本部

ハロウィンは終わらない

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/31 17:59

掲示板

オープニング

●ハロウィンイベント開催
 ハロウィンは元々日本のお盆のような行事だったのだが、いろいろあって現在では秋のイベントの一つとなっている。子供達がお化けの仮装をして家々を周りお菓子をもらうという行事だったはずが、大人も参加するコスプレパーティーのようだ。
 まあそれでも、オレンジ色や紫色、黒が楽しげに氾濫する街や店のディスプレイは心躍るし、ハロウィンの夜を友人や家族、恋人達と過ごすことで楽しめるのなら別にいいのかもしれない。
 地域振興や親睦のイベントとしても、もちろん最適だ。
「というわけで、この支部でもハロウィンのイベントをやる事になりました」
 今年初めてのハロウィンイベントの実行委員を務めるというその女性は、きらきらと張り切った表情をしていた。
「地元との親睦と、信頼関係を培うことは大切ですからね。特に参加費などは取りませんが、模擬店やゲームなどのイベントを有志で行います。まあでも初めてのことですから、ちゃんと進行していくかどうかが不明なので、協力してほしいんですよ」
 イベント告知や当日の運営は、実行委員で行う。彼らに手伝ってほしいと女性がいうのは、別な部分での補佐だった。
「例えば模擬店で買った食べ物を、『これなまらうめー!』とか言いながら食べたり、ゲームに率先して参加して、他のお客さんがその気になるようにしたりしてほしいんですよ。そうは言ってもそんなに難しく考えず、楽しんでもらうことが一番なんですけどね」
 つまり、平たく言えばさくらである。だが確かに、こういう催し物では誰かが楽しんでいると釣られて楽しくなったり、ノリがよくなったりするものだ。それでみんなが楽しいと感じればいいことではないか。
「あと、できればハロウィンの格好もして来てもらえるとありがたいですね。そんなに凝った仮装じゃなくて、顔にペイントしたりとか頭にカボチャ被ったりとかで十分です。些少ですがお礼もしますし、いかがでしょう?」

解説

目的:HOPEの支部主催のハロウィンイベントを盛り上げる手伝いをします。
●模擬店の食べ物などを食べてお客さんにおいしそうな印象を抱かせたり、ゲームなどの企画に参加し、一般参加の地元の人なども抵抗なく楽しめるようにさりげなくイベント補助をします。当日はじゃんけん大会とカラオケ大会があります。
●できればハロウィンの仮装をしていきましょう。ものすごく凝る必要はなく、顔のペイント、それらしい衣装、小道具などでも大丈夫です。
●心から楽しいと感じていることが、何より周りの人も楽しませます。みんなで満喫しましょう。

