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おかしな万引き犯とおかしな従魔
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作戦相談卓
最終発言2015/09/20 10:54:25 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/09/17 00:51:45
オープニング
人の集まる大通りからすこし外れたところにあるコンビニエンスストアで、男二人が言い合っていた。
「お前は何度言えばわかるんだ!」
そう怒鳴ったのはこのコンビニの店長 長嶋である。
「いいじゃねーかよ! ケチくせーな!」
言い返したのは近くのアパートに住む永倉英二だ。
「ケチとかそういうことではない! お前がやってることは犯罪なんだぞ!?」
「じゃぁ、警察に突き出せよ!」
このコンビニで万引きをはじめて二年ほどになるが、長嶋は一度も英二を警察に突き出したことがない。
「警察だって暇じゃないんだ! お前みたいな小者にかまっている暇はない!」
「相変わらず、甘っちょろいこと言ってんね。おっさんは。そんなんだから、俺みたいなやつのたまり場になっちまうんだろーが!」
ただでさえ大通りから外れた人目につかない場所で客入りが悪いのに、それを利用して不良ばかりが集まってくる。
「お前が偉そうに言うな!」
聞き慣れた長嶋の一喝になどひるむことなく、英二は「だいたいよ……」と、さらに言い返そうとした。しかし、その言葉はそれ以上続かず、英二の目は長嶋の頭の上に釘付けとなる。
そんな英二の様子をいぶかしみ、長嶋が「どうした?」と問いかける。
「おっさん……う、後ろ! 後ろ!!」
長嶋が後ろを振り返ると、直径四十センチほどの銀色の球状のものが宙を浮いていた。
「な……なんだ?」
二人で動揺している間にも、店内の様々な商品を引き寄せ、そして内部へと取り込み、それは大きく成長しているようだった。
「これ、従魔だよ! おっさん!」
「じゅうまって……あの、従魔か?」
以前、長嶋は従魔を見たことがあった。そのときの従魔は巨大なオオカミのような姿をしていて、ひと目で危険な存在だとわかるものだったが、目の前に浮かぶものは奇妙ではあるものの、危険性があるかどうかの判断がすぐにつけられる見た目ではない。
しかし、英二にはその姿でも十分に怖いものに見えているらしく、長嶋に「他にねーだろ!」と焦った返答を返した。
「従魔は無機物も依り代にできるって学校で習わなかったのかよ!?」
長嶋の世代では従魔や愚神に関する特別授業などない。
「これが従魔……」
もし、そうなら、長嶋がとるべき行動はひとつだった。半ばパニックを起こしかけている英二の腕を掴み、鋭く言った。
「避難しなさい!」
「それなら、おっさんも一緒に……」
「私にはこれをこの店から外に出さないという義務がある。君ははやく逃げなさい!」
「なに言ってんだよ!? おっさんも、はやく……」
入り口のガラス扉を人ひとり分開くと、長嶋は英二を外へと突き飛ばし、扉をすぐに閉めた。
「おい! おっさん!!」
英二は再び扉を開こうとしたけれど、なかから鍵をかけてしまったようで、びくともしない。
ガラス扉からなかをのぞくと、長嶋が掃除用のモップを銀色の球に向かって振り下ろしたところだった。
しかし、そんな攻撃など無意味だと示すように、銀色の球はモップが振り下ろされたところから左右に分離し、それぞれが別の球体となった。
「おっさん!! そんな武器で攻撃してもだめだ!」
二つになった銀色の球はさらに商品を吸収し、成長を続ける。
このままでは、長嶋も、この店自体もあの銀色の球に飲み込まれてしまう。
「くっそ!!」
英二は自分の力のなさに苛立ち、さっきまでいつも通りのケンカが繰り広げられていた店内に向かって叫んだ。
