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【相談】長き因縁に終止符を
最終発言2018/06/20 17:57:38 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/06/20 16:34:52
オープニング
●楽園蠢く
とある都市の中にある複合ビル。ある企業の重役にあてがわれた広い部屋に、その存在達はいた。
「マスコミやネットに広がった、例の『善性愚神』を歓迎する情報は意外に早く打ち消されましたね」
「人間という存在は強い意見に靡きがちですからね。とはいえ大勢に影響ない結果です」
その存在、愚神ニア・エートゥス(az0075)は自身の執務机で決済が必要な書類を処理しながら、愚神ズセ(az0077)の問いに応える。
ニアが秘密結社シーカの残存勢力といえる合法部門を支配して複数の企業を世界の法律上問題ない形で買収し、実質的に経営していることは知られていない。
人間と愚神との取引に目を光らせているH.O.P.E.の耳目をもってしてもそれがわからないほど、ニアの経営手腕は人間のそれと遜色ない範疇におさまっているためニア達は秘匿されている。
「それで。我らはどう動く?」
部屋のソファに座るコートを纏う老人、邪英ラビスが今後の方針を問う。
「彼らH.O.P.E.は世界の秩序を叫びながら、自覚もなく世界を混沌に叩き込んでいます。そのままその矛先をこの世界に向け続けてもらいましょう。ちょうどリラも面白い情報を持ってきてくれましたし」
ニアの言葉と共に、突如何もない空間から甲冑を纏う女騎士らしき存在が現れ、ニアへ書類を渡す。
ニアはその内容に眼を通した後、残る書類の決裁を済ませていき、然るべき部署へと送り終えたニアは、ズセとラビス、そしてリラと呼ばれた女愚神に向き直る。
「我々も――を後押しするとしましょう」
そう言ってニアはズセとラビス、そしてニアの合図と共に現れた別の愚神と顔を寄せ合って話をする。
やがてニアを残し2体の愚神と1体の邪英は動き出した。
●楽園は開かれる
この日、ある都市の中心部の日常が非日常に包まれる。
――Malledicti in omnium meum negotia infecaosaga.(――は汝ら災厄に地獄をお恵みなされる)
――Regnas et vincite in ilos res quem od etnustises.(勝利の為。全ての永遠の為に)
――Mi norquasa(我らを開放す)!
突如都市の一画に響き渡った耳慣れぬ言語と共に、空間を軋ませて出現したドロップゾーンが周囲に広がり、嵐の空間を構築していく。
逃げ惑う人々や車を暴風で呑みこみながら、ドロップゾーンがなお膨張を続ける中、霧と共に現れた愚神ズセが通話機の向こうにいるニアへと連絡する。
「仰る通りに致しました」
『ではH.O.P.E.のエージェント達以外は内部に入らせないようにして下さい』
「承知いたしました」
一礼して通話を切ったズセはそのままドロップゾーンの中へと消えていく。
現場にいた人々がH.O.P.E.に通報する一方、ニアからの密告もほぼ同じころH.O.P.E.に届いた。
「愚神組織『パラダイス・メーカーズ(楽園の作り手達。以下PMと略)』がドロップゾーンを展開してある都市に居座っているとの通報と密告があった」
整理が済んでない資料の中から器用に情報を拾いつつ、ジョセフ・イトウ(az0028)が機器を動かしてある都市の見取り図をスクリーンに映し出す。