リプレイ

●出陣
 オレンジ、黒、紫。
 テントやディスプレイは、すべてハロウィンカラーにまとめられている。それがまた、楽しげな雰囲気をいっそう盛り上げていた。
 今日はHOPE主催のハロウィンイベント。開始間もない時間帯ともあって、会場である広場を歩く人影はまばらだ。
 支部の門に設置したプロジェクターから、そんな会場の様子がスクリーンに映し出されている。中の楽しそうな様子を放映することで、イベントに足を向けてもらおうという作戦なのだが……。
「まだ、効果が薄そうですね」
 リーフ・モールド(aa0054hero001)が、スクリーンを見ながら小声で言った。普段使いの森ガール系ワンピースを花飾りで飾り、そこに花冠、花や果実の杖を加えたという豊穣の女神の仮装で、清楚な容姿とよく似合っている。
 会場内上映発案者の真壁 久朗(aa0032)は、無言で身じろぎした。頭にぽんと三角帽子が乗り綿の詰まったかぼちゃの頭が三つ連なる着ぐるみを着ていて表情は見えないが、白手袋のついた手で顔を覆ったので、がっかりしているのかもしれない。その久朗を、セラフィナ(aa0032hero001)が懸命にフォローしている。ぐてっとした先端にニヤリと笑ったかぼちゃがついた大きな三角帽子が、彼が動く度にぴこぴこ揺れてかぼちゃが光る。
「大丈夫ですよ。そのために、私達がいるんですから」
 青いパフスリーブのワンピースにエプロンという、不思議の国のアリス風の仮装をした清原凪子(aa0088)が、励ますように言う。その横で、十六夜(aa0088hero001)もうんうんと頷いている。凪子の英雄である彼の装いは、チェックのジャケットにうさみみと懐中時計で、アリスの白ウサギ風だ。
 ここに集まった彼らの役目は、イベントを盛り上げ、一般の人にも参加しやすくなる雰囲気を作ること。平たく言えばさくらである。各々仮装してきたのもその一環で、念のため可能な限りコンセプトや衣装が被らないように配慮している。
 もちろん、あえて統一している者もいる。水澤 渚(aa0288)と多々良 灯(aa0054)は幼馴染みの上犬好きというのもあってか、飼い犬のマルチーズに似たもふもふの着ぐるみと帽子をそれぞれ装着していたりする。さらに愛犬まで同伴。凪子も彼らの友人だが、やはりマルチーズとシーズーのミックスの愛犬の頭に冠を付け、お姫様に仮装させている。
「では、そろそろ今回の『依頼』を始めましょうか?」
 背中の妖精の羽根を出すために大きく背中が露出したシスター服を纏ったセレシア(aa0151hero001)が、穏やかに言った。微かに会場の方から、いい匂いもしてくる。食べ物を出す模擬店の準備もいいようだ。
「……おいしそう」
 シグルド・リーヴァ(aa0151)が、じっと模擬店の並ぶ辺りを見つめている。その青い瞳がぎらぎらしているように見えるのは、髪と同じ紫の毛並みのワーウルフの仮装のためだけではなさそうだ。狼耳のカチューシャ、チューブトップともふもふとした尻尾がついたホットパンツ、そして義肢を肉球と狼のような毛皮に覆われたタイプに付け替えているという徹底っぷりだ。
「はろうぃん……お話には聞いてましたけれど参加するのは初めてなので、どんなお祭りなのかドキドキ……とても楽しみにしてました」
 フリルやレースがたくさん着いた黒いドレスに、悪魔風の角と尻尾、翼を付けた瑚々路 鈴音(aa0161)は、シグルドとは違う好奇心の光で黒い目を輝かせている。愛らしいその様子に、彼女の英雄にして忠実なるメイドEster=Ahlstrom(aa0161hero001)は、余人には見せない柔らかな表情で受け答えしていた。普段着のメイド服なのだが、鈴音と合わせた悪魔の角と尻尾に翼を足しているので、十分ハロウィン衣装として見劣りしない。既製品を使って改造するに留めた衣装はエステルにとっては不本意だったが、鈴音はとても喜んでいる。
「よっし、模擬店の周り順と、ゲームのタイムテーブルは把握したぜ!」
 渚が、持参のマーカーでメモ帳に書き写したイベントタイムテーブルを高々とかざす。模擬店の食べ物はもちろんのこと、イベントでも全力を尽くす所存である。そんな彼の横で、やや不服そうにしているのはティア(aa0288hero001)。白い花のついた黒い魔女の帽子とドレスで、やや豊満な胸の辺りがきつそうではあるが、とても似合っている。不満なのは、渚がちっとも見てくれないことだ。
「ねー渚、見てくれ似合うだろう?」
 着ぐるみの袖を引っ張っても、渚は灯と模擬店やゲーム大会のことで盛り上がっていて返事も適当だ。「じゃんけん大会はグーに賭ける!」「俺はちょきに賭ける。勝利のピースサインなるか!」と、賑やかである。
「今日も誓約ご馳走さまね……」
 そんな少年二人を眺め、リーフがぼそりと呟いていた。
「仕方無い……リーフと一緒にお菓子でも配り歩くか」
 溜息をついて、ティアは腕に下げた籠の中のお菓子に視線を向ける。今日はハロウィンイベントということで、会場内ではお菓子のサプライズプレゼントも認められている。お菓子作りが趣味の者なら、腕の見せ所だ。
 ちなみにこのお菓子は、渚の手作り。こういうところはとても器用なのに、女心にはそれが発揮されないようだ。
「こうなったらヤケだ!」
 イベント中、リーフと一緒に渚を監視しまくる決意を決めたティアであった。
「さあ、皆! 食べたいものは決まったか!」
 灯が、拳を握る。いつものクールさは微塵も見当たらない。むしろ、両眼の奥に炎が見える。
「目指すはイベント全制覇だ! 燃えてきたぜ!」

