本部

憧れのスター

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~6人
英雄
4人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/09/10 20:31

掲示板

オープニング

●皆で楽しくバーベキュー
 大自然に囲まれたキャンプ場は、たくさんの人で賑わっていた。
 バーベキューの香ばしい匂いが漂い、楽しそうな笑い声が響く。
 森から現れたソレに、最初に気づいたのはキャンプ場の端のほうで、アウトドアチェアに座ってビールを飲んでいた男性だった。
「俺、酔っぱらっちゃったのかな。変なものが見える……」
 男性は、隣にいる友人に話しかけた。
「変なものってなんだよ」
「あれだよ」
 男性は、森からのっそり出てきた黒い物体を指差した。友人は、男性が指差す方向を見て、あんぐりと口を開けた。
 その黒い物体を一言で表すなら、それは……巨大なカブトムシだった。

●憧れの……
 H.O.P.E.敷地内のブリーフィングルームで、職員が説明を始めた。
「キャンプ場に、巨大なカブトムシの姿をした従魔が出現しました。デクリオ級従魔だと思われます。一般人が二名、従魔に襲われましたが、軽傷です。現在、キャンプ場にいた人々は全員避難が完了し、キャンプ場は立入禁止になっています。従魔はキャンプ場かその周辺にいると思われます。従魔の討伐自体は、それほど難しくないと思うのですが、問題がありまして……」
 職員は、小さく溜息をついて続けた、
「従魔に遭遇した人達が、SNSに従魔の写真をアップしてしまったんです。すると、『カッコいい―』、『見に行きたい』などのコメントが殺到しました。ほとんどのコメントは冗談みたいなものだと思うんですが、コメントをした人の中で、本当にキャンプ場に行ってしまいそうな人が二人いるんです」
 ホログラムに、人のよさそうな顔をした中年男性の姿が映し出された。
「一人は、カブトムシ愛好家の会田です。カブトムシを育て始めてから20年、年間3000匹のカブトムシを飼育しているんだとか。彼は、『巨大カブトムシをひとめでいいから見たい。一緒に写真を撮りたい』と言っています」
 続いて、目つきの鋭い若者の姿が映し出された。
「もう一人は、違法動物の密輸の前科がある山本です。彼は、『巨大カブトムシを生け捕りにして高額で売り飛ばす』と宣言しています」
 職員は、やれやれと肩をすくめてホログラムを消した。
「キャンプ場に続く道路は通行止めになっていますが、キャンプ場は森の中ですから、森の中を歩いていけば、キャンプ場に行くことは可能です。従魔に近づかないように二人を説得することができればよかったのですが、あいにく二人とも連絡がつきません。既にキャンプ場へ向かってしまったのだと思います。二人の身の安全をはかりつつ、従魔の討伐をよろしくお願いします」

解説

●目標
 一般人二名の保護、従魔の討伐

●登場
 ・デクリオ級従魔。
  巨大なカブトムシ型の従魔。
  体長約3m。
  角で突いたり、角で投げ飛ばしたりして攻撃する。
  体当たりで攻撃する。

 ・会田
  カブトムシ愛好家。
  「巨大カブトムシを見たい。一緒に写真を撮りたい」と言っている。

 ・山本
  違法動物の密輸の前科がある。
  「巨大カブトムシを生け捕りにして高額で売り飛ばす」と言っている。

●状況
 晴天。午後3時頃。
 森に囲まれたキャンプ場周辺に従魔がいる。
 キャンプ場は、立入禁止になっている。
 キャンプ場につながる道路は、通行止めになっている。
 会田、山本の二人は、キャンプ場に向かって森の中を移動中。

リプレイ

●森の中へ
 キャンプ場につながる道路には、通行止めのバリケードが置かれ、警備員が立っていた。
 エージェント達が警備員に話を聞くと、十数分前に軽トラックが一台東から西へと走り去り、更に数分後オートバイが逆方向に走っていったとのことだった。
「怪しいですね。あの二人でしょうか」
 九重院 麗羽(aa5664)は、呟いた。
「探しに行こぉ~」
 畳 木枯丸(aa5545)は、おっとりと言った。
 麗羽と畳が一般人の捜索を行い、浅葱 吏子(aa2431)と恋條 紅音(aa5141)はキャンプ場に向かうことになった。

