本部

ビッグウェーブに乗りたい!

影絵 企我

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
無し
相談期間
4日
完成日
2018/06/19 21:12

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掲示板

オープニング

●あの新製品が欲しい!
 最近どうにもピリピリとした日が続いている。愚神がどう、従魔がどうと、不穏な情勢は留まるところが無い。暗いニュースは毎日のようにテレビやラジオやネットで流れている。
 しかしそれはそれとして、世界は逞しく日々を送り続けている。自転車をこぐのを止めたらこけてしまう。マグロが泳ぐのを止めたら死んでしまう。同じように、もう世界は日進月歩を止めることが出来ないところまで来てしまったのだ。一つの技術が陳腐化したと思ったら、入れ替わるように新しい技術が現れる。人間が世界を回しているのか、世界に人間が突き動かされているのか、最早わからないくらいだ。

 その凄まじい技術進歩によって、日々あらゆるところであらゆる新商品が生まれている。本日発売となる新作ゲーム、「ロードオブマルクト」もその一つだ。二十数年前から連綿と続くシリーズで、終わる終わる詐欺とか時たま言われながらも、王道ファンタジー的ストーリーと、新規の戦闘システムを組み合わせた根強い人気を獲得しているRPGである。
 新作が発売されると、世界の各地で店に長蛇の列が生まれたり、予約が殺到したり、抽選で泣き笑いする者が現れる。それくらい人気のシリーズだ。

 だから、君もそれが欲しくなった。大事な任務は沢山ある。命の危険も沢山ある。それを忘れる為には、ゲームが必要なのだと。そこまでではなくとも、とりあえず君はそれが欲しくなったのだ。
 さあ、そんな君の前に、四つの選択肢がある。

 ひたすら並ぶ。予約を取ってスマートに買う。抽選に全てを賭ける。あるいは大小さまざまな家電量販店を駆けずり回る。最後はぶっちゃけ望み薄な気もするが、まあこんな感じの選択肢があるわけだ。

 さあ、ゲーマーリンカーよ。乗るしかないぞ、このビッグウェーブに!



「……つーことで、並んで来いよ姉さん」
 一世一代の大演説をぶち上げ、仁科 恭佳(az0091)は澪河 青藍(az0063)にふてぶてしく訴える。パソコンに向かってマウスを転がしていた青藍は、眉をひそめる。
「やだ。何で」
「何で!? おいおい姉さん! 姉さんだってゲーム好きじゃないか! ゲーム好きのくせに! 7作目は何週もしてたじゃないか! なのに今回は見逃そうってのか!」
 恭佳は仰々しく訴える。青藍は顔を顰めると恭佳の鼻先を指差した。
「うるせえ黙れ! お前が何と言おうと私は前作の戦闘システム嫌いだったんだよ! その方向性継続するってんだから私にはもう買う理由がないの! 欲しいなら自分で買ってこい!」
「えー。予約すんの忘れたからもう並ぶしかないんだけどぉ。雨降るかもしれないんですけどぉ?」
 その手を払い、恭佳は背後から覆いかぶさるように青藍に抱き着く。青藍は呻いて恭佳を突き放すと、威嚇する猫のように叫んだ。
「いいから! 買うなら自分で買え!」



 さあ、君達はどうする?

解説

メイン 「ロードオブマルクト」を手に入れろ
サブ そんなものはない

商品
「ロードオブマルクト」
 “ロードオブ”シリーズの十作目。王道のファンタジーシナリオと、斬新かつ実験的な戦闘システムの組み合わせで人気を獲得してきたRPG。
 お値段は2500G。

行動の選択肢

・A店
 予約を取らず、入荷数も告げず、先着方式で製品を売り出す。当然店の前には長蛇の列が生まれる。完全にニュースでの話題作りでやっている。[深夜から並んでインタビューとか受けちゃうスタイルの人向け]

・B店
 完全予約制。店頭で並ぶとか論外だし、抽選もしていない。とはいえ、計画的にしていれば最もスムーズに手に入れられる。[予約でスマートに買うぜって人向け]

