本部

ハロウィンナイトメア・仮装パーティ

布川

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/30 23:48

掲示板

オープニング

●A.G.W
 対愚神兵器――『AGW』。アンチ・グライヴァー・ウェポン。能力者の手に渡って初めて真価を発揮する兵器群の通称である。AGWの最大手、グロリア社の名前には、多くのリンカーたちにも覚えのあることだろう。
 ライヴスを媒介し、愚神に強力な効果を発揮するこのAGWというものは、常にHOPEの能力者たちの切り札だった。
 だが、しかし、残念なことに――このような兵器を、悪に売り渡す輩も存在するのである。

●HOPE本部
 いつものごとく、HOPE本部に集められた能力者たち。担当官は、ぐるりと集まった能力者たちを見渡す。
「AGW兵器の密売に関する情報を手に入れた。武器商人ラモスが、都内で行われる非合法のドラッグパーティーに紛れて、何者かにAGW兵器を取引するそうだ。AGWは非常に強力な切り札であり、ヴィランや愚神に渡れば脅威であることは分かってもらえると思う」
 担当官は、資料を次々に提示していく。人の良さそうな小太りの中年男性の写真に添えられて――『要注意人物』と赤い文字で書かれていた。彼こそが、武器商人ラモスであるのだ。
「きみたちの任務は武器商人のラモスを押さえ、取引相手を逮捕、もしくは討伐することだ。相手がヴィランだったら逮捕、愚神であれば討伐……というところかな。万が一、取引相手が同じような非能力者であってもらえれば、話は楽なのだが。そうもいくまい。この取引相手の情報を、残念ながら我々は掴んでいない。ラモスの方は非能力者であるから、能力的にはさして警戒することはないと思うが……今までに、我々は彼について決定的な証拠をつかむことは出来ていない。HOPEの追跡をいくつも逃げおおせてきた男だ。確保には注意してくれ。また、押収したAGWは、おそらくグロリア社から盗まれた開発途中の兵器だと思われる。HOPEが回収し、研究に供することになる」
 HOPEの捜査官は僅かに言いよどむ。
「そして、その、パーティーというのが、少し変わったものであって……。限られた富裕層が集まり、酒やドラッグを楽しむような……。部外者が入りこめない、やや厄介なパーティーだ。だが、今回の催しは仮装を義務づけたハロウィンパーティー。もぐりこむにはうってつけ、というわけだ。きみたちには、客に紛れ込めるようなハロウィンの仮装をして潜入して欲しい」
 HOPEの担当官は、金文字の踊る豪華な封筒を見せた。
「我々はそのパーティの招待状を手に入れ、君たちの人数分、偽の招待状を作った。さて、諸君らの健闘を祈る」

解説

●目標
仮装してパーティーに参加し、愚神を倒し、武器商人ラモスを取り押さえる。AGW兵器を回収する。

●登場
武器商人『ラモス』
 愚神に兵器を横流ししている武器商人。
 取引の後は、パラライザーが良からぬことを考えているのを察し、彼がことを起こす前に逃げる構えである。小太りの中年親父で、顔面に真一文字の傷跡があるのが特徴。もっとも、彼の面構えは割れているため、正体の分からない取引相手よりは見つけやすいだろう。

愚神『パラライザー』
 一般人に紛れて、パーティーに出席しているというラモスの取引相手。もしも兵器が彼に渡る前に対峙する場合は事は有利に進むだろうが、それでも油断ならない相手である。
(PL情報)
 一見すると長身の男性に見えるが、8本の手を持つ愚神である。戦闘に入り、まがまがしい姿を見れば、彼が愚神であることは一目でわかるだろう。
 現在持っている刀では満足できず、今回の取引に至った。ラモスから兵器を買い上げたあとは、試しがてらことを起こそうと考えているようだ。ずるがしこく、回復役などから狙う。

一般招待客&店員
 気ままにパーティーを楽しむ招待客たち。叩けば埃の出そうな彼らではあるが、彼らの摘発はこのシナリオの目的ではない。およそ200名ほど。

AGW兵器『開発番号03-DS』
 開発段階のところを、グロリア社から盗まれたものである。血のように赤い刃を持ち、一振りで衝撃波を発する。長期的な実用は困難。1mほどの、真っ赤な刀である。

●場所
 都内某所、建物の地下でパーティーが執り行われる。ラモスとパラライザーもそこに紛れている。広いダンスホールで、客たちはまばらにテーブルについて酒などをたしなんだりしている。ホールの奥には、やや警備の厳しいVIPルームなどがある。
 表口の階段とエレベーター、緊急用の階段などがある

