本部

特殊AGW運用試験 ~新人研修ver.~

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~10人
英雄
5人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/05/09 20:58

掲示板

オープニング

●腕『だけ』は買われた
「――これでAGW開発行程をすべて消化しました。データ上は、現場での実用レベルにも達しています」
「うむ、ご苦労だった」
『特殊状況下を想定した特化型AGW開発部(略称・特開部)』の常に紙束が雄大な山としてそびえる主任室にて、1人の職員が新たな資料とともに複数の指輪を主任へ渡した。
「しかし、意外でしたね。先月あんな爆発事故を起こしたのに、H.O.P.E.から依頼がくるなんて」
「先方によると『攻撃的性能を排除すればAGWとしての完成度は高い』と判断した者がいたらしい。……我々の本懐は武装AGW開発ではあるが、常に資金難な状態を考慮すれば依頼があるだけマシなのだろう」
 先月の爆発事故とは、彼らなりに『雛祭り』を意識して開発された試作AGWが暴走し、演習場のエージェントごとぶっ飛ばした痛ましい事件である。被害者は全員、髪の毛が縮れて愉快な見た目を強要されたが、幸いにも大事になる前にエージェントが沈静化してくれたため、今の『特開部』ではすでに笑い話だ。
「それにしても、登録して日の浅いエージェントに向けた訓練用AGWなのに、どうして武装NGだったのでしょうか? 戦闘経験を得るのであれば、臨死体験が一番の近道だと思うのですが?」
「そこが私も腑に落ちない。試作機の機動実験を失敗した経験則などからして、人は半分以上死んだ状態がもっとも成長できる生物のはずだが、『安全厳守』と何度も念を押されてしまえば従うほかあるまい」
 本気で悩みながら首を傾げるぶっ飛んだ職員の疑問に、主任はなんと同意を示した。この会話だけで『特開部』におけるAGW開発の頭のおかしさが理解できるだろう。
 この部署、AGW開発費とほぼ同等の医療関連費をグロリア社に報告するほど、エージェントと同レベルの怪我が日常茶飯事というイカレた職場なのだ。
 未だ死者が0なのは奇跡だが、逆を言えば『半殺しのプロ』を名乗れるくらいには『生死の境界』を熟知している証拠でもある……訓練用AGWに不要な経験則であるのは言うまでもない。
「ああ、なるほど。だから『あの機能』を搭載したのですか」
「うむ。訓練とはいえ、一定の緊張感は必要だからな」
 合点がいったと感心顔の職員に、主任は愛用のグラサンを光らせた。
 悪い予感しかしない。
「では早速H.O.P.E.に連絡を取り、訓練の日程などを打ち合わせしてきます」
「頼む。私は資料の内容から改善点がないかチェックしよう」
 それぞれ動き出した職員と主任の顔は、どこまでも真剣だった……

