本部

職業体験 私の有用性

鳴海

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~15人
英雄
4人 / 0~15人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2018/09/29 17:03

掲示板

オープニング

● 社会の役に立つって?

 エリザはある日心無い一言を浴びせられた。
 それはネットに繋いでネットゲーム等であそんでいる時の事である。
 最近オープンしたファンタジーMMORPGがすごく面白くて、エリザは寝食忘れてゲームに没頭していた。
 まぁ、エリザはAIなので寝食は入らないのだが、それは置いておいて。
「あんたいっつもいるよな」
 そんな四六時中ログインしているエリザにギルドのメンバーがそう言葉を切りだした。
「うん。私このゲーム大好きだから」
 そのチャットメッセージに僅かばかりの間があいてこう言葉が返ってきた。
「それは現実より?」
 エリザには彼がなにが言いたいか全く分からなかった。
「あんたいっつもいるよな」
 言葉が繰り返される、先ほどの言葉よりニュアンスとしてなんだか鋭利な感じがしてエリザはどうしていいか迷った。
「うん、いるけど……」
「あんた、仕事してないの?」
 しごと……エリザは考え込む。
「私に仕事はないのよ」
 告げると間髪入れずこうメッセージが返ってきた。
「あんたニートなんだな」
 ニート、その言葉の意味を一瞬で検索するとエリザは顔を赤らめた。
「違う、私は」
「ちゃんと社会復帰しろよ、ギルドマスター」
 そうせせら笑うとそのメンバーは返事を待たずログアウト。
 なんだかいたたまれない気分のエリザはやり場のないもやもやをどうしたものか、遙華に相談するのだった。

● 働いてみる?

 そこで皆さんに白羽の矢が刺さる。
 遙華の頼みとしてはこうである。
「エリザは今自身を喪失しているの」
 遙華が耳を貸すようにジャスチャーした。
「ネットで言われたそうよ、ニート姫って。でもエリザは存在自体が仕事の一面があるから」
 AIの自己進化のデータを取り続けるだけでグロリア社といては多額の利益である。
「そう説得してもきかないのよ、私はこれだけ電力を消費してるのに、私が世界に生み出している利益はたったこれだけとか、わけのわからないデータも出してくる始末だし。どうにかしてあげてくれないかしら」
 どうにか……と言われても。
 そう君たちは困るだろうか。
「たぶん、働くっていうのを体感すれば自分の存在意義にも気が付いてくれると思うのよね。もしかしたらそのまま気に入ったお仕事につかせてもいいかもしれないわ」
 そう遙華は招待状を何通か手渡した。
「ここに職業体験の日程も入っているわ。これにプラスしてあなた方の本業にもちょっとふれさせてくれるといいなぁって」
 告げると遙華はエリザの背中を押した。
「さぁ、エリザ社会科見学よ。楽しんできてね」
 そう半ば無理やり送りだされたエリザはしょんぼりしている。
「わたしなんて、なにをやっても、どうせ……」
 そんなキノコが生えそうなエリザを抱え君たちはしぶしぶ出発することになる。

● 紹介状の中身

・一日交番勤め
 エリザに警察官の制服を着てもらって一日交番の務めます。
 具体的にどう業務をしていいか迷うと思うので、エリザにどう対応するか教えてあげてください。
 交番には、落とし物を拾った男性、冷やかしにきた小学生五人。何をしゃべっているか分からないおばあちゃん。
 その中で、ひったくり犯が交番方面に向かっているという通報が入ります。
 エリザはその武装でひったくり犯を止めようとしますが。

・水族館の清掃員
 イルカの水槽を正装してもらいます。
 ふちやガラスをごしごししていただくだけなので水の中には入りませんが、イルカさんが水をかけてきたりいたずらします。
 エリザは濡れたからと言って故障するわけではないのですが水にうきません。
 プールは水深10メートルの巨大プールです。

解説


目標。 エリザと一緒に職業体験

 今回は皆さんにエリザの職業体験につきあっていただきます。
 もしくは職業体験を企画していただきます。
 リンカーと言えど別の仕事を持っている方もいらっしゃるでしょう。
 その仕事をエリザに紹介してあげて欲しいのです。
 職業体験させる場合は、どんな体験をさせるのかあらかじめ相談掲示板に書いておくといいでしょう。
 他のリンカーの皆さんも一緒に職業体験できればエリザも喜ぶでしょう。
 
