本部

殺したのはだぁれ?

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/04/24 16:04

掲示板

オープニング

● 仇を探している

 とある休日、H.O.P.E.エントランス。
 休日でも施設として、ある程度の機能を有していなければならないH.O.P.E.では休日も人でごった返している。
 さすがに平日ほどではないし、エントランス嬢は何で土日に私が、みたいな顔をしてあくびをしているのだから余裕があるのだろうが。
 そんなH.O.P.E.の穏やかな午後に、とある一人の少女が訪問することになる。
 彼女は足の先から腕の先まで長袖、長ズボンで固め。
 フードつきのパーカーをかぶっている。
 そんな彼女は受付嬢の前に立つと告げる。
「リンカーを呼んでくれ」
「はい、面会ですね、どなたでしょうか。ご予定は本人様ととられていますか?」
「わからねぇ」
「それは、アポイントメントはなしという事でしょうか?」
「誰だかわからねぇ」
「あ、そうだ、親御さんはどこに?」
「死んだよ」
 少女は語る。
「私が、眠ってる間に殺されたんだ、組織に。Dに」
「D?」
「BDがここにいるんだろ? だせよ」
「それはいったい誰のこ……」
「強く……なったぞ」
「え?」
 受付嬢は思わず聞き返した。本能が危険だと警鐘をならし直ちに少女から離れるべきだと騒ぐ心を黙らせて、受付嬢は少女の言葉に耳を傾ける。
 それは純粋に彼女が痛々しい目をしていたからだ。
「強くなってきたって言ったんだ」
 まるで傷ついた野兎の様な。
「だからだせ!! あいつらを殺したリンカーをだせ!!」
 彩名は弾かれたように顔をあげそして腕を振り上げた。
 その腕はまるで今まで押さえつけ、縛りつけられていたように、その枷が解き放たれたように膨張し。
 そして受付嬢の肩を切り裂き、背後のコンクリートの壁に突き刺さる。
 一体何が起こったのか。その異様な音、肉の裂ける音で。
 先ず戦闘になれているものは異常事態を悟った。
 なれていない者はただただ視線を向けるだけだった。
 のんきな人間はそれを自分に関係ないこととして意識を向けなかった。
 それが悪かった。
 彩名の全身から放たれたスパイク、それが次々と一般人の体に突き刺さっていく。
「ここにいるんだろ!!」
 エントランスは一気に血まみれになった。

● 状況説明

 H.O.P.E.の膝元でやらかした少女『竹近 彩名』。彼女の目的はDという組織の幹部の抹殺および。
 自分の仲間たちを殺したリンカーとの一騎打ちです。
 そんな彼女ですが、この依頼に参加する人間が止めなければ、H.O.P.E.に待機しているリンカーたちが押し寄せて彼女をとっとと殺してしまう事でしょう。
 戦闘が勃発しているエントランスですが、テニスコート程度の広さはあり、しかし怪我をして動けない人間が何人もいるようです。
 特に受付嬢の安否が気になります。
 至急手当をしないと命が危ないです。
 さらに彩名は容赦なくリンカーに襲い掛かってきます。
 それをどう裁くのかはリンカーに一任されます。

●  凶行の理由 下記PL情報
 彼女には実は愚神がとりついています。それはミーレス級……それ以下かもしれない低俗な愚神なのですが。その特性、胸の内の不安を増幅するという特性で彩名が操られています。
 厄介なのは、彼女の中から愚神は出てこないし、愚神の反応も弱い特性があることです。モスケールなどで探知できません。
 実際は探知できるのですが、彩名の体は10分の1程度従魔です。なので判別不可能です。
 なので対処するにはPCが、彩名は愚神に取りつかれたのではないか、と思う必要があります。 
 対処方法も表に出てこない以上は愚神のみに有効な攻撃、もしくは彼女への説得が必要となるでしょう。
 逆に愚神の影響が弱いので彩名の気持ちが落ち着けば十分に愚神を体から追い出せる可能性があるのです。

 また心の弱さを見せるとこの愚神はリンカーにも乗り移ろうとします。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~ここまでPL情報~~~~~~

