本部

澪河神社の動く狛犬

影絵 企我

形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/10/17 19:53

掲示板

オープニング

●澪河兄妹
 秋風が吹き、落ち葉の舞う澪河神社。澪河 青藍(az0063)が参道を駆け登ると、社の前に仁王立ちしていた男――澪河将臣が出迎える。
「遅いではないか、青藍」
「急に呼びつけたんだから仕方ないだろ。でどうしたの。この時期に私が手伝う事なんてないでしょ?」
 ジャケットの襟を整えながら青藍が尋ねると、将臣は勿体付けて腕組みする。
「うむ。青藍、お前も北極で第二世界蝕が発生した事は知っているだろう」
「一線引いた兄貴より知ってるって。それが何なのさ」
「そして王とかいう、愚神勢力の首魁も現れたという」
「それも知っとるがな。いいから本題を話せよ」
 持って回ったような言い回しをする兄に、青藍は苛立ち顔を顰める。兄は深く溜め息を吐いた。
「せっかちが。……いいか。だから私はH.O.P.E.に話を付けて、模擬戦を組む事にした」
「模擬戦?」
 兄は真面目くさった顔で頷く。
「そうだ。本来なら私もエージェントとして復帰すればいいのだろうが……父上の手が回らん以上、うっかり死ぬようなことがあればこの神社はおしまいだからな。そういうわけにはいかん」
「じゃあせめて、訓練でエージェントを叩き上げて貢献しよう……ってことか」
「その通り。故にお前の力が必要なのだ」
「なーるほどね。まあそれなら……手を貸すけど」
「宜しい。共に世界蝕を潜り抜けるに相応しい実力を持つエージェントを養成するぞ」
「うん……でもさ」
 納得したかに見えた青藍だったが、不意にその表情を曇らせる。
「あれだよ? 私達の友達強い人いっぱいだし、もしかしたらそんな人ばっかり来るかもしれないよ?」
「その時はお前が彼らの胸を借りて研鑽を積めばいい。それだけの事だ」
「あっはい。わかりましたー……」

●彼らを出し抜け
 澪河神社にほど近い山のふもと。君達は澪河家の五人を前に集まっていた。
『この度は我々の誘いに応じていただき感謝する。私は澪河神社の狛犬である左胡摩だ』
 柴犬のような頭を持つ獣人が、装束姿で静かに頭を下げる。狛犬、という言葉に首を傾げた君達だが、やがて神社の狛犬が片方欠けていたことを思い出す。巫女服姿の青藍は小さく微笑む。
「うちの狛犬は動くんです。こうして」
『一先ず私から今回の模擬戦についてのルールを説明しよう。一時間前、私がこの山の中に一台のビーコンを埋めた。君達は君達が普段使っている通信機に届く信号を頼りにこれを探し当て、三十分以内にそこの女性に渡す。そうすれば君達の勝ちだ』
 黒髪が長い、おっとりした雰囲気の女性がぺこりと頭を下げる。彼女は将臣の妻らしい。
『我々は先に山へ入って十分ほど準備し、君達を迎え撃つ。君達も強敵と戦ってきたかもしれないが、私と将臣は君達よりも先に10年間戦い抜いてきた。それだけの経験値はあるつもりだ。くれぐれも油断はしないでいただきたい。その補佐に就く青藍も、君達に負けず劣らずの手練れである事だしな』
「よろしくお願いします」
『では、説明はこの辺りにして、始めるとしよう』
 兄妹は顔を見合わせ、同時に共鳴する。兄は弓を携え道着袴姿になったが、隣で青藍は白を基調としたサイバーチックなスーツとアーマーを纏う。主導権を乗っ取ったテラスは、額でピースし君達にウィンクする。
『それじゃー! よろしくね!』

