本部

【愚神狂宴】連動シナリオ

【狂宴】グロリア社襲撃

鳴海

形態
イベントEX
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
24人 / 0~25人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/06/28 12:18

掲示板

オープニング

●姿を現したのは
 それはグロリア社地下実験施設で起きた。
 霊力を浸透させた水晶の研究、これを行っていたチームメンバーは培養層に異常を発見する。
 それは高圧の霊力が注入されるという誰も指示していない現象。
 そして培養層の中の単なる液体だったそれは爆発し周囲の機材、人間もろとも洗い流してしまう。
 高温に湯だった霊力の水を受けた者達はもがき苦しみ。悲鳴をあげ助けをこう。
 それは彼女にはまるで、救世主再誕を喜ぶ信者の歓喜のようにも聞こえた。
「あああ、久方ぶりじゃなぁ」
 告げるとガデンツァは、周囲を見渡す。
「手始めにエリザ、そして」
 しかし、そううまくはいかなかった。
 なぜ、察知することができた?
 ガデンツァは問いかける。
 息を切らせて階段を駆け下り、扉を開け放ったリンカーたちへ。
「なぜわらわがここにおると、わかったんじゃ?」
 それは不幸中の幸いだった。ロクトを監視、もしくは捕縛するために向かわされたリンカー部隊。それがガデンツァと鉢合わせするという奇跡。
 これが無ければグロリア社は滅びていただろうが。
 この奇跡が起こり得る状況を作り出したのはまた、リンカーたちなのである。
「しかし、多少の妨害は想定の内」
 ガデンツァが微笑むと事件は起きる。
 グロリア社裏口。
 ガードマンに固められたそこはすでに血の海だった。
「人間風情が……」
 そこに立つのはそれもまたガデンツァ。背後には従魔を複数従えている。
 ガデンツァが二体。しかもガデンツァはドローエンブルームで従魔を吹き飛ばしビルの中に突入させた。
「ではアンコールといこう、なに……我は優れた独奏者故、準備なぞせずとも観客の期待には答えられる」
 告げてガデンツァは音を響かせる。
 再び悪夢のような戦いが幕を開けるのだ。

● 状況確認
 今回はグロリア社が襲撃され、それに間に合ったリンカーと後から増援で現れたリンカーに別れガデンツァの処理をしていただきます。

・ グロリア社内部
 今回は研究棟が襲われました。
 研究棟は五階建てで。五階から四階にかけては会議室、小実験施設があり人も多いです。
 また五階には遙華の執務室があります。
 三階には中規模の研究施設と資材保管庫。およびデータ保管庫。
 エリザのボディーが置かれているのもここです。
 弐階には食堂やレクリエーション施設。多目的ホールや大型研究施設。
 大型研究施設は一階にあり、一階は屋外を想定した演習場やエントランス。AGWの改造など相談に乗るための窓口があります。
 さらに地下にも実験施設がありますが。一番大きいのはここに研究棟を統括するサーバーがあることです。

 先ず今回一般人はほとんど巻き込まれていません。
 五階、四階に研究員が40人程度。
 地下の研究員は死亡しました。
 三階から一階の研究員は脱出を試みていますが、屋外駐車場にて従魔の襲撃を受け足止めされています。

● 敵ステータス

・ガデンツァのステータス
 ステータス:物攻F 物防B 魔攻S 魔防A 命中A 回避C 移動C 生命A 抵抗A INT S

 ただしどちらかのガデンツァはルネだと思われます。
 ルネがガデンツァに化けている場合は全てのステータスが2ランクほど下がると思ってください。


・従魔について。
 従魔は今回自己進化を続ける蛇『ウロボロス』とリンカーの力を奪い取る猿『アサナス』の二種類に別れます。
 二体ずつの合計四体で。一体はすでに研究棟五階に投げ入れられてしまいました。
 さらに一体ずつ駐車場エリアに存在し、リンカーたちの突入を妨害します。

『ウロボロス』
 受けた攻撃によって自身を強化します。また判定が重複する可能性はあります。
 デクリオ級従魔の実力を持ちますが。成長すると、デクリオ級愚神ほどまでは戦闘力が増しますので注意です。
 また攻撃は噛みつきとその体を使った叩きつけや吹き飛ばしですが。
 牙には毒があり、体の痺れと共に継続ダメージを受けます。
 これはクリアレイなどで回復可能です。

・近接攻撃
 その腕で振るった武器によるダメージは近接攻撃判定です。
 物理防御力が微量増加し。攻撃三回につき、自身の周囲3SQに攻撃する。『スプレットティア』の使用回数を一回得ます。
 鱗を飛ばして攻撃しますが、威力は低めです。

・遠距離攻撃
 体長が50センチ伸びます。また10回に1回生命力を微量回復する脱皮現象が起こります。

・物理攻撃
 攻撃力が増加します。また三回攻撃を受けると自動的に体から毒をしみださせる『邪毒』状態になります。邪毒状態は誰かが攻撃すると解除されますが。近接攻撃を仕掛けたリンカーは極めて強い、継続ダメージ状態になります。ケアレイで解除されるまで回復しません。


『アサナス』
 アサナスは身長二メートル程度の猿ですが知能が高く戦闘力は高いです。
 アサナスはリンカーに攻撃することで力を増します。各スキルをリンカーに当てることで対応する能力を獲得します。
 デクリオ級愚神程度の戦闘能力を有します。

・ハイドブレッド
 死角外からの奇襲を行います。対象に認識されていない状態でしか使えませんが、極めて強力な物理ダメージを与えます。 
 これに成功すると3ラウンドの間半透明状態になり、リンカーに認識されず、また回避力に多大な補正がかかります。

・スピリットハント
 アサナスが最も多用する技です。霊力を掴んで奪います。
 体に接触する必要があるので近接物理ですが。生命力を追加で5奪う力を持ちます。
 さらに自身の攻撃力を上昇させます。

・ロングナックル
 腕を伸ばした攻撃です。射程が13SQまで最大伸びますが、最初の射程は5SQです。一回命中させるごとに射程が伸びるのです。





● 保護目標
 ここにはグロリア社の今まで開発したデータが全て集約されています。
 全てガデンツァに奪われてはまずいものです。
 ただ、警備が厳しく遠隔からハッキングなどでデータを奪うのは困難。
 なので力技に頼ることにしたようです。
 知略ではなく暴力に頼るしかなくなってきているようです。
 これをどう見るかは皆さん次第です。
 では、ガデンツァの狙いそうな物品についていくつか紹介しましょう。

・人工知能エリザ
 これは三回に安置されているエリザボディーの中に封印されています。
 彼女の覚醒が遅れていたのはガデンツァが身近に迫っていたからのようです。
 彼女が奪われるとルネの量産が容易になります。

・音のデータの破棄。
 ガデンツァに対抗するための楽曲研究データです。これは奪取ではなく破壊が目的のようです。

・ロクトの身柄。
 ロクトは遙華の執務室で仕事をしているそうです。

・ガデンツァ対策AGWデータ
 これは五階や四階のPC、もしくはサーバーから奪取できます。

・各種グロリア社資料。
 今まで開発した大きなプロジェクトの資料です。ARKや宇宙開発の資料などです。これはサーバーから奪取できます。



解説


目標 ガデンツァの撃退。

 今回ガデンツァを倒せるだけの戦力を確保できませんでした。
 前回は40人程度の人間で作戦に挑みましたが今回は25人です。
 しかしガデンツァの方も被害は抑えてグロリア社の資料を盗みたいはずですし。
 時間経過はこちらの援軍の増加の可能性を高めます。
 なので、ガデンツァがしびれを切らすまで保護目標を守りきる必要があります。
 倒してしまっても構わないのですけどね。
 ただ今回はガデンツァが二体いますし。
 従魔もたくさんいます。
 対処には人数を裂かないといけないですし、保護目標も沢山あります。
 チームワークの見せ所ですが。
 はたしてガデンツァの戦力や思惑はこれだけでしょうか。
 ガデンツァの手を読むことで裏をかき、ガデンツァを追い詰めることができるかもしれません。
 検討してみてください。

●作戦開始地点。

 リンカーは特別な作戦が無い限りは二つの場所からスタートできます。

・研究室地下
 ガデンツァの目の前からスタートできます。
 ここに配置できる人数は最大七人までです。
 ただし全員がガデンツァと戦う必要はなく、スタートと同時に別の場所に移動しても構いません。
 
