本部

【愚神狂宴】連動シナリオ

【狂宴】ケツベツ

雪虫

形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
24人 / 1~25人
英雄
24人 / 0~25人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/07/02 09:14

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玻楼兎

掲示板

オープニング

●キ怪なるデート
「僕と一緒に遊園地に行ってくれませんか?」
 H.O.P.E.にそんな電話が掛かってきたのは、トリブヌス級愚神ヘイシズが太平洋上に確認された……との報を受けて間もなくの事である。電話の主はすぐに分かった。奇妙なイントネーションの京都弁。彼は――この愚神に性別が本当にあったとしたらだが、つい先日までこのH.O.P.E.に出入りしていた。『善性』などと嘯いて、エージェントを引っ張り回して能天気に遊び歩いて……。
「遊園地?」
「この前エージェントはん達と一緒に行った遊園地です。お待ちしてますね」
 掛かってきたと同様に電話は一方的に切られた。タイミングから言って狙っているのは戦力の分散だろう。ヘイシズを、本命を守るための……パンドラが本命、という可能性もなくはないが。
 とにかく、とオペレーターは全体へとコールを掛けた。奴もまたトリブヌス級、放置する訳にはいかないし、奴と因縁を持つ者もいる。
「トリブヌス級愚神パンドラが出現した。討伐に参加したい者は至急集合されたし。繰り返す……」

●訣別
「皆さん! 来てくれたんですね!」
 姿を見せたエージェント達にパンドラは喜色を浮かべた。その手に携えている物も、滲む殺気も、見えていないはずがないのに、まるで今から共に遊園地に遊びに行くような、そんな楽し気な笑みを愚神は浮かべている。
「何が目的だ」
「僕とデートして下さい! この前一緒に来た方もそうでない方も、みんなで一緒に遊びましょうよ!」
 李永平の言葉にパンドラはそんな事を言った。もちろん、額面通り受け取る者などここにはいない。そこかしこに従魔の生臭い気配が漂っている。
「従魔並べてか」
「ダメですか? みんな大事な僕の『お友達』なんですけど。皆さんが一緒に遊んでくれるなら、悪さはしません。本当ですよ? ねえ、僕の『お友達』だって、皆さんと一緒に遊びたがっているんですよ?」
 もちろん僕も。言いつつ愚神はにこりと笑う。にこやかに笑む少年の身体は、パンドラが殺害して乗っ取った『依代』である。『お友達』にしたって『材料』は推して知るべしというものだろう。命を殺して、好き勝手に壊して、壊造して、その上でこの愚神はこんな顔で笑うのだ。
 仲良くしましょうよって。
 エージェント達は武器を構える。もしかしたらこの愚神に情を抱いている者もいるかもしれない。だが明白な事は一つ。こいつを野放しにすれば大変な事になる。学生服に包まれた身体に一見傷は見当たらないが、先日の傷が癒えていない可能性は十分にある。今ここで叩く。潰す。それが今回の任務である。
 永平もまた武器を構える。もうこの愚神に聞く事などありはしない。こいつを倒して呪いを解く。決着をつける。必要な事はそれだけだ。
 愚神は小さく肩を竦め、どこからともなく白い面を取り出した。一つ目の面。マガツヒの。永平が、語る事はないと結論しつつ一応意を問うてみる。
「そいつはマガツヒとして戦うって表明か」
「この前この仮面、イケてるって言うてもらったんです。今度つけるって約束したんです。どうですか。イケてますかね?」
 面を嵌めた愚神はことりと首を傾げてみせた。これで面を外させるか、あるいは破壊するまで愚神の顔は拝めない。興味があるなら狙ってみるのもいいかもしれないが……。
 だが、そこまでの余裕があるという保証は出来ない。遊具に隠れていた従魔共が姿を見せる。遠くで地鳴りのような音もする。何か巨大なものが走り回っているような……。
「さあ、一緒に遊びましょうよ!」
 愚神が面の奥から楽し気な声を響かせた。

●敵NPC
 パンドラ
 トリブヌス級愚神。超感覚を駆使した異常な回避力を有しているが、先日の戦闘ダメージにより左腕が上手く動かないなどの不具合が残っている
・壊造
 接触した従魔のステータスを強化する。奇箱・具に触れた場合は生成するウェポンズの数を2d6に増加させる
・孕兆
 接触した対象に「何か」を植え付け体内を少しずつ破壊。【減退(1d6)】付与。このスキルは重複する。(例:減退1負荷中に減退2を喰らうと、重複して減退3になる)BS回復スキル以外回復不可
・壊造凶過
 パンドラが自身に壊造を施し物攻を上昇させる。代償として使用時にはパンドラ自身もダメージを受け、2ラウンド(以下Rと表記)《壊造》《孕兆》《壊造凶過》使用不可
・躍れ依代
 リアクション。人外めいた超回避を行う。超回避による負荷が一定ラインを越えると回避低下。さらに一定ラインを越えると……
・禍の狂持
 パッシブ。1Rで2回行動出来る

 キョウジン×25
 デクリオ級愚神。ステータスは軒並み高め。黒い包帯で身体を覆った人間のような姿をしている。ウェポンズを武器として使い、ウェポンズの形態によって射程が変化。技はドレッドノートを模倣。ウェポンズが手元にない場合は徒手格闘を行う(物攻減)。パンドラや奇箱・具を護るように行動する
・怒涛乱舞
 周囲の対象を5体まで攻撃
・烈風波
 衝撃波を発生させ、離れた対象を攻撃
・クロスカウンター
 攻撃を防ぐか回避した際、攻撃を行った対象に反撃
・禍の狂持
 パッシブ。1Rで2回行動出来る

 奇箱・具×8
 ミーレス級従魔。全長1.5mの箱型。1Rに1d6のウェポンズを生成。移動力が高い

 ウェポンズ
 ミーレス級従魔。剣・槍・弓・銃・斧・鞭いずれかの姿を取る。単独では回転しながら直線上を移動し、接触した対象に固定ダメージ2を付与。パンドラの命により一斉攻撃を仕掛けることもある

 ヤマムカデ×1
 デクリオ級従魔。防御と生命が異常に高い。全長16m、高さ2mで、黒い胴体に「人間の手足のような」脚が数十本生えている。OPで地鳴りを出していたのはこれ
 パンドラの生命力が半分になると北西より戦闘区域に走ってきて、周囲を踏み潰しつつパンドラを回収して逃亡しようとする。自重を支えられない程脚を破壊されると転倒し、以降は地面を這い回りながら移動する(移動力激減)

●戦闘区域 
 処理上50×50sq。視界は良好。戦闘開始時は以下のように配置されている(パンドラとPCが向かい合っており、その周りを従魔が取り囲んでいる)。北側にジェットコースター、東側に観覧車、西南側にコーヒーカップがある(遊具は戦闘区域外にある)

  ×   ×

× ■■■■■ ×

  ■ P ■

× ■ ☆ ■ × 

  ■ ☆ ■  
 
× ■■■■■ ×

  ×   ×

P:パンドラ
☆:PC・NPC
■:キョウジン
×:奇箱・具

解説

●目標
 パンドラを撃破する

●NPC
 李永平&花陣
 パンドラに掛けられた呪いのため特殊抵抗が著しく低い。PCの指示に従う
 スキル:怒涛乱舞×1 烈風波×3
 武器:釘バット「我道」
 
●その他
・PCの初期位置について指定したい場合は「前(前衛。パンドラ側)」「後(後衛)」とご記入下さい
・使用可能物品は装備・携帯品のみ
・PL情報は「PCは知らない情報」/活用するにはPC情報への落とし込みが必要です
・プレイングの出し忘れにご注意下さい
・英雄が二人いる場合は英雄の変更忘れ/装備・スキルの付け忘れにご注意下さい
・装備されていないアイテム・スキルはリプレイに反映する事が出来ません
・能力者と英雄の台詞は「」『』などで区別して頂けるとありがたいです
・装備力超過にご注意下さい(詳しくはスポットルール【装備の注意点】)

