本部

生まれ落ちた世界

鳴海

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~12人
英雄
5人 / 0~12人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2018/07/17 08:37

掲示板

オープニング

● 目覚めたばかりのエリザは退屈だった。
「ひまだーーーー」
「あの、エリザ」
 遙華が執務室でたまっている仕事を片付けていると、時たまエリザがPCの画面にプログラムを割り込ませて登場する。
 小さなアイコンが遙華のPCに表示されて、フォルダの中味を観たりデータを引っ張り出したりしてる。
 それを遙華はせっせと元の場所に戻した。
「渡し仕事中なの、わかる?」
「外に出たい」
「危険なの、わかる?」
「子ども扱いするの?」
 エリザが告げると遙華はふむと考えた。
「大切に思っているのよ」
「私が、世界最初のAIだから?」
「それは違うけど……そうね。それを伝えるにはもっと適任がいるわね」
 告げると遙華はネットで購入した電子書籍。その中の少女漫画フォルダを開くとそれをエリザに渡す。
「これをとりこめばいいの?」
「………………そうだったわね」
 エリザは電子データなら一瞬で取り込み脳の中におくことが可能だ。
「物語は記憶するものではなくて、楽しむものよ」
「そうなの?」
「ええ、単行本で届けさせるから一ページ一ページめくって読んでみなさい」
 告げると遙華は部下の一人に連絡を取った。
「それを読んでまってて。読み終わる頃には算段が付いているはずよ」
「なんの?」
「あなたに構ってくれる人の算段」
 告げると遙華は一斉にメールを送信した。



● 眠っている間に世界はどう変わったかしら。
 人工知能エリザはしばらくの間眠っていました。
 それは自分の人工知能に欠陥があったためであり。その欠陥は修復され自由に歩き回れるようになっています。
 そのエリザは今。外の世界が知りたくてたまらないようです。
 なのでいろんな場所に連れ出したり。
 皆さんの思い出なんかをきかせてあげてください。喜びます。
 エリザは依然としてガデンツァから狙われる身。ですが遙華の計らいで外に出してあげることにしました。
 皆さんは護衛とエリザを連れ出す役をやっていただきたいと思っています。
 その中でもエリザのオーダーと遙華のオーダーがあり、それらをこなしていただけるとエリザの教育に役立ちます。

・恋がしてみたい
 エリザは少女漫画の影響で恋がしたくなっています。
 素敵な男性とデートしてみたいのですが。
 デートというものが全く分かりません。なので相手に完全に任せたデートになると思います。
  
 この任務には複数の男性が立候補可能です。

・エリザが大切な存在だと知ってもらいたい
 遙華のオーダーです。
 エリザは外に出ることができた嬉しさで自分がまだ危険な状況なのだと理解できていません。
 なので、リンカーで襲撃を行い、撃退するという茶番を演じていただきたいのです。
 ただエリザに知り合いのリンカーだとばれると効力を失うので注意です。

・前にお世話してくれたリンカーの近況が知りたい。
 エリザが最初に製造された時多数のリンカーにお世話してもらい、そのことについて感謝を述べたいそうです。
 会えたら話したい話、聞きたい話。沢山あるそうです。

・エリザに自己防衛能力を持たせたい。
 これは遙華のオーダーですが。
 エリザにある程度自己で防衛できるようになってほしいそうです。
 霊石を使うことで霊力をある程度使えます(リンカーや従魔との真っ向勝負は不可能ですが)
 ただ護身術や射撃術の有無によって生存力はかなり変わるはずです。
 なので。
 戦闘知識の落とし込み。
 および、ボディーに格納できる武装の提案をしてほしいそうです。
 エリザ本人は体に武器を仕込むのを嫌がります。
 理由は実際にきいてみてください。たぶん喜びます。


 

解説

目標 エリザとの一時を過ごす。
 
 今回は皆さんにエリザの学習とおもりをしてもらうことになります。
 その時の注意事項を説明したいと思います。
 今回は遙華からの依頼なのでお金が出ます。

● 外に出る時の注意事項。
 エリザは膨大な量のセンサーと衛星から観測される地域データを元に歩いたり、走ったりしています。
 しかしそのセンサーがうまく効かない地域。
 たとえば電波干渉を受ける地域。
 磁気を発する鉱物に囲まれた地域などは歩く能力が衰えますし。
 また人がすんでいない場所。北極、南極。アマゾンと言った場所はデータが少ないので歩くのにとても苦労します。
 ただそう言った場所に赴き自分でデータを観測することも喜びの一つのようです。

