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想いを籠めて
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/07/09 13:22:37
オープニング
●何か
今日も一日が始まる。
「それでは次のニュースです――」
読み上げられていくたくさんのニュース。
愚神、H.O.P.E.、エージェント、リンカー。
昨日はどこどこで戦闘が、それによる犠牲者が、責任が。
数字で加算されていく犠牲者達。
季節はもう夏になるかというのに、戦闘は終わらない。暗いニュースが紙面すらも埋めていく。
何か。
何か出来ないのだろうか。
どんな些細な事でもいい。
戦いから一呼吸置ける何か。
それでいて、的外れではない何か。
「何か無いのかな……」
彼女の職業は雑誌編集者である。
いや正確に言えば兼雑誌編集者である。
より正確に言うならばなんでもやると(自称)評判のリンカーである。
だからこそ、彼女は手元のそれを見て、思いついた。
妙案では無いかもしれない。
でも動かずにはいられなかった。
●御守り
H.O.P.E.の依頼斡旋のスペースに、その紙は貼りだされていた。
『御守り作りませんか!』
でかでかと書かれた見出しの下には、日時や場所が書かれている。
誰が参加してもいい。
籠める想いもなんだっていい。
死地へ向かうあの人へ。
受験を控えたあの人へ。
健康祈願、安産祈願、無病息災、商売繁盛、恋愛成就。
なんだっていいのだ。
その人の為に、貴方の為に。
想いを籠めたものならば。
解説
●目的
御守りを作る。
●場所
H.O.P.E.東京海上支部の広い一室。
テーブルや椅子が多く設置されており、壁際に設置された机の上には色とりどりの布や糸など、御守り作りに使えるものが揃っている。
●補足
材料の関係上、作れるのは一人一つまで(能力者一つ、英雄一つ)。
持ち帰りOK。
不器用な方の為に手芸得意英雄も待機している。
リプレイ
●望みは
御神 恭也(aa0127)は布を前に唸っていた。
「流石に商売繁盛は不味いよな……」
商売人であればまだしも、御神の職業が職業である。繁盛はちょっと、まずい。
彼の英雄である伊邪那美(aa0127hero001)も同じくどんなお守りを作ろうか悩んでいたが。
『う~ん、此処は一番望み薄な恋愛成就の御守りを作ってあげるべきかな?』
考え悩みつつも、願い事が決まらねば自然と選ぶ手も止まってしまうというもの。
「さて、何を願って作るべきか……」
なかなか布を取らない御神の隣で彼を見上げ、伊邪那美は首を傾げる。
『恭也は誰の為に作るつもりなの?』
「伊邪那美達の為と思ってたんだが、何を願うかがな……」
再び唸る御神。
「無病息災にしても病気に掛かりそうに無いし、家内安全もな。家の外の安全を得る仕事に就いてる事を考えると何か違う気がしてな……」
伊邪那美がただの少女であれば前者は有効であっただろうが、英雄は病気にならないというのが現在のH.O.P.E.の見解だ。後者に関しては家族に事故や病気がないことという意味ではあるが、字面を考えれば首を傾げてしまう。
『なら、戦勝祈願にしたらどう?』
終わりの見えない戦いに勝ち続けられるようにという伊邪那美の言葉だが、「血生臭いのはちょっとな」と考え込む御神である。
「少し前なら受験で合格祈願だったんだが」
『う~ん、なら実家のおばあちゃん達に無病息災の御守りを作ったら?』
「病魔の方が逃げ出しそうだが、その案で行くか」
強い祖父母の事を考えつつも願いの内容が決定。お守り作り開始である。
ただ黙々と縫って縫って縫って、時折手を休め目を休めて糸を足しながら縫い続けて。
完成したお守りはというと。
「性格が出てきてるのか、出来の違いがはっきりと出たな」
そう言う御神の作ったお守りは縫い目が荒く、強く引っ張れば解けてしまうのではと心配になる作りだ。
器用不器用があるのかもしれないが、伊邪那美の作ったお守りと並べると一目瞭然である。
『恭也のは適当過ぎるよ。紐の結びも二重叶結びにしないでちょうちょ結びにしてるし』
「叶結び? 神社で売られて物はちょうちょ結びだったと思ったが」
顎に手を当てつつ考える御神へ伊邪那美は自身が作ったお守りを差し出す。
確かにぱっと見は蝶々結びのようにも見えるが、特に結び目が大きく異なる。
『ほら、ボクのを見て見なよ。結び目の表が「口」、裏が「十」に見えるでしょ? 他にもあわじ結び、玉房結び、吉祥結びって言うのがあるんだから』
本人曰くではあるが、神を名乗る伊邪那美である。彼女が作ったお守りは出来が綺麗で、丁寧に縫われたのが縫い目からも分かる代物だ。
そんなわけで。
『結び方を教えてあげるから結び直して。あと、縫い方も雑だから一針一針思い込めて縫い直し』
「いつもと立場が逆だな……」
手厳しい英雄の言葉に再び同じ布を調達し、針に再度糸を通す。
「思い込めて縫えって事は千人針の要領だな?」