●状況
 招待状を手に、仮装に身を包んでパーティに途中参加するところから。

リプレイ

●それぞれの装い
 リンカーたちはお互いに挨拶を交わすと、Arianrhod=A(aa0583)を中心に、必要な連絡の手はずを整えていく。
 クラリス・ミカ(aa0010hero001)は、HOPEから受け取った架空の会社の名刺を確かめると、にっこりと微笑んだ。
「上出来ですわね」
 今回、彼女は民間軍事会社の令嬢という触れこみでパーティーに潜入し、武器商人に接触する算段である。他のメンバーも、パーティーに参加するにあたってそれぞれ異なった身分を用意していた。例えばシャーロット ソールズベリー(aa0083hero001)は北欧系の貿易会社会長の娘で、ティオ・ウェンライト(aa0083)はその従妹を名乗る算段だ。
 お互いの話に齟齬が出ないよう、慎重に作戦をすりあわせていく。
「ラモスを探すまでは簡単そうだよね。そこからどうするかだけど、何か騒ぎを起こしてその隙に取引に動いて貰うって感じでどうかな?」
 モニカ オベール(aa1020)の提案に、能力者たちは賛同を示した。
「えっと、方法は……うーん……」
 今回向かうのは、なかなかに品の悪そうなパーティーである。そのようなパーティーで、大勢の参加者たちの気を引くためにはどうしたら良いのだろうか。
「……考えがある」
 能力者たちの中で、ひときわ大柄な男――メイナード(aa0655)は、驚くべき提案を口にした。周囲の目をひく為、その場で奴隷の競りを行うというのである。その間に別働隊が動き、武器商人を追うという手はずだ。
「あ、メイナードさん、いいかもそれ! じゃ、あたしもそっち参加しまーす!」
 モニカはポンと手を叩くと、元気よくメイナードの案に賛同した。
「で、ワシが人買いの不届き者役か」
 英雄ヴィルヘルム(aa1020hero001)は、モニカの隣で重々しく息をついた。
「だって大人の男じゃないと不自然じゃない。ちゃんと仲間内で落札してよね」
「まあよかろう。それよりモニカの演技の方が心配だが」
「……ん、みんなに聞いてがんばる」
 アルプス育ちの少女であるモニカの体力と元気は誰にも劣らないだろうが、『演技』となるといかほどか。ヴィルヘルムはモニカに気を付けるように短く言った。
「パラライザーがパ〇ヴァライザーに見えた、死刑」
「理不尽!! どういう意味か分かる人いるんですか!?」
 Jehanne=E(aa0583hero001)の脳裏に、愚神がブレードを振るうようなさまが浮かんだような気がしないでもない。仮装の用意をしているのかと尋ねるジャンヌに、アリアははっきりと頷いてみせた。
「仮装? シャチの着ぐるみで十分!」
 口を開くたびに口調を変じさせ、言葉によって幾多もの顔を覗かせるアリアが、かりそめの姿として今回選んだのは――シャチの着ぐるみであった。その着ぐるみは、今回の仮装の中でも、ひときわ異彩を放っている。チャックを閉めると、シャチは陸の上とは思えないほどにすたすたと歩きはじめる。
「……待て、フィリス。今何て言った?」
「ですから、奴隷役、お願いしますね?」
 ノクスフィリス(aa0110hero001)は魔族らしい妖艶な微笑みを浮かべると、自身の契約者――倉内 瑠璃(aa0110)に首輪を差し出した。本革の、かなりしっかりとしたつくりの本格的なものだ。メイナードのこだわりなのだろうか。
「……いや、女装はともかくそれはどういう事だ!?」
 ノクスフィリスはにっこりと笑う。
「大丈夫ですよ、同行者の方がきちんと落札して下さいます」
「説明になってないっ!」
 抗ってはみたものの、作戦ならば仕方がない。それに、倉内も、衣装に興味がないわけではないのだ。倉内に用意された衣装は、ヴィジュアル系バンドの女形のような派手なゴシックロリータの装い一式である。さながら吸血鬼、といったところだろうか。高鳴る鼓動を感じながら、衣装に袖を通していく。まるで倉内のためにしつらえたかのような出来栄えだった。ノクスフィリスは、その仕上がり満足げに眺める。ノクスフィリスの方は、定番のゴシックどころのメイド服なのであるが、その服はところどころ大きくはだけて、妖しい美しさを醸し出している。大きく開いた背中には、ハロウィンにふさわしい、悪魔のような大羽を備えている。まさしく、魔族であることを前面に押し出したファッションといったところだろうか。
「潜入ミッションか、腕がなるな」
 麻生 遊夜(aa0452)の言葉に、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)はこくりと頷いた。
「……ん、油断はしない」
 麻生は狼男の衣装を身にまとっていた。彼が口を開くたび口元に覗く尖った牙は、どことなく野性的でサディスティックである。一方、ユフォアリーヤもまた、その耳と尻尾を生かして狼女の姿をしている。ざっくりと胸元が大きく開いているほか、二―ソックスからちらちらと白い肌が覗くのが、いかにも扇情的だった。
「リンクしても違和感がないのは利点だな、耳や尻尾隠す必要ないし」
「……ん、お誂え向き」
 ユフォアリーヤは、麻生に鎖付きの首輪を差し出した。
「……つけろってか」
「……ん」
 彼女は真っ直ぐに麻生を見つめたまま、ずいと首を差し出す。
「……やれやれ」
 麻生はユフォアリーヤの首の後ろに腕を回し、首輪を装着してやった。拘束具を着けるという行為には似合わないほど、その所作は優しいものだ。
「……ん♪」
 ユフォアリーヤは機嫌よく首輪を確かめると、首輪から繋がる鎖を麻生の手に渡す。
「……武器を求める愚神、ねぇ。まぁ、それは兎も角として。然し今回は色々と面倒だな……」
 八朔 カゲリ(aa0098)は腰ほどまでの銀髪のウィッグと赤のカラーコンタクトを装着していた。その装いは、彼の共鳴時の格好を模したものである。それに加えて、彼は顔全体を覆う仮面をつけていた。もともとが中性的な外見の彼だ。艶やかな長い銀髪が加わると、一見してどちらの性別なのかは分からなくなる。女装云々ではないのではあるが、彼の英雄、ナラカ(aa0098hero001)は笑っていた。ナラカは、今は姿を慮って幻想蝶の中にいる。
