本部

緊急ミッションDARKを停止させよ

鳴海

形態
ショートEX
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
14人 / 4~15人
英雄
14人 / 0~15人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/09/25 15:21

掲示板

オープニング

● その戦艦は海を渡る。

 H.O.P.E.東京海上支部。現在日本最大のリンカーの拠点は大慌てであった。
 ガデンツァの作り上げた海上戦艦DARKが迫っているからだ。
「現在、緊急で敵戦艦に対する防衛策を構築中。けれど敵の進行が思ったよりも早いわ」
 このままでは準備が完了する前にガデンツァの戦艦は到着してしまう。
 そう遙華は言った。
 戦艦を足止めしないといけない。
 ただ、相手はもはやリンカーが単独でどうこうできる相手ではない。
 愚神とも違う、もはやこれは戦争といっても過言ではない。
 ではどうするのか。
「機雷と、リンカーによる足止めと。それだけじゃ」
 そう手をこまねいている遙華。
 リンカーたちに指示を出し切れずにいる。
 そんな中、リンカーたちに秘匿回線で通信が入った。
 そう、この任務に参加する君たちに対してだけ極秘にである。
「水中から攻めるのよ」
 その声は聡明さと妖艶さを兼ね備えた甘い声。
 先日、リンカーたちに保護されたはいいが。存在を秘匿されているロクトからの通信であった。
「DARKの推進力はプロペラになっているわ。当然よね。ルネが使われているからジェット噴射にはできない。そのプロペラを破壊することで推進力を奪うことができる」
 ロクトは同時にリンカーたちにデータを送信。
「遙華では命令は下せないわ。ここにあるマーメイドドライブを使って水中から奇襲を仕掛けて。そして残酷なことを言うようだけど」
 ロクトは息をのんで静かに告げた。
「誰かに犠牲になってもらわないといけないわ」
 ロクトが次に示したのはグロリア社でも重要な区画。上級研究員しか入ることのできない研究物の管理場。
「パスワードを教えてあげる。…………よ。ただこれを運用したリンカーは多大なダメージをその身に追うことになる。それでも、戦えるというなら。使ってちょうだい」
 その言葉に頷き通話を切る。そして遙華に君たちはその兵器の存在を伝えるだろう。
 ディメンションキューブ。
 それはあの船をおしとどめる壁を作るのにはもってこいのはずだと。
「確かに足止めには使えるかもしれない。けれど、これは誰かが犠牲になること前提の装置よ」
 遙華はいぶかしみながらもその技術の全容を話だす。
 もともとディメンションキューブはリンカーに多大な負荷を強いる欠陥AGWであったというはなしから。
「リンカーから霊力を吸い上げてその空間に固定した点を作る技術よ、外部からの干渉を極めて受けづらいけど沢山の問題が見つかったからそのままお蔵入りしたの」
 欠陥が発見された。リンカーからエネルギーを吸い上げる際にその命を脅かし、存在を薄めてしまうのだ。
 特に英雄の。
「英雄とのリンクレートの低下から始まる、かい離現象。それにディメンションキューブは膨大な霊力を消費する。それこそ英雄の存在すべてを吸い尽くすほどに」
 ただ、そのキューブを使ったとしても不可侵の領域をに三メートル四方の四角分だけ作り出すのがやっとだという。
「ねぇ、どこからその情報きいたの? あなた達は何を考えているの? まだ出動なんてしたらダメよ? きいてる?」

 皆さんはこの状況でどうするだろうか。
 状況はひっ迫している、ここで誰かが強硬手段に出なければきっとDARKは止められない。
 君たちに、死地に向かう覚悟を問いたい。
 たとえ戻ってこられない戦場だとしても。
 大切な物を守るために迎えるのかどうかを。


● マーメードドライブについて。

 水の中を自在にかけることができる足装備。
 すでに装備している足装備の上から装備できる。
 足が両足一対となり大きなひれが生成されるが、このひれは霊力である。
 水中でのペナルティーを無効化し活動を可能とする。

● ディメンションキューブについて。
 
 今回人数分、ディメンションキューブというアイテムを貸し出すことができます。
 このキューブは使用すると術者の体を中心に、その霊力の規模に合わせて十メートルから二メートル四方の四角い空間を作り出します。
 この空間は術者の命ある限りそこから動くことはありません。
 つまりこの機能を使って障害物となりARKを止めるという作戦ですが問題がいくつか存在します。

1 移動不可能、手番のスキップ
 まずこのアイテムの使用者は動くことができないだけではなく、何のアクションも起こすことができなくなります。

2 膨大な霊力の使用
 このキューブを使用すると無尽蔵に霊力を奪おうとします。
 このキューブは外的圧力に対して自動で抵抗するため、攻撃を受けたりこのキューブに干渉する力があると打ち消すためにさらに力を使います。
 使う力は生命力とリンクレートです。
 

3 英雄消失の危機。
 英雄さえ霊力に分解し、このAGWは結界を維持しようとします。
 ここでPCがAGWの起動を止めなければ、キャラクターロスト。もしくはそれに近しいペナルティを受けることになるでしょう。

 このキューブに囚われている人間は英雄たちの意識を普段より間近に感じることでしょう。
 しかしリンクレートが下がるたびにどうしようもなく英雄との距離も開きます。
 この力を最後まで使用するなら、お別れの言葉を考えておかなければならないかもしれません。

●PL情報(推進炉中枢)
 
 ARKの設計図と同じだとすれば、この船はプロペラで動き、それぞれに独立した動力炉があるはずなんですが。
 今回破壊しても再生されます。
 この機能についてはロクトも知らなかったのでルネを変形させてあつらえた機能と言えるでしょう。
 ここで皆さんはこのDARKの足を止めることはできないと悟ると思いますが。
 一つ弱点があります。
 このDARKの推進力を生み出しているエンジンは、実はDARKの中心部。
 推進炉中枢という場所からエネルギーを供給されています。
 エネルギーとは追加のルネです。
 破損したルネはパージされここからルネが送り込まれ、修繕するというサイクルをとりますが。
 この中枢を破壊することによってDARK全体の修繕機能を無効にできるのです。
 
 この中枢は中央に巨大なクリスタルがあり、それが高速で回転しているような場所です。たいていのリンカーなら複数回の攻撃で破壊できるでしょう。
 ただしその後あふれ出したエネルギーで多大なダメージを受けます。
 
 この推進炉中枢の情報はPCが調べれば見つかる事でしょう。
 そして突入口も見つけられるでしょう。
 戦艦内部の数えきれないルネに追い回されることになると思いますけど。

 何せARKにも似たような場所があるので、設計図を細かく見ればわかるのです。
 全てのPCが無条件に知っているものではありません。
 注意深く見ないといけないのですから。
 なので、この推進炉中枢に関しては突入するメンバー以外は知らない可能性もありますね。

解説

目標 DARKの推進力を奪う。

 今回はDARKのプロペラを破壊するミッションです。
 プロペラは、円状の船に等間隔で五枚存在し。八枚羽のプロペラです。
 DARKに接近する方法は複数あります。

 ボートをチャーターする。
 マーメイドドライブを使用する。
 ヘリからの投下。
 
 なんとか接近しプロペラを破壊することができれば推進力を失い、東京海上支部到達を防ぐことができるでしょう。
 ただ、このままの速度ですと防衛ライン接触までたったの30分しかありません。
 プロペラは何度も破壊していれば再生力は落ち、速度も減速していきますがリンカーたちの攻撃がやんだ瞬間速度を取り戻してしまう事でしょう。
  
  

● 今回の重体。および重篤な被害者について。

 今回のシナリオは戦闘面でも危険ですが。
 キューブのコアになるPC。
 および推進炉中枢に突貫しこれを破壊するPCは特に危険です。
 レベル、プレイングにもよってきますし、普通に生還もあり得るのですが。
 重体、およびキャラクターが使用不可能になる恐れがあります。
 重体になるだけだとしても、次回のガデンツァシナリオまでに回復しない可能性も考えられるので、危険な行動はよく考えて行ってください。

● ルネについて。
 
 今回は水中で戦闘するため、ルネの力は大幅に増しています。
 前回はルネをまともに相手しないことで、戦闘の被害をおさえましたが。
 今回はリンカーが攻め入る側です。そう簡単にはいかないでしょう。
 ルネの攻撃は、音波による範囲攻撃。自分の腕を刃に変えての近接攻撃ですが。
 恐るべきはその機動能力。
 30SQを一気にかけることができ。威力は抑えられますが、移動しながらの攻撃を可能とします。
 水の中で総勢10体のルネが防衛にあたっているようです。