リプレイ

第一章 目覚めの朝

「ああ、遂にこの日が……」
「……ん、長かったねぇ」
 そう『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』は『麻生 遊夜(aa0452)』のネクタイを直す、顔を間近に近くによせて、その目尻に浮かんだ涙を掬い取った。
 そんなユフォアリーヤを抱きしめると二人はポットへ視線を向ける。
 中身の抜かれたポットが持ちあがり、ゆっくりとカバーが上がっていく。
 エリザの意識はすでに覚醒していた。しかしそれは夢を見るように。
 まどろむように。どこか遠いところをさまよう感覚。
 まるで前頭葉の反射のように、自分であって自分で無い行動の群だった。
 エリザはそれを後に。浮遊風景と語る。
 ボディーが解凍されるその日はやってくる。
 エリザが親しい感情をうかべる皆の前で。
 カプセルが開く、纏った服はあの日あの時のまま。
 光がさす。そのほっそりとした指がポットのふちにかかった。
 前かがみに体をゆったりと持ち上げると、その長い髪がはらりと落ち、それをかき分けると美しい色の瞳が、その場にいる全ての人間、一人一人の顔を見る。
 エリザは微笑んだ。
 晴れやかにそして。涙を目尻に輝かせながら。
「おはよう。みんな」
「…………おはようございます、エリザ」
 その左手をとったのは『柳生 楓(aa3403)』
「おはようエリザ。随分なねぼすけさんだね」
『氷室 詩乃(aa3403hero001)』がそう右手をとると、二人は腕に力を籠めてふわっと体を浮かび上がらせる。エリザはそのまま足を延ばしてポット内に立つとそのまま歩いてみんなの前に立つ。
「すごいお姫様みたい…………」
 まぁ、結構ボディーは重いはずなのだが。
「だいぶ遅くなる可能性もあるって話だったが。そっか、エリザもついに本格起動か」
 そう安堵の笑みを浮かべるのは『彩咲 姫乃(aa0941)』その隣の『メルト(aa0941hero001)』はあいかわらずきょとんとあたりを見渡している。
「怖い人もいなくなって。技術も完成したから。もう私の記憶もなくなることはないよ、それに…………」
 告げるとエリザは楓を抱きしめてみんなに行った。
「私を守ってくれてありがとう」
「いたたた」
 そうエリザの腕を叩く楓。目を丸くしてエリザは楓を解放した。
「ごめんなさい、久しぶりのボディーだから」
 思わず全員の顔に笑みが浮かぶ。
「前より子供っぽくなってるか?」
 そう大人しく事態を見守っている遙華へと姫乃が問いかけた。
「子供であることが認められたと思ってるからよ。きっと」
 最後にエリザは機械であることを放棄した。
 泣き叫んで、人間の命令は嫌で。自分のために生きたいと。
 願ったのだ。
 その結果。エリザは自分で選択することを覚えた。
 目覚めないことも彼女の選択だったし。ガデンツァに対して反抗したのも彼女の意志。
「…………それともちょいと時間がたったから記憶が少し薄れただけかな」
「それもあるかもね。まぁ、時間がたてば人もAIも変わるってこと」
「西大寺も変わったな」
「……………………」
 その言葉に答えず遙華は部屋を後にした。
 すると姫乃は溜息をついて、気分を改めエリザに向き直る。
「で? 起きてまず何がしたい?」
「漫画が読みたい」
 姫乃の問いかけにそうエリザが答えると、遊夜が思わず言った。
「寝て起きて、漫画か、最高の生活だな。俺もしたい」
「前は少年漫画とか読ませたような気が…………児童文学とかじゃないからその影響とかはないよな」
 ワイワイと、これからどうしようかという話が盛り上がる声。
 その声を扉で遮って遙華は歩きだす。
 その視線の端に少女二人組がちらついた。遙華は振り返らずに足を止める。
『依雅 志錬(aa4364)』が告げる。
「実際に……遙華や、みんな―ど するか……ど なるか、識ってほしいの」
 相棒はそんな志錬をじっと見つめていた。
「すきにしていいわ、予算は私に申請して。それじゃあ」
 告げて二人はわかれた。
 研究室内の笑い声がまるで無機質な音楽にでも聞こえるほどに、廊下の空気は冷たかった。