「この見目では已む無しとは言え詰まらぬのう。済まぬが、覚者の方から澄香とクラリスによろしく言っておいてくれ」
「……まぁ、なるようになるだろうし、なるようにしかならんか」
 彼らは、競りには参加せず、独自に行動をとる構えである。八朔は衣装を作るクラリスたちを遠巻きに眺めていた。
 クラリスの格好は、シスター服である。普段、自らシスターを名乗るだけあってよく着こなしているが、しかし、参加するのはハロウィンパーティーであるため、ただのシスターではない。小さな角と蝙蝠の羽に、先のとんがった尻尾をつけている。隠微なサキュバスの格好と、清楚なシスター服との対比が、背徳感を煽っていた。
 モニカは、ヴィルヘルムが山で狩った熊の全身毛皮を眺めながら、首をかしげていた。
「……ねえミカちゃん、コレ流石に変だよね?」
 熊が喋った。そうとしか見えないのである。
「うーん。そうですわね……お任せくださいな」
 クラリスはハサミを使って、毛皮を器用に整えていく。毛皮ビキニに熊耳と熊手袋。みるみるまに、可愛くセクシーな衣装一式が出来上がっていた。モニカは歓声を上げて衣装を着こむと、ぐるぐるとその場で回る。
「ありがとう、ミカちゃん!」
 ヴィルヘルムはというと、モニカの横で、シンプルにタキシードに身を包み、さながら、マスカレイドの貴族の風体をしていた。
 一方、クラリスの契約者である蔵李・澄香(aa0010)はというと、巫女服と猫耳の取り合わせである。もともとアルバイトで巫女服は着慣れているのであるが、頭上ではぴくぴくと精巧な猫耳が動いている。蔵李は先を思いやりながらも、素早くカメラを衣装に仕込んでいく。取引の証拠はきちんと確保しておきたい。
(蔵李ってどこでも苦労してそうだな……)
 東海林聖(aa0203)は、蔵李を見ながらそんな感想を抱いていた。彼は、今回のオークションでは奴隷の役回りである。
(ヒジリーは殺気立って罠ってばれない様にする、とかダメだから…目隠しと手錠して、大人しく、して)
 東海林は、手錠と目隠しを差し出す相棒Le..(aa0203hero001)、通称ルゥの気持ちを敏感に汲んで大人しく指示に従っていた。
(手錠やら目隠しやら、いや、直ぐ外せるようにしてあるってルゥのヤツが言ってたけど……なんでオレはこうなるんだ……)
 どう見ても拘束具はちゃちなオモチャではないように思えるのであるが。
(解せねぇ……と、言うか見えねぇ!?)
 目隠しを装着すると、完全に視界は真っ暗である。東海林は一旦、ルゥに目隠しを外してもらうと、連絡手段のスマホにワイヤレスのイヤホンマイクを仕込んだ。その上から再び目隠しをしてもらう。これで、大まかに仲間の様子や状況が分かるだろう。
 パーティが始まるまでに会場の見取り図を確認し、避難路や部屋の配置を暗記していたティオは、用意された衣装を見て悲鳴を上げた。
「これ、女物じゃない!?」
 従妹――まさか女の”従妹”の方だとは――ティオに手渡されたのは、腰の下までスリットの入ったシスター風の修道服である。「男の中の男」を目指している彼にとって、その衣装はなんとも言い難い。なだめるように、シャーロットがティオの肩に手を置いた。
「女物を着て潜入捜査するのも立派な男にしかできないことだよ?」
「そ、そうか……そうかも」
 シャーロットの言っていることにも一理あるような気がする。自身の英雄を信じて、ティオは大人しく用意された衣装に着替える。下着までもが女性ものが用意されていたのには面食らったが、おそらくはそういうものなのだろう。着替えを手伝ってもらいながら、なにか釈然としないものが残るような気がした。
 シャーロットは、体にぴったりとした肩と胸を露出した黒いナイトドレスと、大きなウイッチハットをかぶった魔女風の衣装を纏っている。しっとりした雰囲気に、女性の色香が混じっている。彼女はハットを斜めにかぶりなおすと、通話機を目立たないようにそっと忍ばせ、ピンで固定した。
「一丁あがり、っと」
 コガネ(aa0298hero001)は、鐘 梨李(aa0298)の額にお札を張り付けた。鐘は、キョンシーの仮装を選んだ。ぶかぶか目の服は、決して派手ではないものの、年齢相応の可愛らしさを醸し出している。一方のコガネは、付けヒゲと眼鏡に派手スーツを着こみ、帽子をかぶって仮装していた。いかにもうさんくさい招待客である。
「……じゃ、金ちゃん、また、後で」
「おう。そっちも気ぃつけてなー」
 コガネは、鐘に向かって明るく手を振った。
(冗談でもこの案を提案した過去の自分を殴り飛ばしたい……)
 メイナードは、衣装に湧く仲間たちの様子を見ながらも苦悩していた。自分の立案とはいえ、奴隷商人をやるはめになるとは。
「奴隷なんかにしなくても、わたしなら好きにしていいんですよ? おじさん」
 Alice:IDEA(aa0655hero001)の冗談とも本気ともつかない言葉に、メイナードはさらにうめき声を漏らした。メイナードの仮装は、フランケンシュタインである。いかついガスマスクが顔を隠し、血ノリで汚れた肉屋のエプロンが巨体を覆う。そして、頭からは本当に杭が刺さっているように見えるさまはなかなか壮観である。仮装と分かっていても、メイナード自身の恵まれた体格と相まって、恐ろしさはかなりのものだ。
(こうなったら、人相通りの外道を演じるまでだ)
 メイナードは鈍く決心を固めた。イデアは、頭から右目を覆う様にぐるぐると包帯を巻いている。マミーといった格好だが、肝心な部分の巻きがやけに甘い。動くたびに白い包帯の隙間からちらちらと褐色の肌が覗く。心もとないように見える白い布きれは、思いのほか絶妙なフィッティングを誇っているが、しかしながら、シンプルであるがゆえに、身体のラインをびっしり出てしまうのは仕方がない。イデアは身長130cm前後の小さな体躯にもかかわらず、彼女の体つき――とくに太ももからのヒップラインは見るものがドキリとさせられるほど妙に色っぽいのである。

