本部

終局、託された音色

鳴海

形態
ショートEX
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
15人 / 4~15人
英雄
15人 / 0~15人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/10/19 14:56

掲示板

オープニング

● 巨大戦艦沈黙 
 その戦艦は宇宙からの一撃によって沈黙した。
 海が激しく震えるほどの大爆発。衝撃波ARKを揺らし転覆するのではないかと思わせるほど。
 DARKはその硬い装甲もルネでできた部品も飛散させ半身を持って行かれ、まるで崩れたケーキのように無様にその姿をさらす。
 その中心、かろうじて沈まないでいるDARKの残がい、それを押しのけて水色の何かが姿を現した。
 全身煤で汚れていて、ひび割れている人型のそれ。
 ガデンツァがARKを見すえている。
「ふははははは! よく、打ち破ったものじゃ。自身の現身、性能も主らのARKと大差ないこの戦艦。我が謀略を」
 壊れたように笑いだすガデンツァ。
 その腕がかけるのも構わずそばにあった鉄板を叩いた。
「それで勝ったつもりか! わらわはまだここにおるぞ!」
 ふらふらとした足取りで前に一歩、二歩。
 青空によく響く声でガデンツァは叫ぶように挑発する。
「わらわは何度でも、お主らの前に立ちはだかる。よいのか? このまま逃がしてしまっても。そのたいそうな砲塔でわらわを打ち抜けるとでも」
 告げるとガデンツァの足元からルネが這い出してきた。
 そのルネはガデンツァを補修するように絡みつくとその姿を鎧とスピーカーに変える。
「最終決戦じゃ。生きるか死ぬか。命をかけて我と戦え、リンカーども」
 吠えるような叫びは確かにARKに届いている。
 船内の者達は顔を見合わせた。
 これは明らかな罠。誰も行くものがいなければARKの全砲塔を持ってガデンツァを粉砕するのみ。
 しかし。それでもガデンツァと戦いたいというものがいるなら。
 止めはしない。
 見守る。
 それがH.O.P.E.の決断だ。
 あの闘技場に向かうものがいるならば、名乗りをあげよ。
 消耗していても敵はガデンツァ。何があるか……わからない。
 ただ、完全なる勝利のために。
 ガデンツァとの因縁に終止符を打つために。
 君たちは乗り越えなければならない。
 この、終末の音を。


● 爆発までの秒読み
 ガデンツァはドローエンブルームで瓦礫を撤去すると。半径30メートル円程度の戦闘フィールドを整えた。
 鉄骨や鉄板。瓦礫がそれなりに残り凸凹としていて足がとられそうであるが贅沢は言っていられない。
 ガデンツァは一仕事終えると瓦礫の山にもたれかかるように座りこんで空を見た。
 その視界に広がるのは空。
 けれどなぜだろう、空のイメージに何か黒いものが重なる。
 まるで闇に覆われていくかのような、イメージ。
 全てを飲み込む邪悪。それに自分は抗えなかったような。
「ははは。贋作……か」
 乾いた笑いが漏れる。
 リンカーたちはしきりに告げていた。
 贋作、偽物と。
 それを認めようとはしなかった。
 ガデンツァは自分。唯一無二の機能。
 しかし。それは違ったようだ。
「本物であれば、全てをなせたのか」
 違う。本物が殺せなかったから自分が生まれたのだ。
「本物が世界を滅ぼせていたらな。わらわはこれほどに世界を滅ぼさずにすんだ」
 ガデンツァはちらりと君たちに視線を向ける。
 いるのは気が付いていた。
 独白もきかせていた。それでいい。今まで散々ことばを叩きつけられてきたのだ。
 自分の最後の言葉くらい聞いてもらいたかった。
「お主らは何を知り。何を思った?」
 立ち上がるガデンツァ。
「オリジナルにあったのか? 奴は嘆いておったろう? 世界を救えなかったこと。壊せなかったこと」
 
「責任を持つ者が、責任を果たせなかったせいでお主らの世界は危機にみまわれた。それは他の世界にも癒えることじゃが。王は飲み込みすべてを力とする」

「軍に見えるか? その実『個』。何せ誰も王には逆らえん」

「わらわはお主らの悲鳴が聞きたかった。人など守る価値はなく、滅ぼされる者だと思えたなら、わらわは機能として肯定される」

「しかし、なぜ。なぜお主らだけが生き残った。なぜわらわで勝てなかった。他の十三騎もなぜ……倒せた」
 ガデンツァは告げるとスピーカーを展開した。聞こえない音圧が周囲をびりびりと震えさせているのがわかる。
「その力を王に向けさせるわけにはいかぬ。ここで潰えろ希望を欺く者達よ」
 告げるとガデンツァは足を踏み鳴らす、その瞬間。DARKの残がいの一部が崩れ、無数の電光掲示板が露わになった。
 そのカウントは30。おそらく分。
 その時間内にガデンツァを倒しこのDARKの残がいから脱出できなければ。
「膨大な霊力で焼き尽くされ、消えろ」
 DARKの炉心を破壊しに赴いたリンカーたちの二の舞ということだろう。

解説



目標 トリブヌス級愚神 ガデンツァの撃破

トリブヌス級愚神 混沌の十三騎 ガデンツァ
 ガデンツァは現在衰弱しています。
 その戦闘力はトリブヌス級の名にふさわしいものですが、生命力が大幅に低下しているのです。
 ただ、攻撃性能に関しては衰えるどころか性能が増しています。
 これがガデンツァ本来の戦闘能力です。
 代わりにルネを操ることができません。
 また、精神の衰弱が激しく意識の混濁が生じています。
 自分の今までの記憶。前世の記憶。そして紛れ込まされた何かの記憶。
 芽生えた願い、塗りつぶされた想い。全てがごっちゃになって思考によって統一されずガデンツァの中にあります。
 今、全ての謎を暴く時ですし、ガデンツァを倒す時でもあります。 


●バトルモード
 
・ドローエン・ブルーム・フルオーケストラ
 アクアレル・スプラッシュ・フルオーケストラ。
  二つとも、威力射程、範囲共に増大していることに注意。

・イミタンドミラーリング
 ルネを操る能力と共に現在消失。
 そもそも、それをできる体力があるかも怪しいところ

・シンクロニティ・デス・レクイエム
 ガデンツァ最大の攻撃術式だが、多重スピーカーを使うことによって射程、対象数の弱点を克服したスキル。
 射程50SQ程度に魔法、物理両属性の極大ダメージを与える。
 場合によっては一撃で重体の可能性もある技。
 しかし膨大な霊力を失う技でもあり、これを使用すると生命力を消費する。
 

