本部

痕跡調査 前編

鳴海

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
11人 / 4~15人
英雄
11人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/07/31 16:48

掲示板

オープニング

● 反応を追う
 バタフライエフェクト。
 蝶の羽ばたきが竜巻に起因するように。ごくごく小さな変化が何か重大な事件に繋がる。
 その観測は極めて困難で、因果付などもはやこじつけのようなものになってしまうが。
 今回はそうはいかないらしい。
 小さな世界の異変から。ガデンツァを逆探知するための計画が動き出していた。
 バタフライエフェクトが発生する前に。どこかでその影響をシャットアウトする。
 そのために駆り出されたのがエリザだ。
 状況は落ち着いた。ここから反撃する。
 そのための一手はエリザがもたらした。
「遙華とロクトの絆を解析して追跡しよう」
 この任務の結果次第では状況は大きく変わるだろう。
 そんな重要なターニングポイント。

● 今回の任務に就いて
 今回はガデンツァの痕跡を追って世界を飛び回っていただきます。
 確認された痕跡ですがすべてが小さな事件です。
 その事件を止めるのが第一目標ですが。 
 全ての事件が何らかの形でガデンツァへ繋がっていると思われます。
 その調査方法も考えていただけると。物語はさらに別の方向に分岐する事でしょう。
 また別の依頼に派生することも考えられます。
 捜査方法次第ではガデンツァと接触する可能性も、注意してください。
 世界で起こる事件はこちら。

1 アジア全体で起こっている、少年少女失踪事件
 例年平均失踪件数よりも若干多いくらいに少年少女が失踪しています。
 それが自発的なのか、人さらいなのか分かっていない状況ですが。
 霊力の痕跡が確認される事件が多く、関連性をにおわせています。
 現地に赴き事件の調査。および対処方法の伝授をお願いします。 
 

2 日本各地で発生している、歌手やアイドルの引き抜き。
 ディスペアのメンバーなども声をかけられたそうですが。最近新しいアイドル事務所が設立されたそうです。
 これはガデンツァに関係あるのでしょうか。
 

3 南アメリカ愚神出没地帯の愚神駆逐事件。
 デクリオ級以下の愚神がポンポン出現することで有名だった荒野の一帯ですが。
 最近愚神が駆逐され、姿を見せないそうです。
 H.O.P.E.やヴィランが働きかけている様子はないのですが。
 状況がどうなっているのか確認してください。
 


・対処方法一例
 こちらはあくまで事件を発生させなくするための対処方法です。
 これ以外の作戦があればそちらを優先していただいて構いません。

1 霊力をおってアジトを突き止める
2 事務所に乗り込んでアイドルたちに声をかける行為はやめて欲しいと頼む。
3 愚神が減るのはよいことなのでほっとく。


● 遙華の弁
「私はガデンツァの計画は最終段階に入ってると思うわ」
 遙華は告げる。
「今までの情報を加味して、彼女がやりたいことは何か。彼女が……有利な戦闘条件は何か……私たちに対して警戒しているのは何か。
 全てを疑ってかからないといけない。そしてあちらは常に奇襲する側。
 前回ガデンツァの根城を襲撃したときですら、あれはあちらの手の平の上だった。
 今回もそうはなりたくない。そのために私たちができることを考えていきたいの。
 各地の事件、何故発生した? これから起ころうとしていることは何? 推察で構わない。
 みんなで議論し、確かめ合って。対処していきましょう。
 全ての事件はきっとどこかでつながってる。細い線をたどれば大元にたどり着く。
 ガデンツァはもう余裕がないわ。であれば今までのように繊細に姿を隠すことはできないはず。どこかであらが出る。
 それを私たちは掴んで。今度こそ奇襲をかける」


● こちらの切り札。
 現在、ガデンツァに対する最後の歌として曲を制作中ですが。
 歌詞が足りません。
 もしプレイングに文字が余っているのであれば。
歌『』と鍵カッコの中にキーワードを入れて乗せてください。



解説

目標 事件の被害を抑える。
   原因を突き止める。


 今回の六つの事件の解決、もしくは調査の件ですが。
 状況を静観するというのも一つの手です。
 状況がどう動くか見てから介入する。
 もしくはH.O.P.E.の存在をみせないことで、わざと事件の規模や被害を大きくし、手がかりをそろえてから対処するのも手段の一つとして認められます。
 さらに下記で説明しますが。この事件を起こしている団体について情報を流しますがPL情報です。
 また、情報が少ないうちからその黒幕に触れるのは危険と判断するならば、情報を集めるために自分はどう行動するのか、その活動を妨害するためにうてる手は、など考えてみてください。