●かぼちゃの誘惑
 ハロウィンは、秋の行事である。よくたとえられるのが「日本のお盆のような感じ」という説明だが、豊穣を祝う祭りでもあった。久朗はセラフィナに手を引かれて、ゆっくりと模擬店の並ぶ辺りを歩いていた。
「クロさん、足下気をつけてくださいね」
 着ぐるみで足下と視界が悪い自分を気遣ってくれている、英雄の少年の気持ちがありがたい。
「あっ」
 セラフィナが声を上げて立ち止まった。着ぐるみからの視界でも、辛うじて自分達の前にあるのがお菓子の模擬店ということがわかる。シフォンケーキとクッキーが、ハロウィン仕様にラッピングされて並べられていた。
「おいしそうですね」
「……買うか?」
「えっ! いいんですか!」
 頷くと、セラフィナは銀色の三つ編みを跳ねさせて喜んだ。シフォンケーキとクッキーとカップケーキを二人分ずつ購入する。
「うちに帰ってから、ゆっくり食べましょうね」
 お菓子の入った袋を大事そうに下げて、セラフィナは微笑んだ。天の川を流し込んだような美しい緑眼が、真っ直ぐに久朗を見つめている。
「そろそろお昼だし、ご飯になりそうなもの探しましょうね」
 セラフィナは久朗の手を引いて再び歩き出す。目立つ着ぐるみ姿は特に子供達に人気で、進む間にも気づけば周りに小柄な人だかりができていたりするが、それもセラフィナは上手に捌いていった。
 久朗は、決して子供嫌いではないのだが、左目と左腕が機械のため昔泣かれたことがあり、以来その部分を人前で隠すようになっていた。全身着ぐるみは、まさにセラフィナの心配りなのだとしみじみ思った。
 こんな風に、ごく自然に人に囲まれるようなことは、ずっとなかった。夢のようだ。
「あ、久朗さんとセラフィナさん」
 淡い栗色の長い髪を揺らして、凪子が久朗達に手を振っていた。
「わ、いい匂い。お菓子いっぱい買ったんですね」
「はい。お土産と……あとで渚ちゃんと灯ちゃん達にもあげようと思って」
 ね、と、凪子はオリーブグリーンの眼差しを傍らの十六夜に向けた。
「それはいいけど、食べきれるのか?」
「う、うん。たぶん……」
 凪子は、微かに頬を染めた。すでにかなりの衝動買いもしてしまっていた。なるべく日持ちしそうなものを選んではいるが。
「あれもおいしそうですね」
 何となく並んで進むうち、セラフィナが一軒の店を指さした。
 クレープ屋さんだ。「期間限定! ハロウィン特別フレーバー・パンプキンクリームチーズ」という看板が、大きなジャック・オー・ランタンと一緒にでんと立っている。
「わっ、おいしそう!」
 凪子は目を輝かせたが、店に向かいかけた足をはたと止めた。
 十六夜とは仲良しだが、この少年は時々無邪気に凪子の地雷を踏む。すなわち、乙女にとって最大の禁句「最近太っただろー」をさらりと言ってくるのだ。思い出すだけでむかっと来る。
 しかし、すでに林檎飴と綿飴とミニモンブランパフェを食べてしまったのは事実なのだ。
 どうする。
 パンプキンクリームチーズクレープ。字面だけですでにおいしそうだ。だがここでその誘惑に甘んじてしまってもいいのか。体重的な意味で。
「凪子、くれーぷってなんだ?」
 葛藤するアリスの袖を、白ウサギがつんつんと引いた。
「初めて見る……」
 十六夜の大きな金の目が、好奇心でくりくりと動いていた。
「えっと……薄い生地に、生クリームとかアイスとかチョコとか、フルーツをくるんで食べるの。おいしいよ」
「そうなんだ」
 説明はしたものの、十六夜は首をかしげている。イメージできないようで、太い眉が忙しく上下に動いていた。
 少し考え、凪子は躊躇いがちにクレープ屋さんを示す。
「食べてみる?」
「う、うん!」
 大きく頷いて、十六夜はぱっと表情を輝かせた。
「一口もらってもいい? 大丈夫、太ったとか言わないから!」
「あ、当たり前でしょ!」
 少年の問いと余計な一言に対し同時に答えながら、凪子は十六夜の手を引いてクレープ屋さんに向かう。もちろん目当ては、パンプキンクリームチーズクレープだ。楽しげに走る二人を、凪子の愛犬ユキちゃんがもふもふと追いかけた。

