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最終発言2018/07/21 01:13:50 -
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最終発言2018/07/21 11:15:28
オープニング
●グロリア社地下に
先日のガデンツァ襲撃で、蛇型従魔が逃げた。
これに対して開発者であるADが情報提供をしてくれた。
「あれは、開発コードD-2058ウロボロス。自己肯定の蛇だ」
他者の霊力を取り込み、急速に進化する従魔はDの研究によって開発された大きな戦果だが、兵器として開発したために生存時間は短く想定されていたという。
「兵器を開発するうえで重要なのは寿命だった。長持ちする兵器は優秀だが、顧客が買ってくれなくなる、プラスして永遠に進化を続ける従魔などそのうち購入者の手に余る」
故に一度フラスコから解き放たれれば。48時間以上は生存できない、そう言う造りにしていたのだという。
「ただ、手が加えられているのか自己消滅はしていない。そうなるとこの蛇がどの様な進化を遂げているか分からない」
開発のために力を借りていた愚神はもういない。
本当に予想ができない進化だった。
「それに地下にたまった霊力が気になる、場所が狭すぎてとぐろを巻いているわけではないだろう。どさくさに紛れてルネを飲み込んでそれを消化中か? わからん。だがこの推論が運命をわけるだろう」
告げたADはリンカーを眺める。
「ただ、現在の私にあれを同行する力はない。愚神の力はもれなくH.O.P.E.に奪われてしまった。対処はリンカー次第になるだろう」
結局、事態はたいへんなところまできてしまったという事しかわからなかったのだが。
それでも話が聞けないよりはよかった。
そう溜飲を下げつつリンカーたちに作戦準備が言い渡された。
「なぜいまだに首を切られていないのか、信じられない思いだが、これだけのうのうと生かされれば野望への情熱がまた燃え上がるというもの」
そう口走ってしまった時には彼らの監督を任されているリンカーにしこたま怒られたものだが、それはまた別の話。
● 下水道での白兵戦
下水道は入り組んでいます。
三層にわたって展開されていますが。
直径10メートル程度の円。その半円分の大きさ程度の通路です。
十字路やT字路は当たり前。滝のように水が流れ落ちている空間もあります。
その通路いっぱいに膨れ上がった蛇が通行しており、皆さんの動きに合わせて牙や毒液で襲撃してくるでしょう。
全長は想像もつきません。そのうち大きくなりすぎて下水につまり、それでも際限なく成長してあたりを吹き飛ばして地上に出ることが予測されます。
ただ、前回グロリア社に集まったメンバーが調査を行ったところ。膨大な霊力が貯水エリアに有ることがわかりました。
つまり大量の雨などで下水がパンクしそうなときに水をためておくための広大な地下スペースですが。
従魔の体も数十メートルとなっているはずですが、体の一部分は常にこの場所にあるようです。
これはなんでしょう。少し気になりますが、従魔はここを離れるつもりはないようです。
なので、蛇の奇襲に怯える下水道内での戦いより、この貯水エリアでの戦いの方が有利に戦えるのではないかという話になりました。
なので皆さんは下記の手順から下水道に潜り、敵を撃破してください。
1 敵の襲撃をやり過ごしながら下水道を歩く。
2 貯水エリアにたどり着いたら、膨大な霊力の正体を探りつつ敵を撃破する。
もちろん別の作戦があるのであれば、その作戦に従うのもいいでしょう。
● 下水道内でのイベント********PL情報*********
下水道には皆さんどのように突入されるのでしょう。
ばらばら? 一か所からかたまって?