● 黒幕情報~~~~~~PL情報~~~~~~~~~~~

1 人さらい専門のヴィラン組織

2 新しいアイドル事務所『TRV』

3 ケントゥリオ級愚神 ディクティス
 ディクティスは自分の食事が邪魔されると出てくる可能性のある愚神です。
 全長十メートルの四足歩行で。日本の角もつ牛のような外見ですがその牙は鋭くなんでもかみ砕きます。
 地面を走り回り、角で敵を跳ね上げ、動けなくなった敵をむさぼる貪欲な愚神です。
 特に皮が分厚く物理防御に秀でています。
 攻撃はだいたいが物理ですが。角から放つ雷は自身中心の25SQを攻撃する魔法攻撃です。
 角に膨大なエネルギーを集約し、そのまま叩きつけることもしてきます。



~~~~~~~~~~ここまで~~~~~~~~~~~~~~~

リプレイ

プロローグ

「Dの組織が壊滅したのにも関わらず増えているのですね」
『卸 蘿蔔(aa0405)』は空港に集結するなりそう言い放った。今回おともする『ウォルナット(aa0405hero002)』がふむと考え込みながら窓の向こうを見る。
「日本から出たら珍しくないはだろうが。しかし子供の何が必要なんだろうな。霊力か、脳か」
 そんなウォルナットと蘿蔔の背後から近づく二人がいた。
「あら、あなた達もこの空港なの?」
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』が告げるとつばの広い帽子をばふっと蘿蔔の顔にかけた。
 もがく蘿蔔をよそに『榊原・沙耶(aa1188)』とウォルナットが挨拶をかわす。
「少し粗が目立つのはやはり余力がないからなのかしらねぇ。まぁ、地道にやっていくしかないわねぇ」
「そうですねぇ、目的が読めませんが」
 蘿蔔があたりをつけるとするなら音をリンカーに届かせる為、歌姫達とルネを共鳴させる等。
 しかしあちらの陣営にロクトが加わっている。その点戦略が変わってくるかもしれない。
「いずれにせよ彩名達のような子は増やしたくありません」
 告げて二組のリンカーはそれぞれの飛行機に乗り込んだ。
 今回のこの任務、リンカーたちは高速で世界を飛び回らねばならない。
 大規模作戦以来の大騒動であるが。ここでガデンツァ勢力の勢いを取り戻させてはいけない。
 次こそ決着を、そう望むのは沙耶や蘿蔔だけではなかった。
「さて、重要な局面だな。一つ一つは小さいが……」
 そう機内で情報を整理する『麻生 遊夜(aa0452)』と『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』二人はとりあえず日本国内の事件に当るつもりだった。
「……ん、束ねていけば……いずれ、辿り着く」
 各地の事件をガデンツァの仕業として見るならば、遊夜の目にはあらゆるものをかき集めてるように見えた。
「失踪による人材、引き抜きによる歌い手の集積及びこちらの切り札の弱体化、愚神頻発地帯での蟲毒や新たな愚神が出現できない程のライヴス吸収による戦力強化…………」
 それにはリンカーのおおむねが同意している。
「合っているか否かは後だな、情報収集に動かねば」
「……ん、これ以上は……百害あって、一利なし」
 その他の飛行機は中国と南アメリカへ。
 香港にさっそく降り立った『ヴァイオレット メタボリック(aa0584)』は溜息をつく。
「熱かっただぁ、全身が焼けただれたけんど両面から探り出すだ」
『ノエル メタボリック(aa0584hero001)』
「変装とは言えやりすぎだべ。この事件に飼い主が関わってねぇといいなぁ」
 同時に機内から顔を出す『希月(aa5670)』
「この度の任務、やれる事があまりにも多いですが、私のやれる事を全力でやっていこうと思います」
 そう意気込みを胸に一歩、未知なる事件に歩み出す。
「ま、そう肩肘張らずに気楽に行きましょうや」
『ザラディア・エルドガッシュ(aa5670hero001)』がそう肩を叩いた。
「そうですね。皆様、とても頼りになる方ばかりですから」

第一章 讃美歌


 首都近郊、日本の中心地は娯楽やショーは湯水のごとく消費される。
 新しいものはもてはやされ、古いものは忘れ去られる。アミューズメントの新陳代謝は加速し、その中で生き抜くのは困難を極める。
 そんな中でも残って行けるのは真に実力がある証拠である。 
 そのディスペアが新しく立ち上がった事務所から声をかけられたらしい。
「ディスペアにも話があったらしいしルネと歌ってたから接触があるかもだよね」
『斉加 理夢琉(aa0783)』がディスペアの事務所へ向かうタクシーの中でそう告げた。
「ガデンツァに繋がっているなら警戒される可能性もあるがな」
 そう告げる『アリュー(aa0783hero001)』がちらりと『蔵李 澄香(aa0010)』をみやる。
『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』はディスペアの事務所と何やら話をしているようだった。これから向かう旨を告げると電話を切った。
 すぐにタクシーは事務所につく、真っ先に扉を開けたのは遊夜である。
「久しぶりだな、元気にしてたか?」
 そう出迎えた梓を抱き上げてくるくると回る。その間にクルシェにリンカーたちは中に通された。
「ちょちょちょ。おろしておろして!」
「ははは、どうしようかなぁ」
 遊夜が楽しそうにしている背後でユフォアリーヤの牙がギラリとひかり。かわりと言ってはなんだが、澄香が真面目な表情で問いかける。
「ちょっと話を聞かせて欲しい、TRVのこと」
「可愛い可愛いディスペアにも手を伸ばしたらしいからなぁ」
 血まみれの遊夜が告げるとユフォアリーヤが唸った。
「…………むー」
「今回は仕事でな。引き抜き、受けたんだって?」
 問いかけると梓もクルシェも気まずそうな表情を向ける。
「どうも日本各地で引き抜きが頻発してるって本当なのか?」
「まだ確定じゃないの」
