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痕跡調査 後編
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/07/31 20:57:41 -
相談卓
最終発言2018/08/01 06:33:18
オープニング
● ガデンツァの痕跡が発見された。
とある会場。石油プラントにて。
鉄骨と火で組み上げられた人類の英知の結晶が一夜にしてズタズタに破壊されるという事件が発生した。
奇跡的に作業員に死者はいない。負傷者多数でも死者はいない。
その負傷者たちが語るには、石油プラントは何か重たいものに押しつぶされるようにぐにゃりとひしゃげ、まるでひきちぎられるように鉄骨や骨組みが一方方向に四散したらしい。
まだ報告はある。
とあるビーチが大津波に襲われ多数の負傷者が出た。
気象庁も海上保安局も感知できない自然現象が発生、高さ25メートルの津波となって、ビーチだけではなく、付近の民家も飲み込んだそうだ。
ただ、津波はその一回だけ。
これらの海を起点にした事件の数々に歌や、特定の波長の霊力が確認された。
ガデンツァの痕跡だ。
こちらはH.O.P.E.の諜報部隊が事件を追っている。
君たちにはさらに追加で発生した別の三つの事件をおってもらいたい。
● 痕跡調査後編
今回は痕跡調査の続きです。実は確認しなければならない項目がさらに三つ存在します。
すべてが小さな事件です。ただ、どれも露骨に足跡がべったりとついてます。
これは罠かもしれません。
また別の依頼に派生することも考えられます。
捜査方法次第ではガデンツァと接触する可能性も、注意してください。
世界で起こる事件はこちら。
4 某海上爆発事件。
日本から遠く離れた海上で、何もないはずの海上が爆発した事件。
海底や、その地中深くであればメタンガスやメタンハイドレードなどあったのかなと、無理やり話をこじつけることができるが、大規模な爆発事件は珍しい。
事件の様子は衛星カメラがはっきりとらえているが。
半径50M程度が爆破、黒い煙など立ち上がっている。
現在では状況は落ち着いているが、残骸などが落ちている模様。
5 ロクトの痕跡
首都近郊で、ロクトらしき姿が監視カメラに多く捕えられている。
彼女は戻ってきたのだろうか。それとも罠だろうか。
彼女はグロリア社のショップ付近で目撃されており、その出没情報は三日の間報告され続けている。
これは何を示すのだろうか。
6 孤児院襲撃情報のリーク。
グロリア社直下の孤児院が襲撃される可能性があると、タレこみがあった。
身寄りのない、リンカーとして適性のある子供たちが多くすんでおり、ヴィラン組織には宝の山に写るだろう。
しかし今回は襲撃前に敵のアジトの住所を知ることができている。
拠点は住宅地内の二階建ての一軒家。小さな庭から居間が見え。二階は常に窓がしめきられている。
メンバーは五人組。全員がシャドウルーカーらしい。
一人極めて高いレベルのシャドウルーカーがいるが、他のメンバーについては能力者レベル50程度が関の山だ。
ただ逃げることについてはかなりなれている、今回の事件で一網打尽にしてほしい。
・対処方法一例
こちらはあくまで事件を発生させなくするための対処方法です。
これ以外の作戦があればそちらを優先していただいて構いません。
4 残骸はH.O.P.E.に届くはずなので、届いた残骸を確認してみる。
5 監視カメラの映像とマップを繋ぎとめて彼女の行動範囲を確認。何が目的なのか推理してみる。
6 ヴィラン組織を的確に襲撃、無力化する。
● こちらの切り札。
現在、ガデンツァに対する最後の歌として曲を制作中ですが。
歌詞が足りません。
もしプレイングに文字が余っているのであれば。
歌『』と鍵カッコの中にキーワードを入れて乗せてください。
解説
目標 事件の被害を抑える。
原因を突き止める。
今回は前回予告していた六つの事件の残り三つを調査していただきます。
今回は特にガデンツァの痕跡が強く残る事件です。
さらに調査を始めた皆さんへの嫌がらせも含まれます。
十分身の安全は確保してください。
また今回はPLの皆さんには黒幕の情報を流しておきます。
