本部

広告塔の少女~残響と反響~

鳴海

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~12人
英雄
5人 / 0~12人
報酬
無し
相談期間
4日
完成日
2018/09/06 08:01

掲示板

オープニング

● 久しぶりの爆音
 赤原光夜がエリザと対面した。
「なんだこの小娘はよぉ」
 背の高い赤原である、エリザをじろじろと見下ろしつつ小脇のギターを構え直してジャーンと自己紹介する。
「俺は、赤原……生粋のミュージシャンだ」
 じゃーん。
 アンプに繋がっていないギターが威嚇音を鳴らす。
「わたし、エリザ」
 そっけない返事のエリザ。
 二人は再びにらみ合う。
「私は貴方にけっとーを申し込む」
 それを傍から見ていた遙華は、ため息をついて頭を抱えた。
 時は数時間前にさかのぼる。
 突然グロリア社を訪ねてきた赤原。
 ジャーンっとギターをかきならし遙華にいった。
「お前、心って知ってるか?」
 遙華は宇宙での最終決戦に向けた資材の手配や、リンカーの手配でてんてこ舞いだったが、それでも書類整理片手間に赤原の相手をする。
「あー、知ってるけど」
 ペラリとページをめくりながら返す遙華。
「俺もある」
「でしょうね」
「けどよ、この年になっても心ってなんだかわからねぇ」
「でしょうね」
 遙華はその時初めて赤原を見た。
 遙華は思ったのだ。心、それがわかっていたならロクトは離れていかなかったのではないかと。
「心って何だ、俺らには生まれながらに本当に備わってんのか? うめーものをうめー、そう感じるのは心でなく、脳機能じゃねぇのか」
「あなた、時々難しいこと言うわね」
 遙華は少し考えて告げる。
「そうね、美味しい、楽しい、そう考えるのが心だと思われていて、私はそれでいいと思うわ。だって、楽しいとか美味しいとか、嬉しいが心でないなんって言ったら、もう何が何だか分からなくない? 私はとてもシンプルに考えていいと思ってるわ。ここにいたい、そう思えるのが心」
 告げると遙華は用紙に自分の名前を書きこんでハンコを押す。
「私はそれでいいと思う、それにね、シンプルに考えると救われる面もあるわ。だって、楽しい、嬉しい、それが心なら、きっとあの子に心はある」
「あのこだぁ?」
 赤原はお上品に紅茶を飲み干すと問いかける。
「紹介してなかったかしら、エリザよ」
 そしてエリザと対面、エリザ自体は音楽が好きだったため赤原には興味津々、そんなエリザに赤原は出会いがしらに言ったのだ。 
「お前、心ってあんのか?」
 そこでまずエリザがあからさまにイラッとした。
 遙華が止める間もなく、赤原は歩み寄り、エリザのスカートをめくり上げた。
「ふあああああああ!」
「すげぇ、球体関節とかじゃねぇんだな」
 直後放たれるエリザのレーザー。
 髪を黒焦げにされつつ三歩下がった赤原は叫んだ。
「なんてことしてくれんだ!」
 そしてお話は冒頭に戻る。
 二人のにらみ合い、あきれ果てる遙華。
 どうしよう、仕事は山積み。
 そこで遙華は考えた。
 もう誰かにまかせてしまおう。
 遙華はスマートフォンを取り出す。
「あの、助けて欲しいのだけど」

 今回の経緯は皆遙華からすべてを知らされている。
 盛大なケンカを収めるために今回皆には奮闘していただくことになるだろう。
 遙華のお仕事のために。
「本当にお願い、ほんとうにたすけて、今回ばかりは時間が無いのよ」


