本部

シカゴ・タイプライター

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/09/21 08:29

掲示板

オープニング

イリノイ州 某所

 とある昼下がり、広大な荒野を貫く道路の上で、一台のトラックが何台ものバンに囲まれた。分厚いタイヤに次々と穴を開けられて立ち往生したトラック。次々に車から飛び出してくる目出し帽を被った男女を前に、運転手は成す術も無かった。

アルター社 社長室

 重い障害を抱えながらも、アルター社の健常化を志して精力的に活動を続ける現CEO、ロバート・アーウィン。彼は今日も、すっかり顔馴染みとなった一人のエージェントと面会していた。
「というわけで……アルター社内で行われたリオ・ベルデとの通信記録などがないか、データベースなどの調査をお願いしたいのですが」
「構わないよ。この件については、可能な限りの支援をすると約束しているしね……」
 ロバートは秘書の女に指示を出そうとするが、彼女は既にどこかからの連絡を受けていた。スマートフォンを耳に押し当て、すっかり顔を顰めている。
「……それは本当ですか? 少々お待ちください」
 秘書はロバートの傍に駆け寄ると、傍に跪いて携帯を彼の耳元に差し出す。彼はしばらく平然とした顔で話に耳を傾けていたが、やがてその顔は青白くなっていく。
「勘弁してくれ。これから信用を取り戻そうって時にそれだけは……、幸いね、目の前にH.O.P.E.のエージェントが居るから良かったようなものの……ああ。直ぐ対応に回ってくれ」
 ロバートはスーツ姿の少女――澪河青藍へと目を向ける。
「ミス・インディゴ、大変な事になった。ついでだし、一つ仕事を引き受けてくれないか?」
「はあ……?」

ニューヨーク支部 ブリーフィングルーム

「……というわけで、今回の仕事はアルター社がニューヨーク支部へ輸送する最中に強奪されてしまった試作品AGWの奪還です。ちなみに追加輸送分は私が全部引き受けてここに持ってきました」
 青藍はブリーフィングルームのテーブルを指差す。そこにはサブマシンガン型のAGWが八丁置かれていた。
「なんでも、アルター社らしさを追求した、素朴で堅実な一品だとか。まぁ、それだけに今回みたいにヴィランズに渡った場合も100%の性能を発揮するから凄く面倒なわけですが……」
 スクリーンには建造物内の間取りが示されている。
「この通り、敵は廃倉庫をアジトにして引きこもっているようです。皆さんはこれを強襲し、逃げられないように捕縛してください。ついでにAGWは壊さず、なるべく回収して欲しいとの事です」
 青藍はつかつかとテーブルに歩み寄ると、君達の目の前でサブマシンガンを一丁手に取る。
「シカゴ・タイプライターの再現も、まあ乙なもんじゃないですかね?」



イリノイ州 とある廃倉庫

「やっべー! これすげーぞ!」
 新しい武器を手に入れて調子に乗った男が、廃倉庫に転がる空のドラム缶に向かって次々にライヴスの銃弾を撃ち込んでいく。隣で女もへらへら笑っている。
「これがあれば、H.O.P.E.の奴らも返り討ちに出来るんじゃない?」
「マジマジ! 今あいつらマガツヒの対応で大忙しだしな! おかげで俺達暴れ放題だぜ!」

 ヴィランズは馬鹿笑いを続ける。

 すぐそばにエージェント達が迫っているとも知らないで。

解説

メイン ヴィランズが強奪した新型AGWを奪還せよ
サブ 新型AGWを試用せよ

ENEMY
☆ヴィランズ×12
●ステータス
 ブレ×3 ジャ×3 カオ×3 シャ×3(それぞれレベル40/20程度)
●スキル
 レベル40/20相当のものを使用
●武器
 AGW「グレムリン」(能力は後述)
●性格
 適当[特別な連携行動はとらない]
 退避[なるべく障害物を敵との間に挟むように行動する]

WEAPON
AGW「グレムリン」×8
 悪戯妖精の名を借りた短機関銃。照準器や取り回しの改善が図られ、初心者から精兵まで扱いやすい性能となっている。
[物攻+25 命中+200 射程1~16 移動+1 イニ+2]