●ラモスの捜索
 準備のできた能力者たちは、いよいよパーティー会場に乗り込むこととなった。
「招待状をお見せ下さいませ」
 受け付けは、招待状を一つ一つ確かめていくと、無表情に通していく。
「招待状を……」
「おう、シャチだぜ」
 受け付けは、2足歩行のシャチを見て一瞬、固まった。招待客の中でも非常に目立つそのシャチは、堂々たる威風を放っている。
「しょ、少々お待ちを……、おい、パーティーのスタッフか?」
「いや、…………どうだろう?」
「誰か知ってるやつは?」
「……」
「し、失礼ですが………………いえ、なんでもないです」
 まさか、こんなに堂々と侵入することもないと判断したのだろう。アリアはあっさりと通される。お疲れさん、とでも告げるようにひらひらとヒレを振ると、悠々とパーティー会場に入っていくのであった。
(チョロい)
 着ぐるみの中で、アリアはイヤホンマイクとスマートフォンを確かめる。
「……匂いが嫌」
「同感だ、だが我慢しろ」
 会場に入るや否や、麻生はテーブルを転々としてラモスを探る。なかなか人が多く、すぐには見つけることができない。他の面々も、それぞれ動き回っているようである。鐘が遠くではねている様子を見つけた。
「おお、良いご趣味で。一服いかがです?」
 パーティー客の男が話しかけてきた。麻生は無理やり鎖引っ張って抱きしめてる風を装い、ユフォアリーヤをさりげなく引き寄せた。怪しい葉巻をすすめられ、麻生は懐から白い粉を見せた。
「いや、自前のがあるんでね」
 中身は、ただの小麦粉なのであるが。
 ユフォアリーヤは従順そうに擦り寄ると、悶える様に首に手を回す。
(ん……フリだよな?)
 鐘は手を前に出して、ぴょんぴょん跳ねながらもテーブルを移動し、同じようにラモスの捜索にあたっていた。
(こういう商人とか、探偵とかね……足音を消して歩く癖、あるの)
 ついでに、鐘は小皿に料理を取り分けながら、口に入れていく。どれも豪華で、高級な料理だ。なかなかの絶品である。もぐもぐと料理を味わいながら、招待客からラモスを探す。
(顔に特徴があるから、まず、隠してる)
 顔を覆うような仮装、あるいは男なのに化粧をしているような姿を思い描く。仮装パーティーだからか、候補はいくらかいたが、その中で、鐘は特徴に覚えがある小太りの男を見つけた。彼は、ツギハギのゾンビのような仮装をして、大きな荷物を持っている。
 同時刻、別の場所でのオークションがはじまった。男はオークションに興味がないようで、そのまま客に紛れて消えた。鐘は素早く仲間に連絡を回す。
(愚神は二の次。姿が判らない以上は完全に後手だ)
 愚神に関しては取引時を狙うのが得策だろう。八朔は喧騒を背に、ラモスの捜索にあたる。鐘が言っていた方向に、それらしい姿を見つけた。彼もまた、仲間に素早く連絡をする。ラモスはなにやら大きな楽器ケースを持っているようだ。VIPルームに消えていった。
 クラリスは、素早くフロントにVIPルームを商談で利用する旨を伝える。名刺を見せ、料金を払うと、すんなりと許可は降りた。VIPルームには、特別客用の小さなスペースがある。
「きゃっ」
 クラリスは偶然を装い、ラモスに体をぶつけた。怪訝そうに振り返った男の人相をターゲットと確かめ、クラリスは優雅に挨拶をする。
「失礼いたしましたわ。トリックオアトリート」
「ああ、ハロウィンですかな」
 ラモスの態度はそっけなかったが、民間軍事会社と書かれた偽の名刺を渡すと、取引相手と睨んだのだろうか、急にラモスはにこやかに握手を求める。
「まだ進出したばかりで、人脈が少なくて困っておりますの」
 クラリスは、握手をしながら、さりげなく身体を密着させる。部屋の中を見渡すが、取引相手らしきものはいない。
 その様子を覗いていた鐘は、クラリスがラモスをマーキングしていることを確認すると、愚神らしき人物を探しに再び会場へと戻っていった。ティオとシャーロットは、VIPルーム付近で商人に接近するものを待つ。八朔もまた、近くで静かに事態を見守っていた。