 職業体験を行う場合のポイントはこちら。
・一日の作業を流れで説明。
・注意事項のせつめい。
・自分が遭遇して大変だったシチュエーションをエリザに体験させる。

 これを意識すればエリザも満足する職業体験になる事でしょう。
 もちろん他の要素を足していただいても構いません。

リプレイ

プロローグ

「というわけで」
 遙華は申し訳なさそうに俯き『麻生 遊夜(aa0452)』に言葉をかけた。
「部屋に引きこもって出てこなくなっちゃった」
 主語が抜けた会話であるがそれが誰を示す文言なのかはわかるだろう。
「えりざ~」
『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』がドアをカリカリをひっかきながらしなだれかかる。
 反応はない。電子のお姫様は相当なご立腹のようである。
「やれやれ、意外と煽り耐性なかったんだな」
「……んー、所々……片鱗はあった、かも?」
 そうユフォアリーヤが首をひねる。
「エリザ出てきなさい、今日はお泊りの日だぞ」
 そう遊夜が少し大きな声で告げると部屋の中で物音がした。
 そろそろと足音を殺しているが遊夜には丸わかりである。やがて扉がそっと開いてエリザが顔だけひょっこり出した。
「私のスケジュールにはお泊りの予定…………ない」
「…………つかまえた」
 そうユフォアリーヤが覆いかぶさるとそのまま部屋の中になだれ込む一行。
 ユフォアリーヤに頭を撫でられたりほっぺたであそばれるエリザ。
 それを眺めて遊夜は言った。
「ま、マウント取りたがる奴ってのはどこにでもいるからなぁ……大丈夫だ、エリザなら何でもできるさ」
「本当に?」
――……ん、返事聞かずに……消えた辺り、可能性高い……さぁエリザ、いくよー。
「え? ど…………どこに?」
 その言葉には遙華が答えた。
「職業体験よ。あなた行ってみたいって言ってたでしょ? 水族館とか、いろいろ」
 その後エリザはボディーごと軽いものに入れ替えて出かけることになった。
 遊夜が肩車したのだが、いくら軽量化したと言ってもかなり重く。
「大丈夫、心配するな」
 そう言いつつも今夜はシップの世話になるだろうとおもうユフォアリーヤであった。

第一章 しごとはじめ
 土曜日、すがすがしい日より。実に遊び時であるが今日はお仕事で町に出ている。
 その小さいシルエットで仁王立ちしてあたりを見渡す『イリス・レイバルド(aa0124)』
「遙華さんからエリザさんの護衛を頼まれたよ、がんばろうねお姉ちゃ……」
 告げて振り返るとそこにはイリスより小柄な影。
「ルゥだよ!」
『ルゥナスフィア(aa0124hero002)』は久々の街中にはしゃいでいるのかイリスの周りをくるくる回った。
「え、……え、ルゥ?」
「『まぁ、ルゥナだって最低限の戦闘力はあるのだし。社会勉強としては丁度いいんじゃないかな』ってアイリスママがいってた♪」
 意外と似ている声真似をルゥナスフィアが披露すると、納得したようにイリスが頷いた。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……ルゥのめんどうみるの大変なのにー、たいへんなのにー」
 そう困り果てているイリスをすくうように抱きかかえるエリザ。
「今日はどこにいくの? 小さな護衛さん」
「え? あ、その」
「まずは交番に行って。それから孤児院だそうですよ」
 そう答えたのは『メテオバイザー(aa4046hero001)』
「あれ? 桜小路さんは?」
 そう恐る恐る、しかし期待を込めた眼差しでメテオバイザーを見つめるエリザ。
「あー、その、サクラコは」
 メテオバイザーはここに至るまでの経緯をホワンホワンと思いだす。
「オレはエリザが助手になったら最高だけど……」
 珍しくエリザと接触する任務を受けてくれたと思った『桜小路 國光(aa4046)』
 メテオバイザーは立ち上がって喜んだ。
(ついにエリザさんを…………)
 だが継いだ二の句はメテオバイザーが思っていたものと違う。
「あのAIはどの研究にも役に立つ。創薬基盤に薬理研究、安全性の……」
「あぁぁ……」
 思わずたった足からも力が抜ける回答である。目の前の机に突っ伏すメテオバイザー。
 ですよね~……と心の中でつぶやくと國光は立ち上がる。
「サクラコ、どちらへ?」
「せっかく水族館に行けるなら、獣医と話がしてみたいんだ。ある程度知識が無いと失礼だろ?」
 そう新しい参考書を買いに行くと今日はあとでの合流なのだが、どう伝えたものか。
「あとできますよ」
 そのまま告げたメテオバイザーに、エリザは緊張の面持ちを向ける。
「あの、頑張ります」
「何をです?」
「えっと、私の事を好きになってもらえるように」
 エリザがそう胸のまえで拳を小さく握る。
「そうですね! 頑張りましょう」
 そんなエリザにそう答えるメテオバイザーである。

