本部

水着を買おう!

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/07/18 21:14

掲示板

オープニング

●貴重な水着姿
「プール、ですか?」
「……突然、ごめん」
 H.O.P.E.職員の仕事を終え、碓氷 静香(az0081)の家にいた佐藤 信一(0082)は困惑する恋人に綺麗な土下座をした。信一は静香の家で過ごす日を定期的に設けており、スーパーの弁当総菜や店屋物で食事をすませる静香に手料理を振る舞っているのだ。
 そして、このやりとりはある日の食事後に行われた内容である。
「夏場の静香さんトレーニングは身が持たないので、体への負担が少ないプールでやらせてほしいです!」
『男として情けないと思う部分もあるけど、よく言ったわ信一! 熱中症こじらせて吐くよりマシだし!』
 つまりは、まだ恋人のデートメニュー(鬼)についていけないので容赦してくれ! という信一の嘆願だった。最上級の謝罪方法まで持ち込んで言うほどのことか? と思わないでもないレティ(az0081hero001)だが、昨年は根性だけで食らいつこうとしてぶっ倒れ、最長1週間も寝込んだ実績があるため笑うに笑えない。
「そういうことであれば私は構いませんが、水泳の鍛錬は知りませんよ?」
「え、そうなの? 泳ぐのは好きって聞いてたから、ちょっと意外」
「どちらかと言えば、水泳はストレスを解消するための軽い運動として行っていますから、トレーニング目的ではありません。地上で負荷をかけた鍛錬の方が慣れ親しんでいますので」
『そういえば、プールが併設されたジムでも利用することってそこまで多くなかったっけ』
 静香とレティの会話に、信一はあることに思い至る。
「確かに、僕も静香さんの水着姿って見たことないな……」
 数ヶ月前、とある社長の計らいで健康ランドに招待されたことがあり、静香とレティは利用したが信一は仕事が入って行けなかった。加えて休みが重なる日が少なく、海などにも行ったことがなかったりする。
「着てきましょうか?」
 すると、信一の何気ない一言で静香は自室へと移動していった。
 一瞬呆けて止める間もなかった信一は、ごそごそと聞こえる物音に居心地の悪さを感じる。
「どうでしょう?」
「うん、ちょっと待って」
 次に姿を現した静香を見て、信一は平静を装いつつ内心で焦りを加速させて待ったをかけた。
 静香が着てきたのは、明らかに学生用スクール水着だったからだ。
「も、もしかして今までずっと、それで泳いでたの?」
「いえ、ジムではいつもレンタル水着を利用していました」
『あ~、静香ってレジャー目的で水着を着ることないから、買ってすらなかったっけ……』
 途中から謎の罪悪感に襲われて目を背けた信一の問いに、静香はこともなげに答えてレティも納得する。
「似合いませんか?」
「……目のやり場に困るよ」
 静香の純粋な瞳に、信一は答えを濁すので精一杯。
 スタイルがいいため似合わないとは言わないが、似合っていると褒めるのも何か違う気がするのだ。
「だったら、今度水着を買いに行かない? 1着くらいは自分用の水着を持っててもいいと思うよ」
「……やっぱり、似合わないのですか」
「え?! い、いや、綺麗だよ!? 綺麗だけど、僕以外の前では着てほしくないかなぁ、って!!」
『それはそれで誤解を受けそうな台詞だと思うけど』
 信一の言葉で表情に影が差した気がする静香へ、焦って言葉を重ねるとレティから冷めた声が突き刺さる。
 こうして、信一にちょっとしたフェチ疑惑が浮上しつつ、静香の水着を買いに行くことが決まった。

解説

●目標
 水着を新調

●登場
 碓氷 静香…脱・スク水! が最大の目標。学生時代の水着を真顔で着るほど羞恥心が迷子。

 佐藤 信一…ついでに新しい水着を買うか検討中。基本的にショートボクサー型。

 レティ…買う気も着る気もゼロ。完全に付き添い。

●場所
 いつか健康ランドをオープンした社長が経営する水着ショップ
 スタンダードなタイプからデザイン重視、競泳用、キワドイ系など種類は豊富
 試着室は10室ほどでPC以外にも客がそこそこいる
 健康ランドでのレンタル水着が宣伝となったようで、売り上げはそこそこ好調

