本部

【終極】連動シナリオ

【終極/機抗】呉越同舟における在り方

雪虫

形態
ショートEX
難易度
不明
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~7人
英雄
5人 / 0~7人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/11/01 23:31

掲示板

オープニング


 リオ・ベルデ共和国。現在ハワード・クレイ大佐が元首として治めている国であり、RGW製造や人体実験等の疑惑を有している国でもある。先日、H.O.P.E.のエージェント達はリオ・ベルデの外れにある工場に潜入し、RGWや人体実験に関する証拠を入手した。資料の整理や各国の承認を得るための手続きに加え、『王』の襲来や【界逼】事件などもありかなりの時間を要したが、ようやくリオ・ベルデは「国家」ではなく『ヴィランズ』と認定される事となった。
 とは言え実際のヴィランズはハワード大佐、及び大佐率いるリンカー特殊部隊であり、リオ・ベルデ国民は国土に住んでいるだけの一般人に過ぎない。彼らに害を及ぼさずにハワードと特殊部隊のみを捕らえるためには策を講じる必要がある。その準備の最中に、それは起こった。
「リオ・ベルデ北西に多数のライヴス反応あり。至急現場に向かわれたし!」


 “カイメラ”と、その土地はそう名付けられた。リオ・ベルデ北西に出現した大規模な異世界であり、常時ドロップゾーンが展開されているような状態にある。つまり大量の従魔や愚神をこの世界に招き入れる巨大な門となっている。
 エージェント達はアルター社の開発した高速VTOL機に乗り、連中を喰い止めるべく現場へと急いでいたが、途中、一部の飛行型愚神と従魔が、リオ・ベルデの農村に向かったとの情報が入った。愚神はケントゥリオ級三体、放置すればドロップゾーンを構築する可能性があり……むしろそれが狙いだろう……また農村に住む人々の被害も免れない。故に一機が農村に向かい、住民の保護と従魔・愚神の討伐を行う事となった。
 エージェント達の方が従魔や愚神より早く、農村は静寂に包まれていたが、あと数分程で連中はここに到着してしまう。故に一般人達を今の内に出来るだけ遠くに避難させ、従魔・愚神を迎え討とうと、行動を開始しようとした。だがその前に現れた一台の大型トラックが、エージェント達の行動を妨げる事になる。
「皆様、H.O.P.E.のエージェント様達でありますね?」
「君は……」
「貴方様の顔は見た事があるであります。先日は、えーと……お世話になりました、で合っているでありますか?」
 戸丸音弥(az0037)の声に、トラックから降りたリオ・ベルデのリンカー兵……マニー・マミーは首を傾げた。マニーとは先日、リオ・ベルデの工場でひと悶着あったばかりだ。工場にいたマニー以外のリンカー兵の面々とも。
 とは言え今回はマニー以外に見た顔はなかったが、彼らが敵である事に……H.O.P.E.がいずれ対峙するべきヴィランズという事に変わりはない。従魔や愚神の前にこいつらとの戦闘かと、エージェント達は武器に手を添えかけたが、それを遮ったのはマニーの思いもよらぬ一言だった。
「H.O.P.E.の皆様、マニー達に力を貸して頂けるでありますか?」
「は?」
「は?」
 綺麗にハモッた。音弥と、マニーの後ろの兵士の声が。エージェント達とリオ・ベルデのリンカー兵達の声が。エージェント達が意を問うより先に、マニーの背後にいた兵がすごい剣幕でマニーに詰め寄る。
「お前、何を馬鹿な事を言っているんだ!」
「今回の任務は『国民の救助及び愚神、従魔の討伐』でありますが、我々だけでは少々時間が掛かりそうであります。それで国民の皆様に何か起きたら任務失敗になるのであります。
 けれどH.O.P.E.の皆様のお力をお借り出来れば、それだけ早く確実に任務を達成出来そうであります。マニーはいい考えだと思うでありますが、いかがでありますか」
「「そんな事出来る訳ないだろう!」」
 また綺麗にハモッた。音弥と、マニーの横に移動した兵は互いの顔を見合わせた後、今度は一切ハモらずに互いの理由を口にする。
「H.O.P.E.の力を借りるなど、そんな馬鹿な話があるか!」
「君達はRGWや人体実験を行っている! その力を借りる訳には……肯定する訳には断じていかない!」
「リオ・ベルデだとかH.O.P.E.だとかRGWとか人体実験とか、それは重要でありますか? 今最も重要なのは『国民の救助及び愚神、従魔の討伐』という、今回の任務の達成だとマニーは思うでありますが」
 ものすごく正論っぽい事が『金の亡者』の口から出てきた。もっともマニーは「人命最優先」という意味で言った訳ではなく、「そのような任務を受けたから」という意味で言ったと思うが……さらに任務達成を目指すのも「お賃金を頂いたから」という理由だと思われるが。
 とりあえず確実な事は、言い争っている暇はないという事だ。既に目視出来る距離に愚神と従魔の姿が見える。
「いかがでありますかH.O.P.E.の皆様。お力を貸して頂けるのであればマニー達も力を貸すと約束するのであります。けれど共闘しないと言うのであれば、力は一切貸さないであります」
 一体の愚神が着陸し、咆哮を響き渡らせた。

