本部

禁じられたイノベーション

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/08/02 20:36

掲示板

オープニング

●科学倫理を乗り越えて
『アイアンレッドに引き続きだけれど……あのヴィラン達もひとまず集中治療室行きだね。アイアンパンク技術の中でも、循環系をまるっと補うシステムはまだ手探りな部分も多くて、すぐに治療ってわけにはいかない』
『補うための電力も足りないねー。背中にごついバッテリーを一生背負い続けるなら話は別だけど』
 澪河 青藍(az0063)の英雄二人、ウォルター・ドルイット(az0063hero001)とテラス(az0063hero002)は口々に報告する。青藍は顔を顰め、報告書の用紙に万年筆を走らせる。
「馬鹿だな。“たったの”10万ドルじゃないか、これじゃ」
「1億行かないくらいで8人分検体が用意できるんなら安いもんだろうね。奴さんは捗ったっしょ」
 仁科 恭佳(az0091)は研究班への報告データを取りまとめている。パソコンの明りに照らされ、彼女の眼鏡は白く光っている。
「……どうしてこんな実験をするんだろう」
『リオ・ベルデが怪しいという話は聞く。もしRGWドライブの研究に、本当にリオ・ベルデという国が一枚噛んでいるのだとしたら……リンカーという不確定要素の強い人的資源に頼らない、安定した戦力の確保を志向している可能性は高いね』
「まあ、そりゃそうだろうけど。そうじゃなくてさ……」
 青藍はちらりと恭佳を見る。彼女はエンターキーを高らかに叩くと、鼻先までずり落ちてきた眼鏡を指の腹で持ち上げる。
「どうして、人の命を危険に晒して、取り返しのつかないような実験を繰り返す事が出来るのか」


 山小屋の暗い一室の中、アイマスクを付けた男と一人の青年が向かい合っている。アイマスクの男は白杖を握りしめ、白衣を着た青年に尋ねた。
「何故、そんな実験をしているんだ?」
「決まっているでしょう」


 恭佳は白い歯を剥き出し、凶悪犯のような面をして応える。
「興味だよ。自分の理論を世界に問いかけたいって興味。きっと、お金を積まれたわけじゃない。命令を受けたわけでもない。……自分で一線を踏み越えたから、出来るんだ」

●罪と罰とを乗り越えて
『アイアンパンクの限界……か』
「現在の改造限界は一般的に40%。それ以上は基本的に行われない。電源の確保もあるが……やはり倫理協定的な面も大きいだろうな」
 白い壁と白い照明に包まれた空間。相変わらず黒いアイマスクを付けた男――下野平祐は用意されたベッドに腰掛けていた。扉の傍では、鷹のような眼を持つ青年が扉の外をちらちらと窺っている。
『それを乗り越えるために……我々のような“何者でもない者”を集めているわけか』
 平祐は小さく俯く。彼はかつて、愚神に操られて都市を襲った。罪を犯したのは愚神の精神汚染によるものであっても、罪を犯したいという意志を持ったのには違いない。よって彼は執行猶予付きの処分となり、世間の目を逃れて隠遁する事になったのだ。
「“何者でもない者”か。……良かったのか? お前はそうならない道もあっただろ」
『それがロクな事にならないのはよく判った。……お前は俺の相方なのだから、黙って一緒にいればいい』
「……そうか」
 足音が聞こえる。平祐は静かに立ち上がった。口元に僅か笑みを浮かべ、青年へと歩み寄っていく。
「なら……もう一度一緒に、“何者か”になろう」
 二人の身体が融け合う。黒い包帯で目元を巻き、二挺の拳銃を構えた銃士。扉が開かれた瞬間、彼は音のする方角へ向けて足を蹴りだした。