「あのさぁ……」

 青藍の落胆の声と共に、模擬戦は幕を開けたのである。

解説

メイン フィールド内に隠されたビーコンを制限時間内に回収せよ
サブ 澪河将臣、青藍兄妹を降参させろ

ENEMY
☆澪河将臣(みおかわまさおみ)&左胡摩(さこま)
 澪河神社の神主を務める青藍の兄と、それを狛犬として支える英雄。少年の頃から10年近く戦い抜いた元エージェントでもあり、その実力は健在。
●ステータス
 生命ルーカー(70/40)
●スキル
 潜伏 鷹の目 女郎蜘蛛 タフネスマインド プリベントデクライン
●個人技能
・自然との合一
 迷彩を用い、息を殺し、自然に溶け込む。[潜伏における対抗判定時、捜索側に常に-20の補正が掛かる]
●装備
・那須与一
 一線を退いても彼らが整備を続けてきた和弓。その性能は非常に高い。[月弓「アルテミス」Lv30と同等]
●性向
・潜伏重視
 未発見状態からの奇襲攻撃をよく試みる。
・斥候
 敵の位置情報の把握を重視する。

☆澪河青藍&テラス
 皆さんご存知かもしれないJDリンカー。世界中を震撼させる大事件には関わっていないが、場数を踏んでおり、実力は確か。
●ステータス
 回避カオブレ(68/35)
●スキル
 フラグメンツエスカッション エリアルレイヴ ロストモーメント
 明鏡止水 バラージゲーム
●個人技能
・太刀風一陣
 敵集団のど真ん中に飛び込み、攻撃を制限する。[回避判定時、隣接PCの数×10を達成値に追加する]
●装備
・アマツカゼ影打
 補修しながら鍛えてきた、それなりの業物。[NPC欄参照]
・タイフーン
 恭佳が試作したブルパップ型アサルトライフル。[17式20ミリ自動小銃Lv25と同等]
●性向
・ヒッタン
 突撃と撤退のサイクルを重視する。

FIELD
・深い森
 木々が多く、見通しが悪い。ついでに暗い。
・山
 高低差があり、高所への見通しが悪い。

TIPS
・二人の作戦はシステマティック。無策で臨むと痛い目を見る。
・通信機の持ち込み推奨。
・勝つだけなら二人を戦闘不能にする必要はない。

リプレイ

●裏山の攻防
 兄妹が入ってから十分が経ち、夫人の持つアラームが鳴り響く。赤城 龍哉(aa0090)はヴァルトラウテ(aa0090hero001)と共鳴し、早速山へと足を踏み入れる。
「経験深い手練れ相手となれば、願っても無い機会ってもんだな」
『不利な状況、見えぬ敵。如何にして乗り越えるかも戦士の器量というものですわ』
 山から吹き下ろす風が、葉をざわめかせている。潜伏するには丁度いい環境だ。
「ちょいと時間的には厳しいが、まあ何とかする」
 通信機を取り出すと、耳に届く微かなノイズを聞きながら彼は山を駆け出した。

 その一歩後ろを、モスケールを担いだカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が進む。至って冷静な顏である。
『今回澪河はテラスと組んでるのか……という事は無差別範囲攻撃が来るか。あんま固まってると一気に削られるな』
「ねえ……左胡摩さんて柴犬だったよねぇ」
 しかし御童 紗希(aa0339)は様子が変だ。むふむふと変な鳴き声を上げている。
『それが何だよ?』
「いいなぁ~もふもふさせて貰いたい~」
『あぁ? そんなの模擬戦の後にでも頼めば良いだろ!』
 カイは紗希に喝を入れようとするが、脱力し切った紗希は聞く耳を持とうとしない。
「そうしてみようかな~♪」
『俺もイヌだったら……』
 一瞬で紗希のハートを射止めたフレンズに、カイは軽く嫉妬するのだった。

 二人とはやや距離を置き、迫間 央(aa1445)は通信機に届く音を聞き分けながら山道を登っていた。彼らの気がかりは、事前に将臣が使うといったスキル群だ。
『……ルーカースキルの潜伏は本来、共鳴したリンカーには効果が殆ど無いはず』
 マイヤ サーア(aa1445hero001)が呟く。駆け出しのリンカーならば間抜けなだけだが、十年駆け抜けた男がその効果を勘違いするとは思えない。
「それでもそれに重きを置く使い手となれば」
『確かめてみないとね』
 央は神経を研ぎ澄ませる。古豪の実力は、彼も気になるところだった。