第二章 喜び
 目覚めの感動もそのままに、一行は遙華の用意した客間に通された。
 仕事というよりは談笑会。なのでふさわしい場所をという計らいである。
 その備え付けの冷蔵庫から姫乃が人数分のプリンを用意した。
 エリザはそれをつついてニコニコしている。
「姫乃って、お菓子作りできたんだ~」
「あー、まぁな」
「知らなかった」
「隠してたからな」
「え? そうなの?」
「…………ん。エリザ、ひょっとしてプリン食べれない?」
 そう問いかけるユフォアリーヤ、しかしエリザは首を振る。
「消化して取り込むことはできないけど。でもお腹の中にタンクがあってそこで雑菌の繁殖しない、肥料みたいなものに変えられるって…………」
 こう体のメカニズムをせつめいされると変な気持ちになるが。本人はあっけらかんとしているので、特に何も言わずコーヒーをすする遊夜である。
「格好もかわってるよね」
 そうエリザが再び姫乃に視線を向ける。
 以前眠っていた時には身に着けていなかったスカート姿である。
「いや、まあ色々あったんだよ」
「そうなの?」
「まぁいろいろな」
 ちなみに制服風であって制服ではないらしい。いろんな制服着てみたいなぁとぼやいてエリザは楓を見た。
「なんの話をしましょうか。あれから色々と起きましたから」
 そう微笑む楓。
「眠ってた分、これから色んな思い出を作りましょうね」
「先ずは、久しぶりって言うべきなのかしらねぇ。エリザ」
 そうティーカップをソーサーに下ろして『榊原・沙耶(aa1188)』が告げた。
「うん、私の研究に協力してくれてありがとう」
 そう改めてお礼を言うエリザ。
「プリンもありがとう」
「久しぶりね。私達は凍結から何も出来ていなくて歯痒かったけれど」
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』がそう言葉をかける。
「ところで、たびたび起きてたみたいだけど、その時の記憶はあるの?」
「記録はあるけど、記憶はないかなぁ?」
 難しそうな表情でエリザが告げると、大多数は首をひねった。
「自意識が無くてもある程度、あなたの機能は働けるって事かしら」
「そうだね」
 そんなエリザを楓はじっと見つめていた。
 エリザは自分がAIである、と明らかに示されるようなことを言われても気に留めた様子はない。
 しかし、内心傷ついているのではないかと思った。
「その機能でガデンツァを察知して、眠ることを選択していたってこと?」
「一応、眠っているって体裁を保てばガデンツァは騙せるって思ってたから。ロクトもいたし」
 そのロクト。という言葉に、メンバーの半数が反応した。 
「偶然貴女のような上級AIが出来て、ガデンツァが貴女を奪おうとして、偶然ガデンツァの襲撃の後から覚醒した。
 私達は、正直貴女が凍結されてから何も出来ていないわぁ。
 まぁ私は無理言って研究チームの末席にはいたけれど、思わしい成果は出ていなかった筈よ」
「この話、やめませんか?」
 楓がそう口を挟むと。エリザは楓の手を握って。ありがとうと言った。
「私。みんなに守られてばかりだった。目が覚めた時、お父さんもお姉ちゃんもぼろぼろで、私を守ってくれてるんだと思って。申し訳ないとも思ったけど。一緒に…………カッコいいなとも思ったんだよ」
 そして全員を見渡してエリザは言いよどむ、何事かを伝えようか迷っているようなそぶり。
「最初は何とも思っていなかったのだけれどね。ロクトさんがこうなった今は、不自然に思えてくるのよねぇ」
 代わりに沙耶がそう切り出した。
「ガデンツァが、エリザをもう一度狙うってことは考えられませんか?」
 楓がそう問いかける。
「私がいつも一緒にいてあげれればいいけど。そうはなりません」
 エリザはその言葉に頷いた。
「いつでもそばに居て守れるわけじゃない」
 対策が必要だ。何か、エリザ一人でも敵を撃退できないまでも、助けを呼べる時間を稼げるような。
「楓お姉ちゃんが教えてくれる?」
「はい、それはもちろん」
「あと、恋愛相手も」
「れんあ…………え?」
 首をかしげる楓。肩から髪の毛がこぼれて頭を引っ張った。
 そんな楓に向き直って輝く瞳でエリザは告げた。
「呼んでた漫画は女の子同士でも行けるって書いてあったよ」
「えっと、あの…………」
「私、恋愛がしてみたいの」
「え…………それは。そのどこから話せばいいのか」
 楓が困っていると、メルトにプリンをあげ終った姫乃が言った。
「素直につっこめよ、女だしって」
「そこだけではなくて」
 恋人はすでにいるし。エリザはそんな恋愛でいいのだろうか。等々である。
「にしても、恋してみたいなんて面白いね」
 そう詩乃は思う。
 恋は落ちる物であってするものではない、きがするからだ。
「恋すると私も子供、できるかな」
 そうエリザは麻生夫妻を眺める。
「文字通り作れば、できるんじゃないかしらぁ」
 沙耶が無情にも告げた。
「うそです、知ってます、冗談です」
 付託され項垂れるエリザ。
「子供は、男性と女性が○×△□して、!”#$%して、約十か月」
「きゃーーーー」
 顔を真っ赤に席を立ち上がる楓に、咳払いで何とか話を切り上げようとする姫乃である。
「あ、今のは保健体育の教科書を参照しただけで、みなさん一度は目を通したことがあるかと思って」
「そう言う問題じゃなくてな、エリザはもっとデリカシーを学ぶべきだな」
 そう遊夜が苦笑いしながら立ち上がり、頭をわしわしと撫でた。
「うう、ごめんなさい、人と話すのは久しぶりで」
 そう、俯くエリザの方を姫乃が叩く。
「悪いな、恋の話題は力になれなくてな。とりあえずデート初回からがっついて関係を進めようとする男はやめとけ」
 はーい、そうエリザがのんきに返事をして、今後の予定に入っていく。
 エリザと話したいのは全員やまやまではあったのだが、早急にエリザに自衛手段を身につけさせる必要があった。
 