●奴隷オークション
「さぁさぁ、お集まりの紳士淑女諸君! 本日限定の最高の商品を紹介しようじゃないか!」
 マイクを持ったメイナードが声を張りあげる。
「さあ、商品の紹介してあげてくれないか」
「ふふ、お任せくださいませ」
 ノクスフィリスは優雅に笑むと、会場のあちこちでため息が漏れた。
「さて、ご来場の紳士淑女の皆様、こちらにご注目ください。こちらの可愛らしい少年少女達……私共が提供させて頂きます奴隷にございます。ただいまより奴隷オークションを開催いたします」
 ノクスフィリスが高らかに告げると、会場はざわめきののちに熱狂に包まれた。オークション商品として並んだ人物は、恐るべきことに、誰も彼もが粒ぞろいなのである。
「奴隷オークション? 予定にあったか?」
「どっかの金持ちの気まぐれだろ」
 スタッフは肩をすくめると、傍観者に加わった。
「ッ……出品番号、1番。イデア、です」
 イデアは声を震わせながら、前に進み出た。触ろうと腕を伸ばした男の腕を、メイナードはすかさず掴んだ。
「おっとミスター……今回は、商品へのおさわりは遠慮してもらいたい」
 メイナードの風格に圧されてか、それ以上近づこうとするものはいない。
「さあ、おいくらから始めましょうか!」
 招待客が、身勝手に競り値を叫んでいく。
「お前のお仲間だぞ……どれが良い?」
「……ん、やん」
 麻生が鎖を引き寄せると、ユフォアリーヤは色っぽい声を上げた。
 ユフォアリーヤは舞台を眺め、麻生に耳打ちをする。麻生はコクリと頷くと、現在の値段よりもいくらか色を付けた金額を上乗せした。
(どうせ吹かしだ、派手に行かせてもらうぜ!)
 オークションは、盛り上がりの様相を呈していた。コガネが釣り上げる金額を、麻生が受け止め、さらに釣り上げていく。白熱する状況に、会場はざわめきが支配していた。それまで競っていた客も、敵わないと見てか次々降りていく。
「ひよってんのか! 5000だ!」
 二人のペースで、オークションは進んでいく。麻生が一人競り落とすと、コガネがまた一人競り落とすといった具合である。
「こちらの長身の女性にも見得る吸血姫、なんとこう見えて女装男子でございますわ」
 ノクスフィリスは、次に倉内を引きだした。思わぬ歓声の後、会場のあちこちからため息が漏れ聞こえてくる。
(くそ、結局フィリスの奴にはめられた気がする)
 倉内は唇を噛んだが、ここで逆らうわけにはいかない。
「ま、良い……やってやるさ、奴隷役」
「ええ、お願いします。……逆らったらどうなるか分かりますよね、奴隷なら?」
 ノクスフィリスが声を潜めてそう言うと、鎖を引く。フリではあるはずだが、ほんの僅かに首が締まった。
「うぐ……性根が腐ってる魔族らしいな……!」
 会場の熱気がそうさせるのだろうか。自分に値段をつける声は、どこか遠い世界の出来事のようにも思える。
(マジで奴隷になった気分だ……でもこういうのも悪くないかもな……?)
「ラモスが見つかったみたいだね」
「モニさん……」
 モニカと抱き合う蔵李の目には生気がないが、蔵李はそこそこ安心してもいる。このオークションを仕切る人物も、自分たちを落札する人物も、仲間なのである。顔見知りも多い。
 クラリスが別行動で動いているのは、蔵李にとっては、それはそれでホッとするような部分もあるのだ。
「さあ、こちらの可愛いお嬢様、一体いくらの値をつけましょう?」
 ヴィルヘルムは、蔵李に値をつけることをためらった。顔見知りの少女に値段をつけるなどというのは……。しかしながら、どこぞとの知れぬ成金の中年が声を張り上げたのを見て、ヴィルヘルムは気合の入った大声を出した。
「5000」
 ヴィルヘルムの脳裏にあるのは、過去に散々煮え湯を飲まされた貴族の姿だった。姿を重ねながら、不快な演技を続ける。これ以上競っても勝てないと判断したのか、成金は次にモニカに目をつけたようであるが、それがますますヴィルヘルムを煽る。
「さらに100だ。あの熊の娘はワシが買おう」
 信じられない値段が飛び交っている。会場はざわめきに支配される。