リプレイ

プロローグ

 その船は大胆不遜にも海の真ん中を恐れることなくわたってくる。
 倒して見せよ、倒せまいよ……とでも言いたげに堂々と。
 実際その船はH.O.P.E.の戦力をもってしても迎撃が難しく、対処も難しく。
 しかし。
 いったん東京に到達してしまえば人類が終わりかねない兵器であった。
 その超音響武装戦艦DARKを遠隔から見つめるのは『世良 杏奈(aa3447)』そして
『セレナ(aa3447hero002)』
「この船を止めるわよ! 動力源をやっちゃえばなんとかなるはず!」
 告げる杏奈の袖をセレナはギュッと引いた。
(杏奈、ここはとっても危ない所みたいだけど大丈夫?)
 そうセレナは杏奈の手の平に文字を書く。
「危ないのは承知の上よ、だけど必ずみんな揃って帰るんだからね!」
 振り返れば志を同じくする友がいた。
『九字原 昂(aa0919)』は装備を改め、微妙な表情ながら戦場に立つ覚悟を決める。
「今回は……ちょっと危ないかもね」
「……昂、お前がやりたい事をやりたいようにやれ。最後まで付き合ってやる」
 敵も後がない、徹底的にやろうとしているのはひしひしと伝わってきた。
「うん、ありがとう……」
『ベルフ(aa0919hero001)』の言葉に昂はそう頷く。
「少しでも戦力になるのなら、アリュー」
「ああ、行こう」
 そう手を取る『斉加 理夢琉(aa0783)』と『アリュー(aa0783hero001)』
「……火伏静さま、申し訳ございません……」
 不安げにつっかえながら『無明 威月(aa3532)』は『青槻 火伏静(aa3532hero001)』の背に告げた。
 すると火伏静はゆっくり振り返る。
「ぁあ? おいおいやめろよな、縁起でもねぇ」
「あの時、火伏静さまが居て下さらねば、私は終わっていました」
 その言葉に火伏静は、はたりと口を閉じる。
「……何だかんだと言っても、ここまで来れたのは、火伏静さまが居てこそ」
 長いまつげを揺らして威月は目を伏せ、首を振り、そして火伏静を見あげた。
「その火伏静さまを、こんな危険な目に……」
「……ちげーだろうよう」
 笑っていた。火伏静は威月に微笑みかける。
「俺は、声をかけただけだぜ?」
 あの日の記憶がよみがえる。
 威月の頬を思いでの風が撫でた。
「ここまで来たのは、正真正銘、おめーの足さ」
 告げる火伏静はまるで威月のこれまでの足取りを祝福するように告げる。
「下らねぇ気遣いしてんじゃねーぜ、さぁ……」
 手をさしだす火伏静。
「いつも通り、いこうや。俺の事なんざ気にするない」
 その言葉に頷いて威月は火伏静の手を取る。
 二人は頷きあい、共鳴した。
 全員がヘリに乗り込む。アリューが操縦かんを握った。
「危険だが高度を保ち、接近する」
 一応マニュアルは呼んでいる。たぶん大丈夫だろう。自動操縦もできる。
 戦いの火ぶたはこれより、切って落とされる。