うまく対処して逆に敵の情報を奪えると、きっと彼女が楽になるでしょう。
● 黒幕情報~~~~~~PL情報~~~~~~~~~~~
4 ガデンツァ
何らかの事件失敗の可能性あり。
5 人さらいのヴィラン組織
これは完全なる罠である。ロクトを調査しに現れたリンカーたちを人さらい専門のヴィランが襲う。
ヴィラン戦闘員は八名。全員が拳銃を所持しているが、近接武装は、ナイフや剣、槍と多岐にわたるためクラスや適性は皆バラバラ。
しかし能力者レベルは45、英雄のレベルも17程度なので、練度の高いリンカーならば負けることはないだろう。
ただし、連れ去られるとロクトに会える。
彼女は邪英化しておらず、まともに話せる状況である。
6 ヴィラングループ『ノブレス』
~~~~~~~~~~ここまで~~~~~~~~~~~~~~~
リプレイ
プロローグ
「各地で起きている事件の調査、か。真実の先には何が見えるのだろうな」
「それを見つけるのがボクらの仕事だよ、無月」
現地へ向かっていく仲間たちの背を見送りそう『無月(aa1531)』と『ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)』はつぶやいた。
終りの風を感じそっと目を閉じる。
今回の調査で何らかの結果が得られるようなそんな予感があった。
そんな二人を颯爽と追い抜く人物が一人『麻生 遊夜(aa0452)』の背を『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』が追う。
「孤児院を襲撃するとは、舐めた真似してくれるじゃねぇか」
「……ん、オシオキしないと」
そうユフォアリーヤは尻尾を揺らめかせて告げる。
そんなやる気満々な二人をなだめる『ヴァイオレット メタボリック(aa0584)』
「人数が少ない為、情報交換を密に行い情報共有でカバー出来る事はカバーするだ」
遊夜が敵視している人さらい集団に関するかもしれない組織の情報は前回得ている。
それについての情報はすべて共有済みだった。
「しかしタレコミか……」
「……ん、構成人数に能力、目的とアジト……丸裸だねぇ」
そうくすくすと笑うユフォアリーヤ。
「これだけの情報は嗾けた奴しかわかるまい……やはり彼女かね」
そう紫色のシルエットを思う遊夜。そんな遊夜に護送車ないから手をさしだす少女が一人。
「皆さんの足手まといにならないように頑張ります!」
『希月(aa5670)』が微笑む向こうで椅子に座り足を組む『ザラディア・エルドガッシュ(aa5670hero001)』が見える。
「ま、いつもどおりで行きましょうや」
その言葉で頭が冷えた遊夜はいつも通り穏やかにメンバーに微笑みを向けて見せる。しかし。
「しかし孤児院を襲う輩が『ノブレス』とは、随分と皮肉が効いてんな」
頭は冷たく、心は熱く。遊夜は告げると愛銃に弾丸を装填し護送車の扉を閉めた。
これから現地へ向かい作戦を実行する。
第一章 子供たちの未来を守る
狭い車内。孤児院からは見通せない森の中にとめられたそれはレーダーと衛星から常に孤児院を監視している。
その車内に『鬼灯 佐千子(aa2526)』はいた。
見取り図を広げ。そこに『リタ(aa2526hero001)』がピンをさしている。
ここがヴィラン対策本部である。
「良いな、サチコ。遠慮は無用。出来る事は全てやるぞ」
その言葉に頷く佐千子。そしてその護送車のハッチを開いて無月が合流した。
周囲に敵の痕跡が無いか確認してからの合流だ。
「罪なき子ども達を狙う行為、断じて許す事は出来ない。必ずや止める。そして、真実を見つけ出す」
「おや? 今回の調査に、君に似た名前の子がいるね?」
告げるジュネッサは空港で降りた少女の事を言ったのだ。
「幼馴染だ、妹のようにかわいがっていたが……彼女もH.O.P.E.に入っていたか」
「一緒に行かなくていいのかい?」
そう問いかけるジュネッサ、その言葉に無月はわずかに逡巡した後、か細く言葉を漏らした。
「不要だ。あの子ももう一人前なのだろう。今は唯、仲間と共に子供達を守る事、それに集中するだけだ」
そこに控えるメンバー全員を眺めて無月は告げる。
「今回の作戦指針は『孤児院で待ち伏せして挟撃、構成員を優先して撃破して数を減らす、逃げられた場合はアジトを強襲して確保』と言う流れで行く」