●オークションの裏で
「なにか良い話はないかしら」
 クラリスが水を向けると、ラモスは武器を取り扱っていることを喋った。
「まあ、ほんとうに手広く、色々と取り扱っているんだ。なにかあれば、声をかけてもらえればと思うよ」
「まあ素敵!」
 彼らの会話は隠し持ったハンズフリー状態のスマートフォンや、通信機などで仲間と共有されている。ちらりと時計を見ると、ラモスはおもむろに立ち上がった。
「お嬢さん、失礼。約束があるものでね」
 クラリスは、しめたとあとをつける。
 ルゥは会場内をきょろきょろと見渡す。パラライザーらしき男には、なかなか見当をつけることができない。オークションの人垣から外れているものが怪しいのは確かである。
 ぐう、と、ルゥの腹の音がなった。ルゥは、見た目はただの幼い少女に見える。それが彼女の狙いでもあるのであるが。
(……おなか、すいた……)
 パーティー内には、食べ物も多少ある。良い匂いが腹をすかせる。
(愚神……目星は付けないと……)
 ルゥは意識を集中させる。この中にいる、愚神は誰か。戦闘慣れしてそうな人物。血の匂いのある人物。本人曰く、『歴戦の勘』だそうであるが――ルゥは、ある方向から、なんとなく殺気のようなものを感じた。距離が遠すぎて、断定はできないが。仲間に伝えると、八朔が短く承知した旨を伝えて動いたようだ。
 ラモスは、喧騒をよそに、会場の隅で立ち止まった。小さなホール。やってきた男が、ラモスの持っていたケースに手を伸ばす。
 その瞬間だった。
 八朔が横から勢いよく飛び出すと、ラモスの持っていたケースを弾き飛ばした。ケースはラモスの手から離れる。
「ヒ。ヒイイ……!」
「くっ……取引がばれていただと! まあいい、ここで始末してくれる!」
 パラライザーはマントを脱ぐと、その正体を現した。八本の腕が、それぞれに剣を持っている。八朔は盾で降り注ぐ攻撃の直撃を避け、素早く距離を取って、本を取り出した。
「おじさま、逃げますわ」
 クラリスがラモスの手を掴んで走り出す。何が何だか分からないラモスは、対価を受け取っていないことに渋ったようではあるが、身の危険を察し、導かれるままに追従する。
 ルゥは、東海林の拘束を解き終わる。
「っしゃ! オレの出番だな……やってやるぜ!」
(戦闘中の連携の意識は、ルゥがサポートしないとダメだし……ヒジリーはまだまだダメダメだから……)
 東海林は、共鳴するとライトグリーンの風を纏った。
「お客様、非常事態ですわ。お逃げくださいませ!」
 ノクスフィリスが避難を呼びかけると、客がこぞって出入り口になだれ込んでいく。
「うう、なるべく共鳴はしたくないんだけど…」
 共鳴をためらうティオを、シャーロットが励ます。
「ここにいるのは褒められたような人間ではないかもしれない。だが、だからといって無闇に散らしていい命なんて物はない。救えるのなら、救う。それがあたし達の使命だ」
 共鳴したティオは、もみくちゃになった客にケアレイを施す。
 ラモスが喧騒から離れ、ほっと一息をついたところだった。
「ごめんあそばせ」
 クラリスは、思い切りラモスの頭を胸に抱くふりをして意識を落とす。そしてそのまま簡単に縛りあげると、ロッカーに放り込んで確保をすると、蔵李の下へと駆け抜けていく。
 鐘は、クラリスがラモスを誘導するのを見て、標的を愚神に切り替えた。赤色に変じた瞳がしっかりと敵を見据える。
「脚、羽の如く軽く、強化、強化」
 呪文を唱えると、言霊によって、鐘の足がふわりと軽くなる。鐘は乱撃を華麗にかわしながら、パラライザーへと向かう。
「うぐう、これさえあれば……」
 パラライザーは、八朔の攻撃をその身に浴びながらも武器ににじりよる。ケースから赤い刃の剣を取り出した。振り抜くと、ブオンという音とともに赤い衝撃波が飛び出した。