・C店
 抽選制。沢山の人でごった返すなか、くじを引いて抽選していく。予約を忘れても巻き返せる可能性はあるが、数時間が徒労に終わる可能性も。[抽選するドキドキを味わいたい人向け]

・フリースタイル
 どこかには一本くらい置いてあるだろ! と様々な店を駆けずり回る。[手に入らない可能性あり]

TIPS
・結局買えなかったRPもあり。その場合所持金は減らない。
・キャラにこだわらなければ並ぶスタイルが一番RPはしやすいかも。
・恭佳はA店の前に渋々並んでいる。
・買った後プレイしてもいい。内容をもっと聞きたい場合は質問卓へどうぞ。想像してプレイしてもいいです。

リプレイ

●ビッグウェーブ!
――三日前――

 ダークスーツを着込んだアラサー男、ミハイル・エッカート(aa0315)と、黒い軍服のアラフィフオッサン、ウーサー・カイルロッド(aa0315hero001)はとある家電量販店の前に座り込んでいた。
 レイヤーの悪ふざけにも見えるが、彼らは本気だ。軍用リュックサックに食糧を詰め込み、寝袋も完備。ついでに高級プリンを詰め込んだクーラーボックスも用意して、奇妙な男達は有休も使いながら、三日後に迫るゲームの発売日を待ち構えているのである。
「てめこの親父! あとで覚えてろよ!」
『ははは、私を超えるには10年早いよ、ミハイル』
 ミハイルはスマホを投げつけそうな勢いで悔しがる。最近人気のDTCG、シャドウストーンでウーサーにこてんぱんにやられたのだ。ミハイルはクーラーボックスから銀座の高級プリンを手に取る。オッサンの徹夜待ちに付き合う見返りだ。
「これ食べたら次は格ゲーだぞ」
『私に勝てるかな』
「勝つ!」

――一日前――

[俺は今、徹夜と長蛇の列という日本文化を堪能しているんだ]
 横に空のプリンカップの塔を作った金髪の外人男が決め顔でインタビューに答えている。三日前から並ぶ猛者の映像だ。ソファに寝転んでテレビを見ていた皆月 若葉(aa0778)はぼんやりと呟く。
「……相変わらずすごいなあ」
『ワカバ、ボクもこれ欲しい!』
 ピピ・ストレッロ(aa0778hero002)がいきなり若葉の腰に飛び乗る。
「ちょ、重いから……」
『ワーカーバー』
 そのまま脇腹を小さな拳でぽこぽこ叩く。苦笑いして若葉は身を起こすと、ピピを抱えて脇に座らせる。
「いや、この行列だよ? 何も発売当日に買わなくても……」
 人気ゲームは供給過多で値崩れ早いし。オフライン主体なら急ぐ必要もないし。若葉はそんな事をぶつぶつ言うが、ピピには関係ない。
『でも大人気だよ? 少しでも早くあそびたーい!』
「わかったわかった、しょうがないなぁ……」
 そんなわけで、とりあえず行く事になったのだ。

