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最終発言2018/08/19 15:30:10 -
【相談卓】山だ!キャンプだ!
最終発言2018/08/23 11:59:31
オープニング
●恭佳のアイテム開発
「仁科さーん」
仁科 恭佳(az0091)の研究室を、白衣を着た一人の青年が訪れる。中に入ると、作業着姿の恭佳とヴィヴィアン・レイク(az0091hero001)が何やらせわしなく作業をしていた。
「はーい、何です?」
「何です、って……頼まれていた試作品、完成しましたか?」
「今突貫工事で完成させてるところですよ。ほら、まずこれ」
恭佳は作業台の上にあった噴き出し花火を手に取ると、青年に向かって放る。
「これは?」
「ホムラ一号です。山中で通信が切断された際に用いる発煙筒ですが、火花が沢山出るのでいざとなったら花火として使用できます」
「はぁ……」
『あと、これも出来ていますよ』
今度はビビアンが青年に向かって小さな扇風機のようなアイテムを放る。
「これは?」
「イブキ一号です。ヒールアンプルを装填する事で、疑似的な範囲回復効果を与える事が出来ます。専用のボトルを装填する事で、虫よけ効果を与える事も出来ます」
「はぁ……?」
「あとコレも」
恭佳は星図盤を指差す。青年は首を傾げるしかない。
「これは?」
「ミミズク一号です。森林内で使うと、簡易的な地形図を作成してくれます。何もない時はそのまま星図盤として使う事が出来ます」
「えぇ……」
『あと、これもありますよ』
「いや、これ、アイスクリームメーカーじゃ……」
青年は思わず言葉を失う。恭佳は分かってねえなと言わんばかりに首を振る。
「ユキ一号です。霊石を突っ込む事で冷房として機能します。勿論アイスクリームも作れます」
「ちょっと」
二人の暴走ぶりにちょっと言葉を失いそうになった時、二人が手元の作品をどんと作業台に乗せる。
「で、これがミズチ一号です。普通に使えば二連装ショットガンですが、この部分にタンクを付けるとですね、ウォーターガンとしても使えるんですよ」
「もう! 全部遊び道具じゃないですか! またそんなものばっかり作ってるんですか!? 最近真面目な顔で黙々と何かしてると思ったら!」
「真面目ですよ。私は今すごーく忙しいですから。なので運用試験のセッティングはよろしくお願いします。心配しなくても、ちゃんと真面目な野営グッズは用意してますから」
恭佳は平然と肩を竦めてみせると、部屋の隅に置かれていたテントや寝袋を指差す。何時まで経っても遊び心百パーセントな年下上司に、青年は呆れるほかなかった。
●キャンプに行こう
というわけで、皆さんには、仁科の開発した野営グッズを試験運用して欲しいんです。え? これもうただのキャンプグッズ? 皆さんだってそろそろわかるでしょう? こういうおふざけを挟まないとあの人は物を開発しないんですよ。まあ、ちょっとした息抜きだと思って、色々使ってみてくださいよ。
そんなやっつけな説明を受けて、君達はグロリア社の運営するキャンプ場へとやってきた。東を見れば山があり、西を見れば湖がある。なだらかな丘陵には、色とりどりのテントが並んでいる。家族連れが思い思いにキャンプ場で時を過ごしていた。
君達にも、今まさに自由が与えられている。恭佳の用意した便利アイテムを使いながら、一泊二日のキャンプを楽しむといいだろう。
解説
目標 キャンプを楽しもう
時間の目安
9:00 キャンプ入り
12:00 昼食。サンドイッチが配られます。(描写は多分ないです)
18:00 夕飯。バーベキューなりして楽しみましょう。
