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ハプニングには慣れている
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ハプニングには慣れている
最終発言2018/10/19 17:47:43 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/10/19 03:34:43
オープニング
●呉服商からの招待状
ほさぬちゃん
お久しぶりです。元気にしていましたか? 私も会社のみんなも元気にしています。
さて、君の住む森から少ししたところで私の会社主催のファッションショーをすることになりました。秋草しをるの歌をBGMに新作着物を発表するんだよ。君、秋草しをるのファンでしょう。招待状を入れておくから是非いらっしゃい。お友達の分もいてれおくから誘うといいよ。足りなかったら連絡してね。君のためならいくらでも席を用意してあげる。
君の友人より
「ユキー!」
2m超えの人狼がどたどた走っても屋敷はびくともしない。そういう設計になっているからだ。だが、遊びに来ていたジェンナ・ユキ・タカネは違う。リンク状態ならいざ知らず、生身の体はそういう設計になっていない。しかし、避けるとほさぬがショックを受けそうなので身構える。
「ほさぬ」
だが、その直前。ほさぬの能力者兼保護者の朽名袖乃が一言。
「家では走ってはいけませんよ。ほさぬ」
途端に、ぴたりと走るのをやめる。
「どうしたの?」
「あのね、あのね。再来週空いてる?」
「再来週のいつですか?」
「金曜日!」
「空いてますよ」
「レターは?」
レターはユキの英雄だ。残念ながら仕事中である。
「レターは仕事です。どうして?」
「そっかあ。あのね、あのね。お手紙もらってね」
●とある依頼
「依頼は簡単だ。この日、ショーが行われる。それをぶち壊して欲しい。物理的にな」
「この女は殺さなくていいのかよ」
ナイヤは写真をひらひらさせた。そこには吉徳呉服の社長が写っている。
「構わん。この女に屈辱を味わわせたいだけだ。このショーが中止になれば、この女の会社は大打撃を受ける。それでいい」
「ふうん。まあ、いいや。あいつらもたまには思い切り何かをぶっ壊してえと思ってるだろう」
ナイヤはにやりと笑った。
(それだけじゃ足りんな)
ナイヤが出て行くと男は机上の電話を取った。
「私だ。例のファッションショーのモデルどもに連絡をしろ。このショーを降りれば次のショーで使ってやるとな」
●秋草しをる
「どんな様子?」
「秋草ですか?」
呉服商の問いに担当者は苦笑した。秋草―秋草しをる。明日に控えたファッションショーで起用された新人のシンガーソングライターだ。
「正直、心配ですね。もうがっちがちに緊張しちゃって。リハ、何回とちったことか」
「だよねえ。うーん、いざとなったら生歌じゃなくてもいいけど。でもそれじゃ、逆に傷つきそうだな。しをる」
呉服商も苦笑する。秋草しをるは才能がある。だが、舞台度胸がない。そのせいでまだライブをやったことがない。曲は売れているのに、姿を一向に見せないので最近は存在が疑われている。
「元はストリートミュージシャンなのになんででしょう」
「でも、本人ライブはやりたいみたいだよ」
「複雑な愛憎模様ですね。どうしますか。明日ですよ。ショーは」
「仕方ないなあ」
呉服商は立ち上がった。
「しをるに連絡して、明日の集合時間早めるように言ってくれないか。私と猛練習だ。何、心配することはない。ハプニングには慣れている」
●予感
「朝のお散歩気持ちいいね」
「そうですね」
ほさぬはユキに笑いかける。今日は金曜日。待ちに待った吉徳呉服主催のファンションショーである。
「会場に行ってみよ」
「まだ早いですよ。四時間はあります」
「見るだけ。どんなとこか」
「いいですよ。今日は1日、付き合う約束でしたね」
だが、会場に近づくとほさぬは身を震わせた。
「ほさぬ?」
「なんか、へん」
「変? なにが?」
「ユキ、怖い。あの中怖い」
ユキは立ち止まった。ほさぬの正面に回る。
「ほさぬ、私を見てください。いいですか。会場になにかあるんですか?」
「わかんない。でも、あの中怖い。何か変」
ほさぬのカンはよく当たる(後、自分の事件遭遇率の高さも)
「わかりました。」
ユキは服の下に隠してあるリボルバーをさりげなく触るとうなずく。
「ほさぬはここで待っていてください。中を見てきます」
●潜入と通報
(開いてる)
ユキはリボルバーを構えるとゆっくりドアを開けた。だれもいない。適度に物陰へ隠れながら中心部へと進んでいく。
「!」
微かだが、確かに音がする。何かぶつかる音、金属音、それから
(銃声。ほさぬのカンは大したもんだわ)
ユキは方向転換した。警備室へと急ぐ。
(だれもいない?)