リプレイ

プロローグ

 運命が嵐となって通過した。
 そう思わせるほどに海上はこの世のものとは思えない光景に塗り替わっている。
 空は晴れ。夜空が見える。今日は満月だったか、月と星は申し分ないほどに地上を照らす。
 今夜は明るい夜だった。
 海は穏やか、まるで先ほどの戦いなど知らないようなそんな表情を見せる。
 その海の真ん中に傷ついた戦艦ARKが鎮座している。
 その主砲はDARKへ向けられていた。
 DARKにはすでに乗組員が一人。むき出しの戦闘フィールドでガデンツァが謳っている。
 それは意味のない旋律のように聞こえた。
 ただそれはとても、物哀しく聴く者の声を揺さぶった。
『斉加 理夢琉(aa0783)』はいのりをささげ、声を重ねる。
 理夢琉は彼女の歌を聴き、自分の歌を届ける。
 この連戦で理夢琉は嫌というほど彼女の歌に接してきた。
 音響く護石、サウザンドソング、黒い結晶に想いを込め『ガデンツァに希望の歌を届けよう』そう懸命に心を開き続けたことを
『アリュー(aa0783hero001)』は知っている。
「ひとりぼっちのガデンツァ……」
「ああ」
「私達の歌や言葉が、王の支配を薄め
 素の彼女の言葉が紡がれるなら
 心が歌われるなら……」
 理夢琉は決意を固め黒い結晶を握り直した。
「これで最後か…………後悔するなよ」
『レオンハルト(aa0405hero001)』がARK甲板を踏み鳴らす。
「はい。もう何があっても目をそらしません」
『卸 蘿蔔(aa0405)』が告げ振り返る。
 そこにはぼろぼろの傷を手当てしてそこになんとか立っている仲間たち。
 共にガデンツァを追い続け。
 そして今、この場にたどり着いた勇士たちが募っていた。
「最後だから、もう後悔の無いようにする」
『蔵李 澄香(aa0010)』が告げた。
 かつて彼女が同じ思いを抱いた時、その戦いが茶番だったと知った時。
 その心はどうしようもなく折れたはずだ。
 なのに今ここに立っている。
 その思いはいったいどこから来るのだろうか。
「相手がデータ生命体なら、無念が霊力として残留する可能性があります」
 全員に告げたのは『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』
「ガデンツァが受け入れるくらいに負けを認めさせる必要があります」
 勝とは敵を滅ぼすことに非ず。
 その心まで屈服させ、もう抵抗できないように痛めつくす。
 ……………………そうクラリスは言いたいわけではない。
「ルネさんの魂を救いたいんです」
 澄香が告げた。
「この通信を聞いている皆さん、一緒に希望の音、ルネを歌ってください」
 その澄香の姿は全世界に放映されている。
 かのリンカーたちの勇士は世界がかたずをのんで見守っていた。
 アイドル達、自分の旅館。お気に入りの喫茶店。自分の生活範囲だけではない。
 雪まつりで接した町の人々、自衛隊のみんな。サマーフェスからずっと追いかけてくれているファンたち。
 全世界の同胞たち。
 彼らに向けて澄香は頭を下げる。
 そのパフォーマンスを眺めながら少女はチョコレートをかみ砕く。
 腕の包帯を巻きなおして五指を伸ばしたり曲げたりする。
 感覚は戻っている、痛みもない。ただ血が足りない気がした。
 ただH.O.P.E.のチョコレートはすごいものでみるみる力が戻ってくる。
 それを眺めている。 
『無月(aa1531)』その視線に気が付いた『希月(aa5670)』は頬を赤らめる。 
「け、決して食い意地が張っているからではありませんからね!」
「大丈夫ですよ。希月様の年ならその位じゃ太りませんって」
 告げた相棒に希月は罰の悪そうな表情を向ける。
「ザラディア様……フォローになっていないと思うのですが……」
 視線を気にして希月が無月に向き直ると、無月は小さく微笑んだ。
「うう、せっかく里を出たのに、こんな恥ずかしい姿を」
 その言葉に無月は首を振った。
「いや、希月は強くなった。私が保障しよう」
 告げる言葉に希月は頬を赤く染める。
「ここまでついてこれるようになった。希月を同じ里のものとして誇りに思う」
 次の瞬間夜に響く歌が変わった。
 それは攻撃の色を伴ってリンカーたちに差し向けられるディソナンス。
 遠いためリンクレートに影響はないが、それでも無視するわけにはいかない。
「遂にこの時が来たか……彼女を『救う』時が……」
 告げる無月に頷く希月。
「最後の戦いですね。迷える魂に月の光の安らぎを……」
「あくまでも俺達の戦う意味はアイツを救う為、これだけは譲れねぇ」
『ザラディア・エルドガッシュ(aa5670hero001)』の言葉を受けて『ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)』はその刃を月に煌かせる。
「行こう! ボク達の戦いはいつだって『救う』為の戦いなんだからね」
 頷く澄香は『小詩 いのり(aa1420)』と並び立ち。
 その翼を広げた。音階の翼。
 それは分離しいのりと澄香の周囲を舞う。
「これで、本当の本当に、最後だ」
 ボートの準備が完了した。これよりリンカーたちは死地に乗り込む。

第一章 死音

 ボートの上でも相変らず『阪須賀 槇(aa4862)』はキーボードを叩いていた。
 ARKの電波を延長してカメラを海上に放流する。
『阪須賀 誄(aa4862hero001)』が動作チェック。
 これにて準備完了。
 これが希望の歌、大いなる絆の歌、やがて【暁】いずる夜へのレクイエム。
 これからの戦いはすべてネットに中継される。
 ネット配信のタイトルはこうだ。
 動画カメラで歌姫の姿を生放送してやるから、この歌を一緒に歌ってくれ。
「よっしゃおまぃら! いまこそ歌姫様のぱんつを拝む時! この阪須賀さまに続くおおおおおお!!」
――………………。
 拳を突き上げる槇に誄は絶句した。
「冗談だお弟者、マジギレ顔すんなお」
 その直後である。