「ったぁ! まさかでっけぇカブトムシとやれるったぁ、思ってもみなかったぜ。これぁ酒も進むってもんよ!」
 浅葱は、指をポキポキと鳴らしながら言った。浅葱は、背が高く筋肉質で豪快な女性である。
『くっくっく、確かに面白いのぅ。こいつにゃいい相手になりそうじゃ』
 隣で笑うのは、酒呑力鬼 雷羅(aa2431hero001)。かつては鬼の大将として名を馳せていた、浅葱の英雄である。
「っさぁ、行こうぜ!」
 浅葱は、木々をブランチェーションしながら、真っ先に移動を始めた。素早く木の枝をつたっていく姿は、曲芸師かと思うほど。酒呑力鬼も、足早に歩き出した。
「速いなぁ。アタシ達も行こう」
 紅音は、英雄のヴィクター・M・メルキオール(aa5141hero001)に声をかけて、浅葱の後を追った。
 紅音は、『悪の敵』を目指している真っ直ぐな少女である。メルキオールは、長い紅髪に蛇の眼が特徴の魔法使いで、紅音にとっては師匠のような存在だった。

「全く、人騒がせにもほどがありますわ」
 麗羽は、長い黒髪をかきあげながら言った。麗羽は、一見すると高飛車なお嬢様そのものだが、根は優しい。
『会田さんのほうは兎も角、もう一人の方はあまりいい噂を聞かないわね』
 英雄の烏丸(aa5664hero001)は、冷静に言った。烏丸は、元の世界では賞金稼ぎだった為、クールでドライな性格だった。
 二人は、東の方向へ進みながら一般人の捜索を行っていた。
 しばらくして、麗羽は、木の後ろに隠すように置かれているバイクを見つけた。
「バイクがありましたわ。ここからキャンプ場のほうへ森の中を探すしかありませんわね」
『あらあら、随分と不機嫌ね? 麗羽』
 烏丸が言うと、麗羽は無言で肩をすくめた。
『仕事じゃなければ面倒だから引き受けたくないといった顔よ?』
「もちろんそうですわ。どちらも自分で危険に飛び込んでいったのなら助ける義理はないのですが……お仕事ですから。その辺りはビジネスとして割り切っておきますわ」
 麗羽の眼鏡がきらりと光った。

「まずは甲虫さんに見つからない様に二人の救出だねぇ~。二人とも覚悟があって森に入ったのだから死んでも仕方ないねぇ~」
『それはそうだが、一般人の保護も仕事じゃからのう』
 おっとりと怖いことを言う畳を、英雄の菜葱(aa5545hero001)はたしなめた。
 畳は、豆狸のワイルドブラッド。菜葱は、『原刀狩令』そのものの英雄で、畳にとっては姉のような存在である。
 畳達は、脇道に停車している軽トラックを見つけて、その地点からキャンプ場へと捜索を行っていた。
 小柄な畳が、ひょいひょいと木の間を歩いて行くと、大きなリュックサックを背負った男性の後ろ姿を見つけた。
「こんにちは、H.O.P.E.のエージェントだよぉ。従魔がいるのでキャンプ場には近寄らないでね」
 畳は、男性に声をかけた。
「なんだ、このガキ」
 男性は振り向くと、畳を睨みつけた。目つきの鋭い顔。山本だった。
「甲虫ってねぇ~タンパク質が好きなんだって~だから普通に人も食べちゃうねぇ~。食べられてもいいのぉ~?」
「お前みたいなガキに心配してもらう必要はねぇよ」
 畳の説得を聞かずに、山本は踵を返して歩き出した。
 畳は、ジャンプして山本の首根っこを捕まえて引きずり倒すと、キャンプ場とは反対方向へずるずると引っ張って行った。
「何するんだよ! やめろ!」
 山本は、じたばたして畳の手を振りほどこうとしたが、それが無理だと悟ると、ポケットに手を入れてナイフを取り出した。
 畳は、素早く山本の腹部にパンチを入れた。山本は、気絶した。
「もぉ、危ないなぁ。この人、どうしよぉ?」
『ここに寝かせておくわけにもいかんから、軽トラックまで引きずっていったらどうじゃ?』
 畳は、菜葱の助言に従って山本を軽トラックまで運んだ。軽トラックの荷台に山本を寝かせると、畳達はキャンプ場に向かった。