 そう小雪が告げた。
「なんだか怖くて」
 その言葉に澄香が頷くとこう切り出した。 
「端的に言うと、ガデンツァ関係かもしれないんだ」
 全員がその表情を恐怖に染めた。
 そんなディスペアの視線を遮り『魅霊(aa1456)』はディスペアの前に立つ。
 状況をかみ砕き説明するように魅霊は話しだす。
「―私は、ガデンツァのリソースは既に使い切られたものと考えておりました。
 実際、愚神としてのそれはほぼ品切れの様子」
「そのリカバリーのためにガデンツァは動いてる。例えば」
 そう澄香は視線を伏せ眉を寄せるとすぐに顔をあげて話しだした。
「以前の決戦の際、こちらが仕掛けた歌声の人海戦術による広域展開を逆に滅びの歌に使われる可能性がある」
 ガデンツァは人間をよく見ている、有効だと思ったならきっと戦術に取り入れてくる。
「どういうことを話したか、引き抜きの条件とかを教えてほしくてな」
 三人が話したのは、破格の給料での社員登用が前提条件で、話自体は悪くはなかった。現代にありがちなブラックな香りもなく、ひどくまっとうな契約に思えた。
 そう言った。ただ、何かおかしい。そうは感じたらしい。
「聞いてみれば…………」
 クルシェが言葉を続ける。
「他のアイドル、アイドル候補生、地下アイドルにも、同じくらいの条件で仕事を持ちかけてるらしい。そんなのありえない」
 どれだけうまくいっている事務所でも生産性のないメンバーに金は払えない。
 だがそれは同時に魅霊のたてた。今回、ガデンツァは人を金で動かしているという予想は現実味を帯びてきた。
「そしてそれを可能にした戦力、それは」
 ロクトなのだろう。その言葉を魅霊は口に出せなかった。
 その言葉に頷くと遊夜がさらに堀深める。
「あと他に声を掛けられた歌手やアイドル、引き抜かれた人にも話を聞きたい」
 ざっとあげられるだけでも十組のグループ。探せばもっとだそうだ。
「すまないがディスペアのマネージャーとして動いていいだろうか?」
 ほんの残りが程度のきなくささが、今や踏み潰して消した、たき火のあとのように匂う。
「みんなに会うつもり?」
 そう小雪が澄香に問いかけると、澄香は頷いた。
「うん、でも嘘っぽい話ってだけで私たちが動き回ったら、世間的にも良くないし」
「ガデンツァを取り逃がす可能性すらありますわね」
 クラリスが言葉を継ぐ。
「ライブを企画しようか」
 澄香がざっと話した内容はこうだ。Hope芸能化とグロリア社経由で、モノプロ、ディスペア、TRVの合同イベントを企画、仕事をセッティング。
「イベント内容は斉加ちゃんと遙華で主導してほしい」
「書類作成や各方面への連絡等事務作業も事前連絡、会場設営、手配すべて私どもで行います」
 クラリスはなれたようにスケジュール帳をめくって予定を立てていた。
「私たちはその後で引き抜きのあったアイドルの元事務所に協力要請という形で接触するよ」
「まだるっこしいな」
「ロクトさんがあっちにいる」
 クルシェの言葉に澄香は反応した。
「このままこの事件を押しつぶしちゃうことはできるけど、もしかすると」
「ロクトさんのSOSを取りこぼす可能性がある、そうですね」
 魅霊の言葉に澄香が頷いた。
 人一倍業界で腕を振るった彼女なら、何がしかのメッセージを残せるかもしれない。
 それでなくとも、まだ実動にまでは至っていない金銭面の動きがあるかもしれない。
 だからまずはネットワークを介し、今回の事件を含めた金銭流動を調査をする必要がある。
 これを解析し『この先どの組織がどう動くか』を洗い出す必要がある。
 そのために囮として理夢琉に動いてもらわなくてはいけない。
「夏祭りのミニライブならスケジュール調節しやすいんじゃないでしょうか。
 準備やリハーサルも含めて自然に接触して情報収集ができそうですし」
 そう理夢琉が告げるとアリューがディスペアに問いかけた。
「今現在TRVはどういう編成になっているんだ?」
「これからそれも探って行こう」
 そう澄香が言い放ち作戦は開始された。
 先ず動いたのは理夢琉。今回は手足の役割で表だって動くのは彼女の役回りだった。
 まだ知名度も無い。
 TRVが接触してくるのは時間の問題だろう。
 そう思っていた。しかしつれない。
 理夢琉が一人で街中を歩いていてもTRVのスカウトは現れなかった。
 アリューとしては安心できる展開だが。これでは話が進まない。
 それを澄香はいぶかしんだ。
「やはり、洗脳?」
 何らかの遠隔手段でアイドルたちを洗脳して集めているのではないかそう思った。
 その水面下ではクラリスが活動を続けている。
 ネットでTRVの評判など情報収集。過去のイベントなどでパイプのある他プロダクションの方とも情報を得る。
「ずいぶん念入りなんだな」
 そう遊夜が、ディスペア護送中の車の中でそうクラリスに問いかけた。
「ええ、やり方が露骨すぎますから、むしろ新人つぶしのバッシング等の印象操作攻撃の可能性も警戒しているんです、なので捜査とはいえ、きちんとした仕事として処理をしなければ」
 クラリスは終わりの事まで考えている。
 Hope芸能課に協力してもらい、引き抜かれたアイドル達が元の事務所に戻ることができるように状況を整え、反社会組織への参加という不名誉をなかったことにし逆に味方に取り込む足掛かりに。
 同時にTRVへの調査も続けている。
 Hope上層部から息のかかった銀行各種へ要請、TRVの資金の出入りを追跡してもらう。
 こちら側の接触に慌てて大金がどこに流れないか。資金源としてどこからか大金が入ってきていないか。
 その先が資金洗浄のダミー会社ではないか。もしくは人手で移動しないか、専門部署に監視してもらい違法性の操作。
 包囲網は完成しつつある。
「他の地域はどうですか?」
 そうクラリスは沙羅への通信を開いた。
 彼女たちは少年少女失踪事件を追っている。

第二章 無垢なる魂


『鬼灯 佐千子(aa2526)』は香港支部から顔を出す。