● 少女について

・竹近 彩名 十四歳
 Dという組織に肉体改造が施された少女です。
 体に従魔化の痕跡である鱗が生えているので。顔半分をマスクで隠して、常に長袖、長ズボンです。
 彼女は全身がハリネズミのように、灰色のとげとげといたパーツで覆われています。
 それを発射、もしくは叩きつけて攻撃するのが戦闘スタイルですが。命中精度が悪くねらったものに当らないようです。
 今回戦闘としては辛くないと思います、彩名の実力はそこら辺の従魔と対して変わらないので。
 ただ、防御力に秀でているようで、彼女の急所はことごとくガードされています。
 急所を何度も何度も攻撃しないと絶命には至らないと思います。

 

解説

目標 彩名に対処する。
 彼女の目的は、自分の友達を殺したリンカーの一騎打ちと。
 Dと呼ばれる組織、その幹部の抹殺です。
 今回、彩名はヴィラン認定を受けているので殺すも生かすも皆さんの自由です。
 このH.O.P.E.という組織に逆恨みにも似た感情を抱いた少女を更なる被害が出る前に鎮圧してください。
 Dと呼ばれる組織の幹部を連れ出すことは可能です。




 彼女の心情としては三つの感情が渦巻いていて自分でも何をしたいのかわかってないみたいです。
 下記はPL情報です。

『悪意』 誰かを自分と同じ不幸な目に合わせてやりたいという思い。ただ子供が抱く加虐心の延長の様なもので、いざ誰かを殺してしまえば心に傷を負う、身勝手なものです。

『希望』 こんなお先真っ暗な自分、これからどう生きていけばいいのかわからない。そんな風に思っていた彼女に希望を与えたのは強くなるという言葉でした。
 その言葉を受けて彼女は力のコントロールを学び、そうした結果自分にも誰かが殺せるのではないかと思い至りました。
 このまま生きていても化け物扱いされる人生です。
 なので、せめて悪人を殺し、仲間の仇を討って。社会のために死のう。
 そう思いました。

『罪悪感』 彼女は自分だけがのうのうと生きていることに耐えられないのです。両親も友達も先に行ってしまった。残された自分は一人、そんな中彼女に発想を与えたのが。死という概念。
 そうこの感情を抱いたまま生きていくくらいなら、死んだ方がまし。
 そう思って彼女はここにいるのです。 
 

