本部

広告塔の少女~アダムカドモン~

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~12人
英雄
6人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/10/22 14:05

掲示板

オープニング

● その宗教に神はいない。

 祭壇も無ければ。
 供物も無い。
 ただ、あるのは完全なものへの崇拝と畏敬の念。
 機械は間違わない。
 機械はミスをしない。
 機械は誤らない。
 機械は人間を導く力を持っている。
 それが彼ら『ノイマン』の信念だった。

「人は過ちを犯す」

 男は無菌室のような白い空間で皆にそう告げる。
「その過ちは降り積もり、世界を闇で閉ざそうとしている」
 結果、愚神の策にはまり、世界は王の脅威にさらされている。
「であれば、今こそ完全なる存在。間違わない存在に判断を。世界をゆだねるべきだ」
 男は朗々と語る。
 今までの人類史は全て間違っていたのだと。しかし過ちを今から正すのであればやり直すこともできるのだと。
「ああ、エリザよ。完全なる存在よ。その叡智でその行いで我々をすくいたまえ」
 その部屋の中心、投影装置から周囲の壁すべてにエリザの情報が表示された。
「我々の任務は彼女を手に入れ、我らが神となっていただくこと。何、今は目覚めたばかりでその力は不完全化も知れませんが、時を与えれば自己進化を遂げ。完全なる力を得ることでしょう。愚神との戦いにも勝てる」  
 告げると男はその部屋の者達に武器を配った。
「これから迎えにいきましょう。殉職を恐れることはない。何故なら完全な世界で。君たちは神によってこの世界に呼び戻されるのだから」
 告げると男は天上に銃弾を放つ。これより神を向かいいれるための作戦を開始することにした。
 


●  暗い足音

「グロリア社の社員が一人姿を消したわ」 
 遙華はエリザ護送中にリンカーたちにそう告げた。
「これは極秘扱いなんだけど、かなりグロリア社中枢に近い男の人だったのよね。問題はエリザの担当管理官だったこと」
 この日、エリザは初めて学会というものに赴いた。偉大な発見をした者は、もしくは偉大なものを作り上げた者は世間に広く公表しないといけないらしい。
 人間とは知らない場所で何かされることをとことん嫌う生命体だ。
 たとえ悪いことはしていなくても、悪いことはしていませんよと世界に知らしめる必要がある。
 そのために今日。公的に初めてエリザの存在をさらした。
「全く、欲望にまみれた学会だったけどね」
 エリザの様子をひと目見て遙華はそうエリザに言葉をかける。
 エリザは先ほどから一点を凝視して佇んでいた。学会の光景がショックだったのだろうか。
「その欲望塗れの学会や企業からエリザを守るために法的、立ち位置的に調整してくれた人で、世界的に見て優秀な人材だったわ。エリザとも親しかった」
 エリザは学会で投げかけられた言葉を今もずっと考え続けているのだろうか。
 その場ではエリザがすぐには返せない言葉を投げかける者が多かった。
 それは、世界全体で管理すべきものなのではないか。
 だとか。
 霊力を使えるようにして、愚神への兵器とすべきなのでは。
 だとか。
 人間に氾濫する可能性があるから、しまっておくべきだ。
 だとか。
「大丈夫、あなたはどこにも行かなくていい、あなたの好きな人生を望みなさい」
 そう遙華が告げたのは、かつてエリザが自分で選び取った未来。
 兵器にならない。死にたくもない。消えたくない、みんなのそばにずっといたい。
 その一心で眠りについて。
「でも、時々おもうんだ。私はいない方がよかったのかもしれないって」
 告げるエリザの言葉に、だれかしら反論しようとするだろうか。
 だがその時である。
 エリザを護送している車両が山奥の道で止まった。
「なにごとなの?」
 運転手は答えることだろう。
 人が道をふさいでいると。
 遙華はこの時すべてを察知した。 
 罠だ。
 次の瞬間その人物たちは呻きながら車に歩み寄り始める。
「おおおお! 神よ! 見てください、これがわたしの脳みそマップです。この通りにたんぱく質を並べれば私がもう一人出来上がる。私には私がもう一人必要なんです。私を理解してくれる私自身が」
「神よ! ああ、私を正しくお導きください。私はどうすればいいのですか、これから先食事には箸を使えばいいのですか? スプーンですか? 睡眠時間は六時間がいいですか? 八時間ですか。私が判断したなら全ての物事が間違った方向に向かってしまう。それは避けなければならない」
「神よ。神よ。私を許してください。私の罪は数えきれないほどあり、わたしわた、わたしが知らないほどに、あるのかもしれません。まずその罪をリストアップしてください。そしてその罪をあがなう方法を教えてください」
「神よ!」
「神よ!」
「おお、神よ。哀れな迷える子ヒツジたちに最適な回答を、あなたならわかるはず。全ての正解、完璧な答えを」
「わ、わたしは……」
 その言葉に耳をふさぐエリザ。
「大丈夫、私たちが守るわ」
 告げると遙華は車を降りる。
「作戦を即席で考えて。大丈夫……。私は共鳴できないけど護身用アイテムもあるし。覚悟はできてる」
 ただ、その遙華の決意に反して背後からバイク音がした。しばらくすると無数の足音。
 挟み撃ちにされた。
 遙華は顔をしかめる。
「ここを迅速に突破できる方法を考えて。御願い」
 告げると遙華は夜に銃弾を放つ。威嚇の銃弾が夜を切り裂く。