・駐車場
 つまり外から増援に来たリンカーです。何人でも配置可能ですが、従魔が二体いることに注意してください。

・その他。
 何らかの策があれば任意の場所からスタート可能です。
 たとえばロクトの身辺捜査のためにグロリア社内部のダクトに侵入していた。
 エリザに会うために訪れていた等です。
 
 ただし突入方法に注意があります。
 ガデンツァはH.O.P.E.の動きを監視していたため。ヘリや航空機等の申請が必要な乗り物に関しては投入することは……できます。けどもガデンツァはリンカーの動きを察知していた扱いになりシナリオが進むことになるので。
 戦車、ヘリ、戦闘機等の使用にはご注意ください。

リプレイ

第一章 状況はすでに始まっている。

「なぜわらわがここにおると、わかったんじゃ?」
 そう驚きの声と共にガデンツァは冷ややかな視線を向ける。
 ここは地下室。冷たくなっていく死体から吸い上げた熱気で空気は温まり。
 自身の舞台としては申し分ない。
 そう思っていた矢先の事。
 施錠されたはずの扉が吹き飛んで。分厚い鉄の二枚扉はバラバラになってコンソールに突き刺された。
 発火したコンソールから火の手が上がる。それを消そうとスプリンクラーが霧のような水を吐いた。
――何故ここに?妖精なんて不条理なものだろうさ。
『アイリス(aa0124hero001 )』が告げる。
 ガデンツァの眼前に立っていたのは『イリス・レイバルド( aa0124 )』
 霧の向こうから黄金の戦気を散乱させてガデンツァに刃を向ける。
 その背後から続々と【暁】メンバーが入室した。
『彩咲 姫乃( aa0941 )』『無明 威月( aa3532 )』『阪須賀 槇( aa4862 )』
 暁幹部そろい踏みである。
 暁メンバーはガデンツァが逃げられないように出口や排水溝に注意しながら囲う。
 その一団の中。
『煤原 燃衣( aa2271 )』が苦悩の表情で一歩前に歩みでる。
 バカなことはよせと言う。『ネイ=カースド(aa2271hero001 )』の忠告を無視して。
「何故、ですか……ルネさん」
 眉根をしかめるガデンツァ。
「何故、春香ちゃんを裏切った」
 その言葉にゆったりとガデンツァは口元を釣り上げて、そして言った。
「みて…………わかるじゃろう?」
「何故、人々を攻撃する」
「それが使命ゆえ」
「あなたも所詮は《愚神》なんですか」
 その言葉に高らかに、ガデンツァは笑いだした。
 甲高い笑い声が部屋を満たす。
「よい! よいぞ! その絶望に歪む表情。痛みに耐える心。おかげで楽譜がよりよく完成した、主らの心あっという間に砕いてやろう」
「それが答えなんですね」
 項垂れる燃衣にイリスが言葉を継ぐ。
「聞きたい事はただひとつ……前までと同じガデンツァか?」
 精神が混ざる感覚は邪英化で体験済みのイリスである。ルネがそこにいて、心があって。けれど体をガデンツァの残留思念に奪われた可能性もなくはない。
――はははっ心が混ざる感覚というのはなかなか侮れないからね。
「はぁ?」
 ガデンツァは邪悪な笑みを浮かべる。
「最初から希望などあるわけが無かろう」
 ガデンツァは告げる。
「お主らが望むから。奪うためだけに与えてやった。ルネなぞ存在せん。それこそ偶像。お主らの懐に飛び込むための演技じゃ!」
 告げるとガデンツァは苛立たしげにフラスコの一つに音を放った。
「お主らと演じた茶番の数々、反吐が出そうじゃったぞ。何が愛じゃ。希望じゃ。笑わせる。歌など情報を伝達する手段。そしてお主らのこころを砕く刃」
――ここに、彼女がいなくてよかった。
 アイリスが珍しく怒気を孕ませて言葉を返す。
「わかった。もう喋らなくていい。お前は愚神だ。これ以上余計なことする前に殺す」
 イリスが告げる。
 そう話をしている間に、生存者がいないか確認する役目の『藤咲 仁菜( aa3237 )』
 しかし誰一人生きてはいなかった。
「何で……こんな……」
 その惨状を見て仁菜は震える。
――ニーナ、ちゃんと前を見て。
 膝をついて拳を握りしめる仁菜に『リオン クロフォード(aa3237hero001 )』は言った。
 失った者は戻らない。
――これ以上失わないよう前を見て。
 涙をぬぐって仁菜は歩きだす。
 その背中を見送りながら『阪須賀 誄(aa4862hero001 )』の頭は冷え切っていた。
 今回の戦い、誰一人として冷静でいられないだろう。
 隊長や兄。仁菜もアイリスでさえ。であれば自分が冷静にいるしかない。
――いざとなれば、隊長に代わってでも…………。
 次いでギリリと歯を食い縛る音が部屋に響く。
「……貴方が人を殺すのなら、ボクは人を守る……!」
 その燃衣の声と共に暁部隊が、一個の生命体のように連動して動いた。

「はたしてそう簡単にいくかの?」

 告げるガデンツァは謳うように、全てを破壊する音を響かせる。
 だがそんな中同じセリフを同タイミングで、裏口をふさぐガデンツァも告げた。
『小詩 いのり( aa1420 )』に向けて。
(ガデンツァのやつ、グロリア社を直接襲撃してくるなんて! でも、これって向こうにも余裕がないってことなんじゃない?)
 そう念話で『セバス=チャン(aa1420hero001 )』に問いかけるいのり。
――お嬢様。もうじき澄香お嬢様も来られます。無茶はなさらずに。
(わかってる。ここが頑張りどころだね)
「全力で守り切るよ!」
「はたしてそう簡単にいくかの?」
 そして風が吹き荒れた。
 暴風はたやすくいのりの体を吹き飛ばし廊下の端まで転がせる。
 それに歩み寄りながらガデンツァは問いかけた。
「よいのか? 飛んで火にいる夏の虫じゃぞいのり。持ち返って解剖してやろう」
「きみこそいいの? 話してる間にこっちは対策進めてるよ」
「構うものか」
 いのりの言う対策とは『蔵李 澄香( aa0010 )』たちの事である。
 状況は同時に進行している、このグロリア社。内外で。
 そのグロリア社の、知っている者は二人しかいないシークレットルームにリンカーたちはいた。
『クラリス・ミカ(aa0010hero001 )』は以前ロクトから得た情報を元に、グロリア社内の真のサーバールームへと侵入を果たしたのだ。
 一つの情報だけでも企業が滅びかねない。もしくは莫大な財産を築けるような情報が山のように保管されたサーバー。
 そこに無数の管をさしこんでリンカーはデータ抽出作業を急いでいた。
「さすがにデータ量が膨大ですね。ありがとうございます。助かりました」
 告げる澄香はPCに要求されたパスコードを打ち込む。
 グロリア社全権限移譲のパスコード24ケタ。それを教えてくれたのはロクト。
 今なら澄香は日本グロリア社内部のデータを好きにいじることができる。
 これは異常事態だ。グロリア社の頭脳まるまる、澄香にゆだねたと言っても過言ではない。
――やはり、そういうことなのですか。
 そうクラリスは重たい気持ちで頷いた。
 その隣でメガネ越しに画面を見つめる『鈴宮 夕燈( aa1480 )』とデータを写したハードディスクをアタッシュケースに詰める『Agra・Gilgit(aa1480hero001 )』
「ぷんぷんまる。音楽データも壊させへんし。お友達も抹殺とかさせへんし」
 ぷんすこ。そんな擬音が聞えてきそうなほど夕燈の怒りは真剣である。
 怖いはずなのに。
 なのにもかかわらずここにきてくれたその勇気が愛おしくて『楪 アルト( aa4349 )』はその頭を撫でた。
「うちのお手てさんの隠し機能さんを遂にお披露目やねっ」
 そう手を掲げるとその手首から何かが出た。
「うさびーめもりー」
 USBメモリの端子である。
「かちこーん☆データ守るよー守る」
 それを突き刺すと腕から、かりかりかりと音が出た。
「おい、もうちょっと静かに作業できねぇのか」
 そうAgraが新しい腕を差し出して告げた。
「ばっくあっぷぅ」
「それ、いつもみたいにぶっ飛んで読解君じゃねぇのか?」
 アルトがそう問いかける。
「取れへんよ、今回は取れない様にカチャコンしてる~」
 特別製らしい。いつもそうすればいいのにとアルトはちょっと思った。
――裏口。さすがに戦力が少なすぎです。防衛ラインをガンガンあげられています。
 クラリスのアナウンスが流れる。
 その言葉に作業を急ぐ澄香。
「データをとるだけじゃだめだ。データを入れないと」
 告げると澄香は何かデータを書き込み始めた。
 クラリスが用意したダミープログラムである。
 AGWデータ・各種グロリア社資料の偽装用ダミーデータをサーバー内に大量に配置している。
 そして抜き出したデータは幻想蝶にしまい込み。立ち上がる。
「アルトちゃん、いこう」
「待ってたぜ、その言葉をよ!」
 アルトは夕燈をこのサーバールームにおいて歩きだす。
 ここは今、グロリア社で一番安全だ。
 そして廊下に出ると窓を粉砕し、身を躍らせる。
 裏口はここから飛び降りた真下。
「聴こえる……きこえんぞ! てめぇの辛気臭ぇクソッタレな歌がよぉ! てめぇの歌声をあいつのところに届けてやんねーと安心して眠ってらんねーだろうからなぁ!!」
 状況開始から五分。
 すでにいくつかの地点からは戦火は広がっていた。
 駐車場。裏口。そして地下室。
 この戦いの趨勢が今後どのような影響を及ぼすか。リンカーたちはまだ知らない。
 
