本部

Welcome to New York!

茶茸

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 5~15人
英雄
6人 / 0~15人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/08/25 08:27

掲示板

オープニング


『ビュッフェにご招待! ニューヨーク支部で楽しい時間を過ごしませんか?』
 そんな一文がでかでかと書かれた掲示物に、アマゾンだ秘境だ遺跡だ従魔だ密猟者だ研究だと走り回ったり引きこもったりを繰り返しているギアナ支部と、地図上ではお隣なインカ支部の人々は首を傾げる。
 彼等の記憶に生々しく残る【森蝕】から続くRGWや改造従魔に関る事件の解決に向けてインカ・ギアナ支部がニューヨーク支部と合同捜査本部を設置すると言う話を知っている者もいたが、何故それがニューヨーク支部でのパーティーに繋がるのだろう?
 着る物といえば白衣か制服か作業着な彼等にとって、パーティーなど別世界の出来事である。
 ビュッフェ? バイキングと何か違うの? そんな有様だ。
「マナーが分からない? 私に聞かないで下さい」
 すっぱり切り捨てるタオ・リーツェン(az0092)。手にはパーティーマナーのハウツー本。
「ワシもちゃんとわかっとる訳じゃないが、まあ小僧よりはマシじゃの」
 そう言いながらテーブルマナーやドレスコードなど意外にも詳しく説明するケッツァー・カヴァーリ(az0092hero001)。
 彼等は合同捜査本部のギアナ支部担当者としてパーティーに参加する事になっている。
 実は最初はレセプション形式でと言われた所、そんな堅苦しいのは御免なタオが「何よりもエージェントの皆さんのためのパーティーであるべきでは」と言って幅広い年齢層のエージェント向けに気軽なビュッフェスタイルにしてもらったらしい。
「私達はギアナ支部担当者として参加しますのでそれなりのマナーを守らないといけませんが、エージェントの皆さんは最低限のエチケットさえ守ってくれればいいそうです」
 パーティーと言うならドレスコードやテーブルマナーがあるのではと尻込みする者もいるだろうと主催であるニューヨーク支部側がそう言ったらしい。
 勿論きちんとドレスコードやテーブルマナーを遵守すると言うならそれに越した事はないだろうが。
 目的はこれまであまり顔を合わせる事がなかったニューヨーク支部とインカ・ギアナ支部の交流会である。
『これから同じチームとして活動するんだ。顔合わせくらいはしとかないとな』
 ニューヨーク支部長であるエルビス・ランスローの言葉だ。
 パーティーに参加制限はなく、主目的である合同捜査に関係のない者でも自由に参加していい。むしろ気にせず参加して楽しんでいって欲しいとの事。
 パーティ会場の設置はニューヨーク支部の職員・エージェント、支部長も混じって設置したもので、BGM代わりの演奏をする楽団や給仕も彼等だ。
 ビュッフェと言う事もあり料理は食べやすいサイズに調整されつつも気合いが入っている。
 人種のサラダボウルであるアメリカ、その中でも様々なものが集まるニューヨークらしい多国籍ぶり。ジャンクフードもスイーツもある。中にはどぎつい色のケーキやアイスもあるが、慣れていない食文化圏の者も遠慮なく食べるといい。
 インカ・ギアナ支部の食堂で供される中南米料理もある。
「私が愛飲しているドリンク(剤)もありますよ」
 インカ・ギアナ支部の研究員達が徹夜のお供に作り上げた様々なドリンク(剤)もあるとの事だ。
 ニューヨーク支部にも紹介した所、主に事務員や芸能関係者の中でも原稿の締め切りや撮影に追われるエージェント達の支持を得たとかなんとか。
「あまり難しく考えず、気楽に楽しめばいいんですよ」
 タオはハウツー本を閉じ、参加希望の方はこれに名前を書いて当日会場で提出してくださいと、折りたたむと招待状になるちょっとおしゃれな用紙を渡した。

解説

●目的
・自由にビュッフェを楽しむ
 料理に舌鼓を打ったり友人・知人やNPCと話したり、難しい事は考えず楽しく過ごして下さい
 ただし未成年の飲酒・喫煙や目に余る非常識な行動は採用できません

