本部

プールで遊ぼう!

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/09/02 19:36

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掲示板

オープニング

●軽く泳いでリフレッシュ?
「――ひとまず、基本の泳法は習得しているようですね」
「あ、はは。静香さんほど、速くはない、けどね……」
 先日購入したエスニック柄の紺色タンキニ姿の碓氷 静香(az0081)は、競技用50mプールの端で軽く息が上がっている佐藤 信一(az0082)に無表情で頷く。
『別に並ぶ必要ないからね。一般人に魚雷やれなんて無茶、誰も言わないから』
 共鳴したレティ(az0081hero001)の慰めっぽい台詞に苦笑しつつ、ゴーグルをスイムキャップの上までずらしてプールから上がった信一もまた、同じ日に購入した黒のショートボクサー型水着を着用していた。
 この日、3人は休みを利用して大型レジャープールに遊び……もとい、トレーニングに来ていた。静香と信一の水着はレジャー用でも問題ないが、コース分けされた競泳区画にいる時点で説明は不用だろう。
「それにしても、あの方はこのような施設まで『テーマパーク』として運営しているのですね」
「……それより、あのお店で買い物したってだけで、こんなお節介までしてきたのが、驚きだよ」
『あのオッサン、仕事中に電話かけてきたっけ……しかも仕事が無駄に早いからタチ悪いわ……』
 競泳水着のガチアスリートっぽい人が多い中、物珍しそうに周囲を見渡す静香に信一は返答に大きな嘆息を混ぜた。同意の声を漏らすレティも、油断すればため息が出てきそう。
 実はここ、いつぞやの社長が経営する施設の1つで、場所は神奈川県。レジャー用のプールと公式戦にも用いられる競技用プールが施設内に併設された、かなり珍しい作りをしている。元テーマパークの敷地に建設された施設はかなり広く、どうせなら年中使えるように、ということでこうなったらしい。
 3人がここにきた経緯は、そう難しいことではない。
 ワーカーホリック2人に気を回したお節介おじさんが、職場に電話とワンデイパスを送りつけたのだ。
『水着買ったんなら遊ばなきゃ!』というありがたい台詞付きで。
『にしても、なんで競泳区画(こっち)なわけ? どうせならレジャー区画で遊べばいいでしょうに』
「しかしレティ。あちらは人数が多く、まともに泳ぐことができません。……人混みもすごいですし」
「今年はかなり暑いからね。入場者が多いのも仕方ないよ」
 そして、社長が気を回した本来の好意とは裏腹に、レティの言い分通り色気もへったくれもない場所にいるのは、人見知りが直らない静香への配慮だった。信一としては一緒に過ごすだけで満足なようだが、もう少し肉食になっても罰は当たらないだろう。
 このままではゴールインまで十年以上かかってもおかしくないぞ。
 もっとがっつけよ、ヘタレ!
「静香さんも泳ぐ?」
「そうですね。では、一緒に『軽く』泳ぎましょうか」
 残念ながらこちらの声は届かず、息が整ってきたヘタレの提案に静香はプールに入った。
 隣あったコースに並び、スタートの位置でウォームアップの距離を確認する。
「『軽く』ね――じゃあだいたい2往復くr」
「バタフライ・背泳ぎ・平泳ぎ・自由形を各100mずつで1セット……最初ですし、小休憩(インターバル)は1分程度で計5セット程度にしておきましょうか」
 そこで信一は、静香との間にある『軽く』という言葉の認識の違いを告げられた。
 ジョギング感覚で2kmを宣言した彼女に、今さら200mでもちょっと背伸びをしたとはいえないヘタレ。
「それが終わったら休憩を挟んで、好きな泳ぎ方で5kmのタイムを競いましょう。一緒に行ってきたランニングより距離は短いですし、問題ないですよね?」
 ちなみに、一般人が大した練習もなく5kmをぶっ続けで泳ぐのはかなり無理があるが、静香は中距離走感覚で信一を誘っている。もちろん、プールとはいえ信一にkm単位の遠泳など練習した経験すらない。
「ちょ、待」
「時間は限られていますし、他の方も利用するはずです。早めに場所を譲りましょう」
 唇を青くさせて異議を唱えようとした信一は、しかし周囲に気を使った静香に気づいてもらえなかった。
「……あの、途中で溺れたら、助けていただけますか?」
 そのままスタートした静香のみるみる遠ざかる姿に手を伸ばし、すべてを諦めた信一は近くにいた人にライフセーバーを依頼して泳ぎだした。
 ――根性を見せるところが違うぞ、ヘタレ!!