●プレ記載のお願い
 PCの来店理由は各々で記述
 他PC・NPCとの絡みはプレ記入必須(相手の名前+台詞等の具体的なやりとり)
 購入する場合はプレ記入必須(ランダムに所持金減少、複数購入可能)

リプレイ

●いざ、入店
「大きなお店ですね」
「健康ランドの社長推薦だけど、完全に系列店……」
『抜け目ないわね、あのセクハラオヤジ……』
 静香は初めて入る水着ショップにキョロキョロ観察し、信一とレティは呆れと感心でため息を漏らす。
「前に行った健康ランドで見たカタログの店か」
「結構楽しみ~」
 時間差で日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)が入店。レンタル水着のデザインを気に入っていたため、経営者が誰か知った上で店に立ち寄った2人の期待値は高い。
「水着を買うのはいいが、1着だけだぞ」
「わかりました」
 また、同じモニターに参加していた東江 刀護(aa3503)と双樹 辰美(aa3503hero001)も来店。
 刀護は健康ランドで競泳水着を強要した負い目から、辰美に『競泳水着以外の水着が欲しい』と言われれば弱い。結果、断りきれなかった刀護は詫びの気持ちもあって辰美の買い物に付き合うことになったのだ。
「水着一杯あるにゃ♪」
「最近は毎日暑いけど、お店は涼しいや」
 次に猫柳 千佳(aa3177hero001)が目を輝かせながら店を訪れ、額に汗が浮かぶセレン・シュナイド(aa1012)が続く。
「此処にいる人たちも水着を選びに来てるんだ……」
「ほう、セレンは水着が気になるのかい?」
 すると、女性客の多さにたじろぐセレンにAT(aa1012hero001)はからかい混じりに笑いつつ、ある一角を指さした。セレンが視線を向けた先には、キワドイ系の女性用水着コーナーが。
「ち、ちがっ!? そ、そろそろ泳ぐには絶好の時期だって話で!」
「あはは。まぁ、夏はなんとなく開放的になるものだし、イベントも多いからね」
 商品自体は元より、それらを真剣に選んでいる数人の女性が目に入ったセレンは慌てて弁明する。
 初心(うぶ)な反応を引き出せたATは実に楽しそう。
「…………」
 が、一緒にいる音無 桜狐(aa3177)だけテンションが低い。千佳から『夏の水着を買うにゃ!』と連れてこられたが、心底興味がない桜狐はセレンの隣でぼーっと店の照明を見上げていた。
「この店ならば、比佐理が着るに相応しい水着も見つかるだろうか」
「……私は、どのようなものが良いのか、よく解りません」
 その後、厳つい37歳の中年・獅堂 一刀斎(aa5698)が見た目12歳の少女・比佐理(aa5698hero001)と『手を繋いで』店を訪れた。
「一刀斎様のご判断に、お任せします」
「うむ!」
 比佐理が静かに一刀斎との喜びつつ水着を物珍しげに眺める姿に、周囲は強烈な違和感を覚えていた。
 外見年齢が親子の割りに近い距離感、本質が人形故か表情が乏しい少女、少女の水着探しに熱意を燃やす中年……総合的な犯罪臭がすごい。
(そろりそろり)
(てくてく)
 すわ、事案発生か? とざわつく中、フィオナ・アルマイヤー(aa5388)が忍び足で入店。その背後で息を殺し、歩調を合わせたグリーンアイス(aa5388hero002)がぴったりと続く。
(きょろきょろ)
(ササッ)
 フィオナが時折知り合いを警戒して首を振れば、すかさず死角へ入るグリーンアイス。
「……よしっ」
「(~♪)」
 安全を確認し、小さく拳を握るフィオナに気づいたグリーンアイスはとてもいい笑顔を浮かべた。
 楽しい買い物になりそうだ。

●水着物色中
「僕は桜狐さんと一緒に水着選びをしてるね」
 女性用と比べて種類に乏しい男性用水着は選ぶのが早いし割と暇かもと思いつつ、セレンは気だるげな桜狐を伴って別行動を申し出た。
「――というわけで、千佳ちゃんは私と一緒に水着を選ぼう」
「了解にゃ! いいのを見つけるにゃよー!」
 それにATは了承し、張り切る千佳と一緒に女性用水着の売場へ歩いていった。

