本部

Son of a B****

影絵 企我

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/08/15 21:02

掲示板

オープニング

●サメ登場
 パツキンの美女が浜辺を歩いている。とにかく今年の夏は暑い。海水浴場も相応に賑わっていた。バーベキューしたり、ビーチボールで遊んだり、日光浴したりと、水着姿の人の群れが悠々自適に暑い夏をやり過ごしている。パツキン美女は、浜辺のブルーシートに寝転んでいた男達へスマイルを送った。
 男達は口笛を吹いて美女のスタイルを褒めそやす。サーフボードを脇に抱えた彼女は、得意げにモンローウォークを披露しながら沖へと出ていく。サーフボードに乗って海原へ滑り出すと、すいすい泳いで波を狙う。素早く彼女はサーフボードに乗り、小さな波を小手調べ代わりに乗りこなした。どうやら中々の腕前らしい。

 だが、パツキンの美女が海に居て何も起こらないはずがない。彼女が波に乗っている間に、にょきにょきと沖合に黒いヒレが生えてきた。勿論、女は何にも気付いていない。

「おいおい、なんだあれ」
 浜辺に寝そべり女のスタイルに釘付けとなっていた野郎達は、そんな異変に目ざとく気がつく。起き上がると、女に向かって叫んだ。
「おい!なんか来てるぞ!」
「え?」
 しかし女に声は届かない。サーフボードに捕まる彼女は耳元に手を当てにこやかに笑っている。
「だから、なんか来てるん……」
 男は思わず蒼白になる。女の背後から飛び出して来た黒い影は、彼女ごとサーフボードを突き上げた。吹き飛ばされた彼女は、砂浜にサーフボードごと突っ込む。女はどこかを痛めたのか、その場から動こうとしない。浜辺で人々がざわめいていると、波間から次々にサメが飛び出してきた。四頭も。
 海に響き渡る悲鳴。野郎達は咄嗟に女へ駆け寄ると、彼女の手を引っ掴んで陸地へと逃げ出す。顔まで露わにして威嚇したサメは、そのまま海の中へと引っ込んでいった。

 かくして海水浴場を騒がすサメ騒動は始まったのである。

●サメ退治
「……ということで、今回の仕事はサメ退治です。それ以上でもそれ以下でもないです」
 オペレーターがだるそうに説明を始める。
「現在人的被害は出ていませんが、四頭ものサメが暴れているという事もあって、当地は事実上の閉鎖状態にあるそうです。今回は皆さんにこれを片付けていただきます」
 スクリーンには浜辺の地図が映し出されていた。君達は画面を眺める。
「名前はアイアンジョーとしておきました。ドロップゾーンの構築能力は無いようですが、額面上の生命力も攻撃力もケントゥリオ級並なので気を付けてください。また、偵察隊の調査によると、爆発攻撃に特に弱い可能性が指摘されています。さっさと片付けたい場合は使用を考慮するとよいかもしれません」

「説明は簡単ですがこんなところです。片付いたらのんびり海水浴でもすればいいんじゃないでしょうか。最近は難しい局面も多かったと思うので、息抜きくらいの気持ちで、頭空っぽで戦ってきてください」

解説

メイン 海水浴場に現れたサメ型従魔を討伐する
サブ(全体)例のセリフを言え!(混乱)
サブ(個人)防具を着るな! 水着を着ろ!(発狂)

ENEMY
☆デクリオ級従魔アイアンジョー×4
 サメ。海水浴場を荒らし回ってる。以上。ちょっとしぶといかも?
●ステータス(ケントゥリオ級)
 生命S 物攻A 移動A その他は低い 水中
●スキル
・ヒットアンドアウェイ
 付かず離れずの距離感から常にサメは襲ってくる。
[近接物理。攻撃後にもう一度移動する事が出来る]
・バイト
 王道の噛みつき攻撃。説明は以上。
[近接物理。命中時、減退(1D3)を与える]
・爆破弱点
 爆発に弱い。爆発に弱くない生物がいるかは知らない。
[爆発系のフレーバーがある武器はダメージ2倍。カチューシャMRLは3倍。アハトアハトは4倍。プレイング次第でもっと行く]

