本部

広告塔の少女~魂燃やした歌~

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~12人
英雄
5人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2018/09/18 15:43

掲示板

オープニング

● 炎消ゆ

 赤原光夜はスタジオに向かっていた。今日は自主練習がてらECCOに頼まれた曲のアレンジを行う予定だった。
 耳にはイヤホン、そこから流れてくるのはECCOが紡いだメロディー。
 相変らず甘っちょろい旋律だ。
 そう思いながらもわくわくを抑えきれない赤原は歌詞を想像しながら鼻歌を歌い。
 その扉を開いた。
 その隙間からただよう錆臭さに気が付かずに。
「遅かったではないか」
 そう告げたのは水晶の乙女。赤原は凍りついた。
 リンカーではない赤原ですらその愚神の名前は知っていたから。 
 終末を奏でる者、ガデンツァ。
 水晶の歌姫が赤原のスタジオで椅子に座りその訪れを待っていた。
「久方ぶりじゃなぁ、赤原よ」
「ガデンツァ……」
 赤原は苦々しげな表情を見せた。
「最終勧告か? よく姿を現せたな、ここはH.O.P.E.の警備でガチガチなはずなんだが」
「グロリア社の警備も破ることができた我じゃぞ、ぞうさもない」
「そうか」
 その時赤原は部屋の奥に横たわる何かを見る。足だ。その足を飾るのは先日メンバーが自慢していたプレミアものの……。
「てめぇ! 仲間にはてぇ出さねぇって話だろうが」
 詰め寄ろうとする赤原。その赤原に指先を向けて歩みを止めさせる。
「どういうつもりだ?」
「軍門に下れ、お主の力を我が有効に活用してやろう」
 しばしのにらみ合い。しかし先に口を開いたのはガデンツァの方だった。
「拒否権はない」
「ずいぶん余裕がないじゃねぇか、追い詰められたな?」
「…………」
「何のために俺の力を欲する?」
「無論世界を壊すため」
「お前、歌は好きか?」
「なに?」
「歌が好きかって聞いてんだよ。すきだろ? 謳いてぇんだろ?」
「…………歌こそわが正体。すきも嫌いも」
「じゃあ、お前は世界を滅ぼしたくないんだな?」
「なに?」
「うたってのはよ。心と心を繋ぐためにあるもんだ。逆に言えばそれしかできねぇ、いつだって何かを壊すのは人間かそれに類するなにかだぜ。歌であるお前に世界を壊せるわけがあるかよ」
「……御主の意見はよい、ただ黙って我に……」
「お前の魂に歌はあるかよ」
 ガデンツァは押し問答に嫌気がさして、ピクリと目尻を揺らした。
「お前は何のために謳うんだよ」
「わらわの目的こそ世界を滅ぼすことよ、それ以外に……」
 その時ガデンツァの言葉を赤原が鼻で笑った。
「はっ! お笑い草だな」
 その時、赤原はふらつくように寄りかかり、デスクの上のキーボードに手をかけた。 
「みてろよ」
 そう赤原は天上のどこかをむいてキーボードのボタンを押した。
 静かに何かが動き出す。
「お前は歌が嫌いなんだ、よくわかったぜ」
 ガデンツァが目を見開く。
「だから自分のこともいつまでも好きになれねぇ、歌はお前自身だもんな、だったらお前はお前が嫌いなはずだ」
「だまれ」
 ガデンツァは霞むような声で告げる。その視線はぐらつき、ガデンツァは椅子に手をついた。
「お前が自分の歌で、世界をとりてぇ、そう思うなら協力してやっても良かったさ。俺が協力したところで俺のダチがお前を止める。絶対にな」
「黙れ」
 ガデンツァの瞳が燃え上がる。
 赤原のダチ。それはガデンツァのよく知る人物たちだったから。
「だがな、御前には矜持が無い、信念が無い。世界の破壊? 笑わすぜ。お前が一番望んでねぇことを目標に掲げるんじゃねぇよ。ガキの使いじゃねぇんだ!」
「王のため、王にこの世界を献上するためじゃ! その目的のためならば」
「本性だしやがったな! 舐めんな! 俺のダチはな、みんな血反吐吐いて大切なもののために頑張ってんだ。王様だか何だかしらねぇがよ。誰かに言われて、不平たらたらで何かやったところでうまくいくわけねぇだろうが、このポンコツが」
 ガデンツァは歯を食いしばり立ち上がる。赤原の喉元をすべらかな指で捕えてそして締め上げた。
「お主、遺言はあるかの?」
「友達に、一言」
「ほう?」
「……」
 その時、スタジオに耳をふさぎたくなるような轟音が響いた。
 次の瞬間赤原は全身から血をふきだしてそして。
「大したもんじゃねぇかよ、歌ってやつぁよ」
 指を放したその体が地面に沈む。
「よい、人など取り込もうとした我が、愚かじゃった」
 次の瞬間、悲鳴のような金切り声を鳴らして部屋中のガラスや機器を粉砕する。
 地団太を踏んで空にとどけるように叫んだ。
「わらわは! 違う、傀儡でもなくば、終末を導くもの、数多の世界をこの手で。こわし……そして。何のために、わらわは世界を滅ぼそうと」
 廊下の向こうが騒がしい、ガデンツァは誰かがこちらに向かってくることを知った。
 当然だろう。いきなり都心ど真ん中で霊力が増幅したのだH.O.P.E.が来るに決まっている。
「わらわは一人で戦う」
 告げるとガデンツァは通気口を通って外へ。
「わらわは一人で」