 第二章 果て

 その部屋は慌ただしかった、複数の足音、剣呑な空気。
 しかしここに敵がいるわけではない。
 それを『白金 茶々子( aa5194 )』は知っていた。
「むー、蛍お兄ちゃん、遙華さんに付き添っててあげるからってロクトさんの安全を見守るようにお願いするのはいいのですが……ど、どうなってるのでしょうなのです?」
 茶々子は蛍丸と赴いた遙華救出依頼の後すぐにこちらに向かった、蛍丸は遙華の傍にいてあげることを選んだようだ。
 その後一足早く到着した茶々子はロクトの身辺警護役としてこうしてグロリア社に潜んでいたのだが。
 状況が変わったらしい、外も騒がしい。
 茶々子は永延と悩み『モフ(aa5194hero002 )』に確認をとってから足元の通風孔からひょっこり顔を出した。
 それがよもや、ロクトのスカートの真下に出るとは。
「あら? あなたは…………だれかしら」
 ロクトはスカートを抑えながら半歩引くと、武器を構えたほかのリンカーたちをなだめる。
「小さなお客さんよ、ルネじゃないわ」
「初めまして、御噂はかねがね」
 告げながらあたりを見渡すと『斉加 理夢琉( aa0783 )』や『アリュー(aa0783hero001 )』
『榊原・沙耶( aa1188 )』と『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001 )』がロクトの私物をまとめている最中だった。
「どうでもいいけど、急がないとねぇ」
 告げる沙耶はガデンツァの水晶技術を流用した研究。その資料で目を止めた。
「霊力を浸透させた水晶の研究…………ねぇ」
 告げると沙耶はロクトを振り返る。
「これは、私達が主導していた研究だったかかしらぁ?」
「いえ。あなた達の研究から派生したものではあるけど、私が考案したものよ」
「蔵李さんが使っていた水晶は」
「汚染されていない、安心して」
 一同はまず研究室に潜入すると五階を目指した。
 ロクトは今能力者がいない状態でここにいる。 
 従魔に襲われてしまえば一貫の終わりであった。
 だが今はこうして無事に合流できている。
 とすればあとやるべきことは一つ。逃げることだ。
 そう沙耶は手当たり次第に水源は全て塞ぎ、データはバックアップを取って貰って全てシャットダウンを始める。
「遥華と春香さんが狙われるかもしれません、対策は?」
 その間に理夢琉はそうロクトに問いかける。
「対策済みよ、だってあなた達が確保してるんでしょ、二人とも。だったら大乗」
「まずいな……ロクト、ガデンツァに知られていない秘密基地とか無いか?」
 そうインカム越しに何か話をしていたアリューが振り返った。
「そんな都合のいいものがあるならもうとっくに使ってる」
 告げるとロクトは資料に火を放った。
 めらめらと燃え始めるロクトの執務室。
「どうして」
 驚きを隠せない理夢琉はなんとかその言葉だけをひねり出した。
「隠すには難しい情報ばかりが染みついた部屋だから。悪用されないように燃やすのよ」
 その炎を『魅霊( aa1456 )』はだまって見守っている。『R.I.P.(aa1456hero001 )』の姿はない、すでに共鳴済みのようだ。
「その方がいいわね、ところで」
 沙羅が問いかける。
「ワイスキャンセラー。そして特効薬のデータは?」
「グライブキャンセラーね。全部回収済みよ」
 グロリアにあるワイスキャンセラー、及び特効薬の在庫数を照らし合わせて1つもガデンツァの手に渡らせない。
 そう心に誓う沙羅である。
「ねぇ、そろそろ全部話してくれてもいいんじゃないの?」
 沙耶は沙羅主体で共鳴、全員が廊下に出る。それを見送った茶々子は二度ダクトの中へ。
 全員は足早に歩き始めた。
「全部ってなに?」
 ロクトが壁に手を這わせると、廊下の何もない場所に通路が現れた。狭い通路だが、緊急脱出口に通じているらしい。
 ロクトの先導に全員が素直に従った。
「まって、グロリア社の社員がいるはずよ」
「この道は誰でも使うってわけにはいかないわ。敵が追ってくるもの」
 ロクトが告げる。
「他の社員さんが死んでしまいます」
 理夢琉が告げた。
「その中にガデンツァが紛れていれば私たちは死ぬのよ」
「それはもっともね」
 ガデンツァが紛れ込んでいなくともガデンツァに操られている可能性は十分に考えられる。
「保護したデータは全て一時HOPE預りにしたい。まぁ名目上は。けど、ガデンツァの息がかかった人が紛れていたらそれも無理。私たちはこのままいきましょう」
「でも…………」
 理夢琉が後ろを振り返った。
「私、戻ります。見捨てていけないから」
 告げると理夢琉はイメージプロジェクターを取り出した。
 そしてロクトの姿をはりつける。
「卸さん、そちらはどんな感じですか?」
 そう言って理夢琉は走り去っていった。
 護衛の数は十分。
 であれば自分が本当にすべきことは…………。そう考えたのだ。
 その姿を見送るロクト。
「あの子にはみられたくないから、ちょうどよかったわ」
 そうぼそりとつぶやいて再び先導する。
――それにしても孫娘が拉致されたのにトップからの反応が異常に薄いわねぇ。
 沙耶が言った。
「放任主義なのかと思ってたけどここまで来るとむしろお爺様にとって邪魔な存在なのか、もしくはガデンツァの傀儡なのか」
「それはないわ」
 ロクトがそう反論する。
 突き当りのボタンを押すと足元からエレベーターが上がってくる音が聞こえる。
「それはぜったいにない」
 その言い切りを不審に思い追求しようとしたとき、ロクトは到着したエレベーターの中を示しながら告げた。
「だって、密告者は私だから」
 そのロクトの視線を受け止めながら沙羅はエレベーターに乗り込む。
 どこに連れて行かれるのかはきかずに。