22:00 就寝。悪い子は起きてても良いですよ。
☆プレイングのコツはショットガンよりスナイパーライフル。遊びたいタイミングを絞ったほうが結果的に演出が濃くなります。
アイテム
・ホムラ一号:花火。
・イブキ一号:虫よけファン。
・ユキ一号:アイスクリームメーカー。
・ミミズク一号:星図盤。
・ミズチ一号:ウォーターガン。
・ステルス天幕
AGWドライブを搭載しており、起動すると光学迷彩が機能して内部のエージェントを潜伏状態にする。ただし、外に居る仲間もテントを視認できなくなってしまう。ちなみにA型テント。機能を使い続けるには誰かが起きていないといけない。
・ヒーリング寝袋
共鳴状態のまま眠る事で、エージェントが放散しているライヴスを汲み上げ生命力回復が行われる。ただ、あんまり深く眠ると勝手に共鳴が解けて一人用の寝袋のぎゅうぎゅう、なんてハプニングが起きるので注意。
・スムーズロープ
ライヴス回路が組み込まれたロープ。ライヴスを流す事で勝手に解ける。固く結んだはいいが解けなくなってしまった、なんて時に。
リプレイ
「え、ボクいいです。紙姫一人で行ってきなさい」
大量の本が収まる洋館。匂坂 紙姫(aa3593hero001)の話を聞くなり、キース=ロロッカ(aa3593)は口を歪めた。紙姫はそんな彼の手を無理矢理引っ張る。
『だ~め! 行くよっ!』
「ええ……」
何やかやで折れた。キャリーケースを引っ張り、キースは紙姫とキャンプ場に来たのだ。
「まず支柱を立てますよ」
ケースを開くと、さっさとキースはテントを建てに掛かる。紙姫に指示を出しながら、てきぱきテントを完成させていた。
そんな二人の傍で、皆月 若葉(aa0778)とピピ・ストレッロ(aa0778hero002)、魂置 薙(aa1688)とエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)の二組が協力して一つのテントを完成させようとしていた。
『すごーい! 見て!』
「うん。もう少しで完成だから、そこ引っ張って!」
はしゃぐピピに、若葉は外側のカバーを指差す。テントの裏側に立つ薙にも目を遣った。
「薙もよろしく」
「ん、こっちは、OKだよ」
薙はカバーを引っ張りながら手を振る。若葉は頷くと、ペグとカバーをスムーズロープで結び合わせていく。
『室内も快適に過ごせるようにしておかねばな』
エルはユキ一号を一つ手に取ると、中に霊石を一欠片押し込む。保冷材にも似たひんやり感が彼女の手に伝わった。
『おお、これは良い』
ユキ一号をテントの梁にぶら下げる。テント内の空気が、一気に爽やかになった。エルは満足げに頷くと、ゆるりと外へ踏み出す。横に目を向けると、キースがキャリーケースをテントの中へ引っ張りこんでいた。
「これだけあれば一日持ちますかね」
キースはケースを開いて独り言ちる。紙姫が覗き込むと、学術書やら小説やら、とにかくたくさんの本。見た紙姫はぽかんとなる。
『この人引きこもるつもりだ……』
「キャンプなんて柄じゃないんですよ……BBQやるそうですし、紙姫は楽しみなさい」
『キース君は来ないの?』
「ええ。パスで」
言うなり、彼は折り畳み椅子に腰かけ、本を読み始めてしまった。紙姫は眼を真ん丸にしたまま、回れ右をした。
その頃、熊田 進吾(aa5714)と重力を忘れた 奏楽(aa5714hero001)はセンターロッジに入山届を出し、登山道に足を踏み入れていた。
『ミミズク一号は地形図なのな。ルートの書き込みとかは出来ねえ?』
起動したミミズク一号を覗き込み、奏楽は首を傾げる。進吾はミミズク一号の画面をなぞるが、軽く色分けされた地形図からの変化は何もない。