●任務開始
「改めて今回の任務について確認します。フリークスへの改造が行われていると思しき座標の捜索です」
 輸送ヘリに乗ったリンカー達は、スピーカーから流れる恭佳の声に耳を傾けていた。
「この座標はH.O.P.E.に以前所属していたリンカー、下野平祐による囮捜査によってもたらされました。これより独自に脱出の準備を進めるとの事ですが、可能ならばこれに合流し、彼の援護をしてください」
 君達も持っている情報端末にデータが送られる。開くと、そこには建造物内部の構造図が映し出されていた。廊下も少ない、平屋のシンプルなデザインだ。その中の部屋に幾つかの印がつけられていく。
「可能ならばカメラで内部の様子を撮影し、こちらに転送してください。必要があればこちらから指示を送ります。義肢パーツなどもあれば、これを回収していただけると助かります」
「降下準備完了」
 パイロットの声が響く。リンカー達は素早く立ち上がると、開かれたハッチからロープを使って一気に飛び降りていく。最後に降り立った青藍は、傍の岩陰に身を隠す。
「私は退却地点を保全しておきます。どうかご無事で戻ってください」
 ブルパップのアサルトライフルを構え、青藍は研究所から飛び出してきた謎の機械に向かって大量の銃弾を叩き込んだ。機械は不意打ちを受けてひっくり返る。リンカー達は視線を交わすと、一斉に研究所へ向かって飛び出した。


「……やれやれ。ここが突き止められてしまったか」

「まあいいや。……データが取れると前向きに捉えておこう」



メイン フリークス製造拠点の探索を行う(①~③の調査を行って完了となる)
サブ 下野平祐と合流し、共に脱出する

フィールド
4□←■■■■■■■■
□★←□□□■□□□■
↑■■□1□⇔□2□■
□3←□□□■□□□■
□□■■■■■■■■■
         ↑
         ☆
☆…スタート地点
★…下野
■…廊下
←…矢印方向に扉有り
1…研究室1。主に此方で人体実験などは行われていた。(義肢など回収できる)
2…研究室2。二足歩行機械が数体設置。進入したら動き出す。(機械従魔×4と遭遇)
3…データルーム。サーバーが存在し研究データなどが収められている。(プレイングによってデータ取得可能)
4…幾つかの部屋。被験者が置かれていた様子。(下野と合流)


TIPS
・既に研究員は脱出している。残っているのは警備員のみ。
・データ端末からデータを抜き取る事は不可能ではないが、対策はされている。
・後の調査の為に研究所を残しておくか、再利用を防ぐために爆破してしまうかは自由。

解説

ENENY
フリークスγ×8
全身の50-70%の改造を受けたアイアンパンク。胸に埋め込まれたRGWドライブから従魔のライヴスを引き出す事で、リンカーに対しての攻撃力を獲得した。
脅威度 デクリオ級相当
ステータス 物攻・移動A、その他は平凡
スキル
ショットガン
ライヴスにより精製した弾丸を放つ。
[射程1-20、物理。隣接sqへの攻撃時、命中+100]
ショックブレード
ライヴスを敵に流し込み、身体機能を混乱させる。
[近接、物理。命中時、BS衝撃を与える。"人間"以外には威力半減]
パルスグレネード×1
ライヴスを用いた疑似的な電磁パルスを引き起こすグレネード。巻き込まれると暫くAGWが異常を起こす。
[射程1-10、範囲1、物理。回避不可。命中時、装備中の武器が3R使用不可能になる。また、アイアンパンクは10+1D3のダメージを受ける。]

機械従魔×6
二足歩行の機械に憑依した従魔。自律行動は出来るが、ひたすら眼の前を撃ち続けるだけの模様。
脅威度 デクリオ級
ステータス 物防・生命A、その他は平凡
スキル
ミニガン
ライヴスにより精製した弾丸をばら撒く。
[射程1-30、物理]
特性
無差別攻撃
[最も近い存在を優先して攻撃する]

NPC
下野平祐&スクワイア
元エージェント。任務中に脳挫傷を負い、視覚に重い障害が残った。その後起こした事件もあり、H.O.P.E.の監視下で隠棲していた。
クラス 命中ジャックポット(50/35)
スキル
威嚇射撃 妨害射撃 フラッシュバン
特徴
視覚障害
後遺症のために視野が歪んでいる。この為優秀なスナイパーであった彼は一線を退く事になった。
[パッシブスキルを装備できない]