――当日――

「これってゲームの列だったのでありますね。ゲーム買うのに並ぶなんてわくわくでありますよ、RAYちゃん」
『だりぃなーもー、なんだってこんな疲れることすんだよ』
 マルクト販売を待つ列の中に、美空(aa4136)とR.A.Y(aa4136hero002)も混じっていた。片や、お目目をわくわくにきらきらさせた、ちんまいセーラー服の少女。片や、私はいかにもだるそうに寝転がっている、目つきの悪い黒頭巾。少女は周囲に興味津々、黒頭巾は時折思い出したかのようにぶーたれている。
「君達も、もしかしてゲーム買いに来たの?」
 美空の前に立つ青年が、いきなり美空に話しかけてくる。美空は目を真ん丸に見開くと、青年を見上げて頷いた。
「そうなのであります。しかしまさか、こんな列が出来ているとは」
『今から並んで買えるわきゃねーだろ』
 元々散歩してただけの二人。何か知らんが長蛇の列が出来ていたから並んでみただけだった。そんな意気込みの欠片も無い二人であったが。
「そうか……じゃあ特別に列を譲ったげる」
 青年はいきなりそんな事を言い出す。ちんまいアリス系少女とワイルドなロリ系少女をいっぺんに前にして、ええかっこをせずにはいられなかったのである。
「おおお、感謝であります」
『マジか。もう完全にわらしべ女だな……』
 RAYはのろのろと起き上がり、ぶつくさ言いながら寝場所を変える。美空はまったく気にしていないが。行列という一大イベントに目を丸くするばかりだ。
「……お前、どっかで見たか?」
『あ?』
 そんな折、ミハイルがやってくる。インタビューの結果、SNSで“プリンの聖霊”とか呼ばれるようになった男だ。その顔、RAYはどこかで見たような気もする。
『気のせいだろ』
 が、知らない事にした。ミハイルもそれ以上は言わず、美空にゲーム機を差し出す。
「ちょっとこのゲームやってみないか? ずっと親父とばっかやってて飽きたんだ」
「ふむふむ。このゲームはやった事があるであります」
『楽しそうだねえ、お前ら……』

『あ、ラルー!』

 そんなところへ、不知火あけび(aa4519hero001)と日暮仙寿(aa4519)がやってくる。あけびはにこにこしながら彼らの下へ駆け寄ってきた。
『奇遇だね、こんなところで!』
「おう、あけびじゃないか」
 ミハイルは笑みを浮かべる。勤務先の会社のイベントで出会い、彼女の元いた世界では友人であると知って以来、こちらでも何かと付き合いがあるのだ。仙寿は首を傾げる。
「そういえば、前に仙也とRAYも、前の世界でも知ってるとか何とか言ってたな」
『そうそう。皆でよく遊んでたんだよ』
「はあ」
 仙寿は改めて周囲を見渡す。最前列が見えないくらいの長さだ。
「それにしても、まさかこの列に並んでるのか? 百メートル以上あるだろ」
「用意は周到だ。食糧と寝袋を持ち込み、三日前から陣取っている。両手で数えられるくらいの位置にいるぞ、俺は」
 仙寿は眼を見開いた。ゲーマーですらない彼はその神経が分からない。
「おいおい、そこまでするなら予約しろよ……」
「ふっ……これも日本のお祭りなんだろう?」
『あはは。こっちでもミハイルさんはミハイルさんみたいですね!』
 一頻り笑った後、あけびは懐中時計に目を遣る。もうすぐ予約店の開店時間だ。
『あ、じゃあそろそろ行かなきゃ。対戦楽しみにしてますよ! サムライ魂見せますから!』
「おう、こてんぱんにしてやるから待っとけよ!」

『うわぁ、人がいっぱい! 一番後ろの人が見えないよっ!』
「開店一時間前でこの行列……ニュース以上だね」
 その頃、若葉とピピも店の前を訪れていた。彼方まで伸びる列の中には、森蝕事件での暴れっぷりで一躍その名が知れた天才科学者も混じっていた。
「仁科さん、でしたっけ」
「うん? ……ああ、雪合戦の時に会いましたっけ」
 革ジャンにカーゴパンツを合わせた彼女は、スマホを弄って無気力な雰囲気を覗かせている。ピピは彼女を見上げて尋ねた。
『いつから並んでるの?』
「0時回る前からくらいですかね……」
「手に入るといいですね、あと少し頑張ってください」
「へい」

「……よーし、購入完了」
 黒いレジ袋を片手にぶら下げ長身の青年――逢見仙也(aa4472)が家電量販店を歩いている。その中には一分前に発売されたばかりの“ロードオブマルクト”。DLCの優先パスやら設定集やら封入された初回限定版を買った彼は、大股で店を出る。
「さっさと来ておいて良かったな」
 仙也はもうとにかく速攻でゲームをプレイするタイプである。列で待たされ、知人との会話に引きずられで一秒も無駄にすることなど出来なかった。

