本部

広告塔の少女~真昼間から浴びる酒~

鳴海

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~12人
英雄
7人 / 0~12人
報酬
寸志
相談期間
4日
完成日
2018/06/01 09:32

掲示板

オープニング

● あ、飲んだくれだ
 とある日。昼間のカンタレラ。
 業者が荷物を届けに来るのはいつも夕方なのに朝の十一時からの搬入があった。
 それを代わりに受けたのは皆さんの誰か。
 ここはロクトのバーカンタレラ。それなのに何で皆さんがエプロン姿で野菜やお酒を中に運び入れているかというと深いわけ……いや浅いわけがある。
「昼飲み会を開催します」
 ロクトが突発的にイベントを主催するのは珍しいことだが。声をかけられた皆さんはたまったものではなかった。
「時刻は明日。料理してくれる人と参加してくれる人どっちでも歓迎よ」
 告げるとロクトは自分はお酒を飲みたいし、働きたくないと言い始めた。
「ECCOも呼んでるからお料理お願いしたいの。手伝ってくれる?」
 一応お小遣いは出してくれるらしい。
 キッチンも使っていいらしいし、友達を呼んでもいいらしい。
「狭いキッチンだけど五~六人は作業できると思うから」
 そう言い含めると前日の内に鍵をあなた達に渡してロクトは会社に向かった。
 今日の夜から徹夜で仕事をして、昼にカンタレラにきてご飯と一緒にお酒という、壊れた社会人の様なスケジュール。
 なかなか大変な生活を送っているらしい。
 そんなロクトを癒すため、皆さんには料理とあとはお酒の合間の楽しみとして何らかの出し物をお願いしたい、という事だった。


● 班分け
 今回皆さんは三つの班に分かれてもらいます。
 そしてロクト主催の昼飲み会をサポートしていただきます。
 内訳はこんな感じ。 

・参加者。
 ロクト達と一緒に飲んだくれ。
 参加者のみなさんも調理班に無理難題を押し付けることができます。
 ただし調理班にキレられないような内容を注文してあげてください。
 要求した食べ物が作れるかどうかは、調理班として参加してくれる人によります。

・調理班
 参加者、もしくはロクト、やECCOの難題を受けてバーのキッチンで料理を作る人たちです。酔っ払いの相手をする必要が出てくるので、ちょっとイラッとするかもしれませんが、すみません抑えてください。
 安心してください、お小遣いは出ます。ただ働きではありません。

・芸能班
 ECCOやロクトの前で芸を披露するひとです。
 謳ったり、踊ったり。小話をしたり。
 この中で面白かった人が今日のMVPらしいです。
 ご褒美がもらえます。


● ロクトの好きなもの、みんなの好きなもの
・ロクト
 今日は仕事帰りなのかスーツとメガネで登場。
 ワインやブランデー、香りの強いお酒が好きだが、基本お酒というだけで好きなので、お酒はなんでもよい。
 意外とカロリーを気にしているので、おつまみはヘルシーだが味の濃いものを好むという、無茶ぶり。
 というか、カロリーを気にするならお酒飲まない方がいいのでは? とはいってはいけない。ひっぱたかれる。
 今回は結構飲んでるらしくテンションが高め。怪しい笑いや高笑い。ハイパーバリエーション笑い上戸になっているので、皆さんが箸を転がすだけで笑います。
 飲み比べ勝負が好きです。

・ECCO
 ECCOは今話題の歌姫です。年は27才前後らしい……。
 スレンダーな体つきですが、最近あったかいこともあって体のラインが出るドレスでなぜか来た。
 割と日本酒が好きですが、お酒の好き嫌いは多い方です。カクテル系などが好きで、癖が強い酒はあまり飲めない。
 その割には勧められたお酒は一回飲んでみるのが信条。沢山の美味しいお酒を紹介してほしい。
 ただし、お酒の好き嫌いが激しいだけでかなりの酒豪。
 ECCOは酔うと性格は変わらない代わりに無防備になります。スカートとか誰か気を付けてあげてください。
 おつまみは、美味しい食べ物ならOK、体質からして太らないらしいです。