第一章 危機

 リンカーたちの侵攻経路は二つに分けられる。
 ヘリで空から。
 ボートで海上から。
 先ず先行したのはヘリ。
 ここから一気にDARKに近づいて降下する。その先陣を切るのは『鬼灯 佐千子(aa2526)』だった。
 彼女はヘリから降下すると同時に海中に潜り潜伏する。
 予定では真っ先に潜入してリンカーたちの手引きとなる予定だった。
「頼んだわよ」
 振り返れば別のヘリが中速度で近づいてくる。
『イリス・レイバルド(aa0124)』はそのヘリのとびらから身を乗り出し翼を大きく広げた。
『アイリス(aa0124hero001)』が謳うように何事かをイリスに伝えるのだがそれは風でかき消されて聞こえない。
 DARKの砲塔がヘリを視認して照準を合わせた。
「お姉ちゃん……」
 イリスは肌に殺意を感じる。以前と比べると防衛に遊びが少なく素直に防衛している印象があった。
――悪意のどんでん返しは当たり前だったからね。
 アイリスがそう告げるとイリスは盾を構えヘリに横ばいになるように告げる。
「無茶を言う!」
 アリューが歯噛みしながら操縦かんを握り直す。
 プロペラの出力調整。機体を操縦。空気抵抗を計算。
――イリスちゃん! お願いします。
 理夢琉の言葉と同時にヘリは旋回。イリスをDARK正面に向けるように位置したまま加速度を利用して滑るようにDARKへ近づく。
 先ず牽制とばかりの対空砲火。それをイリスは難なく盾で受け止める。
「こっちの様子を窺ってるんだね」
 その言葉に頷いて理夢琉は言う。
――けど、霊力が増大してる。まだ何かくると思います!
 アイリスがその迎撃を面白がるようにはははと笑う。
――そうだな……。こちらの本格的な反撃で無いと戦力を裂くのは難しいはずだ。
 本来、ガデンツァと言えど一から戦艦を用意するなど懐事情として厳しいはず。
 ならばケチる部分はケチるだろう。
――ARKをコピーしてこちらにぶつけるとは皮肉の効いた手だが……ね。
 かつて、あの戦艦を背に海を渡ったことを思い出すイリス。
「けど、ガデンツァは本当は、あの形にこだわる必要はなかったと思うよ」
 イリスは切っ先をDARKに向ける、それはガデンツァへの宣戦布告。
――ああ、そうだ、これは彼女の弱さだ。
 アイリスは思うのだ。この皮肉のような策は、以前のような精神攻撃の類ではなく余裕のなさを隠すカーテンではないのかと。
――であるならば、外敵から見えない内装についてはそのままの可能性があるね。
「違ってたら?」
――弄る必要のある部分……つまりそうする必要のあるほど重要という事かもね。
 告げるアイリスはARKの設計図を頭の中に叩き込んでいる。
「お姉ちゃん可能性低そうなこと追いかけるの好きだよね」
――王道、常道の可能性なんて前提条件だよ……分かれ道に目を向けるのは面白いし、当たればうまい。
 その時、中型砲塔が火を噴いた。それは迎撃ではなく射出。
 戦艦内のルネをこちらに差し向けたのだ。
 現に弾丸は陽光のなか煌いて、虹色の光を返してくる。
「くる!」
 イリスはヘリに真っ直ぐ突っ込んでくるそれを、空中に身を躍らせて迎撃した。
 盾で下にはじくように叩きつける。
 機動が下にずれ。その砲弾は海を割るように叩きつけられた。
 同時に他の砲弾も海に着弾する。
 ボートの群は煽られ乗組員は水を浴びることになるが健在。
 その水のカーテンを突っ切って、スピード狂『雨宮 葵(aa4783)』は速度を緩めず前進する。
 それを見た理夢琉もヘリを自動操縦に切り換えて飛び出した。
「きて!」
 マジックブルームで箒を呼び出すとそれを足の下に敷く。
 まるでボードのようにそれを乗りこなして砲弾を避けながら理夢琉はDARKに突貫していった。
 その小脇を走るのは二体の狼。氷の狼を従えた魔女は真っ向からガデンツァに挑む。
「おお! あの箒の乗り方どっかで見たお!」
 そう空を見上げる『阪須賀 槇(aa4862)』であったが。その目を片方ずつ『藤咲 仁菜(aa3237)』と威月に覆われた。
「お兄ちゃん……飛んでる女の子を見あげるのは」
「……NG。です」
『阪須賀 誄(aa4862hero001)』はその様子にやれやれと首を振る。
 修羅場をくぐりすぎた弊害だろうか。死地に近しいこの場でも暁メンバーはマイペースだ。
――できるだけ、こっちで時間を稼ぐ。みんなは手はず通りに。ね、隊長?
 そう誄が振り返るとその男は不気味にくつくつと笑った。
「辿り着けさえすれば、あとはボク達が何とかしますッ!」
 それを見届けると槇はピースメイカーを構える。
「さっそくお出ましだお!」
 ボートの背後、前方で立ち上る水柱。
 ルネが水を纏って現れた、ボートを粉砕しようと音撃を放つ。
 威月は背後から放たれる攻撃に対して盾を構えた。
 激しく揺れるボート。
「……隊長!」
 威月が振り返るも隊長は無事である。しかしボートが何隻が沈んだ。
 と言ってもあれはダミーなのだが。
 マネキンを詰んで槇によって遠隔操縦されているボートは全部で五隻。
 その中には『蔵李 澄香(aa0010)』が操るボートもあったがそれ以外はダミー。
 さぁ敵はどう出る。
「映像から個体数を確認したお。現在五体だお」
 槇の周りにまとわりつく個体を素早くナンバリング。
 移動速度を逆算。そのど頭を打ち抜いていく。がしかし。
「再生速度が速い……」
 仁菜が表情を暗くさせながら言った。
「前みたいにはいかないお」
 それでも銃弾を受けた影響は零ではない。
 眼前のルネの頭を吹き飛ばしたことでルネは一瞬の前後不覚に陥る。
 その脇をすり抜けて葵が拳を突き上げるとそれに威月と仁菜が手を合わせた。
――葵ちゃんたのしそう……。
 そう告げたのは葵の相棒『彩(aa4783hero002)』
 彩の言葉に笑みを浮かべると葵は仁菜からマイクを受け取る。
 すると表情を一転させ真面目な顔を見せる葵。
「音波攻撃はそれ以上の音波で吹っ飛ばせばいい! さぁ全員かかってきなさいー!」
――さすが葵ちゃん! 脳筋なのだわ!
 そう大音量で敵を挑発する葵。
 それに乗る男ども。
「ガデンツァあああああああッッ!!」
 叫ぶのは、燃衣……に似た誰か。
「ぬおおおおおおおお努力! 友情ぉおおお!」
――いや何で少年マンガ三原則叫んでんの。
 槇がそう告げると誄がそうつっ込んだ。
 体をよろめかせる槇。
 その肩を燃衣が受け止めた。
「さんきゅーだお、隊長」
 含みのある言葉、見上げる燃衣の目は濁っている。
『火蛾魅 塵(aa5095)』だ。
 いかにイメージプロジェクターで巧みに背格好を似せ。言動を真似してもその腐った性根は隠せない。
『人造天使壱拾壱号(aa5095hero001)』と頑張ってメイクしたのだが。
 まぁ、遠隔からではその不穏なオーラがわからないことを祈るしかない。
「また前方にルネのおかわりだよ」
 葵が告げる先を見ると二体のルネ。
 ルネ達は音圧で海水を巻き上げるとボートの転覆を狙った。
「「蒼き髪よ。その身に仇なす悪しきものを振り払え!」」
 だがその水の壁も葵の手によって解体されることになる。
 水流を操り、逆にルネを巻き込んでルネを突破した。
「これはまだ序の口」
 葵は積み荷を振り返って不敵に微笑んだ。
「おいでよ私のフィールドに」
 そう、空を見上げる葵。
 その頭上をヘリが通過する。
 激しい風が葵の髪を巻き上げるとそのヘリはルネ達の集まる海域、その天辺へ。 
 直後ヘリのとびらが開いた。
「安心しなって、あたしなら平気さ。たとえ狙われよーったって体張ってるやつらの代わりになるってんなら喜んで弾丸ぶち込まれてやるってんだ!!」
 少女は重たい扉を軽々と開けると、光る鍵盤をかき鳴らして顔をあげた。
 DARKは眼下に広がっている。
 そのプロペラの一枚を狙って『楪 アルト(aa4349)』は飛び降りた。
「……今度こそ……今度こそあのでかぶつをぶっ壊す!!」
『‐FORTISSIMODE-(aa4349hero001)』と共鳴済みのアルト。今日は大量破壊モードである。
「……もうこれ以上くそったれな歌なんか流させやしねぇ!! あたしが、あたしがやるんだ!!」
 空中で武装を展開。
 アルトの目が素早く、ルネ。およびプロペラをロックオン。
「アタシの歌でいきやがれ!」
 ジェットブーツで体制を制御、スラスターで方向を転換しながら回転するようにあたりにミサイルをばらまいた。
 複雑な機動で放られるミサイルに対応できずにルネは爆破され。海水に突入しても威力が減衰しない霊力弾頭によるプロペラの射撃。
 アルトはお気に入りのガトリングを両手でしっかり持ってそのプロペラを穴だらけにしていく。
「オラああああああ!」
 ジェットブーツで反転。別のプロペラを狙って弾丸をばらまいた。
 次いで着水。
 次の瞬間プロペラが大爆発した。
「どうだ!」
 振り返るアルト、しかしだ。
「なんだ?」
 再生している。プロペラが停止後すぐに再生を始めたのだ。
「このままではらちがあきません」
 そう静かに告げたのはヘリの中で待機する『魅霊(aa1456)』すでに相棒の『R.I.P.(aa1456hero001)』とは共鳴済みである。
「DARKに打撃と言える打撃を与えられなければ、私たちの準備を整える時間がない。であれば、私たちがやるべきは」
 ボートの上にいる槇、そのPCに画像を送る。
 それはプロペラの設置点を図解した画像だが、それに情報が書き加えられていた。
 そしてこのプロペラは自動で修復を行うという。
「これは多数の情報が寄せられていて、間違いない事象だと思われます」
 先行していた理夢琉。そして佐千子も同様の証言をしている。
 プロペラは破壊しても短時間で再生。また稼働を始める。
 であればだ。
「ARKの炉は一つでした。であればそこを叩けば」
 そう魅霊は分析する。
「ここからさらに突入にも人を裂くとなると」
 人手が足りな過ぎる。
 魅霊は素早くヘリから飛び降りた。
「最短時間で艦に突入にかかります」
 その魅霊の突入を見計らって昂からの通信が届く。
「作戦について再度整理しましょう」
 昂はすでにマーメイドドライブで水中を潜航中。
 持ち前の潜伏スキルでルネには気付かれていない。
 昂はDARKの動きを観察していた。
「基本方針としては、DARKの侵攻を足止めして時間を稼ぎつつ、内部で破壊工作をして停止させます」
 その声が全員に届いていることを確認してから昂は続きを話しだす。
「現在皆さんはDARKと適宜交戦中。プロペラの破壊もしていますが、それは速度を落とすことにしか繋がりません」
 ルネも追いついてきて戦況は混乱を始めた。
 奇襲の時のようにプロペラをやすやすと破壊させてはくれないだろう。
 であれば奥の手を使うしかない。
「ディメンションキューブの展開をお願いします」
 昂は告げると浮上しプロペラへの攻撃を開始した。
 同時にアルトはジェットブーツをパージして収納、中に履いているマーメードドライブを機動。水中戦仕様に切り替えスラスターをふかして一気にプロペラ近くへ。接近する。
 迫りくるルネの音撃を受けながらも、上に下に泳いで敵をすり抜け。
 そして渾身のカチューシャでメインとなっているプロペラを爆破させた。
 しかし。
「くそ」
 背後にルネが具現化。海と同化したルネがその刃を振り上げアルトを斬りつけたのだ。
 アルトは緊急浮上。目の前にはボート。
 ボートはDARKの前に出ばっていた。目的はわかる。
 その動きを支援するためにアルトが周辺のルネに攻撃を仕掛けた。
「っは! ぶっ壊してもぶっ壊しても直るってんなら……直るのが間に合わねーくらいにぶっこわしゃあいいんだよっ!!」
 放たれる砲撃はボートに近づくルネへのけん制。
 その戦闘に煽られて澄香は海に投げ出される。
「ボートは!?」
 そう顔の水を払ってあたりを見渡すと澄香の乗っていたボートが流されていく。
――澄香ちゃん!
『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』が鋭く叫んだ。
「PC回収してない!」
 澄香は水の中であわててアルスマギカを取り出す。
 素早くミニクラリスミカを送るも、それは魚に変身したルネに食べられてしまった。
 ミニクラリスミカはとても……釈然としなさそうな表情をしていた。
――ボートが……。
 クラリスが絶望したようにつぶやく。
 ボートがルネに奪われDARKの格納庫の中に消えていく。
――後回しです! 自壊プログラムを信じましょう!
 歯噛みしながら澄香はルネの迎撃に移る。
 それどころではないのだ。
 敵はこちらの動きを妨害しようとボートを集中攻撃して生きている。
 キューブの準備が整う前にリンカーがダメージを受けてしまえば作戦に支障がでる。
「ヤラセねぇ!」
 アルトが銃弾を放つが、その華奢な肩を殴り飛ばすような一撃に体勢を崩す。
 目に見えないそれは回避するのが難しくアルトは海の中に叩き込まれてしまった。
「気にすんじゃねぇ! やれ!」
 アルトの怒声。直後海を割るように伸びたのはLpcの光。
 その衝撃で水の中に深くアルトは沈んでいく。
 その姿を苦々しく見送って仁菜はその手のキューブを握りしめる。