FIELD
□□□□□□□□□□
□■■■■★★■■☆
□■■■■□□■■□
□■■■■□□■■□
□☆☆☆☆☆☆☆☆□
(一マス2×2sq、外側は壁)
☆…出入口。ヴィランズの逃亡に気を付けよう。[戦闘離脱を行える。]
■…廃コンテナなどの障害物がある。[移動時、移動力を余計に1消費する。]
□…床。[特に効果ナシ]
★…敵の初期位置。
TIPS
・進入は窓からでも可能。倉庫の全面にまんべんなく開いている。
・AGWを破壊してしまうと評価が下がる。なるべく全回収を目指そう。
・分からない点は質問を。

リプレイ

●戦場へと行く前に
 H.O.P.E.ニューヨーク支部、射撃訓練場。鬼灯 佐千子(aa2526)はリタ(aa2526hero001)と共鳴し、一丁借りてきたグレムリンを構える。サイズはほぼハンドガンと変わらない。そこに付属のストックやらスコープやら取り付けると、本体がパーツに呑み込まれそうになった。
「かなり小さいわね」
『携帯性に優れている。SPなどが使うには向いているだろうな』
 引き金を引くと、十数発の銃弾が数秒で放たれる。その銃声は、壊れたパソコンが鳴らすビープ音にもよく似ていた。的のど真ん中をきっちり射抜いたいたずら悪魔を見つめ、彼女は肩を竦める。
『射撃性能はともかく……煩いな』
「……だからグレムリンなのね」
 その隣では、御童 紗希(aa0339)と共鳴したカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)もグレムリンを構えていた。引き金を引くと、鳥の囀るような音が鳴り響く。それ以外は何の変哲もない、ただただ堅実なAGWだった。
『特に細工もないか……』
「まだ疑ってるの?」
『アーウィンが白だったとしても、奴が社内の膿を出し切れていないのが現状だからな。石橋は叩きすぎる位が丁度いいのさ』
 再び引き金を引くと、弾丸は的を綺麗に撃ち抜いた。

 佐千子達が試射をしている間、プリンセス☆エデン(aa4913)は相方のEzra(aa4913hero001)と共に、バインダーに挟んだ資料を捲っていた。対峙する敵についての下調べである。
「他のクラスのスキルってどんなのあったっけ?」
『私達がこれから習得すべき術はすぐにわかるのですがね……』
 斜交いに座っていた日暮仙寿(aa4519)は、部屋の仲間をぐるりと指差す。
「仲間に聞くのが一番早いぞ。ちょうどこれから対峙する相手のクラスも揃ってるしな」
『私達も教えるから、色々聞いてみてね』
 不知火あけび(aa4519hero001)も後輩ににっこりと微笑む。エデンもゴキゲンな笑みを浮かべると、勢い良く立ち上がる。
「ありがとう! じゃあ早速教えて!」
 エデンはそのままあけびの傍まで駆け寄った。あけびはメモに書き出して自分の持ち技を教えつつ、隣の彼を見る。彼はモデルガンでも作るかのように銃にパーツを取り付けていた。
『早速凝ってるね?』
「これが楽しいんだよ」
 仙寿はさっと銃を構える。あけびは苦い顔をした。
『器械的な武器はあんまり信用できないんだよねー。いざという時壊れたらって思うと』
「そうならないようにメンテするんだろ」
 彼はいかにも楽しそうに言う。菓子作りの時もそうだが、几帳面な性格らしい。
『確かに仙寿様は好きそうだよね』
「お前が大雑把なんじゃないか?」
『むぅ』
 揶揄うような物言いに、あけびは雀のように口を尖らすのだった。