『そのロードオブなんたらって、面白いのか?』
「ストーリーは王道RPGだから人気は高いよ。けど戦闘システムが斬新だから、結構好き嫌いは分かれる感じだけどね」
 エリック(aa3803hero002)と世良 霧人(aa3803)は並んで家電量販店の中を歩く。予約オンリーのはずが、随分と列が出来てしまっている。それを見ていると、霧人は思わず苦い記憶を思い出してしまう。このゲーム用のハード“Links”を買おうとした時、余りの人気ぶりに予約していなかった世良家は家族総出で各店の抽選に参加し続ける羽目になったのだ。
「あの時の抽選の行列はすごかったなぁ。絶対に欲しいって時はやっぱり予約だね」
『まだかかりそうだし、ちょっと違うソフト見繕っとくかな』
 エリックが携帯機ゲームコーナーへ向かおうとした時、ちょうど通路を通りかかった仙寿にあけびと目が合った。
「ん? エリックに霧人か」
『おはよー。二人も例のゲーム買いに来たの?』
 エリックはあけびの質問に思わず目を丸くした。彼らがゲームをしている絵が思い浮かばない。
『二人もなのか? 意外だなぁ……』
「そもそも、仙寿君の家にはゲーム機本体はあるの?」
「いや、それもついでに買いに来た」
『いいタイミングだな! 最近は生産ラインが増設されたからいいけど、これまでは抽選抽選また抽選……だったんだぜ』
「そ、そうだったのか……」
 説明するだけでエリックは疲れ切った顔を見せる。仙寿達は顔を見合わせる。そんなの聞いた事が無かった。世事にはやはり疎い二人である。
『でも、これでいよいよ二人もゲームデビューか。なら今度対戦しようぜ!』
「ああ。初めてだから、どこまでやれるかわからないけどな……」

『今から予約……ッ!』
「しても遅いかなぁ」
 若葉とピピもゲームコーナーにいた。マルクトの見本には再入荷待ちの文字。二人が肩を落としたその時、黒いレジ袋を手に提げた仙寿や霧人達が通りかかる。
「おっ。それはもしかしてロードオブマルクト?」
 若葉が尋ねると、仙寿は頷き、レジ袋の中から新品のゲームを取り出した。水彩画調のイラストが如何にもファンタジーめいている。
「そうだ。あけびが買えって言ったからな……」
『だって勉強ばっかりだと疲れるよ?』
「日暮達がゲーム……ちょっと意外。楽しめるといいね」
 若葉は無事にゲームを手に入れた二人を労うように笑いかける。仙寿も得意げに笑う。
「友人と遊ぶ約束もしたからな。とりあえず取り組んでみるつもりだ」
『いーな♪ あとで感想教えてね!』
 背伸びしてゲームのタイトルを見つめていたピピは、くるりと仙寿達を見上げた。二人が頷いたのを確かめると、ピピは再び若葉の手を引いて走り出す。
『ボク達も買わなきゃ! 次のおみせーっ!』
「はいはい、わかったよ……」