「試着は、何着でもいいんですよね?」
「ああ」
 楽しそうに水着を見る辰美に、ひとまず刀護は好きなものを選ばせてやろうと軽く頷く。が、すぐに男装で隠した辰美の女性らしいスタイルを思いだし、刀護の目は気まずげに水着から離れた。
「あ、東江さんに双樹さん。こんにちは」
「奇遇だな」
 すると、たまたま目があった信一の笑顔に挨拶を返す刀護。
「静香さんも水着を買いに?」
「はい。信一さんに新調を勧められまして」
 辰美も気づいて挨拶を交わし、静香と軽く雑談に興じる。

「み、水着……。ど、どれを選べば……」
「んー、そうねー」
「――んなっ!? あ、あなた、いつの間にっ!?」
「割と最初っから??」
「そんな馬鹿な……」
 一方、水着を前にしたフィオナは緊張で大きく喉を鳴らすと、突然顔を出したグリーンアイスに大慌て。のっけからいたと知って膝から崩れ落ちた。
「アレでしょー。こーいうとこに水着買いに着て、選んだことないんでしょー」
(グサッ!)
 さらにグリーンアイスはフィオナに追い打ちをかける。
「――あたしが選んであげよっか?」
「へ?」
 が、続く言葉で思わず顔を上げたフィオナは、小悪魔じみた笑みの天使と目があった。

「うむ……やはり色は、黒と紫が比佐理には似合いそうか」
 他方、一刀斎は女性用水着を真剣に吟味する中、ふと興味深そうに水着を眺める比佐理を見やる。
「? ……一刀斎様?」
 不思議そうに小首を傾げる比佐理に、一刀斎は頭の中で候補の水着を着せてみた。
「あ、あの……鼻から、血が……」
 一瞬で興奮がピークに達した一刀斎は、焦ったような比佐理の声で我に返る。
 見れば、水着姿の比佐理がこちらに手ぬぐいを差し出してくるではないか。
 まずい、一刀斎の妄想と鼻血が止まらない。
「久しぶりだな、一刀斎。ヘイシズの船で共闘して以来か――って、鼻なんか押さえてどうした!?」
「お、おう……日暮殿、息災か?」
「むしろあんたが大丈夫か……?」
 そこへ通りかかった仙寿が、絵面がヤバすぎる一刀斎に気づきツッコむ。
「一刀斎さんらしいですね! 比佐理もこんにちはー! あ、頭撫でさせて!」
「日暮様、不知火様も……その節はお世話になりました」
 ただしあけびは笑って一刀斎をスルーし、2枚目の手拭いを用意していた比佐理の頭をなでなで。
 無表情ながら喜んでいる様子の比佐理は、されるがままになでられた後でペコリとお辞儀した。
「……お前達も水着を買いに来たのか?」
「ああ、夏も盛り故な。海へ行くにも水着が無くては始まらん。比佐理の社会見学も兼ねて、水着を吟味しに来た次第だ」
「鼻血(それ)は?」
「なに、比佐理の水着姿を想像したら、な……」
 気を取り直した仙寿が話を振ると、一刀斎の返答に納得したと同時に若干引く。
 集まる不審者を見る目など意識の外にあるらしい半ば俗世を捨てたへんた……職人は強い。

「う~ん、やっぱりトランクスタイプが無難かな?」
「彼氏さんへのプレゼントですか?」
「あ、僕、女の子じゃないです」
 さて、こちらは男性用水着を見ている少女……違った、セレンが店員に性別を訂正しつつ品定め。
 しばらく見ていたが、特にこだわりがないセレンはトランクスタイプの水着を選んだ。
「次は桜狐さんの水着か。んー……」
「……わしが選ぶのかの……?」
「べ、別にどんなもの選ぶんだろうとか、気にしてないけど?」
 それからセレンは心ココにあらずな桜狐を連れて女性用水着コーナーへ移動。色鮮やかな水着を前にほぼ思考が止まった桜狐は、目が合った途端に赤面して何やら弁明している青少年に『?』を浮かべた。
「……褌(ふんどし)とサラシでいいじゃろう? どうせじゃから、セレンも褌で泳げばよいのではないかの……何なら何も付けずとも問題はないのではないかのぉ、どうせ濡れるなら……」
「褌はともかく裸はダメだよ!?」
 しかし、世間ズレした感覚を持つ桜狐は野性味あふれる持論を口にすると、セレンに即行でダメ出しされた……うん、面倒くさい顔しないであげて。