「8本腕に刀……厄介だな」
 麻生はユフォアリーヤと素早くリンクすると、後方で退路を塞ぎつつ、状況の把握に努める。まだ完全に客が避難しきっておらず、戦うには手狭かもしれない。
「手がいっぱいあっても武器が1本じゃ意味ないよね」
 リンクしたモニカが、素早く刀を叩き落とそうとする。続いて、アリアの銀の弾丸が赤い刀を狙って一直線に飛んでいく。パラライザーは歯ぎしりをすると、別の手で赤い剣を庇い、客に向かって振り下ろそうとした。
 そのとき、アリアの放ったゴーストウィンドの竜巻がパラライザーを巻き上げた。不浄の空気が、パラライザーの気勢を削ぐ。しかしながら、パラライザーはその場で耐え、なおも剣を振ろうともがいている。
 アリアの脳裏に、ひとつのアイディアが浮かんだ。通信機に向かって作戦を告げると、タイミングよく蔵李と倉内がやってくる。
「ええ! 魔法少女の出番です!」
 蔵李はちょうど戦場にはせ参じたクラリスと共鳴した。
「魔法少女クラリスミカ! 貴方のハートをくらくらりん!」
 巫女服はどこへやら、ふりふりの魔法少女の服が蔵李の身を包む。変身で浮きあがった猫耳が、不思議なお約束でそのまますとんと頭の上に乗った。
「お客様の避難は完了いたしましたわ」
 倉内も続けてノクスフィリスと共鳴する。共鳴した倉内は、その姿を完全な女性へと変貌を遂げていた。倉内は素早く魔力を活性化させると、蔵李とともに竜巻に向かってブルームフレアを打ち出す。
「ぐああああ」
「全て壊すんだ!」
「それで建物壊したらダメですよ!?」
 アリアをジャンヌがたしなめる。
 蔵李はすかさずランスを突き出し、愚神に向かって銀の弾丸を浴びせかける。
(自由が利かなかった間に起った鬱憤は、ワリィがテメーで晴らさせてもらう!)
 東海林はそのまま力を込めると、東海林は思い切りパラライザーに突っ込んでいく。
「コレでも食らいやがれ……!」
 パラライザーは大きくよろめいた。闘志を振り絞り、残った腕で東海林に武器を振り下ろす。愚神は後衛を狙う隙がないとみて、狙いを東海林に絞った。その動きをしっかりと見定めて、ティオは愚神の背後から銀の弾丸を浴びせた。
 紫の目を光らせたメイナードが射線に割り込むと、盾をふるい、続けざまにライヴスリッパーをぶち込んだ。愚神は大きくよろめき、ついに赤い武器から手を離した。すかさず東海林が華麗にジャンプすると、弾き飛ばした刀を手に取った。武器を拾い上げた瞬間、東海林は、途方もない熱量を手のひらに感じた。長時間は使っていられないだろうが、愚神を一人倒すぐらいなら問題はないだろう。
「テメェの身を持って切れ味を試されて見やがれ!」
 東海林が武器を大きく振るうと、衝撃波が、今度は愚神を切り裂いた。
「く、くそ、忌々しい」
 愚神はうめくと、一歩下がり、耐性を立て直そうともがく。隙を塗って、ティオの治癒の光がメイナードを癒す。
「刀なんて持つからだよ。素手なら狙いづらいのに」
 モニカの狙いは、見事に仲間の隙間を縫うようにパラライザーに降り注ぐ。
 一方で、麻生は威嚇射撃を交えながら、愚神の動きを牽制していく。放ったストライクが腕を貫き、パラライザーは武器を取り落した。
「俺の目から逃れられると思うなよ?」
 パラライザーが武器を拾い上げようとするところに、麻生はすかさず撃ち込む。
「させやしねぇ、一本ずつ撃ち抜いてやんぜ」
「おらあっ!」
 信じられないことに、この短時間で、東海林は赤い刀剣の扱いを会得しつつあった。一振りごとに、攻撃の精度が増していく。攻撃の反動に負けず、強力な衝撃波を繰り出す。
「おのれ、おのれ……!」
「さようなら、良い旅を」
 麻生の矢が、パラライザーの眉間を貫く。愚神は断末魔をあげて倒れた。