「すぐに助けに来てやるからな! 持ち堪えろよ! おっさん!!」
全速力で大通りに出ると、英二は大きな声で助けを呼んだ。
「従魔が出た!! 助けてくれ!!!」
解説
●目標
コンビニの店長:長嶋が取り込まれ、ライブスが奪われる前に従魔を倒してください。
●状況
・コンビニに近い大通りを通りかかったあなたは、青年の助けを呼ぶ声を聞いた。
・従魔はミーレス級
・通常の武器等で攻撃した場合、分離しますが、お互いが接触するとまた合体します。
・コンビニのガラス扉はなかから鍵がかけられています。
●注意
・お客さんや周辺に被害が出ないようにという長嶋の努力を無駄にしないよう、従魔が外へ出ることは防いでください。
リプレイ
●
「助けを求める声が聞こえるのじゃ」
王 紅花(aa0218hero001)の言葉に、カトレヤ シェーン(aa0218)は眼帯をしていないほうの目で王とアイコンタクトをとり、声のしたほうへと走り出す。
「おい、キルロイ。今……聞こえたよな?」
大通りの路地でビルの壁に控えめに『I was here!』と落書きしていた成田 泰人(aa0075)は幻想蝶内にいるキルロイ(aa0075hero001)に確認する。
「聞こえた。従魔が出たと」
「助けが聞こえたなら、助けないとな。お前が俺の声を聞いてくれた時みたいに……」
泰人は薄暗い路地から大通りへと出て駆け出した。
そこからすこし離れた場所でも、能力者と英雄が声が聞こえたほうへ視線を向けていた。
「ほう、我が覚者よ。如何やら事件のようだぞ」
ナラカ(aa0098hero001)が八朔 カゲリ(aa0098)へと声をかけると、カゲリは首の後ろをすこしかき、返事をした。
「……面倒だが、仕方ないな」
大通りを歩いていたほとんどの人が英二の声に慌ててその場を離れるなか、能力者とそのパートナーである英雄の彼らは英二のもとへと駆け寄る。
「ほら! はやく! はやく!!」
他の能力者が走って向かうなか、佐藤 咲雪(aa0040)は悠長に歩き、そんな咲雪をアリス(aa0040hero001)が急かす。
「……ん、めんどくさい」
そんなことを呟いた咲雪の頭に、アリスは拳骨を落とした。
「咲雪ッ! 状況分かってる?」
「……いたい」と言葉をこぼすものの、咲雪の歩みが早まることはない。しかし、咲雪もやる気がないわけではない。
「ん……面倒、だから、手早く終わらせる。報酬、出るから、ごちそうお願い?」
咲雪の言葉にアリスは先ほど拳骨を落とした部分を撫で、「わかったわ」と答える。
英二のもとには善意ある能力者達が集まってくれていた。
「あの、能力者ですが……」
右目は赤く、左目は青いオッドアイの少女の後ろにはいかつい鎧姿の騎士が立っている。
英二はその英雄の姿に意表をつかれながらも、少女に頼んだ。
「コンビニに従魔が出て、おっさんが……店長がひとりで戦ってるんだ! 助けてくれ!!」
少女、アデノフォーラ・クレセント(aa0014)は頷く。
「どんな従魔ですか?」
染井 義乃(aa0053)が尋ねると、英二は両手で輪を描き説明した。
「なんかすごくおかしなヤツで、丸くて、目とか口とかないんだけど、店の商品をどんどん吸収していくんだ」
「目も口もない球体……無機物からできてるってことでしょうか?」
「たぶん」と英二は頷く。
「それから、普通の棒とかで殴ると分裂するみたいだ」
「分裂……それは確かに、おかしな従魔ですね」
義乃の言葉に、「そうだな」と泰人も頷く。
「確かに、おかしな従魔ではあるが、コンビニ店内で収まっている程度のレベルなら、能力者六人で十分に対処可能だろう」
「それで、そのコンビニの場所は?」と、カトレヤは英二に尋ねた。
「案内する! ついてきてくれ!」
そう言うと、英二は走り出した。
●
コンビニへたどり着くと、二十人程の人間が遠巻きにコンビニを見つめていた。
「なんで、こんなに……」
