本部

広告塔の少女~真実を語ろう~

鳴海

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
4日
完成日
2018/07/12 14:46

掲示板

オープニング

● 真実を語ろう。
 グロリア社会議室、そこにはそうそうたる顔ぶれがそろっていた。
 遙華。グロリア社役員やエリザ、そして赤いルネ。命名アカネ。
 今回のグロリア社の襲撃を退けたことで、ガデンツァの影響を排除することができた。
 全てはガデンツァを手引きしていたロクトが離反したことによって。
 そうこの会議の場にはロクトはいなかった。
 ロクトはガデンツァと共に行った。
 遙華を置いて。
 遙華を残して。
「いま、私たちがすべきことはなんだと思う?」
 ガデンツァに奪われたデータは何もなかったことが判明している。
 そうデータはリンカーの活躍で無事だった。
 ただ、データはだ。
 あの混乱のさなか紛失した資料はあり。その洗い出しの作業に忙しく、グロリア社社員は駆り出されていた。
 彼女の侵入の影響は計り知れない。
 それに彼女が放った従魔が一体姿をみせずに消えている。
 今後について話をする必要があった。
 その前に。
 アカネが口を開く。
「ガデンツァと英雄ルネの関係性です」
 エリザが目覚めたことによって。グロリア社側で用意していたエリザなら使えるコンソール、プログラム類が一気に稼働した。
 そのおかげでアカネの解析が一気に進んだのだという。
 おかげで、バッテリーと呼ばれる。霊力貯蔵装置を使うことであの遺跡から出ても消滅しないでいられる。
 ちなみに契約者も探したのだが見つからなかったらしい。
「ガデンツァは、ダカーポシステムのメインプログラムをさす言葉ですが、今は少し語弊があるので言い直しましょう」
 アカネは丁寧口調で告げる。この世界について学習したようでほかの英雄とそん色ない存在に見えた。
「ガデンツァはダカーポシステムにおける、ハードウェアの役割。そして英雄ルネはソフトウェア……いえそれも適切ではなく。そうですね、メモリーでしょうか」
 ルネの意味するメモリーとは記録、記憶の意味。
「私たちの世界は滅びました。愚神の手によって」
 その愚神の侵攻の際に世界が敵の手に渡る前に自決するため生み出されたのがガデンツァという存在。
「しかしそれは、本来……決定的に人が間違った瞬間、地球上から人を排除するためだけの装置でした」
 こちらの世界でも人類が星にとっての癌なのではないかという話はよくきく。
 アカネの世界ではそれを信じきってしまった人間が。人間が星を、他の生命体を駆逐するような悪性を持つなら。一掃できるプログラムを作り上げたのだ。
 それはガデンツァ。
「そしてその機能に目をつけたのが」
 王だという。
「かれ? かのじょ? は異世界から侵略するとあっという間にガデンツァの世界を飲み込みました。そしてガデンツァを手中に収めるべく、じわりじわりと機能を奪い取って行ったのです」
 その時、まだ侵されていない機能の一部が分離され、次元の狭間に放りだされたのだというそれが。
「ガデンツァシステムの中枢、人格データを司る部分でした」
 王にとっては機能が全て。人格などどうでもいいのだ。むしろ抵抗されない分都合がいい。
「そして王は新たに冷酷なガデンツァという人格を植え付けて、自分の兵器とし。ルネとなった人格データは次元をさまよいこの世界へ」
 だからルネは不完全な英雄だったのだ。
 存在自体が壊れかけだった。
「一縷の望みを人類に託したのでしょう。そしてあなた達と出会った」
 アカネは全員を見渡す。
「ここまでガデンツァを追い詰められた世界は有りません。彼女に今度こそ引導を。プロトタイプだからわかります。彼女にはすでに満足なボディーもルネもない。だから」
 彼女を倒してほしい。
 そうアカネは告げた。
 そのためにまず行うべきが。
「ロクトの断罪」
 遙華は冷たく言い放つ。
「ロクトの契約を切ってこの世界にとどまれないようにするわ。あの頭脳が敵側に回るのはまずい」
 そう拳を握りしめる遙華。
「私はもう、誰にも愛されなくていい。だって最初に愛してくれたと思った人が、嘘だったから」