 桜小路 國光(aa4046)はジャングルランナーを駆使し、密生する木々の枝に飛び移った。短刀を手に取ると、軽く枝を落として視程を確保していく。背中にはアクハトの弓。
『また弓ですか~?』
 メテオバイザー(aa4046hero001)はぶー垂れる。サクラコの“剣”としては思うところがあるらしい。國光はライヴスゴーグルをかけて周囲を窺いつつ、メテオを宥める。
「腐るな……たまには工夫しないと、考え方が偏ったり鈍ったりするんだ」
 國光は別の樹へと飛び移る。再び枝を落として射線を確保。その動きは慎重だ。
「鷹の眼からは逃げられないよって、なれば良いんだけどね」
『せっかくなら手合わせしたかったですけど……自分の気持ちよりも勝利。それが、私達の戦い方なのです』

 一方、九字原 昂(aa0919)はプリンセス☆エデン(aa4913)やら畳 木枯丸(aa5545)やらを連れてざくざくと落ち葉を踏み分けていた。
「人数の上では、僕らの方が有利かな?」
『地の利は向こうにあるんだ。油断してると良い様にあしらわれるだけだがな』
 ベルフ(aa0919hero001)は昂に釘を刺す。昂は大太刀の柄に手をかけ、慎重に周囲を見渡した。同じシャドウルーカーとして、適度に緊張感を保っていた。
「模擬戦とはいえ、やるからには全力でやらないとね」
 その背後を、エデンが魔導書片手に追いかけていた。森の薄暗がりでは、彼女の纏う光の粒子が少し目立つ。
「あたしは後衛だから、直接ぶつかると馬鹿弱いんだよね~だから前衛はよろしく!」
 そんな事を言われたが、昂はバツが悪そうに肩を竦める。
「と言っても、僕もあまりカバーリングに回るタイプじゃないんですけどね……」
『九字原様は相手と同じシャドウルーカーです。遊撃に専念してもらう為にも、接敵以降は距離を置くようにした方が良いかと』
「むー、そうだよね」
 Ezra(aa4913hero001)が進言すると、エデンはそっと引き下がる。大雑把かつマイペースだが、聞き分けはある。今度は木枯丸を見た。
「よろしくね!」
「えー、ボクはねぇ、青藍君と斬り結びに来たんだよぉ~。構ってる暇ない~」
 木枯丸は緩み切った顔のまま何か物騒な事を言う。背負った刃の鯉口からは、黒々とした妖気がじわりと溢れている。
「今日は剣客勝負出来るかなぁ~」
「えーと……」
 言葉に詰まっているエデンを見かね、菜葱(aa5545hero001)が代わりに受け応える。
『すまんのう。ビーコンよりも久々に見つけた剣客の青藍ちゃんにご執心らしくての』
「べーこんはねぇ、あったら貰う~」
 その背後で銃を担いでいるのはフローラ メタボリック(aa0584hero002)。木々の生え揃う空間を見渡し、彼女は呟く。
『これはこれは、隠れがいがある場所だねえ』
「フローラ、今日はぺらぺらと喋っている場合じゃないぞよ。位置がばれる」
 ヴァイオレット メタボリック(aa0584)はすかさず窘めるが、フローラはやっぱり聞く耳を持とうとしない。
『ばれてるもんだと思って行動したほうが良いと思うけどねぇ。今にも突っ込んできたっておかしくないし――』
 フローラは咄嗟に言葉を区切り、銃を目の前の木の上へと向けた。白いアーマーを纏ったテラスが銃を構えて枝の上に立っている。
『ドーモ、テラスです。ヨロシク!』
 言うなり、テラスは引き金を引いてきた。頭上から大量の銃弾が降ってくる。四人は咄嗟に躱し、身を庇う。その隙に、テラスは四人のど真ん中めがけて飛び降りてくる。
『突撃突撃ぃー!』
 至近距離で刀を抜いたテラスは、フローラの足下を切りつける。
『痛ッ! やってくれるね、こいつ』
 撃ち返そうとするが、鼻先まで肉薄されては銃を構える事も出来ない。ゴーグルの奥で彼女の眼は爛々と輝いていた。木枯丸は下から彼女を見上げ、早速剣の柄に手を掛ける。
「あ~、青藍君だぁ。早速勝負しようねぇ~」
『待たんか。こんな所で剣を振り回したら他も斬りつけてしまうぞ』
 大太刀をぶん回そうとした彼を、慌てて菜葱が止めにかかる。まだ平静を保っている木枯丸は手を止めた。
「あれぇ、そっかぁ~。どうしようかぁ~」
 タヌキがぼんやりしているうちに、テラスは容赦なくエデンへと迫る。やりたい放題だ。
『デジタルカラテを喰らえー!』
「え、待って、いたいッ!」
 鋭い足払いが向こう脛を直撃、エデンは横ざまに転がされた。咄嗟に魔導書を開くが、呪文詠唱が間に合わない。
「誰か、カバー来て!」