●NPC(?)
 リオ・ベルデ特殊部隊
 全員改造手術を受けており、RGWを所持。その為スキルが強化されている
 共闘を宣言すればPCの指示(任務達成のために必要そうなものに限る)を受けて行動したり、行動前に合図したり、スキルについて教えてくれたりする。共闘を断ればPCの指示には従わず、行動前の合図も出さず(バッティングの危険が生じる)、スキルに関しても教えてくれない(PL情報扱いになる)
 いずれの場合でも「撤退を求める指示」「任務に関係ない指示」には従わない。基本的にエージェントを攻撃しないが、攻撃・口撃された場合反撃はする
 構成は以下の通り
 
 ブレイブナイト×3(剣装備)
・ガーディアン×3
 ハイカバーリング強化。さらに遠く、さらに強固にカバーリング可
・イージス×1
 心眼強化。1Rの間、範囲2sqの全ての攻撃を無効化する

 ドレッドノート×2(大剣装備)
・アサルト×3
 ファースト。使用R、全力移動後に攻撃可
・アヴァランチ×1
 怒涛乱舞変化。物攻を+100し、攻撃によって敵を倒した場合、続けて再度移動と近接攻撃可

 ブラックボックス×2(本装備)
・フーディーニ×3
 時空を歪め、指定対象(敵味方問わず)との位置を入れ替える
・アウグストゥス×2
 リアクション。地面より岩壁を精製しダメージを完全に防いだ上に、攻撃者の身体もしくは武器を取り込み1R【拘束】付与

 マニー・マミー
 左手の機関銃で遠距離攻撃、両義足の仕込み刀で近距離攻撃を行う。スキルは(PL情報としても)秘匿/共闘の場合でも「任務達成に関係ないから」と教えてはくれない

●NPC
 音弥&セプス
 ギアナ支部の衛生兵。指示がなければ一般人の救助に当たる
 スキル:ケアレイ×3/クリアレイ×3/ブラッドオペレート×2
 武器:アサルトライフル&禁軍装甲

 一般人×40
 農村に住む農民達。従魔・愚神の攻撃を受ければ一撃で死亡する

解説

●目標
 愚神・従魔の討伐
 一般人の救助

●農村
 70×70sq。リプレイ開始時には愚神×1がおり、2R目で愚神×2追加、3R目で従魔×5追加、以降R毎に/愚神が全撃破されるまで従魔が1d6追加。大まかな配置は以下

 愚□□□□□□□□
 □☆ ● ●  □ 愚:愚神着陸地
 □ 従     □ 従:従魔着陸地
 □● ● ● ●□ ☆:PC・NPC・NPC(?)初期位置 
 □       □ ●:民家
 □● ● ● ●□ 枠外:畑や田んぼ、農道など
 □       □
 □  ● ●  □
 □□□□□□□□□

●敵NPC
 ケンタウロス×3
 ケントゥリオ級愚神。槍を所持した武人風の上半身に馬の下半身、蜂のような羽根を有している(移動で疲れたのか戦闘中は飛ばない)
・連突き
 同じ対象を三度攻撃
・刃嵐
 槍を振り回して範囲2を無差別攻撃
・奔槍
 槍を投擲し直線15を無差別攻撃。槍はR終了時に精製される(それまで物防減)
・嘶き
 咆哮し一般人の足を竦ませる(リンカーには効果なし)

 アルケニ―
 デクリオ級従魔。人間の女の上半身に蜘蛛の下半身、蜂のような羽根を有している(移動で疲れたのか戦闘中は飛ばない)。一般人を優先的に狙う
・糸式
 蜘蛛の糸を飛ばして対象に【拘束】付与
・乞式
 噛み付き攻撃
 
●その他
・共闘するか否かは代表者が一名、プレイング冒頭に【共闘】【非共闘】のどちらかを記入頂ければOKです
・意見が割れてしまった場合、【共闘】【非共闘】と各自記入をお願いします。ただしその場合「PC間の連携が上手くいかなかった」というマスタリング結果が出る可能性はご考慮下さい(各自記入の場合、記入されていない方はプレイングを見てMSが判断します)
・【共闘】と書かれている場合でも、「リオ・ベルデ兵がPCに反感を持った」等のマスタリング結果が出た場合、リオ・ベルデ兵が非協力的になる可能性があります

リプレイ


「(ダレン、共闘を持ちかけられたけど君はどうしたい?)」
 エリカ・トリフォリウム(aa4365)の声は喜色に満ちていた。愚神の姿が刻一刻と近付いてくる状況でも、ダレン・クローバー(aa4365hero001)に話し掛けられる嬉しさだけに占められていた。デート先を何処にしようか尋ねてでもいるような、そんなエリカの声にしかしダレンはそっけない。
『(どちらでも。任務が遂行できればだが)』
 そんな端的な言葉でも、エリカは幸せそうに笑う。ここが例え戦場でも、彼女と共にいられる全てが幸福なのだから。