「やっぱり種類が豊富だな。で、どんな水着が欲しいんだよ?」
 どこかで少年から少女への切実な説得が開始された頃。
 水着選びに戻った仙寿があけびへ振り向くと何故かじっと見つめ返された。
「えーと、ちょっと大胆に行ってみようかと……?」
「大胆?」
 変な間の後、小声で目線をそらしたあけびの台詞を理解した仙寿は戦慄する。
(普段和服であまり露出しようとしないあけびが? まさか、見せたい相手でもいるのか!?)
 あけびは持ち前の明るさもあって交友関係が広く、的外れとは言い切れない。
「……お前のセンスじゃ変なの選ぶから止めとけ。店員に聞けば無難だぞ」
「私はセンス悪くない方だと思うよ!?」
 故に仙寿は、さりげなさを装ってあけびの『大胆』を阻止しにかかった。
 が、直球でセンスを疑われたあけびが反論した結果、互いの水着を選ぶことに決まる。
(――ってこれ、よく考えりゃ俺の趣味がバレるじゃねーか!)
 しかし、内心で昔の粗野な口調に戻るほどの落とし穴に気づいた仙寿はさらに動揺。
(仙寿様の趣味も分かるし、結果オーライだね♪)
 対して途中からわざと誘導していたあけびは、鼻歌交じりに水着を物色していた。

「うん、男性陣が苦労しているのはどこも一緒か。いやいや、青春だね」
 セレンや仙寿の苦悩が目に入ったATは、実にいい笑顔を浮かべてしみじみと頷く。
「あ、この水着は可愛いにゃね。でもこっちのセクシーなのも……」
 隣ではたくさんの水着に目移りする千佳が、両手いっぱいに候補を確保していた。
「おや。千佳ちゃん、ちょっと大胆にこんなのも似合いそうじゃないか?」
「うお、マジかにゃ!? これは本当に水着なのかにゃ!?」
「大丈夫、一緒に着れば怖くない――なんてね」
「……試すだけならアリにゃね。取り合えず着替えにゃ♪」
「決まりだね。一緒に試着室に行こうか」
 その後、水着選びに戻ったATと千佳はお互いに似合いそうな水着を(ネタを含めて)選び、めぼしいものを一通りそろえてから一緒に更衣室へと向かう。

「よーし、これとかどうよ?」
 仲良し2人組の後にはグリーンアイスが1着の水着をフィオナにあてがった。
「ちょ、ちょっと!? こ、こんなの、誰が……」
「すごいねー。これ、ヒモじゃん。全裸よりエロいって」
 それはいわゆるマイクロビキニ……中でも布面積がごくわずかなやべーやつ。
「まったく隠す気がないでしょう!? ……あれ? もしかして本当に隠すために作られてないの? じゃあ、そもそも水着って何??」
 1発目で水着の深淵に落ちたフィオナは、早々に『水着』の認識が崩れ哲学的な深みにはまる。
「んじゃ、これー」
「ぶっ!? これって、まさか、噂の……」
 次にグリーンアイスが渡したのはスク水。
 吹き出すフィオナの腕には、旧型・競泳型・セパレーツ型など無駄に多種類のスク水が積み上がる。
「アラサーが着ると、えっちなお店のおねーさんみたいだね。どれか着てみる??」
「い、言うに事欠いてなんてことをっ!! ていうかあなた、ふざけて選んでいるでしょう!!」
「てへぺろりんちょ♪」
 爆弾発言をしたグリーンアイスに顔が真っ赤なフィオナは断固拒否し、ようやくからかわれていると気づいた叫びは、舌をぺろっと出したウィンクで受け流された。

「信一さん。これなら学生時代の水着でいいのでは?」
「比較対照が特殊だからね!?」
『……うん、静香、別のところ見ようか』
 なお、グリーンアイスと同じチョイスを真顔で両手にぶら下げる静香に、信一は耳まで真っ赤。
 最終的に紐でも問題ないと言いかねないと感じ、レティが別の売場へ促した。