● 赤原とエリザの落とし前のつけ方

 リンカーたちが続々と集まりつつある中、エリザと赤原の険悪さは最高潮に達していた。
「ほんっとに信じられない。女の子のスカートめくる?」
「あ? ロボットに性別あんのか?」
「はぁ? AIだって言ってるじゃない」
「あん? 『大量の知識データに対して、 高度な推論を的確に行うことを目指したもの』お前が?」
 つらっと赤原はAIの定義を復唱して見せた。
「だったらお前。ロボット工学三原則しってんのか?」
「ロボットは人間に危害を加えてはならない、ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない! 知ってるけどロボットじゃないんだってば」
「俺は心が見つかるかと思ってお前に会いに来たのにがっかりだぜ」
「今まさに私が怒ってるでしょ! これが心以外のなんだって言うのよ!」
「わかんねぇよ、自己保存かもしれねぇし」
 エリザは頭を悩ませながら告げた。
「だったら、あなたの思う心って何よ」
「俺の歌を聴いて熱くなることだな!」
 告げるとどこからともなくアンプが滑って赤原の前で停止、それにギターを接続すると熱くかき鳴らし始めた。
「お前に俺の音楽がわかるか」
「言ったわね」
 告げるとエリザは腕の収納部分からリコーダーを取り出した。
「逆に私の音楽があなたに響かなかったらあなたの心が無いってことよね」
「ロボの音楽が心に響くかよ」
「だから! …………私だって。私だってみんなの唄好きだからモノプロとかディスペアとか、ECCOとか、あの子とかあの子とかみんなの唄好きだから、負けられない」
「ほう? 勝負すっか?」
「私の音楽で感動したら、私に謝って」
「俺の音楽がわかったら謝ってやるよ」
 要は二人の音楽がどれほど心を揺さぶるかという勝負である。
「いくわよ、聞きなさい、私の音楽を」
 盛大に響き渡るリコーダーの音。
 これではだめだ。
 そう君たちは思い直すことだろう。

● エリザを特訓しよう
 エリザは実は楽器がからっきしダメです。
 とてもロボっぽいことを言うと、あらかじめある音楽を譜面どおりに引くことはできるのですが。
 この場で即興で楽器を演奏したり、歌ったりするのは人間と同じように難しいです。
 さらに、データに従って再現した音楽にはあまり心を動かす力はないでしょう。
 なので皆さんにはこれからエリザを特訓していただきます。
 何の楽器を教えるのか。
 教える曲は。
 魂の込め方とは。
 この三つのポイントに気を付けてエリザの練習に付き合ってあげてください。
 
 またエリザに歌を教えることもできます。
 歌をうまく謳うには。
 謳う曲は何がいいか。
 魂を込めるには。
 上記三つの相談に乗ってあげてください。
 



解説

 

目標 遙華の仕事を邪魔させない。

 今回、OPでいろいろ大変なことになっていますが。
 一番大変なのは赤原とエリザの関係が悪くなることではありません。
 遙華の仕事が滞ることです。
 なので今回の依頼に全力で取り組んでいる限り失敗はありえないと思います。

 遙華は今宇宙に巣食う愚神に最終攻勢をかけようとしています。
 これは急務でこのミッションが失敗するとガデンツァ討伐に支障が出ることでしょう。
 つまり、その仕事の邪魔をさせないように赤原とエリザを遙華から遠ざける必要があるのですが。
 それを請け負うのが皆さんです。
 今回のリプレイは前編、後編で二つに分かれます。
 エリザの特訓シーンと。
 赤原とエリザの音楽対決です。 

・特訓シーン
 特訓シーンで楽器を教える場合は
1 何の楽器を教えるのか。
2 教える曲は。
3 魂の込め方とは。

 こちらに重点を置いて教えてあげてください。
 
 歌を教える場合は
 
1 歌をうまく謳うには。
2 謳う曲は何がいいか。
3 魂を込めるには。
 に的を絞って教えてあげてください。

●音楽対決。

 音楽対決ではエリザチーム、赤原チームで演奏をします。
 演奏する曲や歌は皆さんで決めてください。
 複数ある場合はメドレー形式です。
 パフォーマンスによって、エリザと赤原のハートゲージが増え。
 先にハートゲージがいっぱいになったほうが、感涙にむせび泣きます。
 このパフォーマンスですが。エリザチームでないと赤原のみのハート値しか上げられない。赤原チームでないとエリザのハート値しか上げられないなど。そんなことはなく。
 ステージを共有することで二人の心を熱くさせることができるはずです。
 演奏中のパフォーマンス、セリフ、謳い方。
 二人への呼びかけ等々。
 最高の音楽ってやつを二人に見せてあげてください。