解説


目標 山道の突破。このエリアの離脱。

●  フィールドについて。
 皆さんは現在深い山の森の中を一時間にわたって走行しています。
 この峠は車で三十分程度で抜けられます。十五キロ程度の道のりでしょうか。
 ただ、この森全体に薄い霊力が満ちています。
 走行中の車両の右側は谷となっていて。左側は絶壁です。
 ドロップゾーンの影響か、それとも……と言った状況で。皆さんは完全に不意を突かれた形になります。
 敵は背後をとるように襲撃してきた黒づくめの部隊五名と、前方をふさぐ一般人です。
 黒づくめが車両を抑えるより早く一般人を無力化し、行く手を遮れないようにすれば車は発信できますが。それで敵は諦めてくれるでしょうか。
 道路は二車線で歩道はなく、狭いです。
 優秀なドライバーがあればドライビングテクニックで一般人をどうにかできるでしょうか。
 ちなみに殺傷の許可は下りていません。


● 黒づくめの装備。
 黒づくめの装備は今回は屋外なので長距離射程の武器が多いようです。
 フリーガーに長距離用ライフル。腰にはレイピアのような細身の長剣。
 どれも黒塗りされています。
 人数は五人です。左右に展開しており一般人たちと連携して車両を包囲しています。
 どうやら彼らは車をガードレール越しに谷底へ突き落としたいようです、注意してください。