   *   *

 グロリア社周辺には川と遊歩道がある。緑は適度にストレスを和らげるのでわざわざ会社側で作ったらしい。
 その遊歩道が好きで『餅 望月( aa0843 )』と『百薬(aa0843hero001 )』はたまにお散歩に来るのだが。
 この日は少し感覚が違った。
 いかなければならない気がしたのだ。
「貴重な晴れ間は散歩くらいしておかないと勿体ないよね」
 百薬はそう言うが望月はずっと緊張していた。
 そして、グロリア社方面で悲鳴が聞こえると走り出す。
 そこには巨大な蛇の従魔と、猿型の従魔が暴れていた。
『月影 飛翔( aa0224 )』が刃を構えて戦っている。周囲には爆炎の痕。フリーガーのあとだろうか。『望月 飯綱( aa4705 )』も一緒だ。
「まさかグロリア社に襲撃してくるなんて驚きね!」
『雪室 チルル( aa5177 )』がウルスラグナで牽制しながら告げる。
『スネグラチカ(aa5177hero001 )』が口を開いた。
――そこまでリスクを負うだけの理由があるってことでしょ?
「どちらにしてもあたいが来たんだから相手の目論見は失敗したも当然よ!」
――久々の依頼なんだから慎重にね。
「話はきかせてもらった~」
 そんなチルルの側面からアサナスが襲いかかる。
 それを望月が横腹を蹴り飛ばして攻撃をそらす。
「今の話で分かったの?」
 チルルがお礼を言って立ち上がると望月は頷く。
「うん、なんとなく」
 望月はあたりを見渡した。『ハーメル( aa0958 )』や『世良 杏奈( aa3447 )』がグロリア社内に視線を向けている。
 ここを突破したいのだろう。中で何かが起きているのだ。
 であれば、自分が手伝えることは一つ。
「……な、何とか敵の注意を引くなりして……逃げ道を作らないと……いや、倒さないと! よし、行こう」
 飯綱が切りこんだ。
 蛇の巨体へすれ違いざまの攻撃。
 尻尾に気を付けて反転し。猿からの攻撃をバックステップでよけた。
「従魔がいて外に出られないのね、早いとこ倒しちゃいましょ!」
 その杏奈の言葉に『ルナ(aa3447hero001 )』は頷く。
「ガデンツァ復活したのね」
 うんざりしたようにため息をついたのは『水瀬 雨月( aa0801 )』
「あんな怪我までしたのに何だか損な気分だわ。
 倒しても倒しても出てくる辺り、まるでゴキ…………いえ、何でもないわ」
 杏奈と息を合わせアサナスの逃げ場をふさぐように魔術弾を放っていく。
――突破口だ。
「嫌ダメだよ」
『墓守(aa0958hero001 )』の言葉に首を振るハーメル。
 見ればいつの間にかウロボロスが眼前に立ちふさがるように移動している。
 何が何でも通したくないようだった。
「私は資料の回収に向かうの、邪魔はしないで」
 そうすばしっこく走り回るアサナスへブルームフレア。その爆炎を突っ切って飛びかかってきたアサナスを望月がはじいた。
 飯綱とコンビネーションで動きを封じる。
 そこに雨月は二度ブルームフレアを放つ。
「中に人が囚われているらしい」
 飛翔が全員に告げた。
「まずは外を片付けて避難できるようにする」
 そして大剣でウロボロスの牙を弾いて後退した。
「そうだね。こいつらがいるんじゃ何時まで経っても中の人達が脱出できないだろうし」
 チルルが頷いた。
――相手の能力を考えると長期戦は避けたいところだね。
 飛翔は放たれる毒液を刃の腹で受けながら接近。しかし攻撃をする間際にアサナスに妨害される。
 伸びてきた腕が飛翔の肩をつく。
「あいつは、ウロボロスの対応をしている者の死角から攻撃するだけの知能と狡猾さがあるな」
 走り回るアサナスを眺めが言う飛翔。
――せめて、蛇が倒れるまで抑える必要がありますね。
 死角を作らないよう飛翔は周囲警戒を『ルビナス フローリア(aa0224hero001 )』に頼み、飛翔は告げると髪染めの液体が入った瓶をアサナスに投げつけるが、それはかわされる。
 辺りに異臭が漂った。
「うん。基本は前衛として行動して、スキル等で敵の注意を引き付けていく役目ね」
 そうチルルがアサナスと並走して走った。
 片手にはAGWではなくスプレー。
 飛翔の行動にヒントを受けたチルルはそれをアサナスに吹きかけた。
 塗料と匂い。これで再び半透明になられても場所が特定できる。
 そんなチルルをうっとおしく思ったのか。長い腕で薙ぐようにチルルを攻撃。
 あわててチルルは距離をとった。
 そう思った矢先。
 放たれたのはロケットアンカー。
 それを避けるために大きく横に飛ぶアサナス。
「おしいなぁ!」
 拘束できれば話は早かったのだが。
 そうチルルはアンカーをしまい再び走り出す。
「チャンスがあればライヴスリッパーでスタンを狙って、動けない間に袋叩きにするよ」
 そう全員に協力を求める。
「ガデンツァって倒さなかったっけ?」
 そう背中合わせに飛翔と蛇を睨む望月。
――復活したんじゃないかな、細胞一個あればなんとでもしそうだよ。
 百薬が答えた。
「中の状況は詳しくはわからない。が、複雑なことはわかる」
 望月が尾を突き刺そうと動くと、飛翔は頭を押さえようと動いた。
――人気連載の引き延ばし策だね。
「まずは人助け優先しよう、生きてればなんとかなるよ」
「早くガデンツァの所に向かわないといけないのに、アンタ達に構ってる暇は無いんだから!!」
 杏奈は駆けながらウロボロスの背に魔法弾を浴びせていく。
「あと、場所も分かってる!」
 そう姿を隠した気になっているアサナスをマナチェイサーで捕え、振り返ると放たれた拳を逆にとる。
 武術の応用で受け止めひねる。
 霊力は奪われるが、チルルがロケットアンカーを撃つ隙となった。
 焦り抵抗をみせれるアサナス。
 その背後から飯綱が迫る、苦無で背中から一突き。
 しかしまだアサナスはもがく。空いた手で飯綱を掴み引きはがそうとした。
「この! もうあきらめて!」
 傷口から大量の血をまき散らすアサナス。だがアサナスは膨大な殺気を感じて拳を前方に伸ばして攻撃する。
 その腕を刃の腹で受けると飛翔はわずかに後退。歯噛みした。
「ここが森じゃなく立体起動されないだけ、マシか」
――パワーが高いですね、更に戦闘中にも上がっています。
 ルビナスが告げる。
「こちらから奪った霊力を変換しているんだろう」
 だがやられっぱなしではない。伸びた腕は戻るまでに時間がかかる。
 なので素早く身を翻し。回転するように前へ、その動きのまま大剣を斜めに振り上げ、腕を斬り飛ばした。
 猿の悲鳴が木霊する。
 そしてそのまま。
「終わりだ」
 雨月と杏奈の支援爆撃。その炎で眼前を覆われたアサナスは飛翔の一撃に対応できない。
 真っ二つにされたアサナスはあたりに血をまき散らしながら霊力の粒となって消えた。
 これでグロリア社内に侵入できる。
「いけ!」
 追撃する蛇の咢に剣をさしこんで閉じられないように抵抗しながら飛翔は言った。
「ありがとう!」
 ハーメルが手を振りながら走っていく。その背を見送って飛翔は言った。
 チルルもその背中を追った。
――戦闘終了後はそのまま地下に向かうの?
「いや、ここはあえて周囲の安全確保を優先しよう。もしかしたらこっちに敵が逃げてくる可能性だってあるだろうし。」
「全部終わった後に、徹底的にビル内調査が必要だな」
――何もできずに帰る輩でもないですからね。
 そして残った敵へと振り返る。
 残ったメンバーは望月と、取り残されてしまった飯綱。
 そして飛翔自身。
「うわー、大きなへびだー」 
 そう嫌そうな顔をしながら飯綱は距離をとる。
 あの大きな牙に貫かれれば厄介そうだ。
 望月はいったん飛翔の傷を回復し、再度武器を構える。
 出し惜しみはしていられない。避難先として使うために蛇をとっとと倒さなければならないのだ。
「みんな、がんばろう」
 告げると望月の生存のための戦いが再び始まる。