第二章 想い

 これはリンカーたちが死地に赴くよりも前の話。
「遙華、よく聞いて」
 状況が混乱する中、H.O.P.E.東京海上支部では来たる脅威に対しての準備が進んでいた。
 このままでは東京が戦場になるかもしれない。
 市民の避難と防衛設備の展開。
 ARKの出港準備、それに追われて遙華は各方面を飛び回っていた。
 ロクトのいないツケは大きく、遙華だけでは手が足りない。
 そんな中澄香は遙華を捕まえ、五分だけ時間が欲しいと告げた。
「澄香、あなたなにをするつもりなの?」
 澄香は黙って自分の作戦を告げた。
 澄香の指示はこうだ。
 宇宙ステーションを使った、かく乱作戦を秘密裏を行うこと。
 構築した迎撃砲台の遠隔操作システムを衛星経由で起動、DARKを衛星軌道上より砲撃。
「けれど弾頭は……」
「わかってるよ、地球までは届かない。今はまだね」  
 マスドライバーから射出した砲弾はそもそも射程圏外。砲弾は大気圏で燃え尽きるが、それは。
「マスドライバーによるヨグソトースがの外殻を砲弾にした場合の攻撃の調整・弾道趣味レーションだから、今のうちに準備を進めておこう」
「澄香……」
 遙華はすべてを察していた。澄香がなにをしたいのかも。
 澄香とその友人たちや、一部のリンカーが姿を見せないのもなぜか。
「頼んだよ、遙華。あと私に何かあったらあの子によろしく」
「そんなの自分で言いなさいよ!」
「大丈夫、言わせるつもりもないから」
 そう振り返って微笑む澄香は曲がり角を曲がって姿を消した。
 直後背を壁に預け澄香は胸の前で手を握る。
「大丈夫、うまくいく」
 自分に言い聞かせるように告げた澄香。
 今回の作戦はガデンツァへのブラフである。
 ロクトを失った今、こちらの行動を細かく察するのは不可能。
 ただ、耳はどこかにあるのだろう。
 であればその耳に声を大にして誤った情報を届けようというのが今回のミッションである。
(宇宙ステーションの活用がアウトレンジからの砲台であるとガデンツァに誤認させる……こと)
 そしてこちらの作戦の進捗を傍受させ、集中力を多方面に分散させること。
(最終的には、東京支部の観測範囲内では上空からの砲撃に晒されると思わせ、離脱の選択肢をちらつかせること)
 澄香は自分の胸のなかでも目的を復唱する。そのためにもDARKの足止めは必要だ。
「お姉さま」
 暗闇から魅霊が姿を現す。
「やり方はまだあります。ロクトさんからの話を聞いた上で、私はそう確信を得ました」
 澄香が体を起こした。
「ARKの設計図、データに起こせた?」
「はい。DARKはARKと外見が酷似しています。その機能も酷似していると考えた方がいいでしょう。それに一番大きいのはグロリア社地下道で見つけた戦艦の設計図」
 魅霊は改めて写した外壁に刻まれた設計図を澄香に見せた。
「これはARKの設計図ではなくDARKの設計図ではないでしょうか。スピーカーの設置個所についても書いてありますし」
 目李厘は防衛戦以降の対策構築でも、裏口、つまりは脆弱点を探るのに力を注いできた。
「おかげで、タービンの話から内部破壊による機能麻痺を狙うという手法は、ごく自然に出たものです」
「やっぱり行くの?」
 不安げに澄香が魅霊の目を見た。
 それだけで魅霊は報われたと思ったのだ。
「他の方にまかせることはできません」
「魅霊ちゃんも自分の命が勘定に入らない人でしょう?」
「いえ、入ってますよ、死ぬ気は毛頭ありません」
 そう首を振る魅霊の真意は澄香につかめない。
「それに誰かのために行動する喜び、私には理解できます。それを教えてくれたのは姉さまではないですか」
 そう魅霊が視線を澄香の背後に向けると少女が廊下を疾走していくのが見えた。
 葵が遙華の背中を捕まえると全力で頭を下げた。
「西大寺さん、天翔機貸してください」
「だめよ!」
 壁際から目だけ出して様子をうかがうと、頭を下げる少女に頑として動かない意志を固めた少女、そしてその隣でうろたえる彩がいた。
「あなた達、あれを貸すと死にに行くでしょう? グロリア社の倉にも厳重にロックをかけたから、あなた達は大人しく、私たちの準備が整うまで待っていればいいのよ」
 そのロックもロクトのリークによって正規の手順で解除できる、遙華の行動は意味をなさない。
 遙華はまだロクトがこちら側に戻ったことを知らないからだ。
「それでも私は行くよ」
 真っ直ぐ言い放つ葵。その髪が零れ落ちる。空を写した青い色の髪の毛。
 空を宿した彼女からは自由を奪うことなどできない。
「戦力の逐次投入が愚策と言われるのはね、最初に投入された少数ユニットの被害が甚大になるからよ、わかる? この前は十分なリンカーの数が確保できたからDARKに向かわせたの。今回は十人ちょっと。こちらからの支援も望めない。それでガデンツァに挑ませるわけないでしょ? 本人が出てきたらどうするの」
「足止めをするだけだから」
「だめよ」
「私たちがいかないと、もっと多くの人が……」
「誰も! もう私の前からいなくならせないって決めたの!!」
 遙華の金切り声に似た叫びがH.O.P.E.支部内に木霊した。
 息を荒げる遙華、その肩に彩がそっと手を置いて、諭すように告げた。
「止めて聞く人達だったら、こんな所にこないと思うのだわ」
「そうそう、今更何を言っても止まらない!」
 葵の真っ直ぐな瞳が遙華を射抜いた。
「だからさ死なない様に協力してよ。西大寺さんのバックアップがないと厳しいなーって思ってるんだ」
「行くのね……」
 遙華の問いに答えることはしない。
「……生きて帰るために最高の準備はしたいじゃない?」
 その様子を見届けて魅霊は踵を返す。
「魅霊ちゃん?」
 問いかける澄香に魅霊は振り返らず告げた。
「私も準備がありますので」
 魅霊は再び闇にまぎれる。
「みな、それぞれ思いを抱えているのですね」
 告げると魅霊はぶれていた思いを正す。
  
――私はいい。 
 どうあれ私は暗殺者。殺しを鬻げずには在れない。 
 後の世に、それは要らない……いい機会だ。
 この命一つで対価に足るなら望むところだ。
 こうあればディメンションキューブも役に立つ、持ち込もう。

 そう魅霊は倉庫の扉を開く。
 
    *    *

 澄香はボートの上に上がると海上を見渡す。
 杏奈が敵を迎撃していた。
 蒼き舌でルネの陣形を崩しDARKへと接近していく。
 その戦闘の余波で荒れ狂いボートは激しく揺さぶられているが、一応こちらの想定内の状況である。
 あのPCにはH.O.P.E.の偽の計画書を忍ばせていた。
 宇宙ステーションの誤った使用方法。そしてマスドライバーの遠隔射出プログラムが破損しており、実行不能。という情報。これがのちにどう効いてくるだろうか。
 澄香は空を見上げる。正確には見上げるようにそれを見た。
 そびえたつDARK。ここにいてはボートごと転覆させられてしまう。
 それならば。作戦を次の段階に移すべきだ。
 そう思った。
 澄香は素早くマーメイドドライブを装備。
 水中にもぐり、プロペラに一撃加える。
 リフレクトミラーを操作。そのミラーに接合部が写った段階でブルームフレアを放った。
 ただ、透明な壁のように展開していたルネがそれを阻む。壁のような青い塊は人の姿を取り可憐な少女の姿をとった。
 ルネと澄香が水中でにらみ合う。
 その瞬間背後から迫るルネ。
 硬質な触手状に伸ばされたそれが澄香をからめ捕ろうと迫るが、次の瞬間には切り裂かれている。
 昂が白夜丸を片手に割り込んできたのだ。
 目にも留まらぬ斬撃でルネを切り抜けると澄香を抱えてその場をいったん離脱。
 その間に昂は澄香に上を見るように指示。
 見上げればそれまで高速で進行していたDARKが突如動きを止めていた。
 衝撃が波となって水の中を揺らす。
 そしてその巨大な戦艦を止めているのは、ちいさな小さな立方体だ。
 その立方体を除去しようと迫るルネ達。
 やらせない。
 そう昂と澄香は散会した。
 昂は高速で水の中を泳ぎつつ、ルネの背後をとる。
 その刃を刀でそらして懐に突っ込みそのまま水の上まで押し上げた。
 空中でその首を吹き飛ばし。昂はダイビングの体制をとる。
 水を裂いて素早く沈んで新たなルネをターゲットに獲った。
 直後銃弾の嵐がルネ達を襲う。
 血を水に溶かしながらアルトがルネを迎撃していた。
「あいつらのところにはいかせねぇぞ」
 