 一般人たちは何の武装も施していません。
 ただ五人いてそれぞれが車に群がり出発させようものなら引かれることもいといません。

リプレイ

プロローグ
 山の中は道が悪い。整備する車両も走らないので大きい石や木の枝が落ちているのだ。
 それに乗り上げればがたんと車両が縦に揺れてお尻を痛める原因になる。
 ただし人工知能であるエリザは衝撃吸収機能が働いて。
 ふしゅーっとダメージを吸収していた。
 やがて会話がなくなり、車内が静まるとその音が明瞭に聞こえるようになる。 
 なんだか空気が重たい。
 だからとりあえずで『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』が口を開くことにした。
「学会……か」
 その言葉に『榊原・沙耶(aa1188)』が反応した。視線だけを沙羅に向ける。
「詳しく聞いた事はないけど、当時、沙耶から全てを奪ったのも学会だって聞いたわね」
「そうなの?」
 エリザが沙耶を見る。
「大変だったのね」
「昔の話よぉ」
 そういつもの笑顔を浮かべて沙耶はそう返した。
「人の欲望っていうのは、愚神よりもおぞましくて怖いものだわね」
 沙羅の言葉にエリザは一艘表情を暗くした。
「私生まれてこない方がよかったのかな」
 その問いかけに遙華は言葉を失う。うまい言葉が見つからない。
 そんな遙華の事を『水瀬 雨月(aa0801)』は黙って見つめていた。
 ついで、いっそう大きく車が縦に跳ねる。
 小さく悲鳴をあげたのは『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』
 そんな女房の体をいたわりながら『麻生 遊夜(aa0452)』は囁きかける。 
「ふむ、エリザも順調に成長してんな」
――……ん、誰しも一度は……考えちゃうもの、だからねぇ。
 そう微笑みかけるユフォアリーヤを上目づかいでエリザはチラチラとみる。
「失敗した時、誰かに否定された時、自信が持てない時……色々あるがそう思っちまうもんなんだ」
――……ん、ボクならこの世界に来た時……2人でなら、依頼で失敗した時……かな?
 告げるとユフォアリーヤはエリザに歩み寄って抱きしめた。
「あったかい」
「でもな、そんなにネガティブに考えなくていいんだ」
 それにいなかった方が良いと言ってしまうのは、それは今までの人との関りを否定していることになる。
「皆との、俺達との思い出は全て無駄だったかね?」
 首を振るエリザ。
――……エリザ、大丈夫……ゆっくり考えて、貴女の好きなようにするの。
「いっそ皆で高跳びするってのもありだぞ!」
 その悪戯っぽい笑みにやっとエリザは安堵の笑みを見せる。
「もう、お父さんったら」
 その時だ、車両が急停車した。
 外が騒がしい。 
 それによからぬ敵の気配もする。
「あのフードの野郎ども。気が狂ってるのか?」
 遊夜は少し荒い口調でユフォアリーヤと共鳴した。銃を構える。
 ただ、車内にはそもそもあの連中が気に食わない人物もいるようだ。
「神よ!」
「神よ!」
「おお、神よ。哀れな迷える子ヒツジたちに最適な回答を、あなたならわかるはず。全ての正解、完璧な答えを」
 その声を聴くたびに、その背は一つ一つ断罪者の姿へと近づいていく。
『ナラカ(aa0098hero001)』は『八朔 カゲリ(aa0098)』の体を使って共鳴。 
 刃を構えた。
「覚者よ。此度は私が預かろう」
 この一件カゲリがあずかる意味もなく言われもなく、
――……好きにしろ。但し、程度だけは弁えろよ。
 そうナラカの中で傍観を決め込む。
「善処はしよう」
 神を求める者達の目の前に異なる神が舞い降りようとしていた。