その言葉に全員が頷いた。
ヴァイオレットからの警告もある。
ノブリスのアジトが偽情報や罠の可能性。彼らが自害やアジトに侵入をさせ突入班を一網打尽にしようとする可能性。
リークされた情報に素直に従うべきではないかもしれない。
「もうちょい人手がありゃ別の手もあったんだが」
そう人員と配置を見ながら遊夜は溜息をついた。
「……ん、他にも事件は……いっぱい、仕方ない」
かの愚神も手広くやっているらしい。それに対抗するためにはと考えるとこうせざるおえないのだ。
「ここまでの準備に対して再度確認をしたいわ」
そう佐千子が告げる。
先ずは襲撃者のルート特定。
「背後に森が広がっている、ここから接近してくる可能性が高い、そこで灯りや監視カメラの位置を調整、一部無力化することで侵入経路を誘導」
さらには孤児院側で特定の窓の鍵だけを”閉め忘れ”させた。
さらに数日前から職員による見回りの経路や時間帯を固定している。
次いで敵の撤退ルートの想定。
「ここから離れた場所に川があった」
無月が報告する。
川から離脱するルートも考えられるが、それ以外であればこの森林を抜けていくルートしかないと考えられた。
「この森内部で警戒を続けるわ」
佐千子の指示によって常にモスケールは起動されている。
あとは後退で周辺警戒をするだけだ。
「警戒は万全か……」
遊夜がつぶやいた。車両自体は迷彩が施されている。そう簡単に見つかりはしない。
「だったら俺は孤児院内から目を配らせておく。あんたらも来るか?」
頷いたのは無月。
「了解したわ。動きがあり次第連絡する。無線機の電源は切らないで」
頷くと、遊夜は護送車をおり共鳴姿を変更。
後ろ髪をポニーにまとめたユフォアリーヤ姿で孤児院に潜伏した。
イメージプロジェクターで尻尾と耳は隠し、子供達の輪に混ざる。
その裏で遊夜は他の保母さん達に協力を願い子供達の誘導を要請した。
モスケールでの警戒は常に続いている。
子供達をはぐれたり1人にしないよう遊ばせながら常に、遊夜自身が矢面に立てる位置を維持。
やがて夜がくれば子供たちを手っ取り早く寝かしつけた。
森がやけに静かだ。殺気を感じ取った小動物たちが息をひそめている。
それを感じ取った遊夜は無月を顔を見合わせ頷いて無月に通信を任せる。
遊夜は寝付けない子供たちを奥の部屋へと誘導した。
「……ん、お菓子の時間……だよー」
「いい子にしているように、そうしたらお菓子をあげよう」
無月の言葉に子供たちは歓声をあげるとがらんどうになった一階へ二人は降りていく。
月が明るい夜だった。
闇を纏ったような男たち、その眼前に立ちはだかる保母風の女性。
「……ん、あら……この孤児院に、何か御用?」
そう首をかくりと揺らしたユフォアリーヤ、次の瞬間敵が襲いかかってくる前に。左手のフラッシュバンを放った。
それが反撃ののろしである。
まず無月が動いた。
敵の数を確認。三人、リークされた数より少ない。
「こちらは人手が少ない、まずは敵の優位を潰す」
「……ん、あの人は強い……後回し」
だがまずは無力化が第一。こちらは数で劣っている、先手を取って敵の数を減らしたかった。
そして無月は霊力の糸で敵を縛り上げる。女郎蜘蛛だ。
その隙に二人は散開するが、二度雲の切れ間から月が覗いた時、雷のような轟音と共に男が一人地面にころがった。太ももを撃たれ痛みに耐えかね転げまわっている。残るメンバーも背中を打たれのけぞっている。
すかさずもう一人を遊夜は牽制、体勢を立て直した無月がその手の刃で切り付けた。
霊力の痕跡をなすりつけるように。
「……さて、後悔してもらおうか」
くすくすとユフォアリーヤの笑い声が響く、その姿が遊夜に変わっていく。
すると遊夜は容赦なくトリオで三人のリンカーを撃つ。その射撃は暗がりでも敵を外すことなく四肢を打ち抜いていった。
命に係わることなく敵を無力化できる、最適の戦略である。
44マグナムの威力は尋常ではない、一般人相手の仕事ばかりでリンカー戦に乏しいヴィランズ達がこのダメージに耐えられるわけもなかった。
反撃に出ようとしても佐千子が遠隔地からヴィランズを狙っている、振り上げる武装も拳銃もすべて叩き落とされ、絶望の淵に立たされたヴィランズ達へ遊夜が……。
追撃のバレットストーム。