『ったく、結局ガイジンと遊んだだけになったじゃねえか。直行してれば今頃……』
 頭の後ろで両手を組んで、RAYは足を突っ張りてくてく歩く。美空の右手には黒いレジ袋。行列では惜しくも一人差で買えなかったものの、ちゃっかり予約で一本確保していたのである。
「ですが未知との遭遇は楽しいものだったであります。そんなに早くプレイしたいなら、近道するでありますよ」
『近道ぃ?』
 RAYは嫌な予感がした。だが、止める間もなく美空は路地裏へと足を踏み入れてしまった。いきなり現れたちんまい少女に驚き、野良猫たちが外へと駆け抜けていく。
「……ふむむ?」
 美空は足を止め、眼をくりくりさせる。その視線の先には、道端にうずくまって泣く一人の小学生。RAYが顔を顰めた時には、もう美空は小学生に駆け寄っていた。
「どうしたでありますか?」
「ゲーム……折角お年玉、貯めたのに……」
 しゃくりあげる小学生。大体何があったかは分かった。
「なるほど。近くのがきんちょに取られてしまったのでありますね」
 小学生は頷いた。その真っ赤に泣きはらした目を見て、仏心だとか、任侠心だとかに駆られた美空。袋から新品のソフトを取り出すと、彼に差し出した。
「ならこれをあげるでありますよ」
『おい、美空! 何勝手な事……』
 RAYにとっては寝耳に水。思わず目を三角にした。美空はそれを手で制すと、いつもの顔で自信たっぷりに言い放つ。
「もちろんタダとは言わないであります。そのがきんちょからゲームを回収したゲームは美空のモノになるであります」
『ふざけんなよ……そのガキがそもそもどいつか探すとこからやんなきゃいけねーだろーが……』

 二人は、少年と共にカツアゲ不良マンを見つけて成敗する事になった。が、それが実現できたのは結局一週間ほど後の事だった。

 日も傾いた頃、若葉たちはショッピングモールのゲームコーナーを訪れていた。サービスも品揃えも平凡で人気が無い分、案外売れ残っていたりするのだ。
「意外と売ってるんだよね、こういう所……」
 陳列棚を見回っていた若葉は、その中に一つのソフトを見つける。彼は思わず手に取り、裏表紙の作品紹介までじっくり眺める。
「欲しかったけど、中々置いてなかったんだよねー。やっぱり来た甲斐あったなぁ」
『あ、あれっ!!』
 ピピは甲高い声をあげてレジの隣を指差す。そこには最後の一本が陳列されていた。ピピは急いで駆け寄りソフトに手を伸ばしたが、殆ど同時に別の男の手も重なる。
「あっ……」
 額が禿げかけた男は、申し訳なさそうに手を引っ込める。駆け寄ってきた若葉は、彼のしなびた顔を窺った。
「どうしたんです?」
「いや、子どもの誕生日プレゼントと決めていたんですが……予約を忘れてしまってて……此処が最後のお店だったんですけど……」
 二人は顔を見合わせた。
「どうする?」
 ピピは手にしたソフトを見つめる。水彩調のタイトル絵の向こうに、ゲームを楽しみにして待っている子がいるような気がした。ピピは満面に笑みを作ると、男にソフトを差し出す。
『これ、どーぞ! いっぱい一緒にあそんであげてね!』
「……はい、ありがとうございます」
 男は深く頭を下げると、レジへと向かった。それを見送るピピは、晴れやかな顔をしていたが、どこかそれも残念そうで。隣で見つめていた若葉だったが、ふとその手をポンと打った。

『あっ! 同じのいっぱいある!』
 やってきたのは、近くの中古ショップだった。過去作セールという事で、中古のシリーズ作品がずらりと並べられていた。若葉はピピに微笑みかける。
「ここでシリーズの別作品買って帰ろっか」
『……うん!』
 ピピは破顔して頷くと、早速棚に駆け寄る。
「俺のおすすめは“イーオン”かな。ストーリーも戦闘も良いんだよね……」
『これのこと?』
「そうそれ。でも新作は“アイテール”と繋がりがあるみたいだから……」

 二人は楽しみに胸を膨らませながら、しばらくゲームを選び続けていた。

●息抜きにこそ本気を
「パーツ多いなー、どんなのにしようか悩む……」
『ランダムにして、気に入ったのを手直しすれば良いんじゃね?』
 帰ってきた霧人は早速ゲームを始めていた。エリックはその横で携帯機を起動しながら眺めている。言われたとおりにキャラを作っていくが、その姿はやがて。
「うーん……何かあの子に似て来るな……」
『いいじゃん。ラブラブな証拠だぜ?』
 出来上がったそのキャラクターは、霧人の妻に何となく似ているのだった。そのままゲームを始めると、あらすじが画面に流れていく。手元でゲームを進めながら、文章をすらすら読み流していく。
『堕天使と戦って王国を取り戻すってのが本筋なんだな。今まで従ってきた天使に対抗できる手段って何だろうな?』
「悪魔と手を組む、とかじゃないと良いけどね……」

