本部

潮干狩り決行〜猿蟹合戦〜

山上 三月

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/05/08 19:51

掲示板

オープニング

●春の海岸
 陽気は良く、晴れ渡った青空が海の境界線まで広がって溶け合っているようだ。
 エージェント達は潮干狩りスポットの警戒にあたるようにと周りの一般客に紛れて海に来ていた。何も、潮干狩りの警戒など、とは皆が思っているものの、この海岸沖では一度愚神の出現が確認されていたのだ。そのための警戒であった。
 しかし春うららかな日差しの下、少しの風と、海の香り、まったく愚神がでる気配など無いのである。
 海パン姿、水着姿にTシャツなどを着たエージェント達は海を遠目に、砂浜に座る者、潮干狩りに精を出す者、様々だ。
●巨大蟹出現
 潮干狩りが始まってから小一時間経った頃だ、沖合の海が山のように盛り上がる。
 地響きのような音をたてて、波の中から姿を現したのは大きな蟹であった。
 エージェント達は起こらなければよかった事態に内心頭を抱えつつ、潮干狩り客の避難を誘導する。蜘蛛の子を散らすように潮干狩り客達はパニックに陥っていた。何しろ巨大な蟹である。五メートル程はあるのではないだろうか。その大きな鋏は挟まれてしまえば一刀両断。痛いなんてものではすまない。
 加えて、砂浜のどこからかわらわらと出てきた子ガニ達は従魔に憑依されている。
 蟹は沖合から砂浜へ向けて歩み寄ってきており、このままでは被害が拡大するであろう。
 つまり、仕留めなければならない。
●駆り出されていた助っ人
 地元のバーで働いていた浜茂 遼(az0108)はH.O.P.E.からの要請で潮干狩りの警戒にあたっていた。全く面倒なことである。普段夜仕事の自分にはこの日差しはきつかった。
 暫くは平穏な時が続いていた。
 しかしそれが壊されたその時を浜茂はしっかりと確認すると共に行動に移る。
 逃げ惑う一般人を誘導しはじめた。

解説

●目的
愚神(巨大蟹)・ケントゥリオ級の討伐、人民の保護
従魔(子ガニ達)の討伐
●現場
北陸の沖合から砂場
●登場
愚神(巨大蟹)頭胸甲(甲羅)はかなり堅い。発達してしまった複眼により全方位を見渡す。
 鉗脚(はさみ)はかなり大きく振り回して攻撃を行う。鋏による潰し攻撃を行ってくる。
 足の一脚一脚は長細く、横歩きしかしない。
従魔(子ガニ達)足元を崩すように邪魔をしてきます。
NPC 浜茂遼
 基本的に彼は一般人の避難誘導を行います。
 話しかけによっては協力して戦闘を行います。