『……千人針が何だか分からないけど、なんとなく間違ってる気がするよ』
要領は間違っていないが、なんだかベクトルがずれている御神であった。
ちなみに。
「ところで、伊邪那美は誰の為に何の御守りを作ったんだ?」
指導を受けながらも御神が問えば、伊邪那美は淡々と。
『恭也の為に恋愛成就』
「特に好いた異性はいないんだが?」
『だからだよ。まあ、恋愛成就って言うよりも良い人が見つかる様にって感じで』
どうか出会いがありますように。
「あまり、興味が無いんだがな……」
ぼやく御神の言葉は華麗にスルーして、伊邪那美による指導は御神のお守りが完成するまで続けられるのであった。
●君を守ってくれますように
木霊・C・リュカ(aa0068)と凛道(aa0068hero002)、紫 征四郎(aa0076)とユエリャン・李(aa0076hero002)の四人は同じテーブルを囲んでお守りを作成していた。
「本を綴じるのならそこそこやったことあるんだけどなぁ」
失敗作をそっと横に避けつつぼやく木霊の隣では凛道が黙々と縫い続けている。
『針と糸で……ほー、器用なものだな』
その作業を覗き見るように身を乗り出したユエリャンの隣、征四郎は「が、がんばります!」と意気込んでいる。
手先はあまり器用ではない征四郎にとって、針仕事は苦手とするところだ。それでも一生懸命気持ちを込めて、完成を目指す。
逆に手先は器用であるものの針と糸での作業は初めてなユエである。
『彫金の方がまだ勝手がわかるであるぞ』
とは言いながら、『母』である英雄は針を片手に微笑む。
『しかし編み物とか刺繍とか、此方では母の嗜みらしいではないか』
ならば今日はせめて作業工程だけでも覚えて帰りたいと、見様見真似で布を縫い合わせていく。
そんなユエリャンに見られている凛道の指先は澱みなく、せっかくだからと日本のお守りをスマホで検索し、柄や形を真似て刺繍を施していく。
『竜胆、君すごく器用なのだな……』
習うよりも慣れろではないが、母たるユエリャンは人の手元を見て覚えるタイプである。習う必要は無いが出来る人物がちょうど目の前にいたため、ついついジト目になりつつも指先を追う。
『特に練習したわけでは無いのですが、不思議ですね』
裁縫も刺繍もお手の物。手際がいいのは勿論だがそこに丁寧さもプラスされている。黒猫がわちゃわちゃしている様子を装飾しながら、凛道は時折手を止めて他のメンバーの手伝いも行ってしまう。
「リンドウ、ここは裏がえしでいいのですか?」
『はい、そうです。縫い目が中に隠れやすいようにこういった形で……』
征四郎が作っているお守りは兎の形にしたマスコットだ。
無意識に、手触りの良いフェルト生地の中でもさらに厳選して。触れるだけでこのお守りだと分かるくらいに特別に。
難しい部分も全て自分でやりたいのだと、感謝を伝えながら手伝いは辞して。
込める想いは――大事な人へ。
『怪我をしないで欲しい』と思うのは、きっと当たり前の気持ちだ。抑えずに言ってしまえば、戦場へ出て欲しくは無いとも思う。
信頼していないわけでは無い。弱いと思っているわけでも無い。大事だから。命が脅かされるその場に居て欲しくない。
けれど。
(征四郎は戦います。リュカも、きっとそうする)
戦うことで、大事なものを守れるのならば。きっとそうする。皆そうする。彼も、自分も。これまでも、これからも。だからこそ。
(お守りを。気休めでもいいのです)
数多くの戦場を共にしてきた、大事な人へ。
わたしはいつも、リュカの側にいるのだと。
1人では無いんだと。
それが伝わる温かさを、どうか。
『マスター、指に針が刺さりそうです……』
最後まで言い終える前に、針は木霊の指を思い切り刺していた。
『……すみません遅かったですね』
新しい絆創膏を取り出している間に木霊は針をほっぽって机に突っ伏し泣きべそをかき始めた。嘘泣きである。
そうしている木霊の指にはいくつもの絆創膏が貼られていて、えぐえぐと嘘泣きを続ける木霊に凛道は手早く絆創膏を巻き付けていく。
木霊自身、不器用なわけではないはずなのだ。しかし、年月というものがある。木霊が記憶している限り中高の家庭科以来の裁縫で、慣れていないにもほどがある。
加えて言えば日常生活において。三十路男性である能力者は多少のほつれを縫い繕うよりも買い直しを選んでしまうのだ。
その為、木霊は拡大鏡を併用しながらも必死にちくちくと縫っているのであった。
「ふええ……ユエちゃんも同類だと思ってたのに……置いてかれてるよぅ……」
外見の年齢だけで言うならば木霊に近いユエリャンの方をちらちら見て、進み具合にまた泣きべそをかきそうになりながらも手は止めない。
既製品ではない手作りで、気持ちだけでも返したいから。
「……」
刺して、引いて、縫って、留めて。
繰り返しながら思うのは以前征四郎にもらったお守りのブックマーカーのこと。カバンの中にしっかり収まっている大切なものだ。
そのお返しにと心を込めて、描いた完成図に向けて作業している……はずなのだ。
だがちょっと、ちょっとだけ、完成まで先が長い。技量不足的な意味で。