●状況
・パーティ会場
 ニューヨーク支部内の多目的ホールに設置されたパーティー会場
 本来のビュッフェより気軽に楽しんでもらえるようテーブルの並びはバラバラ。ホールの一角がステージのようになっており、ニューヨーク支部の有志が集まり演奏をしています
 リクエストがあればステージでダンスを楽しむ事もできるでしょう。
 別の一角には雰囲気のあるバーカウンターがあり、そこでゆっくり話しながらドリンクを楽しむ事も出来ます

・ドレスコードやテーブルマナーは?
 きっちり守る必要はありません。人前に出ても問題のない服装であれば大丈夫ですが、折角ならおしゃれしたいと言う方はばっちり決めてもいいと思います
 テーブルマナーもあれこれ気にせず人に不快感を与えない程度であれば問題ありませんが、未成年の飲酒・喫煙は禁止です

・料理
 和洋中どころか人種のサラダボウルらしい多国籍な料理の数々を楽しめます
 飲み物も色々ありますがインカ・ギアナ支部特製ドリンクは要注意。飲めば気分スッキリ頭も冴えますが、夜眠れなくなっても責任は持てません

●NPC
・エルビス・ランスロー
「よく来てくれたなブラザー! 楽しんで行ってくれ!」
 ニューヨーク支部長。現場で叩き上げ鍛えられた精神と逞しい背中で語る正義漢
 はじめに簡単なスピーチをした後は会場を自由に回っています

・タオ・リーツェン/ケッツァー・カヴァーリ
「ネクタイが鬱陶しい」/「馬子にも衣装と言うが小僧は服に着られとるのう」
 合同捜査本部のギアナ支部担当として参加
 ケッツァーは軍服に似た礼装を着こなし、慣れないスーツを嫌々着ているタオをからかっている様子
 挨拶周りを済ませた後はバーカウンターで過ごしています