その場で逃亡の意志をみせるものはいなくなった。
「そちらはどうだ」
佐千子は森の木の上に鎮座していた。細い枝だというのに器用にバランスをとっている。
装備はドラグノフ。
孤児院内の敵を打ち抜いていく。
「悪いけれど、遠慮なんてしないわよ」
残りのメンバーは逃走を図っている。
すでに射程圏外……そう思われては困る。
木々を伝って走るヴィランズの足を、佐千子は見事狙撃した。
ロングショット。
常人にはありえない曲芸じみた射撃能力にて、一人の人間の足を着弾の反動で巻き上げると、その人物は回転しながら森の中に落ちていく。
だが一人には逃げられてしまった。
「想定内だけどね」
カメラで撮る事で情報を集めていると匂わせている。敵は【襲撃は察知されたがまだアジトはバレてない】と思っているはずだ。
だが甘い。先回りする。
「バイクに乗り換えて追うわ」
佐千子は木の葉の敷き詰められた地面に降りるとその銃を幻想蝶にしまい込む。
「俺はこいつらの面倒を見る」
告げると遊夜は孤児院内のヴィランズを縛り上げ、森の中で寝ているヴィランズに歩み寄る、ショットガンを肩に担いで、少しでも動こうものなら撃つと警告した。
「さぁ、お縄の時間だ」
――……ん、大人しく……情報を吐いて、ね。
佐千子は現場をまかせ、イメージプロジェクターで隠されていたバイクに乗って陸路から敵のアジトを目指して移動を開始した。
その男は震えていた。
あっという間に仲間四人がやられ、収穫も無しに逃げ帰った。
こんなことは初めてだ。まるで自分たちの襲撃を察知していたと言わんばかりの状況。
「あいつ、あいつ、俺達を売りやがったのか」
幸い自分が生きていればチームの立て直しは可能だ。
そう思い直して腰のナイフを抜き放つ。失敗はしたが終わりではない。
そうブラインド越しに外を眺めるとそこに女が立っていた。
闇にまぎれるようなボディースーツ。あれではまるで同業者だ。
「おいおい、うそだろ」
次の瞬間。その人物は壁に足をかけ屋根に飛びつき上り、そして窓から突っ込んできた。
武装は閉所を考慮したナイフ。無月は雷切で挑む。
狭い室内に高速で衝突しあう刃の火花が何度も待って散る。
実力はすべてにおいて一段階無月が上。と言ったところだろうか。
だが圧倒的実力差ではない。しかも無月は連戦だ。逃げられるそう思った。
射線も遮るように室内で動けている、これなら。
そう思った。
だが甘かった。
無月が引いた。
投げ込まれたのは爆導索。
「うそだろ」
二階が大爆発に見舞われた。
その爆発を合図に佐千子は一回から突入。扉も壁も火竜で食い破り、そして突入。
爆発の中朦朧とした意識で逃げ道を探していたヴィランの膝を蹴って取り押さえると、無月が戻ってきた。
アジト内部のパソコンや資料を片っ端から押収していく。
「制圧完了。意外とちょろかったわね」
「ここを任せたい」
佐千子がヴィランズを縛り上げると無月はそう申し出た。
「どうしたの?」
「一度孤児院に戻り子どもたちを安心させたいんだ、その後襲撃をリークしてくれた相手についても出来るだけ調べてみたい」
その申し出に頷くと、無月は迎えの車に乗って手近な資料を読み漁る。
それは仕事の依頼書。本来このような資料は紙では残さないものだ。残しても暗号を用いる。
なのでその手の資料は期待していなかった。
だから無月が目をつけたのは何気ない走り書きの、あと。
雑誌の上に鉛筆を薄く走らせる、炭素をこすりつけるように、浮かび上がった文字はアルファベット三文字TRV。である。
ただ、そんなことはわかっている。重要なことではない。
「まだほかに、なにか」
無月は資料をひも解くことに没頭し始める。
第二章 痕跡
今回の依頼メンバーの三分の一はグロリア社に向かった。
そこでは街中で確認されたロクトの痕跡を追っている。
『榊原・沙耶(aa1188)』は朝から晩まで記録映像に目を通していた。この町全域でとられた監視カメラの映像すべてに、見落としが無いか。
ロクトをガデンツァの元に合流させたのを止められなかった、それを追い目に感じているのか、何か気になることがあるのか、沙耶はその作業に没頭していた。
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』がお茶を出す。本来カフェインはあまりとらせたくはなかったのだが、沙耶のたっての願いだった。
