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暗がりの悪魔
掲示板
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NPC質問卓
最終発言2018/05/01 10:39:18 -
相談卓
最終発言2018/05/03 15:31:45 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/05/02 06:09:01
オープニング
●潜む恐怖
春、人々が動き出すこの季節。
夜、人はそれの本来の恐ろしさを知らない。
人は闇の怖さを知らない。
それは人から五感、視覚を奪い。五感、聴覚を際立たせる。
しかし、その女はその日。両耳をヘッドホンでふさいで歩いていた。
隙間から漏れ聞こえるのははやりのラブソング。ライブに行くから予習だ。
そう女は息巻いていた。
そのライブに、自身が参加できないとも知らずに。
女は路地に、住宅地の片隅に、生臭い空気が満ちるまでそれの訪れには何も、何も気が付かなかった。
潜む闇、浮上する姿。ぎらつく刃。
恐怖が一瞬で胸に滑り込むように、銀色の刃が灯りもその身に移すことなく。女の胸に入り込んだ。
一瞬の激痛。体からエネルギーが流れ出すような脱力感、女は悲鳴をあげる。
ただそれは、その者の手の中で揉み消される。口元に当てられた手。その手により女は首をクイッと持ち上げられていて、空を見ていた。
(あれ? 今夜は)
吹きだす鮮血が生垣を、石壁を赤く塗る。赤く、あかく。あかく。
(月が出ていたはずなのに)
その胸から一切の鮮血がはじき出されると。その者は手早く女の首を刈り取った。
それがその者、都市伝説キリサキさんと呼ばれる愚神が行った所業の一つである。
のちにこれは連鎖する。
のちに警察はこれを愚神の仕業だと断定する。
のちにH.O.P.E.が派遣される。
それまでに犠牲になった女の数は十を超えた。
● 都市伝説キリサキさん
これは最近国内で流行り始めた都市伝説です。
キリサキさんは、夜耳をふさいで歩いている人物のもとに現れます。
その手には大刃の包丁を握っており、それで心臓を一刺しにしますが。
おかしいそうです。
心臓を一突きにするのに、傷は背中ではなく体の全面。胸にあるそうです。
背後から忍び寄り一突きにするには何かおかしいのではないでしょうか。
また首を刈り取る理由についても言及されています。犯行は常に住宅街の路地、ここで首を刈り取る意味はなんでしょうか。
ネットでは様々な憶測が飛び交っていますが、それに納得のできる回答を出せたものはいません。
● ドロップゾーンは暗闇(PL情報)
ケントゥリオ級愚神 イエローノイズ
その戦闘力は身体能力に依存しており。基礎ステータスは同じ階級の愚神でもトップクラスです。
他の愚神の様な多数に干渉する能力はあまり持ちえません。
そのため犯行が人間のものと似通うことになり、リンカーへの要請が遅れてしまったという事情があります。
もっというと今でも愚神の犯行とは断定できていません。
皆さんは愚神の可能性もある猟奇殺人事件を追っていることになっています。
しかし脅威となるのは一対一を作り出す能力にあります。
自身が周囲に展開するドロップゾーンは、視界の明度を落とし、50M先はもう何も見えない暗闇にすることができるのです。
完全ではないが、声や音すら偽装し聞こえなくする能力を持ちますが、このドロップゾーンは狩の時には使わないようです、あくまでリンカー対策のための能力です。
この情報を皆さんは何度も愚神と接触しながら、何度も夜を越えながら調べていただくことになります。
今回この愚神は逃げ足が速く不利を悟ると撤退するが、一度撤退しても体力の回復は微々たる程度しか行えないようです。
犠牲者を出さなければ、人を食らわなければ愚神は回復できないのです。
もちろん一度の襲撃で倒してしまっても構わない。その場合は愚神の基礎の能力の高さを考慮して、撤退を阻む必要があります。
***************************ここまでPL情報
● 肝試しの大学生