 そして皆は一部始終をこのテープで確認することになる。
 
 それはガデンツァへの最後の切り札。希望の音~H.O.P.E.~を完成させようと発足した会議途中に起きた出来事だった。


● 希望を想像する。
 前回TRVから持ち出された資料の解析作業がグロリア社で済んだ。
 エリザの協力、そして以前からの資料の積み立てもあり。
 グロリア社で科学的に旋律を合成することに成功する。
「これがガデンツァの歌に対する対抗策」
 ガデンツァの歌、心を砕くという最終兵器に対してそれを無効化する手段を有したリンカーたち。
 ただ、その歌を謳うには歌詞が無かった。
「歌詞が無いのはまずいわね」
 遙華は語る。
「この歌はガデンツァの技術、心を震わせる技術を利用して。心をあり方を常に変質させることでガデンツァに心を破壊させないようにする詩。けれど、歌詞が無ければ人々に届かない」
 これは二人で謳う歌。
 お互い呼び合うように謳う歌。
 希望の音~H.O.P.E.~その歓声のための歌詞会議に君たちは呼び出されている。
「今回は歌詞を双パートに分けてるの、Aメロ、Bメロはこんな感じ」

A 

A この手は何を求めてる       夢に触れている
B          星のオーケストラ

AB 目指した確かなもの探して。さぁ走り出そう

A   君と絆結び  描く希望の物語
B 歌え   絆  繋ぐ   喜びの物語を

A 僕が  僕らしく
B   君が君らしく

A   君と絆信じ  選ぶ奇跡の言葉を
B 望め   絆  望み   約束の言葉

サビ……

「サビが思いつかないの、何なら二番もCメロも。みんなで考えてほしいの」
 皆には今回キーワード集めを行ってほしい。
 サビを作るのが難しいならキーワードを見つけに行ってもいい。
 交友を結んだだれかや、いなくなってしまった人の想いを重ねて。
 絶望を撃ち砕く希望を作ろう。
 そう遙華が告げた時だった。
 電話がなる、遙華は受話器を取った。
「赤原さんが……」
 そう遙華は言葉を区切る。





解説

目標 今回は皆さんにガデンツァの歌を阻止するための歌を完成させる。

● 歌について。
 ただ歌にはどんな思いを込めるかが重要です。
 というのがこの歌の仕組みは、あらかじめリンカーたちの歌で聞く者の心を震わせて心の性質を変化させ、ガデンツァの歌の干渉を拒もうという理論です。 
 おそらくこのシナリオに参加される皆さんはこの歌を謳うのでしょう。
 この歌を聴く人にはどんな思いを抱いてほしいですか。
 先ずそれが重要です。