「そして、この世界に愛なんてものは存在しないのよ」

● ロクトの処遇
 現在遙華とロクトはまだ契約を結んでいる状態です。
 この状態をグロリア社上層部はロクトを役員から除名。
 さらに遙華に契約を破棄することを望んでいます。
 ただ、契約を切るには遙華の『愛される人になる』という約束をたがえなくてはいけません。
 そのため、演技でもいいので遙華は誰かを罵倒し、同時に誰かに罵倒されなければなりません。 
 愛される、そのために努力するということを放棄すれば契約はきれるはずです。
 遙華本人も、ロクトの事は事務的に行っていますがロクトに対して思うところは有るようです。
 ロクトは本当に裏切ったのか。
 ロクトは自分の事なんてどうでもよくなってしまったのか。
 ロクトが見せてくれていた笑顔は全部ウソだったのか。
 それを口にしてしまうと慰められ。ロクトとの契約を切る気が起きなくなってしまうかもしれない。
 そう思っているため遙華は自分の想いを胸に秘めてロクトとの契約を切ろうとしています。



解説

目標 話の整理と、今後の遙華

 今回はガデンツァ襲撃による影響の再確認と状況の整理。
 というお話を整理する回ですが。
 今後のためにしておかなければならないことがいくつかあります。

・ロクトをどうするか。
 それは今回遙華との契約をどうするか。
 という話もそうですが。
 もし敵として出てきた場合どうするかという話し合いもしていただきたいです。
 それはPC間で情報を共有するとともに遙華が今後どうするか参考にするためでもあります。

・盗まれた資料についてあたりをつけて調査を依頼する。
 これに文字数をさく必要はありませんが、紙で何らかの資料が持ち去られたらしく。それが何なのかあたりをつけることと。効率のいい調査方法があれば教えてあげてください。

・アカネの話。
 アカネが冒頭で語った内容については皆さん気になるところもあるでしょう。
 実はこの話の中にガデンツァの今後の行動指針になる重要情報が含まれています。
 アカネに質問することで、もっと深く情報を掘り出してみてください。
 アカネも記憶を復旧されたばかりでまだ全ての記憶を自在に思い出せるわけではないようです。

● 歌の開発依頼
 また今回のシナリオで使うわけではありませんが。
 ガデンツァの最終兵器である歌に対抗するために、皆さんに歌を作っていただきたいということです。
 テーマは希望。
 希望の音~HOPE~をみんなの力で完成させたいと、遙華は思っているようです。
 そのためのフレーズや曲作りの依頼を今後お願いする予定ですが。
 その前に気になる事。聞いて起きたこと。希望する演出が可能かどうかの確認。
 など今回の依頼でしていただいても構いません。

リプレイ

第一章 疑惑

 焼け落ちた部屋の後片付けを行うものが必要だった。
 それはロクトの執務室。そこは煤にまみれ燃え落ちてしまっている。
『水瀬 雨月(aa0801)』は『アムブロシア(aa0801hero001)』と共にその部屋に何か、僅かばかりの手がかりでもないか探していた。
 時刻は四時十五分。
 もうすぐ会議が始まる。
 ロクトをどうするか。話し合うための会議が。
 その会議に納得のいかない者は多いだろう。
 それは『魅霊(aa1456)』も同じだ。
 ロクトの断罪。
 それをきいたときは耳を疑った。
『ロクトは裏切り者だ』その言葉を聞いて魅霊は胸を痛めた。
「遙華さんのこの言葉と、その内訳を聞いた時……」
 その言葉に雨月、そして『R.I.P.(aa1456hero001)』が視線をあげる。
「先ず個人の真意は全く異なることを察しました。
 次いで、この言葉が借り物……遙華さん個人ではなく、グロリア社の意向であると」
 そう手の中で崩れ落ちる写真。
「論理として、ロクトさんはただのスケープゴートと見ています。
 裏切りという行為に対し、事前のリスクを負いすぎている」
「それは、そうかもしれないわね」
 雨月は立ち上がり膝の煤を落す。
 遙華に会えなかった。彼女は泣いていた。扉を開くことが自分にはできなかった
 ふと雨月が時計を見上げると会議開始五分前。
 廊下の向こうが慌ただしくなる、移動を始めたのだろう。
 それに前月は習った。
「次から次へと色々な事が起こるわね。かといって、あまりのんびりも出来なさそうだし……慌ただしいものね」
 紙媒体で保存されていたデータはサーバー内で保存されていたものとは全く違うものだと判明した。
 たとえばその技術がすでにどこかの企業と共有されているもの。
 もしくは作業工程をグロリア社で完結できない企画書。
 などは出力され、紙として公開されていた。
 言ってしまえばグロリア社以外からも流出する可能性があった資料である。
 その資料の何が欲しかったというのだろう。
「向かいましょう。その前に手を洗って。それくらい許されるわ」
 そう雨月は毅然とした態度で会議室を目指す。もう怯んだりしない。
「あの子は一人で泣いてるなんて似合わないもの」