第三章 その身を盾に

 仁菜は水の音をただ聞いていた。
 退治のように丸まって、ただひたすらに時を待つ。
 水は思ったよりも暖かく不思議と心が落ち着いた。
「覚悟を決めた顔しちゃってさぁ……。死ぬつもりなの?」
 そう問いかけてきたのは『リオン クロフォード(aa3237hero001)』彼の顔が仁菜の前にあった。
「ううん。死ぬつもりもないし……リオンと別れるつもりもないよ」
 目を開ける仁菜。その指で四角い結晶を弄ぶ。
「でもここで引くつもりもないの。最後まで付き合ってくれるでしょ?」
「勿論。ニーナだけじゃ危なっかしいからなー。ちゃんと俺がついてないと!」
 そうリオンが悪戯っぽく笑うと仁菜は満足げに頷いた。
 そして二人は手を握り合って共鳴。
 人魚の尾を装備して仁菜は水の中をかけた。
 それに続くように浮上する威月。
 完全なる奇襲である。
 DARKの真下を取り、一直線にかけていくそれはルネ達に警戒心を抱かせるには十分だった。
「……敵が」
 威月のつぶやきに対して反応したのは葵。
 天翔機、およびマーメイドドライブの加速力を使い、ルネに突貫。
 その体を空中まで持ち上げてそして。
「「碧の神よ。愚かな贄を食らい尽くせ!」」
 その一撃を持ってルネをバラバラに解体した。
 頬を伝う血をぬぐって次の獲物に狙いを定める猛禽のごとく次の獲物を漁る。
 そのインカムからは希望の音が発信された。
 葵が謳っているのだ。
 それに理夢琉が声を重ねる。
 その音はヘリに備え付けられたスピーカーから戦場に垂れ流される。
 ルネの動きが乱れた気がした。
「「黄の神よ。我らの敵を打ち砕け!」」
 そう葵は歌に背中押されるかのように海面に全速力で突貫。水中のルネを切り裂いた。
 その動きを塵も支援する。
「こっちは放っておいていいんですか?」
 そうにやにや笑いながら挑発するようにプロペラを破壊して見せる塵。
 腐蝕の風は海中でも吹き荒れ、プロペラの羽をとろけさせていく。
「阪須賀さんたちは外を! 威月さん達も後から追い付きますッ」
 告げる塵は燃衣の皮をかぶったままに暁メンバーに指示を出していく。
 杏奈が先行してDARKに張り付いてそのハッチをこじ開けようとしている。
 ただあればブラフだ。
 塵には分かっている。
 なぜなら内部にすでに潜入者がいて。その手引きで侵入できる手はずになっているからだ。
「……大丈夫です。終わったら、皆で美味しいものでも食べ行きましょう。スイーツの美味しい店、見付けたんですよ」
 告げる塵は槇に笑みを向けて見せた。それは確かに燃衣がよくやる笑顔にそっくりで。
 その笑顔を見て槇は思う。
 槇はどうして、こうまであの人とこの人は道をたがえてしまったのだろうと思った。
「それじゃあ、また後で!」
 水中に沈む塵。そんな自分の行いを振り返って塵は思う。
「……茶番にも程があるぜ、なぁ?」
 ルネが塵に殺到した。すると自分を中心に塵は黒い渦を作り出す。
「俺ちゃんが考える事と正反対の事をやる、それがテメーらの隊長のクソ甘ヤローだろ?」
 多くの仲間が支援してくれている。
 この状況で失敗するわけにはいかない。そう仁菜はDARKの前に飛び出すとキューブを胸の前で握った。
「大切な人がいるから」
――失いたくないから
「私達は守ることを」
――諦めない!!
 告げる二人の願いは形となって結晶化する。それはあくなき白さをもつ立方体。
 それが一つDARKの進行を止めるように立ちふさがった。
 生きるも死ぬも共に。最後まで決して手は離さない。そんな二人の願いを吸って。 
 キューブは鋼鉄の檻となる。
 それはDARKの衝撃を受けてもびくともしない。震えることもなく、逆にDARKが少し傾いだ。自分の体重が重すぎて前に回転しそうになる。最後尾が少し浮く。それでも衝撃を球種し終わると着水、当たりに巨大な津波を発生させる。
 それでもまだプロペラは回り続け。その船体でガリガリと削るようにキューブの隣を通ろうとした。
 その動きを完全に封じるように威月がキューブを展開した。
「私も諦めません」
 DARKを止める手段が有る、そんなことガデンツァは考えなかったのだろう。
 あわてたようにルネ達がDARK防衛もそっちのけで仁菜に迫った。
「……されば……立ち上がって、戦え……」
 威月のキューブもガデンツァを挑発するように大きくなる。
「いかなる運命にも! 意志をもって!」
 キューブが展開されると同時に飛びかかってきたルネを弾いた。
 威月のキューブも突き刺さるようにDARKを縫いとめる一柱となる。
「必ず……帰りましょう、あの場所へ……」
「その通りです」
 次の瞬間その言葉に頷くように誰かが言った。次いでまるで炎の柱がさすように何かが落下一直線に落ちる。
 ルネと海水。もろとも吹き飛ばし蒸発させ、爆破してそれは海上に立ちあがる。
『煤原 燃衣(aa2271)』がその背で隊員たちを守っていた。
「隊長きたああああ! これでかつる」
 拳を振り上げる槇。それに構わず背面から飛びかかるルネ。
「隊長、こっちだお!」
 槇が素早くボートを寄せる。それを足場に飛び蹴りでルネの体を貫いて。
 そのルネを踏むようにジャンプ。キューブの上に飛び乗る。
――ここから装甲を食い破ることもできるんじゃないか?
『ネイ=カースド(aa2271hero001)』が問いかけた。
「それは、ぜひやってみたいところですね」
 燃衣が斧をぎらつかせる。
 燃衣が鬼神のごとくルネとDARKを攻撃し始めた。何度も刃を弾かれながら滑らせながら。
 そんな仲間たちの勇士を見て威月は思う。
「……すみません、火伏静さま……私は、諦める事は出来ません。火伏静さまも、共に帰ることを」
――……ったく、ごーつく娘がよう?
 それだけ告げてもう火伏静は何も言わない、反対もしない。やりたいようにやればいい。
 そう火伏静も告げた。
――どうにも、貧乏くじ引いたなぁネーさんよう、俺たちの能力者はガンコ者ばっかだ。  
 その言葉にネイはこう答える。
――俺達もおんなじようなもんだろうが。
――違いねぇ。
 群がるルネ達。
 ただ、群がるということはルネが固まるという事でもある。
 今回出撃してきたルネは、長距離射撃用武装を用意していない。
 必然的にキューブに接近する必要が出てくるわけだが。
 そこを昂は見逃しはしなかった。
 ルネ三体をまとめて。相手取る。
 水柱をあげ昂はジャンプ。キューブに取りつこうとするルネに繚乱にて奇襲。うなるウヴィーツァ。
 振り向きざまに迫るルネに縫止、そのまま昂は着水する。
 ルネの斬撃を腹にうけるが速度を落とす愚行は侵さない。
 そのまま船体に沿うように泳ぐ昂。船は完全に停止していた。
 この質量を二つのキューブで受け止める耐久力に関しては驚くばかりだが。
 加勢しなければ二人への影響が大きすぎる。昂は賢者の欠片を使用船の先頭に陣取るとDARKを抑えつけるようにキューブを展開。
「みなさん、あまり持つとは思えません。急いで」
 祈るような形でキューブに封印された。
 その代わりDARKの装甲をへこませてその重たい船体を抑える。
 その時だ。DARKのハッチその一つが大爆発を引き起こした。
 何事か、ルネがそう一斉に振り返る。
 攻撃の手を止めるルネ達。
 そんな風にルネの攻撃の手が止まったのはおそらく、それを操るガデンツァにも影響があったからだろう。慌てふためいたのか、それとも別の理由からか。
 ただ、なにが起こったのかわからなかったのはリンカーも同じ。槇たちはDARKに視線を巡らした。
 見ればひとりの女性のシルエットが燃えたつ格納庫、その向こうに見えた。
 その格納庫にいち早く取りついたのは杏奈である。
 ルネはキューブの対処に夢中だった。しばらくはこちらに来れない。
 周辺警戒のためにおいておかれたルネも数は少数。その背後をとるように杏奈はリフレクトミラーを展開して先手を打つようにルネを攻撃する。
「ふふふ、あわててる、あわててる」
 Sっ気を隠さず微笑む杏奈。作戦の侵攻は順調である、依然として厳しい戦況ではあるが、燃衣はにやりと微笑んだ。
 キューブの上を射抜くように音の砲撃が浴びせられる。
 燃衣はその勢いを殺すためにあえて海に飛び込んだ。
 そのまま眼下のルネを踏み潰すように着地すると、ルネは高速で再生、燃衣をからみとるように体を再形成させようとする。
 しかし。
「僕に、力を貸してください」
 あの日の笑顔を思い出したなら。
 自分はいつだって怒っていられる。
 その力が仲間を救うというのなら。
 いくらでも復讐の炎にその身をさらそう。
 仁菜と威月は見た。海の上でその体を星のように燃やす燃衣の姿。
《火乃銛》
 燃衣は絡みつくルネだけではなく海水を吹き飛ばすような霊力量で海を荒らした。
「ここで、奴を必ず止める……生きる人の為に、奴の為に……死んだ人達の為にも!」
 燃衣はDARKを指さす。
「あの時、ボクに希望を見せなければ! 今ここにボクは居なかった! 精々自分の浅はかさを悔やんで地獄へ行くんだな! ガデンツァ!!」
 直後挑発するように槇のボートが吹き飛ばされる。
 しかし、木端のように散る破片の中に槇の肉片は存在しない。
 槇はすでにボートから退避していたのである。
 マネキンを槇と誤認したルネはまんまとつられたことになる。
 その混乱に乗じて突入班を向かわせる。
「ちょっとばかし、ゆれるぜ……」
 ボートを足で操作しながらアルトが告げる。アルトはその弾丸を一点集中。装甲を食い破らんと弾丸を放つ。
「さればッ! 立ち上がって戦えッ!」
 水の中からジャンプしてハッチに手をかける燃衣。
 その突入する姿に槇は水の中から手を振った。
「タイチョー! 仁菜たん! こっちは天才の漏れに任せるお!」
――……兄者が言うとフラグにしか聞こえん。まぁ、とりあえず。
「外はお願いします、阪須賀さんッ!」
――早く帰って、アイスでも食べ行きましょーよ。
 誄の言葉に頷いて燃衣は艦内へと姿を消した。
 それを見送ると昂は慌てて相棒に言葉をかける。
(ベルフ……無事ですか?)
 今は相棒の声が自分に届いている、しかし昂は感じていた。
 前説明にたがわぬ、この相棒との距離が遠くなっていく感覚。
 今までにない感覚に不安を覚える昂。
(はやく、お願いします)
 リンカーたちも戦いの恐怖には勝てるかもしれないが。
 相棒が消えてしまう恐怖には勝てないかもしれない。
 そう昂はひやりとした思いを抱いた。