「密告主はトリブヌス級愚神『監察』ニア・エートゥス。もうニアからの密告は何度もあったからいまさら驚きはしないけど、ニアからの情報によるとドロップゾーンは外部から独立した空間を構築しているらしい」
ドロップゾーンの外から一方的な攻撃は無効化されるということらしいが、他にもニアからの密告内容はドロップゾーン内にいる敵の種類や能力の一部も含まれていた。
「ニアの言い分が正しければ、内部にはPM所属の愚神達が少なくとも3体はいるみたいだ」
なおドロップゾーン展開時に巻き込まれた人達は内部の別の空間に隔離され閉じ込められており、ドロップゾーンを消去しない限り救助できない模様だ。
「ニア達の手勢がこんな真似をした目的だけど、多分ニアと同じ愚神十三騎が本命としている行動に、H.O.P.E.の戦力を向かわせない陽動だと思う。PMが複数集まって都市を襲撃するなら、この程度の被害でおさまってはいないだろうからね」
だがこのまま放置した場合、ドロップゾーンはさらに膨張を続け固定化や被害の拡大に向かう危険が高いことや、ニアという愚神の特性から鑑みて『H.O.P.E.は人々を見捨てた』という悪評を流すことをやりかねないので、放置するという選択肢はない。
既に現地にいるH.O.P.E.別働隊はドロップゾーン周辺から人々を避難させる作業で忙殺され、それ以外の任務には応じられないとの事だ。
そしてジョセフはドロップゾーンで待ち受ける敵達の名を告げる。
「主な敵は愚神ズセ。邪英ラビス。そしてリラという名の愚神だ」
いずれもケントゥリオ級の強さらしいが、ズセとラビスはシャーム共和国やアル=イスカンダリーヤ遺跡群の【門】、ロシアやアメリカでの『秘密結社シーカ』絡みで暗躍し続けてきたため、エージェント達の中にも因縁がある者達も少なくない。
今回は緊急性もあり、その災厄達を今回まとめて討伐できる好機とも言えるため、報酬も多めに設定されている。
●因縁との決着
ドロップゾーン内にある荒野の空間にいるのは三つの楽園。その身は災厄を世界に吼えたてる。
愚神ズセ。【東嵐】から今に至るまで生き残り、暗躍し続けてきた紫電と霧の災厄。
邪英ラビス。【神月】から今に至るまでニアと共にあった異世界からの邪悪。
そして愚神リラ。【狂宴】にて世界を新たな楽園へと軋ませる紫の悪意。
この3体が楽園の扉を開け、『あなたたち』を待ち受ける。
●ニアの急所
H.O.P.E.への密告を終えたニアが執務室に戻ると、そこには様々な人間達がいた。
いずれも世界各所で孤児であったり、様々な事情で今までいた場所で生きていられなくなったが、ニアが『使える』と判断して拾ってきた者達だ。
「貴方がたの希望通り、H.O.P.E.からの『保護した人間達をよこせ』という要求は拒否してきました。これでよかったんですか?」
ニアの問いに、1人の少女が進み出て言った。
「私達はいずれも人間社会から切り捨てられ、一度は死んだ身です。貴方に拾われたこの身と命、好きにお役立て下さい」
彼女達はニアが人間達のライヴスを収奪し、世界に害をなす存在だと知っている。愚神と取引すれば罪に問われる事も承知の上で、ニアに従っている。
「ではそうさせてもらいます」
そう答えたニアだが、実は彼女らこそニアの数少ない「急所」だった。
解説
●目標
愚神および邪英達の撃破もしくは撃退
失敗条件
人的被害が拡大する
●登場
ズセ
全身に紫電を纏う女性型愚神。愚神集団『パラダイス・メーカーズ(楽園の作り手達)。以下PMと略)』の1体。
以下は過去の交戦記録より判明した内容だが、ドロップゾーン内では各能力が大幅に強化されている。
2回行動。槍を振るう。ケントゥリオ級。
雷撃
何故か効果範囲を示す光る円が地面に浮かび上がった後、自分の周囲(範囲3)に放電する形と、射程50sqの直線状に放つ形がある。