リプレイ


『さて、どうやら奴さんは遊びたい盛りみたいだ』
「うん。だから、存分に遊んであげないとね」
『とは言え、自由に遊び回られても困る。この場に押し留めるぞ』
 ベルフ(aa0919hero001)の声に頷いた後、九字原 昂(aa0919)は共鳴した。常の柔和な笑みが消え、スッと表情が引き締まる。
「ふーん……遊園地ね。約束を果たすには約束した場所でとか……思ってないだろうな」
 虎噛 千颯(aa0123)の声にも普段の陽気さは見られなかった。だが永平を振り返った時だけは、ニッと白い歯を見せて快活な声を響かせる。
「よっしゃ! 永平ちゃん頑張ろうな! 今日こそ呪い解こうな!」
 そして昂と共に駆け出した。昂は妨害と牽制をするべく、一息に切り込んで白夜丸を振りかざす。
 千颯はパンドラの注目を自分に引き付けるつもりでいた。パンドラのヘイトを溜める為、明確な殺意を以て愚神に向き合い叩きつける。
「それじゃ約束どおり殺すぜ! 絶対にな」
『千颯物騒な物言いはやめるでござる』
 こんな時まで諫めるのは武人故の気質だろうか。それとも千颯を心配して? 白虎丸(aa0123hero001)の物言いにわずかに苦笑を漏らしつつ、しかし次の瞬間にはブレイジングランスを繰り出した。迫りくる二種の刃をパンドラは寸でで躱し、隙を与えず東海林聖(aa0203)が剣を携え地を蹴りつける。
「今度こそ、仕留めてやるぜ。覚悟しろよこの箱野郎!」
『(……倒す。これに尽きるけど……何か隠してそうな気もするし……警戒……)』
 内から響く Le..(aa0203hero001)の声に聖は小さく顎を引いた。(永平も今回は戦うだろうし……)、気にならない訳ではないが、(無茶しなけりゃ止める事は無いけどよ)、とにかく今は眼前の敵を。
「行くぜ、ルゥ!」
『(……集中……)』
「解ってるぜ……!」
 風と雷光を供に連れ、瘴気染み込むツヴァイハンダーをパンドラへと突き入れた。愚神は回避しようとするが、刃先がわずかに肩を抉る。先日のダメージはやはり残っているらしい。
「……ふふ」
 面の下で愚神はくぐもった笑みを漏らし、身を捻りながら掌底を聖へと叩き付けた。身の内を冒す感覚がぞわりと神経を這い回るが、聖は歯を食い縛りギッと愚神を睨み付ける。

 桜小路 國光(aa4046)はその隙に守るべき誓いを発動させ、パンドラの後方にいるキョウジン達へと駆けていった。メテオバイザー(aa4046hero001)は國光の内からパンドラにちらりと視線を送り……何も言わずに相棒の見据える先に意識を戻す。


『やっと面倒なオマケなしに戦えるワケだ。年貢の納め時だぜ、パン公!』
「……雑兵を一掃しましょう。邪魔ですので」
 稍乃 チカ(aa0046hero001)と共鳴し、邦衛 八宏(aa0046)は周囲を見渡す。遊園地内に一般人がいたのか、避難は確認されているのかとの八宏の問いに、一般人はいなかったようだとの答えが返ってきた。八宏は従魔が既に改造された、壊造された人間である可能性を見ているが……。
「……先に、容れ物になり得る従魔を潰して参ります」
 仲間達に一言告げて全身をライヴスで覆い隠す。八宏もまた従属共の群れる方へと駆けていく。

 『月』……廿枝 詩(aa0299)と海(aa0299hero002)の共鳴中の人格は、静かに凪いだ瞳を一瞬だけ愚神に向けた。詩や海とは全く異なる人格で、記憶も引き継いではいない。パンドラとは面識があったらしい、その程度の認識である。
 とにかく任務をこなすべく、月は後方に目線を戻しカチューシャMRLを展開。『殲滅型偽翼』、天使を模った砲身は従順に標的に狙いを定め、複数のキョウジンへとロケット弾を降り注がせる。

 レオン(aa4976hero001)は拳を握り締めた。戦闘が苦手な葛城 巴(aa4976)の姿をしているのは、傷付く人を放っておけないという彼女の意志を尊重するため。
 敵を弱体化させるべくライブスフィールドを構築し、仲間を援護するべく周囲の様子に意識を向ける。一方、華留 希(aa3646hero001)は麻端 和頼(aa3646)の背後から指示を出していた。
『取り敢えず、若輩モノはジャマしないヨーにザコ減らしダネ』
「うっせえ! 分かってる!」
 噛み付くように声を返すが、未だライヴス訓練が未熟なのは事実である。苛立ちながらも足手纏いにならないように、と密かに自分を戒める。
「とにかく、ザコはさっさと散らさねえとだな!」
 言って蒼炎槍「ノルディックオーデン」を携え雑魚減らしと駆け出した。狙うのは奇箱・具。だがその前にキョウジンが立ち塞がり、穂先を青白い火焔ごと躊躇いもなく受け止める。
 別のキョウジンが和頼に殴り掛かろうと腕を被るが、それは守るべき誓いを発動した水落 葵(aa1538)が引き受けた。アトルラーゼ・ウェンジェンス(aa5611)と共鳴し、少女の体となったエリズバーク・ウェンジェンス(aa5611hero001)が、周囲のキョウジンも視野に入れつつ奇箱へとひた走る。
『ちょこまか動かれると面倒ですので、一気に行きますね』
 巻き起こるウェポンズレイン。武装の雨は従属共を叩き撃ち、奇箱一体をあっという間に破片に変えた。魔法少女と呼んだ方が相応しいような外見で、しかし魔女と示すがごとくエリズバークは妖艶に笑む。

「ぱ、どら……さ……っ!」
『待て、五十鈴』
 破顔し駆寄ろうとする温羅 五十鈴(aa5521)を沙治 栗花落(aa5521hero001)が引き留めた。一応足を止めながら、しかし想いは止まりはしない。

 会えて良かった。
 でもどうして。
 けど、うん。
 やっぱり、会えて嬉しい。

 決別が確定してさえも、五十鈴の感情の殆どは変わらずに友愛である。だが僅かな違和感もある。『王』をよく知らないと言っていたのに。
 マガツヒに所属している事、それだけが壁である。介入無しなど有り得る?
『とりあえず、今は任務が先だろう』
 栗花落の言葉に五十鈴は一時主導を渡した。光弓「サルンガ」の弦を引き栗花落は奇箱に矢を放つ。キョウジンが箱を守ろうと立ちはだかるが、爆弾頭に変化した矢は背後の奇箱を打ち崩した。仕事は一つ果たしたと今度は五十鈴が主導を握り、仲間達に囲まれる愚神の元へと駆けていく。

『戦わない方法は無いの? みんなも、パンドラちゃんも……』
「すんません、俺はパンドラを許せないんです。だって……」
 謝罪の言葉を口にしながら、しかし高野信実(aa4655)はロゼ=ベルトラン(aa4655hero001)にはっきりとした声音で告げた。人類とロゼを裏切った愚神を、パンドラを許せない、と。
 ロゼの心は揺れていた。遊園地以来、自分の為に戦ってくれる信実と、仲良くしたいと心から話すパンドラとの間にて。
 ロゼは口をつぐみ、目を伏せて、パンドラへの想いを押し殺す事を選択した。共鳴した瞬間、信実の瞳が「ロゼ」へと変わり、ドラマの刑事を彷彿させるトレンチコートが翻る。信実の怒りとロゼの悲しみが混じり合うが、同時に客観的かつ冷静に自分を見つめる事が出来る。自嘲気味な笑みを浮かべつつ、信実はキョウジンへリボルバー「ケラヴノスA29」を向ける。

「さて、すんなりやられてくれるかな」
『私だったら立て直しを図るけれどね! こんな普通な終わり方、ちっとも面白くないじゃないか!』
「……まぁ、前半は同意見だね。ポイントは走り回ってる何かかな」
 珍神 無鳥(aa1708hero002)に返した後、蛇塚 悠理(aa1708)は葵を一瞥した。挨拶を交わす時間は無い。視線を向けるだけでも、彼にはそれで充分だろう。
 予測は当たっていたらしく、葵はニッと笑って応えた。悠理は鷹を作り出し、地鳴りの音が聞こえた方へ高く遠く向かわせる。

「遊園地は、遊ぶための場所だもんな……」
『遊ぶの意味は色々あるが』
 アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)の言を受けつつ、木陰 黎夜(aa0061)は黒の猟兵の頁を捲った。露わになった両眼に敵の姿を映し出し、ライヴスを手の上の魔法書に集中させる。
「永平、花陣、存分にやろう……」
 二人へ声を掛けた後、黎夜は霧の猛獣を北東の奇箱へ走らせた。琥烏堂 晴久(aa5425)も北西の箱を破壊しようと呪符「白冷」を飛翔させる。
 が、どちらもキョウジンが我が身を盾として阻んだ。奇箱を破壊するにはキョウジンを先に倒すか、キョウジンのカバーリングを掻い潜る必要がある。
 レイ(aa0632)は九陽神弓を構えた。今までの相対から、パンドラの周囲に在るモノは危険と判断した。弱そうでも危険を覚える奇箱・具は、やはり早急に対処した方がいいだろう。
 プリンセス☆エデン(aa4913)はジェットコースターにこっそり想いを馳せていた。せっかくジェットコースターとかがあるのだ。墜落させたりしたら映画っぽくてカッコいいのになあ、という考えが頭を過ぎる。
『……お嬢様』
「分かってる、分かってるよ!」
 物言いたげなEzra(aa4913hero001)の様子にエデンは口を尖らせた。器具を破壊したら損害賠償請求されるのかな、と思えば流石に留まるしかない。ライヴスを解き放つ……前に永平へとウインク一つ。
「いよいよだね。がんばろっ☆ミ よーし、箱ぶっ壊しちゃうぞ!」
 可愛らしく宣告してキョウジンを引きつけた後、エデンはデクリオ級目掛けてブルームフレアを炸裂させた。奇箱を護るように動くのは判明済み。今の宣言は敵を纏めるため、そして仲間の成功率を上げるためのミスリード。
 レイはそれに合わせて三本の矢を射放った。目にも留まらぬ早撃ちの乱射、トリオは三方へ疾走する。一本はキョウジンに阻まれてしまったが、残りは見事に命中し奇箱二体を穿ち抜く。