リプレイ

●潮干狩り日和
 絶好の潮干狩り日和の今日。数人のエージェント達は当たり障りのない格好をしつつ警備にあたっていた。
 愚神など現れる気配も無い、そんな日である。
 荒木 拓海(aa1049)とメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は海を見渡しながら言う。
「潮干狩りの後のバーベキューだな!」
 ご持参のクーラーボックスには氷や酒、食材が詰められていた。
『正確には潮干狩りの人が帰った後にバーベキューでしょ?』
 メリッサは笑みながら返す。
「仕事後の一杯は美味いんだぞ! 警備が終わったら皆で食べたいな」
 そう、無事に警備が終わればよいのだ。
 氷斬 雹(aa0842)は防波堤に座って釣り用具とクーラーボックスを横にのんびりと釣りをする人を装って警備をしている。警備とは名ばかりの釣りである。
「くっそヒマァ……」
 欠伸を噛み殺しつつ言う顔はまさに時間を潰しているという表情だ。
 この地元のバーで働いている浜茂 遼(az0108)も同じく暇という表情を全面に押し出しながら、海岸沿いにある階段に座って肘をつきため息をつく。
●塩瀬の混乱
 潮干狩り客も集まり、小一時間ほど経った頃だった。
 突然氷山が割れるような音と共に沖合の海が山のように盛り上がる。
 五メートルを超えるだろう大蟹が波間からせり上がるように出現した。それと共にかちかちと音を鳴らしながら子蟹の群れがざっと浅瀬に押し寄せてくる。その速度は早く、パニックを起こした潮干狩り客の行く先を留めるように動いていた。
 エスト レミプリク(aa5116)とシーエ テルミドール(aa5116hero001)その蟹の多さに若干といわずかなり引いた表情で沖合を見つめる。
「質も量もどっさりだ……」
『その分こっちも凄いわねぇ♪』
 シーエの視線の先では荒木とメリッサや弥刀 一二三(aa1048)とキリル ブラックモア(aa1048hero001)、九字原 昂(aa0919)とベルフ(aa0919hero001)、そして先程まで暇を体現していた氷斬達が一般市民の避難誘導をしはじめていた。対応はそれぞれといえど、愚神の力となるものはなるべく退けなければならない。愚神が強化してしまうのが一番困ることだからだ。
 皆エージェントであるからこそ、手練である。エストはそんな彼等を目に、口端をあげてシーエに答えた。
「僕以外はね……気持ちは負けずに行くよ!」
 エストがシーエと共鳴すると現れた姿は互いの体が入り混じったような歪な容姿だ。境界部分は揺らいでいてよく視えない。エストが片手を振り上げると数並ぶ刀剣が一斉に出現した。振り上げた片手をおろした瞬間、一般人の方へ向かっていた子蟹達に刃の嵐が降る。子蟹達は攻撃にたえられず動きをとめ、追ってやってくる子蟹達も行き場を失いそこにうず高く壁のようにたまっていった。
「敵はこちらで引きつけます、誘導を!」
『的が多すぎて狙う必要もないわねぇ♪』
 シーエの銃撃はあたりの蟹全てにヒットする。
 エストは剣を抜刀し、辺りの蟹を威嚇するように攻撃する。ライヴスが込められた刀身は陽光の下黒く光った。
「本格的な実戦投入はこれが初めてだけど…うん、頼りになるね」
『体への不可も結構あるから気をつけてねぇ?』
「わかってるよ、少しづつギアを上げていこう!」
 弥刀とキリルはさっそく戦いはじめるエストを見て首を掻く。
「……最近鈍っとるし、足手纏にならんようせんとどすな」
 キリルは訝しげな顔をした。
『……それに何故、私が付き合わねばならんのだ……?』
 一般人の避難を助けながら不機嫌そうなキリルに気づいた弥刀は言う。
「……そういや、キリルの好きな名パティシエはんが、今度限定でスイーツビュッフェやるとかの招待状貰うた気ぃが……?」
『?! よ、寄越せ! すぐ行く!』
「うちの昔馴染みはんがくれはったし、ないしまひょか〜? ……あ、四名行かれるて書いとったような?」
『!! では、リサ達も誘わねば!』
 さっきの不機嫌はどこへやら、やる気になったキリルと弥刀は共鳴する。長い赤髪に混じった銀髪が潮風に吹かれた。
 ザミェルザーチダガーを翳しおろして、浅瀬へ向かおうとする子蟹達を退ける。刃先に触れた蟹は串刺しにされてしまう。弥刀はそれを振って落とすと近くにいた姿に目を向ける。