「brrrrrrrr――!」
 ケンタウロスが喉を反らして天高くに吠え猛った。ビリビリという振動さえ皮膚に与えてくるそれに、無月(aa1531)は臆するどころかいの一番に駆け出した。
 助けを求めている人達が欲しているのは確実な救い、それだけだ。不完全な救いなど何の慰めにもなりはしない。
 そして、私達はその為に常に最善の手を考える。人々の救出を考えるならば、共闘が最善手なのは議論の余地がない。彼らの利で皆が助かるのなら私はそれを歓迎する。そして、私は彼らを最後まで信じる。
『最も効率の良い手を取るのはプロなら常識だからね。まあ、ボク達のやる事は傍から見たら非効率的だと思われる事が多いと思うけれど』
 ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)は無月の内で悪戯っぽく笑みを漏らした。前回の任務で負った傷は完全には癒えていないが、移動中に摂取したエネルギーバーで大方は回復している。この身を盾にしてでも人々は守り抜く。その決意を、大典太光世の柄ごと改めて握り締める。
「命を守る事、それが私達の使命、存在意義だ」
『どんな手を使おうとも、ね』
 そして地を蹴り跳躍し、半人半馬の胸板に赤い一の字を刻み込んだ。命中はしたが入りは浅い。反撃が来る前に後退して距離を取り、愚神と睨み合ったまま背後のリオ・ベルデ兵へと告げる。
「リオ・ベルデの特殊部隊諸君、君達には一般人の護衛と避難、及び従魔への攻撃をお願い出来ないだろうか。やり方は君達に任せたい。私は君達を信じているし、君達の事は君達自身が一番判っているはずだ」
 懸念事項があるとすれば共闘した事への批判だが、もしもの場合は現場にいたメンバーの一人、「(つまり私だ)」が独断で協力申請を行った事にすればいい。そうすれば組織としてのH.O.P.E.の批判はある程度抑えられるだろう。その時に受ける罰も、甘んじて受ける。
『(まあ、こういう事は闇に生きるボク達が適任だしね。でも、ガイル君はボク達に失望するかもしれないな)』
「(……いや、彼なら判ってくれる筈だ。闇に生きる忍びの非情な定めの一面を見せる事にもなるのだが……)」
 と、無月は批判も罰も己ひとりで請け負う覚悟を固めていたが、共闘を考えているのは無月とジェネッサだけではなかった。「ま、この状況ならお互いに戦力を分散させるのは損だな」と、バルタサール・デル・レイ(aa4199)は特殊部隊に名乗りを上げる。
「H.O.P.E.所属エージェント、バルタサール・デル・レイだ。そちらの戦力を教えて貰えるだろうか。俺も、可能であれば協力を頼みたい」
 バルタサール個人としては人体実験等に嫌悪感はなく、特殊部隊に対しても何ら思う所はない。マニー・マミーと似たような思考で「使えるものは使う」「目的(任務達成)が最優先」「特殊部隊の戦闘スキルの視察ができる」と思っている。もっとも、そこはマニーと違って表に出したりなどはしないが。
「し、しかし彼らは」
「住民が見てるぜ。喧嘩している場合じゃない。住民の感情を考えろ。ここは大人になっとけ」
 躊躇いを見せる音弥にバルタサールはそう諫めた。任務をスムーズに遂行する為にも、面倒事を起こさない為にも態度や言動には注意した方がいい。水落 葵(aa1538)もバルタサールに続き、己の考えを口にする。
「俺も避難誘導や救助を任せたい。余所者の俺達より、自国の人間からの指示の方が従いやすいだろうしな。
 人体実験は褒められた事じゃねーかもしれんし、もし悪事だと思うんなら繰り返さないのは確かに大切だぁな。だからっつって、人体実験の被験者達まで無かったことにしたり悪と断じんのは、それこそ悪だろ。焼き上がったパンケーキは粉や牛乳には戻せねぇ。人体実験の事実はどうやっても巻き戻せねぇ。あいつ等はこれからも生きていかなきゃなんねぇ。人体実験の結果のあいつ等が生きていく為の術を模索すんのを手伝う方が建設的だ。違わねぇだろ?」
「ボクも力を貸してもいいよ。この村と人の命が最優先だからね。ダレンは『任務が遂行できれば』と言っているよ。民家が壊れれば命があったとしても直すのに時間がかかる。死んでしまえば笑うことはなくなる。ボクはエージェントであると同時に墓守でもあるけど、守るべき墓がないに越したことはないんだよ」
 エリカも、ダレンの言葉も合わせて共闘の意を告げた。それでも難しい顔の音弥に、プリンセス☆エデン(aa4913)も説得に加わる。
「お互いにバラバラに戦っても、スムーズに倒せるならそれでいいけど、住民の安全が優先だし。意地を張って突っぱねて、お互いに足を引っ張りあって、市民に犠牲が出たら悲しいし。これまでヴィランズと協力関係になった例もあるし。人体実験やRGWによる力を認めたっていうんじゃなくて、従魔を倒す・市民を助けるっていう目的のために協力し合うのは、当然の選択だと思う。
 納得出来ないかもしれないけど、ひとりでも命を助けるためだよ! 特殊部隊にも、人を助けたいって気持ちがあるのを忘れないでね!」
 それから特殊部隊に向き直り、ひとりひとりに視線を合わせた。弾けるように明るい声で可愛く笑みながら自己紹介。
「あたしはエデン。か弱い後衛アイドル。よろしくね! あたしは魔法攻撃が得意で、攻撃されるのに弱いの。あなたは何が得意?」
 エデンもバルタサールとほぼ同じ考えだった。まずは得意な戦闘方法を確認して、どうやって戦うか、どの個体を狙うか、優先順位など、適宜コミュニケーションをとって擦り合わせる。どうせならきちんと連携を取った方が迅速に事を運べるはずだ。
 葵は先程異を唱えていたリオ・ベルデ兵に近寄った。音弥程ではないにしても、若干戸惑ったような青年に真面目な口調で語り掛ける。
「今回はH.O.P.E.と手を組むか否かじゃなくて、別の局面での相対していた相手と手を組んででも 自国民を助けるか 否か だろう?」
 そしてニヤリと笑みを浮かべる。
「H.O.P.E.は【希望】だ。時間は巻き戻せねぇが、今後前を向いて生きてく為の手伝いなら大体するぜ。つっても、国際法の範囲内での話だがな」
「brrrrro!」
 会話を無粋に遮ったのは再度の愚神の嘶きだった。無月との睨み合いを崩すように愚神は大槍を繰り出し、無月はそれを回避しつつ背後へと声を飛ばす。
「さあ、早く決断を!」
 音弥はまだ何かが引っかかっているような顔をしたが、息を吐いて「分かった」と告げた。人命が最優先、というのは音弥としても同じだからだ。
「ブレイブナイトとブラックボックスのスキル、救助向けだね。音弥と一緒に行ってもらっていいかな?」
 兵達は手短にスキルについて説明し、それを聞いたエデンが彼らの行動を提案した。音弥の同行を入れたのは批判対策の一つである。どんな選択をした所で批判する人は発生する。特殊部隊だけに救助を任せたら「任せきりにした」等と言う人もいるだろうし、H.O.P.E.の人も同行した方がよい、という考えだ。
「俺も行こう」
「ボクも。こちらの方は頼んだよ」
 バルタサールとエリカも救助担当に名乗り出た。並び立ち、民家へと駆けていく音弥や特殊部隊の背中に、エデンが言う。
「仲良くしてね!」
 そして愚神に向き直り極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を開いた。まず狙いたいのは愚神の喉だ。何がどうとは言えないが、先程の咆哮は何か嫌な感じがしたから。
「何か考えがおありなら、援護するでありますが」
 と、横からマニーの声がして、エデンの肩が一瞬揺れた。エデンの驚きには気が付いていないようで、マニーは無表情のまま告げる。
「約束通り力を貸すでありますが、どうするつもりでありますか?」
「えっと、喉を狙いたいの!」
「了解したであります」
 次の瞬間、マニーは左手の機関銃を持ち上げ愚神の前脚を撃ち抜いた。ドレッドノート二人が駆け出し、マニーが再度エデンに告げる。
「さあ、よく狙うであります」
「う、うん、分かった!」
 ドレッドノートの大剣が双方から愚神に振り下ろされ、同時にエデンの魔法弾が愚神の喉で爆発した。先程とは違う、衝撃による嘶きがリンカー達の鼓膜を震わす。