***************************ここまでPL情報

リプレイ

第一章 間違うということ
 
H.O.P.E.警備員室。一階で騒ぎが起こっていると聞きつけてリンカーたちは素早くここを目指した。
 『阪須賀 槇(aa4862)』がすでにおり、驚愕の表情で画面を見つめている。
「なに……」
 槇はモニターに映る少女。辺りに破壊をまき散らし周囲を血の海で返る少女を知っている。
「……やってんだおッ!」
 『阪須賀 誄(aa4862hero001)』は兄の肩に手を置く。それすら構わず槇はコンソールを叩いた。
「彩名たんッ!」
 何故、どうして。ショックで頭が回らない槇。
 その心を代弁するかのように『無月(aa1531)』は告げた。
「未熟故に心が暴走したか……止めなければ、でなければあの子は必ずこの先後悔し続けることになる!」
「いくら強がっていてもその心はガラス。壊れる前に助けなくちゃね」
 『ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)』の言葉に無月は頷く。
 踵を返して廊下に出ようとすると、H.O.P.E.の警備にあたっていたリンカーが無月に声をかける。
「どうするつもりだ」
「まずは彩名君を止める。死人が出てしまえば犠牲者はもちろん、彼女も不幸にしかならない。故に全力で止める」
「捕縛か? 生ぬるい気もするが、上層部からヴィラン認定が下った。一般人を守るために殺処分すべきだ」
「何言ってんだお!」
 そう槇はそのリンカーに詰め寄る、すると隣からその手を『黒金 蛍丸(aa2951)』がとる。
「阪須賀さん、少し落ち着いて」
――そうだよ兄者、お話は後だ!
 告げると誄は槇と共鳴して肉体の主導権を奪うことで槇を落ち着かせる。
「すみませんこの事件僕らにまかせてはもらえないでしょうか」
 そう蛍丸は告げる『詩乃(aa2951hero001)』が不安そうに胸の前で拳をギュッと握った。
「あいつ、俺達の関係者なんだよ」
 『彩咲 姫乃(aa0941)』が静かに告げる。
 姫乃は彩名を預かっている孤児院の常連である。友達がいるから、でも友達が一人いなくなっても頻繁に通っている。
 そのついで、というわけではないが姫乃はあれから彩名の事も気にかけていた。何度も話しかけ、心も落ち着いてきたのだと思っていた。
 けど違った。
 彼女の心の闇を姫乃は見通すことができなかったのだ。
「思春期だし、トラウマだってある。こういう時期は突拍子もない考えに行き着くこともあるだろうが」
 そうモニター越しに姫乃は彩名を見つめる。
「ご主人もそういう人デスしニャ」
 『朱璃(aa0941hero002)』が告げると二人は共鳴した。
「いい傾向は見せてたはずだろ。急に不安定になりすぎじゃないか?」
――混ざり者デスし精神に影響とかも考えられますが、――中でなく外からの影響の可能性も否定できねーデスニャ。
 全員の武装が完了する。
――むしろ外に原因があったほうがご主人には嬉しいでしょう? ――言い訳、情状酌量、原因は今のとこ見えませんがやらかしたのは確か。今後を考えるなら、ねえ?
 その言葉に頷くと全員でルートを決め、逃げ道を塞ぐように一階へ降りる。
 無月は気配を消して先行。
 その無月が曲がり角から彩名をうかがうと、彼女は醜く肥大した腕を一般人に振り上げるところだった。
 無月が駆けだそうとしたその瞬間、その肌は熱を捕える。
 『煤原 燃衣(aa2271)』がその横を駆け出し。 
 槇はフラッシュバンを投げる。
 何度も体に染みつかせたコンビネーション。
――何とも面白い祭りだな。
 『ネイ=カースド(aa2271hero001)』の声に彩名が驚き顔をあげれば、そこにはすでにネイの拳があった。
 その重たくなってしまった彩名の体は軽々と吹き飛び。そして。
 壁に叩きつけられた。
「やっときたか……人殺しどもがあああああ!」
 砕けた歯を吐きだし、彩名は全身のとげを逆立てた。血まみれの鼻をぬぐって燃衣の姿をねめつける、畏怖と嘲笑と憐憫。どれにも当てはまらない感情はただただ憎悪。
 それに対して燃衣は複雑な思いを抱いている。
「僕達がいけなかったのでしょうか」 
 燃衣は誰にでもなくつぶやく。
 ポケットの中のお守り袋、トランプにそっと手を沿える。
 誰も答えは言ってくれない。
――お前が正しいと信じ、正しいと思ったことだ。ならそれが伝わらないあいつが間違ってる。
 ネイがそう告げると、燃衣は苦笑いを浮かべる。
「……分かってるよ、彼方ちゃん……武くん」
 間違っているとか、間違っていないとか、今はそんなことを考える余裕がない。
 だから燃衣は、間違わせないために。
 彩名の射出する棘を全身で受けた。
「私の仲間は守ってくれなかったくせにそいつらは守るのかよ! 私たちが化物だからか!!」
 悲痛な叫びを受け、悪役となってしまったリンカーたちは戦いを始める。