 じっとりとまとわりつくような湿度を振り払うように歩きだす。
 今回の件、以前協力していたつてで香港支部に協力を仰げることになった。
 これは大きい。
「自発的か人さらいかも分からない失踪事件…………」
「…………蜥蜴市場の手口に似ているな。活動圏も被っている」
 調査の初動はまずまずと言ったところ。
「とは言え。犯罪組織には犯罪組織なりに流儀や道理があるものよ。シマを荒らされて黙っているハズもない」
「…………少なくともなんらかの関わりはある?」
「ええ。ソレが同盟なのか敵対なのかはさておき、ね。それに黙っていられないヤツは他にもいるわ」
「古龍幇か」
「ええ。まあ、そちらへはシスターが向かってくれたし、私たちは私たちの仕事をしましょう」
 中国やその周辺の地方は今までH.O.P.E.が大々的に活動してきた場であり、協力を仰ぎやすい。 
 そのためヴァイオレットは下準備として香港の古龍幇の本部に向かい彼らの協力を乞うた。
 まだ敵の組織はつかめない。しかし敵をヴィランズ認定できれば香港協定の第4条を活用してヴィランとしてヴィランズ側で調査することができるかもしれない。
 その代償として、顔と体全体が焼けただれた醜い姿になり行動している、らしい。
「早期に解決するわよ」
「肯定だ…………しかし、僅かな情報しか手元にはない」
『リタ(aa2526hero001)』が佐千子の言葉にそう返すと、佐千子は苦々しげに顔をしかめた。
 いつまでたっても犠牲になる少年少女は後を絶たない。これではまるで自分たちの戦いに意味など無いと言われているようで
「さて、ね。胸糞悪い話だけれど、この手の失踪事件なんて以前から掃いて捨てるほどあンでしょ」
 しかし佐千子は負けない。
「何らかの犯罪組織が関わっているのは間違いないにせよ、後ろにいるのが同一の組織だとは限らないわ」
「ふむ。確かにその通りか」
 中国を中心とした諜報活動は足から。
 すでに希月らが現地での調査を始めている。
 たとえば失踪者が出た町、村に訪れ、その生活スタイルや最近何か不穏なことがなかったかを確認する。
 それだけではない。
 希月はいつの間にか、炎天下の下子供たちをぶんなげていた。
「力の流れをうまく感じてください。日本ではこれを柔術と言います」
 そう訪れる村や町で鍛え上げた体術を披露する希月。
 これは路銀稼ぎというわけではべつにない。ただ単純に子ども達に対処法の伝授をしたいと思っての行動だ。
「何より子ども達を守りたいのです」
 そう微笑む希月をザラディアはあくびをしながら眺めていた。
 同時にヴァイオレットは商売としては闇医者として潜入。
 世界の裏側から、非合法な客の中にこの事件に関係する事物がいないか探った。
 あくまでこの行動はH.O.P.E.の許可あってのものなので捕まりはしない。
 ノエルが表だって情報を集めているうちにヴァイオレットが情報処理や情報収集などの裏方をこなす。
「そろそろ次の町に行きましょう」
 そう一連の護身術指導を終えると希月はヴァイオレットのホテルを訪れる。違法治療行為はここで行われているらしいが。
 戻ってくるとたまに悲鳴が聞こえる。
「ほほほ、なんでもないぞ、なんでも」 
 そういくら問い詰めようとも何をしているか教えてくれないヴァイオレット。
「違法行為を行っているわけではありませんよね?」
「しとらんしとらん」
 そう告げるヴァイオレット、しかし撤収したノエルの部屋から血まみれのシーツがみつかっているとか、いないとか。
 次の町まで移動する四人。失踪した場所や時間などを調べ、その時間にその場所へ行く事は極力控えることにしていた。
 単独行動もこの地域では控えた方がいいとチームで移動を心がけている。
 今のところ目立った情報はない。しかしその行動は敵組織の行動を抑止できているらしい。
 ここから敵組織の尻尾を掴むのは別のメンバーの仕事である。
「あの、できれば穏便に協力してほしいのですけど」
 そう黒づくめの男たちが集う、薄暗く、カードとチップと火薬と煙草しかないような場所に蘿蔔はいた。
 当然そこは表舞台に住まう人間では決して立ち入れない場所、しかし。
 蘿蔔に銃を向けた人間はことごとく地面に転がっている。
 ころしたわけではない。抵抗できないように片っ端から武器を打ち抜いてやったら腰が抜けただけなのだ。
「もう、たらちゃんが乗り込もうっていうから大変な騒ぎです」
「あー、でもね、効果的だったと思うわよ」
 そう沙羅は男に歩み寄り顎を掴むと引き寄せ告げる。
「ADの使いよ、彼が刑務所から出た後に細切れにされたくなかったら協力しなさい」
 沙耶は古龍幇への協力要請はヴァイオレットたちがしてくれているのを知っていたのでADのつてを頼った。
 彼らが利用していた人さらい組織である。
「よく話してくれましたね、もうDのみなさん協力する理由もないはずなのに」
「ああ、それなら、私のことを好きになってしまったみたいよぉ」
 そう沙耶が部屋の奥から姿を見せるとアタッシュケースを解き放つ。
 中には少年。まずは猿轡を沙耶は外した。
「ふぁ?」
 顔を赤らめる蘿蔔、聞き逃してしまいそうになったが、今沙耶はとんでもないことを言った気がする。
「はい、これで実績一つ目」
「これで、中国の企業さんや法人さんも協力してくれますかね」
 蘿蔔は最初は警察や誘拐の解決を目的としている非政府組織に協力を願う予定だった。
 警察は当然協力してくれる、資料も見せてくれる、しかし企業や組織は違った。
 中国は日本ほど甘くなかった。H.O.P.E.というだけで動くことはなかったので。蘿蔔たちにみしるしを要求してきたのだ。
 ただ、ここにかくまわれている少年は数日前からアメリカで行方不明になっていた富豪の息子。これを中国側企業から返還させるという報酬があれば、きっと協力してくれるだろう。
「次はどうしましょう」 
「きまってるでしょう? 交渉よぉ」