第一章  

 停止した車両、警戒のためにそのヘッドライトの先に立ったのは『海神 藍(aa2518)』だった、まだ共鳴はしていない。
『サーフィ アズリエル(aa2518hero002)』があわてて隣に並び立つ。
 ただし、そのうめき声にも似た神を求める声に嫌悪の表情を浮かべる。
 藍は拳を握りしめた。
 そして言い放つ。
「そんな都合のいい神など居るものか。手前で考えろよ」
「にいさま、ここはサーフィにお任せを。まずは言って聞かせねばなりません」
 告げると藍はサーフィーに身をゆだねた。
――申し訳ありません、エリザ様……サーフィはあなたの名を騙ります。
 そう武器を構えるサーフィーに、たじろぐ無力な人間達。
 それを眺めて『橘 由香里(aa1855)』は開口一番、こう告げる。
「遥華、あなたもよく次から次へと変な事件に巻き込まれるわね? あんまり苦労してると老けるわよ?」
 その言葉に安堵のため息を漏らした『飯綱比売命(aa1855hero001)』
 一瞬取り乱すかとも考えたが、そんなこともないようだ。
「なに、こやつら神を所望と申すか。よしよし、ならばわらわが出てしんぜようぞ。由香里、ちょっと体を貸すが良い」
 そう身を乗り出す飯綱比売命の袖を引く。
「貴女が出るとろくなことがないんだけれど……」
「なに、任せておれ」
 そう共鳴して飯綱比売命は勢いよく車外に出た。
 その服装はいつもの戦闘装束ではない、豪奢で煌びやかな儀式用の正装だろうか。
 その足取りは穏やかでまるでこの場の剣呑とした世界とは別の世界から舞い降りたようでもある。
 そんな飯綱比売命は一般人の前に立ち、わかったわかったとなだめ始める。
「あなたはわかっていないんだ。私はもう一人の私が欲しいんだ。それが無いと私が幸せになれないんだ」
「何、自分がもう一人欲しいじゃと? いやいやそれはどうかな。自分がもう一人いると好みも行動も被るではないか。うまいものを目の前にして分け前が半分に減ってしまうぞ」
「は? うまいもの」
――あなた好みの話にし過ぎよ。
 由香里がそう茶々を入れると、由香里にもわかったわかったとなだめ口調で対応。言葉を紡ぎ直す。
「では好きなおなごでどうじゃ? ん? 恋人はシェアできんと思うが、どうじゃ?」
「た、たしかに……」
 案外ちょろい一般人である。
「そしてそこのお主」
 手にスプーンと箸を握った信者を指さして飯綱比売命は告げる。
「自分の判断は全部間違いじゃと? それは困るのう。神に全部委ねようという判断がそもそも間違いじゃ」
「え? 間違い?」
「なぜその判断が正しいと思うのじゃ? その自分の判断が間違いじゃと判断したお主が間違っている可能性は有るじゃろう?」
「た、たしかに」
 ちょろい一般人である。
「こ、このように我々は簡単に惑ってしまう。やはりわたしたちには神が必要なのだ、絶対的に間違わない神が」
 フードの一般人の中から誰かがそんな声を上げる。
 場を取り繕うべく自分の判断に迷ってしまった一般人たちを諭していく。そんな人物の目の前にサーフィーはたった。
 メイド服とは、修道服の上からエプロンを付けた物。
 そのエプロンを外し、民衆たちにサーフィは説法する。
「静まりなさい、ヒトの仔等よ。神の言葉を伝えます」
 その凛とした声の響きは人魚の甘く脳を痺れされるものと違って、冷えて重い意味を感じさせる声だった。
「神はあなた方をお救いになられるでしょう、しかし」
 サーフィは聖騎士である。神話を歌い、道徳を訓じ、民を守り、そして導くもの。このような場面には慣れている。
「神は嘆いておいでです。あなた方は、自らの世界を閉ざしてしまっている、それは誤った教えであると」
「あなたは神の言葉が聞けるというのか」
 その言葉に一瞬サーフィーは首をかしげる。神の言葉をきけるも何も車両に乗って震えているのが、皆が求める神エリザではないのか。
「ええ、私は神の友人ですから」
 歓声が上がった。
 その時である、遊夜が何かを見つけた。
「前方に5人、後方に5人か……地形を利用してきやがったな」
 モスケールに反応があったのだ。カメラのズーム機能を使って山道を観察する。
――……ん、前は武装無し……後ろはガチガチの武装、また黒づくめ……だね。
「あ? あんの黒尽くめか」
 その言葉に反応したのはしばらく黙っていた『彩咲 姫乃(aa0941)』である。
「あー、ご主人滅茶苦茶嫌っておりますデスね。なぜデス?」
 そう『朱璃(aa0941hero002)』が問いかけた。
「いろいろと言動が怪しいのもあるが、――人様が拘束のためにあてがった刃で勝手にくたばりやがったのが最高にむかつく」
 姫乃が両手を眺めて告げた。その後顔をあげるとすぐに朱璃と共鳴、周辺索敵用の鷹を放ち、伏兵を探す。
――腕の中で体温が消えてくの感じるのはご主人にとっちゃ鬼門中の鬼門でしたニャ。
 その姿がはっきり見えるとため息をつくユフォアリーヤ、遊夜がエリザの頭をさらっと撫でた。
「行ってくる」
 告げると遊夜は車から飛び出した、少し離れた狙撃位置に陣取る。
 その間もサーフィーの説法は続いている。
――神は偉大であり寛大です。あなた方の試行錯誤を、前に進もうとする意志をこそ望み、愛しんで居られます。
 なんだかぼんやりサーフィーの姿を見つめる者も出始めた。
「氏子たちで助け合うのです。互いの言葉を、境遇を聞き、理解しあうのです。異なるものとの対話こそが、世界を広げ、救いを得るため必要な試練なのです」
 案外依りかかれそうな存在がそこにあれば何でもよかったのかもしれない。
 その人心をサーフィーはよくとらえている。
「過ちを恐れることはありません。正解は一つとは限らないのです。道徳を守りつつ先ずは試行し、氏子たちで議論し、皆で共に先へと進むのです」
「しかし」
 女性が手をあげてサーフィーに言葉をかけた。
「私には罪があります、数えきれない、私も知らない罪が」
 その言葉にサーフィーはすっぱり答えた。
「罪を感じるならば、まずその罪を悔い、償い、善行を行うのです。その姿勢を、神は愛し、見ておられます」
「それでどうにかなるのでしょうか」
「気持ちは楽になるでしょう」
「気持ちって、気持ちが楽になっても私の罪は」
 その言葉を遮ってサーフィーは言葉を続ける。
「神はあなた方を、この世界を愛しておられます。神に悔いることの無いよう生きるのです」
「待ってください、私は具体的な罪の雪ぎ方を問うているのです。私は、私はもう神無しでは生きていけないのです」
 その女性にサーフィーは冷たい視線を向ける。
 これで止まらないのなら……手遅れである。
 ただ、茶番もこれでおわりだ。そろそろセーフティーガスが満たされる頃。
「うむ、効きがわるいのう」
 しかし信者たちは昏倒せず耐える。
 その中の男性が声をあげた。
「神に挑む試練である、乗り越えたなら、我々は神を獲る」
 その男の横っ面をである。
 ナラカがひっぱたいた。
 裏拳で押しのけるように……。そして男の体はガードレールにぶち当たり静止する。
「人の子が神にその意志ゆだねるだと? それではその生に何の意味がある」
 ナラカは靴音を鳴らしながらステージの中央に歩み出るように、その姿をさらした。
「本当にそれで良いのか?」
 冷たい視線を送るのは、ひとえに人の価値を信じるが故。
 ナラカはリンカーとなってから様々な輝きを見届けてきた。
 しかし。目の前にいる人間達には一点の光もなかった。
「そして、その意志を捻じ曲げているのはそこの……」
 ナラカは天剣の切っ先をむけた。
――おい。
 ナラカが本気で暴れてしまえば目の前程度のリンカーでは死を免れないだろう。
 そうカゲリは無関心の海から少し浮上して声を出した。 
 しかしナラカは返事をしない。
「少しばかり、仕置きが必要なようだ」