FIELD
・海。波は穏やか。
・PLはボートや漁船に乗って行動。落ちたらめんどくさい。
・近くは海水浴場。終わったらバカンスもあり。

TIPS
・サメの肉ってそのままだとアンモニア臭いらしいね。
・でもすり身やかまぼこにもなったりするらしいね。

リプレイ

●過熱する海へ
 蝉が鳴き喚く都内某所。カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)と御童 紗希(aa0339)は激しい言い争いを繰り広げていた。
『何でだよ! 水着で出撃したら報酬が増えるって書いてあるだろうが!』
「どこの変態事務員? そんな条件書いたの! 絶対やだ!」
『むしろ水着を着るだけで報酬増えるなら安いもんだろうが! 何でいやなんだよ!』
「だ……って、みんなに私が胸無いってバレるじゃん!」
 息も絶え絶えになりながら何とか言葉を絞り出す。既に裸身も見やがった変態英雄に理由を誤魔化しても仕方がない。それを聞いたカイは鼻で笑う。
『はん。マリ……埼玉貧乳問題という事案をご存知か』
「それが何よ?」
『マリ! お前はハーフじゃねぇ! 埼玉県民だ! だから貧乳は当たり前なんだよ気にするな!』
 その瞬間、紗希はカイにボディーブローを叩き込む。
「何言ってんのよ! あたしは埼玉生まれでも埼玉育ちでもないってしってんでしょーが!」
『アイエエエ!』
 そのまま右ストレートを顔面に炸裂させる。
「そもそも埼玉県民に失礼でしょ!」
『ゴメンナサイ!』
 フィニッシュには遠慮の無い延髄蹴り。カイは敢え無くダウンした――

『――結局水着で来たじゃねえか』
「背に腹は代えられないから……!」
 サーフパンツのカイの横には、フリル付きビキニに身を包んだ紗希。フリルで少しでも嵩増ししようとしているのだ。紗希は眉間に皺寄せ周囲を見渡す。そして見つけた。
 自分と同じくらい不憫な目に遭っている彼女を。

 リタ(aa2526hero001)と共鳴した鬼灯 佐千子(aa2526)は、柄にもなくおろおろして自分の身を見渡す。赤ベースのミニスカ軍服を着せられたと思ったら、よくよく見るとタンキニやラッシュガードを軍服風にアレンジした一品である。
「え、な、ちょ、ちょっと……何よコレ……!」
『爆撃乙女ラジカル★サチコ Summer ver.だ』
「……はァ?」
『繰り返す。爆撃乙女ラジカル★サチコ Summer ver.だ!』
 朗々とリタは言い放つ。佐千子ははっとすると、幻想蝶をひっくり返して武器を周囲に広げる。グレラン、ロケラン、グレネード……爆発的なイロモノばかりだ。
「やっぱり……! また極端な装備ばかり!」
『ラジカル★サチコは爆撃乙女だからな。爆発物以外の装備など認められよう筈もない』
「誰が認めないってのよ」
『勿論、WNLの視聴者だ』
「うぇっ? コレ、中継されてンの……?!」
 佐千子が振り返ると、ふわふわ漂うドローンの影が一瞬ちらつく。そこで佐千子は水着なら報酬が上がる理由を理解したのだった。