モニターが切れている。電源を入れ、中心部の監視カメラを作動する。
(これは)
30人ほどの人影が会場を破壊している。散弾銃を撃ち回し、チェーンソーで辺りを切り刻む。すぐに通報しようとして手を止めた。ひとりが素手で座席を握りつぶした。別のひとりが本を取り出し、電撃を撒き散らす。
(ヴィラン2名。駄目だ。警察の手に負えない)
リンクも出ないユキも同様だ。見つかる前にここから出て通報しなくては。ユキは急いで道を引き返し、外に出た。会場から距離を取り、警察とHOPEに通報する。
「大丈夫です。ほさぬ。中にひとはいません。ショーも夏……吉徳呉服が何とかするでしょう」
だが、さすがのユキも呉服商と秋草しをるが会場内にかくれていることなど予想だにしなかった。
「はい。吉徳呉服、ロンドン支社……え? 待って下さい。中には」
それが判明したのはHopeに通報後。警察から吉徳呉服に連絡が行ってからだった。
「大丈夫よ」
顔面蒼白のスタッフたちに副社長は微笑む。
「あのひとハプニングには慣れているもの」
解説
●目的
・一般人2名の保護
・ヴィランズの拘束
・ショーのモデル(事件解決後)
●保護対象
・呉服商(吉徳呉服社長)
ファッションショーの開催主。予定より早く現地入りし、ヴィランズの会場破壊に遭遇。隠れた場所が電波の届かない場所だったため、外部と連絡が取れない。見た目も話し方も中性的だが女性。
・秋草しをる
ショーで起用された新人の青年シンガーソングライター。才能はあるが気が弱い。呉服商と同じく事件に遭遇。隠れる。
●その他の主な登場人物
・ほさぬ
呉服商からショーの招待状をもらった人狼少女。会場を見に行った際、中で何が起こっているかなんとなく感じ、ユキに見に行ってもらった。朽名袖乃の英雄だが、ここにはいないのでリンクできない。秋草しをるのファン。
・ジェンナ・ユキ・タカネ
休暇中のロンドン警視庁の刑事。会場を見に行って事件に遭遇。警察とHOPEに連絡する。能力者だが、英雄が仕事でいないため、リンクはできない。秋草しをるのファン。
●敵情報(PL情報)
・ヴィランズ『パッフェ』
元々は地元のチンピラ。統制は取れてないがそれ故厄介。とある人物に依頼され会場を破壊中。
・ヴィラン
ナイヤ
リーダー。ショットガンM3やフリーガーファウストG3などの攻撃が派手(に見える)銃や大剣を使い、所構わずぶっ放す・振り回すので厄介。
オムギ
性格や戦い方はナイヤとほぼ同じ。使うのはブルームフレアや雷書「グロム」の電撃など術系が多い。
その他メンバー×30
散弾銃やチェーンソーであちこち破壊しながら会場内を好き勝手移動中。
・?