 そして今回は皆さんに、ワードクリスタルというものが与えられます。
 これは霊力を空にした霊石で、霊力を音波として記録する力があります。
 これを手に、思いや歌詞を込めてほしい人のところに行ってほしいのです。
 これまでの戦い多くのことがあったでしょう。
 その振り返りのためにも、ガデンツァとの決着に必要だと思う人物の言葉や願いをきいてきてほしいのです。
 そこから歌詞を作ります。

● 現場検証、彼の残した言葉。

 君たちは音楽施設で異常な霊力が発されたことを即座に気が付いた。
 事件発生から五分でチームが編成されその場に突入することができた。しかし。
 時はすでに遅い。
 あたりにはバンドメンバーと思われる青年たちが転がり、その中央には生贄のように立ち尽くす赤原光夜の姿。
 君たちは彼に対してどうするだろうか。
 君たちがこの部屋で何があったかを知るのは、起動していたPCの映像を見てからだ。
 君たちはこのガデンツァと彼の状況を見てどう思うだろうか。そしてガデンツァにかき消されてしまった言葉とはなんだったのか。それを解き明かしてほしい。
 彼は息をしていない。
 その体もズタボロだったが心が砕かれる離魂病の症状が出ていた。
 ただ、君たちが呼びかけるとまだ彼は反応する。
 彼をこの世界に呼び戻すために必要なものはなんだろうか。きっと君たちはその答えをすでに知っている。 

リプレイ

プロローグ
「赤原さん!」
『斉加 理夢琉(aa0783)』はまず男性に駆け寄った。
 人工呼吸をしようと戸惑っていると代わりにアリューが赤原を横たえ空気を肺に流し込む。
 パニックに陥る理夢琉を『水瀬 雨月(aa0801)』が押さえつけた。
「まだ死んで無いわ。息がある」
 理夢琉は茫然とその人物を見下ろした。 
 感情のない瞳、崩れた表情。赤原光夜はいつも理夢琉を見かけたときに見せるような悪戯っぽい表情はもう、みせない。
「神出鬼没というのは本当に厄介ね。本当……やりたい放題やってくれるわ」
 大きなため息をつくと雨月は赤原から目をそらす。心が壊を見続けているのは心にくるものがあった。
「まだ、希望はある、絶望するな」
『アリュー(aa0783hero001)』がそう理夢琉の肩を揺さぶって告げた。
 この光景に戸惑いの表情を浮かべる『希月(aa5670)』
「歌を作りましょう」
 告げ理夢琉。首をひねる希月。
「歌を作る、ですか。闇に生きる忍びである私が、歌を作る事になるとは思っても見ませんでした」 
 抵抗感はないらしい、すんなり受け入れていた。
「歌は蔵李さんとか卸さんとか私より詳しそうな人に仔細は任せるとして」
 雨月は告げる。
「投げっぱなしという訳にもいかないから、何か手が回らない所をどうにかできればいいかしら」
「しかし、短い間でしたが歌う方々とお付き合いをさせた頂いた事で、あの方達の皆を幸せにしたいという想い、そして、歌には勇気と希望を与える力が有る事も知りました」
 希月は言った。
「だから、私も歌います。皆さんを幸せにする事は、月の忍びである私の使命でもあるのですから」
「表も裏もねぇ、いっちょやってやりましょうや」
 そう『ザラディア・エルドガッシュ(aa5670hero001)』が言葉を締めくくると全員が行動を開始した。
 心を取り戻すための旅が始まる。