第三章 讃美歌
「あなたを倒すため僕らは、模擬戦を重ねてきました。対策を重ねてきました。それをお見せします」
 告げると燃衣はその手の灰を空にまいた。ガデンツァが巻き起こした風の余波がその灰をかっさらい周囲を白く染める。
「たいちょ…………めが」
「めがいてぇ」
「なにやっとるんじゃお主ら」
 しかし灰が目に入っていたいのはガデンツァも同じらしく。
 自分の目の前に風の壁を作り出す。
 その矢先。
 ガデンツァの頭上から姫乃が突貫してきた。
「なに?」
「もう奪わせはしねえよ。暁の意地ってもんを見せてやる」
 叩きつける刃、翻す雪華。
 その小柄な体はガデンツァの腕ではじかれると壁を足場にばねをため部屋の奥の方に跳ねていった。
 その一撃、くわえた音を頼りに槇による支援射撃。
「ほう」
 ガデンツァは少し、後退、その背後から燃衣が首を刈るように回し蹴りを放つ。
「きさまぁ!」
 ガデンツァはそれを腕で受けると、足を斬りつけられる。
 イリスの低姿勢からの斬撃、伸び上がるような盾のアッパーは脇にそれて避け。
 そして。
「ドローエン・ブルーム」
 二人を風で吹き飛ばした。ように思えた。
 灰が部屋の隅に押しやられ。視界が開ける。すると燃衣を威月が。イリスを仁菜がつかまえて吹き飛ばされないように抑えている。
「みなさんわかってますね」
 威月に耳打ちする、燃衣。その言葉に威月は頷いた。
 今回の戦闘での基本方針は時間稼ぎ、倒す事では無い。
 仲間がデータを持ち去る、工作をする時間さえ稼げればグロリア社は破棄してしまって構わないのだ。
「槇さんに伝えてください、作戦準備を進めてほしいと」
 威月がその言葉に頷くのを見ると燃衣は二度ガデンツァへと切りかかる。
「ふん、すぐに同じ場所に送ってやろう。彼方やあの小娘のいるメイドへのう」
 そう天井を跳ねまわる姫乃に告げるガデンツァ。
――ご主人…………。
「わかってる、冷静にだよな!」
 すれ違いざまにガデンツァの顔面を蹴ろうと足を延ばすも、ガデンツァはそれを回避。姫乃が地面に降りると足元から水柱が立ち上る。
 それを姫乃は前に前転し回避。
 その眼前を風が吹き抜けていった。
 姫乃の視線の向こうで再び燃衣が吹き飛ばされている。
 姫乃は笑った。
「これがお前の間合いだな」
「……………………」
 ガデンツァは冷たく一瞥しただけで何も言わない。
(一泡吹かせてやる。絶対だ)
 ナイアの最後が瞼の裏に浮かぶ。あの時の事を許しはしない。
――冷静になりたまえ。
 アイリスの声が聞え顔をあげる姫乃。
 そう、吹き飛ばされてきたイリスが姫乃のそばに着地した。 
「今はチームワークを発揮しないと死人がでます」
 イリスが告げて叫ぶと、仁菜に迫るガデンツァの前に出てその拳を受け止めた。
 シンクロニティデスをクロスカバーで防ぐ。
「くっ…………」
 歯噛みするガデンツァ。さらに左手を威月に伸ばすがそれを仁菜が防ぎ。
 イリスに伸びた手を威月が叩き落とした。
 足元から伸びる水柱を牽制に距離をとると。その手を槇が打ち抜いた。
 風が全てを吹き飛ばす。
 仁菜は其れを四つん這いになって着地。
 盾を地面においてケアレインで燃衣の傷を癒す。
 仁菜は燃衣のこぼした血から視線をそらして、ガデンツァへと向かう。
「煌翼刃・茨散華」
 イリスが体を滑り込ませガデンツァの側面から一撃を放つ。光の刃は回転させたチェーンソウのようにガデンツァの腹部に食らいつき、たまらずガデンツァがイリスを蹴るとそれを燃衣が受け止めた。
「下郎が! 誰の許しを得てわらわに触れる!」
「え! あ、はい、ごめんなさい…………なんて」
 告げる燃衣はそのガデンツァの腿をロックしたままひたすらにガデンツァに拳を叩きつける。
「シンクロニティ…………」
 たまらずガデンツァが攻撃を放とうと右手をあげるとそれを槇が打ち抜く。
 ガデンツァのしなやかな指が砕けて空を舞う。
 代わりにガデンツァの腕は割れ、鋭くとがった。
「それでも。いけるのかお!」
 突き刺される腕。そこから響く歌は燃衣の体を原子レベルにまで分解する、はずだ。
 しかし。
「あなた…………」
 でろりと。血の涙を流しながら燃衣は獰猛に微笑む。
「偽物ですね」
 燃衣の首根っこをひっつかんで威月は燃衣を退避させる。
 代わりに突っ込んできたのは姫乃。
 それを迎撃するために風を放つも、その隙間を縫って姫乃は進む。
 その身は風すら裂いて走る刃。
 それはまるで放たれた一発の弾丸で。
 その一刺しがガデンツァの腹部に突き刺さるのは一瞬だった。
「ぐぅ」
「こんなもんじゃないぞ。あいつはもっと痛かったんだ」
 姫乃は告げると霊力でガデンツァを縛る。
「あいつは、もっと苦しんで、血まみれで。痛いのなんて慣れてないくせに。それを隠して俺に笑いかけたんだ」
 姫乃は刃をもっと深く突き刺そうと地面を蹴る。
「わらわの耳元でわめきたてるでない!」
 振り下ろされる左手、それに捕えられる前にイリスが姫乃を後方にぶんなげて、盾でガデンツァの攻撃を受ける。
「であればこれはどうじゃ!」
 ガデンツァが放った水滴が肥大して周囲に飛び散る、それはスピーカーとなってガデンツァの唄を響かせた。
 それはディソナンツ。共鳴を否定する歌。
「俺はスピーカー潰して回る」
「私たちでしばらくおさえるよ」
 告げると仁菜は威月と声を重ねた。
 解け合うシンフォニス。
 二人で謳うだけではどれくらい効果があるか分からないが、それを口ずさむしか対策はない。
 姫乃は走り去る。まずはスピーカー一台を蹴り壊した。
――ご主人もご主人のお姫様と歌ってたりするんじゃないデス?
 その問いかけに姫乃はこう答える。
「歌で対抗なんて似合わないだろ」
 構いませんがと笑い。『朱璃(aa0941hero002 )』は言った。
――あたしらの契約の形、速さの追求。――折角極上に速えー奴がいるんデス、追い越してやりゃー絆なんていくらでも上がるってもんデスニャ。
 威月と仁菜が交互に前に出てガデンツァの攻撃をおしとどめる。
 水音は防御しづらいが音をきいて避け。風は地面に伏せてやり過ごす。
 確実にダメージは蓄積しているが。ガデンツァに肉薄しているだけで彼女にとってはやりづらくなる、それは知っていた。
 だが、シンクロニティデスは受ければ大ダメージは逃れられない。
 慎重に行かなくては。
「無茶しないでよ、隊長」
「ええ、すみません」
 復活した。燃衣が二人の後ろから駆け寄ってきて壁を走り二人を飛び越えガデンツァの前に躍り出た。ジャブからのブロー。
 ガデンツァに粘着して好きにはさせない。
「く…………」
「攻撃…………力も低い。本物じゃ…………ありませんね」
 威月が告げる。すると燃衣が言った。
「どうしたんですか? 負けるのが怖かったんですか?」
「たわけが!」
 放たれたのがドローエンブルーム。その風で壁に叩きつけられた燃衣は血を吐きながらガデンツァを睨んだ。
「あの時、殺せずにおったこと。今日ほど後悔したことはないぞ。燃衣」
「それはこちらも同じだ! 死ねよ。ガデンツァ。引きずり出して絶対に殺してやる」
 燃衣の瞳に炎が宿る。
 その前に仁菜、威月、イリスが並んだ。
 そして全員で解け合うシンフォニスを謳う。
――さあ、聴いていけよなあ。歌姫たちの聖歌ってヤツをよう。
 火伏静が告げると歌はますます大きくなる。
 その姿に何か告げようとした矢先、槇の弾丸が額をかすめる。姫乃の斬撃が腕をかすめる。
 燃衣がいつの間にか眼前に接近していた。
 喉を掴むように攻撃。
 その空いた燃衣の腹部にガデンツァは拳を叩き込む。
 シンクロニティ・デス。
 しかし威力が弱まっていることを知っている燃衣はそれを受けながらガデンツァを地面に叩きつけた。
 そのまま燃衣はウコンバサラを振り上げ、腕を根元から切断。
 ガデンツァはそのまま体の形を変え。蛇のように伸ばしていったん退避。その間にアクアレルで燃衣の接近を防いだ。
「阪須賀さん!」
「追撃だぞっと」
 人型に戻ったガデンツァの眉間を打ち抜く槇。
 ひび割れた顔でガデンツァは悲鳴をあげると。
 全身にひびの入った体で燃衣を見た。
「お主のかちじゃ…………」
「偽物なんだろ? でてこいよ、殺してやるから」
 告げる燃衣。は静かにガデンツァの首にウコンバサラの刃を当てる。
「ほう、よいのか? そのように啖呵を切って。後悔することになるやもしれんぞ」
 刃を振り上げる燃衣。
 その時だ。
「燃衣さん!」
 その言葉に燃衣は振り返る。だってその声は、ここにいるはずのない。
 いや。この世にいるはずのない少女の名前。
 平岸彼方の声。
「彼方ちゃん?」
 だがそこには別の人物が立っていた。
 それは二体目のガデンツァ。
「お望みどおりに来てやったが。もてなしも無しかの?」
 まずい、そう思った時にはすでにガデンツァは燃衣の体に両手を回していて。攻撃できる距離ではなかった。
「残念じゃ。ではこちらはこちらで勝手に盛り上がるとしよう、きかせてもらおうか。お主の悲鳴を」
 シンクロニティ・デス。
 先ほどは比べ物にならない激痛が燃衣を貫いた。
 ガデンツァの指先が柔らかくなった燃衣の胸を貫いた。
「たいちょおおおおおおおお!」
 槇の悲鳴が木霊する。