ただ、蛇は鋭い感覚器官をもち、侵入者を察知します。
ウロボロスはまず、最も多く固まるリンカーの集団の行く手を阻もうと。
1 下水道を崩します。
メンバーは分断され迂回か、瓦礫の撤去を余儀なくされるでしょうが。退路を断たれたリンカーを蛇は積極的に狙うでしょう。
2 通路破壊からの奇襲
通路を突き破って頭をだしリンカーを襲う可能性があります。
3 抜け殻を発見
蛇の抜け殻の残骸があちこちに転がっています。
よく観察してみると、脱皮が完全にできておらず、それで苦しんでいるようです。まだ皮をかぶっている個所もあるみたいですが……
●新たな能力の獲得
ウロボロスは進化の果てに能力を獲得していますが、これは開発者たるADも想定外の能力です。
・石化の眼差し。
ウロボロスの目からレーザーが出ます。
これに当ると体の一部が石化します。
状態異常回復で解くことができますが。
特殊抵抗が10以下のキャラクターは要注意で。
特殊抵抗が15以下でもかかることがあります。
下水道移動時に不意を突かれることがあります。
・丸のみ
リンカー奇襲し口にくわえると丸呑みにすることがあるようです。胃の中ではうまく身動きが取れず攻撃もままなりません。
腹の中を伝って徐々に貯水エリアに運ばれ、そこでどうにかなってしまうようです。
**********ここまでPL情報*****************
解説
目標 ケントゥリオ級従魔 ウロボロスの撃破
●従魔について
『ウロボロス』
受けた攻撃によって自身を強化します。また判定が重複する可能性はあります。
デクリオ級従魔の実力を持ちますが。成長すると、ケントゥリオ級愚神ほどまでは戦闘力が増しますので注意です。
また攻撃は噛みつきとその体を使った叩きつけや吹き飛ばしですが。
牙には毒があり、体の痺れと共に継続ダメージを受けます。
これはクリアレイなどで回復可能です。
・近接攻撃
その腕で振るった武器によるダメージは近接攻撃判定です。
物理防御力が微量増加し。攻撃三回につき、自身の周囲3SQに攻撃する。『スプレットティア』の使用回数を一回得ます。
鱗を飛ばして攻撃します、範囲が広く命中精度も高い厄介な攻撃です。
ダメージを受けると防御力が低下します。
・遠距離攻撃
体長が50センチ伸びます。また10回に1回生命力を微量回復する脱皮現象が起こります。
・物理攻撃
攻撃力が増加します。また三回攻撃を受けると自動的に体から毒をしみださせる『邪毒』状態になります。邪毒状態は誰かが攻撃すると解除されますが。近接攻撃を仕掛けたリンカーは極めて強い、継続ダメージ状態になります。ケアレイで解除されるまで回復しません。
・魔法攻撃
魔法攻撃は弱点ですが。攻撃されることによって従魔の生存本能が働くようです。凶暴になり攻撃が荒々しくなります。
ただ、弱点であることは理解しているのか、魔法攻撃をされるたびに、魔法防御を微量ずつ上げていくようです。
リプレイ
プロローグ
唐突であるが遙華は諦めた。
「これ、せっかく復旧させたばかりの諸々かなぐり捨ててグロリア社から退避するなんて、もう気力が起きないわ」
座った眼差しで地下のマップを印刷する遙華。
「はいこれ」
そうマップを『麻生 遊夜(aa0452)』に手渡した。
「やれやれ、次から次へと厄介なことだらけで頭がイテェな……」
そう図面を眺めてため息をつく遊夜。ちなみにエリザの頭脳は動かせないので彼にとっても失敗が許されないミッションである。
「……ん、後手後手は……辛いねぇ」
『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』がそう困った顔で告げた。
そんな作戦司令室の扉を押し開く『卸 蘿蔔(aa0405)』
「遙華ー、ちゃんと飯食べてるますかー」
「適当な服着てないか」
『レオンハルト(aa0405hero001)』の言葉に顔を赤らめると遙華は反論した。
「大丈夫よ! もうへこたれていられないもの、心配かけてごめんないさいー」