解説

目標 酒の席をもりあげる。

 今回皆さんにはロクトとECCO。そして昼飲み会の参加者を満足させる料理やお酒、そして飽きさせない芸など披露していただきたいと考えています。
 またこの昼飲み会に参加することも可能です。参加者と調理班、芸能班に分かれて楽しいひと時を過ごそうというのが今回のミッションです。
 こんな時期に飲んでいていいのか、それはごもっともな意見ですが。彼女達にも嫌なことがあるのでしょう、きっと。
 あと今回は遙華は出てきません。よろしくお願いします。

リプレイ

プロローグ
「昼間からのBarなんて、突然どうしたのかしらねぇ」
 『榊原・沙耶(aa1188)』は続々と運び込まれる酒やら食べ物やらを眺めながら告げる。
 空には輝く太陽様。
 こんな真昼間から酒とは常人にはなかなか忌避されそうではあるが…………。
(こんな時にこんな…………とはいえ、今日は目を瞑るか。次はいつになるか分からないし)
 そう食材を運び込む『レオンハルト(aa0405hero001)』。
 そんなレオンハルトの方を叩いてロクトが店内から沙耶の目の前に姿を現した。
「みんなお疲れ、準備進んでるみたいね」
「あら? 予定より早いじゃない」
 告げる『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』がそう首をかしげた。
「お酒が楽しみで、抜けてきたわ」
 それに唖然とする沙羅と、じゃあ遠慮なんてしなくていいわねとロクトの耳元に顔を寄せる沙耶。
「ねぇ、BDとADなんだけど」
「心配しないでまた拘留する予定だから。ただ、彼に手伝ってもらってた実験があったから、最後に一度だけグロリア社に来てもらう予定だけど」
 眉根をしかめる沙耶。
「それって、本人はなんて言ってるのかしらぁ」
「もちろん、激しく抵抗してるわ」
 沙耶は豹変したBDを思い出す。あれでは使い物にならない…………はずだ。
 いったいなにを。そう思った矢先ロクトが振り返ったので追及する時間は与えられなかった。
「あの、ロクトさん、ECCOさん連れてきましたよ」
 『卸 蘿蔔(aa0405)』がECCOを連れてきたのだ。蘿蔔もすでに何らかのドリンクを口にしているが、それにはジェル状の何かが浮いていた。
「あら、もうやってるのね。ECCOさんもいらっしゃい、そして卸さんはもう酔ってるのね」
 ホドヨイゼリーの力である。
「今はなんか…………飲みたい気分なのです。飲んだって、何も変わらないのでしょうけど…………ぐすんってあれ? なんだか味が違いますね」
「新しい商品なのよ。大人の事情であれは販売停止」
 そうロクトが告げると蘿蔔に歩み寄って肩を叩いた。
「なにがあったの? きくわよ、じゃあ。さっそく始めようかしら。みんな、料理お願いね」
 そんな様子を眺めて呆れ顔の『伊邪那美(aa0127hero001)』と『御神 恭也(aa0127)』。
「何か理由があるんだろうが…………どう見ても駄目な大人にしか見えんな」
「まぁ、偶には良いじゃないの?」
「最後の晩餐、なんて馬鹿な事考えてなきゃいいけどねぇ」
 その沙耶の言葉にぎょっと目を剥く恭也と伊邪那美。
(1度は了承しておきながらっていうのは腑に落ちないけど)
 何か不穏な物を感じて佇む沙耶であった。