「な、何があったんだ!」
 一方、民家からは住人達が顔を出し始めていた。バルタサールとエリカが、音弥や特殊部隊と共に住人に声を掛けて回る。
「愚神の襲撃です。安心してください、助けに来ました。我々が誘導しますので慌てず行動してください」
「出来るだけ遠くの建物へ。動けない人は手を貸すから言って!」
 やはり先の咆哮にはカラクリがあったらしく、腰が抜けてしまって動けない者もいた。エリカが民家に入り老女を抱え上げた、と同時に重い物が降ってきたような振動が足下を揺らす。
「化け物だ、化け物が次々来るぞ!」
 
 無月は大典太光世を構えたまま新参者二体を見つめた。今目の前にいる愚神は三体。これで打ち止めか。それとも。
『どちらにせよ、彼らには早急にお帰り頂いた方が良さそうだね』
 ジェネッサの言葉に無月は「同感だ」と頷いた。これもまた議論の余地もなく、いかに愚神を迅速に撃破出来るかが鍵だろう。
 故に、出し惜しみはしない。無月は新参者二体の間に滑り込み、女郎蜘蛛を射ち放って二体一挙に絡め取った。ほぼ同じ場所に着地した、この好機を逃す手はない。
 ドレッドノート二人が大剣を叩き込み、エデンは間を逃さずに幻影蝶を解き放つ。舞い踊る蝶の群れは愚神三体を取り囲み、狼狽させ、ライヴスを乱し、より強固にその場に留める。
 守るべき誓いを使った後、葵はLAR-DF72「ピースメイカー」にライヴスを集中させた。そして愚神へ向けて叩き撃ち、仲間と共闘者達へ告げる。
「ちっと弾けるぜ!」
『(だから使う前に言って!!)』
 ウェルラス(aa1538hero001)のツッコミは当然今回も遅かったが、ライヴスショットは幸い敵だけを巻き込んで爆発した。そうこうしている内に今度は半人半蜘蛛の従魔が五体、着地と共に民家へと、一般人へと走り始めた。エデンは特殊部隊のドレッドノートに声を飛ばす。
「従魔をお願いしてもいいかな? あなた達のスキル、追跡に向いていると思うから」
「心得た」
 駆ける従魔と追う兵士を、エデンは見送りはしなかった。他のリオ・ベルデ兵もいるし、エージェントも三人いる。それは無月も同様である。先の台詞に偽りなし、彼らを信じていると、今は目の前に立つ愚神だけに意識の全てを集中させる。
 三体とも幻影蝶によりスキルを封印され、内二体は女郎蜘蛛にいまだ絡め取られている。まずは一体を確実に、と無月は先陣のケンタウロスの肩から胴へを斬り払い、エデンが三体を範囲に収めブルームフレアを炸裂させた。炎が晴れきる前に葵が愚神共へ突撃し、無月が攻撃したのと同じ個体へライヴスリッパーを打ち入れる。倒れはしないものの、武人風の上体が揺らぎ、槍の穂先が所在無さげに地を掠る。
「気絶成功! ターゲットを変更したいが、このまま畳み掛けた方が良さそうか?」
 葵が距離を取りながら無月とエデンに問い掛けた。敵は未だ身動き出来ず、こちらがほぼ一方的に攻撃している状況だが、それでも一体も撃破出来ていない点はさすがにケントゥリオ級と言うべきだろうか。向こうは三体、こちらも三人。ターゲットを変更するより、ここは一気に畳み掛けた方が……三人?
「そう言えば、マニーはどこだ?」