澪河青藍(回避カオ67/30)
脱出ポイントの防衛役。施設内部には入らない。

仁科恭佳(命中ジャ45/27)
オペレーター。カメラなどを持ち込んでおけば外部から指示してくれる。

リプレイ

●鉄と鋼
――任務開始前――
「仁科。幾つか確認したいことがあるんだが」
 ブリーフィングを終える寸前、赤城 龍哉(aa0090)は恭佳に尋ねる。
「研究所内からデータを回収する上で、幾つか必要な機材を用意できるか?」
「ああ、そうでしたね。渡しときます。無事にサーバを確保出来たら連絡してください」
 恭佳はポケットに手を突っ込むと、何かの端末を龍哉に放って寄越す。それを大事に幻想蝶へ収めた龍哉は、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)と顔を見合わせる。
「悪の秘密研究所なら自爆も辞さない、なんて事はあるのかね」
『再利用する価値が既に無いなら、有り得ない事ではありませんわね』
「残った連中がただの捨て駒かどうか次第、ってとこか」
 恭佳は肩を竦める。
「そこまで心配する事は無いでしょう。……今は、ですが」
 彼らのやり取りを遠目に見つめていた月鏡 由利菜(aa0873)は、沈痛な面持ちで胸元に手を当てる。自業自得とはいえ、改造を受けてしまった者達の姿は痛ましい。
「今もフリークスγの生産が続けられているなんて。これ以上、あんな事は……」
『今回はあたしが行くよ。アンジュちゃんとメディック二人体制なら、回復スキルにも余裕が出来るでしょ?』
 ウィリディス(aa0873hero002)は、由利菜を励ますように声を張る。由利菜は深呼吸すると、静かに頷いた。
「ええ、そうしましょう」

――現在――
『(杏奈。これから怖いところに行くの?)』
 セレナ(aa3447hero002)は世良 杏奈(aa3447)に尋ねる。その呟きからは、不安げな色がありありと伝わってきた。戦いは好みではないと聞いていた杏奈は、子どもを宥めるように呟く。
「そうね。良いところとはとても言えない場所よ。無理して見ないでいいからね、セレナ」
『(うん)』
 セレナは呟き、意識の底へと潜っていく。同時に、杏奈は幻想蝶から二挺の拳銃を取り出した。片や黒、片や白。天から降り注ぐ月光を浴びて怪しく輝く。杏奈は唇を歪めると、怪しく笑い始める。
「……ふふふ。これがやりたかったんだよ!」
 狂喜して叫ぶと、彼女は青藍が撃った機械従魔に向かって追撃を叩き込む。強烈な魔法で装甲が砕け散り、従魔はそのままひっくり返った。
 彼女の横を抜けるように、泉 杏樹(aa0045)は扇を片手に走る。
「下野さんが、立ち直って、また戦おうとしてくれるの、嬉しいの」
 彼とは一瞬の出来事とはいえ、浅からぬ繋がりがあった。榊 守(aa0045hero001)と共に、愚神に支配され暴走する彼を止めたのである。
『あの時は正常な精神状態ではありませんでしたから、御嬢様の事を憶えていらっしゃらないかもしれませんが』
「それでも、ムラサキカガミさんが、救いたかった方が、前向きに生きている。それが嬉しいの」
 カメラは耳元に留めてある。暗闇をライトで照らしながら、研究所の外観を恭佳の下へ送っていた。
[入口の強度はそこまでではなさそうです。破壊してみてください]
「それが一番早そうね」
 通信に応えた鬼灯 佐千子(aa2526)は、真っ先に飛び出しサブマシンガンを構える。素早く引き金を引くと、弾丸は扉を貫き、板金を歪めた。
 佐千子の横をすり抜け、八朔 カゲリ(aa0098)は黒焔に包まれた剣を抜く。固く閉ざされた入り口に歩み寄ると、息を整え鋭い袈裟斬りを見舞う。色鮮やかな光を纏った刃は、傷ついた扉を易々と叩き壊した。左手にライトを取ると、彼は真っ先に研究所へ足を踏み入れる。周囲を見渡すと、廊下の彼方で銃声や喧騒が聞こえてきた。
『フリークス……どうやら随分と根が深そうだなぁ』
 ナラカ(aa0098hero001)はあっけらかんとした口調で言う。先のゴロツキこそ内心で呆れながら捻じ伏せたが、その技術を作り上げた人間には興味があった。
『どうあれ、その技術を生み出すに費やした努力と熱意は評価せねばなるまい』
 言いつつ、ナラカはその意識を傍で駆ける仲間の方へも振り分けた。人の道を外れ、人の命を踏み躙る所業。禁じられた遊びを前にして、彼らはどう動くのか、興味は尽きない。
 彼女に観察されているとは知らず、御童 紗希(aa0339)と共鳴したカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は背負ったモスケールを起動させる。蝶の鱗粉のように、ライヴスの光が舞った。
『少し反応は鈍いが……』
「居る場所は判るね」
 ゴーグル越しに、敵影をぼんやりと視認する。カイは走り出すと、幻想蝶からロケットアンカー砲を取り出した。肩に担ぐと、研究所の屋根、その欄干に向けてアンカーを撃ち込む。そのままカイは鎖を伝い、屋根の上に辿り着いた。壁の裏に突っ立っていた機械従魔が、カイの姿を捉える。人型の上半身に、肉食竜のような下半身。その手にミニガンを構え、従魔はいきなり屋上へと跳び上がる。
『飛んで火に入る夏の虫ってな!』
 カイは素早くヘパイストスを取り出すと、そのまま両手でぶら下げ引き金を引く。エンジンの駆動音と共に弾丸が乱れ飛び、ロボットの外殻を引き千切った。
 屋上の銃声を聞きながら、桜小路 國光(aa4046)は仲間に続いて研究所内部に足を踏み入れる。スマートフォンを照明代わりに、彼は周囲を照らす。板金で覆われた壁や床、天井は無機質な雰囲気を漂わせている。
『(生命感がないのです……)』
 メテオバイザー(aa4046hero001)はぽつりと呟く。研究所の彼方から、乾いた銃声が響いた。國光は双剣を片方抜くと、廊下へと駆け出した。