霧化
自身を紫の霧と化して別の場所へ高速移動する。霧と化している間は攻撃が無効化される。効果時間1ターン。
紫電癒
紫電のようなライヴスを纏い自身を癒す。
リラ
PM所属の騎士めいた装束の女性型愚神。『山紫』という銘の刀を振るう。ケントゥリオ級。2回行動。これ以外の能力もある。
防陣
射程3sq以上の攻撃(物理・魔法問わず)を防ぐライヴスの壁を周囲に展開。射程3以内の攻撃で砕ける。
転斬
斬撃を対象の死角に瞬間転移して放つ。射程60sq。命中した場合、対象に【翻弄】を付与。
紫吹
対象の足元から無数の刺突を放つ。射程50sq、範囲1。直前に対象の足元が紫色に光る。
ラビス
邪英カオティックブレイドの老人。過去ライヴスキャスターめいた直線攻撃を放ったことはあるが、それ以外の能力は未知数。推定でケントゥリオ級。
アイスゴーレム×無数
デクリオ級従魔。略称『氷像』。下記ドロップゾーンの荒野周囲を守り、荒野より外に逃げ出そうとする者を狙う。
状況
ある都市に展開された嵐のドロップゾーン。
ズセ達は内部の縦横各100sqに広がる荒野にいる。周囲を雷雲が荒れ狂うがここだけは穏やか。
ドロップゾーンは展開後間もないのでズセ達を討つか撃退できればドロップゾーンも消えるとのこと。
無線貸与済。使用できるのは装備・携帯品のみ。
リプレイ
●開戦
ある都市に突如出現した嵐の空間――ドロップゾーンの内部は、別世界の荒野が広がっていた。
そこに到着したエージェント達のうち、最初に動いたのはリタ(aa2526hero001)と共鳴した鬼灯 佐千子(aa2526)だ。
当初佐千子は装甲車かトラックを複数台手配し、ドロップゾーン内に突っ込もうとしたが、現地のH.O.P.E.別働隊に佐千子の要請に応じる余裕はなかったため、全員徒歩での侵入となった。
待ち受けるのは愚神集団「パラダイス・メーカーズ(楽園の作り手達。以下PMと略)」所属の愚神ズセ(az0077)、愚神リラ、そして邪英ラビス。
「私には因縁も何も無いのだけれど……遠慮はナシ。愚神や邪英を放っておくわけにはいかないものね」
『肯定だ。彼我の戦力を確認する。いいか、最初の相手は――3体全てだ』
リタからの指示に従い、佐千子は敵の射程外から捉えた愚神ズセ、愚神リラ、そして邪英ラビスに37mmAGC「メルカバ」を向け、トリオを発動する。
佐千子の早撃ちにより、37mmAGC「メルカバ」が3度咆哮した。砲声が3度轟き、発射焔と共に砲弾状ライヴスが閃き飛び、ズセ・リラ・ラビスをそれぞれ直撃した。
だがリラ、ラビスへの砲撃は見えない障壁に阻まれて霧散し、ズセは霧と化して回避した。
「防御できるのはリラという愚神だけかと思っていたけれど……」
『自分だけでなく、他の味方にも防陣を付与できるようだな』
佐千子とリタは冷静に状況を把握すると、仲間達に知り得た情報を肉声やライヴス通信機「遠雷」を介して伝え、佐千子達の情報を受けたエージェント達は次々と敵達との距離を詰めていく。
Le..(aa0203hero001)と共鳴した東海林聖(aa0203)は、ズセとの決着を優先する。
「……行くぜ、ルゥ! 決着を付けてやるぜッ」
『……熱くなるのはいいけど。……油断してるとやられるよ』
Le..は聖の勢いを止めるつもりはなかったが、冷静に聖の手綱をとり警戒を怠らない。
「そろそろ終わりにしましょう……パラダイス・メーカーズ」
リーヴスラシル(aa0873hero001)や共鳴した月鏡 由利菜(aa0873)はPMとは浅からぬ因縁を持つ。
『貴様達の茶番には、これ以上付き合っていられん。今まで散々遠回りさせられた分、纏めて一気にケリをつける』