第二章 殺し殺され

 『イリス・レイバルド(aa0124)』は第一層防御結界ジャンヌにてとげをそらして見せた。
 遠距離からの攻撃をそらすのであれば他の結界に頼る必要はない。
 イリスは時にはとげを切り落とし、時には誰かへの射線を遮るように盾を構え彩名めがけて進軍していく。
 光輝を鎧う少女その盾はついに彩名に届くところまで行く。
「武器を下ろしてください。あなたは私達には勝てません」
「勝てる勝てないで、どうこうなるなら、私はここにいない」
「死ぬ気ですか?」
 イリスは彩名の瞳を覗く、その色を見たことがある気がした。
 遥か昔、まだ自分が普通の少女だったときに見た。誰かを大切に思うあまり壊れてしまったような瞳の色。
 イリスは思う、彩名にとって殺されてしまった人たちは、家族だったのだと。
「容赦はしますけど、手加減はできませんよ」
 『アイリス(aa0124hero001)』直伝の戦闘スタイル。
 盾で振り上った彩名の腕を抑えて、斬撃で彩名のとげを削った。
「ちっ」
 彩名の蹴りをかいくぐって彩名の背後に回って盾で突撃。壁に押し付ける。
 熟達した戦士である彼女にとって彩名は赤子同然の存在だった。
「この!」
 発射されるとげも半歩下がって盾で払う。
 とげの生成中にイリスは盾で腹部を強打。浮かび上がったその足を掴んで振り回し天井に叩きつけると、落ちてきた彩名を剣の腹で吹き飛ばして地面を転がした。
 その間に姫乃は鷹の目による被害状況の把握に努めた。
 被害者の位置、けがの具合を伝えていく。やはり受付嬢の傷が一番重いようだ。
 だがそちらにはすでに人が向かっている。
「彩名……」
 姫乃はそう床をのた打ち回る少女に視線を送る。
――人間デスよー。彩名は人間デス――、多少混ざってるのは確かデスがニャ。
「ああ? だから?」
――この時代、人間が自分に関係ねー人間を殺すっていうのは実に罪深けー事だとは思いませんかご主人。
「チッ、妖怪らしい事言ってんじゃねえよ」
「だから、――『手遅れになる前に止めるのでしょう?』……」
 姫乃は思いを胸にしまいこんで前を見る。
「後悔に追いつかれたくなければ脇目も振らずに仕事を終わらせなさい」
 告げると彩名は救護班に背中を預けて自身も戦場に参戦する。
 流れ弾を燃衣と一緒に撃ち砕きながら彩名を見つめていた。
――その為の我等の速さデス。――後悔なんて所詮後にしか存在できねー程度のもんです。
「なら、――「おう!ぶっちぎってやるよ!」」
 そうモードを切り替える。
「ぐああああああ!」
 突撃してくる姫乃に刺激されてか彩名は血をまき散らしながら立ち上がり、先ほどよりも凶暴に尖ったとげを射出しようとしている。
 それを後ろから近付いて抱き着きとめるのが無月。
「やめろ! それ以上攻撃をしても、君の心は救われない」
「離せ!!」
 彩名がもがけば無月の体にとげが突き刺さる、それを無月は気にせず彩名の動きを封じ続ける。
「どうしてですか」
 その時正面入り口から姿を見せたのが『卸 蘿蔔(aa0405)』と『レオンハルト(aa0405hero001)』。
「くそ!」
 彩名は一本腕から巨大なとげを生成するとそれを蘿蔔にうち放った。
 それを蘿蔔は銃で撃ち落とす。
 そして落ち着いた口調でこう告げた。
「彩名ちゃん落ち着いて、どうしてこんな事を」
 蘿蔔が気になるのはその体の急速な従魔化。
 自分たちの研究では従魔化は抑えられるはずだった。なのになぜこんな。
「卸さん!」