第四章 心臓

「敵の警備、配置はこちらであらかた調べておいたわ、非常時だから警戒網を引き直している時間はないはず。このまま中枢まで一気に進む」
――肯定だ。そうなると時間が惜しい。体力に不安のあるものはあらかじめ回復しておくように。
 そうDARK内部に皆を招き入れた女性は燃衣の手を取ると微笑みかけた。
「御苦労様。外の戦いにろくに参加できなくてごめんなさい」
「いえ、いいんです鬼灯さんがいてくれたからスムーズに潜り込めたと思いますし」
 その言葉に佐千子は頷いていく先の通路を一度見た。『リタ(aa2526hero001)』と言葉を交わして突入タイミングを見計らう。
 PCを立ち上げ、取り付けたカメラから通路の状況をうかがっているのだ。
――この戦艦全てがルネが擬態能力でパーツ一つ一つになって組み立てたもの……くらいのとんでもも考えていたわけだが。
 同じくPCをひょっこり覗き見るイリスにアイリスはそう告げた。
「それはとんでもすぎじゃない? ……なんて言えないくらいにおおいなールネ」
――この数を相手取るのは無理だね。
「そうね、だからスニーキングといきましょう」
 突入経路については何度もイメージしてある。
「内部構造としてはこうなっていますが」
 魅霊が簡易的な地図をかいてそう佐千子に見せた。
「この曲がり角は壁が薄くなっていて、ルネを潜ませておくには絶好のポイント奇襲を受ける可能性があるわ、それより」
 そう通路を進みながら高速で適切な通路を割り出していくリンカーたち。
 ガデンツァもこちらが侵入したことはわかっているはずだ。
 対処のためにすぐにルネを向かわせてくるだろう。
 その増員が到着するまでに心臓部にたどり着かなければ。
「いい? 私が殿を務めるからには誰も死なせたりしない」
 佐千子は銃を構えながら後方を確認した。ルネの足音が遠ざかっていく。
「私が撤退すると言ったら撤退する。そのための撤退ルートも三つ考えてある」
 佐千子がなぜそんなことをわざわざ言い始めたのか。
 それは感じたからなのだろう。
 この場に漂う。暗い雰囲気。
「絶対に生きて帰るのよ。それだけは譲るつもり、ないから」
――優れた兵士とは、如何なる戦場においても確実に生還する兵士だ。
 リタが告げる。
――命懸けであることと、命を投げうつこととを混同するな。
――しかし、リスクを避けてばかりはいられない。
 そうアイリスが魅霊の地図の一か所を示す。
 そこは警備機能管理室がある一角だったが、通り道である。
「ADRKの警備機能管理室を襲うことでDARKの機能としての侵入者排除の機構は停止するはず」
 杏奈が告げる。魅霊が頷いた。
「しかし、ルネが目となり手となっている以上、あまり意味がないのでは?」
「以前の戦いでガデンツァはルネの情報の多さで疲弊したはずです」
 イリスが告げる。
「ガデンツァの力が弱まっている今。DARKの機能を低下させることに意味はあると思います」
 佐千子が頷いた。
「それに撤退時に隔壁を下ろされたり迎撃システムを使われる可能性はあるわ。その妨害が無いルートを逃走ルートには選んでおいたけど」
 安全は一つでも多い方がいい。
 頷くと杏奈がアルスマギカを取り出した。
「行くわ」
 先頭は杏奈。
 ダクトから身を躍らせると警備機能管理室の真ん中に出る。
 驚くルネ達に碧の髪でルネ達を壁に叩きつけた。
 次いでイリスと佐千子が突入。
「三体いる」 
 杏奈のカウントを頼りにまず一体をイリスが盾を押し当てるように拘束。
 佐千子がナイフを抜き、その勢いを利用してルネの首を撥ねた。
 魅霊がその間に警備機能管理室の制御を奪還。
「やっぱり何の準備も無かったらデータを書き換えることはできないみたいですね」
 魅霊は歯噛みする。
「けれど、こちらで警戒レベルを下げておけば、動力室への扉が開くようになります」
 魅霊がキーボードを叩いているうちにイリスがルネの首を刎ね飛ばした。
 こちらのルネの再生機能は無いらしい。
 ただ、ルネを殺したことで場所が割れてしまった。廊下をルネの群が走ってくる。
「任せて」
 佐千子が火竜を構える。その砲塔がルネ全員を狙った。
「そこまでよ」
 放たれる膨大な霊力はその火力を持ってルネを殲滅する。
 その間に一行はダクトに戻って行った。
「魅霊さん、早く」
 杏奈がそう手招きすると、その杏奈の足を何かが掴んだ。
 ルネの同体だけが動いてイリスを引きずり倒すとルネは頭のない体で立ち上がる。
 完全に絶命していなかったのだ。そして二体のルネは真っ直ぐ杏奈に刃を向ける。
 それを。
「飛んでください」
 魅霊が杏奈の服を掴むと、そのまま上に投げた。それと同タイミングでキューブを展開。
 杏奈はそのキューブを足場にダクトに戻り、魅霊はキューブの圧力でルネをすりつぶした。
「魅霊ちゃん。何でキューブを持っているの?」
「……何かの役に立つかと思って持ってきたんです。本当ですよ」
 魅霊は自力でダクトによじ登る。ルネの硬質な足音が聞えてくる。
「魅霊ちゃん」
 その杏奈の言葉に、魅霊は微笑むだけでごまかした。
『外界の遮断領域生成』それは……扱いを変えれば、周りを問答無用で押しのけられる力であるということ。
 それに気が付いた魅霊は一つ、あることを考えた。
 防衛手段……。
 そう防衛手段だ。
 敵からではない。来たるべき時に、自分以外の誰かを救うために。
 次いでリンカーたちの動きは迅速だった。動力炉のとびら。その前を警戒するルネを手早く無力化し扉を開く。
 その部屋はひどく幻想的だった。
 紫色の光、赤い光、様々な光で照らされた動力炉。中央にそびれる巨大なクリスタル。それが高速で回転し霊力を生み出していた。
「あれを破壊すればいいのね」
 佐千子は爆導索を構える。同時に金属片をそこら辺からはぎ取ってくる。
 燃衣は背後のとびらを厳重にロックして斧を構えた。
 腕の筋肉が盛り上がりその刃のブレがぴたりと止まる。
「……砕けろッ! 《虐鬼王斧》」
 同じ場所に攻撃を叩き込むなど造作もないこと。その斧の斬撃はクリスタルについた傷をえぐるように何度も打ち据えられた。 
 佐千子はその傷を利用して爆導索を設置最大まで火力を高めた一撃をみまう。
 しかしアイリスは警戒してクリスタルを見守っていた。
――あれは破壊したら爆発するな。様式美というやつだ。
 何せこのDARKを動かすだけの膨大なエネルギーが集中しているのだ。
 それが無作為に放出されればどうなるか。
 イリスが歩み寄ってクリスタルに触れる。
「魔法ダメージかな」
 告げるとイリスは盾を変更、口の中に賢者の石を含んで即座にかみ砕けるようにした。
「みなさんはこの部屋から出てください、あとは僕がやります」
「そうは言いますけど、とっても硬いですよ」
 燃衣が告げる。
「それに」
 佐千子が扉を振り返った。
 扉は分厚く、厳重で硬い。それを突破するのには一苦労なのだろう。
 ルネが総出で扉を攻撃している音が聞えた。
 その発言を受けて杏奈が金の拳にて土の壁を展開。
 少しでも攻撃を減衰させようとしたが。魅霊は首を振って土壁の向こうに避難しようとしない。
「爆発するわよ!」
 石が内部にため込んだ力に負けてひびが入り始めた。
「最後の一撃をくわえます。下がって」
 燃衣が斧に力を込めた。その隣でイリスが待機する。
「死ぬつもりも、死なせるつもりもありませんから」
 ライヴスシールドを張り。フォートレスフィールドを重ね。ライヴスプロテクトで軽減する。
 三重結界を最大展開。あとは自分の技量を信じるだけ。
 イリスの準備が整ったと見るや燃衣は斧に力を込める。
「《鬼神招》」
 そして。
「《虐鬼王斧》!!」
 最後の一撃がクリスタルを砕いた。その霊力は極光となり降り注ぐ。
 イリスはひと目でその霊力量がやばいと悟った。
 とっさに燃衣を庇うが、その影から少女が飛び出す。
「魅霊さん!」
 誰も彼女を止める暇はなかった。
 目の前で展開されるキューブ。部屋を満たす熱量。
 攻撃、直撃は避けられたしかし。
 熱でドロドロに溶けた室内。霞む視界がやっと正常に戻り始めた時。
 部屋の真ん中に横たわっていたのは可憐な少女で。
「ああ、お姉さま、あなたがここにいなくてよかった」
 その地獄にも似た熱量は容赦なくリンカーたちを覆い尽くした。
 