 ヨハン・リントヴルム(aa1933)は思案する。李永平の呪いは本当にパンドラを倒すだけで解けるのだろうか。
 呪われた本人が倒さない限り解けなかったり、パンドラが嘘をついていてパンドラ自身にしか解けなかったりしないだろうか。

 そうだといいんだけどな。

「やあパンドラ、遊びに来たよ」
 ヨハンはにこやかな笑みを湛えパンドラへと接近した。血のように赤い眼を細め、楽し気に愚神に告げる。
「今度は水族館に行こうか。それとも映画がいいかい? 君が死んだら、連れてってあげる」
 先回の葛藤については彼なりに解消したようで、いつもの、外ヅラだけは紳士的なヨハンである。そんな夫にパトリツィア・リントヴルム(aa1933hero001)は声を弾ませる。
『ええ、ええ。あなたはそうでなくっちゃ!』
 ヨハンが望むのであれば何処へなりとも着いていく。そんな事は彼女にとってとっくの昔に当然で。パーティーでの謝辞のように、パトリツィアは愚神に告げる。
『パンドラ、お招きありがとう。とても楽しませていただいているわ』
 仕掛けるジェミニストライク。分身との同時攻撃は躱されてしまったが、ヨハンは至極にこやかに、楽しそうに笑み続ける。

 バルタサール・デル・レイ(aa4199)は愚神の弱点を確認するべく目にライヴスを集中させた。だが上手く見えなかった。どうやら奴の方が魔法防御が高いようだ。
「『お友達、お友達』って、気味の悪い野郎だな」
『そう? なんだか寂しがりやさんみたいだよね。孤独を自分で処理できないみたいな』
 紫苑(aa4199hero001)の言葉に「傍迷惑な野郎だな」と、バルタサールはどうでもよさげに呟いた。特に興味はないバルタサールと裏腹に、紫苑は考察を続ける。
『壊すのが好きみたいだけど、自分が壊されるのは好きなのかな。ほら、先端恐怖症って、刺したくなるからだし、高所恐怖症は飛び降りたくなるから。身体も、心も、粉々に壊されたいのかも』
「おまえも相変わらず趣味が悪いな」
 呆れたように一声漏らし、バルタサールは銃を構える。弱点看破は出来なかったが。
「まあ、左腕や仮面を狙えば問題ないだろう」

 弥刀 一二三(aa1048)は情報を整理していた。永平達からパンドラ等の報告書、情報を得た上で今回の任務に臨んだが。
「……パンドラも人間を、どすか……やっぱ愚神も人間取り込まな、生きてられんっちゅう事どすやろか?」
『愚神も英雄も同じなど知った事ではない。人も善悪いるだろう』
「その姿でええ事言うても……」
 キリル ブラックモア(aa1048hero001)はテリーヌを丸齧りしていた。上品なお抹茶とチョコレートのハーモニー、うまい。キリルは記憶が殆ど無いせいか、あまり拘りがない……菓子以外に。
『愚神の世界では美味い菓子が食えん! 行くぞ!』
 とは言えやる気はあるようで、シャギーが入った銀髪が腰辺りでシャラリと鳴った。移動の仕方と右腕の可動域を頭に入れ、愚神の回避を下げるために左側から足下を狙う。
 ヨハンの攻撃の後に迫りくるザミェルザーチダガー。パンドラはそれも身を引くように回避した。永平が後に続くが、それもまた躱して見せる。西側に立つキョウジンが、「主」の元に参じるべく足を動かそうとする。
 その前に守るべき誓いを発動した大河千乃(aa5467)が躍り出た。クロスグレイヴ・シールドで防御を固めているものの、初の「危険」判定大任務に身体は少し震えている。
「大事な戦いだと思ったから来たけど、邪魔しちゃわないかな……」
『初めては誰でもある、ここからだろう? ほら一緒だ』
 大河右京(aa5467hero001)が兄のように千乃に優しく声を掛ける。善性愚神騒動。何かしたい。できるかも。その想いで参加した。それだけを考えて行動するつもりでいる。
 自身の能力が判ってない為難しい局面は避けるが、パンドラと話したい人達が多い事、話さなきゃ成らない事がある事は判っている。
 だから会話の邪魔をする敵は引き離して引き付ける。ルーシャン(aa0784)もまた千乃と理由は少し違えど、仲間のサポートをと考えているのは同じだった。仲間が攻撃に集中できるよう、そして背後から敵に襲われ難いよう、キョウジンの数を減らすべくライヴスショットを炸裂させる。
 北と西、四体残った奇箱は小さく震えると、六面を開放してウェポンズを吐き出した。計十五体のウェポンズはそのまま高速で回転し、間近でライヴスを発散する國光と千乃へ飛んでいく。
 二人は当然ガードするが、武器型従魔はその上からも確と傷を負わせていった。一撃一撃の威力自体は微々たるもの。しかし塵も積もれば山となるのは予測するに難くない。
 敵の攻撃はそれで終わらず、キョウジンは飛んできたウェポンズをそれぞれ確保し砂塵を上げた。北は國光、東は葵、西は千乃が守るべき誓いを展開し、ライヴスを発散して敵の攻撃を誘導している。
 では、南は? 南に盾役は誰もいない。守るべき誓いの効果はそこまでは届かない。つまり南の攻撃は、後衛組のリンカー達が我が身で受ける事になる。
『……南側来ます。備えて!』
 キョウジン達が一斉に烈風波を繰り出したのは、いち早く気付いたレオンの声が響いた直後だった。地を走る衝撃波はリンカー達の身を刻み、敵はそのまま進軍して怒涛乱舞を繰り広げる。
 月の祈りの御守りが身代わりとなって二つ砕けた。禍の狂持が連撃を可能にし、一度でそれだけのダメージを負わせた。中でも被害が重かったのは東に立った葵である。一撃のダメージは軽度でも、それが掛ける十。そこかしこに出来た裂傷が重なり、重傷と呼んで差し支えないレベルにまで至っている。
「あれは、ちょっとマズいんだぜ!」
 千颯は状況を判断するや葵へケアレイを施した。誓約救済がライヴスを研ぎ澄まし、とりあえずの危機から逃す事には成功する。
 それに先んじてレオンはエデンにエマージェンシーケアを飛ばした。エデンも今の攻撃で重傷レベルに陥っていた。パイも渡したい所だが、食品アイテムは非戦闘中の落ち着いた場所でなければ回復効果は発しない。
 黛 香月(aa0790)は屠剣「神斬」を後ろへ引いた。後衛に陣している香月も、今の攻撃で少なくない傷を負っている。だがこれは好機でもある。なんせ敵が自ら懐に入ってくれたのだ。
 アウグストゥス(aa0790hero001)と共鳴する事で変じた銀髪をなびかせながら、香月は疾風怒濤を眼前の敵へ撃ち放った。集積したトップギアにより威力はより凶悪に。銘「餓狼」の名に相応しく一瞬にして敵を屠る。
『今の内に奇箱を』
 琥烏堂 為久(aa5425hero001)の声に従い、晴久は再度「白冷」を走らせた。守るべき誓いに惹かれてキョウジンのカバーが綻んでいる。今度こそ北西の奇箱は砕かれて地に落ちる。
 エリズバークは逡巡する。半分を切った生命力を回復したい所だが、一気に畳みかけて流れを掴みたい所でもある。
 と、それを察したように信実がケアレイを飛ばしてくれた。エリズバークの逡巡は失せ、武器を多数召喚して直線上に叩き撃つ。銃弾の嵐、ライヴスキャスターはキョウジン三体を呑み込んで、内二体を二度と動かぬ肉の塊へと変える。
 潜伏を用いて疾走する八宏が、西側の奇箱をチェーンソーで二つに裂いた。葵に群がるキョウジンへ、ルーシャンが二度目のライヴスショットを命中させ、黎夜がリフレクトミラーで乱反射させた黒の猟兵で追撃する。ライヴスを練った和頼が周囲へ声を張り上げる。
「ケアレイン降らすぞ、怪我した奴は近くに来い!」
 葵は癒しの雨に駆け込んで浴びてから、自分狙いで集まった従属共を振り返った。そしてライヴスショットを放った後でこう告げる。
「ちっと弾けるぜ!」
『(使う前に言って!!)』
 ウェルラス(aa1538hero001)のツッコミは当然ショットが弾けた後。エデンも傷を癒された後、周囲にいるキョウジンへとブルームフレアを華開かせる。ウェポンズを取り落とさせる事は出来なかったが、高火力に炙られて一体がどたりと倒れる。
「か弱い女の子にひっど~い! 手加減なんてしてあげないからね!」