   *   *

 だがしかし、急きょ予定変更。
「おぅガキ共ー、おねーちゃんが来てくれたぞー!」
「……ん、仲良くね……今の内にやること、整理しよう?」
「うん、お母さん。あ、ただいま」
 そうエリザは勝手知りたる家のごとくあがりこむ。
 それを見て、遊夜はほっと一息ついた。
「まずは肩の力を抜かせないとな」
 そう最初の職業選択は孤児院の運営にすることにしてもらったのだ。
 決して孤児院内の仕事が溜まっていたからではない。
「家は結構広いからな……さぁ、忙しくなるぞ!」
「……ん、それでも……子供達が大きくなったから、少し楽になったの」
 頷いて冷蔵庫から大量の食材を持ちだすユフォアリーヤ。
「先ずは洗濯、そして料理。子供たちの相手」
 遊夜は告げると二階に上がっていく。
「ルゥだよ!」
 共鳴したルゥナスフィアが人形たちに紛れながら子供たちの相手をしていた。
 そんなルゥはエリザの姿を見るとそのスカートを引っ張る。
「ルゥだよ」
「えっと、今洗濯物を」
「ルゥだよ」
 ルゥナスフィアの押しに負けてエリザはルゥなスフィアを抱きかかえるとルゥナスフィアは改めてあいさつした。
「はぁい、ルゥだよー! みんな元気~? エリザは元気ないよね、キノコ生えるよ?キノコ生えたらおいしい? 生えたらキノコでキノコパーティーだよ♪」
「機械のボディーは無菌状態だよ………………ごめんねちょっとしたジョークのつもりで」
 ちなみに、ルゥナスフィアと共鳴しているとイリスの言葉は無視されるらしい。
 共鳴を解くという発想も、この時の二人にはなかった。
(けど、ルゥも大人しくしてるからいいか)
 腕の中でおとなしく人形状態がある意味奇跡。イリス6歳子育てに苦労中だ。
 その後、泥まみれで戻ってきた子供たちをお風呂に入れるのに苦労したり。
 第二回目の洗濯を子供たちとしたり。
「でも、前より聞き分けがよくなってる気がする!」
 エリザが驚きの声をあげた。
「……終わらない作業してた頃に比べたら今は分別ついてきた方だな」
「……ん、家の子達……ほとんど能力者、だからねぇ」
 そう物憂げにため息をつくユフォアリーヤ。
「いやぁ、昔はひどかったなぁ」
 その言葉はユフォアリーヤにも向けられたものらしく、ケラケラと遊夜は笑っていた。ユフォアリーヤは遊夜の腕に甘噛みを。
 仲の良い夫婦ぶりである。