 告げると沙耶はPCを取り出し通話ソフトを立ち上げる。画面の向こうで待機していたBDが写った。
「制圧したのか、リンカーの構成員もいたはずだが」
「それは別の仲間がやってくれたわぁ」
 外では佐千子が周辺警戒のために立っている。
「え? ところで、どちらですか? どちらの殿方が沙耶さんにプロポーズしたんですか?」
 そういらんことを問いかける蘿蔔。
「…………………………………………そこまでいってないわよぉ」
 心なしか嫌そうな沙耶である。そんな沙耶が男性一人を引きずりだしPCの前に立たせるとBDは頷く。
「我々が懇意にしていた人さらいグループの長だな。話をしてみよう」
「ところでBDさん達が雇っていた組織って、この人たちだけです?」
「末端企業だ。もっと上の人間と話をしていたよ。我々は」
「そちらの方には…………」
「手を出さない方がいいとおもうけどね」
 そうBDは不敵な笑みを湛えていった。
「ガデンツァ達の動きを捕らえました。奇襲を仕掛けたいのですが決定打となる情報が足りなくて」
 蘿蔔の声のトーンが落ちる。
「どうしても知りたいんです、危険は覚悟の上です」
「アジア圏となると古龍幇も動く事になりかねないからねぇ。
 そのヴィラン組織との関連性がもし出てきたら後々面倒な事になるでしょうし、今のうちに先手を打って潰しておくのが得策だとは思うけどねぇ」
「それは確かに、ただそれは古龍幇とH.O.P.E.のメリットの話だ。他の組織は少し違う」
「そのメリットを私たちのために見出してくれるのがあなたのはずよねぇ」
「私はいつからH.O.P.E.オブザーバーになった?」
 そうBDが声を剣呑とさせて告げる、しかし沙耶はいつもの態度を崩さない。
「わかった、少し話をさせてくれ、悪党だけでだ」
 その反応に蘿蔔は思った。
「もしかしてBDさんが」
「あら。御明察、でも半分正解よ」
「ってことはADさんも!」
「いいから出て行ってくれないかな!」
 怒り気味のBDに押され四人は一室を後にする。後ろ手で扉を閉める前に蘿蔔はその場にいる全員へこう告げた。
「彼女らの出方Bを待っていてはあなたたちの事も守り切れるか分かりません。悪い話ではないと思うのです」
 その後、中国を中心とする企業や裏組織への根回しは急速に拡大していった。
 失踪前後の様子や監視カメラや子供の目撃情報を求める声をネットで拡散。
 敵の警戒度が少しでも上がらないよう霊力等の情報は伏せ穏便に。
 その驚異的な情報網の広がりに蘿蔔は感嘆の声をあげた。


第三章 悪意の根

「すごいですね」
 調査本部としておいている香港支部の一室で蘿蔔が日本の報告をきいていた。
 日本での調査活動も順調らしい。TRVという組織の副業も明らかになってきた。
 日本で作っているアイドル系の商品を中国で売るのだが、その金の量が少しおかしかったり。
 あとはTRV所属のアーティストが海外に出たまま帰ってこなかったり。
 ただ、その程度では違法性のある営業と言えない。ただ、まだ何かあるはずだ。なにか。
 その時沙耶が帰宅した。
「どうでした?」
「チンピラ、何も知らなかったわ」
 そう沙羅がため息をついていった。
 以前のペインキャンセラー畑の時に捕らえたチンピラに話を聞きに行ったのだ。
 実は全員刑務所にぶち込まれていた。
 外界からの情報は遮断されており、そんな事件あったのか…………と言った調子だ。
「後は、もし人身売買があったとして売却先の問題よねぇ」
 そう沙耶が何気なく会話に参加する。
「どういうことです?」
「つまる所、売却先が富裕層の変態なのか、愚神なのか。
 富裕層なら闇オークションなりがありそうだし、愚神なら直売よねぇ。
 アジア圏に小鳥遊ちゃんと足を伸ばして、囮として動いてみるのもいいのかもねぇ」
「それは…………」
 蘿蔔が沙羅を一瞥すると告げる。
「いけるかもしれませんね」
「どういう意味よ!」
「子供を産んだけど、男に逃げられて…………ってな感じかしら」
「どういう設定よ!」
「小鳥遊ちゃんを借金のカタに人身売買しようとする親…………」
「なんで言いよどんだのよ!!」
 そんなわけで沙羅を囮に使った作戦が決行された。
 都心から離れた田舎の方で、ぼろい服を与えた沙羅に練り歩かせる。
 結果。
 すんなりと沙羅は攫われた。
「ええええええ!」
 叫ぶ蘿蔔、唖然と現場を見渡す佐千子。
「モスケールを起動するわ」
 蘿蔔はライブスゴーグルで霊力の痕跡が集中している地域を探しだす。
 まだ捜査の糸は途切れていない。
 あんな少女でも友達なのだ。
 ジェットコースターで血をかけられたこともあった。
 今回の任務、一緒の飛行機で血をぶちまけられた。
 血なまぐさい機内での数時間は地獄だったが、それでも友達なのだ。
「絶対見つけて見せます。たらちゃん」
「しまった、反応が消えた」
 佐千子の絶望を知らせる声。
 だが希望もある。沙耶もいないのだ。
「ひょっとして、共鳴してる?」
「手口が今まで一緒なら、逃走経路は」
 実はこの町で失踪事件が起きるのは三度目、そして過去二度は同じ逃走経路で犯人は逃走したと思われていた。
「こちらに」
 そうビニールをはいで佐千子は隠しておいたバイクにまたがる。サイドカーに乗り込んだ蘿蔔がスマホを取り出すと、周辺警察やH.O.P.E.関係者に連絡を入れ始めた。
「たぶんしびれを切らしたんだ」
 ここのところ希月たちの見回りのせいでとんと人さらいができない状況にあった。
 その抑圧の中ついにはじけ、雑な仕事になってしまった。
 佐千子はアクセルを全開に車両を追う。
「見つけた」
 そうバイクを足で操作しながら銃口を向ける佐千子。
 その弾丸はタイヤを射抜きそして、停車させた車の中からは簀巻きになった沙羅が発見された。
「こいつら、下っ端よ。もっと上がいる。これから取引だって。直接私を持ってくつもりだったのよ」
 その言葉で佐千子は閃いた。
「だったら話が早い」
――肯定だサチコ。乗り込むぞ。