「シンクロニティ・デス・レクイエム!!」

 全てを撃ち砕く死の音色が開幕の狼煙となる。
 水場から上陸するボートの一つをガデンツァはそれを狙い撃つ。
 水は蒸発し、皮膚は泡立ち、血が沸騰し凝固するその一撃をリンカーたちはボートを犠牲にして回避する。
「さぁ、こい、リンカーども!」
 最初に上陸したのは無月と希月。
 二人は左右から戦闘衣装をまとったガデンツァへ奇襲を仕掛ける。
 しかしその刃程度今のガデンツァは捌ける。
 もとより反射神経はずば抜けているのだ。
 二人の攻撃を片腕で受け止めるとドローエンブルームで吹き飛ばした。
 希月は海へ叩き落とされ、無月は鉄骨に叩きつけられる。
「いよいよ、って感じなのかしらね」
 その声に振り返る。ガデンツァ。
「泣いても笑っても、これが最後。
 これが散々言われてきた、私を殺す最後の機会ってやつよ」
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』がそこに立っていた。『榊原・沙耶(aa1188)』とは共鳴済み。
 ガデンツァはゆっくり歩み寄るとその視線を真っ向から捕える。
「言われずとも、そうする」
 シンクロニティ。
 世闇に響くその声を遮る銃声があった。
 腕が上に弾かれ。がら空きの胸に弾丸が迫るも、ガデンツァはそれを間一髪で回避。
 バックステップ後、踊るようにその場で回転、突きだそうとする腕を『イリス・レイバルド(aa0124)』が盾ではじいた。
「イリス! アイリスゥゥゥ!」
 空いた右腕を突きだそうとすると其れを沙羅が弾き『藤咲 仁菜(aa3237)』が背後から足をかる。
 体勢を崩したガデンツァはへ、イリスとサラが迫るもガデンツァは真下に風を送って自分は上空に退避。
「アクアレル・スプラッシュ・フルオーケストラ」
 足元から無数に 打ち出される水の柱。
 それを仁菜は前転で回避。
「リオン!」
――俺より仁菜の方が耳がいいだろ! 絶対。
 『リオン クロフォード(aa3237hero001)』の協力のもと仁菜は音を素早く聞き分けて回避する。
 槇が分析してくれたのだ。
 ガデンツァはフェイントで音を入れてくるが。本物の音階は隠せない。
 ミファソと流れれば、そこから水が噴き出すのだ。
――ははは、こうやって相対するのは久しぶりかな、ガデンツァ。
 『アイリス(aa0124hero001)』がそう警戒に笑うとガデンツァは肉薄するイリスの刃を身をそらして回避。
 水の柱をイリスは盾でそらしながら側面から剣を叩きつける。
「この耳障りな歌はお主か!」
――ご名答。
 戦場にはいつの間にか妖精の歌が響いている。
 それが確実にガデンツァの力を削ぐ。
――ずいぶんと余裕がないみたいだな。配水の陣というやつかい?
「いや、ここで何が何でもお主らに地獄をみせるという心意気じゃ!」
 鋭くとがるガデンツァの指先。それをイリスは盾をぶつけて押しつぶす。
「シン…………なに?」
「いい加減、僕らもその技は飽きたってことだよ」
 身を丸めるようにイリスは盾の影に入り回転。そのまま飛んで足をつきガデンツァの懐奥深くへ。
 そのまま刃を翻してそして、ガデンツァへ渾身の刺突を。
「煌翼刃・螺旋槍!」
 それはガデンツァの硬質な水晶を甲高い音で削る。
――イリス。
「解ってるよ」
 イリスはいったん後退する。
 命を搾り取るような攻勢に出ているガデンツァ、死音もレクイエムとなり範囲にばら撒ける今こそ警戒が必要なのだ。
 実際、ガデンツァは時と場合でシンクロニティデスとレクイエムを使い分けている。
 技が多彩だからこそ、不意を突かれてレクイエムを受けないようにしなければ。
 今のイリスでもあれを受ければまともに戦えるかどうか怪しいのだ。
「いったん下がって」
 沙羅が間に入ってガデンツァのヘイトを獲る。
 その間にさりげなくイリスを回復させた。霊力を補てんイリスは再び脚力を取り戻すと右に走り出す。
 ガデンツァの死角に回り込むように。
「ここに来なくてもあなたは倒せた」
 そう仁菜は真っ向からガデンツァを見すえた。
「なに?」
「ここに来なくても主砲を撃てば倒せた」
――それでもここに来たのは。
 リオンが告げ、仁菜が言葉を津具。
「来なきゃいけないと思ったから」
――王の駒であったガデンツァの思いを受け止めて。
「私達は前に進まなくちゃいけないの」
「わらわは駒などではない!」
 ガデンツァは拳を叩きつける。単なるパンチ。しかし腕のギミックが作動、スピーカーが露わになると仁菜を吹き飛ばす。
 風音フルオーケストラである。
(みつけた)
 やはりガデンツァの戦闘装束にはスピーカーが仕込まれている。
 あれを破壊すれば弱体化するはずだ。
「だったら!」
 仁菜が動いた瞬間三方向から銃弾が浴びせられる。それは腕、手首、膝を撃ちぬきガデンツァの動きをキャンセル。
「く! わらわの旋律を。音を邪魔するでない!」
 がむしゃらに発揮された音は周囲を根こそぎ薙いで吹き飛ばす。
 最大出力のドローエンブルームがリンカーたちを戦場の外枠へ大きく後退させた。
 その金切り声のような音色を聴いて無月は声をあげる。
「違う!私が聴きたいのはこんなものから紡ぎ出される歌ではない!」
「なに?」
 無月は肉薄した。水の柱をかいくぐり接近し、後ずさるガデンツァへとどんどん距離を詰めていく。
「貴女自身の魂の想いを込めた歌を、真実の声を聴きたいんだ!」
「何をバカな」
「ガデンツァさん……、私は貴女を救いに来た。怒りも憎しみもない。貴女の魂を苦しみから開放する為に、私はここに来た」
「わら……」
 ガデンツァの表情がその時歪む。
「救いが必要なのはわらわではなく」
 そしてガデンツァの左腕が鋭くとがった。
 それは打ち出される杭のように高速で射出されるが。
「下がってください!」
 希月がその身で代わりにうける。
「ちぃ」
 音階を無月に合わせて調整していた、ガデンツァは距離を取り腕の形を作り直す。
 その希月の影から無月は分身して飛び出した。
 左右に音を放つガデンツァ。そのがら空きになった胸元に希月は刃を突き立てる。
「この!」
 希月の頬を張り倒すガデンツァ。地面に転がる希月を見下ろしてガデンツァはその腹に足を乗せた。
「お主らの言葉には中身が無い、すくうじゃと? わらわを? わらわをどうすれば救えるかなど、わらわですら分からぬというのに」
 そう希月に突き立てようとした腕を無月がとった。
 ガデンツァの視線をまっすぐ、受け止める。
「だから、皆がいる。ガデンツァ、あなたは一人じゃない」
「一人だとも。神は一人。世界を滅ぼす者は孤独でよい!」
 次の瞬間放たれた弾丸がガデンツァの瞳をえぐる。
「がああああああ! この銃弾。忘れぬ。この痛み。お主か! 遊夜!」
 その声に瓦礫に身を隠した『麻生 遊夜(aa0452)』は腰をあげた。
「中々に長い付き合いだったが……消えるのお前さんの方さ、ガデンツァ」
――……ん、そう……一切合切、全部ここで終わり。
 そう『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』が告げる。
 ガデンツァはそんな遊夜に届くように音階を調整、腕の中で風を圧縮。
 それに遊夜も真っ向から答える。
 言いたいことは色々あったように思うが最早どうでもいい。
 今ここで我らはガデンツァを倒すことにのみ尽力するのだ。
「お前さんにも色々あったことは理解してる」
 皆を、そして自分を帰還させる為に。
――……だからこそ、ボク達が……H.O.P.E.が、貴女を倒す。
 ユフォアリーヤの声を切り裂いて弾丸が飛ぶ。ガデンツァから放たれた弾丸はそれと接触。お互いを食らいあうように空中で停滞し。全てを吹き飛ばすような暴風がその場で爆発した。
「お前はもう許されない存在だ」