リプレイ

プロローグ

「そのリコーダーは、なんだ? 動画サイトの消された動画で流れるあれの練習か? 出演依頼でもあったのか?」
「違うから!」
「それよりだなぁ、フレームの話しようぜ、球体関節もいいが、逆関節もいいよな」
「そうやってスカートめくろうとしないでパンツが見える!」
「あん? パンツ? パンツはいてるのか? ロボットは排泄しないくせに、なぜ」
「だからロボットって言わないで!!」
 次の瞬間天井から何かが下りてきた。蜘蛛か? いや少女だ。
 その少女はあっという間に赤原の手を掴んで背中でグルグルにまくとクイッと釣り上げてしまった。
「お見事」
 そう振り返れば赤原の視線の先には『彩咲 姫乃(aa0941)』がいた。
「否定と疑いで世界を見ているっつうのはずいぶんとおかたい頭してんだな」
――性別うんぬんの前に無許可ですかぁとめくられたらそりゃ怒るデスニャ。
『朱璃(aa0941hero002)』の言葉に首をひねる赤原。
 そんな赤原にずんずん歩み寄る『麻生 遊夜(aa0452)』
 拳銃片手に青筋たてながら赤原を引きつった笑みで見上げるとその頬を拳銃の側面で叩く。
「家の可愛い可愛いエリザちゃんに、何てことしてくれてんですかねェ? ……オオ?」
「……んー、これは仕方ない……セクハラはダメよ、セクハラは」 
 はふぅとため息をつく『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』その言葉に頷いて赤原の目の前で仁王立ちする姫乃。
「あのな…………話を聞いてたが。話を横に流すな」
「だれも横になんか流してねーだろが」
 赤原はそう首を振る。
「――ロボット工学三原則だとか自己保存だとか、あんたのスカートめくりには一切関係がない」
「赤原さんさいてーです」
 駆けつけた『斉加 理夢琉(aa0783)』が心底悲しそうな顔をして告げた。
『アリュー(aa0783hero001)』は遙華の隣で事の次第を見守っている。
「うう、一発殴りたい」
 エリザが告げると理夢琉が答える。
「顔じゃなくて体でお願いします、芸能人なので」
「そう言う問題じゃねぇだろ!」
「……うん、一発くらいは殴ってもいいよね? ……ダメ?」
 事態がややこしくなりつつある中ユフォアリーヤは遙華を振り返る。
 とても微妙な顔をしている、きっと頭の中では仕事のことを考えつつこの場をどう収めようか考えているんだろう。
「やっちゃいけねぇことをやった、言っちゃいけねぇことを言った……絶対に許さん!」
 引き金に指をかける遊夜。
「きゃーーー、そこまではだめええ」
 そうエリザが遊夜の腕に体重を乗せるように掴みかかる。
「……はいはい、どうどう……ここはエリザが、見返す大事な所……早く特訓、するの!」
 ユフォアリーヤが歩み寄る、エリザは結果遊夜の腕にぶら下がる形になる。
「今日は軽いな、エリザ」
「抱っこしてもらいたくて金属骨格を軽いものにしてもらったの」
 その親子のやり取りを見て赤原が首をひねる。
「やっぱロボットなんだな?」
「うるさーーい、私、そもそもその呼び方嫌い。もういい、見返してあげる。私があなたよりすごい音楽を奏でて、AIが人間の領域を本当に奪っていくんだ! って恐怖を植え付けて見せる」
「なんとなく、エリザも状況を楽しんでねぇか?」
 姫乃が首をかしげた。
「とりあえず双方怒りが収まらねーようデスので勝負には反対しねーデスニャ」
 朱璃が共鳴を解いてその場にとんっと足をつける。
「でも勝負の前にエリザには謝っとけ」
「あ、う。ごめんな」
「心がこもってねぇですにゃ」
「だってよ、いきなりAIとか言われても」
 そうすねる赤原に堪忍袋の緒が切れた姫乃が告げる。
「あんたの音楽じゃ心に響かねえよ」
「つまり怒りが先にきて感動する前にしゃっとあうと状態ってことらしいデスにゃ」
 そんな風に奇跡的に話がまとまりつつある中『水瀬 雨月(aa0801)』が到着した。
「たすけて~…………って言うから何事かと思って来てみれば…………」
「雨月助けて」
「もう。終わったみたいだしかえっていい?」
「だめ! ここにいて! ついでに仕事手伝って!」
「それって報酬出るの?」
 その後双班に分かれて音楽練習に励むことが決定した。
 朱璃は姫乃の背中を追いながら、その背中に言葉にならない言葉をかける。
(まあ人の話聞かないっつー意趣返しも含まれてそうデスがニャ)