リーヴスラシルもまた、ここで決着をつけるつもりだ。
由利菜はリラとの間合いを詰める間に時折リンクコントロールを駆使する。
「ゆ、由利菜お嬢様~! お待ちくださいませ~!」
『一大決戦の直前じゃぞ! もっと早う走れ、優子や!』
駆けていく由利菜の後を、ミヅハノメ(aa5045hero001)と共鳴した天宮 優子(aa5045)が、ミヅハノメに急き立てられながら必死に追う。
優子の役割はラビスへの牽制だ。リラへは、リオン クロフォード(aa3237hero001)や共鳴した藤咲 仁菜(aa3237)が向かう。
「私は貴方達に因縁があるわけじゃないし、ニアの意図なんて想像もつきません」
真っ直ぐ前を見据え仁菜は決然と告げる。
「それでも貴方達が誰かを傷つけようとするなら、何度でも立ち塞がります」
『PMの騎士とH.O.P.E.の騎士か! 燃えるなー!』
内にいるリオンは騎士同士の戦いとなる事に戦意を燃やし、仁菜の守護の決意を後押しする。
「この人数で愚神三体を相手するなんて……」
氷室 詩乃(aa3403hero001)と共鳴した柳生 楓(aa3403)は、ケントゥリオ級の敵3体に8人で挑むという状況に少し不安を抱いていたが、詩乃はそんな楓を励ます。
『厳しい戦いだけど、楓と他の人たちが力を合わせれば倒せるよ』
楓をサポートとしようと考えていたのは、共鳴済みの羽跡久院 小恋路(aa4907)も同じだった。
「ふふっ、こんな危なそうなお仕事にあの子たちだけだなんて……お姉さん心配でついてきちゃったわぁ♪」
当面ズセへの牽制に動くが、小恋路は楓への支援も欠かさぬ予定だ。
――頼もしい仲間達とならいける。
詩乃と小恋路の助けもあって奮い立つ楓は、最初の相手をラビスに定める。
「楽園を名乗る連中か。前回は目の前のヤツに気を取られていたが……」
既に共鳴を終えたライガ(aa4573)は全体を見渡すと、荒野と嵐の境目にアイスゴーレム達が並んでいるのを確認した。
「今回はきっちり真正面から叩き伏せてやるぜ」
そう言ってライガはラビスの排除に動く。
数々の因縁が絡んだエージェント達とPMの愚神達が、激突する。
●混戦
迫るエージェント達に、ズセ、ラビス、リラ達も応戦を始めた。
霧化を解いたズセより閃く紫電状ライヴスが聖に襲いかかる。
『ヒジリー。多分かわしきれない。ここは防御だよ』
Le..の指示に聖は本能的に従いツヴァイハンダー・アスガル+3を掲げてズセの紫電状ライヴスを防ぎ、Le..の加護が聖のダメージを軽減する。
「前よりはオレも強く成ってるからな……!」
『まあそれなりにね……』
Le..のツッコミを置き去りに聖は紫電を振り払ってズセに肉薄し、あることを試すため一気呵成を発動する。
「試させてもらうぜ、千照流・卦克!」
瘴気ともいえる黒い粘性のあるライヴスが刀身から滴り落ち、魔法攻撃寄りになったツヴァイハンダー・アスガルが光芒を描いて一閃し、ズセを襲う。
ライヴスが集中した一気呵成の斬撃をズセは霧になってかわし、聖の一気呵成は虚しく霧を裂く。
「『魔』へ切り替えても効かねえか……」
『その代わり、霧になっている間は攻撃できないみたいだよ』
聖もLe..も、今の攻撃でズセの霧になった時の情報を得るのが主な目的だった。
「テメーの目的はわからねえが、何をすればいいかはわかってるんだぜ」
聖がWアクス・ハンドガン+1に持ち替え宣告する。
「貴方が何者かは知ってるけど、何であるかはわからないわ」
ズセが霧から実体化して宣告する。
「テメーは」
「貴方は」
「害虫だぜ」
「供物よ」
共に互いを否定するライヴスを撃ち放つ。
やや離れた箇所ではラビスが周囲に展開した無数の銃器が吼え、銃弾状ライヴスの嵐が優子、楓、ライガ、佐千子に放たれる。