「ここまで労力をかける必要はあるの?」
その言葉に沙耶は頷く。
「あからさま過ぎて罠の可能性が濃厚なんでしょうけど、せっかくの痕跡だしね」
その言葉に頷いたのはヴァイオレットである。
「罠なのでねぇか」
その可能性は高い、満場一致での回答だ。
ロクトらしき影が映っている映像の観察は続く。
不自然な行動、不審な視線など怪しい行動などないか、探る。
それに加味して、この事件全体に関わっている人さらい、というキーワードに着目してみる。
罠だとするなら、敵はこちらの何を求めているのだろう。
データをくまなく調べ真偽を確かめる、監視カメラの映像ですら改変されている可能性はある。
どの情報も鵜呑みにはできない。
「ロクトさんどうしちゃったのかしら」
最後の光景がよみがえる。彼女の悲しそうな瞳の色は初めて見た。
「ただ、人さらいのヴィランと手を組んでいたとなると、いよいよ立場が危うくなってくるわねぇ……」
そして監視カメラ内に新たな痕跡を見つけるとそれを地図に書き込んでいく。
その情報を元に『斉加 理夢琉(aa0783)』と希月が状況を分析した。
ロクトの現れた場所、そして時間。
「探索はもちろんそれらを参考にしますが、真意はどうあれロクト様はカデンツァ様に寝返ったという形なので……あまり人が多い所やカメラが有る所に現れたくはないかもしれません」
そう希月が告げると、裏切ったというワードに傷ついたような表情を浮かべた理夢琉を気遣った。
「すみません」
「それだとカメラに写ったのが少し不自然じゃねぇですかねぇ。グロリア社付近なんで勝手知ったる場所だろうにカメラに気づかなかった、ってのはねぇ」
告げたのはザラディア、様々な憶測だけが積み上がっていく、決定的な動きはない。
改めて希月は監視カメラのない場所を調べ始める。
そんな理夢琉の頭を『アリュー(aa0783hero001)』がガシガシと撫でた。
「うみゃー」
不意打ちだったために変な声が漏れる理夢琉である。
「なにしてるの?」
そんな調査本部に遙華が合流した。
「遙華……来たな」
アリューが席を明けると、そこに座る遙華。
ロクトが写っている部分のみ抜き出した映像を遙華に見せる理夢琉。
「心中複雑なのはわかるがロクトの事を一番知っているのは遥華だからな」
「そうね、私ももう一度彼女に会いたい」
「遙華、ライブの時の話だが」
アリューは重たい口を開く話すか迷っていた出来事。前回の事件の内容を洗いざらい告白した。
「駆けつけて話をしたかったはずだよね」
告げる理夢琉。
「でもライブを成功させる為には共鳴しないといけなくて……行けなくて」
「あなた達のせいではない、それに引きこもっている私が癒えたことではないしね」
そんな遙華の言葉を聞きながらアリューが両手を握る。
あの時感じたチリチリとした、そう……焦りのような感情を理夢琉は隣のアリューから感じる。
「こっちは私に任せて、行くんでしょ?」
その言葉にアリューは顔をあげた、理夢琉を凝視する。
「俺は行く、今度こそ彼女を連れ帰る」
「後から追いつくね、気をつけて」
「まちなさぁい」
そう声をあげたのは沙耶。理夢琉を目の前に座らせて腕まくりをさせる。
「体内を血液と一緒に巡回するナノマシーンよ。三日で排出されちゃうけど、位置情報を発信し続けてくれるわぁ」
そうやたら太い注射針を突き立てれらる理夢琉。
「これなら血液を全部取り替えられない限りは除去されないわ」
当然沙耶の体にもそのナノマシーンは埋め込んである。
受信機は澄香たちに託した。
「虎穴に入らずば……ってところねぁ。私たちも行くわ」
この場ではろくな情報が手に入りそうにない、であれば、現地調査に赴くのは当然のことだ。
* *
一行はTRVの噂を探ると言う体で行動を開始した。ロクトの出現情報があった個所を重点的に。
そしてその時はすんなり訪れた。
突如希月が呼び止められ素早く路地裏へ。
残るメンバーもそれを追って路地裏に入る。
希月は壁に叩きつけられると男の顔を見る。やはりマスクで人相は割れない。
その男が何かスプレーのようなものを取り出したので其れを跳ねのけた。
「こいつ、リンカーか?」
男が呻いた。
その隙に希月はAGWをぬく。
――おい、希月!!