 麗羽は、森の中でしゃがみこんでいる人影を見つけた。そっと近寄ると、何やら一人で呟いている。
「……はっ! いかんいかん。カブトムシがいそうな場所があると、つい寄り道してしまう……」
 麗羽は、コホンと咳払いした。
「うわ!」
 驚いた会田は、木の根元を掘っていたシャベルを放り出して尻もちをついた。
「貴方、自分がしたことでどれほどの人が心配したか、迷惑したか、考えたことないのかしら?」
 麗羽は、会田を見下ろして言った。冷たい氷のような物言いに会田が震えあがる。
 麗羽は、自分で責任も持てないくせに好奇心のままに行動する浅はかな男が大嫌いなので、愛想よく接する必要はないと思っていた。
「邪魔ですので森から出て行ってくださいませ。夢を追うのは構いませんが責任は持てませんわよ?」
「あの、でも……巨大なカブトムシが……」
「あれは従魔です」
「しかし……」
 聞き分けの悪い態度に業を煮やして、麗羽は会田の頬に思い切りビンタをお見舞いした。
 会田は、頬を押さえて泣きながら逃げていった。それでも逃げる前に、掘っていた穴に素早く土を戻したのは、さすがと言うべきだろう。
『スナップのきいた良いビンタだったわね』
 烏丸は、冷静に言った。
「さて、もう一人の迷惑者は見つかったのかしら?」
 麗羽は、呟いた。

●カブトムシはどこ?
 人気のないキャンプ場は、ガランとしていた。レジャーシートが落ちていたり、空き缶が転がっていたりするのが、キャンプ客が避難した時の慌ただしさを感じさせる。
 浅葱は、落ちていたクマのぬいぐるみを拾った。そして、ぬいぐるみについている土を払うと、立て看板の上に座らせた。落とし主が、取りに来るかもしれない。
「で、カブトムシはどこだぁ?」
 浅葱は、きょろきょろと辺りを見回した。目の届く範囲には、巨大な従魔の姿はない。
 森の中に潜んでいるのだろうと考えて、浅葱はキャンプ場周辺を調べ始めた。間もなく、紅音も到着して捜索に加わった。しばらくして、畳と麗羽がやってきて、会田・山本両名を発見し避難させたことを報告した。
「これで思う存分戦えるな! くー、早く戦いてぇ!」
 浅葱は、拳を握りしめた。
「カブトムシはどこにいるんだろう? 周辺の森は全部調べたよ。遠くには行っていないと思うんだけどな」
 紅音は、首をかしげた。
「源平合戦の掛け合いみたいに大声で呼ぶぅ?」
 畳はそう呟いてから、声を張り上げた。
「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ!」
「我こそは千刃山大将、畳木枯丸なり!」
「もののふ大甲、姿を見せて尋常に勝負せよォオオオ!!」
 畳の凛とした声がキャンプ場に響き渡り、森へと吸い込まれていった。
『いやいや……坊、そんな事で出て来るはずが……』
 菜葱が弟をたしなめる姉といった風情でそう言った時、キャンプ場の端の地面がグググッと持ち上がった。そして、土の下から巨大なカブトムシが姿を現した!
「まさか、土遁の術を使うたぁ! 聞いてねーぜ!」
 浅葱が、ようやく敵に出会えて嬉しそうに言った。
「カブトムシは地面に潜る習性がありますわね。先程、会田さんが地面を掘ってカブトムシを探していましたわ」
 麗羽は、言った。
「すごいおっきいねえ……!」
 紅音は、土の欠片をぽろぽろと落としながらエージェント達に近寄ってくる従魔を見ながら、言った。
『まぁ見事に育ったねぇ……』
 メルキオールも、従魔の巨大さに感嘆の声をあげた。
「すごいね~あの甲虫ぃ~、もののふの目をしてるねぇ~。じゃあボクも其れ相応のお相手をするねぇ~」
 畳は、おっとりと微笑んだ。