第一章 想い、願い

 雨月は仲間たちを送り届ける車の中で遙華と話していた。
「思い……か」
「どうしたの? 雨月」
 遙華がそう問いかける。
「決戦に臨む局面だし不謹慎かもしれないけれど。
 楽しいと感じられるものが良いと思ってしまうわ」
 その言葉に反応したのは『蔵李 澄香(aa0010)』と『卸 蘿蔔(aa0405)』
「希望を謳うのであれば、悲壮な感じばかりになってもあれだし。
 それに使うのはこれっきりという訳でも無いのでしょう? 
 音というのは後々まで継がれていくのだし。
 誰に込めて貰うべきなのかは友達や家族くらいしか思いつかないのだけど」
「誰に込めて歌うか、ですか」
 蘿蔔が雨月の言葉を噛みしめるように口に出す。
(ガデンツァは終わった世界の静寂の中で何を感じたんだろう)
 わからない。蘿蔔は首を振る。
 けれど、音を通じてなら知ることができるかもしれない。
「赤原さん。まだ助けられるよ」
 澄香が言った。
 澄香は赤原が搬送された後、彼の前で彼の曲を謳って見せた。
『熱源・バーニング!』
 すると歌に反応し、彼の指がピクリと動いたのだ。
 蘿蔔が広げているのは歌詞を書きまとめた歌詞帳。
 その歌詞にメロディーをつけてみる。
 なんとなく違う。
(ガデンツァのこの世界の滅びの歌に対抗する歌、その要。どんな言葉なら心に届くのかな)
 心を失った人たちにはどうすれば届くのだろうか。
「みんなはどんな歌詞を生み出すんだろう」
 蘿蔔が青い空に向けてそう告げた。
 そんな青空の下。『イリス・レイバルド(aa0124)』『アイリス(aa0124hero001)』は森の中にいた。
「春香さん」
 そう声をかけると、小川のそばで魚を釣っていた春香と出会う。
「イリスちゃん、アイリスちゃん」
 そう振り返る春香は笑顔だった。
「体はもう大丈夫なんですか?」
「少しずつ人間に戻ってるよ。けど、もう少し様子見が必要かな」
 イリスの言葉に春香は苦笑いを浮かべた。
 春香は以前その体と精神が従魔となりかけたが、それをリンカーたちに救われた。
 間一髪の処方だったので、体にはまだ従魔の痕跡が残っており、長時間の共鳴などは危険だと言われ。今は戦線から離脱させられている。
 そんな春香はおひるごはんに二人を誘った。
 バケツの中の魚をみせると、森の奥のキャンプに案内する。
「歌の完成ねぇ。逆に難しいかな」
 アイリスが問いかけると、春香は首をひねる。
「どういうこと?」
「そういうの得意何じゃないの?」
 イリスが言葉を返した。
「好き勝手にやる分にはね。この前も言ったが妖精なんてものは歌いたいと思った時にはすでに歌っていた、という具合の生き物だよ。
というわけで全体に合わせるとなると、勝手が違ってね」
「じゃあキーワード集めだけでもしとく?」
「何もしないよりはいいんじゃないかな」
「イリスちゃんたちにピッタリなワードとしては、自然とか? 神秘?」
「奇跡……はだいそれているかな?」
 告げるアイリス。
「春香さんはルネさんの記憶のインストール、何故失敗したと思う?」
「もともと成功する余地はなかったんじゃないかと思ってる」
 そう春香が表情をこわばらせた。
「そんなことはないはずです! それでは筋が通りません」
 ガデンツァがルネのふりをしたこと。
 あれには明確な理由があるはずだ。
「でもガデンツァもルネももとは一緒だってわかって、納得したよ」
「それはどうして?」
 アイリスが言葉をかけた。
「だって、二人とも自分が感情に入ってないから」
「自分の命が感情に入ってない?」
「まるで自分の存在なんてないみたいにいろいろするでしょ?」