「せめて現在地の表示は欲しいね。要望しとこう」
登山道を見上げながら、進吾は肩を竦める。
『これについては改善の余地ありってことで。でもこっちは良いよな』
奏楽は肩に取り付けたイブキ一号を指差す。どうやらかなりの効果があるらしい。長袖長ズボンでカバーできない顔のところにも、虫が寄ってこない。
「顔の周りを虫に飛び回られると鬱陶しいしね」
『熊なのに?』
「熊でもそうだよ」
『もう少し改良して一般人でも使えるようにしたらいいのに。グロリア社のイメージアップになるし社会貢献できんじゃね?』
「今でも普通に売り出せそうだしね……」
雑談しているうちに、二人は山の中腹の休憩エリアに差し掛かっていた。丸太製のテーブルやらベンチやらが並んでいる。二人はさくさく落ち葉を踏みながら歩き、揃ってベンチに腰を下ろした。リュックからおにぎりを取り出し、遅めの朝食に洒落込む。
『美味い! さすがくまたんだな!』
「まあね。とりあえず、食べ終わったらこれを使ってみようか」
進吾はリュックから四角い紙箱を取り出す。只の噴き出し花火にしか見えない。
『その前に、向こうにも連絡しとかないとな……』
『へえ、確かに煙が濛々と立ってるな』
湖を滑るボートの上で、薔薇を片手にしたレオン(aa4976hero001)が山を見上げた。必死にオールを漕いでいた葛城 巴(aa4976)も振り向く。桃色の煙がふわりと山間から伸びているのが良く見えた。
「ふーん。あの色ならタダの山火事とかとも区別出来そうだね……というか、ちょっとぐらい交代してよ!」
巴はオールの柄で船端をガタガタ叩いて叫ぶ。彼女の着るTシャツは汗でしっとりと濡れていた。魚を釣るぞと勇んだは良いものの、さっきからオールを握っているのは巴だけだ。
『まあいいじゃん。そろそろ目的地だろ』
「え?」
『とりあえず共鳴だ。手を出せ』
言われるがまま手を差し出すと、二人は共鳴する。レオンは水面に手を翳すと、セーフティガスを放った。黒い水中はよく窺えないが、彼は一仕事終えたとばかり、再び共鳴を解いた。
『これで魚の動きが鈍るはずだ。今のうちに釣ればいい』
「いいのかな……? っていうか釣るのも私だけ?」
釈然としない思いのまま、巴はロッジで借りた釣竿を取り出すのだった。
一方、藤咲 仁菜(aa3237)とリオン クロフォード(aa3237hero001)はほっと一息ついたところだった。テントのついでにタープも立てて、夕方のBBQに備えていたのである。
「やっと建て終わったぁ。早いけどこのままお昼にしちゃおうかな」
『うん! サンドイッチおいしそうだったよね!』
仁菜と紙姫が笑い合う。リオンはさっさとサンドイッチを頬張りつつ、日暮仙寿(aa4519)や不知火あけび(aa4519hero001)を見る。
『二人は?』
彼らは中途半端に距離を置きつつ、顔を見合わせる。
『食べる?』
「ん、そうだな。食べたら……稽古するぞ」
妙にぎこちないやり取り。何だか変だ。焦っているようにも見える。二人が背後を向いた瞬間、仁菜はリオンに尋ねる。
「喧嘩でもしたのかな……?」
『や、あれは放っておいて大丈夫だと思うな』
男女の機微が少しはわかるレオン。頭の後ろで手を組みニヤリと笑う。
『(今日がそのXデーか)』
かくて銘々昼食を摂ったエージェント達。九字原 昂(aa0919)はコンロをタープの下に持ち出し、四脚を取り付ける。ベルフ(aa0919hero001)は煙草を吸いつつ、彼の甲斐甲斐しい動きを眺めていた。
『“偶の骨休みだし、今日はのんびり過ごそうかな……”なんて言ってた割に、随分とよく働いてるように見えるが、それは俺の気のせいか?』