バッフェの依頼人。吉徳呉服を潰そうとしている。
●現場
早朝の某イベント会場。4時間後にファッションショーが行われる。外壁は無事だが、内部はひどく破壊されている。保護対象はどこかの部屋に隠れており、いつドア越しに散弾銃を撃たれるかわからない。防音設備のせいで近隣住民に気づかれていない。
リプレイ
●作戦会議
「私が見たのは以上です」
ジェンナ・ユキ・タカネは場内マップを指差しながらエージェントたちに改めて事件の概要を語る。
「ひどいのです……」
「ふむふむ、実に品がないであるなぁ」
紫 征四郎(aa0076)が言うとユエリャン・李(aa0076hero002)も肯く。
「ヴィランって何考えてるのかな」
餅 望月(aa0843)は首を傾げた。
「悪による世界統一?」
百薬(aa0843hero001)が答える。
「統一って言うほど統制は取れてないような。まあ何考えてるかは事態を収めてから聞いてみようか」
「2名がリンカー、残りが一般人ですか。まずは数を減らさないと」
皆月 若葉(aa0778)が言う。
「私が見た限りは。バッフェが中心であることは間違いありません。バッフェの構成員はヴィラン2名と一般人数十」
「リハ中だったなら、舞台の近くに居るのかな」
三ッ也 槻右(aa1163)が言う。
「吉徳呉服社長はマスターキーを所持しています」
「どこの部屋にも行けるってことか」
荒木 拓海(aa1049)が言う。
「移動、難しい」
時鳥 蛍(aa1371)がぽつり。この状況で遠くの部屋に逃げるのは難しい。
「安全大前提で警備室から監視カメラで中の様子を探ってもらえますか。ジェンナさんは確認、ほさぬは警戒で」
「私は構いません。ほさぬは――」
「大丈夫。ユキと一緒なら。しをる君も夏来も助けたい」
「無理はしないでくださいね」
無線を渡しながら若葉が言う。
「行くぞ、社長殿には恩があるのじゃ」
酉島 野乃(aa1163hero001)が立ち上がる。以前、呉服商から受けた依頼で融通をして貰ったのだ。
「秋草殿の歌も好物じゃ。早く聴きたいのだの!」
「あれ? 野乃、秋草さん知ってるの?」
「よもやっ知らぬのか? !」
「え? え」
槻右はそういうのに疎い。
「ピピ、ノノ(野乃)、がんばろう……ね」
レミア・フォン・W(aa1049hero002)が控えめに言うと、ピピ・ストレッロ(aa0778hero002)も野乃も肯く。
「ミッションスタートですわ」
シルフィード=キサナドゥ(aa1371hero002)が朗々と言った。
●潜入
「建物外・東側に不審者なし」
リンクした拓海・槻右がモスケールで建物外にヴィランズや不審者が居ない事を確認。ユキとほさぬが会場へと走る。会場内に入って数分後、通信が入る。
「こちらタカネ・ほさぬ。警備室に潜入。警備室内及びその周辺異常なし。メイン会場にナイヤと一般構成員約十数名確認。その他は各部屋を破壊している模様。南・西方面のモニターが映りません。吉徳呉服社長及び秋草しをるは確認できず」
「まだきっと破壊するつもり。悪意が消えてない」
「ほさぬ、大丈夫?」
ピピは心配そう。
「大丈夫」
ほさぬが言う。
「皆がいるもん」
●潜入せよ
会場西。
共鳴した拓海は西から潜入。身を隠し静かに窓から内部確認した後、目視出来る人影とモスケールの反応照し合せ人かヴィランズか確認しながら中心部へと進んでいく。
「どう?」
ペアは望月。既に共鳴している。望月は社長の顔見知りである。拓海たちは呉服商と面識無し、二人の不安軽減の為、可能なら顔見知りと組み回ることを提案したのだ。
「ここまで来ていないみたいだ」
拓海が答える。ここはカメラのモニターが壊れれている。ユキの目が届かない。
「誰か居ますかーHOPEです」
声をあげて敵を誘い寄せる。西は部屋が少なく、探す場所も限られている。敵を早めに見つけひきつけたい。
「誰だてめえら」
声を聞きつけたのか3人の男がチェーンソー片手に襲いかかってきた。だが。
「ぐっ」
望月のセーフティガスで倒れる。
「拘束って結構面倒だね」
望月はため息。近くの空き部屋に放り込んでおく。
「誰だてめえ」
数十メートル進んだところで全く同じセリフを吐かれる。
「俺が引き付ける。社長探しをお願い」
「了解」
拓海はあえて攻撃せず、目立つように走り出す。
会場北。
共鳴した若葉と共鳴したユエリャンの担当だ。こちらはまだ敵に遭遇していない。ふたりもまたホールへと進んでいる。急ぎたいのだが、北は部屋数が多い。虱潰しに部屋を探索すれば時間がかかる。敵もまだ中心部に多くいる。この辺に隠れていないとなると心配だ。
「2ブロック先に敵集団。オムギを中心に数名」
ユキが無線で伝える。
「「了解」」
ふたりは同時に駆け出した。若葉は黒猫の書を開く。
シャー!