とある車がドロップゾーンのそばを横切った、その車は住宅地沿いの道路に車を止めると、中からぞろぞろと一般人たちが現れた。
まるでアリの子のように車から若い男女が現れる。
この男女は嬌声をあげながら闇の深い住宅地に乗り込んでいった。それが悪夢の始まりとなることも知らずに、だ。
解説
目標 イエローノイズの撃破
今回は戦闘力に優れた愚神との戦いです。
ただ、懸念事項がゲームスタート直後だと愚神の正体が不明、能力も未知数であること。
そして一般人が乱入してくる可能性です。
1 能力が未知数であること。
皆さんはPL情報にある情報を、ネットや人伝の噂。もしくは直接接触してでの情報収集をしていただくことになります。
その中で愚神への戦略を組み立て、連携をとっていく形でしょうか。
なのでPL情報をどう導くかが重要なシナリオになっています。
2 一般人が乱入してくる可能性。
周囲に一般人がいる場合リンカーよりも優先して殺しに行きます。
ドロップゾーンが張られてしまうと一般人は昏倒してしまうのですが。
その昏倒する前に愚神は命を刈り取ろうと一般人へと近づきます。
一般人を殺すことによって、体力の回復を図ることもそうですが何かしら理由があるかもしれません。
また一般人を殺しても撤退するようですが、これは必ずではないようです。
また、今回は戦闘によって重傷を負う可能性がありますので気を付けてください。
リプレイ
プロローグ
「今回の相手は正体不明の切り裂き魔みたいなやつね」
実際に犯行現場へ足を運んだ『雪室 チルル(aa5177)』。
その場の後片付けはまだされておらず、シートは人の形に盛り上がっている。
「愚神によるものと推定される連続殺人事件…………ですか」
その一体に漂う生臭い香りに顔をしかめて『月鏡 由利菜(aa0873)』はそう告げた。
『リーヴスラシル(aa0873hero001)』が拳を握りしめる。
「いかんせん情報が少なさすぎる。……危険はあるが、直接確かめなければならないか」
「事前情報が無いに等しいから、まずは情報収集からだね」
『スネグラチカ(aa5177hero001)』がリーヴスラシルの言葉に頷いて告げる。
「これ以上の被害を防ぐ意味でも、必ず撃破するよ!」
チルルは胸の前で小さく拳を握りしめた。
「とは言え油断しないようにね。情報収集しながら戦うんだから」
スネグラチカのお小言にはーいっと返事をするチルル。
その隣で『アリス(aa1651)』と『Alice(aa1651hero001)』がちょこちょこあたりをしらべていた。
まるで少年探偵団である。
「被害者は全員女性?」
首をひねるアリス。
「……それで、その刈った首ってどこで見つかったの?」
Aliceはそう鑑識に問いかけた。
「つーちゃんってオカルトとか信じるのー?」
遠い場所で待機しているのは『リリア・クラウン(aa3674)』と『伊集院 翼(aa3674hero001)』。リリアの言葉に翼は少し考えてから言葉を返す。
「ああ、そうだな。とはいえ最近は愚神や従魔の仕業で済まされてしまうけどな」
そう、この事件は愚神や従魔がやった可能性が高い。
それを思うと恐怖など無く、むしろ怒りが湧いてくるほどだ。
『黛 香月(aa0790)』は怒りで瞳を燃やしながら状況を冷静に観察する。
「今のうちに虚勢を張っておくがいい。貴様の素性さえ暴ければ勝機はこちらのものだ」
その勢いに気圧されながら『アウグストゥス(aa0790hero001)』は脇に控えた。
「たとえ正体を隠したつもりでも、この世界に居座る時間が長ければ長いほど化けの皮が剥がれていく」
かつて刑事だった香月。その勘がビシビシと告げている。
「いつまでも恐怖の都市伝説を気取っている余裕はないということを、嫌と言うほど奴に思い知らせてやるさ」
このままでは次の被害者が出る。
リンカーたちは早急に行動することを迫られた。
第一章 捜査
まずは状況の整理からである。
リンカーのためにあてがわれたマンションの一室。ここはリンカーの詰め所兼今回の戦いの作戦本部である。
そのリビングで『世良 杏奈(aa3447)』はPCのキーボードを叩いていた。