●宴会
「おうおう、すでにもう出来上がりかけとるのお!」
 そう宴会に招待された『ランページ クラッチマン(aa5374hero001)』がやや遅れて会場に到着すると、すでにそこはどんちゃん騒ぎだった。アルコールもなかなかに入っているようで皆のテンションが高い。
 そんな大人たちを眺めて『ミュート ステイラン(aa5374)』は身をすくませ、おどおどとあたりを見渡した。
 そんなミュートに今日は羽根を伸ばしてくれればいいなと思い連れてきた。
「最初は料理でも」
 そうランページは厨房に入る。
 厨房はまだ皆がご飯を食べていなかったというのもあり大忙しである。
 そして急な増援に『獅子王 砕牙(aa5605)』が振り返った。
「おう! 手伝いか! そっちで皿洗ってもらってもいいか! 追いついてないんだ」
 告げる砕牙は実は居酒屋経営者である。
「ここで美味い酒飲まして美味い肴食わせたら……俺の店の宣伝になる。全力でやるぜ!」
 そうフライパンを振るう砕牙は確かに様になっていた。
 恭也はその背後でさっそく出来上がった料理を盛り付けている。
 ロクト向けに腿肉でなく胸肉で作った焼き鳥。
 カシューナッツやマカダミアナッツ以外のナッツ類の盛り合わせ。
 モッツァレラチーズ等の低カロリーチーズで作ったカプレーゼ。脂の少ない赤身で作ったローストビーフ。メインから軽くつまめるものまでずらりとそろえた
「洋酒に合う肴となると高カロリーな物が多いからな。日本酒や焼酎なら低カロリーな物が多いんだが」
 そう次の料理に頭を悩ませながら皿を腕や指二本で持ち上げて会場に運ぶ。
「ふふふ、すごく見栄えがいいじゃない。綺麗で素敵よ、おいしそう」
 その料理にロクトは満足げである。
「ECCO向けにはスルメや刺身を用意してみた」
「気が利くねぇ」
 そう酔っているわけではないはずの伊邪那美が酔っ払いの様な絡み方をしてきた。
「此方は規制が無いぶん楽なんだが、種類が多すぎて何を出せば良いか迷ったがな……」
「ごめんなぁ、こまらせて」
 そう告げる細身の女性ECCOの顔もすでに赤い、グラスには煌く透明な飲み物が継がれている。
 目の前におかれている一升瓶には『上悪如水』『七海山』『海雲』など書かれている。
 全て砕牙の提供品だ。
「どうよっ、酒も肴も最高だろっ。気に入ったら『居酒屋 六道』を贔屓にしてくれよ?」
 そんな日本酒を少し小皿にもらってなめてみる『麻生 遊夜(aa0452)』。
 すると寂しそうな顔をして小皿を洗いに出した。
「ふむ……やはり美味さがわからんな」
「……ん、皆美味しそうに……飲んでるのに、ね」
 そう首をかしげる『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』である。
「何がだめなんだ?」
 問いかける砕牙。
「アルコールで喉が焼ける感覚が苦手なんだよなぁ」
 そう言うわけで遊夜は厨房に戻っていく。
 それを見送る砕牙その視線の先には『居酒屋 六道』と書かれた看板が立っており、あれが彼の店の名前らしい。
「因みにおすすめの『海雲』は某府某市の酒蔵で2人で作られる希少な日本酒で癖が無く、冷が美味い」
「ほう」
 そして次なる料理をどんどん追加していく。得意な魚料理を始め出汁巻き玉子や山菜の天婦羅など、日本酒に合う居酒屋的メニューをリクエストに合わせてどんどん生み出していった。
「ええなぁ、料理が頼まんでもでてくるの。わくわくやわぁ」
 そうECCOもご満悦である。
「それだけじゃないぜ、この天ぷらあげ工程でひと手間加えてんだ、塩にも気を使って岩塩を……」
 そんな中レオンハルトがトレイを持って到着する。
「これが芸になるかは分からないけど、最近その人をイメージしたカクテルが流行っていると聞いたから、皆の分作ってみたんだ。よかったら」
 告げるとトレイを下ろして色とりどりの鮮やかなカクテルを皆の前においていった。
「ふふふ、こう、可愛らしいものをイメージしてって前置きで出されると、女性はとても良い気分になってしまうものよ。レオンハルトさん、才能が有るわね」
「なんの才能だ……」
 そうしらーっと視線をそらすレオンハルト。
 ちなみにロクトの目の間におかれたのはワインベースにフランボワーズのリキュール、フルーツや隠し味にスパイスを入れた甘さ控えめのカクテル。
「うちは?」