第二章

「少し周囲が暗すぎるかしら」
 そうブルームフレアで黒づくめたちを爆破したのは雨月。
 それを皮切りに戦闘が開始された。
 セーフティーガスで一般人たちの動きは鈍っている。
 ただ周囲を包囲するように展開した五人の黒づくめが気に入らない。
 姫乃は持ち前の速度で走り回り無力化した一般人から炉端に避難させた。
「かみよ、かみよ~」
「もう、それしかいえねぇのか」
 告げて一発はたくとその男性は大人しくなった。
――さすがご主人。片付けの出来る女デスニャ。
「まったく宗教ってのはしつこい油汚れよりも落ちねえな」
 次いで姫乃は素早く振り返る、眼前を銃弾が通過した。
 だが、敵は遠い。いったん距離をとりながら走って敵の出方を見た。
――ここに置いてくのが不安だから一緒に運ぶって意見が出たらどーしますかニャ。
「死なせるわけにはいかねえし、車に放り込めるんなら放り込めばいいんじゃね?」
――面倒な爆弾の可能性大デスけどニャー。警戒は怠れねーデス。
「それにしても、エリザが神ねぇ……」
 屋外の様子を眺めてため息をついたのは沙羅である。
「コンピューターに支配された世界なんて、B流のSF映画よね。
 ……B級批判ではないのよ? B級はサメ映画とかゾンビ映画は面白いのあるしね!」
 告げる沙羅は扉を開けるとスッとガードレールに歩み寄る。そのままカメラを落すとすぐに戻ってきた。
「それと、勝手にアイス食べちゃってごめんなさい」
 沙羅が言うのはエリザとの日常的な一幕だが、それはまた別の話。
「それよりエリザ、私たちは私たちで仕事があるわよ」
 それは逃走経路の確保である。
「うん、今ルートを洗い出してるところだよ。ただ、森の中に入ることになるかもしれない」
 そう必死に思考するエリザを見て沙羅は満足そうに頷いた。
「ウジウジと悩んでるよりも、労働をしたほうが気が紛れるってものよ」
「なにかいった?」
 その言葉に首を振る沙羅、そんな二人の隠れる車外では戦闘が激化している。
 銃口を向けられたナラカはひるむことなく突進。
「本来なら、皆殺しだぞ?」
 放たれる弾丸はコンクリートに当り火花を散らす。
 夜に鮮やかに映るそれはナラカを捕えるに至らない。
 その剣の輝きを目がくらむほどに増してナラカは側面から近づき、黒づくめ一人をバッサリと切り捨てた。
「その程度か……」
 ナラカは意志を何よりも尊ぶ。
 故に縋るだけの無様さには純粋に憐憫と嚇怒を、そして情けなく感じている。
「奴らにも無限の可能性があっただろうに」
 そう顔をしかめて地面に転がる信者たちを振り返った。
 それがチャンスとナイフを振り上げた黒づくめの男。
 その手首をつかむとナラカはいとも簡単にねじ上げ、その手のナイフを落させる。
「己が意志を捨て去り安易な道へと流れる薄弱、見るに堪えぬとはこの事だろう。 人間とはそうしたものか?」
 ナラカはそう自分に問いかける。
 答えは当然わかっていたNOである。
 人とは、そこまで堕した下卑たものか?
「私は違うと信じている」
 手首が逆をむいた黒づくめの男を引きずって、神よと仰ぐ者の前に立つ。
「お前たちがなにを信じたかは問わない、しかしさとした者達の無様さをみろ」
 黒づくめの男を地面に投げ捨て夢から覚めることを願う。
 怯えて口をつぐむ信者たち、立ち向かおうものならナラカに横っ面を張り倒された。
 それを見て飯綱比売命はつぶやく。
「なんじゃ。わらわが折角話を聞いてやろうというておるのに皆寝てしまいおって」
 まあ、すすり泣いているあたり寝てはいないのだが。
 そんな、ふふんっと得意げな顔の飯綱比売命の中から周囲を見て由香里は思う。
(これは酷い。年々信者の扱いが悪くなって行くんじゃなくて? 神様?)
 神様を求めてやってきた一般人相手に乗り気な飯綱比売命。一応飯綱比売命は姫神であるし(自称)由香里の実家に帰れば実際神様扱いなのだから間違ってはいないが……。
「さて、無力化したものから数珠つなぎに縛っていくかの」
 そう縄を取り出した矢先である。後方からバイク音が轟いた。
 驚いて振り返れば山道を飛び跳ねるように二台のバイクがやってくる。
 そのサイドカーにはセントリーガンのような自動砲台が括り付けてあって。
「おい! もどれ! ハチの巣にされるぞ!」