●いざ突入
 紫苑(aa4199hero001)と共鳴したバルタサール・デル・レイ(aa4199)は、倉庫の入り口を臨む物陰に潜み、狙撃銃を構えていた。
『新しい玩具を手に入れて燥ぐヴィランズなんて、中学生の子供みたいで可愛いよね』
「(可愛いか……?)」
 状況を愉しんでいる紫苑の呟きに、バルタサールは僅かに眉を寄せる。
『でも、オイタした子どもには、お仕置きしないといけないよね』
「奴らが輸送トラックを襲ったのは偶然なのか、それとも輸送の情報が何処かから漏れたのか。試作品の輸送に護衛は付けなかったのか……」
 少し考えただけでも、疑問は次々と湧いてくる。
『じゃ、捕縛したら、オハナシ聞いてみよっか☆』

「何してるの?」
 エデンは傍の佐千子に尋ねる。彼女はバンの傍に屈みこみ、タイヤに何かを仕掛けていた。
「スパイクストリップです。ヴィランズが慌てて逃げ出そうとしたら、タイヤがパンクして身動きが取れなくなるってわけですね」
「最初からパンクさせちゃえばいいんじゃない?」
 エデンはポケットから五寸釘を取り出す。打ちこめばバンのタイヤはすぐパンクだ。しかし佐千子は首を振る。
「こっちから壊すと角が立ちますから。無事に済ませられるところは無事にしないと」
「ふーん……じゃあ、あたし入り口の辺りに油を撒いてくるね。転んでくれるかもだし」

 数分の間、倉庫内から響く銃声を聞きながらこっそりとエージェントは動き回る。仙寿とカイは共に屋根の上へと陣取った。顔を見合わせると、素早く通信機を手に取る。
《配置完了した。いつでも突入できる》

 八朔 カゲリ(aa0098)、アリス(aa1651)は閉ざされたシャッターの前に立ち、準備完了のサインを送る。琥烏堂 為久(aa5425hero001)は切れ長の目を静かに細めた。
[こちら鬼灯。配置完了しました]
[レイだ。準備は出来ている]
[プリンセス☆エデン♪ 準備かんりょー!]
 離れ気味に陣取っている仲間達からも連絡が入ってくる。為久は頷くと、そっとシャッターの傍に跪いた。
『(さぁー、返してもらおうか)』
 電線も錆び付いた古いシャッターを、為久は力づくでこじ開ける。ランタンが置かれただけの暗闇に、曇り模様の薄光が一気に差し込む。突然の出来事に、中のヴィランズは思わず目元を庇った。為久はふっと微笑み、髪とスカートを揺らしながら一歩一歩ヴィランズへ歩み寄っていく。
『楽しそうですね。私も混ぜてくれませんか?』
「あ?」
 男が一人首を傾げる。為久は手元に隠したグレムリンを突き出した。見たヴィランズは目を丸くする。
「待てよ、それ――」