 千乃は爆導索に武器を替えワイヤーを爆発させた。捌き切れない程集まった敵から離脱するための策であったが、キョウジン共は千乃を逃さず後から後から群がってくる。一挙手一投足にさえ苦労するような状況だ。
 それでも必死に武器を振るう。一体でも減らす事が自信に繋がる。見えてなかった自分を知る事になる。小さく一歩、進めたらもう一歩、前へ出よう。
 私の力も役立てる。
「お兄ちゃんがくれた力だよ、こうして生きてるよ」
『千乃の力だ……ううん、二人でだね』
 キョウジンのスキルはドレッドノートと同じもの。それを利用して射程から下がり、反発を生かして軌道を変え、切り込み、烈風波は盾で受け流し……。
 とは言え相手は六体、全ては捌ききれないが、千乃の防御が勝っているため生命力は削られない。それでも押される。その都度前に出る。禍の狂持も一人じゃ辛いし、自分だけを標的にしているので隙も見出し辛いけど。
 攻撃する事も守りだよね?
 今はただ、私に出来る精一杯を。
「っ! 攻撃が届かない……次は入れるっ!」

 國光はキョウジンを引き寄せつつ北側へと走っていた。
 狙いは敵の攻撃に箱を巻き込み破壊する事。タイミングを見計らって悟られぬよう速度を落とし、怒涛乱舞の放たれたタイミングで脇へと逸れる。
 目論見通り箱は木っ端と砕け散り、國光はもう一つ残った箱の方へと駆け出した。が、辿り着く前に、奇箱が四体のウェポンズを排出する。ウェポンズは國光にダメージを与えて飛んでいき、時同じくキョウジン共が一斉に反撃に出る。
 まずは烈風波がエリズバークとエデンを裂き、間を置かず怒涛乱舞が香月と月を打ち据えた。さらに東のキョウジン五体が一斉に葵に迫る。残念ながら、これを一人で凌げられる保証はない。
 悠理は「腐れ縁」の危機に我が身を盾と投げ打った。レオンもカバーリングに走り……とは言え完全に葵を守り切る事は出来なかったが、首の皮一枚の所で押し留める事は出来た。自分のダメージは御守りが軽減してくれた。レオンはエマージェンシーケアを即座に葵へと放つ。
 香月が二度目の疾風怒濤でキョウジンの息を完全に止め、和頼が再度声を掛けてケアレインを注がせる。黎夜がリフレクトミラーで範囲攻撃を加え続け、ライヴスショットを使い切ったルーシャンは、レーヴァテインを両手に構え直接敵に斬り掛かる。
 潜伏したままの八宏は遠くへ逃げて行こうとする奇箱の姿を視認した。あんなナリだが移動力は高いようだ。本体は簡単に壊れる箱。遠くに逃げてこっそりウェポンズを吐き出した方が安全だ。
 しかし八宏に逃す理由はまるでない。キョウジンは國光が引き付けてくれている。ハウンドドッグに武器を替え、八宏は一発の弾丸で最後の箱を撃ち砕いた。


 パンドラが永平の攻撃を躱したと同時にすかさず昂が距離を詰める。空手に見えるが手首にはノーシ「ウヴィーツァ」が仕込んである。突然現れた13センチの刃には流石に愚神も驚いたようで、「うわっ」と悲鳴を上げながら無理な姿勢で回避する。
 だが、そんな事をすれば代償があるのは当然で。パンドラ狙いの仲間が多いと判断した一二三は距離を取り、取り出したAK-13の銃口を愚神へと定めた。アサルトライフルの銃弾はパンドラの足を撃ち抜いて、体勢を崩した愚神の細い身体がぐらりと揺れる。
 佐倉 樹(aa0340)の周囲で稲妻が散っていた。永平の“呪い”を解く。もしくはそのための手掛かりを得る、それが樹の目的だ。
 樹は永平の呪いの事をずっと自分の責だと思っている。もちろん自分“だけ”の責ではないだろう。
 でも自分の責は ある。
「さぁ……」
『一緒に遊ぼウ!』
 シルミルテ(aa0340hero001)の楽し気な声が続く。機は訪れた。ウィザードセンスに底上げされた魔力が雷の槍を形作り、一直線に疾駆してパンドラの身を焼き焦がす。
 五十鈴はパンドラの元へ走った。その手に武器はない。此方から危害を加える気はないと言わんばかりに。彼と話をするだけ。だから通して。
「ぱ、どら……さ……っ!」
 前回掴めなかった手を今回はと、五十鈴は出ない声で呼び掛けた。パンドラは五十鈴を認め、焦げた面を五十鈴に向ける。一度深く呼吸をして、声は失っても良いからと無理矢理に振り絞る。
「……貴方の、本当にしたい事を、教えて下さい。壊したいのは、本当? 仲良くなりたいのは? 教えて。貴方を、 嫌う事は有り得ないから……」
 か細い声で必死に紡ぐ。帯の締め方を教えた時と全く同じ声色で。意志無きトモは傀儡に同じ。共に笑い、泣き、喧嘩し、和解し、一緒に進んでいくのが友だと思うと。届けば一番。
 もし届かなくても。
「壊したいのも仲良くしたいのも本当ですよ。どっちもあるのはおかしいですか?」
「……」
「壊れて意志が無くなっても、そしたらちゃんと直しますよ。約束します。直しますよ。直しますから、それじゃ、ダメですか? 五十鈴はん」
 面に隠れて表情は見えない。本心か嘘かも分からない。ただ一つ分かった事は、壊したいというパンドラの意志は本物だという事だ。
「わかりました、私で、よければ。けど壊しきるのは、ダメですよ。私は私の意志で、貴方と仲良くなりたいから」
 それでも尚、壊したいなら已むを得ない。考えを摺合せ進むのも友だから。
「互いの意志で手を取り合う事は、出来ませんか?」
 笑って最後にそう言って、五十鈴はパンドラへ手を差し出す。来るなら喜ぶ。来いと言うなら行く。腹を貫かれても笑う。
 そのつもりだった。
 そのつもりでその手を待った。
 だが、パンドラの手が、突き刺さったのは五十鈴ではなかった。
「ぐ……!」
 見開いた五十鈴の目にはヨハンの姿が映っていた。腹をパンドラに貫かれ、口から血を吐いている。
 パンドラが壊造凶過を使うつもりだと思った。だからヨハンはターゲットドロウで攻撃を自分の方へと向けた。そして避けきれなかった。五十鈴はそれを望んでいるようだったからお節介かと思ったが、仲間への攻撃は一回のみ庇おうと決めていた。見逃して死なれる事も十分あり得ていた訳だし。
 肩代わりに祈りの御守りが砕けたが、それでもヨハンに残った生命力はギリギリだった。とは言えギリギリ残ったのはパンドラが加減した故である。まるで壊しきらないように、という五十鈴の言を守ったかのように。
 レイが九陽神弓を引きテレポートショットを差し向ける。死角から転移する奇襲攻撃さえも回避されてしまったが、昂がジェミニストライクで後を継いだ。分身を使っての挟み撃ちは今度は愚神をきちんと捉え、その隙に千颯がケアレインをヨハンと聖とに降らせる。
 孕兆が消えるのを感じながら聖はパンドラへ距離を詰めた。前回の戦闘で「体感」した疑念。「感覚共有」で避けているなら、水の不意打ちだって避けられたハズ。そこに隙があるかを試す。ライヴスゴーグルでパンドラを観察し、野郎の仮面がライヴスゴーグルと似た性質を持っているのか……疑惑は杞憂で終わるか、試す。
「揺さぶって見るか……」
 先に仲間が仕掛ける寸前にトップギアを発動してみた。そう言った「ライヴスの波」を感じる事がもう一つの「眼」であるなら、コレで乱せるはずだと予測を立てて。
 結論として聖の予測は当たっていた可能性はある。前回パンドラが仮面を被っていなかった時は、ライヴスの変調は見られなかったと報告されたが、今回は仮面の方にわずかな揺らぎが確認出来た。
 だがそれだけで予測の全てが当たっていたかは分からない。パンドラの回避の低下は前回のダメージの影響かもしれないし、仲間達のアプローチ故かもしれない。水にしても「避けられなかった」ではなく「避ける必要がないと判断された」可能性もあるのだから。
 言える事は試すようなWアクス・ハンドガンの銃撃は、パンドラにきちんと命中したという事だ。壊造凶過の代償故にパンドラは反撃出来ず、一二三の放った銃弾が聖に続いて愚神を撃ち抜く。永平の烈風波がその場に愚神を縫い留める。
「二度目の『サンダーランス!』
 樹とシルミルテの攻撃が愚神を白光の中に掻き消し、バルタサールはオプティカルサイトを付けた銃口を的に合わせた。狙うのは仮面。死角から放たれた攻撃は倍増した命中力も合わさって、正確にパンドラの右目辺りを殴打した。
「うっ……」
 面が崩れて隠れていた愚神の右目を露わにする。額に命中したらしく血が流れているのが見えたが、愚神は平気そうに、嬉し気に、にいと右目を細めて見せた。そこに鷹の目を飛ばしていた悠理からの報告が入る。
「見えた。大きい……こっちに向かって走ってくる!」
 悠理の報告が直前になってしまったのは、パンドラの生命力が早くに削れたためである。この状況をどう見るか、それは人によるだろう。
 とにかく説明するのであれば、パンドラとキョウジン二十体ばかりがいる戦場に、新たにヤマムカデが襲来したという事だ。