そう、いーっと歯を見せて大げさに言うと遙華は少しだけ笑った。
「もう大丈夫よ。迷いが消えたわけじゃないけど、迷ってていいんだってあなた達が教えてくれたもの」
そう地図を丸めて蘿蔔にも手渡す遙華。そして物資を詰めた箱をレオンハルトに。
中にはライトや携帯食など作戦に必要なものが入っている。
「わ、ご飯も入っているのですね」
「下水道では逆にブロック食の方がいいと思って」
「私も作ってきたんですよ」
そう蘿蔔が手渡したのは手作りのお弁当。
「いただけるの?」
「はい、腕によりをかけました」
「腕によりをかけたはいいけど、運んでくる最中に振っちゃってない?」
「そ、そんなことはないはず…………」
言いよどむ蘿蔔。
「心当たりは有るのね? ありがとう、みんなを送り出してから食べるわ。感想は後程」
告げると遊夜のあとに続いて蘿蔔と遙華は部屋を後にする、リンカーたちが集まっている地下へと足を運んだ。
途中で合流する『月鏡 由利菜(aa0873)』
「ガデンツァの遺産がまだ残っているというのですか……?」
その言葉に遙華は答える。
「置き土産ってやつね、ガデンツァが意図したかどうかは謎だけど」
「そりゃ速攻で行ければ理想的だけど、回復をおろそかにしちゃダメだよ~」
『ウィリディス(aa0873hero002)』がそう注意を促した。
「下水道には逃げたり捨てられた爬虫類の話は付き物だけど、ここまで大きくなるのは無かったなぁ」
『九字原 昂(aa0919)』がそうボックスの中からライトと携帯食料を持ちだす。
『ベルフ(aa0919hero001)』は装備を確認二人は廊下で共鳴。そのまま扉を開いて全員を誘導する。
「しかも蛇だからな。通路一杯の太さがあっても、なんの支障も無いだろうよ」
「場所的には完全にアウェーだし、少し苦労しそうかな」
そこにはリンカーが全員そろっていた。
悪名高い仕事人も多くいる。
『犬尉 善戎狼(aa5610)』と『アトルラーゼ・ウェンジェンス(aa5611)』
相棒である。『戌本 涙子(aa5610hero001)』と『エリズバーク・ウェンジェンス(aa5611hero001)』もいる。
そんな二人に声をかけたのは遅れて入室してきた『火蛾魅 塵(aa5095)』
「…………クク、奇遇じゃねぇか」
『人造天使壱拾壱号(aa5095hero001)』に携帯食を手渡す蘿蔔。
「なんでテメェらが首切られねーのかねぇ……クク……」
その言葉に犬尉が答えた。
「それはお互い様だ」
その言葉に嬉しくなったのか塵は両手を広げた。
「そうさな、…………ヨノナカが必要としてっからだろ? 俺ら『悪人』をヨ?クク…………」
人造天使壱拾壱号の頭を撫でてから塵は言葉を続ける。
「善人の雑魚どもが群れるっきゃ能がねーから、俺ら悪人が必要なんだろうよ、ちげーかい」
その言葉に犬尉は返答を返すことはしない、言い争いになるのは面倒だし、彼は囮役に志願している。せいぜいその身を削って安全を確保してもらうとしよう。
そう犬尉は思っている。
(荒っぽいのは対人傭兵集団では散々見たがアレらは金で動かないので扱いが面倒だ……HOPE所属の真人間とは仲良くやるか)
だが塵の言葉に遙華はこう返す。
「適材適所よ。群れることも才能の一つ。殺すことも…………。だから頼んだわみんな」
ついに地下世界攻略作戦が幕を開ける。
第一章 蛇の巣窟
リンカーたちはそれぞれのルートで地下に潜ると貯水池を目指す。
道中で昂がインカムの精度確認もかねて作戦内容を再び説明した。
「基本方針としては、囮と調査班とに分かれて突入します」
囮班は正面から堂々と、調査班は息を殺してひっそりと。
下水道の図面も調達してある、しかしかなり複雑だ、地図の読み間違いには注意したい。
「可能な限り迷わない様にしましょう」
囮班が3~4人、調査班は一班が2~3人になる様に班分けをしてある。
調査班は三班できているはずだ。
囮班は他の班よりも人数を多くし、移動中も大きな音を出す等して敵の注意を引きやすくしている。