「いつまでもザラディア様に頼る訳には行きません!」
そう果敢に男に切りかかるが背後から奇襲。
敵は二人いたのだ。
「大人しくしろや!」
鈍器で殴られ意識が沈む希月。
共鳴がとかれザラディアが地面に転がった。
「大人しくしろ、御仲間も一緒だ。助けはこねぇ」
そう暗がりから浮上してきたのは後ろ手に縛られた沙耶。
「捕まっちゃったわぁ」
ヴァイオレットや理夢琉も捕縛され、猿轡と目隠しをされる。
だがこれはあくまでも作戦。
ロクトに接触し事の真相、これからの事を聞き出すことが目的だ。
しかし実際この件にロクトが関わっているかどうかはわからない。
これは賭けである。
そして運ばれたリンカーたちは冷たい地下室に転がされることになる。
「畜生! 希月様を放しやがれ!」
声をあげるザラディア。共鳴を阻害する腕輪に阻まれ希月に力を与えることはできない。
「たとえ何をされようと、絶対に心までは屈しません! 弱い小娘だからと甘く見ないで下さい!」
その言葉をせせら笑うと男たちは重たい扉を閉める音共に地下室から姿を消した。
その地下室がどこにあるか分からないが沙耶は告げる。
「移動時間をみて、TRVの事務所は監禁場所候補に入るわね」
そう壁に背を預けて天井を見た。足音が聞える、あとは扉のしまる音。
そしてその足音は地下の扉を押し開きそして。
「あなた達、正気?」
紫色の髪がふわりと揺れた。
そこに立っていたのは、もう何週間あっていないのだろう。
遙華の後ろに佇む秘書の姿。
「初めてお会いしますね、私は希月と申します。貴女がロクト様ですね」
「どうやらまだ邪英化はしてねぇようですな」
希月はそう言葉をかける。
ロクト。消えてしまったかつての仲間がそこにいた。
「聞いてもよいかの?」
途惑う一行に変わりヴァイオレットが口火を開いた。
「なぜここに?」
「ガデンツァの施設だからよ」
「なぜ人をさらう?」
「心を実験のため、体はルネの生産のために」
「最近巻き起こる事件はすべて繋がっておるのかの?」
「その前に一つ覚えておいてほしいのが。あなた達は私に会いに来るべきではなかったという事」
ロクトが強い口調で言った。
「あなた達を逃がすために私はリソースを使わざるおえないのよ、それは今後の展開に影響する」
「いえ、こうやって会うことは必要だったわ」
沙耶は告げる。
「だって伝えることができるんだもの。彼女の成長を」
「彼女?」
「遙華さんはあなたを切り捨てるように会社に言われた時、あなたとの絆を持ち続ける選択を下したわぁ。苦しみながら、自分の意志で決めたの。それは貴方の望む彼女の成長ではないの?」
「全く、バカな子、私が居たら叱ってあげるのに。そんなこと一銭の利益にもなりはしないって」
その時沙耶は見た。言葉とは裏腹に微笑むロクトの表情。
「ロクト様、貴女がH.O.P.E.と袂を分かった理由は今は問いません。報告書で裏切りが本意ではない事はわかっていますから」
告げる希月の言葉にロクトは表情を引き締める。
「一つだけ教えて下さい。貴女は遙華様を今でも好きですか? 大切な人だと思っていますか?」
「コメントは控えさせていただくわ」
「……約束して下さい。決して邪英化はしない、と言う事を。貴女の苦しみは皆さんが必ず取り除いてくれます。必ず貴女と遙華様が笑顔で過ごせる日々を取り戻してくれますから」
「ひょっとして気遣いに来てくれたの? お見舞い気分、お人よしもここまで来ると罪ね」
「絶対に戻って来てもらいます!」
理夢琉は鉄格子に歩み寄りロクトへ声を叩きつけた。
「ロクト成分が不足だーって言ってるアリューの為にもね」
「いいことを教えてあげる、理夢琉さん。一を得るためには一を捨てないといけないのが大人の世界よ」
告げるとロクトは鉄格子の扉を開き全員を表に出す。
「逃がしてくれるの?」
理夢琉が問いかけた。
「もしここでゲームオーバーだったらどうするつもりだったの?」