解説

●目標
 プールでリフレッシュ!

●登場
 碓氷 静香…先日買ったおニューの水着で出陣。km単位で泳ぎストレス解消。

 佐藤 信一…軽い運動と聞いて絶望する一般人。ひとまず個人メドレー400m×5セットがノルマ。

 レティ…常時静香と共鳴。しごき(?)の付き添い。信一が死ぬ一歩手前で止めるストッパー予定。

●施設概要
 神奈川県某所に建設された大型レジャープール施設
 過去にお化け屋敷・健康ランドでモニター依頼を出した社長が運営
 元々テーマパークだった敷地を利用しており、東側がレジャー・西側が競泳と区画が分かれている
 敷地がかなり広く、毎日のように迷子アナウンスが流れることでも有名

 レジャー区画例…ウォータースライダー・流れるプール・波のプール・水深の浅い子供用など
 競泳区画例…25m・50m・アーティスティック(シンクロ)用・飛込用・水球用など
 基本的にレジャー系は屋外・競泳系は屋内で、営業時間は9:00~18:00
 レジャー区画の一部はナイトプール(18:00~21:00)営業あり

 軽食や水泳用品を取り扱う売店もあり、レジャー区画は屋台、競泳区画は店舗で主に販売
 入場料…大人1,000G・中学生以下500G

●諸注意
 本シナリオ参加→入場料+売店利用料金が発生
 他PC・NPCとの絡みはプレ記入必須(相手の名前+台詞等の具体的なやりとり)
 行動はレジャー区or競泳区のどちらか一方を推奨(描写密度に影響)
 帰宅時間の記載(=ナイトプールへの参加表明)推奨

リプレイ

●暑い熱意
 夏も終わりに近づき、人々はみな一抹の寂しさを感じながら新たな季節を迎えようと……
「夏らしいことしてないよっ! プール行きたいよ!」
 ……する者ばかりではなかった。
 もっぱらエンジョイ勢に属する春月(aa4200)は運悪く友達との予定がことごとく合わず、気づけば8月終盤戦。せめて1つでもイベントを! とレイオン(aa4200hero001)の肩を掴んで詰め寄った。
「いいじゃないか、楽しんでおいで」
「うん!」
 ぎゅっ(春月の握力↑)
「ん?」
 何気なく交わしたやりとりに違和感を覚えたレイオンは数日後、春月に連行されて初めて自身も頭数に入っていたと知る。

「夏といえばプールだろ!」
 志羽 翔流(aa5715hero001)もまた、志羽 武流(aa5715)に熱い思いをぶちまけた。
「俺は勉強したいんだが……」
「息抜きも必要だって!」
 外見がそっくりな2人の内、茶色の瞳にメガネな武流は薬剤師国家試験の合格を目指す大学生。
 が、金眼のパフォーマーの翔流は知ったこっちゃねぇと、後日武流を強引に外へ連れ出すことになる。

「刀護さん! こないだ買った水着を着たいです!」
 こちらも、双樹 辰美(aa3503hero001)が鍛錬終わりの東江 刀護(aa3503)を捕まえ直談判。
「だが、一体どこに――」
「ここです!」
 差し出されたタオルで汗を拭う刀護が言い終わる前に、辰美はとある紙を見せた。
 ――水着店のレジ袋に入れられた、同じ社長が経営するレジャープール施設のチラシを。