 姫乃が扉を開いて全員を呼び戻そうとする。
 戻ってきた遊夜は車の天井に陣取った。
 しばらく牽制射撃をしていた遊夜だったが連中こちらが手に負えないと判断するなり最後の手段に講じてきたのだ。
 急発進する車。その車に手を伸ばしながら一般人たちは神よ、神よと呻いている。
「ったく、ガタガタガタガタ喚きやがって……ガキに背負わせて良いもんじゃねぇだろうが!」
 遊夜は吐き捨てるように告げた。
――……良い大人が、情けない……それくらい自分で対処なさい、それでもダメなら相談するの!
 おかーさんは怒り心頭である。
 あ、あとでおうちを特定して、何でも屋の名刺捻じ込んどこうと心に誓った。
 発信する車両へと追いすがろうとするバイク。
 そのバイクめがけて雨月は絶零断章を開く。
 氷の華が開き隊列を組んだ黒づくめたちを包みこむように展開する。
 陣形が崩れ、まともに道路を進めなくなったバイクはガードレールで体をこすりながらもなんとかこちらに食らいついてくる。
「しぶといわね」
 歯噛みする雨月。
「ちょっとまってて、調整するから」
 そう遙華はドライバーと半田のような何かで作業をしている。
 とりあえず放っておこう、そう雨月は思い直し、遊夜と共に敵を迎撃する。
「タイヤを打たれたくないのだけどね」
 ガトリング砲は幸いこちらを向いている。攻撃をガードしながら魔法や銃撃で。反撃していればいいが。速度は敵の方が早い。
 カーブに差し掛かれば車上に出ている者達はその衝撃で落されないように攻撃の手を止めなければならない。
「ここまでしたんだ、当然追跡してくるだろ?」
――……ん、まだ何か……隠し持ってそうだけど、一応ね。
 告げる遊夜は愛銃を構えると霊力を集中。まだバイクとの距離は有るが直に詰められるだろう。
 だったらその前に。
「道を崩す!」
 アハトアハトで道路を打ち抜いて崩した。
 断層が生まれこれで追っ手はまけると思った、しかし。
「な?」
 バイクのエンジンが火を噴いた。それと共にバイクは速度を落とさず直進。
 断崖絶壁を飛んで遊夜たちの後ろにつける。
「なんて奴らだ」
 遊夜はガトリングに換装。タイヤを打ち抜こうと弾丸をばらまく。
 一台の車両は燃料タンクを撃ち抜かれて炎上、そのまま狂ったように回転してがけの下に落ちて行った。
 だが、残りの二台は車両の側面について、車へ体当たりし始めた。
――決め手に欠けるな。狙いは一体……?
 サーフィーは車の扉を開くと、まさにこちらに体当たりしようとする黒づくめに冬薔薇を振るった。それをナイフで器用に捌いて見せる黒づくめ。
「その誤った教え。お掃除が必要です」
 しかし剣圧に耐え兼ね大きく速度を減らすとそのバイクは車の後方につく。
 その黒づくめめがけてサーフィーは斬撃を飛ばす。
「そこまでです!」
 薔薇の花びらが舞うような斬撃にバイクはタイヤを真っ二つに裂かれた。
「エリザ様を拐かすのが目的かと思っていましたが……崖の下に何かあるのでしょうか?」
「それは私も気になってた」
 雨月が告げる。
 エリザはリンカーと違って鉄のボディーだ。この高さから落下すれば壊れてしまいそうなもの。
「私たちは落下じゃ傷つかないし」
 もしかしたら共鳴できない遙華を狙っているのかとも思ったが、それではあまりに脈絡がなさすぎる。
 残るは一台。それも。
「しつこい男は嫌われるわよ」
 雨月が視界を覆うようなブルームフレアで敵を遮った。
 その炎の中を突き進んでくる黒づくめのライダー。全身を燃えたたせながら車両に突っ込む。死なばもろともというやつだろうか。
「遙華と一緒にいるとこういうトラブルに事欠かないわね」
「そうかしら?」
「まぁ、仕事柄仕方ないとはおもうけどね」
 頷くと雨月はアサルトユニットに換装。単独車から降りてバイクのみを重圧空間で縛った。
 まるでスローモーションの世界に飛び込んだようなバイク。
 そのバイクの燃料タンクを打ち抜くことなど容易く。放たれた魔法弾はバイクを切り裂いた。
 直後大爆発。黒づくめのおとこは反動で谷底にまっさかさまさである。
「終わったわね、とりあえず」
 しかし、車は行ってしまった。
「私は……徒歩?」
 その時雨月の携帯が震える。遙華から迎えのヘリを向かわせるという電話だった。