 言い終わらぬうちに、為久は右手を振るう。突風がヴィランズへと襲い掛かり、その足を止める。同時に窓ガラスが弾けた。カイが倉庫へと飛び込み、彼らの背後へ飛び降りる。大剣をぶるんと振るった瞬間、柄に刻まれた地獄の番犬が地の底から唸る叫びをあげた。ヴィランズは縮こまる。その頭上からは白い羽根が散らばった。三方向からの襲撃に、ヴィラン達はおろおろするばかりである。
『(よし! 初手は完璧!)』
《次弾、宜しく頼む》
 天井にぶら下がった仙寿が言い放つと、すぐさまバルタサールが狙撃銃を構える。左腕を銃座代わりに、スコープを覗き込んで引き金を引く。乾いた銃声と同時に、一人の男がつんのめって倒れた。それを目にしたエデンも、左手に開いた魔導書のページを捲る。
「よし、あたしも……」
 手を突き出すと、氷の礫が少女の足下に飛んだ。鈍い音がして、一人の少女がその場に倒れ込む。更には紅炎と黒炎が同時に入り混じり、ヴィランズを容赦なく舐め脅かす。
「アルター社のAGW……」
『全く話題に事欠かないね、あそこは』
 Alice(aa1651hero001)とアリスはかわるがわるに呟く。とはいえ彼女達の目標が揺らぐ事は無い。オーダークリア。入った仕事はただこなす。
「イッテェ……」
 奇襲攻撃をまともに受け、ヴィランズは呻く。屋根板に穴を開けて突っ込んだ佐千子は、廃コンテナの上に飛び乗る。錆びた鋼鉄が悲鳴を上げるが、彼女は構わず銃を構えた。
「我々はH.O.P.E.エージェントです。武器を捨て、直ちに投降しなさい」
 ソードオフの銃口が、威圧的にヴィランズを見下ろす。影俐も右手に虎の子の天剣をぶら下げたまま、じっと彼らを見据えた。
「……これ以上無様を晒すか? その武器を手放すなら穏便に済ましてやるが」
 たかだか短機関銃十丁程度を盗んだくらいで思い上がったヴィランズ。影俐にとっては見るも堪えないほどの弱さだった。
『(とは、言うが)』
 ナラカ(aa0098hero001)は影俐の内側からヴィランズを観察する。本音を言えば、ここで彼らが降りる事など望んではいなかった。無様だろうが醜かろうが抗ってほしかった。
 天剣の刃が殊更に強く燃え上がる。ナラカが発する圧に押されたのか、ヴィランズは咄嗟に銃を構えた。
「うるせえ、舐めんな!」
 ヴィランズは素早くガラクタの狭間に飛び込む。咄嗟に佐千子が放ったショットガンの銃弾が弾け、コンテナや荷台に大穴を開けた。ヴィランズは闇に紛れ、影俐に向かって銃を放ってくる。影俐は素早く躱し、物陰へと飛び込んだ。
『そうら。撃ったのならば斬られても文句は言えまい』
 鉄板を左手で圧し潰すと、物陰へ潜んでいたヴィランズへと刃を振り上げる。
『受けよ。これは我が裁きである』
 刃の纏う炎がヴィランの一人を舐め尽くす。ヴィランは力無くその場に崩れ落ちた。
『(そら、最初のように馬鹿笑いをしてみせろ。総て、万象遍く一切その悉くを焼き尽くしてやろう)』
 神の鳥は倦んでいた。つまらない人間(じんかん)の只中で。