「囮班が敵と遭遇したらその場に足止めをお願いします。その間に調査班が囮班とは別の入口から貯水エリアへと向かい、可能なら敵が貯水エリアに戻る前に調査しておきます」
蛇のいない間に霊力の塊について調べておきたい。
「敵が貯水エリアに戻るようなら、囮班も合流し全員で敵を撃破しましょう」
以上です、そう締めくくると通信が途絶えた。
その言葉を受けて気分が悪くなったのかたんが絡んだのか塵は唾を吐き捨てる。
「きたない!」
『イリス・レイバルド(aa0124)』が抗議の声をあげるが、塵は涼しげだ。
「下水道で何言ってやがんだ」
「煙草というのもちょっと」
由利菜が控えめにそう言うと、塵はさんざん悩んだあげく。
「そうかい?」
そう言って電子タバコにかえた、電子煙草も問題がまだ多いらしい。匂いが凄まじくキツい、目が痛くなるほどに。
だがこれは考え無しではない嗅覚器官の阻害が目的である。
――ひどい汚染具合だな。
だが塵の素振りに見向きもせず『アイリス(aa0124hero001)』はそう言った。
アイリスは自然を司る妖精である。なので、土壌もひと目見ればわかるのだろう。汚染されていると。
――まぁ、話に聞いた大きさが間違いでなければ相応の音も出すだろうしね、最低でも奇襲を許す気はないよ。
そう盾を構え十字路で警戒するアイリス。
「お姉ちゃんこういう空間でもわかるんだ」
――自然の洞窟なら確実なのだがね。
その体は光り輝いている、遠くからでもわかりやすい。
匂いと光。これほど我が物顔でテリトリーを闊歩していれば敵も双頭刺激されるはずだ。
「どうですか?」
由利菜がそう問いかける。
「気配はつかめない、とりあえず先に進もう」
アイリスを殿に戦闘を受け持つ由利菜である。
「防衛感謝します。かわりに攻撃は任せてください。バトルメディックと言えど、私の資質は『破壊』。単発の威力には自信がありますので」
――回復術をスタンバイする為に、ちょっと火力は落ちちゃったけどね~。
そして一行は瓦礫で道の塞がれたエリアにたどり着く、ここを直行した方が早く貯水エリアにつけるのだが。
「瓦礫を撤去しましょう」
その言葉に由利菜は頷く。
「水の音に混じって、不気味な蠢きが近づいてくるようなら、すぐ臨戦態勢に入りましょう……」
それを酒を飲みつつ眺める塵。あおるのは度数無茶苦茶な例の奴。
「頼んだぜ、嬢ちゃんがた」
そう、手をひらひら降ると酒臭い息をあたりに振りまいた。
その時である。
天井が崩れ。
巨大な頭が露わになる。
そのころには三人は瓦礫に飲まれ。
その瓦礫の上から蛇の咢が食らいついた。
「始まったみたい…………」
そう不安げに震える壁から手を放す『斉加 理夢琉(aa0783)』
そんなに遠くないのだろう、戦いの振動が伝わってくる。
「ええ、うまくやってくれてる証拠。こちらに地図にない道があるわ」
そう『水瀬 雨月(aa0801)』がライトで先を示した。『アムブロシア(aa0801hero001)』はすでに共鳴済みである。
そんな雨月は手元で更新されていく詳細な地図を見ながら蛇を避けて先へ進んでいく。
「まぁ、囮班はあの人たちだし、大丈夫でしょう」
そう信頼を置きながら。
「念のためマナチェイサーを」
そう理夢琉が霊力を放つ。
任務はまだ序盤である。
そんな二人を更なる振動が襲った。
由利菜がその体重と瓦礫両方を押しのけ蛇を吹き飛ばしたのだ。
一瞬で相当な体力を奪われたが傷は追っていない、まだ戦える。
しかし。仲間がいない。
「まさか!」
見れば塵の腕とイリスの羽が蛇の口の中に見えた。
「安易だな! 愚神」
しかしやられっぱなしの二人ではない。
盾で喉につっかえ棒をし。胃液や毒にやられながらもイリスは剣を構える。
霊力の光が陣の顔を照らす。
「煌翼刃・天翔華、重ネ加エ充タセ…………」
「食うか? うまいぜ。亡者嘆叫」
「獄式天葬牙ッ!!」
二人の攻撃がさく裂し、一瞬蛇の胴体が膨れ上がった。
さらに薄くなった蛇の肌の向こうには光り輝き回転する翼がシルエットとなって見える。