●Enemy Terrytory
『躊躇は仲間を殺す。良いな?』
「OK、いつも通り。遠慮はナシ」
 リタ(aa2526hero001)の言葉に頷くと、佐千子は深紅の髪を靡かせ飛び出す。暗闇の向こう側から、二人のフリークスが飛び出してきた。彼らは咄嗟に佐千子へ銃を向けるが、引き金を引く前に佐千子は肩からフリークスへと突っ込んだ。腕を掴んで捻り上げ、一体を地面に投げ倒す。左手は兵士の腕を掴んだまま、右手に持った拳銃でフリークスの肩や脚に銃弾を撃ち込み、関節を破壊する。
 柱の陰に隠れたもう一体がグレネードを投げ込んでくる。弾けた蒼光が、佐千子の身体を包み込んだ。四肢のパーツから火花が散るが、佐千子は構わず兵士へと飛び込んだ。“刹那”のナイフを振り抜き、兵士の腕をまるでアルミ箔のように切り裂く。オイルが噴き出し、義手がガタリと地面に落ちた。佐千子は叫んで振り返る。
「行って!」
「ああ。ここは頼んだぜ」
 龍哉は手鏡を曲がり角の奥に差し出す。味方が散らばっているおかげか、そこには誰もいなかった。素早く飛び出すと、大剣を振るって部屋の扉を叩き壊す。
「こいつは……」
 ライトで中を照らすと、カイが出会った機械従魔と同じものが四体、無数のケーブルに繋がれていた。
「ロボットか。見たところ……外に飛び出してきた奴と同じだな」
 影俐はロボットに向かって静かに剣を構える。同時にロボットの全身が光を帯びた。
「Forigi……」
 ケーブルが一瞬にして外れる。ロボットは首を擡げると、部屋の前の龍哉達に向けてミニガンを乱射する。龍哉は咄嗟に飛び退くと、そのまま弓を引いて一体の頭部を矢で射抜く。強烈な一撃で首は弾け飛び、火花を周囲に散らした。
 首を失った機械は、突っ立ったまま正面にひたすら銃弾をばら撒き続けた。壁が抉れ、中の配線が剥き出しになる。
「これだけ弾をばら撒くってことは」
『重要なものは余り無さそうですわね』
 龍哉は弓を仕舞うと、“皇羅”の籠手を取り出す。飛び交う銃弾を掻い潜り、機械の腰をその爪で引き裂いた。半身が千切れ、オイルを撒き散らしながら機械は倒れる。
『この従魔は……ただの機械に憑りついてるんだね?』
「その様ですね。ならば遠慮はいりませんか……」
 由利菜は槍を手に取ると、機械の足下目掛けて穂先を払った。風のように鋭い一撃は従魔の右脚を砕き、その場へ横倒しにした。
 刹那、さらに影俐が飛び出す。わざと従魔に自らを狙わせるようにしながら、弾丸の雨をすり抜け機械の懐へと潜り込む。撃ち抜かれた壁が抉れ、表面のプレートが剥がれた。
「威力だけはあるらしいな。……このままでは不必要にここを破壊する羽目になるか」
『どうあれ早々に討ち果たすのみだ』
 影俐は素早く踏み込むと、刃に纏わせた黒焔を従魔に叩きつける。外殻が融け、内部の骨格が剥き出しになった。更に切り返すと、骨格の隙に剣を差し込む。火花が散り、機械はその場で崩れ落ちた。
「La Malamiko!」
 背後で鋭い叫び声。同時に蒼く輝くグレネードが投げ込まれる。次の瞬間には蒼白い光が放たれ、三人を包み込んだ。
「くっ……」
 火花を上げて沈黙した槍を幻想蝶に収め、由利菜は代わりに短剣を握りしめて飛び出す。
「リディス、フリークスγは急所のRGWドライブが心臓部にあります……」
『相手はヒトだから……そこにうっかり当てちゃいけないね。了解!』
 入口の影に隠れていたフリークスを捉えると、その脚に刃を突き立てた。そのまま足払いを見舞い、地面に投げ倒す。兵士は反撃もままならなかった。
 機械は武器を構え、部屋の壁を突き崩して廊下に飛び出す。従魔ながらに形勢は不利と感じたのかもしれない。ミニガンを乱射しながら歩き回る従魔だったが、そこで先行する杏奈に出くわした。
「従魔といっても憑依対象が機械なら……こんなのだって通用するんじゃない?」
 白い拳銃に電流が走り、稲光の銃剣が生まれる。更に黒い拳銃を眼前に構えた。
「いあ・いあ・つぁとぅぐぁ!」
 引き金を引く。銃弾の代わりに激しい爆音が放たれ、空間が激しく歪む。従魔が乱れ撃った銃弾の軌跡を逸らすと、杏奈は素早く踏み込み銃剣を機械の喉元に突き立てた。全身に激しい火花が散り、機械は激しく痙攣してその動きを止めてしまった。
 杏奈達が戦っている隙に、杏樹は廊下を駆け抜ける。奥から鋭い銃声が幾つも響いた。野太い断末魔も響く。杏樹はさらに足を速め、一気に角を折れた。
 目隠しをした男が、咄嗟に杏樹へ銃を向ける。杏樹は怯まず、ぺこりと彼へ頭を下げた。
「お久しぶりです。またお会いできて嬉しいの」
「……っと。そうか、味方か。名前は」
 男は素早く銃を引っ込め、バツが悪そうに口元を歪めた。
「泉、杏樹です」
「聞いた事があるような、無いような……まあいい。これで一応の役目は果たせたらしいな」
「いえ。ここから、なの。杏樹達と一緒に、戦ってください。」
 杏樹は真っ直ぐに下野を見据える。目を塞いだ彼は、そのたどたどしくも力強い声を頼りに、杏樹に向き直った。守はさらに言葉を付け加えていく。
『苦しみを乗り越えた人間ほど強い。共に歩みましょう』
 下野は手元で拳銃を弄び、しばらく何かを考えていた。やがて彼は肩を竦め、つかつかと杏樹達へと歩み寄る。
「フィクションみたいに心の眼で物がみられるってわけじゃない。それでもいいんだな?」
『ええ。ベテラン狙撃手の経験。頼りにしております』
「……なら無駄に動くなよ。まだ敵味方の区別がつかないんだ。誤射っちまう」
 そこへ、角を折れて走ってきたフリークスが二体、メットで覆い隠された顔を向けた。
「Malamiko en vido!」
 叫ぶと、彼らは素早く柱の陰に駆け込み、そこから身を乗り出して銃を撃つ。杏樹は扇を構え、身を挺して銃弾を防ぐ。
『およそ11時の方角です』
「助かる」
 下野は守の言葉に従い、素早く引き金を引いた。壁に隠れてやり過ごした兵士は、そのまま二人に向かって突っ込んでくる。
「そうはさせないわよ! いあ・いあ・よぐ・そとおす!」
 杏樹の背後から飛び出した杏奈が、兵士の脇に回り込んで拳を振るった。激しい竜巻を受けて吹き飛ばされた兵士は、下野のいた部屋に叩き込まれる。続けざまに、杏奈は出入り口に手を翳した。兵士を閉じ込めるように土の壁が現れる。フリークスのぶつかる鈍い音が、部屋の奥で響いた。
「悪くない。悪くないわね!」
 冒涜的な魔術を再現し、杏奈はご満悦である。