   *   *

 蘿蔔は遙華の執務室で資料をまとめていた。
「外部から得た資料、とかですか?」
 蘿蔔が問いかけた。
「楽譜や音の遺跡。アルスマギカに利用した言語のオリジナル資料なんか」
「それは無事が確認できてる。書面のコピーを残していったなら話は別だけど」
「ガデンツァ自身のプログラムな気もするし、スキルの対処もされちゃってるからこう……改良しよう、的な」
 その時部屋の戸を叩く者がいた。『イリス・レイバルド(aa0124)』と『アイリス(aa0124hero001)』
「差し入れを持ってきました」
 イリスが差し出したのはアルコール無しエッグノック。クラリスあたりが作ってくれたのだろう。
「ありがとう、いただくわね」
「飲ませてあげてほしいと言われたので」
 イリスの言葉に遙華は動きを止める。
「そう」
 だれに、ともきかずにそれを飲み干すと遙華は席を立った。
「会議の時間よ」
 その後ろをついて歩きつつアイリスとイリスは小声で話をする。
「当事者だと見え辛いだろうけど……」
「まぁ、素直な意見を言うならロクトさんからどうしようもなく愛されているだろうね」
 だというのに、このすれ違いは痛ましい。
 これを解消することがリンカーたちの今回の目的と言っても過言ではない。