●新人訓練、はっじまっるよぉ~!
「勤勉なエージェント諸君、今回は本訓練の参加を心から歓迎しよう」
 そして、訓練当日。
 何故か防音設備が整った屋内演習場には、『特開部』の他に大勢のエージェントがいた。
 その内、実戦経験がほとんどない新人エージェントの表情は緊張気味で、後進育成のボランティアとして参加した先輩エージェントは微笑ましげな表情が多い。
「今回は我々『特開部』が開発したAGWを利用して、主にヴィラン戦闘を想定した対人訓練を行う。たとえ人の姿をしていても、愚神とヴィランでは戦闘時の雰囲気や対処法が異なることを、実戦に近い状況で存分に学んでもらおう」
 職員たちから新人エージェントへ、戦闘における愚神とヴィランの違いをまとめた資料が配布された。
 明確に違う扱いとして、たいていのヴィランは法律で裁かれるべき犯罪者であるため『逮捕』が基本で、よほど危険な人物や状況でなければ殺害はなるべく避ける必要がある。
「だが、時には現場でヴィランを殺害する判断を迫られることもある。もし君たちが不運にも『今』そのような事態に直面した場合、躊躇せず『人を殺す』覚悟ができる者は多くないはずだ。つい先日まで一般人だった者もいるため無理もないが、それでも君たちはもうエージェントであるため甘えも許されない」
 いきなり重いテーマが中心で真剣度が増す中、主任が指輪のAGWを取り出した。
「そこで君たちには、疑似的に『人を殺してもらう』」
 は? と新人たちの口がぽかーんと開くのも構わず、主任が説明を続ける。
「このAGWはライヴスを用いて人形を作り出す物だが、あえて精巧な人間にはならないよう設計されている。せいぜい顔がここにいる先輩エージェントの物に変わり、特定条件で先輩方の声が出るだけだ」
 んん? と目を丸くする新人たちに気づかず、主任はAGWを先輩エージェントへ渡していく。
「つまり、君たちにはこれから時間いっぱいまでここにいる先輩方の顔をした人形を殺し続けてもらう。肉体的な危険は一切ないため、動くカカシを破壊する訓練という認識で大丈夫だ」
 精神的な安全は?! と誰かが口にしたが、主任は真顔で言い切った。
「この訓練の目的は、君たちに度胸をつけることだ。本物の先輩たちがいる前で、偽物の先輩たちを殺しまくれば、いずれ感覚は麻痺してくる。とにかく慣れろ。自分や仲間や助けを求める人々を守るために、先輩の屍を越えてゆけ!」
 なんかいいこといった風な感じ出してるけど、これ下手をすれば先輩たちから恨まれるヤツじゃね!?
 とてもいい笑顔をこちらに向けてくる先輩たちが、新人たちにはとても恐ろしかった。

解説

●目的
 新人エージェントのヴィラン戦闘訓練・補助

●登場
 グロリア社の『特殊状況下を想定した特化型AGW開発部(略称『特開部』)』の主任及び職員
 全員開発プロジェクトに携わっている技術者で優秀
 基本的に研究・開発に没頭しており常識に疎く、頭のネジが外れている

●状況
 訓練時間は9:00~15:00(昼休憩1時間)
 場所はH.O.P.E.東京海上支部の屋内訓練場
 障害物等はなく防音設備が充実した空間

 主任がH.O.P.E.から依頼を受けAGWを開発
 訓練用試作AGWの運用試験も兼ねて新人研修を実施
 登録して間もなく戦闘経験が少ないエージェントは訓練担当
 戦闘経験が豊富な先輩エージェントはAGW運用や訓練補佐担当

●試作AGW
・幻想体(ミラージュ・デコイ)
 指輪型AGW
 使用者の身体能力を反映し、遠隔操作可能な霧状の人形を生成
 戦闘能力はなく、物理的接触が可能な程度の密度を維持する
 イメージプロジェクター機能を搭載し、顔だけモデルとそっくりに変更
 ライヴス出力は不安定で、1回の発動につき1D6体作成される

 特殊効果
・人形の形状→参加能力者・英雄の身体データに準拠しランダムで再現
・AGW使用中→全人形が消滅するまでメインアクション使用不可
・人形が1D6回被弾→消滅(ダメージ量無視)
・被弾→PCたちの声を改造した呪詛が毎回再生+顔映像に流血表現が追加

●その他
・生命力減少なし(精神力憔悴あり?)
・訓練への参加は任意、訓練の補助はボランティア
・補助組は人形の呪詛(精神攻撃)をプレで指定可能
↓台詞例
 恨み辛み系
『殺すころすコロス×∞』
『――テメェの顔、覚えたからな?』
 変化球系
『パパ、ママ……ごめんね、わたし、しんじゃったよ……』
『僕の家族を返せ! この人殺しっ!!』
・研修後→スタッフが全員に参加賞として飴ちゃん(ハッカ味)1個を配布