『ルナ(aa3447hero001)』が背伸びをしてテーブルの上に顔を乗せ、モニターを覗いている。
連続猟奇殺人事件についてネットで調べているのだ。
犯行の目撃者や未遂で済んだ被害者の書き込みがないかを調べると。
意外と情報がヒットする。その中には犯行の手口に関する詳細な報告があった。
猛スピードで追いかける、首を一撃で両断する。などホラーというよりラノベめいたスペックである。
「首は、発見されないんだって」
アリスがそう言葉を沿える。
それにリーヴスラシルは異を唱えた。
「確かに、愚神の走力は一般人のそれを上回るだろうが……それにしても似たような状況で殺害された報告が多すぎるように思う」
そう杏奈からマウスを受け取ると、特に気になる書き込みをクローズアップした。
「ラシル、ただ暗闇に紛れて殺害するだけではないということですか…………?」
由利菜が不安げに告げる。
「話を聞く限り、今回の愚神は大勢を一気に殺害するのではなさそうだ。だとすれば……特殊能力で孤立させ、確実に一人ずつ仕留めるタイプと推測する」
「後ろから近づくのに、わざわざ前に手を回して刺すの? こんな手間な事普通するかしら?」
ルナが問いかけた。
「それに人間の首なんて、そんな簡単にはもぎ取れないわよ? 正体はやっぱり愚神なんじゃない?」
「それは私も思っていたんだ」
暗がりで黄金の妖精『アイリス(aa0124hero001)』がぽつりと告げる。
「事前に調べたが首の切断面が鮮やか過ぎだね。一般人に可能な芸当ではない」
その言葉に『イリス・レイバルド(aa0124)』が頷いた。
「確実なのは戦闘力のある相手ってことだね」
「そう、つまりは油断は無しだ」
「うん、10人も殺した理不尽……逃がす気は無いよ」
告げるとアイリスは別の懸念点について話を始める。
「避難勧告は我々の指示で出ているはずだ。しかし。それが浸透しきっていない可能性は考えられないかな?」
アイリスの言葉に全員がアイリスへ視線を向ける。
「普通なら囮役に立候補する所なのだが」
「ボクら光って目立つからね」
「完全武装のリンカーと一目で分かるのだよ。食いつく保証は全く無い」
「だったら」
そう手をあげたのはリリア、それに頷いて翼も手をあげる。
「囮、僕たちがやるよ」
* *
作戦会議終了から初日の巡回まで、リンカーたちは自由時間が与えられた。
『無明 威月(aa3532)』と『阪須賀 槇(aa4862)』は並んでコンビニにアイスを買いに行っていた。その帰りにスマホで槇は情報収集を続ける。
「何かみつけたか? 兄者」
告げたのは『阪須賀 誄(aa4862hero001)』。その隣で『青槻 火伏静(aa3532hero001)』はワンカップを煽っている。
「昼間に調べた情報以外、目新しい情報はないお」
そう槇はポケットにスマホを滑り込ませる。
槇は警察と協力し人海戦術を展開。
その間に槇は日中に監視カメラの大量設置を行うという肉体労働をしていた。
また緊急事態の為、電波塔の一時借用も申請、これは受理される。Wi-fiで何処からでも高速インターネット出来るようにしたので、動画もゲームもやり放題…………。なんてことはなく、皆真面目に仕事ムードである。
その過程で上がってきた妙な情報を片っ端から集めリスト化していたのだが。犯行の手口、時間、遭いやすい場所など簡単な情報しか出てこなかった。
情報はこれだけ。そう言う見方もできるが。
「うた…………が? きこえる?」
そうクレープタイプのアイスを口から話して威月がスマホを兄弟に見せる。
「それマジ? どこで見たの?」
「えっと、このオカルト掲示板で」
「ソースキボンヌ……っと」
立ち止まること数分。
「お、いいぞ兄者。早速『釣られてるバカがいる』って書かれてるな」
「ぐぬぬぬぬ…………ん?」
その時槇の視線がハンドルネームに留まる。そこにはJINとだけ書かれていた。
「炎の妖精?」
「お酒の名前だお。探偵漫画で見たことあるお」
「残念、俺ちゃんでした!」
そう二人の目の前に姿を見せたのは『火蛾魅 塵(aa5095)』と『人造天使壱拾壱号(aa5095hero001)』。その手にはスマートフォンが握られていて同じサイトが映っている。