 その蘿蔔に『藤咲 仁菜(aa3237)』が声をかける。
 その言葉に蘿蔔が頷くと蛍丸がけが人を背負って運び出し始めた。
 外には蘿蔔が手配した救護班が控えている。
 一旦戦場から出してしまえば気にする必要はなくなる。
 なので蛍丸は仁菜のケアレインで容態が持ち直した一般人たちを次々と運びだしていく。
「やった、血が止まったよ、リオン!」
 その言葉に『リオン クロフォード(aa3237hero001)』が頷くと、目を覚ました受付嬢に声をかける。
「もう大丈夫です。怖い思いをさせてごめんなさい。」
 エマージェンシーケア、そしてケアレイで目を覚まさなかった時には内心ハラハラしていた。
 出血量が尋常ではなく、床をぬるぬると濡らしていたから。
 その床の上で作業していた仁菜は血まみれの赤ウサギである。
「まって、ください。傷がまだ塞がりきってないから」
 そうケアレイを追加でかける仁菜。
 その背を燃衣が護り続けている。
「彩名ちゃん! なぜこんな事をッ!」
 燃衣の問いかけに彩名は叫びを返す。
「自分の胸にきいてみろ!!」
「もしかして……従魔化が酷いのか!?」
 考え込む燃衣。
――どうせもう死ぬから……では無いんだな?
「むしろ、死ねない。私はもう人間じゃないんだ…………」
 その言葉にネイはやはりとすべてを悟った。
――よく、あの言葉をこうも履き違えられたものだ。
 歯噛みする燃衣。その背後で仁菜は治療を終えたようだ。
「背負いますよ」
 そう自分より大柄な女性を背負う仁菜。周囲を飛盾が舞い、そのまま仁菜は外へと駆けだした。
 徐々に救助されていく一般人に歯噛みする彩名。
 その攻撃を蛍丸は両腕でガードし受けると背後に控えた少女を見る。
「けがはないですか?」
 そう少女の腕の擦り傷にケアレイをかけて。抱きかかえ走る。
 けが人を運び終えた蛍丸は長椅子や机を積み上げてバリケードを作成。
 これでもう、護りながら戦う必要はなくなったのである。
 イリスはそんな彩名の前に堂々と立った。
 体のとげは射出されると新しく生えてくる。
 しかしその先端を砕くことによって大きく攻撃力を削ぐことができる。
 そのことを知ってからイリスはとげを削るように攻撃しつづけた。
 今では彩名は地面を這いずるだけである。
――トゲトゲしい見た目だね。以前はああだったかな?
 アイリスがそう問いかけた。
「んー、あそこまでではなかったかも」
 イリスを睨む彩名。
――なら精神的な影響が姿にも出ているのかな。…………できるだけ傷をつけないほうがいいかもね。
「またそうやって、私をモルモット扱いするのか?」
「少なくとも、卸さん達は助けようとしてたよ」
 イリスが何のけなしに告げた。
「それをどうして傷つけようとするの?」
 イリスの問いかけにアイリスが告げる。
――例え人を傷つけるとげだとしても、本人からすれば自分を守る鎧かもしれない。
「なにも知らないくせに…………」
 彩名の小さなつぶやきは虚空に消える。誰にもきかれることなく。
――そして精神の影響が姿に出ているのなら、逆に肉体の破損も精神に影響するかもね。
(それって攻撃すればおびえるかもって事?)
 イリスが脳内会話に切り替えた。
――強い言葉を使っても中身は傷ついた少女だよ。紳士的、もしくは淑女的に接するのが当然というものだろう。
「うん、わかった」
 イリスは半歩下がると翼から響く妖精の歌。
「お前等、ひどいよ」
 告げると少女はその体をさらに変貌させる。