客入りが悪く、不良ばかりが集まってくるコンビニではあったが、不良たちのなかには長嶋の人柄が気に入って集まっている者も多くいた。
英二が助けを呼びに行った後、コンビニを訪れた二人の不良が店内の様子がおかしいことに気づいて、仲間を呼んだのだ。
その仲間達がコンビニの前を占拠し、「よし! お前ら、行くぞ!!」なんて声をあげている。
英二は慌てて不良達の前に飛び出して大きく両手を振った。
「待ってくれ! 中にいるのは従魔だ!!」
「だから何だ?」とひとりの不良が言う。「長嶋さんを放っておけねぇだろ!?」と、また別のひとりも言った。「行くぞ!」と誰かが再び声をあげると、彼らは英二を押しのけて進む。
話を聞かない彼らに「おいっ! お前ら!!」と、英二が苛立って叫ぶと、英二の袖をアデノフォーラが引っ張った。
「ナータにお願いします」
アデノフォーラの言葉に従ってジャガンナータ(aa0014hero001)が不良達の前に進み出ると、彼らはその大きさと鎧姿に思わず足を止めた。
「ここは、私たちに任せてください」
不良達にアデノフォーラがそう言うと、彼らはなんとも複雑な表情を見せた。アデノフォーラの柔らかな雰囲気と、ジャガンナータの威圧感……二人の雰囲気の差に、どんな表情をするのが正解なのかわからないのだ。
そこに義乃が中世貴族のような格好の青年剣士であるシュヴェルト(aa0053hero001)を押し出し、不良達に説明した。
「私たちは能力者なので、安心してください」
六人の能力者とそれぞれの英雄がいることをやっと認識した不良達は「……頼んだぞ」と、その場を開けた。
不良達には少し離れたところに移動してもらい、ガラス扉の前に行くと、中から物が落ちる音や、棚がぶつかりあうような音が聞こえてきた。
「おっさん!! 大丈夫か!?」
英二が呼びかけても、返事はない。
「おいっ! おっさん!!?」
ガラス扉にしがみつき、店内を覗いても長嶋の姿をとらえることはできない。
その変わり、二つだった銀色の球体が四つに増えていることがわかった。その四つの球体がそれぞれに商品を吸収しているため、店内の商品はほとんど残っていない。
「おっさん!! どこだよ!!!」
ガラス扉を叩く英二の肩に手を置き、カトレヤが英二をそこから引き離した。
「おそらく、返事を返している余裕はないのだろう。しかし、きっと店長は無事だ」
まるで小さな子供にでも諭すように、カトレヤはしっかりと英二の目を見て言った。
「俺は俺が出来ることをする。お前は、お前ができることをしろ」
カトレヤの言葉に、英二は迷う。
「俺のできること……?」
「店長はお前を逃がしてくれたんじゃないのか? お前を逃がして、自分は留まった。それは、どうしてだ?」
「……俺や他の客を守るためだ」
「それなら、お前も守ったらどうだ? 店長が守ろうとしたものを」
そう言って、カトレヤは騒ぎを聞きつけてコンビニの前に集まりはじめた人々へ視線を向けた。
英二はそのカトレヤの視線を追い、近所の住民が集まりはじめていることに気づく。それからもう一度店内へ視線を戻して、長嶋とのやりとりを思い出すと、英二は覚悟を決めるように頷いた。
「絶対に、おっさんを助けてくれよな!」
カトレヤは「任せておけ」と口角をあげた。
●
英二が不良達と一緒に、集まってきた人たちの安全確保のための誘導をはじめたことを確認し、カトレヤが「何処から入るのじゃ?」という紅花の疑問に答えようとしたその時、小さなつぶやきのような答えが聞こえた。
「あたしが、とりあえず、扉開ける」
そう言った次の瞬間には、咲雪はアリスとリンクし、その姿はセーラー服からパイロットスーツへと変化した。
そして、強化された体を活かし、全速力で走り出すと、減速せずにガラス扉にショルダータックルをぶつけて、ガラスを粉砕しながら扉を開けた。
見た目に反した予想外の動きにみんな一様にきょとんっと目を丸くしたが、次の瞬間にはまるでカトレヤの言葉のようにそれぞれがそれぞれのなすべき行動をとりはじめた。