第三章 うねり


「愛しい愛しいエリザの晴れ舞台である! 気合を入れるのだ!」
 そう朝から一番の相棒をぶら下げて、グロリア社警備にあたる遊夜である。
 そんな親ばかを苦笑いで眺めながらエリザと遊夜、そして共鳴済みのユフォアリーヤはグロリア社玄関で皆を待つ。
 集合まであと一時間、早すぎではないだろうか。
「お父さんとお母さんと話す機会があるなら嬉しい」
 そう言ってエリザは遊夜たちに話をねだった。仕事の話。
 孤児院の話。
 そして自営の話。
「エリザは可愛いからな、ガデンツァだけでなく悪い虫も来るはず!」
「これは、ボディだよ」
「いや、性格が美しい、言い寄ってくる男は多いはずだ」
――…………ん、狙ってる人は…………いっぱいだからね、気を付けないと。
「そ、そんな、結婚はまだだよ」
 昨晩も少女漫画を読んで過ごしたらしい。見事に脳みそが真ピンクであった。
「あ、エリザ…………いつからこんなところに立っていたんですか?」
 グロリア社の送迎の車が到着し、二人の少女が下りてくる、楓と詩乃はその厳重なお出迎えを受けると首をひねった。
「おかえりお姉ちゃん」
「おかえり?」
 そんな楓に抱き着くエリザであるが。
「あ! 熱い、エリザ熱いよ!」
 暑いというのは気温の話ではなく、エリザ自身だ。
 夏に差し掛かるこの季節。炎天下の中外で数時間たちっぱなしであれば熱くもなろうが。
「大げさだな、楓は…………。ほらエリザも離れてって…………本当に熱い!」
 そう詩乃が驚きの声をあげると、エリザは詩乃の方を向いて、トロンとした瞳のままにへらっと笑った。
「あ、お星さまが見える」
 そのまま倒れるエリザである。
「エリザあああああああ」
「うわ。楓! ペットボトル持ってなかったっけ。水のやつ」
「そ、それより日陰にまず移動した方が…………」
「…………ん。エリザ、重たい」
「エリザあああああああ、今助けてやるからな」
 場は騒然。軽くなったとはいえ。それでも機械の体ゆえ、運ぶのは四人がかりとなった。
 その後、医者…………兼ボディー調整担当の沙耶に見せたところ。熱中症とのことだった。
「熱中症? あのエリザが…………」
 そうベットに横たわるエリザを見て、楓は言葉を詰まらせる。
「そうですね、熱中症。あれだけ熱かったらそうですよね」
「くそ、俺がついていながら」
 そう自分を悔やんでも悔やみきれない遊夜がエリザにずっと付き添っていた。
「と言っても人間ほど重大なものでもないけどね。エリザのボディーの排熱に無理が生じて一部機能が低下しただけだから。ほらパソコンが熱を持つと動作が悪くなるでしょう?」
 沙耶がそう解説する。
「ただ、エリザは常にグロリア社の隠しサーバーとリンクしてる。本体がどうにかなっても、以前のエリザなら一大事になっていたでしょう。けれど今は全然平気よぉ」
 エリザは現在、グロリア社隠しサーバー内にて全ての人格データ、記憶データを管理されている。
「そう言えば、エリザはどうして、記憶の忘却と言った病気を治したんですか?」
 楓が問いかける。
「これは、私たちだけの秘密にしておいてほしいのだけど。エリザは現在八体いるわぁ」
「…………娘は、八つ子?」
 ユフォアリーヤが首をかしげた。まぁ詳しく語ると夜が明けてしまうので割愛するらしいが。
「とりあえず命に別状はないということよぉ」
 その沙耶の言葉に安堵のため息を漏らす沙耶である。
「また、どこか悪くなってしまったんじゃないかと」
 そう楓はエリザに歩み寄り、その髪の毛をおでこから払った。
「無事ならよかった……また会えなくなるのは、嫌ですから」
   *   *