●あなたの側に
各々が仕上げに取り掛かる。
『お守りの中を覗いたことはないのですけれども、何が入っているんでしょうね』
素朴な疑問を口にしながら、凛道は『願守り』と刺繍する。お守りの種類がたくさんあった為、何でも叶うようにという願いからだ。
想いを込めて、封をして。
二重叶結びも器用に作ってしまえば、なかなかの出来栄えだ。
『結構可愛くできたのではないでしょうか!』
言いながら、親友であるユエリャンへお守りを渡す。
満足げな凛道へ、感謝と共に押し付けられるのもまたオーソドックスな形をしたお守りだ。
『練習作で出来が悪いから、これを息子に渡すわけにはいくまい』
布製の、夜を思わせる紺色。三日月の形をした刺繍は多少歪んでいるが三日月だと分かる程度の形は成している。
初めてにしては上出来な内に入るお守りは、初めから凛道に渡すつもりで作られたものだ。
『……また、帰り道がわからなくなっても。月であれば見えるであろうよ』
迷わぬように、標となるように。
英雄たちが渡し合っているように、能力者たちもまた出来上がったお守りを渡したい相手へ差し出していた。
「いや、ほら、あれだよ。その……気持ちだけはいっぱいこめたんだ……」
木霊は征四郎へ。
リボンで縁をくくって止めてある……歪な形をした袋のような物。
たくさんの絆創膏を宿した指先でそっと持ち上げて、少女の手の中に。
「無病息災、健康祈願、家内安全交通安全。何と木霊神社のお守りなのでこの度特別にせーちゃん守りの効能もあるよ!」
いくつもの守りと、とびっきりの効能を。
込められた想いが心まで守ってくれるように。
「ありがとうございます、リュカ」
感謝を。それから、思いを掌に乗せて。
お返しに木霊の手の上へ自分が作ったお守りを渡す。
触れただけで縫い目ががたがただと分かる、世界にただ一つのお守りだ。
「少々不恰好ですが、思いは込めましたので!」
木霊の感想も感謝も聞かず、見かけた伊邪那美と御神たちの方へ征四郎は走って逃げてしまう。
今はまだ、少し恥ずかしいから。
●大きくなあれ
「お守りかぁ、前、つくったことあるよ」
どれがいいかと布を選びながら、春月(aa4200)は隣のレイオン(aa4200hero001)に話しかける。
「高校受験の時かなあ、フェルトでつくってさ、皆で交換したんだ」
それはまだ能力者ではなく、普通の女の子だった頃の話。施設にいた頃の話だ。
そして今日作るお守りは春月が育った施設へ渡すもの。
「今日はどんなお守りつくろうかな。木彫りの熊とかどうかなっ!?」
果たしてそれはお守りと言えるのかどうなのか。
材料を前にうろうろと歩き回る春月だが、この場に彼女を連れてきたのはレイオンだ。
『そんなに遠慮しないで、会いに行けばいいのに』と。春月が施設へ行けるように、想いを渡せるように。
「よし、決めた!」
何枚か布を取って、春月は道具が用意された椅子に腰かける。
糸切りハサミや針などが詰め込まれた道具箱から布を切る用のハサミを取り出して、脳内に描いた完成図に向けてちょきちょきと切っていく。
春月は不器用ではない。
しかし、色々と雑なのである。
「あれ?」
いつの間にか、手に残ったのは予想よりも小さい面積の布。これでは考えているお守りが作れないと再び別の布を切るがやはり小さくなってしまう。
『一度下書きをして切るといいよ』
見守っていた春月のアドバイスで、今度こそ。
ざっくりと書かれた下書きから外れないようにハサミを滑らせれば、何度目かの正直でようやく大まかな部分が切り出せた。
ふー、と一息ついて。
「よっし、みんなのお守りも見てこよ!」
言うが早いか、レイオンが止める間もなく自由な少女は椅子から立ち上がって別の参加者のもとへ行ってしまった。あの状態では無理矢理連れ戻すのも骨が折れそうだし、レイオンも作りたいものがある。
春月が切り刻んだ布の中から色味を揃えて集め、落ち着いた印象になるようなオーソドックスなお守りを。
いつの間にか戻ってきていた能力者が隣で「刺さった! 針が!」と叫ぶのに『落ち着いてやらないと』と絆創膏を差し出しつつ。
針を刺して、縫って。
完成が見えてきたお守りを前にレイオンが背中を伸ばすと、何故か隣から漂ってくるのはボンドの香り。
「皆に、って考えていたら、何か大きくなっちゃったよ」
春月が作ったのは魚の形をしたお守りだ。
『皆の健康と無事』を願って。皆がちゃんと夢見て、それに向かって進めるように。
魚には鱗に見立てた布がボンドで貼り付けられていて、色とりどりでカラフルな仕上がりになっている。
鱗の布は春月が切りすぎて失敗した布だがそれもご愛敬。
『……鯉かな?』
魚の正体をレイオンが口にすると春月は嬉しそうにこくりと頷く。
「当たり! なんか滝を登って龍になるとかいうよね! めでたいし、出世魚ってやつだよね!」
『……ちょっと違うかな』
出世の象徴とされているところもあるが、出世魚とは意味合いが少し異なるのが鯉である。
ともあれ、マグロではなくてよかったと思ったり思わなかったり。