リプレイ

●手作りパーティー会場
 大西洋に面したH.O.P.E.ニューヨーク支部は従魔や愚神だけでなく、ジャンク海賊団をはじめとするヴィランズの対処をする事も多い。犯罪グループの中にヴィランズが紛れていたと言う事態もままあり、地元警察と共同作戦を行う事も少なくない。
 支部を任されているエルヴィス・ランスローは警察機関の出身であり、ヒーローとして世界中にファンを持つ大スターでもある。
 市民を守り事件を解決するため誰よりも強く逞しく、罠があれば踏み潰し、乗り越えられない壁でもぶち抜く勢いの熱血漢。
 そんな男が長を勤めるニューヨーク支部では本日ちょっとしたパーティーが開かれている。
「炉威さまが誘って下さるなんて……でも、必然の流れですわね」
 頬に手を当て、まさに夢見心地と言った表情でエレナ(aa0996hero002)がくるくる回る。
「思いっ切り付いて行くと言った口がよく言うねぇ」
 炉威(aa0996)にそう言われてもエレナはまったく気にしない。
「炉威様の隣には常にわたくしが。当然ですわ」
 何を当たり前の事をと言い切るエレナに炉威は苦笑するしかない。
 とりあえずくるくる回るエレナが邪魔にならないようにと会場へ促す。
「招待状を拝見いたします」
 一方、招待状の提示を促すスタッフに差し出されたのは同じ名前が二つ書かれた招待状だった。
「やぁこんにちは」
「お招きいただきありがとう」
 そう挨拶する二人にスタッフは怪訝そうな顔もせず招待状を確認し終わると笑顔で会場へと促す。
「どうか心行くまでお楽しみください」
「ありがとう」
「お邪魔させていただきますね」
 アリス(aa1651)は赤の、Alice(aa1651hero001)は黒のリボンをアクセントにしたワンピース姿で会場に入って行く。
 会場にはいくつものテーブルが点在し、様々な料理が並んでいた。
 その間や壁側など、招待客は思い思いの場所でパーティーの開始を持っている。
「略式……リリィには新鮮かもしれないわね」
 豪奢なゴシックドレスを着たカノン(aa4924hero001)が、物珍しそうに会場を見回すリリィ(aa4924)に微笑む。
「……はい! お料理も見たことのないものもありますの!」
 はしゃぐリリィはパステルカラーのアクアブルーが涼し気なロリータ系のサマードレス。
 二人とももっと格式高いパーティーマナーまで心得ているが、だからこそ今回のようにマナーもドレスコードもあまり気にせず自由参加というこのパーティーは逆に新鮮な体験のようだ。
「意外でしたね。恭也がドレスコードに合う背広を持っているとは」
 不破 雫(aa0127hero002)は意外そうに仕立てが良くシルエットもきれいなスーツを着た御神 恭也(aa0127)を見る。
 そう言う雫の方は青を基調にしたシンプルながらもフェミニンな魅力を感じる装いだ。