「私、前衛で戦いますから、店長さんをお願いします!」
ジャガンナータとリンクし、その身を鎧で包んだアデノフォーラがそう言って店内へ飛び込むと、義乃が「私も協力します!」とシュヴェルトとリンクし、ディフェンスブーストで防御力をあげる。
同時に、義乃はシュヴェルトに「人命救助が先決だからね? そして、店ごと壊さないでね?」と釘を刺すのを忘れない。
カトレヤはそんな二人に「店長の救出は任せろ」と答えながら紅花とリンクし、店内を見回す。
「いたぞ」
パンを陳列していたと思われる棚がアイス用冷蔵庫に倒れ込み、その下の隙間から二本の足がのぞいている。
「おい? 大丈夫か?」
店長と思われる男はどうやら気絶しているらしく、呼びかけに反応しない。
入り口から店の外を見つめていた泰人は、英二が店長のために動く様子を見て、改めて店内へと視線を戻す。
「この店は、あいつにとっての大切な居場所なのかもな」
「だったら」と、隣に立っていたキルロイに語りかける。
「護ってやらなきゃいけねぇ。そうだろ?」
キルロイとリンクすると、ハンズ・オブ・グローリーで球体のひとつに拳撃する。すると、拳撃した部分が大きく凹んだ。
「一般的な武器はダメでも、AGWならわりと簡単に撃破できるかもな」
店の外から店内の様子を冷静に観察していたカゲリが独り言のように言うと、ナラカが「……我が覚者は中に行かぬのか?」と聞いた。
「あの中に大勢で行けって? それより、外で暴れさせるほうが問題だろうが」
そう答えたカゲリは、従魔が外に出ないように監視するため、ガラス扉からすこし離れたところに陣取った。
「……来い、ナラカ」
「あぁ、では始めるとするかのう」
その頃、店内では義乃とアデノフォーラが協力して従魔をカトレヤ達がいる一角に近づけないようにしていた。その時、偶然にも二体の球体がぶつかり、その衝撃をきっかけにお互いがお互いを引き合うようにして合体し、ひと回り大きなひとつの球体となった。
「本当におかしな従魔ですね。分裂だけでなく、合体もするなんて」
「他の二体も合体させてしまえば、標準が定まりやすくなると思います! 私は他の二体をなんとかひとつにまとめられるように工夫してみますので、その球体はお願いします!」
義乃の言葉にアデノフォーラは「わかりました!」と返事を返した。
しかし、いま大剣を振るえば、他の棚が倒れたり、天井が削れたりして店長の救出の邪魔になりかねないため、アデノフォーラは力を加減して球体の行動を制御する程度の動きに留めることにした。
「咲雪、ちょっと手を貸してくれ」
棚の影で戦況を確認していた咲雪にカトレヤは声をかける。
「気絶している店長を救出したいんだが、棚が邪魔で動かせないんだ」
「ん、わかった」と咲雪は返事をする。
『敵の行動予測イメージ、送るわ』
救出中の防御を忘れることなく、アリスは敵からの危険があるかどうかを予測してイメージを見せる。
「……ん、了解。場所が、狭くて避けるの、大変」
そんな文句を言っている割には、棚の間にカトレヤが入れる隙間をつくりながらも、従魔が吸収するために引き寄せている商品などをうまいこと避けている。
棚の隙間から男を引っ張りだすと、その男の胸元に『店長:長嶋』と書かれた名札が確認できた。
「それじゃ、店の外に保護するぞ」
カトレヤが店長を抱えて外へ出ると、咲雪は前衛の二人と泰人へ「……ん、攻撃力無いから、あとよろしく」と言って、早々に外へと出た。
店長を外へと出すと、義乃の追っていた球体がまるで店長を追うように外へと出ようとした。
その球体を、カゲリが斬りつけて店内へと押し返す。
「……手間をかけさせるなよ」
押し返されたところを、カゲリがつけた斬り口へ向かって泰人が拳撃を加える。すると、球体はまるでそのカタチを構成しているピクセルが乱れたかのようにカタチがいびつになり、チカチカと色を変化させながら消滅した。