 背後で起きた争乱を聞きつけ、慌てて龍哉が坂道を滑り降りる。“煌漣”の銘が入った大太刀を抜き放ち、テラスの背後目掛けて突っ込んだ。
「まーさか初手からくるとはな!」
『罠を張って引きこもり、と思っていましたが……なるほど』
 縦斬りを見舞うが、テラスは振り返って簡単に躱してしまう。その顔には満面の笑み。
『そーゆー作戦だもんね♪』
「調子乗るな! 一発喰らったら沈むぞ!」
『分かってるってば』
 テラスは腕のスコープを近くの樹へと向けると、素早くマーカーを撃ち込む。彼女の身体はすぐさま枝へ吸い寄せられた。
「そういうときの対策はしてあるぜ」
 待ってましたとばかり、龍哉も腕に巻き付けた蛇皮を剥がす。それはそのまま強靭な革紐と――ならなかった。目を瞬かせる龍哉に、ヴァルが慌てて尋ねる。
『あの、格闘武器はお持ちになりましたの?』
「……やべぇ、持ってくんの忘れた!」
 絶対強者の凡ミス。青藍は必死に高笑い、そのまま跳び去っていく。
「ふ、ふはは! 勝った! 勝ったな!」
「……青藍、さてはビビってるな」
 一先ず追うのは諦め、龍哉は仕方なしに苦笑するのだった。

●森林の攻防
[青藍組は完全に遊撃役だ。ぼやぼやしてたらすっ飛んでくるぜ。ついでにすぐ逃げる]
 龍哉からの連絡を聞きつつ、國光はちらりと傍の樹を見る。やたら木々の葉を鳴らしながら、テラスが跳び回っている。
『(セーラさんの共鳴姿、目立ちますね)』
 暗い森の中で白い装備は良く目立つ。だが、國光には只の囮としか見えない。
「それも向こうの作戦の内だろ? 散々目立って眼を奪うんだ。伏兵の奇襲を最大限に生かすためにさ」
 國光は慎重にその後を追い、木の陰や落ち葉の山へと慎重に目を凝らす。ビーコン回収の前に、さっさと兄の位置を確かめたかった。

 カイは木々を飛び移るテラスの後を追いかける。モスケールはフル稼働だ。
『(いつもなら前線に立ち続ける澪河が退くってのは何か妙だな。澪河の行き先に兄貴が潜伏してるのか? ……俺的には兄貴の方が厄介か……)』
 あれこれ考えながらゴーグルに映る戦況を確かめるが、機械には青藍のものと思しき反応しか映らない。将臣の居場所は全く確かめられなかった。
『機械でお手軽索敵は拒否ってか。ノリが時代劇のくせにやることはマジだな』
 カイはモスケールのゴーグルを外すと、代わりにマスクのゴーグルを下ろす。聴覚と視覚が強まり、木の幹の罅割れまではっきりと見分けられるようになる。長いストックのアサルトライフルを取り出すと、構えて慎重に野山を進む。
『って、何か考えろよお前も!』
「えー。左胡摩さんと殴り合いになりたくないしー」
 既にもふもふの事で頭がいっぱいらしい。カイは舌打ちした。
『クソッ! 篭絡されやがって!』
 文句を言いつつ、近くを飛ぶ怪しい鷹に向かって引き金を引く。しかし鷹は悠々と飛び去ってしまうのだった。