再びお守りを見に行くという春月を見送って、レイオンも最後の仕上げに取り掛かる。
お守りの紐部分、二重叶結び。出来上がった結びの形が口と十、合わせて叶になることから呼ばれる縁起の良い結び方だ。
日頃からする結び方ではないものであるし、レイオンはスマホで検索して結び方を調べ、通りかかったユウに聞きながらもしっかりと結んで形を整える。
『お守りをつくる、というのは思いつかなかったな』
出来上がったお守りを手に穏やかに微笑むレイオン。
『いい機会をありがとう』
とそこへ、戻ってきた春月が。
「手作りのお守りはね、中に相手へのメッセージを入れるといいよ!」
どこかで見てきたのか、得意げに先輩面する春月の助言を素直に聞き入れて、レイオンは誰にも見えないよう紙に願いを書いてお守りの中へ。
「何て書いたんだい?」
『秘密』
それは誰にも分からない、レイオンだけの秘密の願い事だ。
●込める想い
麻端 和頼(aa3646)と華留 希(aa3646hero001)、テジュ・シングレット(aa3681)とルー・マクシー(aa3681hero001)、五十嵐 七海(aa3694)とジェフ 立川(aa3694hero001)の六人で大きなテーブルを一つ囲み、それぞれお守り作成に使う為の布や糸選びに勤しんでいた。
そんな中で、七海は和頼の腕を引いて一つお願いを。
「和頼へ作るから……貰って欲しいな。それで……あの、和頼の作るのが……欲しいの」
照れながら小声で囁くように。愛らしい恋人の言葉に和頼は何度も頷く。
「オレこそ七海が作った御守が欲しい! ……いいのか?」
二人が付き合ってから一年が経過し、恋人的意味合いでの親密さは進む一方だ。しかしそこには落とし穴も存在する。
彼を独り占めしていいのだろうか。他の皆とも仲良く付き合いたいのではないだろうか。
誰とでも仲の良い彼女を独占したい。彼女を他に渡したくない。
揺らぎも葛藤もついて回るもので、だからせめて形が欲しい。
「一緒だね」
互いに欲しいのだと分かって微笑む七海をジェフは微笑ましく見守っていたが、心配無用であったし当てられるだけだとそっと離れる。
和頼がお守りをくれるだろうかと心配していた七海へ『そんな心配せずとも、くれるだろう』と励ましに声を掛けたがやはり杞憂であったようだ。
『俺達はどう交換しよう?』
大切な友人達だ、ぐるりと一巡するように渡す相手を決める。
希がルーへ、ルーからジェフへ。ジェフからテジュに渡り、テジュから希へ。
お守り作り開始だ。
『アレもコレもイイナ♪』
楽しそうに材料を見る希の手には光沢のある布が何枚か揃えられていた。
作るお守りはもちろん。
『ウン! ヤッパ、アレっショ!』
うきうきしながら机上に広げられたのは水晶や紙、綿や金具など様々でぱっと見ただけでは何を作るのか分からないだろう。
しかし希はてきぱきと布を切って縫い合わせていく。作るのはルーが愛用する動画カメラ『NoRuN』を象る立体型のお守りだ。
故に。
『七海ーコレ切ってー』
隣で作業していた七海に布一枚を渡し、切ってもらう。
「これで良い?」
お手伝いを出来たからか嬉しそうな七海へ笑顔で頷き、希は細かな作業へと入っていく。
(コレで二人カラだネ♪)
思惑は胸に秘めて、『全願成就』と書かれた紙を綿に包んで中に入れ込む。紐を挟んで縫い上げて、レンズ部分には水晶を使用する。金具を取り付けて開閉や回転も可能にし、画面は鏡で再現した。
黙々とやっていた作業から顔を上げ、ふーと一息。
『あたし天才カモ!』
仕上げまではもう少しだ。
「何を作ったらいいのか……」
テジュが救いを求めて見たのは自身の英雄であるルーだ。
作る経験など無いテジュにルーは、
『難しく考えなくていいんだよ。してあげたい事、出来る事を選んで形にするんだ』
「俺に出来る事、か」
言葉に首を傾げ、深く考え込むテジュ。
そんなテジュに悩む事もいい事だよねと手は貸さず、ルーもお守り作りに取り掛かる。
持参した道具を広げて、選び取ったのはイチイの葉とナギの葉だ。
イチイは『ブリューナクの槍』として戦果を願う。ナギは日本の風習から。凪にも通じるように無事の帰還の願いを乗せて選んだ。
続けて取り出したのは革の欠片。そこにルーン文字の『エオロー』を彫り込んでいく。友情のルーンとも呼ばれるエオローがヘラジカの仲間意識と守りの力を宿してくれるように。
中身を作って、今度は入れ物作りに移る。
渡す相手を思って選んだのはライフル弾。火薬と雷管が抜かれた弾に鎖を付けるべく、雷管用の穴に金具を取り付けてハンダ付けし固定。弾頭を取り外してしまって、中に揃えたものを入れてから弾頭もハンダ付けしてしまう。
それから金具にチェーンを通して完成だ。
お守り作りは得意なルーにとって作業は難しいものではない。てきぱき手際よく、お守りを仕上げていく。
ルーからアドバイスを受けたテジュは材料を前に考え込んでいた。
自分に作れるものはあるのだろうかと、並べられた素材や着々と進んでいく他の皆の製作に驚きながら動けずにいる。
そもそも、お守りとは普通中に何が入っているのだろうか?