「どういうことですか?」
 首をひねるイリス。
「ルネは世界を救うためにしんだ。ガデンツァは世界を滅ぼすためなら自分が壊れても構わないって思ってる気がする。それはね、自己犠牲の美しさっていうより、二人とも自分が確かにこの世界に存在するって思えていないからって気がするんだ」
「なるほど」
「正直何のヒントにもならない気がするけど」
「いやいいんだ。それより魚にはこのアイリス特性の妖精の粉を振りまいて食べよう」
「甘くなったりしない?」
「それも良いものだよ」
 森に少女たちの明るい声が木霊した。
 時を同じくして澄香たちが乗った車は駅に降りる。
 そこには沢山の人が日常を営んでいて。その真ん中、時計台の下には一人の少女が立っていた。
 名前を『金張 透歌(かなはり とおか)』という。
 今やその体を機械。そして他人の臓器に置き換えて動けるまでになった。
 今日は病院の退院日で蘿蔔に連絡が入ったのだ。
「今はもう一度現場に戻れるようにリハビリしてる」
 その言葉に蘿蔔も澄香も驚いた。
「どうしてまた戦場に戻ろうとするんですか?」
 だって透歌が置かれた状況はあまりに悲惨だった。
 それにもう一度戦えるようになるなんて思えない。透歌は死んでもおかしくない傷を負っていたのだ。
「私は昔は愚神を倒したいとか、感情のままに戦ってた」
 けれど、と透歌は喫茶店のコーヒーを飲みながらその思いを口にしてくれた。
「あなた達の戦いを見て、見てきて、こんな戦いをする人もいたんだって思ったの。倒すための戦いじゃなくて、助けるための戦い。いいなっておもった。愚神への怒りはまだあるけど、今はあなた達の助けになるためにもう一度戦場に戻りたい」
 告げる透歌の瞳は真っ直ぐで、それが今は眩しかった。
 店を出ると蘿蔔は澄香に告げる。
「すみちゃん」
「どうしたの? シロ」
「私たちはどれだけのことをしてきて、どれだけのことができたのでしょう」
「うん、しろっぽい漠然とした言葉だね」
「えとえと。つまり、私たちは……その、何のために戦ってきたのでしょう」
「それは」
 澄香はすぐには答えられなかった。
 そして電車にのり少し遠い町まで。
 孤児院のある町、その駅に少女が立っていた。
『竹近 彩名』その少女は従魔化が収まりつつある体を長袖薙がズボンで隠しながらも蘿蔔に大きく手を振った。
「彩名ちゃんには夢……とか、ありますか? 願いというか」
 三人は歩きだす。
「いきなり突っ込んできたなぁ」
 そうアイスをかじりながら彩名は蘿蔔を見る。
「一番強い願い事は、この体が早く治ってほしいってこと」
 蘿蔔のぬった服の袖口元を隠す少女。
「でもそれがかなったら、孤児院の先生になりたい」
 告げる彩名は照れ臭そうに視線をそらす。
「どうしてそう思ったんですか?」
「その……優しくしてくれたから」
「やさしく?」
「私は、誰かに優しくできる仕事につきたいんだ」
 その後蘿蔔と澄香はいろんな場所を回った。
 ディスペアやディスペアが教えていたTRVのメンバー。
 春香が修行している森にも言った。アイリスたちと合流して魚で昼食を済ませたり。
 最後にロクトも尋ねた。
「私は、そうね、せっかく拾った命だからあの子のために使いたいかしら」
 ロクトは資料に目を通しながらいった。
「遙華のためです?」
「たぶん、ことが終わっても会社には戻れないから、別の形であの子に、私の知ってること教えて独り立ちしてもらうわ」
 そして話が終われば二人とも感謝をささげその場を立ち去る。
「あ、ロクトさん」
 蘿蔔が振り返って行った。
「終わってからも一緒にいろいろしましょう」