リプレイ

●主任説明中
「新人訓練……まだエージェント経験が浅いから受けといて損は無い、けど、主導があの『特開部』かぁ……」
「特定条件って、いったい何ですかね~? 訓練だから恐らく大丈夫だとは思いますけど~……とりあえず頑張りましょうか~」
 妙に縁があるグラサン主任に遠い目の古明地 利博(aa5567)は、あまり説得力のない兎川 結衣(aa5567hero001)の励ましに何とかため息を飲み込んだ。
「なるほど、ちょっとアレな開発者の集まりなのね」
「野放しにするより見えるところで仕事してもらうほうがマシ、ってことかな?」
 補佐側から聞いた一通りの説明で『特開部』を的確に表現した餅 望月(aa0843)は、さりげなくキツい評価を下す百薬(aa0843hero001)に頷いて指輪を掲げる。
「そうかもね。話を聞く限り、アルター社に送り込むわけにも行かなさそうだし」
 小さなAGWに多くの機能を高水準でぶち込んだ優秀さと、えげつない効果を実現させる厄介さに望月は放逐の危険性を考え頷く。
「……研究者とは、時に暴走するものですよね」
「ロロ?」
 明後日の方向へ視線を放った構築の魔女(aa0281hero001)の透明な笑みに、辺是 落児(aa0281)は怪訝な顔を向ける。……なんか昔にやらかしたんですか?
「……ここの職員たちは新人達の心を折るつもりなのか?」
「って言うか、この訓練に慣れたら人として駄目な気がする……」
 疑似体験とはいえ『人を殺せ』と檄(げき)を飛ばす主任に御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)はそろってドン引きし、間違った心構えがつきそうだと頭を抱える。
「自分の共鳴姿って、偽物でもあんまり見たくないなぁ……」
「そう? アタシは好きだけどね」
 普段と真逆の自分を直視しそうで高野信実(aa4655)は若干憂鬱そうにAGWを装備し、快活に笑うロゼ=ベルトラン(aa4655hero001)はとても楽しそうだった。