「なんだ!?」
いきなりきた黒猫の集団に一瞬動きが止まる。黒猫――タマさんにはそれで十分だった。敵の武器を次々叩き落とす。
「ブルームフレア」
タマさんは間一髪若葉のもとへ。ユエリャンが踏み込み、傘銃でこれを防ぐ。避ければ建物に燃え移る。オムギはホールへと走り出す。
「待て!」
追いかけようとする若葉をユエリャンが止める。
「私が行きます。探索を続けてください」
敵中を突っ切ってオムギを追うユエリャン。足止めを考えたのか別の武器を出し、一般構成員がユエリャンへ向かう。だが、その刃が届くことはない。若葉のセーフティガスが敵を昏倒させる。ユエリャンは手を挙げて感謝を示し走り去る。若葉は暴漢たちを縛り上げた。ホールへ近づくにつれて敵が現れる。これではセーフティガスがもったいない。ホールへ走り出した。拓海も何名か引き連れていると無線で連絡が来た。
「皆月。何名かホールまで誘導します」
「ホールから北方面の探査はあたしらがやるよ」
望月が言う。
会場南
共鳴した槻右は同じく共鳴した蛍と南方面からホールを目指して進んでいる。計画としてはモスケール探知を拓海と手分けして行い、自由に動く反応は敵と判断。反応が弱く、定点に留まる気配有れば救助者の可能性があれば若葉に伝達する。だが、未だ救助者は見つからない。時折現れるチンピラをデストロイヤーで倒す。遠くの敵はシルフィードの射撃で落とし、気絶したところを縛り上げる。
「こっちにはあまり敵はいないみたいだね」
槻右が言う。
「そのようですわね。ホールに早く着きそうですわ」
既にホールは近い。
「南方向へオムギが逃走中」
ユエリャンから通信が入る。
「私、援護に回ります」
シルフィード。同時に拓海・若葉から敵を連れてホールに向かっている連絡を受ける。
「この辺りにはいなさそうだし」
槻右はホールへと向かった。
●敵を減らせ
敵が若葉に散弾銃をぶっ放つ。若葉は当たるのを警戒するような素振りを見せながら走る。ムキになって追いかけるチンピラ。拓海も同じ。引いては攻め、攻めては引きを繰り返し、多くの敵を引きつけ、探査を続ける望月からできるだけ引き離す。
「状況は?」
「数名チンピラが遊んでただけ。社長はいない」
望月が答える。ホール近くになったところで拓海が止まる。
「いよいよ観念したかァ?」
にやにや笑うチンピラ共。
「どうかな」
若葉が来る。セーフティガスで一気に昏倒。幾人かはホールの中へ逃げようとしたが、拓海と槻右に阻まれる。
「全員拘束するのは大変だな」
槻右が言う。
「拘束は私が」
ユキが立っていた。
「ここと西方面以外安全だから来てもらったんだよ。こっちはオムギの方へ向かってる」
無線で望月が言う。
「皆さんはホール内へ」
「若葉」
ホール内を見ていた槻右が言う。
「恐らく中にいる。社長と秋草さん」
緊張が走った。槻右の予想は当たっていたのである。
オムギとユエリャンの戦いは硬直していた。オムギは雷撃でユエリャンではなく、壁や天井に穴を開け、むき出しになった電線を攻撃する。
(タチの悪い)
電線の攻撃は傘で防ぐものの、いつまでも間合いが詰められない。
「撃ちたきゃ撃てよ。火事にならねえように気をつけな」
人命優先で建物は気にせず攻撃せよとは言われているが火事になれば、人命に関わる。一般構成員も集まりだした。