 そんな二組を放置したまま、サメ退治にやってきた物好きエージェント達は近くの港へと向かう。天高く陽は昇り、彼らを燦燦とした輝きで灼き続ける。御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)も、それぞれ水着姿で歩いていた。
『珍しいね。いつもだったらしっかり防具を着込むのに』
「敵からの攻撃の前に、この暑さにやられる」
 サーフパンツ姿の恭也は中々見られたものではない。北風と太陽とは言ったものである。伊邪那美もセーラー服風の水着を着ていたが、それでもなお汗が肌から浮き出てきた。
「……暑いな」
『早く退治して、海で泳ごうよ』
 二人は決意を固めると、ずんずん歩いて港へと向かう。その背中を追うのは、海女服姿の老婆二人。ヴァイオレット メタボリック(aa0584)とノエル メイフィールド(aa0584hero001)である。
「暑いだな、ベールで顔を覆って居るから尚更だぁ」
 ヴィオは背中に手を回して掻きむしりながら呟く。その肌は岩のように変質し、表面がひび割れていた。猪豚を思わせる顔貌のノエルは、軽くその手を叩いて止めさせる。
『ヴィランらしい改造を要求した結果だべ。人様の為、我慢するだよ』
「仕方ねえだなぁ」
 深々と溜め息。曰く、化学薬品を浴びるような事故に遭ってしまったらしい。火膨れと火傷だらけになった身体を生かしてヴィランとエージェントの二足の草鞋を履いているようだが、ヴィランというよりは一昔前の特撮に出てくるミュータントのようだ。
『あれが鮫かぁ?』
 ノエルは沖の彼方に見える三角ヒレに目を凝らす。二回りも三回りも大きく見えるが、それ以外に取り立てて変な様子はない。
『鮫竜巻は何処だべ。四つの頭の鮫やら、人食いピラニアやらはおらんのか』
「姉者は、その手の映画の見過ぎだっぺや、現実には存在しないだよ」
 従魔としてそれくらいの奴らは出てきてもおかしくないのだが、今のところは何とか存在しないで済んでいるようだ。

「さあルナ、海でサメ退治よ! サメの倒し方は分かってるわね?」
 真っ先に船へ辿り着いていた世良 杏奈(aa3447)とルナ(aa3447hero001)は、小型のボートを横目に水着姿で向かい合っていた。こういう時はいつでもノリノリな杏奈に対し、ルナは口をぽかんと開いてどうにもノリについていけてないご様子である。
『いつもみたいに、魔法を撃ちまくるんじゃないの?』
 杏奈は指を差し出すと、ちっちと指を振ってみせた。
「サメはね……、殴るものなのよ!」
『……え? それはサメとなんの関係があるの?』
 ルナは思わず尋ねる。混乱したせいで妙な質問が口を突いて出てきてしまった。その瞬間、目をきらきらさせた杏奈が両手を広げてルナに飛び掛かる。
「サメだ! 殴れ!」
『ちょっと! くすぐったいよアンナ!』
 杏奈に脇腹をくすぐられ、ルナは必死に身をよじらせる。今日の杏奈はH.O.P.E.ではなくシャーク殴り団の一員なのだ。油断してはいけない。

 ちなみに、サメの鼻には獲物を探知するための器官がある為、殴ると嫌がって逃げていくという噂がある。試した結果実際に逃げたという話もある。危ないから、真似しないようにしようね。
 じゃあ実際にサメに会ったらどうするかって? 祈るんだよ。噛みつかれないようにな。