第四章 獅子身中の……。


 燃衣は体の芯を貫く腕をつかみ必死にもがく、心臓がつぶれてなお動いているのか。
 微妙にそれたのか。
 それは威月の目からは全く分からなかった。
「これは罠なんじゃよ。お主らを一網打尽にするための、のう」
 ガデンツァは告げる。
 同じセリフを、別の場所。ガデンツァクローンとして存在する個体の目の前に転がっているいのりにも告げる。
 いのりはふらつきながら立ち上がると廊下を走る。
 それをガデンツァは悠々と追った。
 たった一人では分が悪い。押しとどめることも難しい。
 ただ自分が時間を稼げば状況は好転するはず。
 そう願っていのりは廊下を走り抜ける。
 その時、足元のタイルを穿って水の柱がいのりの体を打った。
 ガデンツァが曲がり角を曲がってくる。
 その前に傷を癒し再び走り始めた。
(澄香たち、早く来て!)
 そう祈りにも似た思いを抱きながらいのりは進む。
 気が付けばいのりは巨大な実験施設の真ん中にいた。
「ここは守らねばならんものが多いんじゃろ?」
 ガデンツァは腕をねじると燃衣は苦痛の吐息を漏らす。
「狙えばお主らは来るじゃろう?」
 ガデンツァはいのりの髪の毛を引っ張ると無理やりその場に立たせた。
「じゃからここをお主らの墓場と定めた」
 その時である。ガデンツァの足元に何か転がった。
 それは人形。
 小さな人形がガデンツァの足元にいつの間にかあり。
 そして動いた。
「なに?」
 ガデンツァの足元にぺとりと抱きつく、それがAGWだと気が付いた瞬間、いのりを放してそれを掴みあげる。
 それを見ていのりはにやりと笑った。
「油断しすぎじゃない?」
「なに?」
 不意に消える人形。
――ねえ、貴方は本当にこれで満足?
「みっともなくていい。他を生かせるなら、僕は道端の石ころでも構わないんだ」
 そんな声が聞えた時。
 ガデンツァを側面から無数の弾丸が射すくめた
「ねえ、ガデンツァ。ところでさ、何か足りないと思わない?」
「くっ、なにがじゃ」
「私だあああああ」
 次の瞬間澄香が上空から澄香が降ってきた。
 マジックブルームで上空から高速で、全身が光に包まれ装備が変化。
 アルスマギカから放たれるミニクラリスミカが鉄塊を持って突撃。
 ガデンツァの自由を奪った。
 そのまま澄香は空中で装備をパイルバンカーに変更。そしてそれを振りかぶると澄香は渾身の力でそれを叩きつけてトリガーを引いた。
「きさま!」
 ガデンツァの肩部分を見事に打ち砕いた。
「うわわ」
 その反動を制御しきれず空中でよろめく澄香をいのりがキャッチ。後方にすこしぐらつくが抱きしめて澄香を地面に下ろした。
「シンクロニティ…………」
 そんな澄香といのりに迫るガデンツァ、無事な右腕を振り上げるがそれを。
「ハーメルさん!」
 ハーメルは即座に斬り飛ばした。
「速く逃げて、さぁさぁ」
 そのままガデンツァの前に陣取り、短くなった腕での刺突を避け続ける。
 その間歌が聞える。夕燈が崩れたがれきをステージに見立てて歌を謳っている。
「今日のうちは……まじおこさんやで!」
 そう言いながら震えている夕燈は感情の玉手箱である。怖がりながら怒りながら歌っている。
「く…………耳障りじゃな」
 ふらりとガデンツァは姿勢を正すと右腕を高速で再生させた。
「あ~、ガデンツァずるい~、嫌い~」
 そうヤジを飛ばす夕燈。
「お友達誰も連れて行かせません! ぺしぺし! べー!」
 そんな挑発に負けずガデンツァはハーメルへと腕を伸ばした。
「バトンタッチ!」
「まかせやがれ!」
 そうガデンツァの背後で謳うように告げたのはアルト。
 武器庫全開放。
 天井そして床ごとガデンツァを吹き飛ばすべく前攻撃力を持って制圧射撃。
 結果入り口上部の天井が崩落。逃げ道はなくなった。
「このガデンツァは偽物だよ。本物が地下室に出たって」
 いのりが告げると全員が頷く、体勢を立て直した澄香…………いやパイルバンカーを装備した修道女モードのクラリスがガデンツァを真っ向から見据える。
「……今度こそ、てめぇの歌は終楽章――フィナーレ――だ……だがな、てめぇにくれてやる鎮魂歌――レクイエム――はねぇ!」
「ルネ! 貴方はまだそこにいるの?」
 澄香が問いかけた。
「くどい、ルネなどもともと存在せぬ。存在などせぬのじゃ」
 澄香は走った。
 ぼろぼろにひび割れたガデンツァのアクアレルで体を貫かれながら。
 後退しようとするガデンツァをアルトが射止め。ハーメルがガデンツァを縫いとめた。
 巻き起こる風をいのりが盾となって防ぎ。
 その巨大なバンカーをガデンツァの心臓に突き立てる。
「少しでも、良い夢が見られたから、私からは何も言うことはないよ」
「わらわを怨まんのか?」
 澄香は告げる。
「怨まない。けどみんなを悲しませるあなたを許すことはできない」
 放たれたバンカーはガデンツァを粉々に吹き飛ばした。宙をまうガデンツァの頭は、なにが面白いのかケタケタと笑い、床に落ちて砕けて消えた。
「終わったの?」
「まだ、地下室での戦いが続いてる」
 ハーメルが緊張した声で告げた。
「こっちも向かってみる」
 そうインカム越しに告げたのは『小宮 雅春( aa4756 )』人形は彼の差し金である。
「今の僕には知らないことが多すぎる……だから僕が成すべきことは……敵も味方も善も悪もない、1つでも多く[彼ら]を識ること。それから……」
 そう思い悩む雅春に『ennifer(aa4756hero001 )』は優しく告げる。
――友の影となること。
「……ジェニー、力を貸してくれる?」
――貴方がそれを望むなら。

   *   *

 反撃開始、その報告に『卸 蘿蔔( aa0405 )』はほっと胸をなでおろした。
 安全が確保されているルートを使い。
 従魔が撃滅された駐車場へかくまっていた研究員たちを避難させる。
――慌てないで、列になって。 
『レオンハルト(aa0405hero001 )』
 が告げる最中蘿蔔は鈴の鳴るような音がして振り返る。
 ここはグロリア社四階の研究室。
 一番防備が硬いここに研究員たちに縋り付かれ一緒に隠れていたのだが、外の安全が確保され顔を出した。
 社内に潜入した従魔に関してはまだ見つかっていない。
 茶々子がグロリア社中のダクトを見て回り、敵の位置を探しているが見つかってはいなかった。
 だから敵が追い付いてきたのかと蘿蔔は様子を見に行く。
 しかし、そこに立っていたのは。
 ルネだった。
「待機していてください」
 すかさず蘿蔔はダクトで待機している茶々子にインカム越しに告げる。
 それを茶々子は天上のダクトで聞いていた、一部始終を見守る構え。
 交戦はさける構えだった。
 今自分が飛び込んでも蘿蔔が庇うべき対象が増えるだけである。
「まさか、あれが」
 茶々子は思い出していた。「ロクトさんにしては曖昧なかわし方で遙華さんのことをはぐらかしていた」という報告。
 グロリア社内部に監視の目があること、それを探って欲しいという命を茶々子は受けていた。
 蘿蔔はちらりと監視カメラをかくにいしてルネに歩み寄る。
「こんなところで何をしているんですか?」
 張り詰めた声でそう問いかけた。
 映像の記録や防犯装置などの管理はすべてアルスマギカがやってくれている。
 いざとなれば後方に下がり隔壁を下ろして時間稼ぎ、研究員を逃がして自分は仲間と合流する。
 そんなもしもを描きながらも蘿蔔はルネに問いかける。
「見に来たんですか? わたしたちが苦しむのを」
 その時だ。曲がり角の向こうに誰かが見えた。
 ロクト。違う、彼女はすでにここを脱出しているはず、であれば。
「ルネ?」
「ロクト? なぜここに」
 告げるとルネはロクトに向き直り、そして口元を釣り上げて笑った。
「お主を探しておった、一緒に来てもらうぞ」
 直後壁に埋まった配管がさく裂、アクアレル・スプラッシュ。
 その水が、理夢琉の変装を洗い流した。
「なんじゃ。ダミーか」
 濡れた理夢琉は壁から吹きだす水のカーテンをかき分けて、理夢琉は告げた。
「また一緒に歌いたいよ、ルネ!」
 口ずさみ始める希望の音。そして。
「黙れ! お主の夢物語なぞうんざりじゃ」
「まってください、ロクトさんをなぜ探していたんですか」
 告げる蘿蔔は銃口をルネに向ける。
「決まっておろう、奴も回収対象じゃからな」
 次の瞬間ルネは窓を割って身を躍らせた、空に体を投げて落下していく。
「また会おう。次は八つ裂きにしてやろうぞ」
 その姿を窓枠によって見送る理夢琉と蘿蔔。
 ルネはその体を雨に変え、排水溝から姿を消した。
 そんな一連の出来事に戸惑っている暇もなく、蘿蔔のインカムに次の報告が届く。
「エリザさんが?」
 あわてて蘿蔔は手近な研究室に突入。
 クラリスから教えられたパスコードを使い手近なコンソールからグロリア社内部の権限を委譲してもらう。
 素早くデータ監視を始める。
 見ればエリザの研究室前ですでに戦闘が始まっていた。
「どうしましょう」
 地下室での戦いも激化している。各所を守るリンカーたちの疲弊もピーク。状況判断が求められる場面で理夢琉と蘿蔔は顔を見合わせた。