『つーわけだ! クソ共、今から地獄の恐怖を味わわせてやるから覚悟しな!』
 カイは大剣を担ぎ、倉庫の開けた場所で朗々挑発する。とはいえその姿はゴシックロリータを纏った貧乳高校生。迫力は半減だ。
「(そんな煽り方でいいの?)」
『(あいつら三下っぽいしな)』
 次の瞬間には物陰から弾丸が飛んでくる。大剣の腹を盾代わりに往なし、コンテナの山を一足飛びに駆け登っていく。
『これくらい言ってやった方がわかりやすい動きをするだろうよ』
 コンテナの頂上に立った紗希は身を転じる。
『ところで、ここにいかにも頭の悪そーなカオブレ共が潜んでるらしいな。だれかにゃー?』
「ああ? バカにすんじゃねーよ!」
 三人の女が物陰から飛び出し、カイへ銃を向けようとする。しかし、カイは既に引き金を引いていた。鳥の囀りと共に、一人が足元を撃ち抜かれてガラクタの中に沈む。
『そういうとこだよバーカ!』
「クソが! 蜂に刺された痕みたいな胸しやがって!」
「カイ、アイツの口を利けなくしろ!」
『……アイアイ、マリ』
 女の挑発が紗希にクリーンヒット。カイは口を噤むと、天井にアンカー砲の先を引っかけ、ターザンロープにして別のコンテナの山へと飛び移る。弾丸はその後を追うが、捉えきれない。仙寿がコンテナの影から身を乗り出し、さらに挑発を返す。
《その程度の腕で調子に乗っていたのか?》
 足元を狙って小さな弾丸をばら撒く。ヴィランズは思わず跪くが、それでも負けじと打ち返してくる。仙寿は物陰に身体を引っ込める。飛んだ弾丸は全て鉄板に弾かれた。
《反動も無し、照準のズレも殆どないが……》
 仙寿は手の内に収まる短機関銃を見つめる。あけびが戸惑ったような口調で呟いた。
『ちょっと威力弱過ぎないかな……?』
 佐千子もガラクタの影に身を隠しながら三人に纏めて銃を撃ち込む。だが、この小悪魔はヴィランが隠れる薄っぺらな鉄板も撃ち抜けない。当然彼女の鋼鉄の身体も撃ち抜かれない。リタは冷静に評価を下していく。
『口径や初速から想像は付いていたが、やはり貫通力、衝撃力には期待できないな』
「堅い装甲や皮膚を持つ相手には向かないわね。コンセプトは対人用かしら」
『だろうな。ついでに軍や警察向けだ。対テロ戦では副次損害を抑える必要が伴う。破壊力が低く、命中精度は高いというこの性能はまさにお誂え向きだ』
 言っている間にも弾丸が飛んでくる。ヴィランズの使う銃も壊れる様子がない。
「なるほど、連射性能や集団率にも優れてるし、良銃といえるかしらね」
『構造も簡素で故障率も低い。信頼できる良い銃だ』
 また弾丸が飛んで来た。佐千子は素早く立ち上がると、腿に取り付けたポーチから黒ずくめの物々しい目覚まし時計を取り出す。
「……という事が分かったところで、そろそろ黙ってもらおうかしら」
 佐千子は物陰に向かってデスソニックを投げ込む。その瞬間に積もった埃を吹き飛ばす程の圧を持った爆音が鳴り響き、ヴィランに悲鳴を上げさせる。
「ああああああっ!」
 バルタサールは口端に笑みを浮かべる。しかしその眼は凍っていた。アサルトライフルに持ち替え、入り口の前で堂々と銃を構える。
「その程度で音を上げるようじゃ、ヴィランでもやっていけないな」
 細かく引き金を引きながら、数発の弾丸を次々とヴィランズの脚に叩き込む。ライヴスが弾けて吹っ飛び、男達は瓦礫の中に顔面から突っ込んだ。
「ぐえっ」
 コンテナの中で何とかやり過ごした少年が、咄嗟にグレムリンを突き出す。
「くそ……」
 その構えはいかにも訓練を積んでいないが、それでも銃口は真っ直ぐにバルタサールを狙っていた。
『(彼、狙撃手の英雄にサポートを貰ってるかもね)』
「そうか」
 バルタサールは目にも止まらぬ速さで少年の腕を撃ち抜いた。少年は呻き、力無く銃を取り落とす。膝を崩したところに、物陰から吹き込む黒ずんだ風が吹き荒れ、少年を地面に突き倒した。
「(なんだぁ。そこまで強くなかったね)」
 コンテナの頂上に立って戦場を見下ろし、退屈そうに琥烏堂 晴久(aa5425)が呟く。グレムリンの威力が弱くて数はそこそこ残っているが、彼らは既に鳥籠の中の鳥だ。
『なら丁度いい。僕も試そう』
 グレムリンを取り出すと、為久はコンテナを飛び降りる。瓦礫の中へと飛び込むと、縮こまっているヴィランズの背後に回り込んで小さな引き金を絞る。その艶やかな動きに、今日も晴久は魅了されてしまう。
「(きゃーっ! 兄様かっこいいー!)」
 意識の奥から黄色い声が響き渡る。ビープ音には耳を塞げても、この声は無視できない。
「(撃たれる視点から眺めたい……)」
『ハル、静かにしててくれないか』
 堪らず為久は訴えた。その隙にヴィランズが逃げていく。
「(了解だよ! あ、あっちに行ったよ兄さ……いや、姐さん!)」
 返事はしたものの、結局静かになっていない。為久は深々溜め息を吐くと、銃を幻想蝶へ仕舞い、いつもの魔導書へ持ち替えるのだった。