●お披露目です!!
「落ち着いた色合いのものが似合うと思うよ。こういうのは? 可愛いと思う、けど」
 何とか桜狐に水着の必要性を説けたセレンは、フリル付きでかわいらしいオフショルダータイプを指した。
「……セレンがそう言うなら、一応着てみようかの……」
 すると、消極的ながら桜狐はセレンから水着を受け取り、服に手をかけて脱――
「ってなんで! 試着室はあっちだよ!?」
「……ぬ……」
 ――ぐ前に慌てて手を引かれて、試着室に運ばれた。
「……何処で着替えても一緒じゃろうに……」
「カーテン閉めてぇ!」
 が、丸見え状態で脱ぎ始めた桜狐に叫び、セレンはカーテンを急いで引いた。
「あの、女の子同士でもああいった行為は……」
「あぁ、違います、僕は女の子じゃ……」
 店員とセレンが外で一悶着する中、白い水着に着替えようと下着姿となった桜狐は、はて? と首を傾げてカーテンオープン。
「……セレン、この水着はどうやって着るのじゃ……? ……お主、わからぬかの……」
「まだカーテン開けちゃダメ!」
 桜狐の呼びかけで一瞬見えた下着姿に、勢いよくカーテンを閉じる。
 結局セレンは、女性店員の補助で水着姿となった桜狐を疲労困憊で迎えた。

「あの……一刀斎様」
 他の試着室では違った攻防が始まる。
「いつものように……着付けを、していただけませんか」
 試着室へ入った比佐理がカーテンから顔だけを覗かせ、外で待つ一刀斎に手伝いをお願いしたのだ。
「ま、待て比佐理。水着に着付けも何も無い。そも斯様(かよう)な密室にお前と二人きりになってはこの一刀斎、もはや理性を保つ自信が――」
 そこで衆目より己の理性を問題とした一刀斎はいっそ天晴れだが、彼は見てしまう。
 表情を変えずに潤んでいく……比佐理の瞳を。
 たとえ些細な内容でも、滅多にない一刀斎からの拒絶は比佐理の心を深く沈ませた。
「――了解した」
 比佐理の涙を前にした瞬間、一刀斎は見事に意見を覆し修羅の道へ続く門(カーテン)をくぐった。

「冒険してみました。似合い……ますか?」
 入れ替わりでカーテンを開けた辰美は頬を赤く染め、水着の位置を微調整しながら感想を聞く。
「露出が過ぎるっ! それに紐がほどけたらどうする! 却下っ!!」
 が、刀護は怒鳴ってすぐにカーテンを閉じた。
 辰美の1着目は背中とショーツのサイドを紐で結ぶ、胸の谷間を強調するセクシー系のイエロービキニ。ろくに見てもらえなかったが、顔を真っ赤にした刀護に辰美は確かな手応えを覚える。

「一刀斎様。どう、でしょうか」
「うむ、比佐理の無垢さが良く引き立っている……実に可愛らしい」
 その間、カーテンが閉め切られた試着室では、紫色をしたフリルスカートのワンピース型水着を着た少女を愛でる中年が感嘆の息を吐いていた。

「露出は減ったが……まだ肌の部分が目立つ。却下」
「これも駄目ですか……」
 続いて辰美が披露した2着目は、ハイウエストボトムとオフショルダーの黒いフリルビキニ。
 1着目より大人しいデザインだが刀護のチェックは厳しく、辰美は最後の水着に望みを託す。

「これは……少し、すーすーします」
「幼さと妖艶さの両立――何たる破壊力だ……これは、もはや、凶器……」
 その間、試着密室では胸元の開いた際どい黒の編みビキニを着た少女に、中年が荒い吐息を漏らしていた。