●いざ出陣
『このビーチは閉鎖すべきだ』
 港に立つなり、難しい顔をしてカイが言う。でももうされてます。紗希は怪訝な顔をした。
「……何? そのセリフ臭い言い回し。って言うか従魔が出てるんだからもうされてるでしょ?」
 カイと紗希は顔を合わせる。カイは分かってねえなと言わんばかりに首を振り、港の男達へと歩み寄る。
『船が小さすぎる。沈められるぞ』
「だから何なの? そのセリフ臭い言い回し」
「はあ……でもこれ以上大きな船は高価だから壊されると困るんだが……」
 紗希のツッコミを他所に、話はどんどん先へと進んでいく。真面目くさった顔をして、恭也達までもがその話に割り込んできた。
「……いや、そのサイズでは転覆される恐れがある」
『だからもう少し大きい船の方が早く片付くんだよねー』
「そう言われても……」
 次の瞬間、何故か轟くような咆哮を上げてサメが宙へと跳び上がった。そんなサメが居るか。しかし鯨サイズのサメを目の当たりにした男達は、泡食って頷く。
「分かった。分かった! 直ぐに用意する!」
『そうだ。ケージダイビング用の檻はあるか?』
 急に何か言い出すカイ。紗希は首を傾げた。男は怪訝な顔をしたが、一応頷いて見せた。カイはいきなり男の手を取ると、紗希へと振り返る。
『爆破推奨だとしても……海の中で爆発を起こしまくるのは環境に良くない。だから海中でサメに毒薬を注入し、周囲に被害を及ぼさずに殺るんだ』
「え? カイが檻の中に入ってサメ退治……? バカなの……?」
 紗希は口元に手を当てせせら笑う。そんな顔をされたら、カイは余計ムキになるのだ。
『バカにしてんだろ? 俺はやってやるからな……』
「話は纏まったかしら?」
 リボルバー式のグレネードランチャーを肩に担いで佐千子がやってくる。不承不承、と顔に書いてある。その隣にはファイティングポーズをとってノリノリの杏奈がいた。フリルの付いたワインレッドの水着を着て、既にやる気満々だ。
「ならすぐに行くわよ!」

●出航
「攻撃の手を緩めるだけの価値があるのだろうか……」
『十割方無いって断言するよー』
 カイの入れられた檻が水中に沈められていく様子を見つめながら、恭也は眼を瞬かせ、伊邪那美は呆れていた。この手の作戦は上手く行くわけがないと相場が決まっているのだ。ヴィオと共鳴したノエルも、いそいそとALBを足に取り付けていた。
『準備しておいたらいいだよ。奴が食われちまわないうちになぁ』
「食われちまえばいいんですよ」
 紗希は船べりで頬杖ついて反射的に応える。何かとカイをしばき回している紗希だったが、今回は自分からしばかれに行くのだからありがたい。自分の手を汚す必要が無いのだ。
「ふふ……カイさんに釣られて寄ってきたところを……右ストレートで一発、ボディブローで一発……」
 杏奈はシャドーボクシングに余念がない。中空に向かって、アルスマギカの魔法でこしらえた炎の拳が宙を舞う。それを眺めつつ、リタはそっと佐千子に囁いた。
『良いな。今の君は爆撃乙女ラジカル★サチコだ。魅せる爆撃を心がけるのだぞ』
「何よそれ。爆発に見せるもへったくれも無いでしょうに……」
「来るぞ」
 双眼鏡で沖を見つめていた恭也が、彼方に見えた三角ヒレを指差した。伊邪那美は船べりを叩き、水中のカイに襲来を伝える。
『(っしゃあ! どっからでも来やがれ!)』
 カイは毒薬をたっぷり入れた注射器を構える。非共鳴状態の彼が意気込んだところでその戦果は想像するまでも無いが、まあ一応見ておいてやろう。
 青黒い視界の彼方から、巨大な影が四つ迫る。船のスクリューが唸り、檻が揺れる。カイは酸素ボンベから息を吸い込み、呼吸を整えた。その瞬間、サメがヒレをくねらせ猛然と突進。檻は一瞬で拉げ、突き出された注射針はぽっきりと折れた。
『(折れたァ!?)』
 驚いている間もなく、次々と体当たりを喰らう。檻は簡単に潰れてしまった。その巨大な口が、カイの腕にまで迫ってくる。
『(ぎゃーっ!)』