「この業界に入る前はボディガードに就く予定だったからな。ガードをする関係でパーティーに参加する可能性もあるんで、作ってあったんだ」
 恭也の答えにだからこうなのかと、パートナーのエスコートと言うより護衛と言った雰囲気の所作にこっそり笑う。
「ちらほらと見た顔があるな」
 雪ノ下・正太郎(aa0297)は会場にいる顔をざっと見回す。
 パーティーのスタッフとして働く警察関係者や芸能関係者が多いと言うニューヨーク支部のエージェントやバラエティ豊かな招待客の面々を観察していた。
 このパーティーは合同捜査本部を設置する事になった事件の容疑者や標的になりそうな人物を集めた初動捜査ではないかとも考えていた。
 もちろんパーティーそのものは素直に楽しむつもりで服装も淡いアクアカラーのジャケットに黒のシャツと赤いネクタイとに白いパンツと言った出で立ちである。
「お客様、何かお手伝いする事はございますか?」
 スタッフからの声掛けにファリン(aa3137)はヤン・シーズィ(aa3137hero001)の方を見て連れがいるから大丈夫と応えた。
 その答えを聞いたスタッフは一例して引き下がるかと思いきや「何かお困りの事がございましたら、近くのスタッフに声を掛けて下さい」と言ってさりげなく人込みが少ない方へと二人を誘導する。
「やっぱり目立ちますわね」
 シルエットを強調するタイトなラインから流れるように裾が広がるマーメードラインの黒いドレス。
 本来なら大人っぽさや優雅さを演出する物だろうが、着ているファリンが車椅子に座りヤンがそれを押しているとなれば心配の方が先だってしまうのも仕方ない事だろう。
「折角あなたもお洒落してますのに」
「気にするな」
 マオカラーシャツにダブルのブラックスーツと言う、普段は見られない装いをしたヤンはそう言って車椅子を押す。
 二人ともパーティーに相応しい服装をしているものの警戒は怠っていなかった。
 そんな二人に対し、パーティでも巫女服は譲らないと言うか他の服装にするのが面倒くさかった音無 桜狐(aa3177)とオープンバックの白いドレスを着た猫柳 千佳(aa3177hero001)は特に警戒をしていないようだった。
 いや桜狐の方は警戒していたのだが、巫女服に「ファンタスティック!」と湧く人々に囲まれて気力を奪われたと言うのが正解だろう。
「まあ……今回は罠はなさそうじゃの……珍しくただ飲み食いするだけのようじゃし、存分に飲み食いさせて貰うとするのじゃ……」
 若干ぐったりしている桜狐に千佳はにっこにこだ。
 彼女は「せっかくだし普段着ない服を着るチャンスだにゃ♪」とドレスを選んだ訳だが、いつも通りの着物を着ていたら桜狐と運命を共にした事だろう。
「だから桜狐も巫女服以外を着てくればよかったのににゃー?」
 彼女がこの展開を予想していたかどうかは誰にも分からない。
 桜狐が追及しようとした時、会場に設置されたスピーカーから「ガピーーー!!」と大音量が響いた。