 まともな生命体とは言えぬような姿をしていた。黒く長い胴体に「人間の手足のような」脚が数十本生えている。よく観察した者がいれば、胴体にも「人間のような」名残りが見えた事だろう。
 ヤマムカデは戦場に鼻先を突っ込むと、そのまま愚神目掛けて突撃しようと遮二無二脚を動かした。放置すれば愚神の周囲のリンカー達を踏み潰し、パンドラを回収する事は簡単に想像出来る。
 月が闖入者を視界に収め、まずはアレが優先だとAMR「ヴュールトーレンTR」の銃口を向けた。接地したバイポッドにより移動と回避が制限されるが、命中力は向上している。出来れば脚を狙いたい所だが、まずは無理せず肉塊としか思えぬ鼻先を叩き撃つ。
 晴久もまたヤマムカデを優先と意識を向けた。出来ればパンドラも巻き込みたい所だが、時機を計っている余裕はない。出来るだけ多くの脚を巻き込むようにゴーストウィンドを解き放つ。
 エリズバークが距離を詰めウェポンズレインを従魔に注いだ。銃弾の降雨がムカデの関節を撃ち抜いて、ぼとぼとと肉片を周囲に撒き散らしていく。
 エデンは幻影蝶を召喚しヤマムカデの周囲に舞わせた。遠くで地鳴りがしているため、このスキルは残しておいたのだ。光の蝶が踊りながら敵のライヴスを奪っていき、脚の十数本が固く縮みピクリとも動かなくなる。
『(うっわぁ……)』
「おっ! 良い趣味してんじゃねぇか!」
『(……うっわぁ……)』
「なぁなぁ、アレ持ち帰ってもいいか?? いいよな???」
『(なんで良いと思ってるの!? 少しは懲りて! 頼むから!)』
 ウェルラスは敵の外見と葵の発言とに三度引いた。相棒をドン引きさせつつ葵は一瞬思案する。現在の葵のダメージは中傷と重傷の中間である。守るべき誓いの効果はまだ切れず、自分に誘引されているキョウジンから逃げ切る事は不可能だ。次一斉攻撃を受ければ重体になる率が高い。賢者の欠片を使用しても次は防ぎきれないだろう。
 だったらここは打って出るべきとグリムリーパーを構え駆け出し、悠理も葵の後を追ってヤマムカデへと接近した。葵が危険な事をするなら全て投げ捨てて手伝うか庇う。そのつもりだったが、悠理のダメージもそれなりに酷い。今庇っても共倒れ、他の仲間に負担を掛ける結末にしか成り得ない。
 ならせめて敵の足止めを。悠理の縫止の針がムカデの脚に突き刺さり、次いで葵のライヴスリッパーが巨大従魔にヒットした。ライブスを乱されたヤマムカデは気絶したようにどたりと転がる。一息ついたのも束の間、キョウジンの攻撃が一斉に襲い掛かる。
 南側に一体残っていたキョウジンが、移動を制限された月へと連続で刃を繰り出した。そして予測通り、東側のキョウジンの烈風波は全て葵に集中した。戦線脱落者を出すまいとレオンがカバーに走ったが……エマージェンシーケアは使い切ってしまったし、活性化していないスキルを使用する事は出来ない。 今出来る事はカバーか、攻撃に加わるか、どちらかしかない……計十回もの衝撃波から守り切るのは不可能だった。全身を斬り刻まれて葵はその場に崩れ落ち、守るべき誓いから解放されたキョウジンが一挙に雪崩れ込もうとする。
 月は銃口を反対に替え、自分を攻撃したキョウジンへ弾丸を見舞い撃破した。敵がバラケてしまう前に、黎夜がリフレクトミラーで範囲攻撃を叩き込む。香月は東へ進撃し、敵の重心を崩して直後一気呵成に叩き潰した。その隙にレオンが葵を担いで離脱を図り、リンカー達がそれぞれにキョウジンを討ち落としていく。
 信実は和頼と共に月にケアレイを飛ばした後、ブラッドオペレートを従属一体へ差し向けた。大分数は減ったが、西と北にはまるっとキョウジンが残っている。國光と千乃が引き付けてくれてはいるのだが、討伐するまでには手が足りない状況だからだ。
 北で國光と共にキョウジン対応に回った八宏は、ZOMBIE-XX-チェーンソーを頭部へと叩き落とした。余力があれば包帯を剥ぎ取り、中身を確認と思っていたが、鎖鋸は剥ぎ取るまでもなく八宏の願いを叶えてくれた。黒く干からびてはいたが、包帯から現れたそれは紛れもなく「人間」だった。人間の成れの果てだった。
「……申し訳ありません、今は、貴方方を愚弄したアレを……」
 謝罪を口にし、せめて弔いをと武器を掲げる、八宏に向けて干からびたキョウジンの口元がニイと笑んだ。かさついた声で「愚神」は、眼前の八宏へと告げる。
「安心シろ……俺タチは、自らコウ望んだノダッ!」
 

 昂が放った女郎蜘蛛をパンドラが回避する。千颯は一気に距離を詰め、赤熱するように輝く穂先をパンドラへと突き入れた。右肩の肉がじゅうと焼け、一二三がライヴスブローに威力を増した銃弾を叩き撃つ。命中したに合わせて聖がツヴァイハンダーを、永平が釘バット「我道」を双方から繰り出すが、これは武器と地面の隙間に潜り込むように躱された。
 樹がライヴス結晶を取り出す。結晶が消滅したと同時にライヴスが迸り、主体が樹からシルミルテへと切り替わる。閉じていた右目が開いたと同時に左瞼の上に八重桜が出現し、シルミルテはテンション高く、楽し気に声を咲かせる。
『もット、イっぱい遊ぼウ!』
 樹の願いに添いながらパンドラと「森」の魔女的な意味で遊ぶ、それがシルミルテの目的だった。ブルームフレアを差し向けて、炎の華を開かせてパンドラの身を包み込む。
 國光はパンドラの元へと走った。ヤマムカデはどうやら気絶状態らしく、しばらく起きはしないだろう。だがもたもたしている余裕はない。全力で移動しながらメテオバイザーへ呼び掛ける。
「いけ……っ!」
『……!? でも……前みたいに……』
「信じろ! お前の能力者だぞ!!」
 心配そうな相棒に力強く告げる國光。その声にメテオバイザーは意を決し、表へと姿を現す。そして再び相対したパンドラへ、ペルシク・ケルスの先を向ける。
 繰り広げられる一閃。それは彼女を追ってきた従属共も巻き込んで、刃から零れる幻影の花びらを美しく舞い躍らせた。
 たまらず地面に倒れ込むパンドラを、察したように全てのキョウジンが動き出した。今までは発散されるライヴスに誘引されていたのだが、守るべき誓いは「使用者を優先的に攻撃対象にするスキル」であり、「使用者に完全に引き付ける」というスキルではない。
 つまり攻撃を捨て、肉壁に徹すれば、パンドラの元に向かう事だけを考えれば逃れられる。
 残っていた十三体のキョウジンが一斉に殺到する。千乃が背を向けるキョウジンにペルシク・ケルスを繰り出すが、背を割かれながら尚、キョウジンは止まりはしなかった。あっという間にパンドラを囲む防御壁が完成する。


『足を狙え。吹き飛ばせるなら腕でもいい』
 為久にそう言われ、晴久は一瞬戸惑った。手を取れなくなってしまうのは。その思いが「腕は……」という煮え切らぬ返答となる。
『……躊躇うなら』
「大丈夫、大丈夫だよ、兄様」
 すぐ交替する、為久の意を、しかし晴久は即座に遮った。手を取れない事を躊躇はしても、倒す事を躊躇するつもりなど微塵もない。
 どうせ倒さねばならないなら。
 出来るならボクの手で止めを。
 