「これならいいですよね? 今までで一番、露出が控えめですし」
「まあ、それならいいか」
 満を持した3着目は、タンクトップとショートパンツ。
 前2着の感触から辰美の顔に自信がうかがえ、実際に刀護からも許容範囲内と言質を得られた。
「それにする……か?」
 しかし、刀護が一瞬レジへ目を向けた隙に、なんと辰美はタンクトップとショートパンツを脱ぎだした。
「――っと。実は、ビキニの上にこれらを着ていました」
 中から現れたのは、薄いブルーに白地のハイビスカス柄のビキニ。
 そう、辰美が選んだのは4点セットの水着だったのだ。
(……だ、騙された!)
 辰美は刀護にとって唯一普通に接することができる女性だが、セクシーさが前2着の中間レベルのビキニは無理。そういえば健康ランドでも、女性はビキニ率が高かったと思い出して赤面した。
「あ、静香さんの水着選びに付き合ってもいいですか?」
「いいぞ……俺は休憩してくる」
 その後、辰美が迷走中の静香たちを指さすと、刺激が強すぎてどっと疲れた刀護は力なく送り出した。

「……うん、仙寿様は柄物って感じじゃないからね!」
 別の試着室では、あけびが裾にさり気なく菊模様が入った黒の水着とパーカーを着た仙寿に満足げに頷く。
(イロモノじゃなくて良かった)
「じゃあ、次は私だね! ――わ、大人っぽい!」
 仙寿が内心で割と失礼なことを考えた後、今度はあけびが水着を受け取り試着室へ。
 衣擦れの音に混じり聞こえたあけびの感想に、仙寿は居心地悪そうに顔を背ける。

「お~、肌にフィットする水着は普通に似合うにゃね!」
「そうかい?」
「……ふりふりの可愛い系は、うん、僕も着てみたけどネタになっちゃうからなしにゃね」
 他方、同じ試着室にいる千佳とATは持ち寄った水着を互いに着せ替えを楽しんでいた。
「ふむふむ、千佳ちゃんにも大人の魅力があるわけだ……ならば、此処を強調するこの水着はどうだろう」
「に゛ゃ!? これは強調以前に防御力0にゃ!」
「私もこれを着るから、ね?」
 イチャイチャ(?)と見せ合いながら盛り上がり、ATと千佳の試着はしばらく続く。

「これは……」
 顔が赤いフィオナがカーテンを引くと、首の後ろで結ぶタイプのビキニを着ていた。
「ホルターネックって、背中がキレイに見えるよねー」
「う……」
「まー、オトナだし、肌白くて金髪だから、黒い水着だといい感じだねー。ブラについてる飾りのゴールドのリングも良いアクセントだしー。んー、いいねいいねー」
「な、なんですか、そのやらしい指の動きは……!?」
 上から下まで視線を行き来したグリーンアイスは、真面目に選んだ水着を前に笑顔で両手をわきわき。
 スースーする背中に悪寒が走ったフィオナは後ずさり――試着室の床に尻餅をついた。
「よいではないかー」
「ちょっ、だめっ……嘘っ!? あっ……」

 ~~○ィオナさんの名誉から描写は割愛します(※健全)~~

「今までフリルの水着が多かったから新鮮かも」
 さて、あけびの試着はフィオナと同じホルターネックのビキニと腰に巻いたパレオが魅力的な水着……だが、仙寿はなかなか視線を向けられない。
「なるほど、こういうのが仙寿様の好み……」
「あんまり足出すなってだけだ!」
 あけびがまじまじと鏡を見つめてようやく、仙寿は言葉を返せた。
 ……特に何を確かめ合った訳でもないけれど。
 英雄以上恋人未満の相手に選んだ水着姿は、似合っていてもどこか気恥ずかしい。
「……これを着る位なら、いっそ、何も着なくてもいいような気もします……? 一刀斎様……ッ?」
 その時、仙寿とあけびの耳に慌てた比佐理の声が飛び込んだ。
「比佐理、どうし――どうしたの!?」
 不穏な様子からあけびが水着のまま試着室へ首を突っ込み、思わず二度見。
「不知火、様……」
 まず、心許ない『紐』を纏った比佐理の不安そうな目とかち合う。
 視線を下げれば、容疑者Iが鼻から床に再現した血の池地獄に顔面を沈めている。
 ヤバい――これガチで捕まるヤツだ。
「一刀斎さーん!?」
 あけびはすぐさま一刀斎を仙寿に任せ、比佐理に服を着せてやったという。