 さて、朝っぱらから大騒ぎだったが昼頃を過ぎ全員がお昼ご飯を食べたところでカリキュラムが消化されることになった。
 今日は本来エリザの装備の話をするために集まったのだ。
「大変ご迷惑をおかけしました」
 そう頭を下げるエリザをはげます一行。
「気を取り直してエリザ自身の話をしよう、な」
 遊夜がそうエリザの使っている物と同じ、腕パーツや足パーツを眺める。
「ほう」
「あの…………あんまり見られると、はずかしくて。その」
 そう遊夜の顔を直視できないエリザである。
「パッと見何も持っていない状態から不意を突く方法だな」
 そう真面目な顔で告げた遊夜。
「……ん、撹乱するの……時間稼ぎが、大事」
 仕込み銃、しかも散弾であれば狙いをつける必要もない。そう遊夜はアドバイスする。
「……む? 気に入らないか?」
「……何でか、聞いてもいい?」
 そうユフォアリーヤがカクリと首をかしげて問いかける。
 どんな理由なのか、ドキドキな麻生夫妻である。
「すごくアナログだなっておもわれないかな、私AIなのに、もっと映画みたいなハイテクさを出さなくていいのかな」
 その発言には苦笑いを返す遊夜。
 どうにも、リンカー一同とエリザの認識がかみ合っていない。
 話がすれ違ってしまう。
「貴女が戦闘出来るようにって事みたいだけど、それは貴女の本意なのかしら?」
 たまりかねて沙羅がそう尋ねた。
「兵器へのAIの転用。その派生で産まれた貴女は、AIが兵器になる事を忌み嫌っていたわよね」
「はい」
 そう瞳を閉じて小さく頷くエリザ。
「なら、今回の話は貴女にとって複雑でしょう? 嫌なら嫌と言っていいと思うわよ?」
 そう沙羅が告げるとエリザは全員を見渡した。
「貴女が戦えなくても、誰かが護ってくれるわ」
「わかったから、私に意志があれば、私は平気なんかにならないって。思ったから。私を守ろうとしてくれるみんなのことかっこいいって。だから私が今度はかっこよくなりたい。それが、寝て、目覚めた私の最初におもったこと」
「それならいいわ」
 そう沙羅が告げると遊夜と話し始める。
 散弾じゃなくてレーザーにしてみたら、とか、指からレーザーとか。
 そしたら照準がどうとか。
 その裏で楓が盾を持ってエリザの前に立った。
「時間稼ぎなら、これが一番おすすめです」
 そう練習用の盾をエリザに手渡す。
「エリザ、いつも私がそばにいて守れるわけじゃない。それだけは覚えていてください」
「はい」
「盾は視界が塞がることに注意してください。相手の攻撃をなるべく芯でとらえないと盾がそらされることがあります。構えは地面に衝撃を逃がせるように常に……」
「ちょ、ちょっとまって……」
 あわてて楓の見よう見まねでポーズをとってみるエリザ。
 その盾を詩乃が押した。するとよろめくエリザ。
「力の受け方を計算してください」
「了解です、力学演算を始めます……で計算してどうするの?」
「足から地面に逃がすように意識して」
 詩乃が言葉を継ぐ。
「相手の攻撃に対して対抗しようとしないで。あくまで力を逃がすようにして。でないと、その力も相手に利用される」
「ベクトル演算にそれも加えます」
 エリザは体が重たいのでもともと俊敏な動きは無理である。かわりにパワーは有るので、盾は向いているように思えた。
「同時に片手剣の練習もしてみましょう」
「え! だって殺しちゃう」
「武器を持ってるぞっていうのはとても牽制になるよ?」
 そう詩乃が剣を手渡すと、それを楓の盾に叩きつけるエリザ。
「こうかな?」
「ふふふ、まず持ち方からですね」
 そう小さく笑うと楓は装備を解いて、構えと剣筋を丁寧に教える。
 それをエリザはみるみる吸収していった。
「どれも、この数年で私が身に着けた技術です」
「本当に色々あったよ。北はシベリア、南はアマゾンまで行ったもんね」