 そして深夜零時、とある波止場。
 人身売買相手は暗がりで息をひそめるように交渉相手の訪れを待っていた。
 だが現れたのは。
 黒いメカニカルなシルエット、ライダースツの女。佐千子。
 バイクごと突っ込むそのライトの先に。
「見えた! ガデンツァ? 違う。ルネ?」
 水色の人型シルエットが見えた。
「他の子供たちの居場所をはいてもらう」
 そのまま佐千子と蘿蔔が遠隔射撃、足を打ち抜かれたルネは転がって海へと。
「逃がさない」
 そう闇の中から浮上したのは希月。
 ルネを蹴り飛ばすとその軽い体は跳ねとび倉庫の壁に叩きつけられた。
 蘿蔔が縫止にてルネの変化を防ぐ。
「やっと、尻尾を掴みましたよ、ガデンツァ」
 しかしにやりと笑ったルネはその体を膨らませる、瞬時に爆発したそれはコンクリートをえぐるほどの衝撃でリンカーたちを吹き飛ばす。
「…………みんな、こちらに」
 そう治癒しようと沙羅は全員を呼び寄せるが。それよりもヴァイオレットの叫び声の方が一大事だった。
「それよりこっちじゃ。はよう、はよう!」
 船の中にすでに潜伏していたヴァイオレットは全員を呼び寄せる。その貨物室には荷物のように子供たちが詰め込まれており、中には息をしていない者もいた。
 正気でない目の者も。
「ひどい」
 つぶやく佐千子。
 ただ蘿蔔はその少年少女の中でも数人きになる子供がいた。
 その子供たちは息をするだけで常に一点を見つめ、瞳孔が開いている。
 まるで魂が抜けたような。
「これは?」
 その言葉に希月が答える。
「離魂病と、私たちは聞いた」
 希月たちがここにいる経緯もふくめて説明するとこうなる。
 先ず希月たちは各地を回り調査を続けていた。
 犯罪現場は割れていたので失踪場所に待機、イメージプロジェクターで返送。現地の子供に変装しておびき寄せ、現れたヴィランの皆様を気絶させて捕縛。
 そう言う路線での待ち伏せ作戦に舵を切り替えたわけだ。
 実際その罠で実行犯の一人を捕まえることに成功した。
 まだ若い青年だったが、翌日H.O.P.E.に連れていくという名目で拘留。
 しかしその束縛をわざとすぐに外れるようにしておき。スマートフォンをこっそり忍ばせた。
 その夜。案の定逃げ出した青年。
 その青年を追って佐千子たちに合流したというのが事の顛末である。
「離魂病というのは?」
 そう沙羅が問いかけると希月は思い出すように話し始める。
「あれはザラディアの暴挙を止めているときでした」
 ザラディアは捕えた青年から直接情報を引き出したがった。
「ただ、希月様じゃあ優しすぎるから奴らもなめてかかってくるでしょうな。ここは俺に任してくださいよ」「あー、戦闘時の同じ理由で俺が戦いますぜ。ぶっ飛ばすのは俺のほうが得意ですからねぇ」
 そんな風にいい笑顔を見せるザラディアをなだめていると、その村の子供たちからこんな都市伝説をきいたのだ。
 ココロが壊れる歌。
「あとは、うらからの情報じゃが」
 子供たちの手当てをしながらヴァイオレットが告げた。
「あたらしく中国の闇市場に手を突っ込むよそ者がおるそうじゃ。その名前こそTRV」
 日本で活動を始めた件の会社と名前が同じである。
「日本の調査でも、失踪事件が起き始めた時と、TRVが設立された時期が同時期であると報告がありました」
 そう蘿蔔が報告する。
「やはり、そして引き抜きはヴィラン組織にも起こっておる」
 ヴァイオレットが告げたのは信じがたい事実。
 中国国内外のフリーランスで活動していたヴィランズたちが組織化されつつある。
「子供たちには特殊な共通点などは無いようじゃ」
 ヴァイオレットがそう皆に告げると、ヘリの機動音が聞こえてきた。病院に搬送するために陸路、空路をフル活動するつもりらしい。
 闇は深い、しかし、手を突っ込めないほどではない。
 そうヴァイオレットは思う。

第三章 大陸の覇者
 ライブ当日。
 トップバッターを務めるのは理夢琉の仕事だった。
 そのまま司会へと流れ最後は皆で謳う、澄香が得意としたライブ手法だが。今日はいない。
 彼女は仲間たちの応援に行くと言って昨日旅だった。
 ここでは自分一人、自分がやらねばならない。
 そんな不安を押し殺して理夢琉はその場に集まったメンバー全員に笑顔を向けた。
 理夢琉はTRVのメンバーがリンカーなのか尋ねてみる。
 すると驚くことに何の共通点も無いお嬢様であることがわかる。
 世間知らずで無鉄砲、だけど可愛い。
 そんな小悪魔的な少女たち。彼女らに何の目的があってTRVは忍び寄ったのだろう。
「最初に声をかけてきた人って幾つくらいの人だったの、カッコよかった?」
 結局理夢琉はスカウトには会うことができなかった。だから人物的特徴を尋ねる。
「紫色の髪が綺麗だった」
 理夢琉はそんな言葉に胸を躍らせる。
 まさか。
「それって女の人?」
「すごくきれいな人だったよ」
「それでどこに行ったの?」
「事務所だよ、新しいビルで、綺麗だった」
 TRVに関してはよい話しか聞かない。まるで、グロリア社が提示してくれるような好条件。
「そんなにいい条件なんだうらやましいなぁ」
 彼女に唐突に会いたくなった。
 言葉を交わしたことは少ないけれど、いつでもそこにいた。
 彼女に。
「理夢琉」
 その時、インカム越しに声が聞えた。
 いつの間にか自分の体はステージの上にあって。
「今はステージに集中しろ」
 その次にはディスペアが控えている、逆袖に三人がいて理夢琉に手を振っていた。
 理夢琉が一歩前に歩み出す。
 歓声が上がった。
 理夢琉がまずは二曲。振りまく笑顔と可愛らしい声。
 それにディスペアの三人がハーモニーを沿える。
 解け合うように旋律が別の曲へ。
 トップスタンダード。そして苛烈。
 遊夜はその様子を舞台袖で見ていた。
 観客席に目を光らせているとアリューが遊夜の肩を叩く。
 観客席を指さすアリュー、その先に紫色の髪が見えた気がして遊夜は思わず走り出した。アリューはAGWの使用を控えているため共鳴しなければならない。