「キシャァァアアアッ!」
 着地したアルケニ―は虫そのものの形相で、八本の脚を蠢かせ一般人へ飛び掛かった。避難誘導を始めてまた三十秒も経ってはおらず、当然手前の方にはまだ幾人かが残っている。
 エリカが老女を抱えたままインタラプトシールドを構築し、特殊部隊のブレイブナイトがカバーリングにひた走る。足止めしている間にドレッドノートが全力で駆け、勢いをそのままに従魔の背に刃を入れる。
「俺も向こうで喰い止める。彼らを遠くに逃がしてくれ」
 特殊部隊のブラックボックスはそう言うと、まるで奇術のようにその姿を掻き消した。代わりに従魔の近くにいた老人がその場に現れる。先程説明されたフーディーニだと思われるが……そして通常のブラックボックスにこんなスキルはないのだが、それを追及しているような暇は微塵もない。
「誘導するからついてきて!」
 老女を抱えたまま声を張り、エリカは村の奥へと走った。エリカと音弥、もう一人のブラックボックスで対応に当たっているのだが、女も子供も老人もおり、先の咆哮の影響もあってなかなか避難が進まない。
 そこに、村の中間地点に、大型トラックに乗ったバルタサールが現れた。避難所兼移動手段に使おうと、特殊部隊が乗ってきた大型トラックを拝借したのだ。バルタサールは努めて優しく、住人を安心させるように紳士的に声を上げる。
「このトラックに避難して下さい。病人、老人、幼児など、自力で逃げるのが難しい者を優先して。誰か土地勘のある方、逃げるのに適した道を指示してはもらえませんか」
『今日はずいぶんお行儀がいいね』
 脳内でクスクス笑う紫苑(aa4199hero001)に、バルタサールは同じく脳内だけで「黙ってろ」とドスを効かせた。強面にタトゥーにサングラス、引き締まった体躯に燃えるような赤い髪にはこちらの方が似合っているが、もちろん今は脳内だけでのやり取りであり、住民達に対しては紳士な態度を崩しはしない。
「トラックに乗りきれない人は住民同士助け合って。大丈夫、我々が護ります。そこの君、逃げ遅れがいないか確認をお願いしてもいいか? 特殊部隊の君は彼らについてやってくれ。もしもの時の護衛を頼む」
 体力がありそうな土地勘のある若者と、この場に残っていたブラックボックスに指示を出す。それからバルタサール当人はトラック前に陣取った。少し離れていた間に従魔の数が増している。当然リオ・ベルデ兵もただ突っ立っていた訳ではなく、既に従魔の死体が数体転がっているのだが、次から次へと追加されているらしい。少しでも均衡が崩れれば一気に雪崩れ込んでくるだろう。
 バルタサールはSSVD-13Us「ドラグノフ・アゾフ」を諸手で構え、従魔の一体に狙いを定めファストショットを一撃見舞った。倒すよりも、足を潰して機動力を削ぐことをメインに。避難さえ完了すれば倒す事は後でも出来る。直線に奔った銃弾は従魔の前足を吹き飛ばし、バランスを失したアルケニ―は正に虫ケラのごとく転がる。
 それでもアルケニ―は次から次へと追加されるが、バルタサールに心乱される様子はない。こちらへ来そうであれば足を、糸を吐き出すのであれば排出部位を破壊して塞ぐ。住人に掛けた優しい素振りなど欠片も残さず、冷たさだけを湛えた瞳で淡々と引き金を引く。
「これで粗方完了したかな」
 エリカは抱き上げた子供をトラックに乗せ終え振り返った。視線の先には従魔の群れと、それを押し留める特殊部隊。トラックの後方にはまだ人はいるものの、全員自力で逃げられる体力のある者達ばかりだし、従魔を近付けさせない限り巻き込まれることはないだろう。
「トラックの運転とかは任せても大丈夫かな」
「ああ」
「それじゃあお願いするよ」
 後の事は住民達とブラックボックスに言伝て、死者の書を開きながら従魔目掛けて駆け出した。愚神は今の所一応抑えられているようだし、愚神に向かおうとすれば当然、従魔の群れにブチ当たる。ならば先に従魔対応に回った方が効率的だし、背後の住人達を守る意味でも確実だ。
「村の人を守って人馬くんや蜘蛛さんたちを倒そうか! ダレン、戦いたくなったらいつでも言っていいからね!」
『(今日は気が乗らない。集中しろ、バカ)』
 ダレンの返事はやはりつれないものだったが、エリカはやはり嬉し気に笑った。ダレンと同じ暗い緑色の短髪の下で、ダレンと同じ桃色に輝く瞳を細める。
「それじゃあ、しようか」