煌翼刃派生の合成技である。天翔華と茨散華。切り札を惜しむことなく使った。
直後吐き出され下水に頭から突っ込む二人。
「大丈夫ですか?」
ウロボロスはそのまま姿をかくし、当たりに静寂が戻るまで由利菜は警戒しつつ二人の治療に努めた。
「追撃は…………」
由利菜が口走る。
――やめておいた方がいいかも。
ウィリディスが止めた。
「あの穴からはスムーズに出入りできるはずです」
――現状じゃ、不用意に入らない方がよさそう……もし向こうが飲み込みに来た時、逃げ道がないもん。
――そうだね、それにあちらの寝床はわかっているんだ・
イリスは立ち上がると瓦礫を吹き飛ばす。
煌翼刃・螺旋槍。
「先へ進もう」
囮組は役割を果たしながら先へと進む。
第二章 調査
戦闘音と蛇の悲鳴。それを背後に感じつつエリズバークはぬめる水をかき分けて進んでいた。
案の定敵は囮班に夢中。そしてこのままいけば問題の貯水エリアにたどり着けるはずだ。
仲間の現在位置も問題なくタブレットデータに表示されている。
ここまでは想定の範囲内。
モスケールに反応もないことを確認済みである。
順調だ。
そうエリズバークは視線を持ち上げる。
目の前に蘿蔔がしゃがみこんでいた。下水からすでに通路に上がりエリズバークに手をさしだしている。
「くちゃいですね」
「ええ、服にしみこんでしまわなければいいのですが」
そう答えるエリズバークをみて少し癒される蘿蔔。
(可愛らしい方たちです)
思いつつ蘿蔔は手元の地図に記されたマークに思いをはせる。
「何が原因なんだろう。霊力だけ、じゃないのかな」
もしかすると蛇自体がルネを作るための存在である。ということも考えられるのだ。
頭を悩ませる蘿蔔である。
その間犬尉は奇襲に備えて周辺を警戒している。
しゃがみ込み、地面にアサルトライフルを付け耳元に先端を当てる。
「…………ふむ、不自然な振動は感じられないな」
蛇は一度囮班から離れたらしい。であれば警戒度を高めるべきだ。
そう犬尉は鷹を放つ。スマートホンを持たせて連動、画像も拾いつつ囮として行動させる。
しばらく進むとだ。綺麗に塗り固められていたはずの下水道、その外壁がぼろぼろと崩れている部分があった。
その壁に引っかかるように白く透明な皮が張り付いている。脱皮だ。
「ってことは近くに」
蘿蔔がそう告げた矢先。犬尉がエリズバークの肩を引いて角に隠れさせた。
緩やかな振動。何かが滑るような音、蛇は本来蛇行しながら出ないと進めないが、ウロボロスは体を前後させて進む術を見つけたのだろう。
蛇がこちらに近づいてくる。
犬尉は身をひそめた。しかし相手は蛇の為、生半可な潜伏では意味を成さないだろう。
氷水をMM水筒に仕込み、スカーフや衣類にかけ熱探知を防ぐ。少しでも体温をさげ、周囲の気温と同化する。
次いで犬尉は酒を取り出してあたりに振りまいた。
自分たちの匂いをごまかすため。
しかし、すでに塵が酒をまいていたこともあってそれはウロボロスを警戒させた。
通路に差し掛かる前に速度を増してこちらに近づいてくる。
「後退するぞ、嬢ちゃん!」
犬尉が撤退を指示する中エリズバークはタイミングを計るようにその場から動かない。そして。
「目と匂いは対策しておきましょうか。」
曲がり角から顔を出した蛇、その鼻っ面に香水の瓶を投げつけ消火器で視界をふさいだ。
死角と嗅覚を奪われることになる。その白い闇の向こうから無差別に飛ばされる鱗。
それを弾きつつ、殿を務めるエリズバークは撤退を開始。
犬尉はノクトビジョンを機動。
「捕捉された、一時後退する」
そう弾丸をばらまいて形成、素早く十字路を曲がり蛇の視界から逃げおおせた。
「…………うむ、途切れた」
鷹が見つかってしまったのだろうか、その反応が途切れた。少し貯水池まで遠回りになってしまうが、それは仕方がないだろう。
それだけではない、目の前に瓦礫の山。行き止まりである。
「よし、この辺りは確実にアイツ等が崩す。まぁ、従魔の攻撃でも崩れる可能性がある、十分に注意して進むぞ」
「そそそ、そんなことより、後ろから敵が来るんじゃ」