 弥刀が子蟹達を退けている一番近くにいたのは、荒木とメリッサで、二人は子蟹達の近くにいた一般人の避難誘導を優先していた。
「大丈夫、落ち着いて退避して下さい」
 余裕のある口調に安心したのか、腰を抜かしていた女性が伸ばされた手を掴み起き上がると頷いて海から離れるように走っていく。さらに一般人を助けに誘導に行こうとした荒木に弥刀は声を張り上げた。
「早うこっち来て、オレ庇えや! オレが死んでまう!」
 その顔は全く冗談という風ではなく真剣である。その顔に荒木は思わず間の抜けた顔をする、がすぐににやりと笑った。
「ヒフミ、今助けるよ」
 瞬間メリッサと共鳴した荒木はイグニスによる無慈悲な火炎発射を子蟹に向ける。子蟹達はあっという間に炎に焼かれ、動きを止めた。
 浜茂もこちらの従魔や愚神に一番近い一般人を避難させるために来ている。
「遼さん後を頼みます。もし、子蟹が増えたら戻るので連絡を」
「あぁ、まかせてくれ。従魔と愚神から遠ざけるのは引き受ける」
 浜茂は少し離れた場所で誘導を行っている片割れの姿を示してうなずいた。
 一方、もう少し先で避難民を誘導し終えた九字原とベルフは一息というように遠瀬からこちらに向かってくる子蟹を見て眉を寄せる。
「個々ならともかく、これだけ蟹が群がっていると気色悪さがあるよね……」
 九字原の方は本当に嫌そうな顔をしていた。対するベルフはどんと構えた様子で答える。
『今までいろんな奴らを相手にしてきたんだ。これくらい良くあることだろう』
「まぁ、そうなんだけど……対処できる事と気持ち悪さを感じるかどうかは別かな?」
 その言葉と共に九字原は共鳴をはじめる。柔和な笑みがすっと消え、真剣な表情が現れた。
 蜘蛛の巣のようなライヴスのネットを子蟹達へ投擲する。子蟹達はそのネットに絡め取られ、泡を吹きだした。多くの子蟹は場所から動けずにいる。
 エストがさらに猛攻した。
「まったく! これだけ数がいるという、のはっ邪魔ですね!」
 エストの頭上に多数の武装が召喚され、周囲一体に雨のように降る。子蟹達は砂浜に串刺しになっていく。
 防波堤の上から飛び降り一般人を誘導しつつ氷斬は試しにと撃ったフリーガーファウストの一発目は避難民のせいで照準が定まらず、外れる。
「チッ……邪魔ダナー。はやく行けヨ」
 一般人はひとところに固まるように誘導しており、その多くは浜茂が引き受けていた。
 浜茂以外のエージェント達はだんだんと一所に蟹を誘導するように攻撃を仕掛けていく。荒木が発砲するが、運悪く発砲の風圧にとばされてきた蟹の鋏があたり、太ももがえぐられる。
 近くにいた弥刀がそれを見て、ライヴスを活性化させ、周囲に発散させて敵の意識を引いた。蟹達の攻撃対象は一斉に弥刀に向く。
 一斉に集まりはじめた子蟹に九字原は再びライヴスの網を放つ、が子蟹に達は一方に集まるために超速で動いており、網は外れてしまう。
「こっちだ!」
 外れていった蟹にエストが剣をふるい、幾匹かを止めた。残りの子蟹を氷斬が撃ち落とす。
「逃がさねーヨ」
 先程荒木が焼き払った蟹の匂いが漂ってきて、食欲が刺激された氷斬はにっと笑う。
「よーォ! 捗るじャん?」
 そう他のエージェントに声をかけつつ足元に纏わりつく子蟹を吹き飛ばしていった。
 だんだんと子蟹達の輪を縮めていた荒木と弥刀はそれでもまだまだわいてでてくる蟹の居所に攻撃を放つ。
 荒木は範囲が広すぎる子蟹達の様子を見て、アサルトユニット「ゲシュペンスト」によって足元にライヴスの力場を形成させ体を浮かせる。加えて移動速度を利用し、蟹達を海と陸に両断するような形で走破する。何十匹もの子蟹が海へと巻き返されて行った。
「うまいことやりますなぁ……」
 感心した様子で言いつつもAK−13を周囲に発砲して、蟹達の進行を退ける。
 九字原も負けじと攻撃を行う。蟹達の数は目に見えて減っていた。
「少しはへったかな」
「だいぶ。九字原さんも衰えてないな」
「まぁ、ね」
 荒木の言葉に九字原は含み笑いで答えた。
「そろそろアッチ、倒そうゼ」
 氷斬が指差す方向には巨体の蟹と戦う三人の姿である。
「そうですね、急ぎましょう」
 エストが頷いた。