第一章 可能性


「おう、嬢ちゃん。こうやって稽古つけるのは久しぶりだな」
 ジャーンっとギターをかき鳴らす赤原、その眼前には理夢琉がチョコンっとすわっており、ぱちぱちと拍手を鳴らしている。
「まず、新曲聞いてくれ『情熱の音~Relief~』」
 じゃかじゃかとかき鳴らす激しいギター音に、希望の音の旋律が混ざり赤原らしいアレンジとなっている。
 その曲をききながらアリューは理夢琉に耳打ちした。
「要は遙華の仕事の邪魔をさせなければいいんだな?」
「ライヴ録画して後で見てもらおう?」
 その曲の感想を一通り述べると理夢琉が今度は謳う番になる。
「歌は魂だ! 魂にひびかねえもんは歌じゃねぇ、音だ」
「はい! 魂で感じるんですね!」
「嬢ちゃんは声質的にパワーで押そうとすると喉がつぶれる、感情ってやつはただ声を大きくすりゃいいってもんじゃねぇ。想像しろ。誰に向けて歌いたいのか。そして自分は何のために謳うのか!」
 そんな赤原の指導を受ける理夢琉とは裏腹に、釈然としないアリューは黙ってドラムの前に座る。
 スティックを回してドラムの音を確かめようとしたとき、赤原から声がかかる。
「おい、アリュー。おまえもだ」
「発声練習だよ、アリュー」
 首をかしげるアリュー。
「何でだ!?」
「むふふ〜赤原さんとの男性ユニットバージョン、カッコいい演出ができそう」
 そう楽しそうに笑う理夢琉に押されて一緒に歌を謳うことになる。
「曲は何にする?」
「私、実は前に謳えなかったラブソングがあって」
「いいじゃねぇか、理夢琉の魂きかせてくれよ」
「はい!」
 そんな稽古場を中継しているモニターの向こうで、遙華はせっせと資料を片付けていた。
 そんな執務室の門扉を叩く者がいた。
「雨月? 手伝いに来てくれたのね?」
 そう扉を開けるとそこには『魅霊(aa1456)』が立っていた『R.I.P.(aa1456hero001)』が後ろに静かに控えている。
「あら? 魅霊あなた歌の練習に行ったんじゃ」
 その魅霊だったが扉を閉めるようにR.I.P.に促すとソファーに座る。
 そして遙華を振り返って告げた。
「少し交渉事がありまして」
 魅霊の迫力に圧倒されてそのまますごすごと迎えの席に座る遙華。
「今回のお仕事『別途業務の消化まで、グロリア社保有AIの管理を代行』と表現するほかない内容ですね」
「ええ、そうね」
「こうあっては《個人的な人助け(報酬なし)》で引き受けるのは(社会的に)無理がありますので」
「なるほど、たしかにそうね」
 告げると魅霊は遙華に依頼書を手渡した。
「これは…………」
「申し訳ない気持ちもなくはないのですが、遙華さんには今回の報酬としていろいろ頼みたいのです」
「書面はあとでゆっくり眺めてください」
 そうR.I.P.は告げる。
「ええ、わかったわ、それで本題は」
「TRVにDARK……。
 あのガデンツァが用意した以上、本当の切り札はと言えば前者でしょう」
 魅霊は遙華のリアクションを確かめるように告げた。
「そうね、ロクトの関与もあるし、ロクトはまだ捕まっていない」
 ロクトは前回TRV襲撃メンバーを中心としてその存在を隠匿されている。
「滅びの歌を以て終末を と考えるなら、真に重視すべきは歌を届ける手段。
 では、どうやって?」
「東京にはその設備があるわ。そしてDARKは東京に向かっている」
「その通りです。ロクトさんが態々TRVへの関与を口にしていました。であれば。
「世界中のメディアを電子・情報戦で掌握し、これを用いて全世界同時放映を行う」
 R.I.P.が言葉を継いだ。
「これが一番合点のいく内容です」
「そうね」
「そしてこれならば対策は容易い。確実なのは全世界のメディアの機能を停止させること。
 手段は色々ありましょうが……一番手っ取り早いのは電源設備の一斉停止。
 圧倒的影響力を持つメディアも、原動力を断てば何もできないのですから」
「私にテロリストみたいなことをしろって?」
「そうは難しくないのではないですか? ガデンツァの脅威が実際に有るわけですから」
「詳しくお話ししましょうか、この話は今詰めておいた方がいい気がする」