 一瞬舞台袖に戻った理夢琉。アリューの様子を見て不思議そうに首をかしげるもアリューは何も言わず共鳴、理夢琉をステージに押し返す。
 理夢琉がステージのメインをディスペアの三人の譲るとプランシエットで歌詞を空間に表示、演出に努める。
 フロストウルフが会場の壁を走る。
 冷たさや雪に驚き歓声を上げる観客。
 謳えば四人でハイタッチ。
 音楽の余韻が残る会場に幻影蝶を放って締めた。
「なぁ、あんたらしくもないな」
 そう遊夜が会場の声援を背に、静まり返った施設エントランスで紫色の髪の誰かに声をかけた。
「何故自身でスカウトし育てずに大量に引き抜いているんだ? あんたなら育てる方を選ぶと思ったが」
 TRVは実は澄香の企画したライブの動きを察知するように、引き抜きが完了したアーティストを動員してライブを企画していた。
 しかも来週。
「よく、短期間で集まったもんだな、強引な手でも使ったか?」 
 遊夜が歩み寄る。
「色々と気になる点がある。TRVの設立経緯や創設メンバー、金の流れ、話してくれないか。あんたがなにを考えてるか。ここになぜ姿を見せたのか」
 その時だった。
 風が吹いて、その髪が攫われるようになびいた。
 一瞬視界を覆った遊夜。次の瞬間にはその紫のシルエットは消えていた。
 たった一枚の紙を残して。
「あの子たちを助けて」
 その言葉に遊夜は踵を返す。あの子たちとはたぶん。
 来週ライブを控えたTRVに引き抜かれたアーティスト8組の事だろう。
 理夢琉と相談し、その反応次第では事務所に乗り込むことも辞さない。
 その時だ。 
 一旦舞台から退場した理夢琉とアリュー。そのアリューのスマホが震えた。
 メールである。
「理夢琉。ECCOが」
「どうしたの?」
「ECCOが今まさにスカウトと接触してると報告が」
 視線を梓に向ける遊夜。クルシェが答える。
「あたしらを信じて、いって」
 その言葉に遊夜は頷き会場を飛び出した。


   *   *
 
 南アメリカ、広大な荒野。
 その真ん中を黄金の少女が行く。
 蜃気楼が立ち上るほどに熱い土地、しかし二人にとってはなんのその。
『イリス・レイバルド(aa0124)』と『アイリス(aa0124hero001)』は鼻歌交じりに件の愚神を探し歩いていた。
――これが野良リンカーが縄張りの愚神を駆逐しただけというならば話は早いが。
「愚神が愚神を食らうことで強化する……今まで散々見てきたこのケースを捨てて考えるなんてできないよね」
――ああ、結果このあたりは、えりすぐられた愚神しか残らなかったみたいだねぇ
 そう『ナラカ(aa0098hero001)』はどこか面白がるように告げた。
 その刃はこの炎天下の中熱をため込み卵が焼けそうなくらい熱くなっている。
『八朔 カゲリ(aa0098)』はそれを鞘に納めると、目の前で霊力になり消えていく愚神の死骸を見た。
 このレベルであればカゲリに太刀打ちできるわけもない。
「あまりに弱く取りこぼされた愚神がぽつぽつとはいるみたいだが」
 カゲリは思う。今まであった事が唐突になくなる――と言うのは、有り得ない訳ではないが同時に違和を覚えるもの。取り敢えずは現地確認が必要だ。そう荒野を歩いているのだが。
 空気がピリピリしている。
 まるでこの荒野全体が罠のよう。
 なのでカゲリはリンクコントロールでレートを最大限まで引き上げている。
 臨戦態勢である。
「ここを収める。最強の愚神はディクティスと言ったか、その愚神に力が集約されている可能性はある」
――まぁ、シンプルに考えればそれだろうが……もっと面倒な事態も想定しなくてはねぇ。
 アイリスが不穏につぶやく中、一行は起伏のある一帯に迷い込んだ。
 砂塵と微妙に高くなっている丘。
 視界が悪くなってきた。
 しかも地面が焼け焦げている。
――広範囲に焦げているね。
「火で焼けたって感じじゃないよねー」
――成程ただの物理一辺倒ではないか。
「この足跡とかいかにもパワータイプって感じのだし、状態異常とかは考えなくてもいいかな?」
 そう巨大な足跡を眺めてイリスは告げた。
――それでも一応心構えをしておくのが長生きの秘訣だよ。
 アイリスは告げるといったん止まるようにイリスへ促す。
――本来は偵察気分だったのだけどね。
 アイリスの声に影響されイリスが剣を抜く。
 背後から犬型愚神が襲いかかってきた。
 原因を排除までは難しくても正確な情報を集められれば今後に生きる。だが敵はそう簡単に許してくれないらしい。
 全長十メートルの個体が伸び上がるように地面を割って出現した。
「下からだと!」
 カゲリの体が砕かれた地面事巻き上げられる。
 イリスは惨劇の元、犬の前足。胴体。頭を斬り飛ばして愚神を倒すと。そのままジャンプして距離をとる。
 ばらばらとディクティスを覆っていた土くれが落ち、もうもうと煙を上げる。
 視界が一気に悪くなった。
 直後。信じられない速度で突進してきたディクティス。
 思わず盾を構えるが。イリスには当たらず素通りしてしまった。
「ん?」
 振り返るイリス。どうやらイリスが小さすぎて捕えられなかったようだ。
「お姉ちゃん!」
――ははは、これは撤退だ。ヒーラーの一人でもいればいなせるかもしれないがね。個の巨体に私たちの戦術は相性が悪い。
 脱兎のごとく逃げ出すイリス。
 そのイリスめがけて走り出そうとするディクティス。今度はその角を地面に突き刺したまま走り、地面事巻き上げようという魂胆のようだった。
「少し、痛手を負わせる必要があるか」
――覚者がそう判断するのであれば、出し惜しみする必要はなかろうよ。
 カゲリは落下しながら刃を構える。チャージモーションに入ったディクティスの背中向けて斬撃を重ねる。
 最後の一頭を腹部から真下に切り下すように放ち。
 痛みでのた打ち回るディクティスのひづめを回避しながらカゲリは走った。