佐千子は身を捩ってかわし、優子、ライガはかわしきれず一部の銃弾状ライヴスを受けて跳ね飛ばされるが即座に起き上がり、楓は突如その前に透明の棺桶めいた盾の群れが出現するとラビスの放った銃弾状ライヴスの嵐を防ぎ止めた。
この時楓を護ったのは、小恋路からのインタラプトシールドだった。
「あらあら、なかなか激しい事……お姉さん刺激的な子大好きよ♪ でも、お姉さんの大事な大事な子たちを傷つけるなんてぇ……お姉さんは見過ごさないわよぉ♪」
――お姉さんがぜぇったいに、護ってあ・げ・る♪
「ありがとうございます、小恋路さん」
小恋路が楓を守る姿勢を表明し、短く楓は小恋路に感謝を送る。
『優子や、まずは防陣を消すのじゃ』
当初は仲間の回復等を主に行うつもりだった優子だったが、ラビスに張られた防陣によって距離を置いた攻撃が無効化される以上、先に防陣を排除した方が味方を支援できるとミヅハノメは判断したようだ。
「わかったよ、ミヅハ。行ってくる」
短く優子はミヅハノメに応じると、優子はラビスとの距離を一気に詰め、鬼若子御槍が剛風を撒いて繰り出される。
ラビスに稲妻の勢いで突きだされた鬼若子御槍の穂先が、ラビスに張られた防陣を貫いた。
破砕音と共に防陣は消え、そこへ楓が『断罪之焔』の銘を持つレーヴァテインを振りかざし、ラビスへと迫る。
『このまま連携続行だよ。守りを削ったから、次は意識を削ったほうがいいかな』
「一つ一つ確実に削っていく、ですね」
詩乃の助言に従い、楓がラビスへとライヴスリッパーを発動すると、ライヴスリッパーの一撃がラビスへと喰らいつく。
楓のライヴスリッパーをまともに受けたラビスは気絶し、ライガが攻勢に出る。
「あの老いぼれ……俺様と同じ技が使えるようだが……」
先程ラビスが見せたのは、自身も使用するライヴスキャスターだとライガは見抜く。
一部回避しきれずダメージは負ったものの、ライガの戦意は衰えない。
ラビスは敵だ。
これ以上ないほどに、ラビスは敵だ。
ライガは獰猛な笑みを浮かべそれを理解する。
――叩き伏せてやる。覚悟しな。
ライガは今の状況では手数を多くした方がいいと判断し、武器をソウドオフ・ダブルショットガン+2に替えウェポンズレインを発動する。
ラビスの頭上にライガのソウドオフ・ダブルショットガンが複数展開し、一斉に咆哮した。
文字通り散弾の雨と化したライガのウェポンズレインがラビスに叩きつけられ、肉を穿つ複数の音が響く中、佐千子はラビスに37mmAGC「メルカバ」を向ける。
「このままラビスとリラ、両方を射程内に収め続けておくわね」
『それでいい。そのまま1体ずつ袋叩きにして倒すんだな。まずはこいつからだ』
リタも佐千子の方針に賛同し、佐千子はブルズアイを発動する。
砲声と共に閃き飛んだ佐千子の砲弾状ライヴスは、弾道予測が収束された高い精度を誇る狙撃と化し、ラビスに吸い込まれる。
鈍い音とともに着弾の火花が散り、ラビスの体が吹っ飛んだ。
リラにも由利菜、仁菜が急速に迫る。
「天宮さん、ミヅハ……無理に付き合わせてしまってごめんなさい」
ラビスと戦う優子を一瞬由利菜は案じながらも、その疾駆は止まらず、迎え撃つリラの刀を握る腕が一瞬ぶれて消え、次の瞬間迫る由利菜の死角から転斬が襲いかかる。
『右に飛べ、ユリナ!』
奇襲を警戒していたリーヴスラシルの警告に従い、右へ由利菜は跳躍すると同時に、そのまま走っていれば由利菜の体があった空間を、紫黒の光を纏う斬撃が駆け抜けた。
着地した由利菜のもとへ2撃目の転斬が襲いかかるが、強引に仁菜が割り込んで由利菜を庇う。
「目の前に私達がいるんだから、無視しないでよ!」
――騎士なら騎士らしく正々堂々と攻撃しなさい!