 レオンハルトは静かにロックグラスを差し出した。
 ECCOには彼女の歌声をイメージしたカクテルらしい。ウォッカをベースにレモンジュース等清涼感のある甘いカクテルである。
 そして沙耶の目の前におかれたのはブルーキュラソーやドライジン等の青いカクテル。アルコール度数高め。
「アルさんには光をイメージした柑橘系メインのノンアルコールカクテルを」
 そう告げてレオンハルトがカクテルを差し出すと『アル(aa1730)』はそれを笑顔で受け取った。
「わぁ! 光が当たると輝いてるみたいになるんだね! ありがとう」
 そんな様子を『雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)』はコーヒー片手に眺めている。まるで子供を見守る親の様な視線である。
 ちなみに沙羅の目の前におかれたのは紫色でどろっとした飲物。
「わー。たらちゃんみたいに毒々しい色してる。これ大丈夫? ちゃんと飲める?」 
 ブルーベリーミックスである。しぼりたてである。
 ちなみに蘿蔔にはシャーベット状のカルピス。
「大根おろしです」
「私のだけ適当すぎませんかね!?」
「ははは…………冗談だよ。ちゃんとしたの作ったから」
 しかし最近気温も高いので美味しくいただく蘿蔔であった。
「さぁ! カロリーは低いけど美味しいモノじゃんじゃんもってきて!」
 そういつの間にか料理を平らげたロクトがこう、手をピラピらさせながら言った。
「……ヘルシーだけど、味の濃いもの?」
 そう頭だけ厨房から出すユフォアリーヤ。
「カロリーを気にするならお酒飲まない方がいいのでは?」
 そう棒読みで問いかける遊夜。
「ひっぱたくわよ!」
「ははは、美人に叩かれるなら本望だ」
 そう遊夜は厨房へ引っ込んでいく。
 そんな遊夜が厨房から出してきた品はタコや鶏のから揚げや枝豆、もろきゅうなど。
 特にタコのから揚げは二人に評判である。
「油使ってるけど、美味しいからゆるす!」
 さらに豆腐やささみの照り焼き、甘辛ダレの豆腐ハンバーグやキノコの味噌バター炒めなど。
「この! 家庭料理感は私にツボ」
 一人でテンションをあげるロクトである。
「他に欲しいのはあるかね?」
 うーんと悩むロクトの様子に高笑いを返す伊邪那美。
「恭也! 料理まだ」
「なんで酔ってないのにそんなにテンションが高いんだ」
 一応ジュースを飲んでいるはずである。
 そんな伊邪那美はECCOのはしたない姿に説教をしてる。
 その隣で対照的にテンションが低いのは『構築の魔女(aa0281hero001)』だった。隣で『辺是 落児(aa0281)』がウイスキーを飲んでいる。
 そんな落児に遊夜がウイスキーを紹介していた。
「国内産が品薄になると言う話があるな、響かせ17年とか黒州12年とか……美味しいと聞いたが、みせにあるな」
「高いけど、覚悟があるなら飲んでいいわよ!」
 ロクトが告げると、遊夜は苦笑いを浮かべる。
「だとさ。カクテルならオレンジ・サキニーとかサムライ・ロック辺りが良いだろうか?」
 そうECCOにメニューを広げて見せる遊夜である。
「あぁ、またですか。確率としては理解できるのですよ? ですが、起こりうるからそれに納得できるかはまた別ものでしょう?」
「え? それ何の話?」
 伊邪那美が問いかけた。
「その点、科学は裏切ることが少ないので素晴らしい。とはいっても、知識も記憶も主観で間違えるから性質が悪いのですけど」
 悲痛に歪んだ構築の魔女の顔。しかし確率論だけ話されてもピンとこない伊邪那美である。
「え? ところでそれは何の話?」
「でも、原因が分かったり存在したりするだけ本当にマシなのですよ。確率的にはおかしくないってなんの慰めにもならないと思いません? いえ、むしろ確率的におかしいといっていい状況になっていたりするのですけどね?」
 枝豆をもぐもぐしながら頷く伊邪那美。たぶん何もわかってない。
「そもそもですよ? 最終的には収束する?試行回数を増やしても偏るときは偏るのですよ。引数、変数を何を基準に選定しているか知りませんけれど…………!」
「え? 引数? それ料理? すいませーん、引数ください」
「それと、神様はダイスを振らないとかも言いますがそのダイスだって、えぇ! 明らかに出目の出方が違うのですよ? 知ってます?」