 詩乃が告げると楓はエリザに向き直り盾を内蔵させるべきだと主張。
「剣が嫌なら盾だけでも大丈夫、盾は自分や誰かを守るための武器で傷つけることは絶対にないから」
 そう諭すように穏やかに告げられたエリザは、うん。と熱にうなされたように頷く。
「盾は、誰かを守るために存在するんです。自分や守りたい人を、悪意から守るために」
 その言葉にエリザは頷くと。ちょうど話の切れ目と思ったのか遊夜が声をかけてきた。
「内蔵するだけが備えじゃないからな、グロリア社からありったけ護身用アイテムを借りてきたんだ」
 そう遊夜が紹介したのは傘やコンタクトレンズ、髪飾りに組み立て式拳銃、手袋など普段使う物に紛れ込ませられるもの。
「特にビームには世話になった」
 そうコンタクトレンズのケースを握って遊夜はつぶやく。
「……ん、視線を向けるだけで良い……両手が開いてると、敵は油断する」
 しかも、レーザーと言っても並の威力ではない、何かの助けになってくれるはずだ。
「レーザーはすごくいいと思うよ、お父さん」
「銃は?」
 そう遊夜が手渡す。
「武器は持っていることを主張するだけでも効果があるんだ」
 そう詩乃は先ほど話していたことをもう一度主張した。
「あつかい方はデータとしてはあるけど」
「……ん、体で覚えるのが一番」
 そして遊夜は大中小様々な銃の持ち方と撃ち方を教える。
 他にもより実践的な知識を交えながらのレクチャー。
 足を狙って気を逸らしたり撹乱と継戦能力を落とす狙い方を伝授。
 逃げるためには役に立つはずだ。
「視覚は重要だからな、それに気を取られると他が疎かになる」
「……ん、フラッシュバン……目潰しも、有効」
 そう武骨な手りゅう弾をいくつかエリザに渡すと、エリザはそれを鮫のポーチにしまっていた。誰からもらったのだろう。
「そして、やれることは全部だ。これから護身術の授業に移る」
 エリザの前に立ったのは楓である。
 まだ、パワーの調整がうまくいかないため頑丈な人が相手の方がいいらしい。
「あいての力を利用しろ」
「それならさっき力学の計算を済ませました。こう来たらこう」
 そうエリザは楓の柔道着の裾を引こうとすると素早く楓がしゃがみこみ。
 力をすかされる形となったエリザの腕の関節をとって逆方向に締め上げようと。
「けど私の腕は特注品」
 その瞬間、エリザの腕が人間の関節とは逆方向に曲がった。
 衝撃で壊れないようにと組み込まれた機構らしい。
「けど、それに気をとられていてはだめですよ」
 その瞬間、楓は突っ込むようにエリザの体に体重を乗せた。倒れ込むエリザ。
 その上で素早く。体制を整える楓。
 胸元に体重を預け。両腕を膝で抑え抵抗できなくする。
 いくらメカのパワーとはいえ。これでは動きようがない。
 一本取った、そう思った楓が何か冷たいものを感じて首をそらす。
「どうしたの?」
 エリザが首をひねる。
「いえ、殺気を感じた気がして」
「ああ、もしかしてコンタクトレンズがあったらこういう時に役立つのかなぁって思ってはいたけど」
 レーザーが出るコンタクトである。
 そんな発想に親ばかは感動していた。
「そう、それだエリザ。成長したな」
 次に行われたのはロールプレイ。
 障害物のある部屋で実際に遊夜がエリザを襲撃して見せるという訓練。
「襲撃に来る場合相手はすべてを計算してると思った方がいい、場所も相手にとって有利な場所が選ばれてるはずだ」
 障害物に身を隠してペイント弾をやり過ごすエリザ。
「えええ、ちょっと無理かも」
「こんなんじゃ、本番が来たとき、連れ去られることになるぞ」
「本番?」
 エリザが首をかしげる中、遊夜は別の人物に思いをはせている。
(……何故か志錬が本気出してるからな、応援してるぞエリザ)
 奴を退けることができればたいていの事には対応できるだろう。 
 そう謎の信頼を寄せる遊夜だった。