そんな心の叫びも内包して仁菜は星剣「コルレオニス」+5を掲げ、金属が噛み合う音を響かせリラの転斬を受け止める。
『大丈夫だニーナ。ダメージはない』
リオンはリラという愚神の攻撃では仁菜の防御を突破できず、防ぎ止められると見抜き、仁菜に短く礼を述べた由利菜は一気にリラへと肉薄する。
『死角からの斬撃はまかせろ。ユリナは敵を倒す事に集中すればいい』
「今回の依頼も、両親に無事を連絡しなければなりませんから、最後まで立っていますよ」
短くリーヴスラシルとそう言い交した由利菜はリーヴスラシルが嘗て仕えた国王から賜り、同名のAGWを使って復活させたと言われるフロッティ+5を抜き放つ。
白銀の光芒を描いて斬り下ろされた由利菜のフロッティが、一撃でリラの防陣を粉砕し、そこへ仁菜の星剣「コルレオニス」が星の輝きを空間に残して横薙ぎの斬撃と化し、リラの身に斬撃を刻む。
一撃の威力は由利菜が勝り、攻撃を防ぐ能力は仁菜が勝る。
互いの長所を活かし合い、由利菜と仁菜はたった2人でケントゥリオ級愚神と渡り合う。
●撃破
8人のエージェントと3組の『楽園』の激闘は続く。
ズセとは聖、小恋路に加え優子や由利菜が駆けつけ4対1で攻防中。
ラビスとはライガ、佐千子に加え、楓と入れ替わる形で仁菜が加わり3対1で攻防中。
そしてリラの刀「山紫」と 赤と蒼が混ざった焔を宙に散らした楓の『断罪之焔』が激突し、軋み、へし合い、それを見ながら小恋路が楓を支え、拮抗させる。
これはリタと手分けして全体の戦況把握に務めていた佐千子が、肉声やライヴス通信機「遠雷」を介して他の仲間達を誘導し、綻びが出るのを押さえ続けていたことが大きい。
このうちラビス戦では、ケアレインで仲間達の負傷を癒した仁菜にリオンが問う。
『……あのラビスという奴、助けるの? あいつ凄く悪いやつかもよ?』
「私はニアに関わってきたわけじゃないし、この人がどんな人かも分からないけど……助けられるなら、諦めないで手を伸ばしたいよ」
仁菜は間に合わなかった、たくさんの命を思い出す。
『ニーナらしいや』
リオンは呆れも含んだ優しい微笑みを仁菜に送るが、ズセはそんな仁菜やリオンを嘲笑した。
「彼は絶対に省みないわ。心を入れ換えない。貴方の良き隣人にはなり得ない。既に『こちら側』だから」
それはラビスが既に愚神と化したことを示唆していたが、仁菜は何かを覚悟し【SW】救国の聖旗「ジャンヌ」を翻し、聖なる文様が描かれた白く輝く盾へと改造されたアイギスの盾+5を掲げ、ラビスの前に立ちはだかる。
「貴方がどんな攻撃をしてこようと、この旗の立つところ、この盾で守るところに決して攻撃は届きません」
宣言通り仁菜はラビスの銃撃をことごとく防ぎ、後方に通さず揺るがない。
仲間が思いを成せるように。
無事に戻ってこれるように。
守り抜くのが私達だ!
その間に佐千子は方針を変えラビスへの集中攻撃に切り替える。
『このままいけば恐らくズセは撃破できるはずだ。あとは――』
「このままこちらを先に片付けるわよ。リラはその後にするのが妥当でしょう」
冷静に戦況に応じた判断をリタと佐千子は下し、ファストショットをラビスに発動する。
反射神経を極限に高めた早撃ちで37mmAGC「メルカバ」より灼熱した火矢が吹き延び、ラビスの正面に着弾の眩い火花が散った。
すぐさまラビスの周囲に無数の銃器が展開し、反撃の銃弾状ライヴスが送り込まれる。
恐らくロストモーメントに近い反撃技だと佐千子は見当をつけたが、仁菜がラビスの銃撃の前に身を晒す。
「言ったでしょう。届かないって!」
仁菜の宣告と共にライヴスの鏡が仁菜の前に展開し、ラビスの銃撃を反射する。
反射された自身の銃撃を浴びたラビスが吹き飛ばされたところで、仁菜はライガに呼びかける。
「ライガさん、このままやっちゃってください!」
「俺様は構わねえが、後で文句は無しだぜ、フジサキ」