「大豆? ごめん、これは枝豆だよ、大豆じゃないよ? 確かに枝豆から大豆になるけど」
「こうなると前提が揺らいでるとしか思えないのですよね」
「恭也ー。魔女さんが大豆ほしいって」
 そんな構築の魔女に同情の意を表する落児。
「ロロー……」
 ただ、静かに飲みたいみたいだ。そんな落児はつまみを持ってきて絡まれている恭也と視線をかわすと、お互いたいへんだなという言外の想いを受け取ってお互いに涙する。
「起きたのだからそれが結果で現実なのは重々承知していますけど……聞いてますか? そのうえで可能性に喧嘩を売っているような状態はなかなかに度し難いのです! 意味は違いますけど数字は無情とかふと脳裏によぎりますね」
「あー。もしかしてガチャの確率の事?」
 ロクトがそう構築の魔女に言葉をかける。
「さぁ、どうでしょうね」
「うーん、ごめんねーとだけ言っておくわね」
 その言葉に満足したのか構築の魔女は背筋を伸ばした。
「さて、そろそろ諦めはつきましたし気分を切り替えていきましょうか。とりあえず目標に達しないのは残念ではありますがそれもまた運命でしょう……。
 えぇ、これまでもやれることをやれるようにこなしてきたのですからね」
 そう悲しみから立ち上がる構築の魔女、楽しい宴会に混ざっていくその姿を寂しい視線で見送るのが蘿蔔。
 彼女も何かしらあったらしい、なにがあったかはわからないが目に涙をためている。
(楽しまなきゃ、誘ってくれたロクトさんと、お料理してくれる人に失礼だよね)
 そう涙を拭いた蘿蔔の耳にアルの声が入ってきた。
「ロクトさんすごい酔い方してるよね、大丈夫? なっつぁんいる?」
 彼女はペットボトルの『なっつぁん』を抱えながら、高い椅子に乗り足をパタパタさせている。
「まだ、酔ってるわけじゃないわ」
「そう? じゃあ。お話ししてもいい?」
 アルが告げる。
「相棒以外の英雄さんのお話って興味深いし! 色々知りたいなぁ。思い出話とかね」
「でも。私の話って遙華の話になると思うわよ」
「そう言えば遙華は今日はどうしたのでしょう。お仕事? それともでぇと?」
 そう告げた蘿蔔の言葉にロクトは悪戯っぽく答える。
「大切だから隠してあるのよ」
「ねぇねぇ……何かすっごくお疲れなお顔してるんだよね、肩叩こうか?」
 告げるアルにロクトは、苦笑いを浮かべて答える。
「じゃあ。御願いしてもいいかしら?」
 蘿蔔は腕をもんでくれる。ノリと勢いで。
「ああ、いいわね」
 意外と肩が硬いので体を揺らしながら肩をもむアル。
「いまどんな感じなお仕事が多いの?」
「そうね、引き継ぎかしらね。そろそろあの子も独り立ちする時期だし。本来もっと早くてもよかったんだけどね」
「色々溜め込まずにたまには吐き出しなよ本音」
 告げたアルの言葉にはたりと動きを止めるロクト。
「大人って本音とうその区別がつかなくなってしまうものよ。悲しいことだけど」
「ふーん、そうなんだ……あ、そうだロクトさん。こっちの世界に来て、自分トコと一番違うなぁって感じたのはなんだった?」
「なぁに? いきなり、曲の題材にでもするの?」
「うーんそう言うわけじゃないけどなんとなく気になったんだ」
「そう、それは嬉しいわね。じゃあ。答えると。違うことは何もなかったわ。人がいて。騙し騙されしてる」
「覚えてる景色ってある?」
「騙されても傷つけられても人を信じようとしてる子に出会ったあの時」
「そうだ! もしよければ、ベラウバ・ヒューバについてもっと詳しく聞いてもいい?」
「…………うーん、あれは私が遺跡で発掘しただけだからよくわかってないのよね。うちの会社で研究させてたけど、たぶんその前に……」
「その前に?」
「こっちの世界にきたの」
「こっちの世界に? 記憶あるの?」
「結構戻ってきたわ。他の英雄も、記憶が戻ってきてる人いるはずよ」
 そうあたりを見渡すロクト。
「前歌わせてもらったけど、内容を理解した方がより色々な表現を乗せられると思うんだ」
 そうアルは話を続けた。
「この曲の他にも、何か覚えてるお歌があれば教えてほしいな。異国の歌って素敵に聞こえるものが多いし!」
「唯一解読できたのは。繋がるという題名の意味と。音楽が感情をデータで送信できること、その練習曲みたいね。あなた達ならそれを感覚で理解して応用もできるかもしれないけど。私にとっては厄介な技術で」