●プールだ~!
「プールで遊ぶにゃー♪ 色々とあっておもしろそうにゃ♪」
「この暑い中、良い場所を教えてもらったね。のんびりできそうだ」
 この日、入場前に気分アゲアゲ↑な猫柳 千佳(aa3177hero001)は右手のひさしで辺りを見渡し、涼やかな雰囲気のAT(aa1012hero001)が隣で微笑む。なお、ここの情報ソースも辰美と同じ水着店である。
「……わし、いるかのぉ?……」
(いつも通りのメンバーだけど……相変わらず、男の子は僕一人。僕がしっかりしなきゃ)
 例のごとく千佳から強制連行された音無 桜狐(aa3177)は相変わらず脱力気味にため息を漏らし、相変わらず男の娘なセレン・シュナイド(aa1012)は両手を胸元で握りかわいく気合いを入れた。
「なんだ! 水着がないなら早く言ってよー!」
「来る途中に言ったよ……」
 各々が入場した後、春月は苦笑するレイオンを引っ張りまず売店の水着コーナーへ向かう。
 あれ以降プールの話をせず当日を迎えたレイオンにとっては突然の外出であり、断ろうにも春月の説得は熱量が高すぎた。最終的にレイオンが折れると即連れ出されたため、1人だけほぼ手ぶらなのだ。
「男性用の水着の流行りってよく分かんないなぁ。でも、レイオンならどんなんでもいけるいける!」
「いや、さすがにこれは……」
 テンション高めな春月が示したのは、リアル深海魚がプリントされたトランクス型水着。他の候補も全部奇抜な柄物ばかりで、レイオンは結局自分で無難な水着を選び購入した。
「ねえ、カリス。それ、何……?」
「えっとね、イルカ。そこで買ったの」
 同じ売店では、クロエ・ミュライユ(aa5394)がイルカ型のフロート(浮き輪)を抱くエウカリス・ミュライユ(aa5394hero001)に目を細めた。
「……あんた。まさか泳げないの??」
 無言で目をそらすエウカリスへ、無意識にジト目となるクロエ。
『プールに行きたい!』と駄々をこねられ、つれてきた相手がカナヅチではさもありなん。
(エルフって、森とか湖のそばに住んでるって話だけど……教わらなかったら泳げないか)
 しかし、お姉ちゃん(?)のクロエは苦笑して手を差し出す。
「ほら。行きましょう?」
「――うん!」
 ぱぁっ! と表情を明るくしたエウカリスは手を握り返し、レジャー区の更衣室へ向かった。
「私の水着はこの前、お店で購入していた――これだ!」
「うおおっ!? すごいにゃ! ATさんの水着チョイスはいつも攻め攻めにゃ!」
 そこにはすでに、先に荷物を置いたATの取り出した水着に千佳がいいリアクションを取っていた。
「ふふ、女の子はこんな機会くらいじゃないと、肌を見て貰えないだろう? そういう千佳ちゃんも、ずいぶん大胆じゃないか」
「にゃふふ♪ せっかくATさんに選んでもらったんだから、着なきゃ損にゃ♪」
 キャッキャウフフと楽しそうなATと千佳をよそに、桜孤は白いオフショルダー水着(フリル付き)を取り出してじぃ~っと見つめる。
「……水着なぞなくても良いとは思うが……」
 セレンからかわいいと勧められた水着をしばらく見つめ、もう1つの身軽な選択肢(サラシ+ふんどし)を諦めた桜孤は面倒くさそうに服を脱いでいく。
「クロエちゃん、ホルターネックのビキニだー。背中キレイだねー」
「そう? ありがと」
 こちらも着替えが終わり、エウカリスがクロエの水着姿をほめた後に自分の水着を示した。
「ね、見て見てクロエちゃん。ビキニにパレオ巻いてみたの」
「へぇ。可愛いじゃない」
 いわゆるクロスチュニック巻きを一回転して披露すれば、クロエも素直に感想を述べる。
「……水に入るとき、とったほうがいいかな??」
「……とった方がいいんじゃない?」
 が、上機嫌だったエウカリスがこぼした疑問にクロエが答えた途端焦りだした。
(そういえば最近、お腹気にしてたわね)
 改めてクロエが見分すれば、パレオの巻き方はお腹をガッツリ隠すスタイルで色々と察する。

「ぎゃぁー!?」
「君、こっち男子更衣室だぞ!!」
「い、いえ! 僕は女の子じゃないです! 着替えはこっちで合ってます~!!」
 なお、セレンが更衣室に入った瞬間に黄土色の悲鳴と焦った弁解が響いたとかそうじゃないとか。
 普通は逆? ……これもお約束ですので。