第二章 会議

 会議室に通されて、いきなり話されたのはガデンツァの…………生い立ち、歴史。
 何とも形容しがたい過去話だった。
 長く深い歴史の物語。
 しかし、それはどの英雄にも存在している可能性はある。
 たとえば『レオンハルト(aa0405hero001)』
 たとえば『アリュー(aa0783hero001)』
 たとえば。自身の逸話を語ろうとしない『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』
 その隣で『蔵李 澄香(aa0010)』が遙華に向けて口を開いた。
「ガデンツァの中には二つの人格データが入ってるってことかな」
「その可能性は十分にあるわね」
 遙華がうなづいた。
「なら、ルネさんの人格は今どうなってるんだろうか」
「オリジナルガデンツァの人格データの事?」
 アカネ。と呼ばれる赤いルネがそう首をかしげると澄香は苦笑いする。
「ややこしいから、ルネさんってことでいい?」
「アレが元々は地球上から人を排除するためだけの装置…………か」
 雨月はそう、口元を抑えて考え始める。
「最終的にそれを実行に移してくるとしても力技に頼る程度に消耗してるみたいだし、どういう手を講じるのかしらね。物資や手駒の補充か、何かの仕掛けか」
「ガデンツァが物資補充でしていたことと言えば?」
 沙羅が間髪入れず答えた。
「人間の拉致。そして脳みその摘出ね」
 沙羅が関わるDの事件では、初期の初期ガデンツァが関わっていた。技術と人間の脳を交換していたのだ。それでルネをつくっていた。
「そんなことしたら、人間の感情データが積載してくのに」
 アカネが告げる。
「だから私たちの世界では長い時間をかけて人工知能を作ってたの」
 その言葉で思い至ったのか、アイリスが椅子の上に立った。
「ガデンツァ自身は否定していたが。
 やはりルネさんのデータを送り込まれて以前通りとは思えない」
 アカネがデータは蓄積すると言った。なら可能性は高まった。
「時間も経ち変質しているだろう
 だが残滓とはいえ本来のシステムの中枢でメイン人格を取り込んでしまった形だ」
 そしてガデンツァ自身も消耗していると、これまたアカネからの保障つきである。バグ、エラー、何かが起こる、起こっている可能性、十分に考えられるだろう。
「可能性がわずかにでもあるなら、やってみる価値はある」
「それに関する資料は持ち出されているのかしらぁ?」
『榊原・沙耶(aa1188)』が問いかける。
「紙媒体ではそんなものはなかったはず」
 遙華が答える。
「しかし紙の資料か……前回悪用されないようにと燃やされてたな」
『麻生 遊夜(aa0452)』が部屋のありさまを写真で見ながら告げた。
「直近でロクトさんが調べてたり持ち込んだりしたものがあったりすれば少しはアタリ付けるのが楽になるんだが……」
「…………ん、直近だと何を研究してた?」
「ガデンツァ対策関連」
『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』が問いかけそう遙華が答える。
「なくなった資料の頭文字とかやらで暗号とかになってないだろうか?」
 なくなった資料が判然としないためその追跡は不可能だった。
「なぁ、アカネ…………。でいいのか? アカネ。ガデンツァの世界が飲み込まれた際ダカーポシステムは起動したか? してたらどのような結果になった?」
「あの世界では起動してない。起動すれば世界は終わってる。そして新しいガデンツァが作られる」
「ここまでガデンツァを追い詰められた世界はないとの事だがこの世界で何度目だ?」
「ロクトさんの世界が一つ。これはerisuさんの世界と同じ…………でしたね」
『卸 蘿蔔(aa0405)』が重たい口を開いた。
「無数。だと思う」
 アカネは答えた。
「次元を超えてしまうと時間の概念なんて関係ないし。すでに王によって、いくつ世界が壊されているか分からない、判断は難しい…………です」
「ガデンツァの歌は二人で歌うこと前提に作られてるのではって話がありました。
 それってガデンツァだけでは足りないんですか?」
「そこなんだよなぁ」
 アカネが頭を悩ませる。
「そことは?」
「もともと、私たちの国では歌姫はたった一人だけでした、出力も十分」
「けれど、ガデンツァは二人で歌を謳おうとしていましたよね?」
「それは間違いないと思う」