 そうグラスに視線を落とし告げると、ロクトは弾かれたように顔をあげて遊夜を呼び止めた。
「いけないいけない。麻生さん、何かつまめるものを」
「あ! 雑なはぐらかし!」
 その隣の雅はコーヒーの上にV時の金属の何かを乗せると、角砂糖を乗せて火をつけた。
 とけた砂糖をスプーンでかき混ぜて香りを楽しむ。
「はぁ、雅さんかっこええなぁ」
「そう?」
 そうECCOが身を乗り出すと小さく微笑んだ。
「ECCOさん久しぶりね、最近はあの子の方が外に出てるから。そうそう、次に考えてる曲の構想はある?」
「あるよぉ。光夜君とコラボするんよ。その時みんな呼ぶからなぁ」
「へぇ楽しそう、だったらねCDのジャケットのお写真ね、近い内あたしに撮らせてもらえると嬉しいわ!」
「ええよ! うち雅さんの写真すきやねん」
 告げるとECCOは雅の写真が見たいとせがんだ。ちょうど持っていたカメラを取り出すと身を寄せ合いながら画像をみせる。
 雅のちょっとした場面描写なんかが面白いらしくECCOはとてもうれしそうだ。
「いつかどこかに行ってみたいわね」
 告げるとECCOは顔を輝かせた。
「あ! その時あらかじめ言ってなぁ、うちもカメラかって、二人で写真撮りながらあそぼーな」
「ECCOさんって休みの日は何してるんですか?というか丸一日休みの日とかあるのです?」
 そうECCOに話しかける蘿蔔、場の話題は一転して皆の休日の過ごし方になった。
 やがてロクトが芸を所望し。それに対して雅が答える、アコギを膝の上に載せてあるが店の真ん中に立った。
「ごめん、謳う前にちょっといい? 調理班さーん! ボクあれ食べてみたいな、チーズリゾット!」
 また無茶を、そう恭也が厨房で頭を悩ませるが。
 ユフォアリーヤは自信ありげだ。
「……ん、得意料理……かも?」
 アルがひとしきり持ち歌を謳うと、今度はECCOとコラボで片っ端から知っている曲を謳っていくカラオケモードになった。
 そんな風景を見ながらミュートはランページに告げる。
「ランページもたまには好きな事しよ? お、お手伝いはわたしがするから……!」
「いや、いつも好きなようにやってるんじゃが……?」
「そ、そういうんじゃなくて……今日はお休み!」
 そう引っ張っていくといともたやすくランページはお酒に浸ることになる。
 ガッツリ飲めば楽しくもなる。
 やがてロクトを引っ張ってきて酒の情報交換をし始めた。
「ま、飲める時にはしっかり飲むタイプじゃな!」
「なかなか行ける口ね。レモンのこのリキュールなんか」
「お、これか? こういう酒には意外と油っぽいつまみも合うんじゃよ」
 そう笑うランページ。
「飲め飲め! 倒れたら運んじゃるから!」
 じゃあ遠慮なく。
 そう立ち上がったロクトの腕を掴んで沙耶が引き寄せた。
 その手には二杯のショットグラス。
「飲み比べをしましょう」
「ふぅん、勝ったら?」
「私が負ければこのお店の一番高いお酒を買ってみんなに振る舞うわぁ。私が勝ったら。ちょっと顔かしなさぁい」
「怖いわね」
 告げると二人は腕をクロスさせる。歌が響く中クロスのみでの飲み比べが始まった。
 グラスが一杯、二杯と空いていくたびに注目され。五杯くらいになったとき全員がその風景に注目していた。
 その中で沙耶はロクトに触れようとする。 
 パニッシュメントを放つために、しかし。
「まって」
 そう腕をとるロクト。
「あなたの勇猛さがいつか誰かを救うことになる。あなたの身が滅んでもきっと。でもそれは今じゃない、もう少しまって」
 私を信じてくれるなら。
 そう締めくくった言葉に沙耶は手を下した。
「信じてくれるの? 私飲んだくれなのに」
「飲みたくなる日は、誰にでもあるわぁ」
 その途中で歌い手が変わった。
 二人が振り返ってみれば。アルとECCOも演奏の手に加わり、中心ではミュートがマイクを握ってる。
「え、ええ……? 歌手さんとかもいるのに……!?」
「やれーー、ミュートー」
 ランページ立ってのお願いである。
「……あ、あの、アンマリキタイシナイデクダサイ」
 その声は独特の響きを持っていた。
 ミュートは獣人の特性か変わった喉をしているらしく、出した声をしばらく喉で反響させ他の声と共に出すことで一人コーラスの様な事ができる。
出る音も少々特殊で声ともパイプオルガンとも聴こえる不思議な音、楽器演奏に近い感覚。
 そんな声が店内に響き渡る。