「意外に空いているんだな……最悪、イモ洗い状態かと心配したが」
「レジャー区画はそうなのでは?」
 こちらは夏休み中の気晴らしに訪れた御神 恭也(aa0127)が小さく安堵のため息をはき、不破 雫(aa0127hero002)は楽しそうな来場者の様子と案内板の地図を見て予想する。
「そうかもな。俺は競泳区画で泳ぐつもりだが、雫はどうする?」
「……たまには泳ぎに専念するのも良いだろうと思っていましたので、私もそちらへ行く予定でしたよ」
 恭也が隣に並ぶのを横目で確認し、雫は少し考えて返答した。
「同じ場所なら、勝負しませんか?」
 そして、挑戦的かつ不敵な笑みの雫から告げられた提案に恭也も好戦気味な笑みを返す。
「ふむ、面白そうだな。内容は?」
「そうですね……平泳ぎ200M、背泳ぎ200M、バタフライ200Mの三本勝負でどうですか?」
「異論はない。せっかくだ、何か賭けないか?」
「乗りましょう」
 段取りを決める勢いそのまま、恭也からの追加条件に即答する雫。
「ただ、賭けの内容が過激になるのは嫌ですから、負けた方が昼食代と入場代を受け持つ事にしましょう」
「まあ、それくらいが妥当だな」
 話がまとまり歩き出した2人は、まっすぐ競泳区画へ向かっていった。

「それ……前に僕が選んだものを着てくれてるんだ」
「まあ、せっかく選んで貰ったしの……」
「ううん、興味が無くても嬉しいよ」
 平穏なレジャー区では、トランクスタイプの水着で更衣室から出たセレンが女性陣と合流。
 まず桜孤の水着に注目し、自然と微笑む。
「大人二人はまた、大胆、だね……」
「ふふ、顔が赤いぞセレン。私達のこの姿も、捨てたものじゃないだろう?」
「ふふん、見られて減るものじゃ無いにゃよ♪」
(もう、目のやり場に困るよぉ……)
 次にセレンが少し視線をずらすと、きわどいツイストスリングショットのATとほぼ紐なマイクロビキニの千佳が、からかう笑みを浮かべ軽くポーズをとる姿に赤面する。
「ほら見ろよ武流! 水着ギャル! いいねー」
 そんな中、ヤシの木柄が入った青地ハーフパンツ型の水着で更衣室から出た翔流がATや千佳を指さし声に喜色を混じらせた。
「(ジ、ジロジロ見るな、指さすな、名前を呼ぶな、恥ずかしい……)」
 おそろいの水着な武流がつられて視線を向けるも、すぐに目をそらし同類と思われないよう翔流から少し距離をとる。一番の衝撃は桜孤と話す男性用水着の女性(セ○ン)だったが、チラ見じゃ間違えるよね。
「あ! クロエちゃん、ここは広いから迷子になっちゃダメだよ。いい、絶対だよ!」
 また、その近くを歩くエウカリスは思い出したようにクロエにドヤ顔で注意し、ご満悦な笑顔を浮かべた。
(うん、いいこと言った。流石わたしお姉ちゃん!)
「……」
 しかし、エウカリスは気づかない。
 背中に突き刺さる『お前だよ、お前』と訴えるクロエの視線に。

●遊びたいものは遊びたい
「静香さん。私が選んだ水着を買ってくれたんですね。似合いますよ」
「ありがとうございます……双樹さんも、とてもお似合いです」
 競泳区画では、先日購入したビキニの上にタンクトップとショートパンツを着た辰美が微笑みつつ静香に挨拶。同じ店で偶然出会った際、辰美が勧めた水着を静香が着ていた流れで話が弾む。
「その水着でトレーニングか?」
「だ、だず、げ……!」
「うおっ!?」
 少し遅れて、黒のサーフパンツにスイムキャップとゴーグルをつけた刀護が追いつくと突然足首を掴まれた。驚いて下を見ると、目と鼻と口から水と泣き言を漏らすドザエモンの姿が。
「……インターバル1分でも、個人メドレー5セットはきついだろう」
 で、復活した信一から話を聞いた刀護の第一声がそれ。
「あ、東江さ~ん……」
「子犬のような目で見るな!」
 2セット目の途中で溺れた負け犬の瞳にほだされ、刀護は女子トーク中の2人に近づく。
「あ~、俺が信一の代わりにその修行(?)をやろう。その間、お前達はレジャー区で息抜きに遊んでこい。もし俺が失敗したら……辰美が今日1日ビキニになること許す」
「それは妙案ですね、静香さん!」
「ノルマが終わるまでタンクトップとショートパンツは脱ぐなよ!」
「はい!」
 水着の静香に若干気後れしつつ、刀護はウキウキした辰美の後ろ姿へ注意をしてから信一に振り向いた。
「せめてお前はつき合え」
「ありがとうございます!」
 刀護の漢気に、全信一が泣いた。
「他の人がいるので、飛び込みの他に妨害も禁止にしましょう」
 ちょうどそのタイミングで、競泳水着の雫と黒いサーフパンツの恭也が更衣室から現れた。
「妨害――何をする気だった?」
「平泳ぎのキックでキョウの横腹を蹴りつけるとか位です。大したことはありません」
「……そこまで必死になる賭け内容じゃないだろうが」
 雫の物騒な物言いに恭也が呆れつつ、2人は軽い準備運動の後50mプールのスタート位置につく。
「最初は平泳ぎだな」
「望むところです」
 隣り合うレーンで競技を確認した恭也と雫は、あらかじめ声をかけたスターター役へ振り向く。
「よーい……始め!」
 そして、合図とともに壁を蹴った恭也と雫の勝負は始まった!