●午前の講習と訓練
 さて、早速実戦に……とはならなかった。武器をまともに握ったこともない新人もいて、恐怖や躊躇で変な癖が付かないよう構築の魔女が『先に講習を行いたい』と進言したのだ。
「技術指導は10時まで。その際、幻想体の不具合等があればすぐに調整する。では、始め!」
 提案は通り、主任の号令で新人たちは先輩に従い動き出す。
「例外はありますが、基本的にAGWの銃にも反動があります! それに正しく構えないと高確率で狙いを外し、間違って覚えると尾を引きます! 基本を忠実に守り、身体に叩き込めてから次の段階に進みますよ!」
「――ロロ」
 銃器の指導を行うのは構築の魔女と落児。構え方・照準の合わせ方・射線の選び方などを口での説明や体に直接触れて間違いを修正し、基礎をしっかりと教え込む。
「武器ごとにリーチや重心は異なる。適切な攻撃動作を身につける他、得意な間合いを知ることも必要だ」
 恭也は大剣を中心に近接戦の基礎を実演しながら教えている。
「新人さんは共鳴するのも大変だけど、がんばろうね。前に百薬も『柏餅がつぶあんだ!』とか言い出して、合わせてくれなくなって大変だったんだから」
『最終的に普通の白い柏餅はこしあん、よもぎ餅はつぶあんで折り合いが付いたのよ。参考にしてね』
 他にも望月と百薬は新人へ共鳴を見せた後、実体験を交えながら柏餅におけるこしあんとつぶあんの重要性を――違った、共鳴における相互理解の重要性を説(と)いていた。
「次は実射訓練です。高野さん、ベルトランさん、補助をお願いします」
「了解っす!」
「はぁ~い♪」
 一通り教えた後、構築の魔女は共鳴して幻想体を起動。顔映像や声は使用せず壁際に並べ、細かい技術指導を信実とロゼに交代。顔なしカカシを用いた訓練が始まる。
「構築の魔女さんも言ってましたが、基本は当てやすい胴体で動きを封じるなら手足を狙うっす。頭や急所は小さいから、最初は無理に狙う必要はないっすよ」
「銃弾の行方が自分や仲間、そして護るべき人の生死も左右することを忘れないように!」
『――はいっ!』
 後輩への気遣いを見せる信実ときちんと現実を示す構築の魔女は対照的で、新人も適度な緊張感と集中力を維持できている。
「みんながんばれー♪ ファイトー♪」
 後ろからロゼの楽しそうな声援が飛ぶと、男性陣が妖艶なお姉さんにいいところを見せようとやる気を上げ、女性陣は面白くなさそうに男を睨む。
「……っく」
 一方、感触まで限りなく人に近いため、利博を始め近接武器を扱う新人たちは心理的にキツそうだ。
「何と言うか……悪趣味な物を作り出したな」
『見える、見えるよ……未来に希望が溢れていた新人さん達の眼が、暗く淀んだ眼に――』
「事実になりかねない冗談は止めろ」
 無駄に再現度の高い幻想体を操り訓練を見守っていた恭也は、共鳴した伊邪那美の深刻そうな口調の縁起でもない台詞をぶった斬る。……その光景は恭也にもばっちり見えていた。
「それまで!」
 やや不安を残すも、主任の声で指導は終了。
「ひとまず、お疲れ様。ですが、訓練で出来ないことは実戦でも出来ません。頭の片隅で常に意識し、日々の精進が大切ですよ」
 最後に構築の魔女は訓示を残して新人たちを送り出す。
「でもね、今度は白あんのいちご大福でまたもめて――」
『もう始まるみたいだよ?』
「――えっと、つまりいちご大福には小豆あんだからね」
 そして第4次あん論争まで語った望月も、百薬に促され結論を残して新人たちを送り出す。
 こうして武器の扱いと百薬の好みを教えられた新人たちは、対ヴィランの実戦訓練に挑んだ。