●カブトムシとの死闘
 菜葱と共鳴した畳は、携帯していた刀六本を次々に投げた。刀は、従魔の周囲の地面に突き刺さった。畳は、刀の柄先の上を足場にして闘うのが得意なので、そのための準備であった。
 浅葱は、酒呑力鬼と共鳴した。もともと背の高い浅葱の姿が、更に巨大化して3m弱ほどの身長になった。従魔とおおよそ同じくらいの大きさである。
 浅葱は、自分の後ろに線を引き、四股を踏んだ。ドスンドスンと踏むたびに、土埃が舞い上がる。
 カブトムシが、ゆっくりと浅葱に接近する。見合って見合って……。
「八卦良い……遺ったぁ!!」
 浅葱は、カブトムシに肩から当たっていった。そして、一気に取っ組み合いに持ち込んだ。そう、相撲だ。
 カブトムシが、角でぐいぐいと浅葱を押す。浅葱は、カブトムシの胸部に手をかけてその前進を食い止めていたが、タイミングを見計らって突っ張りを返し、カブトムシを後退させた。浅葱は、投げ飛ばしを警戒し、すぐに再びカブトムシと取っ組み合って投げを防いだ。自分がカブトムシを押さえている間に、仲間に攻撃してもらうという意図もあった。
『鬼もカブトムシも相撲を代名詞に使うことがあるがのぅ。まさか実現するとは……確かにこれは酒が進むってもんじゃのぅ♪』
 酒呑力鬼が、嬉しそうに言った。
「おいおい……、こんな時でも酒かよ! さっさとこいつを押し出してオレも一口貰わねーとな!」
 浅葱は、そう言い返してカブトムシを掴む腕に力を込めた。
 紅音は、メルキオールと共鳴した。全身が黒い劫火で燃え上がった後、黒い鎧をまとった姿となった。武器はアダーラレガースである。
 紅音は、クロスガードで防御力を上げつつ、従魔と浅葱の戦闘を見守り、従魔の動きを調べた。
『虫といえば……冷気やひっくり返せれば楽になりそうだが……紅音はそんな器用な事は出来ないしねえ』
 メルキオールが、ちくりと耳に痛いことを言う。
『器用な手がとれないとなると……脚部辺りかね。関節部や硬い外殻の隙間を攻めれば柔らかい肉質に届くかも』
 メルキオールは、敵の隙を探ってそう分析した。
「でも脚をやったら今度は飛ばないかな?」
『相手にも自身の重さがある、おそらく延々とは飛べないと思うがね』
 頼りになるメルキオールの言葉に、紅音は頷いた。
「相手は甲虫だからねぇ~相当堅いよねぇ~。あの甲を斬れたら凄いよねぇ~」
 畳は、おっとり言うと、カブトムシの側面に回り、ストームエッジを使用した。召喚された多数の刀剣が、刃の嵐となってカブトムシを襲った。カチンカチンと刃が硬質な物に当たる音が響いた。カブトムシの体には、大きな傷はつかなかった。
「やっぱり堅いよねぇ~。じゃあねぇ~殻の隙間の肉や目にも効くか試すよ~」
 畳は、再びストームエッジを放った。今度の狙いは、カブトムシの目、殻の隙間である。カブトムシの頭部と胸部の隙間に刃が刺さった。カブトムシが目に向かってきた刀剣を嫌がって体をひねると、隙間に刺さっていた刀は抜けて地面に落ちてしまったが、目や殻の隙間への攻撃は有効なようだ。畳は、仲間にそのことを伝えた。
 従魔は浅葱を押しやると、畳を角で投げ飛ばした。
 烏丸と共鳴した麗羽は、ショットガンで従魔を撃った。カブトムシの防御力の高さを考慮して、ハンドガンやマシンガンのような小さな弾丸よりも、範囲攻撃可能なショットガンを使用し、パンチ力重視で攻撃した方が良いと考えたのである。その目論見は功を奏し、ばらまかれた散弾のいくつかがカブトムシの殻の間の肉を穿った。
 従魔は、ワシャワシャと太い脚を動かして紅音に体当たりした。ライヴスシールドを使用していた紅音は、ライヴスの盾でその攻撃を防いだ。
 畳は、カブトムシの習性を利用することを思いついた。畳は、ジャンプして従魔の尻の上に着地した。
「甲虫ってお尻こちょこちょするとジタバタするんだって~。こちょこちょぉ~」
 畳は、そう言いながら、カブトムシのお尻をくすぐった。従魔が巨大なせいか少しくすぐったくらいでは反応しなかったので、両手でパシパシと叩くと、従魔は前進を始めた。
「乗馬している気分だね~」