 風で巻き上げられた海水で髪を服を濡らしながら遊夜は叫ぶ。
「だが残るものはあるはず」 
 嵐のような戦闘の余波の中遊夜は上陸してくる仲間たちを見る。
「俺達はお前に届く言葉を持っていない」 
 弾丸は届く、だがそれではだめなのだ。だから。
「俺は彼女たちにゆだねることにした」
 この戦いの命運を。
「澄香姉さま」
『魅霊(aa1456)』が水と風が荒れ狂うDARKのヘリで澄香を呼び止める。
『R.I.P.(aa1456hero001)』が静かに魅霊の言葉を聞いていた。
「私はあなたにずっと寄り添い、あなたの想いを遂げていただくことが最上の喜びだと思っていました」
 澄香は少しだけ振り返る。桜色の髪。ステージとは違う硬い表情。視線が魅霊に向けられると少し表情が和らいだ。
「……私のために、じゃなくて魅霊ちゃん、あなた自身がやりたいことが見つかったなら私はそれを応援したいと思ってる」
「ありがとうございます。」
 最後の闘い。
 魅霊は姉と慕う澄香を護り、その悲願を遂げたい。
 そう思っていた、しかし。
(私にはどうしても確かめたいことがある)
 魅霊は澄香と考えを方法をたがえた。
 二人は走り出す。 
 島の真ん中でイリス、仁菜、無月、希月が四方からガデンツァへ攻撃を仕掛けているが、さばかれ吹き飛ばされるを繰り返している。
 このままではじり貧である。
 ただ、そのじり貧で消耗しているのはガデンツァの方に思えた。
 ガデンツァこそ短期決戦を目指さなければいけない。
 なのにそれができない。
 そんな風に蘿蔔には見えた。
「スピーカーを壊しましょう。元のスペックのガデンツァなら」
 まだどうにでもできる。
 そう蘿蔔はトリガーを絞る。
 放たれた弾丸はガデンツァの腹部のスピーカーにめり込み火花を散らした。
 ノイズがまき散らされ、集めた風は爆発するように周囲に散る。
 直後アクアレルスプラッシュ。
 足元から伸びるそれを、蘿蔔は辛くも避ける。かすった手の甲に滲む血を振り払い膝立ちになって銃を構えた。
 そして放たれた銃弾は指先で水を操っていたガデンツァの人差し指をへし折った。
「ぐあああああ!」
「あ、ごごめんなさい」
「いや、いまだお、畳み掛けるお」
 一瞬怯んだガデンツァへ遊夜、そして槇が銃弾を浴びせていく。
 ガデンツァの低い防御力の前に遠距離攻撃は脅威だ。
 それを槇は理解している。
――……OK兄者。外せば多分、俺たちまるごと消し飛ぶぞアイデアだぞこれ……イチかバチかだ。
 告げたのは誄である。
「大丈夫だお弟者。科学にイチハチなんてないお」
「忌々しい!」
 ガデンツァが槇に全スピーカーを向ける。だが音が発されることはない。
 目の前に立ちふさがったのが『世良 杏奈(aa3447)』だったから。
「お主……」
「ガデンツァ、話をしましょう?」
 微笑みかける笑みはいつもと変わらず。
「思えば私たち、戦ってばかりだったし」
 まるで幼子に言ってきかせるような柔らかい表情だった。
「わらわに話すことなど無い」
「私にもないけど、みんなにはあるみたい」
 ガデンツァは視線をあげた。そこにはリンカーがそろっている。
「ガデンツァ、キミとの因縁も今日までだよ」
 いのりがイリスを抱えて一時戦線を離脱、追撃しようとすると杏奈が間に割って入った。
 ドローエンブルームで吹き飛ばそうとするとするも仁菜と沙羅が間に割って入り。
 スピーカーを開こうとすると澄香が目くらましに魔術を放ち、いったん離脱した。
 その爆炎が消え去ってみると。目の前には『煤原 燃衣(aa2271)』が立っている。
 その燃衣は体に染みついた海水をもうもうと蒸発させながらその場に立っている。
 リンクバースト、膨大な熱量が燃衣の体を熱していた。
 しかし意識は『ネイ=カースド(aa2271hero001)』に奪われている。
 いや、先に目覚めたのがネイだった、ただそれだけだ。
――それで? 完璧に壊して何とする?
「なに?」
――お前が言い出したんだろう? 世界を壊すと。で? 世界を壊すとどうなるんだ。
「どうも何もない、それがわらわの務め。わらわの存在理由」 
――その先はどうする。
 ネイは問いかける。
「逆に、その先を恐れたからこその我じゃ。何を言うておるのかのう、この記憶はいったい誰の」
――……お前は本当に壊したかったのか?
「なに?」
――違うな。お前はお前たちは。生きたかった筈だ。
「わらわに生きるなど」
――共に生きたかった筈だ。
 その言葉にガデンツァは顔をあげた、その表情は今までみたことのない怒りの表情に塗り替えられていて。まるで人間の表情のよう。
「生きられぬ世界だった! 王が攻め入ってきたのじゃ。普通の世界等三日と持たぬ。それはお主らの世界が例外なだけじゃ」
 ガデンツァは拳を振り上げる。それは膨大な霊力を纏っていて全てのスピーカーに充填され、スピーカーが開かれる。
「お主らには英雄が介入した。救いがあった、しかしわらわの世界にはそれが無い! なぜじゃ。なぜお主らだけ」
 その放たれる歌はすべてを破壊する。だがその一部は杏奈の手によって捻じ曲げられた。  
 見えざる手で軌道を変えられたのだ。それは無意味に終る。
「な……」
「私、結構あなたのことみてるのよ」
「なぜじゃ! なぜお主らはそこまで」
 その時魅霊が前に出た。
 杏奈の静止を振り切ってガデンツァの腕に取りつき。方向を変え魅霊がただ一人、その歌の旋律をその身にうける。
「魅霊ちゃん!」
 轟音が空を割る。さらに空を裂く銃声。三つの銃弾がガデンツァの腕を射止めたのだ。
 魅霊は血を全身から吹きだしながらその場に転がった。
「魅霊ちゃん!」
 澄香は叫んでいのりを走らせた。
 いのりへ攻撃しようものならミニクラリスミカでガデンツァの周囲を囲って視界を 閉ざす。
「すきあり!」
 ミニクラリスミカが戸惑うガデンツァの体に取りつくと、その腕力だけでスピーカーをはがそうとし始める。
「邪魔じゃ!」
 ドローエンブルーム。その間にいのりは魅霊を連れていったん後退。
「ねぇ、ガデンツァこの歌を聴いて」
 澄香が謳い囁く。のは希望の音。その独唱。  
「わらわはおちょくっているのかの?」
「あなたは間違っているって言いたいだけだ」
 澄香は堂々と言い放った。
「メモリー? 人を排除するためだけの装置? 違うよ」
――貴方は私たちの希望の音で、友人です。
 澄香はガデンツァの胸に灯る一つの灯りに向けて告げた。
「こんな結末はダメだ! 立ち向かうんだ!」
――その心さえあれば。
「どうにかなる!」
「まって、魅霊ちゃん。まだ体が」
 その言葉に澄香は振り返った。
 いのりの静止もきかずに魅霊は分子結合の弱くなったぐずぐずの両腕で体を支える。そしてガデンツァを見すえて言った。
「私は思ったのです、ガデンツァは、何故歌うのか」
 魅霊は気が付けばガデンツァの歌に身を投じていた。
 それは仲間を守るためだけではない、ガデンツァの歌を聴きたかったのだ。
 恐れも無く、感慨も無く、ただ彼女の主張を聞きたかった。
 その身が裂かれるのも構わず。
「さぁ、ガデンツァ、これからは今まで以上に恐ろしい戦いが始まりますよ」
 そう不敵に笑う魅霊。
「何をいうておる」
「ここにはもう、あなたの敵はいない」
 魅霊は血をぬぐって告げる。
「あなたの歌を聴きに来たファンだけがいます」
 その言葉にあたりを見渡し、ガデンツァは笑った。
「あなたの歌をきかせてください」    
 蘿蔔が告げる。
 無月と希月も頷いた。
 その言葉におかしくなってガデンツァも笑う。
「はははは、死にたがりばかりと見える。しかし、悪くない。その言葉を地獄で後悔しているお主らの姿を想像すればのう!」
 しかしガデンツァの表情は明るい。
 爪を振り上げ戦闘は第二局面に、その前に一人の少女の活躍を語らなければならないだろう。