『大体この辺りか』
 相変わらず屋上に立っていたカイは、目の前に爆導索をそのまま投げ出す。乱暴なやり口に、思わず紗希は慌ててしまう。
「何するつもり!?」
『もう外に居るのは俺達だけだ。コイツで一気に突入するんだよ!』
 カイの叫びに合わせて爆薬が弾ける。甲高い音と共に、天井の板金が砕けた。カイはヘパイストスを担いだまま階下に飛び降りた。そこは、下野とフリークスが撃ち合いを繰り広げている真っ最中。
『うおっ』
 カイは思わず声を上げ、ヘパイストスの銃身でフリークスの頭部をぶん殴った。壁際から叩き出されたフリークスは、下野の放った一撃で倒される。
「カイさん」
 杏樹が駆け寄ってくる。同時に、廊下の奥から機械従魔が一体飛び出してきた。カイはヘパイストスを床に据える。
『此処は俺達が死守しとく。中は任せたからな』
 こくりと頷くと、杏樹は下野と共にデータルームへ引っ込む。入れ替わるように、佐千子が二丁拳銃を構えてやってきた。廊下の奥からは、フリークスがもう一体やってくる。
「フリークスは私が押さえます。従魔の方は任せました」
『ああ』
 乱れ飛ぶ銃弾。佐千子は両腕で生身を庇いながら機械の脇を駆け抜け、廊下の影に隠れようとしたフリークスを捕まえる。機械従魔は振り返ると、フリークス諸共佐千子を撃ち抜こうとする。
『味方が居てもお構いなしか』
「この従魔にとってはどっちも人間に違いないのでしょうね……」