念押しした上でライガは射線上に仁菜、ラビスを捉えた位置からライヴスキャスターを発動した。
「……ハッ。俺様がここに居る不運を呪うんだな」
無数に召喚されライガの周囲に折り敷いたアンチマテリアルライフル状の武器が、ライガの宣告と共に一斉に咆哮し、銃弾状ライヴスの嵐が吹き過ぎる。
仁菜はアイギスの盾を掲げてライガの攻撃を防ぎきり、その先にいたラビスは胴や頭を無数に貫通され、塵を噴いて転倒した。
塵を撒いて消えゆくラビスを仁菜が幻想蝶に入れようと試みるが、やはりズセの言うように既に愚神と化していたのか入れることは出来ず、そのままラビスは消滅した。
「命の輝きは尽きることなし!」
対ズセ戦では優子が聖、小恋路にリジェネーションを付与して回り、戦線を支えていたが、不意に優子の足元が紫の光に包まれる。
「きゃあっ!地面が光ってますっ!?」
『どの方向でもよい。思い切り飛んでかわすのじゃ』
ミヅハノメの指示に従い、優子は勢いよく前方に跳躍し、突如地面より噴き上がった無数の刺突を辛うじてかわす。
それはリラの紫吹だった。
ミヅハノメは予想よりも敵の攻撃が速いと判断して指示を変えたので、回避に成功した。
その間に楓がリラに迫り、小恋路が楓を支援する。
『もう一回攻撃が来る。『救済之輝』で防ぐべきだよね』
「わかりました。あの不意打ちを防いでから終わらせます」
詩乃が装備変更を楓に指示し、頷いた楓は『救済之輝』の銘を持つレアメタルシールドを顕現し小さな二つの天使の羽を催した装飾付きの盾を構える。
そこへマテリアルシナスタジアで【SW(盾)】リフレックスを代償に使用回数を回復させた小恋路が、インタラプトシールドで楓を守る。
小恋路のあなたの美しさは変わらない+2の形状をした無数の武器が楓の周囲を包み、リラが楓に放ちその死角から襲いかかった転斬は、小恋路のインタラプトシールドが金属音と火花を散らして威力が削がれ、楓の掲げた『救済之輝』が防ぎ霧散する。
「ふふっ、不意打ちなんていけないわねぇ。今よぉ楓さん。背中と守りはお姉さんに任せて」
『行こう。ボク達の希望を続けるために』
「任されました、小恋路さん。行ってきます」
小恋路に背を押され、楓は一気にリラとの距離を詰め、ライヴスリッパーを発動する。
「これで終わりです!」
『ボクたちの希望は尽きさせないからね!』
楓と詩乃の意志が込められたライヴスリッパーがリラへと放たれ、リラは。
ライヴスリッパーの気絶への抵抗に成功。大きく後方に飛び退く。
そのまま全力移動で嵐の中へと飛び込み、リラは楓の追撃を振り切り、離脱した。
残るズセは紫電を自身に纏わせ負傷を回復させるが、そこに2陣の疾風と化した聖と由利菜が突っ込んだ。
「自己再生か……なら回復し切れねェ、攻撃で倒す」
そう宣言すると聖が武器をベグラーベンハルバード+5に持ち替えズセに迫り、反対方向からも由利菜が肉薄する。
ほぼ同時に聖と由利菜の立つ地面が輝くと共に、紫電が周囲を薙ぎ払う。
「行動の主導権をラシルに委ね、バースト! 私はスーツのコード・エクサクノシ制御に回ります!」
『神族としての力に、この世界のライヴス科学が合わさったらどうなるか……貴様達の身で確かめろ!』
由利菜とリーヴスラシルがそれぞれリンクバースト、神経接合スーツ『EL』+5による能力の底上げを実行。
常ならぬライヴスの奔流が由利菜の身より噴出し、これを仁菜がクロスリンクで支援。そして。
「『神技! ディバイン・キャリバー!』」
由利菜より放たれたコンビネーションが、輝きを増したフロッティの斬撃の嵐と化し迸る。
ほぼ同時に既にチャージラッシュでライヴスを高めた状態から聖が疾風怒濤を発動。
『ヒジリー。このまま突っ切るんだよ』
「食らいやがれッ! 千照流・闢界ッ!」
Le..の支援を受けた聖より放たれた疾風怒濤の3連撃が、反対側からズセに放たれる。
叩き込め。
切り倒せ。
この世界を覆う霧ごと払い断て!