 澄香が告げる。
「なんで二人で謳おうと思ったのか。メリットが見当たらないんですよ~。現にクイーンという個体を失って計画は遠のいて。それなら最初から自分一人でやればよかったのに」
 アカネがアウアウと天井を仰ぎながら告げる。
 この場にいる人物の性格や口調を真似して急速に自我を進化させているのだ。
「……頭の足りなさが恨めしいな」
「……ん、考えるのは……苦手」
 頭を悩ませる麻生夫婦である。
「あとなくなったものは?」
「奪われたモノならもう一つあるでしょ?」
 その遊夜の問いかけに『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』が答えた。
「本当の目的はエリザでもガデンツァに向けた対策資料でもなく、ロクトさんだとしたら?」
 その言葉に身を震わせる遙華。
「いつから裏切っていたのか、目的は何だったのか、まったく見えてこないもの。
 何か…………。何かが必ずある筈だわ」
 その問題から目をそらすわけにはいかない。
「ロクトの事はどう言ったものかしらね」
 雨月も遙華を一瞥して話しだす。
「役員の除名はまあ仕方ないわ思いきり不祥事だし」
「契約については?」
 遙華が小さく問いかけた。
「保護ですかね…………治療も必要になると思うのです。幻想蝶に入れて元に戻ればいいのですが」
 そう蘿蔔は遙華を見すえて告げた。
「グロリア社の協力が必要になるかもしれません。遙華。力を貸してください。
 彼女も被害者であることを証明しなくてはいけないし、まだ裏切ったと決まったわけでは」
 その時、遙華が蘿蔔を睨んだ。
 そんな視線を浴びせられたのは初めてだった。
「おじい様からは破棄しなさいって」
「契約破棄は…………何とも言えないわね。それにどれだけの意味があるか…………という感じかしら」
「契約したままガデンツァにロクトが邪英化させられたとしたら遥華はどうなるんだろうか」
 そのアリューの言葉に押し黙っていた『斉加 理夢琉(aa0783)』は不安げな視線を向ける。
「遠隔地でも体が乗っ取られる可能性は、ある」
 遙華はそう言い放つ。
「そのままだと遙華にまで悪影響が及ぶとかなら考える必要はある、と私は思うわ」
「だったら、それに備える必要もあるんじゃないか」
 アリューが告げた。
「どう対処し、どう防ぐか」
「契約を破棄すれば問題ない」
 告げる遙華に雨月は悲しそうな視線を向ける。
「会議も煮詰まってきたし、私遙華にお願いしたいことがあるんですけど、いいですか?」
 そう立ち上がったのが澄香。
 そして机の上においたのは改造クリスタロスと【SW(大剣)】終一閃。
「護石の強大な刃と終一閃の機能を複合して。ルネの心を逃がす橋の役割にできないかな」
 澄香は遙華の表情を確認しながら続ける。
「それにまどろみの夢の力を利用して、ルネさんの意識を覚醒させる波長作りとか。それから」
「澄香…………」
「心なんて通じるはずないじゃない」
 その言葉に澄香は目を見開いた。
「ちょっと、遙華さん、いじけてるからって言っていいことと悪いことが」
 沙羅が立ち上がって指をさす。
「うるさい」
 それを遙華は冷えた言葉で黙らせた。
「ロクトも、ルネも、もう裏切りはうんざり。みんなはなれるなら、最初から周りにいない方がいいわ」
「やれやれ、うちのお嬢様はまた極端な事を言い出したぞ」
「……ん、一時の感情に……流されてる、ね」
 見守る構えの麻生夫妻。
「冷静になれっていってるの、ロクトさんがあっちに行ったのだって勝つための可能性もあるでしょ?」
 沙羅が告げると沙耶が口を開いた。
「これから裏切るような人が、信じろとか遥華を託すだなんて言わないでしょうしねぇ」
「そんなこと…………演技かもしれないじゃない」
 遙華は語気を荒げていった。
「事実、この大変な時期にロクトはいなくなったのよ。もしロクトがこっちの秘密全部話してたらどうするの? このままだったらロクトは敵に回るわ、私たちを殺そうとする。あなた達に彼女を倒すことができる? わたしには無理」
 それは実力で排除できるかという意味ではない、親しかった人間を、殺せるか。
 という意味だ。
「けれど、邪英化スキルもあるのよ。契約破棄は直接的な解決手段にはならない」
 雨月が言った。
「少し、休憩を入れよう」
 遊夜がそう告げると、全員が立ち上がる。
 結論が出るまでは遠いい、そう誰しも思った。