第二章 緊張感を持って

 エリザが最初に志願したのは一日交番勤めである。
「おお、制服も似合うな!」
「……ん、可愛い……カッコイイ」
 そう遊夜とユフォアリーヤが持ち上げるものだからその場で一回りしてしまう。
「そうかな?」
 照れながら微笑むエリザは女性警官の衣服に身を包んでいた。
 これから本当の警察官の方の指導のもと地理案内やパトロールにいそしむことになる。
「全ルート解析。徒歩で一番早くたどり着ける道は」
 そう老人の道案内はどんとこいである。
「ネット上のナビアプリを併用しているだけなんですけどね」
 そんな子の活躍っぷりを詰所の中で見守る遊夜。
 同じく警官姿であるが、ホルスターにつるした銃が物々しい。
「よし、エリザ……形になってきたな」
 告げると遊夜は次なる目標を掲げる。
「地域民との交流を図るのだ、優しい笑顔が重要だ」
「はい!」
 次いで現れたのは携帯電話を落した女性。
「もしよろしければ通話記録から電話を特定して、場所をひろ……」
 そう親切心でスマホをジャックしようとしたエリザの口を遊夜がふさぐ。
 いつも何気なくやっているそれは、ひとたび表の世界に出ると犯罪である。
「……ん、またきてね」
 全ての手続きを終えた女性が怪訝そうな顔をしていたのでユフォアリーヤがそう帰した。
 そんな時だ。交番の前を黒づくめの男が走って行った。
 その後から板前風の男が現れる。その人物は肩で息をしながら交番の中の一行に視線を巡らせる。
「ひったくりだ! 頼むあいつを捕まえてくれ」
「了解しました」
 告げるとエリザはホバリングで宙に浮く。
「エリザ! なんだその機能は!」
「軽量化したら、空にうけるよって遙華が言ったから」
 次いでその両腕に内蔵されたレーザー口を露出する。 
「この程度、武装はいらないだろ」 
 遊夜が突っ込んだ。
「え? そうかな」
「……ん、逮捕術があるの……ゆっくり、優しく……ね?」
 遊夜も共鳴して走り出す。
 無事ひったくり犯は捕まったが、結局彼を追い詰めるためにレーザーを使い、それを警官の人に怒られてしまった。
 休憩中しょんぼりするエリザの隣にイリスが座る。
「ボクもこの年だしね、リンカー業以外で仕事つけるかっていわれたらできないわけで」
 唐突に話を始めたイリス、パックの牛乳を一口飲んだ。
「どちらかというと大人になってもまともな仕事にはつけないと思うわけで
 そもそも子供なんて親に迷惑かけて育つようなものですよ?
 親がちゃんといるんだから、その環境にちゃんと甘えておくべきです」
「えー、やだー」
 告げるエリザの目をまっすぐ見てイリスが再び言葉をかけた。
「甘えられるうちが華ですよ」
 その瞳から何か思いをくみ取ったのか、エリザはふざけるのをやめた。
「ボクが世界に対して生み出している利益なんてたぶんほとんどないよ。
 世界どころか社会に対してはもっとない。
 それでも生きているし、きっと満たされている。
 できること、あせって探さなくてもいいんだよ。子供なんだから、ね?」
「私は、いつになったら大人になれるのかな。そもそも、私は大人になれるのかな、だって私はAIだから」
「それは一緒に考えていきましょう」
 そう告げたイリスをエリザは抱き留める。