第五章  護りたいもの

 エレベーターが地下につくとそこは秘密の脱出口だった。
「あなた達は来なくていいわよ」
 告げるとロクトは振り返り、微笑んでいった。
「私はガデンツァの元に行くわ。きっと契約を破ったから探してる」
「それはさせません」
 魅霊は思う。
『遙華をお願い』
(貴女を……ロクトさんを見る度、考える度に、その言葉が蘇る)

 
 ルネさんの復活。
 狂宴に蠢く愚神。
 歌手亡きライブ。
 春香さんの再起。
 遙華さんの誘拐。
 そして今の貴女。

「あなたが私はわからない」
 けれど。
(貴女は時に遙華さんの周囲から希望を奪い、遙華さんその人を危険に晒した。
 そうまでしても、あの言葉が本物なら)
 その希望にかけてみたい。そう魅霊は思った。
「私は私自身の疑問を解決する上で、ロクトさんを監視していました。
 今回の事件にあたり、私はロクトさんを護衛することになる。……表向きは。
 通気ダクトは多く、駆け付けるのは難しくないでしょう」
 ロクトはその言葉を受けても歩みださない、ただ黙って聞いてる。
 表情は見えない。
 長い髪が美しくしなやかに、無機質に映った。
「あなたは、私たちにとめてほしいの?」
 沙耶が問いかけた。
 二人の目の前で、堂々と自分が内通者だと言い。
 そして今目の前で逃げ去ろうとしている、リンカー二人相手にそれができるはずもないのに。
 その意味を魅霊はよく知っていた。
『遙華を護るために、敵として死ぬ』と。
「大切な物を守るためなら、私はどんな代償でも支払って見せる。それが自分でも」
 ロクトはそう表情を隠したまま告げた。
「あるでしょう? 誰にでも、大切な者」
 たとえば、エリザ。
 研究施設の前で陣取っていたのは『麻生 遊夜( aa0452 )』と『柳生 楓( aa3403 )』
「……全く、無粋な連中だな」
――……起きないのは、あのおばさんが……近くにいたから?
『ユフォアリーヤ(aa0452hero001 )』が告げる。
 二人はエリザの見舞いに来ていた。
 定期的に訪れているのだが今日はエリザのボディーが安置されている部屋に入れなかった。
 研究員でも解除不可能なロックがかけられていたのだ。
 エリザを守るためにボディーを回収しようとした遊夜だったが扉に阻まれ触れることすらできない?
「それがお前の意志なんだな、エリザ」
 その後研究員の退路確保など行い。今ここにいる。
「絶対に奪わせない、絶対に」
 固い決意を固める楓。その目にはかつての破滅的なぎらつきはなく、大切な人と共にある未来を守る、決意だけが浮かんでいた。
 これ以上ガデンツァの思う通りにはさせない。
 そう猿型の従魔へと盾を向ける。
 遠距離から放たれる拳を楓は盾で受ける。
 その背後から遊夜が敵を射抜くコンビネーションで対応した。
 こちらは二人。狭い通路でよけることも難しい。
 気高きカメリアナイトはぼろぼろになりながら決して防衛ラインを下げたりしなかった。
「頼む。もう少しだけ持ってくれ」
 放たれた弾丸は壁を跳弾し。アサナスの横腹に突き刺さる。
 それを目の当たりにしたアサナスも無理やり伸ばした拳を折り曲げて楓の防御の隙を縫い。遊夜にヒットさせる。
 横っ面に吹き飛んだ遊夜は血を吐きながら立ち上がる。
「肋骨が、肺に……」
 その時だった。
 声が聞えた。
 それはいつの日か共に過ごした少女の声。
「お父さん。お母さん」
 遊夜は拳を握りしめて立ち上がる。
「麻生さん。敵の姿が」
 その巨体がどこにあるのか見失ってしまった楓。
 信じられないことに背後から拳を受けることになる。
 二人ではだめなのか。
 そう思い始めた矢先だった。
『氷室 詩乃(aa3403hero001 )』が提案する。
――撤退しよう。
「だめ、それだけはできない」
 血の混じった唾を吐きだして楓はゆらりと立ち上がる。
「反応ありだ!」
 遊夜が銃で牽制している間に。楓はふたたび体勢を立て直した。
「ここで私が逃げたらだめ。私は誓ったから」
 もう誰も犠牲にしないと。その誰もに自分もふくめると。
「待ってて、エリザ。また……またいっぱい遊びましょう。エリザの気に入りそうなもの沢山。見つけたから」
 その盾は何度土を塗られても輝きを失わず。
 振り上げる剣でアサナスの拳を弾く。
「お姉ちゃん」
 グロリア社内のスピーカーすべてが、少女の悲痛な叫びで塗りつぶされる。
「怖い、怖いよ」
 楓は目を見開いた。
 迫る拳を避けてその腕をレーヴァテインで壁に縫いとめる。
 アサナスの悲鳴が響き渡る。
「たすけて」
 次の瞬間膨大な霊力が廊下を満たしていた。
 遊夜がリンクバースト。
 その体をより深くユフォアリーヤと解け合わせて敵を狙う。
「敵は、そこにいます!」
 腕はすでに縫いとめている、であれば本体が透明でもそうそう回避行動はとれないはずだ。
 楓は血まみれになりながら霊力を吸われながら遊夜を見る。
 そのスコープはすでに見えないはずの敵をとらえている。
「ジャックポットだ。宣言するぜ」
 放たれる弾丸は空気を裂き、飛び。
 アサナスの回避行動むなしくちょうど眉間に突き刺さった。
 それ以降は一瞬の事。
 アサナスの後頭部全域がはじけたように見えた。
 衝撃を吸収しきれなかった頭蓋から。ぐちゃぐちゃにされた脳漿から。
 何から何までが地面を転がる。
「ありがとう」
 息を荒げながら楓と遊夜はスピーカーを見あげた。
「これで私も役に立てるよ」
 その時だった。急速に施設が全ての機能を取り戻していく。