 通信機から聞こえる音に耳を傾けていても、周囲の喧騒はマイヤ達の耳に届く。
『もう既に交戦が始まってるようね』
「らしいな。だがまあ、妹の方は仲間に任せていいだろう」
 央は叢雲を抜き放つ。同時に雲か霧かと見紛う白いオーラが彼の身を包み込む。神経も最大限に研ぎ澄ませ、奇襲を受け流す準備は万端だ。
「……来い。先手はくれてやる。……その一撃で、お前の位置は掴み切る」
 一陣の風が吹き、木々がざわめく。その隙をついて、大気が僅かに揺れた。
「(来たか)」
 央は素早く前へ飛び込み、足元を狙った一矢を躱す。叢雲をその場に突き立てると、右手のガントレットを起動する。
『彼がこの地理を生かしても、彼らに射撃の弾道を変化させる技は無い。つまりは』
「お前の射線が通るなら、此方も同じだ。剣を摂れ、銀色の腕……!」
 手首の射出口に光が集まり、光が矢のように放たれる。何かに光が命中し、落ち葉を踏み分ける無秩序な音が響く。
「この光刃は、引き絞った矢より、撃たれた弾丸より早いぞ」
 位置は掴んだ。逃すまいと追撃の準備を整えるが、側面から白い影が突っ込んでくる。
『セイヤー!』
「ちっ」
 ブルパップの銃身で殴りつけに来たテラスの攻撃を、央は咄嗟に受け止める。避ける余裕までは流石に無かった。二者は間合いを切る。
『なるほど。横槍で潜伏機会を確保するってわけね……』
 兄貴は再び行方をくらませていた。テラスはしたり顔をすると、適当に撃ちながら退いていく。央は深追いせず、ビーコンを目指して駆け出した。

 昂は森林用の迷彩を頭から引っ被り、幹の陰から陰へと移りながら足元を窺う。テラスが突撃してきたどさくさに紛れて、彼も森に隠れたのだ。
「中々尻尾は見せないね」
『そうじゃなきゃ斥候は務まらんからな』
 央が捉えた地点へ向かったが、綺麗に潜伏の跡は隠されていた。それでも、踏み砕かれた落ち葉が点々と残っている。
『まあでも、一回身動ぎさせりゃあ後はどうとでもなる』
「次は確実に……」
 昂は慎重に落ち葉を探しながら、山を駆け登った。

「わぁ~松茸だぁ~貰っておこ~」
 その頃、木枯丸は木の陰から松茸を掘り起こしていた。すっかり他の面子とはぐれてしまったが、気にした風もない。菜葱は呆れるばかりだった。
『ほんに坊はまいぺぇす過ぎるのじゃ……』
「あ~、たぬきだぁ~仲間がいる~」
 落ち葉の影から狸が顔を出している。木枯丸は風のように駆け寄ると、しゃがみ込んで狸に尋ねる。
「にぇ~ボク千刃山の狸だよぉ~。今青藍君探してるのぉ~、どこだか知らない~?」
『はぁ……』
 狸に尋ねたところで知っている筈も無し。一人でいると本性がぽろりと出かねないから、菜葱は気が気でなかった。
「そ~だ~。そろそろ使わなきゃ~」
 木枯丸は被っていた菅笠を手に取ると、目の前に向かって投げつける。ぽんと煙が舞い、次の瞬間には木枯丸の分身を形作る。
 少年は手を振って、己の分身を先行させる。敵の攻撃を引き寄せるための囮だ。
「さ~おいで~。ボクはそこにいるよぉ~」

 やがて、枝の上から銃弾の雨が降り注ぐ。分身は消え去り、葉っぱ一枚残して消滅した。刹那、木枯丸は口元を歪めて笑み、銃弾の飛んだ方角に向けて刀を振り薙ぐ。刃が乱れ飛び、枝を叩き折る。軋んだ音と共に、テラスがどさりと落ちてきた。
『やっちゃった……』
「青藍く~ん。今度こそ剣客勝負しよぉ~」

 一方、エデンは山の中を必死に駆け回っていた。最初のアタックで殆どバラバラになってしまったのだ。フローラと一緒に、後衛だけが残されてしまったのである。
「もー! 置いてかないでよ……」
『参ったねえ。また青藍に当たられたらどうしようもないや』
『全くですね。誰かと合流を目指したいところですが……』
 エズラがそんな事言っている間に、エデンは視界の彼方に龍哉の姿を捉えた。ここぞとばかりに、少女は龍哉へ駆け寄っていく。
「ね、前衛に立ってもらっていい?」
「お? うーん……俺は出来るだけ個別で動きたいんだが……」
「大丈夫! 連れてくれたら連れてってくれただけの活躍はするからね!」
 そう言って、彼女は強気に笑ってみせるのだった。