第三章 震えて眠る夜

「探索はもう済んだみたいだけど、まだ探すの沙耶さん」
 そう澄香は沙耶にそう問いかけた。
 場所はロクトの執務室。捜索をアカネが見守っている。
 沙耶はコンピューターが動かないか、火災から守られたものはないかを探していた。
「なにかあるかしらぁ、エリザちゃん」
 そう問いかけるとインカム越しにエリザは難しそうな声を出した。
「生きてる電子機器は感じられない…………」
「ねぇ、アカネちゃん」
 そんな沙耶の背を眺めながら、アカネに言葉をかける。
「昔、アシャトロスさんっていう英雄の記憶を除いたことがあったんだけどね」
 それは凄惨な記憶だった。
「善性愚神での希望の音による霊力の吸収、人類の一掃機能、前回ガデンツが口走った『歌など情報を伝達する手段』ってガデンツァは言ってた」
 つまりどうあがいても、希望の音は滅びの唄なのだろう。
「けど、今までガデンツァはそれをつかわなかった、それはなぜ?」
 そんな便利なものがあればそうそうに使えばよかったのだ。だけどそうはしなかった。
「受け手が『滅び』として認識していない場合は機能が制限されるの?」
「違うかな」
「だから希望の音の利権をディスペアを使って取り戻しに来た?」
「それも違うかな」
 告げるとアカネは眉にしわを寄せながら説明する。
「うーん、なんていえばいいんだろう。心が違うんだよね。あっちとこっちの人だと。根本から心の造りが違うの、ガラスを音で割る人がいるけど。材質が違えば音を変えるよね? そうやってこの世界の心に音程を調整する必要があったんだと思うな」
 そしてそれはもう完了段階に入っている。
「それと、アカネちゃん。プロトタイプだから分かるっていうのは、どういうことだろう? ガデンツァと感覚が繋がってる。とかないよね?」
「みんなが守ってくれなかったら、そうなってたよ」
「ここで何をしてるの?」
 そんな和やかな談笑に鋭く水を差した声が一つ、遙華である。
「もういいって言ってるじゃない。それより会議に戻るわよ。もう意見は出尽くした。私はみんなの前で契約を解除して、そしてロクトとは縁を切るわ」
 その言葉を廊下で聞いていた理夢琉。思わず飛び出して遙華の背中に訴えた。
「遥華、断罪ってどうして、会社の言いなりになんてならないで!」
 ずっと考えていた。あの場で本当に正しいことは何なのか。ずっと。
「あのガデンツァだよ? 何か訳があるに決まってる、ロクトさんを守れるのは絆を結んだ遥華なんだよ」
「守る必要なんてない。私が守られていて。彼女にとって私はお荷物でしかなかった」
「そんなこと本気で思いたくないくせに、遥華の偽物が現れた時には迷ったけど、冷たい表情でごまかしたってわかっちゃうんだから」
 そう遙華の言葉を遮って理夢琉は告げた。
「不安で仕方ないくせに…………」
「……………………私がいくらそう望んでも、でももう仕方ないことよ、だってロクトは敵で、敵とずっと繋がってるなんておかしいもの!」
 その声に理夢琉は押し黙る。
 見かねたアリューが間に入った。
「ロクトはこうなるとわかっていたんだな、君の事をお願いと言われた。
 遥華の心が凍らないよう俺達に託した、どういう事かわかるだろう?
 感情で叫んでいいんだ助けてって、愛してって。
 遥華はまだ子供なんだ」
「こどもだから、子供だから私は置いて行かれたの? 私がなにもできないから」
 その手を澄香がとった。
「大丈夫、遙華はやれてるよ、私が保証する」
 泣き出しそうに潤んだ瞳で澄香を睨む遙華。
 その口がさらに誰かを傷つけてしまう前に。
 遊夜がその体を掬った。
「ひゃあ」
「ほれ、落ち着き給え」
――……ん、大丈夫……愛してる、愛してるよ。
 そうユフォアリーヤはお腹をポンポンとたたく。  
「こんなことしたって私、どうにもならなんだから」
 噛みながら、顔を真っ赤に染めながら激しく抵抗する少女を遊夜は抱き留め話さない。
「落ち着くまでやめないからな、ははは」 
 そう快活に笑う遊夜だが表情を少し締めて、建設的な話をする。
「ではいったん状況を整理しようか。
 まず断罪の件だが……本当に裏切っているのであれば今の状況はおかしい、違和感バリバリだ」
「データや人員の被害がなさすぎる、【敵側に回るのはまずい頭脳】がどうとでも出来る立場にいたのにだ。
 また契約が切れていないのがおかしい、裏切った時点で邪英化しててもおかしくない。
 混乱を誘うにしてももっと効果的な手段はあった、特に遙華に被害が及んでないのが一番の理由になるな」
「そ、それは」
「ま、敵を騙すにはまず味方から……とも言うしな」
「……ん、目的は……わからないけど」
 そう頭を悩ませるユフォアリーヤ。
「愛ゆえに、と言う事もあろうさ」
 そう遊夜はユフォアリーヤに告げた。するとアリューが言葉を続ける。
「ずっと人を欺いて生き人を信じることをしなかったと。遥華が、どれだけ傷つけられても人を信じようとする、それが尊いと
 君がロクトを変えロクトが君を変えた。
 ロクトとの絆を信じてほしい。壊さないでくれ」
 遙華は押し黙る。
 その遙華を遊夜が下ろすと、遙華は無言で会議室を目指した。