「店長さん、無事に保護されたようですね。よかった」
そう胸を撫で下ろし、アデノフォーラは身軽な動きで棚を蹴って宙へと飛び上がると、温存していた力で思いっきり大剣を振った。
銀色の球体はまっぷたつに斬られ、こちらも同様にピクセルが乱れたようにチカチカと色を変化させながら消滅していく。
最後の一体は、義乃の指示に従って力を制御していたシュヴェルトの我慢が限界に達し、剣を華麗に振るって球体を六等分に切り裂いて消滅させた。
「……いい加減、頃合いだな」
最後の一体が消滅したのを確認すると、カゲリは踵を返して歩きはじめた。
「帰るぞ」
誰に言うでもなくそう告げたカゲリに、「ふふっ」とナラカは笑う。
「そうだのう。……全く、不器用な男よな」
「……言ってろ。いいから帰るぞ」
クールにそう言いつつも、カゲリは英二と不良達に「終わったぞ」と、伝えてやることを忘れない。
●
「……おっさん、大丈夫なのか?」
地面に横になったまま動かない長嶋の顔を見つめながら、英二は心配そうに言った。
その心配を払ってやるように、「ああ」とカトレヤは頷く。
「棚かなにかに頭を打ち付けて気絶してたみたいだが、こぶがあるくらいなもんで、外傷も出血も見当たらないし、生命力が下がっているわけでもないから、ケアレイをするまでもない」
カトレヤの説明で英二や不良達の緊張が幾分和らいだその時、長嶋が小さく呻いた。
「おっさん!?」という英二の呼びかけに続き、不良達も「長嶋さん!!」と声をかける。
すると、その声が届いたように、長嶋の瞼がゆっくりと持ち上がった。
「……あれ? ここは……」
ぼうっとする頭を働かせ、長嶋はなにがあったのかを思い出すと、「従魔は!?」と勢いよく上半身を起こした。
「急に起き上がらないほうがいいですよ」
義乃に体を支えられ、長嶋はさらに混乱する。
「あなた達は?」
「能力者達だよ。この人たちが助けてくれたんだ」
英二の説明に長嶋はやっと状況を理解した。
「……そうか。ありがとうございました」
深々と頭を下げて、長嶋は感謝を示す。
「いや。無事で何よりだ」
カトレヤはそう言って立ちあがる。
「それじゃ、俺はH.O.P.Eへ報告に行くこととする」
H.O.P.Eへ向かうカトレヤを見送り、アデノフォーラは言う。
「私はお店のお片付けをして行きます。ナータも」
「私もお片付けのお手伝いします! シュヴェルトも手伝ってよ」
義乃がシュヴェルトを振り返ると、彼は義乃から目をそらした。
「私は戦いと読書以外のことはしたくない」
「コラッ!」
シュヴェルトを叱りつけた義乃の隣で小さな声がした。
「……ん、お仕事終わり。帰る。ごちそうだし」
咲雪がそう言った次の瞬間、またしてもその頭には拳骨が落とされた。
「咲雪! ごちそうは片付けの後よ!」
三人がそれぞれの英雄と共に店内へと戻り、片付けを始めたのを見て、泰人はコンビニの裏口へ向かうために歩きだした。
「キルロイ。俺たちは、裏口のあたりにでも落書きを残して……」
後ろについてきているはずのキルロイに話しかけていた泰人は、自分の後ろに誰もいないことに驚き、慌ててコンビニの正面へと戻った。
そして、かろうじて割られることのなかったガラス窓にでかでかと描かれた落書きを見て叫ぶ。
「キルロイ!! 馬鹿野郎、空気読めよ! こんなとこに描いちまったら色々と台無しだっての!」
ガラス窓にはこれでもかっていうくらいに大きく、『Kilroy was here』のメッセージと、鼻の長い妖精の落書きが残されていた。
落書きをされたことを怒ることもなく笑っていた長嶋が、「ありがとな」と英二に言った。
「実は、アルバイトを募集しようと思っているんだ。毎回、俺の前でわざわざ万引きをするおかしな万引き犯限定なんだが、応募があると思うか?」
長嶋の提案に驚いてその横顔を凝視した英二だったが、すぐにその目を伏せて、「たぶんな」と、震える声で返事を返した。