「顔だけ物凄くリアルだな……」
 配備が完了した幻想体を前に、利博は嫌そうにつぶやく。
「とりあえず――近い奴から順に倒す!」
 とはいえ、これは訓練だと割り切った利博は正面から襲ってきた人形へ拳を沈めた。
『――その顔、しっかりと覚えたぞ』
「っ!?」
 瞬間、無表情ながら血走ったコピー恭也と目が合い、体を震わせた利博だが何とか連撃を見舞う。
『こノ身が、冥府ニ堕ち、よウトも、貴様ラをコロ、しに戻ル』
 耐久値を失い体がボロボロと崩れるコピー恭也は、おかしな口調で左右別々に眼球を動かし利博を睨んだ。
『それマで、束の、間のヘイ穏、を楽シンで、おげぼぁっ!?』
 そして、目や口から大量に出血した映像を最後に、コピー恭也の首がごろんと落ちて消え去った。
「ぎゃあああっ!?!?」
 下手なホラーより恐い仮想ヴィランの死に方に、利博は恥も外聞もなく絶叫。
 他の新人も同様で、一瞬で阿鼻叫喚の訓練模様となった。
「どう考えても演出過多だろう……」
『恭也、さすがにあれは可哀想だよ』
「俺に言うな」
 なお、呆れながら主任へジト目を送った本物の恭也は、何故か伊邪那美から理不尽な非難を受けて目つきがもっと鋭くなる。
『ひどい、じゃないか。なんのためにこんな……愚神やヴィランが悪だって決めたのは、H.O.P.E.なのに』
「ひぇ!」
『これが最後のあたしじゃないよ。第二第三の刺客が、必ずお前を打ち倒す……カクゴシテ?』
「う、うわぁっ!?」
「う~ん、精神攻撃というか、断末魔混じりの恨み節みたい?」
 同様に自分のコピーと新人のやりとりに、望月は苦痛にゆがんだ自分の顔を比較的冷静に観察する。
「後輩ちゃん達を慰めてあげたいけど、怖がらせちゃうかしら?」
「ヒールアンプルで代用できないっすかね?」
 一方、開始早々に人形が倒されて共鳴を解除し、悩ましげに訓練を見守るロゼは一度信実に視線を向ける。
『時間かかりすぎ。狙いが甘いよ』
『もっと頭使えるんじゃないの?』
『1人で突っ走らない。もっと周りを見て』
 次にロゼは、攻撃した新人へ眉を寄せつつ赤目で睨み、冷静かつ淡々と講評を述べるコピー信実を見た。
「……うん、いいわね♪」
「よかったっす」
 喜色満面なロゼに笑顔を返した信実だが、今何かが微妙にズレた気が……?
「手足を狙って外したら仲間も危機に陥ります! 狙いは迅速かつ精確に!」
「は、はいっ!」
 新人に同情的な先輩の中で、構築の魔女は講習と同じ厳しい口調のまま。
『げほっ! ……貴方達は、無事? 状況は、撤退は、出来そうですか?』
「え……?」
 そうして撃ったコピー魔女の気遣わしげな言葉に、新人は大いに戸惑った。
『――失敗しちゃったわね。貴方達は逃げなさい?』
「でも、俺……」
『……最後まで、面倒、見れなくて、ごめんなさい、ね――』
「っ! 俺、やっぱりっ!」
 どうやら戦闘中に新人をかばって重傷を負ったシチュのコピー魔女に、新人は銃を下げかけた。
「出来ることとやるべきことは違います! しっかり頭と身体に叩き込みなさい!」
「は、はいっ!?」
 が、背後から飛んだマジモン魔女の叱咤で現実に戻り、新人は慌てて次の標的を狙う。
『将来の夢は、パティシエになって最高のプリンを作ることだったんだ……』
「なんですって!?」
『最後におなかいっぱいのオムライス、食べたかったな』
「気をつけろ! 和スイーツの内乱は終わったが、次は洋食を巻き込んだ世界大戦が始まるぞ!!」
 すると、今度はコピー百薬を倒した新人から別種の驚愕が上がった。どうやら事前講義の内容に引っ張られてるっぽい。超真剣なところが余計にコントだ。
「ちょっと。百薬のコピー、あざとくない?」
『ぜんぶこころのままのことばだよ』
 望月は他と毛色が違う言動に不満顔だが、百薬は天使っぽい言い回しで誤魔化した。
「はっ、はっ、はっ、はっ!」
 より災難なのは完全に腰が引けている利博だ。『死』という特大級のトラウマが悲鳴と絶叫で助長され、自然と呼吸が乱れる。
「っ!? あぁっ!!」
 それでも、向こうからやってくる敵(人形)には体が反応し、利博はまた人形を殴り倒す。
『人を殺す感覚……楽しかった? ねぇ?』
「な、っ!?」
 しかし、利博はすぐにそれを後悔する。
 折れた首と開いた瞳孔を見せつける人形は、奇しくも共鳴前の利博と容姿や背格好が似た伊邪那美だった。
『ボクらの姿、良く覚えておくと良いよ』
「や、やめろ……っ!」
『――キミらの未来の姿なんだから』
「やめてくれぇっ!!」
「伊邪那美……」
『ボクあんなこと言わないよ~!』
 文字通りド級の攻撃力で利博の地雷を踏み抜き精神をぶっ壊しにかかった分身に、恭也は額に手を当て伊邪那美はプリプリ抗議した。
 頑張れ利博! もう少しで半分終わるから!