第二章 この世界を守って

 DARKは大破した、と言っても全ての機能が死んだわけではない。とりわけDARKの下層部分に内蔵された機能、エネルギーを生み出す副炉は死んでいない。
 さらにDARKを動かすために貯蔵されたエネルギーも。
 DARKに残された炉のエネルギー反応は増大していた。
 このままではいつ大爆発が起こるか分からない。
 だから『彩咲 姫乃(aa0941)』は一人DARK内部に潜入していた。
 戦闘の振動を感じながら暗く瓦礫の転がる廊下を歩く。その手では白いキューブを弄びながら、問題の炉心を目指している。
――ご主人がでんつぁのこと許そーとか思いますニャ?
 歩いていると『朱璃(aa0941hero002)』が問いかけてきた。
「いや、許そうとか思ってる人には悪いが全然だな。――奴が刻んできた傷跡を思えば追い詰められて可哀想な部分が見えてきた、ってーどじゃ引っ込みつかない人も多いだろ」
――ご主人も目の前でとらうま製作されましたしニャ。
 そう、自分もその一人なのだ。
 目蓋を閉じれば蘇る。
 あの、少女が助けに来てくれた嬉しさ。そして赤く染まったガデンツァの腕。
 少女の瞳から光が消えていくさま。
 病室での言葉、やり取り、託された想い。
 冷たくなった体。
 鳴き声と鳴き声。
 その思い出は霞むことなく、まだ姫乃の胸の中に存在している。
 だから、ガデンツァと相対してしまえば他のメンバーの意志とは関係なく、彼女を攻撃してしまう気がした。
 全てをぶち壊しにしてでも、彼女の悲鳴が聞きたい。
 そんな思いもあった。
「でもさ、俺に思いがあるように、他の奴らにも考えがあるんだろ? だったら邪魔はできねぇよ」
 姫乃は迷いなく暗がりを進む。
 エマージェンシーによる霊力探知能力と、鷹の目を炭鉱のカナリア扱いで先行させて危険を察知。
 たまった霊力が毒素になるような状況でなければ多少船内が壊れた状態だろうが、小柄な体格とバランス感覚で獣の速度で突き進むことができた。
 第一目標は動力炉があった場所。だがたどり着いてみれば炉は沈黙している。
「ここじゃねぇな」
 生きている副炉はすぐ周辺で見つかった。
 姫乃はその分厚い扉を開けることを諦めて斬りきざんだ。
 すると吹き荒れる霊力を伴った熱波。肌がジワリと焼けていく、長時間ここにいれば体は真っ赤になってしまうだろう。
 そんな熱を発し、白んだ炉がそこに鎮座していた。
「キューブを接続できれば」
――遙華は人間しか使えないっていってましたにゃー。
「ただ、機械に接続できれば永遠とエネルギーを浪費できるかもしれないって言ってたろ」
 姫乃は機械が分からない、当然だろう。
 姫乃はまだ幼いし、学校の勉強にアイドル稼業、リンカーで手一杯である。
 それでも、遙華にうけたアドバイスと設計図と、その場のノリを頼りにコードを引っこ抜いては接続を繰り返す。
 なかなかに冷や汗をかく作業である。
 だが、うまくすれば爆発自体をなかったことにできるはずだ。
――こんな半壊通り越して九分九厘壊のような惨状でどっからこんなえねるぎぃ発揮してると思いますデス?
 そうおもむろに問いかける朱璃。
「中枢の炉もぶっ壊したはずだよな、――隊長を始め壊しに行ったやつ軒並み重傷だったし」
――そもそも、炉からエネルギーを奪うんじゃーにゃく。この炉に供給されるエネルギーじてーとめちまえば、いいじゃにゃーか?
 姫乃は炉に突き刺さっている極大のコードに視線を向ける。
 そのコードの先をたどって歩いた。
――がでんつぁ殺りてーでしょうに、何でこっち優先したんデスニャ。
 瓦礫を撤去する姫乃へそう朱璃は問いかける。
 いつもの口調で、何気ないように。
「死にたくないから物騒なもん取っ払いたいのと、――決着後の横槍要素は見過ごせねえよなァ」
 その言葉に朱璃は主人を見誤っていたと思った。
 仕返しする気が無いわけではなかったのだ。
――あー、ないあの時のとらうまデスか。
 なーんだと朱璃は笑みを浮かべて見せる。姫乃は枯れきったと思っていたがそうではなかったのだ。
 ガデンツァの死、その時がくるまでは見逃そう。
 だが全ての因縁が終わり、全員が納得した末に、自分が手を下す。
 そう思っているのだ。
「これ、なんだ?」
 瓦礫を撤去し、エネルギーを貯蔵している部屋に姫乃は出た。
 そこには水色の何かが満たされたプールのような場所になっていた。
 満たされているのは水ではない、うっすら発行しているからわかる。
「ルネのなりそこないか?」
 そこに姫乃はキューブを取り出し投げ入れた。
 するとだ。
 キューブは唐突に膨張した。
 その膨張から逃れる術は無く、姫乃……。だけではなく、DARKで戦闘している全員が飲み込まれた。