 無月は再度跳躍し、一体目の愚神に大典太光世の刃を浴びせた。マニーが何処かは不明だが探している暇はないし、こっちは三人、敵も三体。まずは敵の数を減らした方がいいだろうと、一体目の、最もダメージの重い愚神に深々と刀傷を負わせる。
「二度目の、ちっと弾けるぜ!
 今度は攻撃前に告げ、葵は宣言通り二度目のライヴスショットを放った。粉塵が収まる前にエデンが『アルスマギカ・リ・チューン』を捲る。
「あたしも二度目のブルームフレア!」
 三体を一挙に炎が覆い、ついに一体目の愚神が命尽きて地に臥した。だが、残り二体は封印を解き、女郎蜘蛛の糸も断ち切る。
「ならば」
『もう一度捕まえてあげようか』
 ジェネッサと声を合わせつつ、無月は再度絡め取ろうと女郎蜘蛛を放ったが、同じ手は喰わぬと言わんばかりに今度は回避されてしまった。そして愚神はそのまま走り、守るべき誓いを使っている葵に三度槍を繰り出す。
「ぐっ!」
 攻撃を喰らったのは実質これが最初だが、その一撃だけで、厳密には三連突きだけで、葵の生命力は重傷レベルに削られた。そこにさらにもう一体が槍を投げようと腕を引く。
 しかし次の瞬間、槍を投げようとしていた愚神『が』血飛沫を上げており、近くにはマニーが、両義足の仕込み刀に愚神の血を付け立っていた。何が起こったのか分からなかったし、マニーが何処から現れたのかも分からなかった。シャドウルーカーの「潜伏」か? しかしあれは愚神や従魔にしか効果はなく、リンカーには効かないはずだ。しかし今のマニーの姿はリンカーにも、エージェントの目にも見えなかった。
「早く攻撃を」
 マニーの声にハッとして、エデンは魔法弾を、今しがたマニーが斬ったケンタウロスへと叩き込んだ。大分傷が深かったらしく、ケンタウロスはその一撃でドゥッ! と地面に崩れ落ちた。
「すごいつおいね!」
「お褒めに預かり光栄であります」
 エデンは屈託なく称賛の言葉を口にしたが、マニーの表情も声も無感動そのものだった。とにもかくにも、これで残り一体。敵もそれが分かっているのか、まるで武人のような動作で槍の穂先をこちらに向ける。
 最初に動いたのは葵だった。肉薄し、気絶させようとライヴスリッパーを打ち出すが、今度は回避されてしまった。ケンタウロスが少し下がり、咆哮しようと喉を逸らす。意図に気付いて今度は無月が一足飛びに距離を詰める。
「させない!」
 ジェミニストライクで自身を増やし、双方から刃を落とす。敵が狼狽した隙に、喉を潰そうとエデンが魔法を仕掛けたが、こちらは躱されてしまった。愚神が槍を投擲しようと持ち上げる。許せば一直線に突っ走り、民家に、未だ逃げている最中の一般人にも当たりかねない。
 槍が放たれる直前、黒い影がケンタウロスの視界と注意を引き、奪った。愚神は影の方向に、無月目掛けて槍を撃つ。無月はターゲットドロウで攪乱したままさらに槍を寸でで躱す。
 と、無月を向いた愚神の背に、死角から何か小さなものが突き刺さった。マニーがまたも出し抜けに現れてエージェント三人へと告げる。
「回避を落としたであります。今の内に攻撃を」
 マニーの言う通り確かに、愚神はまるで麻痺したように動きが鈍くなっていた。聞きたい事がないではないが、それは後回しでいい。
 賢者の欠片を噛み砕きながら葵が「ピースメイカー」の銃弾を撃ち込み、エデンは攻撃手段を、そして反撃手段を奪うべく腕を穿ち槍を落とさせた。一人に戻った無月が、再度肉薄し宙を舞う。
『それではそろそろ』
「元の世界にお引き取り願うとしよう」
 無月が振るった日本刀が武人の首を刎ね飛ばした。この愚神も、元の世界では一人の武人だったのか。『王』に敗れて愚神へと堕ちてしまったのだろうか。
 だが真相は分からない。無月に出来る事はただ、この世界がそうならないよう一振りの刃となるだけだ。首を失くした半人半馬は振動を供に地に落ちた。無月は刀の血を払い、弔うように瞼を伏せる。
 

 話は愚神が討たれる前に遡る。
 無月達が愚神に対していた最中にも、アルケニ―は空から降り地を醜く駆けていた。涎を撒き、奇声を上げ、突貫しようと試みる。
『キリがないねえ』
 内で紫苑がのんびりと、少し呆れたように言った。知性の欠片もなく駆けずりまわるだけのそれは、見るだけでも怖気の走る醜悪の塊だ。
 けれど、やはりバルタサールに心動かされる様子はなく。淡々と狙いを定め、正確に従魔の足を撃ち抜いては爆ぜさせる。エリカは従魔へ駆けながら、エクストラバラージで武器を多数展開。そのまま刃の嵐――ストームエッジで従魔を切り裂く。
「ギシャアアアッ!」
「あと少しだ、持ち堪えろ!」
 ブラックボックスが岩壁を精製して従魔を取り込み拘束し、リオ・ベルデ兵達が己が得物を振り下ろして撃破する。それでもなお一般人の下に駆けようとするモノはいたが、バルタサールがトリオで、エリカがストームエッジでそれぞれ迎え撃とうと構える。
 放たれた銃弾と刃の嵐が、同時に従魔共の身を根こそぎ削り取っていった。従魔の死体から顔を上げれば、愚神の討伐も終わったらしい。従魔共の後続が空から来る気配もない。
 エリカはふうと肩を落とすと、共鳴を解かぬまま従魔の死体に手を掛けた。そして村の外に運び出そうと試みる。
『(何をするつもりだ)』
「埋葬だよ。こんなに蜘蛛さんや人馬さんの亡骸があったら、村の人達も困るだろう?」
 確かにこちらにもあちらにも、従魔と愚神の死体が消えもせずに転がっている。もっともエリカの場合は住人を慮ってと言うより、己の願望を、埋葬に対する愛情を、叶えようという理由も決して少なくないと思うが。
『(埋めていいかどうかは、あいつらに聞く必要があるんじゃないか)』
 ダレンの言葉に、エリカは住人達の方を見た。言われてみれば確かに、従魔や愚神の死体を近くに埋めるという事に難色を示す人もいるかもしれない。許可が出ればそれでいいが、場合によってはH.O.P.E.で引き取った方がいいだろう。
 ならばと、エリカは従魔の死体から手を離し、代わりに帽子を胸に当てた。ひとまず黙祷を捧げた後、小さく静かに声を落とす。
「とりあえず、この村と人の命を守ることが出来てよかったよ」