「大丈夫みたいですわよ」
後方で爆発音、囮組が到着したのだろう。
蘿蔔たちの班はこれで迂回できる。
「霊力、蛇からは特段感じられませんでしたよね?」
遙華が観測した膨大な霊力と蛇自体は無縁に見えた。
蛇を観察していたが不自然な個所も無い。
「もしかするとロクトさんがいるかと思ったんですけど」
「それは、丸呑みにされているという事でしょうか?」
エリズバークが苦笑いした。ぬるぬるになって狭いところに押し込められているロクトを想像していしまったのだろう。
詳しい調査は皆と合流してからになりそうだ。
その別のメンバーはというと。
* *
遊夜はアルマータによりライヴス・熱源を遮断し潜行していた。
貯水エリアまでは戦闘を避ける方針である。
「ピット器官やらを欺けると良いんだが……」
――……ん、やらないよりは……良いと思う。
敵の感知を潜り抜けれるようジャングルランナーで歩数を極力削り、靴裏にタオルキットを裁断し貼り付けて足音や衝撃を緩和する。
その隣を並走するのが昂である。
「敵のテリトリーだから少しも気を抜けんな」
そう首を振る遊夜にユフォアリーヤが告げる。
――……ん、敵は奇襲し放題……退路寸断、通路破壊……好き勝手、出来るもんねぇ
そうため息をついて、何度目だろうか、崩落した通路を迂回する。
するとだだっ広い空間に出た。
一足早くやってきていた様子の雨月、そして理夢琉の背中を発見する。
「うわ、すごい」
二人は巨大な蛇の抜け殻を眺めていた。
すべすべとした肌触りのそれはところどころ破け、綺麗な脱皮とは言っていないようだった。
「脱皮するのが下手な蛇さんみたいですね〜」
そう理夢琉が雨月に言葉をかける。
「湿度が足りないなら水に浸ったり角のある壁とかに体擦り付ければちゃんと剥がれると思うんだけどなぁ」
その雨月の視線は一点に向けられ微動だにしなかった。
「ああ、あれね霊力の塊って」
その前月が示す先には大量の白いなにか。
いや、あれは卵だ百を超える卵がその場にころがされており、中にはもう孵りそうな個体もあった。
第三章 速攻
「こ……これどうします?」
慌てふためいた理夢琉が雨月の方を見る、雨月も冷静ではあったが対処を思いつかないようだ。
「遙華に連絡しましょう」
そうインカムに手を伸ばした矢先。その手を打ち抜くように何かが飛来した。
「え?」
背後を振り返ればヘッドライトを反射して蛇の鱗がギラリと光る。
ウロボロスだ。その巨体をくねらせながらもう突進してくる、どうやらお怒りである。
「きます!」
腹をくくったのか理夢琉は二頭の氷狼を召喚。理夢琉に頭を撫でられると素早く蛇に走り寄り、その体でもって蛇を氷塊に包んだ。
理夢琉は反射的に腰の雪村を撫でる、近づかれたらこれでどうにか。
しかし蛇は凍てつく体などものともせずに突き進んでくる。
「みなさん、もうちょっとだけ時間をください」
その理夢琉の言葉に頷いて蘿蔔はサイトを覗く。
班垂れる弾丸は鼻の少し上。生物学的に蛇のピット器官があると言われている場所なのだが。
「蛇なら冷気に弱いと助かるのだけどね」
そう真っ白な書物を展開する雨月、広範囲からその体力を奪いにかかる、霜の霧。
しかしその巨体は高速で近付き、信じられないほど大きな頭が鎌首をもたげる。
その瞬間である。
「いっけえええええ!」
放たれる理夢琉のサンダーランスが横なぎにウロボロスを吹き飛ばした。
地面を転がる蛇は苦しそうにのた打ち回り、柱を、壁を破壊する。
「さて今回蛇が逃げたのは偶然でしょうか?」
その時背後から声が聞えた。気が付けばエリズバークが卵の前でふむと考え込んでいる。
「あの状況で偶然逃げて、偶然進化した? そんな上手い話があるはずはありません。
何の意図があって蛇を逃がした?」
次の瞬間展開される大量の銃器。
「水、と言われるだけで嫌な予感が致します。早く葬ってしまいましょう」
「ちょ……ま」
蘿蔔が止める前にエリズバークは掃射を始める。
その座った瞳に蘿蔔の声は届かない。
直後怒り狂う蛇。