「……銃弾からは逃れられても」
『わたし達の炎から逃れる事は出来ないよ』
 アリスとAliceが次々と言い放ち、踊る炎を瓦礫の中へと飛び込ませていく。銃にとっては心強い盾も、炎の前では只の障害物。あーだのうーだの言いながらヴィランズは瓦礫の中を逃げ回った。
「むむ……できる。この魔法少女……」
 ミステリアスな魔法少女を横目に、魔女っ娘アイドルはほんの少し対抗心を抱く。アリス達は振り返り、冷たい目つきでエデンを見つめ返した。
「どうしたの」
 淡白な口調。エデンははっとすると、急いで魔導書を捲った。
「あたし実戦経験はまだまだだけど、負けないんだからね!」
『(そこで張り合うんですね……)』
 Ezraはじゃじゃ馬なエデンに戸惑うばかりだ。
「くそっ、どけ!」
 そんな事を言っている間に、逃亡を決意したヴィランズが一斉に飛び出してくる。一番の穴だと思われたらしい。エデンは強気に笑みを浮かべると、その身の回りにきらきら輝くエフェクトを振り撒いた。
「あたしはただのアイドルじゃないんだからね!」
 ふわりと舞った光の粒は、次々と炎に変わってヴィランズの足下へと迫る。ヴィランズは慌てて足を止めたり、火傷も構わず突っ込もうとしてくる。
『……寒いのは嫌いなんだ。一々逃げるの止めてくれる?』
 Aliceは素早く身を翻す。白く燃える冷たい炎が逃げるヴィランズへと襲い掛かり、その身体を霜付かせた。
「ひい……くそっ……」
 ヴィランズは震えながら、その場に倒れ込んだ。脚を止めて何とかそれを逃れたヴィランズは、咄嗟に裏口を目指そうとする。
《逃がしはしない》
 仙寿は素早く目の前に降り立つと、蜘蛛の巣状に編み上げたワイヤーを投げつけ、ヴィランズを纏めてひっ捕らえる。中でもがいていたが、カイが素早く駆け寄り、額を拳で小突いた。
『つー事でな、これ以上の抵抗は無しにしとけ』
「ぐうっ……」
 残るは二人。僅かな隙をついて、開けた出口から逃げ出そうとする。しかし、そんな動きはバルタサールがすっかり見抜いていた。
「目を伏せろ」
 通信機に吹き込み、対物ライフルの引き金を宙へ向けて引く。弾丸は突如弾け、眩い光が倉庫を明々と照らし出した。視界を奪われたヴィランズは撒かれていた油で足を滑らせ、足元がおぼつかないまま瓦礫の中へと飛び込んでしまう。もう逃げようにも逃げられない。
 自前の短機関銃を構えた佐千子が、バレットストームの激しい弾幕をばら撒いて周囲の瓦礫を纏めて吹き飛ばす。眩んだ眼を擦っているヴィランへ、彼女は静かに告げる。
「もう逃げも隠れも出来ないですよ。そろそろ投降しなさい」
 ヴィランズはグレムリンを構えるが、佐千子は再びショットガンを構えていた。どんな分厚い鉄板もぶち抜く『万能の鍵』。まるで勝ち目がない。銃口が、おろおろと揺れる。
『諦めるのか?』
 一方ナラカはヴィランズをまだ煽る。
『為すと決めたなら遂げてみせろ。強奪して降伏するなら端からするな』
 佐千子は銃を構えたまま、困ったように肩を竦める。片や戦いを止めろと言い、片や戦い続けろという。しかも、二人とも一撃で自分を捻じ伏せられるだけの破壊力を手にしている。
「あ、あう、あああ……」
 未熟な二人は二律背反に苦しみ、そのまま気を失ってしまった。ぴくりとも動かない彼らを見下ろし、影俐は静かに剣を納める。
『……つまらんな』
 ナラカは飽き飽きとした口調で呟いた。