『ノイヤースプレッツェルとカレープリンあんぱんどうですかー?』
 と、中傷以上の救護は特殊部隊や音弥に任せた上で、ウェルラスは軽傷程度の一般人へ声を掛けて回っていた。ノイヤースプレッツェルは分けて食べてもある程度体力や気力が回復するし、甘いものを食べて少しでもほっとしてもらおうという目論見もある。
 なおカレープリンあんぱんに関しては「甘いもの?」になるが、このパンは三種まとめて食べる事も、一個ずつそれぞれ食べる事も出来るので、カレーぱん、プリンぱん、あんぱんと分けて食べた場合は十分「甘いもの」に分類出来る(当然カレーぱんは除く)。
「特殊部隊ってのは、統率がとれているんだな」
 バルタサールは余裕を見て特殊部隊の一人に話し掛けた。信頼関係が出来た体で雑談を装ってはいるが、色々確かめたい事もある。その為の情報収集だ。
「まあな。これでも軍隊だしな」
「マニー・マミーってのは、特殊部隊から見てどんな男なんだ?」
「あいつはよく分からんな。ハワード大佐とは古くからの知り合いらしいが重用されてるって訳でもないし……あいつの同期は全員死んでいるらしいから、特殊部隊の中でも親しいヤツはいないんじゃないかな」
「死んでいる?」
「ああ。あくまで噂だが」
 マニーの同期は死んでいる? 少し気には掛かったが、この男に聞いてもこれ以上話は出ないだろうし、あまり根掘り葉掘り聞いて失礼と取られるのも頂けない。バルタサールは親し気かつ、馴れ馴れしくはない体を保ったまま次の質問を口にした。
「よかったら、特殊部隊を目指した理由なんか教えてもらえるか?」
「それはもちろん、国民を、この国を護るためだ。こんな俺でもこの国の役に立てたらって。そんな理由じゃ、ダメか?」
 嘘を言っているようには見えなかった。もちろん嘘を吐いている可能性は決して零にはならないが、どちらにしろバルタサールは調子を合わせる事にした。
「いいや。立派な理由だな」

 エデンは密かにマニーのことをじっ……と見ていた。マニーは特殊部隊の中で、唯一どんなスキルを持っているか教えてくれなかった。それでもどんなスキルなのかは観察しておこうと思ったのだが。
『お嬢様、覗きはどうかと』
「だって全然見えなかったんだもん!」
 Ezra(aa4913hero001)がひそりと嗜めたが、エデンはそう返さざるを得なかった。まさか観察しようにも一切見えないとは。と、そこでエデンは、音弥もマニーを見ている事に気が付いた。きらきらと輝くエフェクトを消し、そそそ、と音弥に近寄ってみる。
「音弥もマニーが気になるの?」
「あ!? ああ、気になるというか……」
 音弥はそう言って、共闘に難色を示していたのと同じ難しい顔をした。その目はマニーと言うよりも、マニーの持つ武器と、RGWと、マニーに取り付けられた義足義眼へと向けられていた。

「マニー、ちょっと」
 葵はマニーを呼び止めると、熨斗袋を取り出してマニーへと差し出した。首を傾げるマニーに、葵は熨斗袋の意を告げる。
「コッチと共闘すんのは仕事内容に沿っているのかもしれねぇが、仕事内容そのものじゃねぇだろ。だから、こいつは今回のに対する感謝と手間賃みたいなもんだ」
 マニーは熨斗袋を受け取ったが、180度くるりと回してそのまま葵に差し出し返した。以前金塊を投げ返されたのを思い出し、葵はさらに言葉を重ねる。
「今回のは本当に、純粋な感謝の気持ちなんだ。受け取っちゃあくれねぇか? これでも一応売れば10万Gにはなるんだぜ?」
「貴方様の感謝の気持ちは受け取りました。なのでマニーも貴方様に、感謝の気持ちとしてこれを差し上げたいのであります。マニーは貴方様と同じように感謝の気持ちを示しているつもりでありますが、マニーのやり方は何か間違っているでありますか?」
 言って、マニーは葵をじっと見た。その言葉に、もしかしたらマニーは今まで一度も、誰かに感謝された事がないのかもしれないと思った。だから感謝をどう示していいのか分からない。
 葵は熨斗袋を受け取り、再び幻想蝶に戻した。それからふと思い立つ。
「そうだ。肝心な事を忘れてた。感謝ならこう言わなきゃな。『どうもありがとうございました』」
 そして四十五度に頭を下げる。マニーはそれを見て、目線を葵に向けたまま、葵の真似をするようにたどたどしく頭を下げた。
「どうもありがとうございました……これで合ってるでありますか?」
 伺うようなマニーの目に、葵は笑いながら頷いた。
 