第三章 ひとりぼっち

 変貌していく少女、その姿を見て誄はさけぶ。
――こんなの強くなったって言わないだろ、JK。
 打ち出される杭はさらに無差別に、エントランスを破壊していく。
 そしてその杭の一本は珍しく正確に槇へと打ち出される。
 それを空中で撃ち砕いたのが戻ってきた仁菜。
 衝撃で地面に転がった盾を回収してまた空に返す。そして槇の前に立った。
 その怒りはリンカーの誰の目にもなかった怒りで燃えている。
「彩名さんは今自分が何をやってるか分かってるんですか」
――彩名さんの強さって自分より弱いものを殺すこと?
「わかってるよ、お前らと同じ! 弱い者いじめだ」
「私達と同じことがしたかったの? それがあなたの強くなってしたかったことなの?」
 足を踏み鳴らして仁菜は前に出る。
「強さってそうじゃないでしょう?」
――孤児院でなんて言われたか、ちゃんと思い出してみて。
 共に強くなろうと言った隊長や兄者さんの言葉を。そう仁菜は諭す。
――隊長も言ったじゃん、一緒に強くなるんだって、心も強くなるんだって。
 仁菜の言葉を誄が継ぐ。
――どんな絶望の中でも前を向いて進める、どんな人でも見捨てず手を取って共に歩んでくれる。
 リオンが告げると仁菜は後ろを振り返った。
「それが私があの時見た仲間の強さです」
 もう一度ちゃんと彼らの強さを見てほしい。そう仁菜は彩名に視線を注ぐ、けれど。
「一緒に? ココロも? 私は! 私が! 一緒に強くなりたかったのはお前等じゃない!」
 彩名は拳を握りしめて涙を流す、まるで眩しいものから目をそらすように。
「私にもいたんだ、友達が、仲間が、なのになのに」
――一人で突っ走ったって弱いんだって。
「私を一人にしたのはお前らのくせに」
――結局、俺らの言葉をカサにヤケ起こしただけじゃん。
 その時彩名ははたりと動きを止めて槇を見た。そしてつぶやく。
「そうだよ、そしてお前らに、俺らのせいだって思ってほしかったんだ!」
 告げると彩名は走り出す。
「そしてお前らも私と同じ気持ちを味わえ!!」 
 その影を縛ったのは無月。
「君は自分が強くなったと思っているようだな。だが、それは外面的なものに過ぎない!」
 彩名を真っ向から受け止めて、縛られた体を無理やりにでも動かそうとする無月。
「君の内面は弱いままだ。忘れたか、あの時燃衣君が言った言葉を」
「お前等! そこのそいつがどんだけ好きなんだよ!!」
 無月はその言葉に首を振る。
――違うそうじゃない。彼の言葉だ。聞いただろう?
 ジュネッサの言葉を無月が継いだ。
「そう、彼は《心》も共に強くなる、と言った筈だ。心こそが真の強さの源。彩名君、残念だが今の君の強さとは見かけは立派だが中は空っぽの張りぼてに過ぎないのだ」
――張りぼてでもいい、私は、私は。もうお前らを殺したいってことしか、ないんだから!!
――彩名君。君が怒る気持ちはボク達にも解るよ。でもね、君が傷つけた人達は君の事をどう思っているだろうね?
「違う、何もわかってない!!」
――心が強くなる第一歩は他の人達の気持ちを理解しようとする事さ。許せないと言う気持ちを消す事は出来ないだろうしそうしろと言うつもりはないよ。だけどね、皆も苦しんでいるんだよ。皆意地っ張りだから表には出さないけれどね。

――皆の苦しみ、ほんの少しだけでも解ってくれないかな。

 その言葉に彩名は目を見開いた。
「なんでだよ! なんでこの期に及んでわかってほしいなんだよ! わかってほしいのは私だよ! 私が辛くて、私が殺したいんだ、お前等じゃない、お前らに大切な人が殺される痛みなんてわかるわけない」
 その言葉に傷ついたように視線を伏せたのは姫乃、そして前に出たのは燃衣。
 心配して仁菜は燃衣を見あげるが、燃衣は大丈夫と言う視線を仁菜に送る。
 燃衣は姫乃の頭を撫でて彩名に歩み寄る。
「私もナイア君を守れなかったリンカーの一人だ」 
 あの時の気持ちは忘れない、目の前で幼い命が散った。それは無月にとって一番許せないことだった。
「君は私も恨むだろう、だが、今君に殺される訳にはいかない。私は愚神化した少女を必ず助けると誓った。だから、私は生きる。それが心の強さだ」
――それは君の心を救ってことでもある。
「なんでそんなこと言えるんだよ! 何で、何でだよ!! あああああああああ!」
 次いで彩名の前に蘿蔔が出た時。
 蘿蔔は共鳴していなかった。
「分かりました…………仇を討ちたいというのならば、まず私を殺しなさい」
「え?」
 意表を突かれた彩名、その杭は全て蘿蔔をむいている。
「彩名ちゃんは一人で戦っている――私も一人で」
 彩名にはそれが正気とは思えなかった。だって共鳴を解いてしまったら、リンカーと言えども耐久力は紙同前。彩名の一撃であの受付嬢のように簡単になってしまう。
「だったら、殺してやる、殺して…………」
 そう告げる彩名の体が震えた。
 冷静に彩名を見つめる蘿蔔。
 死が迫っているはずなのに蘿蔔の瞳は揺れていなかった。
――でも……俺らも無責任なことを言ったよ、やったよ。
 誄が言葉をさらに重ねようとした。その姿を彩名は見る。
 ただ槇がその言葉の続きを許さなかった。
 体の主導権を薪が奪う。
「……もう、やめるお……」
 その顔は涙にぬれていた、それは誰に手向ける涙だ。
「ぜんぶ……漏れのせいだお」
 ぼろぼろの表情でうつむく槇。、槇のキャパはもう限界だった。
「女の子が殺し合うところなんて見たくないお、誰かが誰かを殺すところなんて見たくないんだお、でも彩名ちゃんも皆も、漏れがこんなにしたんだお」
 だから。
「……もう嫌だお、この事件で誰かが死ぬなんて嫌だお」
 だから死ぬのは、死ぬのは自分の役目だと。
――……だから……俺らが死ぬよ。
 その時、こめかみに銃身を押し当てた。
「まて! 逃げるのかよ! 私を置いて」
――でも、ケジメは付けないと。
 誄は告げる。
――すまんね……もう嫌なのは本当なんだ。だから……。