「おらー! サメは殴れーっ!」

 刹那、水中にまで突っ込んできた炎の拳が幾つもサメに着弾する。サメは咄嗟に旋回した。その隙にカイは必死にバタ足、船上へと飛び出す。這う這うの体のカイを見下ろし、紗希は舌打ちする。
「けっ。帰ってきやがった」
『そ、そこまで言うか……?』
 険のある態度を崩そうとしない紗希。二人の様子を見届けたヴィオは、そそくさと動く。
「やっぱりどうしようも無かったようじゃのう。ここはオラが……」
 そのまま海へと飛び出そうとするが、老人はやはり運動能力が衰えている。船べりを跳び越すには高さが足らず、蹴躓いて頭から水面に突っ込んでしまった。噴きあがる派手な水しぶき。カイは跳び起きて叫んだ。
『お前もだろうが!』
「いんや、若いの。一緒にはされたくないだよ」
 何とか姿勢を整えたヴィオは、オーバーランスを槍に取り付けようとしたが、手が震えて中々ジョイントが合わない。いつの間にか、どうにかして紗希と共鳴していたカイはそれを見降ろして叫ぶ。
『何してんだよ!』
『いかんぞサチコ。このままではビーチの平和どころか、仲間も危ない……! ラジカル★サチコ、君の魔法で従魔を滅殺するんだ……!』
「地味に単語が物騒ね……あとコレのどこが魔法なの――」
 佐千子は冷静に突っ込もうとするが、リタは聞いてすらいなかった。
『今だ……! ラジカル★ウーリーMGL、3点バースト……!』
「わかったわよ……」
 佐千子は海原に向けてグレネードランチャーを構えると、素早くリロードを繰り返しながら引き金を引く。煙の痕跡を残して飛んだ三発の炸薬は、次々に海原に突き刺さり、派手な水柱を上げた。水中でサメの身体が揺れた。サメは飛び上がり、漁船に向けて突進をかましてくる。
『また来るぞ。奴らを音響兵器で追い払え!』
「ついに言っちゃったわね……」
 佐千子は船の隅に目覚まし時計を滑らせる。甲高い爆音が響き渡り、再びサメは漁船から逸れていく。それを眺めていたカイは頷く。
『やっぱサメは爆破しかねぇ……となれば爆破祭りだ!』
「はぁ」
『サメとくれば爆破って相場は決まってるんだよ。四十年前くらいからな』
「ねえ、一応聞くけど……ここに来る前に何見たの?」
 カイと紗希のやり取りを横で聞きながら、恭也は酸素ボンベを背中に背負いつつ、ALブーツで水上へと繰り出す。彼は取り出したサーフボード状の盾を紐で括り、目の前に放り投げた。
『何してんの?』
「聞いた話だが、海中から波間に浮かぶサーフボードをサメはアシカと見間違えるらしい。そのせいでサーファーが鮫に襲われる事件が起きているとの事だ」
 狙いが功を奏したか、爆音で散っていったサメ従魔が再び船の方角へと戻ってきた。恭也は槌を背負って一気に迫ると、サメの背中を殴りつけ、爆発を見舞った。サメは甲高い悲鳴を上げ、再び深い海の底へと潜っていった。
「相手は爆破に弱いらしいからな。使い慣れていないが此方の方がいいだろう」
『でもさぁ、爆破に強い動物っているのかな?』
「……恐らくはいないだろうな」
 恭也が肩を竦めた背後を抜けて、杏奈がサメの頭部へと飛び移り、魔力を拳に纏わせ直接殴りかかっていく。
「私の鉄拳を食らいなさーい!!」
 暴れるサメに馬乗りとなり、容赦なく何発も拳を叩き込む。しかし、盾の縁のように鋭い鱗が、杏奈の指を傷つける。あかぎれのようになってしまった手を振るい、杏奈は叫ぶ。
「鮫肌の事忘れてたー!手がヒリヒリするー!」
『全然殴るものじゃないじゃない!』
 攻撃の手が止んだ瞬間、サメが跳ね上がって杏奈を水中に放り投げる。水飛沫が上がった瞬間、ノエルがサメの腹に向かって滑り込む。雷を纏わせた槍を、その眼に打ち込む。火花が散るが、爆発までには至らない。
『効きが悪いだなぁ。その辺りの丸太を持ってきてぶつけた方が効いたかもしれんだな』
「ここは現実なんだから、そう上手く行くとは思えねえだよ」
「離れて、二人とも」
 そこへ、カチューシャを展開した佐千子とロケット砲を構えたカイが狙いを定めてくる。ノエルは杏奈の腕を引っ掴むと、素早く背後へと飛んでいった。
『さあぶちかますのだ。ラジカル★サチコとエクストリーム☆カイのコラボ爆撃を』
『オーケイ!』
「何なのよ……それ!」
 もう付き合いきれない。狙いを定めた佐千子とカイは、同時に引き金を引いた。一直線に飛んだロケット弾が、次々に水を吹き飛ばす。血糊でも撒いたかのように、海が真っ赤に染まっていく。
 サメは苦悶の咆哮を上げると、大口開けて船尾へと突っ込んできた。恭也はあくまで冷静に、酸素ボンベを手に取ってサメへと投げつけた。サメは反射的に酸素ボンベに噛みつく。恭也は素早く対物ライフルを構え、サメの口蓋に向かって銃弾を撃ち込んだ。開きっぱなしになっていた口蓋に弾丸が鋭く突き刺さり、同時に酸素ボンベが吹き飛んだ。
 それを見ていたカイは、目を丸くして叫ぶ。
『お、オイっ、それ俺がやりたかったヤツ……とっておきの……』
『ごめーん。皆考える事はおんなじだよねえ』
 見た映画もおんなじだ。カイと伊邪那美はわいのわいの言ってるが、恭也はただ一人冷静に銃を構え直す。
「口を閉じさせないとはいいアイディアだな。御蔭で口の中が狙いやすかった」
『そうじゃねえよ! 酸素ボンベを撃ち抜いて爆発させることでな……』
「奴は従魔だぞ。酸素ボンベの爆発が効くわけあるまい」
『あっ』『あ……』
 どうやら二人して某サメ映画にハマりすぎていたようである。