「まあ、これは好きでやってる事だからね」
昂はさらに折り畳みのテーブルを広げる。それなりの仲である巴とキャンプを楽しむ為なら、さしたる労苦ではない。
「ベルフも、一服が終わったらセンターに行って串とか買ってくれない?」
『串ならもうあるだろ』
「巴さん達が魚を釣ってくるからね。もう少し用意しておいた方がいいと思ってさ」
『親切だねえ……』
ベルフは携帯灰皿に吸い殻を押し込むと、ふらりと立ち上がった。
空を切る音が野原に響く。模造刀で斬り合いを続けていた仙寿とあけびは、同時に突きを繰り出した。刃が擦れて火花が散る。それを合図に、二人は刀を納める。
前よりも随分と、息が合うようになった。
「……お前の見ているところで、“あいつ”に負けたくなかった」
湖に目を向けた仙寿は、ふと呟く。あけびは彼の横顔を見つめる。数多の戦いを経て、この青年も随分と剽悍な面構えになった。
あけびも、憧れていた“あいつ”の背中より、そんな横顔に見入るようになっていた。
「あいつに負けて、分かった。あけびがいてくれなければ、俺はこれからなりたい俺にはなれないんだと。いや、ずっと前から気付いていた」
仙寿は顔を赤くしながら、意を決して真っ直ぐにあけびに向き合い、言い放った。
「好きだ。前でも後ろでもなく、あけびの隣にいたい。だから、俺の隣にいてくれないか」
あけびは、仙寿の言葉を静かに呑み込む。もう肚は決まっていた。
『はい』
すっと背筋を伸ばし、あけびは仙寿を見上げる。彼の背も、随分高くなったらしい。
『私が仙寿様の事、大好きで、私が仙寿様の隣に居たいから。これからもずっと隣にいます』
「……そうか」
仙寿は幻想蝶から風呂敷包みを取り出す。掌に載せて包みを解くと、蝶の翅のように美しい着物が現れた。
「一度これと決めたら、絶対にその道を貫く。色んな奴からそんな生き方を教わった。お前と行くこれからの道もそうだ。……だから、覚悟ができたら、着付けて見せてくれ」
貴方が着たこれを脱がせてみたい。着物の贈り物にはそんな暗喩があるらしい。仙寿の顏色を見るにつけ、彼もわかっているようだ。あけびは薄衣を手に取ると、ふわりと纏って微笑む。
『それは仙寿様次第、だよ?』
「……ああ。心して努める」
仙寿は一歩前に踏み出すと、彼女の顎先を指で支え、唇を触れ合わせた。
『……キース君?』
紙姫はテントを覗く。キースは既に一冊目を読破していた。その場からは梃でも動きそうにない。紙姫はしゅんとしたが、すぐに笑顔を取り戻す。
『あたし、どこかお外行ってくるねっ!』
「行ってらっしゃい。このテント、見えなくなるようなので迷わないようにね」
『は~い!』
『う~ん。どこに行こうかなあ。何しようかな?』
一人呟きながら、紙姫は歩く。外に行くとは言ったが、どこに行く当てもない。とりあえず、湖までの道を彼女は辿る事にした。
周囲を見ると、家族がわいわい言いながらボール遊びをしたり、燻製作りや虫取りに興じている。そんな人々を見ていた紙姫は、擦れ違った仙寿とあけびが、手を繋いでいた事に気付かない。
「これでようやく様づけは卒業だな」
一大事を終え、晴れ晴れと仙寿は言う。あけびは頬を染めて首を振った。
『仙寿様、それはちょっと……誰かに聞かれたら恥ずかしいし!』
「せめて二人の時は様づけをやめてくれ。何時までも若様みたいで落ち着かない」
眉間に皺を寄せて、いかにも不機嫌そうな顔。思わずあけびはたじろいだ。
『こ、心得た』
「武士か」
『ぎりぎりサムライガール! でも仙寿様だって――』
いきなり仙寿の手があけびの肩に伸び、ぐいと彼女を自分の方へと引き寄せた。
「仙寿だろ?」
ダメ押しのように囁かれ、あけびは真っ赤になったまま俯いてしまう。