●午後の休憩と成長
「だ、大丈夫っすか!?」
 昼休憩に入った瞬間、新人たちは精神的疲労でその場に崩れ落ちた。特にひどい者には信実がヒールアンプルを使用しなだめる。
「しかし、これは良くない気がするね。精神修養は悪即斬に慣れることじゃないよ」
「人の心をなくして戦ってもダメってことね」
 顔が真っ青な新人たちを介抱しながら、望月と百薬はこの訓練そのものの効果を疑問視し出す。
「……あ、いいこと思いついた!」
 すると、望月が頭に電球を光らせる勢いで何かを思い立ち、主任の方へ歩き出した。
「……開始前のお前の冗談が、早くも現実になったな」
「……どう見てもそれ以上に悪いんだけど?」
 存在しない頭痛から眉間をもみほぐす恭也は、うんざりした伊邪那美の声を聞く。
「虚ろな目で謝罪やお経を繰り返す子に、ボクらを見たとたん悲鳴を上げて卒倒したり、口を押さえて逃げちゃったりした子もいたよ」
 恭也の頭痛が増した。
「あんな物を開発して運用するんだ、アフターケアはしっかりとするはずだ」
 というかむしろしてくれ、と願いを込めて恭也は『特開部』を睨みつけた。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫ですか~?」
 さて、恭也たちを見て逃げた利博はトイレに駆け込んだ瞬間、共鳴を解除して盛大に吐いた。結衣の言葉にも返せず、すでに精神的には限界ギリギリである。
「一つ、アドバイスしてもいいですか~?」
「………?」
 声を出すのも億劫なのか、結衣は視線だけで応えた利博へ口を開いた。
「攻撃するとき、相手を『悪』だと思い込むといいですよ~。人形の呪詛なんて、実際の戦闘だと所詮は悪者の負け惜しみ、戯言です~。いちいち反応してあげるなんて、馬鹿らしいと思いませんか~?」
「だけど、どうしても頭に残って、過ぎるんだよ……相手の恨み言や、傷ついた表情が、何度も何度も……」
「そんな腑抜けたことを言ってると、いざという時に何も守れませんよ~?」
 かなり毒のある結衣のアドバイスに利博は弱々しく頭を横へ振るが、さらに被さる結衣の台詞で押し黙る。
「慣れるしかないんですよ、こういうのは~。大丈夫です、私もついてますから~」
「……分かった、頑張る」
 柔らかく笑う結衣の励ましに、利博はゆっくり顔を上げた。
 ここで終われば普通にいい話だが、コメディはひと味違う。
「――あっ! わ、悪い!」
 別の新人がトイレに現れ、利博たちに驚き逃げたのだ。
 ……男性が、『男子トイレ』から。
「――もう一つ、アドバイスです~」
 しばらく静寂が流れ、結衣から頭をなでられた利博は冷や汗ダラダラで無言。
「私たちって、女の子だったんですよ~?」
「……分かった、謝る」
 キリキリと頭に食い込む結衣の五指に本気を感じ取り、利博は誠心誠意謝った。