 告げるとロクトは気軽に手を振った。まるで明日の遊びの約束を取り付けるように。
 二人は外に出る、日が沈みそうだった。
 二人はタクシーを捕まえて最後の目的地を目指す。
「……希望って何なんですかね」
 蘿蔔がつぶやいた。その言葉に『レオンハルト(aa0405hero001)』が言葉を返す。
「そう簡単に見つかるものではないさ。
 でも諦めず一歩踏み出せば、意外と近くにあるものなんじゃないかな」
 そうですか。そう蘿蔔は言葉を返すと少し眠った。
 見たのはいつかみた夢の続き。
 学校に二人で通ってる。
 夕暮れ時に一緒に帰る。
 お祭りに行く。
 幻の春を一緒に過ごして。
 夢の夏を共に過ごした。
 その友達はもうこの世にいない。
 夕暮れも傾いて丑三つ時。
 澄香と蘿蔔は墓の前に立っていた。
「遅れちゃってごめんね」
『平岸家』そう刻まれた墓の前で手を合わせ、けれどもう涙を流すことはない。
「……また、声が聞きたいな」
 そして蘿蔔は踵を返す。そこにはたまたま墓参りに来ていた彼方の祖父と祖母がいた。
 命が消える間際。彼方は話していたらしい。
 友達のことを。
 春に過ごしたあの、幻の一か月。
 病に苦しんだ夜も友達と励まして乗り越えたこと。
「あの子はいっておりました。友達ができたのは初めてだと」
 噛みしめるように祖父母は告げた。
「ありがとう」
 その言葉に背を押され澄香は歩きだす。
「私たちの声を届けよう」
 澄香は手をあげタクシーを捕まえると、緊急で町にとんぼ返りする。
 ステージがとれたという知らせが『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』から入ったのだ。
 グロリア社の駐車場を借りて小さなライブを行う。
 もう設置も準備も慣れたものだ、スムーズにことが運ぶ。
 友人に出店の声をかけると出店も出してくれることになった。
 夜、行燈灯りをともしながら、ステージの前に椅子を連ねてアイドルたちのミニライブを行う。
 もちろん理夢琉も参戦した。
 次の時代に乗るべきアイドルを眺めながら澄香は紅茶を飲んでため息をつく。
 遙華の執務室で資料を眺めていた。
「今まで協力してくれた方々から声が届いたよ」
「こんなにたくさん?」
 遙華は驚いたように音声USBをPCに刺した。
 雪まつりの人々。饅頭祭の方々、何度かお世話になっている自衛隊の方々、36時間TVスタッフや、サマーフェスタの協力者の人達。
 膨大な数の声が寄せられた。
「そう言えば遙華、ルネクリスタロスってどうなってるの?」
「ええ、それなんだけど、ご褒美に私のお小遣いで面白い施設作ったわ」
 告げると祭り会場の中心がライトアップされた。
 その中心には剣の台座があり、クリスタロスが突き刺さってる。
「あそこで剣を握って写真を撮るとクリスタルが出てくる仕組み」
 そう、商売っ気のある施設に仕立て上げた遙華。いつもの調子が戻ってきたなぁと澄香は思う。
「そろそろ控室にいかないと」
 澄香は告げて席を立つ。
「澄香」
「え?」
「頑張って!」
 その言葉に澄香は花が咲いたように笑った。
「行ってきます」
 廊下を駆けだす澄香。
 澄香は思う。
 ああ、私こんなに歌が好きだったんだ。と。
 ステージに立ち、ライトを浴びる。
 今日は戦うわけでもなく、作戦も関係ない単なるステージ。
 けれど、このステージに立てることがどれだけ嬉しいかは計り知れない。
「みんな! 今日は集まってくれてありがとう」
 集まった人々の歓声、唱和する歌声、歌うことの素晴らしさをクリスタルの中に。

