舵士を探してみるよ。離れて艦隊展開している狙いを操縦士に聞いてみたいし」
 この布陣ずっと疑問だったんだよね、と望月は呟く。
「単に、大砲で攻撃できる範囲を広げたいだけだったのではないじゃろうか? 一隻だと広くはカバーできぬから、何隻も使ってという方法で」
 初春の言葉に、望月は「なるほど」と呟く。
「それはありそうだね」
「この船の大砲は壊したから、大丈夫だよ!」
 ルカは大声で叫んだ。
 その声を聞いた望月は「なら、この船をもう進めないようにするべきだよね。やっぱり、操舵室にいかないと」と呟く。
「操縦できるのじゃろうか?」
 初春の言葉に、望月は答える。
「大丈夫。こういう古い機械は、叩いたり殴ったりすると言う事を聞くんだよ」
 それはブラウン管のテレビだけではないだろうか、とルカは思った。


戦艦C
 翼竜から飛び降りたツラナミ(aa1426)は、戦艦に着地した。
『ジグザグ飛行は酔いそうになる……』
 38(aa1426hero001)は、そう呟いた。敵に見つからないようにするため、翼竜にはできるだけ複雑な飛び方をしてもらっていたのだ。
「敵に発見されにくくするためだ、我慢しろ」
 ツラナミ(aa1426)は当たりを軽快する。まだ自分の存在は、戦艦の乗組員たちには気がつかれていないようである。
「船が大きいせいか、揺れはすくないんだな」
 百目木 亮(aa1195)は足場を確認する。どうやら船が古いと聞いていたので、揺れを心配していたらしい。
『わしらにとっては、嬉しいことじゃのう』
 ブラックウィンド 黎焔(aa1195hero001)は、好々爺といって風情で笑った。
「できるだけ、最短距離で操舵士のところへと急ぐ」
『戦闘も最小限にしないとだね』
 38は頷く。
 緊張して船内を進むが、思ったより乗組員の姿は少なかった。ツラナミは疑問に思いつつも一つのドアを開けようとすると、接着されていることに気がつく。
 どうやら、先にファリンがやってきていたらしい。
 きっと「わたくし、無駄な殺生は好みませんわ」とでもいって、乗組員は後ろから気絶さえて一つの部屋に閉じ込めていたのだろう。ドアはよく見るとウレタンで接着されている。
『H.O.P.E.が進入してるって気づかれたかな?』
 38の言葉に「それはないだろう」とツラナミはいう。
「慎重に動いているはずだ。こっちの動きを悟られるようなヘマはしていないだろうよ」
 それでも、仲間が減っていることに疑問を持っている頃合であろう。
 ツラナミを見て、亮は頷く。
「さて、仕事といくかね」
『皆の力となろうかの』
 ツラナミが操舵室を目指す、その間に亮は敵の目をひきつけておかなければならない。ようは囮である。
「といっても、大怪我をさせるわけにはいかないからな」
 そういって、亮が持つのは飛盾[陰陽玉]である。
『敵をあなどってはいかんのじゃ。爺も根性をだせばしぶといことをおぬしは知っておるじゃろ』
 この船の乗組員はベテランばかりである。
 といっても黎焔ほどではない。亮より十歳ぐらい年上の世代であろう。
「俺も世間様から見たら、古いおっさんなんだな。ああ全く、歳は取りたくないもんだ」
 一つのことを貫き、それを守り通して死んでいく。
 そんな生き様をほんの少しだけ美しいと思ってしまうではないか。
 真似したいとは思わないけれども。
「そういう美しい死に様ってのは、映画のなかだけにして欲しいもんだな」
『老人の思いを背負わされる若者の気持ちも分かるのじゃろ?』
 亮の内面を見透かしたように、黎焔はいう。
 たしかにそうであった。
 美しい死に様というのは、他人事であるから美しく感じるのだ。散った側の身内からしてみれば、たまったものではないだろう。老人というのは、黎焔ぐらいに暢気で笑っているぐらいがちょうどいい。
「……敵をできるだけ、開けた場所に集めるぞ」
 動ける味方が少ない今は、できるだけ手早く敵を戦闘不能にしてしまいたい。
 亮はそう考えた。
『おぬしが死なぬ程度に手加減するのじゃぞ』
 黎焔の言葉に、亮は分かっているよと答えた。