●戦いを終えて
 ヴィランズを拘束し、幻想蝶も取り上げ、護送車も手配した。後は始末を待つだけだ。その間に、佐千子とリタはスパイクストリップを片付けるついでにバンの中を検めていた。
『ふむ……』
「特に怪しいところは無いわね」
 見る限り、何の変哲もないバンだ。グローブボックスの中は空になった菓子の袋が詰まっているだけ、何の命令書の類もない。リタは顎に手を当てる。
『無いのがむしろ怪しく思えてくるほどだ』
 スパイクストリップをケースに収め、佐千子は眉を顰める。
「でも彼らがピンポイントで試作品のAGWを積んだトラックを襲う事なんてあり得るのかしらね」
『まあ、普通はその情報を何処かで仕入れたり、第三者が介入しなければそういった情報は掴めないだろうが……』

 二人が首を傾げている間、アリス達やカイ達はヴィランズを詰めていた。
「君達、よく新型AGWを奪えたね。偶々そうだったの、知ってて狙ったの?」
 真っ先にアリスが話を切り出す。Aliceは手元で卸したてのトランプを切り交ぜながら畳み掛けるように尋ねる。ちなみにどちらも蝋人形のように無表情だ。
『偶然なら偶然でも良いから、正直に答えてくれると助かるね』
「力尽くで聞き出す方法なんて幾らでもあるんだから」
 そんな事を言っていても無表情だ。だからこそ余計に恐怖が募る。一人の男が震えながら叫んだ。
「そ、そんな事言ってなあ、知ってるんだぞ。お前らが俺達に暴力を振るったらお前達も警察の世話になるって事。脅したって、無駄なんだからな」
 アリス二人は顔を見合わせる。紫苑はヴィランズを見下ろしてくすくす笑った。
『やれやれ。喧嘩に負けた子どもみたいだよ。お母さんに言いつけてやる、ってね』
「うぐぅ」
「別に黙る理由もないはずだ。輸送の情報をどこから仕入れたのか、護衛がいたのかくらいは言えるだろう?」
 バルタサールは煙草をふかしながら尋ねる。耳に派手なピアスを仕込んだ女が、眼を剥いてバルタサールに噛みついた。
「別に情報なんか仕入れてねえよ。何か高そうなもの運んでそうだったし、傍走ってる護衛も弱そうだったから、ぱぱっと襲ったんだよ!」
『弱そうだったから……じゃあ、君達がアルター社のバンを襲って、AGWを手に入れたのは、運のいい偶然だった、てわけなんだね?』
「ああ、そうだよ!」
「ふむ……」
 バルタサールはサングラスを上げ、直に彼らの顏を見渡す。特に嘘をついているようにも見えなかった。


『だ、そうだが。お宅の警備部隊は一体どうなってるんだ?』
 ニューヨーク支部に戻ってきたカイは、支部長に頼んでアルター社のロバートと通信していた。ロバートは秘書と目を合わせると、ぎこちなく肩を竦める。
「それがねえ……ケイゴの一件で警備部隊は総取り換えする事になったから、まだ練度が低いんだ」
「ああ……そういう事になっていたんですね」
 紗希は小さく頷く。ケイゴが傘下の警備部隊を連れ回してリオ・ベルデの政局に介入しようとしていたのはよく覚えていた。
「とはいえ弱小ヴィランにも負けるとは予想外だったよ。訓練がある程度済むまでは、H.O.P.E.に護衛を頼んだ方がいいかもしれないな。どうだい? 多少は色を付けるよ」
 思わぬ申し出。紗希とカイは困ったように目配せするのだった。

 一方、同じ支部の別室で、晴久は為久にせがんでいた。
「ねえねえ、帰る前に射撃練習場に寄ろうよ!」
『射撃練習場……? ハルも銃を扱ってみたいのかい?』
 為久は仮面を押さえたまま晴久の眼を覗き込む。晴久はわかってるくせに、と首を振る。
「そうじゃなくて! 兄様が銃を構えてるところちゃんと見れてないもん! 帰る前に見せてよ! ちゃんと写真にも撮るからね!」
『ええ……真面目に練習している人もいるだろうし、迷惑にならないかい』
「大丈夫だよ! 兄様が銃を構えたらみんな夢中になって兄様の事眺めちゃうもんね」
 晴久は既にスマートフォンを取り出している。
『そういうものかなぁ……』
「ねえ、早く行くよ!」
『分かったよ』
 渋り渋りしつつも、押しの強すぎる晴久には抗えない為久なのだった。