 共闘した事に関してのお咎めは特になかった。もちろんリオ・ベルデをヴィランズと認定する事に賛意を示した国等からは多少の批判はあったそうだが、人命が最優先だった事、対立した場合の不利益等を考慮すれば、共闘が最善手だったというエージェント達の判断は正しかったと認められた。
 そしてリオ・ベルデの、ハワード大佐の……正確にはハワード大佐に扮していたイザベラ・クレイの目的が明らかになった。もっとも彼女が語った時点では騙りの可能性もあったため、この情報はしばしの間箝口令が敷かれていたが、リオ・ベルデがヴィランズとされた罪状は「RGW密造」と「人体実験」の二つだけで、逆を言えばそれ以外に悪事らしい悪事はない。
 そしてそのRGWと人体実験の結果で何を行っているかと言えば、従魔・愚神退治、そして人命救助である。イザベラ・クレイ率いる特殊部隊、改め、GLAIVEの目的は、H.O.P.E.とはまた別の組織として従魔に、愚神に、そして『王』に対峙する事……そういう認識が、イザベラの声明放送を背景に徐々に真に傾いていた。
 もっとも、それでもやはり騙りの可能性は零にはならず、何かを企んでいるのではないかという声がなくなる事はなかったが、それならそれでもいいのではないか、今は戦力が必要な時だ、奴らが何を企んでいようと愚神や『王』と削り合ってくれるのであれば万々歳。彼らの利が我々にとっても利となるのであれば歓迎すべき、今は足を引っ張り合って戦力を悪戯に浪費している時ではない……H.O.P.E.内部でも各国でも、意見は割れに割れ、しかし共闘派の意見が圧倒的に多かった。さながら今回の特殊部隊との共闘が、今後のGLAIVEとの在り方についての縮図ででもあったように。
 共闘に至った経緯を把握しておきたいとデータ提出を請われたので、葵はハンディカメラのコピーデータを提出した。そして戻ってきた所、音弥が浮かない顔をしていた。先のエージェント達とのやり取りで拗ねているのかと思ったが、音弥はずっと抱えていた懸念事項を口にした。
「彼らの……リオ・ベルデ兵達の身体は大丈夫なのだろうか。彼らは本来であればあり得ない力を使っている。しかもその力を引き出しているのは従魔憑きのRGWと、アイアンパンクの領域を遥かに超える人体実験だ。僕の、ただの思い過ごしであればいいのだが……」
 そこに、ギアナ支部の研究員が息せき切って飛び込んできた。そしてRGWと、人体実験に関しての解析結果を皆に告げる。
「RGWの使用を続けると邪英化リスクが急激に高まるようだ。ただ装備しているだけでも危険だが、悪い事に連中は義肢として直接装着している。使用を続ければ続ける程邪英へと傾いていき……いや、もういつ邪英化してもおかしくない者もいるだろう。そして放置すれば愚神と化し……二度と元には戻れなくなる。
 また人体実験自体も問題だ。無理な改造を行い無理矢理力を引き出している。こんな状態じゃ永くはないぞ。とは言え改造の範囲が大き過ぎる。RGWを取り外し通常のアイアンパンクに戻した所でどれだけ延命出来るか……」
「……」
「いずれにしろ、このまま戦い続ければ彼らの命は……」
「それは……彼らも承知の上なのか!」
【我らはGLAIVE。地獄へと行進しながら、一体でも多くの愚神を葬らんとする一振りの剣戟だ!】
 音弥の叫びに、映像の中のイザベラの声が重なった。その雄々しく、迷いない声は、音弥の問いへの答えだった。
【我らの方針は見敵必殺ただ一つ。省みる祖国も民も無い! 目の前の敵を討つのみだ! その為の力も、我々は用意している!】
 RGWと人体実験。『力』が何かはすぐに分かった。使い続ければ死ぬ力。生きながら命を縮める力。
 音弥の拳は震えていた。他のエージェント達はどうだろうか。戦い続ければ死ぬと分かっていて、自ら地獄へ赴こうとする彼らに、どのような想いを抱くのだろうか。止める? そんな事は認められないと彼らの行為を否定する? それとも肯定する? 人の命を救うためだからと手を取り合う事を選ぶ? 戦い続ければ死ぬ命だと分かっていながら、それでも進もうとする彼らの、想いを汲んで見送ってやる?
 彼らの生き様と死に様に、どのような在り方を選ぶ。
【さあ“ある者”よ、来るんだ。我々は君達の“絶望”を歓迎する】
 ある衛生兵はこのような在り方を選んだ。映像の中のイザベラの声に、拳を握り締めながら被せるように大きく叫んだ。
「……ざけるな。ふざけるな。ふざけるなァァアッ!」

 彼らには人を救う意志があった。
 最初は国のために手に入れた力で、世界を護る事を選んだ。
 彼らはこの世界と人類を救うという意志の下に、生きながら自らの墓標へと進んでいる。

 あなたは、どのような在り方を選ぶ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • クラッシュバーグ
    エリカ・トリフォリウムaa4365
    機械|18才|男性|生命
  • クラッシュバーグ
    ダレン・クローバーaa4365hero001
    英雄|11才|女性|カオ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
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