 可能なら最期は顔を見て、触れる距離に居られたら


 昂はこのような基本方針を掲げていた。敵同士を分断して各個撃破を試みる。各敵ごとに相対者を用意して、敵同士が連携出来ない様に分断し、順次各個撃破に持ち込む腹積もりであった。
 だがこうなってしまってはただ目の前の敵を倒していくより他にない。それでも尚パンドラを、味方に向かわせないよう自分にと白夜丸で踏み込むが、キョウジンが滑り込み斧型従魔で受け止めた。しかもそれだけで終わらず脇腹から肩へと斬り上げてくる。
 クロスカウンター。幸い昂の防御の方が高いようでダメージはなかったが、一撃の重みに昂の身体がぐらついた。下手に仕掛ければ返り討ちに遭う可能性も否めない。
「ヤマムカデはまだ気絶しているみたいだ。しばらく動きそうにはないよ」
 悠理が鷹の目で確認したヤマムカデの様子を伝える。ヤマムカデ出現に瞬時に対応したリンカー達の、そして悠理の「腐れ縁」である葵の功と言えるだろう。
 ならばヤマムカデは後回しにしてもいいはずと、シルミルテはパンドラを中心に据えブルームフレアを爆発させた。キョウジン複数を巻き込んだらしい事は視認出来たが、当の愚神に当たっているかは従属共に隠れて見えない。
 一二三が遠方からAK-13を叩き撃ち、千颯が道を拓こうとブレイジングランスを振るう。八宏もまたキョウジンにチェーンソーで斬り掛かったが、クロスカウンターに遭い両腕から血が零れた。
 遠距離から接近戦への移行を試みたレイが、立ちはだかったキョウジンをキリングワイヤーで締め付け切り裂く。聖もパンドラの元を目指すがやはりキョウジンが立ち塞がった。これ以上先には進ませないと言わんばかりの相対である。
 場面が場面であれば、同じドレッドノート同士心が躍ったかもしれないが……いや、相手はただの模倣だし、それに今目指すべき最優先はパンドラである。邪魔者を打ち崩すためだけに聖はツヴァイハンダーを叩き込む。剣でガードしたキョウジンがクロスカウンターを繰り出すが、太刀筋を見極めて聖はそれを回避した。
「パンドラが逃げるよ!」
 引き続き鷹の目で地上を見ていた悠理が緊急事態を告げる。どうやら従属共に囲まれている隙に、パンドラはヤマムカデに飛び乗ろうとしているらしい。ヤマムカデは気絶状態だが、わずかなダメージでも受ければあっという間に目を覚ます。黒い従魔の上に黒い学生服が脚を掛ける……。
『逃がしてはあげないよ』
 月が、酷薄な笑みを浮かべながら端的にそう告げた。カオティックソウルで攻撃力を上昇、さらにエクストラバラージで武器展開量を増加。加えてレプリケイショットで自身の装備している武器を複製。ここまでスキルを出し惜しみしていたのはヤマムカデ対策用であったが。
『ここは君に使うのが、一番の選択だろうからね』
 数多のAMR「ヴュールトーレンTR」が一斉に火を噴いた。古めかしい石造りの塔が立ち並び、愚神を墜落させる様は壮観とさえ表現出来る。
『似たような趣味ではあるけれど、君の基準では仲良く出来ないね。……男とデートする趣味は無いんだよな。自分が解されたら当然困る、君は困らない? 傲慢な自覚はあるけれど、そんなものだろ。
 ……資源は有限だから、君ばかり使われたら困るし』
 破壊、解体嗜好を有する「三人目」の声を聞きながら、海は思った。思っただけで表に出したりなどはしないが。
 温泉で言葉を交わした時、耳触りの好い嘘でも吐けただろうに。彼の矜持か、私の価値観に合わせたのか、意外と誠実だったのかもしれない。
 ……ただの英雄なんてどうでも良いから、と思考を留めておくのが無難か。
 転がり落ちたパンドラはキョウジンの群れに隠された。撃墜させた月の四方から、どこからともなく現れたウェポンズが四体迫る。今までどこにいたのか不明だが、範囲外に隠れ、愚神の命令で一斉に戻ってきたのかもしれない。
『あらあら危ないですね』
 月に接触する直前、エリズバークの精製したインタラプトシールドが防いだ。ぬいぐるみを設置して囮としたらどうなるか試してみたくもあったのだが、今回は機会がなかった、とだけ思う事にする。
 悠理がキリングワイヤーを振るって一体破壊し、和頼もノルディックオーデンで一体を穿ち抜く。
 五十鈴は光弓「サルンガ」を引いた。パンドラとの距離が離れた今、他のリンカー達の邪魔をするつもりはなく、撃破……厳密には殺害でなく無力化迄になる様尽力するつもりではいる。ウェポンズを破壊するのもその一手。
 光の様なエネルギーの爆弾頭に変化した矢は、弾けて二体のウェポンズをただの破片へと変えた。内側で栗花落が声を漏らす。
『五十鈴』
「(分かってるよ、つーくん)」
 どの結果も受入れる。
 それがどんな結果でも。


 黎夜の放ったブルームフレアが肉を焼き、限界を超えたらしい一体が崩れて落ちた。
 リンクバーストも辞さない考えだが、発動させるためのアイテムがない。とにかくキョウジンの数を確実に減らそうと、ルーシャンは眼前の敵にレーヴァテインを振りかざす。
 香月が「餓狼」を手に斬り込む。彼女は断じて認めない。アイデンティティを捨て、愚神の玩具になる事など。パンドラの一味はここで殲滅する。私が私であるために。
「貴様の玩具になる事が我々の存在価値だというのなら、遊んでやる理由など無い。ゲームは終わりだ、ここで果てるがいい」
 まずは目障りなキョウジンを一気呵成で轢き潰す。バルタサールが弾丸で、千乃が剣で一体ずつ薙ぎ倒し、賢者の欠片で傷をわずかに癒したヨハンが、飛迅剣「リンドブルム」でキョウジンへと斬り掛かった。信実がアンカー砲を作動させキョウジンの脚を狙い撃つ。避けられたが計画通り。足場が不安定になった所で永平が怒涛乱舞を繰り出し、エデンが可愛く笑みながら不浄の風を巻き起こす。
「ゴーストウィンド☆」
 天を仰いだキョウジン五体が、そのまま糸の切れた人形のようにゴトリと地に転がった。晴久が間隙を縫うように、パンドラへ向けて呪符「白冷」を飛翔させるが、まだ生き残っていたキョウジンがそれを身を呈して阻む。
 だがリンカー達の攻撃は着実にダメージを蓄積させ、少しずつ、しかし確実に従属共の数を減らした。気付けばキョウジンは残り四体。ここは一気に畳み掛けるべきだろう。
 昂が女郎蜘蛛でキョウジン一体を足止めしつつパンドラへと跳躍し、シルミルテがリンクレートと引き換えにブルームフレアを召喚。パンドラと従属が炎に巻かれる。千颯が、聖が、メテオバイザーが昂の後に躍り出る。
 その時、パンドラの隣に控えていたキョウジンが怒涛乱舞を繰り広げた。攻撃はそれのみで終わらず、禍の狂持がもう一度の怒涛乱舞を可能にさせる。
 防御の高い千颯とメテオバイザーはわずかな傷に留まったが、聖のダメージは重く、一瞬にして重傷を負った。昂は影渡で一度は回避出来たのだが、二度目は移動してさえも避ける事が出来なかった。祈りの御守りが砕けても尚残ったダメージに、肺の奥が痛みを訴えごほごほと咳き込んでしまう。
 攻撃力が上がっている。先にキョウジンの攻撃を受けていた昂とメテオバイザーはそう判断した。パンドラは接触した従魔のステータスを強化する「壊造」を有している。恐らくキョウジン共がパンドラの元に集まった際、パンドラが壊造を施したのだ。よく見れば何度も攻撃を受けている筈なのに、先程昂が拘束したキョウジンと、パンドラの隣に立つキョウジンのダメージは少なく見える。
 聖は重傷を負いながらキョウジンへクロスカウンターを仕掛けた。だが先程躱した意趣返しとばかりに今度は聖が回避される。
 しかしそのまま攻撃を続ける。大きく一歩脚を踏み込み、渾身を込めてツヴァイハンダーで敵の胴を斬り上げる。一撃見舞う事には成功したが、聖の目は霞んでもう倒れる寸前だった。
 黎夜がゴーストウィンドを放つ。不浄の風がキョウジン達を囲い傷を負わせる中、パンドラが聖に接近しようとするのが千颯の目に映り込んだ。
 目をにいと細めながら聖へ手を伸ばす愚神。それを見過ごすはずもなく、千颯は咄嗟に地を蹴ってパンドラの両手を受け止めた。死ぬ気は無いが重体になる覚悟はある。躊躇う理由は微塵もない。
 今の聖にはそれで十分と判断したのか、千颯が受けたのは「孕兆」だった。プリベントデクラインで消えるのは分かっているが、それでもおぞましい感覚が皮膚の下を這い回る。
「そう言えば、隊長はんのお名前は?」
 パンドラは今更のようにそんな事を聞いてきた。バルタサールが破壊したのは面の右目部分だけで、他の部分は以前として面の下に隠れたまま。
 千颯はただひたすらに黒いパンドラの瞳を見据えた。そしてありったけの殺意を込めて口を開く。
「お前に教えてやる名前は無いんだぜ」
「……そうですか、寂しいですね」


「ちょっとサポートして欲しいんだが」
 聖は通信機も駆使しながらリンカー達にそう頼んだ。和頼と信実のケアレイを受け多少傷は癒えはしたが、もう一度飛び込めばどうなるかは分からない。
 だが身の安全がない事等、全員が承知している。ここに来る以前より。リンカーとして愚神と戦うという道を選んだ時点で。
「無茶すんじゃねえぞ」
 恐らくこの中で最も無茶を諫められてきただろう永平が、代表するようにそう言った。聖はにっと笑って応え、内でLe..が溜息を吐く。
『(前に言った……油断は禁物……)』
「(別に油断してる訳じゃねえよ。ただ今回は逃がす訳にはいかねえだろ)」
 聖からの返答にLe..は再び息を吐く。パンドラをここで倒す、という心情はLe..も同じ。
 けれどそのために無茶をして、聖が倒れたその時は。
『(その時は……げしげしって……思いっきり蹴ってやろう……)』