第三章 価値
 その日。少女二人は町に出ていた。
 エリザと姫乃のお買いものデートと言ったところか。
「休日ってみんな町に出るんでしょ?」
 そうエリザが問いかけると姫乃は苦笑いをする。
「いや、どうだろうな。俺は家とか孤児院にいる方が好きだけど」
 告げるとエリザは首をかしげる。
「エリザって俺が孤児院通いなの知らなかったか?」
「……知ってるけど」
「ああ、そのことか、気にすんな」
 姫乃はそう気軽に笑う、触れてほしくないのは確かだが、気遣いは嬉しい。
「最近忙しい?」
「まぁ、本人がやる気だからさ」
 今日だって仕事だって言って無理やり練習をことわってきた。
 あの少女は最近意欲的で怖いくらいだ。
「あれから色々あってな、お姫様を見つけたというかだな」
「それはいろいろだね」
「なんか流れで王子様とかやっているが。
 いや、正確に言うと友達が出来てな、その夢を叶えるために奮闘していたんだ」
 驚くほど街中ではステージに立つ人物を探していて、車いすのお姫様もかなり人気があるようで。
 学校に息ながらのレッスンは辛いが、正直楽しかった。
「その結果としてその子の夢と一緒に並び立っちゃったと言うか」
「遙華がこの前DVD用の映像チェックしてた」
「なんだ、知ってるじゃん。意地悪だよなぁ」
 そんな完全にリラックスしきった会話が、ヘッドフォンの向こうから漏れている。
 暗がりでその声を聴いているのは志錬。
 すでに彼女が休日この場所を訪れるのは彼女の耳に入っており、襲撃のための車輌も抑えてあった。
 遊夜が言っていた。襲撃する相手は獲物の事を調べ尽くしてから襲撃すると。
「……でる、今がチャンス」
 そう志錬は車の中から飛び出した。
 今回の襲撃の目的は『実際にエリザが拉致された際のグロリア社/HOPEの反応を知ってほしい』という事、そして。
「エリザさがってください!」
 立ちはだかる楓、護衛で周囲に潜んでいたのだ。
 だがそれも想定通り。
「……それでいい」
 放たれる銃弾からエリザを守って楓はエリザを適当な店舗に押し込んだ。
 初撃は防がれたが、これは防げまい。
 そう志錬はフラッシュバンを投げ楓をその場に釘付けにする。
 店舗の中でエリザの身を伏せさせ耳打ちするようにはなす。
「くそ、先手を取られるとよえーな。得意分野なんて瞬発力くらいだからな」
「走って逃げる?」
「エリザには無理だな」
 告げると姫乃はエリザの装備を確認する。
「ほら、催涙スプレーとかライトとか。防犯ブザーとか」
「レーザーはある」
「そ、そうか。それはなんというか」
 直後ガラスを突き破って入店する黒い影。
「遊夜先生……いない、取った」
「そうか、おまえ、そう言う事か、けどな」
 燃えたつ姫乃の髪。
「俺からお姫様奪おうなんざ。冗談でも許されねぇぞ」
 直後空中に放った催涙スプレー。
 それを空中で切り裂いて姫乃は内容物をあたりに散布させた。
 当然それはリンカーにきかない。
 しかし視界を遮断する効果はあるが。
「……通用しない」
 志錬は鷹の目を持つ。少し視界が曇ったくらいなんだというのだ。
 だが一瞬の隙になる。そう思って振り返る姫乃、しかし。エリザは武器を構えていない。
「こわい」
 そうか細く鳴く声だけが姫乃の耳に届き。
 そして。
「させません!」
 次いで突っ込んできた楓に志錬は吹き飛ばされることになる。
 エリザのすぐそばに。
「エリザ、逃げろ!」
 しかしエリザは動けずに志錬に手を取られてしまう。
「……一緒にきて」
 そのまま志錬はエリザを連れ出し走ると、外に止めてあった車にエリザを放りこんで。
 そして車は走り去った。
「エリザが!」
 血相を変える楓だがその肩を姫乃が叩く。
「あっちゃー、本人に逃げ方も教えないとダメだな、いざって時に動けなけりゃ厳しい」
「何でそんなにのんきなんですか」
「ああ、あれな、フードの中見たけど知ってるやつだった。たぶん訓練かなんかだろ」
「え?」
「それにエリザもついてったろ、リンカーでもあれだけ重いエリザをすんなり連れてくのは骨だし、エリザも分かっててついてったとおもう」
 そこまで言って姫乃はグロリア社に連絡する。
 そして社内ではすでに種明かしが去れていた。
「大丈夫、今回の事は訓練」
 そう志錬は身分証明書をみせる。
 知らない少女だ。そして腹の中が読めない、本当に信用していいか分からない。
 けれど。
「悪い人ではない?」
「それは、自分でもよくわからない」
 そう志錬が言葉を返すと安堵したようにエリザは溜息をつく。
「どこに向かってるの?」
「…………追っ手が無いか確認した後に」
 そうエリザに志錬はグロリアス・ザ・バルムンクをエリザに持たせた。
「これは?」
「……本物の護身」
 志錬はゆったりと答える。
 この襲撃訓練中も敵が来る可能性はあるのだ。
 それを忘れる志錬ではない。
 ただ、グロリア社に向かう道中特に何事もなく今回の訓練は終わった。
 その後先生からのお説教があったとか、なかったとか。それについてはまた別の話である。
 