 少しだけ乗馬気分を楽しんでから、畳はカブトムシの上に乗ったままウェポンズレインを使用した。畳の頭上に多数の武装が現れ、雨のように従魔に降り注ぎ、従魔の片方の目を破壊した。従魔は体を揺すって、畳を振り落とした。
 従魔はその場で回転して向きを変え、角で麗羽を突いた。
 いったん土俵落ちした浅葱は、携帯用酒甕から酒をぐびっと飲んだ。浅葱は、再び四股を踏んで従魔に呼び掛けた。
「何を勘違いしていやがる……こいつは試合じゃねぇぜ、死合いだぞ。まーだおわるわけねーだろ!!」
 浅葱は、再度カブトムシと取っ組み合った。カブトムシを動けなくさせるまで取り組みは続くのだ……。
 カシャッ、カシャッ。
 この場には不釣り合いな機械音が聞こえ、皆、音のした方向に視線を向けた。
 森から出たところでカメラのシャッターを切っているのは、会田であった。
「まさか戻ってくるなんて。本当にどうかしてますわ」
 麗羽は呟いて、会田の方に行こうとしたが、それより早く従魔が動いた。
 従魔は、浅葱を跳ね飛ばすと、会田に突進した。
「危ないっ!」
 紅音は、ハイカバーリングを発動させて従魔の突進を受け止めた。
「お前の相手はこっちだぜ!」
 浅葱は、カブトムシの角に手をかけて自分の方に向きを変えさせた。
 麗羽は、会田に駆け寄ると、会田の襟首を掴んですごんだ。
「あなたという人は、懲りない人ですわね。往復ビンタのほうがよろしかったかしら」
「あ……あの、撮った写真は自分で見るだけなので、H.O.P.E.の皆さんに迷惑はかけませんから」
 会田は、泣きそうになりながら言った。
「そういう問題ではないのですわ」
 どうも話がかみあわない。麗羽は、あきれて会田の襟首から手を放した。
「……んぁ? 写真だぁ? 別にいーぜ! おら、さっさとこっちこいよ。ついでに触ってけ触ってけ♪」
 浅葱は、会田を手招きした。会田は、パッと顔を輝かせると、走ってカブトムシに近づき、カメラを構えた。
 浅葱は、カブトムシの頭部をクリンチして、自分も一緒に写真に写った。酔っぱらっているのでノリノリである。
「あ、次は僕も入りたいんで、自撮りで一枚」
 会田は、更にもう一枚写真を撮ると、カブトムシの頭を触り幸せそうに微笑んだ。それから、麗羽の冷たい視線に気づくと、急いで元いた場所に戻った。
「もう満足です。これ以上お邪魔はしませんから」
「約束ですわよ。もし約束を破ったら、その時は……」
 麗羽は、最後まで言わずに会田を睨み付けた。脅えた会田は、木に背中がぶつかるまで後ずさりした。
 浅葱は、クリンチを解いて、再びカブトムシと真っ向から組み合った。
 紅音は、会田が安全な場所にとどまっているのを見届けると、くまくまくろーに持ち替えて、カブトムシの脚部を狙って集中的に攻撃した。メルキオールが強化した為に悪魔の爪と化した武器が、カブトムシの脚の関節を破壊した。
 カブトムシは、羽を広げて飛ぼうとしたが、体重が重いうえに、浅葱が組みついているので飛び上がることはできなかった。
 麗羽は、カブトムシの羽の下の柔らかい部分めがけて散弾を放った。
 従魔は、浅葱を押し飛ばし、その勢いのまま角で紅音を投げ飛ばした。紅音は、抵抗はせずに地面に転がり受身をとった。
 怒りに燃える従魔は、畳に襲いかかった。畳は、吹き飛ばされる前に隠神刑部の網笠を投げた。ライヴスから作られた幻影が盾となり、従魔の攻撃をそらした。
 浅葱は、四股を踏んでから、従魔に突進した。もう何度目の取り組みかわからないほどだが、浅葱はまだまだ疲れを見せない。
 一方、従魔は、脚と目を損傷し背中に弾丸を受け、動きが鈍くなってきていた。
「南無八幡大菩薩、我が国の神明、日光権現、宇都宮、那須のゆぜんの大明神、願わくはあの甲虫、射させてたばせ給え~」
 畳は、そう言うと、刀の柄先から大きくジャンプした。手に構えるは、菜葱が打ち直した大太刀。畳は、大太刀をカブトムシの頭部と胸部の隙間に向かって振り下ろした。
 カブトムシの頭部が斬り落とされた。
 従魔は、少しの間、脚を動かしていたが、やがて脚を縮めて動かなくなった。
 従魔は息絶えた。