第二章 特訓

「…………特訓といっても何を教えればいいのかしらね。正直、初対面だから初めましてから?」
「初めまして雨月さん。私はエリザ、特技は声でグラスを割ること」
 そうエリザは手の中のコップを声で割って見せた。
「放棄を探さないと」
「ねぇお父さん!」
 そう箒でガラスをまとめる雨月は室内を見渡して、大丈夫なのかしらとため息をついた。
 赤原サイドの歌唱特訓は順調な様子である。
 まぁ当然だろう。赤原と理夢琉はこれまで何度も歌唱特訓してきたのだから。
 だいぶ慣れている。
 対してエリザサイドと言えば。
「お父さん! みてみて、もう一回やるよ」
 あーっとやってみるエリザ。その十メートル先でワイングラスが割れた。
「すごいじゃないかエリザ」
 そう親子の交流が繰り広げられている中で、講師として招かれた『イリス・レイバルド(aa0124)』は頭を悩ませていた。
「歌や楽器がうまくなるにはどうしたらいい?」
 そうエリザに問いかけられると、若干の人見知りを発動し巣つつ。イリスはもじもじと答える。
「練習…………しましょう」
「練習?」
「そうだね、こういうのは反復あるのみさ」
『アイリス(aa0124hero001)』があっけらかんと告げる。
「お姉ちゃん変な近道とかよりもこつこつ積み上げるのとか好きだよね」
「力だけ与えても経験が伴わないと折角の力も台無しになるからね」
「じゃあ。まずリコーダーから」
「それはやめた方がいいのでは?」
 アイリスが告げる。その言葉に反論したのはイリス。
「お姉ちゃん、ボクは楽器わからないよ?」
「まぁ、そこは私が面倒を見るか」
「じゃあ、何を教えるの?」
「さてね、そこは自分で選び取ってもらわないとだからね」
「そういうもの?」
 ずらりと運び込まれる楽器の数々。
「そういうものだよ……魂の込め方というのなら、なおさら選択を人に委ねるべきではない」
 そんな中姫乃がギターをさしだした。
「見返すのであれば、相手が得意としているものを使うと良いとは思う」
「……ん、ギターだね……拘りや理想が高い分、響くこともある……かな?」
 遊夜の言葉にユフォアリーヤが言葉を重ねた。
「俺も楽器の一つでも覚えないとなって思ってたんだよ」
 姫乃が告げるとエリザは手を叩いた。
「ああ、ひかりちゃんとの」
 その言葉を咳払いで濁す姫乃。
「ま…………まぁ、普段からワイヤー使うし、敵性は有るだろ」
「あたしは完全に興味ないので適当にぶらついてますニャ」
 そう朱璃は姿を消してしまった。
 入れ替わりで魅霊が戻ってくる。
「魂って、どうやって込めるんだろう。心って何だろう」
 そう弦をぱちぱちはじいていたエリザは途端に力なくそう姫乃に問いかけた。
「心、魂か? ――魂って言うなら熱気がガツンとくるような熱い曲とかか」
 そう言いつつも姫乃はエリザの前ですらすらと引いて見せる。
「演奏でも歌唱でもいいけど、聞いて貰いたい人を浮かべるとエリザさんは誰が浮かぶのかしら?」
 そう雨月が問いかけた。
「奏でた音を届けたい相手がいるといないで結構変わりそうよ」
 その言葉を受けて、エリザはちらりと遊夜を見る。
「音を正確になぞる力量があるなら綺麗な音は出るのでしょうけど、音楽を通じて何を伝えたいのかという部分は大事だと個人的には思うわね。
 まあ、私自身素人だからあまり要領を得ないと思うけれども」
「そんなことない、なんとなくわかった気がするの」
「そもそも音楽なんてノイズだろうが本人が楽しければいいのだよ。そこに他人が加わるからややこしくなるだけさ」
 そうアイリスは弦楽器を適当に出してきてそれをぽろろんっと奏でた。
「?」
 首をひねるイリス。
「歌いたいから、聴かせたいから、評価されたいから……理由や意味すら必要ない、歌いたいだけで十分だと思うのだよ」
 告げてアイリスは一曲引き始めた。それは名も知れぬ世界の妖精の歌。
「妖精は考えるよりも先に口ずさんでいる、心のままに、心そのもので」
 一曲引き終わるとアイリスはその曲を少女に教え込んでいく。
「心がどうこう以前に動機が売り言葉に買い言葉だからね、それが雑念になるか集中力になるかは本人しだいかな」
「動機の時点で心ここにあらず、と」
 イリスが音程をそらんじながら言った。
「見返させたい、評価させたい……話の流れで演奏になっただけで手段が音楽である必要は薄いな」
「うー、だったらあの人をぎゃふんって言わせたいって、私の想いはどうすれば」
「音楽とは音を楽しむもの、データに従って再現した音楽にも素晴らしい所はあるが……。
 やはり魂を込めた歌には敵わない、例え下手だったとしても」
 そう遊夜はエリザの隣に腰を下ろした。
「私はどうしたらいいの? お父さん」
 そう尋ねる少女は不安げに見えた。
「そうだな、教えられるとしたら、歌か……魂の込め方かね?」
「……ん、楽器でも歌でも……ここは共通、してると思う」
 そうして遊夜が差し出したのは一冊の楽譜。
「これって、あの人の曲」
 赤原がつづった曲の内の一つ『SOUL』
「これには魂が宿ってる。散っていった者達が生きている者達に残す歌だ」
 AI達やエリザにも当てはまる。そう遊夜は言葉を締めくくった。
「私に魂があると思う?」
 エリザは全員を見渡した。全員が頷きを返してくれる。
「想いや魂を込めたい時は感情移入することが大事だと思う」
「……ん、どう思って作られたか……歌の登場人物に、成り切るのも……いいかも?」
 ユフォアリーヤが告げてエリザの頭を撫でた。
 そんな様子を眺めて魅霊は一つ、出遅れたかとため息をついた。
「さて、そろそろ練習再開でよいですか?」
 話はついた。当日遙華はうまくやってくれると思う。
 交渉は成立した。であればエリザもおもりをするのは自分の仕事だが。
 手は足りているように見えた。
「なぜ、私はこの依頼に……」
 魅霊はずっと、暗い闇の中にいた。
 だから自分が知っているのは人を殺すすべ。人から奪う術だけだ。
 魅霊が識っているのは暗殺者の道。
 ……いわば人から外れた者のそればかり。
 しかし。
 目を瞑れば思い出す。旋律と歌声。
 楽譜を預かった時に、氷の壁に刻むときに。同時に頭に刻み込まれた旋律。
「え? エリザと一緒に学べばいい」
 振り返ればR.I.P.がそう微笑んでいた。
 それも悪くない、そう魅霊は想い胸いっぱいに空気を吸い込んだ。