第二章 眠り

 希月はあの時の事をきっと忘れないだろう。
 彼女が村を出て行ったあの日。
 取り残されたような。彼女の門出が嬉しいような複雑な気持ちでいる。
 それ以来外の世界を夢見て過ごした、彼女の隣にいる自分を目指して修行に挑んだ。
 けれど現実は違っていた。
 彼女は飛び込んでいた現実という世界から、無数の責め苦をうけていて。
 そして。
「姉さま」
 やっと会えた彼女と話を終えて、部屋を出ると希月は思わずへ垂れこんだ。
 彼女が言う事は解っていた
「『挫けぬ魂、そして、仲間を想う心』」
 フレーズを封印するべく持ってきたクリスタルを手にもち、その会話を思い出す。
 歌は完成した。
 あとはこれが本当に効果のある物なのか、調べるだけ。
 赤原は今一時的にH.O.P.E.の医務室に運び込まれている。
 雨月が通報していたのだ。
「メディックがいれば助かったのだけど」
 応急処置をしつつ……その間に遙華と雨月は離魂病について、雨月は運び込まれた赤原の手を取って、毎日看病していた。
「そういえば少し前に心の話をしていたわね。その答えを問われている様な気分になるわ。
 声が届くなら歌も音も届く。なら、心をそして魂を揺さぶって呼び起こす事は出来るのかしら?」
 少しでも彼に火が残っているなら再び燃え上がらせる事も出来るかもと、雨月は提唱する。
 そんな赤原の前に希月が立った。
「あなたは最後まで戦い続けたそうですね」
 希月は赤原の瞳を覗き込む。
「どんなに苦しくても諦めなければ勝機はなくなりはしません。そして、他者を想う心は己の強さを限界以上に引き上げてくれます」
 肉体の強さは有限でも、心の強さに限界はない、そう希月は言った。
「そして、一人では出来ないことも、仲間と力を合わせれば出来ます」
 心から信頼しあった人達が力を合わせれば、1+1=2ではなく3にも5にも、10にもなる。
「そして、それらの力は強さ故に挫折を知らず、本当の友と呼べる存在のいない愚神、ガデンツァ様には決して得られぬ力なのですから」
 希月は赤原の方を掴んで揺さぶった。
「貴方は強い方です。絶望に抗い、最後まで戦ったのですね。
 ……でも、まだ終わってはいません。貴方は歌が大好きなのでしょう?
 だから、また歌って下さい。貴方が歌うのならば私も歌います。魂を、想いを込めて……!
 それが、貴方の望みだと、私は思うのです。」
「歌って心がスッキリしねぇガデンツァって奴ぁ歌が好きじゃねぇんでしょうな」
 そうザラディアが告げると同時に舞台の設置が整った。
「まだ、教えてもらいたいことが沢山あるんです」
 告げると理夢琉は指を組む。
「聞いてください希望の音~H.O.P.E.~」
 声を重ねるのは澄香。
 この曲は二人一組でないといけない。
 パートに分けられた旋律を響かせるように歌っていく。
「戦う力もないのに無茶をするねぇ」
 その光景を見守りながらアイリスが告げた。
「それでも啖呵をきった。ガデンツァに刺さった。戦う心を持っていた」
 イリスが頷く。
「まったく、やってくれたものだよ……この修羅場を潜り抜けた彼の歌を是非とも聴いてみたくなった」
「癒し方とかわかるの?」
「さてね、本来の私の力なら等と言うのは無粋の極み」
「今はないしね」
「ここは彼の流儀に沿うのが礼儀というものだろうさ」
「流儀って?」
「心に響く、熱くなる歌だろうさ……まぁ体の傷は専門家に任せるべきだが」
 二人はコーラスを重ねた。
 間奏中に理夢琉は思い出す。
 今回理夢琉は別居中の父と連絡を取った。
 父はちょうど理夢琉の写っているテレビ番組を見ていたという。
 大きくなったなと。父は告げた。
「お母さんも御前の歌を謳っている」
 その言葉に涙が出るほど心揺さぶられた理夢琉。 
「私自身は、「希望」を歌に込めたいと思っています」
 希月は相棒にそう語る。
「希望がある限り奇跡は起きます。希望があるからこそどんなに苦しくても前に進めるのです。希望の光、闇夜を照らす……私は歌にこの想いを込めたいです」
 歌がサビに差し掛かる。


A 世界に溢れるありふれた願いたちが
B 貴方がいたから、私は優しくなれた

A 世界に溢れた願いが。思いを繋ぐ。
B 貴方がいたから私はもう一度戦えた。

A 繋がることで、生み出された物語
B 思いを束ね。あなたを救う歌をもう一度謳おう


A 唯一無二の希望となって夜を照らす
B 唯一無二の希望となって夜を照らす、この願い。

 蘿蔔は歌に思う。
 赤原は何を伝えたかったのかと。
「前に戦場に歌はいらないみたいなこと言って、ごめんなさい。力さえあれば何とでもなると思ってた……でも、それだけでは足りないのですよね」
 そうつぶやいたとき。