その諸悪の根源的な要望に怯える威月と。割と平常運転の槇。
「大丈夫?」
誄が心配するも首を振る威月。
もともと威月はだめなのだ。
こういう自分の過去を連想させるような事件は。
自分も暗い夜道を攫われたから。
それに追加で、諸悪の根源の様な男の登場。
しかし威月も成長している。
「……私は…………戦います。私は……私たち暁は……皆の、平和な日常を守りたいから」
そう塵に告げる、塵はその震える姿をニヤついて一瞥する。
「あな……たに…………何と言われても……貫きます」
「……じゃア行くかよ……楽しもうぜぇ~殺しをさぁ~……クク……」
告げると二人のインカムが震えた、さっそく何かが出たらしい。現場に急行せよとのことだった。
第二章 一夜目
槇は報告を受けると現場に走った。ノクトヴィジョンを展開、イメージプロジェクターを起動し暗闇に潜伏。
他の仲間とコンタクトを取り、違う離れた位置に陣取る。
手元の小型PCで監視カメラの映像を監視しながら状況に関する情報は常に耳から得る。
その監視カメラにはリリアの姿が映っていた。
「今回あたいは待ち伏せ役として行動するよ」
インカムの向こうではチルルが指示を出している。
「予め決めた場所で潜伏して、囮役からの合図を待って行動開始よ」
「了解だお」
威月は槇とは違うポイントに潜伏、遠目でリリアたちを追う。
ただ、張り込みの性質上一人にならざるおえないわけで、体が勝手に震えていた。
槇さまも震えているだろうか、誄さまは平気だろうか。
そんな妄想をして恐怖を和らげる威月。
隊長や、他の仲間が居れば何と言うだろうか、そう思い至った時点であの顔がちらつく。
塵。
彼を思うと不思議と心が落ち着いた。まるで戦いを前にした武者のように。
そんな威月を心配しながら槇は思う。
明日は威月が囮の番だ、女性にばかりこのような役回りを押し付けて、複雑な思いが湧きあがる。
「…………威月たんなんて、あんなに肩震わしてんだお。漏れだってやってやるお!」
* *
「というわけで基本は囮役を使っての撃破を狙っていくよ」
時間は少し遡る。深夜の巡回開始五分後くらい。全員に繋がったインカムの向こうでチルルが作戦を再度確認する。
「まずはネットとかの情報を元に被害があった場所を調べたよ。相手が出てきそうな路地裏とかを予めマークしてるから確認してね」
リリアはその言葉に立ち止まり十字路を見渡した。
車が一台しか通れないような狭い道。確かに普通の女性であればここを歩くだけで恐怖を感じるだろう。
「地図には逃走路も書いてあるから参考にしてね」
「戦闘では囮役が相手に張り付いて、囮役からの連絡を確認次第戦闘開始するよ。
戦闘中は一般人が現場に来る可能性もあるから、
万が一の場合はすぐに救急車とかが来れるようにしておいてるよ、あんしんしてね」
そう言い終るとチルルはふぅと一息ついた。
――1日目で確実に処理できれば楽だけど、難しいようであれば囮役を変えて2日目以降もチャレンジだね。
そう告げるスネグラチカ。
リリアは相棒の翼と一緒にゆるゆると路地をあるく、帰宅途中の女性を装った。
手持ちのスマートフォンを使いながら他のメンバーたちと常に連絡を取り合い、そしてGPS機能を使いながら状況を常に確認する。
ただ、囮役に立候補したのはリリアだけではない。杏奈もである。
そしてかかったのも杏奈の方だった。
その背後に誰かがいる。忍び寄ってくる。
その足音を聞いて距離を計測。
杏奈は敵が動いたところで身を滑らせ、突き出てきた腕を取り、そして締め上げる。
「捕まえた」
ただその時、その腕が伸びた。捕えた左腕と別に右手にもナイフ。
これが心臓を前から一突きにされている要因だろう。
このままでは刺されてしまう、そう思った時。
由利菜が生垣から躍り出た。
盾で刃を弾くと同時にキリサキさんの胸ぐらをつかみあげて地面に叩きつける。
「いまだ!」
その時キリサキさんの腕が伸び、踊った、あわてて距離をとる由利菜。
それと同時にリンクバリアを展開。
キリサキさんの霞む体を光で照らそうとする。
――不自然なまでに暗い闇だ…………! やはり、ドロップゾーンか!