第四章 最終決議

 会議が再開された。
 いよいよ話はロクトの脅威について。
 それについては魅霊がまとめ役を買って出た。
「ロクトさんは確かに頭脳明晰で、社の中枢に程近い人物でした。
 が。彼女の頭脳は、時間か物資、或いは双方のコストありきで働くもの。
 手持ち無沙汰な上、力を盲信するガデンツァとは今や水と油の如き相性です」
 その話を全員が真剣に聞いている、グロリア社のメンバーもだ。
「ただ脅威でもあるわ」
 沙羅が口をはさんだ。
「一つ懸念事項なのは、グライヴキャンセラーを持ちすぎてる……」
「あれを人に使ったんてなれば、流石にフォローしきれないわぁ」
 沙耶が言葉を継ぐ。
「まさかガデンツァ相手にアレを使って寝首をかこうだなんて馬鹿な事は考えていないでしょうけど」
「では、ロクトさんの手持ち情報の価値は?
 これは既に、エリザさんが大方無力化していると見ていいでしょう。
 社のセキュリティやデータベースは、今まで沈黙を貫いたエリザさんが、統括までしている。
 となれば、刷新された社のそれにロクトさんの情報は、鍵が合わない。
 これまたガデンツァの役には立たないでしょう」
「じゃあ、ガデンツァはロクトをなぜさらったの?」
「文字通り、手駒にするためです」
 場の空気がざわついた。
「彼女を愚神化させるか、従魔に食わせるか。
 現状ではそれがガデンツァに出来る最善の利用手段と見ていい。
 特に愚神化はガデンツァの十八番。過去に例もある。社もこれを知らぬはずがない」
「それが狙いか、ガデンツァ」
 アリューが歯噛みする。
 ロクトと絆を結んだのは遙華だけではない。
 だとしたら。ロクトを倒すために躊躇する人間は必ず出る。
「でも、だったらなぜロクトは無防備にガデンツァの前に姿をさらしたの?」
「【ロクトをガデンツァに売る】企業の安定と、異常分子の排除を兼ねて。」
 魅霊のその言葉に、役員たちは席を立って猛反発した。
 だが魅霊の言葉にはイリスが反論する。
「遙華さんを守りたいからですよ」
 アイリスが補足する。
「遙華さんをこちらの陣営に置いたという事はこちらに安全の目があると判断したという事、そして自分ごとグロリア社への干渉をシャットアウトした」
 つまり自己犠牲。
「全てはロクトの独断だってこと? だったら私たちはロクトを庇うことはもう」
 できない、その言葉を言わせる前に蘿蔔が言葉を遮った。
「私は…………グロリア社の意向じゃなくて、遙華の気持ちが知りたいです」
 きけなかった言葉、自分も遙華に拒絶されてしまうんじゃないかと思って、一緒にいても言えなかった。けれどやっぱり誰かが言ってあげないといけない。
 苦しんでいる友達を見捨てることなんてできない。
「一人で抱え込まないでください。遙華の…………ロクトさんを愛してた気持ちまで否定しないで」
「正直上層部の都合とかボク的にはどうでもいいです」
 イリスが蘿蔔の隣に立つ。
「社会的な方向での罰やら何やらは必要だろうがそんなものは連れ戻してからでもできる」
 アイリスが言った。
「遙華さん、今しているのは家族の話です。少なくともボクの中ではそうです」
「であるならば契約者である遙華さんにも断罪の風は吹くかもしれないが……君は問題を尻尾切りで終わらせて納得できるかい」
「痛くても、辛くても」
「目を背けてしまえば」
「「その先に真実はない」」
「あの人は私を置いていなくなった、それ以上の真実がどこにあるっていうの!」
 声を荒げる遙華より、さらに大きく声をはって蘿蔔は言った。
「最近のロクトさんはずっと思い詰めているように見えました!」
 遙華の苦しみはわかる。だがロクトも苦しんでいた。
 蘿蔔には分かる。
「ワイスキャンセラーなのか他の施術によるものなのかは分からないが、既に英雄とは違う存在になっていたように思えたね」
 レオンハルトが静かに告げる。その目を見ているだけで遙華の感情が凪いでいく。
「それでもロクトさんの心を保っているのは遙華という大切な存在がいたからだと思うよ」
 遙華は静かに涙をこぼした。
 唖然とたたずむ役員たち。
 そんな少女に離別を強いる大人へ、クラリスが視線を向ける。
「前回の襲撃の際、ロクトさんがわたくしたちに様々な形で情報を流してくださいました」
 その言葉に遙華は顔をあげる。
「権限移譲のパスコードはもう変更しましたね?」
 そう遙華に確認するとエリザがグロリア社のスピーカー越しに答えた。
「変更済みです、ご安心を」
「彼女が何時からあちら側だったのかはわかりませんが、ルネ復活の際に取り込まれたのであればわたくしこそ処罰の対応です」
「それは違う」
 遙華が言った。
「違いません。そしてロクトさんにも準備期間がありました。自分自身への対抗策を仕込んでいる可能性もあります」
「遥華には友達が沢山できた、この風景に君がいない……連れ戻す、絶対に」
「私たちが責任を持ちます」
 蘿蔔がそう締めくくる。
「ロクトさんに会いに行きましょう、そして、全部教えてもらいましょう。何があったか」
 その言葉に遙華は静かに頷いた。