 一方のレジャー区画。
「プールといえばコレだ! これは絶対はずせない!」
 翔流につれてこられたウォータースライダーを前に武流はさっと青ざめる。
「こ、これだけは勘弁してくれ! 怖いっ!」
「何でだよ~? スリルあっていいじゃん」
 ほぼ垂直な角度のスライダーに抵抗する武流だが、笑顔で引きずる翔流はガン無視。
 結局2人は同時に滑り、恐怖と歓喜の絶叫が水しぶきとともに弾け飛んだ。
「すっげ! 武流、もう一回やろうぜ!」
「た、頼む、次は流れるプールで、まったり、させてくれ……」
「えー? しゃあねえなあ」
 翔流が大はしゃぎでワンチャン誘うが、一発でグロッキーな武流に譲歩し場所を移動する。
「混んでるね! 皆楽しそうなのはいいことだねっ」
 なんだかんだで昼過ぎに着替えた春月は来場客の楽しそうな喧噪に瞳を輝かせる。
「僕は荷物を見ているから、行っておいで」
「やるぞー! めざせ、レジャー区制覇!」
 一方、水着には着替えたレイオンだが立ち位置は完全に保護者。膨らませた浮き輪を春月に渡し、人混みに突入していく元気な後ろ姿を見送った。
「……ふむ、ここは泳がずとも大丈夫なのか……これは楽でいいのじゃ……」
「のんびりできそうだね」
 さて、桜孤とセレンは2人で流れるプールを訪れていた。
 老若男女に幅広く人気があるためかなり人は多いが、渋滞は起こしておらず早速水の中へ。
「そうそう、千佳さんとATはウォータースライダーに行くって……あれ? 桜狐さん!?」
「……うむ、これは楽じゃな……」
「あぁ、流されてる!」
 しかし、セレンが少し目を離した隙に桜孤が水面をプカプカ浮かび流されていく。
 運動が好きではない桜孤は完全に脱力し、流れに身を任せて人混みをうまいこと避けていた。
「ちょ、待って!」
 セレンは慌てて追いかけるも、すぐ他の利用客とぶつかりなかなか進まない。
 というか桜孤の速度が異様に速く、追いつけない。
「はあ、落ち着く」
「……物足りねー」
 セレンの焦りを見送り、休憩がてらマットフロートにうつ伏せで乗る武流は、近くで浮かぶ翔流のぼやきも聞き流しまったりした揺れについウトウト。
「――ろ! お――るぞ!」
 と、夢見心地の耳に翔流の声が遠くから聞こえた武流は――
「――ぶごぉっ!?」
 突然の衝撃でフロートから落ち、プールにダイブ!
「やっぱぷかぷか浮かぶのが楽しいよね~」
 悲劇(?)を生んだ者の正体は浮き輪装備で空を見上げる春月。
 なぜか彼女の周囲もプールの水流が速く、道中で誰かに接触しても被害に気づく様子はない。
「あれ? もしかして、桜孤さんが一周するまで待ってれば――ったぁ!?」
 春月の無自覚な暴走は、距離が遠のく不毛な追跡の途中で真理に気づいたセレンにも襲いかかった。
「む? ……セレンも楽しんでおるのぉ……じゃが、うつ伏せは息が続かぬぞ……?」
 その後、ちょうど一周した桜孤がやべー浮かび方のセレンに首を傾げつつ、まったりとした時間を楽しむ。
「――ぶはっ!?」
 あ、セレン蘇生。
「うっ!? ……春月、もうちょっと周りに気をつけようか?」
「え~?」
 最終的に見かねたレイオンが体を張って春月の漂流を止めてプールから回収し、玉突き事故はなくなった。
「ねー、クロエちゃーん。このプール、水が流れるよー」
「そりゃ、流れるプールだもん」
「すごーい」
 他方、イルカに抱きつくエウカリスはクロエに笑みを向けて楽しそうに水面をバシャバシャ。
「ひっくり返るんじゃないわよー。……あの様子じゃしばらくここにいるだろうし、私は違うところも見てみようかしら」
 楽しそうな妹(?)に笑みをこぼし、クロエもまたプールを楽しもうとその場を離れた。