 所変わって、東京支部。仙寿とあけびは、二人並んで青藍達の前でもじもじしていた。
「えーとだな、俺達――」
『話は別の知人から聞いていたよ。そうかぁ。ついにねぇ……おめでとう』
 二人の話を遮る勢いで立ち上がり、彼は仙寿の手を握る。直球のお祝いに、仙寿は思わずたじたじとなってしまう。その隣で、あけびは「大紫」を肩に掛ける。
『これ、仙寿様が贈ってくれたんです』
 それを見ていた青藍は、わざとらしく頬杖ついて口を尖らす。
「あーあ羨ましい。誰か私の彼氏になってくれないもんかね」
『もっと猫撫で声でスゴーイ、カッコイー、センパーイって言ってれば爆釣れダヨー?』
「だぁれがやるか!」
 テラスの冗談に青藍が噛みつくと、仙寿は大真面目な顔で頷く。
「あけびより年下に見えるしな、青藍。それで姉御系だからギャップで逞しく見えすぎるのかもしれない」
『いや、仙寿様、真面目に分析しなくても……』
「覚えてろよお前……! 結婚式の日には、ご祝儀無茶苦茶に包んでやるからな。私が先輩だって事を、骨の髄までわからせてやるからな!」
 結局は祝う青藍。二人は頬を赤らめながら、小さく頭を下げるのだった。

 支部の屋上。ナラカは欄干の上に立ち、両腕を広げて地上を見下ろしていた。ビル風が、彼女の銀色の髪を流している。
『人間に必要なのは、面を上げて前を向き、そして進む為の試練だ』
「……」
 影俐は黙って傍に立ち尽くしている。ナラカの心は何となくわかっていた。倦んでいるのだ。人間のつまらない姿を見続けて。能力者や英雄ばかりが、ようやく少しの無聊を慰めているのだと。
『されどその時期は疾うに遅く……最早、裁きが必要なのではとまで思う』

 その頃、支部の前ではエデンがEzraの前でダンスの練習の真っ最中だった。
「ワーンツ、ワーンツ……」
『お上手ですよ、エデン様』
「ありがとー。Ezraも、だんだん執事役が板について来たよね?」
『はあ……』
 Ezraは執事っぽいという理由だけでプリンセス☆エデンを支える執事役となったのだが、執事とは何かEzraはまだよく分かっていなかった。戸惑っている間に、今度はエデンが素っ頓狂な声を上げた。
「ねぇーっ! あれ見て!」
 指差した先には、欄干の上に立つナラカの姿。おろおろと慌て、エデンはEzraに尋ねる。
「と、飛び降りようとしてるのかな」
『いえ……そうは見えません。まるで、何か遠く遠くを見つめているかのような……』
「遠く?」
 エデンはスカートを翻し、水平線の彼方に眼を向ける。しかし、それは何の変哲もない海だった。
「うーん……」

『極論、正道とは苦痛を伴うが故に万人には倣えない。太陽の輝きを、人が直視して耐えられない事と同じように……』
 いつものように得意げな、超然とした笑みを浮かべてナラカは独り言ちる。彼女は肌で感じていた。この世が徐々に歪みつつある事に。


『しかし、それが必要な時も最早近いのではないか?』


『(機は熟したと言っていた)』
 青藍達と別れ、あけびは仙寿と並んで二人で歩く。その脳裏には、仲間達が見たという夢の話がぐるぐると回っていた。

 王が来る日は近い
 何故英雄のようなバグが生まれたのか
 何故私と貴方が出会ったのか
 そこに希望がある気がするんだ

 そっとあけびは仙寿の手を取る。
『……私は、絶対に諦めないよ。仙寿』
 俯いたまま、しかしその眼には強い光を宿して言う。仙寿は頬を引き締めると、彼女の手を握り返した。
「俺も、諦めるつもりはない」

 It’s nealy finished…

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
  • 奪還屋
    琥烏堂 晴久aa5425
    人間|15才|?|命中
  • 思いは一つ
    琥烏堂 為久aa5425hero001
    英雄|18才|男性|ソフィ
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