「celo ci tie!」
 兵士は銃を構えたまま叫ぶが、助けに入る仲間はいない。銃口を避けるように國光は従魔の懐へと踏み込み、双剣を振るって肘の関節に切っ先を差し込む。兵士は振り払おうとしたが、國光は腕を抱え込み、切っ先をさらに深く押し込んだ。更に足払いをかけると、肘が外れた。支えを失った兵士は、そのまま地面に倒れる。そのまま國光は鞘に差したままの剣を兵士の顎に叩きつけた。兵士は呻き、その場で伸びた。
「そちらは大丈夫ですか」
 國光は振り返ると、杏奈に尋ねる。部屋に閉じ込めた兵士に出待ちを仕掛け、悠々とのしたところだった。彼女のサムズアップを見ると、國光は素早く中央の研究室へと向かった。機械従魔の残骸を跳び越え、彼は内部に足を踏み入れる。
『大方の機材などは持ち出されてしまったのでしょうか……』
「いつでも脱出できる準備は整えていたのか……」
 國光は周囲を見渡す。手術台はあるが、その為の道具は見当たらない。彼は棚へと駆け寄ると、光で照らしながら目ぼしいものを探す。
「これが奴らに組み込まれている義肢か」
『造られているのは四肢ばかりではないようだな』
 國光に続いて研究室に足を踏み入れた影俐とナラカ。二人の眼を引いたのは、幾つものマネキンに取り付ける形で保管された義肢だ。腕や脚以外にも、各部の筋肉を模したようなパーツが用意されている。影俐は眉間に皺を寄せる。
「……全て組み合わせれば、九割がた人間の形になるな」
 國光もちらりと義肢へ眼を向ける。
「少なくとも、これは回収してみる意味があるかな……」

●データルームにて
「Prenu ci……」
 フリークスは腰に備えたグレネードを手に取るが、視覚から飛んだワイヤーにその腕を絡め取られる。
「させるかよ」
 龍哉はそのまま壁を蹴って三角跳び、フリークスを肩から強襲してその腕を捻り上げる。そのまま足払いを決めると、鈍い音と共に機械の肩が千切れた。バランスを崩して倒れたところに、さらに右脚の膝を踏みつけ叩き潰す。
「今回はダウンロードを使ってこないな」
『前とは用途が異なるせいかも知れませんわね……』
 隣で由利菜は汗を拭う。いつの間にか周囲は静かになっていた。
「一先ずは、これで最後でしょうか……」
 彼女は幻想蝶からダウジングロッドを取り出すと、眼前に構える。
「私も電子データの取得を狙いたいところでしたが、所持道具に余裕がありませんでした。なので、私達は物証を中心に回収していきます。龍哉さん、其方は任せました」
「ああ。頼んだぜ」
 二人は分かれて廊下を歩き出した。その後から、銃を構えた佐千子がやってくる。刹那の柄尻を使って通路の壁を叩き、反響音を確かめている。
『今のところ、隠し部屋の類といったものはなさそうだな』
「そうね……」
 廊下の突き当たり、小さな部屋の扉をこじ開け佐千子は部屋の中に入る。ベッドや幾つかの調度品が置かれただけの、簡素極まりない部屋。それを見渡した佐千子は、首を傾げる。
「事前に渡された見取り図と奥行きが合わないわね」
『……試してみる価値はあるな』
 佐千子はポケットから恭佳に用意してもらった超小型爆弾を奥の壁に取り付ける。スイッチを押すと、オレンジ色の閃光が壁を貫く。
 開いた穴を強引にこじ開け、佐千子はライトで中を照らす。霊石の込められた機械が、低く唸りながら稼働を続けていた。
「通信機かしら?」
『確かに何らかの電波は発せられているようだな。このように秘匿しておく理由は分からないが……』