リーヴスラシルが告げた。
「ルーン・ヴェール、展開! ラシル、イリスちゃん、エリアに入ってきた方の救助へ!」
そう、ちょうど作戦開始時刻、一般人が面白がって突入してきたのだ。だがそれはイリスによって安全な場所に誘導された。
――ああ、最悪の事態は避けねばならん…………!
キリサキさんは不利を悟ると逃げる姿勢に。それと同時に杏奈はマナチェイサーを発動。
これで尻尾は掴んだと言える。
「呼ばれてとびでて!」
そのキリサキさんの側面からチルルが殴り掛かってきた。
その攻撃を避けたキリサキさんは壁を足場に大きくと飛ぶと、そのままチルルは追い始める。
リンクバリアでのドロップゾーン影響緩和。しかし敵はその身体能力でリンカーたちの距離を広げていく。
「おくのてだ!」
告げるとチルルはロケットアンカーを空中で着地を待つ愚神に射出、しかしそれをキリサキさんは両手のナイフで切り上げた。
「ああ!」
にやりと笑う愚神。その横顔を香月のスコープは捕えていた。
直後轟音。横っ面にキリサキさんが吹き飛んで生垣に激突、それを粉砕しながら転がって民家に突っ込んだ。
「ドロップゾーンの影響が弱くて助かったな」
それにしても当たったのは奇跡と言える一撃。愚神は目を白黒させながら立ち上がると目の前には由利菜が立っている。
「ここで仕留めます」
そう刃を携える由利菜の背後からアリスの支援攻撃。
炎の壁で行動を制限するように愚神を焼いていく。
だがそれも突破して無理やりに由利菜の脇を通ろうとした愚神へ、怒涛の連撃が突き刺さる。
「コード・エクサクノシ、起動! エクシード・キャリバー!!」
その体は宙に浮いて、さらに追撃の斬撃で鮮血をまき散らしながら愚神は地面を転がった。
だがそうとうタフな個体らしい。すぐに体勢を立て直すと、槇や香月の狙撃を避けてあっという間に逃走してしまう。
「また来るかな?」
そう一人ごちるアリス。今度相対したならば今日の分析を元に確実に追い詰めて見せる。そう誓った。指先に染みついた香りを確認。
そして愚神が体を洗う習性を持たないことを祈る。
第三章 二日目
塵は昨日の襲撃を受けて昼間、改めて殺害現場と近所を見て回っていた。
そのたいていが街中で、夜遅く人はなく。逆に誰も助けに来ないような、都会の闇のその狭間を体現した様な場所で全員が殺されている。
「……クク、こんなご時世に、アマが一人で夜中出歩くからこーなるんだろうがヨ」
塵がくつくつと笑うとその隣で威月は怒りの表情をあらわにする。
「……だがヨぉ……怨念は聞いたぜ」
何事かを告げようとし、威月はその言葉を聞いた。
はたりと威月は口を閉ざす。
「待ってなぁ……俺ちゃんがブッ殺してやらぁ」
「また出現すると思いますか?」
時同じくして愚神対策本部。
そこで由利菜が昼食をとりながら調べ物をしている香月に尋ねた。
「奴はくる、絶対にだ」
「根拠はなんですか?」
刑事の勘、と言えば笑うだろうか。
実際は経験則である。
香月は元刑事である彼女の手腕を利用して捜査中の刑事を装い、現場周囲の住宅街で張り込み調査した。
そして愚神が好みそうな襲撃ポイントをリストアップする。
「次はここだな」
するとまだ襲撃に使われていないあの愚神が好みそうな路地が浮かび上がった。戦力を集中することができれば倒すことはできるだろう。
今晩囮として威月が放たれる、他のメンバーは包囲網の構築。
最後の夜が始まろうとしていた。
* *
囮となる威月の背後にアリスが控えている。闇にまぎれるような黒のドレスで。
気配を殺しじっと様子をうかがっている。
それ以外にも監視の目はあった。
改めて設置し直した監視カメラで槇が威月を見守っている。
とうの威月はやはり恐怖が隠せないらしく。その手が震えているのがわかる。
ちょっとした物音に怯えながらあちこちに視線を巡らせる。その姿が痛々しくてたまらなかった。
誄が告げる。
「あのこに何かあったら、みんなに示しがつかない」
そして威月はひとけのない場所へと歩いていく。