「そろそろATと千佳さんを呼びに行こうか……あ、桜狐さん、帰りにアイスクリームでも食べる?」
「……うむ……」
 水着が決まりセレンが何気なく口にした台詞に、初めて桜狐は自ら行動した。色気より食い気らしい。
「ふふ……はっ、こんな時間か!」
 すると、セレンたちの話し声が聞こえたATが何故か焦りの声を上げる。
「いや、セレンも桜狐ちゃんも待って! 今カーテンを開けられると非常にマズ――」
「……アイスが優先じゃ……」
 慌てるATに構わず、桜狐が一気にカーテンを開けた。

「にゃ?」

「あ」

「ぬ?」

「へ?」

 直後、時が止まる。

 千佳→マイクロビキニ(ほぼ紐)

 AT→ブラジル風水着(ほぼ紐)

 桜狐→怪訝な顔(悪気なし)

 セレン→ばっちり目視(不可抗力)

「失礼しました!」
 で、セレンが一番早く我に返り急いでカーテンを閉めた。
「女性同士でも困ります!」
「……ごめんなさい」
 また店員に注意されたセレンだが、今回は性別を訂正しなかった……男の方が問題だし。

「海水浴やプールで着用するのでしたら、これがいいと思います」
「そうなのですね」
「スタイルがいいので、他にもいろいろ着てみましょう」
 そんな大事故の隣、辰美は自分が選んだエスニック柄の紺色タンキニを着る静香に笑みを浮かべた。
「双樹さん……ありがとう!」
 ちなみに、静香の説得に時間がかかった信一は辰美の助言に心底感謝した。

●お会計
「……ふう。あたしはどーしよっかなー。今年の水着買っちゃおうかなー」
 色々と堪能したグリーンアイスは、床に手をつき涙を流すフィオナに閃いた。
「きーめたっ。フィオナとおんなじのにしよ。何色にしよっかなー??」
「ええっ!?」
 結局、フィオナが黒でグリーンアイスが白の同じ水着を購入した。
「着るときはタンクトップとショートパンツは絶対だぞ!」
「わかってます」
 刀護は着用義務を念押しして、辰美が気に入った4点セットをお買い上げ。
「いい、店だった……」
 比佐理の手を引く一刀斎(貧血)は編みビキニを購入……さすがに紐はやめた模様。
 なお、サービス特価の最安値だった水着と一刀斎の出血大サービスに因果関係はない。
「……ま、着る時があるかはわからぬがのぉ……」
「どれもよくて選べなかったのにゃー」
 桜狐とセレンは手に取った1着ずつ、千佳とATは複数の袋に水着を入れて店を後にした。
 紐? ……何のことやら?
「んー、海に行きたくなってきたよ!」
「一応受験生なんだがな……そういえば、お前も大学受験したいって言ってなかったか?」
 あけびと仙寿も互いに選んだ水着を購入して帰路に就く。
 ふと、仙寿はあけびが元の世界で久遠ヶ原学園の高等部を卒業している筈と言っていたのを思い出す。
「仙寿様が能力者枠を使わないなら、私も英雄としてじゃなく“不知火あけび”として受けるよ。実はもうすぐ高認試験!」
「勉強は!?」
 遊びたいと豪語したあけびにツッコむ仙寿は、八月末に届く高認合格通知で既卒の底力を知る。
「今度一緒にプール行く?」
「トレーニングですね、わかりました」
 そして、信一はショートボクサー型、静香は辰美オススメの水着を手に店を出た。
 ……そこはデートでよかろうに。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • マグロうまうま
    セレン・シュナイドaa1012
    人間|14才|男性|回避
  • エージェント
    ATaa1012hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • アステレオンレスキュー
    音無 桜狐aa3177
    獣人|14才|女性|回避
  • むしろ世界が私の服
    猫柳 千佳aa3177hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 優しい剣士
    双樹 辰美aa3503hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 赤薔薇のにじゅうごさい
    フィオナ・アルマイヤーaa5388
    人間|25才|女性|攻撃
  • 試着室の衝撃(悦)
    グリーンアイスaa5388hero002
    英雄|20才|女性|ブラ
  • 黒ネコ
    獅堂 一刀斎aa5698
    獣人|38才|男性|攻撃
  • おねえちゃん
    比佐理aa5698hero001
    英雄|12才|女性|シャド
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