「野蛮な下郎共ですわね。さっさとお寝んねしなさい」
オムギの手から雷鳴の書が弾き飛ばされる。シルフィードのLAR-DF72「ピースメイカー」。その隙を逃さず、ユエリャンが間合いを詰めた。足場は悪いが不知火があるから関係はない。カルンウェナンで斬りかかる。オムギはそれをかわし、本を拾おうとするが、シルフィードの銃撃で本はさらに遠くへ弾き飛ばされた。周りのチンピラがユエリャンの邪魔をしようにもシルフィードの銃撃で足止めされ逃げることも許されない。オムギは刀で応戦。
「いいのか。ここでブルームフレアを使えば」
「はいはい、邪魔だよ」
登場とともに足止めされていたチンピラをセーフティガス昏倒させる望月。シルフィードとともに敵を縛り上げると離れたところへ転がしておく。ユエリャンのカルンウェナンがオムギの刀を叩き切った。慌てて大きく飛び退き「ブルーム」
「させませんわ」
ナイヤの手にシルフィードの一撃がかすめる。呪文が途切れる。慌てて続きを唱えても遅い。ユエリャンの一撃がオムギを吹っ飛ばした。
「さて、ホールへ行きますか」
●大詰め
拓海がホールの扉を開けた瞬間、ショットガンM3が放たれる。威力は低めと言えど、当たれば戦闘不能だ。それぞれの武器で弾き返す。
「HOPEの野郎どもか」
ナイヤが言う。
「破壊しか能のない白蟻がいっぱい、木の味が恋しいなら床を舐めるといい」
野乃が挑発する。拓海は若葉へ耳打ち。
「社長を。ナイヤは俺たちで」
若葉は舞台へと急ぐ。ナイヤはショットガンM3を若葉へ向けるが、その足元を魔導機械「くまんてぃーぬ」の一撃が貫く。その横で右がシャムシール「バドル」を構える。
「てめえら、手を出すんじゃねえぞ」
地を蹴った。手には大剣、ライオンハート。その先は槻右。バドルと大剣がぶつかる。。
(戦い方は滅茶苦茶だけど)
右は油断なく立ち回りながら思う。
(喧嘩慣れしてる。動きが読みづらい)
武器が絡み合ったところでナイヤが大きく剣を振った。槻右は逆らうことなく後退する。拓海がデストロイヤーで割り込んだ。今度は拓海との打ち合い。拓海が離れれば次は槻右。避難完了まで銃器は使わせない。だが、他の敵までは手が回らない。若葉はタマさんの力を借りで舞台へ。
「ステージの中だ!」
槻右が叫ぶ。
「中? ここか」
開けるとナイフの切っ先が空を切った。
「若葉くん!?」
ナイフの主、呉服商が声を上げる。
「助けに来ました。無事ですか? いえ、無事そうですね」
「すまない、敵かと。しをる。助けだ。彼はリンカーの皆月若葉くん」
黙って頭を下げるしをる。
「気にしないでください。逃げましょう」
「今出て大丈夫か」
「ここにいる方が危ない。ヴィランがいます」
「しをるが足をくじいてる。手を貸してくれないか」
「ここで治しましょう」
若葉はケアレインでしをるの足を治癒。
「立てますか」
「はい」
2人が外に出た途端、散弾銃の一斉射撃が行われる。アガトラムをバリア展開し周辺への被弾を防ぎ、流れ弾がふたりに当らないようにする。これは成功したが、進めない。
「『愛と癒しの一撃必殺だよ』」
「助けに来たのです」
望月と征四郎が割り込み、倒していく。その間に若葉とふたりは出口へと走った。
「もう味方いないよ」