「あれは人形……悪者だ……」
「その調子ですよ~、どんどん行っちゃいましょう~」
 2種類の恐怖体験をやり過ごした利博は、自分に言い聞かせながら結衣の激励に頷き共鳴。
 午後の訓練へ身を投げた瞬間、早くも新人から悲鳴が上がった。
『誤射とはいい度胸ね――覚悟はできているのかしら?』
「すっ! すみません、教官っ!!」
『……謝罪はいらないわ。命を置いて行きなさい!』
「ぃ、いやだぁっ!!」
 ゆらり、と髪の毛で顔が隠れたコピー魔女の眼光に怯え、新人は向けられた指鉄砲から逃げ出そうとする。
「先ほど教えたばかりでしょう! 躊躇ったら護るべき人が危険にさらされると!」
「そんなぁ!」
 しかし、振り向いた先のマジモン魔女に恫喝され、新人は泣きながらコピー魔女を撃った。
『あぁ、懐かしい。探したんですよ――シウ』
「え?」
『――そんな顔、しないで、ください。きっと、来年は、会いに、行きます、から』
「きょうかんっ!?」
 虚空を眺めて走馬燈に話しかけているコピー魔女に、新人は罪悪感で叫んだ。
「そこっ! 姿勢がぶれていますっ! しっかり標的を見据えなさい!」
「きょーかぁーん!?!?」
 んで、ゴリゴリにリアルを直視するマジモン魔女に、新人は大混乱で叫んだ。
「高野さん、少しいいですか?」
「――レディのお願いは断れないね」
 まだ新人から躊躇が消えず、一考した構築の魔女はAGWの効果切れで身軽な信実に耳打ち。即座に頷きウインクした信実は共鳴を解除し、ロゼとともに訓練場内を移動する。
『コメディでもプレイングは具体的に書かないと――たまに大変なことになってるよ?』
「え?」
 道中、信実はコピーの台詞が一部バグってることに気づく。不審に思い主任へ伝えるも、結局一時的な誤作動と判断された。フシギダナー。
「呪詛もまやかしだ……耳を貸すな……」
 ずっと自己暗示をしながら戦う利博も、他の新人と同じく最後の踏ん切りがつかないでいた。
「――みんな、助けてっ!」
「タ、タスケテー」
 その時、複数の幻想体に囲まれた演技派なロゼと棒読みな信実の悲痛? な叫びが響く。要救助依頼のアドリブらしい。
「ロゼさんをお助けしろ!」
「――チッ」
 そして新人に巻き起こる、男性陣の怒号と女性陣の舌打ち。両極端な温度を背負ってロゼ(と信実)へ集まり、幻想体が次々と消える。
「っ! ロゼさんっ!」
「きゃっ!?」
 しかし、信実は新人の流れ弾に気づき、ロゼへ迫る前にかばって床へ倒れ込んだ。
「いたた……ロゼさん、大丈夫っすか?」
「アタシは平気よ。でも、信実クンは血が……」
「こんなの、唾をつければ治りますって」
 軽く負傷した信実だが、心配そうなロゼを安心させようと笑って見せる。
「……共鳴したら躱せたのに、バカね」
「ロ、ロゼさんっ!?」
 するとロゼは一筋の涙を流し、顔が真っ赤でも構わず信実をハグ。直後、新人の男連中が信実人形を、女性陣がロゼ人形を狙いだした。見事(?)に新人たちを焚きつけた信実だが、しばらくロゼの抱擁にあたふた。
 ……あ、ロゼさん、舌をぺろっと出してる。どこまでが演技だろうか?
「後ろかぁ!」
 ただ効果はあり、それ以降新人の動きが目に見えて向上。
 今も、人形の奇襲に気づいた利博が容赦なく裏拳を見舞う。
『なぜ……? 味方を攻撃する……そこまでして、人を殺したいのか?』
『しっかりして! この、裏切り者! 絶対に許さないから!』
 すると、まるで味方に攻撃されたような驚愕に染まった恭也の顔が利博に向いた。次いでコピー伊邪那美が横から現れ利博を罵倒し、コピー恭也をつれて逃げようと肩を貸す。
「誰が『裏切り者』だぁ!!」
 しかし、とうとう結衣のNGワードまで踏み抜かれ、共鳴で影響を受ける利博はブチギレて追撃した。
『逃げろ、伊邪那美……お前だけでも、生き延びてくれ……』
『恭也! ――人殺し、そんなに殺しを楽しみたいの!?』
「恨むなら鬼畜グラサンにしろ!!」
 先に消滅したコピー恭也を涙で看取り、憎悪の視線を向けたコピー伊邪那美だったが、すぐに利博に頭をぶん殴られて消える。
「……もはや新人達が悪役だぞ」
『顔も背丈もボクたちと一緒だから、あんまり見たくないね……』
 すさみきった利博たちのご乱心を見せられ、本物の恭也や伊邪那美は言葉にならない。
「おらぁ!」
『ロ――ロ』
「それっ!」
『……? ……ロ』
「やあっ!」
『…………ロ』
「――みんな! 辺是先輩は何言ってるかわかんないから『当たり』だぞ!」
『マジかっ!?』
 中にはコピー落児の台詞が伝わらないことを発見し、仲間へ知らせる成長を見せた新人もいる。
「――大人気ですね、落児?」
『ロロ……』
 始まった『落児狩り』に忍び笑いを漏らす構築の魔女へ、本人は複雑そうなため息をもらした。
「みんな、最後にもう1回だけがんばろう」
 そうして人形が全滅した後、笑顔の望月がAGWを起動すると、辟易とした新人の表情が一変する。人形が全て元凶(?)の主任だったからだ。
 実は昼休憩時、望月がAGWの調整ついでに幻想体の主任パターンを用意させていた。
 主任も了承済みで、遠慮はいらない。
「さあ、これがキミたちの真の敵だ! 思う存分やりたまえ!」
『おーっ!!』
 望月がゴーサインを出した瞬間、獰猛に笑う新人たちはコピー主任へ殺到した。
「新人にストレスをためさせたまま帰らせるのは良くないしね」
『決して自分たちが何度も倒されてる雰囲気がイヤだったんじゃないんだ。先輩でも新人でも、正義のエージェントには愛と癒しをふりまくよ』
 大量のグラサンにヒビが入る光景に、望月と百薬は心からあふれた爽快感からガッツポーズ。
 まあ、見る側もストレスたまるよね、うん……。