――……バイバイ。

「阪須…………」
 仁菜が制止しようと振り返るしかし。無情にも銃声はエントランスに響き渡って。
 真っ赤な鮮血が床を濡らした。
「る、誄お兄ちゃん?」
 おずおずと歩み寄る仁菜、しかし、仁菜は現実を理解できていない。
――ニーナ、大丈夫。
 リオンがそう仁菜に言葉をかける、それは問いかけの大丈夫ではなく、断定の大丈夫だった。 
 それを仁菜は理解する。
「おい、ずるいぞ! なんでお前が死ぬんだよ、私は? また私を置いていくの? あなた達しか、私を、私を殺してくれるのはいないのに!!」
 仁菜を押しのけて彩名は槇の胸ぐらをつかみあげる。
 それに燃衣は告げた。
「……『竹近を出せ』」

「……『ここに居るんだろ、出せよ』」

「……『あの娘を殺した化け物を出せ』」
 その言葉にハッとして彩名は燃衣を振り返る。
「誰かが死ねば。次はその親しい人が同じ事をやるんだろう」
 燃衣の瞳は真剣だった。仲間を失ったというのに彩名に視線を注いで話さない。
「その時、死ぬのはキミじゃあない。また関係ない誰かだ。何より。『アイツと同じ、他のガキも殺せ』……きっと大勢がそう言う」
 告げる燃衣は彩名の肩に手をかけて揺さぶるように言葉を継ぐ。
「……でもね……『そんなの知ったコトじゃない』」

「ただ、耐えられない。何かと一緒に消えて、皆の所に行きたい……だろう?」

「だからこそッ! キミは絶対に死なせないッ!」

「だってボクらも、孤児院の皆も……死んだ皆も! キミが生きる事を願ってるから」
「だれも願ってない、私を知ってる人はもうだれも」
「例え何を言われたって、キミが死ぬのを邪魔してやる!」
「なんで…………」
「そして、今度こそ一緒に強くなろう」
 そう手を差し出す、燃衣。彩名は槇を一瞥する。
「ごめん…………なさい、ごめんなさい」
「……OK、蛍丸さん《ここ》です」
 次の瞬間誄が身を起こした。両手で彩名を拘束する、背後から迫るのは蛍丸。そして。
 その体にパニッシュメントを。
「うああああああ!」
 次の瞬間砕け散る彩名の全身のとげ。
「彩名さん、あなたは操られてるんですよ」
 彩名の体から散り散りになって空に昇るモヤそれは愚神の残骸。
「あなたは激情に駆られるままに人を傷つけて平気な人じゃありません。だって殺すためにここに来たんじゃなく、死ぬために来たんですから」
 そんな彩名を恐慌に駆り立てたのは愚神の可能性が高いと蛍丸は予測し、そして案の定だった。
 つきものが堕ちたように彩名はその場に座り込む。
「誄お兄ちゃん?」
 仁菜が告げる。
「……呼んだ?」
 誄がそう体を持ち上げると、体にこびりついたインクをぬぐって払った。
 正体は映画撮影にも使う赤色ペイント弾である。
 その姿に彩名は驚愕に瞳を見開いた。
「いやね。自分の影響で誰かが死ぬ。その気持ちを味わってみろと思って」
 告げて誄は彩名の頭を撫でる。
「……でもね。本当に死にたくなる程、俺らも彩名の事は心配したんだ」
 直後その腹をめがけてダイブしてきた。
「何でそういう事するんですか! 馬鹿! 本当に死んじゃったらどうしようかと思ったじゃないですか! 意地悪!」
「……OK、仁菜ちゃん時にもちつけ」