●山中の攻防
 木枯丸は刃の雨を降らす。青藍は素早く飛び退いて躱し、刀に手を伸ばす。
「逃がしてくれそうにないか……」
 地面に突き刺さり、消える刃。その光を受けながら、木枯丸は義経が八艘を跳び回るかのように素早く青藍へ肉薄した。共鳴して重みの乗った一撃を、鋭く青藍へ叩きつける。しかし、青藍は半身になって躱してしまった。
 青藍が素早く切り返してくる。木枯丸はさっと飛び退き、再び刃の雨を降らした。青藍は頭上に光の盾を展開して刃を防ぐ。
「今だぁ~」
 落ち葉を蹴りながら懐へ潜り込んだ木枯丸は、白夜丸の太刀を大量に召喚し、青藍に向かって零距離で喰らわせた。刃は肩や太もものインナーを切り裂き、青藍を山腹に叩きつける。
「うくっ」
「とどめぇ~」
 木枯丸はさらに追撃を仕掛けようとするが、ふと足元が覚束なくなった。見れば、太ももに黒々とした刃が突き刺さっている。木枯丸は自重を支えきれずに崩れ落ちる。
「いつの間に~?」
「ごめん。咄嗟過ぎて、手加減できなかったわ」
 青藍の手に黒い闇が宿っている。どうやら彼女のロストモーメントをまともに喰らってしまったらしい。青藍はしかめっ面のまま、刀を納めて駆け去る。脚をやられた木枯丸は、それを見送る事しか出来なかった。
「逃げられたぁ~。でもいいとこまでいったから、次はボクが勝つぅ~」
『……味方じゃからな。殺してしまわんように気を付けるんじゃぞ……』
 独りで本性をじわりと滲ませた木枯丸に、菜葱は釘を刺すのだった。

 青藍にとっての苦境は続いていた。龍哉一行が、撤退する彼女を補足したのである。
「誰かが随分やったみたいだが、俺達も容赦はしないぜ」
 今度こそと、煌漣を抜いた龍哉は一気に踏み込む。青藍は慌てて叫ぶ。
「交代、交代」
『しょーがないなー』
 テラスは銃身で刃を受け止め、構え直して引き金を引いた。龍哉は身を伏せて躱すと、肩から当身を喰らわせ後退りさせる。テラスは背後の樹の陰へ回り込もうとした。
「冗談でも何でもなく、こいつなら樹ごとばっさり行くぜ!」
『先日拝見した天津風に触発されてますわね』
 テラスの隠れた木に向かって、渾身の疾風怒濤。樹が悲鳴を上げ、地面にどうと倒れ込んだ。もう彼女を庇うものは何もない。そこへ、魔導書を開いたエデンが踏み込む。
「お兄さんを攻撃して☆」
 アイドルらしい丸みを帯びた声がクリーンヒット。ゴーグルが黒く染まり、テラスは機械的に銃を背後へ構える。
『オーダー確認。澪河将臣への攻撃。行動開始』
 フローラも同時に動いた。テラスが構えた方向に、彼女もまた銃を向ける。
「気取られたと知れば、交差法で此方を倒しに来るぞよ」
『んなことわかってるよ。ただ、奥さんがいる男は強いからね』
 彼女の放った弾丸は、眩い光を放つ。光を切り裂いて矢が飛んで来たが、その鏃はフローラの肩口を僅かに掠めただけだった。
『ま、これで何とかなったっぽいかな?』
「お兄さんの居場所、発見!」
 意気軒昂のフローラとエデン。その眼前で、青藍は青くなって崩れ落ちていた。共鳴も解け、テラスもその場で倒れ込んでいる。
「やべえ怒られる……」
「どうした? もう終わりか?」
 龍哉は軽く挑発するが、青藍は力無く首を振るのだった。
「……勘弁してください。さっきもボコボコやられたし、もう無理っす」

 一方、樹上に潜みながら先行していた國光は、木陰で再潜伏を試みる将臣の姿を捉えていた。濃紺の道着は暗闇に馴染むが、彼の眼を誤魔化せはしない。
『いました! あそこ!』
「風景の中で動くものって、意外と目立つんだよね……」
 國光は将臣の位置を仲間に報せつつ、そっと弓を引く。放たれた矢は、将臣の肩に突き刺さる。それでも彼は微動だにしないが、最早その場所は明らかだ。
「じゃあ、後はお願いします」
 ジャングルランナーのマーカーを飛ばすと、ビーコン目指して國光は再び跳んだ。