『せんじゅ』
「心を込めてくれ」
『仙寿』
「もっと優しく言えないのかよ」
『う……うわーん!』
恥ずかしさに堪えきれず、あけびは仙寿を振り払って走りだした。
『(仙寿様って、本当はすごーくわがままでドSなんでは!?)』
「あれ? あけびさん?」
食材を揃えていた仁菜のところへ、真っ赤で涙目のあけびが走ってきた。彼女は咄嗟に仁菜に抱き着き、胸元に顔を埋める。
『仁菜ぁ! 仙寿様が! ドSだったー!』
「何言ってんだ!」
追いかけてきた仙寿も真っ赤になる。初心な仁菜にはよくない事があったように見える。仁菜は三角の眼で仙寿を見上げた。
「仙寿さん! あけびさんいじめたら、めっ! ですよ!」
「ちょっと待て、何か誤解してないか!?」
一方、リオンは仙寿だけに見えるようにこっそりサムズアップする。仙寿はバツが悪そうに鼻頭を掻くと、観念したように答える。
「恋仲になったんだよ。それだけだ」
「え? ……あー、そういう事だったんですね!」
仁菜にしがみついたまま、あけびはこくこく頷く。
「おめでとうございます。仙寿さん、あけびさん」
『おめありで~す……』
あけびは声を震わせた。だが赤飯ムードはここまで。仁菜はあけびを引き剥がすと、クーラーボックスから食材を取り出す。
『あけびさん、そろそろBBQだから、一緒に準備しませんか? お話聞かせてください!』
『う、うん。もち、ろん!』
仙寿達と擦れ違ってから暫く、ようやく紙姫は湖に辿り着いた。傾いた陽が差し込み、水面が宝石を散らしたように輝いている。
『綺麗だねっ、キースく……』
紙姫は眼を輝かせて振り返るが、そこには誰もいない。風は凪ぎ、静寂が少女を取り巻く。
『(いないんだった……)』
一人でいる事は少なくないのに、今日は少し寂しい。紙姫は肩を落とすと、湖の周りをとぼとぼと歩き出す。ボートでデートをしたり、黙々と釣りをしている人も見える。しかし、そんな彼らを見ても、何の感慨も湧かない。
『(うぅ……面白くないよぅ)』
隣に立つべき兄がいなくては、目に映るものが色褪せる。それをひしと感じながら、紙姫は来た道を引き返すのだった。
「すごい……きっとあけびさんと仙寿さんって、運命の赤い糸で結ばれてるんですね!」
あけびから恋のかくかくしかじかを聞いていた仁菜は、我が事のように目を輝かせる。その隙に、リオンは玉ねぎとピーラーを手に取ろうとする。
「はい。リオンこれ持ってその辺ウロウロしててね。」
仁奈はそれらをリオンから引ったくり、代わりにファンを手渡す。リオンはむくれた。
『えー、俺だけ別行動? 俺も話気になるんだけど』
「死人が出るから駄目」
『人が死ぬような虫でるの?』
リオンはスウェーバックをかましてとぼける。仁奈はみるみるうちに眦を吊り上げ、リオンを奥へ押しやる。
「リオンの! 料理で! 死人が出るから駄目!」
『まーだ誰も死んでないし! BBQなんて肉切って焼くだけだろ?』
「じゃあ玉ねぎはピーラーで剥かないで!」
もしもの用意はある。しかしせっかくのBBQで、その用意が役立ってはいけない。そう目で訴える仁菜に口を曲げて見せると、リオンはファンのスイッチを入れて歩き出す。
『まったくニーナは大袈裟だなぁ……』
とは言いつつ、彼はしっかり虫除けを使いこなすのだった。
テントの中で巴が寝ている。釣りから帰った彼女はすっかりヘトヘトになっていたのだ。その御蔭でレオンは魚の下準備を手伝う羽目になり、いかにも不満そうな顔をしている。
『なんで起こさないんですか?』
「だって、手は足りてますし」
『(そんな事を言って、幸せそうに寝てる巴を起こしたくないんだろ)』