●ビュッフェをお楽しみください
「すまない。調整を間違えた」
 何事かと身構えたが、次に聞こえてきた申し訳なさそうな声に会場に苦笑が満ちる。
「パーティー前に長ったらしいスピーチなんてと思だろうが、勘弁してくれ」
 フランクな口調でマイクの前に立ったのは逞しい体をパーティースーツで包んだ金髪碧眼の男。
 ニューヨーク支部長、エルヴィス・ランスローだった。
「まずはようこそニューヨーク支部へ! 私はエルヴィス・ランスロー。南米を発端とする改造従魔及びRGWに関わる一連の事件の解決に向けて設置された合同捜査本部の北米支部担当だ」
 意思の強さを感じられる青い瞳が、共に平和のために戦う仲間に対する親しみを込めて会場を見回す。
「南米で起きた【森蝕】については知っている者も多いだろう。実際に事件に関わった者もいると思う」
 エルヴィスは南米アマゾンで起きたラグナロクとの戦いと、その中で犠牲になった人々の事を話す。
 アマゾンだけには留まらず、リオ・ベルデのクーデターの際に表に出てきたRGWやその正体、最近現れたRGW兵など未だ収まる気配のないそれらに関わる者がこの北米に渡って来た事も。
「私の愛するニューヨークを、愛するアメリカを、そこに住む人々を守るために。そしてこれまで犠牲となった人々の仇を討つために、未来の悲劇を防ぐために、互いに力を尽くし悪を討とう!」
 力強いエルヴィスの言葉に頷き、中には拳を握る者もいる。
 ニューヨーク支部所属の者は勿論一連の事件に関わった者から、直接関わった事がない者まで、飾らない言葉に込められた思いを感じ取った事だろう。
「では話はここまでにしてパーティーを楽しんでくれ―――Cheers (乾杯)!」
 エルヴィスがグラスを掲げると、会場にいる者も同じくグラスを掲げた。
 パーティーの始まりである。
 今回のパーティーはビュッフェ形式という事もあり、会場にいくつも置かれたテーブルには東西南北様々な国の料理が並んでいる。
 マナーを気にしなくてもいいと言う事前の連絡もあって皆興味と食欲の赴くままに舌鼓を打っている。
 恭也は肉、野菜、魚とバランス良く味わいながら、特定の食材にしか手を伸ばさない雫に呆れ気味だ。
「相変わらずの肉好きだな……もう少し野菜も食え」
「一々五月蝿いですよキョウ。ちゃんと野菜も取ってますし、例え足りなくてもフルーツを多めに取っているので問題ないです」
 そう言ってほらと薄焼きパンに野菜を包んだ料理を手に取った雫だが、それは野菜と共に肉がたっぷり包まれたドルネケバブであった。他にも肉たっぷりの小籠包にステーキを挟んだハンバーグなどなど。
「……どう見ても肉9に対して野菜1なんだがな。それに、果物は野菜の代わりにはならんぞ」
 ちくちくと正論を言ってくる恭也にイラっとした雫だったが、その不穏な気配を察した給仕に「お飲み物はいかがですか?」と声を掛けられ意識がフルーツを飾ったドリンクに引き寄せられる。
「キョウもボーイ姿で侵入したりするのですか?」
 クランベリーとピンクオレンジを浮かべた甘酸っぱいドリンクで落ち着いた零が聞くと、恭也は微妙な表情で目を逸らした。
「……一応は、持ってはいるがな」
「帰ったら見せてもらう事は……」
「袖を通した姿を見た親類縁者から似合わないと言われたから嫌だ」
 そう言った顔は心底嫌そうで、零は詳しく追及するのを止めた。
「残念ですね」
 微妙になった空気を変えるために次の料理に手を伸ばす。
 やはり肉料理だった。
「……ふむ、これほど大量の料理を見るのは初めてじゃの……。……特にこの……謎の料理は気になる所じゃ……」
 桜狐は表情だけは無表情に、しかし内心はうきうきで見た事もないような料理の数々に目を奪われていた。
 食べた事のあるもの、見覚えのあるものではなく初めて見る物に次々チャレンジして行く。
「桜狐は相変わらずの大食漢だにゃー。あれだけ食べたものは一体何処に消えているんだろうにゃ?」
 千佳は耳を機嫌よく動かしながら魚料理を中心に制覇していた。
 桜狐を大食漢と言ったが、彼女の食欲と胃袋もなかなかのものである。
 色んな料理を楽しめるよう一品一品は量も少なくサイズも小さいとは言え何種類も食べていれば腹にたまる。
「お酒も楽しみたいにゃー」
 前以て会場には酒が飲める場所もあると聞いていた千佳がきょろきょろと見回したが、彼女が酒を飲むとどうなるか分かっている桜狐は少々強引に次のテーブルへと連れて行く。
「……これは……油揚げ……確保するしかないではないか……」
 そのテーブルは和食をテーマにした物らしく日本人にはなじみ深い物が並んでおり、桜狐は油揚げを使った料理を見た目だけは冷静に、トングとレードルを動かす手は猛然と攻略にかかる。
「ちょっと食べすぎ?」
「でもまだデザートがあるわ」
 アリスが一口サイズのカナッペをいくつか食べて腹をさするがAliceはまだいけるのではとデザートコーナーへとアリスを誘う。
 二人が見慣れたお菓子もあれば、見た事もないお菓子もある。
 その中でもインパクトが強かったのは極彩色で彩られたアイスクリームやケーキであった。
 二人はそれぞれ蛍光ピンクや蛍光イエローのアイスと、真っ青なクリームケーキを手に取り一口。
「すごく……」
「甘いわ……」
 咀嚼し続けてなんとか味を舌になじませようとする様子を見る限り、その甘さは彼女達にとってはなかなかに強烈なものだったようだ。