ふたりの避難は完了した。他の一般人も望月が運び出し、縛り上げた上で治療。ナイヤは飛び退くとフリーガーファウストG3を撃つ。多連装ロケット砲がリンカーたちを襲う。
「吹っ飛びやがれ!」
「本当に野蛮ですわね」
シルフィードの迎撃で威力を落とす。ユエリャンが傘を開き防御。タマさんが現れ銃を叩き落とした。慌てて剣を構える。
「「遅い」」
右が剣を叩き斬る。槻右の一撃で今度こそナイヤは戦闘不能になった。
「いらっしゃーい」
ナイヤが吹っ飛んだ方向には望月。さっと縛り上げる。もう慣れたものだ。
「さて」
ナイヤを叩き起こすと若葉がにっこり笑った。
「依頼人は誰?」
「ま、マイケル・セイヤーズ」
気圧されてあっさり白状して幸いだったのは恐らくナイヤだろう。
●再会と再開
「お疲れ様です」
ユキがホール前へやって来た。ホールの現場検証の手伝いのためである。
「ユキちゃん?」
呉服商が驚きの声を上げる。
「久しぶり。夏来」
「ど、どうしてここに?」
「ほさぬに誘われたの。ほさぬが異変に気づいて私が通報を。まさかあなたたちが隠れていとは思わなかった。ごめんなさい」
「いや……ありがとう」
「知り合いなんですか?」
若葉が尋ねる。
「遠い親戚です。子供の頃、少し一緒に暮らしてました」
ユキが表情を変えずに言う。
「社長!」
青年が駆け寄る。吉徳呉服の若きデザイナーだ。続いてスタッフたちも。
「舞台デザインです」
「ありがと。みんな、すぐに準備してくれ。がれきを利用したデザインだな。いい。問題は座席だな。取り替えるのに時間どのくらいかかる?」
夏来が素早く指示を飛ばす。
「やるのね。ショー」
「勿論」
「この状況でショーを……さすが社長」
若葉が目を丸くする。
「ここでステージ出来るのかな?」
規佑がステージを見回す。普通なら中止レベルの破壊度だ。
「社長ならできそう」
望月は真顔だ。
「何をしたらいいかの?」
野々の言葉に夏来はエージェントたちを手招きする。
「まずは――」
「夏来」
黒髪の美人がやって来た。副社長の刈穂衣露だ。
「無事でよかったと言いたいところなんだけど」
スマホを見せる。モデル10名が出演を取りやめる旨の連絡が表示されていた。
「やられたな。さて、と」
夏来はエージェントたちを見回す。
「モデルになってくれない?」
「ボク等も出ていいの?」
ピピがわくわくと言う。
「ファッションショーって初めてですわ! 綺麗なお洋服を着てステージに立てばいいのですわよね?」
シルフィードが言う。皆が口々に了解する中で視線を落としたのは蛍。
(征四郎と、シルフィとステージに立ちたい気持ちはありますが人前に出るのは難しいです。顔を隠せる着物ならなんとか……)
「蛍、どうしますか」
シルフィードが聞く。
「シルフィが壁に……顔を隠して下を俯けばいけるとは思います。でも、迷惑じゃないですか?」
「迷惑なんてそんなことありませんわ! 蛍が怯えないようにわたくしが自然にブロックいたしますの」
「でも、ずっと顔を隠していたらこけてしまわないか不安、です」
だから
「征四郎。手を繋いでくれませんか?」
征四郎は蛍の手を取った。
「もちろんです」
「早速着物を選んでくれ。衣露」
「待って下さい」
拓海が声を上げる。
「レミアのスキルは自然を身近なものと感じさせられます。演出に使えるんじゃないかと」