●踊る大イベント会場
 イベント開始から二時間あまり。
 お昼近くなってきたせいもあってか、行き交う人の数が多くなってきた。ハロウィンの仮装をしている人もいるし、普段着のままの人もいる。模擬店を覗いたり、広場に設営されたステージ前の、イベントのタイムテーブルをチェックしたりと、様々に楽しんでいるようだ。
 小悪魔幼女姿の鈴音は、物珍しげに辺りをきょろきょろ見回しながら歩いている。小柄な彼女が人波に揉まれたりしないよう、さりげなさを装いつつエステルは全力で彼女を護衛していた。
 鈴音にとって初めてのハロウィンである。この日のために、エステルは模擬店の出店状況、その配置や内容のリサーチから導かれるから予想客数、待ち時間や売り切れ時間、混雑予測を避けるための移動経路の算出、さらに完全に把握している鈴音の好みまでを考慮して完璧なる案内を実現させ、十全に楽しんでもらうべく能う限りの下準備をしてきたのだ。しかしさりげなく鈴音に周囲の店の売り物などを説明する姿からは、そんな努力をまったく感じさせない。
 その甲斐もあって、鈴音は始終無邪気な笑みを絶やさずはしゃいでいた。
「エステル、あそこのお店かわいいの」
「まあ、本当。覗いてみましょうか?」
「うんっ!」
 他人には見せない柔らかな表情と口調で鈴音と話すエステルは、至福の絶頂にいた。
「これ、おいしそう」
 一生懸命背伸びをして、鈴音が模擬店のカウンターを覗いている。パンプキンパイとアップルパイが、綺麗に焼き上がっておしゃれにラッピングされて並んでいた。
「お召し上がりになりますか?」
「う、うん。食べてみたい! かぼちゃの……」
「かしこまりました」
 蕩けそうに微笑んで頷いたあと、エステルは白銀の髪を揺らしきりっと模擬店の店員に向き直る。青い双眸の印象的な面差しは、すでにいつものクールな表情に戻っている。
「恐れ入ります、こちらのパンプキンパイを一つ所望いたします」
「はい。ありがとうございます」
「エステル、エステル」
 財布を出そうとした時、鈴音がエステルのスカートを躊躇いがちに引いた。
「あのね、林檎のも買ってほしいの……」
「かしこまりました」
 断る選択肢などなかった。
 鈴音がほしいと言ったら、それがすべてである。
「ありがとうございました」
 店員に見送られ、パイの入った包みを持って二人はステージ前広場に移動する。椅子とテーブルが並んでいて、ちょっとした食事には十分だ。
 除菌シートで手を拭いてから、エステルは包みを開いた。
「鈴音様、どちらからお召し上がりになりますか?」
「エステルはどっちが食べたいの?」
「え?」
 思いも寄らなかった問いに、エステルは一瞬手を止めた。
「エステルも初めてなはずなのに、何でも知ってていろいろ教えてくれて、とってもすごいの。わたし何の欲しいものやしたい事、まるで全部知ってるみたい」
 いや、実際知っている。むしろ知らないことなどないと自負している。日々の観察の賜物だ。
 まあそれはさておき。
 純真無垢な令嬢は、包みに賭けたままだったエステルの手に、小さな指先でちょんと触れた。
「エステルはわたしが楽しんでくれるのが一番って言いますけど、エステルももっと楽しんで欲しいの」
 ふっくらと幼さを残した頬、あどけなく透き通った黒い瞳。やや舌足らずに、優しい言葉を紡ぐ小さな唇。
「二人で別々の味のを買って、食べさせあいっことか……いろんな味が楽しめてお得だと思ったの。だから……二人で一緒に食べよう?」
「鈴音様……!」