広く、戦いやすい場所へ。
その様子を車内にて、その片手間で インターネットに書き込みを行い、正体不明だが切り裂き魔が居る事をリークする。
「昨日見たんだよ、H.O.P.E.と誰かがヤリ合っててさ、ヤバいってあれ、おまぃら絶対今日は夜中に出歩くなよっと…………っと」
この夜は逃さない、そう槇も目を光らせる。
敵の能力は割れた。
槇の隣でイリスは静かに剣気をとがらせてく。
「僕も行きますね」
アイリス主体にフォームチェンジ後。愚神の匂いを感じて二人は飛び出していった。
「やはり、物珍しさに来る人間は後を絶ちませんか」
そう侵入しようとする一般人、撮影に乗り出した深夜番組のスタッフなど追い返して由利菜は一人ごちる。
そして、張り詰めた緊張の糸がぷっつりきれるように、それは起きた。
威月の背後から正面に潜り込む手。手。
その手にはナイフ。昨日と同じ手口。愚神である。
ただそれを察知して威月は直情方向に飛ぶ。
そしてその住宅地細道を、極光が通過した。
杏奈のサンダーランス。
「これならよけられないでしょ?」
光の奔流に飲まれる愚神。
「ライトアイを!」
告げる由利菜と、躍り出るイリス。
「またボクとお姉ちゃんの光(絆)を邪魔する類の奴か……ッ!」
急に周囲の明度が堕ちた、あちらも臨戦態勢らしい。
しかし今回のリンカーたちはフル戦力投入である。
由利菜とイリスは交互に前に出て絶え間ない斬撃を浴びせる。
その華奢な体に似合わず、腕をびよんびよんと伸ばして二人の斬撃をさばくあたり、愚神としてのレベルは低くない。トップリンカー二人を捌くのだ。実力は並ではない。
だがそれがどうした。
イリスは首筋に迫るナイフを皮一枚で回避。
(結界がやぶられた?)
その輝きを抑えようともせず懐に潜り込んで斬撃をみまう。
すると腹部の傷が開いたのか大量の鮮血がイリスにかかった。
「わ!」
イリスへの追撃を由利菜が刃で庇うとイリスは血をものともせずに盾でタックル。愚神の動きを封じ、その間に由利菜が背後に回って背中を切り上げた。
直後二人は半歩距離をとる。
チルルが狙いやすいようにだ。
投げられる槇のフラッシュバン。
それは愚神の視界を焼いて回避能力を奪う。
「今度は外さないよ」
アンカー砲が射出され、それが腕に絡みついた。片腕を引っ張り上げられた愚神。
弾丸が顔面に激突、頭を引っ張られるように後ろに体勢が崩れた状態で、イリスと由利菜がその体を切りつけた。
「煌翼刃・茨散華」
そんな中、どうやってかこの戦闘区域に潜り込んだ一般人が茂みから顔を出す。
彼は以前からリンカーたちの戦闘を撮影しては闇で販売するブローカーらしい。
だがそんな彼の運命もここまでだった。
彼があまりの戦闘風景に後ずさると硬い何かに当る。
背後を振り返るとそこには塵がいた。
「……オイ、邪魔なんだよ。さっさと帰れ」
そう尻を蹴り飛ばすとあらぬ方向に走って行こうとする一般人。
「あぶない」
それをリリアが庇った。
腕にざっくり突き刺さる刃。
どうやら愚神が手首のスナップだけで投げたらしい。
「くっ」
痛みに歯を食いしばってリリアは二擲目を大剣で弾き、背後を振り返る。
「大丈夫? けがはない?」
その言葉に頷く男。するとリリアはよかったと胸をなでおろした。
そのリリアの脇をするりと通り抜けて愚神へ魔術を浴びせるアリス。
背後を振り返って冷たい目で邪魔とだけ告げた。
「ひ!」
そんな男の胸ぐらをつかみあげる塵。
「いーから帰れよ……死にてぇのかぁッ!?」
青い瞳の炎がギラリと敵意を向けた瞬間。塵は男をアンダースロー、そのまま男はズボンのお尻を擦りながら転がり素早く立ち上がると退却した。
「これで参加できるな」
告げると塵は霊力を練りだす。
「……食い散らかしな……《死面蝶》ォオ!」
放たれる死者の顔の蝶。それが愚神に群がると威月が駆ける。
恐怖に震える体を抑え、これ以上の被害を抑えるべく意志を燃やす。
――ひさびさにメチャンコ強ぇ敵じゃあねぇか……気合いれろよぉ威月ぃ!