 エピローグ

 宴会も中盤、そうなればドリンクも食事も手が空いてくるというもの。
 エプロンを壁にかけると遊夜が厨房から姿を現した。
「一丁、芸の披露と行くか!」
 告げると遊夜とユフォアリーヤでディスペアの曲をデュエットする。
 その間に恭也はECCOにあ勧めのカクテルを出していた。ECCOには日本酒を使ったサムライ・ロック、撫子、白雪姫。どれがいいかを尋ねていると、ロクトがいないことに気が付く。
 その背後で遊夜たちは歌を続けた。
 歌詞に合わせて共鳴を切り替えて謳ったり、声を低くして、アダルトにしてみたり。
 同時発声にチャレンジしてみたり、唐突に鼻眼鏡付けてみたり観衆にアピールしてみる。
 伊邪那美がケラケラと笑っていたが、まぁ彼女は今そう言う時期なのだ。
「やれやれ、これで良いんかね……」
「……ん、お小遣い……頑張った」
 そう微笑むユフォアリーヤの頭を抱えて二回で仮眠をとる二人である。
 その隣で沙羅の膝枕(半ばむりやり)で眠っていた蘿蔔は人の気配があって目を覚ます。
 ロクトは2階の倉庫で何やら作業をしていたようだ。
 それが終わると、ため息を漏らした。
「ねぇ、ロクトさん」
「それ以上はだめよ」
 告げるとロクトは視線を伏せる。
「ごめんなさい、事情があるの」
「沙耶と再契約してみる?」
 沙羅が言うとロクトは首を振った。
「何があろうと、私はあの子の英雄でいるつもりよ、最後までずっとね」
「…………これからまた仕事ですか?」
 そうレオンハルトが階段を上りロクトに歩み寄る。
「か、片づけは私たちがするので…………えと、疲れてるのでしたら少しでも良いから休んでください」
 蘿蔔が起き上がった。
「この前も、大変そうでしたし。というか今日は、よかったのですか? 寝なくて」
「みんなと話したかったの。今日はとても楽しかったわ」
「あ、それならよかったです。私も、楽しかったので、またしたい、とは…………思うのですが、ちょっと心配というか」
 そんな蘿蔔の頭を撫でてロクトは踵を返す。
「いってきます」
 その背はとてもさみしそうにみえた。
「蘿蔔」
 レオンハルトはそう不安げに声をかけた。
「なんで誰も、話してくれないんでしょうね」
 そう蘿蔔の冷たい声がバーの喧騒に溶け込んで消えていく。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • 暗夜退ける退魔師
    ミュート ステイランaa5374
    獣人|13才|女性|防御
  • 倫敦監獄囚徒・六参九号
    ランページ クラッチマンaa5374hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
  • 撃退士
    獅子王 砕牙aa5605
    獣人|18才|男性|攻撃



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