   *   *

「魅霊ちゃん?」
 外でリンカーたちの脱出を待っていた澄香は顔をあげる。
 彼女の声が聞えた気がしたから。

「目的のための犠牲は、私一人でいい」
 
 嫌な胸騒ぎに澄香は思わず空をかける、ブルームの速度を最大速に。
 DARKへと突貫した。

   *   *

「なんで! こんな無茶なことを」
 歯噛みする佐千子は魅霊を布で適当にくるむと自分の背中にしばりつけた。
 先ほどの爆発で扉が脆くなっている、すぐにルネが来るだろう。
「やれやれ、まだ、御役目が残ってるのか」
 イリス……いや、アイリスが盾を支えにしながら前に出る。
「アイリスさんは休んでいてください。あの霊力量を二人でほとんどを肩代わりしたんですよ」
 燃衣が止める、そう告げる燃衣も斧を握るための両腕が赤く焼けただれている。
 他のものも同じような状態だ。命に別状はない、しかし。
 戦闘ができる状態ではない。
「逃走経路Cを選択、整備用通路から脱出する」
 佐千子が告げると地面の鉄板を火竜で撃ち始めた。丸く円を描くように弾丸を叩き込むと、足でガンガンと蹴りぬいてほの暗い穴を示す。
「真っ直ぐ走って」
 その佐千子の言葉をかき消すようにルネが突入してきた。
 アイリスが盾となってルネの攻撃を防ぐ。
「急いで」
 アイリスが告げた。
 全員が穴に突入したところでアイリスも穴に入る。暗い中を自身の弱り切った灯りだけで疾走した。
 やがて少し行くと燃衣が立ち尽くしている。
 分かれ道。その右側を見詰めて燃衣は断っている。
「行ってください」
 燃衣は他のメンバーにはアイリスの様子を見に行くと伝えている。
 だが実際は違う。
「死ぬ気かい?」
「そんなつもりは毛頭ありません」
 だって仲間たちが待っているのだから。
「すぐに、助けを呼んでくる」
 アイリスは冷静に自分の置かれた状況を判断する。
 燃衣と自分のおっている傷の差。
 端的に言うと、今の自分は足手まとい。
 それどころか。彼女に再び食われる可能性すらある。
 今の自分の体力、霊力、リンクレートでは。
「ガデンツァによろしく頼んだよ」
 アイリスがかけていくのをきいて燃衣は通路の左右に切れ込みを入れた。
 鉄板を捻じ曲げるように通路をふさいだ。これでルネの進行速度を少し遅くできるだろう。
 そう歩きはじめる。
「まぁ、僕は戻れないんですがね」
 威圧感のする方へ。
「みなさんすみません。スイーツ、無しになりそうです」
 燃衣は斧をしまって歩きだす、拳に炎を宿して。



第五章 死闘の末に

 屋外、DARK正面。
 そこでは依然としてDARKがキューブの妨害を無理やり突破しようと全力で圧力をかけている最中だった。
 そんな様子に周囲の観察を務めていた理夢琉が告げる。
「キューブがもう持ちそうにありません」
 それと同時に理夢琉の耳に動力炉破壊の報告が飛び込む。
 見ればプロペラの動きが確かに止まった。
「みなさんあとちょっとです、頑張ってください」
 理夢琉はキューブの周囲を周回しながらルネの露払いを行っている。
 そのルネ達を槇も海中から狙い撃つ。
――戦術の基本は。
「一方的攻撃! サイコーだお!」
 ルネから他のリンカーへの攻撃はほとんどなくなっていた。だが推進力がなくなった今ルネがどう動くかは読めない。
――なおネトゲでやると運営に呼ばれる奴。
「い、居ないから大丈夫だお」
 経験があるのか言いよどむ槇である。
――兄者、敵の動きが。
「各個撃破に向かうおね」
 疲れ果てたリンカーたちを逃がすまい、そうガデンツァの采配である。
「だったら今こそ、ジョーカーの切り時だお」
 槇はいったん潜ると幻想蝶から天翔機を召喚。背中に装備すると空中に飛び上がった。
 葵と共にキューブに張り付いた敵を蹴りとばしたり、銃で威嚇射撃を行う。
 ただ、わかっていたことだがルネの数は減ることはない。
 疲れからか槇の銃身にブレが生じてきた。
「いったん体制を立て直すお」
 告げた槇はフラッシュバンを投げ、ルネを牽制、その隙に仁菜に近づいた。
「仁菜たん、推進炉は破壊されたお。もう撤退するお」
 その言葉に仁菜は一瞬キューブ化を解いた。
 ありったけの回復を自分に。
「ど、どうしたんだお?」
「まだ、隊長が戻ってない!」
「もう、キューブになる意味はないお」
 いや、意味はある。
 キューブがここにあればルネを戦力として割かざるおえなくなる。
 であれば、燃衣たちが逃げる時楽になるはずだ。
 それに仁菜は思うのだ。
「この状態の私をガデンツァは見逃すかな……」
 息を荒げながら、汗を滝のように流しながら仁菜は告げた。
「死ぬ気かお!」
 槇は仁菜の考えを察していた。だからその肩を揺さぶる。
「葵ちゃん、私はいいからお兄ちゃんを連れて全力で逃げてくれる?」
 槇にではなく葵にそう仁菜は告げた。
「にい……」
――バカなことを言うのはやめろ! 
 誄が叫んだ。体の主導権を誄が奪い去る。
「誰も死なせず帰るんだろ!?」
「だれも、死んで無いし死なないよ」
 仁菜は冷え切った視線で誄を見た。
「誰もっていうのは、仁菜も含まれてる!」 
 その言葉にきょとんとした表情を仁菜は見せた。  
 まるで暁の食堂で。
 ちょっと誰かにからかわれた後の……。
 からかわれたことを知った直後の。
 そんな表情。
「ごめんね」
 その時葵が誄の腹部にタックルした。
「ま……待って!」
 じたばたもがく誄に葵は告げる。
「戻って! 女の子一人おいて……残していけるか!」
「震えてるのに。何を言ってるの?」
 誄は言葉を失った。悔しそうに目を瞑り。そして力の入らない拳を無理やり閉じて葵の天翔機を叩いた。
「ちょ、ちょっと! いたい! いたいいたいいた!」
「仁菜!!」
 叫ぶ誄。
「威月ちゃん、代わろうか」
 仁菜はそれだけ告げると誄の言葉に振り返らない。仁菜は再びキューブに戻った。DARKを押し上げるような位置に陣取ってDARKを抑えつける。
「私とっても諦めが悪いの」
 そうつぶやいた声はキューブに封印され届かない。
「守りたいから絶対引かない」
 たとえ勝てない戦いだとしても。
「みんな大好きだから」
 願いが星のように輝く。
 この思いは決して砕ける事はなく。
 例えここで私の体が使えなくなっても。
 仲間が無事なら何とかなる。
(隊長もお兄ちゃんも威月さんもいるんだから)