そういえば持っていたなと手持ちのお守りの紐を解き、拝見しますと祈りながら開く。
中身は……紙か、いや護符だろうか。
「……ふむ」
お守りを元に戻して、ひらめいた明かりを手繰り寄せる。
(そうか……俺は文字であれば多く綴ってきたかもしれないな)
失われていく記憶の代わりに、山ほどの文字を書き連ねてきた。
それは積み重なって確かに自分の中に存在している。
であればと決心し、作る前に手伝い要員として待機していたユウへ声を掛ける。
「ユウ殿すまん、守り袋の作り方を指南頂けないだろうか」
シンプルでいいのだと言えばユウは『なら一般的な布がいいだろうな』と答えて布選びへ。
数多く並んだ布を眺めて、一つ手に取る。
「布はそうだな……この赤い華の生地がいい」
彼女にきっと合うだろうと見立てて、作業机へ。
手伝いと言えど作業に手を貸すつもは無いらしく、そこは裏から通して、糸は中に、など指示がほとんどだ。
テジュ自身几帳面である、細かいのだなと言いながらも時間をかけて丁寧に縫っていく。
慣れない作業の中、指を刺したり血が付かないよう気を付けながら……。
「出来た!」
テジュ一人の力で作り切ったお守りは、外見だけならば完成だ。
「ありがとうっ恩に着る」
ユウに礼を伝え、一枚貰った和紙に短歌を。
「平安時代は詩を守り袋に入れることもあったようだ。倣ってみようと思う」
筆を取り、さらさらと書きつける。
「琥珀玉
荒廃を見据え
炎帝の娘(こ)
背影の祈り
帰路を残さむ」
紙はお守りの中に納め、黄色の紐をかければ完成だ。
「季語は……炎帝、彼女らしく感じるな」
さて和頼はというと、指南本を必死の形相で読み漁っていた。
『ちゃんとしたノ作ってヨネ! あたしの大事な親友なんだカラ』
「わ、わあってる!」
親友。友達。希の言葉で浮かんだ案から、以前読んだ本を探す。確か書かれていたはず。
「あった! ……これだな……!」
しかしこれを一人で作り切るには荷が勝ちすぎる。手伝い役のユウはと探せばどうやらテジュの手伝いをしている様子。
席を移し、作りたいものを伝えて材料を並べた上でユウから指示を受け、和頼も作成に取り掛かる。
選んだのはスノードーム風のお守り。
まずはポリマークレイで中身作りからだ。
七海と自分の雪だるま型の人形、遊園地風に観覧車やレールなどをどうにかこしらえていく。
失敗したら何度でもこね直してまた最初から。幸い材料はたくさんあるので一度失敗したからといってめげることもない。
何しろ七海が欲しいと言ってくれたのだ。どれほど細かい作業だろうと成し遂げなければと、ライヴスを燃やす勢いで作り上げていく。
出来上がりオーブンで焼いている間に発泡スチロールを小瓶の大きさに合わせて切り抜いて土台とし、焼きあがった人形を土台の上へ接着。他のものも小瓶の中へ入れ、ラメや友達を思わせる赤や青など丸い球を4つ入れる。
小瓶の中を専用の水で満たし、金具を付けた蓋を接着してしまえばスノードーム部分は完成だ。
誤って壊してしまわないよう一旦離れた場所に置いて、今度は紐部分の作成に移る。
水晶玉を繋ぎ、中央には淡い青色をしたラリマーと、鮮やかな赤のルビーを一つずつ挟み込む。留め具でしっかりと閉じて、小瓶の金具部分に通せばこれでようやく完成だ。
石の意味も事前に調べてある。
……さぁ、喜んでもらえるだろうか。
『ユウさん申し訳ない。どうも裁縫は苦手で』
テジュと和頼がいた机へジェフも加わり、やはりユウに部分部分で指摘を受けつつ作成を始める。
材料は持参したレジンで、作るのは宇宙球ストラップだ。
シリコン型に液を入れ、テジュの瞳の青をイメージしながらマニキュアで色を付けていく。途中から青緑のグラデに変えるのは少々難しかったが無事クリア。ラメと球形のビーズを数点入れて凝固させ、2つを貼り合わせてヤスリで磨く。
『……なかなか楽しい』
試行錯誤を重ねていくつか作り、ラメやビーズのバランスを見ながら出来の良い2球にヒートンを付けて飾り紐を通す。
楽しみながら完成したお守りを持ち寄って、後は相手に渡すばかり。
「わぁ……色とりどり、色んな材料が有るよ」
目移りしながら、七海は青味がかった黒のちりめん布を選ぶ。糸も持って机へ戻り、布を切り取って金銀糸でライオンの横顔を、黄の糸で『何時も一緒に』という花言葉を持つアングレカムを刺繍していく。
裏にはしし座と天の川を模したビーズを縫い付け、中には綿とポプリを少量入れて袋型になるよう縫って閉じていく。
「和頼は鼻が良いから沢山入れると匂い過……っ!」
思い切りやってしまったと気付いた頃には針が七海の指を刺していて、それぞれ没頭していて気付かれたかったのが幸いなのか。そっと静かに絆創膏をして、これ以上刺さないように気を付けながら丁寧に仕上げていく。
「どーゆーの作ってるのー?」
「わ、格好いい!」
ルーの方からだろうか、エデンや春月の声が聞こえてくる。七海が顔を上げれば、二人がルーの作ったお守りを見てはしゃいでいるようだった。
「ジェフはジャックポットだからかな、こういうお守りにしようってピンと来たんだ!」
褒められて照れ笑うルーに無邪気な少女二人がどうやって作ったのかと聞いている。
入れ物はきらりと輝くライフル弾。
「薬莢……男の人向けで格好良い」