 美しい夕暮れが、一瞬だけ見えたような気がした。戦艦には窓はない。
 なので、それはファリンの気のせい――あるいは記憶のフラッシュバックなのだろう。通信機を弓で破壊したため、この船は外部との連絡は不可能になった。
 少しずつ、行なわれる破壊。
 その破壊によって、敵は追い追い詰められていく。
 その光景に沈み行くなにかを感じて、ファリンは夕暮れの幻想を一瞬だけ見たのかもしれない。
 ファリンは、操舵室へとたどり着いた。
 もしかしたら、異変はもう彼らに知られているかもしれない。それでも軍艦はなおも進んでいく。自身が沈むことが分かっていても、進まずにはいられない船。
 この船に乗っているものは、哀れである。
 それとも、この船を進ませることになった現状が哀れなのか。
「そこの鍵、俺に開けさせてくれ」
 ツラナミが、ファリンに声をかける。
 彼女は頷いて、道を空けた。ツラナミのほうが、自分よりも音を立てずにドアを破壊できると思ったからであった。
 ツラナミは鍵師を使用して、出来るだけ静かにドアを開ける。操舵室は静かであった。外の海の様子は見えるが甲板などの様子は一切見えない。それでも、ファリンは操舵士の彼は船で起きていることの一切をすでに知りえているような気がした。
「わたくしたちは、H.O.P.E.ですわ。この船はすでに航行不能になっています。……投降をお願いいたします。抵抗しなければ、わたくしたちは危害をくわえません」
 ファリンは、操舵士の後ろから声をかけた。
 操舵士は、ファリンのほうを振り向くことはなかった。
「さて、俺としても面倒なのは好きじゃない……降伏するか始末されるか選んでくれ。降伏なら手をあげろ。従わないならまあ……後者だな」
 ツラナミは、操舵士の足元に瑠璃を打ち込んだ。
「聞こえているんだろ」
 操舵士は、なおも舵から手を離すことはなかった。
「この船の中に、自分から降参してきたものはいたか?」
 操舵士は、ツラナミとファリンに尋ねる。
 二人は首を振った。
「……船はそれ一つが、大きな生き物だ。私たちは、生き物が生きていられるようい働く細胞だ。体は、常に生きようとする。だから、私たちはこの船が動く可能性があるかぎりは、降参はしない」
 操舵士の言葉に、忌々しそうにツラナミは表情をゆがめる。
「この船と心中する気か?」
「妻より長く、連れ添った船だ」
 操縦士は相変わらず、ツラナミとファリンのほうを見ない。
 まるで、二人など見えないようであった。
「……そうかよ」
 一瞬だけ、ファリンは目を瞑った。
 だが、ツラナミは操縦士を殺してはいなかった。気絶させただけだった。
「この人にとっては、この船こそが伴侶だったのかもしれませんわね」
 ファリンは、そう呟いた。
 ツラナミは「生きている女のほうが、百倍マシだろ」と呟く。
「こんな船はいつか壊れる。現に、今日止まった」
『もしも、止まらなかったら……どこまで行っていたのかな?』
 38はそんなことを呟いた。
 彼女の目には、操舵室から見る夕焼けが映っていた。
 もしかしたら、大昔の人が考えていたような海の端っこまでいけたのかもしれないと38は思っていたのだろう。

●夕暮れの自由
「船は航行を停止。戦闘機は戦闘不能……こちら側の勝利だよ」
 ドローンの動きをじっと見ていた拓海は、ほっと一息ついた。
『緊張してたの……?』
 とレミアは尋ねる。
「うん。仲間たちだけじゃなくて、恐竜たちの心配もしてたからね。それにしても、平和なときであればフタバにケツァルと一緒に写真ぐらいは取れてたかもしれないのに」
 悔しそうな拓海の姿だったが、レミアの目にはどことなく彼の表情が嬉しそうに見えた。きっと次がある、と思えているからなのだろう。
『きょうりゅうも……いきてるのね』
 そんな当たり前のことが、拓海の表情で実感することができた。
「恐竜を操るなんてはじめての体験だったから……疲れた」
 雅春は息を吐きながら、手汗を拭う。
「これから、恐竜たちはどこにいくんだろ?」
 雅春の言葉に答えたのは、将太郎である。
「普通に考えれば……元の生息地に戻されるはずだよな。元の生息地がいまいちわからないが」
 うーん、と彼は首を傾げた。
 恐竜ともう会えないかもしれないと考えた海峰は少し寂しげであった。
「なら、少しぐらいの自由時間はいいよね」
 雅春は、そう呟いて笛を吹いた。

「空を見てみろ」
 とリィェン・ユーから通信が届いた。
「ちょっとした見ものだぞ。こんなの映画でしか、見たことがない」
 そんな彼の言葉に、軍艦を制圧していた面々はそれぞれの船から空を見た。そこにあったのは、真っ赤な夕暮れ。そして、それを目指して飛ぶ翼竜たち。
 幻想のような美しさであった。
『おー、長生きはするもんじゃのう』
 とそれを見た黎焔は呟く。
「あんなふうに飛べたら気持ちいいだろうなー」
 葵が、思いっきり伸びをする。
『そうね……誰にも命令されず、縛られないのならば……楽しいのかも』
 燐は呟く。
 太古の昔に飛んでいた翼竜たち。
 その自由に憧れすら抱きつつ、古きを制したものたちは夕暮れをただ見つめていた。

みんなの思い出もっと見る

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃



  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命



  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 願い叶えて
    レミア・フォン・Waa1049hero002
    英雄|13才|女性|ブラ
  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
    機械|50才|男性|防御
  • 生命の護り手
    ブラックウィンド 黎焔aa1195hero001
    英雄|81才|男性|バト
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避



  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • Foe
    灰燼鬼aa3591hero002
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命



  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 広い空へと羽ばたいて
    aa4783hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 臨床心理士
    鐘田 将太郎aa5148
    人間|28才|男性|生命
  • エージェント
    海峰aa5148hero002
    英雄|20才|男性|バト
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 天より降り立つ龍狐
    辰宮 稲荷姫aa5268hero002
    英雄|9才|女性|シャド
  • 魔法マニア
    ルカ マーシュaa5713
    人間|19才|男性|防御
  • 自己責任こそ大人の証
    ヴィリジアン 橙aa5713hero001
    英雄|25才|男性|カオ
  • エージェント
    熊田 進吾aa5714
    獣人|45才|男性|生命
  • エージェント
    重力を忘れた 奏楽aa5714hero001
    英雄|6才|?|ブラ
前に戻る
ページトップへ戻る