   *    *

「なんじゃ、これは」
 戸惑いの言葉を述べたのはガデンツァだ。
 白い世界。静止した世界。
 仁菜はわかった。
 これはキューブに囚われている時にみた世界。
 自分を易しく抱く、時も、事象も関係ない世界。
「触れない、代わりに触られることのない世界」
「傷つかない代わりに、傷つけられない世界」
 魅霊が告げた。
 と言っても魅霊の場合はキューブの耐久度以上に爆発の威力が強く全身黒焦げにされたわけだが。
「ここに閉じ込めわらわをどうしようというのじゃ」
「それが、何でここに閉じ込められたかは私たちも分からなくて」
 そう告げて姿を見せたのは理夢琉だった。
 同時にこの空間に歌が響き渡る。それは蘿蔔の謳う潮騒の音。
 寄せては返すけど、遠ざからない、いつも寄り添う愛の歌。
「でも、せっかくの機会ですから私たちの歌を聴いて行ってください」
 その蘿蔔の声に理夢琉も声を重ねた。
 悲しみに捕らわれた女神に、どうか一人で悲しまないでと、思いを込めて紡いだ歌。
「この歌…………私が初めて作った歌なんです。何も知らないあなたに思いを馳せて」
「まだ本気でわらわをすくおうなどと思っておるのか」
 頷くのは希月。
「私がここに来た理由、それはガデンツァ様を救う為、そして、あなたと歌を歌う為です。
 これは、私の想いを彼女に示し、あなたの想いを受け入れる為です」
「わらわと歌を?」
 希月は思っていた。
 他者を愛する事の尊さ、互いに優しさを与え合う事の素晴らしさ、そして互いに解り合う事の美しさ、それを謳いたいと。
 歌とはそう言うものなんだろうと。
「そして、私は聴きたいのです。ガデンツァ様の本当の想いが込められた歌を。共に歌う事で解り合い、ガデンツァ様に自分自身を取り戻して欲しい。それが私の望みです!!」
「では聴こう。お主らはわらわと対話し、歌を謳い。わらわを許すことができるというのか? この世界を混乱に陥れあまつさえ」
 ガデンツァはこの場にいる人間を見渡して告げた。
「ルネとして欺き。赤原光夜、彼方やナイアをはじめ、人間たちを殺し。イリスを傷つけ。長年苦しみ、苦しませた敵としてのわらわを許すと」
「それはできない」
 間髪入れず澄香が答えた。
「許すことはできない、でも救うことはできる」
「なにから?」
「あなたを縛る運命から。ルネとガデンツァの物語から」
 澄香は迷うことなく告げた。
 その言葉に眩暈を抑えたガデンツァはさらに言葉を投げかける。
「救うことに何の意味がある、救ったとしてわらわは贋作じゃ、ルネではない」
「救いとは、根本的にあなたが思ってるものではないということですよ」
 希月は言った。
「これ程までに私が、愚神のガデンツァ様を救いたいのは、忍びである私には他者を救う事のみが私の存在意義だからです」
「お主も難儀な存在じゃなぁ」
 そう言ってガデンツァはふっと笑った。
「これは無月姉様とジェネッサ様も同様ですね。だから……ガデンツァ様、私達に生きている証を残させてはくれませんか?」
「生きている証じゃと?」
「皆さんと共にここを出て、犯した罪を償っていきましょう。無論、私も協力します。貴女を救いたい人はここにもいます。貴女は一人ではないのですよ」
「それに贋作かどうかも関係がない」
 言葉を継いだのは無月。
「本物とか偽物とか、何時までそのような事を考えているのだ! 誰がなんと言おうと貴女は貴女だ。本物とやらの意志に従う理由も、気にかける必要もない!」
「贋作っていう言葉がどういう文脈で投げかけられたのか、ボクは知らない」
 いのりが告げる。
「けど、心を持った時点で、キミも一人のオリジナルだよ」
「何かの代役であろうとも? そしてその代打ちを全うできずともよいというのか?」
――正直、偽者やら贋作やらはどうでもいいと思うがね……ここに来て随分とセンチメンタルなことだよ。
 告げたのはアイリス。
――初めにダカーポシステムとやらが根本的に間違っている。
 人類の総意のように語りながら結局は少女一人に重圧をかけているだけさ。
「わらわのありようを否定するつもりか?」
――きみじゃない、それはかつての君だ。そうだろう?
――本当に望んでいたのなら、そのスイッチは人が持っていればよかっただけのこと。 
 アイリスは諭す。
 基本的に死にたいと思って生きているのが健全であるほうがおかしい。
 綺麗に一纏めに<死にたい>と収まるわけがない。
――その決断が人に出来なかった時点で、世界を終わらせることが出来なかった、などという責任を追及することなど誰に出来るというんだい。
「それが、わらわにこそ。わらわであればできる。わらわが問うてみせる」
――いい返事だ。だから君は唯一無二だ、積み重ねた歴史を誇るか後悔するかは知らないがね。
 いのりは首を縦に振る。
「でも、ルネさんを抱えたままのキミじゃあ、いつまでも本当の意味でオリジナルのキミにはなれないんじゃない?」
「キミがキミとして在るために、ルネさんは必要? 人質なんて抱えてないで、キミはキミとして戦いなよ」
「勘違いをしておるようじゃな、ルネと我は一つ。もうすでに一つの存在じゃ」
 その言葉に衝撃を受ける澄香、その手をそっと握っていのりは宣言する。
「だったら、ボクらはキミをキミとして倒す。これは、ボクらがキミに捧げるレクイエムだ!」
 歯を食いしばるガデンツァ、その視線を遮る燃衣。
「自分自身の意志を見せるのだ! 己に強いられた宿命など吹き飛ばしてしまえばいい!今こそ、真に貴女の歌いたかった歌を歌う時だ!」
「真に謳いたかった歌……」
 ガデンツァは瞳を閉じた。
 その瞬間、ガデンツァの胸の中心で何かが光り輝く。
 その光が白い空間に投影された。
 それは見たこともない世界を映しだす。
――いえ、これは。
 クラリスは気が付いたようだ。これは何度か見たことがある世界。
 ガデンツァの世界だ。
 だがそれとは別に、別の映像も差し込まれている。
 そこには澄香が映し出されていた。
 澄香は笑っていた。
「お主らにしばしありがちよな。愚神を救いたい、助けたい、そう思う心が。雪娘の時がそうじゃったろうか」
 ガデンツァは目を見開き告げる。
「しかし、押し付けられた救いに何の意味がある。わらわ等をそれで救えると思っておるのか?」
「それはあなたにも同じことが言える、ガデンツァ!」
 高らかに告げたのは燃衣。
「……貴方……がたは。大変な臆病者だ」
 それは愚神全般をさす言葉なのだろう。燃衣の瞳は赤々と燃えている。
「少しの事で酷く傷付く。涙し怯え恐れ蹲る。貴方は本当は虫すら殺せない弱虫だ。ウチの隊員さんにソックリだ」
 燃衣は左右に立つ、槇と仁菜を眺めた。
「だから優しい人なんだ。心の痛みが良く分かる人なんだ」
「優しいじゃとわらわが?」
――ガデンツァ、あなたがわたしたちの中にルネとして入ってきたのは、私たちの輪に混ざりたかったからではありませんか?
 クラリスの言葉に、ガデンツァは出かけた言葉を飲み込む
「……だけど貴方には仲間と違って、少しの勇気が足りなかった」
 燃衣が告げた。
――それは差し伸べられた手を取る勇気。
 ネイが言い放つ。
「そして、意地汚く生きる勇気と」
――《意志を継ぐ》勇気。
「わらわの意志を誰が継ぐというのだ」
 ガデンツァが両手を広げてそう問いかける。
「違う。元の世界のあなたの意志だ」
「ガデンツァ、オリジナルの意志じゃと」
――そしてお前が滅ぼすはずだった人間の意志だ。
「……全部壊したら、誰が死んだ人の事を紡ぐんですか」
 その時映像が差し替わる。
 眼下埋め尽くす大量の人。その上空でガデンツァは善なる神とあがめられていた。
「誰が、貴方のことをも、紡ぐんですか」
 映像にノイズが走る。
 眼下埋め尽くすのは闇に体を食われた人々の悲鳴。
 ガデンツァは泣いていた。
 謳えない。
 謳えないと首を振って泣いていた。
――人のみならず。意志あるものは存在し続けようと、繋ぎ続けようともがき足掻く。
「何が真か雁か? それはどうでも良い。貴方はそれを思考放棄と言ったが……」
「…………」
 ガデンツァは黙りこくって何も言わない。
「もっと大事なものがある。ただそれだけだよ、ルネさん」 
 ガデンツァは目を見開いた。胸の光が強くなる。
――恐らくお前の内には百万の心の痛みでも在るのだろう、それがお前を狂わせた。