 データルームに足を踏み入れた杏樹。ノートパソコンを取り出すと、守の指示も受けながらパソコンをケーブルでサーバに繋ぐ。通信機を手に取ると、支部で待機しているであろう恭佳に尋ねる。
『仁科様、ご指示を。ご教授願います』
[……あー、赤城さんにちょっと渡してるモノがあるんで、それ突っ込んでください]
 部屋の外を見張っていた龍哉は、幻想蝶から端末を取り出し杏樹へと放って寄越した。杏樹はノートパソコンの端子を見渡し、何とか合うものを見つけ出して差し込む。途端に、パソコンは勝手に動き出す。
[申し訳ないんすが、ここは誰かに任すより自分でやる方が早いんでね……あ、そうだ。誰かちょっとサーバ弄ってくれます?]
「オレがやります」
 部屋にやってきた國光は、工具を取り出してサーバーへと向かう。精密ドライバーでサーバのフレームを外すと、アクセサリー制作で慣らした器用さで、恭佳の指示に従っていく。
[あざっす。これでだいぶスムーズに進みそうです]

「こっちは……紙の資料か」
 仲間達がコンピュータを見つめている間、データルームの奥に踏み込んだ影俐はファイルに収められた紙の束を見つけていた。軽く読んでみると、実験体に対する経過観察の結果などが纏められている。
『幾つか回収しておくとしよう。あっちと同じ情報かもしれんが、まああったらあったで役に立つ事もあるだろう』
 ナラカに言われるまま、影俐は経過観察報告書と記されたファイルを一冊抜き出し、そのまま幻想蝶に仕舞いこんだ。近くでそれを見ていた杏奈も、ファイルを適当に抜き出し中を覗く。
「これを読む限りでも……本当に身体の殆どを機械化しちゃってるのね。流石に脳は手つかずでしょうけど」
『(どうして……こんな事するのかな)』
「後でその点も考えなくちゃならないかもね」
 被験者の写真を手に取ると、彼女は幻想蝶にそっと押し込めた。

「そういえば、赤城さんがフリークスに戦闘データを取られることを危惧してたね」
『そんなモンはくれてやればいい。過去データを漁られようが、俺らが強くなる限り相手は俺らの後ろを付いてくるしかないんだからな』
 義肢を破壊され、倒れたフリークス達を目の前に並べるカイ達。彼らは意識を失ったまま、目覚める気配もない。紗希はぼんやりと考え込む。
「(取るとしたら、どうデータを取るんだろう……? ぱっと思いつくのは映像と音声……としたら、視覚と聴覚……?)」
 カイは彼女の疑問に答えるように、兵士の眼前に跪いた。ヘルメットは口元以外の全てを隠している。彼はおもむろにヘルメットへ手をかけると、いきなり外してしまった。
 その下から露わになったものを見て、二人は思わず蒼褪める。
「うわっ」
『おい……』
 データルームの外に出てきた國光は、兵士を見て顔を顰めた。傍に駆け寄ると、その顔を覗き込んで兵士に尋ねる。
「……貴方達のその改造は、そもそも合意の上なのでしょうか」
 兵士は義眼をぎょろりと動かしただけで、何も答えようとしない。