エピローグ

 結論から言うと、契約者が本人たちの意思なしに契約を執行することはできない。
「頑張ったわね」
 そう会議が終わると雨月がその体を抱き留める。
「ありがとう」
 すっかり落ち着いた遙華である。あったかーくなりながらじっとしていた。
「最近、ほぼ毎回やっている気がするけど」
「うん、おちつく」
「でもあなたが断罪なんていうから驚いた」
「もう、頭がぐちゃぐちゃになっていたから」
「断罪とかいうなら、直接ロクト本人を引っ叩くくらいの意気があってもいい気がするわ」
 その言葉に遙華は微笑む、それくらいには回復していた。
 その間に一行はアカネを囲って話し合いをしていた。
「ガデンツァ人間が歌うのじゃない楽譜。滅ぼす歌なら取り込んで一つの旋律に出来ないか?」
 アリューが問いかける。
「できると思う」
「シンフォニスよりも細かくパートを分けて、大人数で歌える曲にしたいね」
「それは覚えるの大変そうな…………でも皆で歌ったらきっと強いですよね」
 レオンハルトの言葉に蘿蔔は頷いた。
 実際できる。
 希望の音。ガデンツァの楽譜。シンフォニス。グロリア社。エリザ、アカネ。
 さらにはADやBDと言ったメンバーの協力も確約できた。
 沙耶が馬車馬のごとく働かせるらしい。
 このプロジェクトの統括となった。
 今まで積み立ててきた全ての実績、努力がここに結実する。
 ガデンツァを倒す歌。
 いや。
「ガデンツァを救う歌をつくろう」
 澄香が告げる。
 澄香のルネクリスタロスを遙華に預けた。
「全ての技術を集約した兵器をつくるわ、歌はみんなに頼んでいい?」
 澄香も蘿蔔もそれに頷いた。
「そうだ、シロ。モスケールもってたよね?」
「はい、それがどうしました?」
「いろいろあって忘れてたけど、蛇探さないと」
「ああ、そうですね、わすれてました」
 告げると蘿蔔は霊力の索敵を開始する。
 次の瞬間蘿蔔は飛びあがった。
「あああああ! なんかいます。グロリア社の、しかも下水道の下に」
 このまま体を持ち上げるだけでグロリア社全体が倒壊してしまう。
 逃げたガデンツァを追い詰める前に、もう一仕事、働いてもらうことになりそうだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 託された楽譜
    魅霊aa1456
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    R.I.P.aa1456hero001
    英雄|18才|女性|バト
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