   *   *


 エリザのスケジュールは過密である。
 何せこれからアイドルレッスンを受けなければならないのだから。
「来たな」
 そうエリザの乗ったバンを眺めて手を振る『彩咲 姫乃(aa0941)』そして『朱璃(aa0941hero002)』
「本当にやるの? ひめのちゃん」
 告げるのはひかり。車いすを器用に操作して姫乃の背後に隠れた。
「二人を紹介するってのも悪くはないだろ」
 そう後ろを振り返る姫乃。
「どっちも交友関係広がる的なアレソレデスかニャ?」 
 朱璃が告げた。
「どっちも友人だしエリザだけが一方的に知っているってのもな」
「何で知られてるの!」
「ほほう、つまり王子さまが見知らぬ女を紹介する図になるわけデスニャ」
 その朱璃の言葉に顔を赤らめるひかり。
「いや、いやいやいやいやいやいやいや」
 同じく顔を赤らめる姫乃。
「どうしました、ま~すたぁ? 何をあわてているデス?」
「いや、だからそういう人聞きの悪い言い方はよせと言うに!」
 そんな三人の前に車が横付けされ。
「ひめのちゃん!」
 車を飛び降りて駆け寄るエリザを少し可愛いと思う姫乃であった。
「今日は何して遊ぶの?」
 エリザが問いかけると姫乃の影に隠れた車いすを見つける。
「あなたは?」
「ひかり……です」
 姫乃はこの時思い出す。今や時代をときめくお姫様系アイドル『ひかり』はそれなりに人見知りする方だったと。
「それはそうと、なんて名前で活動してんデス?」
 朱璃が問いかけた。その言葉にひかりは声を小さくして答える。
「ロミジュリ……」
「ってことはご主人がロミオ」
 笑いをこらえる朱璃を置いて、姫乃は皆を案内した。
 ひかりの車いすを置いてレッスンルームに向かう。
 一行は運動着に着替えた。
「この間楽器にも興味出てたし、気分転換になるものも多いんじゃないかな」
 そう柔軟体操しながら姫乃が告げる。
「体を動かすのは好きだよ。センサーの調子が良くなるんだ」
「……たまにエリザが使う、AIジョークって微妙に乗っていいかわっかんねーんだよな」
 そう苦笑いを浮かべる姫乃。
「ははー、興味を持つこと事態は悪いと思ってねーんデスねご主人」
 話を仕切り直す朱璃。
「俺もオンラインゲームはコミュニケーションとかが面倒なのは手を出さないからなー」
「まーご主人がげぇむ好きなんで、げぇむそのものに悪感情は持ってませんか」
「ちょっとやりすぎたのが今回の原因だろ? 興味を分散させれば息抜きにもなるだろ」
 告げて姫乃はエリザの肩に手をかける。
「むしろ将来的にコラボでゲーム内に参戦くらいに……日の目を浴びても問題にならない世の中になるといいな」
「うん? よろしくお願いします」
 姫乃の言いたいことがよくわかっていないエリザであった。
 今日行うのはわりとガチなダンスレッスンである。
 姫乃とひかりのユニットは歌がひかり、ダンス……というかアクロバティックなものすべてが姫乃の担当となっている。
 なので姫乃から体の動かし方を教わった。
「私ホバリングできるよ!」
 エリザが風を巻き上げてそう告げると、姫乃はまたも苦笑いを浮かべる。
「俺は、そのホバリングをどうしていいか分からない……けど。エリザはワイヤーアクションするには重すぎるのか?」
「お父さんが肩車してくれるくらいには軽いからたぶん大丈夫」
 ユフォアリーヤがふと遊夜の背中に視線を向けた。
「じゃあ、ワイヤー使った登場のシーンを教えてやろう。ステージ真ん中にいるひかりをこう、掬う感じで」
 姫乃のレッスンは夕時まで及んだ。
「あ、駆動系の熱が」
 そうエリザがギブアップをしたのでその日の練習はお開きになったのだが、ロミジュリのお得意の演出についてはマスターしたので。
 今度、姫乃に何かあれば代わってもらってはどうかと問いかける朱璃に対して姫乃はこう告げた。
「俺がひかりを誰かにまかせるわけないだろ?」
 そうエリザの乗った車を見送って姫乃は手を振るのであった。