「子蟹もずいぶん叩きおえましたしなぁ、いきまひょか」
「一般人の誘導がスムーズにいったおかげだね」
 九字原の言葉に荒木が答える。
「後は遼さんがなんとかしてくれるだろう」
 荒木はモスケールを起動しつつ、敵の確認を行う。
 茶髪の男と赤髪の英雄が一般人をどんどんと浜辺から遠ざけていく。浜茂は自分を見ていた五人に気づいたのかサムズアップを送ってくる。”大丈夫だ、こっちは問題ない”との言葉に四人は安心して愚神の元へ向かっていった。
●巨大蟹! 討伐!
 赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は浜の端に居り、蟹が出現したその時をばっちりと見ていた。
「蟹だな」
『蟹ですわね』
 蟹としかいいようがない。ただの蟹をばかみたいにデカくするとああなるだろう姿が海の向こうにしゃきんと鋏をたてている。
「海産物シリーズもそろそろ定番になってきた気がするぜ」
 赤城の言葉は心とは裏腹に、心中ではあの蟹をどう処理してやるか考えると同時にヴァルトラウテと共に蟹の方へ走り出していた。避難中の人々の間で暴れられたら厄介この上ない。さっさとケリをつけるべきだろう。
 海岸線沿いを二人歩いていた麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)はここぞと出てきた蟹にひとつ頷く。
「……なるほど、食材の方から来てくれた訳だ」
 にやりと笑う麻生の横でユフォアリーヤは尻尾をふりふりと揺らしながらこくり。
『……ん、そう思えばやる気でる……貝と蟹、食べ放題』
 既に頭の中は食べることでいっぱいな二人だ。潮干狩り客からすれば災難といえど、自分たちからは被害なく勝てれば家族団欒の礎となる。
「従魔ハンターたる俺達の前に出てきたのが運の尽きだ」
『……ん、従魔食の先駆者……ボク達の、新たな一頁に……なるの』
 沖合に近い位置に居た辺是 落児(aa0281)と構築の魔女(aa0281hero001)は愚神が出現したと同時にその巨体へと向かっていた。
「□……□□――」
『(近頃、海の案件が多い気がするのですが何かの予兆でしょうか?)』
 構築の魔女は考えつつも辺是の意思によりリンクする。
 波のような人の群れに逆らって蟹の方向へ行く。
「Hopeです! 愚神は我々で対処いたします。落ち着いて避難を!」
 アサルトユニットを使用し、海上に乗り込むとメルカバを蟹へ撃ち込む。巨体は素早い動きに回避が遅れ、命中した。
 そこへ到着していた麻生の方へ蟹は鋏を振りおろす。しかし麻生はジャングルランナーによって作ったマーカー先に移動して攻撃を逃れた。
 赤城がウレタン噴射機を使用するが、蟹は陸上の歩きに慣れたのかすっと移動して回避されてしまう。
 今度は麻生がヘパイストスによって子蟹を退けるように弾をばらまく。ジャングルランナーを同時に使用しつつ着実に愚神へと距離を縮めていった。
 辺是のメルカバが再び射出されたが、これも回避される。その辺是を目障りだとでも言うように細い脚で突き刺すように攻撃してくる。
「乱暴ですね……」
 辺是が回避しつつ蟹の気を引く。赤城がアックスチャージャーにライヴスを蓄えさせていたのを見たからである。
 麻生は愚神自体にジャングルランナーの移動のためのマーカーを撃ち込み、背中に移動すると攻撃のちょうど届かない位置に自身を固定した。アンカー砲に取り替え、有線式のそれを蟹の足を縛り上げる予定だ。
「外骨格は特に可動域が狭い。鋏が届かない位置で関節キメりゃ、なんとかなるだろ」
 辺是は続いて麻生のいない位置に攻撃を行う。蟹は回避に失敗する、がいまだ体力はありあまっているようだ。
 再び辺是に振り下ろされた鋏は辺是の肩に鋭い怪我を負わせた。
 赤城は蓄えさせていたライヴスを一気呵成とラッシュを与える。その斧はバキンという音と共に蟹の甲羅に大きな罅をいれた。
「どんなに堅かろうと赤城波濤流の名に懸けて打ち破ってみせよう、ってなもんさ」
 あまりの衝撃に蟹は腹を下に倒れ、体勢を立て直せずにいた。それをよしと、麻生は愚神の足先を縛りあげ固定する。片側を終えた所で、荒木達五人が従魔退治から到着し荒木はすかさずアンカー砲による愚神の縛りあげに協力する。