ジェフに合わせて作られたものだ、彼が身に着けていてもきっと似合うと考えた所で、そういえば和頼の嗜好が考えに無かったと気付く七海である。
自分が作ったお守りは、どうだろう。
不安になる七海が視線を移せば、テジュが和紙に何やら書いているようだ。あれは和歌だろうか。願いの込められた、歌。
ルーのお守りの中にも願いを込めて、葉や革が入っているらしい。
「……一杯気持ちが入ってるんだね」
皆、たくさんの想いを込めてお守りを作っている。幸せを感じて微笑めば、いつの間にか不安はどこかへ飛んで行ってしまっていた。
「和頼なら判ってくれるね……」
再び椅子に座り、完成を目指して七海は針を取る。
●渡し合う想い
『七海とあたしカラダヨ♪ 全願成就なんダ♪』
自慢げに説明しながら、希はルーへお守りを手渡す。
『モットモット仲良くしてネ♪』
掌の上の小さなカメラを見つめ、
『希っ凄いよ!』
ルーは喜びのままぎゅうっとルーに抱き着く。
『三人の頭文字を入れたNoRuNその物だよ!』
全ての願いが叶うように。想いの籠もったお守りを早速ノルンのストラップにしてくるりと回れば、希はうんうんと嬉しそうに頷く。
『お守りっぽくないがテジュへの加護を願ったぞ』
今度はジェフからテジュへ。
一見ネックレスにも見えるレジンを手に乗せて、くるりと裏返してみたり透かしてみたり。
「ジェフ凄いなこんなものも作れるのか」
作る工程を思えば感動も一入だ。出来る事ならずっと身に着けていたい。
そうだと思いつき、ピアスに出来ないかと相談すれば、気に入ったと二つ返事で喜ばれる。
早速耳に着けて。
「ありがとうっ」
感謝は笑顔で。喜ばれて嬉しいジェフの腕をルーが引く。
目を閉じて屈んでと伝えれば応じてくれる青年に、背伸びして首にかけるお守り。
『ジェフに似合うかなって!』
思いいっぱい込めたんだよと微笑む少女。
『職を考えてくれたか……中に何が?』
軽く揺すって見れば音がする事に気付いたジェフ。尋ねれば中身は想いの籠もったものばかり。
神の加護を願ってくれた気持ちを無下にするわけにはいかない。
『……大切にする』
持ち続けようと誓って。
それから、テジュから希へ。
「希が、常帰って来れるよう願を掛けた」
『わあ! キレー♪あたしっポイー!』
赤色の綺麗なお守りは希によく似合っている。感激のあまり抱きしめてしまったそれをもう一度よく眺めて。
『ホントにアリガト、テジュ♪スッゴク嬉しー♪』
感謝と照れ笑いを返せば、渡したテジュも嬉しそうにしてくれる。
そして最後に、恋人達。
「……皆と遊んでる七海も可愛いからな……本当はオレだけのモンにしてえけど……」
中身の説明をして照れを誤魔化しながら七海に渡す和頼。
「凄い!! 綺麗っ可愛……ぁ」
感激した七海だが、中身の場所がどこをモチーフにしているか気付いてしまって顔をほのかに赤くしてしまう。
それを見つめている視線には気付かないまま、七海も和頼へお守りを。
「どうしても別々のお仕事が多いから。何時も和頼らしく戦って無事に帰って来れますよう……私の代りに守ってくださいって……籠めたよ」
巾着型のお守りには刺繍が細かく施されている。
見ただけで目を引くほどに。
「凄え綺麗で、格好良いな! 七海、凄えな!」
感動のあまりお守りごと七海の手を両手で包み込んでしまえば、貼られた絆創膏が目に留まる。慌てながら希を呼んで共鳴。ケアレイをして共鳴を解除すると希はニヤニヤしながらすぐさま離れてしまった。
「……有難うな、大事にする……ずっと持ち歩く」
指に怪我をしてまで七海が作ってくれたものだと実感して、感極まって和頼は思わず七海を抱き締めた。
腕の中に最愛がある。
「あの日の気持ち忘れないよ、皆の思いやりも一緒に……ここに」
一人ではない。二人でもない。皆で。
込められた想いを大切にしよう。
●どうか幸せに
「お宮さんにはよう詣らせてもろてるし、お守りも持っとるけど……こうしてお守り作るんは初めてやなぁ」
少女――睦月(aa5630)は並べられた布を手に取りながらころころと笑う。共にやってきた英雄の如月(aa5630hero001)はというと、裁縫事はあまり得意ではないんだけどと苦笑の様子。
しかし、やれるだけの事はやってみるよと紐を手に取って。
「お守り……か」
「どんなお守りがええやろなぁ……」
悩みながら、相手の事を想いながら。
二人の御守り作りも、始まった。
睦月が渡す相手は英雄の如月だ。
一針一針、相手のことを考えながら想いを込めて布を縫い合わせていく。
彼女が手に取った布は藤紫に染められたちりめん生地で、作るお守りは通常のお守りサイズよりも小さめなもののようだ。
片側だけ縫ってしまったらある程度の場所を決め、別の針を使って。
少しずつ施されていく刺繍は、紫に映える桜色。如月が好む、桜の花。
願うのは、『彼に多幸があるように』。
優しいあの鬼が、あの人がいつまでも笑顔であれる様に。
睦月が如月に渡すように、如月もまた睦月へお守りを渡そうと考えていた。
選んだ生地は柑子色と曙色のグラデーションに白い撫子の柄が映えるもの。
布の関係上少し離れて座った睦月からは見えないが、如月の手つきは覚束ない。
長い爪が糸に絡まりそうになるのに苦戦しながら、出来るだけ丁寧に布を切り取って縫い合わせる。
込める想いは『ただ健やかであれ』。
睦月はまだ年若く、長い道行きの中で辛く苦しい時もあるだろう。