 昂は迷彩を脱ぎ捨て、全速力で将臣への間合いを詰めていく。木々の影をすり抜けながらの速攻。将臣はその場から逃げ去ろうとするが、昂の方が数段早い。
「……流石に逃げ切れんか」
 将臣は構えるが、駆け付けたカイが銃弾をすぐさま浴びせる。狙いすました一撃は、回避すらも許さない。
『悪いな。あんたとは面識が無いから存分にやらせてもらう!』
「ああ! もふもふ柴犬が!」
 紗希が悲痛な叫びをあげる。カイは歯を剥き出すと、大剣に武器を持ち替えさらに将臣へと間合いを詰めていく。
『うるせえよ! お前猫の方が好きっつってただろ!』
 将臣は昂に向かって女郎蜘蛛のワイヤーを投げつける。昂もほぼ同時にワイヤーを投げ、二つの網は絡み合ってその場に落ちる。更に昂は将臣の懐目掛けて駆け込むが、将臣は弓を振るって牽制し、そのまま距離を取り直す。
「逃がしませんよ」
 昂は刀を脇に構えつつ、手首に備えた短剣を飛ばす。将臣は構わずその腕で受けた。
「素晴らしい速度だが、私を捉えるにはもう一歩手数が足らんぞ」
 カイへ反抗の一矢を飛ばしながら、将臣は叫ぶ。

「なら、この一手で詰みか?」

 将臣の頭上から声が響く。央は足裏に集めたライヴスで木々の幹に飛びつき、素早く飛び移ってその姿を将臣に捉えさせない。
「俺達相手に再潜伏を決めたその実力、確かに見届けた」
『参考にさせて貰うけど……地力は私達の方が上ね』
 咄嗟に払われる弓。央は将臣の頭上を飛んで躱し、その背後へと回り込んだ。そのまま剣の切っ先を将臣の首筋に当てる。カイと昂も、央に合わせて急所へ得物の切っ先を突きつけた。
「これでもう逃げられませんよ」
『チェックメイトだな』
 将臣は険しい顔をして三人の顔を見渡したが、やがてその眉を開いて武器を手放す。降参の合図だ。
「……なるほど。青藍は良い知己を得たな。君達と同じ戦場に立つなら勝ちは万全だ」
 二人は共鳴を解く。左胡摩は肩を竦め、三人に道を譲った。
『残りは十五分だ。ビーコンを納めるまでが訓練であるが故、最後まで気を抜かぬよう』
「わかっている。今頃誰かが……」
 央が山の上に目を向けると、國光から通信が入ってくる。
[ビーコンを発見しました。状況は]
「兄妹共に降参している。そのままこっちまで降りて九字原に渡してくれ。そうすれば万一にも遅れやしないだろう」
[了解です]

 十分後、全速力で風のように駆け下りてきた昂が、土塗れのビーコンを女性にそっと手渡した。彼女は手元のストップウォッチを止めると、ゆっくりと微笑む。
「確かに受け取りました。時間は二十五分。皆さんの勝ちですね」

●神社にて
 訓練を終えたエージェント達は、将臣の申し出に応じて神社の広場にやってきた。龍哉達は早速将臣と顔を合わせる。
「とりあえず、訓練の場を用意してくれてありがとな。こういうゲリラ型の戦いは、南米辺りで戦う時には色々参考に出来そうだ」
『生兵法は何とやら。付け焼刃で終わらせない事が肝心ですわね』
 将臣はこくりと頷く。
「我々は二人であったから連携を断つのも容易だったが、集団戦となるとそうもいかない。肝心なのは前衛と後衛の連携を断つ事だ。君達ならばわかるだろうが」
「ああ。これからそういう戦い方と散々ぶつかりそうだからな。気を付けておくぜ」