●上手に一皮、剥けました!
「うむ、今後の研究にも役立ついいデータが取れた!」
「結局、奴らは最後まで成り行き任せだったな」
 主任フルボッコでライヴスを急上昇させた新人たちに興奮気味な『特開部』へ、恭也は白い目を向ける。
「……あのはしゃぎ様を見ると、最初から何も考えて無かった気がするよ?」
「……いっぺん、絞めておくか?」
 そして、伊邪那美の指摘通り反省の色が一切ない姿に、恭也は静かに拳を握った。
「今度こそ本当にお疲れ様です。これは参加賞だそうです」
 終始鬼教官風だった構築の魔女はにこやかに新人たちへ声をかけ、ハッカ飴を配っていく。
「役者は喉を使うから嬉しいわ~」
 ロゼはハッカ飴を舌で転がしながら、新人たちへリボンでラッピングした袋を差し出した。
「遅くなっちゃったケド――ようこそ、H.O.P.E.へ♪」
 中身はロゼお手製のマカロン。男も女も後輩はみんな可愛い精神で、平等に歓迎の気持ちを示した。
「偽物とはいえ、俺たちの言葉で傷つけて申し訳ないっす!」
 すると、改めて信実が新人に平身低頭で謝り倒す。
「仕事は大変っすけど、仲間や民間の人からのちょっとした優しさに嬉しくなる時もあって……」
「台詞がおじさまみたいよ、信実クン?」
「と、とにかく! なりたい自分になれるように、お互い頑張りましょうね!」
 こっそりかつての自分と新人を重ね、後輩ができて言動から嬉しさがあふれる信実。時々ロゼに冷やかされつつ、自身の経験談や先輩からの言葉も交えて励ました。
「お世話になった主任をも慈悲なく倒す姿に、あたしは感動したね。みんなきっとこれからも大丈夫」
『はいっ!』
 最後に望月がすっきりした笑顔で締めて、陰湿な新人訓練は終了した。
「よく頑張りましたね~」
「……こんな訓練はもう二度と御免だ」
 共鳴を解除してからずっと、結衣と利博は飴を舐めてへたり込んだまま。精神疲労が相当たまったらしい。
 案の定、利博は訓練から数日ほど毎晩うなされることになる。
 強く生きてほしい。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
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