 エステルの白銀の髪は、いつも通り一筋の乱れもない。しかし今彼女の青い瞳は感動と興奮とでビームを出せそうな勢いで輝き、真っ白な肌も朱色に染まっていた。仮装の悪魔の羽根と尻尾がもし彼女の意思通りに動かせたとしたら、ばっさばっさのもにょんもにょんと蠢いて人々を混乱に陥れていたかもしれない。
 おかげでせっかくのパイの味は、ほとんどエステルにはわからなかった。
 ただ、目の前で鈴音が嬉しそうにパイを食べている。それだけでいいのだ。
「あっ、シグルドさんとセレシアさん」
 鈴音が、パイを食べる手を休めて模擬店のほうに目をやった。エステルも一瞬だけ同じ方向を確認したが、すぐに視線を鈴音に戻す。愛らしくも上品にパイを食べる鈴音の姿を、網膜と記憶に焼き付けたかったからだ。
「シグルドさん、いっぱい食べ物持ってるの。いいなぁ」
「パイを食べたら、また見て回りましょうね」
「うん!」
 鈴音はにっこり微笑み、エステルもふにゃっと蕩けた笑みでそれに応えた。
 一方、模擬店を舐め尽くす勢いで購入しまくっているシグルド・セレシアコンビ……正確には、シグルドが主に動き回っていた。おいしそうで、しかもめずらしい食べ物がたくさんあるし、イベントの一環で道行く人から突然お菓子をもらえたりもする。これでテンションが上がらないわけがあるだろうか、いや、ない。
 とはいえ、財布の紐を握っているのはセレシアの方で、シグルドが無駄遣いしないようにしっかり監督しているので、実はまだそれほどの散財には至っていないのだった。それに、籤やお面など、うっかり使い込みそうなものや買ってもその後の処分に困りそうなものにはお金を出さないことにしているセレシアである。
「……セレシア」
「はいはい。今度は何を見つけたの?」
 両手いっぱいに食べ物を抱えていて指させないセレシアが視線で示していたのは、香ばしい匂いで周囲を誘惑している屋台だった。
 焼きそば。こういうお祭りの定番である。
「そろそろお昼だし、私も買おうかな。あ、塩焼きそばもあるんだ……どっちがいい?」
「ソースで……」
 屋台の人に注文し、ソースと塩味の焼きそばを一つずつ買う。これだけでも、結構お腹がいっぱいになりそうだ。
「でも、カラオケに出るから、もうちょっと食べてパワーを付けておこうかな」
「カラオケ……出るの?」
 いつもほとんど変化しないシグルドの表情が、疑問の色を浮かべたゆたう。
「ええ。面白そうだし、歌には少し自信があるから」
「そう」
 話しながら、二人はイベント広場に着く。テーブルでは食事をしている人も多い。ステージでは、スタッフが数人何かの準備をしているようだ。
「ええと、そろそろじゃんけん大会が始まるのね」
 イベントスケジュールの看板を見て、セレシアは頷いた。こちらには参加しない予定だが、今日一緒に来た仲間達の誰かは出るかもしれない。
「じゃんけん大会のあとカラオケのエントリーも始まるみたいだから、ここで焼きそば食べて見てようか」
「うん」
 シグルドは近くのテーブルに着くと、抱えていた大量の袋をどさっと置いた。今まで袋で隠れていた規格外に豊満な胸が現れ、周囲の男性陣の視線を集めてしまう。チューブトップがタイトなので、かなり目立っているようだ。
 もっとも、本人はまったく気にせずさっさと焼きそばの容れ物を開けにかかっている。
「ソース味半分くれる? 塩味あげるから」
「うん」
 実はセレシアも、そんなシグルドの横に並んでもまったく見劣りしないバストサイズ。二人ともほっそりしているのに、胸のサイズが規格外なのだ。
 だがもちろんそんなことは意に介さず、セレシアの緑の目は今焼きそばだけに注がれており、桃色の髪をすっぽり包むシスターのベールが食事の時はありがたいなと考えているのだった。