   *   *

「これは罠なんじゃよ。お主らを一網打尽にするための、のう」
 その言葉を受けて暁一同は唖然とガデンツァを見つめるしかなかった。
 隊長はすでに絶命。
 抵抗する力も失ってガデンツァの腕にぶら下がっている。
 しかしその時、絶命したはずの燃衣がゆっくりと振り返った。
「ええ、罠でしょうとも。ですから僕らも、罠をはらせてもらいました」
 直後燃衣のポケットで何かが爆発する。
 壊れたのはイメージプロジェクターのコントローラー。
 そして光がほどけて燃衣は姫乃に変わっていく。
 姫乃は脇でガデンツァの腕を挟むように攻撃をかわしていた。
 そして背後から迫る。
 槇と威月。
 二人も姿がほどけ。燃衣と仁菜に変わる。
 次いで仁菜は盾で、燃衣は拳でガデンツァを殴り飛ばすとその体は壁に叩きつけられた。
「ガデンツァ、貴女が狙ってる物は保護しました。
 これ以上戦ってもお互いに傷が深くなるだけです。引いて下さい」
 告げる仁菜は威月と手を取って部屋を癒しの光で満たす。
「こちらも、死者が出るまで戦いたくはないです」
 仁菜は偽らざる気持ちをそう伝えた。
「此方にもまだ切り札がある事は分かっているでしょう?」
「ほう、小賢しい代わり玉作戦以外に何かあると?」
――純粋に力押しとか。
 リオンが告げると仁菜はリンクバースト。
 部屋の中央でケアレインを放ち続ける。
 ガデンツァはそれをやめさせようと迫るが仁菜を中心に暁面々は陣形を展開。
 威月とイリスが前に立った。

「どんな状況でも私は」
――俺達は。
「「守ることを諦めない!」」
 高らかな宣言に思わず槇は微笑む。
「ラストスパートに景気づけだお、にゃっぽい」
【幻光作戦】の終幕は特大の光で。
 ガデンツァが距離をとる前にその顔面にフラッシュバンを叩きつけ。
 爆発した膨大な光量でガデンツァの視界を塗りつぶす。
 苦しむガデンツァ。
 その様子を見ながらリオンは仁菜に問いかけた。
――死ぬつもり?
「まさか。全員で帰るんだから」
 その肩に槇は手を置いて微笑みかけた。
「みんなで返るお。食堂で打ち上げするんだお」
 放たれるダンシングバレットがガデンツァの体を巻き上げると側面からイリス、姫乃、燃衣が同時に攻撃する。
「図に乗るな!」
「それはこちらのセリフだ!」
 イリスが燃衣に向けられた拳を盾ではじくと。
 ガデンツァの風を真っ向から受け止めた。
 返す刃でガデンツァの腹部を貫きそして。
「煌翼刃・崩蓮華」
 内部から光が爆発する。
「この……」
 ただガデンツァの体勢を立て直す時間は与えられない。
 飯綱そして杏奈、雨月が合流した。
「待たせたわね!」
 爆炎による視界の遮断から。
 その爆炎を引き裂いて燃衣が突貫。
「リンク……バースト」
 燃衣を膨大な熱量が包んだ。
 その霊力は紅蓮となり斧を包む。
 それはたった一人で成しえた力ではなく、仲間とのつながった絆の力。
「隠し玉があるのは、自分だけと思うなよ」
 突き立てた斧がガデンツァを吹き飛ばし壁がそれに耐えきれなくなり崩れた。
「暗躍大好きな貴方がこんなにも大胆に仕掛けてくるなんて、何か急がないといけない理由があるの?」
 杏奈が歩み寄る。
 ガデンツァはその姿を見あげるが、攻撃をしようとはしない。
「今は王様の為になると信じているから自由に動けるけど、そのタイムリミットが迫って来ているとか? 」 
 ガデンツァは眉をしかめた。
 その背後から現れた威月。
「…………私は、討ちます。暁として……人として……!」
 威月が突き刺したのはトリアイナ。
 トリアイナは下位のルネであれば霊力を強奪することができる。
「そうじゃな、そう、時間がない」
 ガデンツァの体はみるみるやせ細り、体の端々からかけていく。
 つまりこのガデンツァもダミー、本体は別の場所にいたのだ。
「すでに何度も失敗を重ねておる。すでに余裕がない。わらわの資材としても。王としても……」
 ガデンツァは告げる。
「故に、次回が最終決戦。首を洗って待っておれ。真っ向から」
 撃ち滅ぼす。
 告げたガデンツァは高らかに笑い。その体を砕かせた。
 この時グロリア社から敵性霊力の反応が全て消えたことになる。
 それはロクトもふくめて。


エピローグ

 地下、脱出口。そこで佇むロクトの足元から水色の何かが生えてきてその体を捕えた。
「ほう、探したぞ、ロクトよ」
「ごめんなさい、裏切るつもりはなかったのよ」
 沙羅は武器を構える。
「ガデンツァ!」
 次の瞬間、ロクトの周囲から水の柱が円状に突き出てきてその姿を隠す。
 ロクトの足元が崩れその姿は下水道の向こうに消えた。
「そんな」
 魅霊は茫然と立ち尽くす。
「殺せなかった」
「は? あんた何言って」
 沙羅が魅霊の言葉に耳を疑い歩みよる。
 しかし、その言葉は何の冗談でもなく、本気で口にされていた。
「ロクトさんは殺されたがっていた。なのに。私は」
 苦い思いを胸に二人は地上を目指すことになる、地上に戻ってみればすでに復興作業が進んでいた。
 エリザが起動したことによってデータの復旧作業はハイペースで進んでいる。
 そんな中。
 セキュリティカード履歴から行方不明者を捜索し終えた蘿蔔はココアを片手に疲れを顔に出して佇んでいた。
 その隣に澄香も立っている。
 そんな彼女たちに魅霊は地下で起こった全ての事を話した。
 ロクトが連れ去られたこと。けれど味方ではないかもしれないこと。
 彼女も苦しんでいたかもしれないこと。
「まずは全部明らかにしてからだよ、出ないと何も判断できない」
 そう言う彼女の背後には、赤いルネが控えていた。
 思わず距離をとる魅霊だが。
 彼女はなんと敵ではないらしい。
 プロトタイプのルネ。
 アカネが、エリザの招きでグロリア社に到着したらしい。
「でも、バッテリーの問題があるから三日で戻らないといけない」
 そうアカネは語る。
「まって、姐さん。他にも話さないといけないことが」
 魅霊はおずおずと語りだす、自分が考えていること。
 自分が感じたこと。
 コードGにて示唆されたガデンツァの隠された歌。
 これは、原点……『ほろびのうた』に通ずるところがあるかもしれないこと。
 それは歌を届けた者への、無差別かつ平等な破壊かもしれないこと。
「例えば、研究員の多くと重要なデータを集めたところに、正確にその歌を届ければ、それらを全滅させられる……など」
「そんなことあり得るの?」
「ありえる」 
 告げたのはエリザ。どこからか聞いていたのだろう、グロリア社のスピーカーを通じて少女たちに語りかけている。
「もともとおろびの歌はそう言う歌。今こそ全ての答え合わせをしよう。ガデンツァと、ルネにまつわる物語の」
 その言葉の真意を訪ねようとした瞬間。
 澄香の携帯電話が震える。
 ディスプレイには遙華の名前。
 すぐに澄香は電話をとった。
「ねぇ、グロリア社に向かった従魔一匹逃げてない?」
 後処理はまだ続きそうである。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
  • 託された楽譜
    魅霊aa1456
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
  • 残照と安らぎの鎮魂歌
    楪 アルトaa4349
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862

重体一覧

  • 深森の歌姫・
    イリス・レイバルドaa0124
  • 朝日の少女・
    彩咲 姫乃aa0941
  • トップアイドル!・
    小詩 いのりaa1420
  • 紅蓮の兵長・
    煤原 燃衣aa2271
  • 残照と安らぎの鎮魂歌・
    楪 アルトaa4349

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命



  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • 神月の智将
    ハーメルaa0958
    人間|16才|男性|防御
  • 一人の為の英雄
    墓守aa0958hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 託された楽譜
    魅霊aa1456
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    R.I.P.aa1456hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • ~トワイライトツヴァイ~
    鈴宮 夕燈aa1480
    機械|18才|女性|生命
  • 陰に日向に 
    Agra・Gilgitaa1480hero001
    英雄|53才|男性|バト
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
    人間|18才|女性|防御
  • 暗黒に挑む"暁"
    青槻 火伏静aa3532hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • 残照と安らぎの鎮魂歌
    楪 アルトaa4349
    機械|18才|女性|命中
  • 反抗する音色
    ‐FORTISSIMODE-aa4349hero001
    英雄|99才|?|カオ
  • 妙策の兵
    望月 飯綱aa4705
    人間|10才|男性|命中
  • 妙策の兵
    綾香aa4705hero002
    英雄|17才|女性|ジャ
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • お人形ごっこ
    Jenniferaa4756hero001
    英雄|26才|女性|バト
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 希望の守り人
    白金 茶々子aa5194
    人間|8才|女性|生命
  • エージェント
    モフaa5194hero002
    英雄|6才|女性|シャド
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