●もう一つのお楽しみ
「あの凄い色のものも食べ物、ですの?」
「らしいわね」
 アリスとAliceが食べている物を見たリリィが目を丸くする。
 興味を惹かれてそちらに行こうとした時、近くを歩いていたらしい人にぶつかってしまった。
「……! ごめんなさいっ」
「っと、失礼……リリィじゃないか」
「あらリリィ、御機嫌よう」
 慌てて謝ったリリィだったが、相手は見知った―――炉威とエレナだった。
「炉威さま! エレナさまも!」
「ふふ、ご機嫌よう。またお会い出来たのは、運命かしら?」
「もう一人の姫も一緒かね。相変わらず麗しいね」
 カノンも炉威とエレナに笑顔で挨拶を交わす。
 ビュッフェの料理をつまみながらお互いの近況などを話していると、楽団が音楽を変えた。
 そちらを見れば楽団がいる広いステージの上に何組かが上がって音楽に合わせて踊り出したではないか。
「そうですわ! エレナさま、リリィと一緒に踊りませんか?」
 手を取られたエレナは炉威とリリィを何度か見たが、リリィの期待に輝く目を拒否できなかった。
「そうですわね。リリィとなら……少し踊りましょう」
 楽し気にステップを踏むリリィと、仕方ないなと言いたげながらきちんとそれに応えるエレナ。
「あら、可愛らしい二人がくるくる踊る……いいわね。……あなたは踊らないの?」
 炉威が側に来るのを見て、カノンはリリィに向けるものとは違う微笑みを浮かべた。
「俺もここで見学だ。麗しの姫君も居る事だしね」
「ふふ……素直に受け取っておくわ」
 そのやり取りをこっそり窺っていたエレナは二人に聞こえないよう注意しながらリリィに聞いた。
「リリィは如何してあんな女……いえ、カノンとご一緒にいらっしゃるのかしら」
「カノンねーさま……と? そう、ですわね……美しくて優しいのは勿論ですけれど、何より魂の声、を持っていらっしゃるから、でしょうか」
 答えてからではエレナは何故炉威と一緒にいるのかと聞き返した。
 聞き返される事を予想していたエレナははっきり答える。
「わたくしは、炉威様の為にだけ存在しますの。運命ですわ」
 カノンと今一つ和やかな雰囲気に見えないやり取りをしている炉威を見詰める。
「炉威様に勝る”何か”等、出逢った事も出逢いたいとも思いませんですもの」 
 その言葉を「遠くで見る分にはエレナもまともに見えるんだがねぇ……」などと呟く炉威が聞いたらどんな顔をしただろうか。
「出会い……運命……それはリリィも一緒ですの!」
 ふと思考を逸らしたエレナはぎゅっと手を握られて我に返る。
「カノンねーさまだけじゃありませんわ。エレナさまとお逢いできたのも幸せの……運命の一つ、なのです」
「……リリィは変わった子ですわね」
 握られた手をそっと握り返し、エレナは微笑んだ。
 また曲が変わるまで、二人はくるくると、楽しそうに踊る。
 合同捜査本部の設置を切っ掛けにニューヨーク支部とインカ・ギアナ支部の交流会を名目にしたパーティーだが、自由参加可と言う事もあって彼女達のように顔見知りと交流を深める者も多い。
「どうも、如何ですこのパーティー」
「正太郎様」
 招待客やスタッフと話していた正太郎だったが、ファリンを見付けて声を掛けた。
「ただのパーティーと言えばただのパーティーですけれど、ここから何かが始まる予感はしないでもありませんわね」
 ファリンの答えに、正太郎もこのパーティに来ている招待客やスタッフの情報を集めている事を話し、しばらく食事をしながら二人の意見を話し合った。
 それが途切れた頃、ファリンは口許を拭いてから正太郎に改めて話し掛けた。
「ホテルはどちらにお取りですの?」
「宿取らずで、明日には日本に戻ります」
 そう答えた正太郎にファリンの崩さなかった笑顔が少し揺らいだ気がした。
 それをもの言いたげに見詰められ、何事もなかったかのように会話を続ける。
「わたくし気疲れいたしましたの。まだお時間があればですが……・よろしければこの後少しお散歩にお付き合いいただけません?」
 正太郎は誤魔化されたと分かったが、ここでは追求せず丁度いいとばかりに支部の最上階に誘った。
「では上に行きましょう。調べたんですが、最上階は展望台になっているそうですよ」
 彼女がシカゴピザを頬張りチリソースに目を白黒させる様子を見ていたが、笑顔を見せてもどこかぎこちない事が気になっていたのだ。
 ニューヨーク支部の最上階はニューヨークの街並みを見渡せる非常に眺めの良い場所で、二人と同じようにパーティー会場から移動して来た者もいるようだ。
 隣で窓からの景色に夢中になっているように振る舞うファリンの肩に優しく手を置く。
「辛い事、吐き出しちゃっていいですよ体も心も調子を戻したら楽しくやりましょう」
 正太郎はファリンがいつも通りに見えるように笑顔を張り付け元気そうに振舞って見せるのが痛ましかった。
「……ありがとうございます」
 ファリンの言葉に笑い返すと、しばらく何も言わずに外の景色を眺める事にした。