 プレイしているうちに、霧人のパーティーも徐々に完成していく。戦士、魔法使い、僧侶、あとついでに旅芸人。暴れん坊な面子の多い世良家の要石を務めているだけあって、そのプレイングも手堅かった。
 その間、エリックは携帯機のゲームに夢中となっていた。ふと気になった霧人は、ちらりとエリックの画面を覗き込んだ。
「あ、そのゲーム……どんな感じなの? キャラに違和感バリバリだったんだけど……」
『ああ、プレイしてみたら案外悪くないな。世界観に良くハマってるぜ』
 かくして、二人はしばらくそれぞれのゲームに興じ続けるのだった。

「おい。説明書ってこの半ぺら一枚か? 操作方法しか書いてないぞ」
 仙寿はパッケージの中から出てきた薄っぺらい上質紙一枚を手に取って目を丸くする。仙寿が戸惑っている間にも、あけびはさっさとコントローラーを握って電源を入れてしまった。
『何でも実地で覚えちゃえばいいんだよ!』
 キャラクター作成が始まると、あけびは操作説明に従い、素早く細面の青年を組み上げていく。名前はセンジュ。
「デフォルトで良いだろ!」
『まぁまぁ。感情移入は大事だよ!』
 仙寿は顔を真っ赤にするしかなかった。

 いよいよストーリーが動き出し、堕天使の軍勢がセンジュに襲い掛かる。
『堕天使かー……リンクバーストした仙寿様の軍勢?』
「色々な意味で嫌だ」

 仲間の踊り子とセンジュが夜の川辺を逍遥している。紫髪のポニーテールが揺れる姿は、どことなくあけびに似ていた。
「(……よりにもよって何でこんな露出度高いキャラが!)」
『ねえ、もしかしてこの二人って、このまま恋人同士になったりするのかな?』
「し、知らねえよ!」

――一週間後――

「たのもー!」
 道場の扉を叩きながらミハイルが叫ぶ。ウーサーが首を傾げていると、ミハイルが答えた。
「日本では勝負を挑む時の掛け声がこれだと聞いたぞ」
『そうか! なら私も一緒に言った方がいいね!』
「せーの、たのもー!」
 オッサンズがノリノリで叫んでいる。背後でRAYは渋い顔をしていた。
『何やってんだかな、このオッサンども』
「美空達もした方がいいでありますかね」
『止めとけ』

 やがて、バタバタと中で足音がする。閂が抜かれ、扉が一気に開け放たれた。
「大の大人が何叫んでんだ! 道場破りかよ!」
「そうだな。そうとも言える。ただし種目はこのゲームだ」
 そんな事を言って、ミハイルはリュックからLinksの本体を取り出す。あけびはファイティングポーズを取った。
『この一週間でセンジュもパーティーも強くなりましたからね! 何なら師範と呼んで頂いても良いですよ!』
 突然の呼び捨てに肩を震わす仙寿。しかしすぐに平静を取り戻し、四人を迎え入れた。
「……や、やるからには全力だ。初心者だからって甘く見るなよ?」


 テレビ画面の中で二つのパーティーがぶつかり合う。コマンド連打の応酬は最早格闘ゲームだ。仙寿軍が遠近バランスよく揃える一方、ミハイル軍は魔法職で固めていた。その御蔭でミハイル軍は押されっぱなしだが、彼は余裕綽々だった。
「やるじゃないか。……だがそろそろ俺の作戦が効いてくるころだ」
「何……あっ!」
 いきなり仙寿側の陣で爆発が起こる。余裕のあった体力がもりっと減った。魔法職同士の合体攻撃が決まったのである。
「はははははっ! パーティーコンボは憶えとかないとな!」
 そのまま魔法攻撃のラッシュで仙寿軍は続々と戦線離脱していく。大勢が決まった。
「おおー、すごいであります」
『ケッ。あそこで近道とかしてなけりゃ今頃……』
 四人のプレイを後ろで眺めつつ、RAYはぶつくさ言うのだった。