「スキル活用の演出か。どんなのができる?」
身を乗り出すデザイナー。
「例えば――」
拓海が説明するとデザイナーが言う。
「副社長。皆の着物が決定したら連絡下さい。今のをベースに構想を練り直す」
「わかったわ。こちら刈穂。衣装部屋に向かう。男性の着付けもするから誰かこっちに回して」
エージェントたちを案内しながらインカムで指示を出す衣露。
「化粧や着付けは吾輩が手伝おう」
ユエリャンが申し出る。
「吾輩がきたら決まりすぎてしまうであるし」
衣露は笑い出した。
「お願い致します」
●吉徳呉服臨時モデル
「これ! ボク、これがいい!!」
ピピが華やかな振袖を指す。
「それ大人用だよ?」
若葉の言葉にピピは「んー? 共鳴すれば着れるよ♪」
「……え?」
「大きなお花が刺繍されてる物がいいと思います」
「この着物にする」
「なら、俺は――」
固まる若葉をよそに次々と着物が決められていく。ユエリャンは征四郎や男子の着付けを早々終えると化粧にとりかかった。丁寧に化粧を施し「ほら、綺麗であるぞ」とにっこり。その手際の良さに衣露は後で色々聞こうと思ったとか。
「夏来。しをる君が」
衣露がやってくる。
「歌えそうにないの。ショックを受けているのもあるけど、やっぱり根っこの部分が」
「残念だ」
社長は残念そうに微笑んだ
しをるは控え室から出た。着付けを終えたレミアと拓海が通りかかる。
「君、エージェントの。助けてくれてありがとう」
そう言うとレミアのそばをすり抜けようとする。
「きれいなこえ……ね」
レミアの言葉にしをるが立ち止まってレミアを見る。
「うた、ききたいな……」
「ありがとう。でも僕は歌えない。怖がりだから」
「ふあん……なの? わたしも……こわかった……でも……このこ(ヤナミ)といると……へいき……なの。このこは……わたしのたいせつ……だから」
ぬいぐるみ渡し笑む。拓海が肯いた。
「貰ってやって下さい。しをるさんの歌はこのぬいぐるみの様に人に勇気を与える側なのだと思う。だからオレにも皆にも……聞かせて欲しいな」
僕に勇気なんか与えられるのだろうか。僕に勇気がないのに。でも、僕の歌を聴きたい人がいるのなら、僕は勇気を探すべきじゃないか。若葉とピピがやってくる。これから共鳴して振袖を着るのだ。しをるを見て若葉がぽんと肩を叩く。
「少し失敗したって皆がフォローするから大丈夫!」
(そうか)
レミアはきっとひとりで乗り越えたわけじゃない。皆がいたんだ。
「自信もっていいんだよ、一緒にたのしもー♪」
「うん」
しをるは力強く肯いた。
●開幕
「吉徳呉服主催のファッションショー、開幕です!」
拍手と歓声の中、秋草しをるが歌いだす。優しくてポップな歌。
歌に合わせてトップバッターを飾る望月・百薬ペア。望月は若葉色の袴に大正ロマンをイメージした赤い花の散った上衣。髪はお下げ。百薬は黒の袴に上衣は白地地に金糸の鳳凰が飛んだ柄。髪につけた真紅のリボンと同色の帯揚げがアクセント。
突然止まる望月。百薬は先に歩く。そして踵を返し、望月へと走り出す。望月が両手でステップを作る。
たん!
望月のステップを足がかりに百薬のバク中が決まる。白い大振り袖がまるで天使の羽のようだ。同時にレミアと拓海の「碧の髪」で緩やかに風を起こし紙吹雪を舞い散らす。
たん!