「むぅ、やはり負けると悔しいですね」
「とはいえ、そこまで差はなかったがな」
 さて競泳区画内の飲食店では、雫と恭也が勝負を終えて遅めの昼食をとっていた。
 勝敗はそれぞれ、平泳ぎではタッチの差で恭也が1勝、背泳ぎでは恭也の泳ぎが途中で蛇行し雫に1勝、バタフライでは疲労で速度が低下した雫を引き離した恭也が勝利。素の身体能力は恭也が、水着の形状による泳ぎ易さは雫がわずかに有利だったが、連続勝負だと筋力と体力に差が出たらしい。
「さて、これからどうする? 此処は18:00までらしいが、ナイトプールがあるらしい」
「それって何をするんですか?」
 食後、パンフを見ながら予定を尋ねた恭也に、ナイトプールを知らない雫が小首を傾げる。
「う~む、施設案内によるとライトアップされた中で浮き輪なんかで浮かびながら、飲み物を飲んだり写真を撮ったりするものらしいな」
「……あまり、興味は引かれませんね」
「なら、混み合う前に帰るか」
「そうですね。時間まで自由に泳いで、閉まる前に帰りましょう」
 女性に好評な催しと補足した恭也の説明にも、体を動かす方が好みらしい雫の反応は微妙。結局ギリギリまで競泳区画で泳ぐことを決め、恭也は会計を支払った雫とともに競泳プールへと戻っていった。



「ここなら武流も楽しめるだろ!」
 先ほど事故にあった武流を連れ、次に翔流が訪れたのは波のプール。
 まだ人が少なく、スライダーより安全だからイケる! と思い入ったがすぐに武流が波にさらわれた。
「何で溺れる!」
 完璧なデジャヴに翔流がツッコミながら救助すると、抱えた武流のメガネがないことに気づく。
「待ってろ、宝(メガネ)探してくる!」
 瞬時に流されたと理解した翔流が即座に反転し、荒ぶるプールへ舞い戻った。
「何で、楽しそうなんだ……」
 ……ウキウキした様子に、武流は若干引っかかったが。
「レイオ~ン! ここの波、結構たか~い!」
「他の人にぶつからないようにね~!」
「がんばる~! ――おわっぷ!?」
 同じタイミングで移動した春月も、ちょっとしたアトラクション並のビッグウェーブを楽しんでいた。プールの外から注意を促すレイオンは、安全基準的にこの高さ大丈夫か? と不安に思いながら春月が頭から波をひっかぶる様子を見守った。