そして聖の3閃と由利菜の斬撃の奔流が、ズセや紫電と真正面から激突した。
激突し、空中に複数の火花を残して紫電の残光を突き破り、聖と由利菜はその威力をズセの身に炸裂させすれ違う。
一瞬の後、何かが割れる音が響くとズセの全身が無数に断裂し、やがて一陣の塵と化し消えた。
【東嵐】より暗躍してきた愚神ズセの最期は、あっけないものだった。
嵐のドロップゾーンもまた急速に薄れていき、消えていく。
やがて荒野の光景がもとの都市の姿に戻った時には、ドロップゾーンや周囲に配備されていたアイスゴーレム達も姿を消していた。
●任務完了
ドロップゾーンの消失と同時に、囚われていた人々は駆けつけてきたH.O.P.E.別働隊の手で次々と救出され、運ばれていく。
大抵のドロップゾーンでは一般人は昏倒して意識がない状態で囚われ、逃げる事はできないので優子やミヅハノメが警戒していた事態は発生しなかった。
「あのゴーレムの大群に殴り倒される事態が起きなくてよかった、というべきでしょうか?」
「終わりよければすべてよし、と言うべきかの」
優子とミヅハノメは人的被害もなく任務を完了できたことに、ひとまず安堵した。
「ふふっ。あの子達も守り抜く事が出来たし、被害も防げたから、いい結果になったわよねぇ」
援護していた相手が最終的には負傷無しで変える事が出来たので、小恋路は満足げに帰路に就いた。
「あの連中に”風穴”開けてやるのは、次の機会で良さそうだな」
ライガは当初想定していたアイスゴーレムとの戦いが発生しなかったが、再戦の可能性がある事を鬱陶しいのか楽しみなのか明らかにせず、帰還していった。
「ほぼ想定の範囲におさまった、というべきだな」
今回の結果について、リタは冷静に分析してそう評した。
「今回のPMの動きは私達の動きを拘束する意図を込めた戦略的なものよ。私達をここに向けさせるだけで、十分任務は果たしたのでしょうね」
「その通りだ、サチコ」
相棒に向ける口調で佐千子は今回の敵の意図を見抜き、リタも佐千子の意見に同意した。
由利菜やリーヴスラシルが懸念していた人質とした人々の連れ去りについては、全員の無事が確認されたのでひとまず安堵する。既に戦いで消費されたアイテムの補充も受け、同じく補充や治療を受けた他のエージェント達と共に帰還する。
「それでも恐らく……すでにどこかでニアの下へ運ばれている人々もいるでしょうね」
「……今度は何の取引に利用する気だ。体制や能力で人質の統制ができていたとしても、情報漏洩はどこで起きるか予測がつかないと言うのにな」
由利菜やリーヴスラシルは、ニアの周囲に人間達を配しているであろうことまでは推測できた。しかしその先のニアの意図までは読み切れなかった。
「終わりにはできませんでしたね」
楓は今回愚神リラのみ討ち取る事が出来なかったことを気にかけていた。
「大丈夫だよ。敵もほぼ主力を失ったみたいだし。そのうちまた出てくるだろうから、終わらせるならその時に、だよ」
詩乃の言う通りPMの主力はほぼ討ち取られたとみていいが、いまだニアは健在であるため、再戦の機会は近いと言える。
「PM絡みの事件での出来事。それに対しての『清算』が少しは出来たと思いたいところだぜ」
聖は今回愚神ズセを討てたことで、一つの区切りと思うことにした。
「……まだ元凶は残ってるけどね。今回はヒジリーにしては、よくやったと思うよ」
Le..の聖への評価は依然厳しかったが、一方で聖をねぎらうことも忘れなかった。
仁菜はラビスを救うことができなかったことに、名状しがたい感情を抱いていたが、H.O.P.E.より宥められていた。
――あれだけ歪んでいた精神性だ。仮に英雄に戻せても、また邪英化していたのではないか、と。
リオンもほぼ同意見だったが、それを飲みこみ『大丈夫! まだ救える命はあるよ』と仁菜に助言する。
「ニアのもとに留まっている人間達だよ。ニアも人間達もちょっと手強いけどね」
仁菜はそれにどう答えたのか。主力を失ったニア達がどう動くのか。
それは別の話。