「……人々の為に、貴方の為に。ここで貴方は討つ!」


第三章 虚空

 その時白い空間は音を立ててひび割れる。
 先ず真っ先に動いたのはガデンツァ、ではなく槇。
――OK、やらせるかってーの。
「さっきから! 破壊だの何だの知らねーお! 死にたきゃ勝手にくたばれお!」
 誄の呼吸に合わせて槇が打ち放った弾丸は輝きを帯びている。
「漏れ達は《生きてる》んだお! 普通に生きてるんだお!」
――あんたは逆だよ。まるでプログラム。生きてない。
「く……」
 それはガデンツァに激突するとあたり一面を光で覆った。
「《意志》ってモンがあるなら《役割》なんて所詮は参考に過ぎねーお!そうだお隊長!」
――だけど、アンタには一つだけ、贈り物をするよ。俺たちを紡いだアンタに紡ぐ、贈り物。
「イッツショーターイ!」
 燃衣が直進、ガデンツァの腕を肩口から吹き飛ばす。
 そのガデンツァは周囲を薙ぐために風音で反撃。
 それを仁菜が受け止める。
「私は」
――俺は。
「「暁の盾」」
 盾の影に隠れた燃衣が伸び上がり。ガデンツァに追撃。
 腕を取り、背後にまわり、肩に手を当ててカデンツァの体を地面に押し倒す。
 ガデンツァはわざと腕を分離。前転するとスピーカーを開いて腕を再生。
 振り向きざまに突き出すそれを燃衣は上に弾いて取った。
「貴女が殺そうとしたから守るために強くなった。
 失わないために立ち向かうと誓った」
 足元から水音。
 それを仁菜が燃衣を引き寄せ回避させる。
 仁菜は盾を地面に突き立てて勢いを殺し、燃衣の背後から出て二人は挟撃するように走った。
「僕は受け継いできた。沢山の想いを。潰されそうな時もあったけど。そのおかげでここまでこれた」
 振り上げた拳を受け止める術が、ガデンツァにはない。
「僕は意志と共に、力を授かった。あなたを打倒する力だ」
「仁菜さんから倒れない意志を。槇さんから射抜く瞳を」
 輝きの城からは、迎撃を押し通る意志を。
 俊足の少女からは電光石火の如くの駆け方を。
 歪でも真っ直ぐ進もうとする炎に卓越したフェイントを。
 ハートのエースから全てを砕く力の籠め方。
 そして。
 弟分から前を向く意志を。
(信じてます、兄さん)
 その言葉が耳元で聞こえた気がして燃衣は拳を握りしめる。
「私も信じてる。お兄ちゃんや隊長がわたしを助けてくれること。だから私もみんなの力になるって誓った」
 仁菜の声が響く。
 ぼろぼろになったガデンツァは半歩後退しながら体勢を立て直そうとする。
 だがそのアキレス腱を銃弾が射抜いた。
 両足だ。
 見れば遊夜と槇が次なる狙撃ポジションに走っていた。
「他にも皆から皆から意志を継いだ。そして僕らは誰もかけることなく帰る。
 帰りを待っている威月さんの元へと!」
 ガデンツァはなけなしのドローエンブルーム。
 それを仁菜がぼろぼろになりながら遮った。地面に足を突き刺すように踏ん張って、みしみしと軋む骨の音を無視して。
「本当のことを言うと、何度もくじけそうになったんだ」
――本当を言うと、いつも不安で心細かった。
 仁菜の言葉にリオンが想いを重ねる。
「「けれど」」
 立ち上がるガデンツァの真っ向から盾を構え立ちふさがる仁菜。
「絶望しかないと思うような夜に夜明けをもたらす。
 私にとっての暁はそんな場所だった。だから」
 仁菜の瞳に映る人影、背後から奇襲。
 振り返るももう遅い。ガデンツァの足が、腕が撃ち抜かれ。腕が鎧が吹き飛ばされる。
 地面に落ちて砕け行く水晶の鎧。
 それを見つめて仁菜は告げる。
「だから絶望なんてしてないの!!
 仲間と一緒に前に進めば夜明けは必ず来るって信じている。
「我ら闇濃き刻を越え」
――未明の夜に歩み止めず!
「はははは。よい、よい歌じゃなぁ」
 叫ぶガデンツァ。
 それでも少女たちは歌を止めない。 
 それどころかガデンツァの攻撃、その音に声を重ねることまでする。
 理夢琉はゆっくり瞳を開くと、地面に膝をつくガデンツァを見つめる。
「初めて、私たちの歌を認めてくれたね」
「ここまでわらわを追い詰められたものはおらぬからな!」
 告げると地面から水色の何かが流れガデンツァの鎧を修復する。
 あちらも隠し玉を持っていたようだ。
「私、王が愚神を武器化した報告書を見た」
「ほう? それで?」
「あなたは多くの命と心を壊した忌むべき存在」
「そうじゃな」
 不謹慎かもしれない、罵られるかもしれない、それでも……。
「それでも、王にあなたを渡したくない」
「ははは、ファンの要望とあっては仕方がないのう……では。お主らの心が痛まぬように殺し尽くしてから王の元に向かうとしよう」
「わからないの? ガデンツァ心を歪ませられ自由を奪われ……利用される道具にしたくない」
「わらわは道具じゃよ。世界を滅ぼすために生まれ、その役目を全うできなかったのであれば、わらわは道具でよかった。意志などいらんかった、わらわは世界を滅ぼしてよかったという実感が欲しい」
「それはあなたの本心ではないはずです」
 歌を止めて蘿蔔が叫んだ。
「許せない事もいっぱいある。でも、私にとってあなたは色々もたらしてくれた人だから」
 対抗するためにアイドルにさせられて、だから最初は嫌だったけど今は歌うのが大好きな事。
 かけがえのない友達、かなちゃんに会えた事。
「そのもたらした物を奪ったのはわらわじゃぞ」
「それでも!」
 蘿蔔は間髪入れずに答えた。
「あなたの本心が知りたいです。本当に独りが良い? 独りというあなたはいつも辛そう。
 孤独に耐えられなくなるから、最初から傍に置かなかったんじゃないですか? 瑠音も、何もかも」
 ガデンツァは瞳を伏せる。
「そうじゃな、一人でなく二人なら、そう思ったことは否定せんよ」
 ガデンツァは戦場で忙しく走り回るいのりを眺めてそう告げた。
「ルネがいたら、そう思ったんだよね?」
 理夢琉が問いかけた。ガデンツァとルネの間にも絆を感じたから。
 そしてどちらかを救うだけじゃ歌が完成しないようなそんな感覚があった。
「何度でも言いますから。機能でもない偽物でもない――ガデンツァ、あなたの歌を聞かせてください」
「……わらわの歌」
「そして、皆で一緒に奏でましょう」
 次の瞬間ガデンツァの装甲が全て開いた。
「では聞かせてやろう、これがわらわの歌。死と調和する。お主らの全てを否定する歌じゃ!」
 告げて燃衣に向けて放ったのはシンクロニティ・デス。
「レクイエム!」
 まずい! 
 そう燃衣を庇うために仁菜が割って入るが。その程度で防げるものではない。
 だが、防げるものでないなら逆に返してしまおう。
 そう、杏奈がガデンツァの目の前に躍り出る。
「そう……来ることは予測済みじゃ」
「私がこれを食らうのも、貴方がそれを食らうのも、今回が最後になるのね」
 杏奈の懐でメダルが割れる。 
 同時にリンクバースト。そしてリベリオン。
 全ての衝撃がガデンツァに跳ね返る。
「がはっ」
 全身にひびが入るガデンツァ。
 傾いでいく体。しかし、まだだ。まだ終わらない。
 ガデンツァは体がかけるのも構わずにリンカーたちを見すえる。ここで潰えるともこの生意気な小僧とどもに滅びの音色をきかせるまではまだ。
(なんじゃ? わらわはこれほどに執念深いキャラクターじゃったろうか)
 微笑んでる口元を抑えてルネを全てスピーカーに変換する。 
 その言葉に身構えるリンカーたち。先駆けて告げる魅霊。
「これが最後の攻防です。そしてこのやり取りをどうか全力で受けてほしい。自滅すら厭わず歌う彼女を、どうか認めてほしいから」
 澄香は魅霊を凝視した。
「解りませんか、全てを投じて歌い尽くす。恐らくはそれこそが、彼女にとっての自身の証明なんです。 
 そうした果てで、漸く彼女は救われる」
 遊夜はそのガデンツァの動きに動物的本能が働いた。
「みんな固まれ!」
 その言葉に全員が振り返る。
 なぜ? 
 それを説明する暇はない。
 もともと戦闘を得意としていなかったガデンツァが単体で最終決戦に挑んだ。
 周囲に敵影なし、ルネの生成・管理能力のリソースを他に振り分けた事は察せるだろう。
 そして使うスキルは歌、毎回スピーカーで増幅している……であれば、狙うべきは要であろう多重スピーカーの破壊だ。
 それを目標に狙撃班はガデンツァのスピーカーを破壊してきた。
 しかしここで戦力の逐次投入をしてきた。
 それは何を意味するのか。
 本来最初から投入しても良かった戦力、それを今投入する理由それは。
「自滅覚悟で攻撃するつもりだ」
「シンクロニティ・デス・レクイエム!!」
 最初はドローエンブルームかと思った、全方位への攻撃だったから。
 しかし違った。
 縦組みの後ろに隠れた澄香の肌が泡立つ、これは間違いなくシンクロニティデス。
「こんな大規模な」
――しかも、こんなに長時間。このままでは。
 皆滅ぶ。それはガデンツァも同じだ。だが近づけない、ガデンツァのスピーカーを破壊できない。
「だったらな」
 遊夜はアンチマテリアルライフルに換装そして。
「一つ一つ、確実に潰す……おっと、こっちばかり気にしてると危ないぜ?」
――……ん、鬼さんこちら……余所見はダメよ、寂しいでしょう?
 アハトアハト。
 膨大な霊力を内包した砲弾はガデンツァの腕に突き刺さり、行き場を失ったエネルギーが爆ぜた。装甲がばらばらと崩れ去る。
「まだじゃ」
 左腕を伸ばしてシンクロニティ・デス・レクイエム。
 その歌を魅霊は涙を流して聴いている。
 涙に頬の組織が溶けて赤く染まってもまだ。
「みんな、諦めちゃダメだよ! ボクらはまだ戦える!」 
 いのりが合図すると仁菜が盾を背に祈りをささげる。
 癒しのひかりは吹き荒れて、ガデンツァの破壊の力と相殺。損傷した細胞を再びつなぎとめていく。
 そのままいのりはイリスの盾に自分の盾を重ねて澄香を守る。
「絶対に負けません。王にも。勝って、生きて、ずっと覚えていたいから」
 蘿蔔はリンクバースト、そのまま飛びかかりガデンツァを背後から抱きしめる。
「もういいんです、もう。あなたの想いは伝わりました。だから自分を壊そうとまでしいで!」
「これが。答えになる、わらわが求めたただ一つの答え」
 ガデンツァはもう、リンカーを殺したいと思っていなかった。
「まだ止まらねぇのか」
 血を吐いて遊夜は立ち上がる。リンクバースト、ユフォアリーヤの心が深く深く溶けてくる。
「これだけは使いたくなかったんだが……」
――……ん、今は皆を……連れ帰る事だけ、考える。
「し……勝負は……9回裏2アウトからだおッ!」
 槇が歯茎から血を流しながら告げた。
――OK……パンピーのしぶとさ、見せてやるだ……ろっと!
 それに切り札がある。こちらには、あの少女が。
 リンクバースト発動。
 意識が解け合う、半分が槇、半分が誄。そして最後まで頼れるのはあの。
「これが反撃ののろしだお!」
 放たれた光の玉は死の風裂いてガデンツァの眉間に突き刺さる。また、まただ。
 また光がガデンツァの網膜を焼く。
「あああああ!」
「あとは、まかせたお」
 バーストクラッシュ。共鳴の溶けた二人はその場に転がる。
 その頭上を飛ぶように走る二人の少女。
 一人は姫乃。そして春香。
「声を連れてきたよ」
 春香の戦場に張り巡らされたピアノ線から戦場に音が響いた。
 澄香はこれを待っていた。
「……赤原さんだ。赤原さんも歌ってる」
 澄香が声をあげると理夢琉は泣きそうな表情で振り返った。
 みんなARKの上からエールを送ってくれている。
「きっと、あの時何もしなければ、春香さんが傷つくこともなく、きれいな思い出のまま残るものだったから」
 イリスは叫んで刃を握る煌々と輝くその刃は自愛も悲しみも泣き言も一切なく清らかで清廉で。
――私たちは希望を知っている。知ってしまった。であればあがくのは当然のこと。
 あの時声が聞えてしまったから、だからここまで来た。
「選択した先にあったのが今のこの瞬間……過去は覆らず、今は苦しい。それでも今を足掻かなければ、望む未来なんてつかみ取れない!」
「「これで終りだ! ガデンツァ」」
 イリスの斬撃はその手の刃のみならず翼を束ねての斬撃。それがガデンツァの四肢にひびをうみ、声重ねた姫乃はガデンツァ背後にまわった。
 その腕にハングドマンをまきつける。霊力をがむしゃらに充填して、そのままガデンツァの胸を貫いた。
「私たちの水晶で檻を作る」
 澄香がいのりと刃に手を重ねた。
 ルネを追い求めずっと手放さなかったクリスタロス。
 遙華の助力でそれは進化を遂げている。
「何を」
 放たれた斬撃はガデンツァの体に命中。その体をクリスタルで飲んでいく。
「だが、まだ」
 ガデンツァの口から腕が生えた、形態変化の能力でガデンツァは素早く澄香に腕を伸ばす。取ったそう思った。
 しかし春香がその腕をピアノ線でがんじがらめに。
「ぐあああ、うたが、歌が聞える」
 それは澄香が彼女の想いを忘れない、そう謳い広めた希望の音。
 今その希望は原点へと返り本物の希望として芽吹こうとしている。
「ルネさん!」
「ルネ、来て!」
 クリスタルがガデンツァの体を蝕んでいく。いのりと澄香はありったけの霊力を送る。
「ガデンツァ、地獄に堕ちて」
――手にかけた方々に詫びなさい。
「そして罪を償ったら」
――生まれ変わってきなさいな。
 まるで繭のようにその体はクリスタルに囚われた。
「ガデンツァ! 今度こそルネさんを返して貰うよ!」
 いのりの言葉に頷くと澄香とクラリスは言葉を重ねた。
「「それが何千年後だって、歌は世界に繋いでいくから」」
 その時ガデンツァの声が響く。
「わらわの、完敗じゃな」
 血まみれの燃衣が立ち上がった。その手には燃えたつ炎。
「貫ッ通ぅぅ! 連ッ拳ぇええええん!」
 クリスタルが砕け散り、ガデンツァはバラバラに砕かれた。
 その再生能力も、変身能力も封じられ。ガデンツァは頭部だけでその場に転がった。