●衝撃のカラオケ大会
 じゃんけん大会では、渚と灯は揃ってまさかの初戦敗退。故に、カラオケ大会へ賭ける情熱は嫌でも増していた。正確には、主に灯のテンションが高かった。今も、エントリーした子供達に人気の妖怪アニメの筋トレ体操ソングの振り付けの復習に余念がない。
 ちなみにじゃんけん大会は、セラフィナが優勝した。「じゃんけんは負けたことがない」と言っていたのは伊達ではなかったらしい。
「いつものクールどこいった!」
 激しく踊る灯に、突っ込まずにいられない渚だった。
 模擬店を回り、灯達と分け合いつつ全制覇する勢いで焼きそばだのチョコバナナだの唐揚げだの串焼きだのを食べまくったおかげで、渚の胃のスペースはもうゼロだ。控え室で出番待ちしている間、動くどころか立っているのもつらかったりする。この上はカラオケで少しでもカロリー消費するしかない。
「はい、ありがとうございましたー」
 ステージの方から司会者の声と、拍手が聞こえてきた。今歌っていたのはセレシアだ。とても綺麗な歌声だなと渚も思っていたが、少々歌詞が怪しかった。傍から見ても、焦っているのがわかった。
 案の定、控え室に戻ってきたセレシアは、渚達と目が合うなり苦笑して少し恥ずかしそうに赤くなった。
「やっぱり歌い込んでないとダメですわね……」
 渚達にがんばってと言い残し、彼女は控え室の出入り口で待っていたシグルドと一緒に去って行った。
「渚」
 灯がマルチーズ風帽子を被り直しながら、渚の肩に手を置く。彼らの番号と名前が呼ばれていた。
 ここまで来たら、やるしかない。
 手首を見る。さっき凪子と灯とおそろいで買ったアクセサリーが、きらりと輝いた。
「よっしゃっ!」
「行くぞっ!」
 もふもふコンビは、勢いよくステージへ飛び出した。
 視界が開けるのと同時に、拍手が上がる。声援が聞こえたと思ったら、前列の客席に並んで座っていたリーフ、ティア、凪子、十六夜が二人に向かって手を振っていた。愛犬二匹も見える。少し離れた席にはシグルドとセレシア、そして鈴音とエステルもいる。
 簡単な司会者とのやりとりのあと、音楽が始まった。
「着ぐるみで腕立て腹筋、渚ならできる! できるって!」
 曲の序盤だというのに、灯がものすごい勢いで煽ってきた。
「ちょ、俺着ぐるみなんだけど! 暑いんだけど!」
「一緒にあつくなろうぜ!」
「その熱いじゃないし!」
 突っ込むが、灯は聞く耳持たない。ポップな曲をめちゃくちゃ熱唱している。
しかたがない。親友の期待を、裏切るわけにはいかない。
「しょ、しょうがねえな! うぉぉおがんばる!!」
 渚は吠えた。そして、全力で腕立て伏せを開始した。
「渚ー! がんばれー!」
 客席から、ティアが声援を送った。リーフはステージ上の二人を食い入るように見つめ、そんな彼女の様子を十六夜が不思議そうに眺めていた。
 やがて、盛り上がりつつも曲が終わる。無事腹筋もこなした渚はそのまま軽やかに立ち上がり、歓声に見送られつつ一旦舞台袖に消えた。
「お疲れ様! 渚かっこよかったよ!」
「灯も上手かったわ」
「すごかったよ、二人とも!」
「お疲れー」
 しばらくして客席に戻ってきた渚と灯を、英雄三人と幼馴染みは笑顔で迎えたのだが……。
「渚! どうしたの!」
 渚は、ばったりと倒れた。
「筋肉痛みたいね」
 リーフが、冷静に分析する。