「信じてるから」

 仁菜の声が潮騒に溶けて消える。
「でも、ここまでガデンツァが音沙汰ないのも気になるんだ」
 直後、アルトが飛びのいた箇所に澄香と理夢琉が狙いを定める。
 二人はヘリ、箒から飛び降りると同時に手を重ねるそしてサンダーランスにてDARKの装甲を食い破った。
 有り余った威力はDARK内部に浸透して爆発。その衝撃で大きく装甲がめくれた。
 剥がれ落ちた鉄板の向こうに仲間たちが見える。
 ヘリが近付くことはできない、だから理夢琉と澄香が天翔機で仲間たちを連れ帰りに行った。
「魅霊ちゃん」
 澄香は息をのむ。
 魅霊は重度のやけどを負って、息もか細い。
「魅霊ちゃん! 息を、息ができてない」
「まだしているよ」
 アイリスが天翔機を装備し魅霊を抱えた。
「けれど、昔のように生活できるようになるかは……」
「威月ちゃんと仁菜ちゃんは?」
 杏奈が問いかける。
「とりあえず撤退を」
 佐千子が告げると突如大きな揺れがDARKを襲った。

エピローグ

「……ネーさん、ボクら、生きて帰れるでしょうか」
――……お前、未だにそんな事を言っているのか。だから半人前なんだ。
 暗がりの中で燃衣はそう言葉を漏らす。
「は、はは……ごもっとも」
――そもお前、こんな所で死ぬ気なのか?まだあのアバズレは健在だぞ?
 燃衣は拳を強く握りしめた。そして砕かれた結晶は燃衣の体を充填する霊力と化す。
――お前の仇もな。
「……そうですね。こんな所で死んでる場合じゃないんでした」
――分かったら行くぞ。
 リンクバースト。
 燃え落ちそうな腕にさらに霊力を通わせて、燃衣は無理やり体を動かしていた。
――なぜ。
 ネイが暗闇に問いかける。
――なぜ攻撃してこない。今のクソザコ燃衣なら一撃で葬れるはずだ。
「くそざこって……」
――姿を現せ。ガデンツァ。
 次の瞬間暗がりに光が灯った。
 それは狭い狭い通路。その橋でガデンツァが身を屈めるようにして立っていた。
「ガデンツァ?」
 ガデンツァは顔を覆っている。それだけじゃない。すすり泣いているように見えた。
 弱弱しく、ただ、救いを求める女性のように哀れで小さい存在に見えた。
 燃衣はそれに歩み寄る。
「だまし討ちをしようとしても、そうはいきません」
 燃衣は拳を構えながらじりじり近寄る。
「僕はあなたを」
「殺したい」
 ガデンツァの言葉に燃衣は目を見開いた。
「わらわは、わらわは殺さねばならん。殺さねば、あの時殺せなかった分まで殺さなければならん。死を望んでおった……者達をわらわは王の手先にしてしもうた」
「なんのこと……」
 次の瞬間ガデンツァが伸び上がるように立ち上がり燃衣の首を掴んだ。
 そのあまりの速さに燃衣は対応できない。
「がっは……」
「おおおおお、お主らがいなければ、我はまだ、王に見放されることなど無かった」
 そう憎しみを宿した瞳で燃衣を射抜くガデンツァ。その姿を燃衣は笑った。
「捨てられたんですか? 失敗続きですもんね。ははは。ザマーミロ」
 次の瞬間、ガデンツァの指先が冷たく燃衣の内臓、その隙間に滑り込まされた。
 痛みはほとんどない。ただ、少しでも動けばまずいという本能が燃衣に冷や汗をかかせる。
 だがその時だ、同時に喉元に明かりがつきつけられる。
 灯りと言ってもか細い、真っ赤な煙草の煙。
 塵がガデンツァの背に手を当てるように立っていた。
「塵君……何でここに」
 驚く燃衣にセセラ笑う塵。
「最高だよなぁ。俺ちゃんとテメー、考える事同じだよなぁ?」
 告げると塵は霊力を充填、その魔術攻撃はじわじわとガデンツァの背中を溶かしていく。
「けど一個違うんだよなぁ、ばーさんよぉ?」
「なに?」
「大体、テメーは目標がチンケ過ぎんだよ」
 その言葉に驚いたのは燃衣だった。この期に及んでこの男は一体何を。
「なに、この世界をブッ壊すぐれーで満足してんだよ。だからババアってんだよ」
「おぬし、ここで血祭りに上げてやっても良いのじゃぞ」
「……テメーもいずれ喰ってやるぜ。おっと体はいらねーぜ、ばーさんヨ?」
 次の瞬間、ガデンツァの足元から音が吹き荒れた。
 シンクロニティデス・レクイエム。
 射程も対象数も克服したガデンツァの最強技である。
 塵と燃衣はそれを察すると素早く飛びずさり。塵は顔面に魔術攻撃、腐蝕の蝶を放つ。
「「……裂けて砕けて消え失せろ!」」
 その隙にガデンツァの足を燃衣が砕いた。
 斧の勢いはいまだ止まらず。円運動で斧を持ち直すと垂直に持ち上げてそしてガデンツァの脳天に叩き下ろそうとした瞬間。
「ドローエンブルーム・フルオーケストラ」
 二人ともが体を吹き飛ばされる。
「ドローエンブルーム!」
 ガデンツァの連続攻撃、吸収しようのない攻撃が燃衣の全身を貫いた。
「だめか……」
 せめて弟分がいてくれたなら。
「ごめんなさい、皆さん。本当に」

――何を諦めてやがる。
 
 燃衣が目蓋を下ろそうとしたその時。ネイの叱咤が飛んだ思わず目を見開くとガデンツァが頭を押さえて苦しんでいる。
「ぐあああああ」
「お? ババキルチャーンス」
 塵がさらに攻撃をくわえようとする中、燃衣は塵の体を抱えるように通路の奥を目指して走る。
「おいおい、あまちゃんよ、ここで差し違えるつもりでやらねぇと、チャンスなのによぉ」
「塵君がしたいならとめませんけど。そんなことしなくても僕らはガデンツァを倒せる」
 燃衣は真っ直ぐ塵を見すえて告げた。
「ほんとうか?」
「ええ、僕たちの絆はもう、ガデンツァに届く」
 その証拠にと燃衣はポケットからスマートフォンを取り出した。
 ディスプレイには『三船 春香』の文字。
 外では状況が一変していた。
「みんな、遅れてごめん」
 突如水中から浮上した巨大な何か。それは円状の巨大施設に見えたが。
 それはいったい。
「ARKを無理やり潜水させてたんだよ」
 スピーカーで大きくした声で少女春香は告げる。
 春香は甲板に立っていた。その背後にはずらりとアイドルたちがならんでいる。
 ECCOや三浦ひかりやエリザ。ロクトまでいる。
 そこからヘリが続々と離陸していく。
 そのARKの真ん中から巨大なモニターが展開された。
 モニターには世界各地でのライブ映像が中継されている。
 その中心に立っているのはディスペアと言うアイドルグループたち。
「私たちが立ち直れたのも」
「アタシたちが歌を好きでいられたのも」
「世界が平和であるのも、あそこで戦うみんなのおかげ」
 梓、クルシェ、小雪が順に告げると会場の人々は手を掲げて叫んだ。
 会場にカメラがよると。澄香やイリスには分かるだろう。
 自分たちのライブに何度も足を運んできてくれているファンが見えた。
 彼らは東京で、リンカーたちの勝利を信じて歌ってくれているのだ。
 勝利を願う歌を。
「みんなが時間を集めてくれたおかげで間に合ったんだ」
 みんなが繋げた奇跡なんだ。
 そう春香は告げる。
「だから、ここで絶望は終わらせる」
 リンカーたちを回収するための海上部隊が出動した。
 戦いは次の局面を迎えることになる。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
  • 悪性敵性者
    火蛾魅 塵aa5095

重体一覧

  • 深森の歌姫・
    イリス・レイバルドaa0124
  • 託された楽譜・
    魅霊aa1456
  • 紅蓮の兵長・
    煤原 燃衣aa2271
  • その背に【暁】を刻みて・
    藤咲 仁菜aa3237
  • 暁に染まる墓標へ、誓う・
    無明 威月aa3532
  • 悪性敵性者・
    火蛾魅 塵aa5095

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 託された楽譜
    魅霊aa1456
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    R.I.P.aa1456hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 救済の音色
    セレナaa3447hero002
    英雄|10才|女性|ブラ
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
    人間|18才|女性|防御
  • 暗黒に挑む"暁"
    青槻 火伏静aa3532hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • 残照と安らぎの鎮魂歌
    楪 アルトaa4349
    機械|18才|女性|命中
  • 反抗する音色
    ‐FORTISSIMODE-aa4349hero001
    英雄|99才|?|カオ
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 桜色の鬼姫
    aa4783hero002
    英雄|21才|女性|ブラ
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • 悪性敵性者
    火蛾魅 塵aa5095
    人間|22才|男性|命中
  • 怨嗟連ねる失楽天使
    人造天使壱拾壱号aa5095hero001
    英雄|11才|?|ソフィ
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