悲しみを抱えて動けぬ時もあるだろう。
それでも前を向いて歩いてゆける様に。
鬼と称され、今に至っては英雄として睦月の相方となった如月は祈るような願いを込めてお守りを仕上げていく。
一方の睦月は既にお守りを作り終えたようで、エデンや春月に誘われて他の参加者のお守りを見に行ったようだ。
であれば、今の内に。
多少布がほつれている部分を修正し、何度か布を引っ張って解ける部分が無いか確認して。
概ね満足したところに帰ってきた睦月へ。
「……睦月」
出来上がったばかりのそれをぽいと山なりに投げれば、お守りは無事少女の手の中に収まったようで、照れ臭さに少しばかり視線を逸らしつつも。
「少々不格好になってしまったが、見れない程ではないだろう?」
全て言わなくてもそのお守りが睦月の為のものだと伝わってくるから、袖を口元に当てて睦月は微笑む。
「如月はんがうちの為に作ってくれはた物に、文句なんてありゃしませんよ」
きっと睦月が考えられる以上の想いを込めて作ってくれたのだろう。
修正しきれなかった部分も、よれてしまった部分も、全てが大切で。
「嬉しいわぁ、ありがとうね」
心の底からの言葉に如月もふっと息を吐いて微笑を返す。
互いに微笑みあって、睦月は貰ったお守りをしまってから別のお守りを掌に乗せた。
「……ふふっなんや気恥ずかしいけど、うちの作った物も、もろてくれはるやろか?」
差し出されたお守りは如月の為のものだ。
彼の瞳を思わせる藤紫に、彼が好む桜の花の刺繍。
見上げてくる少女の瞳もまた。
「あぁ、勿論」
爪で柔い肌を傷つけぬように、そっとお守りを受け取って。
「ありがとう睦月、大切にするよ」
英雄となった桜鬼は嬉しそうに微笑むのだった。
●その日まで共に
「大切な者の為、大切な気持ちを込めて作る感じかの」
『そうじゃな。我はもう決まっておるが、汝はどんな御守りにするのじゃ?』
良く似た二人、アクチュエル(aa4966)とアヴニール(aa4966hero001)は布を前に話していた。
誰に渡すものか、どんな想いを込めるのか。
それによって選ぶ布や糸も変わってくるし、サイズもまた違ってくるだろう。
「そうじゃのう……もう少し迷おうかの」
『では、我は作りにかかるのじゃ』
悩むアクチュエルより先にアヴニールは布と糸を取って用意された椅子に座る。
が、先んじたのはいいものの手芸など全く出来ないアヴニールである。
『うむ……これは如何したものかのう……』
用意された型紙に合わせて布を切ったまではいいものの、問題はここからだ。
どうにか糸を通した針を持ち、縫い合わせようとして数回。力を入れすぎて布と共に指を刺し、支えている指も刺し。
いくらH.O.P.E.が用意したものだからといってライヴスが通っているわけではなく、英雄であるアヴニールが怪我を負うことはないが痛いものは痛い。
また同じ箇所を刺してしまわないよう絆創膏をぐるぐる巻いて、途中見回っていたユウに教えてもらいながらもどうにかアヴニールのお守りは完成した。
一方、願い事が決まらないアクチュエルである。
「う~む……何を願うかのう……」
願い事を考えるというのもまた不思議なものだが、本当は決まっているのだ。
(やはり……兄にあてるしか考えられないのじゃ)
行方不明となった兄。今何処で在るのか、それとも、もう。
浮かびそうになる考えを、頭を振る事で追い払う。
(……否。我が想う限り兄は在る)
だから、兄が息災で在るように願って。
心を込めて一針ずつ縫い進めていく。縫い留めた場所が見えないように隠して、ほつれないように気を付けながら形を整えて。
アクチュエルの想いに応えるように、お守りは見栄えよく仕上がった。
そうして完成した二人、向かい合って互いに作ったお守りを見せ合う。
「して、汝はどんな御守りを作ったのじゃ?」
アクチュエルの言葉に、アヴニールはよく聞いてくれたとばかりに笑顔で頷く。
『我は汝の為に作ったのじゃ』
差し出されたお守りは、アクチュエルの為。
『汝がいつも想うておる兄に再会出来る日が来るように。なのじゃ』
静止したまま英雄を見つめる少女へ、アヴニールは微笑む。
自身の家族に会える日が来るかは分からない。そもそもアヴニールにとって此処は異世界の地だ。息災で在れと願って、アクチュエルのことを思った。
彼女の兄はこの世界の人間だ。再会できる確率は自分よりも高いだろう。
故に、願ったのは彼女が兄に再会出来るように。
『汝の大切じゃ。我も見てみたいしの』
アクチュエルが心の底から笑う、真の笑顔が見たいが為に。
呆然としたままの少女の手にお守りを握らせれば、何処か泣きそうにも見える笑顔でアクチュエルは微笑んだ。
「……感謝するのじゃ。大切に……大切にするのじゃ……」
ぎゅっと胸に抱きしめる、心の籠もったお守り。
(我は、我の事しか考えに及ばなかったのじゃ……)
指には絆創膏をたくさん巻いて、そうしながらも自分の為にと作ってくれたもの。
アヴニールは、何処を見ているのだろう。
自分が兄と再会出来た時、何を想うのだろう。
(……然し、兄と再会できたとて、其処で立ち止まりはしないのじゃ)
取り戻すと誓ったのはアクチュエルの家族だけではない。
アヴニールの家族もまた同じ。
彼女が家族との再会を果たし、共に笑い、それでもまだ共に在れる様に。