Cメロ
A コーラス
B想い繋いで君の元に。願わくば君と共に

AB 頬つたう水晶光に溶ける微笑み激情で上書きした鼓動をもう一度今

A 願い描いて君の心を。紡いで奇跡の歌を
B コーラス

「たいそうな歌じゃねぇか」
 赤原がまるで、海面から浮上するように息を大きく吸い込んで告げた。
「赤原さん!」
 理夢琉が歌を止める。
「いい歌を謳えるようになったじゃねぇか」
 駆け寄ろうとする理夢琉。それを赤原は制止して告げる。
「いいか、ガデンツァの本当の願いを探れ、あいつは本当に世界を滅ぼしてぇのか? 答えはあいつの行動にある」
 次の瞬間赤原は自分の胸を叩いた。すると。
 鋭くとがった水晶の刃が赤原の肋骨の隙間から突き出してきた。
 大量に血を吐く赤原。
 澄香の視界がくらむ。
「おいおい、なんて顔してんだよ。帰ってくるよ。お前らが地獄から呼び戻したんだろうが。俺をよ」
 そして赤原はその場に倒れ伏す。
「俺達を信じろよ」

エピローグ

 赤原は手術室に運び込まれることになった。
 ルネの検査を怠っていたのはH.O.P.E.側のミスである。
 だが、あの場で誰が内蔵型ルネに気を配れただろうか。
「ここまでされてもガデンツァを救いたいの?」
 レオンハルトが蘿蔔に告げる。
 すると蘿蔔は目を涙で腫らしながらも頷いた。
「私は、どうしても彼女が苦しんでるように見えるんです」
「そうか」
「僕は、反対です」
 イリスが告げる。剣を抜いているあたり気が立っているようだ。
「ボクには傷を癒す力はないけれど……こんな理不尽を指をくわえて見て終わるだなんてさせたくない」
 苦々しげにつぶやくイリスに、アイリスはいつもの調子で言葉をかえした。
「さて、イリスは歌は好きかい?」
「唐突!? ん、んー好きだとは思うけどー?」
「私と出会ってからは、私が常に歌っていたからね」
「うん、歌とお姉ちゃんが一緒になってる部分もあるかもー?」
「イリスが私を通して世界と接しているのは今更だからねぇ」
「それでも好きかな……だって一緒に歌いたいし。別々だから一緒にいたいんだし」
「そのフレーズをもって歌を完成させよう。ガデンツァを救う歌のね」
「お姉ちゃん!」
「ガデンツァは自身の死を望んでいるよ」
 アイリスの言葉に澄香が顔をあげた。
「私には彼女がなにを考えてるか分からない。けれど」
 戦う必要はある。
 そうクラリスを見るとすでに彼女は手はずを整えていた。
「TRVからの流入メンバー。ディスペア。リンカーアイドルの皆さんもARKに乗り込みました。ARKの一部をステージに改装。出発まであと少しです。」
 更に、前回TRV騒動で多方面に被害が広がったことを逆手に取り、交渉でパイプをつないだ各事務所たちとコミュニティを構築、Hopeとグロリア社と多方面の企業とで協力プロジェクトとして発足。
 協力企業から別の相手へと枝分かれさせ、顔の見えなかった協力者たちの輪も広げていく。
 それを一瞬で行ってしまうクラリスの手腕は見事だった。
 だてに何年もプロデュース業をしていない。
「あとは。音楽界の異常をいち早く察知出来る情報ラインの構築と、時が来た際に一人でも多くのアーティストが希望の音を歌えるよう環境を整える必要がありますが、そちらもロクトさん、エリザさんの手を借りて同時進行中です」
「わかった、じゃ直接この歌を届けに行こう」 
 そしてガデンツァの感想をもらうんだ。そう言って澄香は笑った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命



  • 光明の月
    希月aa5670
    人間|19才|女性|生命
  • エージェント
    ザラディア・エルドガッシュaa5670hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
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