先程から昂の視線が何度も巴の寝顔へ行くのを見遣り、レオンは仄かに察するのだった。
『赤き声でスムーズ着火! 燃焼促進! さすが俺!』
進吾と共鳴した奏楽が叫ぶ。バーベキューコンロの中で、赤熱した炭がぱちぱちと爆ぜていた。進吾は湯気を洩らす飯盒を竈の上から取り、蓋を開く。
「よし……ご飯もしっかり炊けてますよ」
ふわりと漂うご飯の匂い。それに反応したのかしないのか、巴はいきなり跳ね起きた。
「ん? あ、あれ? なんで起こしてくれなかったの~!?」
既にBBQの準備は完了している。巴はがっくりと肩を落とし、どさりと椅子に崩れる。
「えー。たまには、女の子らしく頑張ってみようとか思っていたのに~」
「はいはい。じゃあそろそろ始めましょうか」
『ただいま……』
外で仲間がBBQを始める中、紙姫は入り口を開いてテントに飛び込んできた。
「お帰りなさい。早かったね」
『あたし一人じゃあ、何にも面白くなかったよぅ……』
マットにうつ伏せとなり、紙姫はぽつりと呟く。
「ボクもですよ」
紙姫はちらりとキースを見る。読んでいたはずの本は脇に追いやられ、キースの髪には寝癖が付いている。彼はふっと微笑んだ。
「どうやらボクは、紙姫の存在に慣れ過ぎてしまったようです。キミがいないと、水を打ったように静かでどうも気が削がれてしまう」
『あたしも、キース君と一緒じゃないとなんか落ち着かないよぅ!』
「やれやれ。何だか似た者同士ですね、ボク達」
『えへへ。ほんとーだねっ!』
紙姫は手を突いて起き上がると、キースの背後に回り込んで紙姫が抱き着く。
『ね、ね。一緒に本読もう?』
「はいはい。どの本がいいですか?」
キャリーケースに手を伸ばすと、紙姫は緑の表紙の本を持ってキースの膝に乗せる。
『これ!』
「え……紙姫この本読むの何度目ですか?」
『いいのっ!』
キースは紙姫を背負ったまま、本の表紙を開いた。二人の心の中に、同じ物語の世界が広がっていく。
小さな空間の中で、二人はその幸せを噛みしめていた。
肉や野菜の焼ける匂いや音が満ちる。若葉は昂達と一緒にコンロへ向かっていた。
「これ、食べ頃だよ」
若葉は焼き色の付いた肉を薙に差し出す。薙は自分も手伝おうと思っていたが、若葉はどんどんお肉を持ってくるから、食べるだけで精一杯だ。
『ふふー、おいしい♪』
お肉を食べて大満足のピピに、若葉は悪戯っぽく笑みを浮かべて人参を突き出す。
「……野菜も食べようね」
『ふえぇっ!?』
嫌いな野菜を前に、ピピは箸を震わせる。エルが向き直ると、自ら人参を食べてみせる。
『タレに付けると食べやすいぞ』
ピピはエルの真似をして、タレに付けて人参を食べてみる。フカフカした食感で、香ばしさとタレの味が良く合っている。ピピは目を輝かせた。
『……! おいしい!』
薙はしばらく食べ続けていたが、おもむろにコンロへ歩み寄り、網の上の串を手に取った。
「若葉も、食べてる?」
「ありがと。うん、焼きながら時々ね」
若葉はこくりと頷くと、薙からその串を受け取った。
そんな彼らの目の前で、昂とベルフは次々肉や野菜を焼き上げ、巴やレオンの皿に載せていた。
「焼けたお肉からどんどん食べてくださいね……あ、巴さんはこちらをどうぞ」
巴は口を大きく開いて頬張り、美味しさに全身を震わせる。
「あー、美味しい! ありがとう!」
「まだありますから、遠慮なく食べてくださいね」
「いやー、うん。お言葉に甘えちゃおうかな」
昂の柔らかな眼差しに当てられ、巴は照れたように笑う。
「(やっぱり私、甲斐甲斐しくマメに働く女の子、ってのは柄じゃないのかも)」
『全く、なんで俺まで焼く側なんだ……』
ベルフはトングをカチカチ鳴らす。昂は微笑んだままベルフに魚の串焼きを差し出す。