第三章 存在肯定

「月は出ているかー!」

 でてる。バリバリの満月である。
 ルゥナスフィアが立つのは飼育員さんが普段餌やりに使う台座の上。
 その愛らしい姿に興味をひかれたのか、水の中をするする泳ぐシルエットが見える。
「いるかだ!」
 そう、イルカである、ここは水族館。
 しかも今の時期は夜のショーが人気。
 と言ってもそのショーを開く前に水槽の清掃とイルカの体調チェックを行わなければならないのだが。
「ルゥだよ♪」
 ルゥナスフィアは背が低いのでできることは多くない。
「ルゥだからね!」
 そういるかとコミュニケーションをとりながら。
「ルゥなんだってば」
 背中に乗せてもらったりして遊んでいた。
「エリザちゃん、あんまり端っこに行かないでください。落ちたらメテオだけじゃ助けられないのです」
 そんな大はしゃぎのイルカとルゥナスフィアを背景にメテオバイザーとエリザはごしごしとブラシを振るっていた。
「ねぇメテオバイザーさん。桜小路さんってイルカ好きなのかな?」
 その言葉にメテオバイザーが首をひねる。
「どうでしょう、どちらかというと勉強の機会を逃したくないだけのようにおもえるのです」
 言い切るとメテオバイザーは逆に問いかけた。
「サクラコのことが気になるのです?」
 その言葉にエリザは苦笑いを返す。
「うーん、嫌われてないかなぁと思って」
「嫌われてはいないと思うのです」
 ただ、気に入られているわけでも無いと思うと、胸の中で思うメテオバイザー。「エリザちゃんはサクラコに好かれたいのです?」
「直球だなぁ」
 そうブラシをバケツの水でざぶざぶ洗うエリザ。
「でも、それはそうだと思う。ちょっと怖いけど、悪い人じゃないと思うし。でも私今こんなだし」
 そう指先のレーザー口を露出して見せるエリザ。
「嫌われちゃうかなぁ」
 どんより背中に影を背負うエリザ。
 そのエリザを慰めようとしてメテオバイザーは歩み寄るが不穏な気配を感じて立ち止まる。
 直後。
「きゃあああ!」
 ぶしゃーーーーっと割とすごい勢いで水が吐きかけられる。
「ルゥじゃないよ! ルゥはルゥだけど、ルゥじゃないよ」
 つまりいるかがエリザに水をかけているのである。
「ちょ、ちょっと~」
「イルカさんもお掃除をお手伝いしてくれてるのです」
 告げるとメテオバイザーは軽くブラシでタイルを叩くとイルカたちを解散させた。
「終わったらお願いしてイルカに触らせてもらいましょう」
 そうびしょ濡れのエリザにタオルをかけてその頭をワシャワシャとふく、メテオバイザー。
 そしてイルカの水槽磨きが終われば次は館内の展示水槽のガラス拭きが待っている。
「わぁ、綺麗」
 色とりどりのサカナや珊瑚と言った海中でしか見られないものが暗がりに陳列されているととてもロマンチックである。
「エリザちゃん、お客様からご質問ですよ」
 告げるメテオバイザーに振り返るエリザ。水槽内の魚の名前から生態。生息域まですらすら答えると、客は満足したようで別の水槽に移って行った。
「エリザちゃん、凄いのです」
「ネットワークに繋がってるおかげだよ」
 照れるエリザ。
「メテオには今のエリザちゃんの様には答えられません」
 告げてエリザの手を取るメテオバイザー。
「……誰にでも得手不得手、適材適所はあるものです。だから今回、それを見つけましょう」
「長所……メテオさんが優しいってところとかみたいに?」
「ふふふ、そうですね」
 微笑むメテオバイザー。
「今日はありがとう。なんだかもうニートなんてどうでもよくなって。でも人にありがとうって言われたり、褒められたりする方が楽しくなってきたよ。働くってこういう事なんだね」
「そうなのです」
 その時メテオバイザーの背後で気配がした。足音から察するに。
「サクラコ」
 振り返ると國光がいた。
「あ、いた」
 國光は資料をいろいろ抱えていたがそれを近くのベンチの上で鞄に詰めるとエリザに向き直る。
 あからさまに緊張した様子を見せるエリザ。あっちをむいたり、こっちをむいたりしている。
「動物はオレ達に分かる言葉で話せない。こっちが気付いてあげないといけないんだ」
 そう、いきなり話し出した國光をきょとんと見つめるエリザ。
「病気だって人間と違ってまだわからない事が多い。だから、過去の症例と照らし合わせて目測で治療するしか方法がないんだ」
「……そのようですね、検索するまで知りませんでした。桜小路さんは博識なんですね」
 エリザが告げると國光はじっとエリザを見つめる。
「エリザ……命は目の前にあるひとつだけじゃない」
「……は、はい」
「人も、動物も……その命の後ろには、その命の無事と明日を祈っている多くの命がある」
「…………」
「この動物にも、戻るのを待ってるお客さんは沢山いる」
 エリザは後ろめたそうに俯いた。
「サクラコは」
 メテオバイザーがエリザの視界に入るように身をかがめた。長い髪がさらりと揺れる。
「エリザちゃんが帰ってこないと困るって言いたいのですよ」
「……ちが」
 否定しかけたが、振り返り國光を凝視するメテオバイザーの視線に射すくめられ、ため息をついて言葉を続ける。
「帰りを待っている人達が『ただいま』を言える今を大事にするんだよ……あと、『おかえり』を言ってもらえる事も……」
 國光はエリザに歩み寄る。緊張で息をのむエリザ。
「だから」
 言いづらそうに一瞬言いよどむ國光、次いで二人の視線がやっと交わる。
「おかえり……エリザ」
 その言葉に一瞬呆けた顔を見せるエリザだったが、すぐに頬を赤らめて微笑む。
「ただいま……。ただいま」
 こうしてエリザの職業体験……もとい。自分探しの旅は終わりを迎える。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • エージェント
    ルゥナスフィアaa0124hero002
    英雄|8才|女性|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
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