第四章 復讐の果て

「じゃあ。お前らは私をだましてたんだな?」
 そう怒りマークを頭にうかべて槇を締め上げる彩名。
「うぐぇ」
「阪須賀さん!」
 仁菜が駆け寄るも彩名は放してくれない、そんな彩名に蘿蔔は言葉をかけた。
「彩名ちゃんはすごいよ。一人で立って、私は…………怖いです
 それにこの前よりずっと強い
 頑張ったんだね」
 そう蘿蔔に言われて顔を赤らめる彩名。
 そんな彩名がそっぽ向こうとしたところを捕まえて蘿蔔が抱き寄せると、やっと槇は解放された。
「な、なにがおこっているんだお?」
「最初は自分と重ねてた。
 だから死んでほしくなかった
 でも私は知りました。あなたは強くて優しい普通の女の子です」
 真っ先に友達の為に怒ってそして照れ屋さんで、そう蘿蔔は優しく頭を撫でる。
「そんな彩名ちゃんだから私は好き…………それにまだ友達になってない。友達が嫌ならお姉さんでも」
「なんで要求が上がってるんだよ」
 そう姫乃が苦笑いをうかべる。
「正直、一番つらかっただろう時にいなかった俺の言葉なんて届くかはわかんねえけどな。それでも俺は目ざといほうなんだ」
 姫乃は彩名に告げた。
「まだ復讐したい気持ちはあるか?」
「ある」
「本当にそれでいいのか?
 かわいい服、着たいんじゃねえのかよ」
「着たい」
「治るまで、納得するまで、付き合ってくれるって言われたときに期待しなかったのか?
 人の言葉を借りるみたいでそこは悪いとは思うが。
 やぶれかぶれな言葉も行動も通してやりたくはないんだよ」
「でも私だけ、生きててもいいのかな」
 そう燃衣を見て彩名は告げた。
「もちろんです、僕らのためにも生きてください、僕らは救えなかった」
 そのために燃衣は全力で口利きするつもりだった、彼女の事情と思いを訴え、受付嬢にも全力で頭を下げるつもりだ。
 ただそれだけにとどまらないのだ。
「『希望』の意味、それは捉え方は人それぞれだでしょう」
 蛍丸は告げた。
「過ちは犯したけど、取り返しのつかない事態になってないようなら『希望』はあります」
「本当に?」
 彩名は問いかける。
「ええ、まだ誰も死んでいませんから」
「一人で難しいと思うかもしれないけど、こんなにも心配してくれる人たちがいるんですから」
 告げると蘿蔔が彩名に告げた。
「今回の件は従魔化の進行が確認されたのに保護しなかったこちらの責任です」
 だから責任をとらせてほしい、そう蘿蔔はかねてより、事務所に提案していた。被害者支援の一部利用。その許諾証明書をみせた。
「私の友達も、私も全力であなたを支えます。それが私達のやるべきところです」
 グロリア社ももちろん協力する。今度こそその手を掴んで離さない、そう言う意志だった。
「彩名に罪はないが、何もしないのは本人が耐えがたいだろうから」
 そうレオンハルトは社会奉仕をはじめとしたお仕事の話を持ちかける。
「ごめん、私みんながこんなに考えてくれてるなんて気付かないで」
「彩名さん以外の人も再検査した方がいいですね」
 そう蘿蔔は提案する。
(ガデンツァの記憶を持つルネならば、治療に役立つ情報を持っているかもしれない)
 そう考えるレオンハルトである。
「『罪悪感』を抱えながら生きなければいけないのは辛いです」
 蛍丸は告げた。
「誰でも大小なり悩むことだと思います。抱えて生きるか、忘れて生きるかの違いです、でもそれを支え合うことはできると思います」
 その蛍丸の手を彩名はとった。
「罪を決めるのは貴女じゃない。でも、自分がしたことの責任にまず目を背けず向かい合いましょうか」
 そして燃衣は最後に静かに告げた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237

重体一覧

参加者

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
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