『○○からお越しの、クロエ様。エウカリスちゃん、えっと――妹さん? がお呼びです』
 同時刻、スライダーを楽しんでいたクロエは、施設全体に響く困惑気味な迷子放送に名指しされた。
「あ゛ー、……行くか。案内板は、っと」
 流れるプールからの移動+1回分の滑走という短い時間で迷子になったのか、と額に手を当て天を仰ぐ。
 だから言わんこっちゃないという台詞を飲み込み、クロエは迷子センターへ迎えに行った。
「……ぐすっ、ぐすっ」
 果たして、ちびっこ迷子の中にイルカを抱きしめ泣きべそをかく外見年齢21歳の迷子がそこにいた。
「あー、もう。ほら、泣くんじゃないの」
「イルカちゃん、ながされそうに、なって……しらない、おとこのこ、いっぱい、こえ、かけられて……」
 クロエは嗚咽で途切れるエウカリスの言葉を聞きつつ優しく涙を拭う。
「でも、イルカは無事だったんでしょ?」
「うん……」
「だったらほら、気にしない。プールに戻るわよ」
 手を繋いでトボトボ歩くエウカリスをあやすクロエの姿はもはや母性すら感じる。
 その後は夕方まで一緒に遊び、ちゃんと面倒を見て帰りました。
「なぜ、迷子に、なった!」
 仲良し母娘(?)とすれ違いで、辰美と静香の迷子放送を聞いてきた刀護が息切れしつつ怒鳴る。
「途中で遭遇したナンパを撒いたのですが、施設内が広くて……」
「な、っ!?」
 が、辰美の説明で刀護は別の意味で絶句する。聞けばレジャー区ですぐ複数の男性から言い寄られ、彼氏持ち+人見知りな静香を守るため辰美が対処する内に迷ったのだとか。
「~っ、信一! 後は静香に付き合え! トレーニングでもだ!」
「は、はいぃ!」
 強い口調の刀護に背筋を伸ばした信一は、静香の要望でまた競泳区画へとんぼ返り。
「それで、修行(?)の結果は?」
「……好きにしろ!」
 なお、期待に目を輝かせる辰美の問いに、刀護はぶっきらぼうに上着解禁を言い渡したのだった。

「俺はもう泳がない……」
 水難事故後、無事メガネも見つかり屋台で購入したラムネを一口含んだ武流がぼやく。
「えー? もっと楽しもうぜー!」
「俺はベンチで休んでる……」
 焼きそばとたこ焼きを食べきった翔流は唇をとがらせつつ、疲労を背負った武流をベンチに残して単独行動を始める。
「むむ、何か面白そうなのがあるにゃ♪ ATさん、あれに行くにゃ♪」
「傾斜がかなり急だね。軽く滑って行こうか」
 そうして再び翔流が立ち寄った垂直スライダーの最後尾には、テンション高くおしゃべりする千佳とATの姿が。
「ふぅ、すごい速度だったね」
「次はあっちに挑戦にゃ~♪」
 ほぼ自由落下で滑り降りたATと千佳は、続いてカーブが多いチューブ型スライダーに挑戦。
「ここも結構激しい滑り出しで――っ!?」
 先の垂直スライダーで余裕があったATだが、最初のカーブを曲がった直後に表情がこわばった。
(まずい! この水着を選んだのが仇となったか!)
 なんと横の振動で胸を隠す水着の生地が谷間にズレ落ち、ATは完全なポロリ状態に。
 チューブ内では体が激しく揺さぶられ、脱出までの間に位置を直すこともできない。
「っ!! ……おや、これは失敬」
 結局、排出口からプールへ飛び出たATは若干顔を赤くし、愛想笑いと手ブラで恥じらいを隠す。
「にゃー!? と、途中で外れちゃったにゃぁーっ!?!?」
 すると、次にチューブへ入っただろう千佳の絶叫が響いてきた。
 紐ビキニもスライダーの餌食となったことは想像に難くない。
「にゃぷっ!! ぼ、僕の水着はどこにゃー!?」
「あはは、イベントにハプニングはつきものだ。千佳ちゃんも災難だったね」
 遅れてゴールした千佳も手ブラで起き上がり、楽しそうに笑うATの近くで紛失した水着を探していた。
「プールでぷかぷかもよかったけど、スリルがあるのも好き~」
 終着点で修羅場ってる2人とは別に、春月はチューブスライダーの列で初対面の人と平和におしゃべり。
 ちなみに、次滑れば合計5回目のスライダー。春月には絶叫系の耐性があるらしい。
「すっげー楽しかったぜー、って武流!?」
 その後、スライダーを堪能して帰宅予定の18:00前にベンチに戻った翔流は、熱中症らしい症状でダウンする武流を発見し急いで医務室へ連れて行った。