   *   *
     
「ルネさん、聞こえる? ボクらはキミをずっと待ってるよ。還ってきて!」
 ガデンツァの霊力が消えかける。
 その前にといのりはガデンツァの頭部に歩み寄った。
 疲れ果て、しかし晴れやかな表情を浮かべるそれを手に取って撫でる。
 だがそんな澄香に魅霊が声をかけた。
「その必要はありません。彼女はもうとっくにルネであり、ガデンツァなんです」
 夜が明けていく。激闘の果て仁菜は誄を膝枕して解放し。燃衣はじっとことを見守っている。
「どういうこと?」
 いのりが問いかけると魅霊は屈託なく答える。
「ルネもガデンツァももともと一つで、そして二人ともこの世界を愛していたのですから」
 魅霊はどうしようもなく感じてしまった。
「ガデンツァは、どうしようもなく愛しています」
 人も、理も、王すらも、それだけは咎められなかった。
 これが証左。
 音という型を取った、ただの破壊機能(シンクロニティ・デス)を。
 万人へ手向ける音楽へと昇華させた(~・レクイエム)という、偉業。
「だから彼女はルネを騙った時、対策の不足を自覚しながら敢えてグロリア社やエリザに触れなかったのです。
 ソシテライブを望んだのは……愛する歌の晴れ舞台に歓喜を覚えたが故か」
「何もかも、オミトオシじゃなぁ」
 ひび割れた声でガデンツァはそう答える。
「愚かなるリンカー、いえ、愛すべき人間達」
「きかせて、ガデンツァ、あなたの気持ち」
「あなた達を倒すための手段があれしかなかった。それも事実。けれど一番は、あなた達とステージに立ちたかった」
「贋作と蔑まれることに憤り、彼らを手に掛けたのは……自らでなく、紡いだ歌を貶められたが故か」
 その魅霊の言葉にもガデンツァは首を振った。
「あれは私の弱さ。もう私は私がなんだか分からなかった。だから私を惑わす声を消したかった、ただそれだけ」
「それでも尚、私たちを殺さずにいたのは……人もまた、歌の担い手と認めていたから?」
「私は全ての人を認めてる。辛く長い戦いによく勝ち抜いてくれましたね」
「そして今、命をすり減らしてでも歌ったのは……」
「私の行いが間違っていなかったと信じたかったから」
「あなたはルネなの?」
 澄香は穏やかに微笑むガデンツァに歩み寄る。
 その体から光が舞い始めた、お別れのときは近い。
「わたしはずっと人間の価値を信じたかった」
 ポツリポツリと、その存在は語りだす。自分の胸の内を。
「わたし程度に滅ぼされる存在じゃないって示してほしかった。
 今はそれが伝わってる。
 わたし、いらなかったんだ。
 心の底からそう思える。
 わたしは、泣いて、笑って、謳う。それだけの存在でよかったんだ。
 終末の音なんていらなかった。
 それが本当にうれしい、みんながこれほどまでに強い存在だったなんて。
 本当に、本当にうれしい」
 びしりとひび割れる音が聞こえる。それがかつてのトラウマと重なって。理夢琉は手を伸ばしかけた。
 その手には水晶の卵が握られている。
「残念ながら。私は、私たちはこの世で生を受けることはないでしょう。わたしたちと同じような存在はいても、それはもうわたしたちじゃない。それはあなたも認めてくれるところでしょう、理夢琉?」
 ガデンツァは優しく全員に告げた。
「その卵に愛情をたっぷり注いであげて。それはきっとあなただけの想いと音色で、素晴らしい生命を孵化させるわ。それは保障する。だって。あなた達は私を救ってくれた人だから」
 その消えゆくガデンツァに魅霊は一言、こう告げた
「どうか聴かせてください。貴女の歌―即興独唱曲(カデンツァ)を」
 魅霊の言葉にガデンツァは歌を謳い始めた。
 新しい歌。しかしそれはまるで世界をいつくしむような旋律に溢れていて。
「おやすみなさい。いつかまた、どこかで」
 告げる蘿蔔も穏やかにそう、意識を失った。
「シロ!」
 澄香が慌てた声で蘿蔔の体を揺さぶった。
 けれど大丈夫、ガデンツァの歌が傷を癒し、リンカーたちの想い傷を治してくれるだろう。
 これはガデンツァが最後に望んだたった一つの罪滅ぼしなのかもしれない。
 仁菜はその歌を背に夜明けの日を見すえた。 
「憎しみを絶ち、彼方の手を感じ、暁へ向かい……」
 燃衣の言葉に燃衣も共鳴を解く。暁メンバーは同じく日の光を真正面から見据えた。
「王を倒そう」
 戦いは最終楽章に向かう。全ての想いを背負って少女は明日へと駆けた。


エピローグ
 槇が設置したカメラによって全ての戦闘記録はH.O.P.E.に記録された。
 沙耶が録画したその映像もそう。
 グロリア社に提出される。
 後日グロリア社に記録を持ち帰り、ガデンツァの声を解析して独自に電子音に落とし込み、VOCALOIDとしてソフト開発を依頼した。
「最低な奴だったけど、王に抗えないのなら個に責任はないでしょうし」
「そう ……ね。でもそれを言ってしまうと、私たちは個として王に逆らえなかった愚神たちを根こそぎ倒してきたことになるのかしら」
 その皮肉めいた言葉に沙耶は小さく微笑むだけ。
「ガデンツァはあれでよかったのかしら」
「例え肉体が消えたとしても、覚えている人がいたり、声として残り続けるなら本当に死んだ事にはならないでしょ」
 沙耶が答える。
「それにまだ仕事は残ってるわぁ」
 沙耶が言っているのは今まで集めたカデンツァの膨大なデータはどうするのかということ。
 考えがある、そうひとつ遙華は笑って、沙耶に言葉を残した。
「エリザって、ガデンツァになれる可能性を秘めていない?」
 もしかするとまた波乱の幕が上がったのかもしれない。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 託された楽譜
    魅霊aa1456
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    R.I.P.aa1456hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 救済の音色
    セレナaa3447hero002
    英雄|10才|女性|ブラ
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • 光明の月
    希月aa5670
    人間|19才|女性|生命
  • エージェント
    ザラディア・エルドガッシュaa5670hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
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