「せめて籠手くらい準備してきたらよかったかー……ま、仕方ないわね」
 ALブーツに履き替えた杏奈は、海上に飛び降りアルスマギカを広げる。互いが撒き散らした血の臭いに吸い寄せられ、サメ達が船尾に群れてくる。杏奈はアルスマギカを捲りながら仰々しく呪文を唱えると、サメ三匹に向かって氷の魔法を放った。
「海ごと凍ってしまいなさい!」
 冷気が水面で弾けた。その瞬間、三体のサメが凍り付き、氷塊と化してぷかぷかと浮かぶ。
『杏奈……アタシの魔法じゃ海を凍らせたりとか、出来ないわよ……?』
 最近ブラックボックスの英雄を家に迎えたから勘違いをしていたのかもしれない。肩を縮めると、杏奈は素早く船尾へと引っ込む。
「……サメは凍り付いたから大丈夫!」
 船尾に立っていた佐千子は、撃ち終えたカチューシャを幻想蝶へと戻す。
『仕留めろ! ラジカル★爆導索を使うんだ……!』
「ああ、もう……! 残ってンのはアンタだけよ……!」
 他のエージェント達も次々に武器を構える。サメに止めを刺すときに、忘れちゃいけないあのセリフ。彼らは息を吸い込むと、一斉に叫んだ。

『Smile, you son of a *ITCH!』

 カチューシャやら爆導索のアハトアハトやら、最大火力のオンパレードがサメ従魔に襲い掛かる。優に10メートルを超える巨大なサメ達は、それら自身も巨大な爆弾のように弾け飛んだ。
 深紅の肉片が空高くに舞い上がり、海やら船やらに降り注ぐ。ブリッジに引っ込んでその様子を見ていた恭也は、伊邪那美に尋ねる。
「お前、意味を分かっていってるのか?」
『さぁ? 映画の中の台詞だったんだけど、安らかに眠れって感じじゃないの?』
「全く違う。これからは英語の勉強をさせないと駄目だな……」
『なんで!?』
 素っ頓狂な声をあげる伊邪那美の横で、共鳴を解いたカイは清々しい顔をする。
『よし、色々あったがやり切ったぜ……』
「何なのよ、ホントに……」
 その隣で、紗希はやはり不機嫌そうに腕組みをするのだった。