●無事に任務終了!
『うむ、中々にいい死合いじゃったのぅ。横綱昇進に拍車がかかったんじゃないかぇ♪』
 酒呑力鬼が、上機嫌で言うのに対して、浅葱は豪快に言い返した。
「ばっきゃろぉ、オレはまだまだせいぜい関脇くらいだろ」
『結構高い階級のやつじゃろそれ、自分でいうか?』
 酒呑力鬼がツッコミを入れ、二人は肩を組んで呵呵大笑した。二人とも既に酔っぱらっているのだが、手には酒甕を握っており、まだまだ飲むつもりのようだ。

 畳は、戦闘に使った刀のお手入れをしていた。
『兵共が夢のあと……じゃのう』
 菜葱は、従魔の死体を眺めながら呟いた。会田が、悲しそうに従魔の死体を撫でている。
「あなた、恋條さんに命を助けてもらったのだから、お礼を言ったらどうかしら?」
 麗羽は、会田に近づいて言った。
 会田は、慌てて紅音にお礼を言った。
「いいよ、お礼なんて。皆を守るのがH.O.P.E.のエージェントの使命だからね。ただ、これからはちゃんと避難する時は避難するんだよ」
 紅音が言うと、会田は大きく頷いた。
 ガサガサという音がしたので、畳と菜葱が森のほうを見ると、森の中から山本が出てきた。
「あぁ……これじゃ売り物にならねぇ」
 山本は、従魔の死体を見てしょんぼりと呟いた。
「従魔を捕まえてお金を稼ごうなどという考えが、大間違いなのですわ」
 麗羽は、厳しい口調で言った。
「おぅ、お前ら、こっちこい!」
 浅葱は、会田と山本を呼び寄せた。
「人に迷惑をかけた分、酒を注いでもらおうじゃねーか」
 浅葱は、おずおずと近寄る二人の肩に手を回すと自分の両隣に座らせた。
「今夜は徹夜で飲み明かそうぜ!」
 機嫌よく大声で笑う浅葱。対照的に、会田と山本の顔は青ざめていった。
「こっちの兄ちゃんは、お持ち帰りもOKだよな?」
 浅葱は、山本の肩に回した腕に力を込めて言ってから、わっはっはと笑った。
「誰か……助けて下さい」
 山本は、助けを求めて周りを見回したが、返ってきたのは生温い笑顔だけであった。
「わたくし達はこれで失礼しますわ」
 麗羽は、仲間に別れを告げると颯爽と歩き去った。
「ボクも帰るよぉ。じゃあね~」
 そう言ったのは、畳である。
「じゃあ、アタシ達も帰ろうか。お疲れ様―」
 紅音は、笑顔で仲間に手を振って、メルキオールと共に歩き出した。
「あの……誰か」
 紅音とメルキオールの背後で、山本の声が小さくなっていく。
「でもあんなカブトムシ、どうやって売るつもりだったんだろ?」
 紅音が言うと、メルキオールは肩をすくめた。
『さぁね。ただ人の仔が飼いきれるものだったかどうかは理解できただろう』
 紅音がそっと後ろを向くと、やけになった山本が浅葱の酒を奪い取って飲んでいた。今回の件で懲りて、まともな人間になってくれるといいのだが……。
 紅音は再び前を向いて歩き出しながら、メルキオールに言った。
「ねぇ、アタシの鎧もあんな感じにするってのはどうかな!?」
『カブトムシモチーフは似合わないな……あの角もちょっと。また今度考えてあげるよ』
「うん、よろしく!」
 仲良くキャンプ場を後にする紅音達を、立て看板の上からクマのぬいぐるみが見送っていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    恋條 紅音aa5141
  • 闇を暴く
    畳 木枯丸aa5545

重体一覧

参加者

  • 我が肉体は鋼の如し
    浅葱 吏子aa2431
    人間|21才|女性|生命
  • 其の手には無限の盃を
    酒呑力鬼 雷羅aa2431hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • エージェント
    恋條 紅音aa5141
    人間|18才|女性|防御
  • エージェント
    ヴィクター・M・メルキオールaa5141hero001
    英雄|27才|男性|ブレ
  • 闇を暴く
    畳 木枯丸aa5545
    獣人|6才|男性|攻撃
  • 狐の騙りを見届けて
    菜葱aa5545hero001
    英雄|13才|女性|カオ
  • 働くお嬢様奮闘劇
    九重院 麗羽aa5664
    人間|18才|女性|攻撃
  • お嬢様のお目付け役?
    烏丸aa5664hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
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