第三章 対決
「雨月さん、そっちに入るの?」
 そうエリザはステージの前で雨月を恨めしそうに見上げた。
「ええ、少ない方に入らないと不公平でしょ?」
 そう言いつつ担ぎ出したのはギャラルホルン。
 正気か。そう誰しも思ったがそのバンドは不安げなく演奏を開始する。
「今日は歌姫に花を添えるぜ。サウンドを叩きつけてやれ。理夢琉!」
 アリューのドラムから始まったのは軽快なラブソング。
 バックコーラスに赤原とアリューが入る形で、リードボーカルは理夢琉が務める。
 ふわふわのドレスと子供っぽいメイクで、愛を軽やかに謳い喘げる。
「けどよ、甘ったるいのだけじゃ物足りねぇよな!」
 そのままアリューと赤原メインのアニソンメドレーに突入。
 もはや勝負など忘れて舞台上で二人はしゃうとするのに忙しい。
 その様子をポカーンと眺めるエリザ。
 その隣に理夢琉が座った。
「心がどこにあるかはわからないよ、でもエリザさん赤原さんの事怒ったでしょ?」
「え? うん、恥ずかしかった」
 そのエリザの赤くなったほっぺたに理夢琉は手を当てる。
「私は楽しんで歌ってる、今までの経験やその時湧き上がる感情が積み重なって自然に心が宿る感じかな」
「心が宿る?」
「フェスで歌と音が心臓に響いて光に酔って聞いてるみんなと一体感を感じられた時、私もそんな歌を歌ってみたいって心が動かされたんだ」
「だから謳うの?」
 エリザが問いかけた。
「うん、だから私は。みんなが笑顔で歌える、そんな対決にしたいの」
 告げると立ち上がって理夢琉もそのメドレーに乱入する。
 雨月のホルンが響いた。意外と曲にマッチしている。
「エリザさんの歌楽しみだな〜ワクワクしちゃう、思いっきり楽しもうね」
 その舞台袖では魅霊が静かに自分の出番を待っている。
 その手にはベース。
 メロディーの基盤を担う重要な役回りだ。 
 エリザは魅霊がそれにぴったりだと言っていた。
「緊張してる?」
 透き通る瞳で魅霊を見つめるエリザ。
「そうですね、珍しく。でも」
 魅霊は観客席を見た。姉と慕う彼女のように満員にできるわけではないけど、自分の歌を聴いてくれる誰かがいる。
「でも。歌えるということ。正直、うまくできるとは思えませんが……思いのほか心地よく感じます」
「私も、少しわくわくしてる。もう赤原さんなんてどうでもいいかも」
 二人は手を繋いでステージへと身を躍らせる。
 スポットライトが当たった。その時。
 魅霊は感じた。
 他でもない自分の想いを。
「私たちは、赤原さんの歌を、赤原さん以上にうまく歌って見せる」
 姫乃がギターを構える。
 彼女ももう特訓した、リズム感は元からばっちり。
 それを何度も同じ曲を弾くことで、強引に合わせる癖をなくした。
 いざ弦をはじいてみるとスムーズに指が動く。少女たちの声が乗る。
 その光景に姫乃は鳥肌が立つほどの快感を覚えた。
 目を閉じれば練習風景が思い出される。
 エリザにギターテクニックや知識をリアルタイム検索してもらって説明を聞くがいまひとつ頭に入らなかったり。
 感覚派と言ってエリザに理解してもらえなかったり。
「すまねぇな、嬢ちゃん。いや。エリザ」
 見ればステージの下から赤原がエリザに手をさしだしていた。
「いい歌だ。謝るよ。ごめんな」
 告げるとエリザは赤原の武骨な手を取って微笑んだ。
「いいってことよ」
 そう言ってギターをかき鳴らす。
 そんなステージを見ながらコーチとして活躍したイリス、アイリスは感想を述べていた。
「データに従って再現した音楽は心を動かす力は弱いらしいが……それはそれでよいものだと思うけどね」
「さっき評価とか大事じゃないって言ってなかったっけ?」
「言ったねぇ。まぁ、いい加減なものだよ妖精なんていうのはさ。
 まぁ、最初に手本があるのなら遠慮なく使えばいい」
「それじゃ心がこもらないってみんなが言ってるんじゃない?」
「そこで止まればそうかもね。だが彼女たちは止まらなかった。そしてアーティストから魂がこもっていると認められた。
 他人の音に興味があるんだ、自分の音にも興味がわくだろう
 興味がわくなら手本の再現で止まりはしないのも通りさ、工夫が入って個性も出てくる。
「そういうものかな?」
「そう言うものさ。データを再現……いい手本じゃないか、活用するといい。そこから本物が生まれることもある」
 魅霊は汗まみれになって、新たに覚えたベースをかき鳴らす。