「なるほど。これなら、もう動けないね」
『……カニさんは、縛って出荷よー』
 クスクスと笑いならがユフォアリーヤが言う。
 弥刀は容赦なく動けなくなった蟹の脚の関節を狙った。
「かったい蟹も、食えるんやったらやる気百倍になるし! あっ食えるか今言うたらアカン! やる気に関わんのや」
 キリルのやる気を気にして急ぎ、関節に攻撃をあてる。蟹は回避することはもはやできない状態であった。
 辺是の弾も避けられることなく蟹にぶち当たる。九字原もその隙をまざまざ見逃すことはなく、脚を切り離すように刀を振り下ろした。
 ちょうど九字原が刀を振り下ろした後のことだ、蟹が突如その大きな口から大泡を吹き出しはじめた。泡は空を舞って、周りに降り積もってゆく。皆が一斉に退避する。
「警戒していても今を仕留めなきゃ仕方ないか、いくぞ!」
 赤城は斧をモチーフとしている武器、ファルシャをかかげ、なるべく泡に触れぬよう攻撃をしかけたが、既に視界は泡で一杯であり、攻撃は外れてしまう。
 エストも同じく攻撃を仕掛けるが、これも蟹にはあたらなかった。
 氷斬は敵味方の位置を即座に把握するシャープポジショニングを行い、ロケット砲を放った。手応えはあった。麻生はそれを感じ取り、ウレタン噴射をする。まだ複眼が働いているなら人のいる方向に泡を吐いて視界を悪くさせ現状を打破する可能性があるからだ。ウレタン噴射が上手くいったのか、泡の勢いがとまった。
 回避不能な蟹に向けて荒木はイグニスによって攻撃を繰り出す。火炎により泡が相殺して視界が晴れる。
 弥刀も甲羅を狙い剣を振りおろし、辺是がこれに続いて甲羅の罅に弾丸を放ち、九字原は眼球を潰しにかかった。
 大事な複眼も潰され、甲羅は真っ二つに割られ、中身が見えかかっている蟹は既に屍体と化している。続々と海から未だわき続けようとしていた子蟹達の動きが変わったのもその瞬間であった。
 小さいながらも勇ましく浜辺に向かっていた動きが突如ただの生き物らしく、人に怯えるような態度をとったのである。そして、あっという間に海の方へと逃げていくのだ。
 数十匹、近くの子蟹は戦闘意欲はあったらしく簡単に討ち取られたが、他の倒されていない大多数は海へと帰っていった。
●海岸バーベキュー
「この従魔は、普通の蟹に憑りついてた訳か」
『消滅しない所を見るとそのようですわね』
「……細かい事は後にするか」
 赤城はヴァルトラウテと共に一般人に怪我人が出ていないかを粗方確認してから、残された蟹を回収しはじめる。
「(生物は放置するとすぐ傷んで異臭を放つようになるからな)」
 辺是と構築の魔女もリンクを解き、一般人に怪我人がいないか確認をしていく。
「制圧はしたが、しかし巨大蟹の方は食えないか……」
 麻生が残念そうに言うと、ユフォアリーヤも頷く。
『……どんな味か、期待してたのに』
 鋏がデカく脚が細い、タカアシガニの亜種のようなものだと思い、珍従魔ハンター、パイオニアとして一番期待していたそれが、愚神だったというショックはあった。しかし、それよりだ。
『……ん、でも他は獲り放題……いっぱい、集めよう?』
 やわかそうな耳をぴこぴこさせながらいうユフォアリーヤに麻生は気を取り直してクーラーボックスを抱えた。
「うむ、毛ガニにズワイ、タラバにワタリガニ……選り取り見取りってのはこのことだな」
 取りこぼさぬように次々とボックスに回収をはじめる。
「(待ってろガキ共! 今日は蟹尽くしだぞ!)」
 心の声が漏れそうな程、麻生は意欲旺盛であった。
 そんな麻生の横で高級蟹を回収した氷斬はよっしとばかりに声をあげる。
「お。当たりィ♪」
「それは今俺が獲ろうとしていた……蟹……」
「早いもん勝ちだゼ」
 麻生はがっくしと肩を落とすがユフォアリーヤが蟹の山から同じ高級蟹をとって差し出したものを素直に受け取った。
「そうだな、これだけあれば早いもの勝ちも無理ないか」
 視線の先にはちゃっかり蟹を集めつつモスケールで周囲や海中を確認している荒木とメリッサ、さらにその近くで蟹を集めているのは弥刀とキリルであった。弥刀も同じくモスケールを使用し怪しい物がないかチェックしていた。蟹は食べれそうなので勿論幻想蝶にいれていく。
「あ、コールドボックスあるん? 拓海、おおきにー!」