 むしろ、何も答える言葉を持ち合わせていないかのように見えた。

●Implants
「これが今回で得られたデータか」
 ブリーフィングルーム。龍哉は恭佳のパソコンを覗き込む。画面上に様々なデータが次々に開かれていた。
「そういう事になりますね。まだまだ調査は進めなきゃならない状態ですけど」
『首謀者の逃亡先の手がかりなどはないでしょうか』
「そこまで迂闊じゃなさそうだが」
「幾つか候補は出せます。データの中から、どこと通信していたかを辿る事が出来れば……」
 傍で聞いていた由利菜は、小さく嘆息する。破棄と存置についての意見が少なかったため、恭佳の希望で研究所は破壊せずに残しておくことになった。由利菜はそれがまだ気がかりだった。
「……非道な人体実験の場なんて、私は残しておくべきだとは思えないのですが……」
『研究所や同等の施設も、ここ一か所だけとは限らないよね。彼等にとっての“本命”は、既に持ち出された後かも』
「近いうちに破棄します。ただ、調査できるならそれに越したことはないので」
 パソコンに向かったまま恭佳は応える。その眼は今まで見た事がないくらい真剣だ。由利菜は小さく頷くと、リディスと顔を見合わせる。
「私は一度愚神によって瀕死の重傷を負わされましたが、あの人と契約した事で機械化は免れました。でももし彼女との契約が遅れていたら、私も鬼灯さんのように機械を体の一部としていたかもしれませんね……」
『あたしも自分を構成する前世の記憶は、全て『死の結末』しか浮かばなくて。その世界で瀕死でも生きていたら、機械化されてたかも……』
 絶望の淵に立たされた人間を救うための技術。それがアイアンパンク。その技術の暴走を前にして、由利菜は空恐ろしい気分になる。
「私の話でもしてました?」
 そこへ佐千子がやってくる。由利菜が言葉に詰まっていると、佐千子は自ら微笑む。
「まあ、不便な時もあるのは確かだけどね」
『それよりもだ。部屋の奥に通信機と思しき装置が秘匿されていたのを発見した。調べる必要がありそうだ。今回の交戦データも、そこから発信されたかもしれない』
『戦闘データ位いいじゃないか。気にするほどの事でもないだろう』
 リタの報告を聞いても、ナラカはいつも通りの態度を崩そうともしない。彼女は総てを貫くが如く踏破する光。自らの戦闘データを回収して対策を立ててくるというなら、その努力ごと上から打ち破るのが彼女の在り方だった。
『さて、次は如何なる手段を以て来るのだろうな』

「下野さんは“何者か”になれているの。下野さんらしい活躍、杏樹も、応援する、です」
 杏樹は部屋の隅に居た下野へ微笑みかける。アイマスクを付けた彼は、口元に笑みを浮かべる。
「……ま、何とかやってみるさ」

 紗希とカイは、共に浮かない顔で窓の外を見つめていた。
「あれって……もしかして」
『あれだけじゃ、どこまで弄ろうとしたのかは分かんねえが……』
 ヘルメットの中から露わになったのは、傷痕。顎からこめかみにかけてすっぱりと切り裂かれたような跡。そこに沿うように、何本ものボルトが刺さっていた。
「カイさん、御童さん、どうしたんですか?」
[どうしたんですか?]
 杏奈とセレナがやってくる。セレナはクリンナップボードに文字を書き込み二人へと見せていた。カイは頭を乱暴に掻く。
『いや。ちょっと嫌なもん見たからな』
「ヘルメットの中の話ですか?」
「はい。確かにアイアンパンク技術を用いた義眼などはありますが……」
「あそこまでガバっと顔を開ける必要は無いわよね……」
 杏奈は顎を撫でる。何か大きなウラがある。そんな気がしてならなかった。

 そんな仲間達から距離を置いて、國光は自分のノートパソコンと向かい合っていた。恭佳が掠め取ってきた情報を受け取り、自分でも調査を進めているのだ。
『手が止まってますよ?』
 メテオは画面をじっと見つめる國光に尋ねる。彼はバツの悪そうな顔をした。
「あ、うん」
 中々作業が進まない國光に、メテオは黙って首を傾げる。暗い顔も目立つ最近の彼であったが、今は少し生き生きとしていた。
「(……素晴らしい技術って、こんなにも綺麗なんだな)」

 データとして残されていたのは、今回の技術の元になったであろう、各研究所の技術の数々。その設計思想、理念は、基盤の設計図やプログラムのコードからも読み取れる。一研究員でもある彼は、その美しさに惹かれていた。

 だからこそ、守らねばならないと思えた。


 つづく

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 救済の音色
    セレナaa3447hero002
    英雄|10才|女性|ブラ
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
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