「…………私は、諦めません…………ッ 勝つ事を、守ることを!」
その一刀を浴びせると愚神はナイフでアンカーのロープを切断し、離脱。腕を素早く伸ばして視覚からリンカーたちを切り裂いていく。
「いったん引けよ! お前等!」
告げると塵は亡者嘆叫泣き叫ぶ亡者の声を聴きながら愚神をその闇で包んだ。
アリスと槇がそれに続き体勢を立て直す時間を作る。
「とんでもなくタフだお」
――違う兄者、ダメージを受ける時微妙に致命傷をずらしてるんだ。
「魂毒焔」
突如吹き荒れる毒の炎に包まれる愚神。
「ハッハーッ! 殺した女が呼んでるぜぇえ! おいトオイぃ! 出力上げろテメェ!」
その炎の中から放たれたナイフから威月を守った。かわりに愚神は直上に飛んで離脱、腕を伸ばして電柱を掴み立体機動で逃げ出そうとする。
「なんで!」
威月は驚きに塵を見つめる。
「オイ、テメーが倒れたら誰が回復すンだよ、ちったー考えろ」
そうエネルギーバーを威月へ投げ渡す塵。
「オラよ、こいつ食っとけ。おい誄っちぃ! 敵さん見付かったかァ!?」
――見失うことがあり得ない。
「撃ち落とすお!」
放たれるダンシングバレット。それは空中にいる愚神を檻のように囲んだ後、その全身へと殺到する。痛みに耐えかねた愚神は地面に墜落。
その間に威月はケアレインで全員を回復させた。
エネルギーバーはむせながらも口に突っ込む。
――今食わなくてもよかったんじゃねぇか?
火伏静がぽつりとつぶやいた。
そして地面に寝そべった愚神が顔をあげると、そこには月を背にした香月がいる。手には獲物。餓狼が握られている。
「祈る間もやらん、被害者にならい、首を置いていけ」
横なぎに振るわれる体験が石垣を崩した。
素早く体制を立て直した愚神は逃走を試みようとするが足元から凍りつき動けない。
アリスがその様子を見てため息をついた。
「捕まえた」
香月が刃を翻す、その分厚い鉄の板が愚神の胸からせり出した。まるでえぐるように香月は刃を突き立てる。
「寒いのは嫌いなんだ、手間取らせないでくれるかな」
しかし愚神は凍りついた足を切って逃げ出そうとする。
それを防ぐために反対側からリリアも大剣を突き立てた。
血を吐く愚神。
「今回ばかりは相手が悪すぎたな。人間を舐めるからそうなる」
その声に愚神は振り返り、ニッタリ笑う。
信じられないことだが、この時初めて。リンカー全員が愚神の素顔を目撃した。
その顔は、犠牲者の一人の顔に見えた。
ただそれは高速で切り替わり、まるでモンタージュのように顔のパーツが組み替えられる。
「化物め!」
イリスが叫び刃を閃かせる。
そのタイミングで香月とリリアは距離をとって。
「煌翼刃・霞桃花」
極限まで高められた切断力が愚神に衝突すると、大剣を横なぎに振るった。
あまりの攻撃の奔流に耐えかねた愚神は笑いながら爆散した。
「捕食者気取りはここまでだ。獲物に食われる屈辱を味わいながらその腐った命をよこせ」
香月が告げるとその体は煌く霊力となって散り、その場には何も、残らなかった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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