 ドロップゾーンが無いか、愚神の発生理由を調べつつ大まかな地点をまとめて本部にサンプルが必要か確認を取り終えた荒木に弥刀は言う。
 その理由は肩からかけたクーラーボックスであった。
『こんな事件が続いたら海洋生物が死滅してしまうわ……』
 メリッサは真剣に心配しているようだった。
「一応サンプルは送ってくれとのことだけど、食べられる蟹だから感謝して頂いた方がいいだろうね」
「最初っからほのつもりやったんやろ?」
 弥刀は蟹好きな荒木をからかった。
「や、そういうわけじゃないって」
 といいつつも手は幻想蝶に蟹を入れようとしている。
『蟹と同居はイヤ♪』
 メリッサに切り捨てられ、悲しそうにクーラーボックスに収まりきらない蟹を近寄ってきた一般人に差し出す。
「憑依が外れればただの蟹ですから。余らせても勿体無いですし、よかったらお持ち帰り下さい」
 その手にあるのは高級蟹である。
「は、はい……、あの、お仕事お疲れ様です!」
 一般人は頬を染めつつ蟹を手に戻っていった。それを見た他の一般人も蟹を拾いはじめる。しかし余るだろうそれを見越して、予めここの海岸の漁協に協力を頼み、蟹の処理を助けてもらうことにしていたので余る心配も無いだろう。後は積みやすくなるべく集めておくだけだ。
 九字原とベルフにエストとシーエはついていって近くのホームセンターに調理器具を買いに走っており、同じく浜茂もバーから調味料や紙皿をとりに行っている。誰が言わずとも皆そこの連携は良いのだった。
 間もなく帰ってきた九字原達とエスト達も合流して比較的原型を留めている蟹を集めはじめる。
『で、倒したは良いが、後片付けが面倒だな』
 ベルフの気怠げな声に九字原は答える。
「まぁ、食べられる蟹みたいだし、食費が浮くと思えば良いんじゃないかな」
 さっき購入してきた調理器具も役目を果たすわけだ。
 浜茂と共に九字原は蟹の調理をはじめ、他のエージェント達もやってくる。
 茹で上がった蟹達は真っ赤になり、それをエージェント達や近くにいる一般人に配った。脚の関節を折る音が砂浜にこだまする。ぴっと引き抜いた身は表面が赤く身が白色で、思わずよだれが垂れそうな香りが漂う。
 甘みのある味は流石高級蟹といった所だろうか。茹でた蟹をスープにしたり、そのまま食べたりと残った蟹をおいしく頂く。
「おいひい……」
 もぐもぐと蟹を頬張るエストにシーエは笑いながら言う。
『あらあら、いっぱい食べるのねえ♪』
「う、うるさいな! いっぱい動いてお腹減ってたの!」
「沢山動いた後だから、いっぱい食べるのはいいことだよ」
 荒木ももぐもぐと蟹を頬張りながら言う。
「せやかて、自分もほんま食っとるもんなぁ」
 弥刀は冷やかすように笑った。
「美味ィー! これで酒の一本でもあれば最高だロ」
 後で料亭に持っていく分の蟹は確保済みな氷斬はそれでも細い体でぺろりと食べてしまう。
「未成年は飲酒禁止だからな、ソフトドリンクだ」
 赤城がソーダを渡すと氷斬はははっと笑いながら受け取り、ごくごくと飲み干した。
「酒が飲めるやつは飲んでいってくれ」
 浜茂が生ビールをカップに注ぎながら言った。
「じゃ、俺は頂くかな麻生さんたちと辺是に築も、ミトも荒木さんもいけるだろ?」
「そうね、いただこうかしら」
「□□――、□」
 荒木がカップを持ち上げてにこりと笑った。
「よし、じゃぁ、乾杯だね。巨大蟹討伐成功に乾杯!」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452

  • 九字原 昂aa0919
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 冷血なる破綻者
    氷斬 雹aa0842
    機械|19才|男性|命中




  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 決意を胸に
    エスト レミプリクaa5116
    人間|14才|男性|回避
  • 『星』を追う者
    シーエ テルミドールaa5116hero001
    英雄|15才|女性|カオ
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