今度は望月が百花のステップを足がかりにバク中。「碧の髪」の細かな紅葉が舞う。
テンポを下げた爽やかな歌。登場するはシルフィード。空色の地に大きな花の刺繍が施された華やかな着物に真紅のマント風コート。「着物でも変わらないわたくしのステップを目に焼き付けてくださいまし!」とばかりにステップを踏む。着物コートが翻り、下の柄が見える。
「出番であるぞ」
ユエリャンが蛍を促す。
「ほら、行きましょう。きっと2人なら大丈夫です!」
征四郎は蛍の手を取ると微笑む。征四郎は赤地に金糸銀糸の蝶が舞う着物に金色の帯、簪は赤い蝶、下駄の鼻緒も赤の赤づくし。蛍の手を引きながら歩く。蛍の着物は桃色に白いうさぎが飛んでいる柄。頭に大きな花飾りをつけ、うつむいても華やかに。ふたりに集まる視線をステップを踏みつつブロックするシルフィード。花の周りに蝶が舞っているようだ。
柔らかなのんびりした歌とともに出てきたのはラミア。紫と金ベースに秋桜散らしたティーン向け着物。一般のモデルと一緒に出てくる。
「可愛いなー」
親ばか丸出しでスマホ撮影する拓海、の隣で「わぁ……レミアちゃん可愛い! こっち向いて」とがスマホ撮影。似たものなんとやら。
「歌と装い、どちらもとても見事じゃ」
野々は撮影しながら感嘆の声。
続いてはトーンを落とした大人びた歌。同時に出てきたのは中性的な振袖美人――共鳴した大人ピピ。クリーム色の生地に古典絵巻が鮮やかだ。優雅な足取りで会場の視線をさらう。真ん中頃まで来た頃に、突然曲が元気なものへ変化。共鳴解除し、若葉は濃紺に三枡格子柄の着物に黒い角帯。ピピは黄色地に白抜きの肉球柄。帯は大きく伸びをした黒猫が描かれた帯。ふたりとも元気いっぱいに歩く。ふたりが舞台袖へ消えると不意に歌が止まる。
白と朱の和装に赤い番傘を持つ野乃と刀を持つ槻右が現れる。流れる和ロックに合わせ、着物を魅せる様なゆっくりな舞いで舞台中央へ到着するとふたりは野乃の傘に隠れた。傘がどけられたとき、ふたりは共鳴し、黒と水色和装へと姿を変える。傘の円に武器「バドル(墨月」の輪を重ね、円を描く様に刃にライヴス流し明滅させる。ほぼ同時。共鳴し「縛られぬ者」で空から舞台へ舞い降りる拓海とラミア。
曲調が早くなると槻右が傘を放り投げる。現れた拓海とバドル演武だ。刃の光と動きを同調し、拓海と呼吸合わせ、時折動きを緩やかにして着物の柄を魅せる。流水と紅葉の和傘差し音に合せ二人で戦舞だ。裾裁き意識し着物を雄雄しく魅せる。
演舞が終わると拓海と共に頭を下げ、バドルで客の目を眩ませ舞台からはけた。
最後にモデルが全員舞台へ上がる。
「皆様盛大な拍手を!」
ミッションクリア!
●宴の後
「社長っ!」
夏来に槻右が迫る。
「今回も、お願いが! 舞台の映像っ下さい!」
「お、おお。いいよ」
夏来は押され気味。
(よし、拓海の着物姿っ)
野乃は槻右を呆れて見つつ、夏来に言う。
「今度は服を買いに来るの!」
「うん。いつでもおいで」
その後夏来は拓海から同じお願いをされた。
「綺麗な演出だったね」
「みんなもよく似合ってたんだよ♪」
若葉とピピが言う。ユキとほさぬが通りかかる。
「ホサヌー! ユキー!!どうだった??」
ふたりは全く同じ笑顔で答える。
「最ッ高!」
「ユエはどこです?」
征四郎はユエリャンを探す。
「副社長さんに捕まってるみたいですわ」
蛍が征四郎の袖を引く。
「ありがとう。楽しかった」
征四郎が破顔する。
「征四郎も楽しかったのです」
「で、なんでヴィラン出てきたの?」
望月が言う。
「きっと秘密結社のボスがいるんだよ」
百薬が答える。
「まだいるのかな、それもこれで最後とは限らないか」
「光あるところに闇があるから、そこにも癒しを届けるのがワタシの役目だよ」
今までにない百薬の言葉。
(百薬がそんな所に存在意義を見出していたとは、成長したのかな)
しをるは控え室で眠っていた。時折微笑みを浮かべる。ぬいぐるみは彼を静かに見守っていた。
マイケル・セイヤーズ、本名ロバート・グラムは国外逃亡しようとしていたところを逮捕。動機は「感動するほどの逆恨み」だった。秘密結社のボスとは程遠い結末だった。だが、「それもこれで最後とは限らないか」は当たっているのだろう。
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結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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