 一方、紗希は左胡摩に突撃していた。頭に向かって手を伸ばし、冬毛のもこもことした頭を撫で回す。
「あー、もふもふだ」
『……あまり、斯様な扱いには慣れていないのでほどほどにして頂けると』
「えー? 澪河さんに撫でて貰ったりしてないんですか?」
 紗希はあごに手を伸ばして首筋をわしゃわしゃする。その質問に、彼は悲しげな眼をした。
「それが、どうにも私とはスキンシップを取ってくださらぬのですよ。煙たがられているといいましょうか……青藍は私にとっても大切な妹です。陰に日向に御守りしたいと私は――」
「へー」
『もういいだろ! いつまで撫でてんだ!』
 べたべたを続ける紗希を見て、ムキになったカイは彼女を柴犬から引っぺがすのだった。

 社務所から顔を出したウォルターは、ティーカップに紅茶を注ぎ、央と昂に差し出していた。訓練には顔を出さず、ずっと準備していたらしい。
『お疲れ様です。訓練の後には紅茶をお勧めいたしますよ。訓練で高まった神経を和らげるには持ってこいでして』
 二組は頭を下げつつ受け取る。ふわりと漂う香りが、彼らの鼻をくすぐった。央は柔らかく微笑み、昂を労う。
「お疲れ様です。こうして同じ場で対面するのは久しぶりですね」
「以前同行したのは博物館でしたっけ。怪盗気取った子供が相手だったような」
「ああ、そうでしたね。あの時は色々と忙しかったので……今回九字原さんの戦い方を改めて見る事が出来て良かった」
 ベルフは煙草の煙を燻らせる。その脳裏では、自らの戦い方と央達の戦い方を具に比べていた。
『俺達とお前達、タイプは同じだが戦い方は違うからな』
『お互いに参考にしたいものね』

 一方、一緒に行動する事になったヴィオ達とエデン達も互いを労い合っていた。
「お疲れさまー」
『お疲れだね。支配者の言葉を使って洗脳して、兄貴の居場所を探るなんて、中々いい作戦だったと思うよ』
 フローラがぺらぺら言うと、エデンは満足げに胸を張る。
「でしょ。他にも足元を攻撃して機動力を奪おうかなとか、色々考えてたんだよね。まあ先にやられちゃったけど!」
『機動力を削がれてしまっては、あのお二人を降参させられても、結局身動きが取れず間に合わない、となりかねませんでしたからね』
「機動力を奪うのは、いつでも有効な戦術という事じゃな」
「積極的に狙うよ!」

 國光は社務所前にいた青藍の様子を窺っていた。私服になった彼女は、テラスに包帯を巻かれていた。
「お疲れ様です。……大丈夫ですか?」
「まあ、何とか。面子を見た時点で“あ、終わった”とは思ってたんで……」
 青藍は苦笑する。メテオはぺこりと頭を下げる。
『またこんな機会があれば、お稽古をお願いしたいのです』
「ええ、此方こそお願いします」
『あ、でもまずはウォルターさんに紅茶に合うお菓子の作り方を教わりたいのですよ。帰る前にお願いしておくのです』
 そんな事を言うと、社務所に引っ込もうとするウォルターの背中を追いかけていった。それを見送り青藍は呟く。
「大丈夫かなあ……あの人ティータイムの歴史の講釈から始めるから……」
「メテオもかなり凝り性だし、むしろそれくらいのがいいかもしれませんよ」

 一方、社務所の屋根に昇った木枯丸は、一つの噂を聞きつけていた。この神社の本殿に、折れたる神刀が収められているという噂を。
「“天津風”かぁ~」
『色々と曰く在りそうな刀じゃな』
「御神刀かぁ~」
 口調はのんびりしているが、その眼の色が若干変わっている。菜葱は釘を刺した。
『……神社の神刀に手を付けるのは止めにしとくのじゃ。如何に祟られるかわからんぞ』
「わかってるぅ~。大事な刀だもんねぇ~」
 答えが上の空だ。菜葱は深々溜め息を吐く。
『本当にわかっとるんかのぅ……』

 澪河神社の動く狛犬 終

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧


  • 九字原 昂aa0919
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    フローラ メタボリックaa0584hero002
    英雄|22才|女性|ジャ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
  • 闇を暴く
    畳 木枯丸aa5545
    獣人|6才|男性|攻撃
  • 狐の騙りを見届けて
    菜葱aa5545hero001
    英雄|13才|女性|カオ
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