周囲に毒素をまき散らしながら鱗を発射。リンカーたちは四散し。敵の攻撃を避けるも。
かすった鱗から浸透する毒が徐々にリンカーたちの動きを鈍くする。
「大きな攻撃を仕掛けてくるかもしれません、下がって……」
その時放たれたのは紫色の光線。
それは雨月の左足に命中すると、その肌が石のように硬くなっていく。
「これは……」
動きが鈍くなった雨月を捕食しようとウロボロスが突っ込んだ。
しかしその上空から昂が襲いかかる。
完全なる不意打ち。ザ・キラー。
そのままハングドマンで口をからめ捕りロデオのように蛇を乗りこなす。
「今のうちに」
そう理夢琉が肩を貸して逃げながらも、雨月は冷気を敵に打ち込んでいった。
「そのままいったん退避しろ」
柱の上部に陣取った遊夜が銃口をウロボロスの眉間に向ける。
百発百中の弾丸。それは膨大な出力で打ち出された。
アハトアハトである。
その一撃は蛇の眉間に突き刺さり、脳震盪を起こしたのか、蛇はその場に倒れながらけいれんを始める。
「やったか?」
息を荒げながら遊夜が問う。やはり毒物の影響が強いのだ。
「来ましたわね」
だがこの膠着した状態を打破するキーマンが到着したようだ。
エリズバークは大きな通路まで駆け寄ると、インタラプトシールドで敵の鱗攻撃から身を守る。それだけではなく三名のリンカーの到着を助けた。
エリズバークの隣を駆け抜けていく塵。その拳から放られた魔力球が爆発しウロボロスの顔面を覆った。
その背後から放たれる銃弾の嵐が陣の衣服を切り裂きながらウロボロスに命中する。
ウロボロスは悲鳴をあげた。
――大きい敵はきっといい断末魔ですね! 母様。
「ええ。人の断末魔の方がいいのだけど。今回は醜い蛇で我慢しましょうか」
振り返る塵はエリズバークに向けて中指をってる。
「おい魔女ォ! てめ分かってて巻き込みやがったロォ!」
「わかっていて巻き込まれたのではありませんか?」
「ケンカしてる場合かよ」
そう犬尉は体勢を立て直しつつある蛇へ牽制射撃。その蛇は器用に壁を柱伝いに上り、天井に張り付いてこちらを威嚇する。
放たれる石化のレーザー。
だがそれもイリスには通用しない。
盾で弾き、その隙に戦場の真ん中に由利菜が躍り出る。
「例え範囲攻撃であろうと、この力があれば!」
――降り注げ、生命の雨! アクア・ヴィテ!!
そして雨月の隣に座りこむとその傷を治療する。
――あの魔眼の光線……!! 抵抗力が低いと石にさせられちゃうみたいだよ!
「今すぐ治します! レフェクティオ!」
星空のように彩られる地下貯水池。
「状況は?」
イリスが雨月と理夢琉の盾になりながら問いかける。
「卵を壊して、気が立ってるってところかしら」
「あとは、魔法攻撃が苦手みたい……」
そう理夢琉が告げる。
「なるほど、魔法が苦手ですが……弱点を突き続けるだけでは危険かもしれません」
――物理攻撃ならあたしとユリナに任せて!
由利菜が治療を終えるとイリスと共に走り出す。
「やってくれたわね」
雨月の瞳が冷え切っていく、同時に室内の温度がどんどん下がっていく。
「今度はこちらの番」
壁を伝ってその表面の温度が一気に奪われていった。それはやがてウロボロスに到達し、その体を天井に縫いとめようとする。
「全て凍らせてあげる」
そこへ集中砲火。犬尉、遊夜、エリズバークが動きを許さないほどの飽和射撃をみまう。
たまらずもがき、その身を地面に落すと、待ち受けていたイリスが盾で横っ面を殴った。
放たれる毒液もジャンヌ、エイジス、ティタンがはじいてくれる。
清廉なる光輝は邪毒を受け付けないのである。
それでも抵抗を続ける蛇はその口を大きく開けた。
その瞬間昂が闇から浮上し、その目に腕を突き入れる。あたりに紫色の血が飛び散って周囲を汚す。
その隙に……。
「煌翼刃・迎芽吹」
膨大な霊力を纏った剣の突き。ウロボロスの巨体がわずかに持ちあがる。
その隙に由利菜がトリシューラでの斬撃。
迫る尻尾を由利菜は柄で防ぎ、さらに反撃。
――ユリナ、あたし達は攻撃と回復を一手に担ってる! 負担は大きいけど頑張ろう!