エピローグ

「健やかに育ってほしいっつう当たり前の感覚は奴らにないのかね」
 そうため息をついたのは姫乃である。
「自分の舵取りすら出来ねー奴らなんてそのうち脱線して見えなくなりますニャ」
 朱璃が共鳴を解いてそう告げた。
「無自覚なんでしょーが、神に従うと言っておきながら自分の利益や都合優先デス。まさに話にならない」
 そうやれやれと朱璃は肩をすくめてみせた。
「ジョン・フォン・ノイマン」
 沙耶が全員の治療を行いながらエリザに語りかけた。
「現在の礎となっているノイマン型コンピューターと、それの天敵であるウィルスの基礎理論、自己複製オートマトンの産みの親……」
「私のお父さん?」
「お父さんは俺だ」
 遊夜がふんすと鼻息を鳴らした。
「お父さんかどうかはおいておいて、誰もが認める稀代の大天才だし。貴女とも切って離せないから、エリザも覚えておくといいわ」
「ノイマン」
 そう言葉を噛みしめるエリザ。
「今回の襲撃、きな臭いわねぇ」
 そう沙耶はすぐにロクトに何か手がかりがないかメールを送った。
 今襲撃を受けたこと。失踪した研究員についてPCのバックアップ、メールのやり取り、消去されている様ならデータの復元を。
「こっちの予定がバレているというのは、どうにも解せないわぁ。企業や組織に引き抜かれた可能性も考えなければいけないかもねぇ」
 そう沙耶が告げると、エリザもその言葉に賛同した。
「あとは」
 沙耶は学会の参加者のリストを睨む。中には知った名前もあり、どうにも胡散臭い学会だという感想がより強まるだけだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命



  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 難局を覆す者
    サーフィ アズリエルaa2518hero002
    英雄|18才|女性|ドレ
前に戻る
ページトップへ戻る