「まあまあ、でも手伝ってくれてるのは助かるよ」
『そりゃ、たまにはな……ちょっと喉乾いたな』
ベルフが呟くなり、進吾がクーラーボックスを開ける。ユキ一号のおかげで、ペットボトルに軽く霜が付くほど冷えている。
「麦茶がありますよ」
『サイコーに冷えてるぜ!』
『麦茶……どうせならキンキンに冷えたビールをキュッとさ……』
そこへ、仁菜と仙寿が深皿に入れたアイスを手にしてやってくる。
「ビールじゃないですけど、アイスはどうですか?」
「苺、チョコ、ミルク……色々あるが」
レオンの動きは速かった。さっと手を差し伸べ、仁菜から皿とスプーンを受け取る。
『是非頂きます……美味しいですね』
かくして、彼らは和気藹々としたBBQを楽しんだのだった。
しかしまだまだ夜は長い。キャンプファイヤー場にやってきた若葉は、砂利に置いたホムラ一号に火を点ける。火花も出るが煙もすごい。
『すごーい!』
「風が! ……うわ、煙が」
ピピは噴き出し花火に大喜び、しかし薙と若葉は風下に立っていたせいで大変な目に遭った。エルは片手にイブキ一号を握り、そんな三人を悠々と眺めていた。
『やはり煙が凄いな。何故花火にしようと思ったのか……』
「ずるいよエルル、一人だけ、離れてるなんて……ところで、それ気に入ったの?」
何とか逃げてきた薙は、エルの持つ虫除けを指差す。エルは深々頷いた。最近の依頼で虫が厭になったのだ。
『当然。一般販売してもらいたいくらいだのう』
『他の花火も開けよ♪』
ピピは他の花火にも手を伸ばす。エルも覗き込むと、ススキ花火に手を伸ばした。
『やはり最初はこれだの!』
『うん! 色が変わってキレーなの♪』
蝋燭に火をつけた若葉は、線香花火を取ってみんなに差し出す。
「後で誰が一番長持ちするか勝負しない?」
「乗った!」
四人が花火に目をきらきらさせている頃、昂や巴達は双六ゲーム「サラリー」に興じていた。レオンが“いつも億万長者になるから”と思って持ち込んできたのである。が。
『事業失敗、だと……?』
「まぁそんな時もあるよね」
今日のお札は真っ赤っか。巴はその肩をポンと叩く。
『巴こそ、いつもは借金まみれだろ?』
「うん、我ながら意外だよね~。これが虫だけじゃなくてダメな運も吹き飛ばしてくれたのかな」
巴はイブキ一号を撫でる。よく蚊に食われる彼女にとっては大助かりの品物だった。
『子供が生まれた……もう車に乗りきらないんだが』
「あー、まあ、良くある事だよ」
「おめでとう!」
巴は缶ビールを掲げてベルフを労ってみせる。ガラじゃないとばかりに、ベルフはハットで顔を覆った。その隣で、昂がルーレットを回し、駒を進める。止まったマスは。
「英雄と契約、駒を車に追加してエージェントになる……か」
奇しくも今の昂と同じ境遇。横目に見た巴は、一人で微笑む。昂の人生の道のりには、茶々を入れる気にならなかった。
さらに夜も更けた頃、若葉達は遊覧道を通って山の中腹の展望台に来ていた。昼間のうちに、山を散策して目星をつけたのである。
『今日は寝ないもん!』
ランタンを前に、ピピは意気込む。若葉はパーコレータに火をかけながら頬を緩める。エルもピピの頭を撫でた。
『今日ばかりは夜更かしせねばの』
「何だか、わくわくする、ね」
「冒険気分だね! じゃあほら。夜更かしのお供」
紙コップにコーヒーを注ぐと、若葉は三人に手渡す。早速飲んでみるピピだが、大人の味に顔をくしゃりとする。
『……にがい』
見ていた薙は、ユキ一号を取り出し、BBQの時に貰ったアイスをコーヒーの中に落とす。
「これなら、苦くない」
『なるほど、アイス・コン・カフェか』
ピピは恐る恐る飲んでみる。口に広がる、まろやかな味。ピピははっとした。