●そして、饗宴は終わったが……。
「よくやってくれた、これでAGW兵器が悪用されることもないだろう。証拠もばっちりだ。ラモスも捕えたことだし、武器の密売人のルートも探ることができそうだ。ひょっとすると、客の何人かは、逮捕までこぎつけられるかもしれない。しかし、未完成の兵器を使いこなすとは……恐れ入ったな」
 HOPE職員は武器を眺めながら、能力者たちを称える。AGW兵器は、すっかり力を失っていた。未完成というだけあって、まだまだ改良の余地がありそうである。
 それぞれに任務を終えたリンカーたちは、ようやく仮装を解いて息をつくことを許されたのだ。
「あ”-、もう。あの粘つく視線に鳥肌が立ちっぱなしでしたよ!」
 イデアは身震いをした。
 場の空気とはいえ、あの怪しい熱狂の渦は何だったのだろうか。メイナードは額を押さえていた。
「……あの、おじさん。もうちょっとだけさっきの関係、続けてみませんか?」
「奴隷商人なんて金輪際御免だ……アレは、人を狂わせる」
 口ではそう言いながらも、メイナードは困惑していた。なんとなく、悪いものばかりでもなかったような気がする。なんだか心にひっかかるものがあるような予感を、理性で振り払う。あの場所には――なにか良くない空気が漂っていた気がするのだ。
 ドラッグパーティの雰囲気にのまれたのだろうか。アリアは、今日もざらざらと薬を流し込んでいた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • フレイム・マスター
    Arianrhod=Aaa0583
  • 危険人物
    メイナードaa0655

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • ひとひらの想い
    ティオ・ウェンライトaa0083
    人間|14才|?|攻撃
  • エージェント
    シャーロット ソールズベリーaa0083hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • クラインの魔女
    倉内 瑠璃aa0110
    人間|18才|?|攻撃
  • エージェント
    ノクスフィリスaa0110hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 小さな胸の絆
    鐘 梨李aa0298
    人間|14才|女性|回避
  • エージェント
    コガネaa0298hero001
    英雄|21才|男性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • フレイム・マスター
    Arianrhod=Aaa0583
    機械|22才|女性|防御
  • ブラッドアルティメイタム
    Jehanne=Eaa0583hero001
    英雄|19才|女性|ソフィ
  • 危険人物
    メイナードaa0655
    機械|46才|男性|防御
  • 筋肉好きだヨ!
    Alice:IDEAaa0655hero001
    英雄|9才|女性|ブレ
  • 雪山のエキスパート
    モニカ オベールaa1020
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    ヴィルヘルムaa1020hero001
    英雄|38才|男性|ジャ
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