「灯、さすがに無茶だったんじゃないの?」
「……そうかも」
 屍になっている親友と、そんな彼に必死で声をかけながら膝枕するティアを見ながら、灯はぽりぽりと頭を掻いた。
「ケアレイします?」
 心配してきてくれたらしいセレシアとシグルドに、灯は神妙に頭を下げた。
「すみません。お願いします」
 目を回している渚の介抱には、いつの間にかエステルと鈴音も加わっていた。
「大丈夫ですか?」
「一時的なものですから。本当に鈴音様はお優しい方ですわ」
 そんなやりとりを余所に、ステージではセラフィナの出番が始まっていた。
 綺麗な歌声は誰もが知っている歌を紡ぎ、いつの間にか観客席も一緒に大合唱となる。みんなの介抱により復活した渚も参加していた。
 その様子を、久朗は少し離れたところで見守っていた。傍らには見知らぬ子供。泣き顔で、久朗の着ぐるみの腕をしっかり掴んでいた。恐らく迷子だ。
 話しかけたら夢と勇気と涙腺が決壊しそうな気配に、久朗は着ぐるみの中で焦っていた。ぎこちなく身体を動かし、自分でもよくわからないジェスチャー的な何かである方向を指し示す。
 イベント本部のテント。迷子預かり所でもある。
 子供はテントと久朗を見比べて、こくんと頷いてそちらへ駆けていった。ひとまず安心である。肩の力を抜いた久朗の後ろで、人の気配がした。
「クロさん、今日は楽しかったですか?」
 セラフィナだ。
「悪くは……無かったかな」
 そう答えると、少年はにっこりと満面の笑みを浮かべた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • もふもふには抗えない
    多々良 灯aa0054
  • 荒ぶるもふもふ
    水澤 渚aa0288

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • もふもふには抗えない
    多々良 灯aa0054
    人間|18才|男性|攻撃
  • 腐り神
    リーフ・モールドaa0054hero001
    英雄|23才|女性|ブレ
  • しっかり者のお姉ちゃん
    清原凪子aa0088
    人間|15才|女性|生命
  • 目指せお茶の間アイドル
    十六夜aa0088hero001
    英雄|11才|男性|バト
  • 腹ぺこワーウルフ
    シグルド・リーヴァaa0151
    機械|14才|女性|回避
  • 財布を握る妖精
    セレシアaa0151hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 小悪魔幼女
    瑚々路 鈴音aa0161
    人間|6才|女性|生命
  • 小悪魔メイド
    Ester=Ahlstromaa0161hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 荒ぶるもふもふ
    水澤 渚aa0288
    人間|17才|男性|生命
  • 恋する無敵乙女
    ティアaa0288hero001
    英雄|16才|女性|ソフィ
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