 形にして。
 発して。
 聴かせて。
 伝える。

 その光景が目の前で繰り広げられると、音楽にはこんな力があったのかと実感する。
 そして、その一端を担ったのは自分なんだとも思う。
 赤原も、理夢琉も演奏に加わった。時期に皆が楽器を片手にかき鳴らす場に変わるだろう。
 その中に自分がいるのだと思うと嬉しかった。
「……ああ」
 こんなことが、私にも許されるんだ。
 そう思うと魅霊は胸の内が痛むような……でも、何か優しいもので満たされるような思いが吹き上げてきて、どこかに去っていく。
 この感情に名前を与えてあげられるまで、ここで音楽をかき鳴らそう、そう思った。


エピローグ

 遙華はその光景を観客席から眺めている。
 隣に座るイリスが膝の上に何かを置いたと思ったらはちみつ入りのマシュマロである。
「いただくわね」
 そんな遙華の隣に雨月と理夢琉が座った。
「少し休憩です」
「ホルン……すごく疲れるわ」
 そんな二人にお疲れ様と紅茶をさしだす。
「わたし、見て見たくなりました」
 理夢琉が言った。
「赤原さんとエリザさんの声が重なって広がる歌が」
「そうね、私も見てみたい」
「え、新しい企画思いついた?」
 そう理夢琉が遙華にきたいの表情を向ける。
「なにも言ってないわ。けど、そうね。少し考えてみてもいいかも」
 告げると遙華は雨月の膝の上に横になる。
「ふわふわ……」
「……私太った?」
 告げると遙華は安心して眠りにつく。みんなが楽しそうにしている声が彼女にとって最高のBGMなのだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783

重体一覧

参加者

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
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