「我らの家族に会えるその日を想い、それを真にしようぞ」
『うむ。それまで我ら共に歩こうぞ』
想いを新たに。
少女は二人、頷き合う。
●相手の為のお守り
「うわーん暑い」
某日。プリンセス☆エデン(aa4913)は壁に寄っかかっていた。壁といえどH.O.P.E.本部の壁である。さらに言えば依頼書が掲示された壁である。エアコンの風がゆるく効いているここは、四季問わず外から帰ってきたエージェント達にとって必ず訪れる場所でもあるが。
『お嬢様、アイドルとして見苦しいですよ』
やれやれと呆れ顔なEzra(aa4913hero001)が言う通り、エデンはアイドルである。いつどこで誰が見ているか分からないし、せっかく依頼も数多くあるのだし。
何か働かれては、と言いながらEzraは依頼書を一つ指さす。
『……あ、これなんかいかがでしょう』
御守り作りませんか!とでかでか書かれた見出しにエデンは首を傾げる。
「御守り……?」
日付はちょうど今日。場所もすぐ近く。時間まで余裕もある。それに。
「アミュレット、タリスマン、チャームって言いかえるとカッコいいかも!」
どれも意味はお守りである。ようは気分の問題なのである。
「もち、恋愛……いや、アイドルに恋愛はご法度! じゃあ、商売繁盛になるのかな???」
『お嬢様。御守りは、自分自身のためよりも、他人のために作るのがいいようですよ』
すすっと勧めるEzra。話しながらも足は開催場所へと向いていて。
「そなの? んじゃ、エズラ、交換しよっか!」
『そうですね、ではお互いに相手に必要と思われる御守りを作ってみましょうか』
そんな穏やかかつゆるやかなノリで、二人はお守り作りの会場へ。
「どんなデザインにしようかな♪」
一通りの説明を受け、エデンは布と糸を選んでいた。
渡す相手はEzraなわけだが、作るのはエデンである。大切なのは作るのがエデンなら選ぶのもエデンであるという点だ。
選ばれたのは派手な布。そして糸。明るい色合いで、光が当たれば織り込まれた金糸が反射してきらきらと輝く。
能力者と同じく、EzraもまたEzraらしい布選びをしていた。落ち着いた色合いに落ち着いた糸。まるで自分に合わせて選んだかのような布だが、あくまで渡す相手はエデンである。
互いに出来上がるまでは見ないように少し離れた場所で作っていると、Ezraが顔を上げた時にはエデンの姿は無くなっていた。
作りかけのお守りから察するに、他参加者のお守りを見に行っているようで。
「うわー、それ可愛いね!」
声に辺りを見渡せば、どうやらジェフが作っているお守りに目を輝かせている様子。
初めてで失敗してしまったのだと言うレジンは宇宙を模しているが、中のビーズなどが片側に固まってしまっている。
しかしジェフの表情に陰りは無い。
『ご迷惑をおかけして申し訳ございません』
エデンが何か言う前に回収し、椅子に座らせて作業を再開するも目を離した隙にまたどこかへ出かけたようだ。
やれやれとこめかみに手を当てながら探して回収、座らせては回収を繰り返した結果、またもやエデンの姿は無いがとりあえず放っておこうと決めてEzraはお守りの完成を優先させることにする。
お出かけ中のエデンはというと、テジュや和頼のお守り作りを見学してみたり、七海やルー、希のお守り作りを感心しながら見てみたり。
凛道の作る黒猫の刺繍に瞳を瞬かせて、伊邪那美に作り直しを命じられている御神の隣を通り過ぎて。
春月の作る大きなお守りに驚きながらも、作り終えた春月と共にまだ見ていないお守りを見に行って、睦月と盛り上がって。
ぐるっと会場内を一周したところでようやく満足して、椅子に座る。
出来上がったお守りはお互いの手に渡った。
エデンの手には、オブラートに包まずに言えばとても地味で質素なデザインをしたお守りが握られている。しかしつくりは芸術的、普段身に着けていてもほつれることはないだろう。似合わない可能性があるという部分に目を瞑れば。
Ezraの手には、オブラートに包まずに言えばとても派手なデザインをしたお守りが握られている。きらきらしたそれはとても目立ち、目を引くだろう。しかし身に着けるのはEzraであり、大雑把なつくりである故に無理をしたらすぐ破れてしまいそうだ。
「ちょっとー学業ってどーゆーことー?!」
びしっとEzraに突きつけられたお守り、つまりエデンが受け取ったお守りには『学業成就』と縫われている。不満のままぶんぶんと振れば、Ezraはにっこりと微笑む。
『そのままの意味でございます、お嬢様』
なんだか顔文字で見えそうな笑顔だ。
そんなEzraが持っているお守りには『開運除災』とある。
「あたしの英雄ってだけで、ものすごく幸運なことだと思うけど、もっと開運するように!」
ドヤッと胸を張るエデンだが、Ezraの笑顔は固まったままだ。
『……左様ですね』
長い長い沈黙である。
「最初の沈黙はなんなのー?!」
ぷんすこするエデンにやれやれなEzra。
戦いが間近に迫ろうとも悲壮感のない、マイペース感溢れる二人なのである。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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