●ナイトアフター
 ナイトプールの時間となり、レジャー区の一部がライトアップされる。
「いい加減レイオンも遊ぼうよ! 一人で遊ぶの寂しいよ!」
「そう? 十分楽しんでいたと思ったけど……」
 それまで他の利用客とも絡んで楽しんでいた春月は、ずっと保護者だったレイオンを連れ出した。
「綺麗だから写真! 写真撮ろう!」
「はいはい、最後まで付き合うよ」
 ここまでくるとレイオンも観念したのか、春月が掲げるスマートフォンの自撮りに入る。
「その水着、似合っているぞ……」
 こちらは午前中に消耗した体力がようやく回復した刀護が、流れるプールに身を任せつつぽつりとこぼす。
「ふふ、ありがとうございます」
 ビキニ解禁後はウォータースライダーを回り、レジャーを満喫した辰美は不意の言葉に微笑んだ。
 ビキニ姿が苦手なのに辰美にこの姿を許し、ちゃんと見てくれたことが嬉しくて。
(……もっと精進せねば)
 対する刀護の表情だが、静香ノルマにダウンした内省中で渋い。
 背泳ぎ・平泳ぎ・クロールは普通だったが、溺れるようなフォームのバタフライで時間と体力を浪費し最後はバテバテ。初の遠泳とはいえ、迷子の迎え以降も息切れは続く自身に納得せず、自戒の意味を込めて辰美のビキニを容認した刀護は鍛錬を増やそうと密かに決意した。
「夜のプールというのも、乙なものじゃの……夜までいたのは初めてじゃが……」
「つ、つかれた……」
「……そんなに泳いでいたかの……?」
 ずっとのんびりしていた桜孤は、昼間の鬼ごっこと交通事故で肩を落とすセレンと暗い雰囲気の中を歩く。
「桜狐さん、人混みにも流されちゃいそうだし……手、繋いでおくね?」
 すると、セレンはさりげなく桜孤の手を取りきゅっと握る。
「……うむ、迷子は面倒じゃ」
 いい雰囲気に赤面したセレンがちょっとドキドキしつつ隣を見るも、眠そうな桜孤からは悲しいほど意識されていない。
「――おやおや、手を繋いでお熱いね」
「ナイトプールはいい雰囲気にゃねー♪」
「私たちもゆっくりしようか?」
「わぁ!?」
 そこへ、からかいの笑みを浮かべるATと千佳の不意打ちを受け、軽くびくついたセレン。
 純粋な驚きに加え、夜だと余計に色っぽく感じる2人に心臓が落ち着かない。
「ところで千佳ちゃん、お酒は?」
「飲んだら絶対美味しいにゃ!」
「ダメだよ! せめて帰ってからだからね!!」
「…………」
「……うう、ここでは飲まないにゃよ。帰るまで我慢するにゃ」
 それから、ATに話題を振られて拳を握った千佳がセレンと桜孤からキツい言葉と視線をもらう。
 千佳が冷や汗を流して萎縮する姿に笑いを誘われつつ、時間が過ぎていった。
「また行こうぜ!」
「俺はもう嫌だ……」
 なお、ずっとダウンしていた武流を負ぶさる翔流もこの時間で帰宅した。



 その後、熱中症を引きずり体調を崩した武流。
「おかゆできたぞ~」
「暑い夏に熱いおかゆか……はあ……」
 家事を任せる翔流ののんきな声音に、武流は思わず感謝と恨み言をため息に混ぜる。
 結局、数日ほどの静養で勉強時間は泡と消えた。

 ……あ。
 もちろん、あのヘタレも恋人にしごかれて数日寝込んだそうですよ♪

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • マグロうまうま
    セレン・シュナイドaa1012
    人間|14才|男性|回避
  • エージェント
    ATaa1012hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • アステレオンレスキュー
    音無 桜狐aa3177
    獣人|14才|女性|回避
  • むしろ世界が私の服
    猫柳 千佳aa3177hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 優しい剣士
    双樹 辰美aa3503hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • 世話焼きお姉ちゃん
    クロエ・ミュライユaa5394
    人間|18才|女性|命中
  • でっかい小さい子
    エウカリス・ミュライユaa5394hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 春を喜ぶ無邪気な蝶
    クリスティン・エヴァンスaa5558
    人間|10才|女性|防御
  • 山瑠璃草
    砺波 レイナaa5558hero001
    英雄|16才|女性|バト
  • ほつれた愛と絆の結び手
    志羽 武流aa5715
    人間|23才|男性|回避
  • ほつれた愛と絆の結び手
    志羽 翔流aa5715hero001
    英雄|23才|男性|ブラ
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