エピローグ
「あなた、自分がAIであること受けいれてるのね」
 そんなエリザとの日々をリンカーが送る中、沙羅が唐突に切り出した。
「私は、貴女がロクトさんを理解する鍵なんじゃないかって思っているの」
 沙耶を交えた三人のエリザの診察の時間。沙耶との時間は恒例になっており、エリザが言い出した時間でもある。
 対価は近況報告である。
「私は今も昔も変わらないわね」
 今日は沙耶の番だった。
「研究ばっかりだから。研究馬鹿なんて揶揄されるけど、それが私だから仕方ないわねぇ。エリザは、真似しては駄目よ。好きな事でも程々にねぇ」
「ねぇ、私に鍵があるってどういう意味?」
 しかしエリザはロクトの話が気になったようだ。
「ロクトさんが、何か置き土産をしている可能性があるからねぇ」
「あるなら、もう見つかってるんじゃない?」
「暗号化されているかもしれないわよぉ」
 沙耶が言った。
「暗号……、あ」
 そう意味深な声を出して何事かを話しだそうとした直後である。扉が力強く開いた。
「エリザ! 女の子が好きかもしれないんだって?」
 飛び込んできたのは遊夜である。
「ええ! 誰が話したの!」
「誰が話したとか関係ない、パパに詳しく話してみなさい」
「関係なくない! だってお父さんには言わないでってお願いしたのに、誰かが私を裏切ったってことだよ」
「お父さんは許しません?」
「女の子同士の恋だから? それにかもしれないだけで私はまだ……」
「厳密に言うとエリザって、女でも男でもないんじゃ?」
 その騒ぎを横目にいらん茶々を入れる沙羅である。
「女の子同士はいい、けど何で真っ先にお父さんに相談してくれないんだ」
「だって、恥ずかしいし」
「反抗期だ!」
 そんな荒れ狂う遊夜をユフォアリーヤが黙らせると二人の後ろをついて診察室を出るエリザ。
 今日は遊夜たちとデートした後孤児院に泊まるらしい。
 ちょうど麻生家の双子が可愛くなってきた時期らしい。
「ほーれ、おねぇちゃんが来てくれたぞー」
「……ふふ、喜んでるねぇ」
 そう微笑むエリザと泣いたり笑ったりする赤ん坊と共に麻生家は賑やかな終末を過ごした。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • もっきゅ、もっきゅ
    依雅 志錬aa4364
    獣人|13才|女性|命中
  • 先生LOVE!
    aa4364hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
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