 五十鈴がキョウジンを狙って光弓「サルンガ」の矢を走らせ、爆弾頭は光となって従属共を呑み込んだ。合わせて一二三がAK-13で、永平が烈風波でパンドラを直接狙うが、キョウジン共が駆け込んで我が身を盾に妨げる。
 レイが前線に移動しつつ、先に雑魚減らしと再度キリングワイヤーを振るい、月の放った銃弾がまた一体にトドメを刺した。エデンが最後のゴーストウィンドを放つ前に、パンドラに言いたかった事をここぞとばかりに叫んでみる。
「デートはカレシと二人っきりでするもんなんだってばー! 従魔はお友達じゃなくって、パシリっていうんだってばー!」
 思いの丈を乗せた風は遠慮容赦なく吹き荒れた。晴久が距離を埋めつつブルームフレアを上乗せし、その隙に悠理が、千乃が、接近して得物を振るう。援護射撃に切り替えた香月のアンチマテリアルライフルが、キョウジンの頭に着弾し音を立てて吹き飛ばす。
 これで残るキョウジンは壊造を施された二体のみ。
 シルミルテがリンクレートを犠牲にライヴスを迸らせる。意識が遠退く気配がしたが、もう少し頑張れるはずだ。
『なんト三度目のブルームフレア!』
 炎が盛大に弾け飛び、昂、千乃、國光、エリズバークが一斉に飛び掛かった。キョウジンが武器を構え、パンドラの意識も当然そこに引き付けられる。
 だが、その死角から、迫りくる影があった。共鳴を解いた聖が、共鳴を解いたまま愚神へと接近していた。
 「サポートして欲しい」とは仲間に告げた。だが「共鳴を解く」とは伝えていない。それを言えば流石に止められる事は分かっていたから。共鳴を解けば防御力も生命力も共鳴時より格段に下がる。十全の状態だとしても、一撃受けただけで死亡する可能性がある。
 だから伝えなかった。伝えぬまま実行した。共鳴を解いた状態で死角から肉薄し、そして仕掛ける寸前で再度Le..と共鳴する。
「コレでも……食らいやがれッ!」
 正に「決死」で放たれた疾風怒濤の連撃は、避けられず、過たずにパンドラへと叩き込まれた。愚神の身体が大きくぐらつき、聖の身体が傾いだと同時に、引き換えと言わんばかりにキョウジンの怒涛乱舞が迫る。接近していた他の四人にもキョウジンの刃は当たり、聖とエリズバークが吹き飛ばされて動かなくなる。
 キョウジンの攻撃はそれで終わらず、聖とエリズバークを狙って烈風波が繰り出された。しかし二人を捉えない。滑り込んできた影二つが二人の代わりに受け止めた。葵を安全地帯に置き、駆け戻ってきたレオンと、クロスガードに防御を上げたルーシャンが立ち塞がって。
 レオンの、巴の最優先は、再起不能者、死亡者を出さない事。今の一撃でそれなりに生命力は削られたが。
『僕が倒れるのは、依頼目的が失敗に終わる時だけです』
 ルーシャンもまた傷を負いながらパンドラへと視線を合わせた。共鳴して十六歳の少女の姿に変わっても、その瞳は温泉でパンドラに声を掛けた時のまま。
「パンドラ、お兄ちゃん……私達と”遊んで”楽しかった……? 温泉で遊んだ時も、こうして戦ってる今も、同じくらい楽しい?」
「……」
「パンドラお兄ちゃんが愚神でも、仲良くできるならそれがいいと思った。でも愚神には、トモダチって違う意味なんだね。
 ……だから、せめて最後まで貴方に付き合うよ。それが私の”トモダチ”の証だから」
 ルーシャンの言葉に、パンドラが目を細めた気がした。その唇が動く前に昂が今一度飛び掛かった。為すべき事は変わらない。なるべく注意を自分に引きつけ、味方に向かわぬように牽制。もしくは間に割り込んで、絶えず行動を妨害する。その意図で斬り込んで白夜丸を振りかざす。
 キョウジンが間に入って昂の刃を受け止めて、排除するべく手の内の武器をしならせようとする。だが、その側頭部に月の放った銃弾が激突。悠理がキリングワイヤーで腕を切り裂いたに合わせ、一二三がAK-13の銃口をキョウジンへと定める。
「ほんまはオイルでも撒いてやろうか思いましたけど」
「オレも、酒でも掛けてみようかと思っていたけど」
 一二三の独り言に和頼が応え、二人は一瞬笑みを交わした。だが次の瞬間には、並び立って息を合わせ同時に銃弾を叩き撃つ。着弾に合わせてエデンが極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』の魔法を放ち、千乃がペルシク・ケルスをキョウジンの胴へと突き入れた。最後の二体が力尽き、残るのは未だ動けぬヤマムカデとパンドラだけ。
「善性愚神とやらを名乗る連中の中に、貴様がいた時点で底が割れていたがな。たとえ他の奴を騙せてもこの私を騙す事など貴様らに出来るものか」
 ありったけの憎悪を込めて香月は引き金を絞り込む。この憎悪が己の身を焼き焦がす炎だとしても。
「貴様らを支持する者が居なくなった今、もはやこの世に貴様らの安息の地など存在しない」
 宣告と共に走った弾丸は、パンドラのこめかみを抉りながら駆けていった。その隙に黎夜が距離を詰める。間近に迫った黎夜の姿を逃す理由は一切なく、パンドラは少し嬉しそうに笑いながら手を伸ばす。
「黎夜はん! こんなに近いのは久しぶりですね!」
 そう言って腕を握り込み、黎夜に孕兆を植え付ける。「男」に触られただけではない、神経を這う異質な感触。だが孕兆のおぞましさも、男性恐怖症も乗り越えて、黎夜はパンドラの腕を掴み返して、告げる。
「壊したい、仲良くしたい……うちは、パンドラともう少し踊っていたかった」
 零れた言葉と共に解き放たれたブルームフレア。超至近距離での炎の乱舞は愚神の腕を焼き焦がし、間を置かずオプティカルサイトに命中を増したバルタサールの銃弾が当たる。弱点など考えずとも愚神は既に満身創痍。もはやどこに当たってもダメージに変わりはしないだろう。
 潜伏で姿を隠しながら八宏がパンドラへ踊り掛かった。接触する直前、パンドラが八宏の方を見たから、恐らく潜伏は見破られているのだろう。
 だがそれでも構わない。自身の防御は顧みない。今までの怨みを己の体ごと叩きつけるが如く、ZOMBIE-XX-チェーンソーを起動させて愚神へと振り被る。
「……またこの世界へ戻って来ようと葬ります。貴方も、不本意ではないでしょう」
 決意とも手向けとも取れるような言葉と共に、駆動するチェーンソーが大きくパンドラの胸を抉った。たたらを踏んだ愚神の顔に、押し付けられたのは花束。
「『本当にその仮面、着けるのを見れるとは、ね……。確かに似合ってる、が……人と話す時に着けるモンじゃないぜ?
 面の裏の顔、見せて貰うぜ』」
 カール シェーンハイド(aa0632hero001)と完璧に声を合わせながら、レイが押し付けた花束の裏からSVL-16の引き金を引いた。今までのデータの集積からパンドラの癖を予測し、逃れられないと踏んだタイミングで攻撃に打って出た。文字通りの零距離射撃に花びらが乱れ散り、粉々になった面がバラバラと地面に落ちる。
 パンドラはレイにも腕を伸ばそうと試みたが、死角からエリズバークの魔導銃50AEが鳴った。キョウジンに吹き飛ばされ、倒れたはずのエリズバークの。
 奇蹟のメダル。持ち主の危機的状況に対して一度だけ奇蹟を起こすアイテム。これによってエリズバークは戦闘不能を免れた。とは言え紙一重という所だが、不退転の撃はパンドラの腹に確と穴を開けていた。
 エリズバークは考える。パンドラは壊したいのに仲良くなりたいと言う。それは狂気? 人の世を壊す王の逃れられない命令。そして仲良くなりたいパンドラの思い。命令と本来の思いが合わぬエラー? 英雄のように思いを重ねられぬが故の矛盾が狂気?
『パンドラ、貴方は』
 本当は
『誰かと共に生きたかったのではないですか?』
 失う前の私のように。
 エリズバークは問い掛ける。嘘を見抜く盾を持ち、彼すら気づかぬ本心をと。叶わぬ願いは死をもって救いとしよう。なれど、エリズバークは愚神へと問い掛ける。
 露わになった黒い瞳がエリズバークを振り返る。
「……わからないです。だって僕は、僕達は、僕は、何も覚えていない。壊したいのは本当。でも仲良くしたいのも本当ですよ。あなた達の事、もっともっと知りたいんです。でも、だって、ああ、僕は、僕は一体誰なんですか? 僕の願い。僕の本心。僕の本当にしたい事」
 愚神の目は揺れていた。だが次の瞬間には、黒い瞳は狂気と破壊衝動だけに染まり切った。その匣の中にあるモノが例えなんであったとしても。
「約束通り殺す。お前はここで絶対倒すんだぜ!」
 千颯のブレイジングランスがパンドラの胸を穿ち抜いた。人間ならば心臓。だがパンドラはまだ動く。秘薬を使用しリンクを再強化したメテオバイザーは、ペルシク・ケルスの幻影を撒き、想いと共に叩きつける。
『私は……王様なんてどうでもいいのです……私は、貴方の世界を知りたかっただけで……。
 覚えてないなら……あの時の様に……一緒に、世界を想像しあえたら……それで……。
 でも……沢山話せたのが貴方で良かった。
 今度は、戦わず……友達になることが許される場所で……』
 肩から斜めに切り裂かれ、愚神の身体が大きく傾いだ。しかしまだ膝を着こうとしない。信実がブラッドオペレートを召喚して刃の先を愚神に向ける。
「仲良く、か。だとしたら、ちょっと出会い方を間違ったかもね……!」
 ライヴスの刃物がパンドラへと突き刺さり、永平が烈風波を繰り出そうと腕を上げた。だが永平の攻撃は、割り入ったヨハンがターゲットドロウで掠め取った。突然の行動に誰もが目を見開く中、ヨハンは庇ったはずのパンドラに後ろ手で刃をめり込ませる。
「別に、誰がパンドラを討とうがどうでも良いんだ。それがお前でさえなければ。
 絶対に、『その手で復讐を果たす』、などという至福を味わわせてなるものか」
 ヨハンは低く呟いた。それが永平に、他のリンカー達に届いたかどうかはわからない。だが背後の愚神には届いたらしく、くつくつと楽しそうに笑う声が聞こえてきた。
「ヨハンさん、いっぱい遊んでくれて、楽しかったですよ。もっと遊べたら、いいのに」
 そう言ってパンドラがヨハンに触れようとした、矢先、晴久がパンドラに飛び掛かりそのまま地面に押し倒した。望み通り顔を見れる。今正に触れている。
「デートのお誘いにしては人数多いんじゃないの? 友人が挨拶したがっていたよ。……あの会議室でボクらは友人だったと、今でもそう思ってる」
 いつもの笑顔を浮かべながら晴久は愚神の顔を見つめる。「壊したい」と言われた時……嬉しいと思ってしまった。歪んでいるけど、それが彼の好意の表れだと思うから。
「『仲良くなりたい』、ずっとそう言ってるね。それが寂しそうに、苦しそうに見えるんだよ。
 あなたを倒すしかないのなら、ボクが、終わらせてあげる」
 呪符「白冷」が作った冷気の弾丸が愚神を襲う。その直前、パンドラの右手が晴久の顔にべたりと触れた。そしてすぐに弾丸に叩きのめされ、パンドラは地面にどたりと転がる。晴久の顔には、べったりとパンドラの赤黒い血が付いていた。ぞわぞわと這い回る感触は孕兆を埋め込まれた証。
 けれど晴久は、パンドラがただ顔を優しく撫でただけのように感じた。
「がはっ! はあ……はあ……」
 パンドラは血と共に苦し気に息を吐き出した。見れば腕も、胸も腹もボロボロで、その内の臓器もズタズタになっている事だろう。足もとっくの昔に折れたらしい。それでも動き続けたのは、それこそがやはり愚神の証左なのだろう。
 ロゼは信実との共鳴が解けるや否や、パンドラの元へと駆け寄り、崩れるように座り込んだ。押し殺したはずの想いが溢れ、少女の様に声を上げ泣く。
『信じていたかったの……今も、ずっと……っ!!』
「僕みたいな奴のために、泣く必要ないですよ……?」
 ロゼを見てパンドラはそう言った。その一言にまた涙を零すロゼを見て、「泣かないで下さいよ」とパンドラは再び言った。狂気めいた破壊衝動をぶつけてくるパンドラと、目の前のパンドラと、一体どっちが本当なのか。恐らくどっちも本当だし、そうじゃなくても……きっと、境界など引けはしないのだろう。
『コレあげル!』
 と、シルミルテがパンドラにぬいぐるみを差し出した。目をぱちくりさせるパンドラに、シルミルテは笑顔で続ける。
『何時かワタシ達ノ「森」にオイで! ソノ時コレに刺繍しテアゲるシ、まタ遊ぼウヨ』
「……」
『招待状だヨ。滅多ナ事デはアゲないンダかラ』
「……」
『君ノ事は忘れナイよ。だッテモウ友達でショ?』
「……」
『ワタシはシルミルテ! アナタの名前ハ?』
 親しみの笑顔と握手を向けるシルミルテに、パンドラは腕を上げようとした。もう筋肉も切れているだろうに、それでも腕を伸ばそうとした。
 だがその手は届く前に、呆気なく地面に落ちた。メテオバイザーが目を閉じて、見送りの言葉を告げる。
『安住の地で、またお逢いましょう』
 共鳴の解けた樹とシルミルテが、力尽きてその場に倒れた。