 やがてイリスに追いつくと、イリスは言った。
「逃げ切るのは難しそうですよ」
 明らかにあちらの方が機動力は上だ、だとするならば。
「やるか…………」
 カゲリが告げるが。
――叶うならば輝ける意志で魅せてくれと願うばかりだが――今回ばかりは別の物の輝きに期待しよう。
 ナラカが告げて点を指さす。
 すると上空にピンク色の点が見えた。
――一瞬でいい。動きを止めるんだ。
 アイリスの指示で踵を返したイリスとカゲリ。
 その刃と盾でディクティスの突進。その角を受ける。地面を削りながらもずるずると後退し、それでも吹き飛ばされず、奇跡のように踏ん張る二人。
 結果ディクティスの突撃は30Mの前進という結果に終わる。
 そして上空から弾丸のように飛来する魔法少女。
「魅霊ちゃん。誘導お願い!」
「承知しました」
 空中でしがみついていた魅霊が離れると澄香はディクティスの鼻っ面めがけてブルームフレアを放った。
「みんな逃げて」
 澄香はいったんディクティスの体に着地するとバウンドするようにジャンプ。
 そして着地、イリスたちの元へ走り寄る。
――それにしてもだだっ広い荒野では、こちらは逃げきれない。
「だったら、下に逃げよう」
 ディクティスがしたから出てきたことは知っている。
 どうやら地下を大きな水道が通っているらしい。
 一旦そこに退避するために。
「はっ!」
 イリスが地面に盾を突き立てた。
 崩落する地面。
 そして暗闇の中に飲まれるリンカー四組。
 ただ、落下も永遠には続かない。水の中にぼちゃりと落ちると、あまり激しくないその流れに抗って壁に捕まり全員がお互いを確認。やがて発見した岸に上がって情報交換を始めた。
「アジアの少年少女失踪事件はどうなったのかな?」
 共鳴をときたき火で体を乾かしていると、ナラカがそう澄香に問いかけた。
「あちらは解決したみたい…………。けど黒幕がいて、その対応をどうするかって話してるみたい」
「アイドルの引き抜きに関しては?」
「今日ライブだけど…………結果は」
 洞窟の中で聞けるわけもない。
「今日までの調査で有益な情報はなかったかな、ごめんね」
 告げる澄香は自分の無力に傷ついているようだった。
「いや、澄香の努力が何の成果も結ばないはずはないさ。吉報を待とう」
 ナラカはそういつもの見守る姿勢を崩さない。
「様々な事件が気になる中で『南アメリカ愚神出没地帯の愚神駆逐事件』に手を伸ばしたのは、これが直接愚神に関わるものだからだった。しかし。戦力の不足がここまでいたいとは」
 ナラカが告げると全員を見渡す。
 ここにいる四人で討伐に向かってもたぶん。勝てないだろう。
 帰るのが精いっぱいといったところか。
「今回の事件は人は関わっていなさそうだったよ?」
 イリスが告げる。
「というよりもあの派手な戦闘の痕跡を見れば愚神食らいの愚神の可能性が濃厚か」
 地上で見た雷撃痕。先ほどは浸かってこなかったが、あの愚神は角に微量の雷を纏わせていた。あの大規模な焼けあとはあの愚神が生み出したのだろう。
 そしてそれほどの追い詰めることができる相手。別の愚神の存在。
「問題はそいつがただの偶然でやってきたのか」
――何者かの意図で放たれたのか。
 その言葉に魅霊が言葉を返す。
「今回の事件も含め、最近時はやけに『集約』の行動が目立っているように感じます」 
「愚神が出現する地で唐突に出現しなくなる。H.O.P.E.やヴィランが関わっていないとするなら、翻して愚神の影響の公算が大きくなると言うもの。
愚神が愚神を喰らい力を増す――、それが目的だと?」
 ナラカの問いかけに魅霊が指で地面に絵をかきながら話を始める。
「ウロボロスの一件も、従魔は霊力を一カ所に集めているような節がありましたし。
 ……ガデンツァは集めた場所で何を仕掛け、何をしようとしているのでしょう?
 個人的には気になるところです」
 各愚神を模した絵。から矢印を向けたハテナマークを作る。
「例えば、集約した場所に何か特徴的なものが見つかれば……」
 前回ウロボロスを倒して見つかったのは戦艦の設計図。であればここにはいったい何が。
 澄香がその時立ち上がってマナチェイサーを発動した。
 この地下水脈の向こうに何かある。
 水、霊力。そして地下。
 何度も見たキーワードだ。
 このまま四人で乗り込むのは危険だろう。
「関わっているとしてここで何をしたいか」
 アイリスがつぶやく。
「奴の資源はつきかけている……それとも定期的に愚神が出現するこの場所が特殊で抑えたい何かがあるのか。
 愚神にルネでも寄生させて意識を移し変えてのワープ地点にでもする気なのか。
 これから何かが来るのか」
「調べて見ないと、時間が無い気がする」
 そう澄香は判断し、立ち上がった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
  • 託された楽譜
    魅霊aa1456

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • エージェント
    ウォルナットaa0405hero002
    英雄|15才|?|シャド
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 託された楽譜
    魅霊aa1456
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    R.I.P.aa1456hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 光明の月
    希月aa5670
    人間|19才|女性|生命
  • エージェント
    ザラディア・エルドガッシュaa5670hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
前に戻る
ページトップへ戻る