『……おいしい! ナギすごい!』
「僕も苦いの、苦手だけど、これは好き」
若葉も同じように飲み、納得したように頷く。
「俺もこの飲み方、好きだな」
「ん。甘くなって、いいよね」
四人が一服終えた頃、若葉はランタンの火を消し、夜空を見上げる。普段は見えない星も、よく見えた。
「あれが夏の大三角だね」
『んー……? エルもナギも分かった?』
「どれ、だろう」
夜光塗料でうっすら光る星図と夜空を見比べ、ピピと薙は首を傾げる。
『ほれ、この方向じゃ』
エルは最初から見つけていた。ピピに寄り添い、南天に輝く三つの星を指差す。
『あ! あった!』
「一番明るいのが織姫だよ」
七夕の話はピピも知っていた。エルを見上げ、ピピは尋ねる。
『ヒコボシもいる?』
『おるとも。月に近い一点がそうではないか?』
他愛もない話をしつつ、エルはふと思う。留守番しているであろう、皆月家の英雄を。
『(……次は皆で来られると良いの)』
その頃。共鳴した仁菜とリオンは一つの寝袋に身を収めていた。
「寝てる間に傷が治るって凄いね! 一晩寝たら治ってるなんて夢みたい……」
『盾役は怪我が多いから助かるよなー……』
二人は語り合いつつ眠りへ落ちていく。共鳴したまま寝るのも初めて。不思議な気分だ。
隣では、逆に進吾と奏楽が起き出していた。再び登山の準備を整え、揃ってテントの外へと出る。ヘッドランプを照らして、ずんずんと山を目指していく。
『昼と夜で二往復か。くまたんの大好きな山だし、付き合うぜ!』
「ミミズクは夜光塗料が使われてるんだね。少し見にくいけど……」
『元々の目的を考えたら、これくらいでちょうどいいんじゃね?』
二人は元気に歩いていく。数時間後、彼らは山頂から美しい天の川と、それから朝日を見る事だろう。
『……すぅ』
ピピが、気付けば寝落ちていた。エルはその寝顔を覗き込み、頬をつついた。
『ふむ、すっかり寝入ってしまったの』
「そろそろ、帰ろっか」
ピピをタオルケットで包むと、そのまま抱きかかえる。ふわりと伝わる体温。薙は思わず抱きしめた。
「あったかい」
『ねてないの……』
と、寝言。若葉は微笑む。
「ありがとう。薙」
エルがランタンを持ち、若葉が荷物を抱える。そのまま、テントを目指して四人は坂を下るのだった。
「リオン……」
仁菜の寝言でリオンは目を覚ます。気付くと共鳴は解け、向かい合わせで二人は寝ていた。どうやら深く寝てしまったらしい。
『(いくら俺達が小柄でも狭いかな……)』
仁菜の身体がぴったり触れる。そんなのはどうでもいいが、抜け出すにはきつすぎる。間違いなく仁菜を起こしてしまう。
『(このままでいっか)』
リオンは思い直した。仁菜の身はとても暖かい。肌寒い夜を明かすには丁度良かった。
『人生って、考え方次第でどうにでも解釈できるんだな……』
結局ボロ負けしてしまったレオンだったが、何だかんだでゲームは楽しんでいた。隣に座った巴は、空になったビール缶を振りながら、くすりと笑う。
「どうせ百年も経てば人生終わり。楽しく気分よく過ごしてた方がいいよ」
『そういうもんか。そういうもんだな』
世界はどんどん不安定になっていく。その中でも、今日を過ごした八組は、改めて自分の大切なものを見つめ直した……かもしれない。
というわけで、この話はおしまい。
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結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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