「李永平の呪いは完全に解けたようだ」
 というのが検査の結果だった。能力も呪いを受ける前の状態に完全に戻ったらしい。花陣も久しぶりに地面が踏めると喜んでいる。
「という事は、パンドラは完全に消滅したんだな……」
 黎夜の呟きに『そのようだな』とアーテルは頷いた。とは言えラグナロクの研究所での件など懸念事項は残っている。パンドラ討伐後撃破したヤマムカデも、調べた所人間の身体が素体らしいという事だ。葵は持ち帰りたいと言っていたが……可能であれば本当に、部位だけでも持ち帰るつもりだったが、無理な相談だったという事だ。なお葵がカメラで撮っていたデータはコピーを提出してもらい、オリジナルは断固とした希望もあって葵の手元に残っている。
『言わナイの?』
 シルミルテに覗き込まれ樹は渋い顔をした。重体に陥ったら、永平に何故そこまで気負うのか尋ねられたらと思っていたが、今回は戦闘不能程度。だから。
「……また今度」
『モー』

 晴久の顔にはパンドラが触れた痕が残っていた。
 孕兆はクリアレイにより取り除かれ、既に何処にも残っていない。そのように検査結果も出た。
 にも関わらず痕が残ってしまっているのは、晴久の無意識が傷を治すのを拒んでいるためではないか、そのような推測を述べられた。
 もっともあくまで推測に過ぎない。実際どうかはわからない。検査結果に異常はない、けれど痕がある、それだけが事実だ。
 晴久は痕に手を触れた。温かさなどという類からは程遠い感触だったが。
「それでもやっぱりあなたの事、嫌いにはなれずにいるよ。パンドラさん」


 五十鈴は遺体安置所にいた。もしかしたら誰か他にも来ていたかもしれないが、今ここに居るのは五十鈴一人。パンドラの遺体、否、依代とされた被害者の遺体は一時安置される事となり、身元を調べて遺族がいるなら引き渡すという事だ。
 喉が痛い。酷使した代償だろうか。五十鈴は職員に断って、横たわる誰かの手に触れた。愚神と手を取り合う事は出来ないから、だからこの手を掴めなかったのかもしれない。
 けれど今は。
 冷たい手をしっかり握り締めて、五十鈴は静かに唇を動かす。

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玻楼兎

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

  • Run&斬・
    東海林聖aa0203
  • 実験と禁忌と ・
    水落 葵aa1538

参加者

  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • 不夜の旅路の同伴者
    稍乃 チカaa0046hero001
    英雄|17才|男性|シャド
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • マイペース
    廿枝 詩aa0299
    人間|14才|女性|攻撃
  • エージェント
    aa0299hero002
    英雄|11才|男性|カオ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 希望の守り人
    ルーシャンaa0784
    人間|7才|女性|生命
  • 絶望を越えた絆
    アルセイドaa0784hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 悠理aa1708
    人間|26才|男性|攻撃
  • エージェント
    珍神 無鳥aa1708hero002
    英雄|25才|男性|シャド
  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933
    人間|24才|男性|命中
  • メイドの矜持
    パトリツィア・リントヴルムaa1933hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 特開部名誉職員
    高野信実aa4655
    人間|14才|男性|攻撃
  • 親切な先輩
    ロゼ=ベルトランaa4655hero001
    英雄|28才|女性|バト
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
  • 新米勇者
    葛城 巴aa4976
    人間|25才|女性|生命
  • 食いしん坊な新米僧侶
    レオンaa4976hero001
    英雄|15才|男性|バト
  • 奪還屋
    琥烏堂 晴久aa5425
    人間|15才|?|命中
  • 思いは一つ
    琥烏堂 為久aa5425hero001
    英雄|18才|男性|ソフィ
  • 希望の守り人
    大河千乃aa5467
    機械|16才|女性|攻撃
  • 絶望を越えた絆
    大河右京aa5467hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 命の守り人
    温羅 五十鈴aa5521
    人間|15才|女性|生命
  • 絶望の檻を壊す者
    沙治 栗花落aa5521hero001
    英雄|17才|男性|ジャ
  • …すでに違えて復讐を歩む
    アトルラーゼ・ウェンジェンスaa5611
    人間|10才|男性|命中
  • 愛する人と描いた未来は…
    エリズバーク・ウェンジェンスaa5611hero001
    英雄|22才|女性|カオ
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