『おお、でっけぇフカだなぁ。古龍幇へのお中元にぴったりだぁ』
「乾物は、しのぎの一つだっぺ。ごのおおぎさだったら……、ありかも知んねぇな」
 降って来たサメの尾びれに気付いたノエルとヴィオはのろのろと血まみれの甲板へと出ていく。その尾びれは優に1メートルほどはあった。中華マフィアにやくざのようなしきたりがあるかは分からないが、ノエル達は嬉しそうだ。
「(クーロンパン……?)」
 その横で、オルカの佐千子は眉間に皺を寄せる。ヴィランや能力犯罪は一切許すまじというスタンスの彼女だったが、今の古龍幇は一応合法組織。彼女は何も言わない事にしておいた。言う暇もなかった。
『ラジカル★サチコ。任務完了だ。今日もWNLを沸かせたに違いない』
「うへぇ……何だってこんなふざけたカッコをテレビに晒さなくちゃいけないのよ……」

「とりあえず帰りましょうか」
『そうね。あんまり働いてたわけじゃないのに、何だかヘトヘト……』
 杏奈達の呟きと共に、船は港へと転進する。片付けようと思えばもっと早く片付いた気もするが、サメ退治任務は無事に完了した。

●せめて海を楽しむべく
「あああ……疲れた」
 佐千子はシートに腰を下ろす。日差しと任務で熱を持った義肢に冷却用のスプレーを浴びせ、彼女は溜め息を吐いた。傍のソーダフローズンを啜ると、ひんやりした感覚が心地いい。
「……お疲れ様です」
 傍にそっと紗希が座る。ラッシュガードを着込み、しっかりと上半身はガード中だ。ちらりと彼女を見遣ると、佐千子は小さく頷く。
「ええ。お疲れ様です。……随分と揉めてたわね。最初」
「だってカイがふざけるんですもん。……佐千子さんの方も、何か大変そうでしたけど」
 カイは遠くで砂風呂しているように見える。佐千子はリタの方へと眼を向ける。浜辺の彼方を見つめながら、彼女はスマホで何やら話している。今度はどんな計画を立てているのか、わかったものではない。
「最近暴走するのよ。何に触発されたのか分かんないけど……」
「大変ですね」
「……大変ね」
 平坦な胸二人組は、互いの境遇を思いやって深々溜め息を吐くのだった。
「酷いものだな……爆破が弱点だなんていうから、皆で吹き飛ばしてしまってまともに残った部位があまりないぞ」
『身はぐちゃぐちゃになってるね。これじゃ流石にどんな料理も作れないよー』
 杏奈も掻き集めた肉片を覗き込む。粉々に砕けた骨片が混じって、最早ただの生ごみである。
「イタチザメ、シュモクザメ、アブラツノザメ……いえ。もうどんなサメとか考えても仕方ないレベルでボロボロですね……」
『でもヒレは無事ね』
 ルナは水槽に放り込まれた巨大なヒレに目を遣る。一本は婆さん二人組が持って行ってしまったが、まだ一本余っていたのだ。
『じゃあこれ使って、今晩は皆でフカヒレ料理にしようよ』
「フカヒレは一度乾物にしないと食えんぞ。あと、フカヒレ自体に味は無いからな」

「うーん、今日は、どこに行きますだ……」
 パラソルの下で、ひび割れた肌を掻きながら眠るヴィオ。その寝言を聞きつつ、ノエルは宇治金時を食べながら嘆息した。
『寝言は、紫鏡様との逢引話ばかり、おら嫉妬しそうだぁ』
 見た目は醜い老婆でも、心中は恋する乙女なのであった。

 サメが居なくなった海水浴場を、エージェント達は広々と使って暫く夏のバカンスを満喫したのであった。


結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
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