●お酒は二十歳になってから!
 ファリンと正太郎が話している間、ヤンは一人パーティー会場を歩いていた。
(とある戦争は国内の反戦運動によって終わったという。その結果、命を懸けて戦った兵士たちは平和運動家たちの罵声に晒された……)
 善性愚神の騒動に、リオ・ベルデで起きたテロリスト活動。
 ヤンは取り留めのない事を考えていたが、見知った顔と興味を持っていた顔を見付け声を掛けた。
「タオ殿、ケッツァー殿、久方ぶりですね。息災であられましたか」
 パーティー会場の片隅にはバーカウンターが設置され、ここでのみ酒が提供されている。
 タオ・リーツェンとそのパートナーのケッツァー・カヴァーリがそこのスツールに座っていたのだ」
「シーズィさん」
「おおヤン殿。スーツを上手く着こなしておるのう」
 ケッツァーの台詞にタオは嫌そうな顔をする。タオは上着を脱いでスツールの背に引っ掛けタイも外している。相当スーツが息苦しかったのだろう。
「……それなりのマナーを守らねばならぬのでは?」
 パーティーの話が出た時にそう言っていたはずとヤンが言うと、タオはさっと顔を逸らした。
「ハハハ! 今日はそういう話はなしだ。君も気楽に楽しんでくれ」
 そう言ったのはこちらも上着を脱いでいた男―――エルヴィス・ランスローだった。
 どうやら挨拶周りを粗方済ませて息抜きに来たらしい。
 男三人で酒を頼む。ヤンは紹興酒、エルヴィスはマティーニ、ケッツァーはワイン。
「タオ殿……それは一体」
 何気なく全員の飲み物を見ていたヤンはタオの手に握られている瓶に気付く。
「インカ・ギアナ支部特製ドリンクです」
「こやつの胃は色々あって荒れておってのう。酒は禁止じゃ」
 カフェインマシマシのタオが愛用しているドリンク剤だった。
(そんな物を飲めば余計胃が荒れるのでは?)
 そう思ったヤンだったが、口にするのは慎んだ。
 あなたも飲んでみますか? と聞かれたのも丁重に断る。
 カフェイン漬けは御免だ。
「こんにちは、進展はどう?」
 今度は知った声がと振り向けば、何とかスイーツを攻略したらしいアリスとAliceがいた。
「おっとお嬢さん、ここは酒を提供する場所だぞ。二人はもう少し大人になってからだ」
 気楽に、と言ってもそれはあくまでテーブルマナーの話だ。
 アルコールを出す場所に未成年を入れる訳にはいかないと言うエルヴィスに、それでは場所を移そうかと言う話になった。
「むむ、このお酒は中々美味しそうだにゃっ。何処のどんなお酒かにゃ?」
「待て。待つのじゃ……それ以上はいかん……」
「お嬢さん方もだ。美味い飲み物なら他にもたくさんあるからな」
 酒に興味を示した千佳も、彼女を止めようとした桜狐と一緒に連れて行く。
 行き先はスイーツコーナー。隣には給仕に頼むのが億劫だと言う人のためのドリンクコーナーもある。
 そこには恭也と雫の姿があった。
「あれだけ食べてまだ食べるつもりなのか?」
「甘い物は別腹と言う言葉を知らないのですか?」
「後で泣きを見ても知らんぞ……特に計り」
 あとから泣きを見る事は確実な事を言う雫に恭也は呆れるしかない。
「うぐっ、良いんです。後で、頑張りますから今日だけは特別です」
 二人の会話にアリスとAlice、桜狐と千佳はそっと自分のお腹をさすった。
「気になるなら支部のフィットネスルームを使ってもいいぞ? あそこは二十四時間解放してある」
 エルヴィスが言うにはニューヨーク支部は元警察関係者や芸能関係者が多く、また都市内で起きる事件は一日二日では解決できず数日や数か月の長期戦になる事もあると言う。
 仕事や任務で報告に来る時間もブリーフィングの時間もバラバラ。そんなエージェントやスタッフたちが心身共に健やかに活動できるよう様々な施設を作ったのだ。
「改造従魔やRGWについては報告を受けている。開発に関わっていると言う愚神や科学者の事もな」
 エルヴィスは言う。
「事件解決のためにニューヨーク支部は全力を尽くそう。君達もどうか、力を貸して欲しい。共に悪に立ち向かおうじゃないか!」
 守るべき人々のために!
 よく通るエルヴィスの声は会場にいた人々にも届いていた。
 今日はこのパーティーのスタッフとして働いていたニューヨーク支部のエージェントや職員達、合同捜査本部に協力するタオとケッツアーをはじめとするインカ・ギアナ支部の面々が、エルヴィスの言葉に頷き、グラスを掲げでそれに応えていた。
 これから始まる改造従魔とRGWに関する一連の事件の解決に向けた戦いを前に、その言葉は少なからず事件に尽力する者達の心に残る事だろう。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • 敏腕スカウトマン
    雪ノ下・正太郎aa0297
    人間|16才|男性|攻撃



  • 解れた絆を断ち切る者
    炉威aa0996
    人間|18才|男性|攻撃
  • 白く染まる世界の中に
    エレナaa0996hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • アステレオンレスキュー
    音無 桜狐aa3177
    獣人|14才|女性|回避
  • むしろ世界が私の服
    猫柳 千佳aa3177hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • Lily
    リリィaa4924
    獣人|11才|女性|攻撃
  • Rose
    カノンaa4924hero001
    英雄|21才|女性|カオ
前に戻る
ページトップへ戻る