「私も攻勢に転じます! コード・エクサクノシ、起動!」
イリスもその牙をたてではじいて距離をとる。
「煌翼刃・螺旋槍」
回転付きで咢に巻き込まれることを防いで、二人はバックステップ。
放たれた鱗をイリスが盾で払うと。
驚くことに塵が前に出た。
「よぉ、へびちゃんよぉ」
突然身をさらした無防備な誰か、その存在を愚神が逃すわけがない。
「尾を食う蛇、ネェ……?」
その口が塵をひとのみにしようと迫る。
「さぁて喰って貰おうじゃねェの、テメェをヨォ?」
支配者の言葉、その命令は愚神に対して絶対だが、ウロボロスは動きを少し止めた程度で、結局塵を飲み込んだ。
「おう、しくじっちまった。おれちゃん大失態だぜ、てへ」
「笑い事じゃありません」
由利菜が即座に助けに向かう。
遊夜も柱から飛び降り、ウロボロスの上に着地した。走り寄っていく。
「私が口を開かせます」
そうトリシューラをさしこんで、テコの要領で口を開かせる由利菜。遊夜がその中に手を突っ込んだ。
「おいおい、おまえらよぉ、忘れてんじゃねぇか? 攻撃のチャンスだぜ。今。なう」
その言葉にやれやれとため息をついた遊夜。
振り返ると由利菜も頷きその手に爆導索を具現化する。
――1つだけじゃ効果が薄そうだね……。なら、ありったけ食べさせちゃえ!!
「あとで従魔の残骸から回収できるでしょうか……? 爆導索は、現状では再入手が難しいんですよ……」
ウロボロスの口にいろいろ突っ込まれていく。その胃袋の中で塵はありったけの霊力を練り上げていく。
「何を、誰を、食ったつもりだァてめぇ?」
遊夜も上半身を突っ込んで塵の手を掴んだ。
「俺ちゃんを誰だと思ってやがる。逆に食い尽くしてやンよ、憤怒の蛇がヨォ?」
直後遊夜のレーザーコンタクトから放たれた火で爆導索が着火される。
塵のありったけの魔術攻撃で胃袋が膨らみながら何度も爆発を繰り返し。
蛇は悲鳴をあげながら柱のように伸び上がった。
「出来ればしたくない経験だったな……」
――……うえぇ、べとぬるする。
その蛇は胃袋内での爆発の連鎖に耐えるとゆったりとした動作でリンカーたちを見た。
しかし。
「これで!」
トドメと放たれたサンダーランス。それが蛇の顔面に突き刺さり、その膨大な熱量で首を焼き切った。
倒れる巨体。
その巨体を眺めながら理夢琉は思う。
リンカーを捕食するのはなぜなのだろうと。
消化されるのか、ライヴスを吸収するつもりなのか?
そもそもこの従魔はすぐに消えるはずだったらしい、だというのに今まで生きながらえてきたのはなぜなのだろう。
理夢琉は背後を振り返った。砕かれた卵、孵化寸前だった蛇たち。
ここまで膨大な霊力をどこから導いてきたのだろう。
次いでウロボロスの倒れる音。
その体は無数の霊力の光となって周囲を照らした。
すると貯水池の広大な壁が照らされることになる。
そこに記されていたのは。
「これ、見たことあります。確かARKの内部構造では?」
壁一面に壁画として刻まれた海上戦艦ARKの設計図。
それが意味するものとはいったい。
エピローグ
戦闘がおわり、リンカーたちは周辺の調査にうつってた。
モスケールを覗くアトルラーゼである。その隣でエリズバークが卵の殻や中身を採取している。
「霊力の正体…………ね。結局わからずじまいかしら」
雨月がそう理夢琉に問いかけた。
「ルネならともかく、人という可能性もありそうね」
雨月は前回のグロリア社襲撃の事件を思う。
(…………人だったものかもしれないけど。グロリア社の襲撃の際に結構な犠牲が出ていたし)
「たぶんそれだと霊力が足りないと思います。それより、この蛇時折クリスタルの外皮になっている個体がいるように見えます」
(取り込むのではなく、逆に生産…………は流石に突飛な発想かしらね)
「ガデンツァが来ると思いましたが」
蘿蔔は周辺を警戒しながら告げた。
「クイーンに求められるのがトリブヌス級の力だとしたらこの霊力は欲しかったのではないでしょうか」
「むしろ失敗作だった可能性があります」
そう昂が貯水池の奥を指し示すと、そこには巨大なクリスタルの塊が、しかしそれには歯形がついていた。
それも膨大な霊力を帯びている。
「単なる霊力の塊?」
「ガデンツァは失敗した?」
首をひねる少女たち、ただ蘿蔔が思うのは躍起になってクイーンを新たに作ろうとする理由である。
「大切な存在なら、手元においてどこにも出さなければよかったはずなのに」
そう蘿蔔は小さくつぶやいた。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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