「どーぞ」
 その頃、仙也は都内のアパートを訪れていた。ジャージ姿の青藍は居間に直行すると、ソファにどさりと腰を下ろす。台所ではウォルターが紅茶を淹れていた。仙也は部屋を見渡すが、後は漫画を読んでいるテラスしかいなかった。
「仁科は? 一緒に住んでんでしょ?」
「仕事中ですよ。待ってます?」
「待つわ。Links借りていい?」
「どうぞ」
 仙也は早速マルクトをプレイし始めた。ステータスは非常に高い。武器もかなり揃っている。だがクリアマークはない。
「めっちゃやりこんでるのにクリアはしてないんすね」
「マップ埋めとかアイテムコンプとかしてたらさ、もうどうでもよくならね?」
「まあ……」
 他にもゲーム内での挙動を現実の鍛錬に取り組んでみたり、ダンジョンハックでひたすらエンドコンテンツをやり込んだり、仙也の世界の主人公は既に救国を放棄していた。
「そういや、仁科が分析してたケイゴの研究。あれからどうなったか聞いてる?」
 プレイする片手間に、仙也は青藍に尋ねる。抽選で当てた二本目のソフトを手土産に、青藍と恭佳の家を訪ねた理由はこれを聞きたいがためだった。
「大体の理論は分かって来たらしいですが、それをどうリスクのない形に落とし込むかについての研究が欠落してるからまだまだかかるそうです」
「リスク?」
「ええ。ケイゴ理論をそのまま取り込むと、従魔や愚神もどんどん溢れるとか何とか」
「はあん。異界を辿って奇襲や輸送が出来ればと思ったんだけどな」
「まあ、直接聞いてみればいいんじゃないすかね」
 ふと、仙也は一体のゾンビドラゴンに出くわした。それを見た仙也は、いきなりコントローラーを青藍に手渡す。
「あ、こいつやってみろよ。仁科からそこそこゲームやるって聞いたけど?」
「……こいつの攻撃防御すんのクソめんどいじゃん。前作からずっと大嫌いなんだけど」
「え、逃げるの?」
『頑張れせいらーん』
 漫画を放り出したテラスが仙也の煽りに合いの手を入れる。若干負けず嫌いの青藍。尻尾は巻けなかった。
「……」


「やるじゃないか。さては女子力高いな!?」
 戦いの後、ミハイル達は仙寿特製のプリンを食べていた。べた褒めでがっつく彼を見ながら、仙寿はぽつりと呟く。
「負けたが……ゲームの腕を競うのも悪くはないな」
『やってみると面白いよね!』
 あけびも目をきらきらさせて頷く。
『ああ。大人も子供も熱くなる……それがゲームだよ』
 ウーサーが訳知り顔で言い放っていると、ふと彼の携帯が鳴り響いた。次の仕事の合図である。目配せしたオッサンズは、素早く荷物をまとめ、縁側から外に飛び出した。
「また来るぜ! 今度は俺が買ったらプリン2倍な!」
「そんなに食ったら病気になるぞ!」

 彼らの仁義なきゲーム大戦はまだしばらく続きそうである。


 ビッグウェーブに乗りたい! おしまい


「……下手か、青さん」
「うるせっ」

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    ミハイル・エッカートaa0315
    機械|30才|男性|攻撃
  • エージェント
    ウーサー・カイルロッドaa0315hero001
    英雄|53才|男性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • フリーフォール
    エリックaa3803hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御
  • 悪の暗黒頭巾
    R.A.Yaa4136hero002
    英雄|18才|女性|カオ
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃



  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
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