「命を賭け金にするなんて狂っているとあなたは思うかしら?」
沙耶が問いかけると、ロクトは首を振って背後の壁のボタンを触った。
すると壁が裂け両脇に引かれていく。隠し扉だ。その向こうに梯子が見える。
「いいえ、私も同じことをしているしね」
全員をその梯子の間に通すと壁が閉まっていく、ロクトが向こう側に消えていく。
「希望を捨てないでください! 絶対助けに来ますから」
告げる希月。
その言葉にロクトは儚げに微笑んだ。
第三章 そして再びまみえる時
『魅霊(aa1456)』はオイルのしみだした海をただ眺めている。
てかてかと七色に輝きを返す黒い海。
『蔵李 澄香(aa0010)』は石油プラントに疑惑の目を向けた。
大津波は海中拠点の建材確保の可能性があり、現場の責任者と情報共有しようと現地に訪れる。そこで真っ先に目に入ったのがひしゃげたフレームだった。
「これはどういう事?」
まるで何かに衝突されたかのようにプラントの外郭フレームが円状に歪んでいる。
クジラにでもタックルされたのかという規模でだ。
澄香はすかさず『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』と共鳴。
マナチェイサーで霊力の痕跡を探る、するとここからやや離れた水辺にいく本もの霊力の糸が落ちているのが見えた。
「グロリア社の地下水道、アメリカの地下水道。それと同じ反応がある。世界各地から霊力を転送していたの?」
「澄香姉さん、これ」
魅霊の本能が警鐘を鳴らす、その頭の中でパズルが組み上がっていく。
南アメリカの地下水路。グロリア社地下、南米地下、そして今回の依頼に於ける海上……。
それだけではない。全世界主だった海上都市で霊力が観測されている。
上海以外の世界中、複数都市で。
そしてその霊力のつながりの先がここなら。
「姉さん一度退避しましょう」
その言葉に首を振って澄香はダイブする準備を整える。マーメイドドライブを装備、水中でのふりをかき消す。
「本当に見るべきものは海中にあるよ」
澄香はマナチェイサーによる調査を行うべく高性能海中カメラを持ち、海中調査を行う。
しかし、その探索は早々に打ち切られてしまうことになった。
潜れないのだ。壁があり先に進めないような感覚。
間違いない。
「ガデンツァ!」
反射的に攻撃を放った。その霊力の塊が水の中に輪郭を浮かび上がらせる、滑らかな肌のまるで船体のような。
次の瞬間、空から水の柱が澄香に突き刺さるようにふってきた。
甲高い音が水の中でも耳に届く、アクアレル・スプラッシュ。
ガデンツァのスキルである。
澄香は歯噛みして身をくねらせた、海上では自分を助けようと魅霊がガデンツァと戦っているのだろう。
だが、たった一人で相手取るなんて無理だ。
その時海上に何かが落下してきた。
「魅霊ちゃん!」
水から手を伸ばすと、アサルトユニットで高速移動する魅霊がその手を取って澄香を引き上げた。高速で魅霊は海上を移動。あの場所から離れる。
「ガデンツァは?」
「姿は見せていません。けれど」
霊力が膨れ上がっていた。同時に空間から溶け出すように何かのシルエットが姿を現す。
その直後、天から雲を裂くように霊力の柱が下りてきた。
其れを吸収するように、その物体は実体化の速度を食めていく。
その姿を澄香は見たことがあった。
「ARK?」
H.O.P.E.東京海上支部の一機能、迎撃戦艦ARK。
それと酷似したものがそこにあった。
「魅霊ちゃん捕まって」
「はい」
「これ以上は危険すぎる」
澄香はブルームフレアの爆発力を推進力に変えその場からすぐに撤退する。
少し遅れてルネらしきシルエットが海上に溢れ出すが。
間一髪というところだった。
「撤退の準備をしていなければ」
囚われていた。そう後に続く言葉をかみ砕く魅霊。
どうやら、彼女は最終決戦の場に海を御所望のようだった。